2019年11月30日土曜日

井上智洋 駒沢大准教授による日経ビジネス「気鋭の経済論点」の問題点

日経ビジネス11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』」という記事はツッコミどころの多い内容だった。筆者である駒沢大学経済学部准教授の井上智洋氏に問題があるのだとは思うが、構成を担当した中山玲子記者の責任も重い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

問い合わせから11日が経ってようやく回答が届いた。質問も含む形となっている回答の内容を紹介したい。


<日経ビジネス編集部の回答>

いつも日経ビジネスをご愛読いただき、誠にありがとうございます。11月18日号の「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力決める『頭脳資本主義』」について、お寄せ頂いたご質問につき、以下、回答させていただきます。

(1)「ユニコーン」の定義について

【ご質問】

記事では中国企業に関して「時価総額が1000億円以上の未上場企業であるユニコーンが次々と生まれた」と記しています。「ユニコーン」と見なす基準は一般的には「時価総額が10億円ドル以上」です。御誌の9月16日号にも「未上場ながら企業価値が10億ドルを上回る『ユニコーン』」との記述が見られます。「時価総額が1000億円」では今の為替相場で計算すると「10億ドル」に届きません。

「ユニコーン」を「時価総額が1000億円以上の未上場企業」とするのは誤りではありませんか。あるいは9月16日号の説明が間違っているのでしょうか。

【ご回答します】

読者が理解しやすいように、日本円で表記いたしました。また、金額の数字についても、
読者の理解しやすさなどを総合的に判断し、「1000億円」と表現いたしました。
頂戴したご指摘は今後、参考にさせていただきます。ありがとうございます。


(2)1860~1914年の「覇権国家」について

【ご質問】

記事に付けた表によると「1860~1914年」の「第2次産業革命」で言えば「そのときの覇権国家」は「米国(ドイツ)」です。常識的には、第1次世界大戦を契機として英国から米国への「覇権」交代が起きたのではありませんか。世界システム論で知られる米国の社会学者イマニュエル・ウォーラーステイン氏などもこの立場です。

 「そのときの覇権国家」に明確な基準はないとは思いますが、一般的な認識とかけ離れていませんか。「1860~1914年」の「覇権国家」を「米国(ドイツ)」と理解して大丈夫ですか。記事のような説明が幅広く受け入れられているのならば、自分の歴史認識の方を改めなくてはと思っています。

【ご回答します】

表の「1860~1914年」というのは、覇権国家の時期ではなく、第2次産業革命の時期を表しています。また、「米国(ドイツ)」というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります。なお、(ドイツ)とありますのは、覇権を握ろうとしてドイツが失敗したということを表しております。表には「時期」と表示しましたが、もう少し詳しく書いた方が理解しやすかったかもしれません。ご指摘ありがとうございます。


(3)「デフレマインドが浸透」した時期について

 【ご質問】

記事には「インターネット元年といわれた1995年ごろ、日本はバブルが崩壊した後で、デフレマインドが浸透し、企業は守りに入ってしまったのだ」との記述があります。これを信じれば「1995年ごろ」には既に「デフレマインドが浸透」していたはずです。

日本で「持続的な物価下落という意味でのデフレ状況」にあると月例経済報告に記載されたのは2001年です。「1995年ごろ」にも「デフレ」的な傾向はあったでしょうが、日本全体に「デフレマインドが浸透」するのは「デフレ」に陥ってしばらく経ってからのはずです。

「デフレマインドが浸透」した時期を明確に判断するのは難しいでしょうが、「1995年ごろ」に「デフレマインドが浸透」していたと見なすのは無理がありませんか。

【ご回答します】

一般的にはデフレ開始年は1998年とされていますが、ディスインフレ(低いインフレ率の状態)も広い意味ではデフレ的状態であると捉えました。とはいえ、「インターネット元年といわれた1995年ごろ」は、「インターネット元年といわれた1995年以降」とした方が、誤解がなかったかもしれません。ご指摘、誠にありがとうございます。


(4)「スマイルカーブ理論」について

【ご質問】

2013年1月21日付の「日経ものづくり」の記事によると「スマイルカーブ理論」とは
「バリューチェーンの上流工程(商品企画や部品製造)と下流工程(流通・サービス・保守)の付加価値が高く、中間工程(組立・製造工程)の付加価値は低いという考え方を示している」はずです。他の用語解説を見ても、似たような内容になっています。

しかし、今回の記事は違います。「上流、下流に位置する研究開発や設計デザイン、マーケティングは付加価値が高いのに対し、中流にある組み立てや部品、小売りは低くなるというものだ」となっています。

日経ものづくりを信じれば「小売り=流通」は「付加価値が高く」なりますが、御誌の記事では逆です。御誌では「部品」も「付加価値」が低いとの位置づけです。一方、日経ものづくりでは「部品製造」を「付加価値が高く」なる「上流工程」としています。

常識的に考えると「流通・サービス・保守」を「下流工程」とする日経ものづくりの説明の方が正しそうです。今回の「スマイルカーブ理論」に関する説明は誤りではありませんか。いずれの記事にも問題がないのならば、2つの記事の食い違いをどう理解すればよいのか教えてください。

【ご回答します】

スマイルカーブでの各ビジネスの配置について、「組み立て」や「部品」、「研究開発」を、掲載させていただいたグラフのように位置付けたため、記事中にあるような表現になりました。

いただいたご指摘は、今後の参考にさせていただきます。ありがとうございます。


 (5)「頭脳資本主義」について

【ご質問】

「AIの普及によって、労働者の頭数ではなく労働者の知的レベルが、一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益を決定づける『頭脳資本主義』の時代が到来しつつある」との記述から判断すると、これまでは「労働者の頭数」で「一国のGDP(国内総生産)や企業の売り上げ・利益」が決まっていたと井上様は考えているのでしょう。

これは解せません。「GDP」で考えてみましょう。「労働者の頭数」で決まるとするならば、米国と中国ではどちらの「GDP」が多くなるでしょうか。もちろん中国です。そうなっていますか。

日本とインドではどうでしょう。「労働者の頭数」ではインドが上回りますが「GDP」
でも日本を凌駕していますか。「労働者の知的レベル」なども含めて「GDP」が決まっていく時代を「『頭脳資本主義』の時代」と呼ぶならば、ずっと前からそうだったのではありませんか。

【ご回答します】

今後は、人口が少ない国でも多い国のGDPを上回るということが、顕著な形で現れるというのが、「頭脳資本主義」の持つ意味になります。これまでも、労働者の知的レベルがGDPなどに影響する傾向はありましたが、今後はさらにこうした傾向が強まってくるといったことを記事では説明をしております。


いつも弊誌をお読みいただき、感謝申し上げます。頂戴したご質問は、今後の参考にさせていただきます。引き続き、日経ビジネスをどうぞよろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇

回答内容そのものはかなり苦しい。「『米国(ドイツ)』というのは、第2次産業革命をきっかけに覇権を握った国という意味になります」と言うが、表のタイトルには「そのときの覇権国家」と明記している。また「スマイルカーブ理論」については質問に答えているとは言い難い。

しかし、それはそれでいい。「外部ライターの記事もしっかりチェックしなければ…」と中山記者が教訓を得てくれることを願う。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~世界の天才集める中国 国力を決める『頭脳資本主義』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00123/00032/


※記事の評価はD(問題あり)。井上智洋・駒沢大学経済学部准教授への評価は見送る。中山玲子記者への評価はDで確定とする。中山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「パナソニックの祖業=自転車」が苦しい日経ビジネス中山玲子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_25.html

2019年11月29日金曜日

「ドイツでは可能な理由」を分析しない日経 武智幸徳編集委員の不思議

「何のために最初にフランクフルトの話を持ってきたのか?」--。日本経済新聞の武智幸徳編集委員が29日の朝刊スポーツ面に書いた「アナザービュー~『緩衝地帯』は必要ですか」という記事を読んで、そう思わずにはいられなかった。
姪浜渡船場(福岡市)※写真と本文は無関係

記事の全文を見た上で、なぜそう感じたのか説明したい。


【日経の記事】

11月23日、ドイツでブンデスリーガの試合を見た。ホームのフランクフルトは長谷部誠がフル出場し、鎌田大地も後半から登場。5万700人の観客で大盛況だった。

フランクフルトのスタジアムは2006年ワールドカップ(W杯)で5試合に使われ、入場者は常に4万8000人と発表された。W杯はすべてのチケットが指定席として売られ、世界中のVIP、取材・放送関係者の席も確保しなければならない。当時はそれがファンに用意できる最大限だったのだろう。

フランクフルトの試合では自軍ゴール裏の椅子を取り外し、立ち見にできる(欧州連盟管轄の試合は除く)。実際、そこはクラブカラーの黒で塗りつぶされていた。

残り2節となった今季のJリーグ。12月7日の最終節、横浜MとFC東京の直接対決に優勝決定が持ち越されたら、日産スタジアムはどんなことになるのか。今から楽しみでしかたない。

同スタジアムの最多入場者記録は02年W杯日韓大会決勝の6万9029人(ブラジル対ドイツ)だった。それを11月2日のラグビーW杯決勝が7万103人(イングランド対南アフリカ)で更新したばかり。どちらにしても代表戦が1位、2位を占めている。それをJリーグが塗り替えたら、これは結構愉快だろう。

代表は誰にとっても「マイチーム」かもしれない。それとは別に「マイクラブ」を持つ幸せを創設から26年間、ずっとJリーグは唱えてきた。記録更新はそれを象徴する話に思えるから――。

なんて、独りで力が入っていたが、どうやら記録更新は難しいらしい。座席の数だけ売れない事情がもろもろあるようなのだ。サポーター同士の国境紛争を避けるため、アウェー側に設ける空席の緩衝地帯もその一つ。席数でざっと1500くらいになるというから大きなマイナス材料だ。

W杯は高額なチケットにカネを払えるいちげんさんが増え、民度の高まり? とともに呉越同舟にしても騒動は起きにくくなった。が、クラブ同士の戦いは依然として可燃性は高く、衝突を避けるために緩衝地帯は必要と言われたら従うしかない。見たいサポーターはいるのに、サポーターの安全のために売れない席がある。空席は何の代償なのか、釈然としない気持ちを抱えながら


◎せっかくドイツに行ったのならば…

フランクフルトのスタジアムは2006年ワールドカップ(W杯)で5試合に使われ、入場者は常に4万8000人」。そして「11月23日」の「ブンデスリーガの試合」では「5万700人」と「W杯」を上回っている。

一方、「日産スタジアム」はサッカーでは「02年W杯日韓大会決勝の6万9029人」が最多で、「Jリーグ」の試合がどんなに人気でも「記録更新は難しいらしい」。それは「アウェー側に設ける空席の緩衝地帯」が理由の1つだと武智編集委員は教えてくれる。

ここまではいい。しかし「なぜドイツではできて日本では無理なのか」を武智編集委員は分析してくれない。

クラブ同士の戦い」は「可燃性」が高いと言うが、それは「ブンデスリーガ」も同じではないか。イメージ的には「ブンデスリーガ」の方が危なそうな気がする。

実際には「ブンデスリーガ」の「可燃性」が低いのか。「可燃性」が高くても気にせず観客を詰め込んでいるのか。「緩衝地帯」以外の対策で「可燃性」の高さに対応しているのか。

あるいは「緩衝地帯」を設けながらも何らかの方法で観客席を増やしているのか。「自軍ゴール裏の椅子を取り外し、立ち見にできる」ことが影響しているのかもしれないが、どの程度の効果があるのかは書いていない。「Jリーグ」では「立ち見」への対応がどうなのかも触れていない。

結局、「ブンデスリーガ」ではできて「Jリーグ」ではできない理由は分からないままだ。その分析をサボって何のための編集委員なのか。「空席は何の代償なのか、釈然としない気持ちを抱え」ているのならば、なおさらしっかり考えてほしかった。



※今回取り上げた記事「アナザービュー~『緩衝地帯』は必要ですか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191129&ng=DGKKZO52751540Y9A121C1UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを維持する。武智編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_21.html

日経 武智幸徳編集委員はスポーツが分かってない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_43.html

日経 武智幸徳編集委員は日米のプレーオフを理解してない?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_76.html

「骨太の育成策」を求める日経 武智幸徳編集委員の策は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_87.html

「絶望には早過ぎる」は誰を想定? 日経 武智幸徳編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_4.html

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_2.html

日経 武智幸徳編集委員は「フィジカルトレーニング」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_14.html

W杯最終予選の解説記事で日経 武智幸徳編集委員に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post.html

「シュート選ぶな 反則もらえ」と日経 武智幸徳編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_30.html

2019年11月28日木曜日

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

本社コメンテーターの肩書で記事を書いている日本経済新聞の秋田浩之氏によると「13世紀にはイスラム教の元王朝が生まれた」らしい。しかし「元王朝」が「イスラム教」の「王朝」だったイメージはない。記事の説明で正しいのか以下の内容で問い合わせてみた。
のこのしまアイランドパークのコスモス
       ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 秋田浩之様

28日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~中国接近、教皇への期待」という記事についてお尋ねします。記事には「7世紀に始まる中国への(キリスト教の)伝道の歴史で、危険が伴わなかったことなどない。13世紀にはイスラム教の元王朝、1949年には共産党政権が生まれた」との記述があります。

問題としたいのは「イスラム教の元王朝」という説明です。一般的に「元王朝」はチベット仏教との関係が深いとされています。ニコニコ大百科では「元王朝」について「フビライがチベット仏教の僧パスパを重く用いて以来、代々の皇帝はチベット仏教や中国仏教(禅宗)のため、莫大な国費を使っていた」と記しています。

パスパ」は「チベット仏教(ラマ教)サキャ派の祖師。初めて中国、元(げん)の帝師となった」(日本大百科全書)人物です。「元王朝」は「イスラム教」など他の宗教に寛容だったようですが、「イスラム教の元王朝」と言えるほど「イスラム教」が力を持っていたとは思えません。

13世紀にはイスラム教の元王朝が生まれた」との説明は誤りではありませんか。一般的に知られている歴史的事実と乖離しています。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~中国接近、教皇への期待
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191128&ng=DGKKZO52675730X21C19A1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

2019年11月27日水曜日

「親子上場」だと「資本効率が下がる」? 日経 佐藤亜美記者の誤解

日本経済新聞の佐藤亜美記者は「親子上場」への誤解があるようだ。27日の朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~親子上場解消に期待感 日立再編、資本効率向上に関心」という記事を読むと、それがよく分かる。
能古渡船場(福岡市)※写真と本文は無関係

最初の段落から誤解が見える。

【日経の記事】

日本株市場の特有の課題である「親子上場」への関心が高まっている。日立製作所や三菱ケミカルホールディングスなど大手企業が、中核子会社の売却や完全子会社化に動いたためだ。企業の多くは2019年度の下半期以降に業績の「V字回復」を目指しているが、世界景気には不透明感が募る。おのずと資本効率を高める取り組みが注目を集めやすい。


◎「日本株市場の特有の課題」?

親子上場」は「日本株市場の特有の課題」なのか。一橋大学特任教授の藤田勉氏によると「日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する」(週刊エコノミスト2019年11月5日号)。

ビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)のアジア子会社は30日、香港取引所に株式上場した」と日経も9月30日付で報じている。こうした点を考慮すると「日本株市場の特有の課題」と言い切るのは無理がある。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

少数株主の意見が軽んじられるとみられがちで、親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる親子上場は、投資家の評価が低い。


◎必ず「資本効率が下がる」?

親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる親子上場」と佐藤記者は言い切っている。本当に「資本効率が下がる」だろうか。

毎年10億円の利益を生むA社の全株式を1000億円でB社が買い取ったとしよう。投資額に対する年間リターンは1%。これで「資本効率」を測ると仮定する(他の測り方ももちろんある)。

買収後に「親子上場」に踏み切って半分の株式を市場に出した場合どうなるか(単純化のため税金などは考慮しない。株式の価値も不変とする)。B社に帰属する利益は半分の5億円になるので年間リターンが0.5%になり「資本効率が下がる」と佐藤記者は見ているのではないか。

しかしA社の上場によってB社には500億円の資金が入ってくる。これを高いリターンが見込める分野に投資すれば「資本効率」は逆に良くなる。例えば500億円で新たにC社を設立して、年間10億円の利益を生み出すようになったらどうか。

1000億円の投資額に対して年間15億円の利益が得られるのでリターンは年1.5%だ。「親子上場」によって「親会社の株主にとって」も歓迎すべき結果となった。

もちろんC社の事業が失敗に終わる可能性もある。なので「資本効率が下がる」こともある。とは言え、「親子上場」だから「利益が外部に流出して資本効率が下がる」と単純に判断するのは間違っている。

付け加えると、「親子上場」が抱える問題点は親会社の「資本効率」を高める方向に働くのではないか。「親子上場」の場合、上場子会社の「少数株主の意見が軽んじられる」リスクは確かに高い。裏返せば、支配株主である親会社に有利に働きやすいとも言える。

先述した例で考えてみよう。親会社のB社がA社との取引条件などを自社有利に変更してA社の利益をゼロにする。そうなると、A社の10億円の利益は実質的にB社に移し替えられる。さらに自由に使える500億円の資金が手に入る。「親子上場」を悪用すれば、親会社の「資本効率」を高めて「親会社の株主に」有利に持っていける。

それでも「親子上場」を「親会社の株主にとっては利益が外部に流出して資本効率が下がる」と断定すべきだろうか。


※今回取り上げた記事「スクランブル~親子上場解消に期待感 日立再編、資本効率向上に関心
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191127&ng=DGKKZO52630250W9A121C1EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤亜美記者への評価も暫定でDとする。「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_29.html

2019年11月26日火曜日

東洋経済 長瀧菜摘記者とダイヤモンド大矢博之記者 しっかり書けているのは…

週刊東洋経済の長瀧菜摘記者と週刊ダイヤモンドの大矢博之記者。記事の書き手としての技術が上なのはどちらかと聞かれたら、大矢記者だと答える。ヤフー・LINEの経営統合に関する記事をそれぞれの11月30日号に書いたのが、この2人だ。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

まずは長瀧記者が書いた「深層リポート01~ヤフー・LINEが統合 国内ガリバー飛躍の条件」という記事の一部を見ていく。

【東洋経済の記事】

11月18日、ヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)とLINEは経営統合を発表。来年10月をメドにLINEはZHDの傘下に入る。現在のZHDとLINEの親会社であるソフトバンク、韓国NAVERとともに、さまざまな分野での協業を進める。



◎誤解を招く書き方

ヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)とLINE」と書くと「Zホールディングス(HD)とLINE」の「傘下」に「ヤフー」がいるとも取れる。もちろん「LINE」は「ヤフーを傘下」に持っていない。

さらに問題なのが「現在のZHDとLINEの親会社であるソフトバンク、韓国NAVER」というくだりだ。「ZHD」の「親会社」が「ソフトバンク」で「INE」の「親会社」が「韓国NAVER」なのだが、そのことを知らずに読んだ場合、解読にかなり迷うはずだ。

自分ならば「現在の『ZHDとLINE』の親会社であるソフトバンク」&「韓国NAVER」と理解してしまう気がする。「LINEの親会社であるソフトバンク」と明確に書いているので、「LINEの親会社」が「韓国NAVER」である可能性は考慮しないだろう。

では週刊ダイヤモンドの大矢記者はどう書いているのか。「Close Up~『対等の精神』強調もサービス整理は必至 ヤフー、LINE経営統合」という記事では以下のようになっている。

【ダイヤモンドの記事】

ソフトバンクグループでZHD傘下のヤフーと、メッセージアプリ大手のLINEが経営統合することで基本合意した。ZHDの親会社のソフトバンクと、LINEの親会社である韓国ネイバーが50%ずつ出資して合弁会社を設立。傘下にZHDを置き、ヤフーとLINEを子会社にする。2020年10月の統合完了を目指す。



◎こちらは問題なし

何の問題もない。「ソフトバンクグループでZHD傘下のヤフーと、メッセージアプリ大手のLINE」のくだりで「ヤフーと、」と読点を打っている辺りに「誤解を与えない書き方をしなくては」という配慮も見える。長瀧記者との差は明らかだ(記事をチェックした人間の差かもしれないが…)。

長瀧記者にはぜひライバル誌の記事と自分の書いた記事を読み比べてほしい。そして「どちらが読みやすいか。どちらが誤解を招きにくいか」を考えてみることだ。「文章を扱うプロ」と呼べるレベルの書き手を目指すのならば、そこは避けて通れない。


※今回取り上げた記事

深層リポート01~ヤフー・LINEが統合 国内ガリバー飛躍の条件
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22216

Close Up~『対等の精神』強調もサービス整理は必至 ヤフー、LINE経営統合
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28125



※東洋経済の記事の評価はD(問題あり)。ダイヤモンドの記事の評価はC(平均的)。長瀧菜摘記者への評価は暫定Cから暫定Dへ引き下げる。大矢博之記者への評価はCを据え置く。

2019年11月25日月曜日

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題

日本経済新聞の大林尚上級論説委員は問題の多い書き手だ。25日の朝刊オピニオン面に載った「核心~桜を見る会と規制改革の妙」という記事でも、その評価は変わらない。訴えたいことがないのに出番が回ってきたので、あれこれ書いて紙面を埋めただけにしか見えない。
鎮西身延山本佛寺(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

まず「桜を見る会と規制改革」を上手く結び付けられていない。そして、昔話などを交えつつ「それはそうでしょうね」的な結論へと導いていく。

長くなるが、記事を見ながら問題点を指摘していきたい。

【日経の記事】

4週間前がずっと昔のようだ。安倍晋三首相の信任厚い経済産業省の幹部と80年代アイドル菊池桃子さん結婚の報に、これで10月の2閣僚辞任による政権への風当たりが弱まると期待をふくらませたのは、ぬか喜びだったか


◎そんな効果ある?

経済産業省の幹部と80年代アイドル菊池桃子さん」の「結婚」で「政権への風当たりが弱まる」効果が「期待」できるのか。「閣僚」の結婚ならまだ分かるが…。

期待をふくらませた」のが誰か明示していないのも引っかかる。大林上級論説委員が「期待をふくらませた」とも取れる書き方だ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

世論は熱しやすく冷めやすい。間髪を置かず表面化した桜を見る会をめぐる騒動に、ニコポン宰相の異名をとった桂太郎を抜いて在任期間首位に立った首相の心中いかばかりか。山口県から参加した政治家の多くが、見る会の様子をつづったブログやツイッターの写真を消したが、その必要があったとも思えない。

春爛漫(らんまん)の空の下、芸能人やアスリートも駆けつける首相主催の会に招かれれば、誰だって写真をアップしたくなる。いまさら隠すこともあるまい。主催者側からみれば、見る会は支持者へのサービスに打ってつけの舞台であった。

10月、首相の諮問機関である規制改革推進会議が発足した。裏方を担当する内閣府は会議の形式と運営に3つの変更をくわえた。(1)旧会議は3年の設置期限があったが常設にした(2)3年だった委員の任期を2年に縮めた(3)15人以内だった委員の定員を20人以内に増やした――である。これらを盛り込んだ政令の閣議決定を経て、同31日に首相官邸で顔合わせがあった。

それがお開きになり、首相と官房長官は委員と握手してまわった。委員のなかには初めて官邸に足を踏み入れた人がいた。内閣改造のときに首相と閣僚らが記念撮影をする階段やホワイエを背に、スマホで自撮りするつわものもいたと聞く。さすがにアップは自重しただろうが。

見る会の地元ゲストの立場にどこか似てはいないだろうか。政権にしてみれば、委員への任命はシンパを増やすチャンスになりうる。定員増と任期短縮がその機会に接する人を増やすというのは、うがった見方かもしれないが。

官邸の意向がどうであれ、委員への就任を断った人がいた。「取締役としての本業と老親の介護が多忙につき」が理由だが、規制の厚い岩盤を穿(うが)つ改革に期間を区切ってきちんと結果を出せるのか、一抹の不安があったという。会議が19人で船出したのはこのハプニングゆえだ。

規制改革の源流をたどると細川護熙氏にゆき着く。熊本県知事だったときにバス停を10メートル動かすのに運輸省のハンコがいることに驚き、改革に発奮するようになった。93年に首相の座に就くと、平岩外四経団連会長に構造改革の方針をまとめるよう諮問する。



◎話のつながりが…

上記のくだりは話のつながりがあまりない。

桜を見る会」と「規制改革推進会議」は「シンパを増やすチャンスになりうる」という点で似ていると2つを関連付けてはいる。そこまではいい。そこからどう展開するかだ。

しかし「委員への就任を断った人がいた」という話に移ってしまう。この件は記事の中で完全に浮いている。無駄な段落と言ってもいい。

そして「規制改革の源流をたどると細川護熙氏にゆき着く」と昔話が始まる。もう「桜を見る会」と絡める気はないようだ。

昔話の続きを一気に見ていこう。

【日経の記事】

こうして公表された平岩リポートをもとに、総理府が行政改革委員会をつくったのが94年。その翌年、椎名武雄日本IBM会長を座長に規制緩和小委員会が発足した。

改革に脂が乗った時期は、宮内義彦オリックス会長(現シニア・チェアマン)が椎名氏の後を襲った96年からの10年あまりだ。その後半は構造改革を旗印にかかげた小泉政権と重なった幸運もあった。

金融や通信など経済規制のみならず、医療や教育を含めた社会規制にも矛を向け、規制の根拠や改革を担当官庁に突きつめる。時に官の荒唐無稽をあぶり出するやり方を定着させた。

保育所に調理場の併設義務があるのは「子供がちゃんとした大人になるため」という迷答を厚生労働官僚から引き出したことがある。「岩盤規制」は宮内氏の造語だった。議長のバトンはその後、草刈隆郎日本郵船会長、岡素之住友商事相談役、大田弘子政策研究大学院大教授――に継がれてきた(肩書は当時)。

この間、ほぼ共通していたのは、少なからぬ委員の人選に議長の意を映すしくみがあった点だ。裏方を担う内閣府の事務局に目端が利く民間人材を送り込む議長もいた。

改革の成否は時の政権の本気度にも左右されるため、それぞれに濃淡ある。なにしろ会議が攻め込むべき本丸は、野党よりも与党の族議員である。首相や担当相が族の意向をおもんぱかれば、会議の勢いはそがれる。

幾多の苦難があった。11分野・計1797項目におよぶ改革を実行しようとした椎名氏は、規制に守られた業界と族議員の抵抗に体調を崩すことがあった。宮内氏は議長降ろしのための怪文書をまかれたり、本人のあずかり知らぬところで「辞めるハラを固めたようです」などと担当相が首相に耳打ちしたりされた。

族議員などのこうした横やりは、会議委員に結束を固める副次効果をもたらしたが。


◎行数稼ぎはできているが…

自分の知っている昔話で行数を稼いで何とか終わりに近付いてきた。しかし訴えたいことはまだ見えてこない。「桜を見る会と規制改革の妙」を上手く読者に見せられるだろうか。記事の終盤を見ていこう。

能古島(福岡市)から見た博多湾
      ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

新しい会議の議長、小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長は経済同友会代表幹事を退いて間もない改革派の経済人だ。官邸会議の常連でもある。ただし、ほかの政府審議会と色合いがいくぶん違う点には注意がいるだろう。

多様な意見を反映させるために、多くの審議会の人選は事務局官僚がバランスのとれた差配をするのが通例だ。一方、規制改革はすべての委員が同じ一点を見据えて岩盤を砕かなければ、はかばかしい成果はあげられない。

加計(かけ)学園の問題でつまずいた国家戦略特区にみられるように、改革をつぶしにかかる勢力は顕在だ。これに対する陣形は、ビジネスの現場を知り尽くす経済人が先陣、法と経済学を駆使する学識者と改革派官僚が参謀、議長は大将といったところだ。

桜を見る会と違って求められるのは改革の成果だけだ。四半世紀近く規制改革を取材してきて、心からそう思う



◎それはそうでしょうが…

桜を見る会」と絡めなくてはいけないのに、ほとんどできていないという意識はあるのだろう。最後に取って付けたように「桜を見る会と違って」と入れている。

これで「桜を見る会と規制改革の妙」という見出しを付けて恥ずかしくないのだろうか。自分が筆者だったら、穴があったら入りたい気分になる。

四半世紀近く規制改革を取材」してきたのに「求められるのは改革の成果だけだ」という結論を導いているのも辛い。

まず当たり前すぎる。そこを許すとしても「桜を見る会」を持ち出さなくても導ける結論だ。「桜を見る会」と絡めるならば、絡めたからこそ導ける結論が欲しい。

読者は長いコラムを読んで最後に「桜を見る会と違って求められるのは改革の成果だけだ。四半世紀近く規制改革を取材してきて、心からそう思う」という結論に触れる。個人的には「訴えたいことがないんだな」としか思えない。

ついでに言うと「規制改革」で「議長は大将」というのも解せない。「大将」の役割を果たすべきなのは「首相」ではないのか。


※今回取り上げた記事「核心~桜を見る会と規制改革の妙
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191125&ng=DGKKZO52504670S9A121C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

2019年11月23日土曜日

取材不足では? 日経ビジネス「上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」

日経ビジネス11月25日号に載った「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ」という記事には期待してしまった。このニュースを聞いた時に自分も同じく「なぜ」と思ったからだ。しかし、この記事が期待に応えてくれたとは言い難い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

東芝は11月13日、上場子会社3社を総額2000億円で完全子会社化すると発表した」ものの「東芝テックは対象外」。確かに「不可解」だ。佐伯真也記者と竹居智久記者はこの謎にどう迫ったのだろうか。記事の一部を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

「資本政策についてはコメントできないが、取り込まなくてもテックの重要性は変わらない」。TOB発表翌日に開いたIR(投資家向け広報)説明会。東芝でCDO(最高デジタル責任者)を務める島田太郎執行役常務は東芝テックについて歯切れが悪かった。

◇   ◇   ◇

東芝」の「IR説明会」ではまともな説明がなかった。それは分かった。

さらに当該部分を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

東芝の車谷会長は東芝テックについて「持続的な企業価値の向上施策について日々話し合いをしているが、現時点で持ち分の変動は考えていない」と話す。同社株は年初から7割ほど上昇しており、単純に「高値づかみ」を避けたかったのかもしれない。


◎謎が残るにしても…

なぜ」に関するヒントらしきものは、上記のくだりだけだ。結局、記事を最後まで読んでも「『高値づかみ』を避けたかったのかもしれない」という推測しか出てこない。

きちんと答えを出せとは言わない。謎が残ったままでも仕方がない。だが、やはり頑張って謎に迫ってほしい。

今回の記事で残念なのが、東芝関係者に独自取材しようとした形跡がうかがえないことだ。「車谷会長」のコメントも記者会見でのものだと思われる。

結局は何も教えてくれないとしても、聞き出そうとする努力は欲しい。やったけれどダメだったのならば、それを記事に盛り込んでほしい。

記事には「『経営戦略との整合性が感じられない』。複数のアナリストは、東芝が発表した資本政策に疑問の声を上げる」とのくだりもある。東芝の関係者に当たって成果がなければ「複数のアナリスト」に「東芝テックだけ例外なのはなぜだと思いますか」と聞いてみる手もある。

そこでダメならば、佐伯記者と竹居記者であれこれ知恵を絞ってみてもいい。「全部やった。それでも『高値づかみを避けたかったのかも』しか出てこなかった」と言うのだろうか。だとしたら記事にするのは諦めた方がいい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~東芝、上場子会社再編で東芝テック対象外のなぜ
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00417/


※記事の評価はD(問題あり)。竹居智久記者への評価は暫定でDとする。佐伯真也記者への評価はDを据え置く。佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_10.html

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_17.html

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

「みんなのタクシー」は本当に「順調」? 日経ビジネス佐伯真也記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_17.html

2019年11月22日金曜日

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問

ジャーナリストの大西康之氏に関しては「取り上げた問題についてちゃんと理解しているのか」との疑念が拭えない。FACTA12月号の記事でも、やはりおかしな説明をしている。FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

12月号の「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『投資会社』を謳うソフトバンクグループ(SBG)が投資で躓いた。孫正義社長が10兆円の大風呂敷を広げたソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は、米シェアオフィス大手、ウィーワークの株式評価損などが響き2019年7月~9月期、5726億円の赤字に転落

上記の説明は3つの意味で誤りではないかと考えています。

(1)SVFだけの「赤字」ですか?

SBG」の第2四半期決算短信を見ると「ソフトバンク・ビジョン・ファンドおよびデルタ・ファンドからの営業損失が5,726 億円」と出てきます。記事で言う「5726億円の赤字」とはこれを指すと思われます。ただ「SVF」と「デルタ・ファンド」の合計です。

SVF」だけで「5726億円の赤字」とする説明は誤りではありませんか。


(2)SVF全体の「赤字」ですか?

記事の説明を信じれば「SVF」全体で「5726億円の赤字」になったはずです。しかし決算短信を見ると「SBG」に与えた損失が「5726億円」だと取れます。

短信によると、「SVF」への出資コミットメントは「SBG」が331億米ドルで、外部投資家が655億米ドルとなっています。「SVF」全体の「赤字」額を決めるためには外部投資家の出資分についても見る必要があるはずです。

5726億円」を「SVF」全体の赤字額とする説明は誤りではありませんか。


(3)「7月~9月期」の赤字ですか?

まず「7月~9月期」は「7~9月期」とした方が良いでしょう。

短信によると「ソフトバンク・ビジョン・ファンドおよびデルタ・ファンドからの営業損失が 5,726 億円」と言うのは「9月30日に終了した6カ月間」の数値です。しかし大西様は「2019年7月~9月期、5726億円の赤字に転落」と書いています。

記事には「18年上期、6324億円の営業利益を稼いだSVFが、今年の上期は一転、5726億円の赤字に転落した」と「5726億円の赤字」を「今年の上期」の数値とする説明も出てきており、矛盾が生じています。

7月~9月期」に「5726億円の赤字」との説明は誤りではありませんか。

せっかくの機会なので、最後の段落にも注文を付けておきます。

世界のマネー市場は金融緩和の大雨で水が溢れている。どこで堤防が崩れてもおかしくない状況下、主要都市の不動産相場を支えるウィーワークは、地域を水害から守る『遊水池』さながらだ。ここが決壊したら世界中が水浸しになる。孫社長は1兆円を追い貸しして、ウィーワークを支えるしかない。進むも地獄、退くも地獄だ

この例えは理解に苦しみました。「マネー市場」が具体的に何を指すのか明確ではありませんが、ここで言う「」とは「マネー」のことでしょう。「金融緩和の大雨で水が溢れている」のに「マネー」は「堤防」に守られて「マネー市場」に留まっているのですか。ちょっと考えにくい気はします。

とりあえず、「堤防」が機能して「マネー市場」以外では「水が溢れて」いないと仮定しましょう。「ウィーワーク」が「決壊したら世界中が水浸しになる」のならば、これまで「マネー市場」にしか「溢れて」いなかった「マネー」が広く「マネー市場」の外に流れていくので「金融緩和」の効果が高まるはずです。「進むも地獄、退くも地獄」とは感じられません。

ただ、「ここが決壊したら世界中が水浸しになる」という因果関係が成立するとは思えません。「ウィーワーク」が破綻すると「マネー」が「マネー市場」以外にも流れるでしょうか。「ウィーワーク」が世界経済を動かす程の巨額の「マネー」を貯め込んでいるのならば別ですが、資金繰りに苦しむ経営難の1企業に過ぎません。

大西様としては、「ウィーワーク」が破綻したら「世界中」の経済に大きな悪影響が出ると訴えたかったのでしょう。しかし、例えに問題があるために、かえって分かりにくくなっていませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視して記事中のミスを放置する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ
https://facta.co.jp/article/201912010.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

2019年11月21日木曜日

日経「フィデリティ証券、投信販売手数料を撤廃」に感じる怪しさ

21日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「フィデリティ証券、投信販売手数料を撤廃~来月から 助言手数料新設へ 長期投資促す」という記事は怪しい臭いがする。「長期投資促す」などと日経は持ち上げているが、投資家にとっては筋の悪い話だと考える方が自然だ。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
           ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら疑問点を述べてみたい。

【日経の記事】

外資系のフィデリティ証券は投資信託を販売する際の手数料を12月から撤廃する。取り扱う45の運用会社による656の投信すべてが対象。販売手数料を収益源としていると、顧客に不要な売買を促すインセンティブが働き、長期投資を阻害するとの指摘がある。フィデリティは将来的に「運用助言手数料」を新たに設け、手数料の面からも長期投資を促す体制に切り替えていく

投信の販売手数料は商品性の説明などの手間に対する対価との位置づけ。対面での営業をしないネット証券では同手数料がゼロの「ノーロード」型投信が増えてはいる。ただ、一時的なキャンペーンなどではなく、販売手数料を恒久的・全面的に無料にするのは主要ネット証券でも例がない

フィデリティではインターネットで取引し、運用報告書などを電子交付にすることを条件に全投信の販売手数料を無料にする。公的年金だけでは豊かな老後が送れないとされた「2000万円問題」をきっかけに、若年層などでは資産運用に対する関心が高まっており、今回の判断を受けて他の金融機関から顧客が大きく動く可能性もある


◎随分と好意的だが…

手数料の面からも長期投資を促す体制に切り替えていく」「販売手数料を恒久的・全面的に無料にするのは主要ネット証券でも例がない」「今回の判断を受けて他の金融機関から顧客が大きく動く可能性もある」--。ものすごく革新的で素晴らしい判断を「フィデリティ証券」がしたような書き方だ。実際にそうならば問題はない。だが、記事を読み進めると徐々に怪しくなってくる。

【日経の記事】

運用手数料にあたる「信託報酬」も現金を含む資産残高が3000万円超なら割り引く。これに該当する顧客に対しては、専門チームが投資相談に応じる新しいサービスも立ち上げる。

その一方で、投資や運用のアドバイスの対価として「運用助言手数料」を新たに得るようにし、中長期的には収益の柱に育てる方針。金融庁の認可を得て、早ければ来年中にも「投資助言代理業」の登録をめざす。

一人ひとりの顧客に対応するには大量の担当者が必要になるが、現在フィデリティグループが米国や欧州で提供しているロボットアドバイザー機能を国内にも持ち込み、コストは最小限に抑えることを検討する。

助言手数料の詳細は今後詰めるが、信託報酬と同様、顧客が投信を保有している間、資産残高に応じた額を受け取るのが一般的。このため、「長期でどう資産を増やしていくか」という顧客目線に沿ったインセンティブが運用会社にも働きやすくなる効果がある。


◎結局、微妙では?

結局、「販売手数料」を廃止する代わりに「助言手数料」を導入するという話だ。例えば、これまでは「販売手数料」が購入時2%、今後は代わりに「助言手数料」が毎年0.001%となるのならば投資家としては歓迎できる。しかし「助言手数料の詳細は今後詰める」ので、投資家にとって歓迎すべき話なのかどうかは判断できない。

『信託報酬』も現金を含む資産残高が3000万円超なら割り引く」とも書いているが、これもどの程度を「割り引く」のか触れていない。

助言手数料の詳細」も含めて具体的な手数料率が出てこないのは、大したことのない話だとバレるのが嫌だからではないかと勘繰りたくなる。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

顧客が売買する度に生じる販売手数料を撤廃すれば、長期的な運用パフォーマンスの低下につながりやすい「頻繁な乗り換え」を促す動機もなくなる。この結果、フィデリティの手数料体系は「長期投資」と相性がよくなり、ビジネスモデルは独立系アドバイザー(IFA)が中核を担う米国や英国の個人向け金融に近づく。


◎手数料率次第では?

フィデリティの手数料体系」が「『長期投資』と相性がよく」なるかどうかは手数料率次第だ。「販売手数料を撤廃」したとしても「信託報酬」と「助言手数料」を合わせて年1%、2%と取るのならば「長期投資」であれ短期投資であれ投資家は「フィデリティ」と関わるべきではない。

今回の記事は日経の記者が「フィデリティ」の宣伝戦略に上手く取り込まれてしまった印象が強い。


※今回取り上げた記事「フィデリティ証券、投信販売手数料を撤廃 来月から~助言手数料新設へ 長期投資促す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191121&ng=DGKKZO52412520Q9A121C1EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年11月19日火曜日

2007年に「ネットで金を取っていた新聞」はWSJだけ? 週刊東洋経済に問う

週刊東洋経済で「ノンフィクション作家」の「下山進」氏が「(2007年の段階で)ネットで金を取っていた新聞はウォール・ストリート・ジャーナルだけでした」と語っている。しかし「フィナンシャル・タイムズ」も当時から「ネットで金を取っていた新聞」だったはずだ。インタビューの聞き手である筒井幹雄記者らに以下の内容で問い合わせを送ってみた。
のこのしまアイランドパークのコスモス
       ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】


週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様 筒井幹雄様

11月23日号の「話題の本 著者に聞く~今や読者が金を払うのは記者独自の視点がある記事 ノンフィクション作家 下山進」という記事についてお尋ねします。記事の中で筒井様の「ネットは日経の独り勝ち」という問いかけに下山氏は以下のように答えています。

杉田亮毅社長が無料サイト50億円の売上高を捨ててでもデジタル有料版をやると決断した2007年は、ネットの情報はタダが当然という時期。ネットで金を取っていた新聞はウォール・ストリート・ジャーナルだけでした

日本経済新聞社とフィナンシャル・タイムズが連名で今年4月1日に出した「フィナンシャル・タイムズの有料購読者数が 100 万人突破~創刊 130 年の歴史で最高に」というニュースリリースの中に「FT は 2002 年にデジタルコンテンツの有料課金を始め、2007 年には毎月一定の本数を無料で閲覧できる『メーター制』を業界に先駆けて導入」というくだりがあります。

有料課金を始め」たのが「2002年」なので、2007年の段階でも「FT」は「ネットで金を取っていた新聞」でした。「2007年は、ネットの情報はタダが当然という時期。ネットで金を取っていた新聞はウォール・ストリート・ジャーナルだけでした」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

今号の編集後記でNHKに関して「適切なガバナンスを速やかに確立しなければ、圧倒的な信頼度も瓦解しかねません。その瀬戸際にあるように思います」と山田様は感想を述べています。

そういう御誌はどうでしょうか。読者からの間違い指摘を無視して記事中のミスを当たり前のように握り潰しています。そういう対応をしているメディアは「適切なガバナンス」を「確立」できているのでしょうか。まず自らの足元を見つめ直してください。

そして上記の問い合わせに回答してください。他のメディアの「ガバナンス」に注文を付ける前に、やるべきことがあるはずです。

◇   ◇   ◇

ついでに言うと「圧倒的な信頼度も瓦解しかねません」という表現も引っかかった。「信頼度」は「瓦解」しない気がする。「圧倒的な信頼も瓦解しかねません」でいいのではないか。「信頼度」を生かすならば「圧倒的な信頼度も急落しかねません」などか。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「話題の本 著者に聞く~今や読者が金を払うのは記者独自の視点がある記事 ノンフィクション作家 下山進
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22152


※記事の評価はD(問題あり)。筒井幹雄記者への評価も暫定でDとする。

2019年11月18日月曜日

水無田気流氏のデータの扱いに問題あり 日経「ダイバーシティ進化論」

詩人・社会学者の水無田気流氏に言わせれば、「スウェーデン」は「出生率が回復している先進国」で日本は違うのだろう。しかし、この2つは非常に両立しにくい。「スウェーデン」を「回復」組に入れるのならば、日本も入れるしかないと思える。
福岡市立福岡女子高校  ※写真と本文は無関係です

そこに無理があるので、日本経済新聞の女性面に書いた記事の辻褄が合わなくなっている。

以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【日経への問い合わせ】

水無田気流様  日本経済新聞社 女性面編集長 中村奈都子様

18日朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~寡婦控除めぐる対立 何示す? 『規範的家族像』に固執」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

日本の出生数は90万人を割り込む見通しだ。少子化対策として何一つ有効な政策手段を取ってこなかったことの証左といえる。出生率を回復させたスウェーデンは18年現在、女性の平均初婚年齢が33.9歳、第1子出産時の平均年齢は29.3歳だ。出生率が回復している先進国はいずれも、婚外子出生率が5割を超える

18年の出生数91.8万人、最低を更新 出生率は1.42」という6月7日付の日経の記事では「(日本の)出生率は05年に最低の1.26を記録してから緩やかに回復し、ここ3年は1.4近辺で推移する」と説明しています。

水無田様が「出生率を回復させた」例として挙げている「スウェーデン」は2000年から10年ほどの回復期を経て、その後やや低下傾向となっています。それを「出生率を回復させた」例としているのですから、日本も「出生率を回復させた」と見てよいでしょう。

問題は「出生率が回復している先進国はいずれも、婚外子出生率が5割を超える」との記述です。記事でも触れているように、日本での「婚外子出生率は2%台と極めて低い」はずです。当然に「婚外子出生率が5割を超え」てはいません。

出生率が回復している先進国はいずれも、婚外子出生率が5割を超える」との説明は誤りではありませんか。日本という例外があるはずです。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「少子化対策として何一つ有効な政策手段を取ってこなかったことの証左」として、なぜ「出生数」を持ち出したのも引っかかります。「出生率」で見ると「少子化対策として何一つ有効な政策手段を取ってこなかった」という説明と整合しないからではありませんか。

出生数」で見るのが適切との判断ならば、「スウェーデン」などに関しても「出生率」ではなく「出生数」を基に論じるべきです。ご都合主義的にデータを用いていませんか。

せっかくの機会なので以下の説明にも注文を付けておきます。

出生率が回復している先進国はいずれも、婚外子出生率が5割を超える。結婚と出産と同居開始のタイミングがカップルごとに自由に選択できる社会が背景にある。一方で日本は今なお『法律婚・同居・出産』の三位一体型だ。女性は平均29.4歳で結婚し、30.7歳で第1子を出産する。婚外子出生率は2%台と極めて低い

日本では「結婚と出産と同居開始のタイミングがカップルごとに自由に選択」できないと取れる書き方ですが、結婚可能な年齢に達していれば「結婚と出産と同居開始のタイミング」は「自由に選択」できます。「結婚」から一定期間以内に「同居開始」せよといった法的規定はないはずです。

日本は今なお『法律婚・同居・出産』の三位一体型だ」との説明は曖昧で分かりにくい面がありますが、基本的には間違いでしょう。そもそも「結婚」しても「出産」しない夫婦は当たり前にいます。そうした「カップル」の存在はどう位置付けているのですか。

法律婚・同居・出産」をほぼ同時期にするのが「三位一体型」との認識ならば、明らかに違います。長く「同居」してから「法律婚」に踏み切る「カップル」も珍しくありません。「結婚」のスタイルは水無田様が考える以上に多様化しているのではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

最後に、中村様にお願いです。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~寡婦控除めぐる対立 何示す? 『規範的家族像』に固執
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191118&ng=DGKKZO52215650V11C19A1TY5000

記事の評価はE(大いに問題あり)。水無田気流氏への評価はEを据え置く。同氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経女性面「34歳までに2人出産を政府が推奨」は事実?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/34.html

日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_5.html

日経女性面で誤った認識を垂れ流す水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_30.html

「男女の二項対立」を散々煽ってきた水無田気流氏が変節?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_58.html

水無田気流氏のマネーポスト批判に無理がある日経「ダイバーシティ進化論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post.html

水無田気流氏の「女性議員巡る容姿偏向報道」批判は前提に誤り?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_14.html

2019年11月17日日曜日

「みんなのタクシー」は本当に「順調」? 日経ビジネス佐伯真也記者に問う

日経ビジネスの佐伯真也記者は素直な性格なのだろう。一般的には長所だが、経済記事の書き手としては好ましくない。疑い深いぐらいで丁度いい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

11月18日号の「時事深層 COMPANY~タクシー配車連合が協業加速も 足りないソニー『らしさ』」という記事の序盤で佐伯記者は以下のように記している。

【日経ビジネスの記事】

ソニーとタクシー大手が出資するみんなのタクシーが、配車サービスを開始して半年が経過した。滑り出しは順調。KDDIやNTTドコモなどからの出資を受け入れ、事業拡大を急ぐ。一方でタクシー大手への配慮も垣間見える。自らが旗振り役となるかつてのソニー「らしさ」が求められる。

「新たな第一歩を踏み出せた。パートナー各社のノウハウを活用して事業の幅を広げていく」。ソニーやタクシー大手が出資し、配車アプリを手掛けるみんなのタクシー(東京・台東)。サービス開始から半年がたった11月5日に開催した事業説明会で、西浦賢治社長はこう意気込んだ。

滑り出しは順調のようだ。今年4月に東京都内で配車アプリ「S.RIDE(エスライド)」の提供を始めた、みんなのタクシーの9月における平均利用単価は約2755円。ジャパンタクシー(東京・千代田)やディー・エヌ・エー(DeNA)の「MOV(モブ)」といったライバルがひしめく中、最後発で参入したが、「(単価は)相当高いと感じている」と西浦社長は手応えを語る。


◎なぜ「平均利用単価」?

滑り出しは順調のようだ」と思ってしまったのが不思議だ。

取材の経緯は分からないが、「滑り出し」についての質問に対して「9月における平均利用単価は約2755円」という数字が「みんなのタクシー」から出てきて、「西浦社長」が「(単価は)相当高いと感じている」とコメントしたとしよう。

自分が記者だったら「滑り出し」は厳しいのかなと感じる。本当に「順調」ならば売上高や取扱件数などを当初目標と比較するのではないか。「半年間の売上高はどうなっていますか。目標と比べてどうかも具体的に教えてください」などと質問したいところだ。

そこで「売上高や取扱件数は非公表です」などと返ってきたら「かなり厳しい状況なんだろうな」と推測してしまう。

しかし佐伯記者は「平均利用単価は約2755円」で、それを「相当高いと感じている」と社長がコメントしたことを根拠に「滑り出しは順調のようだ」と書いてしまう。

百歩譲って「平均利用単価」で好不調を測るのが適切だとしても、「相当高いと感じている」というコメントだけでは納得できない。他社と比べてどの程度「高い」のかは読者に見せるべきだ。

ついでに記事の後半についても注文を付けておきたい。

【日経ビジネスの記事】

5日の事業説明会で打ち出したのがパートナーとの連携強化だ。KDDIとNTTドコモ、地図関連サービスのゼンリンデータコム(東京・港)、タクシー大手の帝都自動車交通(東京・中央)の4社とそれぞれ資本業務提携を発表した。

KDDIとは次世代移動サービス「MaaS(マース)」のプラットフォームの共同構築やタクシーの新たなサービスの開発、ドコモとは決済や需要予測などで利便性向上を目指す考え。ゼンリンデータコムとはタクシー走行データを活用した3次元のリアルタイム地図などの共同開発を進める。

西浦社長の出身母体であるソニーとの協業も加速する。5日には、ソニーのAI(人工知能)技術を使ったタクシーの需要予測サービスを始めた。タクシーから取得した走行データと天気などの外部情報を分析し、10分後~半日先のタクシー需要を予測する。複数のセンサーを使って、タクシーの運転支援技術を開発していくことも明らかにした。

出資企業との協業でユーザーの利便性を高めて、さらなる事業拡大を目指すみんなのタクシー。先行するライバル各社が「無料キャンペーン」など大規模なマーケティングで顧客の囲い込みを急ぐ戦略とは距離を置く。西浦社長は、「バラマキは考えていない」と言い切る。

一方で、みんなのタクシーの成長戦略には「プラットフォームを握るための強引さが足りない」(電機関連のアナリスト)との指摘もある。今回、KDDIなどから追加出資を受けることに対して、西浦社長は「出資額は非公開だが、タクシー会社が5割超を出資する構図は変わらない。業界を発展させるのが責務だ」とタクシー会社へ配慮する姿勢をのぞかせた。出資企業が増えた結果、利害関係の調整に追われれば、大胆な一手が打てなくなる可能性もある。

ソニーが1990年代にゲーム事業に参入した際は、販売店への直販など自らが旗振り役となり業界の常識を崩していった。今年4月のサービス開始時点で西浦社長は、「数年以内に最大手のジャパンタクシーにキャッチアップしていく」と話していた。有言実行するためには、多少強引でも事業を引っ張っていく、かつてのソニー「らしさ」を参考にしてもいいのではないだろうか。


◎具体性が…

見出しで「足りないソニー『らしさ』」と打ち出したのに、具体的にどうしてほしいのか見えてこない。「みんなのタクシー」に「足りないソニー『らしさ』」とは「業界の常識」を崩すような「大胆な一手」なのだろう。それは例えばどんな「一手」で、なぜ必要なのか。佐伯記者は教えてくれない。本当に「滑り出しは順調」ならば、今のままの「成長戦略」でもいいのではないか。

他社のサービスより優れているのならば「強引」に「事業を引っ張って」いかなくても「プラットフォームを握る」ことは十分にできるはずだ。それとも「強引」にやらないと勝ち目がないほど劣ったサービスなのか。その辺りが曖昧なままだ。

個人的には「みんなのタクシー」の未来は暗いと感じる。まず「出資額は非公開」というのがダメだ。記者を集めて「事業説明会」を開き「資本業務提携を発表した」のに「出資額は非公開」とは…。「だったら発表しなくていいよ」と言いたくなる。

みんなのタクシー」としては「出資額」でさえ公表したくないが、色んな会社が支えてくれているというアピールはしたいのだろう。それは会社の自由ではある。ただ、うまく乗せられて宣伝の片棒を担ぐような記事を書くのは避けたい。

今回はヨイショ記事ではないが「滑り出しは順調のようだ」と書くなど「みんなのタクシー」への甘さも見える。

「自分はお人よしが過ぎるのではないか」。そう疑う習慣を佐伯記者には身に付けてほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~タクシー配車連合が協業加速も 足りないソニー『らしさ』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00410/


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯真也記者への評価もDを据え置く。佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_10.html

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_17.html

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

2019年11月16日土曜日

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」

新聞にコラムを署名入りで書くのならば「何を訴えたいのか」は明確にしてほしい。明確になっていたとしても、あまりに当たり障りのないものだと苦しい。「白か黒か」と問題提起した場合に「白黒はっきりさせろ」とは言わない。ただ、結論が「灰色」だとしても、白と黒の割合は示してほしい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面載った「Deep Insight~孫氏の経営は『ぼろぼろ』か」という記事で筆者の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)は「孫氏の経営は『ぼろぼろ』か」と問うている。その答えはどうなっているか。少し長くなるが、記事の終盤を見ていく。

【日経の記事】

であればこそ、今後の焦点は同社の経営モデルが永続的かどうかになる。孫氏は近年の株主総会で「連結営業利益が1兆円を超えるのにNTTグループは創業から118年、トヨタは65年かかった。SBGは36年だ」と何度か語っているが、従来と同じ「てこの原理」は今後も通用するのか。

そもそも「大きくなれば経営効率が上がる」という規模の経済は投資の世界で働くのかとの問題もある。別の投資運用会社で聞いてみると、「あるところまでは働くが、一定規模を超えるとむしろ不経済が起きる」(みさき投資の中神康議社長)との声は多い。投資家から資金を集めすぎれば普段より大型の株や知見の少ない業種にも投資対象を広げないと使い切れなくなり、そのせいで収益全体が低下する懸念もあるわけだ。

SBGが試されるのも規模の拡大が成長を生み続けるかどうかだ。巨大ファンドを連発しつつ、有望な未上場の成長企業「ユニコーン」を発掘し続けられればいい。だが、BS拡大で成長を追い求める流儀が分岐点を迎える日が来れば、同社の経営は本当にぼろぼろになる可能性がある


◎そりゃそうでしょ…

「投資が今後もうまくいけば問題ないけど、そうじゃなくなったらヤバいよね」といったレベルの結論だ。間違ってはいないが、その程度のことはソフトバンクグループ(SBG)の経営に関心がある人ならば誰でも分かる。

本社コメンテーター」という肩書を前面に出し、大きめの顔写真まで入れているのに、当たり前で当たり障りのない結論を導かれると失望を禁じ得ない。

この記事の下には週刊新潮の広告が載っていて、そこには「真っ赤どころか火の車『ソフトバンク』破綻への道~『孫正義』一世一代の大芝居で取り繕う窮状 会計評論家 細野祐二」と出ている。ここまで立ち位置を明確にしろとは言わない。だが「BS拡大で成長を追い求める流儀が分岐点を迎える日が来れば、同社の経営は本当にぼろぼろになる可能性がある」では、さすがに逃げ過ぎだ。

こんな毒にも薬にもならない結論を導くために記者としての経験を積み重ねてきたのか。中山氏にはもう一度よく考えてほしい。

付け加えると「今後の焦点は同社の経営モデルが永続的かどうかになる」との説明も引っかかった。そもそも「永続的」な「経営モデル」などあるのかとは思う。あるとしたら、具体的にはどの会社が実現しているのか。そして結局、「同社の経営モデルが永続的かどうか」について中山氏はどう見ているのか。いずれの答えも記事には見当たらない。

ぼろぼろになる可能性がある」のだから「永続的」ではないとの趣旨かもしれないが、どんな優良企業も長い目で見れば「ぼろぼろになる可能性がある」のではないか。

BS拡大で成長を追い求める流儀が分岐点を迎える日が来れば」との書き方も気になった。ここからは、まだ「分岐点を迎える日」を迎えていないと読み取れる。しかし「傘下のビジョン・ファンドを通じて出資するシェアオフィス運営の米ウィーカンパニーが上場に失敗し、巨額の投資損失が出た」件は「分岐点」の候補になり得るはずだ。

ここが「分岐点」ではないとしたら「BS拡大で成長を追い求める流儀が分岐点を迎える」とはどういう状況を指すのだろうか。やはり記事中に答えはない。

さらに、記事の書き方について注文を1つ。最初の段落についてだ。

【日経の記事】

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は6日の記者会見で、2019年7~9月期の連結決算を「ぼろぼろ」と表現した。一方で「大勢に異常はない」と強気の姿勢も崩さなかった。すでに関心は傘下のZホールディングスとLINEの経営統合に移りつつあるが、SBGの足元の経営はどう評価すればいいのか。



◎LINEも「傘下」?

傘下のZホールディングスとLINEの経営統合」と書くと「ZホールディングスとLINE」が「SBG」の「傘下」にいるとも取れる。改善例を示しておく。

【改善例】

すでに関心は傘下のZホールディングスがLINEと経営統合するかどうかに移りつつあるが、SBGの足元の経営はどう評価すればいいのか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~孫氏の経営は『ぼろぼろ』か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191116&ng=DGKKZO52230340V11C19A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

2019年11月15日金曜日

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

野球に例えながらビール市場を語る--。そこそこの技術を要する課題だ。何かと問題の多い日本経済新聞の中村直文編集委員には荷が重すぎる。しかし15日の朝刊企業面に載った「ヒットのクスリ~ビール会社の黒歴史(上) キリン、『金』の苦い記憶 発売後の育成こそカギ」という記事では、その課題へ果敢に挑戦している。もちろん成功とは言い難い。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

今年もプロ野球シーズンが終わった。近年は日本一になったソフトバンクホークスの千賀投手周東選手など育成枠出身が活躍する姿が目に付く。当然かもしれないが、ドラフト1位の選手が成功するわけではない。



◎フルネームの方が…

まず、スポーツ面の記事ではないので「ソフトバンクホークスの千賀投手や周東選手」はフルネームで表記した方がいい。

付け加えると「育成枠出身が活躍する姿が目に付く」ことは「ドラフト1位の選手が成功するわけではない」と言える根拠にはならない。

ドラフト1位の選手が(必ず)成功するわけではない」と訴えたいのならば「ドラフト1位の選手」の失敗例を最初に持ってくるべきだ。「育成枠」の話を根拠として生かすのならば「ドラフト1位の選手(だけ)が成功するわけではない」と書いた方がいい。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

消費財の世界でもドラフト1位のような鳴り物入りの大型商品はなかなか成功しない。むしろ小さく産んで大きく育てる手法を重視するようになった。市場が縮む中、新商品がすぐに消費者の生活に入り込めないからだ。大手ビールの失敗作を連ねた「黒歴史」から検証してみよう。

キリンビールの一番搾りの販売量はプラスを続けているが、12年前の失敗が反省材料になっている。同社が2007年に発売したビール「ザ・ゴールド」を覚えているだろうか。創業100年を迎え、技術の粋を集めた鳴り物入りの新商品だった。

当時のキリンは一番搾りがスーパードライに押されていた。一方で発泡酒の「淡麗〈生〉」や第三のビールの「のどごし〈生〉」が好調で、次の100年を背負う金の卵がザ・ゴールドだった。

素材を厳選し、泡が持つ時間が5分という「大型選手」だ。スカウトがやるように事前調査をしっかりこなし、試飲の評価も悪くない。個人的にも飲みやすい印象が強く、決して品質的に問題があったわけではない。2桁勝利は堅いと踏んだ

滑り出しは良かった。コンビニエンスストアでの売れ行きが良く、現場の営業部隊も盛り上がった。だが3カ月もすると失速する。100年の歴史はキリンにとって重要だが、他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えることができなかったからだ。


◎ビール市場での「2桁勝利」とは?

例えを使うのは否定しない。しかし技術は要る。上記の説明では技術不足が明らかだ。

まずビール市場における「2桁勝利」がどの程度のものか説明していない。結局、「ザ・ゴールド」が「何勝」を挙げたのかも不明だ。これなら「2桁勝利」の例えをやめて「一番搾りと肩を並べる商品に育つと期待した」などと書いた方が読者には分かりやすい。

他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えることができなかった」という説明も腑に落ちない。キリンが「創業100年」だけを打ち出したのならば別だが、「素材を厳選し、泡が持つ時間が5分」という「利点」もあったのではないか。

他のビールを押しのけてまで買いたくなる利点を訴えること」には挑戦したものの、消費者にはそこまで響かなかったと見るべきではないか。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

それまでは、まず大々的なCMを打ち出し、新商品を出すことがメーカーの成功方程式。発売後に新ブランドをどう育成するかを考えず、売りっぱなしだったわけだ。だからいくら派手に売り出しても定着しない。ザ・ゴールドは結局、育成案が固まらないまま、市場を去った。トライアウトも受けていないだろう



◎どう理解すれば…

ザ・ゴールド」が出る前は「まず大々的なCMを打ち出し、新商品を出すことがメーカーの成功方程式。発売後に新ブランドをどう育成するかを考えず、売りっぱなしだった」はずだ。つまり、この方法で「成功」を続けてきた。
東北大学 正門(仙台市)※写真と本文は無関係です

ところが「だからいくら派手に売り出しても定着しない」と中村編集委員は続ける。「ザ・ゴールド」が出る前から「いくら派手に売り出しても定着しない」状況が続いていたのならば「メーカーの成功方程式」はそもそも成立していない。

どう育成するかを考えず、売りっぱなしだった」ことを反省する契機は「ザ・ゴールド」の失敗だったのではないのか。以前から失敗続きだったのならば、「ザ・ゴールド」の失敗でなぜ急に目覚めたのか説明が欲しい。

例えの話で言うと「トライアウトも受けていないだろう」も分かりにくい。ビール市場で「戦力外通告」を受けた商品が「トライアウト」を受けるとは、どんな状況なのか。ちょっと推測しにくい。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

反省材料として残ったのは会社の都合はNG。そして「『一番搾りはこう違う』など他社と比較しないこと」。ビール類カテゴリー戦略担当の鈴木郁真ブランドマネジャーはこうふり返る。大事なことは相対性より絶対的な価値観だけを訴えることだという。

一番搾りも発売して30年近くだが、改めて独自の製法や顧客へのメッセージを伝えることに徹し、17年にリニューアル。再び成長軌道に乗った。



◎「比較」してない?

『一番搾りはこう違う』など他社と比較しないこと」と決めたのに「独自の製法」を「伝えることに徹し」ているのが解せない。「独自」だと消費者に伝えているのならば、その時点で「比較」と言える。

キリンのホームページを見ると「一番搾り製法とは、一番搾り麦汁だけを使ってつくる、キリン独自のビールの製法」とうたっている。これで「他社と比較しないこと」と言われても困る。

そもそも、なぜ「反省」を既存の主力商品である「一番搾り」に生かすのかが謎だ。記事の趣旨から言えば、新製品の「育成案」をしっかり固める手法に転換して成功を収めた事例が欲しい。

ここから記事を最後まで見ていく。

【日経の記事】

トップのアサヒビールも苦みを味わった。16年に売り出したビール「ザ・ドリーム」だ。第三のビールなどには出ていた糖質50%オフをビールに適用し、CMには前回のラグビーワールドカップでヒーローになった五郎丸歩選手を起用。だが顧客には意味が伝わらずレッドカードとなった

自己満足は押しつけず、発売後にこそ市場と対話し続けること。これが黒歴史の教訓その一だ。



◎最後に「レッドカード」…

記事の終盤に「レッドカード」の例えが出てくる。「CMには前回のラグビーワールドカップでヒーローになった五郎丸歩選手を起用」というくだりを受けたものだろう。だが、ここまで野球で揃えたのだから、最後まで貫くべきだろう。

付け加えると、なぜ「顧客には意味が伝わら」なかったのか疑問が残る。「糖質50%オフ」はそんなに伝わりにくい表現なのか。

また、「自己満足は押しつけず」と中村編集委員は言うが、「アサヒビール」が「ザ・ドリーム」に関してどんな「自己満足」を押し付けたのか記事からは判断しにくい。

なのに「自己満足は押しつけず、発売後にこそ市場と対話し続けること。これが黒歴史の教訓その一だ」と締めても説得力はない。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~ビール会社の黒歴史(上) キリン、『金』の苦い記憶 発売後の育成こそカギ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191115&ng=DGKKZO52107100T11C19A1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

2019年11月14日木曜日

「短時間労働者の増加で1時間当たり労働生産性が低下」と日経は言うが…

「短時間労働者が増えたために1時間当たりの労働生産性が落ちた」と言われて納得できるだろうか。「1人当たり」ならば分かる。1人で8時間に100個作っていたのを、2人で4時間ずつで合計100個作る体制に切り替えたら「1人当たりの労働生産性」は半分になり、「1時間当たり」に変化はない。
のこのしまアイランドパークのコスモス
       ※写真と本文は無関係です

しかし日本経済新聞の記事では「短時間労働者の就労を増やしたことが、(1時間あたり)労働生産性を押し下げた」と言い切っている。日経には以下の内容で問い合わせしてみた。


【日経への問い合わせ】

14日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「労働生産性、7年ぶり低下~短時間労働者増で」という記事についてお尋ねします。最初の段落に以下の説明があります。

日本生産性本部は13日、日本の名目労働生産性が2018年度に1時間あたり4853円と、前年度を0.2%下回ったと発表した。低下は7年ぶり。人手不足感が強いサービス業が高齢者や女性ら短時間労働者の就労を増やしたことが、労働生産性を押し下げた

これを信じれば「サービス業が高齢者や女性ら短時間労働者の就労を増やした」ために「1時間あたり」で見た「名目労働生産性」が「7年ぶり」に「低下」したはずです。

短時間労働者の就労」が増えて「1人当たり」の「労働生産性」が「低下」するのは分かりますが、記事では「1時間あたり」の「低下」要因として扱っています。

日本生産性本部」がそうした説明をしているのか発表資料に当たってみました。その中には以下の記述があります。

2018年度の労働生産性が落ち込んだのは、人手不足に対する懸念から企業が雇用に積極的だったことが大きい。2018年度の就業者数は前年度から115万人増加した。女性の増加(74万人)が全体の増加幅の2/3を占めたほか、高齢者だけでなく45歳以上の就業者の増加が目立った。こうした増加幅が、経済成長率を上回るペースになったことが生産性の低下となって表れた

確かに「高齢者や女性」に触れていますが、これはやはり「日本の名目労働生産性(就業者1人当たり付加価値額)」に関する説明です。「就業1時間当たり」については、また別の分析となっています。

1時間あたり」の「労働生産性」が「低下」した原因を「短時間労働者の就労」に求めるのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


短時間労働者」は総じて「就業1時間当たり」の「労働生産性」が低いとの前提があるのならば日経の説明も成立するが、記事中にそうした記述は見当たらない。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「労働生産性、7年ぶり低下~短時間労働者増で
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191114&ng=DGKKZO52122810T11C19A1EE8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年11月13日水曜日

謎かけのつもり? 日経夕刊「病院利益率2.8%どまり」の舌足らず

13日の日本経済新聞夕刊1面に載った「病院利益率2.8%どまり 昨年度~医師の報酬上げ要求へ」という記事は一読しただけでは内容を理解しにくい。筆者にそのつもりはないのだろうが、謎かけのような中身になっている。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

厚生労働省は13日、医療機関の経営状況を調べた医療経済実態調査を公表した。医療法人が運営する病院の2018年度の利益率は2.8%だった。17年度より0.2ポイント改善したが、診療所の6.3%と比べて低い水準にとどまる。人件費が膨らんだ影響が大きく、厚労省は20年度の診療報酬改定で医師の人件費を引き上げるよう求める

同日の中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)に報告した。ベッド数が20床未満を診療所、それ以上は病院と区分している。同調査は医療サービスや薬の公定価格である診療報酬を改定する際の基礎資料の一つとなる。

18年度の黒字額は病院が平均5290万円、診療所は同1020万円だった。国公立の病院はいずれも赤字で、国立病院の利益率がマイナス2.3%、公立病院がマイナス13.2%だった。


◎なぜ「人件費を引き上げるよう求める」?

医療法人が運営する病院の2018年度の利益率」が「診療所」より「低い水準にとどまる」のは「人件費が膨らんだ」からだ。だから「厚労省」は「医師の人件費を引き上げるよう求める」--。

記事を読むと、そう理解できる。しかし、これだと「厚労省」の判断機能が壊れてしまったかのようだ。「人件費が増えてるから利益水準が低いままなんだよ。だからもっと人件費を増やさないと!」と言われたら、多くの人が「どういうこと? 人件費を減らせの間違いでは?」と思ってしまうだろう。

この件を取り上げた「病院経営、人件費増で赤字 診療報酬改定に影響―厚労省調査」という時事通信の記事を読むと、日経の記者が何を伝えたかったのか、ある程度はつかめてくる。

【時事通信の記事】

厚生労働省は13日、医療機関の経営状況を調べた医療経済実態調査の結果を公表した。精神科病院を除く一般病院の利益率(収入に対する利益の割合)は2018年度でマイナス2.7%の赤字だった。17年度と比べると0.3ポイント改善したものの、医療従事者数の増加により人件費が膨らみ、経営に影響を与えていることが浮き彫りとなった。

調査結果は同日の中央社会保険医療協議会(中医協)に提出。医療サービスや薬の公定価格である診療報酬の20年度改定に当たって、基礎資料となる。

日本医師会などからは、診療報酬のうち、医師の人件費などに充てる「本体部分」の引き上げ論が高まっている。厚労省は本体部分を引き上げつつ、薬剤費などの「薬価部分」を下げ、全体でマイナス改定としたい考え。年末に向けて財務省と調整を進める。



◎「本体部分」と入れておけば…

厚労省」が「20年度の診療報酬改定」で求めるのは「診療報酬のうち、医師の人件費などに充てる『本体部分』の引き上げ」なのだろう。日経もそう書いてくれれば、すんなり読めたのだが…。

日経の記事ではもう1つ分からないことがある。なぜ「医療法人が運営する病院の2018年度の利益率」を前面に押し出しているのかだ。時事通信は「精神科病院を除く一般病院の利益率」で見ている。

日経の記事によれば、問題は「医療法人が運営する病院の2018年度の利益率」と「診療所」の利益率に差があることだ。「『本体部分』の引き上げ」が実現すれば「医療機関の経営」に全体としてプラスかもしれないが、それがなぜ「医療法人が運営する病院」と「診療所」の間にある「利益率の差」をなくす方向に働くのか。記事からは判断できない。


※今回取り上げた日経の記事「病院利益率2.8%どまり 昨年度~医師の報酬上げ要求へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191113&ng=DGKKZO52102890T11C19A1MM0000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年11月12日火曜日

「スッキリ問題解決」の看板倒れが凄い哲学者・小川仁志氏の悩み相談

哲学者で山口大学国際総合科学部教授の小川仁志氏は本当にこれで「スッキリ問題解決」と思っているのだろうか。週刊エコノミスト11月19日号の「小川仁志の哲学でスッキリ問題解決(9)」という悩み相談の記事を読むと「問題解決」には全くなっていない気がする。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

相談内容は以下のようなものだ。

【エコノミストの記事】

新規企画を出せと言われています。私は在宅勤務に関心があり、それを実現させるためにも「在宅勤務の実態」という企画を出そうと思っています。しかし、上司はこれには反対意見。こんな場合、上司が望んでいると思われる企画を出したほうがいいですか。
(39歳女性・IT企業勤務)

◇   ◇   ◇

これに対して小川氏は以下のように答えている。

【エコノミストの記事】

今回のお悩みでは、上司に新規企画を求められた際、上司のアイデアを採用しておけばいいのですが、それよりもいいと思う自分のアイデアがある。ここが問題です。

そこで弁証法を使って、ネックになっている自分のアイデアをむしろ積極的に取り込むのです。まずは、「みんなが同じ場所で仕事をすることで初めて相互に刺激になり、一体感が生まれ業績を維持してきた」と上司の方針を尊重する

他方で、自分の案をそこにうまく取り込み「全員が出勤する一体感を損なうことなく、同時に在宅勤務者もスカイプなどで常時職場とつながっておくことで、より柔軟な働き方を実現できる方法」を提案すればいいのです

絶対に混ざらないと思われる水と油だって、一緒にすることでドレッシングが生まれます。「1+1=2」ではなく、無限大にするのが弁証法です。


◎答えになってる?

上司が反対する「在宅勤務の実態」の企画と「上司が望んでいると思われる企画」のどちらを出すべきかというのが相談者の問いだ。

これに対する小川氏の答えは奇妙だ。まずは「『みんなが同じ場所で仕事をすることで初めて相互に刺激になり、一体感が生まれ業績を維持してきた』と上司の方針を尊重する」らしい。しかし「上司」がそんな「方針」を持っていると取れる記述はない。「上司」は「在宅勤務の実態」という「企画」に反対しているだけだ。そして「上司が望んでいると思われる企画」の内容は分からない。

上司が望んでいると思われる企画」の中に「自分の案」を潜り込ませろというのが小川氏の考えのようだ。

記事には入らなかったものの「上司が望んでいると思われる企画」の内容を小川氏が実は知っていて、それは「在宅勤務がダメな理由」的なものだったとしよう。

その場合「『みんなが同じ場所で仕事をすることで初めて相互に刺激になり、一体感が生まれ業績を維持してきた』と上司の方針を尊重する」のは問題ない。しかし、その企画の中に「全員が出勤する一体感を損なうことなく、同時に在宅勤務者もスカイプなどで常時職場とつながっておくことで、より柔軟な働き方を実現できる方法」も紛れ込ませると、何が言いたいのか訳の分からない企画になってしまう。

結果として、相談者である「39歳女性」の社内での評判を落としてしまうのではないか。その前に「39歳女性」は小川氏の答えで「スッキリ問題解決」と感じたのだろうか。

自分だったら「まともな答えになってないよ!」と嘆いてしまいそうだが…。


※今回取り上げた記事「小川仁志の哲学でスッキリ問題解決(9)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191119/se1/00m/020/064000c


※記事の評価はD(問題あり)。小川仁志氏への評価も暫定でDとする。

2019年11月11日月曜日

「音楽ライブが急増」の分析が甘い日経 高橋元気記者

「音楽ソフトが売れなくなる一方でライブ市場が伸びている」とはよく聞く話だ。「だから記事にするな」と言うつもりはない。ただ、今になって取り上げるのならば、かなりの工夫が欲しい。しかし11日の日本経済新聞夕刊ニュースぷらす面に載った「デンシバSpotlight~音楽ライブが急増・高額化 CDに代わる『稼ぎ頭』に」という記事は明らかに分析が甘かった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

音楽のライブやコンサートが活況です。ぴあ総研によると、2018年の動員数は5043万人と5年間で39%増えました。ライブ人気は米国でも目立ち、音楽配信の技術の進歩とも関係しているようです。データと共に背景を考えてみます

コンサートプロモーターズ協会の公開データによると、国内の入場者数が過去30年で最少だったのは1997年の1300万人でした。その後10年ごとの伸び率は2007年までが61%、07年から17年にかけては128%増えました。ライブ人気はこの10年ほどが顕著です。

「音楽を誰もが無料で聴けるようになった影響が大きい」と話すのは音楽産業を研究する関西大学の高増明副学長です。かつてはレコードやCDにお金を払っていましたが、今はインターネットに接続していれば無料で音楽を聴けます

消費者には都合のいい現象ですが、音楽で生計を立てていた人は困ります。CDなど音楽ソフトの生産額は98年の6074億円から18年に2403億円と半分以下に落ち込みました。一方、ライブは入場者からお金をとることができるためミュージシャンには貴重な存在です。国内の公演数は過去10年で2倍に増えました



◎供給者側の都合だけ?

CDなど音楽ソフト」が売れなくなり、「音楽で生計を立てていた人」が困って「公演数」を増やしたから「音楽のライブやコンサートが活況」になったと筆者の高橋元気記者は見ているのだろう。

違うとは言わないが、あくまで供給側の事情だ。「公演数」を増やしても、見に来てくれる人が増えなければ市場は拡大しない。需要側の分析がないのが残念だ。

付け加えると「かつてはレコードやCDにお金を払っていました」と書くと「今は『レコードやCDにお金を払って』いる人はいない」と取れる。言うまでもないが、今でも「レコードやCDにお金を払っている人」は当たり前にいる。自分もその1人だ。

また「今はインターネットに接続していれば無料で音楽を聴けます」と高橋記者は言うが、ネットが普及する前から「無料で音楽を聴け」る環境はあった。例えばラジオだ。

インターネットに接続」するには定期的にお金を払う必要があるので、「無料で音楽を聴けます」と言い切ってよいか微妙。一方、ラジオは受信装置さえあれば完全に無料だ。好きな曲をカセットテープに録音して繰り返し聴くこともできる。高橋記者には経験がないかもしれないが…。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

"稼ぎ頭"となったライブのチケットは値上がりしているようです。コンサートプロモーターズ協会のデータから入場者1人あたりの売上額をはじくと過去20年で4965円から7091円に上がりました。43%の上昇率はこの間の物価上昇率(約1%)を大きく上回ります。業界動向に詳しい楽天証券経済研究所チーフアナリストの今中能夫氏は「照明など演出コストの上昇に加え、利幅を厚くしたい開催側の思惑があるようだ」と背景を分析しています。



◎だったらなおさら…

上記のくだりに限れば問題は感じないが「利幅を厚くしたい開催側の思惑」で「チケットは値上がり」しているとすれば、「音楽のライブやコンサートが活況」になった要因として需要の盛り上がりがなおさら重要になってくる。供給側の事情だけで「公演数」を増やしている場合、「利幅を厚く」するのは困難なはずだ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

チケット価格の上昇は米国でも目立ちます。米経済学者の故アラン・クルーガー氏は19年に出版した著書で、米国の平均チケット単価が81年から18年にかけて5倍超に値上がりしたと記しています。同氏は背景に「一部のミュージシャンへの人気の集中」があると見ています。高額なチケットを売りさばけるスターに観客が集中した結果、トップ1%のミュージシャンの収入シェアは82年の26%から現在は60%まで上昇したそうです。


◎逆になりそうな…

一部のミュージシャンへの人気の集中」によって「米国の平均チケット単価」が大幅に上昇したとの分析が腑に落ちない。「平均チケット単価」が単純平均だとすると、逆になりそうな気もする。高値でさばけるのは「トップ1%」だけで、残りは人気が落ちていると仮定しよう。人気に連動して「チケット価格」が動くのならば「平均チケット単価」は下がる可能性の方が高そうだ。「平均チケット単価」が大きく上がる場合は「トップ1%」が驚くほどの上昇を見せる必要があるだろう。

ついでに言うと「平均チケット単価が81年から18年にかけて5倍超に値上がりした」と書くと「単価が値上がり」となるのでダブり感が出る。「平均チケット単価が81年から18年にかけて5倍超になった」などとすべきだ。


※今回取り上げた記事「デンシバSpotlight~音楽ライブが急増・高額化 CDに代わる『稼ぎ頭』に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191111&ng=DGKKZO51847830W9A101C1EAC000


※記事の評価はD(問題あり)。高橋元気記者への評価も暫定でDとする。

2019年11月9日土曜日

適法でも「ライドシェア起訴」? 理解に苦しむ日経 細川幸太郎記者の記事

今回も日本経済新聞の細川幸太郎記者が書いた記事を取り上げる。8日の朝刊国際1面に載った「韓国・有力新興に規制の壁~検察、ライドシェア起訴 政権へ当てつけの見方も」という記事は理解に苦しむ内容だった。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

韓国で有力ベンチャーが規制の壁にぶつかっている。対価を得て乗客を運ぶライドシェアサービス「タダ」を運営するソーカー(ソウル市)の経営者を検察が在宅起訴した。容疑は旅客自動車運輸事業法違反、いわゆる「白タク」規制だ。政権が掲げる新産業育成のもと監督官庁が法整備を進めているさなかの起訴に、ベンチャー業界から反発が広がっている

「大統領は『規制の壁を果敢に壊していく』と話すが、残念ながら現実は違っていた」。タダサービスを展開するソーカー社の李在雄(イ・ジェウン)社長は憤りを隠さない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が人工知能(AI)技術の展示会で新産業育成を推進すると約束した10月28日、李社長ら経営陣が在宅起訴された。

今回の起訴はライドシェアを巡って国土交通省や法務省など関係当局がルール整備を進めているさなかの出来事だった。韓国メディアによると、関係当局は検察側に起訴を待つように伝えていたという。タクシー業界の告訴を受理して起訴を強行した検察の判断には、検察権限の縮小を進める文政権への当てつけとみる向きもある。

タダは韓国語で「乗る」という意味。利用客がスマートフォンのアプリで出発地と目的地を登録すれば専用車が迎えに来るサービスで、ソウル市中心に車両1400台を運用する。利用料金は一般的なタクシーと比べて2~3割高いが、サービス開始から1年あまりで利用者130万人を獲得している。

起訴容疑の旅客自動車運輸事業法は主にタクシー業に関する法律だ。韓国でも日本同様にタクシー免許なしに有償で乗客を運ぶのは禁止されている。ただ同法には例外規定があり、11~15人乗りの車についてはタクシー免許のない運転手を派遣し対価を得るサービスが認められている。ソーカーはこの規定を根拠に大型バンでサービスに乗り出していた

李社長は「これまで(監督官庁の)国土交通省とも継続的に話し合ってきた。一度も事業停止の勧告を受けたことはない」と主張する。


◎適法にしか見えないが…

対価を得て乗客を運ぶライドシェアサービス『タダ』を運営するソーカー(ソウル市)の経営者を検察が在宅起訴した。容疑は旅客自動車運輸事業法違反、いわゆる『白タク』規制だ」と細川記者は言う。

しかし記事の終盤には「同法には例外規定があり、11~15人乗りの車についてはタクシー免許のない運転手を派遣し対価を得るサービスが認められている。ソーカーはこの規定を根拠に大型バンでサービスに乗り出していた」と書いている。「例外規定」に則って「サービス」を続けてきたのならば適法のはずだ。なぜ「在宅起訴」されるのか理解に苦しむ。

完全に適法ならば「検察」も「在宅起訴」には踏み切らないだろうから、「ソーカー」の「サービス」に何らかの法的な問題があったのだとは思う。しかし、細川記者の説明では、それが何なのか読み取れない。

政権が掲げる新産業育成のもと監督官庁が法整備を進めているさなかの起訴に、ベンチャー業界から反発が広がっている」との説明も引っかかる。規制緩和の議論が進んでいるとしても、実現する前に先取りで違法なサービスを始めてしまえば取り締まりの対象になるのは当然だ。韓国の「ベンチャー業界」には、そんな当たり前のことも理解できない人がたくさんいるのか。

実際にそうかもしれないが、細川記者の説明に難がある可能性が高そうな気はする。

細川記者は要注意の書き手と見ておくべきだろう。


※今回取り上げた記事「韓国・有力新興に規制の壁~検察、ライドシェア起訴 政権へ当てつけの見方も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191108&ng=DGKKZO51910830X01C19A1FF1000


※記事の評価はD(問題あり)。細川幸太郎記者への評価もDを据え置く。細川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/nhk.html

2019年11月8日金曜日

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差

宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使」が日本に関して「より大きな災いと破滅に直面することになる」との「談話」を発表した場合、「日本の上空を越えるミサイル発射の可能性も示唆した」と感じるだろうか。この部分だけでは何とも言えない気がする。
能古渡船場(福岡市)※写真と本文は無関係

8日の日本経済新聞朝刊国際2面に載った「北朝鮮、日本上空越える『発射』も~大使、安倍首相を非難」という記事でソウル支局の細川幸太郎記者は以下のように記している。


【日経の記事】

北朝鮮の朝鮮中央通信は7日、宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使が安倍晋三首相を非難する談話を発表したと報じた。北朝鮮が10月末に発射した超大型多連装ロケット砲について日本が弾道ミサイルだとして国連決議違反を主張していることを批判した。現状のままでは、日朝首脳会談は実現しないと警告した。

宋氏は北朝鮮外務省で対日外交を一貫して担当してきた人物だ。安倍首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の場で北朝鮮を批判したことにも反発を強めた。さらに、「より大きな災いと破滅に直面することになる」として日本の上空を越えるミサイル発射の可能性も示唆した


◎NHKとの差が…

上記の説明では「日本の上空を越えるミサイル発射の可能性も示唆した」との説明に納得できない。「より大きな災いと破滅に直面することになる」という「談話」が具体性を欠くからだ。

この件に関してNHKは以下のように報じている。

【NHKの記事】

北朝鮮外務省のソン・イルホ日朝国交正常化担当大使は、国営の朝鮮中央通信を通じて談話を発表しました。

この中で、安倍総理大臣が今月、タイで行われた首脳会議で弾道ミサイルを繰り返し発射する北朝鮮を非難したことについて「国連安全保障理事会の決議違反だと身の程知らずにも言いがかりをつけてきた」として、発射は自衛のための正当な措置だと主張しました。

そのうえで、「島国の上空を飛び越える飛しょう体の軌跡やごう音におびえていたときの不安と恐怖が恋しくなって、わが国に何が何でも挑戦しようとするならば、われわれは日本を眼中にも置かずにやるべきことをやるだろう」として、日本の上空を通過する飛しょう体の発射を示唆しました


◇   ◇   ◇


NHKの記事では「日本の上空を通過する飛しょう体の発射を示唆」と言われて納得できる。「島国の上空を飛び越える飛しょう体の軌跡やごう音におびえていたときの不安と恐怖が恋しくなって、わが国に何が何でも挑戦しようとするならば、われわれは日本を眼中にも置かずにやるべきことをやるだろう」という「談話」があったのならば、なぜ日経の細川記者はこれを使わなかったのか。

より大きな災いと破滅に直面することになる」という「談話」の方が「日本の上空を越えるミサイル発射の可能性」との関連が高いとの判断なのか。北朝鮮との関係で「より大きな災いと破滅」と言われると、個人的には日本本土への大規模な攻撃だと感じるが…。


※今回取り上げた記事「北朝鮮、日本上空越える『発射』も~大使、安倍首相を非難
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191108&ng=DGKKZO51912530X01C19A1FF2000


※記事の評価はD(問題あり)。細川幸太郎記者への評価はDで確定とする。

2019年11月7日木曜日

相変わらず説明に無理があるデービッド・アトキンソン氏の記事

小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏はやはり書き手として問題が多い。東洋経済オンラインに11月6日付で書いた「『県別の最低賃金』はどう見ても矛盾だらけだ~『全国一律の最低賃金』は十分検討に値する」という記事も粗が目立つ。

全てを取り上げると長くなるので、代表的なものを1つ。
福岡市・姪浜から見た博多湾
    ※写真と本文は無関係です

【東洋経済オンラインの記事】

経営者は自社の商品やサービスの価格を決めるにあたって、コストをベースに考えます。一般的な企業の場合、最大のコストは人件費です。ですので、仮に労働者のコストが下がれば、商品の価格を下げることができます。

逆に、人件費が上がった場合、その分を吸収するためにとれる方法は、生産性を向上させるか、利益を減少させるか、単価の引き上げしかありません。海外では、最低賃金を引き上げた際には、この3つの方法を組み合わせて対応した例が多いようです。


◎「吸収」になってる?

人件費が上がった場合、その分を吸収する」とはどういうことだろうか。常識的に考えて「人件費が上がっても利益が減らないようにする」という意味だとしよう。

とれる方法は、生産性を向上させるか、利益を減少させるか、単価の引き上げしかありません」とアトキンソン氏は言う。しかし「利益を減少させる」のでは「吸収」できていない。

生産性」も具体的に何を指すのか明確ではないが、記事中の他のところに出てくる「1企業当たりの付加価値」だとしよう。そして「付加価値税引後純利益+支払利息+手形割引料+賃借料+人件費+租税公課」と定義する。

この場合、販売数量など他の条件は変わらない前提で「単価の引き上げ」に踏み切ると「税引後純利益」が増えて「付加価値」が高まり「生産性」が伸びてしまう。

生産性を向上させる」ことを手段の1つとして挙げるならば、「単価の引き上げ」を別個に持ち出す必要はない。含まれている。

ゆえに、「人件費が上がった場合、その分を吸収する」手段としてアトキンソン氏が挙げた「3つの方法」のうち2つは消える。では「生産性を向上させる」以外に人件費増加を「吸収する」手段はないのか。あると思える。

例えば「賃借料」を減らす方法だ。交渉によってオフィスの賃料を減額できたとしよう。「賃借料」は減るが、その分は「税引後純利益」などが増えるので「付加価値」には影響しない。つまり「生産性を向上させる」効果はない。一方で増益要因なので「人件費」の増加分を「吸収」できる可能性が出てくる。

あれこれ述べてきたが、要は「アトキンソン氏の説明は問題だらけ」と言うことだ。


※今回取り上げた記事「『県別の最低賃金』はどう見ても矛盾だらけだ~『全国一律の最低賃金』は十分検討に値する
https://toyokeizai.net/articles/-/311887


※記事の評価はD(問題あり)。デービッド・アトキンソン氏への評価もDを据え置く。アトキンソン氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


D・アトキンソン氏の「最低賃金引き上げ論」に欠けている要素
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/d.html

改めて感じたアトキンソン氏「最低賃金引き上げ論」の苦しさ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_10.html

日経でも雑な「最低賃金引上げ論」を披露するアトキンソン氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_11.html

2019年11月6日水曜日

「なお硬いガラスの天井」に説得力欠く日経1面連載「分断の米国」

女性が米国大統領を目指す上で「ガラスの天井」は存在するだろうか。個人的には「ない」と思える。あったとしても、非常に薄く今にも崩れ落ちそうなものだろう。しかし6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「分断の米国~大統領選まで1年(4)なお硬いガラスの天井 女性候補の数は最多に」という記事では「ガラスの天井」が「なお硬い」と訴えている。しかし、中身を見ると説得力に欠ける。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

この記事には他にも色々と問題を感じた。記事を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

10月6日、首都ワシントンの連邦最高裁。1年前、大統領ドナルド・トランプ(73)が指名した保守派判事の反対デモで逮捕された東部メリーランド州の女性レベッカ・トラクソル(45)は、判事とトランプへの抗議活動に再び加わった。

共和党を支持していたトラクソルだが、女性を蔑視するようなトランプの発言に傷つき、2020年大統領選は民主党の女性候補への投票を考えるようになった。「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任だ」


◎色々と説明が足りないような…

上記のくだりには色々と疑問が湧く。

まず「女性を蔑視するようなトランプの発言」とは具体的に何を指すのか。「トランプ」氏の名誉に関わる問題だけに、どの「発言」を指すのかは明確にしてほしい。

レベッカ・トラクソル」氏に関する説明も不十分だ。「保守派判事の反対デモで逮捕された」と書いているだけで、どんな違法行為があったのか触れていない。例えば暴行容疑で逮捕されて有罪となったのならば「なぜそんな人物のコメントをわざわざ使うのか。犯罪に加担しない善良な米国市民はいくらでもいるだろう」とは思う。

疑問は他にもある。「トラクソル」氏が「保守派判事」の「指名」に対する「抗議活動」に参加しているのならば、それだけで「2020年大統領選」では「トランプ」不支持となるのが当然ではないか。なのになぜか「女性を蔑視するようなトランプの発言」が理由で「トランプ」不支持に傾いているという。

保守派判事」の「指名」と「女性を蔑視するようなトランプの発言」に何らかの関連があるのかもしれないが、記事からはその関連が読み取れない。

ついでに言うと「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任だ」というコメントもよく分からない。そもそも「民主党の女性候補」は「女性を蔑視するようなトランプの発言」の「被害者」なのか。どういう関係があるのか記事からは判断できない。

仮に「被害者」だとしても「いじめっ子を負かすのは、被害者が最適任」とも思えない。例えば会社の中で「いじめ」があった場合、「いじめっ子を負かす(いじめっ子の責任を明らかにして処分する)」役割を「被害者」に託すのは適切だろうか。荷が重すぎる気はする。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

トランプへの反発が女性の政治参加を促している。18年の中間選挙で、連邦議会下院選に民主から立候補した女性の数が356人と2年前の2倍に増えた。20年大統領選の民主候補の指名争いにもエリザベス・ウォーレン(70)ら史上最多の女性が名乗りを上げる。

米ギャラップの調査で、女性大統領に賛成する人は1937年の33%から19年は94%に高まった。「『ガラスの天井』はいつか誰かが破る」。16年、トランプに敗れた元国務長官ヒラリー・クリントン(72)は予告したが、民主支持者には複雑な思いもある

10月9日、東部ニューハンプシャー州ロチェスター。民主候補の前副大統領ジョー・バイデン(76)の選挙集会に参加したカレン・チャンドラー(68)は語る。「女性への偏見はまだ根強い。今回は副大統領候補でどうかしら」



◎どこが「複雑」?

ここでは「民主支持者には複雑な思いもある」との説明がしっくり来ない。「カレン・チャンドラー」氏は「ジョー・バイデン」氏の支持者で、「副大統領候補」を女性にするのがベストとの考えだと読み取れる。「複雑」さは感じられない。
鮎川港(宮城県石巻市)のカモメ※写真と本文は無関係

カレン・チャンドラー」氏が女性大統領を熱望しているのに、不本意ながら「ジョー・バイデン」氏を支持しているのならば話は別だが、そういう説明は見当たらない。

ここで「ガラスの天井」の問題も考えてみたい。

記事によると「女性大統領に賛成する人は1937年の33%から19年は94%に高まった」らしい。だとすれば「女性大統領」に対する拒否感はほとんどないと言えそうだ。なのに「ガラスの天井」があると見なすべきだろうか。

トランプに敗れた元国務長官ヒラリー・クリントン(72)」氏は前の大統領選の総得票数では「トランプ」氏を上回っていた。単純に全米での総得票数で当選を決める仕組みならば「女性大統領」が誕生していた。

つまり紙一重の勝負だった。なのに「ガラスの天井」があると見る方が不思議だ。「ガラスの天井」は既になく、後は候補者次第と見るべきだろう。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

性的被害を告発する「#Me Too」運動の発火点となり、女性が社会進出するイメージの強い米国。だが連邦議員の女性比率は193カ国・地域で78位。主要7カ国(G7)でも日本(164位)に次ぎ下から2番目だ。欧州やアジアで女性の大統領や首相は珍しくないが、米国では副大統領に就いたこともない。

保守的な共和支持者では女性大統領への抵抗感がさらに強い。米調査によると、女性政治家が少ない要因に性差別があると考える民主支持者は64%だが、共和は30%と半分以下だ

◎関係ある?

女性政治家が少ない要因に性差別があると考える民主支持者は64%だが、共和は30%と半分以下」というデータから「保守的な共和支持者では女性大統領への抵抗感がさらに強い」と結論付けているが、なぜそう読み取ったのか理解に苦しむ。

例えば「共和支持者」の多くは「女性政治家が少ない要因」を「性差別」ではなく「政治家を目指す女性が男性に比べて少ないからだ」と考えているとしよう。

この場合「女性大統領への抵抗感」との直接的な関連は見当たらない。「女性政治家が少ないのはそもそも志願者が少ないからだろう。でも優秀な女性政治家であれば大統領候補として支持するよ」という考え方は成り立つ。

女性政治家が少ない要因」を「性差別」に求めない人は「女性大統領への抵抗感」が強いと単純に結び付けるのは無理がある。

記事の終盤にも注文を付けたい。

【日経の記事】

9月下旬、南部バージニア州チェサピーク。トランプの選挙陣営で女性票の掘り起こしをめざす「トランプを応援する女性たち」の会合に地元女性ら約30人が集まった。「大統領を支持しているのは男性だけとか、大統領は女性蔑視だとか、メディアは嘘ばかりだ」。陣営幹部の言葉に大きな拍手がわいた。ギャラップの世論調査では、女性有権者のトランプ支持率は34%だが、共和支持の女性に限ると90%に達した。

有事に陣頭指揮を執る米軍の最高司令官を兼ね、核のボタンを握る米大統領。調査会社ユーガブによると安全保障の対処で「男性の方が優れている」と答えたのは共和支持者の43%で民主(14%)の3倍に及ぶ。根強い偏見はいまだに破れない「ガラスの天井」の厚みを映し出す


◎「偏見」だと断定できる?

安全保障の対処」で「男性の方が優れている」と考えるのは「根強い偏見」だと言えるだろうか。「偏見」かもしれないが、記事では根拠を示していない。筆者は「女性の方が優れている」あるいは「男女に差がない」と言い切れるのだろうか。

偏見」かどうかはエビデンスに基づいて判断したい。もし根拠なしに「根強い偏見」と書いているのならば、それこそ「偏見」と言える。


※今回取り上げた記事「分断の米国~大統領選まで1年(4)なお硬いガラスの天井 女性候補の数は最多に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191106&ng=DGKKZO51804050V01C19A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年11月5日火曜日

ヤフーの筆頭株主はソフトバンクグループ? 東洋経済 佃陸生記者に問う

Zホールディングス(ZHD)傘下のヤフー」の「筆頭株主」は「ソフトバンクグループ」だと週刊東洋経済の佃陸生記者が書いている。しかし「Zホールディングス傘下」となった時点で同社の全額出資子会社になっているはずだ。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

以下の内容で問い合わせを送ってみた。


【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様  佃陸生様 

11月9日号の第1特集「EC・決済覇権バトル」の中の「兄弟会社・ヤフーはノウハウを学べるか~アリババの次世代リテール構想」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは、冒頭に出てくる以下のくだりです。

Zホールディングス(ZHD)傘下のヤフーがEC事業で師と仰ぐのが、中国アリババグループ(以下アリババ)だ。ヤフーの筆頭株主がソフトバンクグループ(以下SBG、45.52%保有)なのと同様、アリババの筆頭株主もSBG(26%保有)である。ヤフーにとって兄弟会社のアリババは、学ぶべき格好の教材となっている

ヤフーの筆頭株主がソフトバンクグループ(以下SBG、45.52%保有)」と書いていますが、10月から「ヤフー」は「Zホールディングス」の全額出資子会社になっているはずです。「ヤフー」のホームページなどでも確認できます。

体制変更前の「筆頭株主」について述べている可能性も考慮しましたが、最初に「Zホールディングス(ZHD)傘下のヤフーが~」と述べているのであり得ません。

ヤフーの筆頭株主がソフトバンクグループ(以下SBG、45.52%保有)」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「アリババ」と「ヤフー」を「兄弟会社」と見なすのは苦しいと感じました。「兄弟会社」に明確な基準はないのでしょうが、「兄弟会社」と呼ぶならば「アリババ」も「ソフトバンクグループ」の子会社でないと厳しいでしょう。しかし「26%保有」の関連会社に過ぎません。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「兄弟会社・ヤフーはノウハウを学べるか~アリババの次世代リテール構想
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21996


※記事の評価はD(問題あり)。佃陸生記者への評価も暫定でDとする。

2019年11月4日月曜日

福田恵介氏の説明に矛盾 東洋経済 「韓国は今、何を考えているのか」

週刊東洋経済の福田恵介氏(肩書は本誌コラムニスト)が11月9日号の第2特集「韓国は今、何を考えているのか」に書いた記事は、辻褄の合わない記述が目立った。以下の内容で問い合わせを送っている。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)
       ※写真と本文は無関係です


【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集長 山田俊浩様  福田恵介様

11月9日号の第2特集「韓国は今、何を考えているのか」の中で福田様が書かれた最初の記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

<記事の引用>

韓国側は一度だけ、解決策を提示してきた。元徴用工に支援・補償を行う財団の設立案だ。前例がある。15年の慰安婦問題・日韓合意に基づき、日本政府が10億円を拠出して財団を設立し、慰安婦への支援事業を始めた。ところが朴槿恵(パククネ)政権時代の合意に対し、文大統領は「慰安婦合意は不適切だった」と反発。結局、19年7月に財団は解散された。これを思えば、韓国の提案が日本に受け入れられないのは自明なことだ。

それでも左派・革新政権である文政権は、どんな対日政策を打ち出しても支持層から「日本に媚びている」といった反発を受けがちだ。だからこそ、現政権は日韓問題の先送りを図って時間稼ぎをしているのだ、と日本側は思ってきた。しかしここでようやく、日本政府やメディアは気づいた。文大統領と大統領府は、実は日本についてまったく関心がなく、政策もないのではないか──。

--引用は以上です。

調べてみると「財団の設立案」を「提示してきた」のは今年6月のようです。「ここでようやく、日本政府やメディアは気づいた」のですから「文大統領と大統領府は、実は日本についてまったく関心がなく、政策もないのではないか」と「日本政府やメディア」が「気づいた」のは今年6月のはずです。

しかし、記事は以下のように続きます。

<記事の引用>

そんな懸念を確信に変えたのは、19年1月10日、韓国大統領府で恒例の、大統領による年頭記者会見だった。内外メディアが一堂に会し、毎年日本人記者が質問している。それなのに、日本人記者はなかなか当てられない。ようやく指名され、悪化する日韓関係について質問した記者に対し文大統領は「実は、あなたの後ろの方を指名するつもりだった」と言い放ったのだ。結局、この会見で文大統領が日韓関係に言及したのは、「徴用工問題は判決を尊重すべき」との発言のみ。慰安婦問題や韓国の艦艇が海上自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされた当時の問題にも触れなかった。

--引用は以上です。

文大統領と大統領府は、実は日本についてまったく関心がなく、政策もないのではないか」との「懸念」を抱いたのは今年6月のはずなのに、それを「確信に変えた」のは今年「1月」だと福田様は説明しています。過去に戻って「懸念を確信に変えた」ことになるので辻褄が合いません。記事の説明は成立しないのではありませんか。問題なしとの判断であれば、どう解釈すればよいのか教えてください。

付け加えると「大統領による年頭記者会見」のやり取りで「日本についてまったく関心がなく、政策もない」と「確信」した理由が謎です。「文大統領」が「日本人記者」をあえて「指名」しない選択をしたのならば、「関心」があると判断する方が自然です。誰かを徹底的に無視する場合、無視を決めた人は相手への「関心」がないと言い切れますか。

記事では「朴槿恵(パククネ)政権時代の合意に対し、文大統領は『慰安婦合意は不適切だった』と反発。結局、19年7月に財団は解散された」とも説明しています。「関心がなく、政策もない」のならば「財団」はなぜ「解散された」のでしょうか。

記事の続きにも問題なしとしません。「『日本に関心がない』という声は、今では日本だけで聞かれるのではない。韓国人もそう思い始めたのだ。その際に語られるのが、『386世代』と『学生運動』という2つのキーワードだ」と福田様は述べています。しかし、その後の説明とまたしても整合しません。

学生運動組織で中心的な役割を果たした386世代が現大統領府には多い。386世代の特徴は、思考が左派・革新的で社会民主的な志向を持つ。また北朝鮮に好意的で、民族主義的な考えを持つ人物が多く、大国への反発心が強く、それゆえ反米・反日的だ」と福田様は解説しています。

キーワードに挙げた「386世代」は「反日的」なので「日本に関心が」あるはずです。その世代が「現大統領府には多い」となると「文大統領と大統領府は、実は日本についてまったく関心がなく、政策もないのではないか」との見方はあまり説得力を持ちません。「大統領府」については「反日」という形で「日本に関心」を持っている可能性が高そうです。なのになぜ「『日本に関心がない』という声は、今では日本だけで聞かれるのではない。韓国人もそう思い始めたのだ」と認識してしまったのですか。

記事の終盤には「文大統領がようやく対日政策に取り組もうとしたのは、安倍政権が『輸出管理措置』における優遇対象のホワイト国(グループA)から韓国を外し、半導体の主要材料となる3品目の輸出申請審査を強化すると発表した今年7月からだ」との記述もあります。

『日本に関心がない』という声は、今では日本だけで聞かれるのではない。韓国人もそう思い始めたのだ」と書いているのですから、今年1月に「確信」となった「日本に関心がない」という見方は「」でも変わっていないはずです。

なのに「文大統領」が「今年7月から」は「対日政策に取り組もうと」しているようです。それなのに「文大統領と大統領府は、実は日本についてまったく関心がなく、政策もない」と「日本政府やメディア」は「確信」したままなのですか。

日本政府やメディア」は誰もまともな状況認識ができていないとの前提で考えれば、あり得ない話ではありません。ただ、今回の記事の説明に問題があると考える方が自然でしょう。

問い合わせは以上です。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

福田氏には3月にも問い合わせを送っているが、8カ月が経過しても回答はない。参考までに問い合わせの内容を紹介したい。

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集部 福田恵介

3月16日号の「深層リポート~歴史的合意を阻んだ米朝の相反する『計算法』という記事についてお尋ねします。記事中に「外交では、失敗しない首脳会談はないというのが定説だとの記述があります。これが正しければ「ほとんどの首脳会談は失敗に終わる」とも言えます。しかし一般的な常識とは逆です。

実務者協議などで合意を積み重ねて首脳会談の前にはほぼ話が付いているのが通例なので「外交では、成功しない首脳会談はないというのが定説になっているのではありませんか。「外交では、失敗しない首脳会談はないというのが定説だとの説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者の間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「韓国は今、何を考えているのか
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22035


※記事の評価はD(問題あり)。福田恵介氏への評価はDで確定とする。