日本経済新聞の藤田和明上級論説委員が相変わらず苦しい。14日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」という記事も中身が乏しかった。何が問題なのか。内容を見ながら助言したい。
錦帯橋 |
【日経の記事】
大企業も多くは最初はベンチャーだ。屈指の高収益で知られるセンサー大手のキーエンス。株式上場は1987年10月で大阪証券取引所第2部だった。売上高はまだ100億円に満たなかったが、高い将来性を見抜いて上場直後から投資したファンドマネジャーがいる。現在はフィデリティ・ジャパンの副会長をつとめる蔵元康雄氏(87)だ。
蔵元氏は69年に米資産運用会社フィデリティに入社、同社最初の日本株アナリストとなり東京事務所を開設した。個々の企業を徹底的に歩いて調査し投資するフィデリティの哲学を、日本で実践した。
「面白い会社がある」。キーエンスの噂を耳にし、創業者の滝崎武光氏にアポの電話を入れた。返事は「日中は忙しいから18時に」。本社は大阪府高槻市。駅から住宅地を抜け、まだ規模の小さい当時の拠点も訪れた。
40%という高い売上高営業利益率に驚いた。工場を持たないファブレスで営業社員の大半がエンジニア。顧客のニーズを聞いて歩き、すぐ会社に報告して新製品を設計、直販する。中間マージンをそぎ落とす効率経営だった。
滝崎氏は当時40代。強い起業家精神と新製品開発へのひたむきな情熱にひかれた。しかも「社用車なし・接待なし・ゴルフなし」の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた。
大証2部上場時の時価総額は800億円弱。それがいま17兆円だ。35年で200倍以上になった。「株価ではなく、会社を買うのが投資の本質だ。はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と蔵元氏はいう。
◎肝心なことを書かないと…
「キーエンスを見抜いた投資家」として「蔵元康雄氏」を取り上げるなら、その実績はしっかり説明してほしい。「はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と「蔵元康雄氏」は言っているのだから、かなりの資金を投じて長期保有し莫大なリターンを得たのだろう。しかし、その辺りの記述が見当たらない。
キーエンスの時価総額が「35年で200倍以上になった」のは分かった。問題は「蔵元康雄氏」が関わった「フィデリティ」のファンドだ。そこが「35年」でどうなったのかを見せるべきだ。ファンドが消えていたりキーエンス株を手放していたりした場合、記事の前提は崩れてしまう。それを隠すためにあえて触れなかったのか。それとも書き手としての力量不足で言及を怠ったのか。いずれにしても問題ありだ。
そもそも「上場直後」だと投資のタイミングとしてはそれほど早くない。「キーエンスを見抜いた投資家」ならば公募・売り出しに応募して「上場前」から投資していてほしい。「40%という高い売上高営業利益率に驚いた」のは「上場直後」なのだろう。だとしたら、むしろ遅い。
ついでに言うと「『社用車なし・接待なし・ゴルフなし』の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた」という説明も引っかかる。「ゴルフなし」が「極めて高いコスト意識」と何か関係あるのか。接待ゴルフ禁止ならば「接待なし」に含まれるはず。社内のゴルフコンペなども禁止していたのならば、休日の過ごし方にまで介入するダメな会社だ。藤田上級論説委員はその辺りが気にならないのか。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
キーエンスのほか、京セラやセコム、ニトリなど若き経営者に会って投資先に選んできた。「現在の貸借対照表ではなく、将来の損益計算書を考える」。5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる。
◎上場直後に投資したのなら…
「5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる」のならば「上場直後」にキーエンス株を買った「蔵元康雄氏」のファンドはキーエンスを「資金面から応援」できていない気がする。「上場直後」に増資したとは考えにくい。「大阪証券取引所」が用意した流通市場でキーエンス株を買ってもキーエンスに「資金」は入らない。そこは藤田上級論説委員も分かるはずだ。
記事の結論にも注文を付けておこう。
【日経の記事】
目の前の株価だけをみれば常に揺れている。ただその底流で第2、第3のキーエンスのような物語が進んでいるはずだ。資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え、果実が配られる。そうしたストーリーの積み重ねが今後の日本に必要になる。
◎そんな必要ある?
「第2、第3のキーエンス」が存在するとして「資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え」る必要があるだろうか。「第2、第3のキーエンス」を探している個人投資家は個別株に投資すればいい(未公開株についてはここでは考えない)。「資産運用業を通じ」て投資する場合はアクティブファンドを買うことになるだろう。しかし手数料が高い。アクティブファンドの高コストを藤田上級論説委員はどうやって正当化するのか。「高いコストを補って余りあるほどリターンが高い」とはなっていないことを藤田上級論説委員も知っているはずだ。
「資産運用業を通じた個人マネー」はインデックスファンドに向かうのが好ましい(天才的な眼力がある個人を除く)。そうなると「第2、第3のキーエンス」を探すような話ではなくなる。それではダメで「資産運用業を通じた個人マネー」がアクティブファンドに向かうべきだと藤田上級論説委員が考えるのならば、その理由を記してほしかった。個人投資家をアクティブファンドへ誘導すれば「資産運用業」界は潤うだろうが投資家のためにはならない。
※今回取り上げた記事「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230614&ng=DGKKZO71842690T10C23A6TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明上級論説委員への評価はDを維持する。藤田上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2023/04/blog-post_18.html
IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html
「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html
改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html
「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html
「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html
東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html
合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html
説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html
新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html
「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html
「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html