2017年5月31日水曜日

「おつり投資」に意味ある?週刊エコノミストのフィンテック特集

週刊エコノミスト6月6日号の特集「お金が増えるフィンテック」の最初に出てくる「第1部 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす」という記事では、トラノテックという会社を冒頭で取り上げている。大堀達也記者と松本惇記者はこの会社に好意的だが、投資家にとって好ましいサービスとは思えない。記事の中身を見た上で、その理由を述べたい。
八坂神社(北九州市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

知らないうちに自分のお金が投資に回って、資産が増えている--。

フィンテックのベンチャー、トラノテック(東京都港区)は、買い物をするたびにおつりが自動的にたまっていき、投資に回るウェブサービス「トラノコ」を開発した。

買い物時、現金で払うとおつりが来るが、スイカやパスモなど電子マネーのカード払いでは、おつりが発生しない。

そこでトラノコでは、「おつり相当額」という「仮のおつり」を算出する。例えば、喫茶店で税込み380円のコーヒーを買う場合、400円との差額の20円をおつり相当額とするのだ。

おつり相当額は、買い物をした人のカード利用履歴がトラノテックに送られ、それを基に同社が算出する。あらかじめトラノコのユーザーが指定した銀行口座から毎月、おつりの合計が自動で引き落とされ、投資の原資となる。

消費者の買い物データは「家計簿アプリ」企業も持っている。トラノテックと提携する家計簿アプリのユーザーは、簡単な操作でトラノコを利用することができる。

投資先は、リスクとリターンの大きさによって異なる「小トラ」「中トラ」「大トラ」という愛称の3つのファンドから利用者が選ぶ。ファンドはトラノテックの子会社トラノテック投信投資顧問が組成・運用する。

「小トラ」は安全資産の債券が中心でローリスク・ローリターン、「中トラ」は投信で言えばバランス型でミドルリスク、「大トラ」はリスク資産が入った分、高い利回りを狙う商品だ。具体的には「中トラ」で3~4%を目指しているという。

◇   ◇   ◇

投資初心者から「トラノコを利用しようかと考えているけど、どう思う?」と聞かれたら、迷わず「やめた方がいい」と答える。理由は3つある。

◎「おつり相当額」で決める意味ある?

トラノコを利用すると「おつり相当額」によって投資額が決まる。ここに合理性があるだろうか。サービスを売り込む側が「おつりを貯金する感覚で投資できます」などと誘い込むのは分かる。だが、投資家にとって「おつり相当額=投資に充てるべき額」となる理由はほぼない。「おつり相当額=余裕資金」でもない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

投資に充てる額は投資家が自らの判断で決めるべきだ。それが「おつり相当額」と合致する可能性は非常に低い。


◎買い物情報をタダで渡す?

おつり相当額は、買い物をした人のカード利用履歴がトラノテックに送られ、それを基に同社が算出する」という。つまり、「カード利用履歴」という個人情報をトラノテックにタダで提供することになる。その代償に得られるのは「おつり相当額」の算出だ。

かなりの個人情報を差し出すのに、得られるものにはほとんど価値がない。これならば「毎月サイコロを振って、その1000倍の金額を投資する」とでも決めた方がマシだ。

既に述べたように「おつり相当額=投資に充てるべき額」ではない。「おつり相当額」で決めてもサイコロを振って決めても、投資額の決定方法として本質的な違いはない。


◎3つのファンド限定に意味ある?

百歩譲って「おつり相当額」を投資に充てるのが妥当だとしても「トラノテックの子会社トラノテック投信投資顧問が組成・運用する」3つのファンドに投資先を限定する意味はない。3つのファンドはいずれも信託報酬が税抜きで0.3%。他に、ファンドが購入するETFの信託報酬も負担することになる。

特に「安全資産の債券が中心でローリスク・ローリターン」の「小トラ」は問題が大きい。現在のような超低金利の状況で年0.3%の信託報酬を取られるのは苦しい。これならば銀行預金に回した方がマシだ。

結局、「おつり相当額」を計算してもらうことに非常に高い価値を見出す人以外に、トラノコを利用する意義は乏しい。大堀達也記者と松本惇記者には、そうした点を十分に検討した上で記事を書いてほしかった。


※記事の評価はD(問題あり)。大堀達也記者への評価もDを据え置く。松本惇記者は暫定でDとする。


※今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ヨイショが過ぎる週刊エコノミスト「お金が増えるフィンテック」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_29.html

2017年5月30日火曜日

投資初心者に読ませたくない日経「体験フィンテック」

日経に限った話ではないが、フィンテック関連の記事はどうも苦しい。30日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「体験フィンテック~スマホ証券、3タップ→株取引完了  ロボアド、6問回答→運用を指南」という記事では「金融の最先端を記者が体験」したらしい。だが、「最先端」と呼ぶような大したものには見えない。
久留米成田山(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

まずは「スマホ証券」から見ていこう。

【日経の記事】

まず「スマホ証券」を名乗るワンタップバイ(東京・港)に向かった。スマートフォン(スマホ)での株式売買に特化したネット証券だ。オフィス内はカジュアルな装いの若い社員が多く、ITベンチャーの雰囲気だ。

さっそくダミーの口座で株式の取引を体験してみる。アプリの画面にまず出てくるのは売買可能な銘柄リストだ。アップルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトなど有名企業が並ぶ。現在の米国株30銘柄とETFに加え、今夏からは日本株も取り扱う予定だ。

今回はアップル株を選択して1タップ。次に金額を指定し2タップ。ワンタップバイが仕入れた株式を「小分け」にして販売するため、最低1000円から投資できる。購入時の株価や為替レートが表示されて最終確認し、「買う」を選択して3タップ。あっという間に取引は完了。一般のネット証券だと、16~18の操作手順が必要という

「初心者を呼び込むために、(操作の簡単さなど)投資を始めるハードルをいかに下げるかにこだわった」と林和人社長は言う。実際、顧客の7割は20~30代の投資初心者なのだそうだ。

日本証券業協会の調査では個人投資家の過半は60歳以上。個人金融資産の保有も高齢層に偏っている。フィンテックはそんな問題の処方箋になるかもしれない


◎単なるネット証券では?

スマートフォン(スマホ)での株式売買に特化したネット証券」で「操作手順」を簡素化しただけの話だろう。ネット証券もフィンテックと言えばそうかもしれないが、目新しさはない。そこに多少の工夫を加えただけの会社を「フィンテック」の名の下に「金融の最先端」として紹介するのは頂けない。

16~18の操作手順」を「3タップ」に簡素化しただけで「個人金融資産の保有も高齢層に偏っている。フィンテックはそんな問題の処方箋になるかもしれない」と言うのは、かなり大げさだ。

話を「ロボアド」に移そう。

【日経の記事】

次は「ロボアド」だ。いくつかの質問に答えるとコンピューターが個々人に最適な資産運用を指南してくれる。今回はウェルスナビ(東京・千代田)で体験した。

質問は年齢や投資目的、株価急落時の対応など6つだけ。そこから投資期間やリスク許容度を見極め、最適な運用戦略をはじき出す。

記者も試しにやってみたところ、20歳代で投資期間を長くとれることもあり、リスク許容度は5段階中もっとも高い5だった。推奨されたのは株式の比率が高めの運用戦略で、米国株に35%、日本・欧州株に32%、新興国株に13%投資する。

実際に口座開設して入金すればあとは「自動で長期の分散投資ができるのが強み」(柴山和久社長)だ。内外の株式や債券を組み入れる上場投資信託(ETF)を活用し、ポートフォリオを構築してくれる。

世界のロボアドによる運用残高は2017年時点で2248億ドル(25兆円)で、20年までに3倍超になるとの推計もある。日本でも投資初心者を中心に広がっていきそうな予感がした



◎コストには触れずに…

ロボアド」のくだりで気になるのはコストに触れていない点だ。調べてみると、年間の手数料は預かり資産の1%(税別、預かり資産3000万円まで)。ポートフォリオにETFを組み込んだ場合、ETFの信託報酬も上乗せされてくるはずだ。手数料はかなり高いと思える。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
            ※写真と本文は無関係です

そこに触れずに「自動で長期の分散投資ができるのが強み」と会社側にアピールだけさせて「日本でも投資初心者を中心に広がっていきそうな予感がした」と締められると、筆者の野村優子記者が業界の回し者に思えてくる。

ウェルスナビ」のロボアドは診断自体は無料のようなので、試してみるのはまだいいかもしれない。それを参考にするとしても、ポートフォリオは自分で組み合わせた方がいい。ETFならば個人で買うのもそれほど難しくない。もちろん多少は手間がかかるが、税別で年間1%の手数料を何年も払い続けるのはあまりに無駄だ。投資額1000万円ならば手数料は年間10万円にもなる。

知識の乏しい投資初心者が記事に釣られてロボアドに引き込まれないよう祈りたい。


※今回取り上げた記事「体験フィンテック~スマホ証券、3タップ→株取引完了  ロボアド、6問回答→運用を指南
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170530&ng=DGKKASGD28H08_Z20C17A5EE9000

※記事の評価はD(問題あり)。野村優子記者への評価も暫定でDとする。

2017年5月29日月曜日

ヨイショが過ぎる週刊エコノミスト「お金が増えるフィンテック」

フィンテック」に焦点を当てた記事には、あまりいい印象がない。多くの場合、中身のなさを言葉の目新しさでごまかしている。週刊エコノミスト6月6日号の特集「お金が増えるフィンテック」の最初に出てくる「第1部 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす」という記事はその典型だ。大した新規性もないのに、“フィンテック企業”のサービスを画期的なもののように取り上げている。
福岡県八女市の蹴洞橋(けほぎばし)
         ※写真と本文は無関係です

ヨイショが過ぎるだけならまだしも、正確さに欠ける記述もあった。これに関しては週刊エコノミストに問い合わせを送ったので、その中身を見てほしい。

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部 大堀達也様 松本惇様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

6月6日号の特集「お金が増えるフィンテック」についてお尋ねします。「第1部 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす」という記事には「フィンテックは不動産投資の形も変えた。ロードスターキャピタル(東京都中央区)は、これまで個人ができなかった大型不動産への投資を可能にするサービス『オーナーズブック』を運営している」との記述があります。さらに「日本では個人が投資できる不動産は、マンションや『REIT』(不動産投資信託)が中心で、数億円規模以上の大きな投資案件は、機関投資家の独占市場だった」とも説明しています。

しかし、個人はREITを通じて「大型不動産への投資」がこれまでも可能だったのではありませんか。REITは「多くの投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品」(投資信託協会)です。REITが投資対象とする「オフィスビルや商業施設」はほとんどが「数億円規模以上の大きな投資案件」なので、ロードスターキャピタルの登場によって「これまで個人ができなかった大型不動産への投資」が可能になったとは思えません。

「REITの場合、大型不動産を保有しているのは個人ではない。個人による大型不動産への投資はあくまでREITを通した間接的なものだ」との反論はできます。ただ、それはロードスターキャピタルのサービスも同様です。記事にも「集めた資金は、不動産を保有する借入人に、不動産担保ローンとして貸し付け、利息を得る」と書いてあります。

「これまで個人ができなかった大型不動産への投資」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、もう1つ質問させていただきます。

最後の段落に「日銀の資金循環統計によれば、2016年末時点の家計の金融資産残高は1800兆円あり、そのうち937兆円が現金または預金。投資によって価値を生み出せるかもしれない膨大なお金が、マイナス金利もあいまって死蔵されたままだ」との記述があります。

ここからは「マイナス金利政策は人々の現預金志向を強める傾向がある」と受け取れます。しかし、そうでしょうか。金利低下は預金志向を弱めると考えるのが自然ではありませんか。銀行預金にマイナス金利が適用された場合、現金への需要が高まるかもしれません。しかし、現時点で銀行預金の利率はマイナスにはなっていません。

また、銀行預金にマイナス金利が適用された場合でも、預金から株式などへの資金移動を促す効果があるはずです。結局、「マイナス金利もあいまって(現預金として)死蔵されたままだ」というくだりは、よく分かりませんでした。どう理解すればよいのでしょうか。

お忙しいところ恐縮ですが、上記の2点に関して回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が続いています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

ロードスターキャピタルのサービスは、ネットを使って資金を集め、それを貸し出して不動産に投資させているだけだ。多くの人の資金を集めて不動産に投資しているという点はREITと共通する。「フィンテックは不動産投資の形も変えた」などと持ち上げるほどの話ではない。

大堀達也記者と松本惇記者はロードスターキャピタルにうまく丸め込まれたのだろうか。「大した話ではない」と分かっていながら持ち上げている可能性もなくはないが…。


※この記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「おつり投資」に意味ある?週刊エコノミストのフィンテック特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_31.html

2017年5月28日日曜日

増加率なぜ載せない? 日経「陸運4社、人件費270億円増 」

28日の日本経済新聞朝刊1面ワキを飾った「陸運4社、人件費270億円増 ヤマトや日通、今期減益分の9割」という記事は不満が残る内容だった。「人件費270億円増」というものの、増加率を探れる情報がどこにも出ていない。これでは辛い。
常盤橋(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

人手不足が陸運大手の業績を圧迫している。ヤマトホールディングス(HD)など株式を上場している4社は、2018年3月期に外部への運送委託費を含めた人件費が前期より計270億円増える見通しだ。4社の営業利益は前期比19%減の見込みで、人件費の増加が減益額の9割を占める。運送料金の値上げで人件費をどこまで吸収できるかが焦点になる。

最大手のヤマトHDは人件費が163億円増える見通しだ。今期の営業減益額(48億円)の3.4倍に相当する。取り扱い荷物の急増で深刻な人手不足に陥ったため契約社員のドライバーら約1万人を採用し、問題となっていたサービス残業の解消も目指す。これまで個人事業主の協同組合「赤帽」などへの外部委託で対応してきたが、人員増加で外部委託費は48億円減る見通しだ。

日本郵政は子会社の日本郵便で人件費が91億円増える。福山通運は人件費と外部委託費の合計が20億円増える見込みだ。派遣人材を増やす考えだが、賃金も上昇しており負担が重くなる。

日本通運は外部委託費が62億円増加する見通しだ。林田直也取締役は「人手不足を背景に4月以降も外注の単価が上昇している」と話す。

人件費を吸収しようと各社とも価格転嫁を急ぐ。ヤマトHDは小口宅配の基本料金を10月から平均15%値上げし大口顧客約1000社とも値上げの交渉中だ。下期から利益の押し上げを見込んでおり「来期業績は値上げが大きく寄与する」(芝崎健一専務執行役員)とみている。日通も運送契約の更新時期を迎えた顧客を対象に数%の値上げを求める方針だ。

インターネット通販の急増で物流各社は慢性的な人手不足に直面する。厚生労働省によると「自動車運転の職業」の有効求人倍率は3月に2.63倍にまで上昇した。

◇   ◇   ◇

経済記事では数字の比較が重要だ。例えば「A社の経常利益は前期に比べて30億円増えた」と言われても、それだけでは評価が難しい。3億円が33億円になるのと、1000億円が1030億円になるのでは、状況がかなり違ってくる。だから記事では増減率を示す必要がある。もちろん前期の実績値などを入れて増減率が分かるようにしてもいい。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

しかし、今回の記事にはそれがない。「4社」合計では「人件費が前期より計270億円増える見通し」。個別に見ると「ヤマトHDは人件費が163億円増える見通し」で「日本郵政は子会社の日本郵便で人件費が91億円増える。福山通運は人件費と外部委託費の合計が20億円増える見込み」だ。「日本通運は外部委託費が62億円増加する見通し」らしい。結局、増減率は不明のままだ。

これでは人件費の増加がどの程度か判断が難しい。読者のほとんどは「陸運大手」の人件費の水準を把握していない。せめて4社合計の数字には前期比の増加率を入れてほしかった。

では、なぜ入れなかったのか。おそらく「あえて」だ。そう思えるのは、「人件費の増加が減益額の9割を占める」「(ヤマトの人件費増加額は)今期の営業減益額(48億円)の3.4倍に相当する」などと、利益額との比較で人件費増加の大きさを強調しているからだ。

例えば、4社合計の人件費増加率が20%や30%ならば、記事にその情報を入れたのではないか。実際の増加率がどうかは知らないが、5%未満だと「やっぱり」と感じる。その辺りの水準ならば、「増加率が小さいから、記事にはあえて入れないでおこう」と判断しても不思議ではない。もちろん「増減率のことは全く考えていなかった」という可能性も残るが…。

記事では「運送料金の値上げで人件費をどこまで吸収できるかが焦点になる」などと書いており、「値上げをしないと運送会社の利益が落ち込んでしまう」との印象を受ける。しかし、これは注意して見る必要がある。記者が「陸運大手」の言い分を安易に受け入れている可能性が高いからだ。

人手不足が陸運大手の業績を圧迫している」と言うが、「人件費が前期より計270億円増える」のは人手不足だけが原因ではない。ヤマトの「サービス残業の解消」は、基本的にはズルしていた分がなくなるだけだ。ここは差し引いて考えるべきだ。

さらに言えば、「人員増加」も値上げの理由にはなりにくい。例えばヤマトの場合「取り扱い荷物の急増で深刻な人手不足に陥ったため契約社員のドライバーら約1万人を採用」するらしい。人員が増えるのは仕事が増えているからだ。つまり売り上げも増える。

積極的な出店で人員を大幅に増やしている外食チェーンがあって、「出店拡大による人件費の伸びに対応して値上げに踏み切ります」と宣言されたら納得できるだろうか。

陸運大手」に関しても「従業員1人当たりの人件費が大幅に増えているから値上げします」ならば分かる。記事にも「賃金も上昇しており」といった話が少しは出てくる。だが、「平均15%」とか「数%」の値上げが必要だと思えるデータは見当たらない。

日経の記者が「陸運大手」の利益代弁者になっているのではと疑いたくなる記事だった。


※今回取り上げた記事「陸運4社、人件費270億円増 ヤマトや日通、今期減益分の9割
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170528&ng=DGKKASGD19H7N_X20C17A5MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年5月27日土曜日

良い意味で日経ビジネスらしくない特集「ヤマトの誤算」

日経ビジネス5月29日号の特集「ヤマトの誤算~本当に人手不足のせいなのか」は、良い意味で日経ビジネスらしくない内容だった。往時の週刊ダイヤモンドを彷彿させるような批判精神あふれる特集となっていた。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

本体とも言える日本経済新聞が「宅配クライシス」と名付けてキャンペーンを展開するなど、ヤマト寄りの報道を続ける中で、ヤマトに対して「本当に人手不足のせいなのか」「アマゾンの被害者なのか」との問題意識を抱き、批判的に斬り込んでいった姿勢は称賛に値する。

今回の特集ではヤマトホールディングスとヤマト運輸が社長インタビューに応じている。にもかかわらず、臆せずヤマトを批判的に取り上げるのは、従来の日経ビジネスのイメージとはかけ離れている。何か好ましい変化が編集部内に起きているのかもしれない。

ここでは「PART2 誤算の研究~宅配危機を招いた経営の責任」という記事の中から、経営陣を批判的に描いている部分を抜き出してみる。

【日経ビジネスの記事】

夕方以降はアマゾンなどの当日配送が現場を苦しめる。ネット通販の荷物が営業所に届き、大量の荷物を午後7~9時に宅配しなければならない。以前は遅番のドライバーが夜を担当していたこともあったが、この数年は多くの社員が朝から晩まで勤務している。こうした現場の負荷増加の一部は、サービス残業に支えられていた。

経営陣は昨夏から異変に気付き働き方改革に動いたというが、現場は明らかにそれより前に疲弊していた。ヤマト運輸労働組合の森下明利・中央執行委員長は、「数年前から現場の窮状を会社側に申し入れていた」と言う。

現場の窮状の把握が遅れた原因として考えられるのが、「生産性向上」への過信だ。データ上は生産性が向上しているように見えても、経営数値に表れないサービス残業に支えられている場合もある。ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長は次のように話す。

「ドライバーの携帯端末で労働時間を管理していた。携帯端末で認識していなかった部分(編集部注:サービス残業)があれば、結果的に(労働時間が分母、荷物の数が分子の)割り算としては生産性が高まっていたことになる」

ヤマトは、パートが宅配ドライバーの作業を手伝う「チーム集配」などで、業務の効率化を目指してきた。こうした取り組みで生産性がある程度向上したことは確かだろう。しかし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の安藤誠悟シニアアナリストは、「従業員の増加率に比べて宅急便の個数の増加率が大幅に上回っている。これだけ1人当たりの生産性が上がっていれば、経営陣はもっと早くおかしいと気づくべきだった」と指摘する。

◇   ◇   ◇

記事では「ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長」の言い分を安易に受け入れずに、アナリストのコメントなどを使って経営陣の問題点を指摘している。「世間で厳しく叩かれていない企業」を日経ビジネスが特集で批判的に取り上げているのは、やはり意外だ。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

ただ、「サービス残業」に関しては物足りなさを感じた。ネット通販の普及などで荷物が多くなり残業が増えるのは分かる。だが、それがサービス残業になるのは、また別の話だ。今回の特集では「なぜサービス残業が起きたのか」の分析が甘い。

上記のくだりを読むと、「経営者は気付かなかった」との前提に立っているようだ。だが組合が「数年前から現場の窮状を会社側に申し入れていた」のであれば、「昨夏」までサービス残業に気付かなかったのは不自然だ。

特集を読んだ印象では「仕事の急増に対応して多くの従業員が自発的にサービス残業をした」と感じられる。だが記事でも指摘しているように「約190億円というヤマトの残業代未払いの額はあまりに大きい」。多くの現場で従業員にサービス残業を上から強いていたと考えるのが自然だ。だとすると、経営陣が気付かないうちにサービス残業が広がった可能性は低いだろう。「経営陣もサービス残業に気付いていたはずだ」と断定するのは難しいとしても、もう少し突っ込んで責任を追及してほしかった。

とは言え、特集全体への高い評価は揺らがない。特集を担当した大西孝弘記者、村上富美記者、大竹剛副編集長には、心から賛辞を贈りたい。


※特集の評価はB(優れている)。特集の担当者への評価は、大西孝弘記者と村上富美記者を暫定でBとする。大竹剛副編集長への評価はD(問題あり)からC(平均的)に引き上げる。

2017年5月26日金曜日

「レゴランド値下げ」他紙にあって日経にない「期間限定=年内」

26日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「レゴランドはや値下げ 名古屋、開業2カ月弱 家族向け最大25%」という記事には大事な情報が抜けている。値下げは「期間限定」らしいが、その「期間」がいつまでか書いていない。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
            ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

ブロック玩具「レゴ」をテーマにした屋外型レジャー施設を運営するレゴランド・ジャパン(名古屋市)は25日、開業から2カ月弱で早くも値下げした。最大25%割引となる家族向け1日パスポートの販売を期間限定で始めた。同社は年間の入場者200万人の目標を変えていないが、現在までの実績は非公表。異例の値下げにより、かき入れ時の夏休みに備える。

レゴランドは4月に名古屋港の金城ふ頭で開業した。子ども料金が東京ディズニーリゾートを上回る強気の価格設定でオープンしたが、来場者から「入場料や園内の飲食物が割高」との不満も出ていた。

新発売する割引パスポートは3人用、4人用の2種類で大人は最大2人までという制限がある。

4人用の場合、7日以上前の購入なら1万8300円と通常より25%安くなる。

◇   ◇   ◇

料金値下げの記事を書いて「期間限定」としながら、「どの期間に限定されているのか」に触れずに済ませる感覚が理解できない。経験の浅い記者ならばその辺りを気にしないかもしれないが、企業報道部のデスクらの手を経る中で「期間限定って具体的にはいつまでなんだ?」といった話になるはずだ。デスクも気にならなかったとすれば、新聞社としては実力不足が深刻だ。

参考までに、毎日、読売、朝日がどう書いていたか調べてみた。

【毎日の記事】

4月にオープンした大型テーマパーク「レゴランド・ジャパン」(名古屋市港区)は25日、年末までの期間限定で、家族連れの入場料を最大25%値下げする新チケットの発売を開始した。

【読売の記事】

テーマパーク「レゴランド・ジャパン」(名古屋市港区)の運営会社は25日、年内入場分まで、最大25%割り引く1日券「ファミリー1DAYパスポート」の販売を始めたことを明らかにした。

【朝日の記事】

4人分を大人2人、子供2人で使った場合、2~6日前に買うと通常の1日券に比べて20%ほど、7日以上前に買うと25%ほど安くなる。年内いっぱい利用できる

◇   ◇   ◇

やはり3紙とも「年内」に触れていた。日経(特に企業報道部の部長・デスク)はもっと危機感を持つべきだ。本来ならば、最も隙がない経済記事を書けるのは経済紙の日経であってほしい。現実はむしろ逆だ。

ついでに言うと、「子ども料金が東京ディズニーリゾートを上回る強気の価格設定でオープンした」と書いたのならば、今回の値下げでその関係がどうなったのかは入れてほしかった。


※今回取り上げた記事「レゴランドはや値下げ 名古屋、開業2カ月弱 家族向け最大25%
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170526&ng=DGKKASDZ25I7X_V20C17A5TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)

2017年5月25日木曜日

三井化学は「市況頼み」脱却?日経1面「最高益4.0に挑む」

日本経済新聞朝刊1面でツッコミどころの多い連載が始まった。「最高益4.0に挑む(上)減収下でも稼ぐ 損益分岐点、40年で最低」という25日の記事を見ながら、具体的に問題点を指摘していく。
ヒシャゴ浦(大分市)※写真と本文は無関係です

まず、連載のタイトルが引っかかる。

【日経の記事】 

日本の上場企業の足腰が強くなっている。2017年3月期は売上高が減ったが、円高を克服し、純利益は2年ぶりに過去最高となった。企業は低成長下で稼ぐ力を磨き、高みを目指す「最高益4.0」に挑む


◎「最高益4.0」は達成済みでは?

取材班では「企業業績のヤマを、高成長でバブルが極まった1980年代末を起点とすると、00年前後のIT(情報技術)ブームが2度目、世界的な好景気に沸いた00年代半ばが3度目、そして今回が4度目となる」と見て、「『最高益4.0』に挑む」とのタイトルにしたようだ。

だが、記事の冒頭で記しているように「2017年3月期は売上高が減ったが、円高を克服し、純利益は2年ぶりに過去最高となった」はずだ。ならば「最高益4.0」は既に達成されており、ここから「挑む」必要はなさそうに見える。

さらに、最初に出てくる三井化学の事例が苦しい。いくつもツッコミを入れたくなる。

【日経の記事】

10年ぶりに最高益を達成した三井化学。M&A(合併・買収)や新事業に頼ったわけではなく、売上高を10%落としながらも純利益を3倍に増やした。中国の過剰生産などで3年連続の赤字となったのは3年前。身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算だ

主力の千葉の工場は今や7割の稼働率でも利益が出る。やみくもに輸出を増やさず顧客の近くで生産する「地産地消」も掲げた。そこに市況上昇の追い風が吹いた。淡輪敏社長は「以前のように輸出比率が高ければもっと利益が出たが、市況頼みの経営には戻らない」と話す。主力工場は近く4年ぶりの定期修繕に入り2カ月半停止する。体質が改善し、フル稼働状態も続くだけに関係者は定修さえ惜しいと思うほどだ。


◎「市況頼み」から脱却?

市況頼みの経営には戻らない」との社長コメントを紹介しているが、記事を読む限り「市況頼み」の体質は残っているようだ。減収だった前期に「10年ぶりに最高益を達成した」のは「市況上昇の追い風が吹いた」からではないのか。だとすれば、市況悪化は減益要因になるはずだ。
北九州モノレール(北九州市)※写真と本文は無関係です

輸出を増やさず顧客の近くで生産する『地産地消』」などをいくら推進しても、市況に左右される商品を販売している限り、業績は「市況頼み」になってしまう。そこを理解していれば、社長コメントを記事のような形では使わなかったはずだ。


◎三井化学の具体策は?

身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算だ」と書いているものの、三井化学がどういう具体策を取ったのか見えてこない。「中国の過剰生産などで3年連続の赤字となったのは3年前」と書いてあるので、中国での生産規模を縮小したのかとも思うが、その辺りの記述はない。一方で「地産地消」を掲げたとも書いているので、むしろ海外への生産シフトを進めてきたとも考えられる。ただ、これも説明がない。

国内についても「主力の千葉の工場は今や7割の稼働率でも利益が出る」と書いているが、「今や7割」が以前はどうだったのか、どうやって「筋肉質」にしたのかなど具体的な話は教えてくれない。これだけ説明が足りない中で「身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算」と言われても困る。


◎避けてほしい「市況上昇」

そこに市況上昇の追い風が吹いた」というくだりで「市況上昇」という表現を用いているのは感心しない。「市況」とは「市場の状況」という意味なので、「市況上昇」は不自然な使い方だ。最近はかなり“市民権”を得てきているが、日経の1面で使うのは避けてほしい。


※今回取り上げた記事「最高益4.0に挑む(上)減収下でも稼ぐ 損益分岐点、40年で最低

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170525&ng=DGKKZO16820700V20C17A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

日経「タイ 株価伸び悩み」に見える小野由香子記者の説明不足

24日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に載った「アジアラウンドアップ~タイ 軍政3年、株価伸び悩み」という記事には、筆者である小野由香子記者の力量不足を感じた。タイでの「株価伸び悩み」が主要テーマなのに、その要因をまともに説明できていない。記事を見ながら問題点を指摘していく。
福岡県うきは市の白壁通り※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

タイの株式相場が伸び悩んでいる。2014年の軍事クーデターから丸3年が過ぎたが、経済はいまだ本格回復にはいたらず、足元の買い材料は乏しい。むしろ軍の病院で爆発があるなど軍政下の治安維持にほころびが出てきており、市場はさらに様子見姿勢を強めそうだ。

主要株価指数であるタイ総合指数の年間上昇率は16年に20%に迫り、東南アジアで断トツだった。だが、今年に入ると1550を挟んでの一進一退を続ける。23日時点では昨年末終値を1.4%上回るにとどまり、振るわない。

不振の一端は国内個人投資家の売り越しだ。個人投資家はタイ市場の取引額約5割を占める最大のプレーヤー。クーデター後の3年間、軍政を嫌気して外国人投資家が一気に減った中で市場を支えてきた。

タイ総合指数はクーデター前(14年5月21日)に比べて1割強上昇した。特に最初の1年は、大規模反政府デモなどが収まり街中に平穏が戻ったことから、多くの個人投資家は軍政下での経済回復に期待を寄せた。2年目に入ると原油などの国際商品価格が下落し、軍政への過度な期待が修正され落ち込んだが、公共投資が動き始めたことで3年目には再び持ち直した

だが、実際の経済回復は遅れている。輸出頼みの経済構造の改革は進んでおらず、足元で好調なのは観光業のみ。16年の国内総生産(GDP)成長率は3.2%と「タイ経済の巡航速度」と言われている5%には及ばない。


◎「伸び悩み」の要因は?

見出しは「タイ 軍政3年、株価伸び悩み」で、書き出しでは「タイの株式相場が伸び悩んでいる」と記している。伸び悩んでいるのは2017年に入ってからだ。その場合、記事では「今年に入って株価が伸び悩んでいる理由」を説明する必要がある。だが、記事には明確な理由が出てこない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係

不振の一端は国内個人投資家の売り越しだ」というのは理由と言えば理由だ。しかし、しかしこれはラーメン店の売り上げが劇的に伸びた理由を「男性客が大幅に増えたから」と言っているようなものだ。「なぜ男性客が増えたのか」が分からなければ、まともな説明とは言えない。

記事には「国内個人投資家の売り越し」がなぜ起きたのか説明はない。「タイ総合指数の年間上昇率は16年に20%に迫り、東南アジアで断トツだった」のは「公共投資が動き始めたこと」が理由のようなので、今年になってこの辺りに何か変化があったのかもしれない。だが、推測の域を出ない。

最初の段落では「軍事クーデターから丸3年が過ぎたが、経済はいまだ本格回復にはいたらず、足元の買い材料は乏しい」とも書いているが、これも17年になっての「株価伸び悩み」の理由にはなっていない。

さらに言えば、「国内個人投資家」がいつ「売り越し」に転じ、どの程度の「売り越し」なのかも不明だ。17年に入っての「株価伸び悩み」を解説する記事がこれでは辛い。

ついでに記事の終盤に関してもいくつか注文を付けておきたい。

【日経の記事】

投資家が好む銘柄も偏っている。この3年間、主要企業で躍進が目立ったのが国内の主要6空港を運営するタイ空港会社(AOT)。株価は実質的に2.2倍となり、好調な観光業への期待を映し出す。国外展開を拡大する素材大手サイアム・セメントなど「グローバル銘柄」も上昇した。逆に通信や消費財といった「国内銘柄」は下落した。


◎1社に偏る?

投資家が好む銘柄も偏っている」との解説も、どう理解すべきか迷った。AOT1社に人気が偏っていると考えればいいのだろうか。それとも「AOT+グローバル銘柄」に偏っているという話か。1社だけに3年間も人気が集中しているとは考えづらい。一方、「AOT+グローバル銘柄」だと、あまり偏っている感じがない。偏っているかどうかはもちろん「グローバル銘柄」の数にもよるが、その辺りも説明がないので記事からは判断が難しい。

そもそも「株価伸び悩み」に関しては今年に入ってからの話なのだから、「投資家が好む銘柄」についても期間をそろえた方が好ましい。

そして記事の結論部分も苦しい。

【日経の記事】

軍政3年となった22日、首都バンコクにある軍の病院で負傷者20人以上が出る爆発があった。警察は爆弾によるものと断定。反軍政勢力による犯行との見方も出ている。この直前には小規模な爆発が官庁街であり、言論統制や政治活動の禁止など強権で治安を保とうとしている軍政の限界が露呈し始めた。鬱積していた不満が少しずつ表面化する中、市場でもその兆しが見えている


◎爆発事件と株価は関係あり?

最初の段落で「(爆発事件を受けて)市場はさらに様子見姿勢を強めそうだ」と書き、記事の最後では「軍政の限界が露呈し始めた。鬱積していた不満が少しずつ表面化する中、市場でもその兆しが見えている」とも解説している。だが、記事に付けたグラフを見る限り、直近では株価が上昇している。

軍政への不満が株価の上値を押さえそうだと結論付けるならば、市場関係者の見方を入れるなど、もう少し具体的な根拠が欲しい。今回の記事では取って付けたような結論になっている。


※今回取り上げた記事「アジアラウンドアップ~タイ 軍政3年、株価伸び悩み
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170524&ng=DGKKZO16779910U7A520C1ENK000


※記事の評価はD(問題あり)。バンコク支局の小野由香子記者への評価も暫定でDとする。

2017年5月23日火曜日

日本株だけ特殊? 週刊エコノミスト「今から始める長期投資」

取材相手に都合良く誘導されたのだろうか。週刊エコノミスト5月30日の特集「今から始める長期投資」の中に問題ある解説記事があった。「魅惑のハイリスク・ハイリターン(3)アクティブ投信~日本株は高利回り商品も 成績の定期的な確認が必須」という記事では、世界の株式市場で日本だけアクティブ投信に優位性があるような書き方をしているが、常識的にはあり得そうもない。
小倉井筒屋(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【エコノミストの記事】

外国株式は、運用成績でインデックス投信がほとんどのアクティブ投信を上回っている。だが日本株ではTOPIXや日経平均株価を上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある。「長期投資でも、日本株はアクティブ投信が選択肢になる」(イデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長)と考える運用のプロは多い。

◇   ◇   ◇

似たような内容の記事は他にもある。特集の中の「成果の9割を決める資産配分 長期なら積極型、高齢者は安定型」という記事は、吉井氏の監修に基づいて編集部がまとめたもので、ここでも以下のように書いている。

【エコノミストの記事】

長期運用ならば、外国株(先進国、新興国)は特にインデックス投信が向いている。先進国株では、運用成績でインデックス投信に勝るアクティブ投信はほとんどない。先進国株の主要な市場である米国や欧州は、巨大かつ流動性の高い市場で売買が成立しやすく、売り手と買い手で情報格差が生じにくい。こうした効率的な市場で、他者を出し抜くようなアクティブな運用力を発揮するのは難しい。

一方、日本株のインデックス投信では、外国株に比べて長期的に効率よくリターンを稼ぐことが難しいといわれている。インデックス運用による長期投資は、大きな目で見れば市場の成長に合わせて資産を膨らませるということ。日本経済の停滞が続くと考えるのならば、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価に連動するインデックス投信では、株式に期待されるリターンを得ることは難しいということになる。

こうした市場では一工夫必要だ。日本株の投信は、ベンチマーク(基準)とするTOPIXや日経平均を大きく上回る運用成績を続けるアクティブ投信が多数ある。特に、いくつかのアクティブ投信は、外国人投資家の目が届きにくい中小型株市場に投資して目覚ましい実績を上げている。日本株に関しては、中小型のアクティブ投信という選択肢を検討してもよいだろう。


◎日本株だけ極めて特殊?

外国株式は、運用成績でインデックス投信がほとんどのアクティブ投信を上回っている」のに、「日本株ではTOPIXや日経平均株価を上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある」と言う。世界中で日本株だけが特殊らしい。だが、それを裏付ける具体的なデータは特集の中に見当たらない。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

例えばモーニングスターの2015年9月24日の記事に、日本のアクティブファンドに関して以下のような解説がある。「過去1年、3年、5年、10年の全期間のパフォーマンスで、サクセスレートは20%~30%台にとどまり、短期・長期にかかわらずアクティブファンドは劣勢となっている

この記事では「米国の結果(2014年12月末基準)を見ても、『米国株式・大型ブレンド』のサクセスレートは過去1年、3年、5年、10年がそれぞれ32.7%、35.6%、25.1%、21.6%となっており、日本と同様に、すべての期間でアクティブファンドがパッシブファンドに劣後する傾向が見られた」とも書いている。

日米で数字に多少の違いはあるものの、両国でアクティブ投信は苦戦していると理解すべきだ。もちろんベンチマークを上回る確率が20%や30%であっても「ベンチマークを上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある」とは言える。だが、それは米国株でも同じだ。

モーニングスターのデータを信じるならば、「世界の株式市場の中で日本だけアクティブ投信に賭ける価値がある」とは言い難い。そもそも、日本の株式市場はそれほど小規模でも流動性が低い訳でもない。なのに、新興国株を含むか外国株式では「インデックス投信が向いている」としながら、「日本株はアクティブ投信が選択肢になる」のは解せない。

イデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長」は商売上、「長期投資でも、日本株はアクティブ投信が選択肢になる」と言わざるを得ないのだろう。エコノミストの記者には、その辺りを勘案した上で記事を書いてほしかった。

今回、「魅惑のハイリスク・ハイリターン(3)アクティブ投信~日本株は高利回り商品も 成績の定期的な確認が必要」という記事では「TOPIXを上回る運用成績の代表的なアクティブ投信」として5本を紹介している。だが、「購入時手数料」はそろって3.24%(税込み)で、信託報酬は1.566~2.0196%(同)と高コストだ。こうした商品に優位性があるように読者を誤解させるのは感心しない。

確率的に見れば、過去のリターンの良い投信を選んで投資しても、将来のリターンを高める効果はないとされる。そこを理解していれば、今回のような記事の構成にはならなかったはずだが…。


※記事の評価はD(問題あり)、特集全体の評価はC(平均的)。特集を担当したとみられる記者については、花谷美枝記者への評価を暫定B(優れている)から暫定Cへ引き下げ、暫定でCとしていた荒木宏香記者への評価をCで確定させる。

2017年5月22日月曜日

FACTA「半島有事 難民Xデー」の記事が非現実的すぎる大西康之氏

ジャーナリストの大西康之氏がFACTA6月号に「半島有事『難民Xデー』に奔走する男」という苦しい記事を書いていた。「北朝鮮から200万人が日本海側に流れ着いたらどうするのか。難民支援のプロが唱える『最良の解決策』」と言うものの、その内容があまりに非現実的で、とても「最良の解決策」とは思えない。
関埼灯台(大分市)※写真と本文は無関係です

記事中で「人道支援NPO、ピースウィンズ・ジャパン代表の大西健丞(49)」が提唱する「解決策」の中身を見ていこう。

【FACTAの記事】

大西は20年を超える難民支援の経験から「災害時の緊急対応のカギはNGOと企業や病院、自治体などとのセクターを超えた連携にある」と考えている。この考えを実現するため2000年には「ジャパン・プラットフォーム」を立ち上げた。

半島有事の際にもNGO、政府、企業が緊密に連携し、北朝鮮国内で難民を保護する体制を作るのが、最も現実的な解だと大西は考えている。大西が安や朴と話し合った構想は次のようなものだ。

ポイントは日本から仮設住宅、食料、医薬品といった支援物資をいかに早く大量に運ぶかだ。難民が北朝鮮から溢れ出す前に、北朝鮮に難民キャンプを作ってしまうのである。そのためには民間企業と政府の協力が必要だ。

まず日本航空、全日本空輸、大韓航空、アシアナ航空といった日韓の航空会社から協力を取り付け、空いている機体をかき集める。日本の地方自治体(特に北朝鮮からの難民流入の可能性が高い日本海側の自治体)の協力を得て、地方空港の周囲に仮設住宅の資材や食料をストックしておく。

東日本大震災ではプレハブの仮設住宅が5万戸以上建てられた。復興が進むにつれて仮設住宅を出る人が増えており、用済みになった仮設住宅のストックは数万戸単位であるはずだ。何年も暮らすと考えれば快適ではないが、ブルーシートのテントよりははるかに機能が高いはずだ。日本の地方空港と韓国の空港の間を日韓の民間機が行き来して資材や物資をピストン輸送し、NGOは医師やボランティアを集めて即席の難民キャンプに送り込む。そのキャンプをPKOが警護すれば、当座の安全は確保できる

「一番怖いのは無計画に大量の難民が溢れ出すこと。受け入れ側も難しい対応を迫られるし、逃げ出す過程で多くの命が失われます。日韓のNGO、政府、民間企業があらかじめ備えておけば、こうした最悪の事態は避けられる」と、大西は言う。


◎あまりに非現実的な「最良の解決策」

これを読んで「最良の解決策」だと思えただろうか。まず、「半島有事」が具体的にどういうものか謎だ。「日本の地方空港と韓国の空港の間を日韓の民間機が行き来して資材や物資をピストン輸送」するのだから、韓国は安全だと想定しているだろう。だが、「半島有事」なのに韓国は安全とする前提には無理がある。
夜明駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

さらに「北朝鮮に難民キャンプを作ってしまう」というのが苦しい。「半島有事」の時に現在の北朝鮮政府は崩壊しているとの前提だろうか。存続している場合、「日韓で協力して北朝鮮に難民キャンプを作ります。そのキャンプはPKOで警護します」と申し出て、北朝鮮政府が「では、よろしくお願いします」と言ってくるとは考えにくい。

その場合、勝手に北朝鮮領内に入り込んで難民キャンプを作り、北朝鮮軍が攻めてこないようにPKOで守るのか。そうなると一種の侵略行為だ。

そもそも、北朝鮮から大量の難民があふれ出てくるのは、北朝鮮に留まれば命が危うい状況に多くの人が直面するからだろう。内戦が激化した場合などが考えられる。そんな時に「北朝鮮に難民キャンプを作ってしまう」という対策が可能だと本気で考えているとしたら怖い。

筆者の大西康之氏は大西健丞氏の案にすっかり感心したようで、「日韓が力を合わせて北朝鮮の中に安全なキャンプができれば、人々は無理に国境を越えて難民になろうとは思わない。避難民を北朝鮮内にとどめることが、日本側から見た難民問題の最良の解決策になるというわけだ」と結論付けている。

本当にそう信じられるのならば、ある意味で羨ましい。だが、記事の書き手には向いていない。まともな記事を書く気があるのならば、取材相手の言うことをもう少し疑った方がいい。

もちろん、これは筆者が大西健丞氏の案を正確に伝えている前提での話だ。実際に難民支援を手掛けている人が、これほど非現実的な「解決策」を打ち出すのかとの疑問は残る。なので、筆者が「解決策」を正しく伝えていない可能性も考慮すべきだろう。


※今回取り上げた記事「半島有事『難民Xデー』に奔走する男
https://facta.co.jp/article/201706025.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。同氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

2017年5月21日日曜日

日経「がん死亡率と1人当たり医療費」で無意味な調査

日本経済新聞がほとんど意味のない調査をやって、その結果を大きく報じていた。21日の朝刊1面トップに「砂上の安心網~がん死亡、同じ県内で格差 本社調査 医療費の効果、検証必要」という記事を載せ、4面は調査結果を1ページ丸々使って伝えている。さらに5面(総合3面)には、前村聡 社会部次長による解説記事まで入れている。
小倉城(北九州市)※写真と本文は無関係です

では、なぜ 「ほとんど意味のない調査」と言えるのか。

【日経の記事(4面)】

「医療費を多く使えば死亡率は低くなるのでは」。そう思う人がいるかもしれない。だが日本経済新聞が全市区町村の死亡率と1人当たりの医療費の関係を比較したところ、医療費が高くても死亡率が高い自治体もあり、必ずしもそうではないことが分かった。



◎前提が間違っているような…

がんに関して「医療費を多く使えば死亡率は低くなるのでは」と思う方がおかしい。「必ずしもそうではないことが分かった」と取材班は教えてくれるが、「それは当然では?」と返したくなる。

まず、医療費の多くはがんと関係がない。仮に医療費の約1割が「がん関連」だとすると、9割はがん以外に使っている費用だ。なのに「1人当たりの医療費」と「がん死亡率」の関係を見て意味があるのか。

では、「がん関連の医療費」と「がん死亡率」を比べて費用対効果を見ればいいのか。これも注意が必要だ。例えば、がん患者1人当たり1000万円の医療費を上積みすれば、1年間の延命効果が得られるとしよう。この場合、医療費を上積みする意味はある。だが、死亡数は一時的にしか減らない。死亡する時期が1年遅くなるだけだ。

結果として、「医療費が増えたのに、死亡率には大きな改善が見られなかった」と結論付けられるだろう。だからと言って、医療費の上積みを中止するのが正しいのかと言えば、そうではないはずだ。

別の可能性もある。医療費の上積みでがんの死亡率を大きく下げられたとしよう。この場合、「費用対効果の面で優れている」と考えてよいだろうか。積極的な治療でがん死亡率は下げられても、抗がん剤の副作用などによって他の要因での死亡率が大きく上がって相殺されていらたどうか。そういった点を考慮すると、がん死亡率に焦点を当てて医療費の多寡を論じるのは危険だ。それでも論じるならば、かなり慎重にデータを扱う必要がある。

日経は1面の記事で「これまで都道府県の計画は市区町村別の対策まで踏み込んでいないケースが多い。医療費を有効に使うためにも、こうしたデータから死亡率の高い原因を分析し、きめ細かい対策を講じる必要がある」と結論付けているが、今回の調査を基に対策を立てるのは意味がない。


※今回取り上げた記事

砂上の安心網~がん死亡、同じ県内で格差 本社調査 医療費の効果、検証必要」(1面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170521&ng=DGKKZO16670880R20C17A5MM8000

がん死亡、私の街は…」(4面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170521&ng=DGKKZO16665010Q7A520C1M10400


※関連記事も含めて記事の評価はD(問題あり)。一連の記事は「前村聡、鎌田健一郎、安田翔平、清水正行が担当しました」となっていたが、調査の欠陥に関しては前村聡社会部次長の責任が重いと推定し、前村次長への評価を暫定でDとする。残り3人への評価は見送る。

2017年5月20日土曜日

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」

週刊ダイヤモンド5月20日号の特集「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?」の中でも分析の雑さが目立ったのが「関西人材の強さの秘密はどこにあるか~移動で磨かれる環境適応力」という記事だ。「関西人材の活躍の背景には、高学力者層が厚いこともある」と筆者は主張するが、説得力に欠ける。

早稲田大学(東京都新宿区)の学園祭
順に問題点を指摘していく。

【ダイヤモンドの記事】

環境適応力の高さに加えて、関西人材の活躍の背景には、高学力者層が厚いこともある。

兵庫県出身で、医療問題に詳しい医療ガバナンス研究所の上昌広理事長は、関西の高学力者層が関東より厚い最大の理由として、18歳の人口1万人当たりの旧7帝大(北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京大、阪大、九州大学)の合格者数が多いことを挙げる。例えば、近畿地方は214人で、89人の関東地方の2.4倍に上る。

さらに旧帝大の数を比べてみると、関東甲信越地方では人口約4800万人に対して東大の1校のみ。一方、近畿地方は約2200万人と人口が関東甲信越地方の半分以下であるにもかかわらず、京大、阪大と2校もある。

「旧帝大の多さが自然と地域の教育水準を押し上げ、高学力者層が多くなっている」と、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏も分析する。



◎「旧帝大」で論じても…

関西の高学力者層が関東より厚い」と断定するならば、もっと直接的な根拠が欲しい。「人口1万人当たりの旧7帝大の合格者数」で「近畿地方は214人で、89人の関東地方の2.4倍に上る」からと言って「関西の高学力者層が関東より厚い」とは言えない。例えば一橋大や東京工業大の難易度は多くの旧帝大を上回る。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)

どこかで線を引いて難関大学の合格者数を比べるのではなく、センター試験で高得点を取った人の比率などで比べた方が納得できる。そうしたデータはないのかもしれないが、だからと言って今回のような比較で「関西の高学力者層が関東より厚い」と結論付けられても困る。

早慶と同じ水準の私立大学はない」から「高学力者層が厚くなる」という説明もかなり怪しい。記事では以下のように書いている。

【ダイヤモンドの記事】

旧帝大の多さに加え、関東の早稲田大学や慶應義塾大のような、難易度の高い私立大学が関西になく、それが結果的に高学力者層を厚くすることにつながっている。

上図を見てほしい。関西では京大、阪大、神戸大学の次に難易度が高いのは、大阪市立大学や大阪府立大学、京都工芸繊維大学などの国公立大学で、関東の早慶と同じ水準の私立大学はない。必然的に学力上位の学生は、京大などの国立大学や、前述した国公立大学を目指すことになる。その結果、受験科目として5教科7科目を勉強する高学力者層が厚くなるのだ。


◎関東が一番ダメ?

関東の早慶と同じ水準の私立大学はない」という事情は関西だけではない。九州や北海道もそうだ。九州や北海道には「関関同立」レベルの私大もない。「難易度の高い私大がない→5教科7科目を勉強する高学力者層が厚くなる」という関係が成り立つのならば、最もダメなのが関東で次が関西だ。九州や北海道は関東・関西より「高学力者層が厚くなる」はずだ。
帝京大学 福岡キャンパス(大牟田市)

ひょっとしたらその通りかもしれないが、実感とはかけ離れている。少なくとも記事の説明からは、関西が特に「高学力者層が厚くなる」とは言えない。

ついでにもう1つ。以下の説明はほとんど意味がない。

【ダイヤモンドの記事】

関西の関関同立と関東のMARCH(明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)。難易度はほぼ同水準だが、「上位層はMARCHより関関同立が優秀」(同志社大卒業生)というのが関西人の主張だ。

関西の私立大学の学生は、上位合格者の多くが国立大学を目指して学んでいた層で、東京の私立大学より層は厚い。その辺りに「MARCHより関関同立が格上だ」という主張の根拠があるようだ。


◎MARCHとだけ比べても…

百歩譲って「上位層はMARCHより関関同立が優秀」だとしても、それを関西人材の優秀さと結び付けるのは無理がある。関東には早慶上智などの有力私大があるのだから、私大の人材の優秀さを比較するのならば、そこも含めて論じるべきだ。


※今回取り上げた特集「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20139


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通り(敬称略)。

重石岳史(暫定D→D)
鈴木崇久(Fを維持)
前田 剛(暫定C→暫定D)
大根田康介(C→D)
西田浩史(暫定E→暫定D)

※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_81.html

人材輩出力で関西が圧倒? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_16.html

2017年5月18日木曜日

「ラップ口座」の高コスト指摘した日経 堀大介記者に期待

17日の日本経済新聞夕刊マネーダイニング面に載った「運用お任せ『ラップ口座』残高急増 見えづらい費用確認を」は良い意味で期待を裏切られた。最初は「また日経が高コストのラップ口座を前向きに取り上げているのかな」と思ったが、かなり良心的な内容だった。コストの高さをしっかりと伝えているのが特に評価できる。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

幸子 ラップ口座で今、大きく伸びているのが「ファンドラップ」よ。複数の投資信託を組み合わせ、個人ごとに適した資産配分を目指すの。300万~500万円を最低投資額として申し込みを受け付ける金融機関が多いわ。

恵 手数料はどれくらいかかるの?

幸子 運用を任せることへの報酬と口座を管理する費用などをひとまとめにして、資産残高に一定率をかけた形で徴収されるわ。水準は各社で差があるけど、イデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長は「報酬部分で年0.5%、口座管理部分で年1%、計年1.5%程度が平均でしょう」と教えてくれたわ。

恵 その水準なら、お得なのかしら?

幸子 そう考えるのは早いわ。ファンドラップのコストはほかにもあるのよ。金融機関に払う直接の手数料以外に、ラップ口座で投資した投信にかかる信託報酬などのコストが間接的に資産から差し引かれているわ。信託報酬は見た目にはわかりづらいけど、日々、資産から引かれていくから重要よ。吉井さんはラップ専用投信の信託報酬の水準を「平均で年1%程度」とみているわ。運用報酬や口座管理費と合計すると年2~3%になる計算ね。

満 そう聞くと高いね

幸子 コストを帳消しにできる高い利益を上げ続けられるかによって評価は変わるけど、決して低いとはいえない水準ね。

◇   ◇   ◇

そう聞くと高いね」「決して低いとはいえない水準ね」などと手数料の高さを明確に指摘しているのは好感が持てる。記事では「ロボットアドバイザー(ロボアド)」の解説もしているので、次はそのくだりを見てみよう。

【日経の記事】

恵 コンピューターで自動化するから低コストなのね。

幸子 2016年2月にサービスを始めたお金のデザイン(東京・港)のロボアド「THEO(テオ)」の手数料は最大年1.08%、同7月に参入した楽天証券「楽ラップ」は固定報酬型では最大年0.702%。いずれも投資単位は最低10万円からよ。ただ、ロボアドもこのコスト以外に投資対象の金融商品の間接コストがあるわ。

満 どれくらいなの?

幸子 テオの場合、投資対象は海外のETF(上場投資信託)で、運用中に「経費」と呼ぶコストが自動で差し引かれるわ。その水準は一般的な投信よりは低いのが普通だけど、運用中に変更されることも少なくないので「事前に数値を開示することは難しい」(お金のデザイン)そうよ。楽ラップは「組み入れる国内投信の間接コストも含めて1%未満を目標に運用する」としているけど、急激な相場変動などで一時的に上回る可能性がゼロではないわ。

◇   ◇   ◇

日経は「お金のデザイン」が大のお気に入りで何度も好意的に取り上げている。ただ、今回は少し様子が違っていた。全面的なダメ出しではないが、特に持ち上げるわけでもなく、問題点に重点を置いて紹介している。
西日本短期大学附属高校(福岡県八女市)
           ※写真と本文は無関係です

中でも「経費」に関して「事前に数値を開示することは難しい」というコメントを使っているのは「お金のデザイン」の問題点を浮かび上がらせる上で効果的だ。間接コストを含めると手数料がどの程度になるのか説明する気がない会社側の姿勢が伝わってくる。

事前に数値を開示することは難しい」のならば、実績でどの程度の「数値」になっているのかを「開示」してもいい。そもそもETFの信託報酬が大きく変動するとは考えにくい。正確なコストについて「事前に数値を開示することは難しい」としても、大まかな水準は示せるはずだ。その「開示」さえ拒むのであれば、「まともな投資家が相手にする必要のない会社」だと判断していい。

筆者である堀記者はそうした問題意識を持って記事を書いたのだろう。金融業界寄りの立場から高コストの投資商品を平気で持ち上げる記者が少なくない日経にあって、堀記者のような存在は貴重だ。

以前は問題のある記事も書いていたし、今回も「バランス型投信」を有力な選択肢として提示するなど引っかかる点もある。それを差し引いても、今回の記事は評価に値する。堀記者の今後に期待したい。


※今回取り上げた記事「運用お任せ『ラップ口座』残高急増 見えづらい費用確認を
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170517&ng=DGKKZO16500700X10C17A5NZKP00


※記事の評価はB(優れている)。堀大介記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Bへ引き上げる。堀記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

バランス型は「可変型が優位」? 日経 堀大介記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_28.html

2017年5月17日水曜日

日経「Self Defence日本の守り~朝鮮半島危機」の奇妙な説明

17日の日本経済新聞朝刊1面に載った「Self Defence 日本の守り~朝鮮半島危機(上)矛と盾 役割分担に変化」という記事には奇妙な説明が目立った。安全保障に関して日経が自らの考えを押し出して報道するのは自由だが、強引で無理のある説明は困る。
菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていく。

【日経の記事】

1954年に発足した自衛隊は「専守防衛」で自らの武力を抑えていた。冷戦後、北朝鮮や中国が起こしうる紛争に対応するため、周辺有事で米軍に協力できるよう日米同盟を「再定義」した。

今回の朝鮮半島の緊迫は日米同盟の「再々定義」を迫るものといえる。日本の領土がミサイルの脅威にさらされ、自国防衛の「本丸」への課題に直面する。米軍が打撃力を担う「矛」、自衛隊が基地提供などで支援する「盾」の役割分担を見直す議論につながる


◎冷戦期は「ミサイルの脅威」がなかった?

日本の領土がミサイルの脅威にさらされ、自国防衛の『本丸』への課題に直面する」ようになったから「米軍が打撃力を担う『矛』、自衛隊が基地提供などで支援する『盾』の役割分担を見直す議論につながる」と日経は解説する。だとすると冷戦期はどうなるのか。

冷戦期にも日本はソ連からの「ミサイルの脅威にさらされ」ていた。しかし「米軍が打撃力を担う『矛』、自衛隊が基地提供などで支援する『盾』」でやってきたはずだ。なのに北朝鮮からの「ミサイルの脅威にさらされ」ると、「役割分担を見直す議論につながる」という説明は筋が通らない。

冷戦時はソ連からの「ミサイルの脅威」にまともに対応できていなかったのならば分かるが、記事にそうした話は出てこない。

記事中のおかしな説明はさらに続く。

【日経の記事】

「思いは同じです。しっかりやっていきたい」。3月30日、安倍晋三首相は首相官邸を訪れた自民党の今津寛安全保障調査会長に伝えた。ミサイル防衛の強化や敵基地を攻撃する能力を持つよう提言された後の発言だ

提言を受け、政府は地上配備型ミサイル迎撃システムの「イージス・アショア」などの導入を検討する。敵の基地をたたける「矛」の代表例が巡航ミサイル「トマホーク」だ。政府・自民党に待望論が強い。約3千キロメートルの射程をもち、遠く離れた場所から北朝鮮を攻撃できる。トマホークは1発あたり約1億円。1発で数十億円かかる迎撃ミサイルより割安だ。

「盾」の守りを固めるよりも、飛び道具の「矛」を持った方が実は費用対効果はいい。「矛」があれば抑止力を強める効果も期待できる。だが憲法が禁じる先制攻撃にならないようにするには、敵国が攻撃してくる意図を確定しなければならない。米軍の情報提供なしに独自の判断は難しい。


◎どこまでが「矛」?

自衛隊が基地提供などで支援する『盾』」と書いてあるので、最初は「迎撃ミサイル=矛」と感じた。しかし、「トマホークは1発あたり約1億円。1発で数十億円かかる迎撃ミサイルより割安だ。『盾』の守りを固めるよりも、飛び道具の『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」との説明に触れると、「迎撃ミサイル=盾」とも取れる。そうでないと「『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」という話と整合しにくい。
本佛寺の仏舎利塔と桜(福岡県うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

ただ、記事には「飛び道具の『矛』」との記述もある。「迎撃ミサイル」も当然に「飛び道具」なので「」になってしまい、辻褄が合わなくなる。「1発で数十億円かかる迎撃ミサイル」を含めて考えても「飛び道具の『矛』を持った方が実は費用対効果はいい」という可能性は残るが、ちょっと考えにくい。

日経としては「北朝鮮の本土を攻撃できる『矛』を持つことも検討すべきだ」との考えなのだろう。それはそれでいい。だが、今回のような記事の説明では説得力がないし、「今回の朝鮮半島の緊迫は日米同盟の『再々定義』を迫るものといえる」と言われても「なるほど」とは思えない。

ついでに記事の書き方に1つ注文を付けたい。


◎並立助詞の使い方が…

ミサイル防衛の強化敵基地を攻撃する能力を持つよう提言された後の発言だ」とのくだりで並立助詞「」の使い方が気になった。これでは「『ミサイル防衛の強化』や『敵基地を攻撃する能力』を持つ」という関係になってしまう(他の解釈の余地もあるが、ここでは考慮しない)。だが「ミサイル防衛の強化を持つ」では不自然だ。改善例を示しておく。

【改善例】

ミサイル防衛の強化や敵基地への攻撃能力の保持を提言された後の発言だ。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Self Defence 日本の守り~朝鮮半島危機(上)矛と盾 役割分担に変化
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170517&ng=DGKKZO16496670X10C17A5MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年5月16日火曜日

人材輩出力で関西が圧倒? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」

週刊ダイヤモンド5月20日号の特集「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?」は展開がかなり苦しい。まず「(関西には)東京を圧倒する人材輩出力あり!」との前提に無理がある。特集の最初に出てくる「ホンマかいな!~関西人が東京を席巻する 関西空洞化の一方で、東京を圧倒する人材輩出力あり!」という記事の一部を見てみよう。
袋田不動尊(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

経営する企業の売上高を指標として、経営トップの出身地(47都道府県)と出身大学(有力20校)の組み合わせ、全940通りの中から、売上高の高い「最強の組み合わせ」はどれなのかを分析。すると、出身地が大阪と兵庫の組み合わせがトップ5をほぼ独占したのだ。

1位は「大阪出身×東京大学卒業」の組み合わせだ。2位の「東京出身×東大卒」とは僅差だが、参考値である効率性指標の従業員1人当たり売上高も1位で、文句なしのナンバーワンだ

そのトップ・オブ・トップに輝いたのが、伊藤忠商事の社長、岡藤正広だ。2016年3月期決算で初めて業界トップに立った伊藤忠は近江商人の系譜を色濃く残し、岡藤による“関西流”経営で飛躍を遂げた。


◎この指標で「人材輩出力」測れる?

上記の説明で「東京を圧倒する人材輩出力あり!」と納得できただろうか。色々な意味で苦しい気がする。問題点を列挙してみる。

・問題その1~「売上高」の大きさで見て意味ある?

記事では「売上高の大きな会社の社長を出せる=人材輩出力がある」との前提に立って話を進めている。しかし、売上高がいくら大きくても、赤字続きでは苦しい。一方、売上高がそこそこでも、着実に増収増益を続けている会社の経営者は評価できる。「売上高」の大きさで輩出力を見るのはあまりに安易だ。


・問題その2~「文句なしのナンバーワン」?

1位は『大阪出身×東京大学卒業』の組み合わせだ。2位の『東京出身×東大卒』とは僅差だが、参考値である効率性指標の従業員1人当たり売上高も1位で、文句なしのナンバーワンだ」との説明も辛い。
岩田屋久留米店(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

大阪出身×東京大学卒業」は52社で「東京出身×東大卒」は236社。平均売上高が「僅差」ならば、「人材輩出力」では「東京出身×東大卒」に軍配が上がるとの見方もできる。社数で5倍近く差を付けられているのに、「大阪出身×東京大学卒業」が「文句なしのナンバーワン」は言い過ぎだ。

表に出てくる30位までを出身地別に合計すると、関西(大阪、京都、兵庫)の1827社に対し、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)は2408社と大きく上回る。東京だけで1783社と関西に並ぶ規模なので「(関西には)東京を圧倒する人材輩出力あり!」とは言い難い。30位まででの話ではあるが、都道府県別で見ると東京の存在は圧倒的だ。


・問題その3~「平均」で見て意味ある?

平均」で見ることの問題もある。例えば9位は「山口出身×早稲田大学」だ。これはファーストリテイリングの会長兼社長である柳井正氏の存在が大きいと推測できる。適合社数は63しかないので、ファーストリテイリングによって平均が押し上げられたのだろう。この順位を基に「山口出身×早稲田大学」の社長の傾向を論じても意味がない。ファーストリテイリングを除けば、平均は大きく下がるはずだ。

他の順位でも同様の問題がある。売上高の大きな会社が1社入ると平均売上高は一気に増える。適合社数が少なくて、売上高のばらつきが大きい場合、平均で見ると問題が生じやすい。

結局、「(関西には)東京を圧倒する人材輩出力あり!」には説得力がないと結論付けられる。つまり、この特集は出発点で躓いている。


※今回取り上げた特集「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20139


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_81.html

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_20.html

2017年5月15日月曜日

「京都人」の説明に矛盾 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」

関西への誤った先入観を読者に植え付ける危険な記事を満載したのが、週刊ダイヤモンド5月20日号の「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?」という特集だ。まずは特集内での矛盾を指摘したい。以下の記事を読んで「京都人は行列に並ぶかどうか」を考えてほしい。
「季楽 櫨山」(福岡県久留米市)の桜
       ※写真と本文は無関係です

最初に「Part 2 知らなあかん! 大阪・京都・神戸の『流儀』」の中の「ほんまに違う! 大阪・京都・神戸の気質」という記事を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

京阪神の3都人の気質は三者三様で、いわゆる関西人のステレオタイプとはずいぶん違っているが、イメージ通りの部分もある。「行列に並ばない」ことだ。イラチの大阪人が並んで待つなんてことは考えられないし、京都人は人まねが嫌いなので、行列のある場所には意地でも行かない。神戸人は選択肢をたくさん持っているので、わざわざ行列のある店を選ばない。

◇   ◇   ◇

次は、同じPart 2の中の「『一見(いちげん)さんお断り』の世界を垣間見る~ 花街(かがい)の伝統の変質が示す古都・京都の変貌」という記事だ。

【ダイヤモンドの記事】

四条河原町という京都一の繁華街に、大行列ができる抹茶専門店がある。東京の企業が「京都」を売りにして海外展開し成功した業態を京都に逆輸入した。インバウンド客だけでなく、今や京都人も列を成す繁盛ぶりだ。

◇   ◇   ◇

京都人は人まねが嫌いなので、行列のある場所には意地でも行かない」が、四条河原町の抹茶専門店だけは例外なのだろうか。週刊ダイヤモンド編集部に問い合わせをしてみた。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 重石岳史様 鈴木崇久様 前田 剛様 大根田康介様 西田浩史様

5月20日号の特集「関西流企業の逆襲」についてお尋ねします。記事では「京阪神の3都人」に共通する気質として「行列に並ばない」ことを挙げ、以下のように記しています。
甲佐神社(熊本県甲佐町)※写真と本文は無関係です


「イラチの大阪人が並んで待つなんてことは考えられないし、京都人は人まねが嫌いなので、行列のある場所には意地でも行かない。神戸人は選択肢をたくさん持っているので、わざわざ行列のある店を選ばない」

一方、別の記事では京都の現状について「四条河原町という京都一の繁華街に、大行列ができる抹茶専門店がある。東京の企業が『京都』を売りにして海外展開し成功した業態を京都に逆輸入した。インバウンド客だけでなく、今や京都人も列を成す繁盛ぶりだ」と説明しています。

京都人は「行列のある場所には意地でも行かない」はずなのに、四条河原町の抹茶専門店が「今や京都人も列を成す繁盛ぶり」なのは解せません。「京阪神の3都人」が「行列に並ばない」というのは間違いではありませんか。個人的な経験で恐縮ですが、過去には大阪市内でも食べ物屋に並ぶ光景が当たり前に見られました。その全てが大阪外の人とは考えにくい気がします。

仮に「京阪神の3都人」が「行列に並ばない」との説明が正しいとすれば、京都の抹茶専門店に「京都人も列を成す」のは、どう理解すればよいのでしょうか。納得できる回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

ダイヤモンドから回答が届く可能性はゼロに近いので、取材班がどう判断したのかは分からないままだろう。ただ、常識的に考えて、大阪人も京都人も神戸人も行列に並ぶ人はそこそこいるはずだ。「並ぶ派」の割合が低いか高いかを論じるならば分かるが、「大阪人が並んで待つなんてことは考えられない」「京都人は人まねが嫌いなので、行列のある場所には意地でも行かない」などと決め付けるのは危険だ。こういう書き方をされると記事への信頼が大きく揺らいでしまう。


※追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「関西流企業の逆襲~大阪・京都・神戸はなぜ強い?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20139


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

人材輩出力で関西が圧倒? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_16.html

「関西は高学力」? 週刊ダイヤモンド「関西流企業の逆襲」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_20.html

「空飛ぶクルマ」の記事で日経 奥平和行編集委員に問う

14日の日本経済新聞朝刊1面のトップ記事「『空飛ぶクルマ』離陸 トヨタが支援 20年の実用化目標」は色々と疑問が残る内容だった。まず 、最初の3段落を見ていこう。
筑後川昇開橋(佐賀市・福岡県大川市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

トヨタ自動車が「空飛ぶクルマ」の実用化に向けて、社内の若手有志が中心になって進めてきたプロジェクトに資金拠出する方針を固めた。米国の新興企業や航空機会社が相次ぎ参入を表明するなど、今最も注目を集める分野だ。次世代モビリティー(移動手段)論争が熱を帯びるなか、「空」が有力な選択肢として浮上している。

 空飛ぶクルマは従来、有志団体「カーティベーター」のメンバーが勤務時間外に開発を進めてきた。資金はネットで広く支援を募るクラウドファンディングなどに頼っていた。今回、トヨタやグループ会社が4千万円規模の資金を提供することで大筋合意した。

今後は複数のプロペラを制御し機体を安定させる技術を確立し、2018年末までに有人飛行が可能な試作機を完成させる計画だ。東京五輪が開催される20年の実用化を目指す。


◎過去の記事との整合性は?

これを読むと、トヨタは「空飛ぶクルマ」の開発について会社としてはやっていなかったと取れる。だが、2014年10月3日の「革新力 The Company 第5部~トヨタ『空飛ぶ車』 誰も傷つけない未来 社会を動かす(1)」という記事で日経は以下のように書いている。

【日経の記事(2014年)】

富士山の麓。トヨタ自動車の東富士研究所でひそかに「空飛ぶ車」の研究が進んでいる

詳細は伏せられているが、プロペラを使ってホーバークラフトのように浮く車を念頭に技術開発を急いでいる。まるでSF映画だがトヨタは大まじめだ。「空を飛べば道路での衝突事故も無くなる。これは安全な車づくりの一環だ」(関係者)

◇   ◇   ◇

この記事を信じるならば、14年の段階で社業として「『空飛ぶ車』の研究」を進めていたはずだ。しかし、今回の1面の記事では「空飛ぶクルマは従来、有志団体『カーティベーター』のメンバーが勤務時間外に開発を進めてきた」と書いている。「東富士研究所」での技術開発も並行して進めていたのかもしれないが、今回の記事を読む限りそうは思えない。どちらかの記事の説明に問題があるのは確実だ。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

クルマは進化を続けて利便性を高めてきたが、排ガスによる環境問題や新興国などの渋滞は深刻だ。ひずみ解消へ自動車各社は電気自動車(EV)や燃料電池車など新たな動力源のクルマを開発、自動運転の研究も進めている


◎これで渋滞解消できる?

EVや燃料電池車、あるいは自動運転によって「新興国などの渋滞」を解消できるような書き方をしている。しかし、これらが普及しても「渋滞」の解消には結び付かない気がする。むしろ、自動運転が普及すると渋滞がひどくなるのではないか。自動運転の場合、法定速度をきちんと守るようなプログラムになるはずだ。そういう車が多数派になれば、全体の流れが遅くなり渋滞は増えると考える方が自然だろう。

次のくだりは説明がさらにおかしい。

【日経の記事】

個人の移動手段として空飛ぶクルマがにわかに注目を集めるのは、従来の延長線上ではない形で、現在の自動車が抱える問題を解決できると期待されているからだ。道路そのものが不要になれば、渋滞はなくなる。垂直で離着陸できれば滑走路も不要だ。人の動き、流れが劇的に変わる可能性を秘める。


◎「空飛ぶクルマ」で「渋滞はなくなる」?

「筆者の奥平和行編集委員はちゃんと考えて記事を書いているのかなぁ…」と心配になる中身だ。まず「空飛ぶクルマ」の登場によって「道路そのものが不要に」なるとの発想が謎だ。「空飛ぶクルマ」とは「飛行も走行もできる乗り物」ではないのか。この理解でよいのならば、「空飛ぶクルマ」が普及しても走行するための「道路」は要る。
筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

「空飛ぶクルマは道路を走らない。そして、全てのクルマが空飛ぶクルマになる」との非現実的な前提で考えてみよう。その場合は「渋滞はなくなる」だろうか。答えは「なくなる可能性は非常に低い」だと思える。

例えば、イベント会場で駐車場のスペースを大幅に上回る「空飛ぶクルマ」が一気に押し寄せたとしよう。その場合、駐車場の周辺で「渋滞」が発生するはずだ。

単に「空飛ぶクルマ」が通行するだけの空間でも「渋滞」は起こり得る。「空飛ぶクルマ」は主に低空飛行することになるだろう。そこに多数のクルマが流れ込めば、道路でなくても移動速度は低下を強いられる。

奥平編集委員は自分のクルマだけが「空飛ぶクルマ」になるようなイメージを持っているのではないか。その場合は自分だけ「渋滞」とサヨナラできそうだが…。

最後に「事業の推進体制」に関する疑問を述べておきたい。

【日経の記事】

カーティベーターは12年、現代表の中村翼氏が社外のビジネスコンテストに参加したのをきっかけに発足。オーダーメードのEVという計画で優勝し、その後、アイデアを練り直すなかで空飛ぶクルマにたどり着いた。

「わくわくするモビリティーを実現したい」。こんな思いに賛同し、デザインや機械設計などを担当する約30人が加わる。グループ外からもドローン(小型無人機)の開発で実績を持つ三輪昌史徳島大准教授らが参画した。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業者、孫泰蔵氏らも支援者に名を連ねる

一方、事業の推進体制はなかなか固まらなかった。開発加速のために独立やベンチャーキャピタルからの資金調達なども模索するが、思い通りに進まない。15年半ばにはトヨタ幹部に支援を直訴するが、具体的な動きにはつながらなかった。「悔しい」。メンバーのひとりは漏らしていた。

トヨタの研究開発に対する姿勢が徐々に変わり始める。15年11月に技術系の新興企業に投資するファンドを設立することを決め、16年に入ると外部の専門家をトップに据えた人工知能(AI)の研究開発子会社を米国に設立した。


◎「事業の推進体制」は固まった?

空飛ぶクルマ」に関して「事業の推進体制」は固まったのだろうか。固まったとすれば、どんな体制になったのか。記事を読んでもよく分からない。
うきは市役所(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

冒頭で「トヨタ自動車が『空飛ぶクルマ』の実用化に向けて、社内の若手有志が中心になって進めてきたプロジェクトに資金拠出する方針を固めた」と書いてあったので、トヨタが自ら「空飛ぶクルマ」の開発に乗り出すのかと最初は思った。

しかし「ガンホー・オンライン・エンターテイメントの創業者、孫泰蔵氏らも支援者に名を連ねる」といった説明を読むと「トヨタは支援者の一角を占めるだけ」とも取れる。トヨタが中心となって開発するのか、多少の資金援助をするだけなのかは明確にしてほしかった。

常識的に考えれば「トヨタやグループ会社が4千万円規模の資金を提供する」だけでは、「20年の実用化」は難しいだろう。他の支援者がどの程度の資金を出すのかといった情報が記事に入っていれば「事業の推進体制」がどんなものかイメージできるのだが、全く手掛かりがない。


※今回取り上げた記事「『空飛ぶクルマ』離陸 トヨタが支援 20年の実用化目標

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170514&ng=DGKKASDZ08ICG_Z00C17A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。奥平和行編集委員への評価も暫定でDとする。

2017年5月13日土曜日

日経「JXTG、ガソリン乱売を抑制」の奇妙な説明

12日の日本経済新聞朝刊企業1面のトップを飾った「JXTG、ガソリン乱売を抑制 卸価格の基準見直し」という記事は謎が多い。「卸価格の基準見直し」で給油所による「ガソリン乱売を抑制」するのが話の柱だ。しかし、今回の見直しでは「乱売を抑制」できそうもない。
有朋の里泗水・孔子公園(熊本県菊池市)
          ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半を見ていく。

【日経の記事】

石油元売り最大手のJXTGホールディングス(HD)が卸価格の改革に乗り出す。給油所でのガソリン乱売を抑えるため、原油相場の変動の影響を受けにくい指標を採用。給油所を運営する特約店ごとにばらつきがあった卸価格の割引の基準も統一する。4月の経営統合を機に低収益体質からの脱却をめざす。

JXTGHDはJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が経営統合して発足した。系列給油所がJXの「ENEOS」と、東燃ゼネの「モービル」「エッソ」「ゼネラル」で計約1万4000カ所となるのを機に、卸価格のルールを統一して7月から運用を始める。

卸価格は原油調達、製油所での精製、物流といったコストを積み上げて決める。新しい価格体系では、まず原油コストの基準を変更。現行は産油国からの出荷価格がベースだが、7月からは日本に到着した時点の指標を基に策定する

原油価格が下落すると、給油所も店頭価格を下げるケースが多い。だが、原油が中東から日本に到着するまで数週間かかる。小売り現場では卸価格の下落幅以上の値下げが頻発しており、給油所への収益補填が元売りの経営を圧迫していた


◎「乱売」の時期がズレるだけ?

上記の説明で「乱売を抑制できそうだな」と感じられただろうか。「現行は産油国からの出荷価格がベースだが、7月からは日本に到着した時点の指標を基に策定する」らしい。そうなれば、原油価格の下落後すぐに卸価格が下がっていたのが、「数週間かかる」ようになるのは分かる。
矢部川(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

卸価格が下がると連動して店頭価格が下がるのならば、店頭価格の下落を「数週間」遅らせる効果はあるだろう。だが、問題は「小売り現場では卸価格の下落幅以上の値下げが頻発」していることではないのか。卸価格を下げるとそれ以上に店頭価格が下がるのであれば、卸価格を下げる時期を多少遅らせたところで「乱売」の時期がズレるだけだ。

では、これ以外の方策で「乱売を抑制」できるだろうか。記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

販売規模に応じた特約店へのガソリンや軽油の卸価格の割引の基準も刷新する。これまでは曖昧な部分が多かったが、7月以後は同じ地域や販売規模であれば条件を統一する。

JXと東燃ゼネの特約店すべてに同じ基準を導入し、公平性や透明性を高めて乱売防止につなげる


◎これも関係ないような…

公平性や透明性を高め」ると「乱売防止」につながるという理屈が謎だ。乱売の理由が過当競争ならば、「公平性や透明性」を高めても、価格競争は収まりそうもない。

では、この後に決定打が来るのか。

【日経の記事】

また、割引率を高めるため自社で売るより多い量を仕入れて転売する特約店も存在していた。横流しが横行すれば採算度外視の販売に拍車がかかる。JXTGはガソリンなどを製油所から大型ローリーで運んで直接取引する特約店を絞り込み、流通を正確に把握することで横流しを抑制する


◎この説明では理解不能…

ガソリン販売の実態に詳しい人ならば上記の説明でも何を言いたいのか理解できるのかもしれない。だが、個人的には何を言いたいのか分からなかった。
夕暮れの耳納連山(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

直接取引する特約店を絞り込み、流通を正確に把握することで横流しを抑制する」と書いているので、「特約店を絞り込むと流通を正確に把握できる」「流通を把握できると横流しを抑制できる」という関係が成り立つのだろう。

だが、どうも怪しい。特約店が「横流し」の情報をJXTGに隠しているのならば、取引する特約店をいくら絞り込んでも「流通を正確に把握すること」は難しそうだ。一方、特約店が「横流し」の情報を隠していないのならば、わざわざ特約店を絞り込まなくても「流通を正確に把握すること」はできそうな気がする。

また、「流通を正確に把握すること」ができたとしても、「横流し」を抑制できるかどうかは別問題だ。そういう影響力をJXTGが持っているのならば、記事中で説明すべきだ。

結局、「JXTGから聞いた話をあまり深く考えずに記事にしました」と言うことだろうか。それでも企業面のトップ記事として載ってしまうところに日経の怖さがある。


※今回取り上げた記事「JXTG、ガソリン乱売を抑制 卸価格の基準見直し

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170512&ng=DGKKZO16273730S7A510C1TJ1000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年5月12日金曜日

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解

文藝春秋6月号の「スクープ 会長室に出入りし、浜松町の本社を闊歩していた 東芝前会長の『イメルダ夫人」という記事について、「イメルダ夫人」関連の記述に問題が多いことは既に述べた。ここでは筆者であるジャーナリストの大西康之氏が官僚に関して誤解していると思える部分を取り上げたい。
鷹取山頂から見た筑後平野(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

大西氏は東日本大震災直後に資源エネルギー庁次長だった今井尚哉氏(現・安倍晋三首相秘書官)の責任を問うて以下のように書いている。

【文藝春秋の記事】

今井は、アベノミクスを成立させるために、何が何でも原発のパッケージ輸出を実現したかったはずだ。しかしそれは絵に描いた餅でしかなかった。

「鉄火場の資源ビジネスに素人の東芝が投資するなんて狂気の沙汰ですよ」

大手商社の資源担当者は呆れ顔で言う。しかし東芝にすれば、それも「国策」だった。

最大の問題は官僚の匿名性にある。官僚とは国家試験に合格した公務員であり、国民に選ばれた議員や株主に選ばれた企業の取締役のように、結果による審判を受けない。議員は失政が明らかになれば落選する。しかし官僚は、不祥事を除けばどんな失敗をしても、個人の名前で責任を取ることがない。東芝社内にも、今井の責任を指摘する声は多い。しかし、安倍の側近中の側近である今井は権力に守られ、誰も手が出せない。


◎「官僚は個人の名前で責任を取ることがない」?

官僚は、不祥事を除けばどんな失敗をしても、個人の名前で責任を取ることがない」という説明が引っかかった。2011年8月4日付の「経産次官・保安院長・エネ庁長官を更迭
原発対応巡り引責」という日経の記事に以下の記述がある。

【日経の記事】

海江田万里経済産業相は4日午前、経済産業省内で緊急記者会見し、経産省人事について「人心を一新する」と述べ、松永和夫事務次官(59)、寺坂信昭原子力安全・保安院長(58)、細野哲弘資源エネルギー庁長官(58)の3首脳を更迭する方針を表明した。東京電力福島第1原子力発電所の事故の対応など、原子力行政を巡る責任に組織としてけじめをつける必要があると判断した。

◇   ◇   ◇

これは「原子力行政を巡る責任」に関して3人の個人が責任を取ったのではないのか。「東京電力福島第1原子力発電所の事故」は「不祥事」ではない。「官僚は不祥事以外でも個人の名前で責任を取ることがある」と理解する方がしっくり来る。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

大西氏は今井氏の責任を問うが、これにも疑問が残った。記事の一部を見てみる。

【文藝春秋の記事】

東芝からは「WHの新型炉AP1000の安全認定を急ぐよう、日本政府から米政府に働きかけてほしい。トルコでの着工が遅れているため、政府系金融機関から繋ぎ資金を提供してほしい」と要請し、今井は「震災で止まっている日本=トルコ間の原子力事業に関する政府間協定(IGA)を近く再開する」と答えていることが読み取れる。

中略)東芝社内では、無理な案件を通す時「これは国策だ」というのが決まり文句だった。その言葉の後ろに今井を見ている社内の人間は、そういわれると何も言い返せなかった。

だが「国策」とは一体何だったのか。今井と東芝のラインが仕掛けた原発パッケージ輸出は、結局、1つも実現していない。



◎今井氏にどんな責任が?

記事を読んでも、今井氏にどんな責任があるのか理解できなかった。記事からは(1)東芝自身が「パッケージ輸出」には前向き(2)日本政府はそれを後押しする意思がある(3)今井氏は日本政府の窓口役--と読み取れる。そして「パッケージ輸出」は成功しなかった。この場合、「今井氏の責任は重い。何らかの処分を」と考えるべきだろうか。
岡山公園の桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

政府の方針に従って東芝の「インフラ輸出」を支援すべく今井氏が必要な手を打っていたのならば責められない。輸出が成功するかどうかは、基本的に東芝の問題だ。「嫌がる東芝を『国策だ』と脅して、独断専行で事を進めたのに輸出には失敗した」といった状況ならば、今井氏の責任を問うのも分かる。だが、そうした話は見当たらない。

5兆円企業を破綻寸前に追い込んだ『国策』の首謀者は、今も首相官邸の実力者として大きな顔をしている」とも大西氏は書いている。だが、筋が違うのではないか。例えば政府が「ベンチャー立国」を標榜して、国民にベンチャー企業の立ち上げを呼びかけたとしよう。それに応えてベンチャー企業を設立し、経営破綻して無一文になった人が「ベンチャー立国政策を考えた人」を恨むのは筋が通っているだろうか。

「政府が成功を保証します」などと謳っていたのならば話は別だが、経営にリスクがあるのは誰でも分かる。それでも自らの意思で経営に乗り出して失敗したのならば、政策立案者を恨む筋合いはない。東芝も同じだ。「国策」があったとしても、自らの経営判断でそれに乗ったのならば、失敗の責任を「『国策』の首謀者」に求めるのは苦しい。

今回の記事で大西氏は「東芝前会長のイメルダ夫人」や今井氏を批判しているが、根拠に乏しく説得力はない。個人を特定して批判するのであれば、もう少ししっかりした材料を集めてほしい。


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html


※大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

2017年5月10日水曜日

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏

ついに、こんな記事を書くようになってしまったのか--。文藝春秋6月号の「スクープ 会長室に出入りし、浜松町の本社を闊歩していた 東芝前会長の『イメルダ夫人」という記事を読んで悲しくなった。仰々しい見出しに反し中身はスカスカだ。筆者は以前に日本経済新聞社で編集委員を務めていたジャーナリストの大西康之氏。「スクープ」の文字が哀愁を帯びて見える。
桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事は12ページにも及ぶが、「イメルダ夫人」に触れた部分は合計で2ページにも満たない。それだけでも苦しいのに、実際の内容がさらに辛い。その部分を見ていこう。

【文藝春秋の記事】

名門WHにとって東芝など「自分たちのモノマネで稼ぐ田舎企業」に過ぎず、「我々にアドバイスするなど片腹痛い」というわけだ。WHの業績を改善しろとせっつく東京本社との板挟みにされたのがWHの目付け役として送り込まれた志賀である。志賀は英語が得意でなかったこともあり、自分たちのやり方を変えようとしないWHの経営陣を全く制御できなかった。

「せめて英語だけでも何とかしたい」と考えた志賀は、現地で英語と日本語に堪能な通訳兼秘書を募集する。採用されたのはFという女性だった。志賀は重要な会議や出張にも必ずFを連れていくようになる。飛行機の席はいつも志賀の隣。つまりビジネスクラス以上である。

やがてFは「秘書以上の存在」になった。2人は結婚し、米メジャーリーグ、ピッツバーグ・パイレーツの選手が隣人という豪華マンションで華やかな新婚生活を始めた。

志賀は既婚で3人の子供があるが、ピッツバーグに赴任するかなり前に離婚しており、Fとの結婚に問題はない。だが、Fの振る舞いには問題があった。英語が堪能なFはWHの生え抜き経営陣と親密になり、WHにとって都合のいい話がFを通じて志賀に吹き込まれた

原子力部門の部下たちは、志賀がFの言いなりであり、Fに「あの人だめね」と言われたら出世はないとみた。若手有志は2人が結婚した時、金を出し合って贈り物をした。お返しはティファニーの豪華な置物だったという。

かつてWHの財務担当役員だった平田政善が東芝本社のCFO(最高財務責任者)になった時には、Fは「平田さんが偉くなれたのはうちの人のおかげ」と社内で吹聴していたという

志賀がFに熱を上げている頃、WHは暴走していた。受注した米国、中国の計8基は建設計画の見直しが繰り返され、完成時期が際限なく後ろにずれていく。それに伴い、人件費や建設コストは膨れ上がる。だが、志賀を骨抜きにされた東芝には、正確な情報が入らない。

志賀は部下の椅子を蹴り上げるなど、パワハラ紛いの言動が増えていく。

Fと再婚してから人が変わってしまった」(東芝関係者)

2015年、志賀は東京に呼び戻される。PC部門のバイセル取引などによる粉飾決算問題で西田、佐々木、田中の歴代3社長と2人の元CFOが次々に辞任し、原発がわかる経営幹部がいなくなったからだ。2016年6月に東芝会長に就任した志賀は、WHの日本法人ウェスチングハウス・エレクトリック・ジャパンにFのポジションを作らせ、自分の会長室にFを出入りさせた。派手な服装で浜松町の東芝本社を闊歩するFに社員は眉をひそめ「WHのイメルダ夫人」と呼んだ

結局、志賀は今年2月に東芝会長を辞任した。


◇   ◇   ◇

大西氏は「」という女性について「振る舞いには問題があった」と言うが、わざわざ雑誌で取り上げて「スクープ」と銘打つほどの「問題」があるとは思えない。順に検証してみる。


◎Fの行動その1~都合のいい話を吹き込んだ?

Fの振る舞いには問題があった」と書いた直後に「英語が堪能なFはWHの生え抜き経営陣と親密になり、WHにとって都合のいい話がFを通じて志賀に吹き込まれた」と出てくるので、これが問題の核心だと思える。だが、具体的にどんな話を吹き込んだのか触れていない。これでは問題があったかどうか論じようがない。
福岡県立京都高校(行橋市)※写真と本文は無関係です

志賀氏の通訳だったのならば「WHの生え抜き経営陣と親密に」なっても不思議ではないし、悪いことではない。通訳なのだから「WHにとって都合のいい話」を「WHの生え抜き経営陣」がしてきたら、その内容をきちんと伝えるのがFの仕事とも言える。

例えば、「粉飾決算を続けている事実を知りながら、あたかも業績が好調なように偽の情報を流していた」と言うのならば問題視するのも分かる。だが、そうした話は出てこない。


◎Fの行動その2~人事に介入した?

原子力部門の部下たちは、志賀がFの言いなりであり、Fに『あの人だめね』と言われたら出世はないとみた」と大西氏は書いている。これは単に「原子力部門の部下たち」の見方を紹介しているだけだ。Fが人事に口出ししていたと判断できる材料がまずない。

百歩譲って介入していたとしよう。だが、それに問題があるとも思えない。「あいつ使えません。飛ばしてください」などと上司に進言するのは必ずしも悪いことではない。Fは社内の人間だ。社内の人事権者に自分の意見を伝えたとしても基本的に問題はない。

かつてWHの財務担当役員だった平田政善が東芝本社のCFO(最高財務責任者)になった時には、Fは『平田さんが偉くなれたのはうちの人のおかげ』と社内で吹聴していたという」とのくだりも、何が問題なのか謎だ。事実関係が記事の通りだとしても、あくまで志賀氏が平田氏を引き上げただけだ。Fの介入を裏付ける話は出てきていない。


◎Fの行動その3~志賀氏を変えてしまった?

志賀氏が「Fと再婚してから人が変わってしまった」としても、再婚が原因だとは断定できない。仮に再婚が原因で志賀氏が「変わってしまった」としても、再婚相手のFを責めるのは無理がある。いい大人が自分の判断で再婚したのだから、それで経営者としてダメになったのであれば志賀氏自身の問題だ。


◎Fの行動その4~派手な服装で社内を闊歩?

2016年6月に東芝会長に就任した志賀は、WHの日本法人ウェスチングハウス・エレクトリック・ジャパンにFのポジションを作らせ、自分の会長室にFを出入りさせた」という記述にも、問題視すべき点が見当たらない。記事を読む限り、Fは志賀氏と結婚する前からウェスチングハウスで働いていたはずだ。ならば、その日本法人に「ポジション」があっても問題ない。「自分の会長室にFを出入りさせた」ことも、業務上の必要があれば咎められない。
中村学園大学(福岡市城南区)
    ※写真と本文は無関係です

派手な服装で浜松町の東芝本社を闊歩するFに社員は眉をひそめ『WHのイメルダ夫人』と呼んだ」というくだりに至っては単なる悪口だ。「派手な服装」かどうかは主観によるし、仮に派手でも、就業規則にでも違反していない限り本人の自由だ。

こんな書き方が許されるならば、相手を悪く言うのは簡単だ。例えば、大西氏に関しても「でかい態度で日経社内を闊歩するその姿を見て、周囲は眉をひそめ『日経の金正恩』と呼んだ」と書ける。態度がでかいかどうかは主観によるし、「日経の金正恩」と呼ばれていないとの証明はできない。だが、そんな悪口を文章にしても建設的とは思えない。

ついでにもう少し注文を付けてみよう。


◎「イメルダ夫人」の説明は?

記事では「イメルダ夫人」に関する説明なしに「『WHのイメルダ夫人』と呼んだ」と出てくる。これは苦しい。「イメルダ夫人」がどんな人物で、どんな点がFと符合するのかは記事中で説明すべきだ。見出しにも「イメルダ夫人」を使っているのだから、そこはきちんと書いてほしい。


◎Fはなぜ匿名?

Fを匿名にする意味が理解できなかった。Fは志賀氏の妻なのだから容易に個人を特定できる。それを匿名にする意味は乏しい。東芝の経営問題でFの存在が重要だと言うのならば、実名を出して論じても問題はない。「中身の乏しい悪口の類だから、実名を出すのは申し訳ない」という配慮でも働いたのだろうか。


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html


※大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

2017年5月9日火曜日

「WHY」はどこへ? 日経「吉野家 2カ月ぶり減収」

ニュース記事を書くときには「5W1H(誰が、いつ、どこで、何を、なぜ、どのように)」が基本となる。新聞記者ならば誰でも知っているはずだ。全てのニュース記事に5W1Hの要素を漏らさず入れる必要はないが、だからと言って自由に抜いていいわけでもない。
日吉神社(福岡県太宰府市)※写真と本文は無関係です

9日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「『吉野家』2カ月ぶり減収 4月既存店、8.4%」というベタ記事では、内容から見て必須である「なぜ=WHY」が抜けている。これは明らかな欠陥だ。記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

牛丼大手3社の4月の既存店売上高が8日、出そろった。吉野家ホールディングスの「吉野家」は前年同月比8.4%減と2カ月ぶりに減収に転じた。金・土曜日限定の値下げキャンペーンなどでテコ入れしたが苦戦が続いている

一方、ゼンショーホールディングスの「すき家」は5.2%増、松屋フーズは3%増と伸びた。

◇   ◇   ◇

吉野屋」の減収率は「8.4%」とかなり大きい。一方で、「『すき家』は5.2%増、松屋フーズは3%増」とライバル企業はそこそこの伸びを見せている。「なぜ吉野屋だけかなりのマイナスなの?」と疑問が湧くが、記事では全く触れていない。

「行数が限られていて…」というのは言い訳にならない。「金・土曜日限定の値下げキャンペーンなどでテコ入れしたが苦戦が続いている」の部分を省いて、落ち込んだ理由を入れれば済む。それで足りないならば「一方、ゼンショーホールディングスの『すき家』は5.2%増、松屋フーズは3%増と伸びた」を削ってもいい。「WHY」の優先順位はそれぐらい高い。

ついでに言うと「苦戦が続いている」との説明も謎だ。「2カ月ぶりに減収に転じた」のだから、3月はプラスだったはずだ。2月までが不振続きであれば「苦戦が続いている」でいい場合もあるが、そうならば記事でその点を説明する必要がある。

今回のような欠陥記事を書いても、粗製乱造に慣れた企業報道部のデスクは見逃してくれるかもしれない。だが、まともな書き手を目指すのであれば、今のままではダメだ。猛省して基礎から学び直してほしい。


※今回取り上げた記事「『吉野家』2カ月ぶり減収 4月既存店、8.4%
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170509&ng=DGKKASDZ08I3X_Y7A500C1TJ2000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年5月8日月曜日

読者との「約束」守らぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長

相変わらず週刊エコノミストの金山隆一編集長の調子がおかしい。4月25日号の「From Editors」という編集後記では糸井重里氏について「詳しくはインタビューを読んでほしい」と読者に呼びかけているのに、その号に記事が載っていないという失態を演じてみせた。そして5月16日号に問題のインタビュー記事が出ていた。しかし、「From Editors」で紹介した話には全く触れていなかった。金山編集長は読者との「約束」を守る気がないようだ。
若宮八幡宮(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

まずは4月25日号の「From Editors」の全文を改めて見ておこう。

【エコノミストの記事】

「やってみなきゃ、わかんねえじゃねえか」というコントの一言に敏感に反応した人がいた。いまから30年近く前にテレビ朝日で放映していた「ザ・テレビ演芸」という番組で勝ち抜き演芸の審査を務めていたコピーライターのコメントだ。いまもなぜか鮮明に覚えている。その人が会社を興し、20年かけてついに株式上場させた。「ほぼ日」の糸井重里氏だ。彼のインタビューを読んで「この人は資本主義に挑戦している」と思った。企業の宿命は存続と成長だ。しかし糸井さんは、「総会を合宿する」とか「利益を出すために頭を回すことを一休みするのも武器になる」とか驚きの言葉を連発した。詳しくはインタビューを読んでほしい。なんとか全文も載せたい。

上場維持のためなら資本主義のルールを逸脱してもいいという東芝と対極の会社誕生である。

◇   ◇   ◇

上記のように書いて「詳しくはインタビューを読んでほしい」と言うのならば、インタビュー記事には「総会を合宿する」「利益を出すために頭を回すことを一休みするのも武器になる」といった糸井氏の発言を入れるべきだ。そして「この人は資本主義に挑戦している」と読者を納得させるのが編集長としての務めだ。しかし、インタビュー記事の中で糸井氏は「総会を合宿する」とも「利益を出すために頭を回すことを一休みするのも武器になる」とも言っていない。「資本主義に挑戦している」ような発言も出てこない。

インタビュー記事の中で「資本主義」に絡みそうな部分を見てみよう。

【エコノミストの記事】

--投資家とどう向き合いますか。

糸井 僕らがどれだけできるか見ようじゃないかと、好意的にも、悪意を持っても言われます。もっと利益を上げて、株価を上げなさいと言う人もいます。でも、そんなに簡単な話じゃないと思う。

僕がよく泊まる旅館のおばあちゃんは、「戦後に買った任天堂株を持っているから安泰だ」と言うんです。義理で買った花札メーカーの株が、今の任天堂の株になった。すごいことです。任天堂は「ラブテスター」(男女の相性を測る玩具)とか、タクシー会社とか、ダメだった時期も含めて、山あり谷ありで今みたいな会社になった。こういうやり方をすればうまくいくというのはないんです。

--成功の方程式はない。

糸井 上場後は、事業の質や規模について、これまで以上に問われるようになりました。僕みたいなことを言っている人がダメになったら、後の人も寂しいでしょう。弱っちい動物なりに生き延びたとか、体が大きくなったとか、そういうことを多少は見せないと、つまんないですよね。

--株価は気になりますか。

糸井 流れの中でどういう場所にいるのかは把握していますが、あまりとらわれないようにしています。僕が引退する時に株価が下がったら、僕の仕事が足りていなかったということでしょうね。

◇   ◇   ◇

やはり「資本主義に挑戦している」感じはない。この記事は金山編集長が糸井氏にインタビューして、それを花谷美枝記者がまとめたものだ。だが、花谷記者に罪はない。「From Editors」で紹介した糸井氏の発言がインタビュー記事の中に盛り込まれるように金山編集長自身が調整すべきだ。
二見ヶ浦(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

糸井氏へのインタビューで感動して、記事の掲載時期も考えずに「詳しくはインタビューを読んでほしい」と呼びかけてしまい、インタビュー記事の構成は花谷記者に任せて、「From Editors」との整合性は全く考慮しないまま誌面を作ってしまったといったところか。だとしたら、編集長としての責務を果たしているとは言い難い。


※インタビュー記事単独では問題ないが、「From Editors」との関連で考えるとE(大いに問題あり)と評価すべきだろう。金山編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。4月25日号の「From Editors」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

迷走止まらぬ週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_40.html


※金山編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

FACTAに「声」を寄せた金山隆一エコノミスト編集長に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_25.html

週刊エコノミスト金山隆一編集長への高評価が揺らぐ記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_12.html

週刊エコノミスト編集長が見過ごした財産ネットの怪しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_14.html

「無理のある回答」何とか捻り出した週刊エコノミストを評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_94.html

東芝は「総合重機」? 週刊エコノミスト金山隆一編集長に質問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_57.html

ついに堕ちた 週刊エコノミスト金山隆一編集長に贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_8.html

駐車違反を応援? 週刊エコノミスト金山隆一編集長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_29.html