伐株山園地(大分県玖珠町) ※写真と本文は無関係です |
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【日経の記事】
経済産業省の西山圭太商務情報政策局長は今年の夏に「大企業の本社をみているだけでは経済の現状をつかめるはずがない。現場に行け」と部下に指示した。訪ね歩く相手は人工知能(AI)の専門家、漫画家や映画監督らだ。かつて「鉄のトライアングル」と呼ばれた政官財の共同体のメンバーではない。
経産次官の嶋田隆氏は「経産官僚の外部出向や、民間でもまれた人材こそ幹部に登用すべきだ」と話す。嶋田氏も西山氏も東京電力ホールディングスに出向した。最近ではスマートフォン決済事業を準備するメルカリの金融子会社「メルペイ」に若手の女性経産官僚が出向している。
◎「大企業の本社」は「現場」じゃない?
まず「大企業の本社をみているだけでは経済の現状をつかめるはずがない。現場に行け」という「経済産業省の西山圭太商務情報政策局長」のコメントが引っかかる。「大企業の本社」も「現場」ではないのか。
「経産官僚の外部出向や、民間でもまれた人材こそ幹部に登用すべきだ」という「経産次官の嶋田隆氏」のコメントは、まず日本語として不自然だ。普通に読むと「幹部に登用すべき」なのは「経産官僚の外部出向」や「民間でもまれた人材」になる。しかし「外部出向を登用」では、おかしな言葉遣いになる。
「嶋田隆氏」の発言が記事の通りだとしても、「外部出向などを通じて民間でもまれた人材こそ幹部に登用すべきだ」などと多少は修正して使うべきだ。
さらに言うと「嶋田氏も西山氏も東京電力ホールディングスに出向した」と前向きに書いているが、東電こそ「『鉄のトライアングル』と呼ばれた政官財の共同体のメンバー」ではないのか。そこへの出向経験を「民間でもまれた人材」と捉えるのならば「鉄の三角形限界」はどうなるのか。
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【日経の記事】
経産省は平成に入って厳しい視線にさらされてきた。政府高官は「新しい政策が期待される『アイデア官庁』のはずなのに話がつまらない」と批判する。企業経営者からも「経産省は現実が分かっていない」との不満があった。一部の大企業と交流して政策をつくるようなやり方では打開できなくなっていた。
◎漠然と「限界」を語られても…
「鉄の三角形限界」という割には、それを裏付ける話は見当たらない。強いて言えば、上記のくだりかと思うが、「話がつまらない」「現実が分かっていない」などと具体性の欠ける説明しか出てこない。これでは「鉄の三角形限界」と言われても納得できない。
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【日経の記事】
重厚長大の歴史ある企業が集まる経団連さえ、政や官に変革を求める。
経団連は6月、日本商工会議所や経済同友会と共同で「デジタル・ガバメント」の実現を促す提言を出した。官が保有する膨大なデータを生かせず、日本企業が商機を逃している、と訴えた。11月には「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のプラットフォーマーだけが推進役ではない。ドイツや中国は国家プロジェクトで変化を促す」と記す文書もとりまとめた。
経団連が期待するのは1980年代までの役所主導の産業政策や、2000年代前半の自由競争重視ではない。GAFAのような巨大企業、中国の国家資本主義を相手の戦いで「もっと民間の声を取り入れて、政も官も一緒に戦ってほしい、という悲鳴だ」(経済官庁幹部)と語る。
◎「鉄の三角形」が必要?
上記の事例からは「経団連」が「政も官も一緒に戦ってほしい」と求めていることが分かる。だとすれば「鉄の三角形」の必要性を訴えているのではないか。「鉄の三角形限界」というより「鉄の三角形の強化を」となるはずだ。
都電荒川線 早稲田駅(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です |
ついでに言うと、ここでも文が不自然だ。「経団連が期待するのは、役所主導の産業政策や自由競争重視ではなく悲鳴だ」という作りになってしまっている。「経団連」は「悲鳴」を期待している訳ではないだろう。
記事の後半部分にも注文を付けておきたい。
【日経の記事】
小泉進次郎氏ら自民党の若手は17年に「現役世代にもメリットがある社会保障に変える必要がある」と唱えて提言を発表した。子育て世代を支援する公的保険を創設する一方、高齢者向けが中心の医療や介護の支出は抑制を求める内容だ。
高齢者が恩恵を受ける医療や介護、年金の保険料は現役世代が払っている。毎月の給与の15%にも達する世代間の所得移転だ。小泉氏は「保険料の0.1%分でも子ども・子育て政策に使えれば保険料の使われ方に目が向く。社会保障改革に関心が得られる」と語る。
小泉氏は10月に自民党厚労部会長に就き、党の社会保障政策に携わることになった。「国民全員が利害関係者だ。何をしても批判はある。それでも避けて通れない」と周囲に語る。これからは実際に世代間の利害を調整して政策を実現できるかが迫られる。
いまは選挙でも高齢者の票が力を持つ時代だ。社会保障は他の政策分野に比べると政官財の三角形も強固といわれる。政も官も抜本的な改革を避け続けた結果、平成の間に日本は先進国最悪の人口減少と財政悪化に陥ってしまった。
慶大教授の小林慶一郎氏は「選挙を意識すると視野が短期的になる。民主主義を少し補正する時期だ。内閣府や経済財政諮問会議は長期的問題への対処で機能していない」と話す。政も官も若者や民間の声をもっと聞き、生まれ変わらなければならない。
◎高齢者は払ってない?
「高齢者が恩恵を受ける医療や介護、年金の保険料は現役世代が払っている」という説明は、誤りではないとしても誤解を招く。「医療や介護、年金の保険料は現役世代」だけが「払っている」訳ではない。「医療や介護」については「高齢者」も「保険料」を「払っている」。
「政も官も抜本的な改革を避け続けた結果、平成の間に日本は先進国最悪の人口減少と財政悪化に陥ってしまった」との説明も強引だ。「財政悪化」はともかく「人口減少」は「抜本的な改革」によって防げたとは思えない。ここまで明確に因果関係を示すだけの根拠を筆者は持っているのか。
例えば「平成の間」に「年金支給額は半減、支給開始年齢も80歳に」という「抜本的な改革」を断行したとしよう。そうすると「これで安心して子供を作れる」と若者が感じるだろうか。「年金は当てにならない。老後の不安が大きすぎて、子供を作るのも躊躇してしまう」となる方が自然だ。
「政も官も若者や民間の声をもっと聞き、生まれ変わらなければならない」という結論も苦しい。「民間の声」には「経団連」の声も入るのだろう。だとすると「鉄の三角形限界」との整合性の問題が出てくる。
記事からは「若者」の「声」をしっかり聞くと「社会保障」の「抜本的な改革」が進むはずだとの前提も感じる。しかし「若者」が「社会保障」の「抜本的な改革」を望んでいると言える根拠は示していない。
「若者」とは将来の高齢者でもある。先に挙げたような「年金支給額は半減、支給開始年齢も80歳に」といった「抜本的な改革」を支持する人が多数を占めるか疑問だ。
※今回取り上げた記事「政と官 針路を探る」は最終回の「(下)鉄の三角形限界、若者・民に聞け」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181130&ng=DGKKZO38355140Z21C18A1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。連載の担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。
地曳航也:暫定D
飛田臨太郎:暫定D
学頭貴子:暫定D
竹内康雄:Dを維持
※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「官僚答弁 増やすべき」に説得力欠く日経「政と官 針路を探る(中)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_29.html
※竹内康雄記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「崩れ始めた中央集権」に無理がある日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_82.html
日経 竹内康雄記者はトランプ氏の主張を「ご都合主義」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_61.html