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【ダイヤモンドの記事】
市場が不透明だとして経済産業省が進めてきた、ガソリンや灯油といった石油製品の流通市場改革で、大きな動きがあった。
改革の最大の要は、石油元売り企業と中間業者である商社などが取引する際の卸価格に、市場原理を持ち込むことだった。
というのも、これまでは卸価格を決める際、正規流通ルート外の余剰製品を取引するスポット市場の価格、いわゆる「業転玉」の価格を指標にすることが業界の慣行だった。業転玉は実勢価格よりも安い価格で取引されることが多い。そのため、元売りは実勢価格と懸け離れた安い卸価格で取引せざるを得ない事態が常態化していた。
さらに、こうした流通構造が、業界特有の「事後調整」の温床となっていた。事後調整とは、元売りが中間業者と一度決めた卸価格を、後で調整する取引だ。先述した市場価格よりも安い業転玉の価格を盾に、中間業者が元売りと交渉し、卸価格を安くさせるのだ。
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◎「市場原理」が働いていない?
「経済産業省が進めてきた、ガソリンや灯油といった石油製品の流通市場改革」に関して、「最大の要は、石油元売り企業と中間業者である商社などが取引する際の卸価格に、市場原理を持ち込むこと」と片田江記者は書いている。現状では「市場原理」に基づく価格形成になっていないとの判断だろう。
だが、本当に「市場原理」は働いていないのか。卸価格には「事後調整」の仕組みがあると記事では述べている。これは「業転玉の価格を盾に、中間業者が元売りと交渉し、卸価格を安くさせる」ものだ。そして業転玉の価格は「余剰製品を取引するスポット市場の価格」だ。
スポット市場で決まる価格に基づいて卸価格が動くのだから、卸価格の決定に「市場原理」が働いているのは明らかだ。卸価格の形成過程に「市場原理を持ち込むこと」が「改革の最大の要」だと経産省が本気で信じているのならば、「それは昔から実現していますよ」と教えてあげるべきだろう(本気で信じている可能性はほぼゼロだが…)。
◎「実勢価格」の意味は?
「実勢価格」を辞書で調べると、「実際に市場で取り引きされる価格。企業の希望小売価格などに対していう」(デジタル大辞泉)と出てくる。「正規流通ルート外の余剰製品を取引するスポット市場の価格、いわゆる『業転玉』の価格」は、間違いなく「実勢価格」に入る。しかし片田江記者はそう考えていないようだ。
では、片田江記者は何を以て「実勢価格」と呼んでいるのか。「業転玉は実勢価格よりも安い価格で取引されることが多い。そのため、元売りは実勢価格と懸け離れた安い卸価格で取引せざるを得ない事態が常態化していた」と書いているのだから、卸価格でさえも「実勢価格」とは見ていない。推測が混じるが「元売りの希望卸価格」を「実勢価格」と捉えているのだろう。しかし、その価格で取引が成立していない場合、「実勢価格」ではない。
「市場価格よりも安い業転玉の価格」という表現も同様に問題がある。これだと「業転玉の価格は市場価格ではない」との印象を与えるが、「業転玉の価格」は疑う余地なく「市場価格」だ。
記事の後半部分にも問題点は多い。
【ダイヤモンドの記事】
経産省は「不透明でゆがんだ市場構造」(経産省幹部)であり、元売りの超低収益体質の元凶であると問題視。この数年、改革を加速させていた。
改革には3ステップある。第1弾として、欧米で石油製品の価格指標会社として実績があり、国際的な基準を満たした英プラッツや米オーピスを日本に誘致。4月のプラッツを手始めに、両社は日本でサービスを開始した。
第2弾として、7月に石油製品仲介業者大手のギンガエナジージャパンと日本ユニコムの共同出資会社が、ガソリンなどの新たなスポット取引を開始。オーピスがこの取引価格を指標として採用しており、より透明性の高いスポット市場が生まれたところだ。
そして第3弾として、早ければ今年度中に東京商品取引所でガソリン等の新たな先物市場が開設される見込みだ。「まだ何も決まっていない」と東京商品取引所はコメントするが、本誌の調べではオーピスの指標価格を採用することで最終調整している。
4月に海外の指標会社が国内市場に入ったことをきっかけに、「市場がドラスティックに変化した」(経産省幹部)格好だ。
ところが、この事態は元売り各社にとっては痛しかゆしだ。
市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだ。だが、需給によって価格が決まるため、供給過剰になれば即、卸価格は下がる。卸価格を維持するには、元売りは厳格に石油製品の供給量を管理する必要があるのだ。
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◎「改革」になってる?
7月に「ギンガエナジージャパンと日本ユニコムの共同出資会社が、ガソリンなどの新たなスポット取引を開始」したことを「より透明性の高いスポット市場が生まれた」と片田江記者は評価している。「透明性が高い」のが事実だとしても、問題はスポット市場の価格に引きずられて卸価格が決まってしまうことだったはずだ。
だとすると、新たなスポット市場ができても問題は解決しない。もしも問題が「スポット市場の透明性」にあるのならば、記事の前半部分の説明を改める必要がある。
◎「市場の実勢価格に基づく取引環境になる」?
「市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだ」との記述は2つの意味で引っかかる。既に述べたように、新たなスポット市場を作っても、その価格に基づいて「事後調整」するのであれば、片田江記者の言う「実勢価格(元売りの希望卸価格)」に基づく取引が成立しにくい状況は変わらない。
「元売りの超低収益体質の元凶」がなくなって、元売りの希望卸価格に基づく「取引環境」が整うとしよう。それは「歓迎すべきこと」だろうか。元売りにとっては「超低収益体質」から脱却できるのならば歓迎すべき事態だ。しかし、それが小売価格の上昇につながる場合、消費者にとっても「歓迎すべきこと」とは考えにくい。日本経済全体にとっても同様だ。片田江記者はどの立場で「歓迎すべきことだ」と言い切っているのだろうか。
◎今まで「需給」は無関係?
「市場の実勢価格に基づく取引環境になることは歓迎すべきことだ。だが、需給によって価格が決まるため、供給過剰になれば即、卸価格は下がる」と書いてあると、従来は需給と無関係に価格が決まっていたような印象を受ける。しかし、そうではないはずだ。業転玉のスポット市場では需給に応じて価格が決まる。それに基づいて卸価格が動くのであれば、卸価格も「需給」によって変動する。
これは当たり前の話だ。市場に関するある程度の理解ができていれば、記事のような書き方は絶対にしないと思える。この記事からは「市場に関する理解が片田江記者は根本的にできていない」と結論付けるしかない。
今回の記事には「経産省幹部」の発言が2回出てくる。あとは「まだ何も決まっていない」という東京商品取引所のコメントがあるだけで、元売りや商社などに取材した形跡は見えない。元々、ガソリン市場への理解が乏しい片田江記者が経産省への取材に頼って記事を作ったのも、今回のような惨憺たる出来になった一因だろう。
「自分は市場への理解が乏しいから市場関連の記事を書くのは非常に危険だ」と片田江記者は肝に銘じてほしい。
※記事の評価はE(大いに問題あり)。片田江康男記者への評価も暫定C(平均的)からEへ引き下げる。