2020年4月30日木曜日

ドンキの価格設定は「市場機能を生かす知恵」? 日経「コロナと資本主義(2)」

30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「コロナと資本主義(2)マネー暴走、未曽有の乱高下~危機が問う市場の賢さ」という記事は理解に苦しんだ。「ドン・キホーテ」の価格設定を「危機においても市場機能を生かす知恵」として紹介しているが、なぜそう言えるのか謎だ。
姪浜港(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「なるほど、その手があったか」。3月上旬、短文投稿サイト、ツイッターである写真が話題をさらった。マスク売り場の値札に「1点目まで298円、2点目以降は9999円になります」と書かれている。ディスカウント店「ドン・キホーテ」での風景だ。

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、マスクはすぐ品切れになってしまう。そこで価格設定を工夫して買い占めや転売目的の大量購入など「必要性の低い需要」を抑え、実際に利用したいひとにマスクが渡りやすくした危機においても市場機能を生かす知恵。このツイートは約19万の「いいね」を集めた。

自由な取引のなかで価格が変動し、需要と供給が適切に調整されていく――。こんなふうに市場メカニズムが機能しないと、資本主義は本来の柔軟さを発揮できない。だが、新型コロナウイルスが欧米にも広がったショックから、世界の金融市場は2月下旬以降、異常な動きを繰り返した。


◎「市場機能」が大切と説くなら…

自由な取引のなかで価格が変動し、需要と供給が適切に調整されていく――。こんなふうに市場メカニズムが機能しないと、資本主義は本来の柔軟さを発揮できない」と説くならば、そもそも「転売目的の大量購入」を否定すべきではない。

マスクの価値が1枚1万円なのに、ある場所では300円で売られていたら、大量に仕入れて市場価格で販売するのは合理的だ。いわゆる裁定取引だ。結果として市場価格を大幅に下回る商品は短時間で姿を消す。「需要と供給が適切に調整されていく」と言い換えてもいいだろう。「適切」をどう考えるかという問題は残るが…。

1点目まで298円、2点目以降は9999円」という価格設定が「市場機能を生かす知恵」かどうかは脇に置いて「転売目的の大量購入」を防ぐ効果があるのかを考えてみたい。マスクの市場価値は1000円と仮定する。

この場合「2点目以降は9999円」には一定の防止効果があるが、それは「購入は1人1枚限り」と同じだ。「買い占め」を防ぐ効果では「1人1枚限り」が上回る。

転売目的の大量購入」をきっちり防ぎたいのならば、「1点目」も1000円以上にすべきだ。「298円」で購入したマスクだと「転売」で利益を得る余地がある。

ドン・キホーテ」のやり方は「なんで1枚だけなんだ。ウチはどうしても2枚必要なんだ」という客への対応としては効果があるだろう。しかし「市場機能を生かす知恵」といった類の話ではないと思える。


※今回取り上げた記事「コロナと資本主義(2)マネー暴走、未曽有の乱高下~危機が問う市場の賢さ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200430&ng=DGKKZO57506400R00C20A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年4月28日火曜日

渡辺努東大教授が東洋経済に書いた記事に教えられたこと

「これはためになる」と思える記事が週刊東洋経済5月2・9日合併号に載っていた。東京大学大学院経済学研究科教授の渡辺努氏が書いた「経済学者が読み解く現代社会のリアル 第64回~コロナショックで物価は上がるか下がるか」という記事だ。
姪浜港(福岡市)※写真と本文は無関係です

コロナショックで物価は上がるか下がるか」に関しては「マスクなど部分的に上がる物もあるが、全体としては下げ圧力が上回る」と思っていた。ごく一般的な見方だろう。しかし「物価の研究者」である渡辺氏は違う。そのくだりを見ていこう。

【東洋経済の記事】

大事なのは、スペイン風邪では物価が10%上がったという事実だ。賃金も上昇した。なぜか。労働力が奪われたからだ。労働供給が減ることで労働が希少になり賃金が上がり物価が上がったのだ。

東日本大震災やスペイン風邪と同じくコロナも供給ショックだとすれば物価は上がるはずだ。これが筆者の思考の出発点だ。多くの人が信じる、コロナでデフレ再来というシナリオと明らかに異なる。

なぜ筆者の考え方が多くの人たちと異なるのかを簡単な例で説明しよう。モノとサービスを労働者が生産し、それを消費者が消費する状況を考える。

例えばサービスはラーメン店、モノはカップ麺だとしよう。コロナ感染が広がると人々は他人との接触を恐れラーメン店に通うのを控えるようになる。その代わりにスーパーでカップ麺を買って家で食べる。多くの人が「巣ごもり消費」に切り替え、サービス(ラーメン店)からモノ(カップ麺)へという代替が生じるのだ。

ここで注目したいのは、ラーメン店の店員やカップ麺の生産・販売・流通に関与する企業で働く労働者だ。消費者の需要がカップ麺へとシフトした結果、ラーメン店の生産は減少し、そこで働く人の労働投入も減少する。店員の一部は失業するだろう。

多くの人が現在議論しているのはこの現象だ。クレジットカードの取引履歴データを用いた経済指標である「JCB消費NOW」によれば、飲食や娯楽などのサービス業における需要は半減だ。ラーメン店の売り上げ減への補償や店員の賃金補償政策をめぐる議論もそこから出てきている。

しかし話はこれで終わりではない。カップ麺企業は需要が高まるので生産を増やさなければならない。需要が増えれば価格も上昇する。実際、スーパーの店頭での日次の物価を捉える指標である「日経CPINOW」によれば、物価は今年2月の最終週から上昇し始め、一時は日銀の目標値である2%にまで迫った。

カップ麺企業で働く労働者は、生産水準の引き上げのため頻繁に出勤することになる。賃金は多少上がるかもしれず経済的には決して悪くない。しかし健康面では、厳しい環境に置かれる。職場までの移動や職務の中で、ウイルス感染を防ぐために他人との距離を取ることが難しくなるためだ。

ラーメン店の店員は失業するなど経済的には苦しいかもしれないが、3密を回避できる。一方、カップ麺の労働者は3密から逃れられない。最終的に、カップ麺の労働者の一定割合が感染すると考えられる。その結果、カップ麺企業での労働投入が減り生産も減る。需要増にもかかわらず生産が減るので、価格の上昇が起きるのだ。


◎自分の浅さが分かる記事

誰もがそうだと思っているようなことを記事にする意義は乏しい。今回はその逆だ。「スペイン風邪では物価が10%上がったという事実」は確かに示唆に富む。

東日本大震災やスペイン風邪と同じくコロナも供給ショックだとすれば物価は上がるはずだ。これが筆者の思考の出発点だ」と渡辺氏は言う。この意外性が重要だ。なぜそうなるのかの説明にも説得力がある。自分の考えが浅すぎたと反省させてくれる内容だ。

記事の中で「物価の研究者である筆者が最近頻繁に聞かれるのが、コロナショックで日本はまたデフレに逆戻りですかという質問だ。これに対して筆者は肯定とも否定ともとれる受け答えをせざるをえない。筆者にはわからないからだ」とも渡辺氏は述べている。

渡辺氏でも「わからない」と感じているのだ。この問題を単純に捉えていた自分の愚かさを恥じるしかない。

そのことに気付けただけでも、この記事を読んだ意味があった。渡辺氏に感謝したい。


※今回取り上げた記事「経済学者が読み解く現代社会のリアル 第64回~コロナショックで物価は上がるか下がるか
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23523


※記事の評価はB(優れている)。渡辺努氏への評価も暫定でBとする。

2020年4月27日月曜日

「スペイン風邪」の話が生きてない日経 芹川洋一論説フェロー「核心」

27日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に芹川洋一論説フェローが書いた「核心~『染後国家』をどうつくるか」という記事は残念な内容だった。肝心の「『染後国家』をどうつくるか」をきちんと論じていない。
能古港(福岡市)のフラワーのこ※写真と本文は無関係

記事では「新型コロナウイルスの感染拡大と似た事例を近代の歴史に探してみた。しばしば指摘されている100年前のスペイン風邪の流行がそうだ」と記した上で「スペイン風邪」を振り返るのに記事の半分程度を費やしている。しかし、それが「『染後国家』をどうつくるか」にうまくつながっていない。

芹川氏も書いているように「スペイン風邪」から新型コロナウイルス問題のヒントを得ようとする記事は既にたくさんある。今さら感があるだけに「『染後国家』をどうつくるか」とはしっかり関連付けてほしかった。しかし、今回に関しては歴史を振り返って行数稼ぎをしただけとしか思えない。

『染後国家』をどうつくるか」に触れた記事の後半を見ていこう。


【日経の記事】

「1918年には米騒動がおこり、20年には日本初のメーデーがひらかれるなど労働組合が組織され、農民組合もできてくる。第1次世界大戦で成り金が生まれて貧富の差が可視化される。格差是正が問題になってきていた」

「それを少しでも解消しようとするひとつのあらわれとしてスペイン風邪対策が出てきた。危機的な状況を克服する過程で、どういう新しい社会をつくろうとしているのかが見えてくる」

12年の第1次護憲運動、16年の吉野作造の代表的論文「憲政の本義を説いて其有終の美を済(な)すの途(みち)を論ず」、18年の「平民宰相」である原敬内閣の発足、普通選挙運動、そして24年の第2次護憲運動をへて、政党内閣制の確立に向かった大正という時代。

スペイン風邪という社会的な危機に向き合った人びとの行動は「自由と平等」の社会をめざす大正デモクラシーの流れそのものだった

今の日本に引きつけてみるとどうなるだろうか。2011年の東日本大震災のあと、戦後から脱却し新しい日本をつくろうとして「災後国家」が提唱された。残念ながら戦後つづいてきた国家の仕組みが変わることはなかった。ある意味で東北限定の問題としか受けとめられなかったこともあったに違いない。

こんどは違う。全国の人びとが同じように新型コロナ感染の恐怖にさらされている。おのずと国や地方の対応、社会のありようを考えざるを得なくなっている。それは感染後の「染後国家」の姿につながるものだ。

コロナの処理をうまくできるのが社会の秩序を重視する強権的な監視型の国家なのか、それとも個人の人権を大事にする自由主義の国家なのか、という問題でもある。

井上教授は「秩序だけで自由がないのも、自由だけで無秩序なのも、いずれもダメで、その最適解がどこにあるのかの合意形成が必要になってくる。自由と秩序のバランスをどこまでとっていける社会になるのかが大事だ」と指摘する。

緊急事態宣言を受けて個人や企業の行動を規制して感染拡大を防ごうというときに果たして自粛だけで良いのか。強制力を伴う制度的な枠組みを整えておく必要はないのかどうか。

「自由と秩序」の均衡をいかに図っていくかこそが、染後の令和日本に突きつけられている課題のような気がしてならない


◎話が合ってないような…

スペイン風邪という社会的な危機に向き合った人びとの行動は『自由と平等』の社会をめざす大正デモクラシーの流れそのものだった」というのが芹川氏の認識だ。これが正しいかどうかは置いておく。

そこから「今の日本に引きつけてみる」のであれば、新型コロナウイルス問題という「社会的な危機に向き合った人びとの行動」を「『自由と平等』の社会をめざす」動きへと結び付けていくべきだとの主張になるのが自然だ。

しかし話はむしろ逆。「感染拡大を防ごうというときに果たして自粛だけで良いのか。強制力を伴う制度的な枠組みを整えておく必要はないのかどうか」と問いかけている。芹川氏としては「自粛だけで」は問題解決が困難なので「自由」を制限すべきだと言いたいのだろう。

それを否定はしないが「だったらなぜ長々と『スペイン風邪』の話をしたのか」と聞きたくなる。

さらに残念なのが「『自由と秩序』の均衡をいかに図っていくか」について芹川氏自身の具体案がないことだ。

感染拡大を防ぐために、どの程度「自由」を制限すべきかが難しくて重要な問題であるのは多くの人が理解している。芹川氏に言われるまでもない。問題はそのバランスだ。

「『自粛』だけじゃ足りないかも。どのぐらい強制的な行動制限を許すべきか皆で考えなくちゃ」程度のことしか言えないのならば「核心」というタイトルで長文のコラムを載せる意義は乏しい。


※今回取り上げた記事「核心~『染後国家』をどうつくるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200427&ng=DGKKZO58468640U0A420C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一氏への評価はDを据え置く。芹川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_18.html

2020年4月26日日曜日

山口圭介編集長を高く評価したくなる週刊ダイヤモンドの訂正

【訂正とお詫び】●本誌4月25日号112ページの「永田町ライブ!」の1段目の「第2次世界大戦の」を削除します。
筑後川の旧神代橋(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

週刊ダイヤモンド5月2・9日合併特大号に上記の訂正記事が載った。これは同誌の山口圭介編集長が良い意味で「本物」であると強く示唆している。

この件に関する問い合わせと回答を見てほしい。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

政治コラムニスト 後藤謙次様 週刊ダイヤモンド 担当者様

4月25日号の「永田町ライヴ! 『安倍1強』に陰り、党幹事長は 首相と調整なく10万円給付要請」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』は東京都知事の小池百合子が2017年7月の都知事選で勝利した際に言及した“座右の書”。第2次世界大戦のノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパールなど旧日本軍が致命的なダメージを受けた六つの戦闘を検証し、敗戦に至る要因を分析したものだ。その『失敗の本質』が新型コロナウイルスによる感染症に直面して再びクローズアップされている

この説明に従えば「ノモンハン」は「第2次世界大戦」の一部となります。「ノモンハン」事件とは「昭和14年(1939)5~9月にノモンハンで起こった軍事衝突事件」(デジタル大辞泉)です。

一方「第2次世界大戦」は「1939年9月1日から1945年8月15日、ヨーロッパ・中東・アジア・太平洋全域にわたり、文字通り世界的規模で行われた戦争」(百科事典マイペディア)です。「1939年9月1日」に起きたドイツによるポーランド侵攻を「第2次世界大戦」の始まりとするのが一般的です。「ノモンハン」事件は同年5月に始まっているので「第2次世界大戦」に含まれるとは思えません。

第2次世界大戦のノモンハン」という説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。

コラムはいつも楽しみに読んでいます。政治に関する鋭い分析を今後も期待しています。


【ダイヤモンドの回答】

平素より弊誌をご購読いただきありがとうございます。

4月25日号の「永田町ライヴ!」について問い合わせいただきました、ノモンハン事件は第2次世界大戦には含まれるとは思わないとのご指摘に対して、以下のとおり回答させていただきます。

ノモンハン事件を第2次世界大戦の始点の一つとする考察もありますが、鹿毛様のご指摘のとおり、一般的には含まれないため、誤った記述となります。5月2・9日合併号にて訂正を掲載いたします。

今後とも「週刊ダイヤモンド」をどうぞよろしくお願いいたします。

ダイヤモンド編集部 山口圭介


◇   ◇   ◇


山口氏が編集長になってからは間違い指摘を無視することがなくなったので、回答があるとは予想していた。ただ、訂正を出すのは予想外だった。

「ノモンハン事件は一般的には第2次世界大戦には含まれないが、含むとする考えもある。筆者の意向を尊重して『第2次世界大戦のノモンハン』という説明をそのまま残した」といった回答になると予想していた。それで十分だとも思っていた。

しかし「誤った記述」と認めた上で訂正まで出している。ここは高く評価したい。

ライバル誌の週刊東洋経済と比べると最近のダイヤモンドは訂正が圧倒的に多い。東洋経済の訂正はほとんど見ない。となると東洋経済の方が間違いの少ない優れた経済誌だと理解したくなる。

しかし完全に逆だ。東洋経済の訂正が極端に少ないのは多くのミスを握り潰しているからだ。そこは声を大にして言いたい。

ダイヤモンドの「訂正とお詫び」も「第2次世界大戦のノモンハン」が誤りだと分かるように書いていない点は不親切ではある。だが、そこを責めるよりは、きちんと訂正を出したことに目を向けたい。

正直者が馬鹿を見ることがないように、山口氏が率いる週刊ダイヤモンドを一読者として微力ながら支えたい。


※今回取り上げた記事「永田町ライヴ! 『安倍1強』に陰り、党幹事長は 首相と調整なく10万円給付要請
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29257


※山口圭介編集長への評価をC(平均的)からB(優れている)に引き上げる。山口編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html

週刊ダイヤモンド ようやく「訂正」は出たが内容が…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_15.html

2020年4月24日金曜日

「世界規模での戦争」が75年ないのは人類史上初? 日経「大機小機」

人類の歴史を振り返れば、3四半世紀にわたり世界規模での戦争がない平和な時代は例がなかったのではないか」と問われたら「確かに」と思えるだろうか。自分としては、どう考えても違う気がする。24日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~『コロナ戦争後』 見えぬ秩序」という記事で、筆者の玄波氏は以下のように書いている。
三井中央高校(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係


【日経の記事】

今年2020年は1945年の第2次世界大戦終了から75年、3四半世紀の節目を迎える年だ。人類の歴史を振り返れば、3四半世紀にわたり世界規模での戦争がない平和な時代は例がなかったのではないか。それは、20世紀前半に第1次・第2次世界大戦と2回も世界が戦場になったなかの反省だった。

軍事的発想を世界規模で失いかけていたなか、今回、「コロナ戦争」という「見えざる敵」に対する世界規模での戦い、勝者なき「第3次世界大戦」が勃発した。戦後3四半世紀の太平の眠りを覚ます歴史的事件で、「戦争を知らない子供たち」が戦時体制の不条理を疑似体験している。


◎19世紀までは…

人類の歴史を振り返れば」数百万年に及ぶだろう。そのほとんどの期間で「世界規模での戦争」はなかったはずだ。第1次世界大戦が人類初の「世界規模での戦争」だと思える。

世界規模での戦争がない」という条件を満たせば「平和な時代」だと言えるのならば、19世紀まで人類はずっと「平和な時代」を生きてきたのではないか。

軍事的発想を世界規模で失いかけていた」という見方にも同意できない。「世界規模での戦争がない」からと言って、軍事衝突がなくなった訳ではない。イラク戦争などで21世紀に入っても様々な軍事行動を続けてきた米国は「軍事的発想」を「失いかけていた」のか。シリア内戦を経験した子供たちは「戦争を知らない子供たち」なのか。答えは明らかだ。

新型コロナウイルスの問題を「第3次世界大戦」と呼ぶなとは言わない。だが、今回の記事では危機の煽り方に無理があると感じた。


※今回取り上げた記事「大機小機~『コロナ戦争後』 見えぬ秩序
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200424&ng=DGKKZO58426680T20C20A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年4月23日木曜日

デフレ時に「年金のマイナス改定」は不可? 日経社説に誤り

経済がデフレ基調のとき」今の制度では「年金のマイナス改定」ができないのだろうか。23日の日本経済新聞の社説を読む限り、そう理解するしかない。しかし実際は違うと思える。日経には以下の内容で問い合わせを送ってみた。
日蓮聖人銅像護持教会(福岡市)※写真と本文は無関係

【日経への問い合わせ】

23日の朝刊総合1面に載った「問題多い年金法案の拙速審議は許されぬ」という社説についてお尋ねします。社説では「制度の持続性を高めるカギは、経済がデフレ基調のときに年金のマイナス改定を可能にしたり、基礎年金の最低保障機能を充実させたりする改革にある」「(法案の)問題は、現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ」と解説しています。

これを信じれば、現行制度では「経済がデフレ基調のとき」でも「年金のマイナス改定」ができないはずです。しかし2017年1月27日付の「17年度の年金受取額0.1%下げ~3年ぶり減額」という御紙の記事では以下のように説明しています。

年金額は賃金や物価の変動に合わせて増やしたり減らしたりしている。改定の基準になるのは物価上昇率と賃金変動率の2つ。総務省が同日発表した16年平均のCPI(生鮮食品含む総合)は前年と比べて0.1%の下落だった。賃金変動率は1.1%のマイナス。現在の仕組みでは、賃金変動率と物価変動率がともにマイナスで、賃金の下げ幅の方が物価よりも大きいときは、物価の減少幅に合わせて年金額を変えることになっている

こちらの記事からは「現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定」が実際に実行されていると取れます。現行制度下では「経済がデフレ基調のとき」も「年金のマイナス改定」ができないと取れる社説の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

社説には「デフレ基調が続けば、そのツケは将来世代に及ぶ。経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化すべきである」との記述もあります。「デフレ」の時もマクロ経済スライドを発動できる仕組みに変えるべきとの趣旨で「問題は、現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ」と書いたのかもしれません。しかし社説の説明では「経済がデフレ基調のとき」の「年金のマイナス改定」が現行制度ではできないと理解するしかありません。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして恥ずかしくない行動を心がめてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた社説「問題多い年金法案の拙速審議は許されぬ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200423&ng=DGKKZO58361410S0A420C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年4月22日水曜日

原油は「増産競争で市場崩壊」と日経 松尾博文編集委員は言うが…

22日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」という記事が載っている。見出しで引っかかったのが「市場崩壊」だ。冒頭で松尾博文編集委員は以下のように書いている。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米原油市場で先物価格が史上初めて、買い手がつかない「マイナス取引」となった。期近5月物に限る「瞬間風速」とはいえ、産油国の増産競争は市場の崩壊を招いた。出口の見えない供給過剰は原油価格を長期的に低迷させ、新型コロナウイルス危機が終息しても、石油の将来に禍根を残すことになりかねない。



◎「市場の崩壊」とは?

市場の崩壊」とはどういう状況を指すのだろうか。個人的には「何らかの理由で売買が全く成立しなくなり市場としての機能を果たせなくなること」だと感じる。

であれば「買い手がつかない『マイナス取引』となった」としても「市場の崩壊」は起きていない。市場の価格発見機能も生きている。その価格が「マイナス」となっただけだ。

松尾編集委員は「市場の崩壊」を別の意味で捉えているのかもしれない。しかし、記事中にその説明はない。「需給バランスは崩壊し、市場はOPECの手に負えなくなった」との記述があるので「需給バランスが大きく崩れる=市場の崩壊」と見ているのかもしれないが、一般的な認識とは乖離しているのではないか。

記事にはもう1つ気になる解説があった。

【日経の記事】

問題はコロナ危機が終息した後、石油需要が戻ってくるかだ。新型コロナは社会のありようを変えるきっかけになりうる。テレワークやオンライン授業は意外とうまくいく。多くの人がそんな感想を抱いたはずだ。

コロナ後もこれが定着すれば、世界各地で国際会議が開かれ、通勤ラッシュにもまれる、そんな日常が変わるかもしれない。エネ研の小山氏は「移動に要するエネルギー需要が構造的に抑制される可能性がある。デジタルなど代替手段に置き換えられ、石油需要抑制が進むかもしれない」という。

IEAは「世界エネルギー展望」の最新版で、石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎えると予測した。コロナ危機はピーク到来を早める可能性がある。

サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は英フィナンシャル・タイムズ紙に「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」と述べた。気付いていないのは産油国だけかもしれない。



◎辻褄は合うような…

石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎える」という「予測」と、「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」とのコメントは矛盾しない。

30年代にピークを迎え」るとしても、そこで「エネルギーの中心」から外れるとは限らない。「コロナ危機」が「ピーク到来を早め」たとしても、それは同じだ。

エネルギーの中心であり続ける」かどうかを考える上で、いつ「石油消費」が「ピークを迎え」るかは重要ではない。「エネルギーの中心」かどうかは他の「エネルギー」との比較で決まる。既に「石油消費」が「ピークを迎え」ていたとしても、「エネルギー」消費で「石油」が圧倒的な地位を維持しているのならば、「エネルギーの中心」という位置付けは変わらない。

気付いていないのは産油国だけかもしれない」と松尾編集委員は記事を締めている。だとしたら「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」との認識が甘すぎると思える材料を示してほしかった。


※今回取り上げた記事「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200422&ng=DGKKZO58332600R20C20A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。松尾博文編集委員への評価もDを据え置く。松尾編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

二兎を追って迷走した日経 松尾博文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_7.html

「タンカー攻撃」の分析で逃げが目立つ日経 松尾博文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_15.html

2020年4月20日月曜日

「本格参入」済みでは? 日経「JFE系、ペットボトル再生に本格参入」

日本経済新聞のニュース記事で「本格参入」という言葉を使っていたら要注意だと以前から訴えてきた。20日の朝刊1面に載った「JFE系、ペットボトル再生に本格参入~国内の廃プラ増へ対策」という記事はその典型だ。1面に載せるに値しないネタを1面に持ってくるための技として「本格参入」を使ったのだろう。気持ちは分かるが、読者への背信行為と言うほかない。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の記事】

リサイクル大手のJFEエンジニアリングは、ペットボトルのリサイクル事業に本格参入する。子会社などが約100億円を投じ、津市にリサイクル工場を新設する。使用済みペットボトルなどの廃プラスチック(廃プラ)は中国が輸入規制し、日本国内で未利用の廃プラが増える懸念が強まっている。新工場が本格稼働すれば、国内の未利用の廃プラの4%程度を再利用できる計算だ。

プラスチック循環利用協会(東京・中央)によると、2018年に国内で発生した廃プラは891万トン。うちリサイクルされなかった廃プラは142万トンにのぼる。計算方法の変更で前年と単純比較できないが中国の輸入規制の影響が出ているようだ。有害廃棄物の移動を制限するバーゼル条約では21年から廃プラも国際的な移動が制限される。日本では未利用の廃プラの処理が課題だ。

JFEエンジ子会社のJ&T環境と、リサイクル専業の協栄産業(栃木県小山市)が共同出資会社を設立した。JFEエンジの津製作所(津市)に工場を造り、21年9月に稼働させる。稼働から2年以内に年6万トンの使用済みペットボトルを受け入れる計画だ。


◎多少は「参入」しているはずだが…

リサイクル大手のJFEエンジニアリングは、ペットボトルのリサイクル事業に本格参入する」と書いているのだから実験的な形では既に「リサイクル事業」へ「参入」しているはずだ。しかし記事中には、その説明が見当たらない。

JFEエンジ子会社のJ&T環境」のホームページで川崎ペットボトルリサイクル工場の概要を見ると、稼働日は2002年4月1日で、処理能力は年間1万5000トンとなっている。今回の「本格参入」は「年6万トン」。現状の年1万5000トンを「本格参入」に至っていないと見るのはかなり苦しい。

そこは記者も分かっているのだろう。だからこそ現状を説明しなかったのではないか。だとしたら、やはり騙しだ。

さらに言えば「2年以内に年6万トンの使用済みペットボトルを受け入れる」のが「JFEエンジ子会社のJ&T環境と、リサイクル専業の協栄産業(栃木県小山市)」によって設立された「共同出資会社」だというのも気になる。

共同出資会社」の出資比率に記事では触れていない。「協栄産業」が過半を出資している場合「JFE系、ペットボトル再生に本格参入」という話がさらに成立しなくなってくる。



※今回取り上げた記事「JFE系、ペットボトル再生に本格参入~国内の廃プラ増へ対策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200420&ng=DGKKZO58243060Z10C20A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏は熱心な女性管理職クオータ制導入論者だ。しかし、その主張に説得力はない。20日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策」という記事を見ながらツッコミを入れていきたい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

年度が変わり、新しく管理職になった方も多いでしょう。どんな組織であれキーワードは女性です。すでに経済社会は製造業からサービス業に主軸を移しています。そのユーザーは7割が女性。中高年男性にニーズは分かりません。こうした需給のミスマッチに対応するのがクオータ制です。

女性にゲタを履かせる制度はおかしいという意見があります。たしかに形式的には不平等ですが、男女格差がある現実を考えれば実質的には平等といえます。無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから。

クオータ制の一番の狙いはロールモデルを作ること。まずは女性の管理職を作りましょう。例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める。最初は無作為でもいいから選ぶと、次は自分かもしれないと他の女性たちは準備します。それがクオータ制の本質です。


◎なぜ「管理職」が対象?

中高年男性にニーズは分かりません」と言い切って良いのか疑問が残るが、取りあえず受け入れてみる。だとしても、なぜ「まずは女性の管理職を作りましょう」となるのか。「需給のミスマッチに対応する」のであれば、商品開発部門などで「クオータ制」導入を検討するのが筋だろう。総務部長や経理部長を女性にして「需給のミスマッチに対応」できるのか。

そして業種を限定すべきだ。「需給のミスマッチに対応」するのが目的ならば、鉄鋼メーカーや半導体メーカーで「クオータ制」を導入してもあまり意味がない。「例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める」と言うが、それも固定すべきではない。「女性ユーザーが8割の企業では商品開発部門のスタッフの8割を女性に」といった具合にすべきではないか。

無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから」という説明も是としない。「無意識のうちに男性が高いゲタを履いている」と言える根拠を示さないのは感心しない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

料亭などでは女将が店を仕切っています。そこに嫁いだ女性は義母という身近なロールモデルがいるから見よう見まねで仕事に取り組みます。ベンチャーも同じです。スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら「自分も」と思うもの。身近なロールモデルが個人の意識を変えるのです。



◎「需給のミスマッチに対応」は?

需給のミスマッチに対応するのがクオータ制」ではなかったのか。「身近なロールモデル」を作るための「クオータ制」に話が変わってきていないか。

個人的には「身近なロールモデル」が必要だとは思わないが、ここでも取りあえず受け入れてみる。ただ、やはり「クオータ制」は必要ない。

スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら『自分も』と思うもの」と出口氏も書いている。この場合「大学の先輩」の性別は関係ないはずだ。女性管理職が身近にいなくても、身近にいる有能な男性管理職を「ロールモデル」にすれば済む。

さらに話を進めよう。

【日経の記事】

たとえクオータ制で選ばれた女性が他の管理職に比べて少し能力が劣ったとしても問題ありません。人をつくるのはポストです。そもそも「管理職にはなれない」と思って仕事をしてきたのだから、最初は差があって当然。ポストに就いたら出来るようになります。フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?


◎だったら「男性」でもいいのでは?

上記の説明を信じれば「管理職なんて誰でもいい」はずだ。「ポストに就いたら出来るようになります」と言えるのならば、男性も「ポストに就いたら」問題は解消するはずだ。女性ユーザーのニーズが分からないなどと心配する必要はない。それとも「ポストに就いたら出来るように」なるのは女性だけなのか。

フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?」との問いかけも感心しない。これに対する個人的な答えは「それを判断できるほどフランスの政治を見ていない」だ。「政治はおかしく」なっていないと出口氏が判断しているのならば、その根拠を示してほしい。

記事を最後まで見ていこう。

【日経の記事】

こういう話をすると「女性は管理職になりたがらないから登用できない」という反論が出ます。でも女性の社会的地位が低く、無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会で、女性は家事も育児も介護も押しつけられているのです。この上、管理職になるのは大変だと思うのは当たり前です。ゆがんだ社会構造がそうした意識を生み出しているのだと、管理職はしっかり認識してください。

女性の活躍においては、だれもが総論賛成のようです。でも重要なのは各論の実行。クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除し、人為的に時間軸を短縮してロールモデルを作り出す最良の方法と考えます。


◎「無意識の偏見」がある?

無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と出口氏は言うが、やはり根拠は示していない。「無意識の偏見」は「無意識」ゆえに存在を確認するのが非常に難しいだろう。なのになぜ「無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている」と断言できるのか。

女性は家事も育児も介護も押しつけられている」との見方にも賛成できない。特に「育児」が引っかかる。ほとんどの女性は「『育児』なんてやりたくない。こんな面倒な役割はできれば放棄して、何か他のことに打ち込みたい」と願っているのか。自分が知る女性の多くは「育児」を自ら進んでやっているように見えたが…。

自分は男性ではあるが「家事も育児も介護も」やってきた。しかし「押しつけられている」と感じたことはない。もちろん「押しつけられている」人もいるのだろう。だが、単純に「女性は家事も育児も介護も押しつけられている」と言い切ってよいのか。それこそ「偏見」ではないのか。

最後に文の書き方で注文を付けておく。

無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と書くと「社会」を繰り返すので拙い印象を与える。「無意識の偏見が隅々まで行き渡っている社会」とした方が良い。

クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除」といきなり「アンコンシャスバイアス」が出てくるのも好ましくない。この言葉を使うならば訳語を入れるべきだ。今回はその前に「無意識の偏見」と書いているのだから、最後まで「無意識の偏見」で通した方が分かりやすい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200420&ng=DGKKZO58186250X10C20A4TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

2020年4月18日土曜日

「外貨建ての保険商品」を前向きに紹介する日経 渡辺淳記者の罪

日本経済新聞の渡辺淳記者は金融業界の回し者と見ておいた方が良いだろう。18日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「円・ドル…為替が動くワケ~政策が左右、外貨運用はリスクも」という記事で「外貨建ての保険商品」を前向きに紹介しているからだ。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

そのくだりを見てみよう。

【日経の記事】

人生100年時代を見据えた資産運用を考える時、利回りが見込める外貨投資は貴重な運用先となる。たとえば、外貨建ての保険商品。金利が低い日本円で運用するより、比較的高い外貨で運用すれば途中で解約しても多くの返戻金が見込める。数年前には豪ドル建ての保険が人気だった。

資源の輸出先として依存度の高い中国が減速すると、豪ドルは昨夏に対円で約10年ぶりとなる安値をつけた。返戻金を円換算した受け取り額が目減りするため、家計にとっては痛手となる。


◎「貴重な運用先」?

利回りが見込める外貨投資は貴重な運用先となる」としても、その後に「たとえば、外貨建ての保険商品。金利が低い日本円で運用するより、比較的高い外貨で運用すれば途中で解約しても多くの返戻金が見込める」と解説するのは感心しない。

外貨建ての保険商品」と言えば、無駄に手数料が高い金融商品の代表格ではないか。「外貨建て保険 投資に不適な“高”手数料 運用するなら外債で十分」という週刊エコノミストの記事(2019年10月21日付)で横川由理記者は以下のように書いている。

外貨建て保険は、保険料の払い込みから保険金の支払いまで、すべて外貨建てで行われる。元本保証なのは外貨ベースであって、円での保証はない。保険金や解約返戻金を円で受け取る場合、円高になっていると元本割れするリスクがある。円から外貨、外貨から円に両替する際に為替手数料もかかる。それにもかかわらず、銀行で資産運用の相談を行うと真っ先に勧めてくるのは、銀行が得る販売手数料が群を抜いて高いからだ。販売手数料は円建て保険では保険料の2~3%、投資信託は基準価額の0~3%程度なのに対し、外貨建て保険は保険料の6~8%にものぼる

手数料が高くても「外貨建ての保険商品」には、それを上回る魅力があると考えているのならば、渡辺記者はそこを説明すべきだ。そんな魅力があるとは思えないが…。

次に「金利」に関する説明に注文を付けたい。

【日経の記事】

為替を「投機」対象にするヘッジファンドや個人投資家の存在も大きい。一般に短期的な利益を追求しているので、ヘッジファンドや「ミセス・ワタナベ」と呼ばれるような個人投資家は金利差に注目する。日本の個人投資家の間では、金利の低い円よりも豪ドルやトルコリラといった高金利通貨が人気だ



◎「高金利通貨」はいいことばかり?

まず「豪ドル」は「高金利通貨」なのかとの疑問が浮かぶ。オーストラリアの政策金利は過去最低の0.25%。「豪ドル」には確かに「高金利通貨」というイメージがあったが、現状では当てはまらない気がする。

それより問題なのは「金利」に関する説明だ。記事に付けた「為替相場の基本的な変動要因」という表では「金利差 高金利通貨は通貨高に」となっている。

間違ってはいないが、これだと投資初心者には誤解を与えてしまう。「高金利通貨」の方が低金利通貨より金利収入は多くなる上に「通貨高に」なるのであれば選択は容易だ。資金は全て「高金利通貨」で運用すべきとなる。金利が低い上に通貨安となる「低金利通貨」を持つべき理由はない。

実際には「高金利通貨」で「高金利」のメリットを享受しようとすると中長期的には通貨安で相殺されやすい。つまり「高金利通貨は通貨『安』に」となる。

悩ましいのは、だからと言って「高金利通貨は通貨高に」という説明が誤りとは言えないことだ。利上げは短期的には「通貨高」を招きやすい。なので渡辺記者も「高金利通貨は通貨高に」と書いたのだろう。

この辺りは分かりにくい面がある。だが、為替市場を見ていく上では重要な要素なので、丁寧に説明してほしかった。


※今回取り上げた記事「円・ドル…為替が動くワケ~政策が左右、外貨運用はリスクも
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200418&ng=DGKKZO58155300W0A410C2PPD000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDで据え置く。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post.html

ATMの管理に「月700万円」もかかる? 日経「曲がり角のATM(上)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/atm700-atm.html

2020年4月17日金曜日

東洋経済で「会社は株主のもの」は「誤り」と主張した岩井克人氏に異議

会社は株主のものである」という「ミルトン・フリードマン」の主張は「理論的な誤り」だと国際基督教大学特別招聘教授で東京大学名誉教授の岩井克人氏が週刊東洋経済4月18日号で語っている。面白そうな話だが、その根拠に説得力があるとは思えなかった。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

特集「牙むく株主」の中の「会社はモノでありヒト 会社財産は会社の所有物」という記事で岩井氏は以下のように述べている。

【東洋経済の記事】

では、どうしたらミルトン・フリードマンの呪縛から抜け出せるのか? その道はただ1つ。「会社は株主のものでしかない」という見方は「理論的な誤り」であることを示すことである。

企業には、街角の八百屋さんのような法人化されていない「単なる企業」と、トヨタ自動車のような「法人化された企業」がある。この2つをまったく同じに扱ったのがフリードマンの誤りだ。法人企業の別名──それが「会社」だ。


◎「単なる企業」?

まず「街角の八百屋さんのような法人化されていない『単なる企業』」という説明が引っかかる。「企業」とは「営利を目的として、継続的に生産・販売・サービスなどの経済活動を営む組織体」(デジタル大辞泉)だ。「街角の八百屋さん」が「法人化されていない」場合、一般的には「企業」とは呼ばないだろう。

続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

「単なる企業」も「法人企業」としての「会社」も、営利的な経済活動をする「企業」であるという点では同じだ。だが、両者の間では、法律的な構造や経済的な仕組みに根源的な違いがある。

「単なる企業」の場合「企業はオーナーのもの」である。八百屋が売るリンゴや仕入れ用のトラックなど、商売道具はすべてオーナーの所有物。だから店頭のリンゴを店の主人が食べても誰もとがめない。オーナーの権利は無限だ。


◎「法人化」してても同じでは?

岩井氏の説明によれば、「単なる企業」は「法人化されていない」企業を指す。しかし「企業はオーナーのもの」という理屈は「法人化され」たオーナー企業でも同じだ。「店の主人」が唯一の株主であるオーナー企業であれば、「店頭のリンゴを店の主人が食べても誰もとがめない」はずだ。

さらに見ていこう。

【東洋経済の記事】

裏腹に、責任も無限である。仕入れに使うトラックが事故を起こせばオーナーが法廷に立つ。業績の悪化で信用金庫からの借金が返せなくなったら、オーナーの個人資産が差し押さえられる。「単なる企業」のオーナーは権利も無限だが、責任も無限なのである。

これに対して法人企業、つまり会社はまったく別の仕組みだ。フリードマンに心酔して、「会社は株主のものである」と信じ込み、百貨店の株主が地下の果物売り場にあるリンゴをがぶりと食べたらどうなるか。窃盗罪である。

なぜなら、株主は会社財産の所有者ではないからである。法人としての会社が所有者である。「法人」とは法律上ヒトとして扱われるモノのことである。店頭の商品も、工場の機械も、社長室の机も、すべて法律上のヒトとしての会社の所有物なのである。また外部との取引契約もすべて法人としての会社の名で結ばれ、裁判では法人としての会社が被告や原告になる。

では、株主は何を所有しているのか? 会社の株式を所有しているのである。株式とはモノとしての会社の別名であり、モノとしての会社を売り買いする市場が株式市場なのである。
 
したがって、株主の責任は有限である。会社が倒産しても、債権者は会社財産しか差し押さえられない。株主は株券の価値を失う以外は、個人資産は失わない。

責任が有限ならば、権利も当然有限である。会社の株主が、単なる企業のオーナーのように、会社に対して無限の権利を要求するならば、無限の責任を引き受けなければならない。会社は株主のものでしかないというフリードマンの主張は、理論的な誤りなのである


◎矛盾してない?

株主は何を所有しているのか?」との問いの答えは「会社の株式を所有しているのである」ということらしい。そして「株式とはモノとしての会社の別名」だと言う。だとすると「モノとしての会社」を「所有している」のは「株主」となる。なのに「会社は株主のものである」という主張は誤りなのか。

モノ」に関して「有限」の「権利」しか有していない場合、その「権利」者は「モノ」を所有していないという前提を岩井氏の主張には感じる。しかし、そうとは言い切れないはずだ。

ペットとして飼っている犬や猫への虐待が法律で禁じられている場合、ペットへの「権利」は「有限」だ。しかしペットショップでカネを払って犬を買った飼い主に対して「その犬はあなたのものではない」と主張するのは無理がある。


※今回取り上げた記事「会社はモノでありヒト 会社財産は会社の所有物
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23400


※記事の評価は見送る。

2020年4月16日木曜日

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『政府の拳』は万能か」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は「本社コメンテーター」の梶原誠氏。「投資の常識」が分かってないのではと思える記述も見られた。
福岡県久留米市の家屋
      ※写真と本文は無関係です

記事の冒頭から見ていこう。

【日経の記事】

この1カ月で、マネーの流れが「売り」から「買い」に一変した米国市場の商品が2つある。

1つは航空機大手、ボーイングの株式だ。新型コロナウイルスの拡散で旅客需要が激減、株価は3月、年初から73%安まで急落した。だがその後、トランプ大統領が支援を表明。米政府の景気対策にも事実上の支援策が盛り込まれて株価は底を入れた


◎「買いに一変」?

記事に付けた「ボーイング」のグラフを見ると「株価は底を入れた」とは言えそうだ。しかし「マネーの流れが『売り』から『買い』に一変した」との説明は苦しい。「底入れはしたものの、その後は安値圏で一進一退」といったところではないか。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

もうひとつは格付けが投機的等級の「ジャンク債」だ。3月は景気悪化による信用不安で売り込まれたが、4月9日に米連邦準備理事会(FRB)がまさかの購入を表明。価格上昇に弾みがついた。

これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた。株や社債への投資でも、企業だけでなく政府や中央銀行の出方を読み切らないと投資収益は稼げない


◎「投資の常識」で片付くのでは?

これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた」と大きく出ているが同意できない。「株や社債への投資」で「政府や中央銀行の出方」が影響を及ぼすのは当たり前だ。「政府や中央銀行の出方」は「株や社債への投資」に何ら影響を与えないというのが「投資の常識」だと信じてきたのならば、梶原氏は投資関連の記事を書く上で決定的に資質が欠けている。

さらに言えば、現状でも「政府や中央銀行の出方を読み切らないと投資収益は稼げない」とは思えない。株式のリターンが長期的にはプラスだとの前提で考えれば、「政府や中央銀行の出方」を全く読まずにインデックスファンドを購入して長期保有しても「投資収益は稼げ」るはずだ。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

米国だけではない。コロナ危機対策で世界の政府が打ち出した財政刺激策は合計8兆ドル。世界の主な中央銀行も証券の購入でバランスシートを7兆ドルは拡大すると見られる。「ウイルスVS世界の政府・中銀」という構図が鮮明だ。

コロナは、企業経営者や投資家の心理を凍り付かせた。資本主義をマヒから救うには、政府が乗り出して火を付けるしかない。筆者が投資家なら、世界の政策通の助けを借りて各国の次の一手を読み、政策の恩恵を受ける資産を先回りして買うだろう。

実は「政策の先取り」という手法を教えてくれたのは、かつて「債券王(ボンド・キング)」と呼ばれて米債券投資会社のピムコを率いたビル・グロス氏だ。

2008年のリーマン危機の際、恐慌を避けるために米政府が支出を増やし始めるや公的資金で救われる企業の社債を買いあさって荒稼ぎした。「(危機に立ち向かう)政府の拳」。グロス氏は投資戦略をこう名付けた。



◎矛盾してない?

ビル・グロス氏」が「リーマン危機の際」に「政策の先取り」で「荒稼ぎした」のであれば、「政府や中央銀行の出方」を読む投資手法は少なくとも10年以上前にはあったはずだ。なのになぜ「これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた」と言えるのか。

政府や中央銀行の出方」を読む投資手法は以前から当たり前にある。そして、その手法に頼らなくても、おそらく「投資収益は稼げ」る。その辺り、梶原氏も本当は分かっているとは思うが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『政府の拳』は万能か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200416&ng=DGKKZO58089810V10C20A4TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

2020年4月14日火曜日

発表待ちでお願いしたい 日経「高島屋、投信販売に参入」

「待っていれば発表されるネタは原則として発表を待て」と以前から日本経済新聞に求めているが、待つつもりはなさそうだ。「高島屋が投信販売に参入する」というニュースを日経は発表前に記事にしている。
筑後川橋と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

まず13日の夕刊総合面に「高島屋、投信販売に参入へ」という記事が載った。全文は以下の通り。

【日経の記事】

高島屋がインターネット証券最大手のSBI証券と業務提携し、今春にも投資信託など金融商品の販売に参入することが13日までに分かった。高島屋が金融商品仲介業に登録し、独立系金融アドバイザー(IFA)として自社の顧客にSBIが取り扱う投資信託などの商品の販売を仲介する。幅広い顧客と接点を持つ小売業が本格参入すれば、投資家の裾野拡大につながりそうだ。

◇   ◇   ◇

さらに14日の朝刊金融経済面に「高島屋、投信販売に参入~SBI証券と提携発表」という記事が3段見出し付きで出ている。全文は以下の通り。

【日経の記事】

高島屋とSBI証券は13日、投資信託の販売など金融分野で業務提携契約を結んだと正式に発表した。SBIが取り扱う投信の販売が柱。高島屋は若年層の取り込みを狙う一方、40代以下が顧客全体の6割を占めるSBI側も接点が少なかった富裕層などの獲得で預かり資産の拡大を見込む。

高島屋の子会社で金融事業を担う高島屋ファイナンシャル・パートナーズが今春にも独立系金融アドバイザー(IFA)として金融商品仲介業に登録し、営業全面再開後の高島屋日本橋店(東京・中央)に相談の専用カウンターを設ける。高島屋の村田善郎社長は同日の電話会見で「百貨店ならではの安心感を訴求しながら、金融商品をお客さまに届けるようにしたい」と話した。



◎「抜く」意味ある?

夕刊の記事は発表前に「抜いた」もので、朝刊の記事は「正式に発表した」ことを受けて書いてある。しかし普通の読者にすれば、あまり意味はない。同じような内容の記事が夕刊に続いて翌日の朝刊にも出ているだけだ。まず、これが無駄だ。

単に内容が重なるだけならば害は少ない。より大きな問題は記事の内容が縛られやすいことだ。

今回、発表前に記事にできたのは高島屋関係者の協力があったからだと推測できる。夕刊の記事で「幅広い顧客と接点を持つ小売業が本格参入すれば、投資家の裾野拡大につながりそうだ」と持ち上げているのも、協力者への配慮のように見える。

朝刊の記事によると「高島屋ファイナンシャル・パートナーズが今春にも独立系金融アドバイザー(IFA)として金融商品仲介業に登録」するそうだ。しかし「SBIが取り扱う投信の販売が柱」であれば「独立」性は期待しにくい。「高島屋」の顧客にとって「SBIが取り扱う投信」を中心に投資を考えるメリットはない。一般消費者の立場から言えば、このネタの筋は良くない。

しかし記事では「百貨店ならではの安心感を訴求しながら、金融商品をお客さまに届けるようにしたい」という「高島屋の村田善郎社長」の発言を肯定的に伝えている。これだと「高島屋」寄りの記事と言うしかない。


※今回取り上げた記事

高島屋、投信販売に参入へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200413&ng=DGKKZO57975060T10C20A4EAF000


高島屋、投信販売に参入~SBI証券と提携発表
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200414&ng=DGKKZO57981930T10C20A4EE9000


※記事の評価はいずれもC(平均的)

2020年4月13日月曜日

「財政ファイナンスの副作用」に疑問残る週刊エコノミストの記事

週刊エコノミスト4月21日号に載った「独眼経眼~財政ファイナンスの効果と副作用」という記事には疑問が残った。ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミストの渡辺浩志氏は「財政ファイナンスの副作用」について以下のように説明している。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

米国では政府が2兆㌦の経済対策を表明すると、連邦準備制度理事会(FRB)は国債等の無制限買い入れを決定。これはもはや「財政ファイナンス(中銀による財政赤字の穴埋め)」だが、リーマン・ショック(2008年)をしのぐ危機に面し、悠長に財政規律を語っている余裕はなくなった。

中略)過去の量的緩和は流動性相場を生み、株価や原油価格をつり上げた。リーマン・ショック後、FRBは約6年かけて3・5兆㌦の量的緩和を行ったが、今回は各国中銀が数カ月間に7兆㌦もの現金を市中に投下する。桁外れの量的緩和が株価の急騰を招くだろう。

リスクは財政ファイナンスの副作用だ。紙幣を刷ってばらまけば、インフレや金利の急騰が起こる。現在は隔離政策による人工不況だが、財政ファイナンスは真性不況を招き得る。劇薬は効果も副作用も強いと覚悟しておくべきだ。


◎だったら日本は?

連邦準備制度理事会(FRB)は国債等の無制限買い入れを決定。これはもはや『財政ファイナンス(中銀による財政赤字の穴埋め)』」だとすると、日銀による異次元緩和も「財政ファイナンス」に当たると見てよいだろう。

紙幣を刷ってばらまけば、インフレや金利の急騰が起こる」という説明は教科書的には正しいのだろう。だが「だったら、なぜ日本では『インフレや金利の急騰』が問題となっていないのか」とは思う。そこは解説が欲しい。

現在は隔離政策による人工不況だが、財政ファイナンスは真性不況を招き得る」との説明も引っかかった。「隔離政策による人工不況」は「真性不況」に当たらないとの前提を感じるが、「隔離政策」による需要減退が深刻な景気後退を招けば、立派な「真性不況」ではないのか。

また、ウイルスを原因とする「不況」よりも「財政ファイナンス」を原因とする「不況」の方が「人工不況」と呼ぶに相応しい気がする。

ついでに記事の説明で引っかかった点を追加で指摘したい。

【エコノミストの記事】

世界の株価は約35%暴落した。大半は景気後退を織り込んだものだが、3月中旬以降の下落(約20%分)は、現金確保のための投げ売りであり、金融危機の発生を懸念した動きであったと見られる。それゆえ、各国が金融危機対策の荒業を見せると、株価は投げ売り前の水準に向けて急回復した。



◎「大半」と言える?

約35%暴落」のうち「約20%分」が「現金確保のための投げ売り」によるもので、残り15%分が「景気後退を織り込んだもの」らしい。つまり「景気後退を織り込んだもの」は半分に満たない。なのに「大半は景気後退を織り込んだもの」と言えるだろうか。


※今回取り上げた記事「独眼経眼~財政ファイナンスの効果と副作用
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200421/se1/00m/020/063000c


※記事の評価はC(平均的)。渡辺浩志氏への評価も暫定でCとする。

2020年4月10日金曜日

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏を書き手としては評価していない。週刊東洋経済4月11日号に載った「マネー潮流~『長年の謎』から格付けの意義を問う」という記事はそれほど酷い出来ではないが、やはり苦しい。 
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

まず引っかかったのが以下のくだりだ。

【東洋経済の記事】

筆者は信用分析を長年行ってきたが、いまだに謎がある。キャッシュフローを重視してつけられた格付けが散見されることである。財務内容がどうであれ、1.営業キャッシュフローが潤沢、2.擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有、3.債券市場につねにアクセス可能、の3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた。

3月16日、S&Pが米ボーイングの格付けをAマイナスからトリプルBへ2ノッチ引き下げ、かつ見通しとして引き下げの方向を継続した。「737MAX」機のトラブルに加え、新型コロナウイルスにより航空需要が落ちたためという。

だが、そもそもボーイングの2019年12月期の連結決算で、自己資本はマイナス83億ドルで実質債務超過であったことを指摘したい。債務超過でもシングルA格が付与される謎。ほかにも米フィリップモリスなど、同様の事例は多い。


◎「謎」だと思う理由が「謎」

まず「自己資本はマイナス83億ドルで実質債務超過であったことを指摘したい」という説明が謎だ。「自己資本はマイナス」であれば、正真正銘の「債務超過」だ。なぜ「実質」を付けたのか。

債務超過でもシングルA格が付与される謎」と書いたのも理解できない。答えは中空氏自身が既に示している。「キャッシュフローを重視してつけられた格付け」だからではないのか。

財務内容がどうであれ、1.営業キャッシュフローが潤沢、2.擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有、3.債券市場につねにアクセス可能、の3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた」と自ら説明しているではないか。

現実問題としても、たとえ「債務超過」であっても、稼ぐ力が十分にあれば返済能力を高いと見なせるケースはあり得る。

続きを見ていこう。

【東洋経済の記事】

しかも、である。こうしたキャッシュフロー重視による格付けが主流であるのならば、先の3点を満たすソフトバンクグループ(SBG)の格付けがダブルB格であったことはおかしい、ということになるであろう。ボーイングがシングルA格を付与されていたことと整合性が取れないのではないか



◎「整合性」は取れるような…

3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた」と中空氏は書いている。「比較的高い格付けがなされてきた」に関しては「例外はあるが、高い格付けを得られるケースが多い」という意味だとしよう。

であれば「ソフトバンクグループ」は例外に属すると見なせば良い。仮に「ソフトバンクグループ」が「3点を満たす」としても、満たし方には高低がある。低いレベルでしか満たしていないのならば「高い格付けがなされ」なくても不思議ではない。

記事からは何とも言えないが「3点を満たす」と「S&P」が判断していない可能性もある。

さらに続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

そのSBGについて、今般、S&Pはアウトルックをネガティブに変更、ムーディーズはBa1からBa3に2ノッチ格下げ、かつ、引き続き格下げ方向で見直し、とした。その事由を見ると結局、同社が投資している株式市場の下落がきっかけになったように読める。
しかし、株価は上がりもするが下がりもする。「株式保有に傾注しているような企業経営に問題がある」という指摘なら理解できるが、株価が落ちたことを格下げ事由にするのであれば、株価が上がれば格上げすることにもなりかねず、腑に落ちない



◎なぜ「腑に落ちない」

株価が落ちたことを格下げ事由にするのであれば、株価が上がれば格上げすることにもなりかねず、腑に落ちない」という説明も謎だ。「擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有」している「ソフトバンクグループ」の場合、その資産の価格動向が返済能力を左右する。

株価が落ちたことを格下げ事由にする」のに、逆があり得ないのならば確かに「腑に落ちない」。しかし「株価が上がれば格上げする」のは自然な動きではないか。

やはり中空氏は問題が多い。


※今回取り上げた記事「マネー潮流~『長年の謎』から格付けの意義を問う
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23351


※記事の評価はD(問題あり)。中空麻奈氏への評価はDを維持する。中空氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

2020年4月9日木曜日

やはり苦しい「強化物」 日経「大王製紙、段ボール原紙輸出増」

日本経済新聞の企業ニュース記事でよく見られる「強化」物は総じて完成度が低い。7日の朝刊企業2面に載った「大王製紙、段ボール原紙輸出増~主力工場に200億円 装置刷新」という記事もそうだ。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大王製紙は段ボール原紙の輸出を強化する。約200億円を投じて主力の三島工場(愛媛県四国中央市)の製造装置を刷新し、このほど商業運転を始めた。同工場での段ボール原紙の生産量は、従来より5割増の年間72万トンに増える見込み。ネット通販の拡大などを受け、中国や東南アジアなどで中長期的な成長が見込める段ボール向け市場の開拓を急ぐ。

三島工場は大王製紙の基幹拠点だ。これまで印刷・情報用紙を生産していた「抄紙機」と呼ぶ装置を段ボール原紙向けに改造した。製品は主に輸出に振り向ける

段ボールの需要はネット通販などの拡大を受けて国内外で成長が見込まれている。特に「中国や東南アジアでの需要は中長期的に伸びる」(大王製紙)。さらに中国は環境保全のため段ボール原紙の原料となる古紙の輸入を規制しており、製紙会社が供給する段ボール原紙の需要が高まっている。

足元では新型コロナウイルスの感染拡大で産業向けの段ボール需要などが落ち込む一方、「巣ごもり消費」の増加で食品や日用品の荷動きは堅調とみられる。

大王製紙は当面は一定の受注のめどが立ったと判断し、商業運転に踏み切った。

大王製紙の今回の取り組みは、洋紙の需要減少を受けた構造改革の一環でもある。日本製紙連合会(東京・中央)によると、2019年の印刷・情報用紙の出荷量は741万4千トンと前年比7.7%減った。このため19年10月に洋紙向けだった一部の抄紙機の稼働を止め、改造を続けてきた。今後は需要が見込める段ボール原紙の生産・輸出に本腰を入れる。


◎輸出はどのくらい増える?

大王製紙、段ボール原紙輸出増」と見出しで打ち出しているのだから、どのくらいの「輸出増」になるのかは記事の肝だ。しかし、そこが明確になっていない。

同工場での段ボール原紙の生産量は、従来より5割増の年間72万トンに増える見込み」と書いているので、年間の「生産量」は24万トン「増える」のだろう。「製品は主に輸出に振り向ける」のだから「輸出」は24万トン近く増やすと計算はできる。

だが「大王製紙、段ボール原紙輸出増」と打ち出すのであれば、「輸出」がどのくらい増えるかは明示してほしい。

さらに言えば、これまでどの程度の輸出実績があるのか分からないのも辛い。100万トンが124万トンになるのと、10万トンが34万トンになるのではインパクトがかなり違う。仮に輸出実績が分からないのならば、その点は記事に盛り込むべきだ。


※今回取り上げた記事「大王製紙、段ボール原紙輸出増~主力工場に200億円 装置刷新
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200407&ng=DGKKZO57717270W0A400C2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年4月6日月曜日

「鎖国への誘惑」あり得る? 日経 太田泰彦編集委員「経営の視点」

日本経済新聞の太田泰彦編集委員は経済記事の書き手として問題が多い。6日の朝刊企業面に載った「経営の視点~鎖国への誘惑を断てるか ウイルスが引き裂く世界」という記事を読んでも、その評価は変わらない。記事を見ながら問題点を指摘していく。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】  

マスクが足りなければ、中国からの供給に頼るほかない。その中国は人道支援の名を借りて、マスク外交で他国に貸しをつくろうとしている。マスクのようなありふれた製品ですら国家戦略の武器となる。



◎国内でも作れるような…

マスクが足りなければ、中国からの供給に頼るほかない」と冒頭で言い切っているが同意できない。3月31日付の日経の記事によると「アイリスオーヤマ(仙台市)は6月から国内でマスクの生産を始める」らしい。不足分を国内生産などで補う手も当然ある。

続きを見ていく。

【日経の記事】

新型コロナウイルスがあぶり出したのは「つくる側が買う側に勝る」という不条理な力学だ。感染の拡大が止まらなければ、人工呼吸器や医薬品は奪い合いとなるかもしれない。それらの製品を生産して輸出できる国や企業は、地政学的に強い立場になるだろう。



◎状況次第では?

新型コロナウイルスがあぶり出したのは『つくる側が買う側に勝る』という不条理な力学だ」という説明もおかしい。ならばなぜ原油相場は急落したのか。「つくる側」が安値で売りたがっているからか。

つくる側が買う側に勝る」かどうかは基本的に需給次第だ。需給が緩んでいれば「買う側」優位となるし、供給不足ならば「つくる側」優位。それが市場経済の原則だ。個人的には「不条理」を感じない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

通商問題といえば、これまでは輸入を阻む関税にばかり関心が集まっていた。だが非常時には、外国への供給を止める輸出制限が焦眉のリスクとなる。供給を断たれる恐怖が世界中を覆えば、各国は備蓄と自給自足に向かって走り出す。鎖国への誘惑である



◎そんな「誘惑」ある?

人工呼吸器や医薬品」が不足して「備蓄と自給自足に向かって走り出す」動きはあるだろう。だからと言って、それを「鎖国への誘惑」と捉えるのは飛躍が過ぎる。

日本で考えれば分かる。「人工呼吸器や医薬品」を抱え込むために「鎖国」を選ぶ場合、原油や食料はどうやって確保するのか。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

いつの日かコロナ危機が去った後、世界は自由で開かれたグローバリゼーションの軌道に戻れるだろうか。楽観的にはなれない理由がいくつもある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月16日、イタリアのコンテ首相と電話会談し「健康のシルクロード」を建設すると宣言した。直ちに送り込んだのが、マスクや検査キットなどだ。欧州の人口の半分を奪ったペストの歴史が念頭にあったに違いない。

病原菌は14世紀に中国からシルクロード経由で流れ込んだ。中国と欧州を結ぶ現代の「一帯一路」も、災禍を運ぶルートと見られるのではないか。そう考えた習政権は、危機を逆手にとり看板を「インフラ」から「健康」にすげ替えた。


◎決め付けて大丈夫?

ペスト」に関して「病原菌は14世紀に中国からシルクロード経由で流れ込んだ」と太田編集委員は断言している。しかし日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究理事の保坂修司氏が書いた日経ビジネスの記事では「黒死病の発生源は中央アジアとされることが多いが、正確にいうと、実ははっきりしない」「中央アジアで発症したものが、東は中国、西は中東、欧州へと拡大していったという分析も可能だ」と解説している。となると、太田編集委員の説明を信じる気にはなれない。

太田編集委員の記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

トランプ米大統領は慌てたのだろう。30日にコンテ首相に電話し、1億ドルの物資供給で対抗した。感染を抑え込めず経済が弱った国を舞台にして、米中が援助を競い合う構図である



◎悪くない話では?

記事の流れから判断すると「米中が援助を競い合う構図」を太田編集委員は否定的に捉えているのだろう。だが、悪くない話ではないか。

供給を断たれる恐怖が世界中を覆えば、各国は備蓄と自給自足に向かって走り出す。鎖国への誘惑である」と憂慮していたのではないか。「米中が援助を競い合う構図」は「鎖国」とは逆方向の動きに見える。

最後まで一気に見ていこう。

【日経の記事】

ウイルスの前線は、アフリカ大陸やアジア各地へと移動しつつある。人類共通の敵と戦うべき時なのに、米中の覇権競争の戦場もウイルスを追って世界に拡散していく。

国際情勢はコロナで視界不良となった。では舞台裏に目を凝らしてみよう。トランプ大統領は26日、米国が台湾を外交面で強力に支持する通称「台北法案」に署名、同法は成立した。建前だった「一つの中国」政策から台湾の独立性を認める方向へと、大きく舵(かじ)を切る内容だ。

ワシントンの動きに呼応するように、半導体受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していることが明らかになった。同社はクアルコム、エヌビディア、華為技術(ファーウェイ)など米中双方の大手の生産を受託する。

太平洋をまたぐ供給網が交差するのが台湾である。米国の目には、台湾が技術流出の抜け穴と映る。現に中国企業は台湾から技術者を大量に引き抜き、半導体の国産化を急ぐ。封鎖した武漢市でも、半導体工場だけは止めなかった。

たった一種のウイルスが国境の意味を変えた。技術的な鎖国を目指し、生産を国内に囲う大国の動きが加速する。マスクの供給不安は、そんな近未来の世界の姿を暗示している。日本企業に備えはあるだろうか。


◎「技術的な鎖国を目指し」てる?

台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していること」が「技術的な鎖国を目指」す動きだと太田編集委員は捉えているのだろう。

だが「台湾が技術流出の抜け穴」と見ているのならば「半導体受託生産」から台湾企業を外す必要がある。台湾企業が「米国に最先端工場」を作ったとしても「技術流出」は防げそうもない。

さらに言えば「台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していること」と「台北法案」の関連付けも強引だ。「ワシントンの動きに呼応するように」と書いているが、「台北法案」が「台湾の独立性を認める方向へと、大きく舵(かじ)を切る内容」だとすると、「米国に最先端工場」を「建設」することと直接的な関係は感じられない。

そもそも「台湾の独立性を認める」動きと「技術的な鎖国」に何の関係があるのか。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な関係があるのならば、記事中に説明が欲しい。

太田編集委員は「たった一種のウイルスが国境の意味を変えた」と大きく出ている。しかし結局、記事中にそれを裏付ける材料は見当たらない。



※今回取り上げた記事「経営の視点~鎖国への誘惑を断てるか ウイルスが引き裂く世界
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200406&ng=DGKKZO57601970S0A400C2TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html

日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html

説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html

日経 太田泰彦編集委員の力不足が目立つ「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_18.html

日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_12.html

日経 太田泰彦編集委員の辻褄合わない「TPPルール」解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/tpp.html

「日本では病院のデータ提供不可」と誤解した日経 太田泰彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_26.html

「イノベーションが止まる」に無理がある日経 太田泰彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_25.html

2020年4月5日日曜日

「国債」は「安全資産」にあらず? 日経1面「チャートは語る」

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る金融市場 解けぬ緊張~社債や新興国通貨、再度の急落警戒」という記事はあまり意味がないと感じた。記事では「恐怖指数」「通貨OP」「国債」「社債」「安全資産」に関して「市場ストレスマップ」を載せているが「恐怖指数」の推移を見れば市場の緊張度はほぼ分かる気がする。「恐怖指数」では「社債や新興国通貨」の緊張度は分からないものの、新型コロナウイルスに関して株式市場の緊張度と「金融市場」全体の緊張度に大きな差が生じる局面は考えにくい。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

さらに気になったのが「安全資産」の分類だ。記事では「安全資産」として「ドル指数(ドルの実効レート)」「ドル・円」「ドル・スイス」の3つを挙げている。「ドル指数」はともかく「ドル・円」「ドル・スイス」が「安全資産」というのは理解に苦しむ。「ドル・円」相場の変動で利益を得ようとすればリスクは小さくない。それでも「安全資産」なのか。

そもそも代表的な「安全資産」と言えば「国債」だ。なのに今回の「市場ストレスマップ」では「国債」と「安全資産」を別物として扱っている。これだと「国債安全資産」と誤解を与えてしまう。

最後に用語の説明に関して指摘したい。

【日経の記事】

社債は、日米欧それぞれの企業が発行する社債の破綻(デフォルト)確率を取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる指数を使って色の濃淡を描いている。3月18~24日にかけて色が最も濃くなった。



◎CDSは「指数」?

上記の説明だと「CDS」は「社債の破綻(デフォルト)確率を取引」していると取れる。「破綻確率」は「CDS」の保証料率に影響を与えるが「確率」そのものを「取引」している訳ではない。

また「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる指数」と書くと「CDS」が「指数」の名称になってしまう。言うまでもなく金融派生商品の名前だ。

破綻(デフォルト)」という説明も引っかかる。「債務不履行(デフォルト)」とすべきだ。


※今回取り上げた記事「チャートは語る金融市場 解けぬ緊張~社債や新興国通貨、再度の急落警戒
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200405&ng=DGKKZO57658440T00C20A4MM8000



※記事の評価はD(問題あり)。黄田和宏記者と富田美緒記者への評価もDを据え置く。富田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_13.html

2020年4月4日土曜日

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」

4日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」という記事は引っかかる部分が多かった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

低迷する東京株式市場で、逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ。4月3日までの1カ月間で日経平均株価が15%下げたのに対し、テルモ株は1%上昇した。



◎「1%上昇」では…

逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ」と勢いよく書き出したものの、その上昇率は「1カ月間」でわずか「1%」。ほぼ横ばいだ。「逆行高」は間違いではないが、かなり苦しい。最初の段落で「この記事、大丈夫かな?」と不安になる。

次に気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

新型コロナは危機の連鎖を引き起こした。まず、人々を「健康の危機」に陥れた。次に襲ったのが「グローバル化の危機」だ。保護貿易主義の連鎖などで以前からグローバル化は後退していたが、コロナ封じの副産物として世界の分断が進み、より深刻になった。

2つの危機が生み出したのが「資本主義の危機」だ。経済活動の停止やサプライチェーンの分断で景気が悪化。おびえた投資家は株に手が出せなくなり、企業にマネーが流れなくなった。企業は成長に向けた投資に加え、配当や自社株買いを手控えてでも現金を確保したいので投資家に報いられない。投資リターンが落ちるので、投資家の株離れは加速する。



◎「資本主義の危機」?

まず「おびえた投資家は株に手が出せなくなり」との認識に同意できない。日経も3月26日付で「ネット証券、口座開設が急増 株価急落で初心者参入」という記事を書いている。「株に手が出せなく」なるどころか、新たに手を出す「投資家」がたくさんいるのではないか。

それに、需要が急減すれば企業利益が大きく落ち込むのは当然だ。それに呼応して株価が急落するのも自然な動きだ。割安だと見れば押し目買いを入れる投資家が出てくる。そうした意味で「資本主義」は機能しているように見える。新型コロナウイルスの影響で様々な需要が急減したからと言って「資本主義の危機」を叫ぶのは安易ではないか。

次は以下のくだりに注文を付けたい。

【日経の記事】

医療や医薬のビジネスは莫大な先行投資が欠かせない。ましてや数年に1度の未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい。それでも渋沢は投資家を説得して資金を集め、業績が軌道に乗るまで頭を下げて説明を続けるだろう。自ら立ち上げた第一国立銀行(現みずほ銀行)の創生期でそうしたように、だ。



◎「研究開発投資への支持が得にくい」?

今の社会の雰囲気からすれば、新型コロナウイルス関連の「研究開発投資」は「支持」が得やすいのではないか。

(話題の株)アンジェス、逆行高 『パンデミック』で思惑」という3月12日付の記事で日経は以下のように説明している。

アンジェスは5日、大阪大学やタカラバイオと共同で新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表。ワクチンへの関心からアンジェス株は5日、6日と制限値幅の上限(ストップ高水準)まで上昇したが、その後は相場全体の下落に合わせて利益確定売りが膨らんでいた

未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい」のならば「新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表」した「アンジェス」の株価はなぜ急騰したのか。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

だが多くの日本の経営者は同業他社との横並びに代表される「ノーリスク・ノーリターン」の意識が染みついていると、経営学者や投資家は以前から指摘してきた。コロナの衝撃は今、経営者に「萎縮したままでいいのか」と問いかけている。



◎「ノーリスク・ノーリターン」?

長年、数多くの経済記事を読んできたが「日本の経営者」には「『ノーリスク・ノーリターン』の意識が染みついている」との「指摘」に触れた記憶はない。

仮にそうした「指摘」が数多くあるとしても、まともに受け取る必要はない。明らかに間違っているからだ。

少し考えれば分かる。例えば同業他社が揃って大幅増産に乗り出したとしよう。その時に「横並び」で増産投資に踏み切るのは「ノーリスク」だろうか。「同業他社との横並び」を選択することにも当然に「リスク」はある。

ローリスク・ローリターンを好む傾向がある」といった説明ならば違和感はないのだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56717810S0A310C2ENI000/


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

2020年4月2日木曜日

不要な自社物 日経「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携」

2日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携」というベタ記事は日経の「自社物」だ。結論から言うと、この記事はなくていい。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

日本資産運用基盤グループ(東京・中央)とQUICK(東京・中央)は1日、金融機関の対面営業向けアプリ提供などで提携したと発表した。アプリ提供は2020年度に始める。営業員がタブレットなどの画面に目標金額やリスク許容度を入力すると、自動で資産形成プランを作成できる。顧客である個人に対する営業員の助言の質向上につなげる。


◎色々と不備が…

まず普通の記事として考えてみよう。「日本資産運用基盤グループ」も「QUICK」もそれほど知名度の高い企業でもないので、何を手掛けている会社なのか記事中に説明が欲しい。

アプリ提供」をどちらの会社がやるのか(あるいは両社がやるのか)も記事からは判断できない。「営業員がタブレットなどの画面に目標金額やリスク許容度を入力すると、自動で資産形成プランを作成できる」として、これにどの程度の新規性があるのかも触れていない。

本当にこの「発表」にニュース価値があるのならば、その辺りはしっかり説明すべきだ。しかしベタ記事なので、大したニュース価値はないとの判断なのだろう。

「ニュース価値は乏しいし、提携に関する十分な説明もできないが、自社物の発表だから載せた」といったところか。日経の社内事情は理解できるものの、一読者の立場で言えば「要らない記事」だ。


※今回取り上げた記事「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200402&ng=DGKKZO57500480R00C20A4EE9000


※記事の評価はD(問題あり)