2015年11月30日月曜日

「ケタ違いの衝撃」どこへ? 早くも息切れ日経「新産業創世記」  

日本経済新聞朝刊1面で連載中の「新産業創世記」が早くも息切れ気味だ。第2部のテーマは「ケタ違いの衝撃」なのに、第3回の「価値10億ドルの『爆速ベンチャー』続々 既存の業界覆せ」では「ケタ違いの衝撃」が記事に見当たらなくなってしまった。今回の記事に「ケタ違いの衝撃」は本当にないのか。記事を見ながら検証したい。

【日経の記事】


御船山(佐賀県武雄市) ※写真と本文は無関係です
「もうメールには戻れない」。宿泊予約サイト運営の一休でシステム開発部長の笹島祐介(31)がほれ込むサービスがある。メッセージ送信もファイル交換もワンタッチ。ゲーム感覚で同僚や取引先と交流できる。米スラック・テクノロジーズが提供するコミュニケーションツールだ。

世界で「スラック旋風」が吹き荒れる。サービス開始からたった2年。利用者数は世界で170万人に達する。ネット上で「気軽に使える」と評判を呼び、ケタ違いのスピードで広まる

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まず「スラックの利用者数」について考えたい。「ケタ違いのスピードで広まる」と書いているのだから、「ケタ違いの衝撃」の有力な候補だ。しかしスラック以外がどうなのかを書いていないので、「ケタ違い」かどうか判然としない。それに「2年で170万人」がケタ違いなのかも疑問だ。例えばLINEは2011年のサービス開始から1年余りで登録ユーザー数が5000万に達したらしい。スラックと単純に比較してよいのか分からないが、スラックの方がケタ違いに遅いスピードのようにも見える。

別の候補も見てみよう。

【日経の記事】

未上場ながら推定企業価値は28億ドル(約3400億円)。1975年に創業した米マイクロソフトの時価総額がこの規模に達するのに12年かかった。スラックはその6倍速で成長していることになる。最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド(42)は「マイクロソフトから主役を奪う」と野心を隠さない。

ユニコーン(一角獣)。設立間もないのに企業価値が10億ドル(約1200億円)を超えるベンチャーは伝説の生き物に例えられる。米調査会社のCBインサイツによるとスラックのような企業は10月時点で世界で141社、企業価値の合計は5060億ドルに達する。マイクロソフトを超え、米アップルに迫る金額だ

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スラックの成長スピードが「ケタ違いの衝撃」の正体なのかとも考えたが、マイクロソフトと比べると「スラックはその6倍速」らしいので、ケタ違いとは言えない。やはり本命は見出しにもなっている「企業価値が10億ドル」だろう。しかし、これのどこが「ケタ違いの衝撃」なのか不明だ。

例えば「2~3年前までは、どんな有力企業でも上場前の価値はせいぜい1億ドル止まりだった」という状況があれば、企業価値10億ドルの未上場ベンチャーがごろごろしている現状を指して「ケタ違いの衝撃」と形容してもいいだろう。

ところが、そんな説明はどこにもない。ユニコーン企業が増えていると分かるデータさえ示していない。未上場で10億ドル以上の価値を持つベンチャー企業は過去にもそこそこ存在した。2004年に上場したグーグルの上場直後の時価総額が約230億ドルだから、未上場でも100億ドル以上の企業価値は軽くあったはずだ。

結局、記事には「ケタ違いの衝撃」がどこにもない。そこで中身のなさを何とかごまかそうとしたのだろうか。例によって苦しい盛り上げ方をしている。「スラックのような企業は10月時点で世界で141社、企業価値の合計は5060億ドルに達する。マイクロソフトを超え、米アップルに迫る金額だ」という部分だ。

ユニコーン企業141社が協力して事業を進めていくのならば、企業価値を合計してマイクロソフトやアップルと比べるのもまだ分かる。しかし、そうではない企業141社の合計がマイクロソフトを超えても、何の意味もないだろう。

取材班では「ケタ違いの衝撃」と言える事例を連載回数と同じだけ用意できたから「このタイトルで行こう」と決めたのではないのか。今回の記事を見ると、見切り発車で企画が動き出したようにも思える。「やっぱり毎回『ケタ違いの衝撃』を見せるなんて無理だよ」といった嘆き節が取材班の中で漏れていなければいいのだが…。

※記事の評価はD(問題あり)。

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