2023年9月7日木曜日

店舗に張り付いて客単価を調べた日経の安西明秀記者は面白いかも

日本経済新聞の安西明秀記者は粗削りだが面白いかも。7日の朝刊 投資情報面に載った「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」という記事を読んでそう感じた。ツッコミを入れながら中身を見ていきたい。

宮島連絡船

【日経の記事】

名古屋発祥の喫茶店「コメダ珈琲店」を展開するコメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている。店舗数はグループ1000店に達しスターバックスコーヒージャパンやドトールコーヒーを猛追する。ビジネス街でも豊富なメニューで居間でくつろぐような需要を掘り起こせるとみて、都心部を開拓しようとしている。

7月、JR新橋駅から徒歩3分のビルにコメダ珈琲店「新橋烏森通り店」が開業した。都内で働く50代会社員は「コメダは昔懐かしい雰囲気が好きで利用する」と話す。


◎具体的な数字を見せないと…

コメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている」と冒頭で打ち出したのだから、出店数などの数字を見せて「首都圏で攻勢に出ている」実態を読者に伝えないと。しかし出てくるのは「『新橋烏森通り店』が開業した」という話だけ。これでは辛い。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎氏は新型コロナウイルス禍が本格化する前の2019年度の外食各社の損益分岐点比率を調べた。損益分岐点比率は売上高に対して利益が出る水準を示し、低いほど収益力が高い。ドトール・日レスホールディングスは83%だった。ファミリーレストランなど他の外食も70~90%程度だが、コメダは29%と群を抜いて低かった

コメダに財務的な強みをもたらすのは95%に達するフランチャイズチェーン(FC)だ。直営店は限られるため、実態は外食というよりもロイヤルティー収入も得る食品卸に近い。「コーヒーやパンは自社製造だが多額の設備投資は必要ない。店舗の建物など固定資産はFC側のものだ」(コメダ)。少ない資産と低いコストが収益力の高さとなっている。


◎FC比率の問題なら…

見出しでも「損益分岐点比率低く」と打ち出しているが、その要因が「FC比率が高いから」ならば、あまり意味はない。固定費負担が少ないのだから「損益分岐点比率」が低く出るのは当然。同じくらいのFC比率の同業他社と比べても「損益分岐点比率」が低いのかどうかが知りたい。

さらに見ていく。一番気になったくだりだ。


【日経の記事】

コメダの強みはそれだけではない。週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した。ドトールコーヒーショップの客単価は約530円、スタバは約570円だったのに対し、コメダは約850円で客単価の高さが際立つ。


◎どうやって「観察」?

週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した」らしい。各社が「客単価」を公表していないということか。安西記者の頑張りには敬意を表したい。ここまでやる記者はなかなかいないだろう。

ただ、実際にどうやって「観察」したのかは気になる。レジ近くの席に張り付いて店員が客に知らせる合計金額を聞き取っていたのか。ちょっと怪しい感じにはなりそう。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

コメダの客層は家族連れなどが多く食事を長時間楽しんでいる姿が目立つ。アイスコーヒー(480円)だけでなく、グラタン(910円)や熱々のパンにソフトクリームを乗せた看板スイーツ、シロノワール(680円)などフードが豊富だ。鮫島氏は「コメダの強みはフード。差異化できる」と指摘する。


◎これだけ?

コメダの強みはフード」というコメントを使っているが、記事の説明では「強み」は感じられない。「フードが豊富」なのが「強み」なら他社が追随するのは難しくなさそう。「いや難しい」という話なら、なぜそうなるのかを解説してほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

コメダ珈琲店は1968年に名古屋で1号店を開業した。500店達成は13年で、それから10年間で店舗網を倍増させた。和風喫茶などの他業態や海外を除き、8月末時点で国内で944店のコメダ珈琲店を運営するが、コメダHDの甘利祐一社長は「首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」と意気込む。


◎首都圏以外の出店余地は?

首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」という社長コメントを使うのならば「首都圏」以外でどこに「出店余地」があるのかは触れてほしかった。

終盤を一気に見ていこう。


【日経の記事】

スターバックスコーヒージャパンは6月末で1846店を展開。ドトールコーヒーは「エクセルシオールカフェ」などを除いた主力業態の「ドトールコーヒーショップ」に限れば8月末で1067店で「ようやく背中が見えてきた」(事業会社コメダの木村雄一郎執行役員)。

コメダの24年2月期は売上高にあたる売上収益が前期比12%増の425億円、純利益が8%増の58億円で過去最高を見込む。営業利益率は外食では異例の20%を超え、自己資本利益率(ROE)も14%と高水準だ。

コメダは3年後にはグループ1200店を計画しており、今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ。


◎「ようやく背中が見えてきた」?

ようやく背中が見えてきた」という発言は実際にあったのだろう。だが「944店」と「1067店」ならば大差はない。記事中で使うコメントとして適切なのか疑問が残る。

営業利益率は外食では異例の20%を超え」に関してはFC比率95%という店舗構成を考えると驚くような数字ではない。FC中心の同業他社の中でも「異例の20%を超え」ならば、そこを強調してもいいだろうが…。

結論部分にも不満が残る。「今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ」と訴えたかったのならば「FC支援」や「海外市場の攻略」にも紙幅を割くべきだ。今回はそこは要らないと判断したのならば、別の結論にしないと説得力は生まれない。

「結論に説得力を持たせるために何を材料として提示すべきか」を意識して記事を書けば完成度の高い記事になりやすい。そのことを肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230907&ng=DGKKZO74225350W3A900C2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。客単価を店舗に出向いて調べた頑張りを買って安西明秀記者への評価はC(平均的)とする。