2017年9月30日土曜日

東芝メモリ売却、日経の記事に足りない「産業革新機構」

9月29日の日本経済新聞朝刊は東芝メモリの売却契約に関して1面、総合2面、企業総合面を使って大きく報じた。しかし、記事の本文に「産業革新機構」と「日本政策投資銀行」は見当たらない。企業総合面に載せた「日米韓連合への主な売却条件」という仕掛けに「東芝は、産業革新機構と日本政策投資銀行に対し指図権を付与(東芝が保有する議決権の一部を2社に供与)」と出てくるだけだ。これでは辛い。
宝満川(福岡県久留米市・佐賀県鳥栖市)
         ※写真と本文は無関係です

1面の記事のベースになったとみられる「東芝半導体、日米韓と売却契約 アップルも資金」という電子版の記事(28日23時48分)には「(ウエスタンデジタルとの)係争が終結した後に官民ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行も東芝メモリに資本参加する」との記述がある。しかし、紙の新聞には出てこない。

紙面化する段階で1面に残せなかったのは仕方ないかもしれないが、総合2面や企業総合面で「産業革新機構」と「日本政策投資銀行」について、きちんと解説することはできたはずだ。日本の半導体メーカーの歴史をおさらいするのもいい。ただ、それは今回発表になった内容について十分に分析した後の話だ。

また、今回付与された「指図権」には分からないことが多い。日経は「東芝が保有する議決権の一部を2社に供与」と書いているが、「一部」とはどの程度なのか。

それに、なぜ「指図権」を付与するのかも謎だ。総合2面の記事では「『2期連続の債務超過で株式上場廃止』との東京証券取引所規定があるが、東芝は17年3月末で自己資本が5529億円のマイナスとなる債務超過だった。売却が完了すれば自己資本を7千億円強押し上げ、2千億円規模のプラスになる」と解説している。債務超過を解消できて上場を維持できるのならば、「産業革新機構」と「日本政策投資銀行」が抜けたままのスキームでも問題なさそうに思える。

何らかの事情があって「指図権」を付与するのだろうが、29日の日経朝刊には何の説明もない。この点に関心を持って、翌日30日の朝刊を見ると総合6面に「東芝、半導体枠組み多難」という続報が出ていた。しかし、疑問に答えてくれるほどの中身ではなかった。

議決権構成 多い船頭、意思決定遅く」という見出しが付いた部分を見てみよう。

【日経の記事】

東芝メモリの議決権は東芝とHOYAの日本勢が過半を握る。一方、産業革新機構と日本政策投資銀行は、WDとの係争が終わるまで出資しない。その代わり、東芝が持つ議決権の一部を間接的に行使できる「指図権」と呼ばれる権利を手に入れる。

革新機構などは資本参加するまでの間に、東芝メモリの新経営陣が、革新機構などに不利な意思決定をしないよう監視できるメリットがある。例えば、東芝メモリの株主総会で東芝に対し決議の方向を指図できる。

東芝には東芝メモリの経営に両社が関与できる余地を残すことで、確実に出資してもらう狙いがあると見られる。ただ、指図権付与は国内では珍しく、どういった運用になるのか疑問の声も多い。

議決権のない優先株を取得するアップルなど米IT(情報技術)4社が、製品を引き取る権利にとどまらず、相応の発言力を持つ可能性もある。迅速な意思決定が競争力を決める半導体業界のなかで、船頭の多さは東芝メモリの経営の足かせになりかねない。


◎読むべき中身がないような…

30日の記事でも謎は解けないままだ。「議決権の一部」がどの程度なのかは、やはり教えてくれない。「東芝には東芝メモリの経営に両社が関与できる余地を残すことで、確実に出資してもらう狙いがあると見られる」とも書いているが、既に債務超過を解消できる仕組みが整っているのに、なぜ「確実に出資してもらう」必要があるのかも不明だ。「指図権付与」が「確実に出資してもらう」可能性を高めるものなのかも明確ではない。結局、疑問が膨らむばかりだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

日経の記者も「きちんと説明できていない」と言うより「自分たちも分からない」のだとは思う。だとしたら、自分たちにも分からないことは何なのかを記事中で明示してほしかった。そうすれば「今後はそこを取材してくれるだろう」との期待が持てる。今回のような内容だと、あまり読む意味がない。

付け加えると、「船頭の多さは東芝メモリの経営の足かせになりかねない」と言うが、議決権を持つのは産業革新機構と日本政策投資銀行を加えても5者で、大した数ではない。銀行や大口取引先が経営にある程度の影響力を持つのも、ごく普通だ。「経営の足かせになりかねない」と言うほど「船頭」は多くない気がする。東芝メモリの「船頭」が多過ぎだとしたら、上場企業は全て「船頭の多さ」が「経営の足かせ」になっているはずだ。


※今回取り上げた記事「議決権構成 多い船頭、意思決定遅く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170930&ng=DGKKZO21743130Q7A930C1EA6000


※記事の評価はD(問題あり)。29日の東芝関連の記事については以下の投稿も参照してほしい。

「東芝は日の丸メモリー最後の生き残り」と日経は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_99.html

「東芝、日米韓と売却契約」疑問ばかり浮かぶ日経の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_29.html

2017年9月29日金曜日

「東芝、日米韓と売却契約」疑問ばかり浮かぶ日経の解説

東芝メモリの売却契約を結んだと東芝が発表したことを受けて、29日の日本経済新聞朝刊1面に「東芝、日米韓と売却契約 半導体、アップルも資金」という記事が載っている。総合2面と企業総合面にも関連記事を入れて大きく報じているが、疑問ばかりが浮かぶ内容だった。記事を見ながら、気になる点に触れていきたい。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

1面の記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】
 
東芝は28日、米投資ファンドの米ベインキャピタルを軸とする「日米韓連合」と、半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却契約を結んだと発表した。売却額は2兆円で、東芝とHOYAの日本勢が東芝メモリの議決権の過半を握る。東芝は10月24日に開く臨時株主総会で株主から売却の承認を得る予定。原子力発電事業の巨額損失で揺らいだ東芝は、経営再建への一歩を踏み出す。

日米韓連合は買収目的会社を通じ東芝メモリを買収する。東芝とHOYAがそれぞれ3505億円、270億円を投じ目的会社の普通株などを取得する。両社合計で議決権の過半を握る。ベインは2120億円を拠出し、残りの議決権を持つ

韓国メモリー大手のSKハイニックスも融資などで3950億円を拠出する。SKは今後10年間にわたり、15%を超えて議決権を取得できないほか、東芝メモリの機密情報にアクセスできない。

東芝メモリと取引関係のあるアップル、デル、シーゲイト・テクノロジー、キングストンテクノロジーの米国4社は4155億円を拠出して議決権のない優先株を取得する。東芝の取引銀行は買収資金として合計6千億円を融資する。東芝メモリの売却を巡っては、協業先の米ウエスタンデジタル(WD)が売却差し止めを求めて国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てている。



◎「米ベインキャピタルを軸」?

日経の記事では、なぜ「米ベインキャピタルを軸とする」と言えるのかが見えてこない。出資額では東芝の「3505億円」に対し、ベインは「2120億円」に過ぎない。融資も含めて見れば「3950億円を拠出する」SKハイニックスが最大の資金の出し手だろう(取引銀行のどこかが最大となる可能性もある)。日経の説明だけでは「米ベインキャピタルを軸」としているのか判断できない。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

しかし、他紙の記事を見ると「米ベインキャピタルを軸」にしていると理解できる。例えば毎日新聞は「議決権ベースでは、東芝とHOYAの日本勢で議決権の50.1%を保有して主導権を握り、残る49.9%はベインが持つ」と書いている。この議決権の比率は、毎日に限らず多くのメディアが記事に入れていた。自分が見た範囲で入れていないのは日経ぐらいだ。日経の書き方だと「最大の議決権を持つのは東芝」だと感じてしまう。

さらに言えば、「東芝は半導体メモリー事業を完全に手放す」との前提で解説記事を書いているのも気になった。企業総合面の関連記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

15年12月。東芝は不正会計問題の収束を宣言するかのように「新生東芝アクションプラン」を公表した。核に据えたのが半導体メモリーと原子力を新たな経営の柱とする「2本柱構想」だった。

東芝は06年にWHを巨額買収して海外原発事業に本格参入した。メモリー事業は17年4~6月期には連結営業利益の9割を占める。2事業とも、会計問題を起こした西田厚聡氏、佐々木則夫氏の両トップ時代に賭けた成長事業だ。

会計問題の発覚後、東芝はグループの優良事業を次々と切り離して再建を図ってきた。白物家電や、市場の成長が見込める医療機器子会社を売却。相次ぐ切り売りでもなお2本柱を残し、世界市場での生き残りを図る戦略だった。

だが原子力は11年の東日本大震災で目算は狂い、製造業最大となる1兆円の最終赤字となって跳ね返る。WHは今年3月に経営破綻した。今回のメモリー事業売却で2本柱は喪失する



◎メモリー事業は「喪失」?

今回のメモリー事業売却で2本柱は喪失する」と書いているが、本当に東芝はメモリー事業を「喪失する」のか。東芝メモリの議決権の半分近くを東芝が持つのであれば「喪失する」とまでは言えない。関連会社として東芝の連結業績にも寄与し続けるはずだ。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
            ※写真と本文は無関係です

ついでに言えば、「2本柱」のもう1本である「原子力」も「喪失」とは考えにくい。「WHは今年3月に経営破綻した」としても、国内の原発事業は残るはずだ。

原発事業で大きな成長や利益貢献が見込めないのは分かるが、「喪失」とは言い難い。「2本柱」に関しては、細くなったとはいえ、いずれも残っている気がする。


※今回取り上げた記事

東芝、日米韓と売却契約 半導体、アップルも資金
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170929&ng=DGKKASDZ28HVJ_Y7A920C1MM8000

東芝、成長の柱失う 半導体売却/原発巨額損失 9カ月空費、人材流出止まらず
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170929&ng=DGKKZO21674120Y7A920C1TI1000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。今回の東芝関連の報道については以下の投稿も参照してほしい。

「東芝は日の丸メモリー最後の生き残り」と日経は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_99.html

東芝メモリ売却、日経の記事に足りない「産業革新機構」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_30.html

「東芝は日の丸メモリー最後の生き残り」と日経は言うが…

「東芝メモリの売却契約を結んだ」との東芝の発表を受けて、29日の日本経済新聞朝刊ではこの件を大きく報じている。そこには様々な問題を感じた。まずは間違いだと思えた説明を取り上げたい。これに関しては、以下の内容で日経に問い合わせを送ってみた。
豪雨被害を受けた大分県日田市 ※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

朝刊総合2面の「日の丸半導体 瀬戸際」という記事についてお尋ねします。記事に付けた図には「東芝は『日の丸メモリー』最後の生き残り」とのタイトルが付いています。記事中にも「かつて世界を席巻した『日の丸メモリー』各社が敗退する中、東芝メモリは最後のとりでだ」との記述があります。しかしルネサスエレクトロニクスのホームページを見ると、「製品情報」に 「Low Latency DRAM」が含まれており、以下の説明があるます。

Low Latency DRAMは、当社が長年培ったNetwork市場向けの超高速同期式SRAM技術と、Mobile市場向けの擬似SRAM技術を駆使して、新しく開発した Network機器用の大容量・超高速メモリです

これを信じれば、ルネサスは「Low Latency DRAM」という「大容量・超高速メモリ」を手掛けています。「低消費電力SRAM」の項目では「ルネサスは世界でNo.1の低消費電力SRAMサプライヤー」と記しています。SRAMも半導体メモリーの一種です。産業革新機構が50%強を出資するルネサスは「日の丸メモリー」として生き残っているのではありませんか。

東芝は『日の丸メモリー』最後の生き残り」という説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が当たり前になっています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「日の丸半導体 瀬戸際
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170929&ng=DGKKZO21680540Z20C17A9EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の東芝関連の報道については以下の投稿も参照してほしい。

「東芝、日米韓と売却契約」疑問ばかり浮かぶ日経の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_29.html

東芝メモリ売却、日経の記事に足りない「産業革新機構」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_30.html

2017年9月28日木曜日

レバレッジ10倍なら元本消えず? 日経「FX倍率、上限下げへ」

28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「FX倍率、上限下げへ 現行25倍→10倍に 金融庁検討、来年にも」という記事には色々と疑問が浮かんだ。記事を見ながら、問題点を指摘してみたい。
ヒシャゴ浦・姉妹岩(大分市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

金融庁は外国為替証拠金取引(FX)の証拠金倍率(レバレッジ)を引き下げる検討に入った。現行の最大25倍から10倍程度に下げる案が有力。外国為替相場が急変動した際、個人投資家や金融機関が想定を超える損失を抱えるリスクが高まっていると判断した。国内取引高は約5千兆円に上る。規制見直しで日本発の市場混乱を防ぐ。



◎最近になって「リスク」上昇?

なぜ今「レバレッジを引き下げる検討に入った」のか、よく分からない。記事では「外国為替相場が急変動した際、個人投資家や金融機関が想定を超える損失を抱えるリスクが高まっている」ことを理由に挙げている。しかし、以前に比べて「リスクが高まっている」感じはしない。「相場が急変動」した時のリスクがここに来て「高まっている」と言える根拠は示してほしかった。

続いては、言葉の使い方に一言。

【日経の記事】

金融庁はFXの業界団体、金融先物取引業協会と規制見直しに向け協議を開始。早ければ来年にも内閣府令を改正して実施する可能性がある



◎不要な「可能性がある」

上記の「可能性がある」は省いていい。冒頭で「検討に入った」と書いているのだから、決定事項でないのは自明だ。「早ければ来年にも内閣府令を改正して実施する」で何の問題もない。無駄な言葉は省いて簡潔に記事を書いてほしい。

次に、この記事で最も気になった記述を見てみよう。

【日経の記事】

個人投資家は現在、手元資金の25倍までの範囲で取引できる。手元に4万円の証拠金があれば、100万円まで取引できる計算だ。レバレッジを10倍にすると、必要な証拠金は10万円になる。金融庁は過去の為替相場から、変動率がどんなに大きくなっても元本がなくならないようにする方針で、現在は「10倍程度」が妥当とみている



◎「元本がなくならない」?

まずは細かい問題から。「手元に4万円の証拠金があれば」という表現は引っかかる。証拠金は業者に預けてしまうので「手元に」ある感じはしない。「4万円の証拠金を用意できれば、100万円まで取引できる計算だ」などとした方が適切ではないか。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

さらに言うと、ここでは「元本証拠金」という意味で使っているようだが、誤解を招きやすい気がする。間違いとは言わない。ただ、「元本想定元本」との解釈もできる。記事の例では「100万円」に当たる。「元本がなくならない」については、「証拠金がなくならない」で十分ではないか。

最後に、最も気になった「変動率がどんなに大きくなっても元本がなくならない」件を考えたい。レバレッジ「10倍程度」で「変動率がどんなに大きくなっても元本がなくならないよう」にできるとは考えにくい。10%の価格変動で「元本(証拠金)」が全てなくなる計算だ。為替市場で10%を超える価格変動は容易に起こり得る。

金融庁が言う「変動率がどんなに大きくなっても元本がなくならない」とは、「1日の間で」といった条件が付くのではないか。これならまだ分かる。記事を素直に読むと「レバレッジ10倍ならば、長期で取引しても証拠金を全て失うような事態は起きない」と感じてしまう。

仮に「変動率がどんなに大きくなっても」と言うのが「1日の間」だとしても、レバレッジ「10倍程度」で「元本がなくならないよう」にできるかも、やや怪しい。英国のEU離脱決定を受けた2016年6月24日の記事では、日経自身が「対ポンドに至っては早朝に1ポンド=160円ほどのレートが135円と数時間のうちに2割近く急騰」と書いている。これだと、10倍のレバレッジでも証拠金が吹き飛んでしまう可能性は十分にある。

金融庁が調べた「過去の為替相場」とは「過去のドル円相場」なのかもしれないが、FXはドル円だけが対象ではない。


※今回取り上げた記事「FX倍率、上限下げへ 現行25倍→10倍に 金融庁検討、来年にも
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170928&ng=DGKKASDF27H0R_X20C17A9MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年9月27日水曜日

「脱時間給」推進と矛盾する日経社説「学校現場の疲弊を防ぐには」

27日の日本経済新聞朝刊総合1面に「学校現場の疲弊を防ぐには」という社説が載っている。これ自体に大きな問題はない。ただ、「脱時間給」制度の導入を熱心に訴えてきた従来の主張とは矛盾を感じる。まず、「ブラック企業まがいの長時間労働の実態を重く受け止め、教員の働き方改革を進めてほしい」と求める社説の一部を見ていこう。
筑陽学園高校(福岡県太宰府市)※写真と本文は無関係です

【日経の社説(9月27日)】

公立校の教員の時間外労働の割増賃金は労働基準法の対象外だ。「教職員の給与に関する特例法」は、「残業代や休日出勤手当を支給しない」と定める。一方で、給与額の4%を実質的な超勤報酬として一律に支給する。時間管理は不要、との慣習を生む一因だ。

同法は、40年以上前の教員の勤務実態を参考に施行された。近年の多忙な学校職場の実態にそぐわない。文科省は、部活動休養日の導入、外部の部活指導員や事務専門職員の配置など、当面の緊急対策を打ち出した。だが、今後は同法の見直しも検討課題となろう


◎「脱時間給」に近い制度のような…

公立校の教員」に「残業代や休日出勤手当を支給しない」のは、日経が導入を強く訴えてきた「脱時間給」に近いやり方だ。だが、「時間管理は不要、との慣習を生む一因」になっているとして、「教職員の給与に関する特例法」の見直しも検討するよう求めている。これは苦しい。日経の従来の主張を確認するために「政労使合意なくても労基法改正を確実に」という社説を見てみよう。

【日経の社説(7月28日)】

経済のソフト化・サービス化が進み、成果が働いた時間に比例しない仕事が増えている現実がある。働く時間が長いほど生産が増える工場労働なら時間に応じて賃金を払うことが合理的だが、企画力や独創性が問われるホワイトカラーにはそぐわない。成果重視を前面に出すことで、脱時間給は働く人の生産性向上を促せる。

脱時間給は長時間労働を招きかねず、残業を規制する動きと矛盾する、とも指摘される。だが新制度では本人が工夫して効率的に働けば、仕事の時間を短縮できる。その利点に目を向けるべきだ。


◎教員も「ホワイトカラー」では?

働く時間が長いほど生産が増える工場労働なら時間に応じて賃金を払うことが合理的だが、企画力や独創性が問われるホワイトカラーにはそぐわない」と言うのならば、教員にも「脱時間給」が合っているはずだ。教員は「企画力や独創性が問われるホワイトカラー」に含めてもよいだろう。
鳥栖プレミアム・アウトレット(佐賀県鳥栖市)
        ※写真と本文は無関係です

成果重視を前面に出すことで、脱時間給は働く人の生産性向上を促せる」のだから、教員に関しても、「残業代や休日出勤手当を支給しない」やり方は温存して「成果重視を前面に出す」ように求めるのが自然だ。

例えば、顧問を務める部活動が全国大会などに出場したらボーナスを上積みするといった方法が考えられる。過重労働を助長しそうな気もするが、日経の従来の立場で言えば心配は要らない。「本人が工夫して効率的に働けば、仕事の時間を短縮できる」のだから。

しかし、なぜか「ブラック企業まがいの長時間労働の実態を重く受け止め、教員の働き方改革を進めてほしい」と社説で書いてしまう。これは「脱時間給」制度が「ブラック企業まがいの長時間労働」を招きやすいと日経自身が認めてしまったようなものだ。


※今回取り上げた社説「学校現場の疲弊を防ぐには

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170927&ng=DGKKZO21574080W7A920C1EA1000

※27日の社説の評価はC(平均的)。

2017年9月26日火曜日

「最大18時間は絶食」で意味通じる? 週刊ダイヤモンドに疑問

週刊ダイヤモンド9月30日号に載った「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 367~ 最大18時間は(!)絶食のこと 朝・昼2食でBMI低下」という記事に不自然な言葉の使い方があった。見出しにもなっている「最大18時間は絶食」に関して、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

井手ゆきえ様  週刊ダイヤモンド編集部 担当者様

9月30日号「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 367~ 最大18時間は(!)絶食のこと 朝・昼2食でBMI低下」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

7年間にわたる追跡調査の結果、研究チームはBMIの低下と関連する要因を見つけ出した。すなわち、(1)1日に1食または2食しか食べない、(2)夜間~次の日の朝まで最大18時間は絶食する、(3)朝食を抜かない、(4)夕食ではなく、朝食または昼食が1日のうちで最もたくさん食べる食事である、の四つだ

気になったのは「最大18時間は絶食する」という部分です。時間は「最大」でなく「最長」とした方が適切だとは思いますが、ここでは問題にしません。「最大18時間は絶食」と言う場合、「絶食は長くても18時間」と解釈できます。しかし、これだと最小(最短)でどの程度の絶食をすればよいのか不明です。

記事には「この研究から導き出される肥満を避けるための『健康的な食習慣』は、朝食後5~6時間空けて昼食を食べ、その後の18~19時間は絶食する、というもの」との解説もあります。絶食時間は「最大18時間」だったはずなのに、最大値を超えた「19時間」という絶食が「健康的な食習慣」に含まれており、「最大18時間は絶食する」と矛盾します。

最大18時間は絶食する」という部分は「18時間以上は絶食する」などとすべきではありませんか。記事中の「最大」の使い方は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

ついでに他にもいくつか指摘しておこう。

【ダイヤモンドの記事】

現代人の「趣味」になった感があるダイエット。ダイエット法の新説、奇説が毎日生まれては消えている。先日、新しい方法がもう一つ加わった。

米ロマ・リンダ医科大学のチームによる食習慣と体格指数(BMI)に関する大規模・長期調査によると、キーは食事の回数と食べる時間帯らしい。


◎「奇説」の1つに見えるような…

ダイエット法の新説、奇説が毎日生まれては消えている」の「毎日生まれては消えている」は大げさかなと思うが、取りあえずそうだとしよう。ただ、記事の書き方だと「米ロマ・リンダ医科大学のチーム」の話も「奇説」の1つに見えてしまう。筆者は「奇説」とは判断していないはずだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

以下の説明も引っかかった。

【ダイヤモンドの記事】

研究者によると、食事パターンに限らず中高年期の体重増加は免れないが「1日の早い時間にカロリーを摂取する人は、60歳以前の体重増がより少ない範囲にとどまり、60歳以降も順調に体重が減った」そうだ。


◎矛盾してない?

食事パターンに限らず中高年期の体重増加は免れない」はずなのに、「1日の早い時間にカロリーを摂取する人」は「60歳以降も順調に体重が減った」という。矛盾していないか。

例えば「食事パターンに限らず中高年期の体重増加は免れないと思われてきたが~」となっていれば矛盾はない。そう言いたかったのかどうかは分からないが…。

最後にもう1つ。

【ダイヤモンドの記事】

この研究から導き出される肥満を避けるための「健康的な食習慣」は、朝食後5~6時間空けて昼食を食べ、その後の18~19時間は絶食する、というもの。もちろん間食はご法度だ。


◎「朝食のみ」はなぜ除外?

豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です
BMIの低下と関連する要因」は「(1)1日に1食または2食しか食べない、(2)夜間~次の日の朝まで最大18時間は絶食する、(3)朝食を抜かない、(4)夕食ではなく、朝食または昼食が1日のうちで最もたくさん食べる食事である」の4つだったはずだ。

なのに、なぜか筆者は「この研究から導き出される肥満を避けるための『健康的な食習慣』は、朝食後5~6時間空けて昼食を食べ、その後の18~19時間は絶食する、というもの」と2食に限定してしまう。「朝食のみ」でも4つの条件を全て満たすはずだ。


※今回取り上げた記事「カラダご医見番 ライフスタイル編 Number 367~ 最大18時間は(!)絶食のこと 朝・昼2食でBMI低下
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21355


※記事の評価はD(問題あり)。医学ライターである井手ゆきえ氏への評価も暫定でDとする。

2017年9月25日月曜日

日経「上がらない物価 世界を覆う謎」の奇妙な解説

24日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「上がらない物価 世界を覆う『謎』 原油安や供給過剰が原因? 金融政策に難題」という記事は無理のある奇妙な説明が目立った。着眼点は悪くないが、筆者(今堀祥和記者と高見浩輔記者)の分析力に難があるのだろう。
豪雨被害を受けた宝珠山駅(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

まず、最初の「奇妙な説明」を見ていこう。

【日経の記事】

国際決済銀行(BIS)のまとめでは、6月の物価上昇率が1%に満たない国は15カ国に上る。アイルランドなど4カ国はマイナス圏をさまよう。成長期待の高いインドでも6月の物価上昇率が1.5%と8年ぶりの低水準。国際通貨基金(IMF)は2017年の新興国の平均物価上昇率が4.6%となり、先進国との差が過去最小に縮むと予想している。

低インフレの理由として考えられるのはまず原油安だ。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は14年半ばの1バレル100ドルから下落し、最近は50ドル程度で推移。このあおりで16年6月までは4%台だったサウジアラビアの物価上昇率は17年1月に大きく下がり、今もマイナス圏にある。



◎時期がズレ過ぎでは?

記事に付けたグラフを見ると、2016年の初めまで下落基調だった原油相場はその後に上昇へ転じ、16年の半ばからはほぼ横ばい圏だ。「16年6月までは4%台だったサウジアラビアの物価上昇率」が「17年1月に大きく下がり、今もマイナス圏にある」理由にするには時期がズレ過ぎている。何らかの理由で大きな時間的ズレが生じる構造になっているのならば、その点を解説すべきだ。

次の「奇妙な説明」に移ろう。

【日経の記事】

供給力の問題もある。経済発展に伴って中国などの「世界の工場」である新興国では生産拠点が急拡大し、巨大な供給力が生まれた。一方でリーマン危機前には7~8%台あった新興・途上国の成長率は5%弱に減速しており、結果として大きな供給力に見合うだけの需要がない「供給過剰」の状態になっている。

経済協力開発機構(OECD)の統計では、需給ギャップはメキシコでマイナス2.5%、トルコでマイナス4.5%と大きい。需給ギャップは実際の国内総生産(GDP)と、民間設備と労働力を使って生み出せる潜在GDPとの差だ。一部の国ではなお需要不足で物価が下がりやすい状態だ


◎メキシコやトルコも低インフレ?

上記のくだりを読むと、需給ギャップのマイナスが大きいメキシコやトルコは、低インフレの新興国の代表格だと感じる。実際は違うのではないか。「メキシコ、物価上昇16年ぶり高水準 8月6.66%」という8日付の日経の記事には以下の記述がある。
比良松中学校(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

1月に政府がガソリン価格を引き上げたほか、トランプ米政権発足前後に通貨ペソが米ドルに対し急速に弱含んだことをきっかけに物価上昇が続いている。メキシコ銀行(中央銀行)のカルステンス総裁は当面6%台の上昇率が続くとしながらも、18年後半には目標である3%台に落ち着くとの見方を示している。

◇   ◇   ◇

物価上昇16年ぶり高水準」で、インフレ率6%台のメキシコを「低インフレ」と見なすのは困難だ。メキシコは需要不足なのかもしれないが、それが「物価が下がりやすい状態」を招いているとは考えにくい。トルコも最近の物価上昇率は10%前後と高いようだ。記事の説明は成立していないと言うほかない。


※今回取り上げた記事「上がらない物価 世界を覆う『謎』 原油安や供給過剰が原因? 金融政策に難題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170924&ng=DGKKZO21470280T20C17A9EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。今堀祥和記者への評価は暫定でDとする。暫定でDとしていた高見浩輔記者への評価はDで確定とする。


※高見浩輔記者については以下の投稿も参照してほしい。

「損保市場は長らく鎖国状態」? 日経「真相深層」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_13.html

説明不足が目立つ日経 高見浩輔記者の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_15.html

2017年9月24日日曜日

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾

ジャーナリストで元日本経済新聞編集委員の大西康之氏がFACTA10月号に書いた「東芝『日米韓連合』逆転の真相」という記事を読んで驚いた。8月号では「(経産省の)庇護を受けられなくなった東芝には、応分の沙汰が下ることだろう」と解説していたのに、10月号では「東芝本体の救済にこだわる」経産省の姿を描いている。
豪雨被害を受けた大分県日田市 ※写真と本文は無関係です

FACTAには以下の内容で問い合わせを送っている。

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA編集部 担当者様

10月号の「東芝『日米韓連合』逆転の真相」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは、7月5日の経産省人事に関する記述です。10月号では以下のように記しています。

7月5日、経産省で大きな人事異動があった。東芝再建の窓口である商務情報政策局の局長には、安藤久佳に代わり貿易経済協力局長だった寺澤達也が就任した。同時に東芝問題を担当していた情報通信機器課は情報産業課に改組され、課長も三浦章豪から成田達治に代えられた。通常、中央官庁の人事では、仕事の継続性を考え、重要案件を担う部署の局長と課長が同時に代わることはない。局長、課長セットでの交代には東芝問題に対する世耕弘成経産相の苛立ちが透けて見える。『とにかくメモリ事業を早く売らせて東芝本体を守れ』とのお達しである

これを信じれば、7月5日の人事は経産省が東芝本体を守る姿勢を鮮明にしたものと言えます。ところが8月号の「東芝弄んだ『経産の大ワル』」では全く異なる解説になっています。記事の最後で大西様は以下のように記事を締めています。

しかし経産省による東芝救済はついにデッドロックに乗り上げた。7月の経産省人事を見れば一目瞭然。安藤は外局の中小企業庁長官、ターゲティング派の頭目とされた経産政策局長の柳瀬唯夫は経産審議官に棚上げされ、次官の目はほぼ消えた。ターゲティング派に黄昏が迫る。庇護を受けられなくなった東芝には、応分の沙汰が下ることだろう

ここでは7月5日の人事を「ターゲティング派に黄昏が迫る」動きと捉え、「庇護を受けられなくなった東芝」の救済の道が絶たれつつあると結論付けています。同じ日付の人事を同じ筆者が解説しているのに、正反対とも言える分析です。

10月号では「『もう時間切れ。政府は東芝メモリの売却を諦め、別の方法で東芝本体に金を入れる方法を考え始めた』(金融関係者)」「そうまでして政府が東芝本体の救済にこだわるのは『原発推進』という国策を堅持する上で東芝が必要不可欠な『手駒』であり、『防衛産業』という裏の顔を持つからだ」との記述もあります。これも「庇護を受けられなくなった東芝には、応分の沙汰が下ることだろう」という8月号の解説と整合しません。

8月号と10月号の説明は矛盾していると考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。8月号の分析が間違っていたので10月号で修正を図ったと見るのが自然だとは思います。その場合、8月号の解説に問題があったことを10月号の記事で読者に伝えるべきです。

お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


◇   ◇   ◇

10月号の記事の冒頭で大西氏は以下のようにも書いている。

【FACTAの記事】

東芝メモリの売却について、主力銀行から「最終リミット」とされていた9月13日、東芝は簡単なリリースを出した。
九州北部豪雨後の福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です

「本日開催の取締役会でベインキャピタルを軸とする企業連合と同新提案に基づいて9月下旬までの株式譲渡契約締結を目指して協議を加速していくこととし……」

企業のニュースリリースで「目指して」「加速」するとは、「何も決まっていない」の同義。「米ウエスタンデジタル(WD)への売却で決まり」と書いてきた新聞は、軒並み誤報を打ったことになる



◎自分の誤報はどう釈明?

『米ウエスタンデジタル(WD)への売却で決まり』と書いてきた新聞は、軒並み誤報を打ったことになる」などと言う前に、大西氏は自分の「誤報」について説明責任を果たすべきだ。

10月号の記事の解説が現実に即しているとの前提で言えば「ターゲティング派に黄昏が迫る。庇護を受けられなくなった東芝には、応分の沙汰が下ることだろう」との8月号の説明は「誤報」に当たるはずだ。8月号では経産省の動きを見誤っていたとしても、それ自体を責めるつもりはない。問題は大西氏が自らの不明を認められるかどうかだ。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「東芝『日米韓連合』逆転の真相
https://facta.co.jp/article/201710003.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

2017年9月23日土曜日

事実誤認のマスコミ批判が残念 池田清彦氏「正直者ばかりバカを見る」

経済記事でも経済メディアでもないが、今回は角川新書の「正直者ばかりバカを見る」という本を取り上げたい。筆者の池田清彦氏は賢くて立派な人だとは思う。ただ「日本のマスコミが政権を追及しない」という誤った認識に基づいた批判は残念だった。この件でKADOKAWAに問い合わせを送ったところ、約半月後に回答が届いた。本の当該部分と併せて、その内容を紹介したい。

【「正直者ばかりバカを見る」の一部】

豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です
日本のマスコミが政権を追及しないのは、マスコミの中枢にいる人も落ちこぼれたマジョリティではなく、政権とグルになっている成功したマイノリティだからである。アメリカでは、大手新聞の1つNYタイムズが、トランプは史上最低の大統領候補だと切り捨てる社説を掲載したところを見ると、マスコミの矜持はまた健在のようである。日本のマスコミの多くは腐っているので、日本のトランプ・安倍晋三の批判はしないようである


【KADOKAWAへの問い合わせ】

担当者様

池田清彦氏が書かれた「正直者ばかりバカを見る」という新書を購入して拝読させていただきました。ほとんどは納得できる内容だったのですが、事実誤認と思われる記述が37ページにありました。

日本のマスコミが政権を追及しない」「日本のマスコミの多くは腐っているので、日本のトランプ・安倍晋三の批判はしないようである」と池田氏は述べています。しかし、加計学園の問題だけを取っても「日本のマスコミが政権を追及しない」と考えるのは無理があります。ご承知の通り、テレビ、新聞、雑誌などで「追及」は山のようになされています。「安倍晋三の批判はしないようである」と池田氏が感じたのも不思議です。例えば朝日新聞や毎日新聞の社説を見るだけでも、数多くの「安倍晋三批判」を見つけられます。「日本のマスコミの多くは腐っている」かもしれませんが、政権批判は珍しくありません。

37ページの説明に関しては、事実誤認と考えてよろしいでしょうか。誤りではないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【KADOKAWAからの回答】

KADOKAWA カスタマーサポートです。
この度は角川新書『正直者ばかりバカを見る』をお買上げいただき、誠にありがとうございます。

また、返信までにお時間をいただきましたことを深くお詫び申し上げます。

ご指摘の個所につきましては、形としての「追及」や「批判」ではなく、マスコミとして求められる「追及」や「批判」に足りえているかどうか、という著者自身の見解や主張が含まれている行であると認識しています。

しかしながら、鹿毛様からお寄せいただいたご指摘は、貴重なご意見として真摯に受け止め、表記及び表現等の参考とさせていただきたく存じます。

読者の皆様にお楽しみいただける書籍作りに努めてまいりますので、これからも弊社製品をご愛顧くださいますよう心よりお願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

回答の内容から判断すると、筆者の池田氏に「こういう問い合わせが来てますが…」と伝えてはいないのだろう。なのに、なぜ回答に半月もかかったのかとは思うが、無視で済ませなかったことは評価したい。回答は当然にかなり苦しい内容となっている。
豪雨被害を受けた大行司駅(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

池田氏に限らず、マスコミ批判というのは自分の思い込みに基づく不正確なものが多い。そう言えば、ジャーナリストの櫻井よしこ氏も週刊ダイヤモンド9月2日号で加計学園の問題について「『朝日』『毎日』『東京』などは、氏を徹底的に無視した」と書いていた。

ここで言う「」とは前愛媛県知事の加戸守行氏を指す。しかし、調べてみると少なくとも毎日新聞は加戸守行氏の主張をしっかりと伝えていた。この点を週刊ダイヤモンドや櫻井氏のホームページを通じて問い合わせたが、何の回答もない。

マスコミ批判は大いになされるべきだ。その場合、事実確認はきちんとすべきだ。事実誤認があったのに無視で済ませるような人間にマスコミ批判の資格はない。


※格付けは見送るが、「正直者ばかりバカを見る」という本は全体で見れば読むに値する内容だった。池田清彦氏への高い評価も崩していない。


※櫻井よしこ氏への問い合わせについては以下の投稿を参照してほしい。

毎日は加戸氏を「徹底的に無視」? 櫻井よしこ氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_29.html

2017年9月22日金曜日

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」には、「Part 3~丸分かり『株投資』入門」の最初に「知らなきゃ大損!? 株投資の基本 売買の王道手法を徹底解説」という記事が載っている。「基本中の基本について解説していこう」と言うのでどんな話かと思ったらテクニカル分析の1つを「初心者に最も分かりやすくかつシンプル」だと紹介している。個人的にテクニカル分析の有効性を信じていないからでもあるが、テクニカル分析を「初心者」に勧めるのは感心しない。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

記事では以下のように書いている。

【ダイヤモンドの記事】

相場全体の変遷をつかんだら、次は売買のタイミングだ。それを探る上で、初心者に最も分かりやすくかつシンプルなのが、「グランビルの法則」だろう。値動きのデータを基にした「テクニカル分析」の王道とされ、米投資家が編み出した法則だ。

下図は、投資家に人気で売買高が大きい、三菱UFJフィナンシャル・グループの株価の推移を基にして、この法則の概要を示したものだ。

ここでは、「200日移動平均線」の見方を学んでおこう。これは、過去200日間の終値の平均値で、中長期の株価の方向性をつかむためのものだ。

この移動平均線を株価が上回りながら重なることを「ゴールデンクロス」と呼び、買いを入れるシグナル((3)、(6))になる。逆に移動平均線を下回りながら重なったら「デッドクロス」といい、売りのシグナル((1)、(5)、(7))と見なすわけだ。

さらに、移動平均線が上昇しているときに株価が一時的に下がり、すぐに上がり始めたら「押し目買い」((4))。移動平均線が下降しているときに、株価が一時的に上がり、すぐに下がり始めたら「戻り売り」((2))のシグナルと判断するのが基本的な取引の流れだ。

投資家で移動平均線を知らない人は皆無といってよく、売買のタイミングを見極める上でその多くが意識をしている。

そのため、移動平均線と株価が重なる局面では、値動きが大きくなりやすい。株価の急変動で売買のタイミングを逸しないように気を付けよう。

また、当然ながらこの法則は絶対的なものではない。法則上、押し目買いのシグナルが出ていても、株価が下がり続けてしまうようなケースはざらにある。

あくまで売買のタイミングを探る上での、一つの材料でしかないことを肝に銘じておこう。


◎そんなに「分かりやすい」?

テクニカル分析については有効性が証明されていないと思っている。これは特別な見方ではないはずだ。取材班は違う考えなのだろうし、それはそれでいい。だが「初心者」にテクニカル分析を「基本中の基本」として教えるのならば、テクニカル分析に有効性が認められる根拠を示してほしい。もしあればの話ではあるが…。
豪雨で流された夜明橋(大分県日田市の大肥川)
           ※写真と本文は無関係です

さらに言うと、「分かりやすくかつシンプル」かなとも思う。記事で紹介した「グランビルの法則」に従って投資すれば、市場平均を上回るリターンが継続的に得られるのならば、確かに「分かりやすくかつシンプル」だ。

しかし記事では「当然ながらこの法則は絶対的なものではない。法則上、押し目買いのシグナルが出ていても、株価が下がり続けてしまうようなケースはざらにある。あくまで売買のタイミングを探る上での、一つの材料でしかないことを肝に銘じておこう」と逃げも打っている。こうなると「初心者」がどうテクニカル分析を用いるべきか全く分からなくなる。せめて、どういう場合にテクニカル分析での「シグナル」を無視すべきかは解説すべきだ。

そもそも今回の特集では、長期の積み立て投資を推奨していたはずだ。投資初心者が長期手の積み立て投資を始める際に「基本中の基本」としてテクニカル分析を学ぶ意味があるのか。使えるとしても、長期投資の最初と最後だけだ。

編集後記に当たる「記者の目」で深澤献編集長は今回の特集を「『長期・分散・少額』をキーワードに、相場の短期的な動きに惑わされない投資の勧めです」と紹介している。だったら、なおさらテクニカル分析を学ぶ必要はないはずだ。

今回の特集は間違いが多いし、投資初心者に誤解を与える解説も目立った。深澤編集長を含め猛省を促したい。


※今回取り上げた記事「知らなきゃ大損!? 株投資の基本 売買の王道手法を徹底解説
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21273


※記事の評価はD(問題あり)。特集全体の評価はE(大いに問題あり)とする。

特集の担当者への評価は以下の通り。

竹田幸平記者(暫定D→暫定E)
竹田孝洋記者(D→E)
中村正毅記者(暫定C→暫定E)
藤田章夫記者(暫定C→暫定E)


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

2017年9月21日木曜日

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」の中の「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て」という記事の問題点をさらに指摘していく。この記事で目立つのがご都合主義的な比較だ。まずは「積み立て投資」に関する説明から見ていこう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

「分散」とは、株や債券など複数の資産にお金を振り分けるだけでなく、積み立て投資に伴う“時間分散”の効果も指す。この観点からも、多くの企業の株式などに分散投資する投信が、資産形成の手段の王道となっている。

積み立て投資の効用が分かりやすいのが下図だ。仮に日経平均株価が最高値を付けた1989年末に同株価指数に一括投資した場合と、毎月積み立て投資をした場合の収益を比較したものだ。

その差は歴然で、同じ対象に同時に投資したにもかかわらず、後者は40%超も資産が増えている。相場が下がった際に多くの買い入れができたためで、これがいわゆるドルコスト平均法だ。



◎なぜ「最高値」の時を選ぶ?

投資初心者が上記の説明に触れたら「そうかドルコスト平均法でやると利益が得られやすいんだ」と思ってしまうかもしれない。しかし、記事での比較はあまりに恣意的だ。「日経平均株価が最高値を付けた1989年末」という「一括投資」には最悪のタイミングを選んで「毎月積み立て投資をした場合」と比べている。これでは「積み立て投資」の成績が良くなるのは当然だ。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(大分県日田市)
           ※写真と本文は無関係です

こんな比較で良ければ「一括投資」が有利という話も簡単に作れる。バブル後の最安値を付けた2008年の7000円割れの水準から投資を始めれば、運用成績で「一括投資」が「積み立て投資」を圧倒するはずだ。だからと言って「一括投資」が優れているとも、もちろん言えない。これもご都合主義的な比較だからだ。

どんなタイミングで投資を始めても、「積み立て投資」の方が有利と言えるのならば「積み立て投資」を勧めるのも分かる。しかし、そんな根拠はないはずだ。筆者が分かっていて読者を欺くような説明をしたのか、分からずに書いているのかは判然としない。ただ、後者の可能性が高いような気がする。

積み立て投資の効用」を示した記事中の「下図」では「出所:コモンズ投信」と出ていた。投信を売る側にとっては、継続的に資金が入ってきて投資総額も膨らみやすい「積み立て投資」に投資家を誘導したいのは理解できる。投信を売る側の「積み立て投資の方が投資家にとっても有利なんですよ」といった説明を筆者は安易に信じてしまったのかもしれない。

この記事には、他にもご都合主義的な比較がある。

【ダイヤモンドの記事】

「長期・積み立て・分散投資」を続けた結果、複利効果も相まって運用成績に大きな差が出てくることが分かるのが、上右図だ。とりわけ、この図で明らかなのは、国内の株や債券だけでなく、「基本6資産」と呼ばれる国内・先進国・新興国の株と債券に分散投資した場合の運用効果の大きさである。

過去20年の実績を比べると、国内の株・債券に半分ずつ投資した場合と比べ、実に倍以上のリターンをたたき出しているのだ。


◎なぜ「国内の株・債券」と比較?

「国内株」「国内債券」「先進国株」「先進国債券」「新興国株」「新興国債券」を「基本6資産」と呼び、「分散投資した場合の運用効果の大きさ」が「明らか」だと訴えている。「国内の株・債券に半分ずつ投資した場合と比べ、実に倍以上のリターンをたたき出している」そうだ。しかし、これでは「分散」が大切だとは言い切れない。
九州北部豪雨後の福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

基本6資産」に分散投資した場合と、「国内の株・債券」を外して「4資産」に留めた場合を比べたらどうか。「4資産」が勝つはずだ。「基本6資産」は分散をやり過ぎて運用成績を落としていることになる。分散投資の重要性は否定しないが、記事のような比較はご都合主義との誹りを免れない。

この「上右図」も金融庁の資料で、金融庁自身が分散投資の大切さを説くものではあった。なので筆者に同情の余地はある。ただ、投資に関する解説記事を書くのならば「この金融庁の資料は比較が恣意的だ」と気付いてほしかった。


※今回取り上げた記事「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21287

※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」

やたらと間違いが目立つ週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」の中でも「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て」という記事は問題が多かった。この記事は「Part 1~『長期・分散・少額』投資のススメ」の最初に出てくる。「長期・分散」は分かるが、なぜ「少額」を勧めるのか理解できなかった。
九州北部豪雨後のJR日田彦山線(福岡県東峰村)
            ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

つまるところ、資産形成とは「あなたの残りの人生にお金は幾ら必要なのか」を見定め、必要額を確保するために個人資産の積み上げ方を考える取り組みといえる。

その際、人生の終局に資産がゼロになることをイメージする「逆算の資産準備」(左図参照)という考え方を提唱しているのが、フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長だ。

この図は30歳で一から資産形成を始めた場合、30代に毎月4万円、40代で同5万円、50代では同6万円を積み立てながら、年率3%で運用した場合の資産の増減をイメージしたものだ。

特徴的なのが、積み立て投資を行った後、60~75歳の間を「使いながら運用する時代」と位置付けていることだ。ここでは、積み立てた資産から定率で毎年4%ずつ引き出しながら、残りの資産をそれまでと同じ年率3%で運用することを想定している。運用効果を発揮することで、資産の減少ペースを和らげられるというわけだ。

また、75歳以降は全て現金に換えて資産を「厳格に使う時代」としており、それから毎月10万円ずつ引き出していった場合、95歳でほぼ資産が尽きる計算となる。

こうしたロードマップを描く際、念頭に置いてほしいのは「長期」「分散」「少額」という三つのキーワードだ。

資産形成に踏み出す人の多くは、まだ資産全体に占める現金の割合が多いだろうが、「少額」でもよいので、持っているお金の一部を運用に回し、それを「長期」の視点で続けるのが肝要となる


◎必要額が自ずと決まるのでは?

資産形成とは『あなたの残りの人生にお金は幾ら必要なのか』を見定め、必要額を確保するために個人資産の積み上げ方を考える取り組み」だと述べた上で「人生の終局に資産がゼロになることをイメージする『逆算の資産準備』」の考え方を紹介している。ここまでは分かる。だが、その後にキーワードとして「少額」を打ち出しているのが解せない。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

資産形成に踏み出す人の多くは、まだ資産全体に占める現金の割合が多いだろうが、『少額』でもよい」と記事では説明する。しかし、お金の「必要額を確保するために個人資産の積み上げ方を考える」のであれば、「少額でもよい」とは言えない。

記事に付けた図では60歳時点で2800万円の資産を築くために「年率3%で運用することを想定」して積立額を決めている。それが「30代に毎月4万円、40代で同5万円、50代では同6万円」だ。取材班が「少額」の基準をどう考えているか分からないが、月6万円を「少額」とは取らない人も多いだろう。

何より、必要な資金や運用利回りの前提が決まってくれば、必要な積立額も自ずと決まる。上記のケースで言えば、「少額」でもいいのだからと最後まで月1万円の積み立てに留めていたら、目標に届く可能性は非常に低い。


※今回取り上げた記事「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21287


※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

2017年9月20日水曜日

週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」に決定的と思える誤りを見つけた。記事では金融庁の資料に載ったグラフをそのまま使っているが、注記で「運用リターンによる家計金融資産の推移」と「家計金融資産の推移」が逆になっている。以下の内容で問い合わせを送ってみた。この特集絡みでは4件目の間違い指摘となる。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(福岡県東峰村)
          ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様 藤田章夫様

9月23日号の特集「株&投信 超理解」に出てくる「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て」という記事についてお尋ねします。記事には「各国の家計金融資産の推移」というグラフが付いていて、日米英の「運用リターンによる家計金融資産の推移」「家計金融資産の推移」を表しています。日本で見ると1995年との比較で前者が1.47倍で後者が1.15倍です。米英でも前者の数値が後者を上回っています。これは実際と逆ではありませんか。

出所:金融庁」となっているので同庁の「説明資料(平成29年2月3日)」を見ると、やはり御誌の表記とは逆になっています。日本は「運用リターンによる家計金融資産の推移」が1.15倍で「家計金融資産の推移」が1.47倍です。

この資料には「我が国の家計金融資産の推移」というグラフも付いています。それによると、95年に1200兆円前後だった「家計金融資産全体」が15年に1740兆円へ膨らんでいます。伸びは「1.47倍」で問題ありません。しかし、御誌のグラフでは「1.15倍」になっています。

記事に付けたグラフの注記は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

それにしても、この特集には問題が多過ぎる。


※今回取り上げた記事「不透明相場にも負けない 長期のコツコツ積み立て
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21287

※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」で「ポートフォリオ」という言葉の使い方が引っかかった。「初級者向け~資産形成の具体的なプロセスを知る 長期運用の実践の基本とは」という記事に付けた「投資のポートフォリオ例」では、「国内株式」「新興国債券」などへの投資比率を示した円グラフを3つ付けて「積極運用タイプ」「バランスタイプ」「安全運用タイプ」に分けている。これは「投資のアセットアロケーション」とした方が適切ではないかと感じたので、ダイヤモンド編集部に問い合わせを送ってみた。この特集関連で3件目の間違い指摘となる。
九州北部豪雨後の大行司駅前の家屋(福岡県東峰村)
            ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様 藤田章夫様

9月23日号の特集「株&投信 超理解」に出てくる「初級者向け~資産形成の具体的なプロセスを知る 長期運用の実践の基本とは」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

利回りの目標が決まれば、次はリスクに見合ったポートフォリオ(資産構成)を考える番だ。国内債券から新興国株式までの基本6資産のリスク・リターンの関係と、投資のポートフォリオの例を左ページ上図に示した。モーニングスターの朝倉智也社長は『運用の成否の8~9割はポートフォリオで決まる』との考えを示す。ついつい先に個々の商品選びに目が行きがちだが、資産ごとの比率を決めた上で『日本株なら投信A、外国株は投信B』といった具合に資金を振り分けるのが王道ということだ

気になったのは「ポートフォリオ」という言葉の使い方です。記事では「資産ごとの比率」「資産構成」を「ポートフォリオ」と称しています。しかし、この場合は「アセットアロケーション」とすべきではありませんか。「ポートフォリオ」は「個々の商品選び」に当てはまる言葉だと思えます。

SMBC日興証券の「初めてでもわかりやすい用語集」によると、「アセットアロケーションとは、運用する資金を国内外の株や債券などにどのような割合で投資するのかを決めることをいいます」。

ポートフォリオ」については「金融商品の組み合わせのことで、特に具体的な運用商品の詳細な組み合わせを指します。『ポートフォリオを組む』ということは、どのような投資信託を購入しようか、株はどの銘柄で何株ほど持つか、などの検討をするという意味です」と解説しています。

さらに、朝倉智也氏が社長を務めるモーニングスターの2012年6月27日付の記事には「資産運用において、アセットアロケーション(資産配分)の重要性は高く、『運用成果の8割以上はアセットアロケーションで決まる』とよく言われている」との記述も見られます。

こうした点を考慮すると、記事中の「ポートフォリオ」は「アセットアロケーション」の誤りだと思えますが、いかがでしょうか。「ポートフォリオ」で問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「初級者向け~資産形成の具体的なプロセスを知る 長期運用の実践の基本とは
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21280

※記事の評価はD(問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

「強固なデフレ心理」がある? 日経 清水功哉編集委員に問う

日本経済新聞の中で清水功哉編集委員は安心感のある書き手だと評価してきた。しかし19日の夕刊マーケット・投資2面に載った「マネー底流潮流~2年より2%選んだ日銀」という記事は、その評価を若干危うくするものだった。「人々の間に根付いた強固なデフレ心理は、簡単には解消されなかった」という解説が出てきたからだ。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見てみよう。

【日経の記事】

そもそも2%目標は白川方明前総裁時代の13年1月に示したもの。黒田東彦総裁率いる今の日銀がそれに期限を設けたのは、デフレ早期克服への強い決意表明で人々のインフレ期待を刺激し、物価に上げ圧力を加えるためだった。だがうまくいかないことがわかった。長年の物価下落により人々の間に根付いた強固なデフレ心理は、簡単には解消されなかったのだ。2年の期限を示してもあまり意味がなくなったので取り下げた。



◎「強固なデフレ心理」がある?

人々の間に根付いた強固なデフレ心理」という表現から清水編集委員のある種の思考停止を感じてしまう。

日銀の「生活者意識アンケート調査」(2017年6月)によると「1年後の物価は現在と比べ何%程度変化すると思うか」という質問に対する回答の中央値は2.0%だ。1年後の物価見通しでは「かなり上がる」「少し上がる」が計75.4%。一方、「かなり下がる」「少し下がる」は合わせても2.4%に過ぎない。ここから「人々の間に根付いた強固なデフレ心理」を読み取れるだろうか。

長年の物価下落」で「人々の間に根付いた強固なデフレ心理」が根付くというのは、何となくそれらしいが、実際には90年代以降に大した物価下落は起きていない。それは消費者物価指数(CPI)の推移を見れば分かる。デフレ傾向の時期でも下落率はわずかで「ほぼ横ばい」だ。そうした状況で「強固なデフレ心理」が根付くと考える方がどうかしている。

人々の期待インフレ率が2%程度だとすると、「人々の間に根付いた強固なデフレ心理は、簡単には解消されなかった」から2%の物価目標に届かなかったと考えるのも問題がある。むしろ「人々は2%程度のインフレ期待を有しているのに、なぜ物価上昇率はそれを下回ったままなのか」と考察すべきだ。


※今回取り上げた記事「マネー底流潮流~2年より2%選んだ日銀
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170919&ng=DGKKZO21252440Z10C17A9ENK000


※記事の評価はC(平均的)。清水功哉編集委員への評価もCを据え置くが、やや弱含みと言える。清水編集委員は以前にも似たような問題を抱えた記事を書いている。その件では以下の投稿を参照してほしい。

企業にデフレ心理? 日経 清水功哉編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_28.html

2017年9月19日火曜日

週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘

週刊ダイヤモンド9月23日号の特集「株&投信 超理解」に関して2件目の間違い指摘をしたので、その内容を紹介したい。「つみたてNISA~信託報酬『最安値』&新商品が続々登場 “お墨付き”投信を徹底分析」という記事では、つみたてNISAの対象となる120本のうち「TOPIX(東証株価指数)連動が17本」とし書いているが、120本の内訳を見るとどう数えても「14本」にしかならない。
風治八幡宮(福岡県田川市) ※写真と本文は無関係です

問い合わせの内容は以下の通り。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様 藤田章夫様

9月23日号の特集「株&投信 超理解」に出てくる「つみたてNISA~信託報酬『最安値』&新商品が続々登場 “お墨付き”投信を徹底分析」という記事についてお尋ねします。

記事には「つみたてNISAの対象となる投資信託120本」について、「さらに分類してみると、日経平均株価に連動する投信が11本、TOPIX(東証株価指数)連動が17本という具合だ」との記述があります。記事中の「つみたてNISA“仮”対象ファンドの傾向」という表でも、対象指数「TOPIX」は「17本」となっています。この「17本」という数字は合っているのでしょうか。

特集の中の「仮認定されたつみたてNISA対象の投信&ETF120銘柄」という表を見ると、連動対象が「TOPIX」となっているのは「インデックス型投信」に12本、「ETF」に2本あるだけで、合計でも「14本」にしかなりません。

つみたてNISA“仮”対象ファンドの傾向」という表では「TOPIX」の数字が違っているようなのに、表の8項目を合計すると120本で帳尻が合っています。なので、他にも間違った数値があるのではと感じて調べてみました。その結果、さらに3項目で違う数字が出ました。

まず「その他日本(10本)」です。インデックス型投信の「JPX400など」、アクティブ型投信の「国内」、ETFの「JPX日経インデックス400」を合計すると12本になります。

次に「その他外国(6本)」です。インデックス型投信の「外国株」、アクティブ型投信の「国際」を合計すると9本になります。

最後に投資対象「バランス」の「資産複合(50本)」です。これは「バランス型」(アクティブ型の中の「バランス型」含む)、「資産均等割」「ターゲットデート」を合計すると48本です。

つみたてNISA“仮”対象ファンドの傾向」という表では、「TOPIX」と「資産複合」が実際よりも5本多く、「その他日本」と「その他外国」が実際より5本少なくなっているというのが、数えてみた結果です。結果に絶対の自信があるわけではありませんが、少なくとも「TOPIX」は17本に届かないはずです。

TOPIX(東証株価指数)連動が17本」との説明や、「つみたてNISA“仮”対象ファンドの傾向」という表の数値は誤りと考えてよいのでしょうか(「仮認定されたつみたてNISA対象の投信&ETF120銘柄」という表が誤りの可能性もあります)。全て正しいとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が目立っています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「つみたてNISA~信託報酬『最安値』&新商品が続々登場 “お墨付き”投信を徹底分析
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21281


※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

2017年9月18日月曜日

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長

18日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に原田亮介論説委員長が書いた「核心~『出口』は政府含む総力戦  金融監督、重要局面に」という記事は残念な内容だった。経済紙の論説委員長でありながら、今のような大規模な金融緩和政策を続けるべきかどうかの判断を避けているからだ。出口に向けた「議論が必要」と言うだけで立場を鮮明にしない日経の論説委員長ならば存在意義はない。「議論が必要」なのは、原田論説委員長に言われなくても多くの読者が分かっている。
JR日田彦山線の陸橋(福岡県東峰村)※写真と本文は無関係です

記事では、以下のように書いている。

【日経の記事】 

米連邦準備理事会(FRB)はすでに国債の買い入れをやめており、年内に保有分の削減に踏み出す見通しが有力とされる。欧州中央銀行(ECB)も、10月にも国債の買い入れ減額を決める方針だ。

日本はどうか。政策変更には黒田東彦日銀総裁が目標に掲げる「インフレ率2%」という高いハードルがあり、日銀自体がその達成を2019年度ごろに先送りしている。

ただ、現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか。あるいは景気や物価の底堅さが増したときどんな出口の姿を描くのか。今から議論する必要がある



◎「後退させてはいけないのか」の答えは?

現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか」を「今から議論する必要がある」のは、その通りだ。だが、記事を最後まで読んでも、原田論説委員長の主張は曖昧なままだ。「米国も欧州もインフレ率は2%に達しないから、厳密な2%目標に固執する理由は薄らいでいる」と書いているので、「近い将来に後退させてもいい」に近いのかなと推測はできるが、明確ではない。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

「すぐにでも緩和を後退させる」「2%にこだわらず、物価上昇率が1%を安定して超えたら緩和を後退させる」など、色々な考え方があるはずだ。原田論説委員長は日経の社論を決めるべき役職にあるのだから、メディアとしての立ち位置を明確にしてほしい。仮に社内調整が難しいとしても、今回のように個人の署名で書く記事ならば、自らの考えを思い切って打ち出せるはずだ。それが「今から議論する必要がある」で逃げていては悲しすぎる。日経の論説委員長として「議論」のたたき台となるような主張を提示すべきだ。

原田論説委員長は「政治も日銀も金融機関も、それぞれの持ち場で行動する時だ。10年がかりの戦いに覚悟を決めよう」と結んでいる。「『出口』は政府含む総力戦」であり、「10年がかりの戦い」になるだろう。だが、物価上昇率が安定して2%を上回るのを待っていたら、「総力戦」が始まるのは10年後、20年後かもしれない。それではなかなか「覚悟」も決まらない。

記事では「真っ先に考えねばならないのは超緩和が長引くほどマイナスの影響が拡大する金融システムの問題だ」とも書いている。ならば「現実に2%に達しないと緩和政策を後退させてはいけないのか」との問いに対する答えは見えてくるはずだ。

ついでに、記事の書き方に関していくつか注文を付けておく。

【日経の記事】

米国では超緩和の転換を控えて、当局が金融システムに細心の注意を払う姿勢がうかがえる。



◎「超緩和の転換」はこれから?

この書き方だと、米国ではまだ「超緩和の転換」に至っていないと読み取れる。しかし、実際には利上げ局面にあり、既に「引き締め」に転じている。FRBが国債などに関して「年内に保有分の削減に踏み出す見通しが有力とされる」ことを受けて「超緩和の転換を控え」と書いたのだろうが、読者に誤解を与えかねない。

問題のある説明は他にも見られる。

【日経の記事】

6月末にアルゼンチンは100年物のドル建て国債を発行した。利率約8%で、30億ドル弱の発行枠に3倍の応募があった。8月にはイラクが6年物のドル建て国債を10億ドル発行した。応募は6倍以上あり、利率は6.75%。カネ余りが今も拡大中なのだ


◎「カネ余り拡大中」の根拠になってる?

アルゼンチンとイラクの国債発行を根拠に「カネ余りが今も拡大中なのだ」と言い切っている。だが、説明不足が過ぎる。両国の国債に多くの「応募があった」としても「カネ余りが今も拡大中」かどうかは分からない。「カネ余りが続いている」傍証にはなるとしても、この材料から「拡大」を読み取るのは困難だ。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
        ※写真と本文は無関係です

カネ余りが続いている」かどうかの判断材料も不十分だ。アルゼンチンの信用力で「100年物のドル建て国債」だとどの程度の「利率」が適正水準なのか、ほとんどの読者は分からないだろう。「30億ドル弱の発行枠に3倍の応募」がどのくらい異例なのかも教えてくれない。イラクに関しても同様だ。

これで「カネ余りが今も拡大中なのだ」と断定されても困る。両国の国債への応募状況や利率を「カネ余り」の根拠として提示するならば、それが「カネ余り」でない時期と比べてどの程度の凄さなのか説明すべきだ。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

金融政策頼みのアベノミクスについて、東京財団の加藤創太常務理事は「民主主義のプロセスをすっ飛ばしてやれるから」とみる。歳出カットなど痛みが伴う課題の先送りは限界にきており、「少なくとも消費税率を毎年1%ずつ引き上げるといった(プログラム的な)方針を示すべきだ」という。



◎「歳出カット」と「消費税」の組み合わせが…

歳出カットなど痛みが伴う課題の先送りは限界」と打ち出したのならば、その後のコメントも「歳出カット」に絡めた方がいい。なのになぜか「消費税率を毎年1%ずつ引き上げる」という増税の話になっていて、組み合わせが良くない。このコメントを使いたいのならば「歳出カットなど」を「増税など」にした方がしっくり来る。


※今回取り上げた記事「核心~『出口』は政府含む総力戦  金融監督、重要局面に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170918&ng=DGKKZO21190290V10C17A9TCR000

※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価も暫定でDとする。

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」

週刊ダイヤモンド9月23日号の「株&投信 超理解」は読む価値のない特集だった。不正確な説明が目立つし、投資初心者が誤った認識を持ってしまうのではないかと心配になるくだりも多い。ここではまず、記事中の間違いを取り上げたい。以下はダイヤモンド編集部へ送った問い合わせの内容だ。
桜井二見ヶ浦(福岡県糸島市) ※写真と本文は無関係です


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様 藤田章夫様

9月23日号の特集「株&投信 超理解」に出てくる「つみたてNISA~信託報酬『最安値』&新商品が続々登場 “お墨付き”投信を徹底分析」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

三井住友アセットマネジメントは、TOPIXと海外株のインデックスファンドに連動した商品として、確定拠出年金(DC)用のファンドをつみたてNISA用にシフト。しかも前者は、信託報酬を0.205%から0.173%に引き下げることで、TOPIX連動型としては最安の信託報酬となる

これを信じれば「つみたてNISAの対象となる投資信託120本」の中の「TOPIX連動型」で「最安の信託報酬となる」のは、三井住友アセットマネジメントの商品のはずです(全ての投信の中で最安という意味かもしれません)。しかし、特集の中の「仮認定されたつみたてNISA対象の投信&ETF120銘柄」という表を見ると、「TOPIX連動型」で「最安の信託報酬」となる投信は「One ETFトピックス」(アセマネOne)の0.084%です。ちなみに「TOPIX連動型上場投資信託」(野村アセマネ)も0.118%で、記事中で「最安」とした「0.173%」を下回っています。

これら2本はETFですが、今回の記事ではETFを含む「つみたてNISAの対象となる投資信託120本」について論じているはずです。記事中にETFを除外して「最安」を判断したとの説明も見当たりません。

信託報酬を0.205%から0.173%に引き下げることで、TOPIX連動型としては最安の信託報酬となる」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が目立っています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

回答は期待できないので、記事の説明は誤りとの前提で少し付け加えたい。この記事を読んだ投資初心者が「つみたてNISA」でTOPIX連動のパッシブ運用を始める場合、信託報酬が最も低いのは三井住友アセットマネジメントの商品だと判断してしまうだろう。そこが、この記事の罪深さだ。

「『仮認定されたつみたてNISA対象の投信&ETF120銘柄』という表では、ETFの情報も載せている」と取材班は反論するかもしれない。だが、「インデックス投信」の分類の「TOPIX」の項目では、「最安の信託報酬」と紹介された「三井住友・DCつみたてNISA・日本株インデックスF」が一番上に位置している。

一方、ETFは別のページの下の方に「ETF」として括られている。これで「三井住友・DCつみたてNISA・日本株インデックスF」よりも信託報酬の低いTOPIX連動型がETFにあると見つけ出すのは、特に投資初心者にとっては至難だ。


※今回取り上げた記事「つみたてNISA~信託報酬『最安値』&新商品が続々登場 “お墨付き”投信を徹底分析
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21281


※記事の評価はE(大いに問題あり)。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_86.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_65.html

なぜ「少額」投資のススメ? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_21.html

比較が恣意的すぎる週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_39.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_22.html

2017年9月17日日曜日

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」

週刊ダイヤモンド9月16日号の特集「1982~2017 35年の偏差値と就職実績で迫る大学序列」で「地方有力4大学『東西南北』の深層 西日本編~九州は『西福APU』時代の幕開け」という記事が引っかかった。九州の事情に詳しくない記者が書いているのかなと思わせる記述が目立ったからだ。
福岡大学(福岡市城南区)

具体的に見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

九州地区のトップ私立大学といえば西南学院大学だけというのが、かつての常識だ。しかし、時代は変わった。福岡大学が追い上げて西南の1強体制は終焉している。

20年前までは西南と福大ではかなり難易度に差があった。でも福大には医学部があり、文系でも西南と同系学科がある。もともと商、経済など実学系学部が難関資格実績や公務員などへの就職に定評があったため、差が縮まった」と福岡市内の大手塾職員は解説する。

トップ私大として「西福」のくくりが生まれ、今後は「2大学のポジションが逆転する可能性もある」(塾職員)という。


◎昔から西南・福大が「2強」では?

文系学部に関して「九州地区のトップ私立大学西南学院大学」というのは20年以上前から変わっていないとは思う。しかし、かつては「西南の1強体制」で、近年になって「トップ私大として『西福』のくくりが生まれ」たとの認識は違う気がする。少なくとも1980年代には、西南と福大はくくられていた。九州の私大としては当時から「2強」だったはずだ。
中村学園大学(福岡市城南区)

記事に付けた地図には「福大が近年上昇で大学のくくりが誕生 『西福』『西福APU』のくくり」と説明が入っている。「福大が近
年上昇で『西福』のくくりが誕生」とは、とても思えない。

付け加えると「20年前までは西南と福大ではかなり難易度に差があった」が「差が縮まった」というコメントは、記事に付けた「九州主要私大の偏差値推移」と整合しない。両校の偏差値の差を1997年と2017年で見ると、法学部は6→5、経済学部は4→3。つまり20年で1しか縮まっていない。これだと誤差の範囲内だ。偏差値の推移も「昔から2強」を裏付けているのではないか。

さらに言えば、以下の記述も気になった。

【ダイヤモンドの記事】

両校は同じ福岡市にキャンパスを構える。西南はキリスト教系でオシャレな校風だ。福大は九州随一のマンモス総合大学。九州で唯一、文系学部から医学や薬学など理系学部まで、幅広くそろう。また、付属高校を持ち、医学部を目指せる高校として人気が高い。

◎久留米大学と九州産業大学は?

福大に関する「九州で唯一、文系学部から医学や薬学など理系学部まで、幅広くそろう」という説明は間違いではないとしても、誤解を招く。久留米大学があるからだ。文、法、商、経済、人間健康、医の6学部をそろえている。

久留米大学に「薬学」はないが、「文系学部から医学など理系学部まで、幅広く」そろえてはいる。

九州産業大学も文系学部から理系学部まで学部の数はかなりある。記事の書き方だと「九州で文系学部から理系学部まで幅広く有しているのは福大だけ」との印象を受けてしまう。

最後に「西福APU」にも触れておきたい。

 
【ダイヤモンドの記事】

西南、福大それぞれの特色も大学選びに影響しよう。もっとも、受験生を送り込む高校関係者たちの間では、くくりが「西福」からさらに進化している。

大分県にグローバル人材を育成する立命館アジア太平洋大学(APU)が2000年に開校し、「西福APU」でくくられるようになったのだ。APUは国公立大学との併願が増えている。

一方、福岡工業大学が志願者、難易度とも伸びていることを受けて、いっそ「西福APU工」とくくりを4大学まで広げようという教育関係者の声もある。


◎本当に「西福APU」と呼ばれてる?

立命館アジア太平洋大学(APU)が2000年に開校し、『西福APU』でくくられるようになった」と言うのだから、この「くくり」は10年以上の歴史があるのだろう。だが、使っているのはごく一部ではないか。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)

西福APU」でネット検索してみても、ダイヤモンドの記事絡み以外では使用例が非常に限られている。それに略語として長すぎる感じもある。「せいふくえーぴーゆー」で3校しか表せない。MARCHならば「まーち」で5校だ。使い勝手は良くない。

いっそ『西福APU工』とくくりを4大学まで広げようという教育関係者の声もある」という記述を見ると、取材した特定の「教育関係者」に吹き込まれた話を、あまり検証せずにそのまま書いたのではと疑いたくなる。

ついでに言えば、「立命館アジア太平洋大学(APU)が2000年に開校し、『西福APU』でくくられるようになった」という記述は、「九州は『西福APU』時代の幕開け」という見出しと整合しない。見出しだと「『西福APU』時代」は始まったばかりか、まだ始まっていないと取れる。しかし本文の説明では、APUの開校後すぐに「『西福APU』時代」が始まったと解釈できる。


※今回取り上げた記事「地方有力4大学『東西南北』の深層 西日本編~九州は『西福APU』時代の幕開け
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/21212

※記事の評価はD(問題あり)。特集全体の評価もDとする。担当者らの評価は以下の通り。

臼井真粧美副編集長(暫定C→暫定D)
小島健志記者(C→D)
堀内亮記者(暫定D→D)
大根田康介記者(Dを維持)
西田浩史記者(Dを維持)

※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

2017年9月16日土曜日

問題多過ぎの日経 山本修平記者「銅、高値修正は限定的」

16日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「ポジション~銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」 という記事の問題点をさらに指摘していく。まず見出しに問題ありだ。「投機筋の売りで上げ一服」となっているが、「ピークから7%下がった」過程で「投機筋の売り」が出たとの記述は記事中には見当たらない。いわゆるカラ見出しだ。
九州北部豪雨後の福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

記事の前半部分を見てみよう。

【日経の記事】

9月上旬に3年ぶり高値をつけた銅の値上がりが一服している。ロンドン金属取引所(LME)では現在1トン6500ドル前後と、ピークから7%下がった。もともと大口ファンドなど投機の買いが膨らんでいただけに警戒感が強かった。ただ需要は堅調で、下値は限定される公算が大きい。


米商品先物取引委員会(CFTC)によると、大口ファンドの買い越し幅は直近5日で12万枚強と歴史的な高水準だ。7月に米系投資銀行が「銅は7000ドル台半ばになる」と推奨したこともあり、相場は今月上旬に6970ドルまで上昇した。

英調査会社、ウッドマッケンジーのリチャード・ウィルソン金属部門会長は「銅は買われすぎの側面が強い」と指摘する。実際、相場は前週末から高値修正されている。

問題はどこまで下げるかだ。大口ファンドの買いの規模を勘案すれば、買い持ち高の解消売りも大きく「第4四半期以降下がるだろう」(イタリアの投資助言会社、ティーコモディティー)。

一方、最大消費国の中国経済は堅調を維持。主産地チリの通貨ペソも対ドルで上昇し、銅の生産コストも上がった。銅の上昇は投機買いだけが要因でない可能性はある。


◎「どこまで下げるか」はどうなった?

やはり、「値上がりが一服している」ことと「投機筋の売り」を結び付ける記述はない。
豪雨被害を受けた「地鶏ラーメンとりまる食堂」
   (福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

また、「問題はどこまで下げるかだ」と問題提起しておきながら、「どこまで下げるか」を論じないまま別の話に移っているのも感心しない。「第4四半期以降下がるだろう」といった話につなぐならば、「問題はいつまで下げが続くかだ」などとすべきだ。

ついでに言うと「第4四半期以降下がるだろう」というコメントは記事の流れと合っていない。「現状は高値修正局面」というのが記事の前提だ。「第4四半期(10~12月?)以降下がるだろう」と言うと、まだ下げに転じていないように感じる。

次は記事の終盤を見ていこう。

【日経の記事】

T&Dアセットマネジメントの神谷尚志チーフ・エコノミストは「銅は6000ドルはまず割らないだろう」とみる。輸入動向を見る限り中国景気の腰折れは考えにくい

商品市場では相場上昇時に、投機の影響の議論がたびたび起きる。ある米系ヘッジファンドのエコノミストは「(銅に限らず)最近は非鉄全般が上昇しており、その場合は実需に基づく」との見解を示す。



◎色々と気になる点が…

T&Dアセットマネジメントの神谷尚志チーフ・エコノミスト」は「銅は6000ドルはまず割らないだろう」と見ているようだが、その根拠は不明だ。「中国景気」と絡めた判断かもしれないが、何とも言えない。「6000ドルはまず割らない」という相場見通しを語らせるならば、その理由は入れてほしい。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(福岡県東峰村)
    ※写真と本文は無関係です

輸入動向を見る限り中国景気の腰折れは考えにくい」という説明も納得できない。「輸入動向」は基本的に過去の実績だろう。そこから将来は見通しにくい。なのになぜ「中国景気の腰折れは考えにくい」と結論付けられるのか。「輸入動向」から「中国景気」の行方がかなり正確に判断できると言うのならば、根拠を示してほしかった。

ある米系ヘッジファンドのエコノミスト」の「最近は非鉄全般が上昇しており、その場合は実需に基づく」というコメントも引っかかる。投機資金が流れ込んできてコモディティー全体が上昇基調となる局面は十分にあり得る。

それに銅に関しては「大口ファンドの買い越し幅は直近5日で12万枚強と歴史的な高水準だ」と記事でも書いている。ならば投機筋の買いが相場押し上げに関係していると考えるのが自然だ。なのになぜ「投機の影響」はほとんどないような書き方をしてしまうのか。

結局、この記事は問題が多すぎる。山本修平記者には猛省してほしいし、商品部デスクの責任も重い。


※今回取り上げた記事「ポジション~銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170916&ng=DGKKASDJ15H3A_V10C17A9EN2000

※記事の評価はE(大いに問題あり)。山本修平記者への評価も暫定でEとする。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 山本修平記者「銅、高値修正は限定的」の支離滅裂
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_16.html

日経 山本修平記者「銅、高値修正は限定的」の支離滅裂

筆者の山本修平記者はマーケットの仕組みをまともに理解していないのではないか。そう思える記事が16日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に出ていた。「ポジション~銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」 という記事では、どう解釈してよいのか謎の説明が出てくる。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

日経に送った問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

マーケット総合2面の「ポジション~銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」 という記事についてお尋ねします。「投機的な買いの影響は8月中旬がピーク」というタイトルが付いた「スペキュレーティブ・T・インデックス」のグラフには「CFTC建玉から作成、投機筋の売りを実需の売りと買いの合計で割り、1を合算」との注記があります。

CFTCのデータを用いて「投機筋の売り建玉÷(実需の売り建玉+実需の買い建玉)」に1を加えると、「投機指数は5日時点で1.49」という記事通りの数字が出てきます。ただ、この指数から「投機的な買いの影響」は読み取れないはずです。指数の算出に「投機筋の売り」は反映されていますが「投機筋の買い」は影響しません。なのに、なぜか「投機的な買いの影響は8月中旬がピーク」と読み取ってしまいます。

記事では「投機買いは市場でどの程度の影響があったのか。目安となるのが『スペキュレーティブ・T(ティー)・インデックス』という投機指数だ」と述べた上で、「投機家の買いが実需のヘッジ売りを満たす水準にとどまるなら指数は均衡を意味する1。余分に買いを入れるほど1より大きくなる」と説明しています。

これを信じれば、指数が上昇するためには投機筋の買いが増える必要があります。しかし、グラフの注記が正しいとすると、投機筋の買いがいくら増えても指数には影響しません。指数に関する説明には矛盾が生じます。
九州北部豪雨後の福岡県東峰村 ※写真と本文は無関係です

記事には、もう1つ誤りだと思える部分があります。「米商品先物取引委員会(CFTC)によると、大口ファンドの買い越し幅は直近5日で12万枚強と歴史的な高水準だ」という説明です。「5月以降、大口ファンドの買い越しが拡大」というタイトルのグラフでも、直近の買い越し幅は「12万枚強」だと示しています。

しかし、CFTCの建玉明細を見ると、5日の買い越し幅は約4万8000枚です。「12万枚強」は売り建玉の枚数ではありませんか。これならば5日時点で約12万3000枚となっています。

上記の2点について、記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。今回の記事は根本的に成立していない可能性が高いと思えます。マーケットに関するある程度の知識がある人ならば「どう考えてもおかしい」と気付くはずです。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が当たり前になっています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

こちらの指摘が正しければ、記事の説明は支離滅裂と言っていいレベルだ。「さすがに、そこまで変なことは書かないだろう」と思って色々と考えてみたが、どうやっても矛盾が解消しない。

記事で取り上げた「スペキュレーティブ・T・インデックス」について調べてみても、ネット検索では全く手掛かりが得られなかった。なので、日経の言う計算方法で正しいのかも不明だ。


※今回取り上げた記事「ポジション銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170916&ng=DGKKASDJ15H3A_V10C17A9EN2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。山本修平記者への評価も暫定でEとする。この記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多過ぎの日経 山本修平記者「銅、高値修正は限定的」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_2.html

2017年9月15日金曜日

3回とも問題が多かった日経1面「働き方改革 さびつくルール」

14日の日本経済新聞朝刊1面に載った「働き方改革 さびつくルール(下)悩めるフリーランス 個の力 生かす仕組みを」に関して、さらに問題点を指摘していく。まずは冒頭に出てくる「サイボウズ」の事例を見てみよう。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

当社で副業しませんか」。1月、他社に本業をもちつつ副業先として働く人の募集を始めた企業向けソフト会社のサイボウズ。数人を受け入れる過程で、担当者を悩ませる問題も浮上した。

 希望者が正社員になるか契約社員になるかなどは当人の希望も含めて相談で決める。一部の応募者は社員ではなく業務委託契約を希望したが、募集は業務開発や広報など幅広く、仕事の指示が必要な場合もある。指揮命令ととられると、業務委託契約から逸脱しかねない。「新しい働き方に合った法的枠組みがあればよいのだが」(政策渉外担当の石渡清太氏)

日本の労働法制は企業で正社員として終身雇用されることを前提に、働く人を保護してきた。自由な立場で働きたい人の増加に、既存の制度はうまくかみ合っていない。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)副業は「新しい働き方」?

副業で収入を得る人は昔からいる。「新しい働き方」とは言えないような…。


(2)「悩めるフリーランス」になってる?

サイボウズの事例では「他社に本業をもちつつ副業先として働く人」の問題を取り上げている。これは「悩めるフリーランス」なのか。「フリーランサー」とは「一定の会社・組織に属していない自由契約のジャーナリスト・作家や俳優など」(大辞林)だ。「他社に本業」を持っているのならば「フリーランス」には当たらない気がする。
豪雨被害を受けたJR日田彦山線(福岡県東峰村)
         ※写真と本文は無関係です

百歩譲って「フリーランス」だとしても、悩んでいる感じはしない。悩んでいるのはサイボウズの「担当者」の方だ。「一部の応募者は社員ではなく業務委託契約を希望した」と言うが、こうした「応募者」が悩んでいる様子は記事から見えてこない。

常識的に考えれば「業務委託契約」を選べないからと言って「一部の応募者」に大きな不利益が生じる可能性は低い。「違う」と言うならば、「応募者」に生じる大きな不利益に具体的に触れてほしかった。


(2)「副業」と関係ある?

サイボウズの事例は「業務委託契約」を結んだ相手に「指揮命令」ができるかどうかの問題で、「副業」とは関係ない。「本業」であっても同様の問題は生じる。「副業」ゆえに起きる事態のように描写すると読者に誤解を与えかねない。


(3)「法的枠組み」はない?

筑後大石駅(福岡県うきは市)
     ※写真と本文は無関係です
新しい働き方に合った法的枠組み」がないとの前提でサイボウズ担当者が語っているのも引っかかる。企業の「指揮命令」下で仕事をするならば労働者として保護の対象になるし、「業務委託契約」を結ぶならば「指揮命令」とは切り離すべきだとの「法的枠組み」はできているのではないか。「枠組み」がサイボウズの好みと合わないのは分かるが、「法的枠組み」がないとは思えない。


(4)偽装請負を合法化すべき?

サイボウズが求める「新しい働き方に合った法的枠組み」とは、偽装請負の合法化だろう。雇う側にとって偽装請負の合法化に旨みがあるのは分かる。自社の従業員のように働かせながら、労働関係の規制から逃れられるからだ。

今回の記事では最後に「瀬川奈都子、横田祐介、島本雄太、田村匠が担当しました」と出ていた。取材班では「業務委託契約を結べば、その契約者を従業員と同様に働かせても労働関係の規制を免れられる」という仕組みを好ましいと感じているのだろうか。実現すれば労働者の保護はかなり形骸化する。

そんな仕組みを「新しい働き方に合った法的枠組み」と取材班が本気で考えているのならば、ちょっと怖い。「どこまで企業寄りなの?」と聞きたくなる。

また、「日本の労働法制は企業で正社員として終身雇用されることを前提に、働く人を保護してきた」という説明は間違いだと思える。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

労働法制は正社員が前提? 日経「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_14.html


さらに記事への指摘を続ける。次は「ウーバーイーツ」の話だ。

【日経の記事】

「当社の配達員は個人事業主です。損害保険はご自身で見つけてお入りください」。米ウーバーテクノロジーズの料理配送サービス、ウーバーイーツの配達員になった尾崎浩二さん(39)は昨年11月、東京都内の同社相談所でこう告げられた。

配達で人をひいてしまったら大変だ」。何社も保険会社を回ったが、個人事業主の業務に使える保険を自力で見つけるのに3カ月かかった。苦労の経験から尾崎さんは今年7月、配達員を支援する会社を自らの手で立ち上げることにした。200人以上の配達員を束ね、「団体で保険に加入できる仕組みを作ったり機動力を生かした仕事を融通したりしたい」。

自由に働きたい個人が企業と契約しようとすると立場は弱くなりがち。公正取引委員会は8月、既存の労働法制では守れないフリーランスを独占禁止法で守る研究会を設けたが、結論を得るまで時間がかかりそうだ。


◎「3カ月」かかる方が不思議のような…

上記の事例は理解に苦しむ。「配達で人をひいてしまったら大変だ」と考えて、それに保険で備えたいのならば、任意の自動車保険に加入すれば済む。インターネットでの保険料比較もそんなに難しくない。「何社も保険会社を回ったが、個人事業主の業務に使える保険を自力で見つけるのに3カ月かかった」という話に嘘はないのだろうが、必要以上に時間と労力をかけていると思える。

振り返ると、今回の連載は3回とも問題が多かった。現行ルールが大してさび付いていないのに「さびつくルール」という線で話を作ろうとしたのが失敗の元だった気がする。その意味では、最初から失敗が約束されていたのだろう。


※今回取り上げた記事「働き方改革 さびつくルール(下)悩めるフリーランス 個の力 生かす仕組みを
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170914&ng=DGKKZO21104830U7A910C1MM8000


※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の責任者を瀬川奈都子編集委員だと推定し、暫定C(平均的)としていた瀬川編集委員への評価を暫定Dに引き下げる。


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

結論が逆では? 日経1面「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_12.html

強引に「落とし穴」を見出す日経「働き方改革 さびつくルール」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_89.html