FACTAが経営者を批判する記事は総じて品がない。それでも事実の裏付けがしっかりしていればまだいい。しかし、そこも怪しい。6月号に載った「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘したい。
宮島 |
【FACTAの記事】
純粋持ち株会社の近鉄GHDへ15年に移行すると決めたのは小林氏だ。自らは事業を行わず、グループ各社の株式を保有することでグループ会社の事業をコントロールすることだけを事業目的とするのが純粋持ち株会社だ。小林氏はKNT|CTHDやKNTの一体何をコントロールしていたのか。取締役としての善管注意義務をどこに置き忘れたのか。自身の監督責任を棚に上げて小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった。御年79歳の小林氏はアンガーコントロールができないご高齢なのだ。同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして「あのパワーハラスメントはひどすぎる」と眉をひそめる。
◎どんな「罵詈雑言」?
「小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった」と言うものの具体的にどんな言葉を発したのか記していない。なのに「同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして『あのパワーハラスメントはひどすぎる』と眉をひそめる」と発言の主を特定できないコメントを使って「パワーハラスメント」があったと印象付ける。これは頂けない。
記事の続きも見ておく。
【FACTAの記事】
小林氏は早稲田大学在学中に始めた少林寺拳法にのめり込み、一時は関西実業団少林寺拳法連盟の会長を務め、近鉄社内にも実業団少林寺拳法連盟の支部を作らせた。物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる。ただし典型的な内弁慶で、一歩会社の外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。
◎「やりかねない」と言われても…
「物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる」という説明も感心しない。「物理的パワハラもやりかねない雰囲気」ということは「物理的パワハラ」の事実を確認できていないのだろう。なのに「物理的パワハラもやりかねない」人物だとイメージさせる書き方をするのはいかがなものか。
記事には他にも引っかかる部分があった。
【FACTAの記事】
「小林氏が地位に恋々とするのは、小林夫人が近鉄GHDのファーストレディーであり続けたいからだ」と解説する近鉄OBもいる。雑誌や新聞に小林氏を批判する記事が出ると、夫人は「ウチの主人は辞めないといけないのですか」と知り合いに電話をかけまくるという。
近鉄GHDのトップ人事撤回を報じた4月25日付の産経新聞朝刊は「企業はトップ人事を発表する前に、新社長を取り巻く問題がないかなどのチェックを当然行う。今回の事態はそれが不十分だったことを示している」と指摘し、小林氏の統治能力に難があることを強くにおわせた。この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう。
◎どうでもよい話では?
「小林夫人」の話は要らない。「小林夫人」が近鉄の経営に介入しているならまだ分かる。「知り合いに電話をかけまくる」だけなら取り上げる意味はない。あと「この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう」と書いているが筆者は「4月25日付の産経新聞朝刊」が出た後に「小林夫人からの電話ラッシュ」があったかどうか確認したのだろうか。
記事には気になる点がまだある。
【FACTAの記事】
小林氏が一旦は会長を退くと決断したのは昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めたことが影響したとの見方もある。O氏は近鉄の社長候補に名前が挙がっていたが、前任の山口昌紀社長が小林氏を選んだために三重交通に転じた経緯がある。関西財界ではO氏の知名度が圧倒的に高く、小林氏は本体社長に就いた後も、その動向を気にしていたフシがある。3歳若いO氏が先に退けば、小林氏の居座りがさらに目立ってしまうために、仕方なく取締役相談役になると3月に発表した、というのだ。
◎何のための「O会長」
「O会長」をイニシャルにしているのが意味不明。「昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めた」などと書いているので人物は簡単に特定できる。記事中で本名を隠す意味がない。
他にも気になる点はある。
【FACTAの記事】
KNT|CTHDは調査委員会を立ち上げ、事実の解明と事態収拾を急ぐ。「KNT問題が解決するまでの小林氏留任」というのが近鉄GHDの公式見解。だが調査委員会が結果を出すまでに少なくとも3~6カ月はかかる。小林氏が半年だけ会長任期を延長するというのは非現実的。24年6月までやれば2025年国際博覧会(大阪・関西万博)は目前だ。在任中のレガシーがない小林氏だけに「万博で一旗揚げる」と言い出しかねない。近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する。
◎本当に「全従業員」が恐れていた?
「近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する」という話に至っては明らかにおおげさ。「全従業員2万6605人」に聞き取り調査をした訳でもないだろう。
記事の最終段落も見ておこう。
【FACTAの記事】
思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか、近鉄GHD内の人事異動に正当性はあるか、自らの出処進退に驕りや打算はないか、と熟考できないはずはない――。少林寺拳法とは、単に体を鍛える運動ではなく、正義を愛し人道を重んじる「人づくり」の行なのだから。
◎根拠を示さないと…
「思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか」と問うなら「小林哲也会長」に「パワハラ行為」があったと言える根拠が欲しい。しかし今回の記事にはそれが見当たらない。となるとただ悪口を並べただけの記事に見えてしまう。
※今回取り上げた記事「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 https://facta.co.jp/article/202306019.html
※記事の評価はE(大いに問題あり)