28日の日本経済新聞朝刊企業2面に中村直文編集委員が書いた「
ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ 訪日客に世界観アピール」という記事は拙さの目立つ内容だった。まず最初の段落を見ていく。
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シップスガーデン(福岡市)
※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
若い女性や乳幼児を育てているお母さんで、知らない人はいないバッグブランドの「アネロ」。1個当たり5千円前後のカジュアルバッグで、専門店やイオンなどのショッピングセンターを舞台に6年前に大ブームが起きた。
◎「若い女性や乳幼児を育てているお母さん」?
「
若い女性や乳幼児を育てているお母さん」と書くと「
お母さん」が「
若い女性」を「
育てている」ように見える。「
若い女性や、乳幼児を育てているお母さん」と読点は打ってほしい。ただ、今回の場合は「
乳幼児を育てているお母さん」の多くも「
若い女性」だという問題はある。
記事の続きを見ていこう。
【日経の記事】
そのアネロが2019年末に突然、東京・原宿の一等地に専門店をオープンした。衣料品で言えば「ユニクロ」、眼鏡で言えば「ジンズ」のような存在だが、なぜ進出したのか。そこには消費やマーケティングを考える材料があった。
◎「突然」の「オープン」のはずが…
「
アネロが2019年末に突然、東京・原宿の一等地に専門店をオープンした」と中村編集委員は言う。開業当日まで出店に関する情報を一切出してこなかったのならば「
突然」と表現するのも分かる。しかし「
アネロ」の「
運営会社のキャロットカンパニー」は昨年11月8日のニュースリリースで、同年12月12日に原宿に店を出すことを明らかにしている。
発表から開店までに1カ月以上あるのに「
突然」の「
オープン」なのか。
さらに続きを見ていこう。
【日経の記事】
アネロを知らない方のために商品やブームについて説明しよう。運営会社のキャロットカンパニー(大阪市)は吉田剛社長が1988年に創業した雑貨卸。当初はノーブランドのペンケースやバッグを販売していたが、05年に独自ブランド「アネロ」を立ち上げた。
知名度が飛躍的に上がったのは14年。女性用ポーチを作っていた担当者が「がま口をリュックサックに採用したら面白いのではないか」と提案。商品化してみると、見たことがないリュックができあがった。
吉田社長も「売れるのかどうか半信半疑」だったが売り出すと想定以上に大ヒットした。通常こうしたカジュアル系のバッグは数百単位でしか作らないのが業界の常識だが、キャロットは量産コストを考え、売れると1万、2万と作り上げるノウハウを持つ。
このためSNSで「使いやすい、かわいいバッグが登場した」と拡散しても生産対応が可能で、一気にブーム化した。そもそも10代から20代初めのファンシーグッズとして売る予定が、収納性に優れていることから乳幼児をお子さんに持つママ世代から絶大な支持を受けたという。
◎実績見せずに「大ヒット」と言われても…
「
想定以上に大ヒットした」「
一気にブーム化」というものの、どの程度の売り上げを実現したのかは触れていない。これだと本当に「
大ヒットした」したのか疑いたくなる。しかも「
知名度が飛躍的に上がったのは14年」らしい。「
一気にブーム化」したのだから現状ではかなり落ち着いているはずだ。だが、その辺りの情報も記事には見当たらない。
続きを見ていく。
【日経の記事】
さて原宿進出の話に時を戻そう。実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になったことだ。とりわけタイやフィリピンなど東南アジアで引き合いが強く、すでに200店近くで販売している。
◎何か違和感が…
「
さて原宿進出の話に時を戻そう。実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になったことだ」のくだりに違和感を覚える。文がきちんとつながっていない感じがする。「
実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になっている」などと直せば問題は感じない。
「
なったことだ」が何かを受けているようで何も受けていないのが違和感の原因だろう。
さらに見ていく。
【日経の記事】
同社はこれまでも大阪・梅田と心斎橋に店を構えてきた。原宿を東京のショールームとして位置づけ、さらにインバウンド客にアピールできる。今年は新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は厳しいだろう。だが、この流れは長期的には続く。SNSの普及も重なり、国内企業でもグローバル市場を開拓できる事例といえる。
もう一つの理由は人気ゆえの"副作用"の払拭。アネロはリュックで人気を博したが、それ以外の品ぞろえも多い。強すぎるブランドはイメージが固定化されやすい。このため原宿で品ぞろえの広さや世界観を訴える。
◎「この流れは長期的には続く」?
「
今年は新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は厳しいだろう。だが、この流れは長期的には続く」と書いてはダメだ。これだと「
インバウンド需要は厳しい」という「
流れ」が「
長期的」に「
続く」ことになってしまう。
「
この流れ(インバウンド需要が厳しい傾向)
は長期的には続かない」としないと文脈的には辻褄が合わなくなる。「
この流れ=インバウンド需要が伸びる流れ」との前提が中村編集委員にはあるのだろう。だが、それに合った記事の構成になっていない。
さらに言えば「
これまでも大阪・梅田と心斎橋に店を構えてきた」のに、なぜ今「
原宿進出」を取り上げるのかとの疑問も生じる。
「
梅田と心斎橋」の店も「
ショールーム」として「
インバウンド客にアピールできる」はずだ。「
品ぞろえの広さや世界観を訴える」ことは「
梅田と心斎橋」の店でもやっていると思える。
「
原宿進出」が「
消費やマーケティングを考える材料」になると言うのならば、「
原宿」にはあって「
梅田と心斎橋」にはない要素が何かを読者に提示すべきだ。
ここから最後まで見ていく。
【日経の記事】
そして価格面。同社の製品は4千~5千円が中心。7千円ぐらいのユニセックスバッグは1万円台でも売れそうに見えるが、「アネロの相場は数千円。1万円の壁が高い」(吉田社長)。
ユニクロも1万円台を売るのに時間がかかった。舞台は原宿。ブランドのバージョンアップへ、「アネロ」行きます。
◎だったら事前に振らないと…
結びの「
『アネロ』行きます」が引っかかる。断定はできないが、機動戦士ガンダムの「アムロ行きます」という有名なセリフに引っかけたものだろう。
その場合、記事の最初の方でガンダムに絡めた話を盛り込んでおくべきだ。その上で「
『アネロ』行きます」と締めるのならば分かる。しかし、そうはなっていない。ガンダムについて知らない読者には、なぜこんな結びになっているのか全く伝わらない。
お遊び的な結びを否定はしないが、今回は明らかにダメな使い方だ。
※今回取り上げた記事「
ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ 訪日客に世界観アピール」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56002930V20C20A2TJ2000
※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。
無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html
「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html
スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html
「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html
「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html
キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html
分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html
「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html
「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html
日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html
「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html
「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html
日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html
「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html
「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html
渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html
早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html
日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html
「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html
野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html
「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html
平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html