2020年5月31日日曜日

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」

31日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~高所得者とは誰のことか」という記事では、筆者の大石格編集委員が「一律10万円の特別定額給付金」もらいませんアピールをしているのが引っかかった。これに関して冒頭で以下のように説明している。
グラバー園の旧スチイル記念学校(長崎市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

一律10万円の特別定額給付金の申請はお済みだろうか。私事になるが、あれやこれや思い悩み、申請しないことにした。

「将来世代に借金を残さない」と胸をはれるほど、殊勝な心がけというわけではない。定年間近なので、老後を考えれば、カネがあるに越したことはない。来年だったならば、大手を振って申請しただろう。

要するに「一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ」との論陣を張った手前、そのくせおまえはもらうのかよ、などと悪意ある書き込みをSNS(交流サイト)にされたら嫌だなというのが本音である


◎2つの疑問が…

この説明が成り立つためには2つの条件がある。まず、大石編集委員が「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」という事実が知られていること。さらに大石編集委員が「申請した」かどうかが「悪意ある書き込み」をする人に容易に知られること。いずれも大石編集委員が黙っていればバレないと思える。

論陣を張った」と書いているので、大石編集委員の署名入り記事を調べてみたが、それらしきものはない。社説のことを言っていると推察できる。社説であれば、筆者が誰かを知るのはかなり困難だ。

「会社としてそういう主張をしていて、自分もその一員なのだから…」という反論は考えられる。だが「個人としては『所得制限を設けるべきだ』との主張に反対」と言って「申請」すれば済む。

さらに言えば「申請した」かどうかは、本人が明かさない限り簡単には分からない(役所や家族から情報が漏れる可能性はある)。「悪意ある書き込み」が嫌ならば、「申請した」かどうかを言わなければ済む。

なのになぜ「申請しないことにした」と宣言したのか。「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」身として、ちゃんと自分は「申請」を見送ったとアピールしたかったのだろう。底意が透けて見えている。

記事には他にも気になる点がある。続きを見ていこう。

【日経の記事】

知名度ゼロの筆者でもそう思うのだから、いの一番にやり玉にあがりそうな自民党が「給付金は受け取らない」と決めたのは賢明な立ち回りといってよい。

国会議員は毎年、歳費と文書通信交通滞在費と立法事務費を合計して、約4000万円を支給される。目下、若干減額中だが、給付金を受け取れば「金持ちのくせに」と批判されるのは目に見えている

このところの文春砲のさく裂ぶりからして「臆面もなく10万円を手にした政治家たち」という記事が載っても不思議ではない

2004年に年金保険料の未払い騒動があり、福田康夫官房長官や菅直人民主党代表のクビが飛んだ。カネ目の話は炎上しやすい。報道のかなりの部分は誤解だったのだが、渦中にどう釈明しても耳を貸してもらえなかった。


◎いきなり「文春砲」

注釈なしに、いきなり「文春砲」と書くのは感心しない。俗語の使用は慎重にすべきだ。

このところの文春砲のさく裂ぶりからして『臆面もなく10万円を手にした政治家たち』という記事が載っても不思議ではない」と他人事のように語っているのも気になる。

給付金を受け取れば『金持ちのくせに』と批判されるのは目に見えている」としたら、日経はどうすべきなのか。「批判」に加わらなくていいのか。あるいは擁護に回るのか。「文春」に任せるべき問題とも思えない。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ。リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったときも百家争鳴となった。

与謝野馨経済財政相は配るのは「年収1000万円未満」と提案し、河村建夫官房長官は1500万円未満を「ひとつの案」と発言した。自民党では「地域の実情に応じて都道府県が判断」という声が出たが、責任丸投げに怒った知事たちの反発もあり、最後は所得制限なしで決着した。

支給対象が困窮世帯から一律へ急転した今回のドタバタ劇は、まるでこのときのビデオを再生しているかのようだった。


◎「難しい」で終わり?

今回の記事のテーマは「高所得者とは誰のことか」だ。なのに「では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ」で逃げている。「だったら記事は書かない方が…」と言いたくなる。

そして昔話が始まる。「風見鶏」にありがちなパターンだ。上記のくだりでは「リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったとき」を振り返る。さらに続く昔話も見ておこう。

【日経の記事】

もうひとつ思い出したことがある。1983年の今ごろ、街中でこんな歌をよく耳にした。

●(庵点)鈴木も佐藤も寄っといで

●(庵点)祭りだ祭りだまつりごと

●(庵点)よそさま脱税あたり前

●(庵点)庶民は税金ガラス張り

作詞はのちに映画「私をスキーに連れてって」をヒットさせる脚本家の一色伸幸さん。参院選に名乗りをあげたサラリーマン新党のキャンペーンソングだ。

勤め人は源泉徴収でがっちり徴税されるのに、自己申告の自営業や農家は収入をごまかしているのではないか。業種別の所得捕捉率をもじって、トーゴーサンやクロヨンという言い回しが飛び交っていた。

自営業や農家を支持基盤とする自民党は捕捉率向上に動こうとはしなかった。89年に消費税を導入した際、所得税の比率が下がったので大した不公平ではなくなったという話になり、サラ新は勢いを失い、間もなく消えていった。


◎昔話に紙幅を割くより…

ダラダラと昔話をする余裕があるのならば「高所得者とは誰のことか」をしっかり論じてほしかった。しかし大石編集委員にそのつもりはなさそうだ。記事を読む限り、この件で新たに取材した形跡も見当たらない。

終盤も見ておく。

【日経の記事】

日本経済にとって自営業者が大事な存在なのはその通りだが、だから所得捕捉が曇りガラスでよいというのはおかしな話だ。きちんと把握したうえで、必要ならば税の減免措置を広げるのが筋だろう。

所得格差の拡大もあり、行政が補助を出す機会は近年、増えている。学校の授業料や給食代などなど。本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか



◎「所得制限うんぬん」の議論に「意味がない」?

最後は自分で自分たちの主張を否定するような話になっている。「本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか」と大石編集委員は言う。

だったら「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」ことも無意味ななずだ。

やはり大石編集委員は書き手として資質に欠ける。「定年間近」らしいが、定年後は記事を書かない道を歩んでほしい。


※今回取り上げた記事「風見鶏~高所得者とは誰のことか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59798490Q0A530C2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

2020年5月30日土曜日

「ネットと民主主義 深まる相克」に説得力欠く日経 村山恵一氏

本社コメンテーター」の肩書を持つ日本経済新聞の書き手で最も問題が少ないと評価してきたのが村山恵一氏だが、最近は苦しい内容の記事も散見される。30日の朝刊総合2面に載った「ネットと民主主義 深まる相克~トランプ氏、SNS規制へ大統領令」という記事にも説得力は感じなかった。
藤波ダム(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

ネットと民主主義」で本当に「相克」が深まっているのか。記事を見ていこう。

【日経の記事】

トランプ米大統領が28日、ツイッターなどSNS(交流サイト)の規制強化に向けた大統領令に署名した。SNSの運営会社が投稿内容に介入するのをけん制する狙いがある。民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられたはずのネット。世論を乱し混乱をまねきかねない現実もある。ネットの理想を取り戻せるか



◎そんな話あった?

民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられたはずのネット」という説明がまず引っかかる。個人的には「熱狂的に迎え」た記憶はない。社会の中で自分が例外だと感じたこともない。

取りあえず「民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられた」のだとしよう。そして「世論を乱し混乱をまねきかねない現実もある」と認めよう(「まねきかねない」は「招きかねない」と表記してほしかった)。だからと言って「ネットと民主主義」に「相克」が深まっていると言えるだろうか。

多様な意見や情報が自由に飛び交えば「混乱」が起きることもあるだろう。それは「民主主義」を弱めている訳ではない。「民主主義」とは「人民が権力を所有し行使する政治形態」(デジタル大辞泉)を指す。現実が「ネットの理想」とかけ離れているとしても「人民が権力を所有し行使する政治形態」が揺らいでいないのならば、「民主主義」との「相克」を心配する必要はない。

では、今回の「トランプ米大統領」と「ツイッター」の件はどうなのか。記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

米国では通信品位法230条によってSNS会社が保護されている。内容が不適切だとして投稿の閲覧制限、削除をして利用者に訴えられても会社は法的責任を問われない。大統領令は免責対象を狭めようとしている。

きっかけはトランプ氏の投稿に対し、誤解される恐れのある情報を含むとして閲覧者に事実確認するようツイッターが注記したことだ。「SNSを強力に規制するか、閉鎖させる」。トランプ氏は怒りを爆発させた。



◎「民主主義」だからこそ…

今回の件は「トランプ氏の投稿に対し、誤解される恐れのある情報を含むとして閲覧者に事実確認するようツイッターが注記したこと」が「きっかけ」だと村山氏も書いている。つまり、自由に情報発信したい「トランプ氏」と、それに注文を付けた「ツイッター」との対立と言える。「トランプ氏」が言論の自由を奪おうとしているのではない。自らの「言論の自由」を強く求めているとも言える。

SNSを閉鎖させる」となれば問題はあるが、今のところ「ネットと民主主義」に大きな「相克」は感じられない。米国が「民主主義」の国だからこそ今回のような問題が起きるのではないか。「ネット」上も含めて多様な意見がぶつかり、解を見つけていくことで「民主主義を強固なもの」にできるという考え方も成り立つ。

記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

ツイッターやフェイスブックなどSNSが相次ぎ誕生した2000年代半ば、「ウェブ2.0」の潮流が起きた。誰もが情報の受け手、送り手になれる時代の到来だ。様々な意見の交換、英知の結集ができ、民主主義を前進させるとの声があがった。が、目の前の事態は理想から遠い



◎「ネット」に期待し過ぎでは?

「(ネット上では)様々な意見の交換、英知の結集ができ、民主主義を前進させるとの声があがった。が、目の前の事態は理想から遠い」と村山氏は言う。随分とお行儀の良い世界を「理想」として描いているのだろう。

ネット」の現実には色々と醜い部分もある。個人的には、それが当たり前だと思う。それでも言論の自由は大切だと感じる。「様々な意見の交換、英知の結集」をするために言論の自由を認めるならば、汚い部分も必ず付いてくる。それでも「民主主義」を守る上で役に立つと思えるのだが…。


※今回取り上げた記事「ネットと民主主義 深まる相克~トランプ氏、SNS規制へ大統領令
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200530&ng=DGKKZO59791040Z20C20A5EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価もDを維持する。村山氏については以下の投稿も参照してほしい。

「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_16.html

日経 村山恵一氏の限界見える「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/deep-insight_6.html

2020年5月29日金曜日

「米国工場のライン削減」は誤報だった? 日経「日産 最終赤字6712億円」

29日の日本経済新聞朝刊1面に載った「日産最終赤字6712億円 前期、11年ぶり~構造改革費6000億円」という記事で気になることがあった。「米国で工場のラインを削減するという話はどうなったのか?」と。
練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

27日付の「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事では「日産は米国に完成車工場を2つ持つ。そのうち主力セダンなどを生産するミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している」と報じており、これが「3000億円コスト削減」の柱だと示唆する内容だった。

しかし29日の記事に付けた「2023年度までの新中期計画の骨子」という表で「固定費3000億円削減(18年度比)」のところを見ると「生産能力を2割減の540万台まで引き下げ→スペイン工場の閉鎖検討」「車種数2割削減→韓国・ロシアで低価格ブランド『ダットサン』撤退」「一般管理費15%削減」となっているだけで、米国には触れていない。

日産のニュースリリースには「北米の各工場での生産車種をセグメントごとに集約し、効率を改善する」とは出てくるが「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」という話にはなっていない。

調整している」と逃げを打っているので誤報とは言い切れないが、何かを間違えた感じは否めない。間違い自体を責めるつもりはない。問題は2つある。

まず、待っていれば発表されるネタを事前に報道するのは原則としてやめた方がいい。これは何度も訴えていることだ。

27日の記事を読んだ人が「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」方向だと誤解していてもおかしくない。頑張って事前に報じると、どうしても正確さを欠いてしまう。それでも記事にする社会的な意味があるかと言えば、ほぼない。余計な混乱を招くだけだ。

どうしても報じたいのならば、間違えた時のフォローは丁寧にすべきだ。今回で言えば「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している」という話はどうなったのか1面の記事に盛り込むべきだ。今回は総合2面と企業1面にも関連記事が載っている。スペースはたっぷりあるのに「ミシシッピ州の工場」のライン削減の話がどうなったか全く触れていない。

きちんとフォローするつもりがないのならば、待っていれば発表されるネタは発表を待つべきだ。それが日経のためでもあるし、読者のためでもある。


※今回取り上げた記事「日産最終赤字6712億円 前期、11年ぶり~構造改革費6000億円


※記事の評価はC(平均的)。「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

雑な作りが残念な日経「日産、3000億円コスト削減」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/3000.html

2020年5月28日木曜日

日経 山本裕二記者の技術不足が見える「石油製品、鈍い需要回復」

28日の日本経済新聞朝刊マーケット商品面に載った「石油製品、鈍い需要回復~アジア市場年初比5割安 コロナで移動制限残り」という記事は完成度が低すぎる。筆者の山本裕二記者は記事を書くための基礎的技術を身に付けていないのだろう。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

まず記事の前半を見ていく。

【日経の記事】

アジア市場で石油製品の需要の回復が鈍い。多くの国では新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための移動制限が残っていて、経済活動の復活に時間がかかっている。ガソリンや軽油などの価格は足元で年初比5割ほど安い。石油需要の約4割を占めるアジア地域で消費回復が遅れたままだと、石油会社の採算が悪化し、供給体制が弱体化しかねない。


アジア地域の指標となるシンガポール市場では石油製品価格が軒並み安い。ガソリン価格が1バレル35ドル前後、ガスオイル(軽油)が同38ドル、航空機燃料(ケロシン)が同37ドルとそれぞれ年初比で5割程度下落している。新型コロナの感染拡大に伴う移動制限で輸送燃料の需要が鈍い

石油天然ガス・金属鉱物資源機構の竹原美佳氏は「中国を除くアジア地域で石油需要が本格的に回復するのは10月からになるだろう」とみる。


◎肝心の情報が…

見出しで「石油製品、鈍い需要回復」と打ち出し、冒頭でも「アジア市場で石油製品の需要の回復が鈍い」と書いている。この場合、必ず入れるべき情報が2つある。(1)需要はどのくらい回復しているのか(2)なぜ「回復が鈍い」と言えるのか--。今回の記事には、いずれの情報も見当たらない。「新型コロナの感染拡大に伴う移動制限で輸送燃料の需要が鈍い」などと書いているだけで、そもそも「需要」に関する具体的なデータが出てこない。

石油製品価格」が「需要」に関するデータだと山本記者は考えているかもしれない。しかし、「価格」は基本的に需給で決まる。「価格」が上がっていても需要が「回復」していない場合はある。逆に「需要」の「回復」過程で「価格」が下がっても不思議ではない。供給面の影響があるからだ。この辺りは山本記者も分かっているとは思うが…。

記事の後半に気になる説明が出てくるので、それも見ておこう。

【日経の記事】

アジア市場の石油製品消費の回復はまだ先になりそうだ。国際エネルギー機関(IEA)が14日発表した月報によるとアジア地域では12月時点でも主要な製品需要の落ち込みが続く見通しだ



◎「回復」さえしてない?

需要の回復」は見られるものの、その勢いが「鈍い」のだと思って読み進めてきた。しかし、その前提が崩れるような記述だ。「アジア地域では12月時点でも主要な製品需要の落ち込みが続く見通し」だとすると、そもそも現状で「需要の回復」が見られるのか怪しくなってくる。

どの時点との比較かといった問題かもしれないが、「需要」が「回復」傾向にあるかどうかは明確に読者に示すべきだ。

今回の完成度で読者に記事を届けられるのは悪い意味で凄い。担当デスクと一緒にしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた記事「石油製品、鈍い需要回復~アジア市場年初比5割安 コロナで移動制限残り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200528&ng=DGKKZO59577640W0A520C2QM8000


※記事の評価はD(問題あり)。山本裕二記者への評価は暫定でDとする。

「少子化対策は行うべきなのか」山田昌弘氏の主張に異論あり

今回は山田昌弘氏が書いた「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」という本を取り上げる。自分は少子化を放置すべきとの立場だが、この本の解説の多くは納得できた。ただ「少子化対策は行うべきなのか」に関する記述には異論がある。そのくだりを見ていこう。
藤波ダム(福岡県うきは市)
    ※写真と本文は無関係です

【本の引用】

まず、少子化対策を「すべきでない」という意見の理由を見てみよう。

一方には、結婚、出産は個人的なものだから、国家は介入すべきでないという「反国家主義」的イデオロギーに基づく考え方からくるものがある。

もう1つは、個人のために国がお金をかけるべきでない、出産を奨励するためにお金を使うくらいなら、移民を積極的に導入すべきだという意見である。

政治的には対極に位置するように見える立場の人が、同じ結論に達しているのは興味深いが。

ただ、現実に「結婚したい、子どもを産み育てたい」という若者は圧倒的に多い。彼らの希望をかなえることが、同時に、持続可能な社会を作るものであるなら、それを政府や社会が後押しすることが必要だと私は考える。


◎そもそも人が多過ぎる…

自分は「少子化対策を『すべきでない』」と思っている。しかし上記の2つの理由は当てはまらない。「すべきでない」と考える理由は「人が多過ぎるから」だ。個人の感覚的な問題ではあるが、日本の人口は1000万人もいれば十分だ。今の水準から半減してもまだ多い。

後付けではあるが、それらしく基準を設けるならば「少なくとも食料自給率が100%になるまで人口減少(少子化)を放置すべきだ」といったところか。

環境問題も新型コロナウイルス問題も、人口が大幅に減れば対応が容易になる。日本列島に1億人が住んでいる状態よりも1000万人の方が「持続可能」性は高いだろう。

ただ「持続可能」性に強くこだわってはいない。最終的には日本列島に住む人がゼロになってもいい。戦争や飢餓が原因というのは困るが、人々の自由な選択の結果として少子化が進み、30世紀の世界では「日本人」が消滅しているとしても、そこを避けたいとは思えない。

山田氏は少子化対策が必要との立場だが、その主張にも疑問を感じた。まず「現実に『結婚したい、子どもを産み育てたい』という若者は圧倒的に多い」かどうかだ。この本の中で山田氏は以下のように記している。

【本の引用】

近年の様々な調査を総合すると、恋人のいない若年未婚者の15%から25%程度しか「婚活」を行っていない。つまり、少なめに見積もっても、恋人のいない未婚者の4分の3は、自分から積極的に結婚相手探しをしていないのである。

恋人がほしいと思っている人の割合が約5割であるので、恋人がほしいと思っていたとしても、半数以上は、待っているだけで何もしていないことになる。


◎やる気がないなら…

結婚したい、子どもを産み育てたい」と「本気」で思っている「若者」が「圧倒的に多い」ならば「恋人がほしいと思っている人の割合が約5割」とはならないだろう。「結婚はしたいですか。したくないですか」といった質問に「いずれはしたい」と答えたからと言って「結婚したい」という気持ちが「本気」だとは限らない。

気合を入れて頑張っているのに結果が出ない「若者」を応援するのは分かる。しかし「待っているだけで何もしていない」ような「若者」も助けるべきなのか。

仮に、やる気のない「若者」の「結婚相手探し」を支援するとしても「少子化対策」と捉えるべきかとの問題が残る。

結婚する人が増えて、子供が増えて、出生率が上がれば「少子化対策」は成功となるのだろう。だが、ここでの問題は「結婚したい、子どもを産み育てたい」と願う「若者」の希望が実現しているかどうかだ。

そういう「若者」の希望を政府の後押しで全て叶えたとしよう。しかし「結婚したい」と考える人の割合が大きく低下したため、出生率は上向かなかったとする。この場合「少子化対策」としては失敗となってしまう。それは指標が間違っているからだ。

結婚したい」と考える「若者」を支援したいのならば、その結果は「結婚したいのに結婚できない人の比率」といった数値で評価すべきではないか。


※今回取り上げた本「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?


※本の評価はB(優れている)。山田昌弘氏への評価も暫定でBとする。

2020年5月27日水曜日

雑な作りが残念な日経「日産、3000億円コスト削減」

27日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事は雑な作りが目立った。記事の全文は以下の通り。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

日産自動車が年間3000億円規模のコスト削減に踏み切ることが26日、分かった。新型コロナウイルス感染拡大で業績悪化に歯止めがかからず、設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減を実施することで収益改善を急ぐ

28日に発表する20年3月期の連結最終損益は11年ぶりに赤字に転落したもようだ。販売台数も前の期比13%減の479万台まで落ち込んでいた。

日産は米国に完成車工場を2つ持つ。そのうち主力セダンなどを生産するミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している。調査会社によると、日産の米国の生産能力は年約110万台で、ライン削減により米国の生産能力は約1割減るとみられる。日産の19年度の米国での生産台数は約69万台と前年度比15%減っており、米生産拠点は過剰設備となっていた。


◎「3000億円」の内訳は?

年間3000億円規模のコスト削減に踏み切る」と言うが、その内訳がまず分からない。具体的な「コスト削減」策として出てくるのは「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」という話のみ。ただ、「製造ラインを1つ削減する」だけで「年間3000億円規模のコスト削減」になるのか疑問だ。

最初の段落では「販管費抑制」という文字も見える。なので「製造ラインを1つ削減する」以外にも何らかの「コスト削減」策があるのだろう。ただ、その中身には全く触れていない。

今回の記事では、第2段落が無駄だと感じた。まずは「コスト削減」の中身をしっかり説明してほしい。「28日に発表する20年3月期の連結最終損益は~」といった話は、紙面に余裕がある場合に記事の最後に付ければ十分だ。

冗長さも気になった。「設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減を実施することで収益改善を急ぐ」というくだりは「実施すること」が要らない。例えば「設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減で収益改善を急ぐ」としても何の問題もない。「実施」「こと」といった言葉は省ける場合が多い。記事を書く時は簡潔な表現を心掛けてほしい。


※今回取り上げた記事「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200527&ng=DGKKZO59608770W0A520C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年5月26日火曜日

「治験1カ月前倒し」で1面3段見出しの価値ある? 日経「国産ワクチン7月治験」

国産ワクチン7月治験~アンジェス、年内実用化狙う」という記事が26日の日本経済新聞朝刊1面に3段見出し付きで載っている。関心の高いテーマなのは分かるが、1面3段はやり過ぎだと感じた。
練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

アンジェスは25日、開発中のワクチンの投与によって抗体ができることを動物実験で確認したと発表した。治験は当初は9月開始を予定。その後は8月への前倒しを検討していたが早期実施に踏み切る。大阪大学医学部付属病院と大阪市立大学医学部付属病院で数十人程度を対象に行う。9月にも結果が出る見通し。


◎1カ月ずつ早まっているが…

アンジェス」が新型コロナウイルスの「ワクチン」を開発するという話は3月に記事になっている。4月14日には「アンジェス、コロナワクチンの治験開始を1カ月前倒し」という記事も出している。これが「8月への前倒しを検討」に当たる。そして今回は「新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)を7月から始める」らしい。

要は「8月」が「7月」になるだけだ。報じるなとは言わないが、1面で3段見出しを立てる必要があるとは思えない。厳しく言えば煽り過ぎだ。

治験」の規模は「数十人程度」で「9月にも結果が出る見通し」だと言う。そして「年内にも承認を受け実用化される可能性がありそうだ」とも書いている。

わずか「数十人程度」を2~3カ月調べて「年内にも承認を受け実用化」すると聞くと「急ぎ過ぎではないのか。本当に大丈夫か」との疑問は浮かぶ。

この話、どうも急ぎ過ぎていて嫌な予感がする。


※今回取り上げた記事「国産ワクチン7月治験~アンジェス、年内実用化狙う
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200526&ng=DGKKZO59530870V20C20A5MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2020年5月25日月曜日

週刊エコノミストの記事は使い回し? 岡三証券の高田創氏

週刊エコノミスト6月2日号の特集「コロナ危機の経済学」の中の「戦時体制~市場・金融政策万能の見直し 政府機能拡大と資本主義の行方」という記事には既視感があった。筆者である岡三証券エグゼクティブエコノミストの高田創氏は冒頭で以下のように書いている。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

【エコノミストの記事】

今年は第二次大戦終結から75年、3四半世紀の節目の年だ。何千年の世界史を振り返り、これほど長年にわたり世界規模での戦争がなかった時期は珍しい。それほど、我々は平和の時代を謳歌(おうか)してきた。太平の眠りを覚ます号砲が「第三次世界大戦」とも言えるコロナショックだ。

今回、世界は見えない敵との第三次世界大戦にあるが、今日のG7(主要7カ国)諸国のリーダーは最年長のトランプ大統領、また日本の安倍晋三首相を含め全員が第二次大戦後生まれ、「戦争を知らない子供たち」の世代だ。


◇   ◇   ◇

次に、4月24日付の日本経済新聞朝刊に載った「大機小機~『コロナ戦争後』 見えぬ秩序」という記事を見てみる。

【日経の記事】

今年2020年は1945年の第2次世界大戦終了から75年、3四半世紀の節目を迎える年だ。人類の歴史を振り返れば、3四半世紀にわたり世界規模での戦争がない平和な時代は例がなかったのではないか。それは、20世紀前半に第1次・第2次世界大戦と2回も世界が戦場になったなかの反省だった。

軍事的発想を世界規模で失いかけていたなか、今回、「コロナ戦争」という「見えざる敵」に対する世界規模での戦い、勝者なき「第3次世界大戦」が勃発した。戦後3四半世紀の太平の眠りを覚ます歴史的事件で、「戦争を知らない子供たち」が戦時体制の不条理を疑似体験している。



◎酷似しているが…

非常に似ている。「大機小機」の筆者は「玄波」氏となっている。この人物が高田創氏である可能性は高い。もし別人物ならば、高田氏が書いたエコノミストの記事は「大機小機」のパクリと言われても仕方がない。

記事で似ているのは上記のくだりだけではない。「歴史を振り返れば、1930年代の世界大恐慌が生じたなかで最も早く立ち直りを示したのは、全体主義で戦時経済体制を築いた当時のソ連とナチスドイツであったとされる」(エコノミスト)、「歴史を振り返れば、世界大恐慌が生じた1930年代の危機時、その状況から最も早く立ち上がったのは全体主義国家のソ連とナチスドイツとされる」(日経)といった具合だ。偶然とは考えにくい。

筆者が同一人物の場合、これだけ似た内容の記事を載せるのは感心しない。書き手としてのモラルの低さを感じる。一方、「大機小機」の内容を参考にしてエコノミストの記事を書いたのだとしたら論外だ。

さらに言うと、「玄波」氏が書いた「大機小機」には以前の投稿で誤りを指摘している。その内容を改めて載せておきたい。


◎19世紀までは…

人類の歴史を振り返れば」数百万年に及ぶだろう。そのほとんどの期間で「世界規模での戦争」はなかったはずだ。第1次世界大戦が人類初の「世界規模での戦争」だと思える。

世界規模での戦争がない」という条件を満たせば「平和な時代」だと言えるのならば、19世紀まで人類はずっと「平和な時代」を生きてきたのではないか。

軍事的発想を世界規模で失いかけていた」という見方にも同意できない。「世界規模での戦争がない」からと言って、軍事衝突がなくなった訳ではない。イラク戦争などで21世紀に入っても様々な軍事行動を続けてきた米国は「軍事的発想」を「失いかけていた」のか。シリア内戦を経験した子供たちは「戦争を知らない子供たち」なのか。答えは明らかだ。

新型コロナウイルスの問題を「第3次世界大戦」と呼ぶなとは言わない。だが、今回の記事では危機の煽り方に無理があると感じた。


※今回取り上げた記事

戦時体制~市場・金融政策万能の見直し 政府機能拡大と資本主義の行方
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200602/se1/00m/020/051000c


大機小機~『コロナ戦争後』 見えぬ秩序
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200424&ng=DGKKZO58426680T20C20A4EN2000


※「大機小機~『コロナ戦争後』 見えぬ秩序」については以下の投稿で触れている。

「世界規模での戦争」が75年ないのは人類史上初? 日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/75.html


※エコノミストの記事の評価はD(問題あり)。高田創氏への評価も暫定でDとする。

2020年5月24日日曜日

ちょっと大げさ…日経「新興国 高まる債務リスク」

24日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「新興国 高まる債務リスク~コロナで財政悪化
アルゼンチン利払い停止 返済負担重く」という記事は少し大げさだと感じた。「アルゼンチン利払い停止」を受けて「新興国」全体が危ないというストーリーを考えたのだろう。だが、実際にはそれほど「債務リスク」は高まっていないように見える。

海から見た福岡市 ※写真と本文は無関係です
記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

アルゼンチンに限らず、新興国の財政は新型コロナで悪化の懸念が高まる。医療体制の整備や需要の落ち込みに対応した経済対策で、財政支出は増加している。産油国では原油安も重なり、信用リスクをやり取りするクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場では、「保証料」が高止まりする

ICEデータデリバティブ(IDD)によると、中東のオマーンのCDS(5年物)は22日に6.12%と2月末の3.25%から2倍近くまで上昇した。バーレーンも4%強の高水準で推移する。両国とも中東の産油国の中で政府債務残高の国内総生産(GDP)比が高い。

南アフリカのCDSも2月末の2.14%から3.59%まで上がっている。IMFによると20年度の財政赤字のGDP比率は過去最大に膨らむ見通し。感染拡大も続いている。3月には一部格付け機関が投機的階級に格下げした。トルコは5.57%、ブラジルも3.07%に上昇している。日米欧の主要国は0.1~0.3%台だ。一般的には2%を超えると、市場の警戒が高まる



◎「債務リスク」高まってる?

記事に従って「債務リスク」の大きさを「CDS」の「保証料」率で判断するとしよう。「『保証料』が高止まりする」と書いているのだから、足元では横ばい基調と見ているのだろう。だとしたら「高まる債務リスク」は感じられない。

オマーンのCDS(5年物)は22日に6.12%と2月末の3.25%から2倍近くまで上昇した」との記述はあるものの、あくまで「2月末」との比較だ。「高まる債務リスク」とするならば、5月に入ってCDS保証料率が上昇(できれば急上昇)している事例が欲しい。

債務リスク」を見る上では変動率と同時に水準も重要だ。しかし、これも大したことがない。記事には「産油国や高債務国で信用リスクが高まる」という説明を付けたCDS保証料率のグラフがある。ここに出てくる10カ国で最も保証料率が高いオマーンでも6%強。「一般的には2%を超えると、市場の警戒が高まる」らしいが、2%超も8カ国に過ぎない。このうち2カ国は「2%強」ぐらいのレベルだ。

記事でも「アルゼンチンの直近のCDSは131%まで上昇していた。他の新興国はアルゼンチンと比べ、そこまで高くなっておらず状況は異なる」と書いている。「他の新興国」の「債務リスク」がそれほどでもないのは筆者ら(大西康平記者と宮本岳則記者)も分かっているはずだ。

仮説を立てて企画を練るのは悪くない。想定したストーリーに合わなかったのに、強引に話を作り上げてしまったのが今回の記事だと思える。

付け加えると、記事では「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の説明が不十分だと感じた。「CDS」をよく知らない人にとってみれば「なぜ『保証料』がパーセント表示なの? 保証料2%って何に対する比率なの?」と疑問に思うのではないか。

保証料」は「保証料率」と表記した方がいい。想定元本に対する保証料の比率が「保証料率」だという説明も欲しかった。

さらに言えば「南アフリカのCDSも2月末の2.14%から3.59%まで上がっている」という記述は舌足らずだと思える。「2.14%から3.59%まで上がっている」のは「CDS」ではなく「CDS保証率」だ。略するならば「保証率」の方が好ましい。



※今回取り上げた記事「新興国 高まる債務リスク~コロナで財政悪化
アルゼンチン利払い停止 返済負担重く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200524&ng=DGKKZO59504760T20C20A5EA1000


※記事の評価はC(平均的)。大西康平記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。宮本岳則記者への評価はCを据え置く。宮本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 宮本岳則記者「野村株、強気の勝算」の看板に偽り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post.html

日経 宮本岳則記者「スクランブル」での不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_3.html

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

断定して大丈夫? 日経「ウーバー上場手続き 時価総額、米歴代2位」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/2.html

2020年5月23日土曜日

デフレスパイラルの心配要る? 日経「物価下落『来年前半まで』」

最近の日本経済新聞を読んでいると「新型コロナウイルスの影響でデフレに陥るのでは」と心配しすぎだと感じる。23日の朝刊総合4面に載った「物価下落『来年前半まで』~エコノミスト予測平均 耐久消費財・サービス低調」という記事の最後では以下のように記している。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

物価に下落圧力がかかっているのは各国も同じだ。国際通貨基金(IMF)は20年の先進国の上昇率は0.5%と、19年の1.4%から急速な鈍化を見込む。米国は4月のCPIが前月比でほぼ11年ぶりの低下幅だった。

物価が下がれば企業のもうけが減り、賃金は下がりやすい。賃金が減ったり失業が増えたりすると個人は消費を減らす。もうけがさらに減る企業は投資を抑え、景気は一段と冷える。大和総研の熊谷氏は「デフレスパイラルのリスクが出てきている」と懸念する。


◎「デフレスパイラルのリスク」?

デフレスパイラル」に明確な定義はないので、とりあえず「景気が悪化する局面において2年連続で物価下落率が10%以上になること」としておこう。「大和総研の熊谷氏」に比べれば経済に関する知識は乏しいと思うが、あえて大胆に予言したい。「新型コロナウイルスの影響で日本がデフレスパイラルに陥ることはない」

構造的に「デフレスパイラル」は起きにくいと見ている。今回、原油価格は歴史的な暴落となったが、それから1カ月近くが経っても近所のガソリンスタンドではガソリンが1リットル当たり110円台で売られている。年初と比べると10円程度下がったかなという程度だ。

デフレスパイラル」になればガソリンが80円、50円、30円、10円といった具合に安くなっていくはずだ。しかし税金部分だけで60円を超えるのに、そんなに下がるのか疑問だ。インフレで200円、300円と上がっていくのに比べれば、「デフレスパイラル」で価格が大幅に下がり続けるのは、そもそもハードルが高い。

しかも「国際通貨基金(IMF)は20年の先進国の上昇率は0.5%と、19年の1.4%から急速な鈍化を見込む」とも書いている。つまり「先進国」でさえプラス圏にとどまる。「デフレスパイラル」が現実化するためには「20年」に10%超の物価下落となる必要がある。しかし、そうした見通しにはなっていない。

そして新型コロナウイルス問題がインフレ要因となる点も無視できない。今回の記事でも以下のように書いている。

【日経の記事】

SMBC日興証券の宮前耕也氏は「家電製品の価格は新型コロナで二極化した」と指摘する。自炊が増え、電子レンジは26.8%、炊飯器は3.8%値上がりした。デスクトップ型パソコンが18.9%、プリンターが11.2%上昇したのは「在宅勤務向けの需要増が背景だ」(同)という。

マスクなども含めて需要増で値上がりする品目もあるが「総合的にみればコロナはデフレ圧力になる」(大和総研の熊谷亮丸氏)との声が多い。



◎両面あるなら…

総合的にみればコロナはデフレ圧力になる」としても、物価の上昇を促す面もあるのならば、一方的に物価が下がる「デフレスパイラル」を心配する必要性は低い。

どちらかと言えば怖いのはインフレだ。収入が減ったり途絶えたりした中で物価が上がれば生活の困窮に拍車がかかる。感染拡大で食料供給などに問題が生じて食品価格が上がってくれば社会不安も増大する。

日経がデフレ嫌いなのは勝手だが、分析は冷静にしてほしい。


※今回取り上げた記事「物価下落『来年前半まで』~エコノミスト予測平均 耐久消費財・サービス低調
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200523&ng=DGKKZO59466080S0A520C2EA4000

※記事の評価はC(平均的)

2020年5月22日金曜日

黒川弘務検事長の問題を取り上げた日経「春秋」に思うこと

東京高検の黒川弘務検事長(63)が新聞記者らと賭けマージャンをした疑いがあると報じられた問題」を22日の日本経済新聞朝刊でも色々と取り上げている。この中で1面コラム「春秋」に気になる記述があった。
田主丸グリーンセンター(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

現代ニッポンのこの人たちは、どんな気分で卓を囲んでいたのだろう。黒川弘務・東京高検検事長、産経新聞のA記者とB記者、朝日新聞の元記者というメンツだ。A記者の自宅をジャン荘がわりに、コロナ緊急事態もなんのその、宵の口から未明まで賭けマージャンに興じていたという。唾棄すべき光景というほかない

黒川検事長といえば、定年延長問題のまさしく当事者である。渦中のその人を、私宅に招き入れてのロンチーポンとは神経が太い。こんな検察官は一握り、こういう記者も一握りだと小欄としては言いたいが、世間は権力とメディアとの癒着の図式に大いに憤慨していよう。自戒をこめてこれを書きつつ、無念が募るのだ



◎取材先に食い込むのはダメ?

この問題には3つのダメがある。まず「賭けマージャン」だからダメという考え方だ。これは分かりやすい。「コロナ緊急事態」下にあったからダメという見方も成り立つ。これも「好ましくない」と言われれば、そうだ。

では「コロナ緊急事態」下になく、「賭け」てもいなければどうか。「春秋」の筆者は「世間は権力とメディアとの癒着の図式に大いに憤慨していよう。自戒をこめてこれを書きつつ、無念が募るのだ」と記している。「渦中のその人を、私宅に招き入れてのロンチーポン」だけでダメだと判断しているのだろう。

しかし、日経でも「取材先に食い込んでネタを取って来れる記者」を「優れた記者」と見なしてきたはずだ。「春秋」の筆者も知らないはずがない。「東京高検検事長」を招いて自宅でマージャンするほどの仲であれば「取材先に食い込んでいる」との見方もできる。「東京高検検事長」が何かネタをくれる可能性も否定できない。ところが筆者は「自戒をこめてこれを書きつつ、無念が募る」と批判的だ。

本当に「無念が募る」のならば「取材先に食い込んでネタをもらって発表前に書くなんて日経ではもうやめよう。コロナ問題が終息しても夜討ち朝駆けはやらない新聞社になろう」と社内で訴えてほしい。

今回の件が日経を含めたメディアの取材姿勢の見直しにつながることを願う。


※今回取り上げた記事「春秋
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200522&ng=DGKKZO59420760R20C20A5MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2020年5月21日木曜日

「最近」の分析がないと…日経 古賀雄大記者「安全通貨、フラン1強か」

21日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「ポジション~安全通貨、フラン1強か 円より強く スイスの貿易黒字影響」という記事は面白そうなテーマではある。ただ、中身を見ると不満が残った。
練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

まず問題としたいのが「期間」だ。古賀雄大記者が書いた記事の最初の方を見ていこう。

【日経の記事】

外国為替市場でともに「安全通貨」とされてきた円とスイスフランで選別投資が進んでいる。過去には投資家のリスク回避局面で極端な円高に振れることが多かったが、最近はフランが買われる傾向が目立つ。通貨の総合的な価値を示す指数でリーマン危機後の値動きをみても、円は1割低い水準にある一方、フランは3割高だ。安全通貨は「フラン1強」になるのだろうか。

対ユーロのフラン相場は先週末、1ユーロ=1.05フラン近辺と2015年7月以来、約5年ぶりのユーロ安・フラン高の水準を付けた。欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が続き、リスク回避姿勢を強めた投資家のフラン買いが優勢になった。今週になってフランはやや売られる場面もあったが、なお高い水準にある。

通貨の総合的な価値を示す実効為替レートの指標「日経通貨インデックス」をみても、フランは105程度とこの1年で7%上昇。リーマン危機後の2008年末と比べると3割上昇している。

一方の円。通貨インデックスは120近辺と1年前から5%高くなったが、フランの方が伸び率が大きい。08年末比でみると8%下落し、フランとの違いがよりいっそう鮮明になる。円相場は日銀が13年に始めた異次元緩和で急激な円安が進み、その後は一進一退をしつつも、おおむねリーマン時より安い水準を維持している。

外為市場ではともに安全通貨と認識されている円とフランだが、なぜこれほど大きな差が生じているのか。



◎「最近」の話でないと…

最近はフランが買われる傾向が目立つ」と言うならば、「最近」の動向を分析してほしかった。しかし「この1年」の上昇率では「7%」と「5%」で大差がない。そこで「リーマン危機後の2008年末と比べ」て分析している。これだと期間が長すぎる。

記事に付けたグラフを見ると、スイスフランと円の差が開いたのは2012年から15年にかけてで、その後はほぼ同じような動きだ。このグラフからは「最近はフランが買われる傾向が目立つ」とは言えない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

要因の一つが貿易収支の違いだ。スイスの19年の貿易収支は373億フラン(約4.1兆円)と過去最大の黒字を記録。国内総生産(GDP)比で約6%を占め、ここ10年でほぼ倍増した。貿易黒字だと輸出企業は稼いだ外貨を自国通貨に替える必要があり、通貨高につながりやすい。

日本は東日本大震災後の原発停止で貿易収支が大幅に悪化し、19年は1.6兆円の赤字だった。シティグループ証券の高島修氏は「フラン高・円安圧力が強い」とみる。



◎やはり「期間」の問題が…

リーマン危機後の2008年末と比べ」て分析したために「東日本大震災後の原発停止で貿易収支が大幅に悪化」といった古い話が前面に出ている。

推測だが「貿易収支の違い」で12~15年に差が開いたのだろう。問題は「最近」だ。「最近」になって「貿易収支の違い」が鮮明になり「フラン1強」化が進んだのか。そうではないのならば、マーケット総合2面のようなニュース面で取り上げる意味はあまりない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

世界的な金利低下で円が買われにくくなった面もある。リーマン危機前は主要国の長期金利が軒並み4%を超えていた一方、日本は1%台にとどまり、スイスよりも低かった。このため低金利の円を調達し高金利の通貨で運用益を稼ぐ「円キャリー取引」が活発だった。リーマン危機後は円を買い戻す動きが広がり、円相場は1ドル=100円を超す円高が進んだ。

近年は各国中央銀行の金融緩和を受け、世界的に金利が低下している。円キャリー取引も下火になり、「新型コロナの感染拡大によるリスク回避局面でも極端な円高は進んでいない」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏)。外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏も「円のリスク回避通貨としての地位が揺らぎつつある」と話す。


◎これも苦しい感じが…

まず「円キャリー取引」の解消に伴って円が買われるのであれば、それは「安全通貨」として買われているのではない。それに「世界的な金利低下で円が買われにくくなった面」があるのならば、同じことがスイスフランにも当てはまるのではないか。「最近」もスイスフランでは「キャリー取引」が活発ならば、その理由を説明してほしい。円との金利差は大きくないはずだ。


※今回取り上げた記事「ポジション~安全通貨、フラン1強か 円より強く スイスの貿易黒字影響
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200521&ng=DGKKZO59348550Q0A520C2EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。古賀雄大記者への評価も暫定でDとする。

2020年5月20日水曜日

米国は本当に「大幅」引き上げ?日経「最低賃金上げ、判断二分」

20日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「最低賃金上げ、判断二分~大幅の米英、解雇で雇用を調整 日本小幅か、賃金抑え雇用維持」という記事には色々と問題を感じた。まず本当に「大幅の米英」と言えるかどうかだ。記事では以下のように説明している。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

最低賃金の引き上げを巡り、世界で判断が分かれている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気の急速な冷え込みで、英国は4月に過去最高となる6%の引き上げに踏み切った。米国は2020年に24州が上げる予定だ。3%上げを掲げてきた日本は小幅になる可能性がある。解雇で雇用を調整する米英と賃金の抑制で雇用を維持する日本との違いが出ている。

中略)日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、米国では1月に21州が最低賃金を上げ、オレゴン州など3州とワシントン特別区が年内に引き上げる予定だ。ワシントン特別区は時給15ドル(約1600円)になる。


大幅見出し、どこから?

英国は4月に過去最高となる6%の引き上げに踏み切った」と書いてあるので「英国」はまあいいだろう。問題は「米国」だ。「米国は2020年に24州が上げる予定だ」とは述べているが「大幅」かどうかは分からない。

上記の説明から、どうすれば「大幅の米英」と見出しに取れるのか不思議だ。実際を引き上げ幅を調べてみると、州によってバラツキが大きく、全体として「大幅」と言うのはやや苦しいそう。だから記者も「幅」に触れなかったのだろう。

さらに言えば、今回の記事は新型コロナウイルスの問題と絡めて書いている。しかし、米国の場合は「1月に21州が最低賃金を上げ」ているのだから、コロナ問題が大きくなる前に全体の方向性が決まってしまっている。

これ以外にも記事には問題を感じた。2つ挙げてみる。

(1)「世界」と言うなら…

最低賃金の引き上げを巡り、世界で判断が分かれている」と言うが、基本的には「米英」と日本の比較で、あとは中国、韓国に少し触れたぐらいだ。これだけで「世界で判断が分かれている」と言われても納得できない。


(2)「判断が分かれている」?

引き上げ派と引き下げ派に世界が二分されているのならば「世界で判断が分かれている」でいいだろう。引き上げ派と据え置き派でもいい。しかし「6%」と「3%」ならば、いずれも引き上げ派だ。日本は「3%」より「小幅になる可能性がある」としても、方向性は「米英」と大して変わらない。


※今回取り上げた記事「最低賃金上げ、判断二分~大幅の米英、解雇で雇用を調整 日本小幅か、賃金抑え雇用維持
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200520&ng=DGKKZO59288240Z10C20A5EE8000

※記事の評価はD(問題あり)

2020年5月19日火曜日

「長期・分散」には積み立て投資が有用と週刊ダイヤモンドは言うが…

投資手法としてドルコスト平均法(定額積み立て)は不利でもないが有利でもないと見ている。細かく言えば、わずかに不利か。しかし、この投資手法を薦める記事は後を絶たない。週刊ダイヤモンド5月23日号に載った「コロナ相場に負けない 新・賢者の資産運用術~非課税制度を最大限に生かしたい 長期・分散・積み立て投資で『じぶん年金』づくりへ!」という記事もその1つだ。
田主丸グリーンセンター(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

一部を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

三つ目のポイントとなるのが、分散投資を長期的に行っていく際、毎月定額で買い付ける「積み立て」の方法が適していることだ。これこそが、コロナ相場の難局を乗り切る上で重要なポイントでもある。

下図は、日本つみたて投資協会の太田創代表理事が、自らの口座で行う投資信託の積み立て投資の状況を示したものだ。

これを見ると分かりやすいように、積み立て投資では同じ金額で買い続けるため、相場が上がったときは購入口数が少なくなる一方、下がったときは多めに買える。

1年程度では相場のぶれも大きいが、5年や10年単位の長期で国際分散投資をすれば、最終的には相場が上向き、運用益の実現が期待できる。よって短期的な相場下落は、むしろ購入口数を増やせるチャンスと捉えられるのだ。

年3%という運用収益率が実現できた場合、30代で毎月4万円、40代で毎月5万円、50代で毎月6万円ずつ積み立て投資を行うと、60歳の時点で2800万円もの資産を築くことができる。


◎長期・分散を目指すならば…

1年程度では相場のぶれも大きいが、5年や10年単位の長期」であれば報われるとしよう。この場合、投資に充てられる全額をすぐに投じる方が合理的だ。「毎月定額で買い付ける『積み立て』」だと、一部の資金は「短期」投資になってしまう。

投資に充てるべき金額を1000万円と考えていて、手元に100万円の余裕資金があるならば、まず100万円を投じる。その後は資金が手元に入ってきたのと同時に「同じ金額」などにはこだわらず「買い付ける」べきだ。

分散」についても「毎月定額で買い付ける『積み立て』」は好ましくない。例えば、先進国株に投資する投資信託を「毎月定額で買い付ける」としよう。そうすると投資対象は先進国株に偏ってしまう。

投信を3つ、4つと増やして、それぞれを「毎月定額で買い付ける」ようにすれば「分散」の度合いは高まる。しかし、それは「積み立て」がもたらしたものではない。

一括投資でも同様の「分散」はできる。「積み立て」の方が「分散」させやすいという訳でもない。

積み立て」だと高値づかみのリスクは確かに減らせる。一方で、安値で一気に買う機会は放棄している。「投資のタイミングに関して後悔しにくい手法」だとは思う。大きなデメリットもない。だから、やりたい人がいれば止めはしない。

しかし「分散投資を長期的に行っていく際、毎月定額で買い付ける『積み立て』の方法が適している」「これこそが、コロナ相場の難局を乗り切る上で重要なポイントでもある」と言われると「違うのでは?」と返したくなる。



※今回取り上げた記事「コロナ相場に負けない 新・賢者の資産運用術~非課税制度を最大限に生かしたい 長期・分散・積み立て投資で『じぶん年金』づくりへ!
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29413


※記事の評価はC(平均的)

2020年5月18日月曜日

日経「対話アプリ通じ中国へ越境EC クロスシーが支援」は要らないベタ記事

これからの新聞に基本的にベタ記事は要らないと考えている。しっかり書き込むか全く触れないか。その二者択一でいい。18日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「対話アプリ通じ中国へ越境EC クロスシーが支援」というベタ記事は典型的な「要らない記事」だ。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

全文は以下の通り。

【日経の記事】

中華圏向けマーケティング会社のクロスシー(東京・台東)は、日本企業向けに越境電子商取引(EC)を支援する新サービスを始める。中国IT(情報技術)大手、騰訊控股(テンセント)の対話アプリを活用。日本企業が費用や手間を抑えて出品できるようにする。訪日外国人(インバウンド)が急減する中、ネット経由で日本の商品を中国の消費者に手軽に販売できるようにする。


◎これだけでは…

まず「新サービスを始める」時期が不明。日経の企業関連記事にありがちな欠陥で、基礎的な技術を身に付けていない記者が書いていると推測できる。

クロスシー」の件を記事にするならば、伝えるべきだと思える点がいくつもある。列挙してみよう。

(1)新規性は?

クロスシー」の「新サービス」は何が新しいのか。「日本企業向けに越境電子商取引(EC)を支援する」のは「クロスシー」が初めてなのか。ありふれた「サービス」だとすれば「騰訊控股(テンセント)の対話アプリを活用」するのが画期的なのか。記事からは全く判断できない。


(2)「費用や手間を抑え」られる理由は?

クロスシー」の「新サービス」を利用すると「費用や手間を抑えて出品できるように」なるらしい。だが、どういう仕組みなのか謎だ。「騰訊控股(テンセント)の対話アプリ」が関係していそうな感じもあるが、何とも言えない。


(3)どの程度「抑え」られる?

費用や手間を抑えて出品できるようにする」らしいが、どの程度「抑え」られるのか触れていない。ここは重要だ。


(4)他にも入れたいことが…

新サービス」ではどういう形で顧客からカネを取るのか。「クロスシー」は「新サービス」でどの程度の売り上げを見込んでいるのか。こうした情報もあった方がいい。

「ベタ記事にそんなに色々盛り込めるわけないだろ」と記者は反論したくなるかもしれない。確かに入るはずがない。そこで最初の話に戻る。しっかり書き込むかゼロかでいい。

今回のようなベタ記事は紙面には要らない。やはり、これが結論だ。


※今回取り上げた記事「対話アプリ通じ中国へ越境EC クロスシーが支援
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200518&ng=DGKKZO59218810X10C20A5TJC000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年5月16日土曜日

「スカイマーク佐山会長」のダメさを上手く伝えた日経ビジネス東昌樹編集長

日経ビジネス5月18日号の「編集長インタビュー『あるはずない』が起きた スカイマーク佐山会長」という記事は面白かった。「スカイマーク佐山会長」はテレビでM&Aの解説などをしていた切れ者という印象がある。しかし、今回の記事を読むと、かなりガッカリな感じだ。東昌樹編集長も取材を通して似たようなな印象を持ち、それを読者に伝えようとしたのだろう。

練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
まずは記事の最後に付けた「傍白」の前半部分を見ていく。

【日経ビジネスの記事】

口は災いのもととも言います。新型コロナウイルスが航空需要に影響を与え始めたころから、「(資金的な余力で)一番余裕があるのはスカイマーク」との発言を繰り返してこられました。今回、3月末までに保有していた現預金をほぼ使い果たしたことを認めたうえで、「発言は社員を安心させるためだった」と説明されました。

しかし、発言と現実に起こったこととの違いは社員の不安を増幅しかねません。危機に経営を率いるトップとしては軽率でした



◎「軽率」と書ける勇気

編集長インタビュー」に出てくれた佐山展生氏を「危機に経営を率いるトップとしては軽率でした」とバッサリ斬っている。失礼と紙一重の書き方であり、批判をためらわないタイプの自分でもできそうにない。

それができる東編集長はやはり凄い。日本経済新聞は取材先と仲良くなってネタをもらってくる記者を「優れた記者」と見なすメディアだ。批判精神が旺盛だと生きにくい。しかし東編集長は日経の中で日の当たる道を歩み、日経ビジネスの編集長にもなっている。バランス感覚が絶妙なのだろう。

そして必要と感じれば「危機に経営を率いるトップとしては軽率でした」とも書ける。日経に戻ったら、さらに出世して会社を良い方向へ変えてほしい。

話が逸れたが、インタビューの中で「スカイマーク佐山会長」のダメな感じが出ている部分も見ておこう。


【日経ビジネスの記事】

--3月末に約120億円だった現預金は4月末で10億円か20億円くらいまで減っているのではないかと思うのですが。

それ以上に減っていると。

--10億円を切るぐらいですか。

10億円を切ることはないと思いますけどね。ただ、そこはあまり関係ないです。そんなぎりぎりになるまで借り入れを実行しないなんてことはなく、事前に調達しますから。

--実際には、4月末ぎりぎりに融資枠の半分ほどを借り入れたと聞いています。

どこまで既に融資を実行したかは現場に確認してみないと分かりません。


◎あえての細かいやり取り?

現預金は4月末で10億円か20億円くらいまで減っているのではないかと思うのですが」との質問に対し「それ以上に減っていると」と返ってきたら「10億円を切る」ところまで来ていると理解するのが自然だ。

しかし「10億円を切るぐらいですか」との質問に「10億円を切ることはないと思いますけどね」と答えている。辻褄が合っていない。そして最後には「現場に確認してみないと分かりません」となってしまう。

この細かいやり取りを選んで載せたのは、ここが「スカイマーク佐山会長」のダメなところをよく表していると東編集長が感じたからだろう。インタビュー全体を通して「スカイマーク佐山会長」は苦しい弁明が目立つ。

「今回の編集長インタビューでは佐山氏のダメな部分を読者に知ってほしい」という狙いが東編集長にあるのならば成功している。

予定調和的なインタビュー記事はつまらない。今回はその対極だった。



※今回取り上げた記事「編集長インタビュー『あるはずない』が起きた スカイマーク佐山会長
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00119/00074/


※記事の評価はB(優れている)。東編集長への評価はB(優れている)を据え置く。東編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

コメントの主は誰? 日経ビジネス 東昌樹編集長に注文
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_16.html

「中間価格帯は捨てる」で日経ビジネス東昌樹編集長に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_87.html

「怪物ゴーン生んだ」メディアの責任に触れた日経ビジネス東昌樹編集長に期待
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_3.html

詰め込み過ぎが惜しい日経ビジネス東昌樹編集長の「傍白」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_17.html

絶賛に値する日経ビジネス東昌樹編集長の「編集長の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_23.html

2020年5月15日金曜日

「アクティブ投信」を薦める楽天証券経済研究所の篠田尚子氏を信じるな!

自分はインデックス投資絶対主義者ではない。だが「アクティブ投信」を前向きに紹介する記事で「なるほど」と感じた記憶がない。週刊エコノミスト5月19日号に楽天証券経済研究所ファンドアナリストの篠田尚子氏が書いた「アクティブ投信~eスポーツでコロナの影響回避 “代替資産”の金に投資も」という記事も例外ではない。
藤波ダム(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【エコノミストの記事】

アクティブファンドの中には、むしろ、市場平均と比べてリスクを低く抑えることに重きを置いた商品も存在する。今回の波乱相場により、精神衛生上、保有する全ファンドが含み損を抱えているような状態が心もとないということであれば、低リスク型のファンドも併せて保有することをおすすめしたい

一覧にある「バランス型」の商品はいずれも、市場環境に応じて、柔軟に資産配分を調整し、リスクコントロールを図る点に最大の特徴がある。

例えば、年率4%の目標リスク水準を掲げて運用するアセットマネジメントOneの「投資のソムリエ」は、2月25日の時点でリスク性資産の配分比率を引き下げる「警戒局面」と判断し、結果的に大きな基準価額の下落を回避できた。より保守的な運用を行う商品としては、「ピクテ・マルチアセット・アロケーション・ファンド」も良いだろう。運用を担うピクテ投信投資顧問は、同ファンドを「欲張らない投資」のための商品と位置付け、インフレに負けない2〜3%程度のリターンの水準を実現してきた。



◎コストとの兼ね合いは?

篠田氏は金融業界に属しているので、投資家の利益よりも業界の利益を最大化する方向へ話を進めるのが当たり前だ。それを非難するつもりはない。ただ、騙されてはいけない。

アクティブ投信」がなぜダメなのかと言えば高コストだからだ。高コストを正当化できれば問題はない。しかし上記の説明ではそもそもコストに触れていない。

記事に付けた表によると「投資のソムリエ」の信託報酬は1.54%(税込み)。「ピクテ・マルチアセット・アロケーション・ファンド」に至っては2.0%。ゼロに近い水準まで下がってきているインデックス投信ではなく、なぜあえて高コストの「アクティブ投信」を選ぶのか。合理的に説明するのはかなり困難だ。篠田氏も分かっているのだろう。だから、あえてそこに踏み込まないのではないか。

篠田氏が「アクティブ投信」を薦めるのは以下のような理由だ。

【エコノミストの記事】

海外株式については、既に先進国株式や米国株式のインデックスファンドを保有している場合は無理に追加しなくてもよい。ただし、日本株については、TOPIXや日経平均株価のインデックスファンドを保有し続けても、長期的に大きな経済成長(≒リターン)を期待しづらいため、アクティブファンドへの投資も検討した方がよいだろう。



◎なぜ日本株を持つべき?

先進国株式や米国株式」(米国株も先進国株だが…)は「長期的に大きな経済成長(≒リターン)を期待」できるが「日本株」では「期待しづらい」としよう。単純化のため「先進国株式や米国株式」も「日本株」もリスクは同レベルとする。

この場合、何のために「日本株」を持つのかとの問題が生じる。世界の株式の中で圧倒的な存在感があるのならば、分散の観点から持たざるを得ないだろう。しかし、そういう存在ではない。

明らかに期待リターンで劣るのならば外していいのではないか。普通の個人投資家で、リスクに対して明らかに低いリターンしか期待できないものを投資対象にする必要はない。

日本株」の中でも高リターンを実現する銘柄を集めて「アクティブファンド」を作れば、「先進国株式や米国株式」に負けないと篠田氏は言いたいのだろう。

確かに可能性はある。しかし市場平均を高い確率で上回る「アクティブファンド」を事前に見つけるのは至難だ。そこに労力を割いても、ほとんどの人にとっては意味がない。それなら「日本株」を外す方が早くて確実だ。「先進国株式や米国株式」に比べて「長期的に大きな経済成長(≒リターン)を期待しづらい」と分かっているのだから(本当にそうかなとは思うが…)。



※今回取り上げた記事「アクティブ投信~eスポーツでコロナの影響回避 “代替資産”の金に投資も
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200519/se1/00m/020/004000c


※記事の評価はD(問題あり)。篠田尚子氏への評価も暫定でDとする。

2020年5月13日水曜日

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答

4月26日に日経ビジネスに送った間違い指摘に対して、ようやく回答が届いた。同月30日に「この度お問い合わせいただきました内容について編集部担当者へ確認中でございます。回答が届き次第ご連絡いたします」と途中経過を知らせる連絡があったものの、そこからが長かった。「ひょっとすると…」と思ったが、回答が届いたことに安堵した。
筑後川の二千年橋(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

東昌樹編集長が率いる同誌は「日経グループの希望」とも言える存在だと思っている。記事内容の間違いはあるのが当然だ。ミスを責めるつもりもない。ただ、正していけばいいだけだ。

話が逸れた。問い合わせと回答を続けて見てほしい。「立命館アジア太平洋大学の出口治明学長」のインタビュー記事で「学長」が自分の大学に関して誤った説明をし、それを確認せずに記事にしてしまったという話のようだ。


【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス編集部 奥平力様

4月27日号に載った「スペシャルリポート~島根県雲南市で始まる地方創生の新潮流 都会の若者に『事業創造の場』を提供」という記事の中の「立命館アジア太平洋大学の出口治明学長に聞く~地方創生、面白い場所には人が集まる」という関連インタビュー記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

立命館アジア太平洋大学の学生数は約6000人ですが、日本人と外国人の割合は約半々です。そして、日本人学生の内訳を見ると、地元である九州出身者は3分の1にとどまります。残り3分の2はほとんど東京や大阪から集めています

これを信じれば「立命館アジア太平洋大学」に在籍する「日本人学生」の60%超は「東京や大阪」の出身のはずです。

同大のホームページによると2019年5月1日時点の「日本人学生」は2893人で九州・沖縄出身者が占める比率は34.8%となっており「九州出身者は3分の1」とは言えます。

一方、「東京や大阪」の出身者は518人で18%に過ぎません。関東と近畿を合わせても40%程度です。「残り3分の2はほとんど東京や大阪から集めています」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も教えてください。

取材時に「残り3分の2はほとんど東京や大阪から集めています」と出口氏は説明したのかもしれません。ただ、大学のホームページで確認できる情報であれば、編集部に責任があると思えます。

せっかくの機会なので、本文中の「人口が再生産されない東京」という説明にも意見を述べさせていただきます。

記事中の表でも「東京では人口が再生産されない」とのタイトルを付けています。「人口が再生産される=他地域からの流入に頼らず人口を維持できるだけの出生率を保つ」との前提で考えると1.20の東京は確かに「人口が再生産され」ていません。しかし、それは全ての都道府県に当てはまります。表にある1位の沖縄でも出生率は1.89です。人口を「再生産」するためには2を若干上回る出生率が必要です。

東京では人口が再生産されない」とすると「他の道府県では再生産されている」との印象を与えるのではありませんか。そこが引っかかりました。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが「立命館アジア太平洋大学」の件は回答をお願いします。


【日経ビジネスの回答】

出口治明学長に確認したところ、ご指摘の通り「残り3分の2はほとんど東京や大阪から集めています」という発言部分は、正しくは「残り3分の2はほとんど東京や大阪など全国から集めています」でした。5月25日号において訂正させていただきます。

このような間違いが起きた以上、インタビュー記事における事実確認の工程などに改良余地があることは否めません。仕事の進め方を今一度見直し、より正確な報道ができる体制づくりを心掛けてまいります。

今後とも日経ビジネスをよろしくお願いします。


◇   ◇   ◇

より正確な報道」でなくてもいい。今ぐらいで十分だ。しかし間違いがあれば正す姿勢はなくしてほしくない。今回、回答に時間がかかったのは「出口治明学長」がなかなか誤りを認めなかったのではないかと疑っている。誤解だといいのだが…。


※今回取り上げた記事「スペシャルリポート~島根県雲南市で始まる地方創生の新潮流 都会の若者に『事業創造の場』を提供
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00100/?P=1


※記事の評価は見送る

2020年5月11日月曜日

「コロナ後にドラッグストアは『安売り』しないかも」に説得力欠く森山真二氏

週刊ダイヤモンド5月16日号に森山真二氏が書いた「ダイヤモンド・オンライン発~コロナ後にドラッグストアはもう『安売り』をしないかもしれない理由」という記事は説得力に欠けた。その理由を記事にツッコミを入れながら解説したい。
筑後川の小森野橋(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

コロナ後に急速に再編が進みそうなのが、ドラッグストア業界だ。「ドラッグストアって、今はマスクとトイレットペーパーで潤っているんじゃないの」と思われる方も多いだろう。事実、コロナの影響でマスクを買い求めるお客や外出自粛で食品などを買うといったこともあり「今まで(ドラッグストアに)来ていなかった消費者が結構、来ている」(ウエルシアホールディングス〈HD〉の池野隆光会長)という。

その一方で、実は大手の寡占化が進み始めており、「生き残り」を懸けた再編の火種はくすぶっている。


◎「大手の寡占化」?

まず「大手の寡占化」が引っかかる。「大手による寡占化」ではなく「大手の寡占化」だ。中小の「ドラッグストア」はたくさんあるということか。だとすると市場の「寡占化」はあまり進んでいないことになる。その前提で考えていこう。

【ダイヤモンドの記事】

今年10月、マツモトキヨシHDがココカラファインと経営統合して業界トップに躍り出る。これを追う格好でツルハHDやウエルシアHD、さらにコスモス薬品が大量出店やM&A(企業の合併・買収)合戦を繰り広げている。大手の中でもコスモス薬品以外は中堅、中小のドラッグストアチェーンを傘下に入れ規模を膨らませており、コロナ後はこうした動きが加速するのは確かだろう


◎「コロナ」との関係は?

今回の記事は「コロナ後にドラッグストアはもう『安売り』をしないかもしれない理由」がテーマだ。「コロナ」がどう関係するかの説明は欲しい。しかし「大手の中でもコスモス薬品以外は中堅、中小のドラッグストアチェーンを傘下に入れ規模を膨らませており、コロナ後はこうした動きが加速するのは確かだろう」と書いているだけだ。これでは苦しい。

さらに続きを見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

ドラッグストアの業界規模は7兆2744億円(2018年度)だから大手は当面、マツキヨHD・ココカラファイン連合の売上高1兆円を目指していく。仮に市場は上位3社に集約されるとして、1社当たりの売上高は2兆5000億円程度、少なくても2兆円の規模が最終目標になるだろう。

現在、大手のウエルシアHDが同8682億円、ツルハHDが8200億円(20年5月期見通し)、だから、この2社が組めば圧倒的なトップに躍り出て、マツキヨHD・ココカラ連合を圧倒的に上回ることができるし、中堅、中小のドラッグストアは、さらに大手の傘下入りを決断せざるを得ない、いわば業界再編の最終局面にあるといっていい


◎本当に「最終局面」?

多数の「中堅、中小のドラッグストア」があるのに「業界再編の最終局面」なのか。「上位3社に集約される」ところまであと一歩なのか。

さて、ここからが本題だ。

【ダイヤモンドの記事】

コロナ後に再編が加速し、上位3社に集約されたら、今でこそ「価格が安い」というイメージがあるドラッグストアの価格帯も変わりそうだ。

これについては、総合スーパー(GMS)の前例がある。GMSはかつて“安売り王”がごろごろいた。ダイエーしかり、ジャスコ(現イオン)しかり、西友などもそうだった。しかし、大規模小売店舗法という出店を規制する法律が敷かれ、競争がなくなり規模が拡大した途端、価格硬直性が生まれた


◎いつの話?

価格硬直性が生まれた」時期を明示していないのが困る。「大規模小売店舗法」の施行が1974年らしいので、その頃に「競争がなくなり」そして「価格硬直性が生まれた」との趣旨か。個人的な印象では、80年代以降も「GMS」は「競争」をしていた気がする。

さらに見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

「スーパーは安くない」といわれ、ユニクロやディスカウント店の台頭を許した。本部が巨大化し、規模の利益を商品の質や価格に生かせなかったからだ。

今は価格競争バリバリのドラッグストア業界もコロナ後に集約が進み、競争がなくなれば、巨大化した本部を維持するためのコストが大きくなり、「低価格路線」を維持することはできなくなるだろう

小売りの再編、集約が進んだその先に待っているのは価格が硬直化した、決して安くはない、非常に暮らしにくい世界の到来かそう遠くないうちに答えは出る。


◎消費者の目で見ると…

大手の「ドラッグストア」で個人的によく利用するのが「コスモス薬品」だ。食品を中心に「低価格路線」を採っている。しかし消費者としては食品を買う時に「ドラッグストア」だけ見ている訳ではない。スーパーやディスカウントストアも「コスモス薬品」のライバルだ。

コスモス薬品」が「低価格路線」を維持するかどうかを「ドラッグストア」の中だけで考えても意味がない。「ドラッグストア」は元々の取扱商品である医薬品に関して基本的に「低価格路線」を採用していないので、なおさらだ。

ドラッグストア」以外も含めて分析しないと「答え」は出ない。


※今回取り上げた記事「ダイヤモンド・オンライン発~コロナ後にドラッグストアはもう『安売り』をしないかもしれない理由
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29341


※記事の評価はD(問題あり)。森山真二氏への評価も暫定でDとする。

2020年5月9日土曜日

週刊ダイヤモンドへの寄稿が秀逸! みずほ証券の楠木秀憲氏

久しぶりに「この人は凄い」と感じる書き手を見つけた。みずほ証券シニアアナリストの楠木秀憲氏だ。「2014年京都大学経済学部卒業」なのでかなり若いが、分析は鋭いし、調査対象企業に対して遠慮がない。週刊ダイヤモンド5月16日号に載った「気鋭アナリストが緊急提言~商社は『中途半端な投資会社』から脱却せよ」という記事は説得力も十分だ。
法林寺(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

楠木氏らしさが出ていると感じた部分を少し見てほしい。

【ダイヤモンドの記事】

こういう話をするとよく「年間数千億円の利益を出している会社が良い会社じゃないというのか」と反論されるが、これは最もよくいわれ、かつ最も的外れな考えだと私は思う

確かに、19年3月期に商社の多くが過去最高益を更新し、商社は業界として成長を続けているように見える。しかし、例えば純利益10億円の会社を1000社合併して1兆円の会社をつくったら、それが日本最高の会社になるのかというと、そうではないはずだ。

何が言いたいかというと、大切なのは利益の絶対額ではなく、資本効率なのだ。なぜなら、株主資本というリスクマネーは社会において限られたリソースであり、経営者はその限られたリソースを使って社会に付加価値を提供する(利益を生む)ことが使命だからである。

単に買収を繰り返し利益の絶対額を増やしてもそれは付加価値を生んでいることにはならないし、当然資本効率は上がらない。われわれはこのような投資を「利益の積み増し」と呼んでいる。別の言い方をすると、本当に社会に付加価値を生んでいるかどうかは、利益の絶対額ではなく資本効率を見ないと分からない。


◎ここまでスパッと斬れる理由

最もよくいわれ、かつ最も的外れな考えだと私は思う」。砕いて言えば「まるで分かってない奴ばかりだ」ということだ。ここまでスパッと斬れるのは、自分の主張に強い自信があるからだろう。自信はあればいい訳ではない。記事の書き手としては「持つと危険」なものでもある。しかし楠木氏の自信は実力に裏打ちされている。その言い分に触れると「なるほど」と思ってしまう。

株主還元に関しても、自分に近い考え方の持ち主だと思えた。そこも見ておこう。


【ダイヤモンドの記事】

ところで少し話はそれるが、日本でよく聞く誤解が他にもあると思うので指摘しておきたい。それは「株主還元は株主への感謝の気持ち」という考えである。

株主還元とは、株式会社が配当や自己株式取得といった形で株主に資金を還流する行為を指す。そう考えると「株主還元は株主への感謝の気持ち」というのは一見その通りに思えるが、実は資本の論理からすると大きな間違いである。

株主還元の最大にして唯一の目的は、余剰資金の回収によるリスクマネーの再投資である。市場の成熟や競争優位性の低下により成長投資機会を失った会社から資金を回収し、リスクマネーを必要とする新興企業や成長業界に再投資すること、それによって社会において限られたリソースであるリスクマネーを最適分配し、社会としての成長の極大化を目指すこと。これこそが金融の役割なのである。

よく「利益成長を通じた株主還元の拡充を目指す」という方針を掲げている会社を見掛けるが、実はこれは矛盾している。投資家にとって一番望ましいのは、米アマゾン・ドット・コムのように株主還元など一切せず、ひたすら成長投資をし、そして実際に成長してくれることだ

投資家は、会社が成長するから株主還元を求めるのではない。成長を期待していないから、あるいは成長投資をするべきではないと考えているから、株主還元を求めるのだ。「成長」と「株主還元」は相反する概念なのだ。もちろん実際にはバランスの問題があるので、米エヌビディアや米グーグルのように圧倒的な成長を実現しながらも株主還元を行う会社もありはするが。


◎まさにその通り!

「配当が多い会社は株主に優しい会社」的な発想は間違いだと自分も思う。だが、株主還元に積極的なことを是とする記事は絶えない。「投資家にとって一番望ましいのは、米アマゾン・ドット・コムのように株主還元など一切せず、ひたすら成長投資をし、そして実際に成長してくれることだ」という楠木氏の解説は、その通りだと感じる。

本題の商社分析に関してここでは触れなかったが、それも見事だ。株式投資(特に大手商社株投資)に関心がある人には、ぜひ読んでほしい記事と言える。



※今回取り上げた記事「気鋭アナリストが緊急提言~商社は『中途半端な投資会社』から脱却せよ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29348


※記事の評価はA(非常に優れている)。楠木秀憲氏への評価も暫定でAとする。

2020年5月7日木曜日

見出しが引っかかった日経夕刊の3本の記事

大型連休明けとなる7日の日本経済新聞夕刊。見出しで気になるところがいくつかあったので、まとめて取り上げたい。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

まずは1面トップの「独、経済再開へ大幅緩和~コロナ規制 大型店営業など 新規感染 減少続く」という記事。「大幅緩和」に釣られて読んでみると、筆者の石川潤記者は「ドイツ政府は6日、国内の全商店の営業やプロサッカー『ブンデスリーガ』の再開などを認める経済規制の緩和策を発表した」などと書いているだけで「大幅」という表現は用いていない。

大型店営」と「『ブンデスリーガ』の再開」が「緩和策」の目玉のようだが、「ブンデスリーガ」に関しては「無観客」。これで「大幅緩和」は少し苦しい気もする。

次は総合面の「コロナ薬の開発反対か、米厚生長官 内部告発で判明」という記事。「アザー米厚生長官が1月ごろに新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの開発支援に反対していたことが6日までに分かった」と中村亮記者は書いている。「反対していた」のは「コロナ薬の開発」ではなく「新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの開発支援」だ。「開発」そのものに反対していたとは言えない。「開発」の「支援」に反対していただけとなる。

見出しだけみると、製薬会社の「開発」の動きに待ったをかけたような印象を受ける。見出しは文字数の制限が強いので、正確さを求めすぎるのは酷ではあるが、少し気になった。

「この見出しはかなり違うのでは?」と思えたのが、同じ総合面の「検査体制の強化、首相『あらゆる手法で』」というベタ記事。全文は以下の通り。

【日経の記事】

安倍晋三首相は6日のインターネット番組で、新型コロナウイルス感染症の検査体制の強化に意欲を示した。『あらゆる手法を使って(感染の)実態を把握したい』と述べた。感染の有無を確認するPCR検査は「保健所の業務過多や検体採取の体制に課題があるのは事実だ。早急に強化していく」と話した。


◎ズレているような…

安倍晋三首相」のうち、「あらゆる手法」は「(感染の)実態を把握」することに関してだ。一方、「検査体制の強化」については「早急に強化していく」とは述べているものの「あらゆる手法で」とは読み取れない。「インターネット番組」を実際に見れば見出しの通りという可能性はあるが、記事で使った発言だけから「検査体制の強化、首相『あらゆる手法で』」と見出しを取るのは少し無理がある。


※今回取り上げた記事

独、経済再開へ大幅緩和~コロナ規制 大型店営業など 新規感染 減少続く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200507&ng=DGKKZO58795930X00C20A5MM0000

コロナ薬の開発反対か、米厚生長官 内部告発で判明
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200507&ng=DGKKZO58796730X00C20A5EAF000

検査体制の強化、首相『あらゆる手法で』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200507&ng=DGKKZO58798910X00C20A5EAF000


※記事の評価は見送る

2020年5月5日火曜日

韓台の「スマホ監視」を日経 青木慎一科学技術部長は称賛するが…

日本経済新聞の青木慎一科学技術部長が5日の朝刊1面に書いた「アナログ行政、遠のく出口」という記事について思うところを述べてみたい。まずは前半部分を見ていこう。
桜と菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】 

新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が5月31日まで延長されることが決まった。感染拡大を抑えるにはやむをえないが、検査の拡充や医療体制の強化など経済再開に不可欠な対策が一向に進んでいない。硬直的な行政システムに問題がある。ITや民間活力の導入という21世紀の世界標準から取り残されてしまったままでは、ウイルスとの闘いに勝つことは難しい。

いち早く感染を封じ込めた台湾と韓国。成功の要因には、ビッグデータやスマートフォンの積極活用がある。台湾は公的保険や出入境管理などの記録を結びつけ、感染リスクがある人を素早く発見し、スマホで健康状態を監視した。韓国は人工知能(AI)などを活用し、検査の大幅な拡大につなげた。濃厚接触者の発見や監視などもスマホを活用する。こうした取り組みは出口戦略でも大きな武器になっている。

一方、日本の対策はアナログだ。保健所の職員などが電話で患者を聞き取り、感染経路を調べる。初めのころは機能したが、感染者が急増すると追えなくなってきた。検査についても1日2万件の目標にはほど遠い状況なのに、民間の受託検査機関の能力を生かせていない



◎監視されるくらいなら…

個人的には新型コロナウイルスをあまり恐れていない。「いつか自分も感染するだろうな。その時に重症化しないように健康には気を付けておかないと」ぐらいの認識だ。なので、厳しい感染防止策は望んでいない。

その立場から言えば「スマホで健康状態を監視」「濃厚接触者の発見や監視などもスマホを活用」といった話を聞くと「台湾と韓国」ではなく「日本」に住んでいて良かったと感じる。

「何よりも感染防止が重要」という考えを否定するつもりはない。ただ、個人への「監視」が行き届いている点を手放しに評価されると少し怖くなる。

ついでに1つツッコミを入れたい。「民間の受託検査機関の能力を生かせていない」のは「日本の対策はアナログ」だと言える事例の1つなのか。「アナログ」とかデジタルの問題ではない気がする。

記事の後半にも気になる部分があった。

【日経の記事】

スピード感に欠く対応は霞が関の縦割り行政に問題がある。感染症対策は厚生労働省がほぼ一手に担い、他省庁は関与しない

強い権限をもった行政システムが20世紀の日本の成長を支えたが、その成功体験が21世紀モデルへの転換を阻んだ。オンラインによる診療や教育に出遅れたのも、20世紀型の行政から抜けきれなかったからだ。その足元を新型ウイルスに突かれた。このまま出口への戦略が見えないままでは、経済が活力を取り戻すのも難しくなる。



◎「縦割り」の問題ある?

縦割り行政」が問題なのは「類似した行政が別々の機関で行われ、手続きが二度手間になったり、行政機関同士の綱引きで行政事務が変更になったりする弊害が生まれている」(百科事典マイペディア)からだ。

しかし「感染症対策は厚生労働省がほぼ一手に担い、他省庁は関与しない」のであれば「縦割り行政」の問題は感じられない。「行政機関同士の綱引き」も起きていないはずだ。

強い権限をもった行政システムが20世紀の日本の成長を支えたが、その成功体験が21世紀モデルへの転換を阻んだ」との解説も納得できない。「行政システム」が今も「強い権限をもった」ままならば「感染症対策」を強力に推し進められたはずだ。

オンラインによる診療や教育」に関しても、多少「出遅れた」としても「強い権限」を用いて一気に挽回できそうだ。この辺りは青木部長の認識に問題があるのか、説明が不十分なのか分からないが「なるほど」と思える内容ではない。

最後に1つ。「強い権限をもった」の「もった」は「持った」と漢字表記してほしい。平仮名表記のメリットはないはずだ。



※今回取り上げた記事「アナログ行政、遠のく出口
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200505&ng=DGKKZO58781700U0A500C2MM8000


※記事の評価はC(平均的)。青木慎一科学技術部長への評価も暫定でCとする。

2020年5月4日月曜日

融資を「ヘリマネ」と誤解した日経 滝田洋一編集委員の「核心」

日本経済新聞の滝田洋一編集委員が書く記事は何かと問題が多い。4日の朝刊オピニオン面に載った「核心~コロナ禍に舞うヘリマネ」という記事もそうだ。テーマの「ヘリマネ」を滝田編集委員が正しく理解しているとは思えない。
大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

まず「ヘリマネ」とは何かを考えたい。様々な見解があるだろうが、ここでは「究極の経済政策? 『ヘリコプターマネー』とは」という日経の記事(2016年7月15日付)の以下の説明を基にしたい。

ヘリマネ政策とは、中央銀行が生み出した返済する必要のないお金を、政府が国民に配る政策だ。国が元利払いの必要がない債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく

そして滝田編集委員は以下のように説明している。

【日経の記事】

自宅待機や営業の停止。各国の政府は経済にブレーキを踏む行動規制を課す一方で、経済の底割れを必死で食い止めようとしている。先進国では財政・金融が一体となり、経済学の大御所ミルトン・フリードマンのいうヘリコプターマネー政策をとる

中央銀行がお札を刷り、政府が企業や家計に配る。米政府と米連邦準備理事会(FRB)は行動に移している。FRB自身も連銀法13条3項という伝家の宝刀を抜き、企業へ直接融資に踏み切った


◎融資ならば…

ヘリマネ」の具体例として「FRB自身も連銀法13条3項という伝家の宝刀を抜き、企業へ直接融資に踏み切った」と書いている。これは明らかに「ヘリマネ」ではない。「融資」ならば返済の必要がある。

ヘリコプター」から「お札」をばらまく例えで言えば、「お札」を拾った人に係員が寄って行って「これは返済の必要があるおカネです。受け取りますか」と確認するようなものだ。それを「ヘリコプターマネー政策」と呼べるのか。少し考えれば分かるはずだ。

では「融資」でなければ、どうか。日本の1人10万円給付は「ヘリマネ」なのか。少なくとも現時点では「国が元利払いの必要がない債券(無利子永久債)などを中央銀行に渡し、引き換えに受け取ったお金を商品券などの形で国民にばらまく」形にはなっていない。

記事では他にも気になる説明があった。


【日経の記事】

米政府と議会は総額3兆ドル規模の経済対策を打ち出し、FRBの総資産は6.5兆ドルまで膨らんだ。ヘリマネ政策が功を奏するなら膨大なマネーはどこに向かうだろうか。

現金以外にも運用先を探す動きが起こるだろう。毎年一定の利回りを得ようとするなら、まずは先進国の国債となるが、今や日本やドイツなどでは利回りはマイナスだ。

米国でさえ国債の利回りは著しく低い。金(ゴールド)という安全資産はあるものの、それ自身は価値の保存手段であり、収益を生まない

「消去法」の末に株式が浮上するかもしれない。コロナ禍で潜在成長率が低下するなか、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい。それでも米国のS&P500種株価指数を構成する株式の配当利回りは2%台半ば。利回り確保が必要な生命保険会社や年金にとって、株式は運用資金の受け皿になり得る


◎金は「収益を生まない」?

個人的には「金=安全資産」と考える書き手に不安を覚える。だが、珍しい存在ではないので、ここでは問題にしない。気になるのは「金(ゴールド)」は「価値の保存手段であり、収益を生まない」との説明だ。「金(ゴールド)」が大きく値上がりした時に「キャピタルゲイン(値上がり益)」は得られないのか。あるいは「キャピタルゲイン(値上がり益)」は「収益」には入らないのか。これも少し考えれば分かるはずだ。

さらに言えば「株式の配当」と「キャピタルゲイン(値上がり益)」を分けて考えているのも感心しない。こういう解説をする書き手は信用しない方がいい。

キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい」のであれば、「配当利回りは2%台半ば」だとしても、そこからキャピタルロスを差し引く必要がある。そのトータルで見て「運用資金の受け皿になり得る」かどうかを考えるべきだ。

コロナ禍で潜在成長率が低下するなか、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙うのは難しい」との見方にも賛成できない。「潜在成長率」が株価を左右すると仮定しよう。現状で「低下」傾向にあるとしても、それは株価に織り込み済みだ。

今後の株価への影響は市場コンセンサスとの乖離で決まる。予想より「低下」が小幅で済むとか、予想以上に早く大きく上向きそうだといった話になれば「キャピタルゲイン(値上がり益)」が得られる可能性は十分にある。

滝田編集委員は市場への理解が乏しいとは以前から感じていた。今回の記事でも、それを改めて確認できた気がする。


※今回取り上げた記事「核心~コロナ禍に舞うヘリマネ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200504&ng=DGKKZO58726050R00C20A5TCR000

※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_25.html

「TPP11とEUの大連携」を日経 滝田洋一編集委員は「秘策」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/tpp11eu.html

2020年5月1日金曜日

1社でまとめ物とは…日経「ホームセンター、GW対策で休業」

1日の日本経済新聞朝刊企業2面に「ホームセンター、GW対策で休業」というベタ記事が載っている。「ホームセンター各社」の動向を報じる「まとめ物」だ。しかし出てくるのは「LIXILビバ」のみ。これでは「まとめ物」の体を成していない。
広瀬川(仙台市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

ゴールデンウイーク(GW)の来店増を見越しホームセンター各社が休業や時短営業など対策を急いでいる。自治体が要請する営業自粛の対象外で客数が増加する中、GWはさらなる来店が想定されていた。ただ、外出自粛で大掃除など家事に取り組む人は多く、ホームセンターで扱う商品の需要は高まっている。

首都圏を地盤とするホームセンターのLIXILビバは5月2~6日のGW期間中、国内全店舗を休業する。同社は「社会インフラとして営業してきたが、顧客や従業員の安全を優先した」と話す。


◎削った結果だとは思うが…

ホームセンター、GW対策で休業」という見出しを見て「そうなの? ウチの近くの店も休みになるのかな?」と思って記事を読んでみた。自宅近くの店の情報がないからダメだとは言わない。しかし「LIXILビバ」1社の情報だけで「ホームセンター各社が休業や時短営業など対策を急いでいる」と言われても困る。

最低でも3社は欲しい。「休業や時短営業」と書いているのだから「時短営業」の事例も欠かせない。しかし記事はあっさりと終わる。

記者が書いてきた原稿には数社の情報が載っていたのだろう。行数を削ってベタにしたために、成立しない「まとめ物」になった可能性が高い。

載せるなら「まとめ物」としてしっかり載せるべきだ。紙面に余裕がないのならば、記事を完全に引っ込めた方がいい。


※今回取り上げた記事「ホームセンター、GW対策で休業
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200501&ng=DGKKZO58660170Q0A430C2TJ2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)