2022年4月29日金曜日

プロ野球に疎い日経 武智幸徳編集委員が書いたコラムに見える誤解

プロ野球に詳しくないおじさんが最近の大谷翔平や佐々木朗希の活躍を見て思い付いたことを書いてみたーー。29日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に武智幸徳編集委員が書いた「アナザービュー~大型選手が先入観崩す」という記事は、そんな内容だ。詳しくないからか誤解もある。全文を見た上で指摘したい。

夕暮れ時のうきは市

【日経の記事】

二刀流で活躍する米大リーグの大谷翔平(エンゼルス)、日本のプロ野球であわや2試合連続完全試合をやってのけそうになった佐々木朗希(ロッテ)の活躍を見るにつけ、爽快な気分になる。身長193センチの大谷、190センチの佐々木が躍動する姿はダイナミズムにあふれ、「大男総身に知恵が回りかね」というような固定観念も木っ端みじんにしてくれる

大谷のフットワーク、佐々木のしなやかな身体操作と腕の振りを見ていると、例えばこの二人がテニスをしていたら、大型化が進む現在のあちらの世界でもロシアのメドベージェフにもサーブだけなら負けないんじゃないかと夢想してしまう。

優れたアスリートは、その競技を選んだことで開かれた可能性と同時に、閉ざされた可能性についても想像をかきたててくれるわけだ。

大谷や佐々木のような日本人の大型アスリートの出現は決して"突然変異"ではない気もしている。彼らのようなタレントは実は昔からバレーボールやバスケットボールのような競技に潜んでいたと思うのだ。ただ野球界に流れて来なかっただけで

子供の頃から体がひときわ大きいとコーディネーション能力が備わるまでその体を持て余しがちになる。それで機敏な動きを求められる野球やサッカーになじめず、高さを生かせる競技に進む。

身体のサイズという面から見ると、団体球技はいろんな体格の選手が自分に合ったポジションで花を咲かせ、それなりにダイバーシティー(多様性)を実現させているのだろう。「大きければ大きいほど良いってもんじゃない」というのはスポーツの妙味で、小柄なメッシ(アルゼンチン)に励まされ、「小さいから」といって諦めずに頑張るサッカーキッズは世界中にいることだろう。

競技をする側にも指導する側にも、その競技に適正のサイズ感のようなものが先入観としてある。そして大きな子供ほどその振り分けの対象になりやすい。大谷や佐々木も、そういう意味で励ましを与える存在なのかもしれない。「大きいから」といって「この競技には向いてない」なんて考える必要はないということを。大谷や佐々木に触発され、彼らのような大きな投手、打者が日本からさらに出てくる気がする。


◎「野球界に流れて来なかった」?

今回の記事で最も引っかかったのが「大谷や佐々木のような日本人の大型アスリートの出現は決して"突然変異"ではない気もしている。彼らのようなタレントは実は昔からバレーボールやバスケットボールのような競技に潜んでいたと思うのだ。ただ野球界に流れて来なかっただけで」という部分だ。

日本が優勝した2009年のWBCを武智編集委員は見ていないのだろう。この時はダルビッシュ有投手と岩隈久志投手がエース格。共に身長は190センチ台だ。

野球界」でも「大谷や佐々木のような日本人の大型アスリート」は10年以上前から当たり前にいた。190センチ以上の身長がある「日本人」自体が稀なので、プロ野球でも人数はそれほど多くないだろう。しかし「バレーボールやバスケットボール」と同等かそれ以上に「野球界」は「日本人の大型アスリート」を取り込んでいたと感じる。

ついでに言うと「身長193センチの大谷、190センチの佐々木が躍動する姿はダイナミズムにあふれ、『大男総身に知恵が回りかね』というような固定観念も木っ端みじんにしてくれる」というくだりも気になった。

『大男総身に知恵が回りかね』というような固定観念」を武智編集委員が持っていたということだろう。明らかな偏見で時代錯誤が過ぎる。

サッカーが専門分野の武智編集委員にスウェーデン出身で身長190センチ超えのイブラヒモビッチ選手などはどう映ったのか。足技も華麗との印象があるが、それでも「『大男総身に知恵が回りかね』というような固定観念」を払拭するには至らなかったのか。

となると武智編集委員のサッカーに関する見識にも不安が出てくる。


※今回取り上げた記事「アナザービュー~大型選手が先入観崩す」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220429&ng=DGKKZO60450170Y2A420C2UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを維持する。武智編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

テレビ観戦で思い付いたことを並べただけ? 日経 武智幸徳編集委員「アナザービュー」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_25.html

日経 武智幸徳編集委員は日米のプレーオフを理解してない?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_76.html

「骨太の育成策」を求める日経 武智幸徳編集委員の策は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_87.html

「絶望には早過ぎる」は誰を想定? 日経 武智幸徳編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_4.html

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

日経 武智幸徳編集委員は「フィジカルトレーニング」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_14.html

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post.html

「シュート選ぶな 反則もらえ」と日経 武智幸徳編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_30.html

「ドイツでは可能な理由」を分析しない日経 武智幸徳編集委員の不思議https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_29.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_21.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_43.html

2022年4月28日木曜日

週刊ダイヤモンドでのMMT批判が苦しいSMBC日興証券の森田長太郎氏

説得力のあるMMT(現代貨幣理論)批判記事を探しているが、まだ見つけられていない。週刊ダイヤモンド4月30日・5月7日号にSMBC日興証券チーフ金利ストラテジストの森田長太郎氏が書いた「コロナ禍『MMTの大実験』~得られた財政金融政策の教訓」という記事も期待外れだった。一部を見ていこう。

四山神社

【ダイヤモンドの記事】

本家本元の米国ではこのところ、MMTの唱道者たちの存在はかなり影が薄くなっているようだ。

それも当然、新型コロナウイルス感染拡大危機下の2年間でMMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張が行われた結果、米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している


◎「MMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張」?

MMTの主張を地で行くような膨大な規模の財政拡張が行われた結果、米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している」と森田氏は言う。これを読むと「膨大な規模の財政拡張」をすべきというのが「MMTの主張」だと理解したくなる。しかし明らかに誤りだ。

インフレ」を抑えられる範囲で必要な「規模の財政拡張」をためらうべきではないとMMTでは考える。「米国は約40年ぶりの深刻なインフレに直面している」のだとしたらMMTが避けるべきと考える「膨大な規模の財政拡張が行われた」と言える。

さらに見ていく。


【ダイヤモンドの記事】

米国で有名なMMT論者の1人であるステファニー・ケルトン(米ニューヨーク州立大学教授)は、2月上旬の米ニューヨーク・タイムズ紙の記事の中で、過大な財政拡張政策が想定外のインフレの一因となっている現状を指摘され、苦しい弁明を行っている

といっても、教授はMMTの誤りを認める発言をしているわけではなく、インフレよりひどいことはまだあるではないかとも語っている。


◎「苦しい弁明」とは?

ケルトン」氏が「苦しい弁明を行っている」と森田氏は言うが、どこがどういう理由で「苦しい」のかは説明していない。こういう書き方は感心しない。

さらに見ていく。


【ダイヤモンドの記事】

MMTの代表的な主張を改めて列挙すると、(1)政府の財政支出は納税のために必要な貨幣を家計や企業に供給するものであり、貨幣供給の主体は政府である。それ故財政収支を均衡させる必要性はない。(2)国債発行は中央銀行の政策金利コントロールのためにも必要であり、中央銀行は政府と一体化したものとして見るべきだ。(3)独自通貨を発行する国家にはデフォルトは存在しないーーといったものだ。

このうち(2)は、実際の金融市場における中央銀行のオペレーションが日本では国債発行に対して従属的に行われていることは事実だ。だがだからといって、そのことで中央銀行の独立性と結び付けて考える実務者はいない。この点についてのMMTの説明はおよそ意味を持たないものだ

◎「意味を持たない」のはどっち?

中央銀行は政府と一体化したものとして見るべき」という「主張」に対し「MMTの説明はおよそ意味を持たない」と森田氏は断言する。しかし、その説明がかなり意味不明だ。「およそ意味を持たない」説明をしているのは森田氏の方ではないか。

中央銀行は政府と一体化したものとして見るべき」という主張に対して「独立性」が高いからその見方は適切ではないと森田氏は言いたいようにも見える。ならば「独立性」が高いと言える根拠を示せばいい。ところが、そうはしない。

そのことで中央銀行の独立性と結び付けて考える実務者はいない」としても、それは「独立性」が高い根拠とはならない。親会社と子会社の関係で考えてみよう。親会社が子会社を支配している場合「一体化したものとして見るべき」との主張は妥当性がある。

子会社の従業員がどう「考える」かは関係ない。子会社の経営が親会社に「従属的」かどうかで判断すべきだ。例えば「日銀の総裁人事に政府は関与できないのに政府と一体化したものとして見るべきとの主張はおかしい」といった話ならば分かる。だが、現実はそうではない。

森田氏の主張には強引さが否めない。さらに見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

また、(3)はデフォルトの定義上の問題であり、紙くずの価値しかなくなった国債を発行し続けることができるということをもってデフォルトしないと主張する意味もあまりないだろう。


◎「定義上の問題」?

(3)はデフォルトの定義上の問題」なのか。広い意味で「財政破綻」にハイパーインフレを含めるケースはあるが「デフォルトの定義上の問題」はほぼない。「債務不履行」でいいだろう。

強い通貨主権を持つ国が自国通貨建ての国債で「デフォルト」を強いられることはないというMMTの主張には「意味」がある。国債発行を膨らませれば、どこかで「デフォルト」が発生しるのではないかとの懸念が広く共有されていたからだ(今も残っている)。この誤解を解く意味でMMTの果たした役割は大きい。

結局、森田氏のMMT批判には説得力がない。結論はやはりこれでいい。


※今回取り上げた記事「コロナ禍『MMTの大実験』~得られた財政金融政策の教訓


※記事の評価はD(問題あり)

2022年4月26日火曜日

相変わらずの「日米同盟強化」に説得力欠く日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

日本経済新聞の秋田浩之氏が26日の朝刊オピニオン面に「Deep Insight~抗うウクライナ、日本に教訓」という記事を書いているが、きちんと「教訓」を得ているとは感じられなかった。中身を見た上で具体的に指摘したい。

筑後川

【日経の記事】

ロシアに抗(あらが)うウクライナの戦いから教訓をくみ取り、安全保障政策に生かしていくことが大切だろう。

日本の当局者や識者らの見方をまとめると、とりわけ大事な教訓は次の3つに集約される。第1は、いくら多くの友好国に囲まれていても、有事に本当に頼りになるのは同盟国であるという厳然たる事実だ。米欧はウクライナに武器を渡しても、一緒には戦わない。軍事同盟であるNATOの加盟国ではないからだ


◎同盟国であれば戦う?

有事に本当に頼りになるのは同盟国」だという「教訓」を「ウクライナの戦いから」得られるだろうか。「米欧はウクライナに武器を渡しても、一緒には戦わない」のはその通りだ。しかし「同盟国」だったら「一緒に」戦ってくれたかどうかは分からない。「ロシアと戦えば第3次世界大戦になる。それは避けたい」と米国が考えるのならば同盟国を見捨てる手もある。「同盟国は守る」と米国が言明しても信用はできない。

しかし秋田氏は以下のように話を進めてしまう。


【日経の記事】

日本はオーストラリアやインド、英国、フランスと安全保障協力を深めてきた。日米豪印による4カ国「Quad(クアッド)」の枠組みも強めている。これらも大事な協力だが、日本に防衛義務を負う米国との同盟にとって代わることはできない。日米同盟をさらに強めることが先決だ

◎それでも「日米同盟強化」?

日米同盟をさらに強めることが先決だ」と相変わらずの主張を展開している。「日米同盟」があれば米国は日本を守ってくれるし、戦争のリスクを最小化できると言えるのならば分かる。

しかし台湾有事に米国が軍事介入すれば、日本は米国に強いられる形で中国の“内戦”に介入する可能性が高い。それが現実になりそうな時に日本はどうすべきか、秋田氏は自分の意見を明らかにすることから逃げているように見える。

日米同盟をさらに強めることが先決」と信じているのならば、台湾有事の際に米国と一緒に中国と戦うべきなのかを明らかにしてほしい。特に、日本が攻撃を受けていない段階でどうするのかが鍵だ。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

第2の教訓は、成句に例えるなら「天は自ら助くる者を助く」である。ウクライナを各国が支援するのは、国民が決してあきらめず、戦っているからだ。

ウクライナ軍がロシアへの抵抗をあきらめ、あっという間に崩れてしまったら、外国は助けようがない。この事実は、自力で防衛する体制を整えることがどれほど大切か、日本に教えている。

2010年代半ば、当時の安倍晋三首相は防衛省幹部らに内々、次のような趣旨の指示を伝えた。「尖閣諸島が侵攻された時、最もやってはならないのは即座に米国に連絡し、助けを要請することだ。まず、日本が自力で守ろうとしなければ同盟は働かない

同じことは他の日本の領土・領海にも当てはまる。日本に自衛の意志と能力が乏しかったら、米国は大きな危険を冒してまで守ろうとはしないだろう


◎やはり米国は同盟国も守らない?

日本に自衛の意志と能力が乏しかったら、米国は大きな危険を冒してまで守ろうとはしないだろう」と秋田氏は言う。つまり「日本に自衛の意志と能力が乏しかったら」米国は「同盟国」を見捨てるということだ。「自衛の意志と能力が乏し」いかどうかを判断するのは米国だ。そんな頼りない「日米同盟をさらに強める」意味があるのか。

尖閣諸島が侵攻された時、最もやってはならないのは即座に米国に連絡し、助けを要請することだ。まず、日本が自力で守ろうとしなければ同盟は働かない」という「安倍晋三」氏の発言も「日米同盟」の頼りなさを裏付けている。

尖閣諸島が侵攻された時」に在日米軍はその動きを察知できない前提なのだろう。しかも日本がしっかり「自力で守ろう」とした後でないと「同盟は働かない」。そんな頼りない「日米同盟」のために、費用負担までして軍事基地を置かせる意味があるのか。

さらに記事を見ていく。


【日経の記事】

そして今後、課題になるのが、核抑止力のあり方だ。ロシアの核戦力は米国を威嚇し、ウクライナへの直接介入を阻んでいる。だが、米国の核はロシアを止められず、侵攻を防げなかった。

同じ構図を、台湾海峡に当てはめたらどうなるだろう。米国は中国との核戦争を恐れて介入できない一方で、中国は米国の核に抑止されず、台湾に侵攻する……。こんな事態も絵空事ではない

オーストラリアの国防情報機関で副長官を務めた豪戦略政策研究所(ASPI)のマイケル・シューブリッジ部長も、こう語る。「ロシアの核抑止力は米国に効いているのに、NATOの核はプーチン氏のおぞましい侵略を止める抑止力を発揮していない。同じことが中国との関係で起きないよう、豪州や日本は米側と核抑止力の信頼性の強化策を考えるべきだ」


◎「絵空事ではない」?

米国は中国との核戦争を恐れて介入できない一方で、中国は米国の核に抑止されず、台湾に侵攻する……。こんな事態も絵空事ではない」と秋田氏は言う。「絵空事ではない」のは当然だ。「ウクライナの戦いから教訓」を得なかったのか。同盟国でなければ米国は「一緒には戦わない」と認識したのではないのか。

ウクライナの戦い」から「教訓」を得たのならば「台湾有事で米国は台湾を軍事支援するが対中戦争には踏み切らない」と見るのが自然だ。これをメインシナリオに据えたい。秋田氏は違う考えなのか。

ロシアの核抑止力は米国に効いている」とすれば、中国の「核抑止力」も「米国に効いている」はずだ。つまり「尖閣諸島が侵攻された時」に米国が日本を助けない可能性はかなり高いと言える。

色々考えると「米国は頼りにならない。日米同盟は役立たず。属国路線は早期に修正を」となってしまう。秋田氏が違う考えならば、それはそれでいい。ただ「日米同盟をさらに強めることが先決」という主張は根拠が乏しすぎる。そこを改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~抗うウクライナ、日本に教訓」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220426&ng=DGKKZO60301930V20C22A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/01/deep-insight.html

「大国衝突」時代に突入? 日経 秋田浩之氏「大国衝突、漂流する世界」の無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_23.html

2022年4月25日月曜日

月面再着陸「最短2025年」は「野心的」? 日経 松添亮甫記者に望むこと

個人的には「人類はまだ月に行っていない」と思っている。その立場から25日の日本経済新聞朝刊ニュースな科学面に松添亮甫記者が書いた「人を再び月へ 火星も視野~米新型ロケット、初夏以降に試験飛行」という記事を興味深く読んだ。一部を見ていこう。

那珂川

【日経の記事】

約50年前の「アポロ計画」以来の人類の月面着陸を目指した米国主導の「アルテミス計画」が進む。持続的な月面開発だけでなく、初の火星有人探査も視野に入れ、多くの企業が参加する一大プロジェクトだ。コストや技術などの課題はあるが、月面再着陸を「最短2025年」とする野心的な目標の達成に注目が集まる。


◎どこが「野心的」?

1960年代に始まったアポロ計画は旧ソ連との冷戦の中、国威発揚の意義が大きく、初の月面着陸そのものが目標となっていた。69年の初着陸から72年までに12人の宇宙飛行士を月に送り込んだが、それ以降、探査は途絶えた」とも松添記者は解説している。

月面再着陸」は「1960年代」に実現したことへの再挑戦だ。今は2020年代。この間の科学技術の発達を考えれば容易な課題だろう。なのに実現は「最短2025年」。どこが「野心的な目標」なのか。

アルテミス計画」は「米国が2019年に提唱した有人月面探査計画」で、当初は2024年に人類を月に送り込むはずだった。それが「最短2025年」になり、今では2026年以降になる公算が大きいと言われている。

何かおかしくないか。「69年の初着陸から72年までに12人の宇宙飛行士を月に送り込んだ」のは米国だ。その担い手となった「米航空宇宙局(NASA)」が消えてなくなった訳でもない。なのに「1960年代」にできたことを再現するのに四苦八苦して延期に次ぐ延期となっている。

こうなると、やはり疑問が浮かぶ。本当に「69年の初着陸から72年までに12人の宇宙飛行士を月に送り込んだ」のか。「人類はまだ月に行っていない」と考えれば辻褄が合う。「米航空宇宙局(NASA)」にとっても未知の領域に挑む難事業だから苦戦を強いられているのではないか。

松添記者はそこに疑問を持っているようには見えない。「69年の初着陸から72年までに12人の宇宙飛行士を月に送り込んだ」という話を事実だと見るのならば、それでもいい。なぜ「1960年代」にできたことが2020年代前半の「米航空宇宙局(NASA)」はできなくなっているのか。

そこを今後の記事で伝えてほしい。

「延期に次ぐ延期となり2020年代中の月着陸はない」

これが自分の見立てだ。松添記者はどう見る?


※今回取り上げた記事「人を再び月へ 火星も視野~米新型ロケット、初夏以降に試験飛行

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220425&ng=DGKKZO60230110S2A420C2TJN000


※記事の評価はC(平均的)。松添亮甫記者への評価も暫定でCとする。

2022年4月23日土曜日

ワクチン推しから撤退を始めた日経社説「4回目接種は効果を吟味せよ」への注文

 強力なワクチン推しからの撤退に日本経済新聞が乗り出したようだ。23日の朝刊総合1面に載った「4回目接種は効果を吟味せよ」という社説からは、そう読み取れる。撤退は悪くない。ただ、ワクチン推しの中で訴えてきた内容との整合性は問われる。今回の社説を材料に、この問題を考えてみよう。

大刀洗町

社説の全文は以下の通り。

【日経の社説】

国や自治体で新型コロナウイルスワクチンの4回目接種に向けた準備が進む。拙速に始めるのではなく、科学的知見から効果を吟味してほしい。なぜ2度も追加接種(ブースター接種)が必要かを明確に示さなければならない

政府は3回目の接種を完了した割合が5割と道半ばにもかかわらず、4回目の開始を急ぐ。「第6波」の到来の際、高齢者らへの追加接種が遅れて感染を広げたとの反省に立つからだ。

3月中旬、4回目分として米ファイザー、米モデルナから計1億4500万回分を購入すると発表。厚生労働省が自治体に5月までに準備を終えるよう通知した。

ワクチンは感染症対策の切り札だが、数カ月の間隔で繰り返し打ち続けることに免疫学の専門家から慎重な意見もある。海外の先行例からオミクロン型には感染予防効果に限界があることも判明した。4回目の有効性を判断するデータも十分とはいえない

米国では3月末、50歳以上や免疫不全の人を対象にファイザー製、モデルナ製による4回目接種が始まった。欧州の医薬品当局は80歳未満で免疫機能に問題がなければ、接種は時期尚早との考えだ。

科学的な妥当性が定まっていない証しであり、政策的な思惑から判断が分かれたといえる。

自民党の作業チームは4回目接種に関する提言をまとめた。重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患のある人に限って進めるべきだとした。当面、全年代で一律の接種は必要はないとの考えだ。

新型コロナワクチンは本来、感染よりも症状の悪化を防ぐためにある。3回目接種のまま時間が経過すると入院・重症化リスクがどの程度高まるのか、2度目のブースター接種でその値がどの程度下がるのか。厚労省の専門分科会は国内外のデータを分析、精査する必要がある。

年齢や基礎疾患の有無で対象を絞り込んで接種を始めるとしても、政府は何のために4回目を実施するかを丁寧に説明すべきだ。


◎話が変わってない?

今回の社説で最も引っかかったのが「新型コロナワクチンは本来、感染よりも症状の悪化を防ぐためにある」という部分だ。日経は「ワクチン接種率の向上→集団免疫への獲得」という情報を盛んに流していた時期があった。あれは何だったのか。

昨年7月3日の社説でも「ワクチンの効果見極めには科学的な分析・検証結果を待たねばならず、集団免疫確保には時間を要する」と「集団免疫確保」に期待を持たせていた。「本来、感染よりも症状の悪化を防ぐためにある」のならば、当時からそう伝えるべきだ。途中で考えを変えたのか。

今回の社説の中でも矛盾を感じる。「『第6波』の到来の際、高齢者らへの追加接種が遅れて感染を広げた」と言えるのならば「ワクチン」には感染予防効果があるはずだ。「感染よりも症状の悪化を防ぐためにある」という説明と整合しない。「政府」に誤解があるのならば、その点には触れるべきだ。

海外の先行例からオミクロン型には感染予防効果に限界があることも判明した」という解説にも同じ問題がある。「感染よりも症状の悪化を防ぐためにある」のならば「感染予防効果」を期待する方がおかしい。

なぜ2度も追加接種(ブースター接種)が必要かを明確に示さなければならない」とも日経は訴えている。ならば最初の「ブースター接種」では、その必要性が「明確に示さ」れたのか。

今年2月2日の「接種の加速へ国は前面に立て」という社説では「海外の知見によると、追加の接種によって入院予防効果が改善する。オミクロン型が大流行している今こそ、接種を急がねばならない」と「ブースター接種」を急がせていた。

オミクロン型」では重症化リスクの低さが当初から伝えられていたのに、その前から重症化リスクが低かった若者にも「ブースター接種」を急がせる合理性があったのか。

4回目接種」になって人が変わったように「なぜ2度も追加接種(ブースター接種)が必要かを明確に示さなければならない」と訴えても説得力はない。

結局「新型コロナワクチン」は期待外れで「感染症対策の切り札」とはなれなかった。世の中の流れに合わせて、日経もワクチン推しからの撤退を進める考えだろうが感心しない。なぜ強力なワクチン推しを続けてしまったのか。日経に反省と検証を求めたい。


※今回取り上げた社説「4回目接種は効果を吟味せよ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220423&ng=DGKKZO60272660T20C22A4EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2022年4月20日水曜日

「抜かれる」「落とす」を容認しない坂夏樹氏の新聞記者論に異議あり

15日付でプレジデントオンラインに載った 「昔は宝くじ以上の競争倍率だった…憧れの職業だった『新聞記者』がここまで没落したワケ」という記事には全く共感できなかった。筆者は元全国紙記者の坂夏樹氏。坂氏のような考えの人物が新聞社の幹部クラスにはまだ大勢いるのだろう。それが「『新聞記者』がここまで没落したワケ」ではないのか。

夕暮れ時のうきは市

特に引っかかった部分を見ていく。

【プレジデントオンラインの記事】

一人当たりの仕事の負担はどんどん増えているのに、休日を増やせるわけがない。「どんなことをしても休日をとれ」という指示が「抜かれても、落としてもいいから記者を休ませろ」という“具体的でわかりやすい”指示になったわけだ。

「抜かれても、落としてもいい」などと口にしなければならない幹部には大いに同情する。しかし、新聞記者が絶対口にしてはいけない言葉だ。禁句を口にして指示した罪はとても重い。

新聞記者に対して「君はもう記者でなくてもいいよ」と死刑宣告したようなものだ。

誤解のないようにしてもらいたい。100~200時間の基準外勤務をしなければ、新聞記者とは言えないなどという気はまったくない。

海外には1日8時間勤務でしっかりと取材して良質の報道をしているジャーナリストがたくさんいる。長時間労働は当たり前と考えている新聞記者は、社会の感覚からズレており、よい取材はできないし、よい原稿が書けるわけがない。

しかし、「抜かれる」ことと「落とす」ことを容認してはいけない

ましてや休みを取るための代償として「特ダネはいらないし、特落ち(他社が扱ったニュースを自社だけ落とすこと)もOK」などと公言するのは言語道断だ。


◎「特ダネはいらないし、特落ちもOK」でいい!


待っていれば発表されるネタに関しては「抜かれても、落としてもいい」。「長時間労働の是正のためには仕方がない」といった消極的な理由ではない。

抜かれても、落としてもいい」という発言を「新聞記者」への「死刑宣告」と捉える坂氏のうな考えが新聞をダメにしてきたと思えるからだ。

『抜かれる』ことと『落とす』こと」が「容認」されないとなると「新聞記者」はどんな行動に出るだろうか。例えばトヨタ自動車の担当記者ならば「トヨタの首脳陣に嫌われたらネタがもらえない。首脳陣の機嫌を損ねないような記事を書かないと」となるのが自然だ。そんな記者に「良質の報道」を期待できるだろうか。

『抜かれる』ことと『落とす』こと」が部数に大きく響くというならば「容認」できないのもまだ分かる。しかし、ほとんど関係ないと言われている。

社会的意義が大きいというのならば、これまた分かる。しかし「待っていれば発表されるネタ」を発表前に報じる社会的価値はほぼない。当然だろう。「A社とB社が合併」という記事を発表前に載せたからといって社会が良くなる訳ではない。

特落ち(他社が扱ったニュースを自社だけ落とすこと)」ももちろん「OK」だ。坂氏は「特落ち」が嫌いなようだが、そもそも「他社が扱ったニュース」は「自社」も扱うべきなのか。その横並び意識が要らない。

坂氏の言う「他社」とは新聞社のことだろう。しかし新聞社だけで考えても意味がない。新聞社もネットに先に情報を出したりしている。朝刊を並べて「他紙には載っているのにウチだけ載っていない」などと気にして何になる。

これは読者ベースで考えれば昔からそうだった。ネットの普及で、さらに意味がなくなってきた。やはり「抜かれても、落としてもいい」で「OK」だ。

『抜かれる』ことと『落とす』こと」を嫌えば、取材先に忖度するのが当たり前になってしまう。近年、政治家絡みの不祥事などの「特ダネ」の多くは週刊文春など新聞以外のメディアから出てくる。

取材先にとって不都合な「特ダネ」なぜ新聞社から生まれにくいのか。そこを坂氏には考えてほしかった。


※今回取り上げた記事「昔は宝くじ以上の競争倍率だった…憧れの職業だった『新聞記者』がここまで没落したワケ

https://president.jp/articles/-/56554


※記事の評価はC(平均的)

2022年4月18日月曜日

ハイパーインフレ回避の道はあえて無視? 藤巻健史氏の主張に無理がある週刊エコノミストの記事

フジマキ・ジャパン代表取締役の藤巻健史氏が週刊エコノミスト4月26日号で無理のある主張を展開している。「奇策~ハイパーインフレと日銀 新中央銀行、新通貨しかない」という記事では、編集部も苦しいと思ったのか見出しに「奇策」 とは入れている。その一部を見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【エコノミストの記事】

インフレとハイパーインフレの発生原因は全く違う。インフレは需給のアンバランスで起こるが、ハイパーインフレは中央銀行の信用失墜で起こる。他国が現在直面している危機はインフレだが、日銀が直面している危機はハイパーインフレリスクなのだ。深刻度も異次元である。

中略)要は、日銀が金融引き締めをしようとすると、日銀自身が債務超過に陥ってしまうのだ。債務超過は中央銀行の信用失墜の最たるものであり、そのような中央銀行が発行する通貨は暴落し、ハイパーインフレに進む。

一方、債務超過を恐れて引き締めを回避すれば、インフレはますます加速する。もはや袋小路だ。金融引き締めができなくなった中央銀行は、すでにその体を成していない。日本は悪性インフレかハイパーインフレに陥らざるを得ないのだ。

このような状態になった時に考えられる対処法は以下の三つだ。いずれも日銀の負債の圧縮にほかならない。

(1)法定通貨を円からドルに換える、(2)1946(昭和21)年のように預金封鎖・新券発行を行う、(3)第二次世界大戦後のドイツのように中央銀行の取り換えを行う──。

私は(3)の手法が適切だと思っている。46年は終戦後だが、日本はまだ明治憲法下だった。私有財産権が確立された現憲法下で(2)を行った場合、後に訴訟が頻発する可能性がある。一方、(3)では日銀の倒産・解散なので、倒産会社の負債が消滅するだけだ。私有財産権を犯したとのクレームは回避できる。

この手法を取るには、日銀を残務処理機関として残し、新中央銀行から新通貨で資本投入を受ける。その新紙幣1枚を、例えば福沢諭吉1万円札1000枚と交換するのだ。財務内容が健全な中央銀行が創設されればハイパーインフレは終息するし、国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される。終戦後のドイツで国力、供給能力などは何も変わっていないのにライヒスバンク(旧中央銀行)を廃し、代わりにブンデスバンク(新中央銀行)を創設し、ハイパーインフレが沈静化されたことで、実証されている。


◎悪性インフレの場合も?

実際は大したことは起きないと思うが、百歩譲って「日銀自身が債務超過に陥ってしまう」と「ハイパーインフレに陥らざるを得ない」としよう。その場合に「新中央銀行」の創設といった話が出るのは分かる。

だが、日銀には「債務超過を恐れて引き締めを回避」する選択肢がある。その場合は「悪性インフレ」に進むはずだ。ならば、ここで止まればいいだけだ。

なのに、なぜか「財務内容が健全な中央銀行が創設されればハイパーインフレは終息するし、国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される」と「ハイパーインフレ」に進む前提では主張を展開してしまう。

国民の塗炭の苦しみと交換に究極の財政再建が成される」必要はない。「悪性インフレ」に留めておけばいい。日銀には長短金利をコントロールする力がある。なのに、なぜ「苦しみ」が大きくなる「ハイパーインフレ」をえあえて選ぶのか。藤巻氏の主張は今回も説得力がない。


※今回取り上げた記事「奇策~ハイパーインフレと日銀 新中央銀行、新通貨しかない」https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220426/se1/00m/020/021000c


※記事の評価はE(大いに問題あり)。藤巻健史氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」と訴える藤巻健史氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_8.html

週刊エコノミストでの「ハイパーインフレ」予測に無理がある藤巻健史氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_29.html

2022年4月17日日曜日

兼原信克氏の判断力に疑問あり! 日経ビジネス「米国の核の傘は機能するか?」

元国家安全保障局次長で同志社大学特別客員教授の兼原信克氏はまともな判断ができない人なのか。日経ビジネス4月18日号に載った「米国の核の傘は機能するか?」という記事(兼原氏の発言で構成)を見た上で、兼原氏の判断力に疑問を感じた理由を述べたい。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻開始から間もない2月27日、核抑止部隊に高度な警戒態勢を取るよう指示した。核兵器の使用をほのめかし始めたわけだ。これを機に日本のメディアで、米国との核シェアリングに関する言及が一気に増えた。

欧州ではNATO(北大西洋条約機構)の領域内に米国の核弾頭を配備している。これを使用して、いつ、どこを攻撃するか、NATO加盟国が協議して決める。そのため情報と作戦、装備を共有する。

日本はこれまで恵まれた環境にあり、核抑止の問題を真剣に考える必要がなかった。第2次世界大戦の後、最大の脅威であるソ連の主力は欧州方面。日本は対ソ戦に備えてはいたが、極東で最初に戦闘が起きる可能性は大きくなかった。加えて、中国と米国および日本が1970年代に国交を正常化し、中国が事実上西側にくみした。日本を取り巻く国際情勢はいっそう楽なものになった。

72年に沖縄が本土復帰する際、米軍は沖縄から核を撤去した。当時の佐藤栄作政権が「核抜き本土並み」を要求したことが背景にある。そう要求できるほど、緊張のレベルが低くなっていた。

しかし、時代が変わった。中国が強くなり、台湾有事は絵空事ではなくなった。台湾有事となれば、高い確率で日本有事となる。米国には台湾関係法があり、米国は台湾の防衛に乗り出すだろう。そして米軍が行動を起こせば日米同盟が発動されることになる。

そのような事態になれば、中国が日本に核の脅しをかけてくる可能性がある。「米軍に基地を使わせるな」「自衛隊は介入するな」「言うことを聞かないと核を使うぞ」と。中国は、日本に届く短中距離ミサイルを1600発保有している。「低出力の核ならば、中国が使用しても、米国は報復しない」と思うかもしれない。

戦争が始まれば、日本が核で破壊されることはない、という100%の保証はない。東京は中国に近い。中国が核ミサイルを発射すれば、数分で東京に着弾する。米国の大統領が、中国による対日核攻撃の一報を米戦略軍司令官から受ける時には東京は消えている。東京が壊滅すれば、それは日本の死を意味する。そうなった日本は、米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない

台湾有事に際して中国から核で恫喝(どうかつ)されたら、日本政府はどうするのか。核で攻撃されたら、いかにして国民に責任を取るのか。首相は「米国は必ず守ると言っていた」とでも言うのか。それでは無責任だ。日本人の命を守るのは日本政府の役割。米大統領の責任ではない。

以上の状況に鑑みて、日本も核シェアリングについて議論する必要がある。日本に核が配備されれば、抑止力は向上する。「米国の核を日本に配備すれば、敵の核攻撃の対象になる」という議論があるが、核抑止はそもそも相互に核を構え合うこと。通常兵力だけで頑張っている時に、核の恫喝を受けることの方がよほどリアルな脅威だ。こちらに通常兵器しかなければ、敵方は核の使用をためらう理由がない。(談)


◎「核シェアリング」に意味ある?

中国が核ミサイルを発射すれば、数分で東京に着弾する。米国の大統領が、中国による対日核攻撃の一報を米戦略軍司令官から受ける時には東京は消えている。東京が壊滅すれば、それは日本の死を意味する。そうなった日本は、米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない」という見立てに異論はない。この前提で考えてみよう。

日本も核シェアリング」に踏み切り、例えば沖縄の米軍基地に配備されるとしよう。この状況で「中国が核ミサイルを発射」して「東京が壊滅」する。この時に「シェアリング」していた「核兵器」を使って中国に報復できるだろうか。

東京が壊滅」しているのだから「米国にとって同盟国としての価値はない。従って防衛する価値もない」という結論になる。なので生き残った日本政府関係者から「核兵器」の使用を求められても米国が拒否するはずだ。米国が日本を守らないという点では「核シェアリング」しない時と変わらない。

核抑止はそもそも相互に核を構え合うこと」であり「核シェアリング」でそれが実現するから中国の「対日核攻撃」を未然に防げるのだと兼原氏は反論するかもしれない。しかし、これは米国に「核兵器」使用の意思がない場合は成立しない。

東京が壊滅」すれば沖縄配備の「核兵器」による報復はないと中国が認識している場合、「核シェアリング」による「抑止」は期待できない。

東京が壊滅」するような事態になれば米国は確実に「核兵器」を中国に向けるとの前提であれば、当然に「核抑止」は成立する。ただ、この前提だと「核シェアリング」が要らなくなる。「核シェアリング」の有無に関係なく米国は中国に「核兵器」を使うからだ。

結局、問題は米国の意思だ。「対日核攻撃」には「核兵器」で対抗するという意思が強固からば「核シェアリング」に関係なく「核抑止」は機能する。

東京が壊滅」する事態になれば米国が日本を見捨てる前提では「核シェアリング」に何の価値もない。少し考えれば分かるはずだ。

兼原氏はそれが理解できないのか。あるいは「核シェアリング」を推進したいから無理のある主張をしているのか。いずれにしても問題ありだ。


※今回取り上げた記事「米国の核の傘は機能するか?」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00200/?P=3


※記事の評価は見送る

2022年4月15日金曜日

マックが「体験価値」を上げた話はどこに? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

15日の日本経済新聞朝刊ビジネス1面に中村直文編集委員が書いた「ヒットのクスリ~大人の階段上るマック  『ちょい』が開拓、多様な利用」という記事は苦しい内容だった。順に見ながら具体的に指摘したい。

下関駅前

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要も追い風となり、好調を続ける日本マクドナルドホールディングス。再成長の理由を探ると、マックが低価格食・色を薄めようとした地道なマーケティングの成果も見えてくる。


◎まだ「巣ごもり」?

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う巣ごもり需要も追い風となり、好調を続ける日本マクドナルドホールディングス」と書くと「今も『巣ごもり』が続いていると取れる。完全に消えたとは言わないが、昨年との比較で言えば「巣ごもり需要」は減少傾向ではないのか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

マクドナルドと言えば、「でも・しか」的要素が強かった。マックでも行くか、マックしかないから行くか。決して否定的な動機ではなく、いつでも、どこでも、安く買えるマックの「インフラ力」のなせる強みだ。


◎「いつでも、どこでも、安く買える」?

マック」は「いつでも、どこでも、安く買える」のか。全店舗が24時間営業なのか。

どこでも」も苦しい。日本全国どこへでも宅配してくれるのか。ちなみに自分の家から最寄りの「マック」までは20キロメートルほどある。

でも・しか」が「否定的な動機ではなく」との説明も無理がある。「マックしかないから行くか」は明らかに「否定的」だ。自分はモスバーガーが隣にあっても安さゆえに「マック」を選ぶ。それは「でも・しか」ではない。「安く買える」のは大きな魅力だ。

ここから本題に入ってくる。


【日経の記事】

だが、消費が成熟すると量的志向だけでは限界がある。外食、小売りなど量販型の消費ビジネスが必ずぶつかる悩みだ。コロナ下での追い風が目立つマックだが、実は2018年に「価格」から「体験」を重視した高付加価値戦略に転換したことも奏功している。旗振り役が、日本マクドナルド取締役でCMO(チーフマーケティングオフィサー)を務めるズナイデン房子氏だ。

ズナイデン氏は資生堂や日清食品など有力消費企業を経験してきたマーケティングのプロ。16年度に黒字化し、成長軌道に乗り始めたマックの次の戦略を託された。

ズナイデン氏の考え方はシンプルで「ブランド価値とは、体験価値を価格で割ったもの」。マックの価格は、大きく下げようがない。では、いかに体験価値を上げるか


◎読者に期待に応えられる?

マック」がいかにして「体験価値を上げ」てきたのか。ここから中村編集委員が教えてくれると読者は期待しそうだ。それに応える内容になっているのか。さらに見ていく。


【日経の記事】

ポイントは2つ。消費シーンの拡大と、大人向けのプレミアム商品の投入だ。「とにかく『マックでいい』の『で』を抜くこと」(ズナイデン氏)。シーン拡大に向け、「でも・しか」という消極的な動機ではなく、「マックがいい」という積極的な動機の醸成が欠かせないわけだ。

例えばキャッチコピー。200円の3種類のバーガーとドリンク、ポテトなどで構成する安価な商品群を「おてごろマック」としていたが、これを20年に「ちょいマック」に変更した。

おてごろだとお得感を強調しすぎている。ランチタイムに加え、小腹、別腹と様々なシーンで利用してもらえるセットメニューとしてリ・ブランディングした。CMに起用した木村拓哉さんの口癖とされている「ちょ、待てよ」から拝借したのではないらしい。


◎商品名を変えただけ

おてごろマック」を「ちょいマック」に変えると「体験価値」が上がるのか。「ランチタイムに加え、小腹、別腹と様々なシーンで利用してもらえるセットメニュー」として消費者にアピールすると「体験価値」が上がるのか。

例えば「ちょいマック」を注文すると特別席で食べられるといった話ならば「体験価値」は上がるかもしれない。しかし、そういう説明は見当たらない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

ズナイデン流はとにかくネーミングにこだわる。「ごはんバーガー」の場合、当初は「おコメバーガー」だったが、「これだと物性を表現している。ごはんという食事シーンを想起するネーミングを選んだ」。

CMの内容も凝る。物語風にすると同時に、哀愁漂う大人の世界を演出した。主役は漫才コンビのナイツの塙宣之さんで、「」た妻、仲の悪い同期などネガティブな人間模様を舞台とした。明るく前向きなトーンが目立ったマックが、「うま味」だけでなく「苦み」を加えるようになった。確かに順風な人生より、逆風感のある人生の方が人々の共感を得やすい。


◎「ネーミング」の問題?

ズナイデン流はとにかくネーミングにこだわる」として「ごはんバーガー」の話も持ち出してくるが、やはり「体験価値」との関連は感じられない。

CMの内容も凝る」とさらに脱線して、結局は「体験価値」が上がる話として着地していない。「大人向けのプレミアム商品」を投入したからと言って「体験価値」が上がる訳ではない。

高価格の「プレミアム商品」を投入すれば、それが「体験価値」の向上につながるとの考え方ならば、回りくどい説明をせずに、高価格商品へのシフトによる「高付加価値戦略」と説明すればいい。

中村編集委員の説明を信じれば「マック」「は『体験』を重視した高付加価値戦略に転換した」はずだ。では「体験」とは何を指すのか。その明確な説明は結局出てこない。最後の段落も見ておこう。


【日経の記事】

少子高齢化で日本の胃袋はますます縮む。若者、家族から大人の階段を上るマックは国内消費の縮図と言えそうだ。


◎「体験価値」の話のはずが…

体験価値」を上げる話をしていたはずが、顧客層の高年齢化への対応にすり替わってしまった。訴えたいことが明確にならないまま書き始めた記事は、こういう展開になりやすい。そこに中村編集委員の書き手としての実力が見える。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~大人の階段上るマック  『ちょい』が開拓、多様な利用

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220415&ng=DGKKZO60012680U2A410C2TB1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html

問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html

「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_30.html

「微アルコール」は「新たなカテゴリー」? 日経 中村直文編集委員の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_12.html

「ながら族が増えた」に根拠欠く日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_14.html

「プロセスエコノミー」の事例に無理がある日経 中村直文編集委員「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insight.html

2022年4月12日火曜日

高コスト商品を前向きに紹介する日経「野村アセット、運用一任」の筋の悪さ

12日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「野村アセット、運用一任~独立系アドバイザー経由、SBI証券と」という記事には筋の悪さを感じた。全文は以下の通り。

錦帯橋

【日経の記事】

野村アセットマネジメントは独立系金融アドバイザー(IFA)を通じ、運用を金融機関に一任するファンドラップの提供を始める。まず、SBI証券の口座で金融商品を取り扱うIFAと組む。拡大するIFA市場を通じて長期資産形成の需要を取り込む狙いがある。

サービス名は「ゴールベースラップ」で、最低投資金額は1千万円。IFAの利用者がリスク許容度を5段階で答えると、野村アセットが運用する株や債券などを組み入れたバランス型ファンドに投資できる。運用報酬は税込みで年率2%程度。対象ファンドの保有で発生する実質的な信託報酬の平均合計額を加えても、全体の費用は年2%強となる見込みだ

IFAにはSBI証券傘下のSBIマネープラザなど金融事業者に加え、保険代理店や小売りなど事業会社の間でも登録する動きが相次いでいる。口座管理の金融機関も今後、SBI証券から他の証券会社などに広げる考えだ。

フィンテック企業の日本資産運用基盤グループ(東京・中央)や金融情報会社QUICKが開発したシステムも活用する。


◎日経グループ案件だと明示しよう!

最後に「フィンテック企業の日本資産運用基盤グループ(東京・中央)や金融情報会社QUICKが開発したシステムも活用する」とサラッと書いている。多くの読者は「QUICK」が日経グループの会社とは知らないだろう。今回の記事は自社モノとも言える。その類の記事を載せるなとは言わない。しかし、載せるならば自社モノだと読者にきちんと伝わる書き方をしてほしい。

この記事には他にも問題を感じる。

そもそも、どこに新規性があるのだろう。「IFAと組む」ことなのか。しかし「IFAと組む」初の事例といった記述は見当たらない。「QUICK」が絡むから3段見出しを付けたのだろうが、それに見合うニュース性は記事から伝わってこない。

運用報酬は税込みで年率2%程度。対象ファンドの保有で発生する実質的な信託報酬の平均合計額を加えても、全体の費用は年2%強となる見込みだ」と、あたかも低コストのように書いているのも感心しない。信託報酬0.1%前後のインデックスファンドが多数あるのに「ファンドラップ」に「年率2%程度」の「運用報酬」を支払う合理性はない。

しかも投資家は「バランス型ファンド」に誘導される。低いリターンしか見込めない「債券」での運用にも費用がかかる「バランス型ファンド」は「運用報酬」が低くても選ぶべきではない。

独立系金融アドバイザー(IFA)」という肩書を見て「独立性が高い人のようだから助言を信じてもいいのかも」などと思ってしまうカモを相手にコストの高い投資商品を売り付けるというのが「ゴールベースラップ」の狙いだろう。「野村アセットマネジメント」や「SBI証券」は事業によって利益を上げる必要があるので、この手の商品を出すのも分かる。

しかし、日経は読者(特に投資初心者)に寄り添う姿勢が欲しい。自社モノといえども、そこは譲れないとの矜持を持つメディアに生まれ変わってほしい。


※今回取り上げた記事「野村アセット、運用一任~独立系アドバイザー経由、SBI証券と」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220412&ng=DGKKZO59891420R10C22A4EE9000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2022年4月11日月曜日

「デフレだと経済成長はほぼ無理」と誤解した中野剛志氏「奇跡の経済教室~大論争編」

評論家の中野剛志氏が書いた「奇跡の経済教室~大論争編」という本の内容には大筋で合意できる。しかし「デフレ」に関する誤解が今回も目に付いた。そこを見ていきたい。

宮島

【「奇跡の経済教室~大論争編」の引用】

もっともインフレにも、2種類あります。

消費や投資が旺盛になり、「需要>供給」になるようなインフレは、「デマンドプル・インフレ」と呼ばれます。これは、経済成長を促すインフレです。

これに対して、石油危機によるエネルギー価格の上昇、凶作による食糧価格の上昇、自然災害や最近のコロナ禍のような疫病のせいで生産や流通が滞ることで起きる物価高など、供給側が制約されることによるインフレもあります。これは「コストプッシュ・インフレ」と呼ばれます。

ちなみに、財政赤字との関連で問題になるインフレとは、「デマンドプル・インフレ」の方になります。

ですから、この後の議論で「インフレ」と言った場合は、特段の断りがない限り、「デマンドプル・インフレ」のことだと考えてください。なお「コストプッシュ・インフレ」の問題については、第5章で改めて論じます。

次に、デフレとは何かについて考えてみましょう。

デフレは、インフレとは反対に「需要<供給」の状態ですから、モノを作っても売れない状態です。当然景気が悪い。


◎なぜデフレは1種類?

インフレ」には「2種類」あると中野氏は言う。しかし「デフレ」ではこうした分類をしていない。そこが解せない。

コストプッシュ・インフレ」があるのならば「コストダウン・デフレ」も考えられる。需給が均衡していて物価上昇率がほぼゼロの時に原油価格が大きく下がって「コストダウン・デフレ」が起きたとしよう。原油安は日本経済に明らかなプラスだ。そして「需要<供給」とはなっていないのに「コストダウン」を反映する形で物価が下がり「デフレ」となる。

これの何が問題なのか。「インフレ」を「2種類」に分けるのならば「デフレ」も同じように考えた方がいい。

続きを見ていこう。


【「奇跡の経済教室~大論争編」の引用】

したがって、デフレの状態では経済成長は、ほとんど望めなくなります。

ちなみに、1930年代に起きた「世界恐慌」は、極端なデフレでした。


◎デフレだと成長できない?

デフレの状態では経済成長は、ほとんど望めなく」なるのだろうか。2015年3月20日付の「デフレと経済成長率、関連性薄い=BIS」というロイターの記事では「国際決済銀行(BIS)は18日公表した調査報告書で、デフレと経済成長率の関連性は薄いとの見方を示した」と伝えている。中野氏の説明と完全に食い違う。

中身をもう少し見てみよう。


【ロイターの記事】

38の経済を1870年までさかのぼって調査した結果、デフレは全期間の約18%で発生したことが明らかになったが、経済成長率が大きく低下したのは1930年代初頭に米国で起こった大恐慌の時だけだったという。デフレが債務問題の悪化につながったという証拠はないとも指摘した。

多くの中銀は利下げを正当化するために、デフレが景気に深刻な打撃を与えるとの主張を展開しているが、こういった見解に疑問を投げかけた格好となった。

報告書は、デフレが続いた日本経済について、人口の伸び悩みと急速な高齢化が経済成長の重しになったと分析。デフレと経済成長の関係を分析する際には、人口要因を考慮する必要があるとしている

報告書によると、日本の実質国内総生産(GDP)は人口1人当たりのベースでは、2000─13年の累計で10%成長。労働人口1人当たりでは累計20%の成長を記録したという。米国はそれぞれ約12%、約11%だった。


◎例外を重く見てない?

経済成長率が大きく低下したのは1930年代初頭に米国で起こった大恐慌の時だけだった」とロイターの記事は伝えている。「1930年代に起きた『世界恐慌』は、極端なデフレ」との中野氏の説明と矛盾はない。ただ、中野氏は例外を重く見て「デフレの状態では経済成長は、ほとんど望めなくな」ると誤解したのではないのか。

奇跡の経済教室~大論争編」に戻ろう。


【「奇跡の経済教室~大論争編」の引用】

デフレについては、こういう言い方もできます。

デフレとは、物価が継続的に下落することです。これは、裏を返すと、貨幣の価値が継続的に上昇するということになります。

貨幣の価値が上がっていくならば、人々は、モノよりカネを欲しがるようになるでしょう。消費者は、モノを買わないで、カネを貯め込むでしょう。企業は、投資をしないで、貯蓄(内部留保)を増やすでしょう。カネの価値が上がっている時には、カネを使うよりも貯める方が、経済合理的だからです。


◎本当に「モノよりカネを欲しがる」?

貨幣の価値が上がっていくならば、人々は、モノよりカネを欲しがるようになる」とは限らない。これは経験的にも分かるはずだ。例えばブランド物のバッグが大好きな女性がいるとしよう。物価上昇率が1%の時には熱心にバッグを買い漁っていたのに、1%の物価下落に転じただけで「モノよりカネを欲しがるようになる」だろうか。デフレでバッグの価格が下がれば、さらに購買意欲が増す可能性もある。

人々には欲しいモノもあるし、買わなければ生活できないモノもある。「貨幣の価値が上がっていく」からと言って「モノを買わないでカネを貯め込む」とは限らない。良い例がスマホだ。「日本だけが、1998年からデフレになり、それから20年以上にわたって、デフレ脱却を果たせずにいます」と中野氏は言う。

であれば、この間にスマホが登場しても「モノよりカネを欲しがる」日本の消費者は見向きもしないはずだ。実際はどうだったか。説明するまでもない。

企業にとっても「デフレ」だからと言って「カネを使うよりも貯める方が、経済合理的」とは限らない。スマホが爆発的に普及すると見る日本人が21世紀の初めにいたら、どう考えるだろうか。「カネを使うよりも貯める方が、経済合理的」だから、スマホへの「投資」は無駄だと判断しただろうか。

企業が「投資」に踏み切るかどうかは期待リターンをどう見るかによる。物価下落率1%の「デフレ」で預金金利が1%であれば、実質ベースのリターンは2%。一方、スマホに「投資」すれば、期待リターンが10%と経営者が判断する。「投資」の方が不確実性が高いので、その分をどう見るかという問題はあるが、「デフレ」下でもスマホへの「投資」が「経済合理的」となる可能性は十分にある。


※今回取り上げた本「奇跡の経済教室~大論争編


※本の評価はD(問題あり)

2022年4月10日日曜日

色々と問題目立つ日経1面「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重」

10日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重 男性は『東京転出超』 働きやすさで差」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

生月大橋

【日経の記事】

人口動態で男女の違いが鮮明になっている。全国から人を吸い寄せ続けてきた東京都は2021年、男性だけみれば25年ぶりに流出する人が多くなった。女性はなお流入が勝る。女性が大都市に集まりがちな傾向は、性別による暮らしやすさの差が地方社会に根強く残ることを映す。男女を問わず希望や能力に応じて多様なキャリアを実現できる環境を整えなければ地域経済の活性化はおぼつかない。

新型コロナウイルス禍でテレワークが広がり、東京の求心力は低下した。総務省によると、都内は転入者が転出者を上回る転入超過が21年に5433人と前年の6分の1近くに縮小した。性別にわけるとベクトルの違いが浮かぶ。男性は1344人の転出超過に転じ、女性は転入超過(6777人)のままだった。


◎「ベクトルの違い」ある?

記事に付けた「東京は女性の転入超過が続き、男性は転出超過に転じた」というタイトルのグラフを見ると「性別」による「ベクトルの違い」はない。男女ともに「東京の求心力は低下」している。

コロナ前との比較をグラフでは強調している。それによると2019年時点での「東京都の転入超過数」の男女差は1万2300人(女性の方が多い)。それが21年には8100人に縮小している。「東京の求心力」の「低下」は女性により強く出ているとも言える。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性の流入先は首都圏が目立つ。転入超過数が最も多かったのは神奈川県の1万7555人だった。埼玉県の1万4535人、千葉県の8473人が続く。転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ


◎地方の範囲は?

地方の県」と書いているが、今回の記事では「地方」の定義が分かりづらい。「大都市で女性が増えている」とのタイトルを付けたグラフを見ると札幌市が入っている。ならば北海道は「地方」に含めないのか。あるいは北海道の中で札幌だけが「非地方」なのか。

転出超過は広島県の3580人、福島県の3572人など地方の県だ」と言うが、県庁所在地の広島市は「大都市」に入る。その辺りをどう見ているのかは明確にしてほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

全国で緊急事態宣言が解除された21年10月、関西出身の女性(23)は都内の企業で働き始めた。地元の大学で関東出身の同級生から伝え聞く東京の生活に憧れていた。「女性でもキャリアアップできる企業が多い」ことも上京の決め手になったという。一般に都市部は地方に比べ就労環境が整っている。総じて賃金水準が高く、求人も多い。


◎関西は非「都市部」?

記事に出てくる「関西出身の女性(23)」の話も苦しい。「一般に都市部は地方に比べ就労環境が整っている」としよう。だからと言って「関西出身の女性(23)」が「都内の企業」を選ぶ理由にはならない。「関西」には大阪、京都、神戸といった大都市もある。

関西」の大都市よりも首都圏の方が「就労環境が整っている」ということならば、そう書いてほしい。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

最新の20年の国勢調査をみると特に大都市で人口に占める女性の割合が10年前に比べ高まっている。上昇幅が大きいのは横浜市(0.71ポイント)、さいたま市(0.69ポイント)、川崎市(0.67ポイント)などだ。下落幅は愛知県知立市(0.65ポイント)、三重県いなべ市(0.92ポイント)など大都市圏周辺の地方の自治体で大きい。

もともと日本は都市への集住度が高い。国連によると人口に占める都市住民の比率は1950年は53%だったのが2020年には92%に上昇した。米国の83%、ドイツの78%などを上回り、主要先進国で唯一90%台にのる。50年には95%に高まる見通しだ。


◎愛知県は「地方」?

上記のくだりでは「愛知県知立市」を「地方の自治体」と見なしている。筆者らは「愛知県」を「地方」と見ている可能性が高い。なので「三大都市圏以外が地方」という区分ではないのだろう。だとすると「地方」と対比させるべきなのは、筆者らにとっては「首都圏」ではないのか。しかし、そうはなっていない。

札幌市、仙台市、福岡市などの「大都市」を「地方」ではないと見なすのは無理がある。筆者らは、その辺りをきちんと区分けできているのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

地方回帰の流れが強まったコロナ下で、女性がなお都市に集まり続けるのはなぜか。

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏は「今の若い女性はやりたい仕事が明確だが、希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」と指摘する。実際、進学や就職を機に東京に移る例が多く、年代別では10代後半や20代前半の流入が際だつ。


◎男性限定の仕事とは?

希望する仕事が地方になかったり男性に限定されていたりするのが問題だ」との「ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏」のコメントが引っかかる。「男性に限定されて」いる仕事とは何だろう。

例えばホストは「男性に限定」されるが、代わりにホステスは女性限定だ。接客業という意味では男女とも就業の機会はある。「若い女性」にとって、「地方」では「男性に限定されて」いるのに「東京」だと女性でも就ける「やりたい仕事」がそんなにあるものなのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

地方の一部に残る古い性別役割意識も影響している。国土交通省のま20年の調査で、上京した女性の15%は出身地の人たちが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛同すると回答した。この割合は全体の8%の倍近い。

地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」(ニッセイ基礎研の天野氏)。なにかと便利な都市での暮らしに慣れるほど地方に戻ろうという気持ちは薄れる。


◎「少子化を加速」?

地方」には「古い性別役割意識」が残るとしよう。この前提で「地方の若い女性の流出は少子化を加速させる」としたら「古い性別役割意識」があった方が「少子化」を食い止められるとの結論になる。実際に都道府県別で最も出生率が低いのは東京都だ。

これは日経にとっては都合が悪いのではないか。7日の夕刊くらしナビ面に載った「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」という記事で「(日韓では)性別役割分担意識の強さが女性に結婚・出産をためらわせる元凶になっている」と石塚由紀夫編集委員が解説していた。

石塚編集委員の見立てが正しければ「古い性別役割意識」が希薄な「東京」に女性を集めた方が「結婚・出産」に積極的になるはずだ。しかし現実はそうなっていない。

今回の記事の筆者である塩崎健太郎記者と松尾洋平記者(マクロ経済エディター)にも、その辺りの問題をぜひ考えてほしい。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~地方回帰 女性なお慎重 男性は『東京転出超』 働きやすさで差

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220410&ng=DGKKZO59866430Q2A410C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。塩崎健太郎記者と松尾洋平記者への評価は暫定でDとする。

2022年4月8日金曜日

日韓の少子化の原因を「性別役割分担意識」に求める日経 石塚由紀夫編集委員の思い込み

欧米(特に欧州)を見習い進歩的な方向に変化すれば少子化問題は解決できる。そう思い込んでいる人は多い。日本経済新聞の石塚由紀夫編集委員もその1人だ。7日の夕刊くらしナビ面に載った「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」という記事で強引な主張を展開している。一部を見ていこう。

大バエ灯台

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で出生数は世界的に落ち込んでいる。ただ、日韓が共に少子化に沈む理由はほかにもあり、それが社会に根強い性別役割分担意識だ

日本経済新聞は16年に韓国の中央日報と少子化に関する共同意識調査を実施した(20~40代の男女、両国で各約1000人が回答)。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という考え方に両国とも約4割が賛成した。「女性は仕事より子育てを優先すべきだ」とする人も、日本で38%、韓国で40%に上った。

韓国では「男性が家計の主たる稼ぎ手であるべきだ」という価値観が男性も苦しめている。韓国では結婚前に男性側が住まいを用意するという慣習がある。ただ、ソウル市を中心に都市部で住宅価格が急騰し、若い男性の収入では満足な住まいを準備できない。それが男性に結婚をためらわせる一因になっている。

家事・育児などの無償労働に1日当たり、どれだけ時間を割いているか。OECD調査(20年)では日本は男性41分に対して女性224分、韓国は男性49分、女性215分だ。女性は男性と比較して日本は5.5倍、韓国は4.4倍も家事・育児等に時間を費やしている。OECD平均1.9倍を大きく上回り、男女の不均衡はOECD加盟国の中でも突出している。

経済発展に伴い共働きが広がるのは自然の流れだ。欧米など性別役割分担意識が強くない国は、職場でも家庭でも男女それぞれが応分の役割を果たすようになり、スムーズに共働き社会に移行した

日韓の事情に詳しい横浜国立大学の相馬直子教授は「性別役割分担が残る社会では共働きとの齟齬(そご)が生じて、女性は合理的な選択として子どもを産まなくなるといわれている。まさに日韓はその状況に陥っている」と説明する。


◎辻褄合う?

欧米など性別役割分担意識が強くない国は、職場でも家庭でも男女それぞれが応分の役割を果たすようになり、スムーズに共働き社会に移行した」と石塚編集委員は言う。結果として「欧米」の出生率が高いのならば「(日韓)両国に共通する構造的な問題は、性別役割分担意識の強さが女性に結婚・出産をためらわせる元凶になっていることだ」と断定するのも分かる。しかし、そうはなっていない。

記事には「OECD加盟国の出生率上位と下位」というタイトルのグラフが付いている。上位でも人口置換水準(2.1前後)を上回るのはイスラエルとメキシコだけで、欧州各国も米国も及ばない。そして、下位を見ると日本と韓国の間にギリシャ、イタリア、スペインが入っている。

つまり「性別役割分担意識が強くない国」の出生率も決して高くない。その好例がフィンランドだ。昨年8月13日の日経に載った「[FT]『日本化』する世界人口~若者の悲観生む懸念」という記事を石塚編集委員にはぜひ読んでほしい。そこには以下のような説明がある。


【日経の記事(FTの翻訳)】

いずれにせよ、我々が先進国の出生率を人口置換水準にまで回復させたいと考えても、それは無理かもしれない。 フィンランドは仕事と育児を両立できるよう様々な政策を実施しているが、出生率はいまだに置換水準の2.1をはるかに下回ったままだ。フィンランドの人口研究所のアンナ・ロトキルヒ研究教授はこう話す。

「16歳未満の子どもを持つ親たちがどのように仕事と家庭を両立させているかを調査したところ、最大の問題はどうしたら興味深い調査報告を書けるかだった。というのも、誰もが現状に非常に満足していたからだ」

そしてこう続けた。「これまで、真の男女平等を実現できれば出生率は上がるという期待があった。ところが、両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した。ただ、人々がそれで満足しているのであれば、この出生率の低さは果たして問題視すべきなのか、ということだ」


◇   ◇   ◇


フィンランドでは「両親が共に働き、キャリアを追求しつつ家庭を築けるようになっても、平均出生率は1.5程度にしかならなそうなことが判明した」そうだ。なのに日本や韓国がフィンランドを見習うと「出生率は上がる」のだろうか。

韓国はともかく日本の出生率はフィンランドと大差ない。イスラエルを例外として、先進国は少子化という点ではドングリの背比べだ。欧米を見習っても基本的に意味はない。

進歩的な方向に社会を向けたいと考えるのは悪くない。しかし、そのエサとして少子化問題を持ち出すのはやめた方がいい。石塚編集委員もそのことに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「日本と韓国 少子化の共通点は~結婚・出産ためらう性別役割」 https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220407&ng=DGKKZO59775710X00C22A4KNTP00


※記事の評価はD(問題あり)。石塚由紀夫編集委員への評価もDを維持する。石塚編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「女性活躍後進国」と日経 石塚由紀夫編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_2.html

「フリーアドレス制でダイバーシティー効果」が怪しい日経の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_88.html

「地方から都市部に若い女性が流出」に無理がある日経 石塚由紀夫編集委員の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/12/blog-post_9.html

2022年4月6日水曜日

台湾有事の肝に触れた点は評価できる日経「安保法体系の死角(上)」

6日の日本経済新聞朝刊 政治・外交面に載った「安保法体系の死角(上)『有事』どう迅速に認定~日本、明確な判断基準が不可欠 自衛隊を活動しやすく」という記事は悪くない。肝心な問題を論じることから逃げている秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)らは見習ってほしい。

耳納連山に沈む夕陽

日本にとって台湾有事の際の肝に触れた部分を見ていこう。「自衛隊の元幹部らが集まり、21年夏にシミュレーション演習を実施した」時の状況について以下のように書いている。

【日経の記事】

演習では、さらに中国が台湾限定で攻撃を始め「米国に協力すれば日本を攻撃対象とする」と脅しをかけてくる想定も加えた。ここでも事態認定はできなかった。

中国が台湾と同時に日本の領土である尖閣諸島や南西諸島にも攻撃を加えれば、明確な「武力攻撃事態」と認定できる。そうでないケースは判断が難しい。明確な判断基準が不可欠となる。

政府が事態認定しなければ、南西防衛にあたる自衛隊は米軍と共同で防衛準備にあたることもできない。100キロほどしか離れていないところで戦闘行為があるにもかかわらず、自衛隊は平時の活動しかできない。

元内閣官房副長官補の兼原信克氏は南西諸島近辺で戦う米軍から軍事協力を要請されても日本が動かなければ「日米同盟の関係性は危機的状況に陥る」と解説する。

日本や米国は台湾を国として承認していない。米国が軍事介入せず、武器の供与などにとどまった場合も悩ましい。「存立危機事態」の認定条件にある「密接な関係にある国に対する武力攻撃」という基準を満たすか微妙になる

岩田氏(※注:元陸上幕僚長の岩田清文氏)は「新しい内閣ができるたびに台湾有事を想定したシミュレーションをする仕組みを設けるべきだ」と提言する。


◎逃げずに考えよう!

中国が台湾と同時に日本の領土である尖閣諸島や南西諸島にも攻撃を加えれば、明確な『武力攻撃事態』と認定できる。そうでないケースは判断が難しい」との指摘はその通りだ。

「台湾有事は日本有事だ」などと訴える人の多くは、この問題をすり抜けるために日本も同時に攻撃される前提を置いてしまう。しかし、考えなければいけないのは「判断が難しい」ケースの方だ。そこに言及した点は評価できる。

ただ「米国が軍事介入せず、武器の供与などにとどまった場合も悩ましい。『存立危機事態』の認定条件にある『密接な関係にある国に対する武力攻撃』という基準を満たすか微妙になる」との説明は苦しい。普通に考えれば「密接な関係にある国に対する武力攻撃」には当たらない。

米国」への攻撃に向けてA国がB国に「武器の供与」を進めているというなら話はまだ分かる。逆に「米国」が「武器の供与」を進めていて「武力攻撃」は受けていない。その段階でどう解釈すれば「密接な関係にある国(=米国)に対する武力攻撃」と見なせるのか。

台湾有事で最も考えてほしいのが「中国が台湾限定で攻撃を始め『米国に協力すれば日本を攻撃対象とする』と脅しをかけてくる想定」だ。日米同盟の強化を念仏のように唱えて属国路線を支持してきた日経には非常に難しい局面と言える。なので秋田氏らも判断から逃げているのだろう。

南西諸島近辺で戦う米軍から軍事協力を要請されても日本が動かなければ『日米同盟の関係性は危機的状況に陥る』」だろう。属国路線を突き進めば米国に協力する形で対中戦争に踏み切ることになる。日本防衛のためではない。「日米同盟」を守るためだ。

平和を守りたいなら「日米同盟」の強化が必要と日経は訴えてきた。しかし上記の想定では「日米同盟」の存在ゆえに望まない戦争に巻き込まれる。しかも中国の内戦に軍事介入する形となる。結果として多くの自衛隊員が命を落とすだろう。

それだけで済むとは限らない。在日米軍基地や自衛隊基地が攻撃対象になれば、周辺の民間人にも被害が及ぶ可能性が高い。戦争に負ければ、一部の領土を奪われたり全土を占領されたりといった事態もあり得る。

それでも「日米同盟」を守るために中国の内戦に軍事介入すべきなのか。そう問われると「日米同盟」の強化を念仏のように唱えていた日経の書き手もひるむはずだ。

結果として「起きては困ることは考えない」という思考停止状態に陥ってしまう。今回の記事を読む限り、日経にも思考停止をせずこの問題と向き合っている書き手がいるのは分かる。そこに期待したい。


※今回取り上げた記事「安保法体系の死角(上)『有事』どう迅速に認定~日本、明確な判断基準が不可欠 自衛隊を活動しやすく

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220406&ng=DGKKZO59738190V00C22A4PD0000


※記事の評価はC(平均的)

2022年4月5日火曜日

ワクチン推しゆえの強引さ感じる日経「子供の感染高止まり」

どうしても子供にワクチンを打たせたいということか。5日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「子供の感染高止まり コロナ10代以下36%~新学期、接種に遅れ」という記事は強引さが目立った。まず引っかかったのがグラフの作り方だ。

有明海

子どもの感染者は増加傾向にある」(見出しの「高止まり」と整合しないが、ここでは論じない)という説明文を付けて「全国の1週間ことの新規感染者数」と「10代以下の割合」を見せている。「子供の感染高止まり」と訴えたいのならば「10代以下」の「新規感染者数」の推移を見せれば済む。なぜそこから逃げたのか。

10代以下」の「新規感染者数」も2月のピークに比べれば減っているからだろう。だとすれば「子供の感染が減らないということを無理してでも訴えたい」との意図を感じずにはいられない。

記事の中身も見ていきたい。


【日経の記事】

新型コロナウイルスの新規感染者数の減り方が鈍る中、子どもの陽性者数が高止まりしている。足元では10代以下が感染者全体の3分の1超を占めており、新学期が始まれば学校や家庭で感染が拡大する恐れがある。5~11歳のワクチン接種が進んでいないこともあり、専門家は対策の強化が必要だと指摘する。

厚生労働省によると、3月23~29日に感染が判明した約28万3千人のうち、10歳未満は5万1740人で前週から5800人以上増えた。全体に占める割合は年代別で最多の18%で、10代と合わせると36%に上る。


◎なぜ子供全体の増減は見せない?

10歳未満は5万1740人で前週から5800人以上増えた」とは書いているが「10代」の増減には触れていない。合計するだけでいいのに、なぜ避けるのか。「子どもの陽性者数が高止まりしている」と訴えたいのではないのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

10代以下の割合は、2021年春の第4波では12~14%、同年夏から秋の第5波では17~24%だった。変異型「オミクロン型」が猛威を振るう第6波では子どもの感染者の急増ぶりが際立つ。

要因の一つはワクチン接種の伸び悩みだ。全国で741万人程度いる5~11歳の接種対象者のうち、3月末時点で1回目接種を終えたのは6%の46万人超にとどまる。


◎理屈が成り立つ?

第4波」や「第5波」に比べて「第6波では子どもの感染者の急増」が見られたのは確かだろう。しかし「要因の一つはワクチン接種の伸び悩み」と見るのはいくら何でも無理がある。

第4波」や「第5波」では「5~11歳」の接種率は0%だ。それが「3月末時点で1回目接種を終えたのは6%」となっている。低水準とはいえ増えている。「ワクチン」に感染予防効果があるのならば「感染者」は「第4波」や「第5波」より少なくなっていい。

それ以外の要因もあるので、因果関係を断定はできないが「ワクチン接種の伸び悩み」が「子どもの感染者の急増」を招いたと見るべき理由はない。「ワクチン」が「子どもの感染者の急増」を招いていると見るストーリーの方がまだ自然だ。

そんなことはお構いなしに話は「子どもへの接種を進めよう」という流れになっていく。


【日経の記事】

厚労省は11歳までが接種できる米ファイザー製ワクチン約290万回分を3月までに配送し、4月中旬までに450万回分を追加供給する予定だが、首都圏の自治体担当者は「配分数の調整などに時間がかかり、計画通りに供給されていない市町村もある」と明かす。

日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は5~11歳への接種について「12歳以上の子ども同様に意義がある」としているが、副作用への不安などから接種をためらう保護者も少なくない。

新学期に入ると学校生活を通じて感染が広がる恐れがあり、自治体は対策を急ぐ。東京都は3月下旬から子ども向け「ワクチンバス」の運行を始めた。接種対象者がいる地域に派遣して接種を行っている。

文部科学省は4日、全国の小中高校で新学期が本格的に始まる6日を前に、希望する児童生徒らが接種できる体制の整備などを自治体に求める通知を出した。

国際医療福祉大の松本哲哉教授(感染症学)は「新学期に向けて幼稚園や保育園、学校は感染拡大への警戒を一段引き上げる必要がある。4月は歓迎会など大人数での飲食を伴う行事も増えるが、親世代はコロナを家庭に持ち込まないよう注意してほしい」と指摘している


◎子ども本位で考えよう!

ここでは「国際医療福祉大の松本哲哉教授」のコメントに注目したい。記者は「子供へのワクチン接種を急ぐべき」といった発言を求めて取材した可能性が高い。しかしワクチン推しのイメージがある「松本哲哉教授」でさえ子供へのワクチン接種を推奨するコメントはしなかったのだろう。

当然ではある。元々、子供は重症化リスクがゼロに近い。そしてオミクロン株では全世代で重症化率が低下している。新型コロナウイルスワクチンは副反応がかなりあるので、重症化率の低い若い世代が打つメリットはほとんどない。それを一般の人々も認識してきている。

なのに日経はいまだにワクチン推しを続けている。大人はいい。健康を害しても自己責任で片付けられる。子供はそうはいかない。12歳未満はなおさらだ。

子供へのワクチン接種反対派に回れとは言わない。ワクチン推しだけでもやめてみてはどうか。それが子ども全体のためにもなるのは、ほぼ確実だ。日経も子ども本位で考えよう!


※今回取り上げた記事「子供の感染高止まり コロナ10代以下36%~新学期、接種に遅れ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220405&ng=DGKKZO59705260V00C22A4EA1000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2022年4月4日月曜日

大林尚編集委員の「人口戦略」が見えない日経「核心~今年は島根県を失うのか」

人々の自由な選択の結果としての「人口減少」は放置でいい。個人的にはそう考えているが、日本経済新聞の大林尚編集委員は逆の立場のようだ。4日の朝刊オピニオン1面に載った「核心~今年は島根県を失うのか」という記事を見ながら、大林編集委員の主張にツッコミを入れていきたい。

クレーン車置き場

【日経の記事】

人口減少は成長を阻み、税収を衰えさせる。ぴかぴかの道路を維持しても走る車の数は先細りだ。過疎地では、すでにそれが現実になった。

2021年の人口動態統計速報によると、外国人を含む出生数は戦後最少の約84万2900人だった。死亡数は最多の145万2300人。1年間の減少数はおよそ61万人だ。これは、鳥取県の人口55万人をゆうに上回る。たとえれば今年は島根県(67万人)や高知県(69万人)が消失してしまうかもしれない。

日本中がコロナ禍という眼前の有事に目を奪われている間に、人口減少は勢いを増した。コロナが出生減に輪をかけた面もある。この静かなる有事への覚悟と備えを新たにするときだ。

国を挙げて出生数を反転増加に導く長期計画を定め、粘り強く対策を繰り出す必要がある。もとより出産適齢の女性が急減しており、道は平たんではない。だが出生動向基本調査(15年)は、夫婦の平均的な理想子供数と予定子供数がともに2人を上回っていることを示している。対策が的を射れば反転の可能性は残されているとみてよかろう。


◎成長が目的で人口増加が手段?

人口減少は成長を阻み、税収を衰えさせる」「国を挙げて出生数を反転増加に導く長期計画を定め、粘り強く対策を繰り出す必要がある」と大林編集委員は訴える。「人口減少」を危機と捉える人にありがちな考え方だ。

経済は「成長」しなければならないし「税収」が減るのも困る。なので「人口減少」を食い止めようという発想だ。ここに同意できない。「人口減少」が当たり前の社会で「成長」はそれほど重要ではない。「税収」が減っても問題ない。

単純化するためにコメだけを生産している社会を考えよう。今は人口に合わせて1億人分のコメを作っている。人口が5000万人に減った時もコメの生産量は維持すべきなのか。1人当たりの消費量を2倍にする意味があるのか。コメの生産量も基本的に半分でいい。結果としてGDPも半分になる。だが大きな問題はない。

上記のくだりの前の部分で「ない袖を振り続ければ、いずれ財政破綻の憂き目に遭う」と大林編集委員は心配していた。円という不換通貨を採用しているのだから、自治体は別として政府が「財政破綻の憂き目に遭う」心配は要らない。労働力などの制約はあるので、いくらでも「ぴかぴかの道路を維持」できる訳ではない。ただ、人口が減るのだから「維持」する「道路」は減らしていい。

今回の記事では「今年は島根県を失うのか」という見出しを付けている。「そう考えると人口減少は大変な問題でしょ」と大林編集委員は言いたいのだろう。そこも同意しない。

日本の適正人口を1000万人程度と見ている。実現した時には関東と関西を除くとほとんど人が住んでいないといった状況になるだろう。それでいい。そうなれば「ぴかぴかの道路を維持」するのは主要幹線道路だけで良くなる。環境への負荷が減るなどのプラス面も多い。

では、「人口減少」を食い止めるべきと訴える大林編集委員に具体策はあるのだろうか。そこも見ていこう。


【日経の記事】

20年国勢調査では、50歳までに一度も結婚しない人の割合は男性26%、女性16%。上昇基調はともに不変だ。こうしてみると、結婚しやすい環境の再構築とともに、法律婚に至らない男女も気兼ねせず子供を産める新たな規範の醸成が大切になってこよう。

婚外子比率が高いスウェーデン、フランス、英国の3カ国は子育て環境がそれぞれに整っており、出生率が日本より高い。子供は法律婚の夫婦がもつものだという意識を薄め、新たな規範を醸成するには、将来をじっくり構想する長期思考が不可欠だ。

すぐに成果を出すよう求められることが多い現代にあって私たちは短期思考に陥りがちだ。だが人口戦略は50年、100年の計である。

英国の総人口は日本の半分程度だが、出生督励と移民政策の奏功で今世紀後半に8千万人を超え、日本を逆転する可能性が濃厚だ。そのとき日本の道路はぼろぼろかもしれない。英国に限らず多くの国が長期思考の人口戦略を有する。静かなる有事にどう立ち向かうのか。与野党の指導者には、ぜひ考えてほしい。


◎具体策はなし?

結婚しやすい環境の再構築とともに、法律婚に至らない男女も気兼ねせず子供を産める新たな規範の醸成が大切になってこよう」と書いているだけで具体策はない。だったら「人口減少」を避けられないものと認めて対策を考えた方が良いのではないか。

婚外子比率が高いスウェーデン、フランス、英国の3カ国は子育て環境がそれぞれに整っており、出生率が日本より高い」という説明にも注文を付けておきたい。

記事を読むと「婚外子比率」を上げれば「出生率」を高められると感じてしまう。しかし、そうはならないだろう。まず相関関係があるのか疑問だ。

なぜ「スウェーデン、フランス、英国」を取り出したのか。世界全体で見て「婚外子比率」と「出生率」に正の相関関係があるのならば、そのデータを示せば済む。しかし3カ国だけを取り上げている。どうも怪しい。

ノルウェーも「婚外子比率」は高いようだが、大林編集委員は言及していない。「出生率」が低いからだろう。「子育て環境」で「スウェーデン」と大差があるとも思えない。OECD加盟国に限っても、「婚外子比率」が低いのに「出生率」は高いイスラエルやトルコのような国がある。

婚外子比率」の向上によって「出生率」を本当に回復させられるだろうか。そこも大林編集委員には「ぜひ考えてほしい」。「与野党の指導者」に「人口戦略」を求める前に大林編集委員自身がやるべきことがあるはずだ。


※今回取り上げた記事「核心~今年は島根県を失うのか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220404&ng=DGKKZO59627880R00C22A4TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_21.html

「財政破綻はある日突然」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」に見える根拠なき信仰https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_28.html


日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

2022年4月3日日曜日

金融引き締めに転じていないのは「世界で日銀だけ」と断言する小幡績慶大准教授の誤解

世界の中央銀行」は日銀を除いて「金融引き締め」に「舵を切っ」ていると慶応大学の小幡績准教授は信じているようだ。学生にも、そう教えているのだろうか。違うと思えたので以下の内容で問い合わせを送っている。

長洲港

【東洋経済への問い合わせ】

慶應義塾大学大学院准教授 小幡績様  東洋経済オンライン 担当者様

3月31日付で東洋経済オンラインに小幡様が書いた「日銀は庶民が苦しむ円安政策をすぐ変更すべきだ~今や円安は日本経済にとって明らかにマイナス」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「とにもかくにもインフレを抑えることが先決で、世界の中央銀行は金融引き締めに一気に舵を切ったのである。この流れに完全に乗り遅れているのは、世界で日本銀行だけだ」との記述です。

小幡様の説明を信じれば「世界の中央銀行」は日銀を除いて「金融引き締め」に「舵を切っ」ているはずです。本当にそうでしょうか。ここでは中国とトルコを取り上げます。

中国は今年1月に利下げした後、2月と3月は据え置きです。高インフレが続くトルコは昨年12月に利下げした後も「金融引き締め」に転じていません。「金融引き締め」の「流れ」に中国やトルコの「中央銀行」も「完全に乗り遅れている」のではありませんか。

世界の中央銀行は金融引き締めに一気に舵を切ったのである。この流れに完全に乗り遅れているのは、世界で日本銀行だけだ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

東洋経済新報社では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


問い合わせの内容は以上。


今回の記事では以下の説明も引っかかった。

【東洋経済オンラインの記事】

通常、金融政策における引き締め、利上げ政策は、景気を冷やすために行う。景気が過熱しているかどうかのバロメーターがインフレ率である。これが上昇してくれば、景気を冷やすため、需要を抑制するために、利上げを行う。

しかし、インフレはバロメーターであるだけでなく、物価が上昇すること、そのものが経済にマイナスであるため、インフレ自体が経済にとって悪なのだ。

消費者、とりわけ、低所得者層は、インフレに耐えられない。生きていけないのである。だから、政治的にも、インフレを抑えることが重要であり、アメリカと欧州でインフレを抑えることは最優先課題なのである。

インフレになる、ということは、モノの値段が上がる、ということである。ということは、一定の所得があっても、インフレが進めば可処分所得は落ちることになる。そして、これは消費者だけでなく、企業にとっても同じことであり、原材料コストの上昇により、収益が悪化することになる。


◎「インフレ自体が経済にとって悪」?

物価が上昇すること、そのものが経済にマイナスであるため、インフレ自体が経済にとって悪なのだ」と小幡氏は言う。消費者物価指数が前年比でプラスならば「インフレ」、マイナスならばデフレとの前提で考えてみよう(簡略化のため0%にはならないとする)。

この場合「経済にとって悪」とならないのはデフレの時だけとなる。あり得ないとは言わないが、ちょっと考えにくい。そもそも物価上昇率がプラス1%とマイナス1%はそんなに違うものなのか。

個人的には、物価は安定していれば多少のプラスでもマイナスでも問題ないと見ている。小幡氏は問題を単純に考えすぎているのではないか。

低所得者層は、インフレに耐えられない。生きていけない」「一定の所得があっても、インフレが進めば可処分所得は落ちる」と小幡氏は言う。「インフレ」が進んでも「所得」は変わらない前提のようだが、そうなるとは限らない。ある程度は連動して上がっていくと見るのが自然だ。

企業にとっても同じこと」だ。「原材料コストの上昇により、収益が悪化する」とは限らない。それ以上に販売価格に転嫁できる可能性もある。物事は総合的に判断すべきだ。小幡氏にそれができているとは思えない。


※今回取り上げた記事「日銀は庶民が苦しむ円安政策をすぐ変更すべきだ~今や円安は日本経済にとって明らかにマイナス

https://toyokeizai.net/articles/-/577543


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済オンラインで「MMTは大間違い」と断言した小幡績 慶大准教授の大間違いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/mmt.html

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_14.html

MMTは「財政支出の中身を気にしない」? 小幡績 慶大准教授が東洋経済オンラインで見せた誤解

https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/12/mmt.html

「インフレ抑制が重要」なのに「物価なんてどうでもいい」と言い切る小幡績 慶大准教授の矛盾

https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_20.html

2022年4月2日土曜日

やはり具体論から逃げた日経社説「資源高と円安の影響に十分な目配りを」

やはり逃げの社説で済ませてしまった。

2日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「資源高と円安の影響に十分な目配りを」という社説は残念な内容だった。急速な円安を受けて「日銀は円安誘導策をやめよ」と日経には訴えてほしかった。「自分たちはそう考えない」というのなら、それはそれでいい。「円安は悪くない」「日銀はひるまず円安誘導を」と訴えるのもありだ。しかし、今回の社説はどちらでもない。全文を見た上で、さらに考えたい。

【日経の社説】

三池港灯台
日銀が1日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は7四半期ぶりに悪化した。新型コロナウイルスの感染再拡大に伴う悪影響が広がるなか、ロシアのウクライナ侵攻で資源価格の上昇に拍車がかかり企業心理を冷え込ませた。

足元では円安も資源高を加速させている。景気の着実な回復に向けて、政府・日銀には十分な目配りを求めたい

大企業製造業のDIはプラス14と2021年12月の前回調査から3ポイント悪化した。原材料高が響いた紙・パルプや窯業・土石製品、食料品で景況感の悪化が目立つ。

新型コロナの変異型「オミクロン型」の感染や半導体の不足で生産が滞った自動車、電気機械の景況感も悪化した。

大企業非製造業の業況判断DIもプラス9と1ポイント低下した。年初からの感染第6波に伴う行動制限で対個人サービスや宿泊・飲食サービスで業況が悪化した。

心配なのは3カ月後の見通しを示す先行き判断DIで、大企業製造業・非製造業とも景況感の一段の悪化が見込まれる点だ。東京や大阪など18都道府県に発動された「まん延防止等重点措置」は3月22日に解除されたが、感染は再び上向きつつある。ウクライナ情勢の行方も不透明で、資源価格の一段高を懸念する企業も多い。

販売価格と仕入れ価格の判断DIからは、原材料費の上昇を価格転嫁しきれず採算悪化に見舞われている企業の姿が浮かび上がる。これに追い打ちをかけるのが足元で急速に進んだ円安だ。

企業が想定する22年度の想定為替レートは、1ドル=111円93銭だ。だが米連邦準備理事会(FRB)などがインフレに対応して利上げを急ぐなか日銀は低金利を保つ姿勢で、金利差が広がるとの見方から円相場は6年半ぶりに一時125円台まで下落した。

黒田東彦総裁は、円安は総じて日本経済にプラスと言うが、内需型産業への逆風は強まる。金融政策面での対応は難しいが、企業の資金繰りなどを注視し、必要と判断すれば手を打つべきだ

岸田文雄首相は中小企業や困窮者への支援を含む物価高対策のとりまとめを指示した。的を絞った効果的な支援を求めたい。国の長期債務残高は約1000兆円だ。ばらまきによる財政悪化の懸念で円安が加速しては元も子もない。


◎結局、お任せ?

足元では円安も資源高を加速させている。景気の着実な回復に向けて、政府・日銀には十分な目配りを求めたい」と言うものの「円安」と「資源高」にどう対応すべきなのか具体論は見当たらない。

日銀は低金利を保つ姿勢で、金利差が広がるとの見方から円相場は6年半ぶりに一時125円台まで下落した」とも書いているが、強引に長期金利を押さえ付ける今のやり方が適切なのかの判断も日経は示さない。「金融政策面での対応は難しいが、企業の資金繰りなどを注視し、必要と判断すれば手を打つべきだ」で済ませている。

金融政策面での対応は難しい」から日経として判断を示すことから逃げたのか。「必要と判断すれば手を打つべき」なのは当たり前だ。どういう状況になったら、どういう手を打つべきなのか。それを示せないで何のための経済紙なのか。何のための社説なのか。何のための論説委員なのか。その存在意義を問い直してほしい。

政府・日銀」は「十分な目配り」をして「必要と判断すれば手を打つべき」といったレベルのお願いならば誰でもできる。この程度のお願いが自分たちのできる限界と言うのならば社説は廃止でいい。


※今回取り上げた社説「資源高と円安の影響に十分な目配りを」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220402&ng=DGKKZO59653580S2A400C2EA1000


※社説の評価はE(大いに問題あり)

2022年4月1日金曜日

日銀と「市場との闘い」を正しく理解してる? 日経 学頭貴子記者「ポジション」

 1日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「ポジション 市場との闘い 日銀に試練の4月~新発10年債入札・消費者物価…金利上昇要因が続々」という記事を書いた学頭貴子記者は「市場との闘い」を正しく理解していない気がする。

島原半島

そう感じたくだりを見ていこう。

【日経の記事】

日銀幹部は「長期金利が0.25%を超えても、日銀が全て買うのでコントロールできる」と胸を張るが、市場の見方は異なる。オーストラリアの中央銀行は21年11月、3年債の利回り目標を撤廃。インフレ率の上昇と景気回復を背景に3年債利回りは大きく上昇しており、中銀が抑えられなかったとの見方が広がった。

現実の金利上昇や円安圧力の強まりから「YCCの対象を10年債から短期化するなどの政策調整は十分想定できる」(バークレイズ証券の山川哲史調査部長)との思惑は市場で根強い。日銀が市場に事実上の「白旗」をあげる日はそう遠くないかもしれない。


◎日銀は常に勝てるが…

長期金利が0.25%を超えても、日銀が全て買うのでコントロールできる」という「日銀幹部」は正しい。「市場の見方は異なる」としたら「市場の見方」が間違っている。少し考えれば分かるはずだ。日銀は無から限界なく日本円を創出できる。金(ゴールド)などでの裏付けも必要ない。市場に出回る全ての国債を購入する能力を日銀は有している。「長期金利」を「コントロール」できなくなると考える道理はない。

そこと「YCCの対象を10年債から短期化するなどの政策調整」を学頭記者は混同して考えているのではないか。「市場」環境の変化に応じて日銀が「政策調整」に動く可能性は十分にある。円安や物価高の進行で政府からの「政策調整」が高まる場面も想定できる。「政策調整」が実現した場合に「日銀が市場に事実上の『白旗』をあげ」たと見ても良い。

しかし日銀による「長期金利」の「コントロール」が能力的な限界を迎えた訳ではない。「コントロール」は常に容易にできる。ただ「市場」環境の変化などが「長期金利」の「コントロール」を好ましくないものにしただけだ。そこを分けて考えてほしい。今回の記事では、それができていない。


※今回取り上げた記事「ポジション 市場との闘い 日銀に試練の4月~新発10年債入札・消費者物価…金利上昇要因が続々

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220401&ng=DGKKZO59595390R30C22A3EN8000


※記事の評価はD(問題あり)。学頭貴子記者への評価はDで確定とする。