2023年1月20日金曜日

岩田屋の宣伝係のつもり? 「高級ラウンジ活況」が苦しい日経 関口桜至朗記者の記事

日本経済新聞の関口桜至朗記者は岩田屋の宣伝係でもやっているつもりなのか。20日の朝刊 九州経済面に載った「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」という記事は目を覆いたくなる出来の悪さだった。冒頭で「百貨店の岩田屋三越(福岡市)が岩田屋本店(同市)に設けた高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と打ち出しているが、この話自体が苦しい。記事の一部を見ていこう。

宮島

【日経の記事】

岩田屋本店にある富裕層向けの「ラウンジS」は、2021年3月にオープンした。(中略)ラウンジの利用には事前予約が必要で、受け入れるのは1日1組のみだ。毎月10組程度が利用し、これまでに延べ約180組が訪れた。

岩田屋三越によると、客層は20~30代の若年層が1割程度を占める。ラウンジ担当者は「百貨店を利用する富裕層は高齢の方が多いイメージだが、岩田屋本店新館は若者に人気のブランドも多く入っていることから、客層は比較的若い」と話す。


◎わずか20組程度?

電子版では違う見出しが付いているが、紙の新聞では「高級ラウンジ活況」となっている。しかし「受け入れるのは1日1組のみ」で「毎月10組程度が利用し」ている程度らしい。「1日1組」しか「受け入れ」ないのに稼働率は3割ぐらいで高くない。「高級ラウンジ」での売り上げがどの程度あるのかは不明。全体として「活況」を呈していると判断できる材料はない。

では「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」とは言えるだろうか。「約180組が訪れ」て「若年層が1割程度」だとすれば開設から2年近くが経過して利用は20組前後。これで「高級ラウンジに、20~30代の富裕層が集まっている」と見なすのは無理がある。

なのに「具体的な購入品目は秘密だが、若年富裕層の客が1000万円を超える商品をまとめて購入したこともあったという。投資などで成功した若年層が、豊富な資金力で高額消費を楽しむ構図が浮かび上がる」などと書いてしまう。嘘ではないとしても強引に盛り上げている印象は否めない。

取材してみて「岩田屋の高級ラウンジにどんどん20~30代の富裕層が集まってきているのか。これは面白い話だ」と関口記者が本気で思えたのならば経済記者には向いていない。ネタに困って強引に九州経済面のトップ記事を書き上げたのかもしれないが、だとしても「こんな岩田屋の宣伝係を買って出たような苦しい記事を世に送り出して恥ずかしい」という気持ちは持ってほしい。


※今回取り上げた記事「高級ラウンジ活況 岩田屋三越、1000万円購入客も~モノ・サービス提案 若年層取り込む」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC065HV0W2A201C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。関口桜至朗記者への評価もDとする。

2023年1月19日木曜日

「証券、手数料より資産残高」が怪しい日経 五艘志織記者の記事

19日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に五艘志織記者が書いた「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

錦帯橋

【日経の記事】

証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている。SMBC日興証券は売買手数料などの収益の総額から、投資信託など預かり資産の伸びを重視する体系に改めた。大和証券グループ本社や三菱UFJモルガン・スタンレー証券なども短期利益より顧客の資産形成を優先する営業にかじを切っている。株安で収益環境が厳しさを増すなか、営業改革の持続性が問われている。

SMBC日興では22年度から総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している。「残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」。SMBC日興の担当者は狙いをこう語る。


◎話が古い

囲み記事だとしても話が古い。「証券会社が個人向け営業員の評価体系を変えている」と打ち出してはみたものの最初の事例となる「SMBC日興証券」が「評価体系を変え」たのは「22年度から」。「22年度」も終わろうとしているこのタイミングでなぜ記事にしたのか。この後に出てくる「野村証券」もやはり「22年4月」に仕組みを変えている。例えば「評価体系を変え」たことが、ようやく利益につながり始めたといった話なら分かる。その辺りの工夫が欲しい。

さらに言えば「SMBC日興証券」の場合「手数料より資産残高」なのか微妙。「総収益の仕組みをなくし、投資信託やファンドラップの手数料収入や残高の純増、運用以外の事業承継などにわけて支店を評価している」らしいが「個人向け営業員の評価体系を変えている」かどうかは触れていない。「支店を評価」する方法に関しても「投資信託やファンドラップの手数料収入」が評価項目に入っている。「預かり資産の伸びを重視する体系」がどの程度の「重視」なのか具体的な数値も見当たらない。

残高重視の営業に移行する中で、高い手数料の金融商品を売る動機が働きにくくなるようにした」という「担当者」のコメントも「まだ残高重視の営業に移行する途上」と読み取れなくもない。結局「手数料より資産残高」の中身がぼんやりとしか見えてこない。これが辛い。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

従来は特定の大口顧客からのまとまった注文で成績を上げられた。新しい体系では商品販売額を評価するポイント制を導入し、顧客1人あたりのポイントに上限を設けた。営業員は多くの顧客と取引し、それぞれのニーズに合った提案をすることが求められるようになった。


◎で「残高重視」は?

やはり「手数料より資産残高」という話になっていない。「顧客1人あたりのポイントに上限を設けた」というだけだ。「営業員」の評価に関しては、今も「資産残高より手数料」重視なのではと思える。

さらに見ていく。


【日経の記事】

野村証券は顧客の預かり資産残高に応じ、手数料を受け取る「レベルフィー」を22年4月に全店で始めた。株式と債券、投資信託が対象。運用商品を売り買いするたびに手数料を徴収するのではなく、時価の評価額に手数料が連動するしくみだ。顧客の預かり資産が増えれば証券会社の実入りも伸び、両者の利害が重なりやすくなる。一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ、22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した


◎これも苦しいような…

野村証券」の事例も「手数料より資産残高」で「営業員」を評価している話にはなっていない。「時価の評価額に手数料が連動するしくみ」を導入して「一定の資産を持つ投資家は従来型とレベルフィーの双方から選ぶことができ」るようにしただけだ。「営業員」の評価が「手数料」で決まっている可能性は残る。仮に「資産残高」で評価が決まる仕組みになっているのなら、そこは明示すべきだ。

付け加えると「22年9月末時点の対象資産は2500億円に達した」とだけ書くのは感心しない。この場合は「従来型」との比較が欲しい。

紙面を埋めるために強引に企画を捻り出したのか。記者・デスクの力量不足なのか。いずれにしても、この記事に高い評価は与えられない。


※今回取り上げた記事「証券、手数料より資産残高 個人向け営業の評価転換~相場低迷、問われる持続性

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230119&ng=DGKKZO67695090Y3A110C2EE9000


記事の評価はD(問題あり)。五艘志織記者への評価もDとする。

2023年1月12日木曜日

「西欧諸国」では「生涯無子」の増勢収まった? 日経 福山絵里子記者に問う

12日の日本経済新聞朝刊1面に福山絵里子記者が書いた「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加」という記事は、目の付け所こそ悪くないが高い評価はできない。データの解釈が恣意的だからだ。「生涯無子」について福山記者は以下のように書いている。

宮島

【日経の記事】

人口学では、女性で50歳時点で子どもがいない場合を「生涯無子」(チャイルドレス)と見る。OECDによると、70年生まれの女性の場合、日本は27%。比較可能なデータがある17カ国のうちで最も高い。次いで高いのはフィンランド(20.7%)で、オーストリア、スペインと続く。ドイツはOECDのデータにないが、ドイツ政府の統計によると21%(69年生まれ)だった。

24カ国で比較できる65年生まれでも日本(22.1%)が最も高く、英国、米国など主要国を上回る。両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている


◎「西欧諸国」とはどの国のこと?

両立支援などの政策が進んだ西欧諸国では子を持たない人の増加の勢いが収まっており、日本は後れをとっている」と福山記者は言うが、それを裏付ける具体的なデータは見当たらない。記事に付けたグラフでは増加組が日本、フィンランド、英国、ドイツ、スペインで「増加の勢いが収まって」いるのが米国とスウェーデン。この両国は「西欧諸国」ではない(スウェーデンを北欧ではなく「西欧」と見なしても1カ国では「諸国」にならない)。そして「西欧」に当たるドイツ、スペインでは増加傾向。話が違う。

そして「生涯無子」を減らす策に関しても福山記者はおかしな主張を展開する。


【日経の記事】

近年大きく増えたのは(1)の結婚困難型だ。25歳から49歳までのどの年代(5歳刻み)を見ても最多だった。十分な経済力がある適切な相手を見つけることができないことも一因とみられる。次に多かったのは(2)の無子志向で、若い世代で増えた。女性全体の中で5%程度が無子志向と推察した。

未婚女性では低収入や交際相手がいないと子を望まない確率が高かった。守泉氏は「積極的選択というより、諦めている女性が多いと示唆される」と話す。

岸田政権は子育て世帯への経済的支援を充実する見通しだ。非正規社員への社会保障の拡充や男女ともに育児との両立が可能な働き方へ向けた改革も必要となる。子育てのハードルを下げるため教育費の軽減も急務だ。

日本では86年に男女雇用機会均等法が施行された。無子率が高い65年~70年生まれは均等法第一世代だ。働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ


◎「両立支援」に効果ある?

働く女性が増えたものの両立支援は進まず、退職して出産か子どもを持たずに働くかの選択を迫られる傾向が続き、少子化が進んだ」と福山記者は言う。「両立支援」が十分ならば「少子化が進んだ」りしないと思い込んでいるようだ。となるとフィンランドで「生涯無子」の比率が高く、しかも増加傾向にあるのをどう説明するのか。日経は2021年の記事で「教育や福祉が充実、育児休業を取得する男性が8割以上いるなど、共働き子育ての先進国」と同国を紹介している。なのに出生率は日本とほぼ同水準。「共働き子育ての先進国」になっても少子化克服は難しいことをフィンランドは教えてくれる。むしろ「共働き子育ての先進国」だからこそ少子化を克服できないと見る方が自然だ。

個人的には少子化は放置で良いと思うが、どうしても克服したいならば学ぶべきは「西欧諸国」でも北欧でもない。人口置換水準を大きく上回る国々だ。世界には、そうした国がたくさんある。そこから目を背けたままでは、この問題で説得力のある答えは出せない。



※今回取り上げた記事「生涯子供なし、日本突出~50歳女性の27% 『結婚困難』が増加

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230112&ng=DGKKZO67498650R10C23A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価もDとする。福山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


読者に誤解与える日経 福山絵里子記者「子育て世代『時間貧困』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/08/blog-post_21.html

2023年1月6日金曜日

「東南ア『観光公害』回避広がる」が成立していない日経の記事

何を訴えたいのかよく分からない記事が6日の日本経済新聞朝刊 国際・アジアBiz面に載っていた。 「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止」という見出しからして分かりにくい。「入園料大幅引き上げ」なら見出しの組み合わせとして違和感はない。だが「入園料上げ中止」だ。

宮島連絡船

記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

東南アジア諸国で観光客を制限することで「オーバーツーリズム(観光公害)」を回避する動きが広がる。新型コロナウイルス禍から観光需要が回復しつつあるなか、環境に配慮した持続可能な観光産業の育成を目指す。だが、収入減を不安視する地元住民の反対も根強く、各国政府は難しいかじ取りを迫られている。

インドネシア政府は、世界最大のトカゲ「コモドドラゴン(コモドオオトカゲ)」の生息地として人気のあるコモド島への入園料の大幅値上げを予定していた。だが、値上げを翌月に控えた2022年12月、値上げの中止を発表した

平日の入園料は外国人の場合は15万ルピア(約1300円)だが、同政府の計画ではこれを375万ルピアに引き上げるはずだった。

観光客数を減らして自然環境を保全する狙いだったが、収入減を懸念する観光業界や地元自治体の関係者からは反対の声が上がっていた。


◎話が違うような…

冒頭で「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」と打ち出しているが、事例として最初に出てくるのは「コモド島への入園料の大幅値上げ」が中止になった話。これをメインに据えるなら「『オーバーツーリズム』を回避する動きに歯止めがかかってきた」とでも書くべきだ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

オーバーツーリズム対策には値上げのほか、訪問者数の制限、自然環境の回復のための一時的な閉鎖などがある。

タイ政府は22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放した。マヤ湾はレオナルド・ディカプリオさん主演の映画「ザ・ビーチ」のロケ地となったことで、観光客が急増して生態系が損なわれてしまった。そのため同国政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った経緯がある。

訪問者数は現在、1日4000人と18年時点の繁忙日(5000人)を下回る水準に制限され、遊泳も禁止された。天然資源・環境省の担当者は、閉鎖期間中にサンゴの状態が回復しサメの群れも戻ってきたと話す。


◎これも苦しい…

これも「『観光公害』回避広がる」の事例としては苦しい。「政府が18年、環境保全を理由にマヤ湾の閉鎖に踏み切った」のを受けて「『観光公害』回避広がる」と書くのなら分かるが「22年、南部のビーチリゾート、ピピ島のマヤ湾を約40カ月ぶりに観光客に開放」している。つまり規制緩和だ。「『観光公害』回避」の観点から見れば後退とも言える。

3番目の事例はさらに辛い。


【日経の記事】

持続可能な観光産業の育成は、短期的な収益機会よりも長期的な視点を重視できるかがカギになる。

解決策のひとつとなりそうなのが、アジア開発銀行(ADB)が支援してベトナム中部のフォンニャケバン国立公園の近くで立ち上げたファームステイのプロジェクトだ。地元住民が事業の9割を担い、収益を得る。宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する「コンポスト」を行い、徹底したリサイクルを実践している


◎関係ある?

宿泊施設では生ごみなどを発酵・分解させて堆肥化する『コンポスト』を行い、徹底したリサイクルを実践している」と言うが、これが「観光公害」とどう関連するのか分かりにくい。常識的に考えれば「宿泊施設」から出る「生ごみ」が「観光公害」の元になっている訳ではないだろう。

宿泊施設」で出る「生ごみ」をいくら「リサイクル」したところで「フォンニャケバン国立公園」を訪れる観光客が公園内などにゴミを落としていく問題は解決しないはず。事例が足りないので、あまり関係ない話を強引にねじ込んだのだろうか。

最後まで読んでも「東南アジア諸国で観光客を制限することで『オーバーツーリズム(観光公害)』を回避する動きが広がる」とは感じられなかった。むしろ、そうした「動き」にブレーキがかかっているのでは?


※今回取り上げた記事「東南ア『観光公害』回避広がる~インドネシア、島の入園料上げ中止

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230106&ng=DGKKZO67358230V00C23A1FFJ000


※記事の評価はD(問題あり)。ジャカルタ支局の柴田奈々記者とバンコク支局の井上航介記者への評価もDとする。