日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)の記事は相変わらず問題が多い。11日の朝刊オピニオン面に載った「
Deep Insight~人生100年時代のテンショク」という記事では「
45歳以上のバブル入社組」と書いていたが、現在の40代後半を「
バブル入社組」と見なすのは無理がある。他にも引っかかる点があったので、以下の内容で問い合わせを送った。
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湯けむり展望台(大分県別府市)
※写真と本文は無関係です |
【日経への問い合わせ】
日本経済新聞社 中山淳史様
11日の朝刊オピニオン面に載った「
Deep Insight~人生100年時代のテンショク」という記事についてお尋ねします。記事には「
電機だけではない。人員削減は精密機械や医薬、化学のメーカーでもこの1年、増えている。対象は主に45歳以上のバブル入社組だ。同世代は大企業に約500万人いて、そのうち200万人は役職定年で管理職をはずれた、または管理職になれなかった社員たちだとの推計もある」との記述があります。
気になるのは「
45歳以上のバブル入社組」という説明です。「
バブル入社組」が入社したのは遅くても1992年までです。22歳で入社したとすると現在は49歳か50歳です。「
45歳以上」という括りだと、40代後半が「
バブル入社組」から外れて、就職氷河期世代を含んでしまいます。
今年3月15日付で御紙に載った「
私見卓見~『就職氷河期世代』を生かせ」 という投稿の中で日本総合研究所副主任研究員の下田裕介氏は「
30代後半~40代後半の人」を「
バブル崩壊後に新卒の就活に挑まざるを得なかった『就職氷河期世代』」と位置付けています。このように「
40代後半の人」は「
就職氷河期世代」に属すると見るのが一般的です。
「
バブル入社組」を「
45歳以上」とするのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。
せっかくの機会なので、他にもいくつか指摘しておきます。まず以下のくだりです。
「
だが、ヒトが無価値や不要なコストであるはずはない。それがわかるのは会社が買われる時だ。買収価格は株主資本にプレミアムを乗せた水準で決まるが、その上乗せ分にはブランド力、人材の優秀さといった『BSには載らない資産』が反映される。ヒトの価値は『本来、大きいが見えにくい』というのが真実の姿だ」
上記の説明では「
ヒトの価値は『本来、大きいが見えにくい』」かどうか判断できません。仮に中山様の言う通りに「
買収価格」が決まるとしても、「
その上乗せ分」には「
ブランド力」なども入ってくるはずです。だとすれば「
会社が買われる時」に大きな「
プレミアム」が付いたとしても、それは「
人材の優秀さ」以外の要素が寄与しただけかもしれません。
そもそも「
プレミアム」が付くかどうかという問題もあります。企業買収では「
買収価格」が純資産を下回って「負ののれん」が生じる場合もあります。こうしたケースでは「
ヒトの価値」がゼロという可能性も残ります。
次に問題としたいのが以下の説明です。
「
逆に、熱意ある社員が多かったのは欧米だった。これは当然かもしれない。不満を感じる社員は自然と外に出て行き、他の場所で『満足』を探す。そういう循環が欧米ではできているからだ。では、日本で人材が流動しないのはなぜか。一括採用や終身雇用を温存し、社員の再教育も後手に回った企業の責任は大きい」
「
日本で人材が流動しない」との前提で話が進みますが、その根拠は示していません。日本では以前から大卒の新卒就職者の約3割が3年以内に離職すると言われています。だとすると、かなり「
人材が流動」しています。「
不満を感じる社員は自然と外に出て行き、他の場所で『満足』を探す」という「
循環」は日本にもあります。日経でも「
不満を感じる社員」が出ていった例は珍しくないはずです。
「欧米の流動性は日本の比ではない」と言うのならば、その根拠を示すべきです。
「
日本で人材が流動しないのはなぜか」と問いかけて「
一括採用や終身雇用を温存し、社員の再教育も後手に回った企業の責任は大きい」と原因を探っているのも引っかかります。「
一括採用」が「
人材が流動しない」理由になるのでしょうか。通年採用にすると「
人材が流動」するのですか。ならないとは言いませんが、なぜそうなるのか謎です。
さらに言えば、企業としては「
人材が流動」するのが好ましいとは言いません。「中山さんの記事を見て、我が社は人材の流動化を推進しました。今や新卒採用者の9割が1年以内に退社します。我が社は人材流動化の優等生です」と言われたら「素晴らしい。日本企業の鑑だ」と思いますか。
他にも気になる点はあるのですが、長くなるので最後に1つ。中山様は記事を以下のように締めています。
「
人生のピークが後半にずれるライフシフトの時代が訪れるなら世代に関係なく、第2、第3のステージがもっとよくなる人生を試してみてはどうか。個人の幸福や企業の技術革新にかかわる大切な話だと筆者は考えるが、どうだろう」
そう考えるのであれば、まずは中山様が実践してはどうですか。「
第2、第3のステージがもっとよくなる人生を試してみてはどうか」と呼びかけておきながら、自分は新卒で日経に入ってずっとそのままなのではありませんか。それでは記事に説得力が出てきません。
問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「
世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。
◇ ◇ ◇
問い合わせに書き切れなかった問題点にも触れておきたい。
【日経の記事】
だが、平成の時代にもそうした考え方で外の世界に花を咲かせたバブル世代はいたはずである。探して話を聞いてみた。
一人は富士通を40歳で辞めた富野岳士さん(54)。大学院で学び直し、ボランティアなどを経て現在、IT(情報技術)を使って国際協力に取り組む非政府組織(NGO)の幹部として働く。もう一人はネットワーク技術者として就職した富士ゼロックスを辞めた軒野仁孝さん(60)。出版社やドラッグストアの役員を経て現在、投資ファンドの社長をしている。
「国際協力」「企業再生」という違いはある。だが、2人に共通したのは、就職当初は考えもしなかった世界で「天職を得た」と感じているところだった。
それで思い出したのがiPS細胞の山中伸弥・京都大学教授だ。同氏も大発見にたどりつくまでに臨床整形外科→薬理学→分子生物学→がんの研究→ES細胞の研究と多様な「職歴」を持った。
◎60歳も「バブル世代」?
まず「
軒野仁孝さん(60)」が「
バブル世代」なのかとの疑問が湧く。普通に大卒で就職していたら80年代前半に働き始めているはずで「
バブル入社組」とはならない。
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小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です |
また「
平成の時代にもそうした考え方で外の世界に花を咲かせたバブル世代」をわざわざ「
探して話を聞いてみた」のに、探し当てた2人のコメントがほぼないのも気になった。「
2人に共通したのは、就職当初は考えもしなかった世界で『天職を得た』と感じているところだった」と書いて終わりならば、「
探して話を聞いてみた」と切り出す必要があるのか疑問だ。
「
それで思い出したのがiPS細胞の山中伸弥・京都大学教授だ」というのも解せない。「
薬理学→分子生物学→がんの研究→ES細胞の研究」というのは研究対象の変化を示しているだけだ。これを「
多様な『職歴』」と見るのならば、終身雇用の下で1つの企業に勤めていても「
多様な『職歴』」が得られる。
日経にも担当分野が次々と変わる記者がいるはずだ。そうした記者はずっと日経にいたとしても「
多様な『職歴』」があると中山氏は考えるのだろうか。
※今回取り上げた記事「
Deep Insight~人生100年時代のテンショク」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190511&ng=DGKKZO44637960Q9A510C1TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。
日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html
日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html
三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html
「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html
「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html
日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html
ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html
「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html
シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html
欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html
日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html
ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html
GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html
日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html
「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html
「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html