2018年6月17日日曜日

基本的な技術が欠けた週刊ダイヤモンド相馬留美記者

週刊ダイヤモンドの相馬留美記者は経済記事の書き手として基本的な技術が身に付いていない--。6月23日号の「Inside~女性用スーツの販売が絶好調 『アラ管』が紳士服業界を救う?」という記事からは、そう判断するしかない。まず「女性用スーツの販売が絶好調」と言える根拠が乏しい。
諫早公園(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

最初の事例を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ紳士服メーカーに光明が差している。レディーススーツの売り上げが好調なのだ。

今年5月19日、AOKIホールディングスは、旗艦店のAOKI渋谷宮益坂店をフルリニューアルし、レディース売り場を大幅に拡張した。百貨店のような売り場のレイアウトは同社初の試みで、20代の新規客を中心に、オープン1週間の売り上げは、前年同期比144%と好調。今後都市部を中心にレディースフロアの改装を進める方針だ。


◎本当に「絶好調」?

店舗を「フルリニューアル」したのであれば「オープン1週間の売り上げ」が「前年同期」を上回るのは当然だ。しかも「レディース売り場を大幅に拡張した」という。ならば売り上げが前年同期比44%増でも驚くには値しない。仮に「レディース売り場」を5割増やしたのならば「前年同期比144%」では期待外れとも言える。

しかも顧客は「20代の新規客」が中心らしい。今回の記事では「アラ管(30代後半から50代まで)」が主役のはずなのに、最初からズレている。

この後の段落には相馬記者の実力不足が顕著に見て取れる。

【ダイヤモンドの記事】

業界トップの青山商事では、レディーススーツへの肩入れはそれ以上だ。今年2月に発表した中期経営計画では、2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる。山本龍典執行役員は、「13年までは女性用はリクルートスーツなど新卒向けの売り上げが100%だったが、最近はフォーマルやキャリアファッションが伸び、構成比がそれぞれ30%強となった」と語る。


◎比較がないと…

2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる」と言われても、「レディーススーツへの肩入れはそれ以上」なのかどうか判断できない。「レディース部門」の売り上げを伸ばして構成比も高める計画だとは思うが、これまでとの比較がないので何とも言えない。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

書き手としての基礎が身に付いてくれば、この手の比較を省いて記事を書くことに耐えられなくなるはずだ。相馬記者はその域にまだ達していないのだろう。

次は「紳士服メーカー」に丸め込まれたと思える記述を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある。「『品質の割に安い』というところで勝負する」(山本執行役員)と鼻息は荒い。


◎「一日の長がある」?

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある」という説明が怪しい。例えば、「一般のアパレルメーカー」が急に「レディーススーツ」に参入してきたのならば分かる。だが、昔から婦人服のアパレルメーカーも「レディーススーツ」を作ってきた。

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られている」としても、「レディーススーツ」で実績がある婦人服アパレルは「難易度」の高さをクリアしているはずだし、「製造できる工場」も押さえているのではないか。「『品質の割に安い』というところで勝負する」と青山商事の執行役員も語っているのだから、高価格帯の商品では「一般のアパレルメーカー」でも十分に勝負できている気がする。

次に移ろう。

【ダイヤモンドの記事】

レディーススーツ好調の背景には、女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる「アラ管(アラウンド管理職)」世代に一気に需要が生まれたことがある

コナカの「SUIT SELECT」でも、レディーススーツの主な購入者は20~30代前半だったのが、30代後半~40代へと少しずつ年齢層が広がっている。また、「女性の場合、管理職になると『下の世代と同じものは着られない』と、より良く見えるものを購入する傾向がある」(安部公政・コナカ執行役員)ことも、紳士服メーカーにとって追い風となった。


◎なぜ「レディーススーツ」だけ伸びる?

そもそも紳士用スーツが「オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ」のに、なぜ「レディーススーツ」だけ需要が急拡大するのか疑問だ。相馬記者によると「女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる『アラ管(アラウンド管理職)』世代に一気に需要が生まれた」らしい。

しかし、「女性活躍推進法の影響で」女性がスーツを着て仕事をするようになるのも不思議な話だ。営業などでスーツを着る必要があるのならば、管理職でなくてもスーツを着るだろう。「オフィスカジュアル」の動きに逆行するように、これまでスーツを着ないで働いていた「アラ管」の女性が「一気に」スーツを着るようになったのか。どうも怪しい。

ここまで来たので、最後まで見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

他のチャネルも手をこまねいているわけではない。高島屋は2店舗で、働く女性向けの売り場に「スーツクローゼット」というコーナーを設置。購入者は高級志向のアラ管世代が多く、売り場全体の1人当たり平均客単価2万1000円と比べ、スーツクローゼットは3万4000円と高めだ。EC市場も同様で、ZOZOTOWNは「17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍」(スタートトゥデイ広報)という。

さらに、都心以外にも動きがある。SUIT SELECTの地方店舗では、子育て後に復職する女性のスーツ購入が急増。青山商事は、郊外店の女性客獲得のため、今月より各ブロックに教育マネジャーを置き、営業力アップを急ぐ。女性客獲得レースはすでに始まっている。



◎「同様」になってる?

高島屋では「『スーツクローゼット』というコーナー」の客単価が他の売り場よりも高いという話を受けて「EC市場も同様で、ZOZOTOWNは『17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍』(スタートトゥデイ広報)という」と相馬記者は書いている。どこが「同様」なのか理解に苦しむ。「EC市場」に関して客単価が他の商品より高いという話は出てこない。
宇佐駅(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

話は逸れるが、今回の記事で「女性用スーツの販売が絶好調」をきちんと感じられる唯一の事例が「ZOZOTOWN」だ。「ZOZOTOWN」自体が伸びてはいるのだろうが、なぜこの話を柱にせず、AOKIや青山の微妙な事例を大きく取り上げたのか。この辺りからも、相馬記者が「紳士服メーカー」に取り込まれているのではとの疑念が膨らむ。

さらに、都心以外にも動きがある」という説明も奇妙だ。その前まで「都心」の話をしてきたと相馬記者は思っているのだろう。しかし、高島屋の「2店舗」の場所には触れていない。「EC市場」に関しても「都心」限定の話ではないはずだ。

女性客獲得レースはすでに始まっている」と結んでいるのも意味がない。例えば「レディーススーツ」が今の世の中には存在せず、来年に各社が売り出すのなら、準備段階での動きを捉えて「女性客獲得レースはすでに始まっている」との結論を導くのも分かる。

しかし、「レディーススーツ」を各社とも売り続けてきたのではないか。だとしたら「女性客獲得レースはすでに始まっている」のは大前提だ。わざわざ最後に持ってくる気が知れない。

この記事はやはり問題が多い。相馬記者を要注意の書き手として注目していきたい。


※今回取り上げた記事「Inside~女性用スーツの販売が絶好調 『アラ管』が紳士服業界を救う?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23768


※記事の評価はD(問題あり)。相馬留美記者への評価も暫定でDとする。

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