英彦山山頂(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です |
この件に関する報道は他社も似たり寄ったりだ。ただ、日経は経済紙なのだから、その強みを生かした解説をしてほしかった。知識の乏しい人が記事を読むと「大量の空売り=株価操縦」という印象を抱いてしまいそうで心配になる。
では、問題の部分を見てみよう。
【日経の記事】
旧村上ファンドを率い、「物言う株主」として知られた村上世彰元代表(56)が株価を操作した疑いが強まり、証券取引等監視委員会は25日、金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で東京都内の元代表の長女宅を捜索するなど強制調査した。株価操作した疑いがあるのは東証1部上場のアパレル大手、TSIホールディングス株。監視委は同日、村上元代表から任意で事情聴取した。
(中略)関係者によると、村上元代表は2014年6月から7月にかけて、証券会社などからTSIホールディングス株を借りて大量売却し、値下がりした後に買い戻す「空売り」という手法を悪用。同社の株価を不正に下げた疑いがもたれている。
(中略)金商法が禁じる相場操縦は、証券市場で架空の売買や虚偽の売買注文を繰り返すなどし、意図的に株価を操る行為。市場の公正な価格形成をゆがめる行為として禁止されている。
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相場操縦について記事では「証券市場で架空の売買や虚偽の売買注文を繰り返すなどし、意図的に株価を操る行為」と説明している。そして、今回の件で問題となっている取引は「証券会社などからTSIホールディングス株を借りて大量売却し、値下がりした後に買い戻す」ものらしい。実際に売買があったようなので、「架空の売買や虚偽の売買注文」とは考えにくい。
「『空売り』という手法を悪用。同社の株価を不正に下げた疑いがもたれている」と書いてあるので、空売り自体に問題がありそうな気もするが、記事ではここまでしか分からない。社会面の記事を26日の夕刊も含めて読んでも、謎は解けなかった。
なぜ違法だと疑われているのかは、具体的な部分は現場の記者にもよく分からないのだろう。それは仕方がない。仮にそうならば、「詳細は分からない」と明示してほしい。さらに「大量の空売り=相場操縦」とは限らないことも書いてほしかった。市場参加者を誤解させる意図で大量の空売りを仕掛けたりすれば相場操縦に当たることもあるようだが、原則として大量の空売りは禁じ手ではないはずだ。
今回の記事は社会部の記者が書いていると思われる。そのためかどうか分からないが、「空売り」の説明が微妙におかしい。記事では「証券会社などからTSIホールディングス株を借りて大量売却し、値下がりした後に買い戻す『空売り』という手法を悪用」と記述している。細かく言うと、この説明には4つの問題がある。列挙してみる。
(1)空売りの対象となるのは「TSIホールディングス株」とは限らない。(誤解する人はいないだろうが…)
(2)空売りに該当するかどうかに、売りの規模は関係ない。「大量売却」である必要はない。
(3)「買い戻す」までが「空売り」ではない。株を借りてきて売った時点で「空売り」は成立する。
(4)買い戻しの時点で値上がりしていても、株を借りて売れば「空売り」となる。
空売りすれば原則として「買い戻し」は必要だろう。しかし、「空売り」はあくまで「売り」だ。値下がり後に買い戻して利益を得ることを目的としているのは認める。とは言え、意に反して値上がり後に損を覚悟で手じまう場合もある。それでも株を借りてきて売ったのならば、「空売り」と言える。
「そんなの分かっているよ。細かいなぁ」と言われるかもしれないが、経済紙だからこそ今回の件では細部にこだわってほしい。社会部の記者が書いたものならば、証券部の人間がカバーしてもいい。26日の朝夕刊を見る限り、「さすが経済紙。他社よりしっかり書けてるなぁ」とは思えなかった。それが残念だ。
※記事の評価はC(平均的)。
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