2018年6月8日金曜日

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…

8日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~半島雪解け、沈黙する金利」という記事の中で、筆者である本社コメンテーターの梶原誠氏は韓国債利回りの低さを「」としている。この筋立てが強引すぎる。梶原氏については「訴えたいことがないのに無理して捻り出している書き手」と評してきた。今回も無理が祟ったのか。
高層マンション「レトロハイマート」(北九州市)
          ※写真と本文は無関係です

前半の株式に関する説明にも指摘したい部分はあるが、長くなるので後半の「沈黙する金利」に絞ってツッコミを入れていきたい。

【日経の記事】

だからこそ奇妙なのが、債券市場だ。同胞である韓国の政府が北朝鮮への経済支援で大きな役割を果たすのは、今月1日に米トランプ大統領が示唆したとおり。資金需要の高まりを見込んで韓国債の利回り、つまり長期金利は上昇するはずだ。しかし、金利は逆に米国の水準を下回るまで低下した



◎金利は「低下した」?

まず「韓国債の利回り、つまり長期金利」は「低下した」と言えるのか。記事では「北朝鮮の金正恩委員長が平昌五輪への参加を表明して、中韓との外交が活発化し始めたのは今年初だ」として年初からの市場の動きを見ている。記事に付けた長期金利のグラフもそうだ。このグラフでは年初が2.4%で直近が2.7%前後。「米国の水準」は下回っているものの「低下した」わけではない。

グラフには「韓国の長期金利は低いまま」との説明文が付いている。米国債と比べると水準が低いと言いたいのだろうが、日本国債よりも圧倒的に高い。なぜ米国債以外は比較対象外なのか、記事からは読み取れない。そうなると「韓国の長期金利は低いまま」と見せるためのご都合主義的な比較との疑いが濃くなる。

さらに問題が多いのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

1990年に東西ドイツが統一した際のドイツ市場は参考になる。約7%だった国債利回りは、89年11月のベルリンの壁崩壊を挟んで上昇、翌年には9%を超えた。旧東独の経済テコ入れのために資金需要が増すとの読みが背景にあり、実際その通りだった。

南北朝鮮の統一は先走ったシナリオだろうが、道路や鉄道など北朝鮮でのインフラ事業は統一しなくても進められる。韓国政府はその費用を約1400億ドル(約15兆4千億円)と見積もったこともある。インフラ需要で韓国企業が潤うと株式市場は読んでいるのに、資金を負担する政府の事情を債券市場は織り込んでいない。



◎ドイツ統一と比べても…

東西ドイツが統一した際」には国債利回りが上昇したのに、なぜ韓国債の利回りは上がらないのか。梶原氏は次の段落でこれを「」と呼んでいるが、「」だと思う方が謎だ。韓国と北朝鮮は統一が決まったわけでも、決まりそうな状況でもない。それを「東西ドイツが統一した際」と比べてどうする。

梶原氏には考えてほしい。北朝鮮と韓国が統一を実現する「ケースA」と、北朝鮮との緊張緩和が進み韓国からの経済援助が増える「ケースB」を比べると、韓国にとって財政負担が重いのはどちらか。常識的に考えればケースAだ。差は圧倒的だと想像できる。

では「半島雪解け」が進むと、どちらの可能性が高まるだろうか。これはケースBだろう。北朝鮮の体制が安定するので、北朝鮮が崩壊する形での統一は遠のく。平和的な統一の可能性は多少高まるだろうが、この場合は長く時間がかかるだろう。

米朝が軍事衝突すれば北朝鮮崩壊の可能性は一気に高まるので、この場合は韓国債の利回りが急上昇するのも分かる。今起きているのは、どちらかと言えばこれとは逆の緊張緩和だ。長期金利が落ち着いているのも頷ける。

だが、梶原氏にはその落ち着きが「」らしい。もう少し続きを見ていこう。

【日経の記事】

この謎を解こうと、韓国に精通する市場関係者や外交関係者と議論を重ねるうちに、ある仮説が浮かんだ。「金利の上昇を政府が食い止めている」がそれだ。

中略)仮説に基づくと、韓国の政策も説明しやすくなる。まず金融政策。韓国銀行(中央銀行)は昨年11月、6年ぶりの利上げに転じたが、その後は追加利上げを見送ってハト派を決め込んでいる。

資金負担そのものを軽くする外交も動き始めた。5月にはアジア開発銀行(ADB)に対し、半島問題で大きな役割を果たしてくれるよう期待を表明した

4月の南北首脳会談の2日後には、会談に同席した高官を安倍晋三首相のもとに送って、詳細を説明している。南北会談では文在寅・韓国大統領が日本人の拉致問題も取り上げた。02年の「日朝平壌宣言」には国交正常化後の日本による経済協力を盛り込んでおり、その規模は数兆円とも取り沙汰された。韓国の日本への配慮は「資金面では力を貸してほしい」というメッセージに見える

債券市場が沈黙しているのは、金利上昇を食い止める政府の働きかけがうまくいくと、マネーが信じているからに違いない。


◎「金利の上昇を政府が食い止めている」?

梶原氏は「金利の上昇を政府が食い止めている」という「仮説が浮かんだ」らしい。では、どうやって「食い止め」ているのか。
身延桜(妙法寺のしだれ桜、福岡県うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

韓国銀行(中央銀行)は昨年11月、6年ぶりの利上げに転じたが、その後は追加利上げを見送ってハト派を決め込んでいる」ことをまず挙げている。仮に韓国政府が中央銀行を自由に操って「追加利上げ」をさせないように縛っているとしよう。

だとしても市場で売り圧力が強いのならば、長期金利は上昇する。利下げするならば別だが、「追加利上げ」をしないだけで長期金利を抑えられるのか。

これ以外に、政府によるまともな「食い止め」策は出てこない。「アジア開発銀行」と「日本」の話はいずれも4月以降だ。3月まではどうやって「食い止め」たのだろう。「追加利上げ」の見送りだけで抑え込んだのか。かなり無理がある。

しかも「アジア開発銀行」の件は「半島問題で大きな役割を果たしてくれるよう期待を表明した」という漠然とした話だ。日本に関しては「韓国の日本への配慮は『資金面では力を貸してほしい』というメッセージに見える」という梶原氏の裏読みに過ぎない。

国債への売り圧力が高まる状況で、この程度のことで長期金利の上昇を抑えられるならば苦労はない。

これまで見てきたように、そもそも韓国債の利回りはそれほど低くないし、上がるのが当然の局面でもない。なのに強引に「上がるのが当然」との前提を設定して「」を作り出し「政府が食い止めている」というストーリーに仕上げているのではないか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~半島雪解け、沈黙する金利
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180608&ng=DGKKZO31500290X00C18A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

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