2020年2月29日土曜日

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」

慌てて書いたのだとは思う。そこを差し引いても、29日の日本経済新聞朝刊1面に載った「日米欧、時価総額1割減~コロナ・ショック世界揺らす 日経平均、週間2000円超下落」という記事は物足りない内容だった。まず引っかかったのが以下のくだりだ。
福岡県立福岡高校(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

世界的な疫病の流行を示す「パンデミック」。米ムーディーズ・アナリティクスのチーフ・エコノミスト、マーク・ザンディ氏は「パンデミックになる可能性が40%に高まった」とみる。従来予想の25%から引き上げ、パンデミックに陥ると世界および米国経済は2020年上期に景気後退になると予想する。


◎「パンデミック」の基準は?

パンデミックになる可能性が40%に高まった」という見方を紹介しているが「パンデミック」かどうかを判定する基準に触れていない。これでは「予想」の意味がない。基準次第では既に「パンデミック」に陥ったとも言える。

言葉の使い方にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

マリオット・インターナショナルのアーン・ソレンソン最高経営責任者(CEO)は27日、「2月は中国圏のホテルの客室あたり売上高が前年同月比9割減った」と明かした。自己資本比率は3%足らずしかない。需要の落ち込みが直撃し、CDS保証料率(債務不履行に備えた保険料)は27日に0.65%と約1年ぶりの水準まで上昇した。


◎CDSは「保険」?

CDSは「保険」に似ているが「保険」ではない。なので「CDS保証料率(債務不履行に備えた保険料)」という説明は不正確だ。「CDS保証料率」と書いているのだからカッコの中も「債務不履行に備えた保証料率)」でいい。

付け加えると「マリオット・インターナショナル」にとって「中国圏」への依存度がどの程度なのかは入れたい。

記事の結論部分も問題なしとしない。

【日経の記事】

どこかで新型コロナの感染拡大が収束してくれば、経済活動も正常化に向かう。抑え込まれていた需要も合わせて戻ることを考えれば、回復力も強さを伴うだろう。ただ、封じ込めに手間取るほど、景況感悪化の足音が後ろから高まってくる、そんな局面に入っている



◎まだ「景況感悪化」に至ってない?

封じ込めに手間取るほど、景況感悪化の足音が後ろから高まってくる」と書くと、まだ「景況感悪化」には至っていないとの印象を受ける。しかし「景況感悪化」は明らかだ。

封じ込めに手間取るほど、景況感悪化に拍車がかかる」ならば違和感はない。「封じ込めに手間取るほど、世界的な景気後退の足音が後ろから高まってくる」などとする手もある。

最後に記事に付けたグラフの問題点も指摘しておく。「中国との関係の深い国・地域で株価下落が目立つ」とのタイトルが付いており、下落率は大きい方からタイ、インドネシア、ロシア、ベトナム、ブラジル、香港、米国、韓国、日本、中国、イタリア、ドイツとなっている。

タイトル通りならば下落率の1位と2位は中国と香港になるのが自然だ。しかし、中国に至っては下から3番目。香港もこの中では中位でブラジルより下だ。「中国との関係の深い国・地域で株価下落が目立つ」との説明に説得力はない。


※今回取り上げた記事「日米欧、時価総額1割減~コロナ・ショック世界揺らす 日経平均、週間2000円超下落
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200229&ng=DGKKZO56210200Y0A220C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員と富田美緒記者への評価はDを据え置く。長谷川雄大記者への評価は暫定でDとする。


※富田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_13.html


※藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

2020年2月28日金曜日

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」

28日の日本経済新聞朝刊企業2面に中村直文編集委員が書いた「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ 訪日客に世界観アピール」という記事は拙さの目立つ内容だった。まず最初の段落を見ていく。
シップスガーデン(福岡市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

若い女性や乳幼児を育てているお母さんで、知らない人はいないバッグブランドの「アネロ」。1個当たり5千円前後のカジュアルバッグで、専門店やイオンなどのショッピングセンターを舞台に6年前に大ブームが起きた。



◎「若い女性や乳幼児を育てているお母さん」?

若い女性や乳幼児を育てているお母さん」と書くと「お母さん」が「若い女性」を「育てている」ように見える。「若い女性や、乳幼児を育てているお母さん」と読点は打ってほしい。ただ、今回の場合は「乳幼児を育てているお母さん」の多くも「若い女性」だという問題はある。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

そのアネロが2019年末に突然、東京・原宿の一等地に専門店をオープンした。衣料品で言えば「ユニクロ」、眼鏡で言えば「ジンズ」のような存在だが、なぜ進出したのか。そこには消費やマーケティングを考える材料があった。



◎「突然」の「オープン」のはずが…

アネロが2019年末に突然、東京・原宿の一等地に専門店をオープンした」と中村編集委員は言う。開業当日まで出店に関する情報を一切出してこなかったのならば「突然」と表現するのも分かる。しかし「アネロ」の「運営会社のキャロットカンパニー」は昨年11月8日のニュースリリースで、同年12月12日に原宿に店を出すことを明らかにしている。

発表から開店までに1カ月以上あるのに「突然」の「オープン」なのか。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

アネロを知らない方のために商品やブームについて説明しよう。運営会社のキャロットカンパニー(大阪市)は吉田剛社長が1988年に創業した雑貨卸。当初はノーブランドのペンケースやバッグを販売していたが、05年に独自ブランド「アネロ」を立ち上げた。

知名度が飛躍的に上がったのは14年。女性用ポーチを作っていた担当者が「がま口をリュックサックに採用したら面白いのではないか」と提案。商品化してみると、見たことがないリュックができあがった。

吉田社長も「売れるのかどうか半信半疑」だったが売り出すと想定以上に大ヒットした。通常こうしたカジュアル系のバッグは数百単位でしか作らないのが業界の常識だが、キャロットは量産コストを考え、売れると1万、2万と作り上げるノウハウを持つ。

このためSNSで「使いやすい、かわいいバッグが登場した」と拡散しても生産対応が可能で、一気にブーム化した。そもそも10代から20代初めのファンシーグッズとして売る予定が、収納性に優れていることから乳幼児をお子さんに持つママ世代から絶大な支持を受けたという。


◎実績見せずに「大ヒット」と言われても…

想定以上に大ヒットした」「一気にブーム化」というものの、どの程度の売り上げを実現したのかは触れていない。これだと本当に「大ヒットした」したのか疑いたくなる。しかも「知名度が飛躍的に上がったのは14年」らしい。「一気にブーム化」したのだから現状ではかなり落ち着いているはずだ。だが、その辺りの情報も記事には見当たらない。

続きを見ていく。

【日経の記事】

さて原宿進出の話に時を戻そう。実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になったことだ。とりわけタイやフィリピンなど東南アジアで引き合いが強く、すでに200店近くで販売している。



◎何か違和感が…

さて原宿進出の話に時を戻そう。実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になったことだ」のくだりに違和感を覚える。文がきちんとつながっていない感じがする。「実はアネロ、国内向けに販売していたが、近年はインバウンド客が増え、アジアの人気商品になっている」などと直せば問題は感じない。

なったことだ」が何かを受けているようで何も受けていないのが違和感の原因だろう。

さらに見ていく。

【日経の記事】

同社はこれまでも大阪・梅田と心斎橋に店を構えてきた。原宿を東京のショールームとして位置づけ、さらにインバウンド客にアピールできる今年は新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は厳しいだろう。だが、この流れは長期的には続く。SNSの普及も重なり、国内企業でもグローバル市場を開拓できる事例といえる。

もう一つの理由は人気ゆえの"副作用"の払拭。アネロはリュックで人気を博したが、それ以外の品ぞろえも多い。強すぎるブランドはイメージが固定化されやすい。このため原宿で品ぞろえの広さや世界観を訴える


◎「この流れは長期的には続く」?

今年は新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は厳しいだろう。だが、この流れは長期的には続く」と書いてはダメだ。これだと「インバウンド需要は厳しい」という「流れ」が「長期的」に「続く」ことになってしまう。

この流れ(インバウンド需要が厳しい傾向)は長期的には続かない」としないと文脈的には辻褄が合わなくなる。「この流れ=インバウンド需要が伸びる流れ」との前提が中村編集委員にはあるのだろう。だが、それに合った記事の構成になっていない。

さらに言えば「これまでも大阪・梅田と心斎橋に店を構えてきた」のに、なぜ今「原宿進出」を取り上げるのかとの疑問も生じる。

梅田と心斎橋」の店も「ショールーム」として「インバウンド客にアピールできる」はずだ。「品ぞろえの広さや世界観を訴える」ことは「梅田と心斎橋」の店でもやっていると思える。

原宿進出」が「消費やマーケティングを考える材料」になると言うのならば、「原宿」にはあって「梅田と心斎橋」にはない要素が何かを読者に提示すべきだ。

ここから最後まで見ていく。

【日経の記事】

そして価格面。同社の製品は4千~5千円が中心。7千円ぐらいのユニセックスバッグは1万円台でも売れそうに見えるが、「アネロの相場は数千円。1万円の壁が高い」(吉田社長)。

ユニクロも1万円台を売るのに時間がかかった。舞台は原宿。ブランドのバージョンアップへ、「アネロ」行きます。


◎だったら事前に振らないと…

結びの「『アネロ』行きます」が引っかかる。断定はできないが、機動戦士ガンダムの「アムロ行きます」という有名なセリフに引っかけたものだろう。

その場合、記事の最初の方でガンダムに絡めた話を盛り込んでおくべきだ。その上で「『アネロ』行きます」と締めるのならば分かる。しかし、そうはなっていない。ガンダムについて知らない読者には、なぜこんな結びになっているのか全く伝わらない。


お遊び的な結びを否定はしないが、今回は明らかにダメな使い方だ。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ 訪日客に世界観アピール
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200228&ng=DGKKZO56002930V20C20A2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

2020年2月27日木曜日

「縮小」の規模が見えない日経「パナソニック、太陽電池事業縮小へ」

27日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パナソニック、太陽電池事業縮小へ~テスラと協業解消」という記事は肝心なところに触れていない。「パナソニックは太陽電池事業を縮小する」と冒頭で打ち出したのだから、どの程度の「縮小」になるかは必ず入れたい。しかし、関連記事まで含めて読んでも見当たらない。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

パナソニックは太陽電池事業を縮小する。赤字だった米テスラとの共同生産を停止すると26日発表した。パナソニックは段階的に国内外の関連工場の閉鎖や売却を進めている。続投する津賀一宏社長は電気自動車(EV)の電池生産を軸としたテスラとの提携を成長戦略の中核に位置づけるが、協力事業の見極めを迫られている。急成長する新興企業と組み果実を得る難しさを象徴する。

パナソニックはテスラが米ニューヨーク州バッファロー市に設けた工場で、太陽光パネルの中核部材である太陽電池を生産してきた。本来はテスラの主力の太陽光パネル「ソーラールーフ」に使われるはずだったが、仕様が合わず納入は限られた。今後も好転は見込めないと判断し、5月に生産を停止し9月末に撤退する。今後、設備を廃棄すれば損失が発生する。

両社は16年に太陽光発電の分野で提携を発表し、パナソニックは17年から米工場で太陽電池や太陽光パネルの生産を始めた。約3年で事業を終えることになる。

車載電池工場の共同運営は続ける。両社は14年、米ネバダ州に車載電池工場を設けることで合意。パナソニックは約2000億円を投じた。電池はテスラが18年に出荷を本格化した主力EV「モデル3」向けだが、量産立ち上げにコストが膨らみ黒字化が遅れている。パナソニックは大阪府の工場で別車種用の電池も生産しテスラ向け車載電池事業は全体で赤字だ。



◎「事業規模」をなぜ見せない?

パナソニック」の「太陽電池事業」がどの程度の規模なのか、それが「米テスラとの共同生産を停止」でどのくらい減るのか、全く情報がない。「バッファロー市に設けた工場」の規模も不明だ。これだと「米テスラとの共同生産を停止する」ことが「パナソニック」の経営にどの程度のインパクトをもたらすのかイメージできない。

企業2面には関連記事も載せているのだから「行数が足りない」との言い訳は成り立たない。「パナソニック」が情報を公開していないと言うのならば、その点は読者に明示すべきだ。

電気自動車(EV)の電池生産を軸としたテスラとの提携を成長戦略の中核に位置づけるが、協力事業の見極めを迫られている」と書いているのに「車載電池工場の共同運営は続ける」としか説明していないのも引っかかる。

協力事業の見極めを迫られている」のであれば「車載電池工場の共同運営」も見直しの対象となっている可能性が高い。当面は「共同運営は続ける」のだとしても、その持続性に記者自身が疑問を持っているのではないか。だとしたら、そこはもう少し踏み込んで書いてほしかった。


※今回取り上げた記事「パナソニック、太陽電池事業縮小へ~テスラと協業解消
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200227&ng=DGKKZO56101580W0A220C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年2月26日水曜日

完成度が低すぎる日経 増田咲紀記者「東エレク、株価に底堅さ」

日本経済新聞朝刊 投資情報面のトップ記事をニュースで作らないのは好ましい。無理な業績先取りをしないためにも、分析記事で紙面を埋めるのに賛成だ。しかし26日の「東エレク、株価に底堅さ~5G半導体大きい潜在性 市況の回復時期探る」という記事は完成度が低すぎる。筆者の増田咲紀記者の実力不足ももちろんあるだろうが、証券部デスクの責任も重い。
九州大学病院(福岡市)※写真と本文は無関係です

最初の段落から見ていこう。

【日経の記事】

半導体銘柄の代表格、東京エレクトロンの業績を巡り、株式市場では回復期待が根強い。新型コロナウイルスによる~肺炎が拡大している影響が及びはするものの、次世代通信規格「5G」など向けに半導体の需要が徐々に戻ってくるとの見立てだ。実際、東エレク株は25日、相場全体の下げにつれ安したところで押し目買いが入り、チャートは始値より終値が高い「陽線」を描いた



◎1日だけの「底堅さ」?

東エレク、株価に底堅さ」と打ち出しているが、「底堅さ」が見られたのは「25日」だけのようだ。例えば「2月に入って半導体関連銘柄は軒並み20%以上の下げとなっているのに、東エレクだけは3%程度しか下がっていない」などと書いてあれば「底堅さ」を実感できるのだが、1日限定の話だと「たまたまでは?」と思ってしまう。

しかも「25日」の日経平均株価は1000円以上の下落となった後で下げ渋り781円安で終えている。「東エレク」も似たような動きだ。「相場全体の下げにつれ安したところで押し目買いが入り、チャートは始値より終値が高い『陽線』を描いた」としても驚くには当たらない。なのになぜ「東エレク、株価に底堅さ」でトップの記事を作ろうとしたのか。

付け加えると「半導体銘柄の代表格、東京エレクトロン」と冒頭で書いているものの、半導体製造装置メーカーだとは最後まで説明していない。これだと「東エレク」をよく知らない読者は半導体メーカーだと誤解してしまう。この辺りにも作り手の実力不足が垣間見える。

記事の続きを見ていこう。第2段落から「東エレク」に関する分析が始まるかと思ったら、なぜか「半導体業界」の話が延々と続く。

【日経の記事】

新型肺炎の影響は半導体業界にも広がり始めている。中国の一部の半導体工場は従業員や部品の確保が難しく、稼働率が低迷しているもよう。中国では店舗閉鎖などで消費も冷え込み、20年に本格化すると見込まれていた5Gスマートフォンの立ち上げが遅れつつある。米アップルは1~3月期の売上高が予想を達成できないと発表した。

ここから先を市場関係者はどう見ているのだろうか。複数の証券アナリストに聞き取ったところ、「(半導体市況は)回復期が終わり繁忙期に入った」(野村証券の和田木哲哉氏)など楽観的な声が目立った。2020年の半導体市場は19年(4089億ドル=45兆円強)比で2~10%成長するとの見方が多い。

スマホの販売不振などを受け、世界の半導体メーカーは18年以降投資を抑制し、半導体販売もマイナス成長が続いた。とはいえ、20年以降、どこかのタイミングで半導体メーカーは投資の拡大に動く必要がある。市況反転のタイミングは肺炎の影響で後ずれを余儀なくされているが、「2~3月は緩やかな伸びとなるだろう」(大和証券投資信託委託の岩手幸久エコノミスト)との声があった。

慎重論も残る。肺炎の影響が長期化し、サプライチェーンの混乱が夏ごろまで続く場合、20年の半導体市場は前年比で小幅のマイナスからプラス6%増になると予想する。スマホ工場などの稼働が低迷した状態が続き、半導体市場の逆風になるとの見方だ。ただ、慎重派のアナリストも5Gなどに絡んで半導体需要がいずれ拡大するとみており、「回復はタイミングの問題」との声が多く聞かれた。

半導体関連企業は肺炎問題が収束した後の需要増を見越してさまざまな手を打ち始めている。半導体製造装置のディスコは投資家向け広報(IR)も含めた間接部門の社員が工場へ応援に向かい、在庫を積み増している。

韓国サムスン電子は西安工場(陝西省西安市)で予定通り設備を増強するため、「韓国から人員を送り込んだり、現地での人材集めに力を入れたりしている」との観測がある。東エレクは中国の混乱が長引けば、中国に依存する一部の部品の調達先を切り替えるという。



◎「東エレク」はどこへ?

半導体市場全体の分析から「ディスコ」や「サムスン電子」へと話が移っていくが、「東エレク」は登場しない。残りは最終段落だけだ。増田記者はきちんと分析できているだろうか。

【日経の記事】

先行きには不透明さが残るものの、東エレクなどの業績は「肺炎の問題が収束すれば顧客からの引き合いが高まり、挽回していくだろう」(国内証券)といった声が市場では根強い。この日、朝方に一時5%安まで売られた東エレク株はその後、大きく下げ渋って2%安で取引を終えた。



◎これだけ?

東エレクなどの業績は『肺炎の問題が収束すれば顧客からの引き合いが高まり、挽回していくだろう』(国内証券)といった声が市場では根強い」と書いて、後は「25日」の株価をなぞって終わりだ。

東エレクなどの業績」なので「東エレク」に絞った分析は結局ない。だったらなぜ「半導体銘柄の代表格、東京エレクトロンの業績を巡り、株式市場では回復期待が根強い」と冒頭で打ち出したのか。

半導体銘柄」の中でも特に「回復期待が根強い」からトップ記事にしたのではないか。「東エレク」固有の強みがあるから「回復期待が根強い」のではないか。

何のために「東エレク」に焦点を当てるのか。そこを意識せずに取材して記事をまとめているので、こんな内容になってしまう。増田記者と担当デスクは「なぜこんな完成度になってしまったのか」をしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた記事「東エレク、株価に底堅さ~5G半導体大きい潜在性 市況の回復時期探る
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200226&ng=DGKKZO56048920V20C20A2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。増田咲紀記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。増田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「GAFAがデータ独占」と誤解するのは日経グループの癖?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/gafa.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

2020年2月24日月曜日

FACTAで「マスコミの全ては全く無反応」と断じた細野祐二氏に問う

会計評論家の細野祐二氏は基本的に優れた書き手だと思う。会計に関する専門知識はもちろんあるし、健全な批判精神の持ち主でもある。FACTA3月号に載った「『人質司法問題』を闇に葬るな」という記事もためになる内容だった。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

ただ、「予定主張記載書面の内容を報道した日本のメディアは1社もなかった」「10月17日、ゴーン元会長は、満を持して予定主張記載書面を提出したが、裁判所、検察官、マスコミの全ては全く無反応であった」との説明はおそらく間違いだ。FACTAには以下の内容で問い合わせを送っている。


【FACTAへの問い合わせ】

会計評論家 細野祐二様  FACTA発行人 宮嶋巌様  編集人 宮﨑知己様

FACTA3月号の「『人質司法問題』を闇に葬るな」という記事についてお尋ねします。記事では「ゴーン元会長も、少なくとも2019年10月までは、日本の裁判制度の下で無罪判決を受けようとしていたのである。この間、日産ゴーン事件の動きは、同年10月17日の予定主張記載書面の提出以外にはない」と記した上で以下のように説明しています。

これだけ強烈な法廷内特捜検察批判は、日本の刑事司法史上空前絶後のことである。それにもかかわらず、あろうことか、予定主張記載書面の内容を報道した日本のメディアは1社もなかったのである。ゴーン元会長は、地の底が抜けていくような絶望感に襲われたことであろう

この「予定主張記載書面の内容を報道した日本のメディアは1社もなかった」との説明は正しいのでしょうか。2019年10月25日付の「ゴーン前会長側、全面対決へ~『違法な司法取引』公訴棄却求める」という東京新聞の記事によると「ゴーン被告の弁護団は24日、公判で主張する内容をまとめた書面を公表」したそうです。

東京新聞は「書面」の内容にも触れており、「書面で『違法』だと強調したのは捜査の端緒だ。ルノーとの統合阻止をもくろんだ日産の日本人役員らが、東京地検特捜部に相談し、ゴーン被告の『不正』を探ったとした」「特捜部が外国人執行役員と日本人の元秘書室長と合意した司法取引は、二人の意思ではなく『日本人役員らの意向によるものだった』と批判。『ゴーン氏を失脚させる目的でなされた司法取引で、法の趣旨に反して違法』と指摘した」などと、なかり詳しく「書面」の「内容を報道」しています。

東京新聞の言う「書面」は細野様の言う「予定主張記載書面」なのではありませんか。「予定主張記載書面の内容を報道した日本のメディアは1社もなかったのである」との説明は誤りだと考えて良いのでしょうか。

細野様は記事中で「10月17日、ゴーン元会長は、満を持して予定主張記載書面を提出したが、裁判所、検察官、マスコミの全ては全く無反応であった」とも書いています。既に述べたように、少なくとも東京新聞は反応しています。「ゴーン被告の弁護団」が開いた会見については他のメディアも記事にしています。「マスコミの全ては全く無反応」と見なすのはかなり困難でしょう。

10月17日」の「提出」直後には「マスコミの全ては全く無反応」だったと言いたいのかとも考えてみました。しかし当日付で神戸新聞は「ゴーン前会長、全面無罪を主張 弁護団が東京地裁に書面提出」という記事を出しています。記事によると「弁護団」はこの段階で「書面」の「詳しい内容は明らかにしていない」ようです。それでも神戸新聞は「東京地裁に書面提出」という事実をしっかり伝えています。

マスコミの全ては全く無反応」という説明は明らかに違うのではありませんか。「予定主張記載書面の内容を報道した日本のメディアは1社もなかったのである」という記述も含めて記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「『人質司法問題』を闇に葬るな
https://facta.co.jp/article/202003024.html


※記事の評価はD(問題あり)。細野祐二氏への評価も暫定でDとする。

2020年2月23日日曜日

脱24時間コンビニ「大都市郊外に集中」が苦しい日経の記事

23日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「チャートは語る~脱24時間コンビニ 400店超大手3社、人手不足の大都市郊外に集中」という記事は「大都市郊外に集中」という分析に説得力を感じなかった。記事の最初の方を見ていこう。
水鏡神社(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

コンビニエンスストア業界で営業時間を短縮する動きがじわりと広がっている。2019年10月から20年2月までの4カ月間で大手3チェーンの400店超が24時間営業をやめたことが日本経済新聞の調査で分かった。その半数超の約220店が大都市郊外に集中。商圏は恵まれていても人手不足で24時間営業を維持できない店舗が出てきている。人口減時代の事業モデルへ転換が急がれる。

セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの3チェーンの本部による時短営業方針が出そろう直前の19年10月と今年2月上旬のデータを比べ、独自に分析した。3チェーンでは19年10月以前から時短営業をしていた店があり、2月上旬時点で公表ベースで合計800店が時短営業や時短の実験中だ。店舗名や住所などは公表していない。

調査によると、19年10月に24時間営業だった店舗のうち414店が2月時点で夜間休業に切り替えた。セブンイレブンが280店と最多で、ローソンが100店、ファミマが34店だった。3チェーンの店舗数は5万店余り。4カ月で全体の1%弱が営業時間を変えた。

これらの店舗の58%にあたる239店が札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の6大都市圏に立地。そのうち218店が都心部の外にある郊外地区に集中する


◎地域内での「シェア」で見ないと…

夜間休業に切り替えた」店が「414店」あり、例えばそのうちの400店が「大都市郊外」に立地しているのならば「大都市郊外に集中」で納得できる。しかし約半分の「218店」に過ぎないのならば「大都市郊外に集中」と言うには苦しい。

さらに引っかかるのが「脱24時間コンビニ」の「シェア」で考えていないことだ。例えば「大都市郊外」では店舗数に占める「脱24時間」の比率が5%に達するのならば、「3チェーン」合計の全国の数値である「1%弱」を大きく上回るので、「218店」が全体の「半数超」程度でも「大都市郊外に集中」でいいかなとは思う。しかし、そうしたデータは記事には見当たらない。

3チェーン」は「大都市郊外」に店舗全体の「半数」(約2万5000店)を立地させていると仮定しよう。その場合「脱24時間」店舗の「半数超」に当たる「218店」が「大都市郊外」にあるからと言って「大都市郊外に集中」と感じるだろうか。

記事には「東京都内で複数店舗を経営するフランチャイズ加盟企業の幹部は『留学生が多い都心と異なり、郊外での人手確保は容易ではない』と話す」との記述もある。ただ、「都心」と「郊外」で「脱24時間コンビニ」の店舗数だけを比べても意味がない。

元々の店舗数は「都心」の方が圧倒的に少ないはずなので「脱24時間」の店舗数は「郊外」を大きく下回るはずだ。だからと言って「都心」の店は「脱24時間」に消極的といった結論は導けない。

やはり「脱24時間」に踏み切った店の「シェア」で見る必要がある。しかし「3チェーンの店舗数は5万店余り。4カ月で全体の1%弱が営業時間を変えた」と全体の数値に触れているだけで「大都市郊外」「都心」などでそれぞれどうなっているのかは教えてくれない。

数値は持っているのだろう。憶測だが、「大都市郊外」「都心」「それ以外の地域」で分けても「脱24時間」の比率に目立った差が出なかったのではないか。だとしたら「大都市郊外に集中」と打ち出すのは、さらに苦しい。

ついでにもう1つ注文を付けたい。

記事に付けた「全国でみても大都市圏に集中」という円グラフでは東京都、大阪府、神奈川県、北海道、愛知県、広島県、埼玉県の7都道府県と「その他」という分け方をしている。しかし「これらの店舗の58%にあたる239店が札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の6大都市圏に立地」と書くのならば、福岡県を「その他」に分類するのは整合性の問題がある。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~脱24時間コンビニ 400店超大手3社、人手不足の大都市郊外に集中
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200223&ng=DGKKZO55984750S0A220C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。朝田賢治記者、藤村広平記者への評価も暫定でDとする。黄田和宏記者への評価はDを据え置く。

2020年2月22日土曜日

高コストの中小型株投信へ読者を誘導する日経 川上純平記者の罪

日本経済新聞の川上純平記者は金融業界に取り込まれてしまったのだろう。22日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「中小型株投資 プロに学ぶ~成長余地 3つの視点」という記事からは、そう判断できる。途中までは毒にも薬にもならない内容なのだが、終盤で筋の悪い投資信託へと読者を導こうとしてくる。
九州大学病院(福岡市)※写真と本文は無関係です

そこを見ていこう。

【日経の記事】

投資の基本はリスク分散なので、いくら有望だと考えても特定銘柄へ集中投資は避けよう。少ない元手資金で複数の銘柄に分散したければ、中小型株を組み入れて運用する投信を活用するのも手だ(表C)

組み入れ銘柄や運用方針を定期的に開示しているのでプロの投資法を探るヒントにもなる。エンジェルジャパンが銘柄選びを助言する「SBI中小型成長株ファンド ジェイネクスト」などは過去5年間のリターンが比較的高い。好成績が将来も続くかどうかはわからないが、投信選びでは一定の運用実績を残していることを事前に確認したい



◎問題外では?

結局「少ない元手資金」しかない投資家を「中小型株を組み入れて運用する投信」に誘い込んでいる。そして「『SBI中小型成長株ファンド ジェイネクスト』などは過去5年間のリターンが比較的高い」と具体的な商品名まで挙げてみせる。

ここでは「SBI中小型成長株ファンド ジェイネクスト」について考えてみよう。この投信は購入時手数料が上限3.3%(税込み)。ノーロードの投信も珍しくないのに最初から3%強を引かれた状態で投資を始める合理的な理由はあるのか。アクティブ型なので信託報酬も年1.65%(同)と高い。迷わず選択肢から外すべき商品だ。

中小型株投資」をしたいという投資初心者がいて「分散はどうすべきだと思うか。投信を活用すべきか」と聞かれたら「分散は大事だが、投信はお薦めしない。コストが高過ぎる」と答える。どの程度の資金を運用するかにもよるが、5銘柄ぐらいへの分散ができていれば良しとしたい。

もちろん分散は十分ではないだろう。ただ、金融業界に無駄な手数料を取られるぐらいならば、分散は「ある程度」でいい。分散効果を高めたいならば、投資額を積み上げていく段階で徐々に銘柄を増やしていくべきだ。

「記事では『過去5年間のリターンが比較的高い』投信を紹介しているので、手数料が高くても十分に費用を吸収できている」と川上記者は反論するかもしれない。「過去5年間」はそうだろう。しかし「好成績が将来も続くかどうかはわからない」はずだ。「過去5年間」に好成績だった投信ほど未来の「5年間」も優れたパフォーマンスを示す確率が高い訳でもない。ならば、リターン確保のためにまず重要なのは費用を抑えることだ。

投信選びでは一定の運用実績を残していることを事前に確認したい」と川上記者は言うが、この「確認」は省いてもいい。絶対に「確認」すべきなのは手数料などの費用だ。

しかし、その重要性に川上記者は触れていない。「表C」で紹介した5本の投信も「5年リターン」は見せているが、信託報酬や購入時手数料は示していない。あえてこうしたのならば金融業界の回し者だ。「コストについては考えていないかった」と言う場合、投資関連の記事を書くにはまだ実力不足だ。


※今回取り上げた記事「中小型株投資 プロに学ぶ~成長余地 3つの視点
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200222&ng=DGKKZO55914280R20C20A2PPE000


※記事の評価はD(問題あり)。川上純平記者への評価も暫定でDとする。

2020年2月21日金曜日

「現金流出による」を削った理由は? 日経 堤健太郎・桜井豪記者に問う

真相深層~前田道路、資産削減の奇策 配当6倍 前田建設TOBに対抗」という日本経済新聞の記事で引っかかるくだりがあった。「サンディスクが東芝へ生産設備の一部を売却。結果、サムスン側は買収を断念した」という件を引き合いに出して「前田道路は配当だが、現金流出による資産縮小という点は同じだ」と解説している。しかし「生産設備の一部を売却」ならば「現金」が入ってくる。「現金流出」の逆だ。
一蘭 本社総本店(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

そして最終版では「現金流出による」という文言が消えていた。この件では筆者らに以下の内容で問い合わせを送っている。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 堤健太郎様 桜井豪様

21日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~前田道路、資産削減の奇策 配当6倍 前田建設TOBに対抗」という記事についてお尋ねします。「前田道路」が決めた今回の対抗策を「価値ある資産を流出させる『クラウンジュエル』に似ている」とした上で12版の記事では以下のように解説しています。

07年には韓国サムスン電子が米半導体大手サンディスクへの買収を画策した際に使われた。サンディスクが東芝へ生産設備の一部を売却。結果、サムスン側は買収を断念した。前田道路は配当だが、現金流出による資産縮小という点は同じだ

サンディスクが東芝へ生産設備の一部を売却」したのならば「サンディスク」にとっては「現金流出による資産縮小」とはなりません。逆に「売却」によって「現金」が入ってきます。「現金流出による資産縮小という点は同じだ」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ちなみに、最終版では「現金流出による」との文言がなくなっています。誰かが誤りに気付いたのでしょう。

ただ「現金流出による」を削れば済むとは思えません。「生産設備の一部」を売却すれば「生産設備」の「資産」は「縮小」しますが、一方で現金が入ってきます。現金ももちろん「資産」です。なので単純に「資産縮小という点は同じだ」とは言えません。「前田道路は配当だが、資産縮小という点は同じだ」との説明も「問題あり」と見るべきではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「真相深層~前田道路、資産削減の奇策 配当6倍 前田建設TOBに対抗
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200221&ng=DGKKZO55897360Q0A220C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。堤健太郎記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。桜井豪記者への評価も暫定でDとする。堤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

前田道路と前田建設を「親子」としていた日経がやっと軌道修正
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_25.html

2020年2月20日木曜日

サンダース氏が「緒戦2州を制した」と日経ビジネスは主張するが…

バーニー・サンダース上院議員」は民主党予備選の「緒戦2州を制した」と言えるだろうか。そう考える人はかなり少数だと思えるが、14日付の日経ビジネス電子版の記事では「緒戦2州を制したサンダース氏」と見出しでしっかり打ち出していた。記事を担当した森永輔副編集長には以下の内容で問い合わせした。回答と併せて見てほしい。
日蓮聖人銅像護持教会(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス副編集長 森永輔様

「世界展望~プロの目 緒戦2州を制したサンダース氏とトランプ氏の意外な共通点」という記事についてお尋ねします。この見出しを信じれば「サンダース氏」は「緒戦2州を制した」はずです。しかし記事中の写真に付けた説明文では「アイオワ州では僅差の2位、ニューハンプシャー州では1位を獲得したサンダース氏」となっています。だとすると「制した」のは「ニューハンプシャー州」だけです。

「緒戦2州」で獲得した「代議員数」の合計で判断している可能性も考慮しました。記事には以下の記述があります。

「2月3日に投開票されたアイオワ州ではピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長が首位(得票率は26.21%、獲得代議員数は14)*を獲得。バーニー・サンダース上院議員が2位(26.1%、12)に付けました。2月11日に実施されたNH州では両者が順を入れ替えて、サンダース氏が首位(25.7%、9)を奪取。ブティジェッジ氏が2位(24.4%、9)でサンダース氏に次ぎました」

「緒戦2州」での「サンダース氏」の「獲得代議員数」は21で「ブティジェッジ氏」の23を下回っています。「代議員数」の合計でも「緒戦2州を制した」とは言えません。

「緒戦2州を制したサンダース氏」という見出しは誤りだと考えて良いのでしょうか。問題なしとの判断ならば、その根拠も併せて教えてください。

お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させていただきます。

アイオワ州の党員集会の結果は、ブティジェッジ氏とサンダース氏が事実上の同着首位と評価して差し支えない、と考えました。

同集会は集計トラブルがあったせいか、さまざまな報道において数字が揺れています。

記事中で紹介した数字のほかに、例えば以下があります。

https://edition.cnn.com/election/2020/state/iowa
https://www.nytimes.com/interactive/2020/02/04/us/elections/results-iowa-caucus.html
以上の2つでは両氏の得票率はイコール。

https://www.politico.com/2020-election/results/iowa/
こちらでは、サンダース氏の得票数がブティジェッジ氏を上回っています。

こうした数字を総合的に判断いたしました。

今後も、より分かりやすい記事にするよう努めてまいります。日経ビジネスを引き続き、よろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

アイオワ州の党員集会の結果は、ブティジェッジ氏とサンダース氏が事実上の同着首位と評価して差し支えない」と考えたのならば「アイオワ州ではピート・ブティジェッジ前インディアナ州サウスベンド市長が首位を獲得。バーニー・サンダース上院議員が2位に付けました」と記事に書くのは明らかにダメだ。

それは森副編集長も分かっているとは思うが…。

ちなみにNHKは18日付で「民主党は18日、再点検の結果を発表し、一部の地区で間違いがあったとしてデータを修正したものの結果は変わらず、首位はブティジェッジ氏で、サンダース氏は2位となりました」と報じている。


※今回取り上げた記事「世界展望~プロの目 緒戦2州を制したサンダース氏とトランプ氏の意外な共通点
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/021300144/


※記事の評価はD(問題あり)。森永輔副編集長への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。森編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

江戸時代は一度も「対外戦争」なし? 日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_11.html

2020年2月16日日曜日

「や」の使い方が拙い日経1面「三井住友銀、株取得で再生支援」

16日の日本経済新聞朝刊1面に載った「三井住友銀、株取得で再生支援 5年で1000億円」という記事は問題が目立った。まずは最初の段落を見ていく。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

銀行が株式を取得したうえで企業再生や事業承継の支援に乗り出す動きが本格化する。三井住友銀行は新設の投資子会社を通じ、4月からこの手法で業績低迷や後継者が見つからない企業に対し、経営改善や支援企業探しを始める。銀行による株式保有制限の緩和が背景で、広島銀行も新会社を立ち上げる。超低金利の中で、新たな収益源に育てる狙いもある。



◎昔から「本格化」していたような…

日経は元々「」の使い方が下手だ。「業績低迷や後継者が見つからない企業に対し~」と書くと「」で並立関係にしているのは「業績低迷」と「後継者」、あるいは「業績低迷」と「後継者が見つからない企業」になる。いずれにしても不自然だ。

例えば「後継者が見つからない企業や業績低迷企業に対し~」とすれば問題は解消する。「企業」が続くのを嫌うならば「業績が低迷していたり後継者が見つからなかったりする企業に対し~」とする手もある。

記事の中身に関して言えば「銀行が株式を取得したうえで企業再生や事業承継の支援に乗り出す動き」は昔から「本格化」していたはずだ。「銀行による株式保有制限の緩和」を受けた動きならば「銀行が5%超の株式を取得したうえで」などとすべきではないか。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

三井住友銀は2月に投資会社のSMBCキャピタル・パートナーズを設立した。企業規模にかかわらず業績不振や後継者難の企業から普通株や優先株を取得する。1件あたりの投資額は数億円から100億円程度とし、5年後をめどに1千億円規模の残高をめざす。

出資後には、コンサルティング会社の経営共創基盤やデロイトトーマツグループと組んで投資先に人材を送り、収益力の改善や事業を承継する企業を探す。たとえば競争力の高い製品を抱えるなど強みがあるのに、業績が低迷している企業の支援などを想定している。



◎どの程度の出資比率を想定?

SMBCキャピタル・パートナーズ」がどの程度の出資比率を想定しているかは必ず入れたい情報だ。「1件あたりの投資額は数億円から100億円程度」よりも重要性が高い。「三井住友銀行」が明らかにしていないならば、その点を明示してほしい。特に、子会社化する選択があるのかどうかは知りたい。

付け加えると「2月に投資会社のSMBCキャピタル・パートナーズを設立した」という書き方は感心しない。今は2月なので、できれば日付を入れたい。日付が分からないのならば「2月初めに」などでもいい。

朝刊1面の記事でこの完成度では辛い。


※今回取り上げた記事「三井住友銀、株取得で再生支援 5年で1000億円
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200216&ng=DGKKZO55695860V10C20A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年2月15日土曜日

東洋経済「金融リテラシーの向上 プラスの影響だけ?」は興味深いが…

週刊東洋経済2月22日号に立命館大学総合心理学部准教授の森知晴氏が書いた「経済学者が読み解く現代社会のリアル 第54回 金融リテラシーの向上 プラスの影響だけ?」という記事は興味深い内容だった。ただ「過剰借り入れ、ナイーブな経済行動」などの基準が明示されていないのは残念。
日蓮聖人銅像護持教会(福岡市)
     ※写真と本文は無関係です

当該部分は以下のようになっている。

【東洋経済の記事】

筆者が所属する関西大学の研究チームは、より広範囲の金融行動と金融リテラシーとの関係を探るため、独自の調査を行った。調査はインターネット調査会社を介し、5949人から回答を得た。

金融リテラシーの指標としては、冒頭に述べた3問を含む、10問の質問の正答率を使用した。また、金融行動の指標としては、「投機的投資(FX・仮想通貨)」「リスク資産(株式・外国通貨建て金融資産)の割合」「過剰借り入れ」「ナイーブな経済行動(怪しい金融商品への興味)」「老後資金の計画」「ギャンブル」の6項目を作成している。

その結果、金融リテラシーが高い人は老後資金の計画があり、ギャンブルをしないということがわかった。これは金融リテラシーの高さがよい金融行動につながることを示しており、先行研究とも一致している。リスク資産の割合も、金融リテラシーが高い人では高いことがわかった。

しかし、金融リテラシーが高い人は投機的投資、過剰借り入れ、ナイーブな経済行動が多いという結果も同時に得られた。これは、金融リテラシーが高い人は望ましいと思われる金融行動を必ずしもとっていない可能性を示唆している。前述の結果と合わせると、金融リテラシーが高い人は、よい意味でも悪い意味でも金融行動が活発だということになる。

金融教育を実施してリテラシーを高め金融行動を活発にすることが、消費者によい影響だけを与えるのかどうかは疑問が残る。リスクが過度に高い金融商品への興味が湧き、望ましくない金融行動を引き出してしまう可能性もあるためだ。


◎「過剰」の基準は?

金融リテラシーが高い人は投機的投資、過剰借り入れ、ナイーブな経済行動が多いという結果も同時に得られた」と森氏は言う。「過剰借り入れ」では「過剰」の基準が不明。「ナイーブな経済行動(怪しい金融商品への興味)」についても「怪しい」かどうかをどうやって判定するのかが分からない。

投機的投資」は「FX・仮想通貨」を指すらしいが「リスクが過度に高い金融商品」かどうかは微妙だ。これも、何を基準に「過度」かどうかを決めるのかは知りたい。例えば株式公開前のスタートアップの株式に投資するのは非常に「リスク」が高いとは思う。しかし、成功した時には極めて高いリターンを得やすい。そうなると「リスクが過度に高い」とも言い切れない。「過度」かどうかの判断はかなり難しい。

余談だが、「金融リテラシーが高い人」はダメな「金融商品」には手を出さないと思う。と言うか、ダメな「金融商品」を避けて通れるだけの知識を持った人を「金融リテラシーが高い人」と認定したい。


※今回取り上げた記事「経済学者が読み解く現代社会のリアル 第54回 金融リテラシーの向上 プラスの影響だけ?
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22969


※記事の評価はC(平均的)

2020年2月14日金曜日

「オペ紙にじむ危機感」が大げさな日経 水戸部友美記者の「日銀ウオッチ」

日本経済新聞のコラム「日銀ウオッチ」は総じて評価できる。ただ、14日の朝刊経済面に載った「『オペ紙』にじむ危機感」はちょっと苦しい。記事の後半を見てみよう。
博多リバレインモール(福岡市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

だが超長期金利は低空飛行が続く。30年債利回りは米中対立で0.1%を割り込んだ昨年9月からは上昇したものの、足元では0.3%台後半にとどまる。大手生保が投資採算の目安とする0.8~1%にはほど遠い。

1月末の「オペ紙」で購入減を示唆してからも、プラスの利回りを確保できる超長期国債は人気で、金利が持続的に上がっていく展開にはなっていない。日銀も超長期金利の押し上げに限界を感じているフシがある。

日銀の金融研究所は1月下旬に公表した論文で、内外の中銀の金融政策に関わる公表文や記者会見の文字情報が市場に与える影響を分析した。欧米の中銀の情報発信が金利の変動に及ぼす影響力は年限が2年程度にとどまり、金利の期間が長くなるほど効果は小さくなるという。黒田総裁が口先介入しても効き目は小さいということになる。

市場では日銀による超長期国債の購入停止を求める声もある。だが日銀内には「オペをやめると市場との対話手段が失われる」(幹部)との慎重論は根強い。がんじがらめのなか、金利の低下圧力への対抗手段を失うリスクが現実味を帯びる



◎「対話手段が失われる」?

超長期金利」に関して「黒田総裁が口先介入しても効き目は小さい」ので、「市場との対話手段」は実質的に「日銀による超長期国債」の売買のみと仮定しよう。

この場合「購入停止」によって「対話手段」が失われるとは思えない。売買を制度的にできなくするなら別だが、売買の数量がたまたま「ゼロ」になるだけだ。「超長期国債」の売買額や頻度によって市場と「対話」するのならば「ゼロ」も1つのメッセージだ。

オペをやめると市場との対話手段が失われる」と日銀「幹部」が本気で思っているとしても、筆者の水戸部友美記者が真に受ける必要はない。なのに、なぜ「金利の低下圧力への対抗手段を失うリスクが現実味を帯びる」となってしまうのか。

金利」を上げるのは簡単だ。「日銀」が「超長期国債」の売却に踏み切れば済む。「金利」が適正水準に達するまで売却額を増やしていけばいい。

今の「日銀」にとって難しい選択なのは分かるが「金利の低下圧力への対抗手段」はしっかり保持しているし、それを「失うリスクが現実味を帯び」ているとは思えない。


※今回取り上げた記事「日銀ウオッチ『オペ紙』にじむ危機感
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200214&ng=DGKKZO55509760S0A210C2EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。水戸部友美記者への評価はDを維持する。水戸部記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「マネー凍結懸念」ある? 日経「認知症患者、資産200兆円に」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/200.html

2020年2月13日木曜日

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」

日本経済新聞の中村直文編集委員は「平成」が32年以上続いたと思っているようだ。でないと「平成の三十数年」とは書かないだろう。記事には他にも問題を感じたので以下の内容で問い合わせを送った。
福岡県立福岡高校(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中村直文様

13日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~荒野生む 流通0強時代」という記事についてお尋ねします。記事には「流通2強の競合時代を振り返れば、安さだったり、便利さだったり、消費者が望む"大義"が成長の原動力となってきた。2強は平成の三十数年の間、ショッピングセンター(SC)とフランチャイズ(FC)に金融を絡めたモデルでのしあがった」との記述があります。

数年」とは「2、3か5、6ぐらいの年数」(デジタル大辞泉)です。「平成の三十数年」と言うのであれば「平成」には最低でも32年が必要です。言うまでもありませんが、「平成」は30年4カ月ほどで終わっています。「平成の三十数年」いう記述は誤りではありませんか。

次は以下のくだりに関してです。

セブン&アイも00年代、イオンに対抗して店舗を拡大、『軍拡競争』に乗り出した。そごう・西武や専門店、通販を買収したほか、食品スーパーに出資するなど、手を広げた。百貨店やスーパー、専門店は2強に参加するか、あるいは各地の有力スーパーの傘下に入るか、選択を迫られた

この説明が正しければ「00年代」には「百貨店やスーパー、専門店は2強に参加するか、あるいは各地の有力スーパーの傘下に入るか、選択を迫られた」はずです。しかし、当時も今も高島屋、三越伊勢丹ホールディングスといった大手の「百貨店」は「2強に参加」していませんし「各地の有力スーパーの傘下」にも入っていません。記事の説明は誤りではありませんか。

最後に以下のくだりにも注文を付けておきます。

恐らくこの先、イオンとセブンを中心とした再編劇は見られなくなる。撤退した小売りや店舗の買い手はつかず、各地に荒涼とした風景が広がりそうだ。1月に突如営業を終了した山形市の百貨店、大沼はその最たる例といえる。00年代、地方中心都市の百貨店なら必ず買い手がついた。三越伊勢丹ホールディングスが系列化を進めた札幌の丸井今井、福岡の岩田屋などがそうだ。これからは単に空き店舗になるだけ。山形県に続き、百貨店の空白県が生まれるだろう。すでに各地で中心市街地に空き地ができている。浜松市では倒産した百貨店、松菱の跡地が宙に浮く。大丸松坂屋百貨店を傘下に置くJ・フロントリテイリングが進出する予定だったが、08年のリーマン・ショックで断念した。スーパーも倒産が増え、空き地も増えるだろう。モノを軸とした消費経済のうたげの始末が始まった

まず「00年代、地方中心都市の百貨店なら必ず買い手がついた」との説明が引っかかります。その後に「浜松市では倒産した百貨店、松菱の跡地が宙に浮く。大丸松坂屋百貨店を傘下に置くJ・フロントリテイリングが進出する予定だったが、08年のリーマン・ショックで断念した」と出てきます。この説明が合っているのならば「00年代、地方中心都市の百貨店なら必ず買い手がついた」とは思えません。

08年」は「00年代」ですし、「浜松市」は静岡県西部の「中心都市」です。人口80万人を有する政令指定都市の「浜松市」を「地方中心都市」ではないと見なすのは無理があります。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「Deep Insight~荒野生む 流通0強時代
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200213&ng=DGKKZO55527540S0A210C2TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

2020年2月12日水曜日

週刊エコノミストで無理のある世代論を展開する小川仁志氏

基本的に「世代論には意味がない」と思っている。連続する世代をどこかで区切って論じる場合は特に説得力がなくなる。年齢が1つ違うだけでは、価値観などに大きな違いは生じないからだ。
福岡県立博多青松高校(福岡市)※写真と本文は無関係

週刊エコノミスト2月18日号に載った「小川仁志の哲学でスッキリ問題解決(21)」という記事はその典型だ。問題の部分を見ていこう。

【エコノミストの記事】

Q 中堅の人材がすぐ辞めてしまいます。つなぎとめておく方法はありますか

A 粋な計らいで手本を示せ

最近、各業界でリストラの動きが活発化していますが、幸い我が社では人員調整には至っていません。むしろ逆に、30~40代の働き盛りの人材確保に苦労しています。特に就職氷河期を体験し、フリーター生活に甘んじていたという人材を数人、中途採用しましたが、少しでも仕事で行き詰まったり、上司からきつく注意されたり、また、休日が取れないなど、以前では考えられなかった理由ですぐ辞めてしまいます。どうすれば、彼らをつなぎとめておけるのか教えてください。(48歳・銀行員)

私も今年50歳なのですが、今の50代以上と、それより若い年代とでは価値観に大きな違いがあると言っていいでしょう。私が新入社員の頃は終身雇用が当たり前で、会社生活が人生のすべてのように言われていました。ところが、その後雇用が流動化していき、会社や仕事以外に人生の喜びを見いだす人が増えてきたのです。

ですから、今の30代から40代の働き盛りの若い人たちに、50代、60代の価値観を押し付けてもかみ合わないのです。いわば50代以上の価値観が会社べったりの一元論で生きているのに対して、40代以下の価値観は会社とそれ以外の生活を同じように大事にする二元論で生きているわけです。



◎50歳と49歳はそんなに違う?

今の50代以上と、それより若い年代とでは価値観に大きな違いがあると言っていいでしょう」と小川氏は言う。だとすると50歳と49歳では「価値観に大きな違いがある」はずだ。これに納得する人はいるのか。

百歩譲って小川氏の言う通り「価値観に大きな違いがある」としよう。しかし相談者は「48歳・銀行員」なので「40代以下の価値観」を持っている。その人に「今の30代から40代の働き盛りの若い人たちに、50代、60代の価値観を押し付けてもかみ合わないのです」と助言しても意味はないだろう。

上司からきつく注意されたり、また、休日が取れないなど、以前では考えられなかった理由ですぐ辞めて」しまうという「30~40代の働き盛りの人材」と相談者は同世代だ。

それともこの「48歳・銀行員」は「50代、60代の価値観を押し付けて」いるタイプだと小川氏は見ているのか。その場合「今の50代以上と、それより若い年代とでは価値観に大きな違いがある」という話はどうなるのか。

そもそも「50代以上の価値観が会社べったりの一元論で生きている」というのも決め付けが過ぎる。「50代以上」にも様々な人がいる。例えば、就職した会社を数年で辞めて実家の寺を継いだ場合「会社べったりの一元論で生きている」と言えるのか。

50代以上」も「40代以下」も個別に見れば均質ではない。そこを無視して「50代以上の価値観が会社べったりの一元論で生きている」と断じると一気に説得力がなくなる。

ちなみに今の50代の多くはかつて「新人類」と呼ばれた。「新人類」とは「従来とは異なる価値観や感性をもつ若い世代を、新しく発見された人種のようにいう語。1980年代半ばから言われ出した語」(大辞林)だ。

実際に「従来とは異なる価値観や感性」を持っていたのかは微妙だが、「会社生活が人生のすべてのよう」な生き方をしないのが「新人類」だと思われていた面はある。小川氏は知らないかもしれないが…。


※今回取り上げた記事「小川仁志の哲学でスッキリ問題解決(21)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200218/se1/00m/020/029000c


※記事の評価はD(問題あり)。小川仁志氏への評価はDで確定とする。小川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「スッキリ問題解決」の看板倒れが凄い哲学者・小川仁志氏の悩み相談
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_12.html

2020年2月11日火曜日

書き手としても適性欠く週刊東洋経済の山田俊浩編集長

記事中のミスの握りつぶしを続ける週刊東洋経済の山田俊浩編集長には、書き手としての能力にも疑問符を付けたい。2月15日号の「編集部から」では以下のように書いている。
日蓮聖人銅像護持教会(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

健康診断で訪れた近所の病院で不思議な光景に出くわしました。80歳前後と思われるかくしゃくとしたおじいさんが受付で「もう知り合いが誰もいなくなった」「ひとりだと待っている間がつまらない。疲れてしまう」と愚痴ると、女性スタッフが「寂しいこと言わないでよ。健康なうちは頑張って来ようね」と大声で励ましていました。この2人の会話に多くの患者の目が集まりました。健康なのに病院? 後でスタッフに尋ねたところ、長年通っている常連さんで、年齢相応に健康だそうです。「病院へ通うことができるのは健康な証拠」というのは、なんとも皮肉です。無駄なクスリ、医療は身近にあふれています



◎だったら自分は?

健康なのに病院?」と思った山田編集長には「健康ならば病院に来る必要はない」との前提があるのだろう。しかし自分は「近所の病院」を「健康診断で訪れた」のではないか。「健康診断」は「健康」な人でも受けるものだ。「健康なのに病院」がそれほど「不思議な光景」でないのは我が身を振り返れば分かるはずだ。

無駄なクスリ、医療は身近にあふれて」いるとは思う。しかし「80歳前後と思われるかくしゃくとしたおじいさん」の例からは何とも言えない。例えば「体に何の異常がなくても暇つぶしのために毎週、病院を訪れる」などと書いてあれば別だが…。

推測だが「女性スタッフ」が発した「健康なうちは」という言葉は「体が動くうちは」といった趣旨ではないのか。「年齢相応に健康」も「日常生活には支障がない状態」といったところだろう。仮に「80歳前後と思われるかくしゃくとしたおじいさん」が高血圧の治療薬を処方されていたとしても、他に問題がなければ「年齢相応に健康」と言ってもいいのではないか。

80歳前後と思われるかくしゃくとしたおじいさん」を「無駄なクスリ、医療」の象徴として取り上げるには材料不足だ。それなのに「『病院へ通うことができるのは健康な証拠』というのは、なんとも皮肉です」と書いてしまう山田編集長の判断力に不安を感じる。


※今回取り上げた記事「編集部から


※記事の評価はD(問題あり)。ミス握りつぶしの罪を重く見て、山田俊浩編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)とする。

2020年2月10日月曜日

東洋経済「フォーカス政治」に見える牧原出 東大教授の実力不足

東京大学教授の牧原出氏は問題の多い書き手のようだ。週刊東洋経済2月15日号に載った「フォーカス政治~英国のEU離脱が暗示する『国家の復権』の危うさ」という記事には色々とツッコミどころがあった。
筑後川橋(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

いくつか指摘したい。

【東洋経済の記事】

とはいえ、そもそもグローバル化の勝者は、格差社会の勝ち組であり、その拠点も国境を越え、自在に移せる。だが、格差社会の敗者たちが身を寄せるのは、国家しかない



◎「格差社会の敗者」は国外脱出不可?

牧原氏の説明が正しければ「格差社会の敗者たち」は「国境を越え」られず母国に留まるのだろう。なのに一方で「(英国の)EU離脱は、移民の流入に対する反発や、格差社会での生活苦を紛らわすために、EUを標的にした政治家によるあおりの産物という面も否定できない」とも書いている。「旧東欧諸国では、若い世代が職と機会を求めて国外へ流出することで人口減少が続き、残された人々の支持を得ようと権威主義的なポピュリズムが巻き起こっている」とも記述もある。

英国への「移民の流入」のほとんどは「格差社会の勝ち組」なのか。「旧東欧諸国」で「職と機会を求めて国外へ流出する」のは「若い世代」の中の「勝ち組」限定なのか。牧原氏には米国に職を求めてやってきた不法移民の圧倒的多数が「格差社会の勝ち組」と映るのか。

付け加えると「旧東欧諸国」という表現は引っかかる。「旧共産圏」との趣旨だと思うが、「共産圏」でなくなったからと言って「東欧」でなくなる訳ではない。

次に移ろう。

【東洋経済の記事】

片や、国家が衰退ないしは疲弊している例の1つが、地球温暖化によって猛烈な自然災害にさらされる国々である。海面上昇、巨大ハリケーン、地震、火山噴火、山火事など、もはや国としての持続可能性が薄らいでいる。



◎地震も「地球温暖化」の影響?

この説明から判断すると、「地震、火山噴火」も「地球温暖化」によって起きる「自然災害」だと牧原氏は見ているのだろう。完全否定はしないが、ほぼ無関係ではないか。

さらに見ていく。

【東洋経済の記事】

さらにもう1つ、国家の役割を再認識させられたのは、リーマン金融危機後の世界であった。1929年の世界恐慌に匹敵する大規模な経済の破綻であったが、恐慌にならなかったのは、先進諸国のリーダーが繰り返し首脳会議を開き、対策を練ったからである。グローバルな危機に際しては、迅速果断に連携して処理する政治リーダーの役割が重要となる。



◎「1929年の世界恐慌に匹敵」してるなら…

リーマン金融危機」とはあまり言わない気がするが、とりあえず受け入れてみる。「リーマン金融危機」は「1929年の世界恐慌に匹敵する大規模な経済の破綻であった」と牧原氏は断定している。なのに「リーマン金融危機」の時は「恐慌にならなかった」らしい。

1929年」に始まった「世界恐慌」は「大恐慌」とも呼ばれている。普通の「恐慌」にさえならなかった「リーマン金融危機」が「1929年の世界恐慌に匹敵する大規模な経済の破綻であった」と言えるのか。

付け加えると「リーマン金融危機」で「大規模な経済の破綻」があったとは思えない。「大規模な経済の破綻」をどう定義するかによるが、個人的には「先進国でも国債の債務不履行が頻発したりハイパーインフレが連鎖したりして経済が大混乱に陥り、世界の経済成長率が10%以上のマイナスになるような事態」でないと「大規模な経済の破綻」とは感じない。

最後にもう1つ。

【東洋経済の記事】

問題は、グローバル化が生み出したポピュリズムが、国内にのみ目を向けるリーダーしか生み出さず、国家の持続可能性が失われるという暗い展望である。米国のトランプ大統領が典型だが、英国のジョンソン首相もそれに近い。



◎「国内にのみ目を向けるリーダー」なのに…

国内にのみ目を向けるリーダー」としては「米国のトランプ大統領が典型」だと牧原氏は言う。だが「トランプ大統領」はイランの司令官殺害に踏み切っている。イランが本気で怒って全面戦争に突入するリスクもある危険な選択だ。「国内にのみ目を向けるリーダー」ならば絶対に避けそうなものだが…。

記事を全体として見ると、あまり深く考えずに思い付きであれこれ書いた印象を受ける。要注意の書き手として注視したい。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~英国のEU離脱が暗示する『国家の復権』の危うさ
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22867


※記事の評価はD(問題あり)。牧原出東大教授への評価も暫定でDとする。

2020年2月9日日曜日

「尊厳死ができれば安楽死なんて不要」という長尾和宏氏の主張に欠陥あり

週刊東洋経済2月15日号に載った「話題の本 著者に聞く~小説『安楽死特区』長尾クリニック院長 長尾和宏~尊厳死という選択肢を越えて一気に蔓延した安楽死願望」という記事で、長尾氏は「リビングウィルを書いて尊厳死ができれば、安楽死なんて不要なんです」と主張している。しかし、その考えには重大な欠陥がある。
久留米大学医学部(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見てみよう。

【東洋経済の記事】

──昨年NHKで放映された、日本人女性がスイスで安楽死を遂げる番組が大反響を呼びました。「ありがとう」とささやいて穏やかに逝く姿に、モヤモヤしていた「安楽死」という言葉が、現実の形を帯びたような気がします。

彼女を担当した医師とは、私は2回会っています。スイスには安楽死団体が複数あって、数年前に訪問したとき「ここで見たことは日本で話さないでください」と言われました。なぜか。日本人が押し寄せてしまうからです。

日本で安楽死はもちろん認められていません。単なる殺人です。だから今回の件は日本人が外国で殺人事件に遭ったのと同等です。でもそれを扱う法律がない。スイスからしたら、そんなややこしい国から大勢来られたら困るんです。そういう問題を抜きにして、こんな美しい死に方がありました、とNHKがスクープ的に放映した。

『週刊文春』の調査では日本人の8割が安楽死に賛成だった。昨日、大阪で講演したんですが、やはり3分の2の方が安楽死に賛成でした。終了後、若くピンピンした男性に「紹介状を書いてくれ」と1時間つかまりました。元気な今のうちにスイスに渡りたい、と。

──今の日本で老後を考えると何か暗くなる。だったら自分の最期は自分で決めて、楽に死にたいっていう気持ち、正直わかります。

皆さんが憧れてるのは、安楽死じゃなく“安楽な死”。痛くない苦しまない死に方ですよね。それなら、もっと自然に逝ける尊厳死がある。皆さんいきなり安楽死に話が飛んで、ユートピアのように夢想している。でも尊厳死と安楽死はまったくの別物です。

尊厳死は、死期が近く、延命治療でなく自然な経過に任せてほしいと本人が望み、それをリビングウィル、生前意思として書く。そしてモルヒネ等による痛みの緩和に重点を置く。その結果が尊厳死です。安楽死は違います。死期は近くない、本人の希望で元気なうちに医者に“殺して”もらう

聖路加国際病院の名誉院長だった日野原重明先生も105歳で尊厳死されました。リビングウィルを書かれて延命治療を受けなかった。リビングウィルを書いて尊厳死ができれば、安楽死なんて不要なんです。私はこれまで、在宅医療で1200人以上お看取りした。みんな尊厳死です。尊厳死ならより長く生き、最後まで食べられてお話しができて、苦痛も少ない。



◎肝心の部分を抜いて論じても…

死期が近く、延命治療でなく自然な経過に任せてほしいと本人が望み、それをリビングウィル、生前意思として書く。そしてモルヒネ等による痛みの緩和に重点を置く。その結果が尊厳死」だと長尾氏は言う。そして「死期は近くない、本人の希望で元気なうちに医者に“殺して”もらう」のが「安楽死」だ。定義に異論はあるが、長尾氏の定義に従って話を進めよう。

リビングウィルを書いて尊厳死ができれば、安楽死なんて不要なんです」と長尾氏は言い切っている。だが、重要な論点が抜けている。「死期は近いし、病状が進行して苦しみに耐えられない(緩和ケアでも苦しみが消えない)から医者に“殺して”もらいたい」場合はどうするのか。

これには「自然な経過に任せ」る「尊厳死」では対応できない。「安楽死に賛成」する人の中で「元気なうちに医者に“殺して”もらう」ことを希望するケースは稀だろう。多くの人は病状が進行して「もう生きていても意味がない。苦しい。何らかの方法で早めに命を終わらせてほしい」と感じた時に「安楽死」を求めるはずだ。

しかし長尾氏はこうしたケースでどうすべきか教えてくれない。なのに「リビングウィルを書いて尊厳死ができれば、安楽死なんて不要なんです」と結論付けてしまう。「安楽死」に反対で「尊厳死」を推しているのは分かるが、主張には明らかに欠陥がある。


※今回取り上げた記事「話題の本 著者に聞く~小説『安楽死特区』長尾クリニック院長 長尾和宏~尊厳死という選択肢を越えて一気に蔓延した安楽死願望
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22888


※記事への評価は見送る。

2020年2月8日土曜日

所有に関する世代間の「差の小ささ」に着目した日経「Pickデータ」に高評価

8日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「Pickデータ~平成生まれも家『買う』8割」という記事は興味深い内容だった。記事に付けた「『買う』『どちらかというと買う』の割合」というグラフを見ると、家、車、音楽に関して「平成世代」も「バブル世代」もほとんど差がないのが分かる。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事では以下のように解説している。

【日経の記事】

平成生まれの若い世代も家や車を買いたい――。カーディフ生命保険が昨年9月に実施した調査で、平成以降に生まれた20~34歳の約8割が家や車を「買う」と答えた。

調査では平成世代と35~49歳のロスジェネ世代、50~59歳のバブル世代に分け、男女2156人から回答を得た。家や車、音楽などを対象に「買う」や「借りる」「関心がない」など5つの選択肢を示したところ、家を「買う」「どちらかというと買う」を選んだ平成世代は78%でバブル世代の79%と肩を並べた。シェアリングエコノミーが浸透するとみられる若年層だが「家の所有に価値を見いだしている」(同社)ようだ



◎「差がない」ことも時には重要

平成世代」「バブル世代」といった世代を比較する場合、どうしても「こんなに違う」と強調したくなる。そして、それに合うデータを紹介しがちだ。しかし、差がないことも時には重要な意味を持つ。

シェアリングエコノミーが浸透するとみられる若年層」に関しては所有欲が乏しいと見られがちだ。日経も「ニッキィの大疑問~シェア経済、なぜ拡大? 所有欲少ない若者増える」という2018年3月12日付の記事では「『ミレニアル世代』と呼ばれる若年層を中心に、モノの所有にこだわらない風潮が広まっていることも見逃せません」と解説している。

実際には「若年層」も上の世代と大して差がない可能性を「カーディフ生命保険」の調査は示唆している。そこに着目して記事にした姿勢を高く評価したい。


※今回取り上げた記事「Pickデータ~平成生まれも家『買う』8割
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200208&ng=DGKKZO55382230X00C20A2PPE000


※記事の評価はB(優れている)

2020年2月7日金曜日

そもそも「寡占」成立してた? 日経「国際送金、崩れる銀行寡占」

7日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「国際送金、崩れる銀行寡占~スマホ・ネットが店舗経由逆転へ フィンテック、手数料安く」という記事は二重に問題がある。そもそも「銀行寡占」があったのか。仮にあったとして、最近になって「崩れようとしている」のか。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係です

最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】

フィンテックの浸透で国際送金分野で銀行寡占が崩れようとしている。スマートフォンやブロックチェーン(分散台帳技術)を使った高速で手数料が安い送金が伸びをけん引し、市場規模は7000億ドル(約76兆円)を突破した。スマホやネットを使う送金は近く銀行などの店舗を経由する送金を追い抜きそうだ



◎まだ「崩れ」てない?

銀行寡占が崩れようとしている」というのだから、まだ「崩れ」てはいないのだろう。しかし「スマホやネットを使う送金は近く銀行などの店舗を経由する送金を追い抜きそうだ」とも書いている。ならば既に「銀行寡占が崩れ」ていると理解するのが自然ではないか。

続きを見てから、さらに考えよう。

【日経の記事】

外国で働く労働者や移民が増え、母国に送金するニーズが高まっている。銀行口座を持たない人でも携帯電話だけで送金できるサービスが普及していることも国際送金が増えている要因だ。

「アジアへの国際送金の件数、金額で断トツだ」。SBIホールディングスの北尾吉孝最高経営責任者(CEO)は19年12月、投資家向け説明会でこう話した。SBIレミットは17年、米リップルのブロックチェーンを使った国際送金サービスを始めた。当初はタイ向け、19年11月にはベトナム向けを始めた。20年前半までにインド向けも始める。

送金国や金額によって異なるが、手数料は最低460円だ。インターネットバンキングでも3000円程度かかる大手行に比べて格段に安い。リップルを採用した相手国向けの送金では数秒で着金する。日本からアジア各国向けの同社の送金シェア(銀行含む)は4割超に上るという。


◎既に「送金シェアは4割超」ならば…

日本からアジア各国向け」では「SBIホールディングス」の「送金シェア(銀行含む)は4割超に上る」らしい。「アジア各国向け」「銀行含む」という条件付きなので断定はできないが、やはり「銀行寡占」は崩壊済みと理解したくなる。

さらに言えば、そもそも「銀行寡占」が成立していたのか疑問だ。ネットで「国際送金」について調べると、国内に限っても大手行に加えて複数の地方銀行の名前が出てくる。「国際送金」を手掛ける「銀行」が片手で足りるぐらいでないと「銀行寡占」とは言い難い。実際は、両手に余る「銀行」が「国際送金」を手掛けているのではないか。

無理に記事を盛り上げようとして説得力を失ってしまったと見るべきだろう。


※今回取り上げた記事「国際送金、崩れる銀行寡占~スマホ・ネットが店舗経由逆転へ フィンテック、手数料安く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200207&ng=DGKKZO55332600W0A200C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年2月5日水曜日

配当利回りと預金金利の比較が罪深い深野康彦ファイナンシャルリサーチ代表

配当利回りと預金金利を比べて株式投資に誘い込む記事は珍しくない。比較してはいけないものを比較しており、参考にしてはダメだ。週刊エコノミスト2月11日号にファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏が書いた「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用」という記事もその1つ。
シップスガーデン(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事の前半を見ていこう。

【エコノミストの記事】

国内外に経済の不透明要因が山積している中、2020年は、持ち続けることで得られるインカムゲイン狙いに徹した、大負けしない堅実な投資を心がけるべきだと考える。幸いにしてインカムゲイン狙いの投資には追い風が吹いている。企業は株主への利益還元を年々増やす傾向にあり、今期の配当金総額は過去最高を更新すると予測されている。自社株買いもしかりで、「株主還元」に着目した投資は時代にマッチしているとも言えそうだ。

個人投資家にとってわかりやすい株主還元は、配当金と株主優待だろう。超低金利になって久しく、さらなる長期化も予想されているが、東証1部上場銘柄の有配会社平均配当利回りは1・93%(19年12月)もある。長期金利は0%近辺、メガバンクの1年定期預金の金利が0・01%であることを考えれば、かなりの高利回りといえるだろう。一例を挙げると、みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある

預金は元本保証で株式は元本保証ではないが、仮に配当金が変わらなければ、23年間保有し続けることで配当金で投資元本を回収。24年目以降は定期預金の収益を上回り、かつ保有期間が長くなるほどその差は大きくなることだろう。四半世紀も保有し続ければ、売却益を狙うチャンスもあるだろうから、試算より短い期間で元本回収と高収益をもたらしてくれるのではないか。定期預金の金利が上昇することもありうるだろうが、過去にメガバンクの金利が1・0%を超えていたのは1995年までさかのぼる必要がある。単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう


◎本質的に別物なのに…

みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある」と言われると「なるほど。株を買う方が得だな」と思う投資初心者もいるだろう。

預金は元本保証で株式は元本保証ではない」と深野氏も断っており、これはその通りだ。だが、問題はそこではない。「配当金」を受け取ると、その分は株式の価値が減るのでプラスマイナスはゼロだということだ。「配当金」を大幅に増やせば、配当の支払い後に株価は大幅に下がる(他の要因では株価が動かないと仮定)。

預金金利」は増えれば増えるほど預金者の利益になる。そこが「配当金」との決定的な違いだ。市場心理的な面を無視すれば、配当に着目して投資戦略を考える意味はない。キャピタルゲインと「インカムゲイン」を分けて投資判断するのは非合理的だ。必ずトータルでリターンを見てほしい。

単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう」と深野氏は語りかけてくるが「言わずもがな」とは思えない。「配当金が変わらなければ」という前提付きの試算だ。その前提でも「投資元本を回収」するのに「23年間」もかかる。この比較だけでは何とも言えない。

この手の比較をするならば「預金金利」と社債利回りの方が好ましい。例えば、日本を代表する優良企業であるトヨタ自動車の社債利回りが「4・50%程度」ならば信用リスクを勘案しても魅力的だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200211/se1/00m/020/051000c


※記事の評価はD(問題あり)。深野康彦氏への評価も暫定でDとする。

2020年2月4日火曜日

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説

ブラックスワン」は要注意の言葉だ。記事を手軽に彩れるが、大抵の場合は「マーケットにおいて事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象」(SMBC日興証券の用語集)とは言い難い。3日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「市場が恐れる『黒い白鳥』~新型肺炎拡大 政策手段に限界」という記事にも、それは当てはまる。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係

筆者の藤田和明編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】

昨年5月に聞いた話は予言だったのだろうか。来日した米有力投資ファンド、カーライル・グループの創業者、デビッド・ルーベンスタイン氏に質問した。「いまの金融市場にとって、ブラックスワンは何でしょうか」。同氏の答えは、中東など世界各地での軍事衝突リスク、米国や日本の政府債務問題の2つに加えて、もうひとつあった。「ウイルスによる世界的な疫病の流行(パンデミック)だろう」

ブラックスワンとは「黒い白鳥」。かつてオーストラリアで黒い白鳥が発見され、白鳥は白だという常識が覆されたことが由来だ。従来の常識的な経験からは想定のできなかった事象が起き、それが衝撃となって大きな影響を人々に与えることをいう。


◎「まさか」がある?

中東など世界各地での軍事衝突リスク、米国や日本の政府債務問題」に「ウイルスによる世界的な疫病の流行(パンデミック)」--。どれも「事前にほとんど予想」できない事象とは思えない。「世界的な疫病の流行」はこれまで繰り返し起きているのに「ブラックスワン」と言えるのか。

例えば「日本、中国、韓国、北朝鮮が2020年に統一国家を作る」といった話ならば、確かに「ブラックスワン」だと思えるが…。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

新型肺炎は日を追って深刻さを増している。世界規模に広がるパンデミックとなれば、ルーベンスタイン氏の懸念が現実のものになってしまいかねない

米ムーディーズ・アナリティクスは「ほかに例のないブラックスワンになりうる」とのリポートを出した。08~09年の金融危機はまだ、米不動産市場の悪化が事前にわかっていた。今回は誰も予想してない事態だ。しかも金融危機への政策対応と異なり、健康にかかわる問題ゆえに政策手段は限られるとの指摘だ。



◎矛盾してない?

ルーベンスタイン氏の懸念が現実のものになってしまいかねない」状況なのに「今回は誰も予想してない事態」なのか。「ルーベンスタイン氏」は「世界的な疫病の流行」があり得ると「予想」していたのではないか。

今回の「新型肺炎」は本当に「従来の常識的な経験からは想定のできなかった事象」になりそうなのか。藤田編集委員も分かっているはずだ。

なのに記事の最後では「衝撃が大きく、人々の考え方にも影響するのがブラックスワン。だとすれば、この先のマネーの大きな方向性をも左右する問題になりうるとみておかなければならないだろう」と結んでいる。「新型肺炎」が「マネーの大きな方向性をも左右する問題になりうる」のは否定しない。しかし「ブラックスワン」かと言われたら明らかに違う。

従来の常識的な経験」から「想定」できていた「事象」だと断言できる。藤田編集委員は「世界的な疫病の流行」などもう起きないと確信していたのだろうか。



※今回取り上げた記事「市場が恐れる『黒い白鳥』~新型肺炎拡大 政策手段に限界
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200203&ng=DGKKZO55173190T00C20A2EAF000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDを維持する。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

2020年2月3日月曜日

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見

3日の日本経済新聞朝刊女性面に立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏が書いた「ダイバーシティ進化論~育休、男女の別なく 制度見直せば『常識』に」という記事には偏見が目立った。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

順に見ていこう。

【日経の記事】 

日本の企業には今も、女性社員に対して出産のタイミングをよく考えるようアドバイスする上司がいる。だが仕事と出産をてんびんにかけるという考え自体がゆがんでいる。「仕事も出産も」というのが世界の常識で、子育てをバックアップする社会システムができていれば出産はしたいときにするのが一番幸せだ。



◎個人の自由では?

仕事と出産をてんびんにかけるという考え自体がゆがんでいる」と出口氏は言うが、同意できない。例えば、五輪出場を目指すプロの女子選手が「出産は五輪が終わってから」と考えるのは「ゆがんでいる」のか。「出産はしたいときにするのが一番幸せ」ならば、「仕事と出産をてんびんにかけ」て出産時期を選ぶのも個人の自由ではないか。

次に移ろう。

【日経の記事】

カップルで生活するなら相手は家族思いの人がいいだろう。家族思いの正体はオキシトシンだ。女性は出産の時に出るが、男性は子育てすることによって出る。いい男性をつくるには子育てをする以外にない



◎子育てしないと「家族思い」にならない?

この説明が正しければ、子供のいない夫婦で「子育てをする」環境にない人は「家族思い」にはならないのだろう。しかし、子供がいなくてもお互いを思いやる「家族思い」の「カップル」はいくらもいるはずだ。

オキシトシン」が「家族思い」と関係ないとは言わないが、「家族思いの正体はオキシトシンだ」との説明は物事を単純に捉え過ぎている気がする。

さらに見ていこう。最も問題を感じたのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

こういう知識があれば、小泉進次郎環境相の育休は当然のことと理解できる。ニュージーランドでは現職の首相が在任中に出産して休みを取り、今はパートナーが面倒を見ている。去年のラグビーW杯では、オールブラックスのキャンプ地が大学のある大分で、観光客が大勢来ていた。彼らに首相のことを聞くと皆、誇りに思っているという。「彼女はスマートで賢く、判断に誤りがない。育休なんて何の問題もない。風邪で休んだのと同じだ」と。

賛否両論が沸き起こるのは、日本が世界に遅れた男尊女卑の国だからといえる。日本をいい社会にするため、経済を好転させるため、少子高齢化を克服するためにも今、一番に取り組まなければいけないのは男女差別の根絶であり、男尊女卑意識の払拭だ。


◎日本は「男尊女卑」?

賛否両論が沸き起こるのは、日本が世界に遅れた男尊女卑の国だからといえる」という説明は二重に問題がある。

まず「ニュージーランド」では「現職の首相が在任中に出産して休み」を取ったことに「賛否両論」がなかったかのような書き方をしている点だ。NHKのインタビューでこの「首相」は以下のように語っている。

正直に言うと、国民に自分の妊娠を告げるのは、とても緊張しました。ニュージーランドでは前例がないことで、人々がどう反応するか、基準にできるものはありませんでした。もちろん否定的なことをいう少数の人たちはいました。しかし本当にごく少数の人たちでした。国民からとても支持されたと感じています

ニュージーランド」でも「賛否両論」があったことを「首相」自身が認めている。「賛否両論」があるのは健全なことだ。それを以って「世界に遅れた男尊女卑の国」と決め付けるのは正しいのか。出口氏の考えに従えば「ニュージーランド」も「世界に遅れた男尊女卑の国」と言えなくもないが…。

育休」に関しては、女性が取りやすく男性が取りにくい社会的な雰囲気はある。これは出口氏も認めるだろう。「小泉進次郎環境相の育休」問題もそこと絡んでくる。

この状況を「男尊女卑」と捉えるのが謎だ。逆ではないか。男性の方が権利を行使しづらいのだから、どちらかと言えば「女尊男卑」の問題だ。この辺りに出口氏の偏見が垣間見える。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

社会の常識は、日々の新聞やSNS、近所の人の話によってつくり上げられる。人間の意識は、勉強しない限り、その社会の常識を映すだけだ。だから仕事と育児の両立は当たり前、とするためには制度を変える必要がある。具体的にはクオータ制の導入や、性分業が根底にある「配偶者控除」と「第3号被保険者」の撤廃だ。仕組みを変えないと人間の意識は変わらない。



◎3つだけで決まる?

上記のくだりもツッコミどころが多い。「社会の常識は、日々の新聞やSNS、近所の人の話によってつくり上げられる」と出口氏は言う。「日々の新聞やSNS、近所の人の話」という3つで決まるのか。テレビ、雑誌、学校での会話などは関係ないのか。ここでも問題を単純に捉え過ぎている。

人間の意識は、勉強しない限り、その社会の常識を映すだけだ」という説明が正しければ、「意識」を変えるために必要なのは「勉強」だ。しかしなぜか「だから仕事と育児の両立は当たり前、とするためには制度を変える必要がある」と続く。「制度を変え」なくても「勉強」すれば「意識」を変えられるのではないのか。

それに「仕事と育児の両立は当たり前」という「意識」は日本に根付いているのではないか。そんなに奇異な考えではない。それが「クオータ制の導入」などによって定着するという論理も謎だ。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

育児休業は留学と同じと見なし、給与は全額保証すればいい。賢くなって戻ってくるのだから。そうすれば男女とも安心して育休が取れる。最初の1年間は全額保証し、その後給付を減らしていけば、人は仕事に戻る。0歳児は最も育児コストがかかるので、政府としてもその方が合理的だ。

保育所は希望者全員義務保育にすれば待機児童は0になる。高層マンションができて小学校が足りないとニュースになるが、実際、小学校に入れなかった子供はいるか? 法律があれば自治体は対応するのだ。


◎給与を全額保証すれば「安心して育休」?

給与」を「全額保証」すれば「男女とも安心して育休が取れる」と出口氏は言う。これも問題を単純に捉え過ぎている。「育休」取得が職場での評価に響かないか。その間に仕事面で同僚に後れを取らないか。そういった問題もクリアしないと「男女とも安心して育休が取れる」ようにはならないだろう。

付け加えると「その後給付を減らしていけば」という説明も引っかかる。どのぐらいの期間「給付」をすべきとの考えなのか。

入社直後に妊娠し、その後に次々と子供を産む場合、ほとんど働かずに「給与」を10年単位でもらい続けるケースが出てくるはずだ。それを全て企業負担とするのか。その辺りを出口氏はしっかり考えているのだろうか。



※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~育休、男女の別なく 制度見直せば『常識』に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200203&ng=DGKKZO55093270R30C20A1TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

2020年2月2日日曜日

記事の「構成」他人任せの週刊ダイヤモンド深澤献論説委員に引退勧告

週刊ダイヤモンドの深澤献論説委員には書き手としての引退を勧告したい。編集長時代に読者からの間違い指摘を無視して記事中のミスを放置し続けただけでも十分に罪深い。加えて2月8日号の「イノベーターの育ち方(第29回)中川祥太/キャスターCEO~小5で『もう勉強しない』と宣言した開業医の長男が『新しい働き方』で起業するまで」という記事が問題だ。
博多リバレインモール(福岡市)※写真と本文は無関係

まず「聞き手」が深澤論説委員で「構成」がライターの片瀬京子氏となっているのに呆れる。編集長時代ならば「多忙だから」と弁明できたかもしれないが「論説委員」の肩書を付けているのに「構成」を他の人に任せてどうする。自分で「構成」を考えるのが難しいのならば、後進に道を譲るべきだ。

前置きが長くなった。記事に出てくる「キャスターCEO」の「中川祥太」氏の発言には色々と疑問が浮かぶ。「中川祥太」氏がおかしな話をしてきたら、そこは深澤論説委員がツッコミを入れてほしい。「中川祥太」氏はきちんと話をしているのに「構成」が下手だから訳の分からない内容になっている可能性ももちろんある。

ともかく中身を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

──医者になることを意識していましたか。

してないですね。目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけです。

──ところが受験勉強は小5で“卒業”したそうですね。

 はい。塾の授業中、算数だったかな、俺の隣にいた子が分かってなかったので俺が教えたんです。そしたら先生に「こいつはおまえに教わりに来てるんじゃない」と怒られてしまい、それで勉強をやめました。この人たちのために頑張っても意味がないと、一気に冷めてしまったんです。家でも勉強しなくなって、塾の授業も惰性で受けるようになりました。

親からは「受験が終わったら勉強しなくていい」と言われて、一応、適当に受験はしましたが、周りに「俺は中学に入っても勉強はしない」と宣言していました。



◎「この人たちのために頑張って」た?

受験勉強」は「目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけ」と最初に述べている。

しかし、塾で「先生」に「怒られ」たことで「この人たちのために頑張っても意味がないと、一気に冷めてしまった」らしい。「この人たち」とは「先生」たちなのだろう。「目の前に問題があるから解く。好き嫌いではなく、できたからやっただけ」ではなかったのか。「この人たちのために頑張って」いたのか。

そもそも「この人たち=先生たち」のために「受験勉強」を「頑張って」いたのが解せない。そんなに「先生」が大事だったのか。親の期待に応えるために「頑張って」いたのならばまだ分かるが…。

謎は他にもある。

【ダイヤモンドの記事】

──入学したのは奈良の中高一貫の進学校、西大和学園です。

入って最初のテストから最下位でした。問題を見た瞬間から解く気がありませんでした。そこから6年間、成績はずっと最下位近辺です。三者面談でも「どうしましょう」という話になって、親も最初はごちゃごちゃ言ってましたけど、そのうち「確かに勉強しなくていいと言ったし、自分で決めたことだし」という感じでした。

──勉強はしないけれど登校はしていたんですね。

大阪から奈良までなので、往復2時間半から3時間かかるんですけど、通学はしていました。授業中は寝ているか本を読むか、放課後は他校の友達と繁華街で遊んだりもしていましたが、それでも暇なので、中2で「音楽やってみようかな」と、ベースを始めました。



◎どうして卒業できた?

経歴を見ると「中川祥太」氏は高校を卒業しているようだ。「『俺は中学に入っても勉強はしない』と宣言」し、中学に「入って最初のテスト」で「問題を見た瞬間から解く気がありませんでした」という状態ならば、「6年間」通っても高校は卒業できないはずだ。あるいは「西大和学園」はテストが全部0点でも卒業できるのか。

成績はずっと最下位近辺」というのも引っかかる。「テスト」で「解く気」が全くないのならば「最下位」が定位置のはずだ。なぜ「近辺」なのか。「最下位」ではない時もあったのではないか。だとすると、多少は「問題」を解いていた疑いが出てくる。

次に進もう。

【ダイヤモンドの記事】

──大学生活は?

大学も1年目から授業に出ず、お金を稼ごうとアルバイトをしていました。バンドでオリジナルをやりながら、スタジオミュージシャンをやったりプロにローディとして同行して手伝ったり。でも、ミュージシャンって稼げないんですよ。いくらうまくても稼げなくてはしんどい。

ところが、たまたま始めたライブドアマーケティングのテレアポのバイトが、アホみたいに稼げるんです。勢いのある世界とない世界があることも知って、音楽じゃないことをしようと決めました。



◎いきなり「ローディ」…

まず何の注釈も付けずに「ローディ」を使っているのは記事の作り手に問題がある。ダイヤモンドの読者のほとんどが理解できる言葉だと思っているのか。
筑後川サイクリングロード(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「ミュージシャンって稼げないんですよ」は言い訳に聞こえる。莫大なカネを手にした「ミュージシャン」はたくさんいる。それは一握りで、大多数の「ミュージシャン」は「稼げない」かもしれないが、だからと言って「ミュージシャンって稼げないんですよ」とひとまとめにするのはちょっと…。

さらに見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

──テレアポでのストレス耐性だけでなく、勉強をやめると宣言して以降、本当に一切やらなかったというのも含め、メンタルの強さがうかがわれますが、それは持って生まれたものですか。

うちは、父も祖父も医者、曽祖父は満州の建築家でした。サラリーマンがいないので、他の人と違うことが怖いという感覚がないんです。こうあるべき、がない



◎「サラリーマンがいないので」?

サラリーマンがいないので、他の人と違うことが怖いという感覚がない」という説明が謎だ。「父も祖父も医者」だと「自分も医者にならないと…」といった「感覚」が生まれても不思議ではない。

父も祖父も医者、曽祖父は満州の建築家」だとしたら、アウトロー的な生き方を誰もしていない。なのに「こうあるべき、がない」となるのか。

最後にもう1つ。

【ダイヤモンドの記事】

──では中川さんがストレスを感じるものは何ですか。

満員電車ですね。上京して原宿駅に行ったとき、狭いホームにたくさんの人が立っていて、そこに電車が入ってくるのを見て、やばい、東京で電車には乗りたくないと思いました

すぐにバイクの免許を取って、移動はバイクになりました。その後、会社員になってからも会社に内緒でバイクで通っていました。



◎大阪にも「満員電車」はあるが…

中川祥太」氏は大阪府の出身で、中学高校時代について「大阪から奈良までなので、往復2時間半から3時間かかるんですけど、通学はしていました」と語っている。だとしたら大阪で「満員電車」を経験しているはずだが…。

ド田舎から上京して「満員電車」に驚いたかのような話をしているのが引っかかる。「東京で電車には乗りたくない」と言うが、大阪の「満員電車」は平気なのだろうか。

あれこれ書いてきたが、深澤論説委員はこうした点に何の疑問も持たなかったのか。だとしたら「聞き手」としても力不足だ。

やはり引退が最善の選択だと思える。


※今回取り上げた記事「イノベーターの育ち方(第29回)中川祥太/キャスターCEO~小5で『もう勉強しない』と宣言した開業医の長男が『新しい働き方』で起業するまで
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/28647


※記事の評価はD(問題あり)。深澤献論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

AIに関する週刊ダイヤモンド深澤献編集長の珍説を検証
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_6.html

西船橋は「都心」? 週刊ダイヤモンド特集「勝つ街負ける街」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_79.html

「昔の人は早熟」? 週刊ダイヤモンド深澤献編集長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_11.html

2020年2月1日土曜日

記事の柱を意識してる? 日経 細川幸太郎記者「LG系、TV液晶韓国生産中止」

ニュース記事を書く時は「何が柱なのか」を意識する必要がある。1日の日本経済新聞朝刊企業・アジアBiz面に細川幸太郎記者が書いた「TV液晶韓国生産中止~LG系、中国勢攻勢で採算悪化」という記事は、そこが欠けている。
筑後川橋(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

液晶パネル世界最大手の韓国LGディスプレーは31日、国内でのテレビ向け液晶パネルの生産を中止する方針を明らかにした。韓国北部にある工場のラインを年内に止める。液晶パネルは中国勢が生産を増やして市況が悪化しており、採算改善の見通しが立たないためだ。同日発表の2019年12月期の連結決算は8年ぶりに営業損益が赤字に転落し、赤字額も過去最大となった。

生産中止は同日の決算発表後の電話会見で、徐東熙(ソ・ドンヒ)最高財務責任者(CFO)が明らかにした。徐氏は「液晶パネル市場の変化に適応するため生産能力の最適化を進める」と話し、収益悪化に歯止めがかからないテレビ向けパネルから自動車や産業用パネルへの転換を模索するという。

韓国の坡州(パジュ)にある工場を止め、テレビ向け液晶パネルは中国広州市の自社工場で生産を続ける

LGDの19年10~12月期の連結決算は、営業損益が4220億ウォン(約390億円)の赤字(前年同期は2790億ウォンの黒字)で、売上高は8%減の6兆4220億ウォンだった。液晶パネルの市況悪化が最大の要因。19年通期の営業損益は1兆3590億ウォンの赤字だった。

さらにLGDは10~12月期に資産の評価損で1兆6000億ウォンの特別損失を計上した。そのうち1兆4000億ウォン分が、米アップルのiPhone向けの有機ELパネルラインの減損だ。LGDは19年からiPhone向けに有機ELパネルの供給を始めたものの品質が安定せず納入量が伸び悩んだ。


◎肝心なところが…

液晶パネル世界最大手の韓国LGディスプレーは31日、国内でのテレビ向け液晶パネルの生産を中止する方針を明らかにした」と冒頭で記し、見出しでも「TV液晶韓国生産中止」と打ち出している。どう考えても「TV液晶韓国生産中止」が記事の柱だ。しかし、記事の約半分を決算の説明に費やしており、「生産中止」に関する情報が乏しい。何が記事のメインなのか、あまり考えずに書いたのだろう。

LGディスプレー」が「坡州(パジュ)にある工場を止め」るとどの程度の生産減になるのかは絶対に入れたい情報だ。「テレビ向け液晶パネルは中国広州市の自社工場で生産を続ける」ようなので、こちらの生産規模も知りたい。

中国広州市の自社工場」は競争力が高く「中国勢」に十分対抗できるのか。「坡州(パジュ)にある工場を止め」ても「液晶パネル世界最大手」の地位は確保できるのか。その辺りも気になるところだ。

しかし、記事の後半は決算内容の説明に終始している。決算に触れるなとは言わない。しかし、それは「TV液晶韓国生産中止」に関してしっかり書き込んでからでいい。今回のレベルで「しっかり書き込んだ」と思っているのならば、認識が甘すぎる。

ついでに言うと、決算についてもなぜ「営業損益」で書いているのかとの疑問が残った。「10~12月期に資産の評価損で1兆6000億ウォンの特別損失を計上した」のならば、その影響も反映される最終損益ベースで説明する方が適切ではないか。

最終損益での「赤字額も過去最大となった」のかは知りたい。


※今回取り上げた記事「TV液晶韓国生産中止~LG系、中国勢攻勢で採算悪化


※記事の評価はD(問題あり)。細川幸太郎記者への評価もDを据え置く。細川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/nhk.html

適法でも「ライドシェア起訴」? 理解に苦しむ日経 細川幸太郎記者の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_9.html