2019年6月29日土曜日

看板倒れが残念な日経ビジネス原隆副編集長の「時事深層」

看板倒れの記事と言えばいいのか。日経ビジネス7月1日号に載った「時事深層 INSIDE STORY~FBの独自通貨 『9000万』が左右するインパクト」という記事は「9000万」に重要な意味があるかのように匂わせている。しかし、中身を見ると期待外れに終わる。
石巻駅(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

最初の段落で原隆副編集長は以下のように打ち出す。

【日経ビジネスの記事】

米フェイスブックが2020年のサービス開始を表明した独自通貨「リブラ(Libra)」に世界が揺れている。全世界で24億人の月間利用者数を誇る「国家」が独自通貨を発行するのに等しいのだから無理もない。そうした中で、既存の金融機関は「9000万」という数字に注目する。リブラの影響度を測るこの数字の意味とは

◇   ◇   ◇

ここでも「9000万」に注目するよう読者に呼びかけている。しかし、この後になかなか「9000万」は出てこない。ようやく解説が始まるのは記事の終盤だ。そのくだりを見ていく。

【日経ビジネスの記事】

別の金融機関の内部資料には、リブラの脅威を測るためにある数字が挙げられている。「9000万」。フェイスブックのプラットフォーム上でビジネスを展開する企業の数だ。

リブラは個人間送金だけでなく商取引での利用も視野に入れている。企業にとって為替手数料がかからずに事業を展開できるメリットは計り知れない。

仮に企業がリブラを法定通貨に換金せず、フェイスブック経済圏の内側だけでやり取りするようになれば、金融界に及ぼす影響は一段と大きくなる。「(市中に出回るお金の量を示す)マネーストック(通貨供給量)に影響がまったくないとは言えない」と金融機関幹部は指摘する。

そんなリブラに規制強化で対抗するのか、利便性の向上で対抗するのか。国や金融機関はいずれかの対応を迫られることになるはずだ。


◎大きく出た割には…

9000万」は「フェイスブックのプラットフォーム上でビジネスを展開する企業の数」らしい。しかし、「この数字の意味」について解説らしい解説はない。

仮に企業がリブラを法定通貨に換金せず、フェイスブック経済圏の内側だけでやり取りするようになれば、金融界に及ぼす影響は一段と大きくなる」かもしれない。しかし、それと「9000万」の関係は不明だ。

例えば「9000万は世界全体の企業の95%に当たる」などと書いてあれば「影響」の大きさを何となくはイメージできる。だが、原副編集長はそうした情報さえ教えてくれない。

9000万」がどれほど大きい数字で、そのうちのどの程度が「リブラ」を使い「フェイスブック経済圏の内側だけでやり取りする」と見込めるのか。結果として世の中はどう変貌していくのか。

ざっくりとした試算を基にしてもいいので、何らかの未来像を読者に示すべきだ。それができないのだとしたら、「9000万」という数字が「リブラ」の持つ「インパクト」を教えてくれるかのような書き方はしない方がいい。



※今回取り上げた記事「時事深層 INSIDE STORY~FBの独自通貨 『9000万』が左右するインパクト
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00222/?P=1


※記事の評価はC(平均的)。原隆副編集長への評価も暫定でCとする。

2019年6月28日金曜日

参入済みなのに「フリマアプリ ヤフーも参入」と打ち出す日経の騙し

28日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「フリマアプリ ヤフーも参入~ペイペイで決済可能に」という記事は、厳しく言えば読者を騙している。最初の段落から見ていこう。
金華山黄金山神社の鹿(宮城県石巻市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

ヤフーは今秋にフリマアプリを立ち上げる。スマートフォンで消費者同士が商品を気軽に売買できることから急成長しているフリマアプリ市場に本格的に参入する。ヤフーとソフトバンクが展開するスマホ決済の「PayPay(ペイペイ)」で支払いや売上代金の受け取りができるようにする。先行する最大手のメルカリに対抗する。


◎「フリマアプリ参入」で問題なし?

フリマアプリ ヤフーも参入」という見出しに釣られて記事を読み始めると、最初に「ヤフーは今秋にフリマアプリを立ち上げる」と出てくる。これだと「現段階でヤフーはプリマアプリに参入していない」と理解するのが自然だ。

しかし、その後で「フリマアプリ市場に本格的に参入する」と出てくる。日経の記事で「本格」の文字を見つけたら要注意だ。

記事の続きは以下のようになっている。

【日経の記事】

経済産業省によるとフリマアプリの市場規模は2018年で6392億円と前年に比べ32%増えた。メルカリのほか、楽天が展開する「ラクマ」も専門家が検品した中古スマホを取り扱うなど品ぞろえを拡充している。一方で、ヤフーが手掛ける「ヤフオク」などのネットオークションの市場規模は18年に1兆133億円。フリマアプリを上回るが、伸び率は9%にとどまる。

ヤフーは新たなアプリ「ペイペイフリマ」を立ち上げて、高い伸びが見込める個人間取引の市場に本格参入する。約800万人いるペイペイの利用者を取り込み、メルカリや楽天に対抗する狙いだ。メルカリの国内の年間取扱高は約4500億円だ。



◎まだ「本格参入」してない?

上記のくだりでは「個人間取引の市場に本格参入する」という説明が引っかかる。ヤフーは「ネットオークション」の大手なので既に「個人間取引」には「本格参入」しているはずだ。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

ヤフオクでも17年から個人間取引のために「フリマモード」という機能を盛り込んでいたが、メルカリなどの競合に埋もれていた。スマホのアプリとして独立することで利用者を増やす。

フリマアプリを立ち上げた後も、ヤフオクは従来通りサービスの提供を続ける。ヤフオクでは個人のほか企業も出品できるが、新しく始めるフリマアプリでは出品は個人に限る方針だ。ヤフオクで導入している出品者と購入者が互いの住所を知らなくても配送ができる匿名配送サービスも利用できるようにする。



◎ここでようやく…

ヤフオクでも17年から個人間取引のために『フリマモード』という機能を盛り込んでいた」と、ここまで来てようやく「本格参入」と表現した理由が分かる。ただ、「フリマモード」の規模に触れていないので「本格参入」と言えるほど現状では取り扱いが小さいのか不明だ。
筑後船小屋駅(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係

記事では「メルカリの国内の年間取扱高は約4500億円だ」と入れている。「メルカリ」の数字を出す余裕があるのならば、ヤフーの「フリマモード」の「取扱高」にはしっかり言及すべきだ。

ちなみに日経電子版には2017月2月2日付で「ヤフオク!が名実ともにフリマ参入 メルカリに対抗」という記事が載っている。日経コンピュータの玉置亮太記者によると「ヤフーは2016年6月、即決価格、つまり定額で出品できるフリマ型サービス『ワンプライス出品』をスマホアプリ限定で開始。競りで価格を決めるオークション方式に加えて事実上、フリマサービスに参入した」らしい。

さらに「ヤフーは2017年2月2日、ネットオークション『ヤフオク!』でフリーマーケット(フリマ)サービスを本格的に始めると発表した」という。「『フリマモード』を導入した」のもこの時期だ。

玉置記者の見方に従えば、「2016年」に「事実上、フリマサービスに参入」し、「2017年」に「サービスを本格的に始め」ている。そして今回の記事の見出しは「フリマアプリ ヤフーも参入」。話を大きく見せたいのは分かるが、ちょっと苦し過ぎる。


※今回取り上げた記事「フリマアプリ ヤフーも参入~ペイペイで決済可能に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190628&ng=DGKKZO46680070X20C19A6TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年6月27日木曜日

日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?

日本経済新聞の上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)と言えば「麻生太郎氏への愛情が非常に強い」という印象がある。27日の朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~未来に背を向けた金融庁」という記事では、麻生氏の責任に触れないことでその愛情を示しているように見える。
旧野蒜駅プラットホーム(宮城県東松島市)
        ※写真と本文は無関係です

「年金2000万円問題」に関して上杉氏は以下のように記している。

【日経の記事】

そんな未来への転換と逆行するむなしい光景をここ数週間、私たちは見せつけられた。老後に2000万円の金融資産が要るという試算を示した金融審議会の市場ワーキング・グループの報告書をめぐる騒動だ。麻生太郎財務・金融相は「政府の政策スタンスと違う」という理由で受け取りを拒み、報告書を撤回させた。選挙を控えた与党の圧力があったのは、連日の報道が伝えるところだ。

騒動を通じて、年金の制度を早急に点検し直さなければいけないことは改めてはっきりした。それはそれできちんとやってもらいたい。ただ、騒動がもたらした2つの後退の懸念は、ある意味でもっと深刻だと思う。

まずはなにより、資産運用というジャンルを確立していこうという機運はすっかり出ばなをくじかれた。日本の資産運用ビジネスは大手銀行や生命保険会社の系列の形で発展してきたぶん、欧米に比べて本当のプロが少ないとされてきた。親会社の目線でなく客のための資産運用に徹するプレーヤーがひしめく厚みが生まれれば、個人の資産運用の選択肢が広がるだけでなく、海外からのマネーも勢いが増すと期待できる。

その道筋を示すのが金融審議会の報告書の趣旨だった。金融庁は報告書をふまえる形で新しい部署をつくり、関係する税制も整えようとしていた。報告書を撤回しようとも、私たちの老後への備えが欠かせない事実は変わらないのだから、準備してきた政策を滞らせるとしたら理不尽だ

もう1つは政と官のいびつな関係。学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる決裁文書改ざんで、財務省の元局長らが処分されたのは1年ほど前だった。本来は公に尽くすべき官僚が過剰なまでにときの政権に配慮し、決裁文書を書き換えてしまった出来事に世間はあきれた。政治ににらまれると正論であっても謝罪に走る今回の行動は、森友のときとどこか似通う。森友の問題を受けて官僚たちは役所の運営を改めるすべを考えてきたはずだが、むしろ、問題の根が霞が関の隅々まで広がってきたようにさえ映る


◎「霞が関」の問題?

麻生太郎財務・金融相は『政府の政策スタンスと違う』という理由で受け取りを拒み、報告書を撤回させた。選挙を控えた与党の圧力があったのは、連日の報道が伝えるところだ」と上杉氏は書いている。

さらに「金融庁は報告書をふまえる形で新しい部署をつくり、関係する税制も整えようとしていた。報告書を撤回しようとも、私たちの老後への備えが欠かせない事実は変わらないのだから、準備してきた政策を滞らせるとしたら理不尽だ」と訴える。

報告書を撤回」→「準備してきた政策を滞らせる」という流れが「理不尽」ならば、「選挙を控えた与党の圧力」に問題があるのは間違いない。そして「『政府の政策スタンスと違う』という理由で受け取りを拒み、報告書を撤回させた」のは上杉氏が深い愛情を注ぐ「麻生太郎財務・金融相」だ。

理不尽」を生み出した筆頭格とも言える「麻生太郎財務・金融相」を上杉氏は責めようとはしない。これまでの上杉氏を知っていれば違和感はないが、普通に読むと「なぜ麻生氏の責任は問わないのか」と感じるだろう。

政治ににらまれると正論であっても謝罪に走る今回の行動は、森友のときとどこか似通う」「問題の根が霞が関の隅々まで広がってきたようにさえ映る」と上杉氏は言う。

麻生太郎財務・金融相」らの責任は問わずに「正論」ならば政治家と戦えと上杉氏は求めている。では、戦うとどうなるのか。「麻生太郎財務・金融相」は「報告書」を受け取ってくれるのか。そもそも政治家が決めた方針に逆らって「報告書を受け取れ!」と戦いを挑むのは「役所」の在り方として正しいのか。

指示が違法だったり非人道的だったりするのならば話は別だが、基本的には政治家の命令に従って動くのが「役所」の仕事ではないのか。

記事の続きも見ておこう。

【日経の記事】

前身の金融監督庁が旧大蔵省(現財務省)から分離してできたのは1998年。約1600人の職員の4分の1を民間出身者が占めるなど、ほかの中央省庁とはちょっと違った風土をもっている。国際的に見ても、金融行政の担い手としては珍しい成り立ち方をしている。銀行や証券、保険会社のすべてを1つの機関で対応する幅の広さ。さらに、中央銀行などではなく、政府の一部門である点だ。

国内外の両面でユニークな立場には長所も短所もある。他省庁とのふだんの付き合いや人材の交流はやりやすくなるだろうし、国会との接点が多く法律づくりにも関わりやすい。半面、公務員ならではの報酬の制約もあり、ブロックチェーンのような最新の技術にたけた人材を連れてくるのは難しい。安定した組織づくりが期待できる一方、運営はルールに縛られ硬直的になりがちだ。

もし、政治への配慮も役所が避けられない必要悪なら、金融行政の担い手は役所でないほうがよい。金融庁が頭を悩ませるべきは選挙の都合より、世界の先端の動きだということを確かめたい。



◎結局どうすべき?

金融庁には「長所も短所もある」とあれこれ書いた後に、唐突に「政治への配慮も役所が避けられない必要悪なら、金融行政の担い手は役所でないほうがよい」と打ち出している。しかし「具体的にどうするのか」は論じないまま「金融庁が頭を悩ませるべきは選挙の都合より、世界の先端の動きだということを確かめたい」と話を逸らして記事を締めている。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
          ※写真と本文は無関係です

長所も短所もある」話は結論部分とつながっていないので捨てていい。その代わりに「金融行政の担い手は役所でないほうがよい」という主張に関して説明すべきだ。

役所」がダメならば、どこに「金融行政の担い手」を任せるのかが最大の問題だ。記事から候補を推測すると「中央銀行」か。しかし「中央銀行」も「政治への配慮」から無縁ではいられない。

そもそも「政治への配慮」から無縁の組織が「金融行政の担い手」になるのならば、「政治」が「金融行政」を制御するのは非常に難しくなる。それは望ましいことなのか。そこを論じないまま「政治への配慮も役所が避けられない必要悪なら、金融行政の担い手は役所でないほうがよい」と言われても説得力は感じられない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~未来に背を向けた金融庁
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190627&ng=DGKKZO46602500W9A620C1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html

2019年6月26日水曜日

セゾン投信社長に「アクティブ投信」を宣伝させる週刊エコノミストの罪

週刊エコノミスト7月2日号の特集「老後2000万円貯める! おまかせ投資」でセゾン投信の中野晴啓社長が「アクティブ投信」の良さを必死に強調している。「アクティブ投信」を手掛ける会社の社長としては当然の行動かもしれない。しかし、主張にはかなり無理がある。中野社長に好き勝手なことを書かせたエコノミスト編集部の責任は重い。
石巻駅(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

では何が問題なのか。「投信の『迷信』を斬る! 危うい『インデックス信仰」~“本格志向”投信の選び方」という記事の内容を見ながら指摘していく。

【エコノミストの記事】

いま、日本の個人投資家は、低コストのインデックス(パッシブ)投資に対して“礼賛一辺倒”な状況にある。インデックス投資とは、日経平均株価などの「インデックス(指数)」と連動した運用成績を目指す投資手法だ。

この状況を放置したままでは「アクティブ投信」への関心が薄れ、見捨てられかねない。その結果、日本の資産運用業は存在価値を失い、この国の生活者に芽生えつつある長期投資の機運が損なわれてしまう可能性もある



◎「長期投資の機運」と関係ある?

アクティブ投信」が見捨てられると「長期投資の機運が損なわれてしまう可能性もある」という流れが謎だ。「インデックス投信」で「長期投資」をすればいいだけだ。

「インデックス投信では手数料が低くて儲からない。日本の資産運用業が栄えていくためには高コストのアクティブ投信を売っていく必要がある」と中野社長は言いたいのかもしれない。だとしたら「日本の資産運用業」が「存在価値」を失うのは当然だし、高コストの投信を売らないと生き残れない企業は消えてもらって構わない。

続きを見ていこう。

【エコノミストの記事】

本来、投資は、消費者一人一人が「成長が期待できる」「応援したい」企業を選び、資金を投じる行動である。人々は日常生活の中で、例えばスーパーでもデパートでも、厳しい選択眼を持って消費(買い物)をする。

ところが、なぜか投資の世界では、業績の良い会社も悪い会社も一緒くたにした指数を使うインデックス投資の方が、コストが低くてありがたいという「迷信」が広まっている。インデックス投資は、いろいろなものがそろった「店」を“丸ごと買う”ようなものだ



◎「アクティブ投信」も同じでは?

インデックス投資は、いろいろなものがそろった『店』を“丸ごと買う”ようなものだ」と中野社長は言うが、それは「アクティブ投信」も同じだ。投資家は個別銘柄を「厳しい選択眼を持って」選んでいる訳ではない。

また「インデックス投資の方が、コストが低くてありがたいという『迷信』が広まっている」と言い切るだけで、なぜ「迷信」なのか触れていないも気になる。「低コスト」が「迷信」で実は「高コスト」なのか。それとも「低コスト」をありがたがるのが「迷信」なのか。その辺りは根拠を示して説明すべきだ。

記事の続きを見ていく。

【エコノミストの記事】

億や兆単位の莫大(ばくだい)な金額を運用しなければならないため、なかなか個別企業にまで目配りができない年金などの機関投資家であればともかく、これでは「つみたてNISA(ニーサ)」や「iDeCo(イデコ)」で、ようやく資産運用の意義に目覚めつつある個人投資家が、この「迷信」によって投資信託が単なる株式や債券の詰め合わせであると誤解してしまう



◎「誤解」とは言えないような…

単なる」をどう取るかにもよるが「投資信託」を「単なる株式や債券の詰め合わせである」と理解しても「誤解」とは言えない。株式や債券で運用する「投資信託」に関しては、この理解でいい。他の金融商品が混じっている訳ではない。

さらに続きを見ていく。

【エコノミストの記事】

そうした誤解が広まったことについては、運用業界にも責任がある。特に「疑似アクティブ投信」の問題は深刻だ。最近、ある日本株アクティブ投信の月次報告書で、組み入れ上位企業に「トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、NTT、ソニー、ホンダ」が組み入れられているものを見つけた。ここに挙げた企業は、日本の時価総額上位企業ばかり。運用成績のグラフを見ると、この投信は、「アクティブ」をうたいながらTOPIX(東証株価指数)のインデックス投信と、ほぼ同じような値動きをしている。これが「疑似アクティブ投信」問題である。業界で、インデックスと乖離(かいり)しないアクティブ投信が優れていると言われた時代があり、そのあしき名残を引きずっているのだ。日本では、擬似アクティブ投信のせいで、アクティブ投信が「手数料が高いのに、長期間の平均ではインデックス投信の運用成績に負けている」とたたかれる状況になっている

一方、米国では疑似アクティブ投信を駆逐するため「アクティブ・シェア」という尺度が導入されている。これは疑似アクティブ投信と疑われる投信と、インデックスとの“乖離度”を定量的に測ることができる仕組みである。仮に乖離度が低いと「アクティブ投信なのに真剣に運用していない」と投資家に叱責されることになる。日本でもアクティブ・シェアの早期の普及が待たれる。


◎「真のアクティブ投信」なら勝てる?

日本では、擬似アクティブ投信のせいで、アクティブ投信が『手数料が高いのに、長期間の平均ではインデックス投信の運用成績に負けている』とたたかれる状況になっている」と中野社長は訴える。
筑後広域公園(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係です

では「アクティブ・シェア」が一定以上の「アクティブ投信」に関しては、コストの高さを正当化できるほど安定的に「インデックス投信」に勝っているのか。それならば中野社長の言う「迷信」にも説得力が出てくる。

そうなると、「アクティブ・シェア」の高い「アクティブ投信」を多数保有すれば、手数料を考慮してもほぼ確実に「インデックス投信」に勝てる。素晴らしい話だ。本当にそうならばという条件付きだが…。

ところが中野社長は根拠となるデータを示してくれない。それで「インデックス投資の方が、コストが低くてありがたいという『迷信』が広まっている」と言われても信じる気にはなれない。

そして中野社長は「本物志向」のアクティブ投信を8本選んでくれる。信託報酬は全て1%以上の高コスト。その中にはセゾン投信の「セゾン資産形成の達人ファンド」もしっかり入っている。

セゾン投信の商品を売り込むにはどうしたらいいのか中野社長が一生懸命に考えているのは伝わってくる。だからと言って、投資家にセゾン投信の経営を助けてあげる義理はない。「中野社長の説明は基本的にセールストークだ」という認識は持っておくべきだ。

投信を売る会社の社長としては正しい「トーク」をしていると思える。ただ、記事の書き手としての評価はどうしても低くなる。


※今回取り上げた記事「投信の『迷信』を斬る! 危うい『インデックス信仰」~“本格志向”投信の選び方
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190702/se1/00m/020/062000c


※記事の評価はD(問題あり)。中野晴啓社長への評価もDとする。

2019年6月25日火曜日

「GAFA断ち」にご都合主義が目立つ日経1面「データの世紀」

25日の日本経済新聞朝刊1面に載った「データの世紀~世界が実験室(2)GAFA断ちで仕事 代償は生産性3分の1」という記事は、ご都合主義的な無理のある内容だった。中身を見ながら問題点を指摘したい。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

5月半ばから3週間。「GAFA断ち実験」は、スマホの電源を切って始まった。位置情報やネット検索履歴データなどを4社に渡さないよう、それらのサービスや製品を使わずに暮らしてみようと考えた。

今の取材テーマはデータ規制の動向。予習が必要だ。だがグーグルで検索する「ググる」はご法度。図書館にこもる時間が増えた



◎ヤフーはなぜ使わない?

GAFA断ち」をしたからと言ってネットでの「検索」を諦める必要はない。「スマホ」を使わないのならば、アップル製ではないパソコンでヤフーなど他の「検索」サービスを利用すればいい。なのに「図書館にこもる時間が増えた」と言われても説得力に欠ける。

さらに記事は以下のように続く。

【日経の記事】

ネットでは簡単に閲覧できる海外の最新の研究資料は書架になく、数カ月遅れの情報が載った専門雑誌を探すだけでも一苦労。あっという間に半日が過ぎる。先輩記者に聞くと、米ミシガン大の研究ではネット検索は図書館で調べるより3倍速く、1テーマで15分節約できるという。

ネット検索にスマホ、SNSにネット通販。GAFAのある暮らしが浸透したのは10年ほど前。それらを断つと、生産性が3分の1に落ちたということか


◎何で生産性を測ってる?

まず「米ミシガン大の研究」結果を使って「生産性が3分の1に落ちたということか」と結論付けるならば「GAFA断ち」の意味はない。せっかく実験するのだから自分で「生産性」の変化を測るべきだ。

調べる」速度で「生産性」を測るのはあまり意味がない。記者ならば、記事の「生産性」で見るべきだ。「調べる」速度が「3分の1」に落ちたとしても、取材や執筆を含めた「生産性」が「3分の1」に低下する訳ではない。

ゆえに「GAFA断ちで仕事 代償は生産性3分の1」という見出しは問題がある。これを見出しに持ってきたいのならば、もう少し真剣に「生産性」を計測すべきだ。

総合2面の「そして友まで去った 選ぶ力が共存のカギ」という関連記事にも注文を付けておきたい。この記事では以下の説明が引っかかった。

【日経の記事】

こんなときに頼れるのは友達だ。大学時代のラクロス部の同期を「久々に飲もう」と誘った。まさかとは思ったが、彼らにさえ次々無視された。15人に声を掛け、都内の居酒屋に集まったのはたった2人だった。

ガラケーからの連絡が致命的だったらしい。「今どきショートメールなんて怪しさ満点。本人か疑った」と笑われた。ガラケー全盛期に培った友情のはずなのに、今やSNSの輪を外れると信頼が揺らいでしまう。


◎「そして友まで去った」?

まず「ガラケーからの連絡が致命的だったらしい」と言えるかどうか怪しい。例えば「普段なら自分が声をかければ必ず10人以上は集まる」といった前提があれば「ガラケー」に原因を求めるのも分かる。しかし、そうは書いていない。スマホで連絡しても「集まったのはたった2人だった」可能性は十分にある。

今どきショートメールなんて怪しさ満点。本人か疑った」という友人のコメントも解せない。「ショートメール」での連絡ならば「本人」の可能性は非常に高い。友人の多くが「ショートメール」を無視したとすると「SNS」で声をかけても結果は同じだった気がする。

今後も関係を続ける意思があるのならば、疑ったとしても「なぜショートメール?」といった反応はあるはずだが…。

そもそも「GAFA断ち」するのならば、「SNS」でつながっている人たちには事前にその旨を伝えるのが当たり前の礼儀だ。そうしておけば「ショートメール」だから怪しがられるといった事態も防げる。

過酷で孤独なGAFA断ち」に見せたい気持ちは分かるが、全体として強引すぎる印象を受けた。


※今回取り上げた記事

データの世紀~世界が実験室(2)GAFA断ちで仕事 代償は生産性3分の1
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190625&ng=DGKKZO46525380V20C19A6MM8000

そして友まで去った 選ぶ力が共存のカギ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190625&ng=DGKKZO46526160V20C19A6EA2000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。

「高まるアクティブ人気」に根拠欠く週刊エコノミストの特集

週刊エコノミスト7月2日号の特集「老後2000万円貯める! おまかせ投資」は罪深い内容だった。特集の最初に出てくる「高まるアクティブ人気 中小型株は『宝の山』」という記事をここでは取り上げる。稲留正英記者と吉脇丈志記者はやたらとアクティブ投信を持ち上げるが、根拠は乏しい。
御番所公園(宮城県石巻市)
     ※写真と本文は無関係です

記事の前半は以下のようになっている。

【エコノミストの記事】

「米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏を生涯リターンで大幅に上回る人物がいる。“物言う株主”として有名なカール・アイカーン氏だ」──。

5月19日、マネックス証券が都内で開いたアクティブ投資などをテーマとした個人向けセミナーで、同社の松本大(おおき)会長は、会場のほか、ネットを通じ参加した約1100人に訴えた。

アイカーン氏は企業の経営に積極的に関与するアクティブ投資家として知られる。アクティブ投資とは、ファンドマネジャーが有望な銘柄を選定・投資することでベンチマーク(目安となる指数)を上回る成果を目指す。つまり、株価の上昇が見込める銘柄の“目利き”ができるファンドマネジャーに、運用を“おまかせ”する投資法と言える。

アクティブ投資は、株式や債券などの相場動向を示す「指数」、例えば日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)と連動した運用成績を目指す「インデックス投資」と対極にある投資法だ。

日本の個人投資家の間では、これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かったが、足元でアクティブ投資を見直す人が急速に増えているのだ。



◎データはなし?

日本の個人投資家の間では、これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かったが、足元でアクティブ投資を見直す人が急速に増えている」と言い切っているが、それを裏付けるデータは最後まで出てこない。なのに見出しに「高まるアクティブ人気」と持ってくる気が知れない。

これまでインデックス(指数)投資を重視する人が多かった」という情報に関しても、データは示していない。

さらに記事を見ていこう。

【エコノミストの記事】

従来の「インデックス偏重」の背景には、株式投資の基礎的な理論である「効率的市場仮説」があった。すなわち「利用可能な全ての情報はすぐに株式市場に織り込まれるため、継続的に“市場平均=インデックス”を上回る成績をあげるのは難しい」という説だ。

しかし、日本株ではアクティブ投資が、インデックス投資よりも大きな超過リターンを生むことが認識され始めている。機関投資家向けに投資情報を提供するイボットソン・アソシエイツによると、2007年から18年までの12年間では、日本株のアクティブ投信235本のうち、145本(62%)がインデックス投信の運用成績を上回った(図)。



◎なぜ「12年」?

まず、なぜ「2007年から18年までの12年間」なのか。キリがいい10年なら分かるが、わざわざ「12年間」としたのは、それが「アクティブ投信」の成績を良く見せるのに都合がいいからではないかとの疑問が湧く。

さらに言えば「日本株のアクティブ投信235本」をどうやって選んだのかも気になる。「12年」以上の運用実績がある「日本株のアクティブ投信」が「235本」あるのだとしよう。その場合、生存者バイアスの問題も考慮する必要がある。成績の悪いファンドは「12年間」に多くが淘汰されてしまい、残っているファンドの成績は良く出やすいと考えられる。

続きを見ていく。

【エコノミストの記事】

日本でインデックス投資がさえない理由は、TOPIX採用銘柄に含まれる大企業の中には、日銀が大量に買い入れているETF(上場投資信託)に組み入れられ株価が割高に保たれる結果、経営改善へのインセンティブ(誘因)が働かず、この先株価の大きな上昇が見込めない企業が多数含まれるからだ。その結果、TOPIXの上値も重くなる。

一方で、TOPIXに採用されていない中小企業の中には有望な企業が多い。日本株に投資するタイヨウ・パシフィック・パートナーズのブライアン・ヘイウッド創業パートナーは、「日本株は“宝の山”。ものすごい技術を持っている企業がたくさんあるのに、相当数が割安に放置されている」と話す。


◎説明が成り立たないような…

上記の説明は成り立っていない。記事を信じれば「2007年から18年までの12年間」は「インデックス投資」のパフォーマンスが悪かったはずだ。しかし「日銀が大量に買い入れ」をしたため「TOPIX採用銘柄」は「株価が割高に保たれ」たという。日銀が「ETF」を「買い入れ」するようになったのは2010年以降なので、日銀の買いはこの間の「インデックス投資」にとってプラスに働いている。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
         ※写真と本文は無関係です

一方、「TOPIXに採用されていない中小企業」は今も「相当数が割安に放置されている」のであれば、「TOPIXに採用されていない中小企業」を狙う「アクティブ投信」のパフォーマンスはまだ上がっていない可能性が高い。

なのに、結果は「インデックス投資がさえない」らしい。辻褄が合っていない。

付け加えると「アクティブ投信」が「TOPIXに採用されていない中小企業」(東証1部以外の上場企業)を投資対象としているのならば、「TOPIX」と比べるのは不適切だ。ジャスダック指数などをベンチマークにすべきだろう。

先に出てきた「イボットソン・アソシエイツ」のデータも、中小型株の「アクティブ投信」を「TOPIX」連動型の「インデックス投信」と比べているのではないかとの疑問が残る。仮にそうならば「日本株ではアクティブ投資が、インデックス投資よりも大きな超過リターンを生む」という話はさらに怪しくなる。

最後の段落も見ておく。

【エコノミストの記事】

金融庁が「老後資金として夫婦で2000万円が必要」とする報告書を作成して問題になった。額はともかく、老後を年金だけに頼っていられないことは確かだ。自助努力で資産形成の手段が求められている中、「アクティブ投信」は有力な選択肢になる



◎「アクティブ投信」は有力な選択肢にならない!

「『アクティブ投信』は有力な選択肢になる」と記事では断言しているが、そうはならないと言い切れる。既に述べたように「イボットソン・アソシエイツ」のデータは根拠として弱い。

仮に「中小型株は『宝の山』」で「アクティブ投資」が有利だとしよう。しかし、それは「アクティブ投信」を選ぶ理由にはならない。手数料の問題があるからだ。

自助努力で資産形成の手段が求められている」のならば、自力で「中小型株」の中から有望銘柄を探すべきだ。1%を超える信託報酬を「アクティブ投信」に支払うのは無駄としか思えない。「インデックス投信」ならば信託報酬は0.1%程度のものもある。

個人で銘柄を選ぶよりも1%以上リターンを高めてくれる可能性が十分に高いと判断できる「アクティブ投信」はあるのか。個人的にはないと思えるし、仮にあっても事前にそれを見つけるのは非常に難しいはずだ。

「特別な力を持ったファンドマネジャーを見つける特殊能力が自分にはある」と確信できる人を除いて「アクティブ投信」には近づくべきではない。

「アクティブ投信を強引に推す稲留記者と吉脇記者を信じるな!」。投資初心者にはそう助言したい。


※今回取り上げた記事「高まるアクティブ人気 中小型株は『宝の山』
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190702/se1/00m/020/059000c


※記事の評価はD(問題あり)。稲留正英記者への評価はDを維持する。吉脇丈志記者は暫定でDとする。

2019年6月23日日曜日

がん検診避ける「父」は非合理的?中山祐次郎氏「がん外科医の本音」

医師の中山祐次郎氏が書いた「がん外科医の本音」という本には色々と引っかかるところがあった。その中の1つが後書きで中山氏の父親に触れたくだりだ。本では以下のように書いている。
筑後船小屋駅(福岡県筑後市)
       ※写真と本文は無関係です

【「がん外科医の本音」の内容】

「なるべく検査はしたくない。気づいたら手遅れというのがいい」

先日のこと、検診を受けない父を説得していたら、こう言われました。息子が医者なんだから、頼むから受けてくれ、そういう私にはっきりと言ったのです。そして、「がんにかかってしまった、という精神的な苦痛がずっと続くなら、手遅れで見つかった方がいい」

と言ったのです。私は衝撃を受けました。どちらかと言えば合理的で常に論理的なものの考え方をする父が、このようなことを言ったからです。再三説得を試みましたが、最終的には諦めました。がんに対する考え方は1つではない。それを痛感したのです。


◎「父」の方が合理的では?

」はがん検診に関して「合理的」に判断できなかったと中山氏は感じているのだろう。しかし、「合理的」なのは「」の方で、中山氏はかなり非「合理的」だ。

がんにかかってしまった、という精神的な苦痛」がない状態で1カ月を過ごす時の満足度が10点で、「精神的な苦痛」がある場合を5点としよう。

検診を受けない」場合はこれから100カ月後に「手遅れ」の状態で見つかり3カ月後に死亡し、「検診」を受けると7カ月長生きできて110カ月後に死亡すると仮定する。

この間の満足度は「検診を受けない」場合が1015点で、「検診」を受けた場合は550点となる。早期発見による延命効果が非常に大きければ別だが、満足度は「検診を受けない」方が高くなりやすい。

」は「精神的な苦痛」がある場合を1点と見ているかもしれない。そうなると、さらに「検診」を受ける意味はなくなる。

また、発見によるマイナスは「精神的な苦痛」だけではない。手術や抗がん剤により体力が低下する上に、治療に時間を取られる。経済的な負担も生じる。そう考えると「」の判断は「合理的」だ。

一方、中山氏は「息子が医者なんだから、頼むから受けてくれ」と訴えている。これは「」の健康とは全く関係ない問題だ。自分が「」の立場だったら「検診を受けた方が明らかに長生きできるからと言うなら分かる。だが『息子が医者なんだから、頼むから受けてくれ』とは何だ。お前の仕事の都合のために、なんで俺が受けたくもない検診を受けなきゃならないんだ。お前はそれでも医者か」と一喝するだろう。

ちなみに中山氏は著書の中でがん検診について「『こうするといいですよ』というシンプルなおすすめができない分野」「検診を受けるべきかどうかを決めるには『メリットとデメリットをてんびんにかけた結果、どちらが上回っているのかを考えなければならない」と述べている。

ならば「」の判断に何の問題もないはずだ。「メリットとデメリットをてんびんにかけた結果、どちらが上回っているのか」をきちんと考えた「」を本で取り上げて、「検診に関しては『合理的』な判断ができなかった人」のように描いて良心が痛まないのか。

ここまでは「検診」を受けると長生きできる可能性が高まると仮定して話を進めてきたが、実はこれも怪しい。週刊ポスト2017年3月17日号の記事では以下のように説明している。

【週刊ポストの記事の内容】

昨年1月、世界的に権威のある『BMJ(英国医師会雑誌)』という医学雑誌に、「なぜ、がん検診は『命を救う』ことを証明できなかったのか」という論文が掲載された。その中で、「命が延びることを証明できたがん検診は一つもない」という事実が指摘されたのだ。

たとえば、最も効果が確実とされている大腸がん検診(便潜血検査)では、4つの臨床試験を統合した研究で、大腸がんの死亡率が16%低下することが示されている。その一方で、がんだけでなく、あらゆる要因による死亡を含めた「総死亡率」が低下することは証明できていない。


◎結局、受けない方が…

著書の中で中山氏は「がん検診のメリット」について「そのがんで死亡することを防ぐこと」だと述べている。しかし、「そのがんで死亡すること」を防げても、「他の要因で死亡するリスク」が高まり相殺されるのならば、あまり意味はない。

がん検診」に関して「『総死亡率』が低下することは証明できていない」のであれば、積極的に受ける気にはなれない。受けなければ「精神的な苦痛」は避けられるし、余計な時間やお金を使わずに済む。

BMJ(英国医師会雑誌)」に載った論文は間違いだというならば話は別だが、中山氏は著書の中でそうは述べていない。結局、今得られる情報を基にすると「がん検診は避けた方が合理的」との結論に落ち着く。

繰り返しになるが、中山氏よりもその「」の方が「合理的」だ。


※今回取り上げた本「がん外科医の本音


※本の評価はD(問題あり)。中山祐次郎氏への評価もDとする。

2019年6月22日土曜日

「がん放置」への批判が雑過ぎる中山祐次郎氏「がん外科医の本音」

本に書いてあることの多くは正しいのだろう。しかし、「がん外科医の本音」という本で著者の中山祐次郎氏が展開した「がん放置」への批判は問題だらけだ。批判するのは構わないが、これだけ中身が雑だと中山氏を医師として信頼しようという気が失せる。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
           ※写真と本文は無関係です

『がんは放置すべきか』現場の医者の本音は」というテーマで中山氏は以下のように記している。

【「がん外科医の本音」の内容】

治療について「がんは放置でいい」と断言している人がいますね。ここではっきり言いますが、根拠が弱いためその説は信じるに値しません

たしかに、早期のがんであればほっといても治ることがあるのは事実です。その頻度は不明ですが、そういう論文を目にすることはあります。しかし「非常にまれ」なことです。あなたに起こる保証はどこにもありません。2019年、本書の執筆時点では原則、がんを放置すると治るものも治らなくなります。

今の治療法とは、日本中、世界中の医者が、どんな治療法がいいかをここ何百年ほどずっと悩み、その結果生まれたものです。

まず手術という治療法が生まれました。麻酔技術が未熟だったせいで、痛みが取れなかったり、麻酔薬で患者さんが死亡したりしました。また、感染症に対する知識と理解が足りず、手術後に感染症で亡くなる方も多数いました。大勢の方の犠牲の上に到達したのが今の手術治療です

早期であれば手術で取り切れるので、がんは「治る」時代に入ってきたのです

その一方で、「放置」を信じたせいで進行がんになってから来院した患者さん、病院でがんと診断され、その後「放置」を信じた結果、手がつけられないほど進行してしまった患者さん、こういった方々に、私は幾度となくお会いしてきました

これは犯罪ではないか。

過失致死ではないのか。

私は罪に問えないかといろいろ調べたのですが、あくまで「放置治療を勧める」だけで決めるのは患者さん本人なので、難しいようです。なんとも苦々しい思いで、私はこの主張を見ています

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

その1~なぜ批判対象の名前を出さない?

『がんは放置でいい』と断言している人がいますね」と言うだけで、誰の主張なのか明らかにしていない。これは逃げだ。「放置」論者が中山氏に反論してきても「あなたのことではありません」と弁明できる。しかし、がんの「放置」論者と言えば近藤誠氏の存在感が圧倒的だ。故に名指しせずに近藤氏を実質的に批判できる。このやり方を選んでいる時点で中山氏に対して「なんとも苦々しい思い」になる。

ここでは、中山氏の言う「『がんは放置でいい』と断言している人」とは近藤氏だと仮定して話を進める。


その2~「根拠が弱い」と言える根拠は?

根拠が弱いためその説は信じるに値しません」とは書いているが、なぜ「根拠が弱い」と言えるのかを中山氏は教えてくれない。「これは犯罪ではないか」とまで、がん放置論者を悪く言うのであれば、そこを省略すべきではない。


その3~「がんは放置でいい」をなぜ曲解?

早期のがんであればほっといても治ることがあるのは事実です」「しかし『非常にまれ』なことです」と書いてあると、「がんは放置でいい」と言っている人は「全てのがんは放置していれば自然に治る」と主張しているように受け取る読者もいるだろう。

中山氏はあえて曲解しているのか、本当に分かっていないのか。いずれにしても問題がある。「がんは治療か、放置か、究極対決」という本の中で近藤氏は肺がんに関して以下のように述べている。

いずれにせよ『治療は無意味』というのが僕の基本的な考え方です。たとえば、2センチくらいの大きさでも、80億個くらいのがん細胞が詰まっているわけです。その場合、10%から20%くらいの人たちに、目に見えない転移が潜んでいます。転移があれば治ることがないので治療は無意味。逆に、転移が潜んでいなければ、今後も転移することはありませんから、治療の必要はないんです

近藤氏は「ほっといても治る」から「がんは放置でいい」と主張しているのではない。となると、中山氏の批判は最初からかなり的外れだ。


その4~情緒的な主張に意味ある?

今の治療法とは、日本中、世界中の医者が、どんな治療法がいいかをここ何百年ほどずっと悩み、その結果生まれたものです」「大勢の方の犠牲の上に到達したのが今の手術治療です」と中山氏は訴える。だから「今の手術治療」を信じろと示唆しているのだろうが、情緒的で説得力に欠ける。
筑後広域公園(福岡県筑後市)※写真と本文は無関係です

全体として見れば「治療法」は常に発展途上のはずだ。「ここ何百年ほどずっと悩み、その結果生まれたもの」だから正しいとは限らない。「多くの人が頑張ってきた長い歴史があるんだから信頼できる」といった類の主張に耳を傾ける意味があるだろうか。


その5~「手術」で治してると断言できる?

早期であれば手術で取り切れるので、がんは『治る』時代に入ってきたのです」と断定しているが、根拠は示していない。強いて言えば「大勢の方の犠牲の上に到達したのが今の手術治療」だから「手術」で「治る」となるのか。

ここは「がんは放置でいい」を批判する上での肝だ。近藤氏は前述の本の中で医師の林和彦氏と論戦を展開し、林氏に対して以下のように主張している。

これまで全世界で何億という数の早期がんが発見され治療されているけれども、発見されたあとに転移することが証明できていないし、これからも証明できない、というわけですね。とすれば、手術や検診を正当化する根拠(データ)がないということを認めたことになります。そうであれば、『手術はやめておきましょう』『検診は廃止しましょう』と言うべきでしょう。それを言わずに、がんを見つければ当たり前のように切りまくっている現状は間違っています

「転移があれば手術は無意味。転移がないのならば治療の必要性は少ない(放置でもいい)」としよう。この場合、手術でがんが「治る」とはどういうことか。

転移するがんを見つけて、転移する前に切除し転移を防げるのであれば、喜んで手術を受けたい。

しかし「発見されたあとに転移することが証明できていない」のであれば、無駄な手術をしている可能性がまず残る。それでも有効な手術の可能性の方が圧倒的に高いのであれば、手術に賭けてみたいとは思う。

しかし中山氏も著書の中で「治療をした結果、ある患者さんの中からがんが完全になくなったのかどうかを判定することが不可能に近い」と認めている。

つまり「早期であれば手術で取り切れる」とは言えない。必ず「取り切れたかどうかは不明」という結果になる。なのになぜ「手術で取り切れるので、がんは『治る』」となってしまうのか。「再発しない場合もあるから」と中山氏は言うかもしれないが、それは切除する必要のない早期がんを取っただけではないのか。その疑問に答えないで「放置」を批判しても説得力はない。


その6~放置しなかったら進行がんにならなかった?

その一方で、『放置』を信じたせいで進行がんになってから来院した患者さん、病院でがんと診断され、その後『放置』を信じた結果、手がつけられないほど進行してしまった患者さん、こういった方々に、私は幾度となくお会いしてきました」という説明にも問題を感じる。

放置」せずに治療をしていれば「進行がん」にならずに済んだとの前提を感じるからだ。「早期であれば手術で取り切れる」とは限らないのだから「『放置』を信じた結果、手がつけられないほど進行してしまった患者さん」は手術をしても同じように「進行」していた可能性がある。

発見されたあとに転移することが証明できていない」「手術や検診を正当化する根拠(データ)がない」という近藤氏の主張を信じれば、「手術」をすべきとの主張に根拠はない。中山氏がそれに納得できないのならば、根拠を示して近藤氏の主張を覆すべきだ。今回の著書では、それが全くできていない。

「早期がんの段階で、転移するかしないか、さらには転移前なのか後なのか分かります。転移するタイプで、しかも転移前のがんに限定して手術をしています」「エビデンスとしての信頼度が高いランダム化比較試験で早期がんを手術した人と放置した人を比べると、手術した人の方が圧倒的に長生きできるという結果が出ています」などと中山氏が主張できるのであれば、「放置」への批判が有効になりそうな気はする。

しかし、そうした主張を展開するための根拠がないことを中山氏も知っているのではないか。だから今回のような雑な主張で否定だけは強くしてみたのだと推測している。


※今回取り上げた本「がん外科医の本音


※本の評価はD(問題あり)。中山祐次郎氏への評価もDとする。

2019年6月21日金曜日

松井彰彦氏の「論理言語」に疑問残る日経「あすへの話題」

経済学者の松井彰彦氏は記事の書き手として問題があると考えた方が良さそうだ。20日の日本経済新聞夕刊1面に載った「あすへの話題~私と仕事、どっちが大事?」という記事を読んで、そう感じた。記事を見ながら疑問点を挙げていく。
タマホーム スタジアム筑後(福岡県筑後市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

経済学の教科書を繙(ひもと)くと、りんごとみかんの話が出てくることがある。りんごとみかんのどちらが好きか、と訊(き)かれても「りんご」「みかん」とは答えられない。

りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる。だから答えは、「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」などとなる



◎「どちらが好きか」答えられるような…

まず「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」とは限らない。「りんご」は大好きだが「みかん」は受け付けないという人もいるだろう。この場合「どちらが好きか」は明らかだ。

りんご」と「みかん」の1個当たりの量は同じとの前提で「りんごを1個食べた今ならりんご1個とみかん2個は同じくらい好き」という場合はどうか。「同じくらい好き」がやや解釈に迷うが、ここでは「りんごを1個食べた今の段階で、りんご1個とみかん2個が同じ価値に感じる」とする。これも明らかに「りんご」の方が「好き」なはずだ。「りんごを1個食べた」後でも、次の「りんご1個」の価値と釣り合うためには「みかん2個」が必要なのだから。

ここまではまだいい。問題は次だ。

【日経の記事】

りんごとみかんならそれでよい。しかし、この話を社会生活に安易に応用してはならない。極端な(しかし、よくある)例は「りんご=恋人(や子ども)」「みかん=仕事」と置き換えてしまうものだ。相手に「私と仕事、どっちが大事なの?」と訊かれたとしよう。こんなとき、間違っても、「君との1時間は、仕事の2時間と同じくらい大事だよ」などと答えてはいけない。相手も経済学徒でない限り、そんな論理は通用しない(そして、その質問を発した時点で、相手は間違いなく経済学徒ではない)。



◎そもそも枠組みが…

りんご」と「みかん」の話は、食べ物の中で同じものばかり食べると飽きるので、その状況によって価値が変わるという例だと思える。しかし「『りんご=恋人(や子ども)』『みかん=仕事』と置き換えてしまう」と話が違ってくる。

中には「恋人」とずっといると「仕事」がしたくなるという人もいるかもしれない。しかし、一般的に言えば、「仕事」を優先するのは「恋人」と一緒にいると飽きるからではない場合が多い。

安易に応用してはならない」のはその通りだが、「相手も経済学徒」であっても、この「応用」には無理がある。「社会生活」に当てはめるならば「恋人」と「同性の友人」の組み合わせなどか。

続きも見ておこう。

【日経の記事】

そもそもこれは質問ではない。質問文の体裁を採った不満の表明なのだ。ネットでよくある模範解答に、「そんな質問をさせてごめんな」というものがあるが、これも「ちゃんと答えろ」と切れられる可能性もある。「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という答えもあるらしいが、「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という答えと五十歩百歩だ。要はこの質問は、された時点でアウトなのだ。

経済学は人間の行動に様々な論理的知見を与えてくれるが、生兵法は怪我(けが)のもと。論理言語と日常言語は違うのだ。経済学徒はこのことをゆめ忘れてはならない。



◎「五十歩百歩」になる?

君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」は「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」と言えるのか。

既に述べたが「りんごばかり食べているとみかんが食べたくなるし、みかんばかり食べているとりんごが食べたくなる」といった関係は「恋人」と「仕事」に置き換えると成り立たない場合が多い。

仕事」で早く一人前にならないと「恋人」との結婚もできないという状況であれば「君のことが大事だから仕事をしているんだよ」という「答え」には説得力がある程度ある。「恋人」に飽きないために「仕事」をしている訳ではない。

りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」とは全く異質だ。例えば、敵が攻めてきたから男性兵士が戦争に参加するとしよう。その時に「私と戦争(兵役)、どっちが大事なの?」と「恋人」に聞かれて「君のことが大事だから君を守るために戦争に参加するんだよ」と返すのも「りんごが好きだからみかんを食べているんだよ」という「答え」と「五十歩百歩」だと松井氏は考えるのだろうか。

論理言語と日常言語は違うのだ」と言うが、松井氏の話は「論理」がきちんと成り立っているのか疑問だ。


※今回取り上げた記事「あすへの話題~私と仕事、どっちが大事?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190620&ng=DGKKZO45934950R10C19A6MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。松井彰彦氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

東大「ネコ文二」に関する経済学者 松井彰彦氏の解説に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_31.html

2019年6月20日木曜日

「三桜工業、全固体電池に参入」が本当か怪しい日経の記事

日本経済新聞の企業関連記事で「本格参入」という言葉を見つけたら要注意だとは以前から思ってきた。しかし単なる「参入」でも油断はできないようだ。19日の朝刊企業1面に載った「三桜工業、全固体電池に参入 米社とEV向け」という記事を読むとそれが分かる。
長崎水辺の森公園(長崎市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

エンジン関連部品や配管部品の製造を主力とする三桜工業が電気自動車(EV)向けの車載電池の製造に乗り出す。米スタートアップと次世代電池「全固体電池」を共同開発し、年内にも試作品の検証に入る。ガソリン車からEVへ変わる流れに対応する。

全固体電池は現在使われているリチウムイオン電池の2倍以上の容量があり、充電時間も大幅に短くできるとされる。EVなどモーター駆動の車に載せ長時間走れる電池として期待されており、トヨタ自動車などが実用化に向けて開発を急ぐ。

ただ、安全性やコストなどの問題からまだ車載用に実用化されてはいない。三桜工業は2018年に出資した米スタートアップのソリッドパワーと共に全固体電池を研究、開発している19年内にも試作し実用化に向けた検証作業に入る

三桜工業は自動車メーカーの系列に属さない独立系の部品メーカー。日本車を中心に自動車各社に部品を納めている。ただ欧州の排ガス規制が影響し、19年3月期の営業利益は前の期比52%減少し、20億円に落ち込んだ。

中国など世界各国で環境規制が強化され、自動車各社はEVシフトを加速させている。電池の実用化を急ぎ、新たな事業の柱とする。


◎「試作」でも「製造に乗り出す」?

見出しでは「全固体電池に参入」となっているが、本文に「参入」という言葉は出てこない。「三桜工業が電気自動車(EV)向けの車載電池の製造に乗り出す」と書いているだけだ。なので、まずは「製造に乗り出す」かどうかを考えたい。

記事によると「19年内にも試作し実用化に向けた検証作業に入る」らしい。これで「製造に乗り出す」と言えるのか。「試作」段階ならば「製造に乗り出す」前だと考えるのが一般的だと思える。自動車メーカーが空飛ぶクルマを「試作」した場合、「ついに空飛ぶクルマの製造に乗り出した」と受け取るだろうか。

試作」も「製造」に当たるとの弁明は不可能ではないが、かなり苦しい。「参入」となると、さらに無理がある。「実用化に向けた検証作業に入る」のであれば、「検証」を経て「実用化」を断念する選択もありそうだ。

記者もそれを分かっているから「参入」とは書かなかったのだろう。しかし「試作」では見出しとして弱い。そこで見出しを付ける側は「参入」としたと考えると腑に落ちる。

米スタートアップと次世代電池『全固体電池』を共同開発」は既にしている。「参入」はまだ決まっていない。その途中経過の「試作し実用化に向けた検証作業に入る」という非常に弱いニュースを無理して大きく見せようとするから、こうなる。

記事の書き手として高いレベルを目指すのならば、この手のごまかしからは距離を置いてほしい。


※今回取り上げた記事「三桜工業、全固体電池に参入 米社とEV向け
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46191940X10C19A6TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年6月19日水曜日

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説

日本経済新聞の西條都夫編集委員が書く記事は相変わらず苦しい。19日の朝刊企業2面に載った「平井会長が退任~ソニーを救った『変ジャパ』トップ」という記事も最初から躓いている。記事を見ながら問題点を指摘したい。
千光寺(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

2012年の経営危機のさなかに社長に就任し、ソニーを再生させた平井一夫氏が18日、ソニーを引退した。同日付で取締役会長を退き、今後は要請があればシニアアドバイザーとして助言するだけだ。平井氏が社長、会長をつとめた7年間でソニーの何が変わったのか。



◎「ソニーを引退」?

まず「ソニーを引退」が気になる。例えばプロ野球に関して「巨人を引退」といった使い方をするだろうか。「平井一夫氏」の場合、「経営者を引退」ならば分かる(経営者はやらないと決めているならばの話だが…)。

それに「シニアアドバイザー」という相談役みたいな肩書が残っているのならば「ソニーを引退した」とも言い切れない。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

平井氏ほど独自のスタイルを持つ経営者はまずいない。普段はジーパンとポロシャツで出勤し、執務室で洋楽を流す。帰国子女のはしりで「日本語より英語のほうがうまい」といわれる。国際基督教大学(ICU)を出て、レコード会社のCBS・ソニーに就職し、ゲーム事業のソニー・コンピュータエンタテインメントの勤務も長かった。


◎「独自」でもないような…

平井氏ほど独自のスタイルを持つ経営者はまずいない」と西條編集委員は言う。しかし大した「独自」性は感じられない。「普段はジーパンとポロシャツで出勤」しているらしいが、記事に付けた経営説明会での写真はスーツ姿だ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ氏ならば、ここにもジーパンとTシャツで登場しそうな気がする。
玄海エネルギーパーク(佐賀県)からの風景
        ※写真と本文は無関係です

執務室で洋楽を流す」のも驚きはない。流れているのがビートルズやクイーンならば「平井氏」の年代としてはありがちだ。「帰国子女」にもそれほどの「独自」性はないだろう。例えば楽天の三木谷浩史氏も「帰国子女」だ。

国際基督教大学(ICU)を出て、レコード会社のCBS・ソニーに就職し、ゲーム事業のソニー・コンピュータエンタテインメントの勤務も長かった」という説明に関しては「独自のスタイル」とほぼ関係がない。

さらにツッコミを入れていこう。

【日経の記事】

平井氏はとにかく陽性で、かつ欲がない。18年に会長になった際は最高経営責任者(CEO)の役職を含め、経営の全権を後継の吉田憲一郎社長に渡した。18年3月期は20年ぶりに営業最高益を更新した。「もうしばらく社長をしたい」と思うのが普通だろうが、あっさり引いた



◎「欲がない」?

2018年6月19日の記事で「平井一夫会長(前社長)のストックオプション(株式購入権)などを含む役員報酬は27億円だった」と日経は伝えている。「個別の役員報酬の開示が始まった10年以降で最高だった17年の自身の報酬(9億1500万円)を上回った」らしい。

それで「欲がない」となぜ確信したのか。ひょっとすると、これまで得た報酬のほとんどはどこかに寄付したのかもしれないが…。

付け加えると、トップを6年務めて後進に道を譲るのは、サラリーマン社長としては常識的な線だ。「強欲」とは言わないが「欲がない」と評するほどでもない。

まだまだ、おかしな話は続く。

【日経の記事】

平井氏のように会社での地位や権力にこだわらず、個人的な楽しみを優先するような人がトップに立ち、組織の風通しもかなりよくなったのではないか。うるさ型OBによる現役批判も最近は影を潜めた


◎「個人的な楽しみを優先」?

平井氏」を「個人的な楽しみを優先するような人」と西條編集委員は評するが、そう言える根拠は示していない。そこは触れてほしかった。

仮に「個人的な楽しみを優先するような人」だったとすると、それがなぜ「組織の風通し」を良くする方向に働くのか謎だ。仕事よりも趣味のゴルフを優先する経営者がいたとして「そういう会社は組織の風通しもいいんだろうな」と思えるだろうか。

疑問は他にもある。「うるさ型OBによる現役批判も最近は影を潜めた」ことを根拠に「組織の風通しもかなりよくなったのではないか」と西條編集委員は推測しているようだが、その因果関係もよく分からない。

うるさ型OB」は「組織の風通し」の悪さを「批判」していたのか。そうかもしれないが、記事からはその辺りの事情が読み取れない。結局、上記のくだりはどう理解すべきか解釈に苦しむ。

書くことがなくて、苦し紛れにあれこれ捻り出しておかしな内容になったのかもしれない。だとしたら、やはり西條編集委員には書き手としての「引退」を勧告したい。「日経からの引退」までは求めないので、記事を書かない仕事で活躍してほしい。



※今回取り上げた記事「平井会長が退任~ソニーを救った『変ジャパ』トップ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190619&ng=DGKKZO46281260Z10C19A6TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

2019年6月18日火曜日

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」

日本経済新聞の芹川洋一 論説フェローが17日朝刊オピニオン面に書いた「核心~自民は本当に強いのか 楽観できない『投票力』」という記事には、独自の分析をしようという工夫が見える。そこは評価するが、工夫が成功しているとは言い難い。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

 芹川論説フェローは「相対的投票力の手法」を用いて「安倍自民党は盤石」という一般的な見方に疑問を挟もうとしている。ただ、その試みは成功していない。

記事の後半部分を見た上でその理由を述べたい。

【日経の記事】

ひるがえって日本はどうか。相対的投票力の手法を借用し、その応用編を考えてみた。日本の場合、人種別はないので年齢別だけだ。

年代別有権者は、総務省の国勢調査による推計人口で17年現在の数。投票率は、総務省の外郭団体である「明るい選挙推進協会」が調べた16年参院選の年代別のデータだ。

調査時点にずれがあるが、傾向を調べたものと理解してもらいたい。18~19歳の部分が欠落しているのは適当なデータがないためで、お許しいただきたい。

年代別の有権者構成比と投票率をかけ合わせ、それを「投票力指数」とする。それをもとに相対的投票力を計算してみる。

20代を1とすると、30代は1.5だが、40代と50代は2.2になり、60代は2.8、70代以上は3.5と投票力は圧倒的だ。

高齢になるほど有権者数が多いうえに投票率も高いからおのずとそうした結果になってしまう。投票率は20代が35%なのに対し、60代は70%と倍だ。シニア層の政治的な影響力が大きくなるシルバー民主主義がいわれるゆえんだ。

実際の選挙は、有権者がどこに票を投じるかによって決まる。そこで用いたのが日本経済新聞社が19年5月に実施した世論調査の「投票をしたい政党」のデータである。

与党(自公)と野党(それ以外)で、それぞれの回答率の和に年代別の投票力指数をかけあわせ「実効的投票力」をはじきだしてみた。

20代は与党が2.1で、野党の0.8を圧倒する。50代までは与党に野党の倍以上の投票力がある。ところが60代は与党5.2、野党4.4と肉薄し、70歳以上も与党6.1、野党4.5とけっこう近づいてくる

60代では「まだ決めていない」との回答者が15%いる。この層の内閣不支持の割合は支持を大きく上回る。もし不支持者が野党に投票すれば与野党はほぼ並ぶ。シニア層の実効的投票力をみる限り野党は決してあなどれない

安倍首相は周辺に「この人たちを変えるのはむずかしい。人生の不満が政権に向いている。むしろ未来があって支持の高い若い人たちのボリュームをあげていきたい」と漏らしているらしい。

自民党の選挙対策はいかにして若い人に選挙に行ってもらうかだ。

逆もある。その昔「無党派は寝ていてほしい」と、非自民が多い無党派層は投票に出てこないでと本当のことを言って批判を浴びた首相がいた。それにならえば今は「老人は寝ていてほしい」ということになるのだろうか。

ところがどっこい、団塊の世代を中心にアクティブ・シニアの何と多いことか。自民党はたかをくくっていると痛い目にあう

◇   ◇   ◇

記事に出てくる数字は「与党が圧倒的に強い」と示しているようにしか見えない。「20代」から「70歳以上」まで全ての年代で「実効的投票力」では「与党」が優勢だ。「60代は与党5.2、野党4.4と肉薄」と書いているが「肉薄」というほど接近していない。

不支持者が野党に投票すれば」という条件付きで「60代」だけ「与野党はほぼ並ぶ」。「政治的な影響力」が年代別で最も大きい「70歳以上」でも与党優位は揺らがない。

「条件付きで60代だけは互角の勝負ができるかも」という状況ならば、全体での勝負の行方は見えている。

自民党はたかをくくっていると痛い目にあう」かもしれないが、芹川論説フェローが持ち出した「実効的投票力」を見る限りでは「たかをくくって」よい状況にしか見えない。

「独自の分析によって一般に言われているのとは違う姿を見せたい」という出発点は問題ない。今回はその試みが失敗したのに、強引に「シニア層の実効的投票力をみる限り野党は決してあなどれない」と持って行ってしまったのだろう。

「期待していたほど野党の強さを数字で示せなかった」との思いを芹川論説フェローも抱いている気がする。そこで撤退や修正を図らず、当初の路線で突っ走ってしまったとすれば残念だ。


※今回取り上げた記事「核心~自民は本当に強いのか 楽観できない『投票力』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190617&ng=DGKKZO46115020U9A610C1TCR000


※記事の評価はC(平均的)。芹川洋一論説フェローへの評価はDを据え置くが強含みとする。芹川論説フェローに関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

2019年6月17日月曜日

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」

日本経済新聞の西條都夫編集委員(論説委員の肩書の時もある)には書き手としての引退を勧告している。17日の朝刊企業面に載った「経営の視点~大転職時代の足音 人と会社の『寿命』逆転」という記事を読んで、その判断は間違っていないと改めて感じた。今回は「人と会社の『寿命』逆転」がテーマだが、そもそも「逆転」が成立していない。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 西條都夫様

17日の朝刊企業面に載った「経営の視点~大転職時代の足音 人と会社の『寿命』逆転」という記事についてお尋ねします。西條様は 「『企業の寿命は30年』とかつて言われた」と述べた上で以下のように記しています。

こうした企業(事業)の短命化とは裏腹に、1人の人間が働く時間は伸びている。政府は来年の国会に、希望する高齢者は70歳まで働ける環境を整える法案を出す予定だ。22歳で大学を卒業して70歳まで働けば、労働に従事するのは48年。企業の寿命が30年未満とすれば、人の労働寿命が会社の寿命を追い越してしまう時代の到来である

60歳での引退を前提にすれば「22歳で大学を卒業して」から「労働に従事する」のは38年です。「企業の寿命は30年」と以前から言われていたのならば、元々「人の労働寿命」の方が「会社の寿命」より長いはずです。「70歳まで働ける環境」が整えば「人の労働寿命が会社の寿命を追い越してしまう」と西條様は考えているようですが、誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会ですので、以下のくだりにも注文を付けておきます。

米調査会社のイノサイトなどの調べによるとS&Pの株価指数を構成する米大企業の平均寿命は1960年には60年を超えていたが、足元では20年程度に"短命化"し、今後は一段と短くなるという

独立行政法人の情報処理推進機構が作成した資料には「米国のコンサルティング会社イノサイトが2012年に公表した調査結果によれば、アメリカの代表的な株価指数S&P500の企業の寿命は、1958年には61年だったのが、現在では18年と劇的に縮まっている」との記述があります。

西條様は「足元では20年程度に"短命化"」と書いていますが、これが「イノサイトが2012年に公表した調査結果」に基づくものならば「足元」の数字とは言えません。いつの調査か明示しなかったのは「7年前の調査」という事実を隠すためではありませんか。だとすれば読者を欺いていると言われても仕方がありません。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

西條様に関しては、5月27日付の朝刊オピニオン面に載った「核心~トヨタ30兆円の城は盤石か」という記事でトヨタを「販売台数などの数値目標」がない「数字なし経営」だと紹介した件でも誤りではないかと問い合わせをしています。しかし約3週間が経過しても回答を得ていません。記事中の間違いを放置したまま逃げ続ける対応で本当に良いのか、よく考えてみてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「経営の視点~大転職時代の足音 人と会社の『寿命』逆転
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190617&ng=DGKKZO46170360W9A610C1TJC000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

2019年6月16日日曜日

日経「風見鶏~野党に唯一求めること」で木村恭子編集委員に求めること

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」の問題点はこれまでも指摘してきた。昔話で引っ張って当たり障りのない結論で締めるのが典型的なダメパターンだ。16日の朝刊総合3面に木村恭子編集委員が書いた「風見鶏~野党に唯一求めること」という記事は、このパターンには嵌っていない。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
     ※写真と本文は無関係です

全体としては合格点を与えられるが、気になることが1つだけあった。記事の後半を見てみよう。

【日経の記事】

野党側が石破氏を担ぐ青写真が「絵に描いた餅」に終わらないためにはまず議席を増やし存在感を高めることが先決だ。国民民主の議席数は衆参で63。足元の支持率は社民党と同じ1%(5月10~12日調査)だ。

議席増や支持率アップのための秘策はあるか。私は「将来不安の払しょく」「安心や希望が持てる国家像」を示すことに尽きるのではないかと考える

日経新聞が18年秋に行った世論調査では「老後に不安を感じている人」は77%を占め、30~50歳代で8割を超えた。民間調査では20代の7割が将来不安を感じているとの結果もある。「将来に不安があるうちは消費にお金をかけにくい」(SMBC日興証券アナリストの下里裕吉氏)と経済への悪影響の懸念も強い。

そして、唐突に95歳まで生きるには夫婦で2000万円の蓄えが必要だとした金融庁の金融審議会の報告書が、さらに不安をあおる形となった。

「日本の若者はなぜ希望をもてないのか」の著者で、明治大学国際日本学部長の鈴木賢志教授は「スウェーデンでは消費税が25%と日本と比べて増税感が強いにもかかわらず幸福度ランキングで常に上位にあるのは『選択肢が多く自由度が高い』ことが一因だ。今回の年金制度の議論でも、貯蓄から投資の流れを作りたいのなら、年金保険料の一部を投資に回すことができる仕組みにし、自分で投資先を選べる選択肢を設けたほうが有意義ではないか」と指摘する。

石破氏がファンだと公言するアイドルグループ、キャンディーズの元メンバーで女優の伊藤蘭さんは「まだエネルギーがあるうちに」と41年ぶりに歌手活動を再開させた。野党や石破氏にも「将来が安心な国家像」を描くエネルギーが残っているはずだ



◎「秘策」の具体策は?

議席増や支持率アップのための秘策はあるか。私は『将来不安の払しょく』『安心や希望が持てる国家像』を示すことに尽きるのではないかと考える」と木村編集委員は言う。しかし具体的な「秘策」は示していない。

強いて言えば「明治大学国際日本学部長の鈴木賢志教授」が提唱する「年金保険料の一部を投資に回すことができる仕組み」か。これは確定拠出型年金の考え方に近いものだと思える。「自分で投資して上手くいけば年金が増えますよ。その代わり失敗したら年金は減りますよ」というものだ。ダメとは言わないが「将来不安の払しょく」や「安心」につながるとは考えにくい。

個人的には「将来不安の払しょく」など不可能だと思う。「老後に不安を感じている人」が「77%」いて、これを10%未満にできたら「払しょく」が実現するとしよう。ベーシックインカムの導入が最も効果がありそうな気がするが、制度化のハードルは高いし、導入できても「不安を感じている人」を5割に減らせればいい方ではないか。

「そんなことはない。不安は払拭できる」と木村編集委員が信じているのならば、紙面を通じて「秘策」を伝授してほしい。

野党や石破氏にも『将来が安心な国家像』を描くエネルギーが残っているはずだ」と木村編集委員は記事を締めている。ならば同様のメッセージを送ろう。

アイドルグループ、キャンディーズの元メンバーで女優の伊藤蘭さんは『まだエネルギーがあるうちに』と41年ぶりに歌手活動を再開させた。木村恭子編集委員にも『将来が安心な国家像』を描いて読者に伝えるエネルギーがまだ残っているはずだ



※今回取り上げた記事「風見鶏~野党に唯一求めること
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190616&ng=DGKKZO46115120U9A610C1EA3000


※記事の評価はC(平均的)。木村恭子編集委員への評価は暫定Dから暫定Cへ引き上げる。木村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

労働分配率の分母は「利益」? 日経 木村恭子編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_28.html

2019年6月15日土曜日

「タンカー攻撃」の分析で逃げが目立つ日経 松尾博文編集委員

日本経済新聞の松尾博文編集委員が15日の朝刊1面に書いた「中東依存、日本に警鐘 ホルムズ海峡でタンカー攻撃~米、『エネ自立』で強硬姿勢」という記事は「タンカー攻撃」を「誰が何の目的で起こしたのか」に関してまともな分析ができていない。当該部分は以下のようになっている。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

誰が何の目的で起こしたのか。米国はイランに責任があると批判し、イランは関与を否定する。偶発的衝突に発展しかねないからこそ、冷静に背景を読む必要がある

イランの立場に立ってみることだ。核合意からの米国の一方的離脱に伴う苦境のもとで、英国やフランス、ドイツ、ロシア、中国という5つの当事国をつなぎ留めておかねばならない。

中東調査会の近藤百世研究員は「『強いイラン』のイメージを強調するうえで、同国は核合意からの離脱、(本格的な)ウラン濃縮の再開、ホルムズ海峡の封鎖といったカードを持つが、実際に切ってしまえば国際社会を敵に回すことを知っている」と指摘する。

イラン指導部がテヘランを訪れた安倍氏に「戦争は望まない」と強調する裏で破壊行為に及んだのか。イラン革命体制の中枢に従わない過激分子の仕業か。あるいはイランの立場を悪くしたい勢力の犯行なのか

いずれであっても、中東が一触即発の状態なのは確かだ。安倍氏が緊張緩和に動く意義はある。日本にとってホルムズ海峡の航行安全の重要性は以前より増しているとも言えるからだ。



◎結局、分析を放棄?

誰が何の目的で起こしたのか」を断定できないのは当然だ。しかし、問題提起をしたのだから、どの可能性が高いのかは触れるべきだ。しかも「イランの立場に立ってみることだ」と分析のポイントを松尾編集委員自らが示したのだから。

イランの立場に立ってみる」とどうなるのか関心を持って読み進めてみた。ところが「イラン指導部がテヘランを訪れた安倍氏に『戦争は望まない』と強調する裏で破壊行為に及んだのか。イラン革命体制の中枢に従わない過激分子の仕業か。あるいはイランの立場を悪くしたい勢力の犯行なのか」と書いただけで、どれが有力とも示さずに「いずれであっても、中東が一触即発の状態なのは確かだ」と逃げてしまう。

これでは編集委員の肩書を付けて朝刊1面トップで長々と「タンカー攻撃」に触れる意味がない。

5つの当事国をつなぎ留めておかねばならない」といった話を出すのならば「イラン指導部がテヘランを訪れた安倍氏に『戦争は望まない』と強調する裏で破壊行為に及んだ」可能性は低いとの結論を導いても良さそうなものだ。しかし松尾編集委員はその程度のリスクをさえ負おうとはしない。

「一体誰の仕業なんだろ。でもとにかく中東がヤバいね」といったレベルの話ならば誰でもできる。松尾編集委員はこの問題に詳しい記者の立場で記事を書いているはずだ。なのに誰でも導ける結論しか示せないのならば、存在価値はない。

記事ではこの後に「ホルムズ封鎖で被るリスクの大きさは当時より増している」「ホルムズ海峡が封鎖されれば、原油急騰で世界経済が下押しされる」などとも書いているが、今回の「タンカー攻撃」がイランによる「ホルムズ封鎖」の可能性を高めるものかどうかも松尾編集委員は示していない。

ホルムズ海峡の封鎖といったカードを持つが、実際に切ってしまえば国際社会を敵に回すことを知っている」という「中東調査会の近藤百世研究員」のコメントを基にすれば「ホルムズ封鎖」を心配する必要性は乏しいとも考えられるが、松尾編集委員はその辺りを語ろうとはしない。

そして最後に「危機が高まるなかで、日本も調達先の分散などエネルギーの安定調達に向けた独自の戦略が求められている」という当たり障りのない話で記事を締めている。

タンカー攻撃」→「ホルムズ封鎖」に至るのはどんなシナリオで、その可能性はどの程度なのか。肝心なところを分析しないで「独自の戦略が求められている」と訴えても説得力はない。



※今回取り上げた記事「中東依存、日本に警鐘 ホルムズ海峡でタンカー攻撃~米、『エネ自立』で強硬姿勢
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190615&ng=DGKKZO46095450U9A610C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。松尾博文編集委員への評価もDを据え置く。松尾編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

二兎を追って迷走した日経 松尾博文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_7.html

2019年6月14日金曜日

読むに値しない日経のセブンイレブン社長インタビュー記事

14日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「セブン、24時間『オーナー判断に』 永松社長に聞く ポイント還元で食品ロスを削減」 という記事は「読んで損した」と感じさせる内容だった。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
     ※写真と本文は無関係です

まず「セブン、24時間『オーナー判断に』」をメインの見出しにしているのが苦しい。日経では「24時間営業見直し、『最終判断はオーナーに委ねる』 セブン社長」という記事を4月25日付で出している。これは「行動計画を発表した」時の会見の内容を伝えるものだ。同じ内容の発言が今回のインタビューでも出てくるのは仕方ないが、それをそのまま見出しに使って恥ずかしくないのか。

24時間」問題に関して今回どう発言しているのか記事の中身を見てみよう。

【日経の記事】

24時間営業への批判に伴う出店抑制や、実質的な値引き販売の検討など、コンビニエンスストアが転機を迎えている。セブン―イレブン・ジャパンの永松文彦社長は日本経済新聞社の取材に応じ営業時間の短縮は「フランチャイズチェーン(FC)加盟店のオーナーに委ねる」とした。社会や消費者の変化に伴い需要を掘り起こすことがさらに重要になると訴えた。

 永松社長が強調したのは加盟店のてこ入れだ。人手不足に伴う人件費の高騰と、販売期限を過ぎた食品などの廃棄に伴う損失が加盟店の収益を大きく圧迫する。

今年2月には大阪府東大阪市の加盟店オーナーが営業時間の短縮を強行し、24時間営業を巡る問題も表面化。経済産業省がコンビニ大手に対し、人手不足などの是正に向けた行動計画を作るよう求め、各社が4月に発表する事態に至った。

対応策のひとつとしてセブンイレブンが始めた営業時間短縮の実証実験にFC加盟店約40店が参加している。このほか約200店が参加を希望しているという。

実験期間はまず3カ月間(最大6カ月間)で、永松社長はこれからは「売り上げや利益への影響、店舗運営作業の検証に入る」と話す。実験の結果を営業時間短縮を希望する店舗への経営指導の材料としても活用する。

24時間営業を巡っては、不利益を被っている加盟店側からの見直し要請を本部が一方的に拒否した場合、本部は「独占禁止法違反の可能性は排除できない」とする見解を公正取引委員会が示した。永松社長も「営業時間の短縮はテストをしてもらった上で判断はオーナーに委ねる」と話した。


◎これだけ?

「(これから)売り上げや利益への影響、店舗運営作業の検証に入る」「営業時間の短縮はテストをしてもらった上で判断はオーナーに委ねる」--。「24時間営業」に関して「セブン―イレブン・ジャパンの永松文彦社長」のコメントはこれだけだ。

目新しい発言をしているのならば2つでもいい。しかし、そうしたものは何もない。なのに「24時間営業」の話は切り上げて「実質的な値引きとなるポイント還元策」に話を移し、薄く広く内容を紹介している。

最終判断はオーナーに委ねる」ことは分かっているし、読者に伝えてから2カ月近くが経っている。その後に「永松社長に聞く」のならば、何をどう語らせるのか。そこが腕の見せ所だが、腕を見せようという意欲さえ感じられない。

ちなみに週刊ダイヤモンド6月1日号の「インタビュー~永松文彦(セブン-イレブン・ジャパン社長)」という記事では「本部に実験参加を希望すると伝えても、まともに取り合ってもらえず門前払いをされたと、複数の加盟店が証言しています」「時短実験に参加できると決まった加盟店でも、深夜の荷受けのため従業員を1人置くよう本部から要求されると、従来ワンオペの店は時短のメリットがありません」などとかなり突っ込んだ質問をしている。

そうしたインタビュー記事が先行して世に出ているのに、遅く出す側の日経が今回のような内容では「やる気がない」と言われても仕方がない。

やはり、読むに値しないインタビュー記事と評価するしかない。


※今回取り上げた記事「セブン、24時間『オーナー判断に』 永松社長に聞く ポイント還元で食品ロスを削減
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190614&ng=DGKKZO46057280T10C19A6EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年6月13日木曜日

東洋経済 山田雄一郎記者の「ソフトバンク株を社債代わりに」を信じるな!

週刊東洋経済6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」の中の「STEP2 実践編 準備を怠るな! 50歳から始める資産運用~ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?」という記事の問題点をさらに取り上げる。「現物株」について山田雄一郎記者は以下のように書いている。
久留米市の千光寺(あじさい寺)※写真と本文は無関係

【東洋経済の記事】

そこで次善策として浮上するのが、通信子会社・ソフトバンクの株である。1株当たりの予想配当金を株価で割った「配当利回り」は5.91%とソフトバンクグループの個人向け社債よりも高い

昨年12月に上場した際には初値が公募価格を下回り、投資家から不評を買った。が、「上場後の値動きはしっかりしていて、利回り狙いの債券に近い株だ。『高配当をしろ』という親会社からの配当圧力が強烈なことから、今後も高い配当利回りが期待できるのもプラス」(智剣・Oskarグループの大川智宏CEO兼主席ストラテジスト)。ソフトバンクの宮内謙社長は純利益の85%程度を配当に回すと公言している。14万円台(5月下旬時点)から購入できるのも個人向きといえそうだ。

この点では、ソフトバンク株や個人向け社債と比べるとソフトバンクグループ株は見劣りがする。配当利回りが1%を下回る(下図)ほか、株価の値動きは荒い。株価が5カ月足らずで2倍近くになった(上図)ということは、今後5カ月で半分になってもおかしくないのだ。



◎配当利回りと社債利回りを比べるのは…

記事の前半で「預金と社債はまったく別の金融商品だ」と山田記者は書いていた。自分に言わせれば、預金金利と社債利回りを比較するのは問題ない。むしろ「配当利回り」と社債利回りを比較する方が問題だ。しかし記事では「『配当利回り』は5.91%とソフトバンクグループの個人向け社債よりも高い」と比べてしまっている。

配当は支払った分だけ株式の価値が低下する。しかし預金や社債はそうではない。1万円の株式で10%の配当利回りの場合、「社債利回りや預金金利より高いから魅力的」と言えるだろうか。1000円の配当を受け取ると、その他の変動要因がない場合、株式の価値は9000円になる。1株1万円の株式を保有している状態から、1株9000円の株式と1000円の現金に変わった(税金は考慮しない)。これに魅力を感じるのは非合理的だ。

株価が5カ月足らずで2倍近くになった(上図)ということは、今後5カ月で半分になってもおかしくないのだ」という説明も引っかかる。確かに「今後5カ月で半分になってもおかしくない」が、「今後5カ月で」さらに株価が上昇しても「おかしくない」。記事の書き方だと「株価下落の可能性の方が高い」という印象を受けてしまう。しかし期待リターンがプラスという前提で言えば「5カ月足らずで2倍近くになった」としても、株価上昇の可能性の方が高いはずだ。

さらに続きを見ていこう。

【東洋経済の記事】

加えて、ソフトバンクグループ株は予想PER(株価収益率)が低い。5月下旬時点の株価や予想EPSを基に計算すると、予想PERは11倍台と低い(下図)。

「PERが低いのは、先行きの見通しが不安定だからにほかならない」と大川氏は指摘する。「割安株がますます売られ、割高株がますます買われている足元の状況下では手を出せない」(大川氏)。



◎PERが明らかに低いなら…

ソフトバンクグループ株」の「予想PERは11倍台と低い」と山田記者は言う。その根拠を示していないが「適正水準より低い」のであれば基本的には買いだ。

割安株がますます売られ、割高株がますます買われている足元の状況」でもそれは変わらない。明らかに「割安」ならば買い増したい。中長期的には適正水準に株価が戻ると考えるべきだ。

割安株がますます売られ、割高株がますます買われ」る状況が中長期的にも続くと見るべき理由があるのだろうか。あるなら記事で触れてほしい。

記事の結論部分にも注文を付けておこう。

【東洋経済の記事】

それでもソフトバンクグループ株を買えるとしたら、どんな個人投資家か。それは冒頭の魚本氏によれば、「AIの可能性を信じ、孫社長と世界の将来像を共有できる人」。株価の乱高下を気にせず、孫社長の投資の成功を信じ続けられる人、ということになりそうだ。

以上をまとめると、預金とは違うことを理解したうえで個人向け社債の募集があればダメ元で申し込む。社債を買えなかったらソフトバンク株を社債代わりに買う。さらに孫社長に共感できる人はソフトバンクグループ株を買う、といったところか。(山田雄一郎)



◎「社債代わりに買う」?

ソフトバンク株を社債代わりに買う」のだけはやめた方がいい。債務不履行がない前提で言えば「社債」は購入した時点で投資の利回りが確定する。しかし「ソフトバンク株」はそうではない。「5.91%」の「配当利回り」があっても株価が大きく下がれば損失が出てしまう。

株式投資で「配当利回り」に着目するのは原則として誤りだ。トータルで投資のリターンを考えないと意味がない。そこを山田記者自身は理解していないのだろう。結果として罪深い記事になっている。


※今回取り上げた記事「ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20764


※記事の評価はD(問題あり)。山田雄一郎記者への評価はC(平均的)を維持する。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_18.html

さすが山田雄一郎記者 読むに値する東洋経済の特集「保険の罠」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_20.html

「旧民主党が年金破綻を喧伝」と東洋経済 山田雄一郎記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_10.html

ソフトバンクグループ債を薦める東洋経済 山田雄一郎記者の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_12.html

2019年6月12日水曜日

ソフトバンクグループ債を薦める東洋経済 山田雄一郎記者の罪

週刊東洋経済6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」の中の「STEP2 実践編 準備を怠るな! 50歳から始める資産運用~ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?」という記事は問題山積の内容だった。まずは前半の「個人向け社債」に関する説明に注文を付けてみたい。
久留米市の千光寺(あじさい寺)※写真と本文は無関係

【東洋経済の記事】

孫正義会長兼社長が率いる投資会社・ソフトバンクグループに投資する方法は大きく分けて2つある。個人向け社債を買うか、それとも現物株を買うかだ。

どちらも買い」と断言するのは野村証券・市場戦略リサーチ部の魚本敏宏チーフ・クレジット・アナリスト兼ストラテジストだ。

「(通信など)特定事業に投資するとその事業の業界変動に株価が左右されるが、(投資会社に特化したことで)全産業のAI(人工知能)関連企業に投資するようになり、死角がなくなった。(投資規模10兆円の)ソフトバンク・ビジョン・ファンドを設立し、レイトステージ(事業が軌道に乗った段階)の大型スタートアップ(新興企業)に次々と投資できる唯一のプレーヤーとなったことで独占的な地位を築いた」(魚本氏)からだという。

ソフトバンクグループが今年4月に発行した個人向け社債「第55回無担保普通社債」(愛称「福岡ソフトバンクホークスボンド」)は、募集総額5000億円と巨額なのにもかかわらず、応募が殺到。申し込み初日に募集枠を上回った。

人気の理由は利回りの高さだ。4月に発行した個人向け社債の利回りは年1.64%。昨年発行した社債の利回りは1.57%、一昨年は2.03%だった(下図。いずれも税引き前)。日本証券業協会の資料によれば、2015年以降で利回り1%以上の個人向け社債を発行したのはソフトバンクグループのみである(劣後債を除く店頭気配報告銘柄)。

なぜ利回りが高いのか。それは格付けが低いからだ。

ソフトバンクグループの長期債格付けはS&Pグローバル・レーティングが「BBプラス」、ムーディーズが「Ba1」。いずれもプロの投資家が「投機的」と見なす低い水準である。

格付けが低い理由の1つは、有利子負債の多さにある。有利子負債は3月末時点で15兆6851億円。S&Pが重視するノンリコース(親会社の債務保証なし)の子会社借り入れを除いた単体の有利子負債も7兆円弱ある。過去の積極投資が巨額負債の原因だ。

ソフトバンクグループの個人向け社債は、0.01%という定期預金の利息の低さと比べられることが少なくない。だが、預金と社債はまったく別の金融商品だ。

預金はペイオフの仕組みで1000万円まで保護される。これに対し社債は、発行会社が破綻に瀕した場合に利回りが支払われなかったり、破綻時に元本が償還されなかったりするおそれがある。

また、1口100万円と小口の個人向け社債は「手間のかかる商品」(大手証券幹部)だ。機関投資家向けなら1口1億円で固定客も多く、販売の手間はかからない。

その手間を惜しまず、しかも親しみのある愛称をつけて、さらに「今治のタオル」などのおまけまでつけて個人向け社債を発行する意図は何だろうか

会社側は個人向け社債発行の意義を「資金調達の多様化」「社債市場の拡大に貢献している」と説明してきた。が、要は投資資金を確保するためには可能な限りの手を尽くす腹積もりなのだろう。

以上を考慮したうえで、ソフトバンクグループの個人向け社債は「買い」なのだろうか。BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部の中空麻奈・市場調査本部長は、「利回りが高い理由を個人がきちんと知り、預金と比べるべきではないことを理解したうえでならば、リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」と語る。

ただ、買うと決めても実際に買える保証はない。まず、ソフトバンクグループの個人向け社債の発行は年1回程度と機会自体が少ない。しかもその多くは大手証券が引き受けて販売している。人気商品だけに、運用資産が大きな大口顧客でもない限り、大手に口座があっても手に入らないかもしれない。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

◎「預金と社債はまったく別の金融商品」?

預金と社債はまったく別の金融商品」だと山田雄一郎記者は言う。間違いではないが、むしろ「預金と社債は似た金融商品」だと考えた方がいい。「預金はペイオフの仕組みで1000万円まで保護される」ので、リスクとしては国債と同じだ。なので国債と社債を比べるように「預金と社債」も比べていい。
名護屋城跡から見た風景(佐賀県唐津市)
         ※写真と本文は無関係です

預金金利が1%で社債利回りが3%ならば2%分がリスクブレミアムになる。これが適正かどうかを判断することになる。「預金金利より利回りが高いから社債の方が得」と単純に考えるのは論外だが「まったく別の金融商品」と思う必要もない。


◎「買い」の理由が…

記事では「ソフトバンクグループの個人向け社債」を最終的には「買い」だと判断している。しかし、まともな理由は提示していない。

野村証券・市場戦略リサーチ部の魚本敏宏チーフ・クレジット・アナリスト兼ストラテジスト」は「レイトステージ(事業が軌道に乗った段階)の大型スタートアップ(新興企業)に次々と投資できる唯一のプレーヤーとなったことで独占的な地位を築いた」から「個人向け社債」も買いだと判断しているようだ。これは社債に関しては意味がない。

問題は発行企業の返済能力と社債利回りだ。そこさえ分かれば、事業内容はどうでもいい。「独占的な地位」を確立していても、返済能力との見合いで利回りが低ければ「買い」とはならないはずだ。

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部の中空麻奈・市場調査本部長」の「利回りが高い理由を個人がきちんと知り、預金と比べるべきではないことを理解したうえでならば、リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」とのコメントもほとんど参考にならない。

リスクはまあまあ高いが限定的」がまず分かりにくい。なのに結論は「投資妙味はある」となってしまう。

自分が投資家の立場で考えれば、「ソフトバンクグループの個人向け社債」に関して知りたいのはリスクプレミアムが適正かどうかだ。国債などの無リスク資産の利回りをゼロと仮定すれば「1.64%」や「1.57%」という利回りがそのままリスクプレミアムとなる。

S&Pグローバル・レーティングが『BBプラス』、ムーディーズが『Ba1』」という低い格付けの「ソフトバンクグループの個人向け社債」であれば、そこそこのリスクプレミアムが求められる。

しかし記事では、「1.64%」や「1.57%」という利回りがリスクプレミアムとして高めと判断できる根拠を示していない。例えば、同程度の格付けの社債と比較してもいい。そうした材料なしに「リスクはまあまあ高いが限定的で、投資妙味はある」と言われても「確かにそうですね」とは頷けない。


◎買うべき「個人向け社債」がある?

個人的には、すべての「個人向け社債」を投資対象から外してよいと思う。記事にもヒントがある。「その手間を惜しまず、しかも親しみのある愛称をつけて、さらに『今治のタオル』などのおまけまでつけて個人向け社債を発行する意図は何だろうか」と山田記者も問題提起している。

要は投資資金を確保するためには可能な限りの手を尽くす腹積もりなのだろう」という漠然とした説明しかしていないが、基本的には「機関投資家よりも低い利回りで買ってくれるから」と考えるべきだ。同じ利回りで機関投資家が買ってくれるのならば「手間」をかける意味がない。

ゆえにリスクプレミアムから見て「投資妙味」がある「個人向け社債」はないと考えておけばいい。本当に「投資妙味」があるのならば、機関投資家が喜んで買うはずだ(機関投資家が愚かで投資妙味に気付けないという可能性はあるが…)。

山田記者は触れていないが「個人向け社債」には流動性が極めて低いという問題もある。総合的に判断すると「個人向け社債」には手を出さない方が賢明だ。「ソフトバンクグループの個人向け社債」のような低格付けの「社債」ならば、なおさら慎重になる必要がある。


※今回取り上げた記事「ソフトバンクグループ 現物株と個人向け社債 買うならどっち?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20764


※記事の評価はD(問題あり)。記事の後半部分には別の投稿で触れる。山田雄一郎記者への評価はC(平均的)を維持する。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_18.html

さすが山田雄一郎記者 読むに値する東洋経済の特集「保険の罠」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_20.html

「旧民主党が年金破綻を喧伝」と東洋経済 山田雄一郎記者は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_10.html

2019年6月11日火曜日

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏

日本経済新聞で「本社コメンテーター」として記事を書いている中山淳史氏を「Deep Insight」の執筆陣から外すべきだ。これまでも問題の多い書き手ではあったが、11日の記事では初歩的な部分で躓いている。文章も拙い。顔写真まで付けて長文のコラムを任せる理由が見当たらない。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

ルノーとFCA」の統合が「垂直統合型」だと確信できるのならば、中山氏に記事を書かせるのは危険すぎる。

日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

11日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~車再編 規模から『範囲』へ」という記事についてお尋ねします。まずは以下のくだりについてです。

交渉はお披露目の記者会見を開く直前の6日、FCAが統合提案の撤回を発表した。だが、仮に成就し、新会社が誕生したとして、ルノーとFCAは本当に強い会社になりうるのだろうか。筆者は懐疑的だ。資本関係を前面に巨大化をめざす『垂直統合型』業界再編の時代はもう終わっているからだ

中山様は「ルノーとFCA」の場合、「垂直統合型」に当たると見ているはずです。「垂直統合/水平統合」に関して野村総合研究所(NRI)の用語解説では以下のように説明しています。

垂直統合とは、企業グループが、製品やサービスを供給するためのバリューチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を取り込むことをいいます。水平統合は、バリューチェーン上に定義される特定の工程で、それを提供する複数の企業グループが一体化することをいいます

ともに自動車メーカーである「ルノーとFCA」の場合、一緒になれば「水平統合」に当たります。「垂直統合型」であれば部品メーカーなどと「統合」する必要があります。「ルノーとFCA」の「統合」に関して「垂直統合型」とした記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「交渉はお披露目の記者会見を開く直前の6日、FCAが統合提案の撤回を発表した」という文は不自然です。主語述語の関係が「交渉は~発表した」となってしまいます。例えば「お披露目の記者会見を開く直前の6日、FCAが統合提案の撤回を発表して交渉は打ち切りとなった」などとすれば問題は解消します。

垂直統合/水平統合」の問題は記事の終盤でも起きています。

ボストン・コンサルティング・グループによれば、自動車産業が生み出す利益は35年までに17年の1.7倍に増える可能性がある。増える利益の大部分はカーシェアリングやデータサービスなど新分野から来るという。そうした時代に積極的に備えたい。再編のあり方も一変するだろう。『資本の論理より仲間づくり』と話すのはトヨタの豊田章男社長だが、垂直統合型の再編が陳腐化するのは言うまでもない。『どんな産業を創るか』というビジョンと構想で異業種が集う企業提携。それが主流になる日が近いはずだ

垂直統合型の再編が陳腐化するのは言うまでもない」と中山様は断言していますが、自動車メーカーが「カーシェアリング」企業と「統合」する場合は明らかに「垂直統合型」です。上記のくだりに関しては「水平統合型の再編が陳腐化するのは言うまでもない」としないと成り立ちません。

ついでに言うと「垂直統合型の再編が陳腐化するのは言うまでもない」と書くと、現時点では「陳腐化」していないと取れます。しかし記事の前半で「『垂直統合型』業界再編の時代はもう終わっている」と断言していました。ならば既に「陳腐化」していると見るべきです。

次は日本語訳の問題です。記事の冒頭で中山様は以下のように書いています。

ハリウッド版『ゴジラ』の第3作が封切られ、1作目の公開当時を思い出した。米国での上映開始は1998年5月、宣伝コピーは『サイズ・ダズ・マター(巨大さが度肝を抜く)』といった。なぜ記憶しているかといえば、映画公開とほぼ同時期に米独自動車大手が合併して誕生したダイムラークライスラーをよく取材したからだ。同社も当時、『サイズ・マターズ(英語の意味は同じ)』というコピーを使っていた

matter」に「度肝を抜く」という意味があるのでしょうか。いくつか辞書を調べましたが出てきませんでした。Weblio英語表現辞典で「size matters」の意味を調べると「サイズは重要です(男性器の大きさのことを暗喩する表現)」と出てきます。「巨大さが度肝を抜く」と訳すと正確さに欠けるのではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~車再編 規模から『範囲』へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190611&ng=DGKKZO45905080Q9A610C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

2019年6月10日月曜日

「旧民主党が年金破綻を喧伝」と東洋経済 山田雄一郎記者は言うが…

旧民主党」は「架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した」と言えるだろうか。個人的にはそういう記憶が全くない。しかし週刊東洋経済の山田雄一郎記者は「旧民主党」の「」を確信しているようだ。「旧民主党」の中に「喧伝」した人がいないとは証明できないが、山田記者の主張は誤解に基づいている気がする。そこで以下の内容で問い合わせを送ってみた。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集部 山田雄一郎様 編集長 山田俊浩様  

6月15日号の「編集部から」についてお尋ねします。この中で山田様は以下のように記しています。

とある金融機関の新卒者向け研修でのこと。グループごとにシナリオを作って実演するのだそうですが、『年金はもう破綻していますから』という文言を枕詞に使い、顧客役に金融商品を勧める練習をしているそうです。学生時代、ゼミで年金制度を研究してきたAさんは『年金は破綻していないのだが……』と違和感を覚えたのですがうまく切り出せず、あろうことか自分がそのせりふを言わされる羽目に。いざ発表となったときにそのせりふはあえて言わず『緊張していて、飛んじゃった』とごまかしたそうです。架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した旧民主党の罪は果てしなく重く、若者の心は今も日本のどこかで傷ついています

問題としたいのは「旧民主党」が「架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した」かどうかです。そういうイメージがなかったので、2009年の衆院選でのマニュフェストを調べてみました。「『年金通帳』で消えない年金。年金制度を一元化し、月額7万円の最低保障年金を実現します」などとは訴えていますが「年金は破綻している」とも「年金は破綻する」とも「喧伝」していません。

旧民主党」の議員が「架空の年金破綻を喧伝」していた可能性も探ってみました。2010年3月17日付で自民党の伊藤達也衆院議員が「破綻へのカウントダウンが進む年金システム」と訴えているものはあります。しかし「旧民主党」に関しては、そうした「喧伝」を見つけられませんでした。

本当に「旧民主党」は「架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した」のですか。「架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した旧民主党の罪は果てしなく重く」というのならば、党を挙げて「喧伝」している必要があります。しかし、その可能性は非常に低い気がします。

旧民主党」が「架空の年金破綻を喧伝して政権奪取した」という記述は事実に反すると考えてよいのでしょうか。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

山田様は「旧民主党」のせいで「若者の心は今も日本のどこかで傷ついて」いると見ているようですが、これも解せません。百歩譲って「旧民主党」が「架空の年金破綻を喧伝」したとしましょう。しかし「金融機関の新卒者向け研修」で「年金はもう破綻していますから」と言わせていることの責任を「旧民主党」だけに押し付けるのは無理があります。

既に述べたように自民党議員も「破綻へのカウントダウンが進む年金システム」と訴えていました。そもそも「金融機関」は「年金」に関して政治家に騙されているのですか。「年金はもう破綻していますから」と訴えた方が「金融商品」を売りやすいから、そういう「練習」をしているだけではありませんか。「旧民主党」が「架空の年金破綻を喧伝」しなければ、「金融機関」が「年金はもう破綻していますから」と顧客に説明することもなかったのですか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの問い合わせを無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

山田雄一郎記者をこれまで高く評価してきた。しかし、6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」と「編集部から」の内容を見ると、評価を見直さざるを得ない。特集に関しては別の投稿で触れる。


※「編集部から」の評価はD(問題あり)。山田雄一郎記者への評価はB(優れている)からC(平均的)に引き下げる。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_18.html

さすが山田雄一郎記者 読むに値する東洋経済の特集「保険の罠」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_20.html

2019年6月9日日曜日

久留米大学の塚崎公義教授の誤り目立つ東洋経済「50歳からのお金の教科書」

久留米大学の塚崎公義教授は経済記事を書くための基礎的な知識が欠けているのではないか。週刊東洋経済に載った「50代は貯蓄を増やすチャンス 人生100年時代のお金は本当に1億円必要なのか?」という記事を読んでそう感じた。東洋経済の編集部には以下の内容で問い合わせを送っている。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
       ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様  久留米大学教授 塚崎公義様

6月15日号の特集「50歳からのお金の教科書」に出てくる「STEP1 基本編 50歳からどう増やす!? 知っておくべきお金の超基本~50代は貯蓄を増やすチャンス 人生100年時代のお金は本当に1億円必要なのか?」という記事についてお尋ねします。記事の中で塚崎様は以下のように説明しています。

現金や銀行預金のほうが安全だと考える人は多いだろうが、決して安全ではなく、インフレに弱いリスク資産であることを覚えておこう。毎年1%のインフレでも、30年間で30%も目減りしてしまうし、万が一大災害などが起きれば物価が何倍にも跳ね上がる可能性も否定できない

現金」の価値は「毎年1%のインフレでも、30年間で30%も目減りしてしまう」でしょうか。26%程度の「目減り」で済むのではありませんか。少なくとも「30%」には届かないはずです。計算方法を間違えていませんか。

また「銀行預金」に関しては「インフレ」で「目減り」するとは限りません。金利が付くからです。基本的には「インフレ」率が高まると金利も上昇します。実質金利がマイナスになる場合もありますが、必ずそうなる訳ではありません。

さらに言えば、国内の「銀行預金」は「リスク資産」ではありません。特にペイオフ対象の1000万円以下の預金は国債並みに「無リスク」です。

リスク資産」とは「高利回りが期待されるが元本割れの危険もある金融資産。株式・投資信託・外貨預金・対外証券投資・外国為替証拠金取引(FX取引)など」(デジタル大辞泉)です。「インフレに弱い資産は『リスク資産』」との趣旨でしょうが、一般的な定義とは乖離しており、読者に誤解を与える説明です。

万が一大災害などが起きれば物価が何倍にも跳ね上がる可能性も否定できない」との説明も問題なしとしません。「可能性」ゼロとは言いませんが、東日本大震災が起きても「物価」は安定していました。「大災害」が起きると「物価が何倍にも跳ね上がる」かもしれないと心配する必要性はかなり小さいはずです。

また「銀行預金」に関して「30年間で30%も目減りしてしまう」ことを心配するのであれば、本物の「リスク資産」への投資はためらわれるはずです。株式などでは1年で「30%も目減りしてしまう」事態が十分にあり得ます。

次に問題としたいのは「公的年金はどれだけ長生きしても、死ぬまでしっかり受け取れる。しかも、インフレになれば原則としてインフレ分だけ支給額が増えていく」という記述です。

これを信じれば、5%の「インフレ」であれば「公的年金」の「支給額」も「原則として」5%「増えていく」はずです。しかし現行制度ではあり得ません。マクロ経済スライドが適用になるからです。厚生労働省の説明によれば、マクロ経済スライドは「年金額」を「賃金や物価が上昇するほどは増やさない」制度です。数十年に亘ってインフレ時には調整が続きます。

「(公的年金は)インフレになれば原則としてインフレ分だけ支給額が増えていく」との説明は誤りではありませんか。現行制度の下で「インフレ分だけ支給額が増えていく」可能性はゼロです。「原則として」と断ってはいますが、支給額の増加率は必ずインフレ率を下回るのですから「原則としてインフレ分だけ支給額が増えていく」とも言えないはずです。

退職前日の段階で、住宅ローンの残高と金融資産の残高が同じならよい(純資産がマイナスでなければよい)ということになる」との記述も気になりました。

純資産がマイナスでなければよい」のであれば、「住宅ローンの残高」が「金融資産の残高」を上回っていても、それだけでは問題とならないはずです。不動産などの非金融資産の大きさ次第です。不動産を考慮せずに「純資産」を考えていませんか。

最後に「『投資をしないで全額を銀行預金で』という選択肢だけは勧められないことを最後に明記しておく」との結論にも注文を付けておきます。

銀行預金」は「リスク資産」だという塚崎様の考えに基づけば「銀行預金」に資金を投じるのは立派な「投資」ではありませんか。「リスク資産」に資金を投じても「投資」ではないと言う場合、「投資」をどう定義しているのですか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。週刊東洋経済では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。編集長の山田様には、この点に関して見直しを要請します。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「50代は貯蓄を増やすチャンス 人生100年時代のお金は本当に1億円必要なのか?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20756


※記事の評価はD(問題あり)。塚崎公義教授への評価も暫定でDとする。

2019年6月8日土曜日

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…

日本経済新聞の中村直文編集委員の問題点を繰り返ししてきしてきたが、改善の兆しは見えない。7日の朝刊企業1面に載った「ヒットのクスリ~波平から福山雅治 若返る50代像 世代超えた商品人気に」という記事も苦しい内容だった。いくつか注文を付けておきたい。
久留米市の千光寺(あじさい寺)
      ※写真と本文は無関係です

まず以下のくだりだ。

【日経の記事】

若者から見た50代は今とかつてでは違うのだろうか。シニア消費に詳しい未来ビジョン研究所(東京・新宿)の阪本節郎所長に聞くと「若い世代から見た50代のイメージは変わった」と指摘する。

阪本所長によると1970年代までの50代のアイコンは山村聰さんや小林桂樹さんなどの渋い名優で、「雲の上のような存在」と話す。昭和のお父さんを代表するサザエさんの磯野波平さんは54歳。公式プロフィルにも「威厳と貫禄たっぷりのお父さん」とある。

だが年代とともにアイコンは様変わりする。80年代は石原裕次郎さんで兄貴的な要素が強まる。00年代は渡辺謙さん。50代を「格好いい」までに引き上げた。そして今の50代アイコンは俳優でアーティストの福山雅治さんや佐々木蔵之介さん。格好いいだけでなく「何でも話せそうな親近感のある50代になった」と阪本所長は分析する。



◎50代のアイコン「80年代は石原裕次郎さん」?

まず「50代のアイコン」が「80年代は石原裕次郎さん」という説明が引っかかる。「石原裕次郎さん」は1987年に52歳で亡くなったようだ。だとすると80年代前半は40代で、50代も3年足らずで終わっている。それで「50代のアイコン」が「80年代は石原裕次郎さん」と言えるだろうか。

50代で出演した作品で世間に強烈なインパクトを与えたのならば、まだ分かる。だが、代表作のテレビドラマ「太陽にほえろ!」で「ボス」役を演じていたのは主に40代だ。「40代のアイコン」が「70年代は石原裕次郎さん」とは言えそうな気もするが…。

個人的には「太陽にほえろ!」の「ボス」を演じていた「石原裕次郎さん」に「兄貴的な要素」は全く感じなかった。「強面のオッサン」という印象だ。「磯野波平さん」以上に「威厳と貫禄たっぷりのお父さん」的存在だった。

00年代は渡辺謙さん」も苦しい。1959年生まれの「渡辺謙さん」は「00年代(2000~2009年)」のほとんどが40代に当たる。

次に移ろう。

【日経の記事】

昭和はアイドルもゲームも大人になるために卒業した。小学館のコロコロコミックは小学5年生までの男子が主な対象で、異性への興味が高まる頃に卒業する。コロコロコミック編集部はそれを「元服」と言っていた。

だが今は違う。「アイドルも作る側が『アイドル、ずっと好きでいいですよ』っていうかたちに変えていった」(堀井氏)。ライフサイクルの定型が崩れ、何歳になっても大人になれない、大人にならない人々が急増した。この流れはアイドルのみならず様々な売れ筋の変化を演出している。



◎説明になってないような…

小学館のコロコロコミックは小学5年生までの男子が主な対象で、異性への興味が高まる頃に卒業する。コロコロコミック編集部はそれを『元服』と言っていた。だが今は違う」という流れであれば、今では「コロコロコミック」を中高生や大人も読んでいるという話が要る。

しかし、なぜか「アイドル」に話が移ってしまう。「アイドル」の説明を生かしたいのならば、「アイドル」の応援も一定の年齢に達すると「卒業」していた事例を持ってくるべきだ。この辺りに書き手としての技量不足を感じる。

コロコロコミック」に関して言えば「異性への興味が高まる頃に卒業する」傾向は今も変わらない気がする。それだと話の辻褄が合わないので、おかしな説明になってしまったのだとは思う。その場合、「コロコロコミック」の話は思い切って捨てるべきだ。



※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~波平から福山雅治 若返る50代像 世代超えた商品人気に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190607&ng=DGKKZO45688130U9A600C1TJ1000

※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html