2018年5月31日木曜日

日経が握り潰した「ゴルフ会員権」のグラフの誤り

30日の日本経済新聞夕刊1面3版に、誤りと思えるグラフが載っていた。そして、最終版(4版)では全く別のデータを用いたグラフに差し替えて問題を解消していた。だとすると、3版のグラフは何だったのか。30日の夕方に問い合わせを送ったが、丸1日が経過しても回答はないし、31日の夕刊3版に訂正記事も出ていない。
島原武家屋敷街(長崎県島原市)※写真と本文は無関係です

1面の最終版でグラフを全く別のものに変えたのだから、編集局の幹部も問題を知っているはずだ。なのに、訂正も出さず問い合わせへの回答もしないとは…。読者軽視の姿勢をここまで貫けるのは、悪い意味で凄い。

30日に送った問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

30日夕刊1面(3版)の「ゴルフ会員権『東高西低』 接待需要、価格差広がる」という記事についてお尋ねします。記事には「関東と関西の価格差は100万円近い」との説明文を付けたグラフが載っています。

関東と関西の価格差は100万円近い」と言いながら中部・関西の相場だけでグラフを作成しているのも論外ですが、そもそも記事と話が全く合っていません。「関西ゴルフ会員権取引業協同組合(大阪市)によると、関西地区の4月の平均価格は前年比横ばいの83万円」と書いているのに、グラフでは4月は約100万円で前年同月より20万円ほど値上がりしています。

中部に関しても「仲介大手の桜ゴルフ(東京・中央)によれば4月の平均価格は前年比0.5%安い70万8300円だった」と記しているのに、グラフでは4月が約110万円で前年同月に比べ17万~18万円の上昇に見えます。グラフの相場については「仲介会社や業界団体への取材を基に作成」と注記があるだけなので、全く別のところからデータを持ってきた可能性も残りますが、その場合でも記事中のデータとの乖離が大きすぎます。

また、最終版に当たる4版では、関東の相場も加えた全く別のグラフに差し替わっていて、中部・関西の相場は記事中の説明と整合するものになっています。3版のグラフは誤りだと考えてよいのでしょうか。正しいという可能性はゼロに近そうです。誤りであれば、31日付の夕刊1面に訂正記事を掲載してください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。今回の間違いは相当なものだと思えますが、それでも読者からの指摘に無視を貫きますか。

自分たちは読者への説明責任をしっかり果たせているのか。日本を代表する経済メディアとして、間違い指摘にどう対応すべきなのか。改めて、じっくり考えてください。答えは明らかなはずです。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ゴルフ会員権『東高西低』 接待需要、価格差広がる
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180530&ng=DGKKZO31141860Q8A530C1MM0000


※3版の記事の評価はE(大いに問題あり)。

キャッシュフローの説明に難あり 日経「連続最高益 その先へ」

説明不足の典型と言うべきか。31日朝刊1面に載った「連続最高益 その先へ(下) 巨人の背中は遠く 大型M&Aで世界に挑む」という記事は「キャッシュフロー」の説明が雑だ。「投資キャッシュフローは49兆円」と聞いたら、どう理解するだろう。取材班は「投資キャッシュフローの赤字(支払超過)は49兆円」と言いたかったはずだ(断定はできないが…)。だが、「投資キャッシュフロー=投資キャッシュフローの赤字額」と読者が認識しているとの前提で記事を書くのは無理があり過ぎる。
南蔵院の釈迦涅槃像(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係

取材班には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 阿部貴浩様 三木朋和様 寺井伸太郎様 岡田達也様 野口和弘様 長谷川雄大様 丸山大介様 田口翔一朗様

31日朝刊1面の「連続最高益 その先へ(下) 巨人の背中は遠く 大型M&Aで世界に挑む」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

日本の成長投資は十分とは言い難い。現金を稼ぐ力を示す『営業キャッシュフロー』は前期で63兆円。10年前より3割増えたがM&Aなど投資に使う『投資キャッシュフロー』は49兆円で1割増にとどまる。利益を使い切れず総資産に占める自己資本の比率は40.8%と初めて4割を超えた

ここで言う「キャッシュフロー」は何を指すのでしょうか。まず「キャッシュフローの黒字額」だとしましょう。「営業キャッシュフロー」には問題ありません。ただ、「投資キャッシュフロー」では辻褄が合いません。「1割増にとどまる」との説明からは「投資の増加に伴い投資キャッシュフローの黒字も低水準ながら増えている」と読み取れます。しかし、投資増加は「投資キャッシュフロー」の黒字額の減少要因です。投資キャッシュフローの黒字額を増やすには投資抑制や資産売却が必要になります。

次に、記事で言う「キャッシュフロー」とは「キャッシュフローの赤字額」だとしましょう。この場合は逆に「営業キャッシュフロー」の説明が成り立たなくなります。「キャッシュフローのうちのキャッシュインの部分だけをキャッシュフローとして抜き出している」といった可能性も考慮しましたが、やはり「営業キャッシュフロー」と「投資キャッシュフロー」のどちらかの説明が成立しません。

推測ですが「営業キャッシュフロー営業キャッシュフローの黒字額」「投資キャッシュフロー投資キャッシュフローの赤字額」との前提で記事を書いたのではありませんか(営業キャッシュフローのキャッシュインと投資キャッシュフローのキャッシュアウトだけを抜き出した可能性もあります)。だとすると、記事の説明は不十分かつ不正確です。どう理解すればよいのか教えてください。

付け加えると、「利益を使い切れず総資産に占める自己資本の比率は40.8%と初めて4割を超えた」との説明も理解に苦しみました。「利益」による資金を投資に使おうが、寝かせておこうが、自己資本比率には原則として中立なのではありませんか。投資の失敗が自己資本を減らし、投資の成功が自己資本を増やす役割を果たすので、結果として自己資本比率を変動させるかもしれません。ただ、成功する場合も失敗する場合もあります。現金で持っていれば成功も失敗もないと考えると、「中立」と見るのが妥当でしょう。

29日の(上)に関する問い合わせにも回答をお願いします。ROEに関して記事では「15%前後ある米欧企業」と説明していますが、欧州は約10%で既に日本が追い付いているのではないかとの内容です。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

利益」から得られる資金を投資に回して失敗すれば、損失計上に伴って自己資本比率は低下するかもしれないが、望ましい姿ではない。投資が成功して利益を積み増してしまうと、自己資本比率が高まりやすくなる。

損失を出さずに自己資本比率を低下させたかったら、借入金などの他人資本を増やすか、配当などで自己資本を減らすかしかないと思えるのだが…。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「連続最高益 その先へ(下) 巨人の背中は遠く 大型M&Aで世界に挑む
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180531&ng=DGKKZO31181590R30C18A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。取材班の最初に名前が出てくる阿部貴浩氏を連載の責任者だと推定し、同氏への評価を暫定でDとする。


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

米欧のROEは「15%前後」? 日経の2本の記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/roe15.html

2018年5月30日水曜日

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安

日本経済新聞の中村直文編集委員に解説記事を書かせるのは避けた方が良いのではないか--。30日の朝刊企業3面に載った「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ」という記事を読んで、そう思わずにはいられなかった。「三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ」といった説明をするなとは言わない。しかし、使うのならば「三顧の礼」の故事がどんなものかきちんと調べた上で、RIZAPの件が「七顧の礼」に当たるかどうか検討してほしかった。
島原城(島原市)※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせは以下の通り。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

30日朝刊企業3面の「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ」という記事についてお尋ねします。記事では「RIZAPグループがカルビーの松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)を、代表取締役最高執行責任者(COO)に迎え入れる。自らの自由を縛りかねない実力経営者をなぜ招いたのか」と問題提起した上で、以下のように説明しています。

瀬戸健社長にとって松本会長は憧れの経営者だった。最近になって松本会長を紹介された瀬戸社長は直近で7回も面会している。三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ

三顧の礼」とは、中国の三国時代に蜀の劉備が諸葛亮を軍事として迎えるために3回訪問したという故事に基づく言葉です。1回目と2回目は諸葛亮が不在で、3回目にようやく会えたとされています。

7回目の訪問でようやく「面会」が実現したのであれば「三顧の礼どころではなく、七顧の礼だ」と表現するのも分かります。しかし「直近で7回も面会している」と中村様は説明しています。だとすると「七顧の礼」に当たらないのではありませんか。見出しでも「七顧の礼」を使っていますが、こういう使い方は誤用だと思えます。控えめに言っても、不適切な表現でしょう。

この後の記述にも疑問が残ります。

瀬戸社長は松本会長と会っても『RIZAPはここが足りないんです』『組織の規律が緩くて』など問題点をさらして、ほぼ聞き役に徹した。3月27日。瀬戸社長は橋渡し役であるグループの役員に松本会長の招請を指示する。これは偶然だが、松本氏がカルビー会長の退任を発表する日と重なっていた

記事の書き方から判断すると、7回の面会は「3月27日」より前のことであり、そこでは「経営陣に迎えたい」との意思を示していなかったはずです。だとすると、さらに「七顧の礼」とは言えなくなります。劉備が諸葛亮を訪問したのは、軍事として迎えるためです。「RIZAP」に関する話をあれこれ聞いてもらう目的ならば、7回の面会は「三顧の礼」にも「七顧の礼」にも当てはまらないはずです。

中村様の素直さにも問題を感じました。「直近で7回も面会している」のに、そこでは引き抜きの話を全くしなかったと言われても、個人的には信じる気にはなれません。「橋渡し役であるグループの役員に松本会長の招請を指示する」のも奇妙な話です。「瀬戸社長」は7回も「松本会長」に会っているのに、なぜか肝心なところは「橋渡し役であるグループの役員」に任せてしまいます。

これは偶然だが、松本氏がカルビー会長の退任を発表する日と重なっていた」と本当に信じたのですか。引き抜きがあったと見られないために、「3月27日」に初めて人事の話をしたとRIZAP側が説明するのは理解できます。それを額面通りに受け取りますか。疑うばかりが良い記者とは言えませんが、この不自然さを何ら疑わないでRIZAP側の説明をそのまま読者に伝えてしまうようでは、読む側としては不安が募ります。

付け加えると「ほぼ聞き役に徹した」はずなのに「瀬戸社長は松本会長と会っても『RIZAPはここが足りないんです』『組織の規律が緩くて』など問題点をさらして」います。これだと、瀬戸社長がかなり積極的に話しているように見えます。「ほぼ聞き役に徹した」と伝えたいのであれば、松本会長が一方的に話した様子を描写すべきでしょう。

問い合わせは以上です。「七顧の礼」に関しては回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「RIZAP社長『七顧の礼』 松本氏、会長職よりCOO選ぶ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180530&ng=DGKKZO31127110Z20C18A5TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを据え置く。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

2018年5月29日火曜日

米欧のROEは「15%前後」? 日経の2本の記事に矛盾

ROEに関して3月13日の記事では「米国の主要企業は約14%、欧州は約10%だ」と説明していた日本経済新聞が、5月29日の朝刊1面の記事では「15%前後ある米欧企業」と書いている。矛盾はないのか問い合わせてみた。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

29日の朝刊1面に載った「連続最高益 その先へ(上) ROE、初の10%超え 『値上げ力』つかみ成長回帰」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「ROE2桁は世界の投資家が優良企業と認める水準だ。15%前後ある米欧企業を追いかけて日本企業は新たな段階に差し掛かった」という結びの部分です。

イブニングスクープ~日本企業の稼ぐ力、世界水準に ROE初の10%超え」という御紙の記事(3月13日付)では、ROEに関して「米国の主要企業は約14%、欧州は約10%だ」と説明していました。これが正しければ、日本は欧州には追い付いています。米国が14%で欧州が10%だとすると「米欧の平均では15%前後になる」とも考えにくいところです。

ROEに関する他の資料などと併せて判断すると、3月の記事の説明が正しいと思えます。今回の「(ROEが)15%前後ある米欧企業」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。それとも3月の記事が間違っているのでしょうか。どちらにも問題がないとの判断であれば、その根拠も教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。最近は日大アメフト部の監督・コーチによる記者会見での説明に対し、厳しい批判が浴びせられています。しかし、自社の提供する記事の欠陥を指摘されても無視で済ませてきた御社の対応に比べれば、はるかに立派だと思えます。

1面の記事について追加で指摘をしておきます。気になったのは以下のくだりです。

大阪府枚方市にあるコマツの工場はフル生産になった。米国や中国で建設機械、資源国から鉱山機械の受注が絶え間なく届き、増産できる工場を海外で探す。顧客は納期重視で中国やインドネシアなど世界で価格を引き上げた

(1)上記の書き方だと「世界で価格を引き上げた」のが「顧客」に見えます。文脈から推測すると「価格を引き上げた」のは「コマツ」のはずです。

(2)上記の書き方だと「米国や中国で」受注したと取れてしまいます(そう理解するのが正解かもしれませんが…)。常識的に考えると、「米国や中国から建設機械、資源国から鉱山機械の受注が絶え間なく届き」と「から」で合わせた方が良いでしょう。

(3)上記の書き方だと「米国や中国は資源国ではない」との印象を与えてしまいますが、一般的に言えば「資源国」でしょう。2016年の原油生産量を見ると、米国は1位で中国は8位と、いずれも上位です。ちなみに、東海東京証券の証券用語集では「資源国」の説明の中で「主に、オーストラリアや、ニュージーランド、カナダや南アフリカ、ノルウェーやアメリカなどが資源国として注目されています」と具体例にも米国を挙げています。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「連続最高益 その先へ(上) ROE、初の10%超え 『値上げ力』つかみ成長回帰
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180529&ng=DGKKZO31076980Z20C18A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

「増配は増配のおかげ」? 週刊エコノミストの誤り

増配・自社株買い 株主重視より増配のおかげ」という見出しの意味が分かるだろうか。何度考えても理解できなかったので、以下の内容で週刊エコノミスト編集部に問い合わせを送ってみた。
土石流被災家屋保存公園(長崎県島原市)
            ※写真と本文は無関係です


【エコノミストへの問い合わせ】

慶応義塾大学ビジネス・スクール准教授 斎藤卓爾様  週刊エコノミスト編集部 担当者様

週刊エコノミスト6月5日号の「株主総会直前! ここが変だよ企業統治~増配・自社株買い 株主重視より増配のおかげ 減益局面では通用せず」という記事についてお尋ねします。

まず「増配・自社株買い 株主重視より増配のおかげ」という見出しの意味が理解できませんでした。「増配のおかげ」で「増配・自社株買い」ができているとの趣旨だとは思いますが、「増配のおかげで増配する」では意味が通じません。「足元では利益の増加ペース以上に配当を増やす傾向もうかがえるが、日本企業の株主還元の拡大は収益の拡大に支えられている側面が強い」といった記事中の説明から判断すると「増配のおかげ」は「増益のおかげ」の誤りではありませんか。

記事自体は興味深い内容でした。せっかくの機会ですので、いくつか気になった点を追加で指摘させていただきます。

(1)「配当政策」について

では配当と自社株買いは株価にどのような影響を与えるのだろうか。理論的には、米経済学者のフランコ・モディリアーニとマートン・ミラー(両氏ともノーベル経済学賞を受賞)が、税金や取引コストが存在しないといった条件下では、配当政策の変更は株主の富に影響を与えないことを示している

配当と自社株買いは株価にどのような影響を与えるのだろうか」と問題提起した後で「配当政策の変更は株主の富に影響を与えないことを示している」と書くと「自社株買いは影響を与える」と示唆しているように見えます。しかし、記事では結局、自社株買いについても「理論上は何ら株主全体の富に影響を及ぼさない」と結論付けています。ならば「配当政策」ではなく「株主還元策」などと表現した方が適切だと思えます。


(2)「誰も信じてくれない」について

仮に、経営者が今後業績が上向くと考えているときに、それを信用できる形で社外の人間に伝えようと考えた際、どうすればよいだろうか。『今後業績が上向きます』と言うだけでは、誰も信じてくれない」との説明も引っかかりました。強気の業績見通しを公表するだけで株価が上昇することは珍しくありません。

ロイターは5月17日付の記事で「ユー・エム・シー・エレクトロニクスが大幅反発。2020年度の連結営業利益が2017年度の25億円の2倍に当たる50億円を目指すとする中期経営計画を16日に発表し、好感されている」と伝えています。増配や自社株買いには触れていないのに、「業績を上向かせる」とする会社の中期経営計画を信じて株を買った人がいると推測できます。

増配や自社株買いにアナウンスメント効果があるとの見方を否定するつもりはありませんが「『今後業績が上向きます』と言うだけでは、誰も信じてくれない」と断定するのは言い過ぎだと感じました。


(3)「企業統治の問題」について

増配や自社株買いが株価上昇につながる理由の2番目には疑問が残りました。記事では「企業統治に問題のある企業では、経営者は現金を株主のためではなく、自らのために使用すると考えられる」と記した上で以下のように解説しています。

ミシガン大学のディットマー教授らは、米国企業の保有する現金がどのように評価されているのかを分析している。彼女らによると、企業統治が優れている場合は1ドルの現金保有が1・62ドルと評価されているのに対して、企業統治に問題があると考えられる場合は0・42ドルと評価されていることを示している。つまり良い企業統治の下では会社が保有している現金が事業に投資されリターンを生むと期待されているのに対して、悪い企業統治の下では現金が無駄遣いされると市場は見ているのである。このような場合、投資予定のない余剰現金を株主に還元することで、無駄遣いの可能性を自ら断ち、ひいては企業統治が機能していると市場からみなされるのである

企業統治に問題がある」企業の株価が増配・自社株買いで上昇するのは分かります。一方、「良い企業統治」を実践している企業が増配・自社株買いを発表した場合、株価にはネガティブな影響が出るはずです。しかし「良い企業統治をしている企業の自社株買いだから株価にはマイナスに働いた」といった話はあまり聞きません。その辺りはどう理解すればよいのでしょうか。


(4)「純利益が黒字」について

図2は東証1部上場企業のうち、純利益が黒字である企業群のDOE(株主資本配当率=配当÷株主資本)とROE(株主資本利益率=当期純利益÷株主資本)、配当性向(配当÷当期純利益)の中央値の推移を示している」というくだりの「純利益が黒字」という表現に違和感を覚えました。「純損益が黒字」とした方が自然ではありませんか。


(5)「米国 消えゆく株主還元」について

米国 消えゆく株主還元」という見出しで小さなコラムを付けていますが、「米国で株主還元が消えつつある」とは思えない内容でした。「米国企業の株主還元は、かつては日本と同様に配当が中心であった。しかし、1990年代半ば以降は自社株買いが中心となっている」としても、株主還元が消えかかっているとは言えません。

記事によると、米国の2012年の「総株主還元額は5585億ドル(当時のレートで44兆円超)」で、「日本企業による株主還元額は16年度で16兆円と報道されている」ようです。時期が多少異なりますが、米国の株主還元額は日本の2倍以上です。なのに「米国 消えゆく株主還元」と見出しで打ち出してよいのでしょうか。

問い合わせは以上です。「増配のおかげ」に関しては回答をお願いします。誤りであれば、次号で訂正を載せる必要があります。週刊エコノミスト編集部では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「株主総会直前! ここが変だよ企業統治~増配・自社株買い 株主重視より増配のおかげ 減益局面では通用せず
https://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180605se1000000045000


※見出しを除く記事の評価はC(平均的)。斎藤卓爾氏への評価は暫定でCとする。

2018年5月28日月曜日

週刊ダイヤモンド堀内亮記者「LNGパニック」の支離滅裂

週刊ダイヤモンド6月2日号の 特集「電力・ガス業界騒然! LNGパニック」の中の「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想」という記事は、支離滅裂と言える内容だった。筆者は堀内亮記者。以前にもLNG関連でおかしな記事を書いていた。今回の記事はどの辺りが問題なのか。具体的に指摘していく。


◎疑問その1~「東アジアハブ構想」は「急浮上」してる?

多比良港(長崎県雲仙市)の有明フェリー
        ※写真と本文は無関係です
まず「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想」という見出しから検証してみたい。「日韓共同のハブ構想が急浮上している」と堀内記者は言うが、どうも怪しい。記事では以下のように書いている。

【ダイヤモンドの記事】

こんなアイデアがある。橘川武郎・東京理科大学大学院教授は、日韓共同で運営する「東アジアハブ構想」を提唱する。「日本、韓国のエネルギー安全保障上の観点からも必要」とし、「スポットでLNGを買いたい中国にとっては、補完的な役割にもなる」と主張する。

なぜ日韓のタッグなのか。確かに、輸入国世界1位と3位の日韓が組めば4割を超える世界シェアとなり、市場整備に必要な取引量は増大する。

実は、日本同様に韓国も“アジア・プレミアム”で手痛い失敗をしており、需給を反映した価格指標を持ちたいという思いは日韓で共通しているのだ。

さらにLNGの転売を禁止する「仕向け地条項」の撤廃に向けて、日韓で“連携”した実績もある。橘川氏の言う通り、日韓共同ハブ構想のポテンシャルは高そうだ。

◇   ◇   ◇

橘川武郎・東京理科大学大学院教授」が「東アジアハブ構想」を提唱しているのは分かった。だが「急浮上」している感じはない。多くの人がこの「構想」に関心を抱き、議論が盛り上がっているのならば「急浮上」と表現するのも分かる。だが、記事からは「橘川氏」以外への広がりが感じられない。

しかも記事では「とどのつまり、国内の電力・ガス各社も商社も、本気で日本に取引ハブをつくろうなどとは、みじんも思っていないのだ」とも解説している。日本単独でできる「ハブ」さえ誰もできると思っていないのに、本当に「東アジアハブ構想」は「急浮上」しているのか。


◎疑問その2~スポット市場は「取引量に乏しい」?

LNGの取引は長期契約が基本で、いわゆるスポット取引の構成比は全体の3割にとどまる。市場に最も必要とされる取引量に乏しいのだ。しかも、LNG取引は相対契約がほとんど。わざわざ市場で取引する必要性がないからだ」との記述も問題が多い。

まず「スポット取引の構成比は全体の3割」ならば、そこそこのシェアがあると思える。なのに「取引量に乏しい」と結論付けている。仮に構成比が1割でも、市場全体が十分に大きければ必要な流動性は確保できる。記事の説明では「取引量に乏しい」かどうか判断できない。

しかも以下の記述と整合しない。

【ダイヤモンドの記事】

日本がLNG取扱量世界一の地位にあぐらをかいている余裕はない。なぜなら、17年冬にLNG市場の勢力図を塗り替える異変があったからだ。中国の“爆買い”だ。

中国政府が発電用や産業用の燃料を石炭から大気汚染の少ない天然ガスに転換する政策を進め、それに冬場の需要期が重なって天然ガスが不足。中国がスポット取引でLNGを買いあさった

◇   ◇   ◇

取引量に乏しい」のに「中国がスポット取引でLNGを買いあさった」らしい。流動性の乏しいスポット市場では「爆買い」が難しいはずだ。それができたとすれば「取引量に乏しい」との説明が怪しくなる。


◎疑問その3~「市場で取引する必要性がない」?

わざわざ市場で取引する必要性がない」との説明も整合性の問題がある。以下の記述とうまく噛み合わないからだ。

【ダイヤモンドの記事】

一方、政府に「市場を整備してほしい」と要望していた電力・ガス各社。実のところ、政府に面従腹背の行動を取っている。

すでに「情報収集」と称して、世界のトレーダーが集うシンガポールに各社共に拠点を設けている。経産省に「需給を反映した価格指標を作ってほしい」と要望しておきながら、取引価格やその実態を尋ねられれば「競争の中身に関わる」と開示を拒否しているという。

◇   ◇   ◇

堀内記者によると、「電力・ガス各社」は「わざわざ市場で取引する必要性がない」のに政府に対して「市場を整備してほしい」と要望していたことになる。これは奇妙だ。しかも「すでに『情報収集』と称して、世界のトレーダーが集うシンガポールに各社共に拠点を設けている」らしい。本当に「取引する必要性がない」のか。

特集の別の記事には以下の記述もある。

【ダイヤモンドの記事】

差し迫るLNG余剰危機を前に、電力・ガス各社に方策はあるのか。

そこで電力・ガス各社が編み出した手段が海外市場でのトレーディングだ。だが、「今頃トレーディングセミナーに参加して“お勉強中”の初級者が、百戦錬磨の海外プレーヤーと対等に渡り合えるはずもない」(電力関係者)。

◇   ◇   ◇

海外市場でのトレーディング」に活路を見出そうとしているのだから、やはり「わざわざ市場で取引する必要性がある」と理解するしかない。


◎疑問その4~日韓が組めば「取引量」が増大?

東アジアハブ構想」に関して「確かに、輸入国世界1位と3位の日韓が組めば4割を超える世界シェアとなり、市場整備に必要な取引量は増大する」と堀内記者は言う。だが「4割を超える世界シェア」となるのは、あくまで輸入量だ。「長期契約」中心の取引形態が変わらないのならば、日韓が組んでも「取引量」が「増大する」とは限らない。
島原城からの風景(長崎県島原市)※写真と本文は無関係です

記事には「世界のトレーダーが集うシンガポール」との記述があるので、アジアのスポット市場で中心的役割を果たしているのはシンガポールだと推測できる。シンガポールは輸入量のシェアが高いから、スポット市場で主導的な地位を築いているのか。堀内記者も少し考えれば分かるはずだ。


◎疑問その5~中国の「脅威」に日韓で対抗?

堀内記者は「中国の脅威」に対して「東アジアハブ構想」が有効だと訴えるが、その論理が理解できなかった。問題のくだりを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

その結果、中国のLNG年間輸入量は前年比4割増の3900万トンとなり、韓国を抜いて日本に次ぐ世界2位に躍り出た。

世界一の日本とはまだ4000万トン以上も差はあるが、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「いずれ中国が日本を抜く可能性は高い」と言う。中国の脅威が、迫ってきているのだ

LNG取扱量世界一の称号が奪われても日本がLNG市場をリードしたいならば、HHやNBPのような日本発の価格指標を作っておくに越したことはない。中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策が必要かもしれない

◇   ◇   ◇

ここから判断すると、輸入量で中国が日本を上回るような事態になるのが「脅威」なのだろう。そして「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」に当たるのが「東アジアハブ構想」だと読み取れる。

中国が輸入量を増やしLNGの需給が逼迫することを「脅威」と捉えるのは分からなくもない。だが、そもそも「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」が必要だろうか。市場経済の下で需要の増大に応じて中国が輸入を増やすのであれば、責められるような行為ではない。なのに「中国をかく乱するくらいの“ウルトラC”の方策」が必要だと考えるのが、よく分からない。「輸入を増やせないように嫌がらせをしてやれ」とでも言いたいのか。

日韓のタッグ」による「東アジアハブ構想」が中国の「脅威」への対抗策になるとの考えも謎だ。日韓で作る新たなスポット市場に中国も参加するのならば、「爆買い」の場が増えるだけだ。中国を排除するのならば、他のスポット市場などでLNGを「爆買い」しようとするだろう。

東アジアハブ構想」が実現してもしなくても、中国の「爆買い」を止めることはできないのではないか。「東アジアハブ構想」は「日本、韓国のエネルギー安全保障上の観点からも必要」と専門家の「橘川氏」が語っているようなので、それなりの妥当性があるのかもしれない。ただ、記事の説明では全く納得できなかった。


◎疑問その6~長期取引は見直さない?

日本同様に韓国も“アジア・プレミアム”で手痛い失敗をしており、需給を反映した価格指標を持ちたいという思いは日韓で共通している」と堀内記者は言う。「LNGの輸入価格が原油価格に左右される状況から脱したいと、政府がぶち上げたのが『LNG市場戦略』」で、電力・ガス各社も「政府に『市場を整備してほしい』と要望していた」とも記している。

だったら、長期取引での原油価格連動の契約を改めるのが先ではないか。既契約分は変更が難しいとしても、新規契約は「需給を反映した価格」にすればいい。そうした取り組みを進めているのかいないのか記事では触れていない。記事からは「長期契約=原油価格連動」が変更不可能な前提のように感じられる。常識的には考えにくいし、仮に変更できない事情があるのならばそこを解説すべきだ。


◎疑問その7~日本は「主導権」を持ってる?

いずれにしろ日本がLNG市場で主導権を握り続けたいならば、官民、アジアを巻き込んだ取引ハブの整備は必須だ。さもなくば、あっさり日本のプレゼンスは中国に奪われてしまうに違いない」と堀内記者は記事を締めている。「LNG取扱量世界一の称号が奪われても日本がLNG市場をリードしたいならば、HHやNBPのような日本発の価格指標を作っておくに越したことはない」との記述もあるので、LNG市場での「主導権」は日本にあると堀内記者は確信しているはずだ。

これが解せない。記事には以下のような説明もある。

【ダイヤモンドの記事】

一方、世界を見渡してみると、原油価格に連動した価格指標は日本、厳密に言えばアジアだけだ。米国のヘンリー・ハブ(HH)、英国のナショナル・バランシング・ポイント(NBP)は需給を反映した価格指標になっている。

下図の通り、原油価格が1バレル当たり100ドル前後と高騰した2011~14年は、原油価格に左右されないHHやNBPに比べ日本のLNG輸入価格が高いのが分かるだろう。これが、日本の電力・ガス各社が高値つかみした、いわゆる“アジア・プレミアム”だった。

◇   ◇   ◇

アジア・プレミアム」を払って他国より高い価格でLNGを輸入せざるを得なかった日本がLNG市場で「主導権」を握ってきたと言えるのか。「主導権」を持っているのならば、日本にとってもっと有利な条件で取引できたはずだ。

記事には「LNGの転売を禁止する『仕向け地条項』の撤廃に向けて、日韓で“連携”した実績もある」とも書いている。「主導権」を握っていた日本がなぜ「仕向け地条項」を受け入れる必要があったのか。不利な条件で取引していても「主導権」を握っているとするならば、「主導権」は持っていても意味がないのではないか。


◎疑問その8~「取引ハブの整備は必須」?

日本がLNG市場で主導権を握り続けたいならば、官民、アジアを巻き込んだ取引ハブの整備は必須だ」との説明もどう理解すべきか迷う。

仮に、スポット市場での価格決定権を持つかどうかで「主導権」の有無が決まるとすれば、「取引は相対契約がほとんど」の日本には元々守るべき「主導権」がないはずだ。

「取引量の大きな国がスポット市場でも価格決定権を握る」とすると、いくら「取引ハブの整備」に力を入れても、その市場で中国の取引シェアが大きくなれば、やはり「主導権」は中国が握ってしまう。なぜ「主導権」を握り続けるために「取引ハブの整備は必須」なのか、やはり分からない。

結局、この記事の解説は疑問だらけだ。これだけおかしな説明が多いのだから「支離滅裂」と言わざるを得ない。堀内記者は要注意の書き手だ。


※今回取り上げた記事「日韓タッグで“爆買い”中国に対抗~急浮上する東アジアハブ構想
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23619


※記事の評価はD(問題あり)。堀内亮記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。堀内記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

天然ガスは「高止まり」? 週刊ダイヤモンド堀内亮記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_6.html

堀内亮記者の説明下手が目立つ週刊ダイヤモンド「Inside」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/inside.html

冒頭から分かりにくい週刊ダイヤモンド「新・新エネ戦争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_28.html

2018年5月27日日曜日

日経 原欣宏記者「衣料、起死回生の大型店」の問題点

27日の日本経済新聞朝刊総合5面に載った「衣料、起死回生の大型店~通販に対抗、雑貨も販売 マックハウス、広さ倍以上の90店」という記事には色々と問題を感じた。まず見出しの「起死回生」が大げさだ。「起死回生」とは「滅びかけているものや絶望的な状態のものを、立ち直らせること」(デジタル大辞泉)という意味だ。衣料品市場が「滅びかけて」いたり、取り上げた企業が経営破綻の瀬戸際にいたりするのならば「起死回生」でいい。今回の記事では「マックハウスは18年2月期決算で最終赤字に転落するなど、苦境が目立つ」などと書いている程度で「絶望的な状態」と言うほどではない。
甘木公園の噴水と桜(福岡県朝倉市)
           ※写真と本文は無関係です

次は、記事の柱に据えた「マックハウス」の話を見てみよう。

【日経の記事】

カジュアル衣料品大手が店舗の大型化を進める。マックハウスは従来の2~5倍の広さを持つ店舗を3年間で約90店開くほか、しまむらは年間出店数の約1割を大型店に充てる。かつて低価格を武器に成長した各社は、ネット通販の台頭などを背景に苦戦が続く。生活雑貨など洋服以外の商品も販売できる大型店を拡大し、収益のてこ入れやブランドの立て直しを急ぐ。

マックハウスは4月末、新しい商業施設「コロワ甲子園」(兵庫県西宮市)に大型店を開設した。面積は約1500平方メートルと通常の5倍以上。従来は店舗内に低価格な衣料品が所狭しと並んだが、新店舗はゆとりのある空間が広がる。

主力の衣料品に加え、女性向け化粧品や生活雑貨、靴などの商品を充実させた。290円からと低価格のアクセサリー売り場も用意。10代女性でも手の届く価格設定で、若い顧客層の取り込みや子供連れの来店客の「ついで買い」を誘う。

中略)各社が店舗の大型化で狙うのは、新たな需要開拓や収益のてこ入れだ。マックハウスは岩手県にある従来型の2店を閉め17年6月に隣接地で大型店を開業。足元の販売は好調で、閉店した2店の合算額の約7割の増収を見込む


◎新しい話ではない?

マックハウスは4月末、新しい商業施設『コロワ甲子園』(兵庫県西宮市)に大型店を開設した」との説明を読んで、最初はこの店がマックハウスにとっての初の大型店かと思ってしまった。しかし、読み進めると「マックハウスは岩手県にある従来型の2店を閉め17年6月に隣接地で大型店を開業」と出てくる。だとすると「店舗の大型化」は以前から進めてきた策になる。

だったら、今は大型店がどのくらいあって、これまでにどの程度のペースで出店してきたのかを説明すべきだ。「従来の2~5倍の広さを持つ店舗を3年間で約90店開く」というだけでは、これまでの「店舗の大型化」との比較ができない。

足元の販売は好調で、閉店した2店の合算額の約7割の増収を見込む」との説明も引っかかる。売り場面積の変化が分からないと「好調」かどうかは判断できない。例えば「閉店した2店」の売り場面積合計の2倍の広さを持つ店を出したのに「7割の増収」となった場合、「好調」と評価するのは無理がある。

ついでに言うと、「約7割の増収を見込む」のがどの期間なのか明示していないのも好ましくない。

しまむらとアダストリアの事例にも注文を付けたい。

【日経の記事】

しまむらは2017年12月、JR京都駅前に1500平方メートルの面積を持つ「ファッションセンターしまむら」を出店。豊富な品ぞろえに加え、今後芽の出る可能性のある商品を置く実験の場と位置付ける。同社の北島常好社長は主力業態について、年30~40店の新規出店の「1割程度を大型化したい」と話す。

アダストリアは3月、主力ブランド「グローバルワーク」の旗艦店を東京・渋谷に出した。店舗面積は約630平方メートルと、通常の店舗に比べ大型化した


◎説明が雑過ぎる…

しまむらも「JR京都駅前」に出した店が初の大型店であるかのような書き方だ。しかし、2010年に開業した港北東急 S.C.店(横浜市)も売り場面積は1500平方メートルあるようだ。だとすると、これまでの大型店の出店に触れる必要がある。今後は「1割程度を大型化」するとしても、過去との比較がなければ変化を読み取れない。
米軍佐世保基地(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

しまむらに関しては大型店の基準が読み取れないのも問題だ。「マックハウス」では明示してはいないが600平方メートル以上が大型店なのかなと推測できる。しまむらに関しては、ほとんど手掛かりがない。

これは「アダストリア」にも言える。大型店の基準が読み取れないだけでなく「東京・渋谷に出した」店の「630平方メートル」が大型店と言えるのかも不明だ。「通常の店舗に比べ大型化した」という情報はあるが、どの程度の大型化なのかも教えてくれない。

店舗の大型化を進めていく一環なのかも判然としない。単に旗艦店だから広くしたとの可能性も残る書き方だ。「アダストリア」に関しては、事例が足りないので無理して突っ込んだとの疑いが捨て切れない。

アダストリア」だけ「店舗面積」になっているのも解せない。マックハウスとしまむらに関しては単に「面積」と記している。これは「売り場面積」だと推測できる。

記事で「店舗面積」と「売り場面積」の両方を用いるのならば、そこはきちんと明示して、2つの「面積」がどう違うのかも説明すべきだ。

結局、記事で取り上げた3社に関する説明に雑さが目立ち、説得力がなくなっている。市場環境の解説も大事だが、まとめ物の記事では事例の丁寧な紹介が第一だ。今回の記事はそれができていない。


※今回取り上げた記事「衣料、起死回生の大型店~通販に対抗、雑貨も販売 マックハウス、広さ倍以上の90店
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180527&ng=DGKKZO31017840W8A520C1EA5000


※記事の評価はD(問題あり)。原欣宏記者への評価も暫定でDとする。

2018年5月26日土曜日

乏しい根拠で週刊誌の皇室報道を貶める日経 井上亮編集委員

26日の日本経済新聞朝刊社会面に載った「宮内庁、眞子さまの報道で反論 『両陛下の考え、無に』 」という記事に、井上亮編集委員が解説記事を付けている。記事には「根拠無き批判 痛み想像を」との見出しが付いているが、その言葉は井上編集委員にそのまま返したくなる。
門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

解説記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

昨年末以来、各週刊誌が眞子さまの婚約者・小室圭さんの家族に関して執拗な報道を続けている。そのなかには皇后さまの「発言」や秋篠宮家の「家族会議」など、皇室の内部事情と称する情報が数多く含まれている。

天皇、皇后両陛下および各皇族方に日々接し、内情をよく知る宮内庁幹部、側近らは「記事の大半は事実とかけ離れている」と口をそろえる。問題はこれら事実と異なる情報をもとに、国民一般が眞子さまの結婚に関して論評している現状だ。

皇后さまは1993年の週刊誌による「バッシング」報道で倒れ、一時声を失った際に「批判の許されない社会であってはなりませんが、事実に基づかない批判が、繰り返し許される社会であって欲しくはありません」と文書で答えられた。

事実に基づかない批判がいかに人を苦しめるか。わが身に置き換えて想像すべきだろう。セクハラ、パワハラが大きな社会問題となっている時代だけに、報道も人の心への配慮に鈍感であってはならない


◎「事実と異なる情報」と言える根拠は?

井上編集委員は「各週刊誌が眞子さまの婚約者・小室圭さんの家族に関して執拗な報道を続けている」ことに関して、明確な根拠を示さずに「事実と異なる情報」と断定している。

天皇、皇后両陛下および各皇族方に日々接し、内情をよく知る宮内庁幹部、側近らは『記事の大半は事実とかけ離れている』と口をそろえる」としても、本当に「記事の大半は事実とかけ離れている」とは断定できない。「宮内庁幹部、側近ら」が本当のことを言っているとは限らないからだ。

例えば、安倍晋三首相の近くにいて官邸の内情を良く知る政府関係者が「森友・加計問題に関する週刊誌報道の大半は事実とかけ離れている」と口を揃えたら、井上編集委員はあっさり納得するのか。

各週刊誌」の報道を「事実と異なる情報」だと断定するならば、具体的に論じるべきだ。どの週刊誌のどの情報が「事実と異なる」のか。様々な週刊誌の様々な報道を十把一絡げにして、「記事の大半は事実とかけ離れている」かのように書くのは感心しない。きちんと事実関係を調べて報道している週刊誌の編集部に自分が属してたら、井上編集委員による根拠の乏しい「批判」に心を痛めただろう。

「正確な報道をしている週刊誌などない」と断定できる根拠を井上編集委員は持っているのか。あるならば記事中で示すべきだ。それを怠っているのに、「眞子さまの婚約者・小室圭さんの家族」について報じた週刊誌をまとめて貶めるような記事を書く井上編集委員が「報道も人の心への配慮に鈍感であってはならない」と訴えるのは、悪い冗談だとしか思えない。


※今回取り上げた記事「根拠無き批判 痛み想像を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180526&ng=DGKKZO31003550V20C18A5CR8000


※記事の評価はD(問題あり)。 井上亮編集委員への評価はDで確定とする。井上編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「近代以降の天皇制度で最大級の改革」は日経の「過言」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_14.html

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス

日経ビジネス5月28日号に載った「時事深層 INDUSTRY 日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足」という記事によると「日本産のブドウを原料に造る日本ワインも、原料不足のため酒類各社の販売拡大にブレーキがかかる」というが、どうも怪しい。「日本ワインも需要増に追いつかず」に「酒不足」が起きていると納得できる具体的な材料が記事には全く見当たらない。
佐世保港(長崎県佐世保市)
       ※写真と本文は無関係です

日本ワイン」に関する記事の説明を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

供給懸念から販売拡大にブレーキがかかっているのは、ウイスキーだけではない。国産ブドウを原料にして国内のワイナリーで造る日本ワインも、原料不足が課題だ。日本ワインも、ウイスキーと同様に国際コンクールで入賞する商品が出るなど品質が向上してきた。飲食店での取り扱いが増えたほか、海外からのニーズが高まる。

キリングループのワイン大手、メルシャンの代野照幸社長は「国内ワイン市場に占める日本ワインのシェアはまだ5%ほどと小さいが、3年連続で伸びている有望な市場だ」と期待を寄せる。



◎「不足」の根拠はどこに?

これを読んで「日本ワインは原料の国産ブドウが不足してるんだな。そのせいで販売拡大ができなくなってるな」と思えただろうか。「原料不足が課題だ」とは書いているものの、具体的な話は一切ない。「原料不足のため酒類各社の販売拡大にブレーキがかかる」と言えるだけの事例もデータも出てこない。一方で「3年連続で伸びている有望な市場だ」という「販売拡大にブレーキがかかっていない」とも取れるコメントはしっかり使っている。

記事は以下のように続く。

【日経ビジネスの記事】

ただ、生産拡大はウイスキー以上に難しいとみられる。農家の高齢化で生産者の数が減っている上、地球温暖化の影響もあり、ブドウ栽培に適した地域が限定されるためだ。そこで各社は自らブドウ栽培に適した地を探し出し、自社農場の拡大に乗り出している。

アサヒビールは北海道余市町に新たな農地を取得し、面積を5倍に広げた。サッポロビールも長野県の農地を拡張し、さらに北海道に自社農地を新規開設する。サントリーワインインターナショナルは農地の栽培品種を見直すほか、農業法人も活用し、生産量の確保に力を入れる。メルシャンも農地を増やす計画を立てている。


◎拡大「難しい」はずでは?

生産拡大はウイスキー以上に難しい」はずだったのに、各社は原料確保に向けた「拡大」策を次々と打ち出しているようだ。本当に「生産拡大は難しい」のか。

ついでに言うと「自社農地を新規開設」には違和感がある。「開設」と組み合わせるならば「農場」とした方がいい。

日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足」という見出しを付けて記事を作るのならば、「日本ワイン」の供給が需要に追い付いていない状況をまずはしっかり描くべきだ。ワインの供給が追い付かない原因がブドウ不足ならば、そちらの状況説明も欲しい。今回の記事にはその辺りが丸々抜けている。

そして「日本ワインも、ウイスキーと同様に国際コンクールで入賞する商品が出るなど品質が向上してきた。飲食店での取り扱いが増えたほか、海外からのニーズが高まる」という前向きな話に移り、さらには「3年連続で伸びている有望な市場だ」と「メルシャンの代野照幸社長」に語らせている。

記事中でワインに関するコメントは「代野照幸社長」しか出てこない。推測だが、日本ワインに関して「原料不足」が起きているのかどうか、生産が需要に追い付かないのか、筆者の長江優子記者はきちんと取材していないのではないか。

「違う。ちゃんと取材した。原料となるブドウの不足は確かに起きているし、日本ワインの供給も全く追い付いていない」と長江記者は言うかもしれない。だとしたら、なぜ記事で具体的な根拠を示さなかったのかとの疑問が生じる。

記事を読む限りでは「日本ワインの原料となるブドウは不足していない」「日本ワインの供給は需要にほぼ対応できている」「日本ワインの生産を拡大する上で、ワイン栽培に関する制約はそれほど大きくない」と理解しておいた方が合っているような気がする。もちろん推測の域は出ないが…。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY 日本ワインも需要増に追いつかず~ウイスキーだけではない酒不足
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/052101054/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価も暫定でDとする。

2018年5月24日木曜日

創価学会との手打ちの産物? FACTAの不自然な「お知らせ」

FACTA6月号には見慣れない「お知らせ」が出てくる。公明党に関する記事が終わった後、付け足すように「3月号に掲載した創価学会の幹部人事」について「抗議を受けました」と記している。見慣れない「お知らせ」のやり方だし、内容があまりに不十分なのも引っかかった。FACTAには以下の内容で問い合わせを送っている。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】

主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

6月号の「公明が『安倍三選やむなし』」という記事の末尾に付けた「お知らせ」についてお尋ねします。ここでは以下のように記しています。

3月号に掲載した創価学会の幹部人事について誤解を招くくだりがあると抗議を受けました。自戒せねばなりません。(編集部・宮嶋)

3月号の記事は実際に「誤解を招く」内容だったのですか。抗議を受けた事実を「お知らせ」しているのに、本当に「誤解を招く」ものだったのか触れていないのは感心しません。抗議が妥当である場合、問題となったのは「創価学会の幹部人事」に関するどの記述なのか、どういう「誤解」を与えるものだったのかを読者にきちんと伝えるべきです。それが購読料を取って雑誌を発行している出版社の責務ではありませんか。

「誤解を与える可能性がない」との判断であれば「お知らせ」を載せる必要はありません。それでも、抗議があった事実を「お知らせ」したいのであれば、具体的な抗議の内容と、「問題なし」と判断した根拠を示すべきです。ただ、今回の「お知らせ」では「自戒せねばなりません」と締めているので、抗議にはそれなりの妥当性があるのでしょう。

今回の「お知らせ」は、抗議の主との間で成立した手打ちの産物ではありませんか。御誌にとっては不本意な掲載だと思えます。FACTAオンラインで「公明が『安倍三選やむなし』」という記事を見ると「お知らせ」は出てきません。このことも「お知らせ」が不本意なものだったと裏付けているように見えます。

手打ちをするなとは言いません。ただ、「お知らせ」を載せるのであれば、その件に関する情報をしっかりと伝えるべきです。今回のようなやり方では、メディアとしての説明責任を果たせていません。読者からの間違い指摘を無視し続けている現状も含めて、早急に改革すべきです。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※「編集部・宮嶋」は発行人の宮嶋巌氏を指すと推測できる。宮嶋氏に関しては以下の投稿を参照してほしい。

記事の誤りに「説明なし」 宮嶋巌FACTA編集長へ贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/facta.html

FACTAでセクハラに関する珍説を披露した林美子氏

FACTA6月号に載った「セクハラ『もしあなたの娘なら』」という記事で、ジャーナリストの林美子氏が珍説を披露している。林氏に関しては問題のある書き手だと感じていたが、想定以上だ。記事に付けた「著者プロフィール」には「ジャーナリスト お茶の水女子大学博士課程前期(ジェンダー社会科学専攻)」と書いてある。大学で何をどう学べば、こんな記事が出来上がるのか。
原田駅(福岡県筑紫野市)を通過する列車
           ※写真と本文は無関係です

まず、以下の記述から見ていこう。

【FACTAの記事】

性犯罪者を対象にした再犯防止プログラムを実施し、900人以上の加害者に接してきた精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんは、加害者に共通するのは女性に対する「共感力の低さ」だと指摘する。

彼らは「ちょっとぐらい触れても女性の何かが減るわけではない」といった「認知の歪み」を持つ。前述の「一対一で会った女性は性暴力を受けてもしかたがない」も、歪みの一例である。斉藤さんは、それらの歪みの根底には男尊女卑の価値観が潜んでいるという。「男女は対等だという新たな価値観を、特に男性が学び直す必要がある」


◎「男女は対等」は「新たな価値観」?

男女は対等だという新たな価値観を、特に男性が学び直す必要がある」という「斉藤章佳さん」のコメントをそのまま使う気が知れない。日本国憲法でも男女の本質的平等を掲げている。「男女は対等」というのは「新たな価値観」なのか。日本の現役世代は「男女は対等」という社会的合意の下で生きてきたと思えるが、「斉藤章佳さん」や林氏は違うのか。それとも「70年ぐらいの歴史しかないのならば『新たな価値観』と言える」とでも考えているのか。いずれにしても無理がある。

男女は対等だという当たり前の価値観を、特に男性が学び直す必要がある」ぐらいならば、まだ分かるが…。

さらに引っかかったのが、記事の終盤だ。

【FACTAの記事】

セクシュアル・ハラスメントは権力の上下関係と性差別の重なるところに生まれる。どちらにも無自覚な男性に、被害に遭った女性の気持ちを想像するよう求めてもピンとこないだろう。

ではもし、被害者が自分の娘だったら、妻だったとしたらと想像してみてはどうだろう。自分の行為がセクシュアル・ハラスメントにあたるかどうかわからなかったら、立場が上の女性、上司や上司の妻、総理大臣の妻に対しても同じ行為をするか考えてみるといい。男性一人ひとりがそう考えてみることから、この社会の隅々に深く根を張った性差別の解消が、ようやく始まるのかもしれない。


◎色々と問題が…

セクシュアル・ハラスメントは権力の上下関係と性差別の重なるところに生まれる」という林氏の主張をまず受け入れてみよう。だとすれば、財務省の福田淳一事務次官によるセクハラは起きなかったはずだ。福田氏とテレビ朝日記者との間には「権力の上下関係」はない。財務省はテレビ朝日を支配しているわけではないし、福田氏は記者の上司でもない。
福岡県立久留米高校(久留米市)※写真と本文は無関係です

筆者も記者時代、何度も夜討ち朝駆けをし、男性の取材相手と『一対一』で会った」と林氏は記している。その時に「権力の上下関係」があったと感じているのか。だとしたら、そちらの方が問題だ。例えば経営者の不正を追及するためにその経営者と「一対一」で会うとしよう。その時に「権力の上下関係」があり、取材する自分は相手より下だと認識しているようではダメだ。御用メディアでもない限り、対等な立場だと自覚して取材してほしい。

今回の件ではテレビ朝日自体が「優越的な立場に乗じて行ったセクハラ行為は、当社として到底看過できません」と上下関係を認めている。これも感心しない。実質的に「財務事務次官様に取材させてもらっている」従属的な立場だったとしたら、それ自体が恥ずべきことだ。一段下の立場だと自ら認めるようなメディアに、権力監視の役割が期待できるだろうか。

話を戻そう。

セクシュアル・ハラスメントは権力の上下関係と性差別の重なるところに生まれる」とすると別の問題も生じる。例えば、役職のない若手社員が同期会を開いたとする。ここに「権力の上下関係」はない。ゆえに、この同期会で侮辱的な性的発言を繰り返す者がいても、セクハラにはならない。林氏の主張に従えば、セクハラは「権力の上下関係と性差別の重なるところに生まれる」のだから。だが、本当にそうだろうか。

自分の行為がセクシュアル・ハラスメントにあたるかどうかわからなかったら、立場が上の女性、上司や上司の妻、総理大臣の妻に対しても同じ行為をするか考えてみるといい」という説明も理解に苦しむ。

総理大臣の妻」を侮辱するような性的発言が平気でできる人はかなりいるだろう。そういう人は、他の人に同じような性的発言をしてもセクハラに当たらないのか。

ちなみに日経ウーマンでは2012年8月28日付の記事で以下のように記している。

セクハラというと、『上司や先輩社員が、部下や後輩社員に対して性的に不快感を与えるような言動・行動をすること』と、つまり、立場が上の人から下の人へ、というイメージがあるのではないでしょうか。確かに、セクハラはパワハラの形をとることも多いですが、上司に限らず同僚から、場合によっては部下から受けることもあり、必ずしも地位と連動しません

これは納得できる。一方、林氏の考えでは、上司に対してできる「行為」であれば、セクハラではないとの判断に至る。だとすると「部下から受ける」セクハラは原理的にあり得ない。この結論を林氏は支持できるのか。

「(権力の上下関係と性差別の)どちらにも無自覚な男性」という表現も引っかかった。これが男性全体を指すのなら決め付けが過ぎる。しっかり「自覚」している人も当たり前にいる。

「(男性全体のうち)どちらにも無自覚な男性」という意味にも取れるが、これにも問題が残る。「権力の上下関係」に「無自覚な男性」が「立場が上の女性、上司や上司の妻、総理大臣の妻に対しても同じ行為をするか考えて」みても何も変わらないだろう。「権力の上下関係」に「無自覚」なのだから、上司と部下で行動パターンを変えたりしないはずだ。「上司」だと対応が一変するのならば「権力の上下関係」をしっかり「自覚」していると判断できる。

お茶の水女子大学」まで行って「ジェンダー社会科学」を学ばなくても、この程度のことは分かりそうなものだが…。林氏は学び過ぎておかしな認識を持つようになったのか。いずれにせよ林氏の書く記事は要注意だ。今後も珍妙な解説が飛び出してきそうな予感がある。

※今回取り上げた記事「セクハラ『もしあなたの娘なら』
https://facta.co.jp/article/201806029.html


※FACTAの記事の評価はD(問題あり)。林美子氏への評価もDとする。同氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

事実誤認がある林美子氏の「声」を紹介するFACTAの謎
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta_23.html


※福田氏のセクハラ疑惑に関するFACTAの記事に関しては、以下の投稿も参照してほしい。

セクハラ問題で強引にテレ朝の経済部長を庇うFACTA
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/facta_23.html

2018年5月23日水曜日

「持分法適用会社=連結対象外」は日経ビジネスの癖?

「持分法適用会社=連結対象外」と認識してしまうのは日経ビジネスの癖なのだろうか。2月19日号に続いて5月21日号でも、その前提で記事を書いていた。持分法投資損益を連結決算に取り込むのだから持分法適用会社は「連結対象」としか思えないのだが…。
雲仙地獄(長崎県雲仙市)※写真と本文は無関係です

日経ビジネス編集部に送った問い合わせと、それに対する回答は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 高槻芳様  編集長 東昌樹様  

5月21日号の「時事深層 COMPANY 携帯に冷めたソフトバンク孫氏~米子会社スプリントの主導権手放す」という記事についてお尋ねします。

記事では「新会社『TモバイルUS』」に関して「ソフトバンクグループの持ち株比率は27.4%。連結対象からは外れ、持分法適用会社となる」と説明しています。しかし「持分法適用会社」は「連結対象」です。連結子会社でなくなるからと言って「連結対象」から外れるわけではありません。記事の説明は誤りではありませんか。

同様の問題は2月19日号の「時事深層 INDUSTRY 33%出資に隠された『本心』~王子HDが三菱製紙と資本・業務提携」という記事にもありました。この記事では「王子HD側の視点に立つと、連結対象にしない33.0%の出資比率は中途半端にも映る」と解説していました。

この件での問い合わせに対しては「今回の記事で『連結対象にしない』と表現したのは、『持ち分法適用会社にとどめ、連結子会社化にしない』という意味で書かせていただきました。記事中の関係者のコメントで『連結子会社にしない』と引用しているのはそのためです。ただ、ご指摘の通り、誤解を招く表現であったと反省し、今後の記事の参考にさせて頂きたく存じます」との回答を頂いています。

筆者が異なるとはいえ、同じような「誤解を招く表現」を繰り返してしまうのは、編集部内の情報共有が足りないからではありませんか。これに関しては編集長の責任が重いと思えます。


【日経BP社からの回答】

いつも弊誌「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。5月21日号の時事深層「携帯に冷めたソフトバンク孫氏」に問い合わせいただいた件につきまして、回答いたします。

記事中、新会社「TモバイルUS」のソフトバンクグループの持ち株比率が27.4%となることを受け「連結対象からは外れ、持分法適用会社となる」と記述している点について、持分法適用会社は連結対象であり、「連結対象」から外れるわけではない、とのご指摘をいただきました。「連結対象から外れ」と記述したのは、いわゆるフル連結から外れるという趣旨でこうした表現をとりましたが、誤解を招く表現でした。

また、2月19日号の記事で類似の記述があり、お問い合わせいただいた際、編集部より「今後の記事の参考にさせて頂きたく存じます」との回答を差し上げました。このたびの「編集部内の情報共有が足りない」とのご指摘はおっしゃる通りです。あらためて表現に正確を期すようにして参ります。

◇   ◇   ◇

※「時事深層 COMPANY 携帯に冷めたソフトバンク孫氏~米子会社スプリントの主導権手放す
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/051501039/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。高槻芳記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。


※2月19日号の「時事深層 INDUSTRY 33%出資に隠された『本心』~王子HDが三菱製紙と資本・業務提携」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/33_21.html

セクハラ問題で強引にテレ朝の経済部長を庇うFACTA

FACTA6月号に載った「テレ朝『セクハラ告発』の真相」という記事は奇妙な中身だった。セクハラ問題でテレビ朝日の早河洋会長や篠塚浩報道局長を悪者にして経済部長をかばうのがダメだとは言わない。だが、根拠薄弱では困る。
宇佐のマチュピチュ(大分県宇佐市)
       ※写真と本文は無関係です

記事では「『報道したい』と提案しても、官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけ」と断定しているが、そう判断できる根拠は「どこの誰か分からない人がそうなるんじゃないかと心配していた」といった漠然としたものだ。一方で経済部長に関しては、セクハラに関する報道に待ったをかけた様子を描いているのに「報道を止めたかのようなニュアンスで発表したのは事実と異なり~」と擁護する。これでは「真相」に迫っているとは思えない。

FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。

【FACTAへの問い合わせ】

FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

6月号の「テレ朝『セクハラ告発』の真相」という記事についてお尋ねします。見出しの横には「『報道したい』と提案しても、官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけだから、週刊誌に持ち込んだ」と書かれています。しかし、記事中の説明とは食い違っています。当該部分は以下のようになっています。

「(テレビ朝日の)経済部長は女性記者から『セクハラを報道したい』と提案された際、放送の準備を進めても、篠塚氏や早河洋会長ら官邸に近い幹部にボツにされるとの趣旨を伝えた。『経済部長は長く報道ステーションのプロデューサーを務めていた。しかし、2015年に元官僚の古賀茂明氏が『I am not ABE』と書いたボードを掲げ、官邸からの横やりで、キャスターの古舘伊知郎氏ともども降板させられた際、彼女も番組を外された。報道局では、篠塚氏や早河氏に不信感を募らせている者が多く、今回の問題では、篠塚氏が音声データを取り上げて官邸に持ち込み、消してしまうと恐れた人までいた』と関係者は打ち明ける


『報道したい』と提案しても、官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけだから、週刊誌に持ち込んだ」との記述からは、「週刊誌に持ち込んだ」女性記者自身が「『報道したい』と提案しても、官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけ」と判断したと受け取れます。

しかし、記事の当該部分ではそうは記していません。「篠塚氏が音声データを取り上げて官邸に持ち込み、消してしまうと恐れた人までいた」という「関係者」のコメントが出てくるだけです。女性記者あるいは経済部長が「官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけ」と判断していたと解釈できる記述はありません。「官邸に近い報道局長らに録音データを取り上げられるだけだから、週刊誌に持ち込んだ」との説明は誤りではありませんか。少なくとも、その後の記述と整合性の問題があります。

記事には「上司の経済部長(女性)が報道を止めたかのようなニュアンスで発表したのは事実と異なり~」との記述もありますが、その後の説明を読む限りでは「事実と異なっていない」と思えます。

セクハラを報道したい」という提案に対し、経済部長は「放送の準備を進めても、篠塚氏や早河洋会長ら官邸に近い幹部にボツにされるとの趣旨を伝えた」と書かれています。これが事実であれば、「報道を止めた」のは「上司の経済部長(女性)」以外にあり得ません。経済部長が「放送の準備を進めて」いたのに「篠塚氏や早河洋会長ら」に報道を止められたのなら話は別ですが…。かなり強引に経済部長をかばっているようですが、何か理由があるのでしょうか。

付け加えると「2015年に元官僚の古賀茂明氏が『I am not ABE』と書いたボードを掲げ、官邸からの横やりで、キャスターの古舘伊知郎氏ともども降板させられた際、彼女も番組を外された」との記述にも問題を感じます。記事の説明を信じれば「古舘伊知郎氏」が「降板させられた」のは「2015年」のはずです。しかし同氏は2016年3月まで「報道ステーション」でキャスターを務めています。記事の説明は誤りではありませんか。

官邸からの横やり」で「降板させられた」との説明にも疑問が残ります。「古賀茂明氏」の一件があったのは15年3月なので「降板」までに約1年が経っています。「官邸からの横やり」を受けて「降板」させたのならば、時間がかかりすぎだと思えます。

さらに気になったのが以下の記述です。

女性記者は度重なる福田氏のセクハラを経済部長に相談し、部長は個別取材を見合わせるよう指示した。4月4日は財務省が森友学園側に対し、国有地地下のごみを巡る口裏合わせを依頼していたというNHKのスクープについて、部長の指示を知らないデスクが女性記者に確認取材を求め、彼女はやむなく福田氏に接触した

彼女はやむなく福田氏に接触した」という行動に疑問が残ります。「福田氏に接触」することは「部長」が禁じているはずです。「部長の指示を知らないデスク」が「福田氏に接触」するように求めてきた場合、「部長からダメだと言われているので接触できません」と伝えるのが常識的な対応だと思えます。

部長の指示を無視するのは会社員にとって大きなリスクを伴います。そんな余計なリスクを負ってまで「(セクハラを繰り返す)福田氏に接触した」のは不自然です。何の疑問も感じませんか。「当時の状況では部長の指示を無視するしかなかった」と言える事情があるのならば、その点に触れるべきです。通常であれば、デスクよりも部長の指示を記者は優先させるはずです。

問い合わせは以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「テレ朝『セクハラ告発』の真相
https://facta.co.jp/article/201806038.html


※記事の評価はD(問題あり)。

大げさ過ぎる? 日経ビジネス特集「中国発 EVバブル崩壊」

日経ビジネス5月21日号の特集「中国発 EVバブル崩壊」は期待の持てるタイトルではある。だが、読んでみると「バブル崩壊」はまだ起きていないようだし、筆者ら(池松由香記者と小平和良上海支局長)の考える「バブル崩壊」とは「ブームの沈静化」とでも呼ぶべきものらしい。全体として大げさ感は否めなかった。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

記事中に出てくる細かい問題点も含めて、編集部に問い合わせを送ってみた。筆者らへの質問と、それに対する回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 池松由香様 小平和良様

5月21日号の特集「中国発 EVバブル崩壊」の中の「PART 2 恥も外聞も捨てた欧米の戦略~『多軸化』で自動車ラインアップは無限大に」という記事についてお尋ねします。質問は以下の3つです。

<質問その1>

記事には独BMWのハラルト・クリューガーCEOの「エンジン、ディーゼル、PHV(プラグインハイブリッド車)……。これらのパワートレインの市場はこれからも残るし、我々にはこれらを提供し続ける責任もある」というコメントが出てきます。

気になったのは「エンジン、ディーゼル、PHV」と並べていることです。ここは「ガソリン、ディーゼル、PHV」あるいは「ガソリン車、ディーゼル車、PHV」とすべきではありませんか。「ディーゼル」は当然ながらディーゼルエンジンを積んでいます。なのになぜ「エンジン、ディーゼル」と並べたのでしょうか。

ちなみに記事中の図では「パワートレイン」の例示に「ガソリンエンジン」「ディーゼルエンジン」「PHV」が入っています。

付け加えると、訳語なしに「パワートレイン」を使うのには賛成できません。日経ビジネスの読者に限っても、広く知られた言葉とは言えないでしょう。

記事中の「これからは『生産のフレキシビリティー』がより重要になる」というクリューガーCEOのコメントにも似た問題を感じました。日本語に訳してコメントを使っているはずなので「生産の柔軟性」とでも訳せばいいのではありませんか。不必要な横文字を使わずに記事を書いてもらえると助かります。

<質問その2>

記事には「クルマの開発に影響を及ぼすこうした『多様化の軸』は、これまでは『車種』のみだった。ところが今後は、『パワートレイン』や『使われ方』といった新たな軸が加わり、メーカーが開発しなければならないクルマのラインアップ(種類)は掛け算で無限大に増えていく」との記述があります。

しかし「パワートレイン」は以前から多様化していたのではありませんか(「使われ方」も多様化してきたとは思いますが、話が長くなるので省略します)。トヨタ自動車がハイブリッド車「プリウス」を発売したのは20年以上も前です。歴史を遡れば、ディーゼルエンジンの登場もパワートレインが多様化した一例と言えそうです。「『多様化の軸』は、これまでは『車種』のみ」との説明は誤りではありませんか。


<質問その3>

BMWに関して記事では「EV事業の利益率は改善する見通しで、18年には全社で売上高に占めるEBIT(利払い・税引き前利益)の比率が8~10%になる見込み。この利益率向上のカギを握るのが~」と記しています。

8~10%」とは「BMW全体でのEV事業の売上高EBIT比率」だと思われます(EV事業ではなくBMWの全事業という解釈も可能です)。ただ、この数字だけでは「改善」が読み取れません。なのに「この利益率向上のカギを握るのが~」と受けて話が進んでいきます。

記事では、18年より前の年との比較が抜けているのではありませんか。それとも過去の利益率との比較は必要ないとの判断でしょうか。

さらに言うと「売上高に占めるEBIT(利払い・税引き前利益)の比率」ではなく「売上高に対するEBIT(利払い・税引き前利益)の比率」とした方が自然ではありませんか。「EBIT」は売上高の構成要素ではありません。例えば「売上高に占めるガソリン車の比率」であれば「占める」を使っても違和感はありません。今回の書き方だと「税収に占める防衛費の比率」と同じような不自然さがあります。

<PART 1に関する指摘>

PART 1 政府に踊らされるEVメーカー~中国で見えてきたバブル崩壊の予兆」という記事についても気になった点を述べておきます。記事に付けたグラフでは「中国の自動車業界は過去にも『バブル崩壊を経験』」と説明しています。「中国の新車販売の前年比伸び率が2.5%と前年の32%から急減速した11年」を指しているようです。

しかし、11年も低水準とはいえ販売は2.5%伸びています。これで「バブル崩壊」と言うのは苦しいでしょう。例えば、日経平均株価が一気に5万円に達する「バブル」が2019年に発生するとします。しかし、翌20年の上昇率は2%と急速に伸び悩みました。これを「バブル崩壊」と呼びますか。

中国の自動車業界は過去にも『バブル崩壊を経験』」と言うためには、市場の急激な膨張と収縮がセットで必要となるはずです。しかし「中国新車販売台数推移」からは「バブル崩壊」が感じられません。

特集ではEVに関して「『バブル崩壊』の予兆が見えてきた」と解説していますが、これもマイナス成長にはならない程度の「バブル崩壊」なのでしょうか。だとしたら、かなり大げさな感じは否めません。


【日経BP社からの回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

Part2に対するご質問について

<その1>

頂いた箇所のご指摘を真摯に受け止め、今後の記事の参考にさせて頂きたく存じます。


<その2>

多様化の軸がこれまでは車種のみだった、としたのは、自動車メーカーが今ほど、多種多様なパワートレインを開発段階から考慮しなければならない時代はなかった、と認識しているためです。ただ、より的確に表現する余地はあったかと考えております。

<その3>

ご指摘の通り、過去の利益率と比較した方が、説得力を増すことができたと考えます。以後、より分りやすく伝えられるよう努めていきたいと思います。


Part1に対するご質問について

中国の新車市場における年2%成長はバブル状態ではない、と考えております。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

結局、筆者らは「中国の新車市場」が32%増であれば「バブル」で、2%増であれば「バブル崩壊」と考えたようだ。「バブル崩壊」に明確な定義はないので「自分たちはそう思った」と言われれば、それまでではある。ただ、それを読者も納得してくれるかどうかは、しっかり検討する必要がある。

「これでバブル崩壊は苦しいだろ」と感じる自分のような読者が少数派であれば良いのだが…。

※今回取り上げた特集「中国発 EVバブル崩壊
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/051500983/?ST=pc


※特集の評価はD(問題あり)。池松由香記者と小平和良上海支局長への評価もDを据え置く。池松記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

 日経ビジネス池松由香記者の理解不能な「トヨタ人事」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_9.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積

ジャーナリストの大西康之氏に関しては「書き手として問題がある」と繰り返し指摘してきた。FACTA6月号に載った「賞味期間切れ『孫マジック』」という記事も、やはり問題が多い。事実誤認と思える記述もある。FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。
島原城(長崎県島原市)※写真と本文は無関係です


【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

FACTA6月号の「賞味期間切れ『孫マジック』」という記事についてお尋ねします。質問は3つです。

<質問その1>

記事には「ソフトバンクは13年、総額約2兆円を投じ、米国4位のスプリントを買収した。当初、孫は同第3位のTモバイルも買収し、ベライゾン、AT&Tモバイルと肩を並べる3強に食い込もうとしたが、寡占が進むことを嫌う米当局の反対で頓挫した」との記述があります。これを信じれば、2013年には米国3位がTモバイル、同4位がスプリントだったはずです。

しかし、両社の売上高が逆転して3位Tモバイル、4位スプリントとなったのは2015年です。「米国4位のスプリントを買収した」との説明は誤りではありませんか。「米国4位」や「同第3位」は現在のことを述べているとの可能性も考慮しましたが、記事の書き方からはすると無理があります。「米国3位(当時)のスプリントを買収した」などと説明するのが適切でしょう。


<質問その2>

あるアナリスト曰く『保有株式価値が21兆8千億円といっても過半の13兆円はアリババで、スプリントとヤフーを加え上場株式が16兆円ある。しかし、これはほぼ換金できない資産。SBGが売りの気配を見せただけで大暴落しますから。おまけにアリババの13兆円は中国ITバブルのなせる業。いつ吹き飛んでもおかしくない……』と」という部分にも疑問を感じました。

まず「ほぼ換金できない資産」と言えるでしょうか。アリババ株については2016年に100憶ドル規模で売却した実績があります。売却方針が伝えられた後もアリババ株の「大暴落」は起きていません。「ほぼ換金できない」「SBGが売りの気配を見せただけで大暴落します」といった説明は、過去の経緯と食い違うのではありませんか。アナリストのコメントとして使っているとはいえ、明らかに不正確なコメントを使ったのであれば大西様も責任を免れません。


<質問その3>

SBGの個人向け社債」について大西様は「販売した証券会社は個人の売却に即座に応じなければならない」と言い切っています。しかし、日本証券業協会のホームページでは、「個人向け社債」のリスクに関して以下のように説明しています。

証券会社は、自社が販売した社債について、原則としてお客様の売却希望にお応えして買い取りを行います。しかしながら、その社債について、市況環境が著しく悪化している場合や、上記①の信用リスクが顕在化している場合には、その社債を買い付けていただけるお客様が容易には見込めないことなどから、証券会社も容易に買取りに応じることができないことや信用リスクなどを算定した価格(かなり安値となります。)でしか買取りに応じることができない場合もあります。当然、証券会社に対しても法令等で財務の健全性が要求されていますし、自社が損をすることを前提にお客様から社債を買い取ることはできません。したがいまして、購入した社債が売れない(誰も買い取ってくれない)というリスクもあることに御留意いただく必要があります

唯一のキャッシュカウであるソフトバンクの業績が悪化したら、SBGの社債を大量に保有している個人は青ざめるだろう」と大西様は書いています。個人向け社債の保有者が「青ざめる」ような状況になった場合、証券会社が買い取りに応じない事態は十分に考えられます。「購入した社債が売れない(誰も買い取ってくれない)というリスクもある」のです。「販売した証券会社は個人の売却に即座に応じなければならない」との説明は誤りではありませんか。


<お願い>

せっかくの機会ですので、別件で要望を出しておきます。大西様はFACTA2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定しました。

現状では「経営破綻」の可能性は非常に低くなっていると思えます。17年7月号での分析に問題はなかったのか改めてFACTAで取り上げてもらえませんか。もちろん「東芝の経営破綻は近い」との見方でも構いません。仮に「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定したのは間違いだったと感じているのならば、どこで間違えたのかを振り返ってください。

間違いだったとしても「東芝は経営破綻する」と断定したことを責めるつもりはありません。思い切ってリスクを取った点をむしろ評価したいくらいです。しかし、行き着く先は「東芝の経営破綻だ」と言い切ったからには、この問題をしっかり総括してほしいのです。FACTAの編集に責任を持つ皆様にも、この件を考えていただければ幸いです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「賞味期間切れ『孫マジック』
https://facta.co.jp/article/201806002.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_22.html

2018年5月22日火曜日

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り

日本経済新聞朝刊1面でまた苦しい連載が始まった。22日の「モネータ 女神の警告~揺らぐガバナンス(1) 巨大IT、革新か暴走か カネ余りで監視なき経営者」はツッコミどころが多すぎる。初回からこれでは先が思いやられる。
宇佐神宮 八子神社(大分県宇佐市)
       ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ていこう。

【日経の記事】

マネーは、市場を活用して経済を円滑に回していくガバナンス(統治)の役割を担っている。世界でお金があり余る今、マネーのガバナンスがいたるところで揺らいでいる。

 4月末に明らかになったあるスカウト人事が、投資の世界の覇権交代を浮き彫りにした。ゴールドマン・サックスの花形トレーダーだった佐護勝紀氏だ。3年前にゆうちょ銀行副社長に転じて運用部門を率いてきたが、6月にソフトバンクグループへ移籍する。「インナーサークルに入らなければえりすぐりの投資案件の情報が回ってこない」。佐護氏は周囲に漏らした。

インナーサークルを形成するのは巨大IT(情報技術)企業だ。米アップルやソフトバンク、中国・アリババ集団などIT8社の資産は141兆円と10年前の15倍。金融危機前に投資事業で多額の利益を稼ぎ「最強の投資銀行」と呼ばれたゴールドマンを超えた

3月、米メディアは米アマゾン・ドット・コムが銀行業に進出する検討に入ったと伝えた。顧客のクレジットカードの手数料を減らすとともに、収入など個人データを収集する狙いだ。

銀行を超える力を握り始めたIT企業。カネ余りが生んだ究極の姿だが、これは他の企業にも共通する。


◎「IT8社」でインナーサークル形成?

取材班は「ゴールドマン・サックス」から「IT企業」への「覇権交代」が起きていると言いたいのだろう。それを「浮き彫りにした」のが「佐護勝紀氏」の「スカウト人事」と読み取れる。

ただ、「佐護勝紀氏」の移った先が「覇権」を握るのならば、「ゆうちょ銀行」がこの3年は「覇権」を手にしていたようにも思える。その通りなのかもしれないが、「米アップルやソフトバンク、中国・アリババ集団などIT8社」に比べると「ゆうちょ銀行」は「覇権」から遠い感じがする。

インナーサークル」の使い方も気になる。「権力中枢部の側近。組織内で実権を握る少数の人々」(デジタル大辞泉)という意味なので「米アップルやソフトバンク、中国・アリババ集団などIT8社」で「インナーサークル」を形成するとの説明は苦しい。この8社でITに関する世界のルールを実質的に決めているといった状況があれば話は別だが、ちょっと考えにくい。

覇権交代」の根拠として「IT8社の資産」が「『最強の投資銀行』と呼ばれたゴールドマンを超えた」ことを挙げているのも意味がなさそうだ。「資産」で見るのが仮に適切だとしても、1社と8社を比べ「ゴールドマンを超えた」と言われても困る。「何社も足していけば、それは超えるでしょうね」と返したくなる。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

デジタル経済の浸透で投資需要が減り、多くの企業は資金を必要としない。2009年以降、日米欧5カ国の上場企業は借金返済や自社株買いで500兆円を銀行や株主に返した。米主要500社の自社株買いと配当は今年1兆2千億ドル(130兆円)。設備投資と研究開発費(計1兆ドル)を大きく上回る見込みだ。

企業は家計の貯蓄を銀行から借りて投資し、株主や銀行が経営者を監視する役割を担ってきた。今では企業にお金が積み上がり、資金の出し手は力を失った


◎「500兆円」だけでは…

2009年以降、日米欧5カ国の上場企業は借金返済や自社株買いで500兆円を銀行や株主に返した」と言われても、それが多いのか少ないのか判断できない。まず「日米欧5カ国」のうち欧州3カ国はどこなのか明示すべきだ。
南蔵院(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係です

500兆円」も過去との比較が要る。それに「上場企業」は「借金返済や自社株買い」をする一方で、新たな借り入れや新株発行もしている。「借金返済や自社株買い」が増えていても、それ以上に新規借り入れや新株発行が増えているかもしれない。「2009年以降」で「500兆円を銀行や株主に返した」というデータだけでは「多くの企業は資金を必要としない」とは言えない。

また「今では企業にお金が積み上がり、資金の出し手は力を失った」との説明は明らかに誤りだ。例えば22日の朝刊企業2面に載った東芝の記事では、メモリー事業の売却取り止めを検討する経営陣の案が「銀行団に潰されてしまう」経緯を描いている。「資金の出し手は力を失った」のであれば、東芝に融資する「銀行団」にも力はないはずだ。

株主」に至っては当たり前に力を持っている。富士フイルムによるゼロックス買収が難航しているのも大株主の反対がきっかけだ。「資金の出し手は力が弱まっている」ぐらいならば分かるが「力を失った」と書くのは大げさと言うより間違いだ。


※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~揺らぐガバナンス(1) 巨大IT、革新か暴走か カネ余りで監視なき経営者
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180522&ng=DGKKZO30768770R20C18A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

日経の記者は本田選手の「お疲れ様です」を「無言」と判断?

報道陣の呼びかけに対して「お疲れ様です」とだけ言い残して立ち去った場合、「報道陣を前に無言を貫いた」と言えるだろうか。サッカー日本代表の合宿に関する記事で、日経は本田選手に関して「無言を貫き」と言い切っているが、どうも違うようだ。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
土石流被災家屋保存公園(長崎県島原市)
         ※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

22日の朝刊スポーツ面に載った「西野J『ベストなチームつくる』~海外組が合宿開始 30日ガーナ戦」という記事についてお尋ねします。記事では「本田は報道陣を前に無言を貫き」と説明していますが、事実に反するのではありませんか。

デイリースポーツでは「(本田は)練習後、報道陣の呼び掛けには『お疲れ様です』とひと言だけ残し、徐々に集中力を高めているようだった」と報じています。スポーツ報知も「本田圭佑はランニングを中心としたメニューを精力的にこなした。練習後は報道陣の呼びかけには応じず『お疲れさまです』と会釈して、会場を後にした」と伝えています。

2つのスポーツ紙がともに「お疲れ様です」という言葉を伝えているので、本田選手が「報道陣を前に無言」を貫いた可能性は非常に低いでしょう。御紙の記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

報道陣の呼びかけには応じず『お疲れさまです』と会釈して、会場を後にした」と「本田は報道陣を前に無言を貫き」では、本田選手に関する印象が全く変わってきます。もちろん後者の方が印象は悪くなります。そうした点にも十分に配慮した報道をお願いします。

また、御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

付け加えると「初日からのメンバーもシーズンの疲労を抱えて一息入れている状態だ。香川(ドルトムント)は故障が癒えたばかり」との説明も引っかかりました。

香川選手は12日のドルトムントでのシーズン最終戦で後半30分から出場しましたが、2月10日以来のリーグ戦復帰のようです。また、本田選手はメキシコでのシーズン最終戦が4月28日で、今月初めには日本に戻っています。こうした選手も「疲労を抱えて一息入れている状態」なのでしょうか。ちょっと考えにくい気がします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「西野J『ベストなチームつくる』~海外組が合宿開始 30日ガーナ戦
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180522&ng=DGKKZO30789810R20C18A5UU8000


※記事の評価はD(問題あり)

2018年5月21日月曜日

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」

具体的な政策提言が苦手な書き手--。日経の原田亮介論説委員長に関してはそう判断して間違いなさそうだ。21日の朝刊オピニオン面に載った「核心~誰が将来世代を代弁? 負担分かち合う説得を」という記事を読んで、改めてそう感じた。若手記者ならともかく、論説委員長が財政再建に関して具体的な主張を展開できないとは…。
諫早湾干拓堤防道路 ※写真と本文は無関係です

記事の終りの方を見ていこう。

【日経の記事】  

19年10月に予定する消費税率の10%への引き上げについて、自民党の若手議員らの勉強会は先送りを提言した。一方、同じ自民党の「財政再建に関する特命委員会」の小委員会は正反対だ。増税に加え後期高齢者の医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げることも提案している。

かつて「為政者たるもの財政家でなければならない」との信念を貫いた政治家がいた。79年の総選挙で一般消費税の導入を掲げ、翌年の総選挙の運動期間中に急逝した大平正芳元首相だ。

自民党の額賀派を引き継ぎ竹下派への大政奉還を実現した竹下亘総務会長には、大平氏に関する思い出がある。竹下登元首相が79年の蔵相就任時、当時の大平首相から説かれた言葉を口癖のようにまねしていたという。

「竹下(登)は、大平氏の口調のアーウーを交えて話すんですよ。大平氏にとって、蔵相時代に初めて赤字国債を出したのは、生涯の痛恨事だったと。だから財政再建も必然なんだと」。消費税関連法が成立したのは88年12月、大平元首相の遺志を継いだ竹下内閣でのことだった。

自民党総裁選は9月にも行われる。やみくもに緊縮財政を進めるべきだというのではない。経済環境が異なる大平政権の政策と現在を比べるのも、的外れだろう

ただ、子どもや孫の世代に借金を先送りすることで高齢者の暮らしが成り立っているのが事実だ。ならば、やはり未来の視点がほしい。国民に率直に「いま負担を分かち合おう」と説く将来世代の代弁者が出てきてしかるべきではないか


◎原田論説委員長の具体案は?

まず、昔話が長すぎる。「経済環境が異なる大平政権の政策と現在を比べるのも、的外れ」だとしたら、長々と昔を振り返る意義は乏しい。

原田論説委員長は「子どもや孫の世代に借金を先送りすることで高齢者の暮らしが成り立っている」現状を変えるべきだと考えているはずだ。ならば、昔話を削って具体論を語ってほしかった。「やみくもに緊縮財政を進めるべきだというのではない」のならば、どの程度の「緊縮財政」が望ましいのか。

そこは論じないまま「国民に率直に『いま負担を分かち合おう』と説く将来世代の代弁者が出てきてしかるべきではないか」と訴えて記事は終わる。こんな主張しかできないのならば、論説委員長のポストは誰かに譲った方がいい。

『いま負担を分かち合おう』と説く将来世代の代弁者」が登場して、次期政権を担うとしよう。その人物が「消費税率は来年から100%に引き上げます。防衛費は今の10分の1に減らし、年金支給開始年齢は100歳にします。国民のみなさん、負担を今分かち合いましょう」と提案したら、原田論説委員長は賛成できるのか。

「『やみくもに緊縮財政を進めるべきだというのではない』と記事でも書いている」と原田論説委員長は言うかもしれない。だからこそ具体論が大事だ。

将来世代の代弁者」が出てくれば問題が解決するわけではない。どの程度の財政再建が実現すれば「子どもや孫の世代に借金を先送りすること」にならないのか。そのために消費税率はどうすべきか。「未来の視点」で政策提言するとどうなるのかを原田論説委員長自身がまず示すべきだ。

最後に言葉の使い方で1つ注文を付けたい。記事には「吉岡さんは『ともすれば自分中心に物事を考えてしまうが、子孫を思いやれば、今だけよいというのは間違いだと思う』と話す」とのくだりがある。この中の「今だけよいというのは」が不自然だ。「今だけよければいいというのは間違いだと思う」とすれば違和感はない。


※今回取り上げた記事「核心~誰が将来世代を代弁? 負担分かち合う説得を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180521&ng=DGKKZO30694980Y8A510C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDで確定とする。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。今回の記事と同じような問題が見られる。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

東洋経済「近藤誠理論の功罪」に感じる鳥集徹氏の罪

週刊東洋経済5月26日の特集「医療費のムダ」の中にジャーナリストの鳥集徹氏が書いた「『近藤誠理論』の功罪」という記事が出てくる。「近藤医師の主張に対して、医療界は認めるべきところは認めるべきだろう」といった近藤医師寄りの記述が多めだが、「功罪」の「」に関する説明には問題を感じた。人の主張を否定するならば、きちんと根拠を示すべきだ。それができていない。
田主丸駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事の前半を見てみよう。

【東洋経済の記事】

「ぼくは日本のがん診療界はかつての非科学的な態度や診療を大反省すべきだと思う。総括もすべきだと思う。そして近藤氏に当時の非礼と不見識を謝罪すべきだと思う。少なくとも当時の近藤氏の名誉を回復することなしに、ただただ人物批判、人格否定してもただのいじめではないか」

これは医療界を代表する論客の一人、神戸大学大学院医学研究科感染治療学分野教授・岩田健太郎医師が、ブログ「楽園はこちら側」に書いた一文だ。岩田医師は、近藤誠医師(元慶応義塾大学放射線科講師)のワクチン否定論などに対し、厳しい批判を向けてきた。しかし各論を批判する前に、まずは近藤医師に謝るべきだというのだ。

岩田医師は近藤医師が1990年代に展開した主張の例として、1.がんは手術すればよいとは限らない2.抗がん剤を使うとデフォルトで決めるのは間違っている3.がん検診をすれば患者に利益があると決め付けるのは間違っている4.ロジックとデータが大事、統計も大事、という4点を挙げ、「まったく『当たり前』の主張である。現在の日本では『常識』だし、当時だって世界的には普通の考え方だった」と評価する。

そして近藤医師の言説が多くの人の健康と人命をリスクにさらしているという批判は正しいが、「同じことは90年代の日本がん診療界にもあったのではないか。多くの患者が間違ったがん診療のフィロソフィーに苦しめられ、近藤氏がいなかったらもっとたくさんの人たちが不当に苦しんでいたかもしれない」と書く。筆者はこれまで複数のがん専門医や医師から同様の意見を聞いている。

80年代末に論壇に登場した近藤医師は、『患者よ、がんと闘うな』(文春文庫)をはじめ、現代医療を批判する数々の著作を世に問うてきた。近年は主張をより先鋭化させ、2012年に出版された『がん放置療法のすすめ』(文春新書)や『医者に殺されない47の心得』(アスコム)がベストセラーとなった。だが、現代医療をことごとく否定するかのような論調に、多くの医師が反発している。

筆者も近年の近藤医師の主張は無理筋が多いと感じている。だが、一方的に断罪できない気持ちもある。近藤医師が極論を展開しなければ、日本のがん医療は問題を抱えたまま変わらなかったのではないかと思うからだ。


◎どこが「極論」?

筆者も近年の近藤医師の主張は無理筋が多いと感じている」と鳥集氏は言うが、「無理筋」と言い切る理由には全く触れていない。「近藤医師の言説が多くの人の健康と人命をリスクにさらしているという批判は正しい」というのは「神戸大学大学院医学研究科感染治療学分野教授・岩田健太郎医師」の主張なのだろう。これに関しても鳥集氏は「(近藤医師への)批判は正しい」と言える根拠を示さないまま「岩田医師」の見方を紹介している。こうした姿勢こそ「大反省すべきだと思う」。
大分県立宇佐高校(宇佐市)※写真と本文は無関係です

それだけではない。「近藤医師が極論を展開しなければ、日本のがん医療は問題を抱えたまま変わらなかったのではないか」と鳥集氏は思っているようなので、「がん医療」に関する近藤医師の主張を「極論」と確信しているのだろう。これも奇妙だ。

近藤医師が1990年代に展開した主張」について「岩田医師」は「まったく『当たり前』の主張である。現在の日本では『常識』だし、当時だって世界的には普通の考え方だった」と述べている。鳥集氏も異論はなさそうだ。なのになぜ「近藤医師が極論を展開」したことになるのか。ごく「当たり前」の主張をしただけではないのか。

極論」と言うが、鳥集氏のような雑な説明が「極論」に見せている面もあるのではないか。記事には「抗がん剤もそうだ。もし近藤医師が『効かない』と言わなければ~」との記述がある。これだと近藤医師が全ての抗がん剤を否定しているように取れる。しかし、近藤医師は著書などで「抗がん剤は固形がんには効かない」と主張しているに過ぎない。

仮に「あらゆる抗がん剤に意味がないというのは極論」と言えるとしても、そもそも近藤医師はそういう主張をしていない。なのに鳥集氏の書き方だと「極論」を展開しているように見えてしまう。

記事の後半を見ていこう。

【東洋経済の記事】

たとえば近藤医師の功績の一つに「乳房温存手術」を広く知らしめたことがある。80〜90年代当時、乳がんは乳房切除術が主流で、中にはあばら骨が浮き出るつらい手術(ハルステッド手術)を受ける患者もいた。しかし欧米では意味のないことがわかり、乳房温存手術が普及し始めていた。

近藤医師は88年に「乳ガンは切らずに治る」という論文を月刊『文藝春秋』誌上に発表。それから乳房温存手術が増えていった。乳がんに限らず、当時がんは「大きく切れば切るほど治る」と信じられ、患者を痛めつける「拡大手術」が横行していた。しかし、多くの臨床試験で否定され、現在では必要最小限に切る手術が主流となった。

抗がん剤もそうだ。もし近藤医師が「効かない」と言わなければ、かつてのように過剰な投与を受け、苛烈な副作用で苦しみ抜いた揚げ句、命を縮める患者が今もたくさんいたかもしれない。また、がんの中には、転移せず、命取りにならない「がんもどき」があるという主張も、当時、学会幹部から「おでんの中にしかない」と頭ごなしに否定された。だが、今では検診関係者ですら、その存在を認めている。

これだけの先見性がありながら、当時、近藤医師は検診関係の学会に呼ばれ、集団で糾弾された。慶応では干されて、「万年講師」のまま定年を迎えた。医療界に絶望しても不思議ではない

ただ、筆者は近藤医師に何度か取材しているが、非常に頭の切れる人で、むしろ極論は「確信犯」ではないかとすら思っている。近藤医師の主張に対して、医療界は認めるべきところは認めるべきだろう。そして、過剰医療をなくすために、ほかの医師たちも近藤医師と可能な限り「共闘」してほしいと願っている。



◎結局、「罪」はどこに?

記事はこれで全てだ。しかし、近藤医師にどんな「」があるのか、具体的な話は全く出てこない。強いて言えば前述した「近藤医師の言説が多くの人の健康と人命をリスクにさらしている」と「近年の近藤医師の主張は無理筋が多い」の2点か。繰り返すが、具体的ではないし、もちろん根拠も示していない。
雲仙地獄(長崎県雲仙市)※写真と本文は無関係です

近藤医師が本当に「多くの人の健康と人命をリスクにさらしている」のならば、激しく批判されてしかるべきだ。ただし、批判を展開する上では「ロジックとデータが大事」だ。そのことを鳥集氏には改めて自覚してほしい。

ついでに言うと「慶応では干されて、『万年講師』のまま定年を迎えた。医療界に絶望しても不思議ではない」との説明も引っかかった。近藤医師が「医療界に絶望」しているような印象を与える書き方だ。

近藤医師は今も「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」で医療者としての活動を続けているようだ。「医療界に絶望」している人ならば、定年後も医療に関わろうとは思わないだろう。

筆者は近藤医師に何度か取材している」ようなので、その時に本人から「医療界に絶望」しているとでも聞いたのか。ちょっと考えにくいが…。


※今回取り上げた記事「『近藤誠理論』の功罪


※記事の評価はC(平均的)。鳥集徹氏への評価も暫定でCとする。

2018年5月20日日曜日

一部残しても「持ち合い解消」? 日経 荻野卓也記者に問う

A社はB社に12%出資し、B社はA社に5%出資していた。ところが最近になってA社が一部株式を売却しB社への出資比率を9%に落とした。B社からの5%出資はそのままだ。この場合「A社とB社は株式持ち合いを解消した」と言えるだろうか。普通は「持ち合いは続いている」と判断するはずだ。しかし、日本経済新聞の荻野卓也記者は違うようだ。20日の朝刊総合1面に載った「株持ち合い解消進む 来月の指針改定にらみ」という記事を読む限り、そう判断するしかない。

日経には以下の内容で問い合わせを送っている。
宇佐神宮 八子神社(大分県宇佐市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 荻野卓也様

20日の朝刊総合1面に載った「株持ち合い解消進む 来月の指針改定にらみ」という記事についてお尋ねします。記事に付けた「最近の主な持ち合い解消事例」という表の中に「ヤマハ」を入れ「ヤマハ発動機の株式を売却」と説明しています。しかし、ヤマハとヤマハ発動機の持ち合い関係は継続している(=解消していない)のではありませんか。

発表資料によると、ヤマハ発動機へのヤマハの出資比率は昨年12月に12.22%から9.93%に低下しましたが、出資は続いているようです。一方、ヤマハの5月1日時点での株主構成を見ると、ヤマハ発動機が5.7%を出資しています。

ヤマハは昨年12月に「持ち合い株の削減」はしたかもしれませんが、ヤマハ発動機との持ち合いを解消したとは確認できません。「最近の主な持ち合い解消事例」にヤマハを含めたのは誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

表にある「日本瓦斯(金融機関とお互いに保有株式を売却)」にも同様の問題があります。記事でも触れていますが「日本瓦斯の4月9日の適時開示」のタイトルは「持ち合い株式(政策保有株式)縮減完了のお知らせ」です。「縮減」だとすれば、持ち合い関係は解消していないはずです(一部の金融機関とは解消している可能性も残ります)。

ついでに2点ほど指摘しておきます。まず以下の記述についてです。

野村証券が集計した日本株市場の時価総額に占める『持ち合い比率』は16年度末で10.1%。17年度のデータはまだないが『投資家の売買動向から推測し、過去最低を更新した公算が大きい』(野村資本市場研究所の西山賢吾氏)

ここで言う「過去最低」とは「野村が統計を取り始めた1990年以降で最低」という意味でしょう。そこは正確に伝える必要があります。断定はできませんが、終戦直後などは10%を割っていてもおかしくありません。

次は以下の記述です。

先行したのは金融機関絡みの持ち合い解消だ。日本通運は3月30日に政策保有株の売却を発表。具体名は非公表だが、銀行株などが対象のもよう。旭化成も18年3月期に銀行株を含むとみられる約150億円の株式売却益を計上した。事業会社同士の事例もある。シナネンホールディングスは昨年12月、発行済み株式の約16%にあたる自社株式を、大株主だった伊藤忠エネクスから買い取った

先行したのは金融機関絡み」と述べた後に出した「日本通運」の事例は「3月30日」の発表です。一方、「金融機関絡み」に遅れているはずの「事業会社同士の事例」として紹介した「シナネンホールディングス」の件は時期が「昨年12月」です。全体として見れば「金融機関絡みの持ち合い解消」が先行しているのであれば、それに沿うように事例も選ぶべきです。

問い合わせは以上です。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社の一員として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「株持ち合い解消進む 来月の指針改定にらみ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180520&ng=DGKKZO30735330Z10C18A5EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。荻野卓也記者への評価は暫定Cから暫定D(問題あり)に引き下げる。

2018年5月19日土曜日

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集

週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集に関して、さらに問題点を指摘したい。今回は「図解 全国医学部の学閥支配マップ」について。2年前の特集「最新 医学部&医者」でも「学閥」の地図には問題が目立った。そこから改善はできているが、やはり色々と分かりにくかった。
島原城(長崎県島原市)※写真と本文は無関係です

ダイヤモンド編集部には以下の内容で問い合わせを送っている。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 土本匡孝様 臼井真粧美様 西田浩史様 野村聖子様

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集についてお尋ねします。今回は「Part 4 大学の最新序列 医歯薬看 徹底解剖!~だから親世代はブランドにこだわる 格上が支配する学閥社会」という記事の中の「図解 全国医学部の学閥支配マップ」を取り上げます。

学閥に関して記事では「序列上位の医学部が下位で学閥傘下にある医学部や関連病院を支配する構図になっている」と説明しています。なので、ここで言う「学閥」とは「医学部とその関連病院に関する大学グループ」との前提で話を進めます。

(1)「学閥」とは大学グループなので、単独では学閥を形成できないはずです。しかし、記事には「慈恵医大閥」「日医大閥」「熊本大閥」など単独で「学閥」を形成している例が多数出てきます。ここがよく分かりません。どう理解すればよいのでしょうか。

例えば「札幌医科大」には「札幌市内に学閥形成」との説明があります。しかし「下位で学閥傘下にある医学部」はないようです。これでどうやって「学閥」を形成するのでしょうか。単に札幌市内に自分の大学の「関連病院」があるだけの話ではありませんか。

(2)さらに分からないのが「久留米大学」です。ここも「下位で学閥傘下にある医学部」はありません。そして「久留米大閥強め」と出てきます。「久留米大学単独で学閥を形成し、そこでは久留米大閥強め」とは、どういう意味でしょうか。

(3)単独で学閥を形成している熊本大には「鹿児島南部に広げたい」との説明が付いています。こうした説明は他にも多く見られ、「学閥」が大学グループではなく地域的なものだと示唆しているようにも見えますが、ここでは問いません。仮に地域的なものだとしても「鹿児島南部」に広げるのは不可解です。熊本に近い地域に進出するのであれば「鹿児島北部」となりそうです。「鹿児島南部に広げたい」は「鹿児島北部に広げたい」の誤りではありませんか。

(4)「岩手医科大」に付けた「岩手には国立大医学部がなく、全国唯一、私立大医学部が天下!」との説明も引っかかります。今回の「学閥支配マップ」を見ると、神奈川県では私立の慶応義塾大が「天下」を取っているように見えます。横浜市立大と「横浜市内でバトル」となっていますが、地図で見る限り慶大の方が圧倒的に大きな勢力を誇っているようですし、慶大は県内の東海大や聖マリアンナ医科大を従えています。岩手に関する「全国唯一、私立大医学部が天下!」との説明は誤りではありませんか。

(5)「学閥支配マップ」で理解できなかったのが「パチン!!」の意味です。例えば北海道大と札幌医科大は「バトル」の関係にありながら、北大から札幌医科大に矢印が向いて「パチン!!」と跳ね返されています。矢印に関しては「大学の動き」のようですが、何の「動き」なのかは不明です。

一方、東北大から岩手医科大にも矢印が向いて「パチン!!」と跳ね返されていますが、こちらは「バトル」の関係ではなく、東北大から岩手医科大に「若干学閥流入」(これもよく分かりませんが…)となっており、岩手医科大に入り込んでいるようにも見えます。地図に出てくる「パチン!!」は何を表しているのでしょうか。

(6)「若干学閥流入」の矢印も理解に苦しみました。特に分からないのが東北大から三重大を経由して近畿大に届く矢印です。三重大を経由して「学閥流入」とはどう理解すればいいのでしょうか。また、この「学閥流入」だけは東北、中部、関西という離れた地域での動きとなっています。この点に関して地図上で何らかの説明は欲しいところです。

他大学経由での「学閥流入」は千葉大にも多く見られます。国際医療福祉大経由で昭和大へ、東京医科大経由で獨協医科大と日本大へ矢印が向かっています。慶大も浜松医大経由で藤田医科大へ「学閥流入」があるようです。この辺りはどう理解すればよいのでしょうか。

質問は以上です。御誌では、読者からの問い合わせを無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」

日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)が18日の朝刊オピニオン面に「Deep Insight~『怖い長期株主』得てこそ」というツッコミどころの多い記事を書いている。その中身を見ながら、具体的にツッコミを入れていきたい。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

日本の3月期決算企業の多くは来月、株主総会を迎える。議案は様々だろうが、重い「裏テーマ」が今年の企業経営者にはある。長期的な株主をどうつくるかだ。

東京証券取引所は来月、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を見直して政策保有株、つまり取引の見返りや持ち合いによる株を圧縮するよう企業に迫る。それでも保有するなら、持つ根拠を詳しく開示するよう促す。

今も企業は有価証券報告書などに個別株の保有目的を記しているが、「協力関係の維持及び発展」といったあいまいな表現だ。これでは説明責任が果たせない。

政策保有株には売り圧力がかかるだろう。企業の開示資料をもとに保有株を集計すれば、「売り推奨銘柄リスト」ができあがる。

自社の株が売り圧力にさらされたくなければ、また従来通り長期的な株主に支えられたければ、長期の純投資家に株主になってもらうしかない。今年の総会はそんなメッセージを送る場になる。



◎「長期の純投資家に株主になってもらうしかない」?

コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の見直しによって「政策保有株には売り圧力がかかる」ことを根拠に「自社の株が売り圧力にさらされたくなければ、また従来通り長期的な株主に支えられたければ、長期の純投資家に株主になってもらうしかない」と梶原氏は断定する。これは誤りだ。

政策保有株」は売却が義務付けられる訳ではない。「保有するなら、持つ根拠を詳しく開示するよう促す」だけなので、「持つ根拠を詳しく開示」すれば済む。相互に出資している相手がいれば、そこと話し合って情報開示を詳しくする方向で対応すればいい。「長期の純投資家に株主になってもらう」選択肢ももちろんあるが、それ「しかない」とは言えない。

ついでに言うと、なぜ「裏テーマ」なのかも引っかかる。「今年の総会」が「我が社の株式を長期で保有する投資家になってください」という「メッセージを送る場になる」のだとしたら、どちらかと言うと「表のテーマ」だ。「裏テーマ」だとしたら、株主に直接的な「メッセージを送る」のはダメだろう。「」に隠していた自分たちの「テーマ」がバレてしまう。

記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

企業経営の主役は、時代と共に変わってきた。戦後は「労働組合の時代」だ。人々の生活が豊かになるにつれ、労組に頼る必要は次第に薄れた。非正規労働者も増え、労組の存在感は低下した。

1970年代から80年代にかけては「経営者の時代」だった。株の持ち合いを増やした結果、経営者は物言わぬ株主に守られて自由に行動した。名経営者が生まれた半面、資金運用など本業からかけ離れた事業に頼ったり、採算度外視の投資で失敗したり、と暴走した経営者も多い。



◎「戦後」の使い方が…

戦後」の使い方がまず気になる。文脈から判断すると、梶原氏は「戦後=1945~69年」と捉えているのだろう。だが「1970年代から80年代にかけて」も今も「戦後」だと思える。
九州鉄道記念館(北九州市)※写真と本文は無関係

60年代までは「労働組合の時代」だったかどうか疑問だが、取りあえず受け入れよう。だが「非正規労働者も増え、労組の存在感は低下した」との説明は解せない。

記事の書き方だと「1970年代」までに「非正規労働者も増え、労組の存在感は低下した」と読み取れる。だが、一般的には80年代後半以降に「非正規労働者」の増加が目立ってきたとされている。「労働組合の時代」から「経営者の時代」へ変わった理由として「非正規労働者」の増加を挙げるのは苦しい気がする。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

90年代以降は「投資家の時代」だ。バブル崩壊とともに銀行が持ち合い株を手放し、外国人投資家が購入した。株主の立場で経営に注文をつけ始め、経営に緊張をもたらす良い面はあった。

だが、暗部も大きかった。短期主義だ。投資家が目先のリターンを求めるあまり、経営者は萎縮した。英系バークレイズ証券は2015年、「自己資本利益率(ROE)のパラドックス」という仮説を市場に問うた。企業が株主に利益を厚く配分した結果、投資も人件費も抑えるしかなく日本のデフレは長引いた。株主という部分最適を追うあまり、経済という全体最適を失ったとの警鐘だった。

だからこそ、政策保有株の買い手が誰になるのかは、日本経済の将来を左右する。今必要なのは、長期的に保有し、なおかつ物を言う株主に違いない。


◎「外国人投資家」は短期投資家?

記事では「短期」「長期」の境界線を示していない。なので一般的に言われる「1年以上=長期」との基準で考えてみよう。

株主の立場で経営に注文をつけ」る「外国人投資家」は「長期的に保有し、なおかつ物を言う株主」ではなかったと梶原氏は考えているようだ。これも解せない。「経営に注文をつけ」て、その後に生じる変化に頼って利益を上げようと思えば、普通は1年以上保有する「長期的な株主」になってしまう。

『モノ言う株主』が日本株買い増し 保有比率5%超、181社に」という2015年9月16日付の日経の記事では、「アクティビスト系ファンド」の1つ「米タイヨウ・ファンド」について「株式保有期間は平均3~5年と比較的長い」と記している。

仮にこうした「長期的な株主」である「アクティビスト系ファンド」が「短期主義」だとしたら、「長期的に保有し、なおかつ物を言う株主」をさらに増やしても、記事で言う「全体最適」から遠ざかってしまうはずだ。

「自分の考える『長期的』とは10年単位の話だ」などと梶原氏が考えるのならば、その点は記事中で明示すべきだ。

次に移ろう。

【日経の記事】

「資産株」と呼ぶ株式が、かつてあった。電力などの高配当株を人々は世を継いで保有し、資産の中核にした。究極の長期投資家だが、それだけだと政策保有と同じ物言わぬ株主だ。経営者の時代の教訓を忘れず、長く持っても経営規律の緩みを許さない株主こそが企業や経済全体の成長を促す

具体的にはどんな株主像だろう。私は昨年8月の本欄で、1950年に球団を創設した当時の広島カープの例を紹介した。カープは設立資金を市民に株を売り調達した。オーナー意識を高めた市民は優しいだけではなく、広島名物の厳しいヤジも放ち続けた。選手はそれでも「原爆の苦難に遭った人がなけなしのお金を出してくれているのだから」と受け止め、一投一打にこだわって強くなった。


◎カープの株主は「経営規律の緩みを許さない」?

今回の記事では、上記のくだりに最も問題を感じた。

まず「資産株」について。「資産株とは、長期の保有に耐え得る株式のことです。一般には業績が安定していて、財務内容が良好、配当利回りも高い銘柄です。短期で大きく値上がりするといった魅力には乏しい反面、値下がりの余地も比較的少ないことなどの条件を満たした銘柄です」とSMBCフレンド証券は解説している。
横浜赤レンガ倉庫(横浜市)※写真と本文は無関係

こういう株が「かつてあった」と梶原氏は書いているので、今はなくなっているとの認識なのだろう。自分もすぐに具体的な銘柄を思い付く訳ではないが、探せばいくらでもありそうな気はする。

それより気になるのは「広島カープ」だ。問題は2つある。まず「長く持っても経営規律の緩みを許さない株主」の具体例として「1950年に球団を創設した当時の広島カープ」を挙げている点だ。

オーナー意識を高めた市民は優しいだけではなく、広島名物の厳しいヤジも放ち続けた」と記事では説明している。これのどこが「経営規律の緩みを許さない」株主なのか。

球場に出かけて選手に「引っ込め下手くそ」「もう引退しろ」などと株主がヤジを飛ばすと球団運営会社の「経営規律の緩み」を防げるのか。ほとんど関係ないだろう。

2番目の問題は、市民が株を持つ仕組みはそんなにうまく機能したのかという点だ。梶原氏が「昨年8月の本欄」で取り上げた「広島東洋カープの前身である『広島野球倶楽部』」についてニコニコ大百科では以下のように記している。

設立時の借金がどうやっても返せる見込みがなかったので、東洋工業(現・マツダ)社長の松田恒次(後の初代オーナー)の発案で、1955年に当時の球団運営企業だった『広島野球倶楽部』を一旦計画倒産させ、新たな運営企業『株式会社広島カープ』を設立し、事業を継承させた

この話が大筋で合っているのならば、「経営規律の緩みを許さない株主こそが企業や経済全体の成長を促す」例として「広島野球倶楽部」を取り上げるのは間違いだろう。業績もチーム成績も振るわないまま新会社に事業主体が移り、マツダやその創業一族が主導する形となって1975年のセ・リーグ初優勝に至っているようだ。だとすると、市民株主がいたからカープが「強くなった」と考えるのは無理がある。

記事は後半にもツッコミどころがあるのだが、長くなったので終わりにしたい。梶原氏の書き手としての力量に問題があるのは分かってもらえたはずだ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『怖い長期株主』得てこそ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180518&ng=DGKKZO30643480X10C18A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

2018年5月18日金曜日

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集

週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集に関して問題点の指摘を続ける。次は「帝京大学、東海大学、近畿大学」などが「医科大学」として設立されたかどうかを検討したい。この問題でもダイヤモンド編集部へ問い合わせを送っている。内容は以下の通り。
佐世保市総合医療センター ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 土本匡孝様 臼井真粧美様 西田浩史様 野村聖子様

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集についてお尋ねします。今回も「Part 4 大学の最新序列 医歯薬看 徹底解剖!~だから親世代はブランドにこだわる 格上が支配する学閥社会」という記事を取り上げます。まず問題としたいのは以下の記述です。

その後、70年代中ごろから地域医療のための医科大学が相次いで設立された。筑波大学、滋賀医科大学、帝京大学、東海大学、近畿大学など18の医科大学が誕生している

滋賀医科大学」は分かりますが、「筑波大学、帝京大学、東海大学、近畿大学」に関して「70年代中ごろから」「医科大学が相次いで設立された」と言えるでしょうか。例えば近畿大は1949年の設立で理工学部と商学部から始まりました。医学部設置は1974年です。記事の説明が正しければ「1974年に医科大学として近畿大学設立」となるはずですが、それ以前から近畿大は存在しています。帝京大、東海大も似たような経緯です。筑波大はやや微妙ですが、「医科大学」として設立されたとは言い難いでしょう。

「医学部ができると医科大学になる」との前提があるのかとも考えましたが、一般的な認識とはかけ離れています。東大や京大には医学部がありますが「医科大学」には含めないはずです。

少なくとも「帝京大学、東海大学、近畿大学」に関して「医科大学が誕生」と説明するのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

「医科大学」の明確な定義はないかもしれない。ただ、法学部や商学部を抱える総合大学が医学部を設置した場合に「医科大学が誕生」したと考える人は稀だろう。

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D

※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html