日本経済新聞はロボットアドバイザーでの運用サービスを提供する「
お金のデザイン」という会社がお気に入りだ。紙面で繰り返し好意的に紹介している。そして、日経の田村正之編集委員は金融業界寄りの姿勢が目立つ書き手だと言える。では、田村編集委員が「
お金のデザイン」を取り上げるとどうなるのか。
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筑後吉井駅の桜(福岡県うきは市)
※写真と本文は無関係です |
電子版に載った「
ロボアド運用、仕組みと実力は? 『テオ』を分析」という記事(4月7日付)では、やはり「
お金のデザイン」を持ち上げている。しかし、その解説には説得力がない。まずコストに関する説明が「業界寄り」だ。
【日経の記事】
ロボアドには(1)資産配分を助言するだけ(2)助言に基づいて運用までを一任――の2種類ある。テオは後者だ。海外の数多くの上場投資信託(ETF)を使って最低10万円から国際分散投資ができ、コスト(投資一任報酬)は預かり資産の1%だ。その他の売買手数料や為替手数料などはかからない。
◎ETFの信託報酬は無視?
「
コスト(投資一任報酬)は預かり資産の1%だ。その他の売買手数料や為替手数料などはかからない」という説明は間違いではないだろう。ただ、ETFで運用するのであれば、投資家は「
預かり資産の1%」に加えてETFの信託報酬を実質的には負担する。これには触れてほしかった。
次に「
お金のデザイン」を持ち上げるくだりを見ていこう。
【日経の記事】
他社のロボアドには全部でも5~6種類の配分しか提示されないものがあるが、テオではこうした配分例が質問への回答次第で231種類でき、その中で最適なものが提示される。
テオのコストは年1%。世界的な成長鈍化を背景に投資の期待リターンも下がる中、最近は世界全体の株式に投資できるインデックス(指数連動)型投信なら年に0.2%程度、海外のETFなら0.1%台のコストも珍しくない。お任せだからといって、コスト1%に見合う利点はあるのだろうか。
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千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です |
グラフDは昨年2月からのテオの資産配分231通りに基づいて運用した実績と、他社のロボアドの5つの資産配分の結果だ(円ベース、コスト控除前。他社のロボアドもコストは同じ1%近辺)。
目を引くのは同じリスクの場合に、テオの方が高いリターンを達成できていること。例えば右端のリスク18%前後の配分例だと、他社のロボアドのリターンが19%なのに対し、テオは24%程度(いずれも年率換算)。
この差は何か。比較対象の他社のロボアドは7つ程度の少ないETFの組み合わせでポートフォリオを構成するので、リスク・リターンは国内外の株や債券などのそれぞれの指数自体の動きがおおむね反映される。
「テオの場合は最大30強のETFを組み合わせることで、指数そのものより効率的な運用を目指すスマートベータ(賢い指数)型の運用をしている。特にグロースでは最小分散投資というスマートベータの手法に基づき、より小さなリスクでより大きなリターンを実現できた」(北沢COO)。
今回は運用開始後まだ1年程度の実績だが、同様に同じリスクで相対的に高いリターンを継続できれば、コストにこだわる投資家にも一定の納得感が得られるかもしれない。
時間の経過とともに資産の値動きの違いで配分比率が崩れた際に元に戻す「リバランス」については、年に1~2回というロボアドもある中、テオは毎月行う。
リバランスの頻度が多いほどリスク・リターンが向上するとは限らないとの議論やデータもある。ただテオの場合は、きめ細やかに実施することでスマートベータ型運用をより精緻に行えていることが、相対的に高いリターンにつながっている面もありそうだ。
北沢COOは「グラフDは投資一任報酬控除前の数値だが、もちろん投資一任報酬を含めたコストも重要。ただ、自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできないことも知ってほしい。テオでは実際の売買でもアルゴリズムの手法でETFを効率的に売買するなどコスト最小化に取り組んでいる」と話す。
◎「コスト1%に見合う」かを論じてる?
上記の説明で最も罪深いのは「
お任せだからといって、コスト1%に見合う利点はあるのだろうか」と問題提起しているのに、それをまともに論じていない点だ。本来ならば「自分でETFを組み合わせるケース」と「お金のデザインに任せるケース」を比較検討すべきだ。しかし、田村編集委員はなぜかコストがほぼ同じの「
他社のロボアド」と比べている。これでは話にならない。
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耳納連山から見た筑後平野(福岡県久留米市)
※写真と本文は無関係です |
「自分でETFを組み合わせるより、お金のデザインに任せる方がリターンを確実に1%以上高められそうだな」と思えれば、「
コスト1%に見合う利点はある」と言える。証券アナリストとファイナンシャルプランナーの資格を持っているのが自慢の田村編集委員ならば、そのぐらいは分かっているはずだ。意図的に逃げているのだろうか。
強いて言えば「
自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできないことも知ってほしい」という「
北沢COO」のコメントが手掛かりとなる。
しかし、「
自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできない」と言える根拠は不明だ。まず、国内の証券会社経由でも多数の海外ETFに「自分で」投資できる。投資資金1000万円であれば、その「
1%」は10万円。自分で30銘柄に投資すると、売買手数料で最初に1万円ぐらいかかるかもしれないが、2年目以降はリバランスを多少すればいいだけだ。ETFの信託報酬などを考慮しても「
自分でこれだけ多くのETFを組み合わせる運用をすると1%ではできない」と考える方が無理がある。
◎「お金のデザイン」には特別な力がある?
記事を読んで「同程度のリスクを取りながら、他のロボアドより高いリターンを実現できているのならば、やはり価値があるのではないか」と思う人もいるだろう。だが、ここはかなり割り引いて考える必要がある。
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千鳥ヶ淵の桜(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です |
まず「
他のロボアド」がどのロボアドなのか不明だ。そして、比較する「
他のロボアド」は「
お金のデザイン」が選んでいるようだ。その場合、複数の比較対象の中から最も自分たちの優位性を示せそうなロボアドを選ぶだろう。
「
他のロボアド」に比べて高いリターンを得られたのは単なる偶然という可能性も残る。田村編集委員もその辺りは分かっているようだ。「
今回は運用開始後まだ1年程度の実績だが、同様に同じリスクで相対的に高いリターンを継続できれば、コストにこだわる投資家にも一定の納得感が得られるかもしれない」と抑えた書き方はしている。
ただ「
同じリスクで相対的に高いリターンを継続」するのが難しいのは田村編集委員も知っているはずだ。そんな芸当が可能ならば、お金のデザインには運用に関する特別な力があることになる。しかし、ETFの組み合わせでライバルの運用成績を継続的に上回るとは期待しづらい。
「
他社のロボアドは7つ程度の少ないETFの組み合わせ」だが、「
テオの場合は最大30強のETFを組み合わせる」から高いリターンが得られるとしよう。これが本当ならば(本当だとは思わないが、長くなるのでここでは論じない)、他社もすぐに真似するだろう。そうなれば差はなくなる。
リバランスについても同様だ。それで本当にリターンが高められるのならば、他社も同様の手法を取るだろう。しかし、田村編集委員も「
リバランスの頻度が多いほどリスク・リターンが向上するとは限らないとの議論やデータもある」と書いているように、リバランスでリターンを高められると期待する根拠は乏しい。
お金のデザインに関して、個人的に投資初心者へ助言するなら以下のような内容になる。
「お金のデザインのロボアドに頼るのはやめた方がいい。ETFに投資したいのならば、自分で銘柄を選ぶべきだ。極端に言えばクジでETFを選んでもいい。ETFを投資対象にしているのだから、それだけで投資対象のある程度の分散はできている。その方が投資額の1%も払ってロボアドに頼るよりマシだ。1%も払ったら、低コストというETF投資のメリットが台無しになってしまう」
これに対する有効な反論は田村編集委員もできないはずだ。
最後に記事の終盤を見ておこう。田村編集委員の「業界寄り」の姿勢がよく出ている。
【日経の記事】
(お金のデザインでは)
コストは現状で最小限に抑えているとはいえ、今後さらなる低減を期待したい。米国では巨大投信会社バンガードがロボアドと、対面でのファイナンシャルプランナーの助言を組み合わせたサービスを年0.3%で実施するなど、低コスト化がいっそう加速している。現時点ではできない積み立て投資のシステムなどの実現も期待されている。
◎「コストは現状で最小限」?
「
コストは現状で最小限」と言い切っているが、根拠は示していない。なぜ「
最小限」と断定できるのか謎だ。しかも「
米国では巨大投信会社バンガードがロボアドと、対面でのファイナンシャルプランナーの助言を組み合わせたサービスを年0.3%で実施」しているらしい。ならば、「
最小限」ではなく「米国の大手に比べると高コスト」とも言える。米バンガードの3倍以上のコストを「
現状で最小限」と評してくれるのだから、田村編集委員の業界への優しさは相当なものだ。それは、投資家側に立っていないことの裏返しでもある。
※今回取り上げた記事「
マネー研究所 投資道場~
ロボアド運用、仕組みと実力は? 『テオ』を分析」
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO14646850Z20C17A3000000?channel=DF280120166571
※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html
リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html
無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html
なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html
功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html
投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html
「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html
ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)
日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html
「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)
運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html