2023年5月23日火曜日

パワハラの具体的内容に欠けるFACTA「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」

FACTAが経営者を批判する記事は総じて品がない。それでも事実の裏付けがしっかりしていればまだいい。しかし、そこも怪しい。6月号に載った「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘したい。

宮島

【FACTAの記事】

純粋持ち株会社の近鉄GHDへ15年に移行すると決めたのは小林氏だ。自らは事業を行わず、グループ各社の株式を保有することでグループ会社の事業をコントロールすることだけを事業目的とするのが純粋持ち株会社だ。小林氏はKNT|CTHDやKNTの一体何をコントロールしていたのか。取締役としての善管注意義務をどこに置き忘れたのか。自身の監督責任を棚に上げて小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった。御年79歳の小林氏はアンガーコントロールができないご高齢なのだ。同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして「あのパワーハラスメントはひどすぎる」と眉をひそめる。


◎どんな「罵詈雑言」?

小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった」と言うものの具体的にどんな言葉を発したのか記していない。なのに「同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして『あのパワーハラスメントはひどすぎる』と眉をひそめる」と発言の主を特定できないコメントを使って「パワーハラスメント」があったと印象付ける。これは頂けない。

記事の続きも見ておく。


【FACTAの記事】

小林氏は早稲田大学在学中に始めた少林寺拳法にのめり込み、一時は関西実業団少林寺拳法連盟の会長を務め、近鉄社内にも実業団少林寺拳法連盟の支部を作らせた。物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる。ただし典型的な内弁慶で、一歩会社の外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。


◎「やりかねない」と言われても…

物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる」という説明も感心しない。「物理的パワハラもやりかねない雰囲気」ということは「物理的パワハラ」の事実を確認できていないのだろう。なのに「物理的パワハラもやりかねない」人物だとイメージさせる書き方をするのはいかがなものか。

記事には他にも引っかかる部分があった。


【FACTAの記事】

「小林氏が地位に恋々とするのは、小林夫人が近鉄GHDのファーストレディーであり続けたいからだ」と解説する近鉄OBもいる。雑誌や新聞に小林氏を批判する記事が出ると、夫人は「ウチの主人は辞めないといけないのですか」と知り合いに電話をかけまくるという

近鉄GHDのトップ人事撤回を報じた4月25日付の産経新聞朝刊は「企業はトップ人事を発表する前に、新社長を取り巻く問題がないかなどのチェックを当然行う。今回の事態はそれが不十分だったことを示している」と指摘し、小林氏の統治能力に難があることを強くにおわせた。この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう


◎どうでもよい話では?

小林夫人」の話は要らない。「小林夫人」が近鉄の経営に介入しているならまだ分かる。「知り合いに電話をかけまくる」だけなら取り上げる意味はない。あと「この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう」と書いているが筆者は「4月25日付の産経新聞朝刊」が出た後に「小林夫人からの電話ラッシュ」があったかどうか確認したのだろうか。

記事には気になる点がまだある。


【FACTAの記事】

小林氏が一旦は会長を退くと決断したのは昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めたことが影響したとの見方もある。O氏は近鉄の社長候補に名前が挙がっていたが、前任の山口昌紀社長が小林氏を選んだために三重交通に転じた経緯がある。関西財界ではO氏の知名度が圧倒的に高く、小林氏は本体社長に就いた後も、その動向を気にしていたフシがある。3歳若いO氏が先に退けば、小林氏の居座りがさらに目立ってしまうために、仕方なく取締役相談役になると3月に発表した、というのだ。


◎何のための「O会長」

O会長」をイニシャルにしているのが意味不明。「昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めた」などと書いているので人物は簡単に特定できる。記事中で本名を隠す意味がない。

他にも気になる点はある。

【FACTAの記事】

KNT|CTHDは調査委員会を立ち上げ、事実の解明と事態収拾を急ぐ。「KNT問題が解決するまでの小林氏留任」というのが近鉄GHDの公式見解。だが調査委員会が結果を出すまでに少なくとも3~6カ月はかかる。小林氏が半年だけ会長任期を延長するというのは非現実的。24年6月までやれば2025年国際博覧会(大阪・関西万博)は目前だ。在任中のレガシーがない小林氏だけに「万博で一旗揚げる」と言い出しかねない。近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する


◎本当に「全従業員」が恐れていた?

近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する」という話に至っては明らかにおおげさ。「全従業員2万6605人」に聞き取り調査をした訳でもないだろう。

記事の最終段落も見ておこう。


【FACTAの記事】

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか、近鉄GHD内の人事異動に正当性はあるか、自らの出処進退に驕りや打算はないか、と熟考できないはずはない――。少林寺拳法とは、単に体を鍛える運動ではなく、正義を愛し人道を重んじる「人づくり」の行なのだから。


◎根拠を示さないと…

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか」と問うなら「小林哲也会長」に「パワハラ行為」があったと言える根拠が欲しい。しかし今回の記事にはそれが見当たらない。となるとただ悪口を並べただけの記事に見えてしまう。


※今回取り上げた記事「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 https://facta.co.jp/article/202306019.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2023年5月13日土曜日

民間の医療保険へと読者を誘導する日経 土井誠司記者の罪

民間の医療保険は「愚か者向けの保険」と言っても過言ではない。しかし日本経済新聞の土井誠司記者が13日の朝刊マネーの学び面に書いた「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄」という記事では民間の医療保険を前向きに取り上げていた。この記事を参考にして無駄な保険に入ってしまう読者がいるかもと考えると罪深い。

錦帯橋

医療費の負担を抑える健康保険の高額療養費制度を利用できれば、入院・入院外合わせても10万円未満で収まるケースもありそうだ」と「高額療養費制度」について触れてはいる。この制度があれば追加で民間の医療保険に入る必要はない。しかし「治療にかかる費用は病院に払う医療費だけではない」などと言って民間の医療保険に誘導していく。そこを見ていこう。


【日経の記事】

こうした制度を知ったうえで蓄えが足りなかったり、治療が長引くのが不安だったりするなら民間の保険が選択肢になる。若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ。


◎「保険の必要性が高そう」?

若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ」という説明が謎。「預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合」は若くない女性でも男性でも当たり前にある。

若い女性」はがんなどになるリスクが「若くない女性」よりも小さい。なので公的保険に民間の医療保険を上乗せする理由は「若くない女性」以上になくなる。「預貯金が十分でない」なら余計な保険に加入せず「預貯金」を増やす方が得策だ。「3割負担の現役世代なら窓口で払うのは、乳がんが約18万円と約1万8000円、子宮がんは約19万円と約1万円」と土井記者も書いている。支払い額20万円程度のリスクに保険で備える必要はない。

差額ベッド代」などがかかると心配するなら「預貯金」を増やして対応すればいい。その前にがんになったら個室を諦めれば済む。必要な医療が受けられなくなる訳ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性向け医療保険は、女性特有や女性に多い病気に対する保障を厚くした商品だ。通常の医療保険に女性向けの特約を付加するものもある。乳房や子宮、卵巣の疾病や、妊娠・出産に関する症状などの入院・手術の費用をカバーする。がんは乳がんや子宮がんに限らず、大腸がんや胃がんなど他の部位も対象になる。

「キュア・レディ・ネクスト」はオリックス生命保険の女性向け医療保険。1日当たりの入院日額を通常の医療保険に5000円上乗せし「個室に入りたい女性のニーズにも応えられる」と説明する。上乗せ分を合わせた日額1万円の一般的なプラン(1入院の支払限度日数60日)だと保険料(月額、終身払い)は30歳で2145円、40歳は2410円。がんと診断されたときなどに一時金(50万円)が出る特約を付けると2940円、3435円になる。

三井住友海上あいおい生命保険は医療保険「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」に「女性疾病給付特約」を加えると入院給付金が2倍になる。入院10日目まで一律10万円出るプラン(同60日)は月額の保険料(終身)が30歳が2560円で40歳は2675円。50万円の一時金が出る「ガン診断給付特約」を付けると3147円、3461円になる。

女性向けの医療保険は保障が厚い分、通常の医療保険より保険料は高めだ。加入は30~40代が中心。がんだけでなく、妊娠・出産のリスクや他の病気に備えたいという女性も多いようだ。


◎なぜ特定の保険を紹介?

土井記者はなぜ「キュア・レディ・ネクスト」と「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」を記事で取り上げたのか。「保険料」と「保障」内容を見て、この2つの保険が優れていると見たのなら、まだ分かる。しかし記事にそうした説明はない。結局、特定の保険に誘導する実質的な“広告”になっている。そこが残念。


※今回取り上げた記事「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230513&ng=DGKKZO70928890S3A510C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。土井誠司記者への評価もDとする。