2022年7月31日日曜日

強引なストーリー展開が残念な日経1面「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本」

31日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本~先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重」という記事は問題が多かった。筆者ら(北爪匡記者と天野由輝子記者)は「自分たちの望むストーリー展開にするためなら強引にデータを利用しても良い」と覚悟を決めているのかもしれない。そこを具体的に見ていこう。

筑後川

【日経の記事】

先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。

経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な23カ国の21年の合計特殊出生率を調べると、19カ国が20年を上回った。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が足元で反転した格好だ。


◎なぜ全加盟国にしない?

先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した」と言うが「先進国」の定義が恣意的だ。「経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国」としており、「高所得」の基準は示していない。なぜ「OECD」加盟国全体で見なかったのか。おそらく筆者らが望むデータにならないからだろう。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけての子づくりの結果だ。まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期。スウェーデンのウプサラ大学の奥山陽子助教授は「出産を控える条件がそろい、21年の出産は減ると予想していた。それでも北欧などでは産むと決めた人が増えた」と話す。

理由を探るカギの一つが男女平等だ。20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった。世界経済フォーラム(WEF)の22年版ジェンダーギャップ(総合2面きょうのことば)指数で首位だったアイスランドの21年の出生率は1.82。20年から0.1改善し、今回調べた23カ国で2番目に伸びた。

19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランドは2年連続で上昇し、21年は0.09伸びて1.46まで回復した。奥山氏は「長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい」と指摘。コロナ禍で在宅勤務が広がるなか「男性の子育ての力量が確認された」という。


◎強引すぎない?

理由を探るカギの一つが男女平等だ」と自分たちの好みに合ったストーリーを作り始めていく。「20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった」と言うが、それは恣意的に線引きした「先進国」での話であり、あくまで「相関関係」だ。

ジェンダー格差」は以前から小さいのに北欧などでも出生率の低下は続いていた。「19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランド」と記事でも書いている。「ジェンダー格差」を減らせば少子化対策になるとしたら、フィンランドでの「出生率の落ち込み」はなぜ起きたのか。

さらに記事を見ていく。


【日経の記事】

先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上がるほど出生率は下がる傾向にあった。最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子供を持つ傾向があり、直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い。

日本は女性の就業率が7割と比較的高いにもかかわらず出産につながりにくい。家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった多岐にわたる原因が考えられる。保育の充実といった支援策に加え、男女の格差是正から賃金上昇の後押しまであらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる。


◎先進国の中で見ても…

女性の社会進出は少子化の一因」とされるのが筆者らは嫌なのだろう。「直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い」と書いている。しかし具体的なデータはない。

基本的には新興国や途上国で出生率が高く、先進国では低い。「女性が労働参加する国」は新興国や途上国に偏っているのか。おそらく「先進国の中でしか見ていない」という話だろう。新興国や途上国を含めて考えると「少子化を克服したかったら先進国的ではダメだ」という結論になるのが自然だ。

それが筆者らには受け入れられない。だから先進国以外は視界から外してデータを強引に解釈して都合の良いストーリーに仕上げてしまう。そこに説得力があるかと言うと…。

答えは言うまでもない。


※今回取り上げた記事「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本~先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220731&ng=DGKKZO63058800R30C22A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年7月28日木曜日

異次元緩和は「国民生活を明るくした」と信じる日経 梶原誠氏に問う

異次元緩和をそんなに前向きに評価していたのか。28日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に梶原誠氏(本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~企業は安倍氏に応えたか」という記事を読んで少し驚いた。当該部分を見ていこう。

室見川

【日経の記事】

アベノミクス、とりわけ異次元緩和の評価は、指南役の浜田宏一・エール大名誉教授が訃報を受けて語った「国民生活を明るくした」に尽きる。首をかしげる人には聞いてみたい。「日経平均株価が8000円台のままでも良かったのか」と。誰もやる気が起きなかっただろう


◎株高なら何でもOK?

自分は「首をかしげる人」だ。「日経平均株価が8000円台のままでも良かったのか」と梶原氏は問うているので答えてみたい。

「異次元緩和がなければ『日経平均株価が8000円台のまま』だとして、それはそれで良い。株価を上げるための強引な金融緩和は必要ないし、特にETF購入で市場に直接介入したのは罪が重い」

梶原氏は日銀のETF購入に全く触れていないが「株高のためなら何でもあり」との考えなのか。

誰もやる気が起きなかっただろう」にも同意しない。少なくとも自分は株安だから「やる気が起きなかった」という経験がない。株価に関心がない人も日本にはたくさんいるはずだ。なぜ、そういう人たちも含めて「誰もやる気が起きなかっただろう」と見たのか。

さらに気になるのが梶原氏本人だ。今も「日経平均株価が8000円台のまま」ならば「やる気」のない状態で記事を書いていたということか。感心しない。

他のところにもツッコミを入れておきたい。


【日経の記事】

ならばなぜ、日本は9年後の今になってもデフレを脱却せず利上げもできないのか。「企業がアベノミクスに呼応して成長しなかったから」。こう仮説を立てると多くのことが分かりやすくなる。


◎利上げできるのでは?

日本は9年後の今になってもデフレを脱却せず利上げもできないのか」と梶原氏は問う。自分から見ると既に「デフレを脱却」しているし「利上げ」の環境も整っている。日銀が嫌がっているだけだ。

企業がアベノミクスに呼応して成長しなかったから」などと異次元緩和を擁護する気が知れない。5月15日の日経の記事では「東証プライム企業、4年ぶり最高益」と伝えている。「成長しなかった」のに「最高益」とは不思議な話だ。

結論部分にも注文を付けたい。


【日経の記事】

企業は今、リスクを取った安倍氏に応えたのかと問い直すべきだ。好機は永遠ではない。マネーが暴れると、世界の表舞台に戻るシナリオはもっと遠ざかる


◎日本は「表舞台」にいない?

世界の表舞台に戻るシナリオはもっと遠ざかる」と書いているので、日本は「世界の表舞台」にはいないと梶原氏は認識しているのだろう。GDP世界3位の日本が「表舞台」にいないとすると米中以外は全て裏に回っているのか。

マネーが暴れると」という条件もよく分からない。「マネーが暴れると」日本企業だけ条件が悪くなるのか。ちょっと考えにくい。

ちなみに2年前のこのコラムで梶原氏は以下のように記していた。

コロナで経営環境が一変し、世界の企業がビジネスモデルを変えざるを得ない今は、『失われた30年』で開いた世界との差を埋める最後のチャンスに違いない

2年経っても「世界の表舞台」にいない日本は「最後のチャンス」を逃した?

それとも「最後のチャンス」がダラダラと続いている?

そこが知りたい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~企業は安倍氏に応えたか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220728&ng=DGKKZO62942260X20C22A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

「外国人投資家は日本株をほぼ売り尽くした」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_16.html

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight.html

「世界との差を埋める最後のチャンス」に根拠欠く日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/deep-insight.html

「日経平均3万円の条件」に具体性欠く日経 梶原誠氏「コメンテーターが読む2021」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/3-2021.html

2022年7月26日火曜日

少子化問題でスウェーデンに学びたがる日経1面連載「人口と世界」の無理筋

少子化に歯止めをかけたかったら先進的な欧州(特にスウェーデンとフランス)に学べーー。この主張はすっかり説得力を失っているが、日本経済新聞はまだ少子化対策での欧州崇拝から脱却できないようだ。26日の朝刊1面に載った「人口と世界:下り坂にあらがう〈1〉縮む国『人財投資』で復活~スウェーデン動かす90年前の教訓 家庭への支援、日本の倍」という記事では、あちこちにズルを感じた。

大山ダム

その最たるものが「スウェーデンの出生率は下げ止まる」との説明文が付いたグラフだ。ここでは一般的な合計特殊出生率ではなく「人口1000人あたり出生数」を用いている。

なぜ「人口1000人あたり出生数」を用いたのか説明は本文中にもない。「スウェーデンの出生率」に関しては「大恐慌のころ、当時の世界最低水準ともいわれた1.7程度まで落ち込んだ」との記述があるだけ。つまり本文では「出生率=合計特殊出生率」との前提で話を進めている。

なのにグラフは「人口1000人あたり出生数」。この理由は察しが付く。合計特殊出生率で見ると2011年ごろから低下傾向となっている。これを見せるのが嫌だったのだろう。それで「スウェーデンの出生率は下げ止まる」と言っても問題なさそうなデータに飛びついたのではないか。

記事の作りにも無理が見える。スウェーデンの取り組みに関しては「38年までに17の報告書をつくり、女性や子育て世帯の支援法が相次ぎ成立した」「74年には世界で初めて男性も参加できる育休中の所得補償『両親保険』が誕生した」と20世紀の話に焦点を当てている。

それでも劇的な効果があったのならば手本とするのも分かる。しかし、そうしたデータは示さず「『90年の大計』をもってしても少子化に抗するのは簡単ではない」で逃げている。だったらスウェーデンを見習うべきとの結論にはならないはずだ。

なのに「女性の就業率は高く、現政権の閣僚も半数が女性だ。家族支援のための社会支出は国内総生産(GDP)比で3.4%と、米国(0.6%)や日本(1.7%)をはるかにしのぐ」などとスウェーデンを称えてしまう。

「女性の就業率を高め、閣僚の半数を女性にして、家族支援のための社会支出を増やしても少子化に歯止めをかけるのは難しそう」ーー。スウェーデンから学ぶとしたら、そんなところか。

記事ではフランスも持ち上げている。そこを見ていこう。


【日経の記事】

解はどこにあるのか。スウェーデンと並び少子化対策の成功例とされるフランス。100年以上の悲願だったドイツとの人口再逆転を、今世紀中に達成する見通しだ。

仏は19世紀前半に独に人口逆転を許し、19世紀後半の普仏戦争敗北は「人口で負けたからだ」との危機感が染みついた。仏は「仕事と家庭の両立」を軸に社会制度を大きく見直した。ドイツは「子供の面倒を見るのは母親だ」という保守的な家族観が一部に残る。


◎進歩的な考えは否定しないが…

保守的な家族観」が残る国は少子化が進み、「『仕事と家庭の両立』を軸に社会制度を大きく見直した」国は「少子化対策の成功例」になる。欧州(特にスウェーデンとフランス)を見習いたがる人によく見られる思考パターンだ。これが現実に即しているのならば問題はない。しかし、あまりに実態と合わない。

この手の思考に陥る人は新興国・途上国を視界に入れたがらない。今も出生率が高いアフリカや西アジアの国々はスウェーデンやフランスよりも進歩的なのか。戦後のベビーブームの時の日本では「『子供の面倒を見るのは母親だ』という保守的な家族観」はなかったのか。

事実に照らせば、進歩的(先進国的と言ってもいい)な政策は基本的に少子化対策とならない。本気で少子化を食い止めたいのならば「途上国を見習え!戦後のベビーブームの頃に回帰せよ!」となるのが自然だ。

その結論が受け入れがたいので、何とかスウェーデンやフランスを「少子化対策の成功例」にしたくなるのだろう。しかし欧州に人口置換水準を上回る出生率を維持している国はない。取材班が「少子化対策の成功例」として挙げたフランスにしても、移民を除けば出生率はかなり低いとされる。

「進歩的でありたいと願うならば少子化を受け入れる」「少子化に歯止めをかけたいのならば途上国にも学ぶ」ーー。基本的にはこの二者択一だ。

そこから逃げている限り、無理のある少子化論にしかならない。取材班のメンバーは早くそのことに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「人口と世界:下り坂にあらがう〈1〉縮む国『人財投資』で復活~スウェーデン動かす90年前の教訓 家庭への支援、日本の倍」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220726&ng=DGKKZO62894060W2A720C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年7月23日土曜日

「アメックスが達成した賃金の平等」に根拠欠く日経ビジネス藤原明穂記者

日経ビジネスの藤原明穂記者は取材先に丸め込まれやすいタイプなのか。それともアメックスに恩義でもあるのか。7月25日号に載った「戦略フォーカス:アメックスが達成した賃金の平等~『真の公平性』が成長の礎に」という記事は、基礎的な情報が欠けている。「アメックスの挑戦に学ぶべき点は多い」と藤原記者は持ち上げるが、この内容では学びようがない。

夕暮れ時の筑後川

男女の賃金格差が社会課題となっている日本。アメックスは2020年10月に世界で賃金の平等を達成した」と冒頭で藤原記者は打ち出す。

しかし、どういう状態を「賃金の平等」と見るのかは明示していない。「男女の賃金格差」を問題視しているので「男女の賃金格差」がゼロという状態を「賃金の平等」と見ている前提で考えてみよう。この場合、男性に役職者や高評価者が多く、女性に平社員や低評価者が多くても、男女同数ならば人件費も男女半分ずつ割り振られるはずだ。

これを「賃金の平等」と見るのに個人的には反対だが、ここでは論じない。藤原記者はこの考えに基づいて記事を書いていると推定して話を進めていく。

アメックスは2020年10月に世界で賃金の平等を達成した」というのが記事の柱なので、これまでにはどんな不平等があり、それがどう改善したのか具体的な数値は必須だ。しかし全く見当たらない。「賃金の上昇」を喜ぶ女性社員の話の後で記事は以下のように続く。


【日経ビジネスの記事】

米ニューヨークのアメックス本社は17年から賃金や女性リーダー比率などに関する調査を開始。米本社が主導し、世界で性別や人種、民族などによる賃金格差の是正に取り組んできた。調査したのは世界で約6万3000人。多種多様な社員を抱えるグローバル企業だからこそ、平等を重んじる文化が経営の根幹にある。

20年10月には日本を含めたグローバル規模で格差是正の目標を達成。日本では全社員約2000人が対象となった。米本社が全権を持ち、トップダウンで改革を進め、性別や人種問わず賃金が底上げされた。一方で賃金が下がった社員はいないという。賃金の平等は達成から2年弱が経過した今も維持されている


◎達成を裏付けるデータは?

賃金の平等は達成から2年弱が経過した今も維持されている」とは言うものの、それを裏付けるデータは見当たらない。藤原記者は何のデータも確認せずに「アメックスは2020年10月に世界で賃金の平等を達成した」と信じたのか。

例えば「アメックスの社員数は男女半々なのに、2019年には人件費の7割が男性社員に割り振られていた。それが20年10月には5割に低下した」といった情報が欲しい。それをアメックスが出し渋るのならば「世界で賃金の平等を達成した」と信じるべきではない。

記事の続きを見ると「賃金の平等を達成した」という話がかなり眉唾に見えてくる。


【日経ビジネスの記事】

格差是正にあたり、アメックスは外部の目を導入した。給与関係の調査をコンサルタントに依頼。役職にふさわしい給与が支払われているかを精査し、給与範囲(レンジ)を整理したのだ。

アメックスでは、各役職における仕事内容を記述する職務記述書(ジョブディスクプリション、JD)を導入している。給与レンジはJDに沿って定められており、担当する業務によってレンジが決まる。社内外でレンジの調査をし、担当業務に応じた給与レンジから外れていれば、是正調査の対象となる。

しかし、「部署のリーダーや人事に事情を聞いていると、是正は一筋縄ではいかないと感じた」と森田氏は話す。評価者は被評価者の仕事ぶりを見て決断する。ただ、そこには感情のゆらぎが入る。成果にかかわらず懸命に働く姿を日々見ているからこそ、判断に「情」が混ざる

この情が厄介だ。正常な判断を鈍らせ、賃金格差を生み出す根源になりかねない。アメックスは情もアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)の一環と考えた。だからこそ、しがらみのない米本社がトップダウンで改革を推し進め、情という無意識の偏見を取り除いた

レンジの確認は、コンサルティング会社やAI(人工知能)などが行う。その結果、ある社員の賃金を3割上げる必要があれば淡々と実施する。現場のリーダーが違和感を覚えても、「AIなら『この人に3割増はないなあ』とは言わない」(森田氏)。

米本社の有無を言わせぬ改革に、現場の社員は困惑しなかったのか。「リーダーには『上げますけど、いいですか?』ではなく、『上げます』と報告した。確かに、説明を求めるリーダーは散見された」と森田氏は話す。新型コロナウイルス禍の影響でメール対応となったが、賃金のレンジを示しながら説明して、納得してもらったという。

「アメックスでは以前から多様性や平等などの取り組みが活発で、部下の賃金を是正すると聞いても抵抗感はなかった」。冒頭に登場した佐藤さんの上司はこう話す。


◎「格差是正」とは異なる話では?

上記のくだりは謎だ。「役職にふさわしい給与が支払われているかを精査」しても男女の「賃金格差」が解消するとは限らない。格差拡大もあり得る。また、男性の方が高い「役職」に就いているケースが多い場合は、正当な評価が実現しても当然に「賃金格差」はなくならない。そこをどう調整しているのかが知りたいところだ。しかし藤原記者は何も教えてくれない。

コンサルティング会社やAI」に任せれば正しい評価が実現する→正しい評価が実現すれば、男女半々の職場では人件費も必ず男女半分ずつ割り振られるーーと藤原記者は信じているのか。

記事には、さらに引っかかる記述もある。


【日経ビジネスの記事】

とはいえ、賃金の話はデリケート。通達するときは、「今まで正当に評価されていなかった」「給料が少なかった」などとマイナスに捉えられないように意識して伝える必要がある。実際に通達を受けた佐藤さんは、賃金アップをポジティブに受け止めた。「感染拡大の影響でみんな在宅勤務。姿が見えずに業務を進める中で、誰かがちゃんと見ていてくれたことに安心感を覚えた」(佐藤さん)


◎今まで正当に評価してた?

コンサルティング会社やAI」に任せれば正しい評価が実現し、それによって女性の賃金が上がると言えるのならば、女性は「今まで正当に評価されていなかった」と言える。そこを「マイナスに捉えられないように意識して伝える」のはごまかしだと感じる。

感染拡大の影響でみんな在宅勤務。姿が見えずに業務を進める中で、誰かがちゃんと見ていてくれたことに安心感を覚えた」という「佐藤さん」のコメントも謎だ。

今回の改革では「成果にかかわらず懸命に働く姿を日々見ているからこそ、判断に『情』が混ざる」といったことを「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」と捉えて排除したはずだ。だからこそ「佐藤さん」の「賃金の上昇」が実現したのではないのか。

会社側はそこをごまかして「佐藤さん」に伝えているのか。だとしたら、さらに不誠実さを感じる。

記事へのツッコミを続けよう。


【日経ビジネスの記事】

日本社会では男女の賃金格差が根深い問題だ。厚生労働省が発表した「令和3年賃金構造基本統計調査」の結果によると、21年において女性の賃金は男性の75%ほど。01年の65%から、20年かけてようやく10ポイント縮まるという遅々とした改善だ。

背景には、会社役員に女性の比率が少ないこともあるだろう。経済協力開発機構(OECD)が発表する「大企業における女性の役員の割合」では、日本は21年が12.6%。同年トップのアイスランドやフランスなど、世界と比べると女性が活躍できる国とは言いがたい


◎「女性が活躍できる国とは言いがたい」?

女性活躍について語る人の多くが女性管理職比率や女性議員比率といった指標で活躍度を測ってしまう。藤原記者も例外ではない。「会社役員に女性の比率が少ないこと」を問題視して「女性が活躍できる国とは言いがたい」と結論付けている。

活躍」の定義にもよるが「大企業における女性の役員の割合」を見ても「女性が活躍できる国」かどうかは判断できない。「女性の役員」は「活躍」しているが女性社員は「活躍」していないとでも見るのか。

藤原記者には周りを見回してほしい。日経BPで「活躍」しているのは「役員」だけなのか。藤原記者も含めて「役員」ではない人がたくさん「活躍」しているのではないか。

日本全体を見渡せば、育児や介護で「活躍」している専業主婦もいるだろう。個人的には日本を「女性が活躍できる国」だと見ている。藤原記者には女性社員や専業主婦が「活躍」していない人と映るのか。

その辺りも改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「戦略フォーカス:アメックスが達成した賃金の平等~『真の公平性』が成長の礎に

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00114/00163/


※記事の評価はD(問題あり)。藤原明穂記者への評価はDで確定させる。藤原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


価値観の押し付けが凄い日経ビジネス「あなたの隣のジェンダー革命」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post_21.html

2022年7月21日木曜日

「洋上風車の工場建設中止」という記事の訂正から見える日経の不誠実

20日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った訂正に関しては色々と問題を感じた。まずは訂正記事から見ておこう。

大バエ灯台

【日経の訂正記事】

<訂正> 16日付「欧州大手、洋上風車の工場建設中止」の見出しと記事中、「建設中止し、日本参入を見直す」とあったのは「建設保留」、「公募ルール変更」とあったのは「納入先の公募落選で」の誤りでした。


◎1面での間違いは1面に訂正を!

相変わらず日経は1面に訂正を載せたがらない。16日朝刊1面に載せた記事の訂正なのだから、きちんと1面に訂正を載せてほしい。余計なプライドは捨てるべきだ。

今回の訂正は「欧州大手」からの抗議を受けて日経が渋々ながら訂正を出したと推測している。そのせいか、訂正された記事を読んでみると奇妙な中身になっている。

ここからは「洋上風車の工場建設保留 欧州大手、長崎で 納入先の公募落選で」という見出しの付いた記事(電子版)を見ていこう。紙の新聞(12版)の見出しは「洋上風車の工場建設中止 欧州大手、長崎で 公募ルール変更」となっている。

全文は以下の通り。


【日経の記事】

洋上風力発電に使う風車の世界大手が日本への参入を見直す。デンマークのベスタスは日本で補助金を使った工場建設をやめ、独シーメンスグループも日本向け製品の供給を絞る。政府が洋上風力発電の事業者を公募するルールを見直しており、開発規模が小さくなって採算が取れない。脱炭素の有力な選択肢だが、欧州勢が日本市場を敬遠することで再生エネルギー普及の壁になる可能性がある。(関連記事ビジネス面に)

ベスタスは長崎県内に計画していた風車の関連工場の建設を保留にした。経済産業省の補助金を建設費の一部に充てる予定だったが、補助金の申請を取り下げた。スペインのシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジーも発電事業者などに日本での洋上風車の供給を見送る方針を伝えた。

日本での事業を縮小するのは公募ルールの見直しで開発規模が小さくなり、収益が確保しづらくなっているからだ。2021年12月に実施された初の大規模な公募では、秋田県沖など3海域すべてで三菱商事を中心とする企業連合が選ばれた。他社より大幅に安い価格が評価されたが大手企業の独占が続くと新規参入が増えないなどと一部から懸念の声も出た。

そのため政府は6月に中堅企業なども参入しやすくなるよう公募ルールの新たな案をまとめた。1つの企業連合につき100万キロワットを上限とすることを検討する。特定の企業連合が開発権を独占するのを防ぐ仕組みだ。

発電設備をつくるメーカーは発電事業者から大規模な受注が出来なくなる。生産面でも国内に工場を設けるよりも、輸入した方がコストが安く済む。ベスタスはこれまで日本を有望な市場とみていたが、戦略を見直す。


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。


(1)そんな文ある?

訂正記事からは「建設中止し、日本参入を見直す」という記述が本文にあると取れる。しかし、12版の記事にそうした記述はない。「洋上風力発電に使う風車の世界大手が日本への参入を見直す。デンマークのベスタスは日本で補助金を使った工場建設をやめ」とは書いている。このくだりは訂正が反映された記事でもそのままだ。

ベスタスは長崎県内に計画していた風車の関連工場の建設を取りやめた」との記述は「建設を保留にした」に修正してある。「建設を取りやめた」を「建設を保留にした」に訂正する必要があると判断したのならば、その前の「工場建設をやめ」もダメだろう。

訂正を読むと「日本参入を見直す」との説明は誤りだったと感じる。しかし本文で「日本への参入を見直す」との記述はしっかり残っている。日経が訂正を出すのを嫌がったから、こうしたおかしな記事になっているのだろう。

訂正を出すなら、そこは潔く全面的に修正するしかない。プライドが邪魔するのは分かるが…。

同様の問題は「公募ルール変更」に関する訂正にも見える。


(2)「公募ルール変更」はなぜ訂正?

『公募ルール変更』とあったのは『納入先の公募落選で」の誤り」と訂正記事にはある。最初は「公募ルール変更」自体がなかったのだと感じた。しかし、どうも違うようだ。

見出しを「公募ルール変更」から「納入先の公募落選で」に変えたのは「洋上風車の工場建設保留」の理由が間違っていたからだろう。

であれば本文にも修正があるはずだ。だが見当たらない。

政府が洋上風力発電の事業者を公募するルールを見直しており、開発規模が小さくなって採算が取れない」というくだりは「ベスタス」「シーメンスグループ」両社に共通する事情だと思われる。だとすると「洋上風車の工場建設保留」の理由はやはり「公募ルール変更」であり、見出しを直す必要はないことになる。

ここでもプライドが邪魔して修正が中途半端になったのだろう。


(3)なぜカラ見出し?

訂正後に「納入先の公募落選で」という見出しが付いたが、これに関する記述は本文にない。いわゆるカラ見出しだ。訂正を出して、それを電子版の記事に反映させるなら、もう少ししっかり修正してほしい。

この辺りにも日経の不誠実さが出ている。


※今回取り上げた記事「洋上風車の工場建設保留 欧州大手、長崎で 納入先の公募落選で」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220716&ng=DGKKZO62682600W2A710C2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2022年7月19日火曜日

子どもを「発達障害」と見なす弊害に切り込んだ東洋経済 井艸恵美記者に高評価

 週刊東洋経済7月23日号の特集「学校が壊れる」の中の「教員不足の深層2:少子化でも特別支援学級はなぜ増える?~急増する『発達障害』の真因」という記事を高く評価したい。筆者の井艸恵美記者は「心の病気」を巡る問題をかなり的確に認識していると感じた。

生月大橋

記事の一部を見ていこう。

【東洋経済の記事】

発達障害の概念を広く捉えようとする風潮も強まってきた。「ちょっと問題があると発達障害を疑われる」。こう憤るのは小学6年生の息子がいる女性だ。

「3年生のとき学級崩壊が起きた。36人中8人もの子の親が、担任から『どこか(医療機関に)相談したほうがいいんじゃないですか』と声をかけられたが、学年が上がったら何も問題がなくなった」

発達障害は不注意と多動が特徴とされるADHD(注意欠陥・多動性障害)、強いこだわりや対人関係が苦手といった特性がある自閉症スペクトラムなどが含まれる。ただ、発達障害の原因は明らかではないため、血液検査や脳波などの数値で診断されるものではない。診断基準はあるものの、「衝動性」や「こだわりの強さ」といった特性がどの程度ならば発達障害なのかは、医師の判断に委ねられる


◎それを「発達障害」と言われても…

血液検査や脳波などの数値で診断されるものではない」「『衝動性』や『こだわりの強さ』といった特性がどの程度ならば発達障害なのかは、医師の判断に委ねられる」という話ならば「発達障害」を医療の問題として扱うのは絶対にやめた方がいい。

例えば「強いこだわり」が例えば鉄分やビタミンCの不足で起きている場合、それらを補って様子を見るのもいいだろう。しかし「原因は明らかではない」のであれば、各人の個性と見なすべきだ。

同様のことはうつ病にも当てはまるが、成人が自ら病院を訪ねてうつ病患者になってしまうのは自業自得でもある。しかし「発達障害」に関しては、子ども本人が「発達障害」との認定を求めている事例は稀だろう。その分、親や医師の責任は重い。

記事では「都内の公立小学校で教員をしていた片桐健司氏」が以下のようにコメントしている。

発達障害が話題になって、教員の子どもを見る目が変わり始めた。『手がかかる』で済んでいた子どもが、何かあるとすぐ発達障害と思われるようになった。医師に相談すると何かしらの診断名がついてしまう

やはり、うつ病の問題と根っこは同じだ。うつ病や「発達障害」と診断されるだけならば、まだいい。厄介なのは、その診断をきっかけに「向精神薬の服用」へと落ちていくことだ。

記事の一部を見ていこう。


【東洋経済の記事】

発達障害とされる子どもが増えることにより、子どもに対して安易な向精神薬の服用が選択されていることも看過できない

厚生労働省が公開する医療機関の支払いデータ(NDBオープンデータ)を集計すると、向精神薬「コンサータ」の19年の処方量(19歳以下)は15年の3.5倍にまで増加していた。コンサータはADHDに用いられ、脳神経伝達機能に作用し、集中力を高める効果がある。

児童精神科医の石川憲彦医師は「子どもの多動は、成長とともに落ち着くことがほとんどだ。しかし、最近では脳が発達途中の7~8歳以前に薬を服用するケースが増えている。成長過程の脳に作用する薬を長期間飲むことの影響はわかっていない」と話す。


◎「発達障害」の診断から逃げろ!

発達障害」と診断された「子どもに対して安易な向精神薬の服用が選択されている」のは恐ろしいことだ。「向精神薬」は言ってみれば合法的な覚醒剤。それを幼い子どもにまで服用させるのは狂気の沙汰だ。

我が子を「発達障害」と診断させるな!

全ての親に強くそう訴えたい。

そして、この問題を取り上げた井艸記者を改めて称えたい。


※今回取り上げた記事「教員不足の深層2:少子化でも特別支援学級はなぜ増える?~急増する『発達障害』の真因


※記事の評価はB(優れている)。井艸恵美記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Bへ引き上げる。井艸記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


本当に「日本は病院数が世界一」? 東洋経済の井艸恵美記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_3.html

2022年7月13日水曜日

先進国の基準を示さないと… 日経 江渕智弘記者「参院選勝利・岸田政権の宿題(2)」

13日の日本経済新聞朝刊1面に江渕智弘記者が書いた「参院選勝利・岸田政権の宿題(2) 危うい先進国の座~成長源、雇用・規制改革に」という記事は説得力がなかった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

道の駅 昆虫の里たびら

【日経の記事】

日本が参院選さなかの6日、経済危機に陥ったアルゼンチンをめぐるパリクラブ(主要債権国会議)の会合が急きょ中止になった。返済猶予などの交渉を担ってきたグスマン経済相が2日に辞任を表明し、交渉の相手すらいなくなる混乱劇。国際金融市場でにわかに緊張感が高まった。

果たして、遠い南米の問題なのか。失われる競争力、下がる通貨、膨らむ債務、そしてインフレの影。根っこの課題は今の日本に重なり合う。「市場が債務問題に敏感になれば、日本も無縁でいられない」。通貨当局者の一人は言う。


◎脅しにはなっているが…

これだけ読むと日本もこのままだとアルゼンチンのような「債務問題」を抱えることになるように感じてしまう。アルゼンチンの場合は外貨建て債務の返済問題を抱えている。日本政府にも「膨らむ債務」はあるが、自国通貨建てでありアルゼンチンと重ねて見る必要はない。政府・日銀は無から限界なく日本円を創出できる。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

やるべき一手は「人への投資」を通じた生産性の向上だ。日本生産性本部が経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象に調べた就業者1人当たりの労働生産性をみると、日本は20年に28位に甘んじた。00年の20位から順位が落ちた。

反転に向けた宿題は山積みになっている。社会人のリスキリング(学び直し)、デジタルなど成長分野への労働移動、兼業・副業の促進。出し惜しみせず政策を総動員し、活力をもたらせるかが問われる。


◎「政策を総動員」する必要ある?

デジタルなど成長分野への労働移動」のために「政策を総動員」する必要があるだろうか。「成長分野」で人手が足りないならば企業は高賃金を提示して労働者を確保しようとするはずだ。「政策」に頼らなくても「労働移動」は起きる。

市場原理に任せたままでは「労働移動」が進まないのか。例えば、市場規模は伸びているものの追加の人手を必要としていないという状況が「成長分野」にはあるのならば「労働移動」は起きないのが当然だ。

さらに見ていく。


【日経の記事】

呼応する形で、企業にこびりついた新卒一括採用や終身雇用などの旧弊も改めたらどうか。働き手のやる気と能力を重んじる会社が評価され、次の成長につなげる循環を描きたい。医療や介護に代表される岩盤規制も壊したらいい


◎先ず隗より始めよ!

岩盤規制も壊したらいい」と日経が求めるのならば、新聞の再販売価格維持制度も廃止でいいはずだ。この強固な「岩盤規制」の撤廃を社説で訴えてほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

安倍晋三元首相の経済政策アベノミクスは雇用を増やし株価を上げた。参院選で勝利した岸田文雄政権の責務は、経済の地力を強める抜本策になる。

財政の拡張を唱える安倍氏の存在を前提に、全体のバランスをとるのが岸田政権の経済運営の基本だった。安倍氏がいなくなり、そのバランスは不安定になり、経済運営のかじ取りはむしろ難しさを増す


◎なぜそうなる?

財政の拡張を唱える安倍氏」がいなくなると「そのバランスは不安定になり、経済運営のかじ取りはむしろ難しさを増す」と江渕記者は言うが、よく分からない。積極財政派と財政再建派の「バランスをとるのが岸田政権の経済運営の基本」で、積極財政派が力を削がれたとすれば、財政再建派に軸足を置いて「かじ取り」をすればいい。

膨らむ債務」を問題視する江渕記者から見ても、財政再建の好機と映るのではないか。

最後の段落にも注文を付けたい。


【日経の記事】

ノーベル賞経済学者クズネッツ氏は「世界には4種類の国がある。先進国、途上国、日本、アルゼンチンだ」という言葉を残した。途上国から先進国になった日本は特別な国。途上国に転落したアルゼンチンもまたまれだ。かつてアルゼンチンがたどったように、日本の先進国の座が危うくなってきた


◎先進国の基準は?

日本の先進国の座が危うくなってきた」と江渕記者は記事を締めているが「先進国」の基準を示していない。これだと、ほとんど意味がない。

色々と記事を読んでいると「ワクチン後進国」「デジタル後進国」といった表現も目にする。しかし具体的な基準も示さずに危機を煽っている場合が多い。本当に「日本の先進国の座が危うくなってきた」と江渕記者が思うのならば、その基準となるラインは示してほしかった。


※今回取り上げた記事「参院選勝利・岸田政権の宿題(2) 危うい先進国の座~成長源、雇用・規制改革に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220713&ng=DGKKZO62557840T10C22A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。江渕智弘記者への評価も暫定でDとする。

2022年7月11日月曜日

国債売りで「海外勢はトリレンマを突いている」と日経 佐伯遼記者は言うが…

11日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に佐伯遼記者が書いた「Market Beat:国債売り『負けぬトレード』~海外勢、日銀の不合理突く」という記事には不満が残った。中身を見ながら具体的に指摘したい。

平戸大橋

【日経の記事】

366とかいうヤツを売ってくれ! 今すぐショート(売り持ち)だ」

日銀は2016年に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を導入した。長期金利の上限を0.25%程度に抑えることを金科玉条とする。10年債の366回債は、まさに日銀がYCCで金利上昇を抑え込んでいる銘柄だ。

証券会社には日本国債を取引したことがなく、口座すらない投資家からの注文が相次ぎ舞い込んでいる。証券会社の営業やトレーディングの担当者は「売りの量も、売り手の幅広さも過去最大だ」と口をそろえる。財務省の統計では6月、週間で4兆円超と過去最大の売り越しも記録した。


◎コメントの主を明示しよう!

366とかいうヤツを売ってくれ!」というコメントの主がはっきりしないのが引っかかる。固有名詞を出せとは言わない。例えば「米国系のヘッジファンド」ぐらいの情報は欲しい。

今回の記事で一番分からなかったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

海外勢がここまで確信をもって日本国債売りに踏み込むのはなぜか。「今の金利水準や日銀の金融政策が合理的ではないと冷静に分析している」(バークレイズ証券の三ケ尻知弘マクロ・トレーディング本部長)。

金利と為替を同時にコントロールすることは不可能だ」とある外資系証券のトレーディング担当者は語る。「自由な資本移動」「金融政策の独立性」「為替相場の安定」の3つは同時に満たせないとする、国際金融のトリレンマが根拠だ。円売り・債券売りを組み合わせた海外勢はトリレンマを突いている

海外勢の売りに負けじと、日銀は様々な措置を講じてきた。2月には10年債を無制限に買い入れる指し値オペ(公開市場操作)を3年半ぶりに発動した。今では指し値オペは毎日の実施となり、先物と連動する7年債も対象に加わった。


◎「海外勢はトリレンマを突いている」?

バークレイズ証券の三ケ尻知弘マクロ・トレーディング本部長」によると「海外勢」は「今の金利水準や日銀の金融政策が合理的ではないと冷静に分析している」らしい。

となると、その前に紹介した「366とかいうヤツを売ってくれ! 今すぐショート(売り持ち)だ」というコメントと整合しない。文脈から考えてコメントの主は「海外勢」のはずだが「冷静」とは程遠い感じがする。

さらに気になるのが「海外勢はトリレンマを突いている」との解説だ。「『自由な資本移動』『金融政策の独立性』『為替相場の安定』の3つ」を日銀が「同時に満た」そうとしているのならば「トリレンマを突いている」かもしれない。

しかし日本は「為替」に関して変動相場制を選んでいるし市場介入も見送っている。口先介入は多少あるが実質的には「円安放置」だ。なので「トリレンマを突いて」も意味はなさそう。

記事では「金利と為替を同時にコントロールすることは不可能だ」というコメントを載せているが、そもそも日銀は「金利と為替を同時にコントロール」しようと試みていない。

記事の終盤にも注文を付けておきたい。


【日経の記事】

日本国債売りは「ウィドウメーカー(未亡人製造機)」とされてきた。巨大な政府債務を背景に、金利急騰を見込んで投機筋が仕掛けたのは一度や二度ではない。だがその度に日銀や国内勢に跳ね返されてきた。

今回ばかりは市場が勝ってほしいし、勝つべきだ」とある日本人の債券トレーダーは漏らす。YCCから撤退すれば、経済の実態に即した金融政策にかじを切ったと世界は強く認識する。市場参加者の声はこれまでになく強い。


◎「市場が勝つ」とは?

YCC」に関して「市場が勝つ」とは、どういう事態を指すのだろうか。日銀が「YCCから撤退すれば」市場の勝ちだろうか。個人的には、この立場ではない。

YCC」の旗を日銀が降ろしていないのに、日銀をあざ笑うかのように長期金利が上昇していけば「市場が勝った」と感じる。

YCC」からの「撤退」が先に実現して、そこから長期金利が上がる場合は微妙だ。「YCC」に関しては円安を進行させるとの不満が国民の側にもあるし、それを受けて日銀に対する政治的な圧力が強まる場合もある。もちろん市場からの揺さぶりもある。

それらの要因が複雑に絡んで「YCC」からの「撤退」となるのであれば、単純に「市場が勝った」とは評価できない。佐伯記者には、そうした視点も持って今後の記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「Market Beat:国債売り『負けぬトレード』~海外勢、日銀の不合理突く

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220711&ng=DGKKZO62478950Q2A710C2ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯遼記者への評価はDを据え置く。佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「外貨投資、思わぬ落とし穴」 佐伯遼記者への疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/08/blog-post_54.html

データの見せ方がご都合主義的な日経 佐伯遼・富田美緒記者「チャートは語る」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_9.html

2022年7月8日金曜日

日経 高橋哲史経済部長の「Angle~長期金利は操れるのか」は悪くないが…

8日の日本経済新聞朝刊 経済・政策面に高橋哲史経済部長が書いた「Angle:長期金利は操れるのか~金融政策『手品』の限界」という記事は悪くない。問題意識は伝わってくるし、健全な批判精神も感じられる。ただ気になる点もあった。

大バエ灯台

後半部分を見ていこう。

【日経の記事】

開始から6年近くがたち、イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある

米欧では中央銀行がインフレを抑え込もうと利上げを急ぎ、長期金利は上昇傾向を強める。日本でも国債が売られ、長期金利に上向きの圧力がかかる。

日銀は無制限に国債を買い入れ、目標の0.25%を死守しようと懸命だ。しかし、投機筋が絡んだ売りだけに、厳しい戦いを強いられる。長期金利は6月に一時0.25%を上回る場面もあった。


◎どちらの「限界」?

イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある」との認識は自分も同じだ。ただ「限界」は2つに分けて考える必要がある。能力的な「限界」と政治・社会的な「限界」だ。

能力的な「限界」はないと見ている。日銀の国債購入能力は無限だからだ。だからと言って「イールドカーブ・コントロール」を今後も続けられるとは限らない。政策的に好ましくないとの政治・社会的な圧力が強まれば修正を迫られる。この可能性は十分にある。

高橋部長がどちらの意味で「イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある」と言っているのか、今回の記事ではよく分からなかった。「投機筋が絡んだ売りだけに、厳しい戦いを強いられる。長期金利は6月に一時0.25%を上回る場面もあった」との記述からは、能力的な「限界」もありと見ているとの解釈もできる。

もしその立場ならば「投機筋が絡んだ売り」を日銀が吸収できなくなる事態がどうやったら起きるのか描いてほしかった。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

副作用が深刻だ。日銀が保有する長期国債は6月下旬に発行残高の5割を超えた。政府が発行した国債の過半を日銀が買い取る異常事態だ。国の借金を日銀が刷ったお金で穴埋めしていると言われても仕方がない。


◎「日銀が刷ったお金」?

例えなので、あまりうるさく言う必要はないとは思うが「日銀が刷ったお金」という表現が引っかかった。「刷った」のは日銀ではなく国立印刷局だ。

一気に終盤を見ていく。


【日経の記事】

日本と米欧との金利差が開き、円安に歯止めがかからなくなる懸念もくすぶる。円安は輸入物価の上昇を通じて国内のインフレを後押しする。家計や中小企業の負担がさらに大きくなれば、岸田文雄首相の政権運営にも響く。

長期金利は将来の経済成長やインフレ率に関する市場参加者の予想を映すのが本来の姿だ。それをむりやり抑えこみ、市場機能を殺したツケは重い。

手品には必ずタネがある。投機筋はそこをつく。0.25%の上限をいつまで守り切れるのか。長期金利を操ろうとしてきた日銀は、追い詰められているようにみえる。

10日投開票の参院選後に、黒田日銀がどう動くかに注目したい。次の金融政策決定会合は7月20~21日である。


◎なぜ「米欧」限定?

インフレに伴う金利上昇は世界的な傾向だが「日本と米欧との金利差が開き、円安に歯止めがかからなくなる懸念もくすぶる」と高橋部長は「米欧との金利差」だけを問題視している。なぜなのか。

手品には必ずタネがある」という例えもしっくり来ない。日銀が「長期金利」を抑え込めている理由が外部の人間には分からないのならば「手品」に例えるのも分かる。実際には、その理由を高橋部長も理解しているはずだ。

10日投開票の参院選後に、黒田日銀がどう動くかに注目したい」と成り行き注目型の結論で済ませたのも残念。記事の内容としては日銀に政策変更を求めるのが自然。最後は「黒田日銀」への遠慮が働いたのか。


※今回取り上げた記事「Angle:長期金利は操れるのか~金融政策『手品』の限界」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220708&ng=DGKKZO62425010X00C22A7EP0000


※記事の評価はC(平均的)。高橋哲史部長への評価も暫定でCとする。

2022年7月5日火曜日

筋の悪さが目立つ日経「電通G、メタバース運営に本格参入」

いつものことだが日本経済新聞で「本格参入」の文字を見つけたら要注意だ。5日朝刊のビジネス・テック面に載った「電通G、メタバース運営に本格参入~世界で仮想イベント」もニュースとしての価値はほぼ感じられない。全文を見た上で問題点を指摘したい。

耳納連山と夕陽

【日経の記事】

電通グループは企業がイベントでメタバースを活用するサービスを本格的に始める。メタバース関連の技術を持つスタートアップのambr(アンバー、東京・中野)に追加出資した。ambrに開発資金を提供し、急拡大するメタバース需要を取り込む。

ambrには2021年に出資していた。追加出資額は非公表。ambrのメタバース構築基盤「xambr(クロスアンバー)」を活用し、電通グループのネットワークで国内外で顧客企業に仮想イベント事業などを売り込んでいく。マーケティング予算が多く確保できる企業や、ブランド価値の向上をしたい企業の需要を狙う。

メタバース空間で掲出する3次元(3D)広告も開発する。メタバース空間で消費者が利用する移動手段などを3Dで作り、空間内で広告配信するなどの検討をしている。

電通グループは「東京ゲームショウ2021 オンライン」でメタバース空間の構築やイベントを手掛けるなど、仮想現実(VR)関連の技術や事業運営のノウハウを蓄積してきた。

東京ゲームショウでは、漫画やアニメといったコンテンツ資産を持つゲーム会社や出版社などと協力し、IP(知的財産)をメタバースで活用する手法を模索した。

電通グループは5月に国内のグループ横断でメタバース事業の拡大を推進する組織を発足させている


◎気持ちは分かるが…

記者の立場になって推測してみたい。

出発点は「電通グループ」が「ambrに追加出資した」ことだろう。これを知った記者が記事にできないかと考えた。ところが「追加出資額は非公表」でニュースとしての価値はほぼない。そこで「電通グループは企業がイベントでメタバースを活用するサービスを本格的に始める」という話に仕立てたのだろう。

本当に「サービスを本格的に始める」のならば、記事にするなとは言わない。ただ「サービスを本格的に始める」時期にすら触れていない。

しかも「電通グループは5月に国内のグループ横断でメタバース事業の拡大を推進する組織を発足させている」らしい。だとしたら、この時点で「本格参入」したと見るのが自然だ。「東京ゲームショウ」で「メタバース空間の構築やイベントを手掛け」た実績もある。

サービスを本格的に始める」という話を柱にするのならば「これまでは本格的ではなかった」「今後に本格的になる」と読者に示す必要がある。そのどちらもできていない。

本格参入」記事は基本的に書かない方がいい。記者として悪い方向への進化を促してしまう。気を付けたい。


※今回取り上げた記事「電通G、メタバース運営に本格参入~世界で仮想イベント

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220705&ng=DGKKZO62310860U2A700C2TEB000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年7月4日月曜日

「人が生きにくい社会なら人は増えない」と言い切る東洋経済 野村明弘氏の誤解

少子化対策に関する記事は最近になって改善傾向が見られる。以前は「子育てと仕事を両立しやすくなる支援策を拡充しろ。欧州を見習え」といった的外れなものが多かったが、事実で裏付けられないことが徐々に浸透してきたようだ。だからと言って説得力のある記事が増えてきたとも言い難い。

夕暮れ時

東洋経済 解説部コラムニストの野村明弘氏が4日付で東洋経済オンラインに書いた「『人口減』をむしろ味方につける経済大改革の方策~もはや昭和ではない、『同性婚』『婚外子』も鍵に」という記事もその1つだ。

少子化対策は難しい。先進的な子育て支援で先行した欧州だが、一部では再び合計特殊出生率が低下する傾向が見られる」とは書いている。「出生率を抑制している古い社会構造」の1つとして「自分以上の所得の男性を求める女性」と明示しているのも評価できる。

「男性が主に稼いで女性は働くにしてもパート程度」という社会であれば「自分以上の所得の男性を求める女性」ばかりでも問題はない。しかし男性も女性も同じように働く社会になっても「自分以上の所得の男性」にしか女性が目を向けなければ、子供を作る男女のペアは成立しにくい。

個人的には少子化は放置でいいが、少子化を克服しようとするならば「自分以上の所得の男性を求める女性」に意識改革を迫るのは理に適っている。

ここからは問題のある部分を見ていこう。「先進的な子育て支援で先行した欧州」を見習ってもあまり意味がないと分かっても「だから出生率の高い新興国・途上国を見習いましょう」となる論者はほとんどいない。なので対策が一気に具体性を欠いてしまう。野村氏もそうだ。


【東洋経済オンラインの記事】

確実にいえるのは、少子化と人口減少は、私たちの社会の制度や慣習が抱える問題の映し鏡ではないかということだ。人が生きにくい社会なら人は増えない。であれば、そうした制度や慣習を現代の生活に合った形に変えていくことを優先政策とすればよいのではないか。

それは決して、人口対策ありきの「産めよ殖やせよ」ではない。人が生きやすい社会に近づけば、自然と人は増えるだろう。


◎「人が生きにくい社会なら人は増えない」?

人が生きにくい社会なら人は増えない」という考えに同意はしないが、とりあえず受け入れてみよう。だったら話は簡単だ。「人が増えている社会」を手本にすればいい。

先進国よりも新興国・途上国の方が人は増えているし、終戦直後の日本は今より圧倒的に人が増えやすい社会だった。「人口増加率が高い国を見習え!終戦直後のベビーブーム期に戻れ!」でいいはずだ。

人口が増え続けるアフリカの国々より、少子化に悩む欧州諸国の方が「人が生きやすい社会」だと見る場合「人が生きにくい社会なら人は増えない」という考え方は修正を迫られる。

人が生きにくい社会でも人は増え得るし、人が生きやすい社会でも人は減り得る」と考えるのが適切ではないか。


※今回取り上げた記事「『人口減』をむしろ味方につける経済大改革の方策~もはや昭和ではない、『同性婚』『婚外子』も鍵に

https://toyokeizai.net/articles/-/600512


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日本経済の「最悪の結末」を描けていない東洋経済コラムニスト 野村明弘氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/05/blog-post_16.html

「現在世代の消費」に使うと「将来世代に残るのは借金だけ」と誤解した東洋経済の野村明弘氏

https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/blog-post_17.html

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html