2018年6月30日土曜日

「罰則なし」に誤解あり 日経「セクハラ ゼロへの道」

日本経済新聞の「セクハラ ゼロへの道」という連載は最後まで苦しい内容だった。「(下)罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を」という記事では、相手の意に反して女性の体を触り続ける加害者を罰するための法律がないような書き方をしている。これは誤解だ。法整備が「世界に遅れ」ていると訴えたいのならば、正しい認識に基づいて主張を展開してほしい。
アルカスSASEBO(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 天野由輝子様 河野俊様 井上孝之様 松浦奈美様 河内真帆様

30日の朝刊総合1面に載った「セクハラ ゼロへの道(下) 罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは冒頭に出てくる以下の事例です。

『辞めた方があなたのためですよ』。男性事業主のセクハラに苦しんだ四国在住の30代の女性は、相談に乗ってくれた担当者の言葉が耳を離れない。事業主は何年にもわたって複数の女性の体を触り、性的なことをしつこく聞いてきた。厚生労働省が各地に設置する労働局に駆け込み、担当者が再三注意。男女雇用機会均等法で事業主にセクハラ防止措置義務があると行政指導をした。それでも止まらなかった。『我々には強制力がない』。担当者はさじを投げた。女性は転職先を見つけ退社。『加害者が罰せられないのはおかしい』と憤る

記事の書き方だと、日本ではこの「男性事業主のセクハラ」を法律に基づいて罰することはできないと思えます。しかし、実際には可能なはずです。「事業主は何年にもわたって複数の女性の体を触り」続けたのであれば、おそらく強制わいせつ罪が成立します(詳しい状況が分からないので断定はしません)。

労働局」には「強制力がない」かもしれませんが、警察に相談すれば「加害者が罰せられ」た可能性は高いはずです。「相手の意に反して体に触っても法的に罰する術がない」と取れる説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を記しておきます。

まず「『男性は仕事、女性は家庭』など、日本では男女の役割分担意識が根強い。変わらぬ意識が、セクハラ対策の遅れを生む」との説明が理解できませんでした。「男女の役割分担意識」と「セクハラ対策の遅れ」がどう関係するのか謎です。例えば「女性は家庭に」という価値観を持っている女性は「セクハラなんて自由にさせればいい。対策なんて必要ない」と主張する傾向があるのでしょうか。「違う」と言える材料は持っていませんが、考えにくい気はします。仮にそういう傾向があったとして、「男女の役割分担意識」を変えると「セクハラ対策」への考えも変化するのでしょうか。

以下の記述も引っかかりました。

『子育て中の女性に出張は無理』『若い男性は家庭より仕事優先』。コンサルティング大手のアクセンチュアでは、こうした『アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)』を自覚させる研修を行う。狙いは先入観の存在を認め、偏りを意識して振る舞うこと。『相手を尊重する心があればハラスメントは起きないはず』。講師役の那須もえマネジング・ディレクターは期待する

この説明は矛盾していませんか。「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」が問題なのであれば「相手を尊重する心」を持っていても「無意識の偏見」に基づく「ハラスメント」は起きるのではありませんか。例えば「相手を尊重する心があっても、無意識の偏見を抱えたままだとハラスメントは起きてしまう」といったコメントであれば、納得できます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「セクハラ ゼロへの道(下)罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180630&ng=DGKKZO32433040Z20C18A6EA1000


※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の責任者だと思われる天野由輝子氏への評価はDで確定とする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

防犯ブザーでセクハラ防止? 日経「セクハラ ゼロへの道」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_74.html

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