グラバー園の旧スチイル記念学校(長崎市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
一律10万円の特別定額給付金の申請はお済みだろうか。私事になるが、あれやこれや思い悩み、申請しないことにした。
「将来世代に借金を残さない」と胸をはれるほど、殊勝な心がけというわけではない。定年間近なので、老後を考えれば、カネがあるに越したことはない。来年だったならば、大手を振って申請しただろう。
要するに「一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ」との論陣を張った手前、そのくせおまえはもらうのかよ、などと悪意ある書き込みをSNS(交流サイト)にされたら嫌だなというのが本音である。
◎2つの疑問が…
この説明が成り立つためには2つの条件がある。まず、大石編集委員が「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」という事実が知られていること。さらに大石編集委員が「申請した」かどうかが「悪意ある書き込み」をする人に容易に知られること。いずれも大石編集委員が黙っていればバレないと思える。
「論陣を張った」と書いているので、大石編集委員の署名入り記事を調べてみたが、それらしきものはない。社説のことを言っていると推察できる。社説であれば、筆者が誰かを知るのはかなり困難だ。
「会社としてそういう主張をしていて、自分もその一員なのだから…」という反論は考えられる。だが「個人としては『所得制限を設けるべきだ』との主張に反対」と言って「申請」すれば済む。
さらに言えば「申請した」かどうかは、本人が明かさない限り簡単には分からない(役所や家族から情報が漏れる可能性はある)。「悪意ある書き込み」が嫌ならば、「申請した」かどうかを言わなければ済む。
なのになぜ「申請しないことにした」と宣言したのか。「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」身として、ちゃんと自分は「申請」を見送ったとアピールしたかったのだろう。底意が透けて見えている。
記事には他にも気になる点がある。続きを見ていこう。
【日経の記事】
知名度ゼロの筆者でもそう思うのだから、いの一番にやり玉にあがりそうな自民党が「給付金は受け取らない」と決めたのは賢明な立ち回りといってよい。
国会議員は毎年、歳費と文書通信交通滞在費と立法事務費を合計して、約4000万円を支給される。目下、若干減額中だが、給付金を受け取れば「金持ちのくせに」と批判されるのは目に見えている。
このところの文春砲のさく裂ぶりからして「臆面もなく10万円を手にした政治家たち」という記事が載っても不思議ではない。
2004年に年金保険料の未払い騒動があり、福田康夫官房長官や菅直人民主党代表のクビが飛んだ。カネ目の話は炎上しやすい。報道のかなりの部分は誤解だったのだが、渦中にどう釈明しても耳を貸してもらえなかった。
◎いきなり「文春砲」
注釈なしに、いきなり「文春砲」と書くのは感心しない。俗語の使用は慎重にすべきだ。
「このところの文春砲のさく裂ぶりからして『臆面もなく10万円を手にした政治家たち』という記事が載っても不思議ではない」と他人事のように語っているのも気になる。
「給付金を受け取れば『金持ちのくせに』と批判されるのは目に見えている」としたら、日経はどうすべきなのか。「批判」に加わらなくていいのか。あるいは擁護に回るのか。「文春」に任せるべき問題とも思えない。
さらに記事を見ていこう。
【日経の記事】
では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ。リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったときも百家争鳴となった。
与謝野馨経済財政相は配るのは「年収1000万円未満」と提案し、河村建夫官房長官は1500万円未満を「ひとつの案」と発言した。自民党では「地域の実情に応じて都道府県が判断」という声が出たが、責任丸投げに怒った知事たちの反発もあり、最後は所得制限なしで決着した。
支給対象が困窮世帯から一律へ急転した今回のドタバタ劇は、まるでこのときのビデオを再生しているかのようだった。
◎「難しい」で終わり?
今回の記事のテーマは「高所得者とは誰のことか」だ。なのに「では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ」で逃げている。「だったら記事は書かない方が…」と言いたくなる。
そして昔話が始まる。「風見鶏」にありがちなパターンだ。上記のくだりでは「リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったとき」を振り返る。さらに続く昔話も見ておこう。
【日経の記事】
もうひとつ思い出したことがある。1983年の今ごろ、街中でこんな歌をよく耳にした。
●(庵点)鈴木も佐藤も寄っといで
●(庵点)祭りだ祭りだまつりごと
●(庵点)よそさま脱税あたり前
●(庵点)庶民は税金ガラス張り
作詞はのちに映画「私をスキーに連れてって」をヒットさせる脚本家の一色伸幸さん。参院選に名乗りをあげたサラリーマン新党のキャンペーンソングだ。
勤め人は源泉徴収でがっちり徴税されるのに、自己申告の自営業や農家は収入をごまかしているのではないか。業種別の所得捕捉率をもじって、トーゴーサンやクロヨンという言い回しが飛び交っていた。
自営業や農家を支持基盤とする自民党は捕捉率向上に動こうとはしなかった。89年に消費税を導入した際、所得税の比率が下がったので大した不公平ではなくなったという話になり、サラ新は勢いを失い、間もなく消えていった。
◎昔話に紙幅を割くより…
ダラダラと昔話をする余裕があるのならば「高所得者とは誰のことか」をしっかり論じてほしかった。しかし大石編集委員にそのつもりはなさそうだ。記事を読む限り、この件で新たに取材した形跡も見当たらない。
終盤も見ておく。
【日経の記事】
日本経済にとって自営業者が大事な存在なのはその通りだが、だから所得捕捉が曇りガラスでよいというのはおかしな話だ。きちんと把握したうえで、必要ならば税の減免措置を広げるのが筋だろう。
所得格差の拡大もあり、行政が補助を出す機会は近年、増えている。学校の授業料や給食代などなど。本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか。
◎「所得制限うんぬん」の議論に「意味がない」?
最後は自分で自分たちの主張を否定するような話になっている。「本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか」と大石編集委員は言う。
だったら「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」ことも無意味ななずだ。
やはり大石編集委員は書き手として資質に欠ける。「定年間近」らしいが、定年後は記事を書かない道を歩んでほしい。
※今回取り上げた記事「風見鶏~高所得者とは誰のことか」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59798490Q0A530C2EA3000
※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html
ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html
日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html
どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html
「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html
大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html
「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html
具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html
自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html
米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html
自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html