にじの耳納の里(福岡県うきは市)の猫バス ※写真と本文は無関係です |
【週刊エコノミストへのメール】
週刊エコノミスト編集長 金山隆一様
御誌を定期購読している鹿毛と申します。
2018年1月2・9日合併号の「出口の迷路~金融政策を問う(13)短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに」という記事の中で「含み益」となっているのは「含み損」の誤りではないかとの問い合わせを2017年12月26日にしました。
筆者である野口悠紀雄氏からは「正しくは『含み損』です」「編集部に訂正掲載を依頼します」との回答をいただいています。しかし、12月31日の段階で御誌からの回答は届いていません。
定期購読者から間違い指摘を受け、筆者も誤りを認めているのに、読者への回答はしないとの御誌の姿勢に正しさはあるのでしょうか。
御誌からの回答が最後に届いたのは今年の1月23日でした。その後、金山様が書いた記事に関して「東芝を『総合重機』に含めるのは誤りではないか」との趣旨の問い合わせをして以降、御誌は完全無視の姿勢を貫いています。
今日は2017年最後の日です。そこで、御誌が今年無視した12の問い合わせを改めて送っておきます。こうした指摘を無視するのがメディアとしてあるべき態度なのか、もう一度考えてみてください。
◆問い合わせ~その1
2月28日号の「From Editors」についてお尋ねします。気になったのは以下の記述です。
「計算ミスだけでは到底ありえない巨額の損失が日本を代表する総合重機で頻発している。3件は、三菱重工業が米系企業から受注した大型客船、東芝の原子力米子会社ウェスチングハウスによる米S&Wの買収、三菱重工業と日立製作所の火力発電事業の統合会社が引き継いだ南アフリカの火力発電所の損失だ」
上記の3件のうち、2件目の「東芝の原子力米子会社ウェスチングハウスによる米S&Wの買収」に関しては「日本を代表する総合重機」による「巨額の損失」とは言えないのではありませんか。一般的に「日本を代表する総合重機」としては三菱重工業、IHI、川崎重工業などが挙がります。東芝は「日本を代表する総合電機」だとは思いますが、「総合重機」ではないでしょう。
記事の説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その2
4月4日号の特集「ハウジングプア」についてお尋ねします。33ページに「空き家問題は、地方都市の過疎化した地方都市の話ではなく」との記述があります。これは「空き家問題は、過疎化した地方都市の話ではなく」の誤りではありませんか。
◆問い合わせ~その3
4月18日号の「すごい新素材~セルロースナノファイバー 紙おむつ、化粧品から自動車まで 1兆円市場にらみ量産化へ」という記事についてお尋ねします。筆者でジャーナリストの吉田智氏は記事の中で「日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした」と書いています。
炭素繊維協会のホームページによると、国内の先行企業である東レが「炭素繊維の研究に着手」したのが1961年で、「"トレカ"の商品名でCF商業生産開始」が1971年です。これを基に判断すると「商用化までほぼ10年」です。東レのホームページには「大阪工業技術試験所 進藤昭男博士が炭素繊維を発表。これがPAN系高性能炭素繊維の始まりです(1961年)」との記述もあります。ここから考えても「日本が世界に誇る炭素繊維」の出発点は1961年頃でよいはずです。「商用化までほぼ半世紀」だとすると、商用化の時期は2010年頃になってしまいますが、あり得ません。「日本が世界に誇る炭素繊維は、商用化までにほぼ半世紀を費やした」という記事の説明は誤りだと理解してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その4
6月6日号の特集「お金が増えるフィンテック」についてお尋ねします。「第1部 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす」という記事には「フィンテックは不動産投資の形も変えた。ロードスターキャピタル(東京都中央区)は、これまで個人ができなかった大型不動産への投資を可能にするサービス『オーナーズブック』を運営している」との記述があります。さらに「日本では個人が投資できる不動産は、マンションや『REIT』(不動産投資信託)が中心で、数億円規模以上の大きな投資案件は、機関投資家の独占市場だった」とも説明しています。
しかし、個人はREITを通じて「大型不動産への投資」がこれまでも可能だったのではありませんか。REITは「多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品」(投資信託協会)です。REITが投資対象とする「オフィスビルや商業施設」はほとんどが「数億円規模以上の大きな投資案件」なので、ロードスターキャピタルの登場によって「これまで個人ができなかった大型不動産への投資」が可能になったとは思えません。
「REITの場合、大型不動産を保有しているのは個人ではない。個人による大型不動産への投資はあくまでREITを通した間接的なものだ」との反論はできます。ただ、それはロードスターキャピタルのサービスも同様です。記事にも「集めた資金は、不動産を保有する借入人に、不動産担保ローンとして貸し付け、利息を得る」と書いてあります。
「これまで個人ができなかった大型不動産への投資」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その5
6月27日号の特集「AIで増えるお金と仕事」に出てくる「第1部 マネー編 誰でもAIで“賢い”投資家 ロボアドバイザーが自動で運用」という記事についてお尋ねします。
まずは「金融ベンチャー企業『お金のデザイン』が提供するロボット・アドバイザー(ロボアド)サービス『THEO(テオ)』」のコストについてです。記事では「(テオの)手数料は運用資産の残高に対して1%。ETFの買い付けコストや信託報酬はすべて含まれる」と説明しています。
一方、同社のホームページでFAQを見ると「THEOでの運用にはどのような費用がかかりますか?」との問いに対する答えが「お客さまにご負担いただく費用は、お預かり資産に対して一定の割合で頂く投資一任報酬・購入ETFにかかる諸経費・そして運用資金をご送金頂く際の送金手数料となります」となっています。
さらに「ETFにかかる諸経費とは何ですか?」との問いに対しては「ETFという商品を組成する運用会社にお支払いいただく報酬を指します。ETFで運用を行う際には避けて通ることのできない『経費』です。ETFの値動きの中で自動的に差し引かれて、お客さまに間接的にご負担いただいている費用です」と答えています。
つまり投資家は「運用資産の残高に対して1%(投資一任報酬)」の他に「ETFの信託報酬(購入ETFにかかる諸経費)」を負担していると考えられます。「(テオの)手数料は運用資産の残高に対して1%。ETFの買い付けコストや信託報酬はすべて含まれる」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。
次に「ファンドラップ」についてです。記事では「対象顧客は金融資産を数千万円以上持つ層で、最低投資金額は通常1000万円以上」と解説しています。調べて見ると、ダイワファンドラップや日興ファンドラップは最低投資金額が300万円で、楽ラップ(楽天証券)に至っては10万円のようです。他のメディアでもファンドラップに関して「300万~500万円を最低投資額として申し込みを受け付ける金融機関が多い」(日経)などと紹介しています。
「最低投資金額は通常1000万円以上」との説明は誤りだと思えます。控え目に言っても不正確な記述ではありませんか。御誌の見解を教えてください。
◆問い合わせ~その6
8月8日号の「丸の内、八重洲の不動産異変」という記事についてお尋ねします。記事には「(還元利回りが)3%前半に限りなく近い取引事例もある。森ヒルズリート投資法人が森ビルからの「虎ノ門ヒルズ森タワー」(港区)の取得を3月に発表した際の還元利回りは3.1%だった」との記述があります。「3%前半」(「3%台前半」との趣旨でしょう)は「3.0~3.5%」辺りを指すはずです。だとすると、「3.1%」は「3%前半に限りなく近い」というより「3%前半」そのものです。
「虎ノ門ヒルズ森タワー」に関して「3%前半に限りなく近い取引事例」とするのは誤りではありませんか。正しいとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その7
8月8日号の「Jリート 売りに回る投信や金融機関 分配金利回り上昇で『買い時』」(筆者はアイビー総研代表の関大介氏)という記事についてお尋ねします。関氏はJリートに関して「投資に当たっては基本的に利回りが高い方が望ましいが、極端に株価が安い銘柄は、増資の際に『投資口の希薄化』が起きる可能性がある」と説明しています。これを信じれば「株価(投資口価格)が極端に安い銘柄でない限り、『投資口の希薄化』が起きる可能性はない」と読み取れます。しかし、全ての銘柄は増資の際に「投資口の希薄化」の可能性から逃れられないはずです。記事の説明は不正確であり、厳しく言えば誤りだと思えます。御誌の見解を教えてください。
◆問い合わせ~その8
8月15・22日合併号の「関西検察立て直したエース 地方大出身の星となるか」という記事についてお尋ねします。
記事では最高検監察指導部長の北川健太郎検事を取り上げ「北川氏は金沢大卒業。地方国立大出身者は、官僚では極めて異例だ」と説明しています。本当にそうでしょうか。「官僚=キャリア官僚」と捉えた場合でも、地方国立大出身者は珍しくないと思えます。まず「地方国立大=首都圏以外の国立大」と定義した場合、京都大学や大阪大学が入ってくるので「極めて異例」でないのは自明です。「地方国立大=三大都市圏以外の国立大」としても、北海道大、東北大、九州大の出身者が数多くいるので「極めて異例」とは言えません。
定義としては無理がありますが「地方国立大=三大都市圏以外の国立大で旧帝大を除く」とした場合どうでしょうか。国家公務員総合職の2017年度採用試験の合格者を見ると、岡山大34人、広島大24人と20位以内に2校が入っています。官僚の中では少数派かもしれませんが「極めて異例」と言うほどではありません。「地方国立大出身者は、官僚では極めて異例だ」との説明は誤りと判断してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その9
9月19日号の特集「異次元緩和の賞味期限」の中の「マイナス金利再来リスク」という記事についてお尋ねします。
まず、冒頭の「量的緩和の持続性が乏しくなれば、日銀が再びマイナス金利を導入する可能性が高まる」という記述です。ここからは「マイナス金利は一度導入されたが、現在は解除されている」と読み取れます。しかし、マイナス金利政策は2016年に導入された後、解除されず現在に至っています。記事には「日銀は対抗上、マイナス金利の深掘りも選択肢に入れざるを得なくなっている」との記述もあるので「再びマイナス金利を導入」とは「マイナス金利の深掘り」を指すのでしょう。しかし、当然ながら「深掘り」はマイナス金利の再導入には当たりません。記事の冒頭の説明は誤りではありませんか。控え目に言っても「不正確な説明」だと思えます。
次は「16年2月のマイナス金利はエコノミストから評価されたものの~」という部分です。クレディ・スイス証券チーフ・エコノミストの白川浩道氏は御誌の16年4月5日号に「マイナス金利の副作用 イールドカーブのフラット化で金融機関の資金利益が悪化」とのタイトルで寄稿し、「少し長い目でみれば、マイナス金利政策が国内銀行貸し出しに縮小圧力をもたらすという事態は避けられない」などと厳しい評価を与えています。
16年2月16日号の記事では、ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏が「異次元緩和の総括なき、政策変更と批判されても仕方ない」「効果は限定的だろう」などと否定的な見解を示しています。もちろん前向きに評価するエコノミストもいたのでしょうが、単純に「16年2月のマイナス金利はエコノミストから評価された」と言い切ってしまうのは誤りではありませんか。
◆問い合わせ~その10
10月17日号の特集「まるわかり中国」の中の「注目ポイント3 経済 1人当たりGDPが22年ぶり減少 『中所得国の罠』突破が最大の課題」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。
「中国がさらなる改革を推進する目的は、経済成長を持続可能にする体制を構築するためだ。しかし、その制約要因となるのが『中所得国の罠(わな)』の問題である。中所得国の罠とは、開発途上国が低賃金という優位性を生かして高成長を続け、中所得国の水準まで発展した後、人件費の水準が高まる一方で、産業の高度化が伴わず、国際競争力を失ってしまい、経済成長の停滞が続くという状態を指す。ブラジルや南アフリカなど世界の多くの開発途上国は中所得国の罠にはまっていると言われている。この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」
気になったのは「この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」という部分です。記事では「国際通貨基金(IMF)によると、ドルベースでの中国の1人当たりGDPは、16年は8113ドル(約90万円)と既に中所得国の水準に入っている」との説明も出てくるので、真家様は1人当たりGDPをベースに「罠を克服して先進国入りした」かどうかを判断していると思われます。
そこで世界各国の1人当たりGDP(IMF調べ、2016年)を見ると、日本は22位、韓国は28位でした。一方、シンガポールは10位で日韓を上回っています。
また、内閣府の「世界経済の潮流 2013年II」という資料では「長期の高度成長を遂げたのちに中所得国の罠に陥った諸国としてアルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、メキシコ、タイ、安定成長を続けた諸国・地域として日本、アメリカ、韓国、香港、シンガポールを中国との比較対象に取り上げる」との記述もあり、シンガポールを「中所得国の罠にはまらなかった国」として取り上げています。
「この罠を克服して先進国入りした国は、アジアでは日本、そして韓国くらいしかない」という記事中の説明は誤りではありませんか。シンガポールは「罠を克服」したアジアの国と言えるはずです。記事の説明で問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その11
12月12日号の特集「すぐに使える新経済学」の中で、友野様が書かれた「五つのキーワードで解説 行動経済学でわかる私たちが不合理な理由」という記事についてお尋ねします。記事では「サンクコスト」に関して以下のように解説しています。
「バイキング料理で料金の元を取ろうとして食べ過ぎてしまったことはないだろうか。バイキング料理に5000円払ってしまったら、もう5000円は戻ってこない。このように、既に支払ってしまって、回収不能なコストを『サンクコスト』と言う。このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる。合理的な選択では、サンクコストである5000円のことは忘れて、どれだけ食べれば適切なのかだけを考えて食べる。カロリー摂取量を気にしていたり、ダイエット中だったりしたら、そこそこで食べるのをやめればよい。しかし、つい食べ過ぎてしまうのは、もう戻らない5000円にとらわれて非合理的な選択をするサンクコスト効果のためだ。私たちが陥りがちな強固なバイアスの一つと言われている」
「サンクコスト」とは「すでに支出され、どのような意思決定をしても回収できない費用のこと」(デジタル大辞泉)を指します。「バイキング料理に5000円」を払う場合、食べることによって投資を「回収」できるはずです。食材の原価で回収度合いを計算するとしましょう。5000円が「サンクコスト」ならば、食べ始めた段階で「回収不能」となっているはずです。しかし、本人の健康などに問題が生じない範囲で原価5000円分の食事ができれば投資は「回収」できます。ゆえに「サンクコスト(どのような意思決定をしても回収できない費用)」とは言えません。
「このコストには金銭ばかりでなく、時間や労力も含まれる」とするのであれば、「回収」にも「食事の楽しさ」などを含めてよいでしょう。そうなれば、さらに「回収」は容易になります。
バイキング料理に支払った5000円を「サンクコスト」とする説明は誤りではありませんか。控えめに言っても、例として不適切だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
◆問い合わせ~その12
2018年1月2・9日合併号の「出口の迷路~金融政策を問う(13)短期金利2%なら36兆円の逆ザヤに」という記事についてお尋ねします。記事には「(日銀が)金利増による支払増を避けるためには、国債を売却して当座預金残高を減らす必要がある。しかし、そうすると含み益が現実化してしまう。それが具体的にどの程度の損失になるかは、国債保有額、償還までの残存期間、そして、金利上昇幅による」との記述があります。
「含み益が現実化してしまう」のであれば、「利益」が出そうなものですが、「それが具体的にどの程度の損失になるかは~」と「損失」の話が続きます。この後にも「(国債を)一気に売却しても満期持ちしても、損失額は大きくは変わらないということになる」などと出てきます。記事中の「含み益」は「含み損」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
--御誌が無視した問い合わせは以上です。改めて回答を求めます。
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2018年は良い方向に変化してほしいものだ。
※金山隆一編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html
週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html
週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html
「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html
東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html
ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html
駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html
読者との「約束」守らぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_8.html