2020年11月30日月曜日

「広報幹部全て女性」で「多様性を重視」と日経 永沢毅記者は言うが…

30日の日本経済新聞夕刊1面に載った「バイデン政権、広報幹部全て女性に~人種も多様」という記事は「多様性」について考えさせられる内容だった。最初の段落で永沢毅記者は以下のように書いている。

夕暮れ時の巨瀬川と耳納連山

【日経の記事】

米大統領選で勝利を確実にした米民主党のバイデン前副大統領は29日、次期政権の大統領報道官に元国務省報道官の女性、ジェン・サキ氏を起用すると発表した。同氏を含む7人の広報チームの中枢幹部はすべて女性で固めた。多様性を重視する姿勢を打ち出す狙いがある


◎「多様性」はないような…

7人の広報チームの中枢幹部」を「すべて女性で固めた」場合「多様性を重視」と言えるだろうか。「広報チームの中枢幹部」に限れば性別に関して「多様性」はない。

政権全体で見れば「多様性」の「重視」になると反論する人がいるかもしれない。それも一理ある。だが、範囲を恣意的に決めていいならば、日本でも職場における「多様性」は確保できている。就業者数に占める女性の割合は4割を超えているからだ。

となると「全体ではそうかもしれないが、女性が極端に少ない職場もある」「管理職比率は非常に低い」といった反論が出てきそうだ。それに対しては、だったら「7人の広報チームの中枢幹部」を「すべて女性で固めた」場合はどうなのかという話に戻ってくる。

今回の場合「多様性を重視」と言うより「女性を重用」と説明する方がしっくり来る。

多様性」の問題はかなり難しい。厳密にやろうとすれば様々な弊害が出てくる。記事では「人種も多様」と書いている。仮に性別と人種にだけ配慮して「多様性」を確保しようとすると、なぜその2つだけなのかとの疑問が生じる。年齢、収入、学歴など色々な項目で「多様性」は考慮できる。社会の多様な集団で様々な項目の「多様性」を確保して人選を進めることは果たして現実的なのか。

それが無理だからといって性別や人種に限るのが合理的とも思えない。結局、「多様性」は突き詰めないに限る。厳密に考えていくと必ず「超えられない壁」にぶつかるはずだ。


※今回取り上げた記事「バイデン政権、広報幹部全て女性に~人種も多様」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201130&ng=DGKKZO66790130Q0A131C2MM0000


※記事の評価は見送る

2020年11月29日日曜日

東洋経済の書評を読んで思う「パワハラ」取り締まりの危うさ

パワハラ」という概念は曖昧で危険だ。週刊東洋経済12月5日号に載った「パワハラ問題」(井口博 著)に関する書評を読んで改めてそう感じた。書評の全文は以下の通り。

朝羽大橋から見た筑後川と耳納連山

【東洋経済の記事】

「部下が不快と言えばパワハラになるのなら、部下を叱ることもできない」などと誤解も多いパワハラ(上司の言動が業務上必要かつ相当の範囲であればパワハラではない)。ハラスメント関連を専門とする弁護士がパワハラ問題の急所を具体的な判例などを基に解説する。

 パワハラに当たる行為は、1.暴力行為、2.威圧的言動、3.人格否定発言、4.仕事に無関係な言動、5.他の社員がいる場所での叱責など。反面、1.業務が人の生命や身体の安全に関わる、2.部下のミスの程度が大きい、3.部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ。部下からパワハラ相談を受けた際の3大禁句は「あなたにも悪いところがある」「それくらいみんな我慢している」「なぜやめてくださいと言わなかったのか」だという。


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる


(1)暴力も許される?

1.業務が人の生命や身体の安全に関わる、2.部下のミスの程度が大きい、3.部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」らしい。だとすれば「部下のミスの程度が大きい」場合は「暴力行為」も許されるのか。あり得ないだろう。


(2)「仕事に無関係な言動」はパワハラ?

仕事に無関係な言動」が「パワハラ」に当たるとすれば、趣味の話を振ったりするのも「パワハラ」と認定される恐れがある。「好きな映画とかある?」と聞いただけで「パワハラ」と責められる可能性があるとしたら、あまりに窮屈だ。


(3)「他の社員がいる場所での叱責」はご法度?

飲食店の厨房で新入りがミスをした時に先輩が「叱責」するには作業を中断して個室で話をしなければならないのか。あるいは「叱責」すべきことを覚えておいて最後に個室で話をしろとなるのか。これが求められると指導する側は負担は大きい。「パワハラになるから指導なんてするもんじゃない」となり人材育成に問題が生じそうだ。


(4)「部下のミスの程度が大きい」では曖昧過ぎるような…

部下のミスの程度が大きい」場合は「セーフ」と言うが「大きい」かどうかの判断は難しい。3日連続で遅刻して皆に迷惑をかけた部下を「他の社員がいる場所」で「叱責」した場合は「セーフ」なのか、それともアウトなのか。人によって判断は分かれるだろう。客観的な基準がない場合、上司はとにかく「叱責」を避けるのが合理的だ。しかし、それが職場にとって最善とは考えにくい。


(5)「部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」に意味ある?

部下が理由もなく反抗的などの場合はセーフ」というのは上司にとって何かの救いになるだろうか。「パワハラ」が問題になった時に「部下」が「理由もなく反抗的」だったと認めるケースはまずないだろう。また「理由」があれば済むのならば「希望の部署に異動させてくれないから」でもいいはずだ。これを「理由」に他の「部下」が大勢いるところで「反抗的」な態度を取られて「他の社員がいる場所」で「叱責」したら「パワハラ」になるのか。理不尽と言うほかない。


(6)「あなたにも悪いところがある」は「禁句」?

「この前、同期と僕と先輩の3人で飲みに行った時に、先輩から『遅刻や無断欠勤が多過ぎる。直せ』と叱られました。確かに僕は遅刻ばかりしているけど、同期がいる前での叱責なのであれは先輩のパワハラですよね」と相談を受けた時に「あなたにも悪いところがある」と言ってはダメなのか。もしそうならば世も末だ。

パワハラ」という物差しを使って判断すると物事にうまく対応できない気がする。「暴力行為」「人格否定発言」などと分けて対処していく方が理に適っているのではないか。


※今回取り上げた記事「話題の本 新書 『パワハラ問題』


※記事への評価は見送る

2020年11月28日土曜日

日経ビジネス「賢人の警鐘」で気になる川本裕子 早大大学院教授の男性頼み

女性識者が女性問題を論じる場合「女性に問題はない。変わるべきは男性あるいは社会構造」と持っていきがちだ。日経ビジネス11月30日号に早稲田大学大学院教授の川本裕子氏が書いた「賢人の警鐘」という記事も、そうなっている。だが、それだとどうしても説得力に欠ける。記事の一部を見ていこう。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

 果たして今の日本は、小さな女の子が可能性を感じられる国だろうか、と自問した。確かに働く女性は増え、女性管理職の女性も増えつつある。しかし日本の性別役割意識は男女かかわりなく根強く、女性の挑戦意欲をそいでいる。先日の意識調査で多くの働く女性は幹部への昇進を望まないという結果が報じられていたが、そもそも環境を変えなければ解決できない

注目したいのはバイデン氏の勇気だ。能力を見極め、多様性を重んじ、従来の慣習にとらわれず挑戦者に道を開く。その勇気なしにハリス副大統領誕生はなかった。動かざる岩のような環境を変えるため、大きな一歩を踏み出す勇気を持つ。日本でもそんな「身近な職場のバイデン氏」が増え、少しずつでも状況を改善してほしいと思う


◎「環境」は自ら変えられるのに…

女性管理職」をもっと増やしたいと川本氏は願っているのだろう。そして「少しずつでも状況を改善」するために「『身近な職場のバイデン氏』が増え」てほしいらしい。つまり「女性登用に積極的な男性上司が増えればいいのに…」という訳だ。なぜそんなに男性頼みなのか。

優秀で昇進に意欲を見せる女性がたくさんいるのに、能力でも意欲でも劣る男性を積極的に登用する男性上司ばかりだから「女性管理職」が増えないのならば「『身近な職場のバイデン氏』が増え、少しずつでも状況を改善してほしい」と自分も思う。

しかし「先日の意識調査で多くの働く女性は幹部への昇進を望まないという結果が報じられていた」という。ならば、まずは女性自身の意識改革が必要だ(「女性管理職」を増やすべきとの前提に立てばだが…)。しかし川本氏はそこには踏み込まない。

そして「環境を変えなければ解決できない」と「環境」のせいにしてしまう。「人間は環境の中で育つ。可能性を否定されたり、不当な困難を伴ったりする環境であれば、多くの場合無意識に、人はその可能性を追わなくなる」と川本氏は記事の中で書いている。仮にそうだとしよう。しかし今は「働く女性は増え、女性管理職の女性も増えつつある」。それでも「多くの働く女性は幹部への昇進を望まない」のであれば「環境」のせいと片付けるのは無理がある。今の日本で「女性管理職」を目指す女性が「可能性を否定されたり、不当な困難を伴ったりする」ケースはかなり稀ではないか。

「女性よ自らの意識を変えろ」と訴えれば女性からの反発が予想される。だから多くの女性識者は腰が引けるのだろう。

百歩譲って「環境を変えなければ解決できない」としよう。だとしたら女性自身が起業して数多くの有力企業を育て、そこに女性幹部を登用していけばいい。「身近な職場のバイデン氏」に頼らなくても、自分たちの力で「環境」は変えられる。そこに踏み込まないで「男性が変わらないと…」「社会構造が今のままでは…」と訴えても甘えた主張としか思えない。

川本氏には歴史を振り返ってほしい。例えば、幕末の志士にとって倒幕は「可能性を否定されたり、不当な困難を伴ったりする」ものだっとと推測できる。実際に命を落とした者も多い。その時に志士たちが「その可能性を追わなく」なれば、明治維新は成立しなかっただろう。

女性が「管理職」を目指したからと言って暗殺されたり投獄されたりする訳ではない。なのになぜ女性に関しては「環境を変えなければ解決できない」となってしまうのか。

付け加えると「女性管理職」を増やすべきとの考えには同意できない。「果たして今の日本は、小さな女の子が可能性を感じられる国だろうか」と自問した川本氏は直後に「女性管理職」へ思いを巡らす。なぜ「女性管理職」なのか。アイドルでもケーキ屋でも看護師でもユーチューバーでもいいのではないか。

小さな女の子」が自分の将来について「可能性を感じ」る対象が「女性管理職」である必要はない。「女性管理職」に憧れる「小さな女の子」などいるのかとさえ思う。「小さな女の子」の多くが「可能性を感じ」たがる職業がアイドルやユーチューバーだとしたら、そちらの道がしっかり開かれているかどうかの方が重要だ。

女性識者の多くはいわゆるキャリアウーマンが多いので、自分と同じような道を進む「女性管理職」を増やしたいのは理解できる。しかし「小さな女の子が可能性を感じられる国」かどうかとは関係が薄い。

さらについでに言うと「従来の慣習にとらわれず挑戦者に道を開く」と言うが、米国で女性副大統領候補となったのは「ハリス」氏で3人目だ。選挙に勝ったのは初めてだが、副大統領候補に女性を選んできた歴史はあるのだから「従来の慣習にとらわれず」と見るのは無理がある。


※今回取り上げた記事「賢人の警鐘」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00121/00102/


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月27日金曜日

MMT否定論が雑な神樹兵輔氏「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”」

 MMT否定論で説得力のあるものを見たことがないと繰り返し述べてきた。「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”」という本でも筆者の神樹兵輔氏が否定論を展開しているが、やはり苦しい。「10~なぜMMTは経済学者に否定されるのか?」という記事の一部を見ていこう。

大阪城公園のイチョウ

【本の引用】

しかし、国債を増発していけば、いつか金利が上がり(国債価格は下落)、通貨の信認を失い、輸入物価急騰でハイパーインフレのリスクが懸念されます。ゆえに名だたる経済学者たちがMMTは経済理論ではないと否定的です。

ケルトン教授は、インフレの兆しがあれば、財政支出を取り止めるだけでよく、インフレを過度に恐れるなと反論しています。

中略)世界銀行のリポート「許容できない債務」には、国債は海外民間投資家の保有比率が、20%を超えると価格が急落する懸念が高まるとしています。

海外投資家は、日本の悪い情報があれば逃げ足が速く、レバレッジ(てこの原理で投資金額を増やすために借金をすること)をかけて一斉に売り抜けます。国債価格が急落する(金利急騰)恐れがあるのです。日本国債はすべて円建てとはいえ、海外からの借金が怖いのはギリシャ危機でも明白です。近年の日本国債の海外保有比率は9%と過去最高です。

まだまだ余裕がありそうですが、残高が膨らみ続けると金利急騰のリスクもあり、MMTはただの徒花だった--となるかもしれません。


◎否定になってる?

この本でも触れているように「MMT」では「インフレにならない限り財政赤字は問題ない」と考える。だとすると「ハイパーインフレのリスクが懸念され」るから「名だたる経済学者たちがMMTは経済理論ではないと否定的」なのは謎だ。「インフレ」になる可能性は「MMT」も排除していない。これでは否定になっていない。

「インフレを警戒して財政赤字を抑えておかないければ必ずハイパーインフレになる。インフレ率5%とか10%の段階でインフレを抑えようとしても無理」と言えるのならば「MMT」の否定にはなる。しかし神樹氏もそうは主張していない。

MMT」について「『自前の通貨をもつ国は、自国通貨建てでいくら国債を発行しても、債務不履行にはないらない』という理論」とも神樹氏は書いている。仮に「ハイパーインフレ」が現実になったとしても「債務不履行」になる訳ではない。むしろ既存の債務に関しては負担が軽くなる。

「(国債の)残高が膨らみ続けると金利急騰」が起きるとしよう。しかし「自前の通貨をもつ国」は「自国通貨建て」で際限なく「国債を発行」できるので「ハイパーインフレ」にならない場合でも「債務不履行」は起きないはずだ。

海外からの借金が怖いのはギリシャ危機でも明白」と神樹氏は言うが「ギリシャ」は「自前の通貨をもつ国」ではない。「MMT」の否定論を展開するのならば「自前の通貨をもつ国」の事例を持ってくるべきだ。

さらに言うと日本の場合「残高が膨らみ続けると金利急騰のリスクもあり~」という見方が当てはまらない。日銀が長期金利も0%近辺にほぼ固定しているからだ。「海外投資家」が一斉に日本国債を売却したとしても、日銀ならばその全てを購入して長期金利の上昇を抑える力がある。

「それは無理」と神樹氏は考えているのだろうか。実際に日銀は狂ったように国債を買い続けてきた。この能力に限界があると考える理由はないはずだ。あるなら教えてほしい。

結局、神樹氏も「MMTはただの徒花だった--となるかもしれません」と断定を避けて逃げている感じがある。「MMT」の否定は難しい。今回もこの結論でいいだろう。


※今回取り上げた本「経済のカラクリ~知らないと損をする53の“真実”


※本の評価はD(問題あり)

2020年11月26日木曜日

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…

26日の日本経済新聞朝刊1面トップは「危機下の株高、IT主導~NY株、初の3万ドル 緩和マネーが一極集中」という記事が飾っている。日経は「IT」株へのマネー「一極集中」というストーリーを好むが、いつも説得力がない。今回の説明も見ておこう。

日田市を流れる串川

【日経の記事】

今回は再びIT株がけん引する。採用銘柄のアップル、マイクロソフトに加え、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、フェイスブックの5社で時価総額は7.1兆ドル(約750兆円)と、日本株全体を上回る。

ダウ平均が2万ドルから3万ドルへと50%上昇した間に、5社の時価総額は3倍近くに膨らんだ。米国株全体に占める比率も17%と一極集中が進む


◎17%で「一極集中」?

5社の時価総額」が「米国株全体に占める比率」が90%に達しているのならば「一極集中」でいいだろう。だが「17%」ではそれほどでもない。しかも「5社」だ。「五極」とも捉えられる。

5社の時価総額」が「3倍近く」になる一方で「5社」以外の「時価総額」がほぼ横ばいならば、新規の「マネー」に関しては「一極集中」かもしれない。だが記事にそうした記述はない。今年に入ってからのテスラの株価急騰などを見ていると「5社」に「一極集中」と見るのは無理がありそうだ。

ついでに以下の記述にも注文を付けておく。


【日経の記事】

米国株の主役は5年ほどの周期で入れ替わってきた。ダウ平均が初めて1万ドルに乗せた1999年の後はインターネットの普及でIT(情報技術)株が脚光を浴びた。00年代半ばは金融株、10年前後はエネルギー株が市場の立役者だった。

今回は再びIT株がけん引する。採用銘柄のアップル、マイクロソフトに加え、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、フェイスブックの5社で時価総額は7.1兆ドル(約750兆円)と、日本株全体を上回る。


◎5年周期ならば…

5年ほどの周期で入れ替わってきた」と打ち出すのならば2015年前後の話は欲しい。しかし、なぜかそこを飛ばして「10年前後」から現在へ飛んでしまう。だったら「5年ほどの周期」と言わない方がいい。

また、記事では1万ドル(1999年)、2万ドル(2017年)、3万ドル(2020年)という節目を突破した時の時価総額ランキングを表にして載せているが「5年ほどの周期で入れ替わってきた」と解説しているのだから2010年、2015年、2020年という「5年ほどの周期」で見せてほしかった。


※今回取り上げた記事「危機下の株高、IT主導~NY株、初の3万ドル 緩和マネーが一極集中

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201126&ng=DGKKZO66650140W0A121C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員と後藤達也記者への評価はDを据え置く。


※後藤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「先進国の金利急低下」をきちんと描けていない日経 後藤達也記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_87.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

※藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2020年11月24日火曜日

ベトナムで「巨大IT企業」が育ってる? 日経「データの世紀」の無理ある分析

24日の日本経済新聞朝刊総合・経済面に載った「データの世紀~国またぐ情報、日本は劣勢 米欧中3極競う」という記事では分析に無理を感じた。一部を見ていこう。

筑後川の夕暮れ

【日経の記事】

アジアの新興国の躍進が著しい。01年時点と比べると、シンガポールのデータ量は約3千倍、ベトナムは約23万倍になった。対照的に日本は約225倍にとどまる。16年までに両国にデータ量で抜かれ、さらに差をつけられた。

日本の出遅れについて、世界のデータ流通に詳しい経済協力開発機構(OECD)経済産業諮問委員会の横沢誠氏は「日本型のデータビジネスはグローバルに開発されていない」と指摘する。

日本はヤフーや楽天、LINEなど有力なネット企業を抱えるが、LINEなど一部が東南アジアに進出しているのを除き、大半は国内での展開にとどまっている。グーグルやフェイスブックなど世界的にサービスを提供する企業を持たないことが、日本の越境データの伸びに直結しなかった可能性がある

東南アジアではシンガポールなどが国際ビジネス拠点として急成長している。中国系の動画サービスが急速に普及していることも、東南アジア諸国と中国のデータ量の押し上げにつながった一因とみられる

中略)データ量が増えた国では、いずれも巨大IT(情報技術)企業が育っている。中国は「BAT」と呼ばれる百度(バイドゥ)、アリババ集団、テンセントなどが次々に世界に進出した。シンガポールも政府主導の外資導入策で国際ビジネスが盛んになった。


◎ベトナムから「巨大IT企業が育っている」?

グーグルやフェイスブックなど世界的にサービスを提供する企業を持たないことが、日本の越境データの伸びに直結しなかった可能性がある」と書いているが、それはデータ量が急増した国として取り上げた「シンガポール」や「ベトナム」も同じだろう。

データ量が増えた国では、いずれも巨大IT(情報技術)企業が育っている」とも解説している。「ベトナム」にはGAFAや「BAT」に匹敵する「巨大IT企業」があるのか。「シンガポール」に関しても具体的な「巨大IT企業」の名前を挙げずに「政府主導の外資導入策で国際ビジネスが盛んになった」とごまかしているのは「巨大IT企業」が育っていないからではないのか。

記事によると「中国系の動画サービスが急速に普及していることも、東南アジア諸国と中国のデータ量の押し上げにつながった一因」らしい。裏返せば国内のサービスで国内需要をカバーすれば「越境データの伸び」は抑えられるはずだ。日本の「越境データの伸び」が鈍いとすれば、そうした要因もあるのではないか。

国内のIT企業が健闘しているから「越境データの伸び」が鈍いとしたら「国またぐ情報、日本は劣勢」という単純な見方で良いのかとの問題も出てくる。その辺りに記事では触れていない。分析としては甘いと言わざるを得ない。


※今回取り上げた記事「データの世紀~国またぐ情報、日本は劣勢 米欧中3極競う」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201124&ng=DGKKZO66547700U0A121C2NN1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月23日月曜日

減価償却や引当金の計上でANAは「巨額の資金が必要」と書いたFACTAの誤解

FACTA12月号の「『雇用守る』ANAに勝算ありや」という記事におかしな記述があった。「航空機の売却や人員削減には、資産の減価償却や退職給付引当金の計上で巨額の資金が必要だ」という説明は意味不明だと思える。FACTAには以下の内容で問い合わせを送っている。

福岡市を流れる那珂川
【FACTAへの問い合わせ】

FACTA編集人兼発行人 宮嶋巌様

12月号の「『雇用守る』ANAに勝算ありや」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

コロナ危機がリーマンショックよりも長期の航空需要低迷を招くのは確実であり、特にANAはリストラの深掘りを迫られるだろう。航空機の売却や人員削減には、資産の減価償却や退職給付引当金の計上で巨額の資金が必要だ

上記の記述は厳しく言えば意味不明です。「航空機の売却や人員削減には、資産の減価償却や退職給付引当金の計上で巨額の資金が必要だ」と書いていますが「減価償却や退職給付引当金の計上」を進めるための「資金」は必要ありません。会計上は費用・損失となるもののキャッシュアウトは伴わないはずです。

人員削減」に関しては「退職給付引当金」を「計上」した後で実際に「退職」金を支払う段階になると「資金」が必要になりますが「引当金の計上」に限れば「資金」は不要です。

航空機の売却」に関しては「資金」の手当てなしで完了できるはずです。売却損が出るとしても売却代金相当が「資金」として入ってきます(諸経費などはここでは考慮しません)。常識的に考えても分かるはずです。生活が苦しくなって、500万円で買った車を100万円で「売却」するとしましょう。この場合に「売却」のために「資金」の手当てが「必要」ですか。

記事では「航空機の売却」のためには「減価償却」しなければならないので「巨額の資金が必要」と説明しているのでしょう。ここは、さらによく分かりません。「航空機」を「売却」すれば資産が減るので「減価償却」の負担はむしろ軽くなります。売却前に一気に「減価償却」する訳でもありません。

航空機の売却や人員削減には、資産の減価償却や退職給付引当金の計上で巨額の資金が必要だ」との記述は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

参考までに、筆者が伝えたかったことを推測して改善例を考えてみました。

航空機の売却や人員削減には、資産の売却損や退職給付引当金の計上を伴うため巨額の損失が避けられない

どうでしょうか。問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視して記事中のミスを放置する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「『雇用守る』ANAに勝算ありや

https://facta.co.jp/article/202012007.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月22日日曜日

日経ビジネスで「罰則付きクオータ制」の導入を求める上野千鶴子氏に考えてほしいこと

日経ビジネス11月23日号に載った「時事深層~日経ビジネス電子版『Raise』で議論 『おっさん粘土層』を壊せ」という記事を読むと「クオータ制」導入論は相変わらず非論理的なものが多いと感じる。「社会学者の上野千鶴子氏は『罰則付きクオータ制』の導入で『女性登用を阻む“おっさん粘土層”を壊せ』と訴え」ているらしいが、記事中でまともな論理展開はしていない。

大阪市中央公会堂

記事の全文は以下の通り。

【日経ビジネスの記事】

安倍晋三前政権が掲げた「女性活躍」の方針を引き継いだ菅義偉政権。だが、進まぬ現実に政策は後退気味だ。2020年までに女性管理職比率を30%にするという方針は「20年代の可能な限り早い時期」に先送りされている。社会学者の上野千鶴子氏は「罰則付きクオータ制」の導入で「女性登用を阻む“おっさん粘土層”を壊せ」と訴える

菅義偉首相は政権発足後の初めての所信表明演説で「これまで進めてきた女性活躍の勢いを止めてはなりません」と語ったが、現実は厳しい。11月11日に開催した男女共同参画会議で、安倍晋三前政権が掲げた「2020年までに女性管理職比率30%」という目標を「20年代の可能な限り早い時期」に先送りすることを改めて確認した。帝国データバンクによる調査では同比率は8%弱。「女性活躍」という政策の歩みの遅さは深刻だ。

日経ビジネス電子版の議論の場「Raise(レイズ)」のシリーズ「みんなで考える日本の政策」では、ジェンダー問題が専門の上野千鶴子氏へのインタビューを基に、読者とともにジェンダーギャップ解消の政策について考えてきた。インタビューの上・下には合計で約60件のコメント(16日時点)が寄せられ活発な議論が交わされている。

19年末に世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数では、日本は153カ国中、過去最低の121位。こうした現状に上野氏は、「ぼうぜんとしている」と語り、「16年に女性活躍推進法が施行されたが、全く実効性がない。努力目標だけで罰則規定がないから」と指摘。組織内の管理職などの一定比率を女性に割り振る「クオータ制」を、罰則規定付きで導入する必要性を訴えた。

上野氏の主張にはおおむね好意的な意見が多数を占めている。SunValleyさんは「クオータ制、大賛成です。(中略)やはりクオータ制のような社会構造的なシステムを導入せずには、変わりません」と賛同する。

一方で、クオータ制だけでは不十分という意見も多数あった。wkb48さんは「『女も雇ってやる』みたいな意識でクオータ制なんて導入してもだめで、優秀な女性さん、ぜひ一緒に働いてください、って頭を下げるくらいの気持ちじゃないとだめですよ。危機感が足りなすぎる」と指摘する。「僕は従来の大企業にクオータ制を強制するよりも、女性が起業して新しい産業を作る方が現実的だと思います」(kazuhikoさん)と既存の組織には期待できないとの声も。みずおさんは、「大事なことは数合わせに走ることではなく、時間はかかりますが女性の社会進出への意識と周囲の理解を高めることが結局は重要」とコメントした。

政策の実効性を高める方法の提案もあった。小西光春さんは、女性管理職の登用率などに応じて税率が変化する「女性活躍推進税」を地方自治体が導入するなどして、女性が活躍している企業を誘致・支援する政策を提案した。

上野氏は、団塊世代の男性中心の価値観が団塊ジュニア世代で再生産され、「おっさん粘土層」となって女性の登用を阻んでいると懸念する。この悪循環を断ち切るには何が必要か。引き続き、読者の皆さんの意見をお待ちしている。


◎何のための「クオータ制」?

クオータ制」は何のために必要なのか。「女性管理職比率30%」を企業に強制するとどんな利益があるのか。そこを論じることなしに「女性管理職比率30%」を目指すべきとの前提で話が進んでいるのが気になる。

女性管理職比率30%」を達成すると株価が上がるのか、GDPが飛躍的に増えるのか、あるいは国民の幸福度が増すのか。その辺りを明らかにしないで「クオータ制」を「罰則規定付きで導入する必要性を訴え」られても困る。

女性管理職比率30%」を義務付ける「クオータ制」は明らかに男女差別だ。男女平等の原則を崩してまで「クオータ制」を導入するならば、マイナスを補って余りある大きなメリットが欲しい。しかし、それがあるようには思えない。「ジェンダーギャップ指数」は多少上向くかもしれないが「指数」が上向いても大多数の国民に直接のメリットはない。

おっさん粘土層」の話も根拠に欠ける。「上野氏は、団塊世代の男性中心の価値観が団塊ジュニア世代で再生産され、『おっさん粘土層』となって女性の登用を阻んでいると懸念」しているらしいが「おっさん粘土層」が存在するという根拠を記事中で示していない。

それに「団塊世代の男性中心の価値観が団塊ジュニア世代で再生産」されているのならば「おっさん粘土層」と呼ぶのはおかしい。「団塊世代」も「団塊ジュニア世代」も約半数は女性だ。女性の中にある「男性中心の価値観」も当然に「女性の登用を阻んでいる」はずだ。女性管理職が「女性の登用を阻んでいる」場合もあるし、女性社員が「女性の登用」を望まない場合も当然あるだろう。

それとも、同じ「世代」の「価値観」が男女で全く異なるという話なのか。ちょっと考えにくいが、もしそうならその根拠も示してほしい。

自分は男女平等主義者だが、平等が全てに優先するとは考えていない。「クオータ制」の導入で社会の様々な問題が一気に解決するのならば「女性管理職比率100%」という極端な差別を受け入れてもいいとさえ思う。

問題は「クオータ制」がもたらすメリットだ。今のところ男女平等の原則を崩してまで導入する意味は見出せない。「上野氏」には「クオータ制」を導入するとどんないいことが待っているのかぜひ教えてほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層~日経ビジネス電子版『Raise』で議論 『おっさん粘土層』を壊せ

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00837/?P=1


※記事の評価は見送る

2020年11月21日土曜日

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」

日本経済新聞の大林尚編集委員に記事を書かせるのはやめた方がいいと繰り返し指摘してきた。しかし日経にその気はないようだ。21日の朝刊総合1面にも「真相深層~初診『かかりつけ医』に限定 オンライン診療、恒久化の議論迷走 英には似て非なる『家庭医』」という記事を書いている。そして例によって完成度は低い。「菅義偉首相が指示したオンライン診療解禁の恒久化をめぐり、政府内の議論が迷走気味だ」との書き出しで始まるが、最後まで読んでも「政府内の議論が迷走」している話は出てこない。

御堂筋イルミネーション2020

記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

菅義偉首相が指示したオンライン診療解禁の恒久化をめぐり、政府内の議論が迷走気味だ。医療機関へのアクセス向上という視点で捉えられがちなオンライン診療だが、本格的な普及段階に入れば医師資格のあり方にもかかわってくる可能性がある。キーワードは「かかりつけ医」と似て非なる「家庭医」である。

かかりつけ医が政策の焦点に浮上した。10月30日の田村憲久厚生労働相の記者会見が契機だ。

「オンライン診療は安全性と信頼性をベースに初診も含めて進める。首相から恒久化という言葉ももらっている。普段かかっているかかりつけ医を対象に初診も解禁というか、恒久化すると3者で合意した

3者は、河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相を含めた3閣僚を指す。オンライン診療は安倍政権時の4月、規制改革推進会議(首相の諮問機関)がコロナ禍を受けて特命タスクフォースを新設し、収束までの特例として全面解禁した。感染リスク対策の意味合いが強かったが、首相の恒久化指示で政府の動きが慌ただしくなった。

日本医師会を中心に医療界には全面解禁への慎重論が強い。医師会はかねて、かかりつけ医の普及に熱心だ。意を受けた厚労省は、タレントのデーモン閣下が「気軽に相談できるかかりつけ医をもちましょう」と勧める広告動画をつくり、東京メトロの車内モニターなどで流している。

問題はかかりつけ医の定義だ。医師会のウェブサイトには「何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医や専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的能力を有する医師」とある。こんな名医が自宅や勤め先の近くにいて平時から健康管理を任せられれば、誰だって心強い。

日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が9月にまとめた意識調査によると、かかりつけ医がいる人は55%。年齢別では70代以上の83%に対し、20代は22%だ。普段あまり医者の世話にならない若年層が低いのは当然だが、20代の31%が「いるとよいと思う」と答えた。この割合は前回調査より高い。日医総研はコロナの影響があるのではと推測する。


◎そもそも「議論」はあった?

この記事からは「政府内の議論」があったのかどうか読み取れない。それで「迷走」しているかどうか分かるはずもない。「普段かかっているかかりつけ医を対象に初診も解禁というか、恒久化すると3者で合意した」のは分かる。だが、これだけでは「迷走」には程遠い。そして話は「医師会」という「政府」外へと移ってしまう。

政府内の議論が迷走」しているかどうか。記事の後半も見ておこう。


【日経の記事】

英国にはGP(ジェネラル・プラクティショナー)と呼ばれる資格がある。日本語なら「家庭医」といったニュアンスだ。すべての人が自宅近くの診療所に勤務する家庭医を1人登録し、初期診療はその家庭医に診てもらうのを原則とする。

同国の国民医療制度(NHS)の家庭医になるには医学部卒業後に基礎研修を受け、最短3年の専門研修が義務づけられている。指導医から一定の評価が得られれば一人前として登録される。いくつもの診療科の治療をこなし、手に負えない患者は素早く病院の専門医につなぐのが使命だ。

日本医師会は「患者と対面して五感を研ぎ澄ませて診察する方が見落としなどのリスクを小さくできる」などを根拠に、とくに初診時の対面原則を崩そうとしない。むろん対面診療の重要性に異論はない。病状や患者が置かれた環境で対面でなければならない場面はある。一方、デジタル技術の飛躍的な革新で対面を上回る効果を発揮するオンライン診療が可能になるケースも出よう。

医師会関係者は「日本の医学教育はオンライン診療を想定しておらず、医学生は対面診療が基本と教わる。オンライン診療がなし崩しに広がれば医療の質が下がる心配が強い」とも話す。裏を返せば、医学教育にもデジタル化が前提の改革が必要になるのではないか。デジタル専門教育を受けた医師なら初診からのオンライン診療を認めるとの考え方も成り立つ。

かかりつけ医の範囲が曖昧なままオンライン初診を認める厚労相の方針は果たして機能するのか。仮に英国のような家庭医資格の創設を俎上(そじょう)に載せるなら、それはそれで意義深い改革になるかもしれない。


◎「医師会」や「英国」の話の前に…

医師会」や「英国」の話をあれこれとしているが「政府内の議論が迷走」していると判断できる記述はない。そして「かかりつけ医の範囲が曖昧なままオンライン初診を認める厚労相の方針は果たして機能するのか」と終盤で問いかける。しかし「かかりつけ医の範囲が曖昧なまま」なのかどうか記事で説明はしていない。「医師会」や「英国」の話をする前に、そこをしっかり解説すべきだ。

かかりつけ医の範囲」はどう「曖昧」なのか。「かかりつけ医の範囲」が「曖昧なまま」になる過程でどういう「政府内の議論」があったのか。そこを描けば「迷走」だと読者も納得できるかもしれない。しかし、記事では何も触れていない。

記事の途中では「問題はかかりつけ医の定義だ。医師会のウェブサイトには『何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医や専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的能力を有する医師』とある」とも書いている。なのになぜ「政府」が「かかりつけ医」をどう定義しているのか言及しないのだろう。

医師会のウェブサイト」にどう書いているかは、それほど重要ではない。問題は「政府」がどう「かかりつけ医の範囲」を決めるかだ。そこの説明を省いて、重要性の薄い話を長々と書けるのは悪い意味で凄い。

やはり大林編集委員に記事を任せるのはやめた方がいい。結論は今回も変わらない。


※今回取り上げた記事「真相深層~初診『かかりつけ医』に限定 オンライン診療、恒久化の議論迷走 英には似て非なる『家庭医』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201121&ng=DGKKZO66521430R21C20A1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

2020年11月20日金曜日

「大麻合法化」否定論に合理性を欠く日経1面コラム「春秋」

合理的に物事を考えるのは意外と難しい。日本経済新聞で朝刊1面コラム「春秋」の執筆を任されるほどの人物からば難なくやれそうだが、実際にはそうでもない。20日の「春秋」を読めばよく分かる。全文を見た上で問題点を指摘したい。

秋の大阪城

【日経の記事】

欧米では、海外では、としきりに向こうの事情を並べたあげく、どうもこちらは遅れているなあと嘆く――。こういう物言いを、昔は「ではのかみ」と揶揄(やゆ)したものだ。時代劇などに出てくる「出羽守」のもじりである。言葉はすたれたが、いまもお仲間は少なくない。

まかり間違えば、外国のよからぬ風俗にまで共感することになろう。そこでいささか気になるのは薬物である。さきの米大統領選に合わせた住民投票で、ニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナの4州は嗜好品としての大麻の合法化を決めた。すでに11の州と首都ワシントンで解禁されており、流れは急だ。

カナダとウルグアイは国全体で合法化、ニュージーランドも国民投票で否決はしたが賛否は拮抗した。こんな情勢を眺めて「あちらでは」とのたまう向きがいるかもしれぬ。解禁の背景には、大麻が社会にまん延したため禁止は現実的でなくなったという実態がある。当局の管理下に置いて「産業化」する窮余の策なのだ。

日本のほうがはるかに健全なのだから、勘違いしてはなるまい。むしろ合法化した方面から「ニッポンでは」とうらやましがられていい。そういえば「出羽守」の同類に「引換券」がある。「それにひきかえ」とやたら比較する論法のことだ。「覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ大麻は……」。その考えこそ怖い


◎「大麻がダメ」の根拠は?

欧米では、海外では」と持ち出して「海外」に合わせるべきだと訴えるのが必ずしも正しくないのはその通りだ。「海外では合法化の流れになっているから日本でも大麻を合法化しろ」との主張は確かに説得力に欠ける。しかし「だから大麻の合法化は避けるべき」との結論にはならない。

筆者が「大麻の合法化はダメ」と考えるのならば、その根拠を示すべきだ。しかし今回の記事では何の根拠も示していない。

例えば、酒やタバコには依存性があり健康にも害がある。なのに日本では合法だ。大麻についても依存性や健康被害などの要素を酒やタバコと比較して、合法化すべきかどうかを論じてほしい。

記事を読む限り、筆者には「大麻=良くないもの、合法化すべきでないもの」との前提があり、それを正当化するために話を作っているように見える。「結論ありき」は合理的に物事を考える上での大きな障壁だ。今回の記事には、その障壁を感じる。

『覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ大麻は……』。その考えこそ怖い」--。この「論法」が通用するのならば、色々な物を非合法化の対象にできる。「『覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ酒は……』。その考えこそ怖い」。だから「」も非合法化すべきだとなる。「」をゲームやスイーツに置き換えてもいいだろう。

ついでに言うと「欧米では、海外では、としきりに向こうの事情を並べたあげく、どうもこちらは遅れているなあと嘆く」のは日経のお家芸でもある。社説でも「デジタル後進国」からの脱却を訴えていたはずだ。

人の振り見て我が振り直せ--。この言葉を改めて噛み締めてほしい。


※今回取り上げた記事「春秋」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201120&ng=DGKKZO66451420Q0A121C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月19日木曜日

「世界との差を埋める最後のチャンス」に根拠欠く日経 梶原誠氏「Deep Insight」

日本経済新聞の梶原誠氏を「書きたいことが枯渇した書き手」として見ている。19日の朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~株高が迫る『復旧より復興』」という記事を読んでも、その評価は変わらない。漠然とした話が多いのも訴えたいことが希薄だからだろう。記事の一部を見ていく。

ハローキティ新幹線(岡山駅)

【日経の記事】

投資家の期待は、日経平均が29年ぶりの高値を回復した日本企業にも向かっている。コロナで経営環境が一変し、世界の企業がビジネスモデルを変えざるを得ない今は、「失われた30年」で開いた世界との差を埋める最後のチャンスに違いない

危機だからこそ思い出すべき教訓がある。復旧止まりへの誘惑に負け、復興できなかった1995年の阪神大震災後の神戸港だ。


◎分からないことだらけだが…

『失われた30年』で開いた世界との差を埋める最後のチャンスに違いない」と言うが、分からないことだらけだ。「『失われた30年』で開いた世界との差」とは何なのだろう。株式時価総額なのかGDPなのか、あるいは競争力のようなものなのか。「世界」とは「日本以外の全ての国」と理解すればいいのか。「世界」の中で日本は何かの指標が最下位なのか。この辺りはぼんやりとしたままだ。

なぜ「最後のチャンス」になるのかの説明はもちろんない。「」が本当に「最後のチャンス」だとして、その期限はいつなのか。来年なのか、あるいは10年後なのか。しかし梶原氏は何も教えてくれない。

普通に考えれば「最後のチャンス」ではないだろう。例えば2100年の日本で「振り返ると世界との差を埋めるのは2020年が最後のチャンスだったなぁ。あれから80年も経って差を埋める可能性は完全にゼロになっちゃったよ」といった話になっているだろうか。日本が国としての形を保っている限り「チャンス」はいつの時代にもあると思える。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

94年にはコンテナの取り扱いで世界6位だった同港は再建の際、大型船の誘致でのし上がる釜山や高雄に対抗して水深を深くしようとした。だが「焼け太りは不可」と、元通りへの修復までしか国費が出なかった。順位は19年、67位まで下がっている。危機という改革の機会を生かせなければ衰退するのは、企業も同じだ。

日本企業のデジタル復興を測る「温度計」といえる東証1部上場企業がある。企業や自治体にデジタル化を指南するチェンジだ。

13日に発表した20年9月期決算は売上高が前期比66%増、純利益も4.1倍へと急増した。主要顧客の運輸業向けの業務はコロナによる業績悪化で失速したが、途中からは、テレワークの導入事業が幅広い業種で伸びて盛り返した。「生き残りをかけた企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)投資」。福留大士社長は決算説明会で要因を振り返った。

興味深いのは株価だ。9月28日には年初から9倍近くまで急騰して上場来高値をつけたが、その後は30%以上下げるなど荒い展開が続く。日本企業のデジタル復興への姿勢が本物なのか、市場はまだ確信を持てていない。

改革して復興を目指す企業と、復旧に甘んじる企業。待望のワクチンが見えてくるとともに、マネーによる選別の号砲が鳴ったように見える


◎最近になって「号砲が鳴った」?

マネーによる選別の号砲が鳴った」のは最近だと梶原氏は見ているようだ。しかし常識的に考えれば「マネーによる選別」に休みはない。訴えたいことがないから、こうした説得力に欠ける漠然とした結びになってしまうのだろう。

神戸港」と「チェンジ」の話をした後に「マネーによる選別の号砲が鳴ったように見える」とつなげているが、「マネーによる選別の号砲が鳴った」と感じられる事例にはなっていない。取って付けたような結論が残念だ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~株高が迫る『復旧より復興』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201119&ng=DGKKZO66380520Y0A111C2TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_16.html

「世界がスルーした東京市場のマヒ」に無理がある日経 梶原誠氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight.html

2020年11月18日水曜日

「男性と女性の差は筋力だけ」と日経ビジネスで語った出口治明APU学長の誤解

日経ビジネス電子版に11月13日付で載った「昭和おじさん社会は『性差別社会』と言った方がいいね!~河合薫氏・出口治明氏対談『昭和おじさん社会は変わったのか』(1)」という記事では特に立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口氏の発言の多くに問題を感じた。具体的に指摘してみる。

耳納連山に沈む夕陽

【日経ビジネスの記事】

出口:はい、性差別。昭和の社会は、製造業の工場モデルをベースにしているのです。製造業の工場というのは長時間労働が向いているのです。機械は疲れないので、24時間操業が一番効率がいい。加えて製造業の工場は重いものも運ぶので、男性のほうが向いているのです。男性と女性の差は筋力だけですから。


◎「男性と女性の差は筋力だけ」?

男性と女性の差は筋力だけ」だとすれば、女性労働者にだけ生理休暇の取得を認めるのは不合理だ。「筋力」以外に「男性と女性の差」はないのだから生理休暇の必要性にも男女差はないことになる。

出口氏は過去の日経の記事で「どんな組織であれキーワードは女性です。すでに経済社会は製造業からサービス業に主軸を移しています。そのユーザーは7割が女性。中高年男性にニーズは分かりません」と訴え「クオータ制」の導入を求めていた。この主張は「男性と女性の差は筋力だけ」という説明と矛盾する。「男性と女性の差は筋力だけ」ならば、「サービス業」での顧客ニーズの理解力に男女差はないはずだ。

出口氏の問題発言は他にもある。


【日経ビジネスの記事】

出口:それには人類はもう答えを出しています。ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっているので、100を超える国でクオータ制を導入しているでしょう。答えは分かっているので、そこはもういかに意識を高めて、クオータ制を政策として打ち出していけるかという、まさに市民の力、ペンの力、メディアの力にかかっていると思いますね。


◎女性はそんなにダメな存在?

どういう根拠があるのか知らないが「ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっている」と出口氏は言い切る。曖昧な部分があるので、ここでは「ロールモデルがなければ育たないという条件は全ての女性に当てはまるが、男性は当てはまらない人が多数いる」と理解しよう。この場合、採用や昇進で男性が優位となるのは当然だ。社内で成長するのに必ず「ロールモデル」を必要とする女性は、その点で明らかに男性よりも劣ることになる。

例えば、ある企業が初めて海外事業を立ち上げるとしよう。この場合、社内の女性には任せられない。女性は海外事業を立ち上げた経験のある人を「ロールモデル」としなければ「育たない」からだ。

一方、男性ならば「ロールモデル」なしでも試行錯誤を繰り返して成長し、海外事業を軌道に乗せられる可能性が十分にある。新たな領域に挑戦しようとする企業は、なるべく従業員の男性比率を高めておいた方が良いことになる。

個人的には「ロールモデルがなければ女性が育たないということが分かっている」という話が怪しいとは思う。何を根拠に出口氏がこう言っているのかが気になる。

河合氏の発言にもツッコミを入れておきたい。


【日経ビジネスの記事】

河合:私も微力ながらそういったことを書き続けているんですけれども、女性問題を取り上げると「男性差別だ!」と批判され、男性差別を取り上げると沈黙されるという状況はあまり変わっていないように思います。


◎何か問題が?

女性問題を取り上げると『男性差別だ!』と批判され、男性差別を取り上げると沈黙されるという状況はあまり変わっていない」と河合氏は言う。この「状況」は変わるべきだと考えているようだ。しかし、なぜそう考えるのか謎だ。

女性問題を取り上げると『男性差別だ!』と批判され」るのは悪いことではない。河合氏の「取り上げ」方に「男性差別」と取れる面があるのならば「批判」を受けるのは当然だ。社会の在り方としてはむしろ好ましい。

男性差別」など全くしていないのに「批判」を受けているのであれば話は変わってくるが、具体的な事例を示していないので何とも言えない。

男性差別を取り上げると沈黙される」というのは分かりにくいので「男性差別を取り上げると批判が出ない」という意味だとしよう。この場合「批判」を受けたくないとの前提で考えれば河合氏にとっては都合がいい。「状況」が変わって「批判」が殺到したら河合氏は歓迎するのか。

男性差別を取り上げると沈黙される」というのは「男性差別を取り上げても褒めてもらいない」との趣旨かもしれない。この場合は甘えるなと言うほかない。


※今回取り上げた記事「昭和おじさん社会は『性差別社会』と言った方がいいね!~河合薫氏・出口治明氏対談『昭和おじさん社会は変わったのか』(1)」https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00118/00098/?P=1


※記事の評価は見送る。

2020年11月14日土曜日

MMTの基礎を理解しない塚崎公義氏が書いたダイヤモンドオンラインの記事

MMTは否定が難しい理論で、これまで説得力のある否定論に触れた記憶がない。 11月13日付の「バイデン政権の米国がMMTを採用すれば世界が迷惑する理由」というダイヤモンドオンラインの記事では経済評論家の塚崎公義氏がこれに挑戦している。塚崎氏に関しては経済記事の書き手として要注意と見ており、まともに否定論を展開できるとは考えにくい。中身を見てみると、やはり予想通りだった。

耳納連山に沈む夕陽

記事の一部を見ていく。

【ダイヤモンドオンラインの記事】

バイデン前副大統領の当選が確実となった模様の米大統領選。インフレ発生時にそれを加速しかねないMMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)は、日本においても危険である。まして諸外国でのMMTはさらに危険な要素をはらんでおり、基軸通貨国の米国がMMTを採用すれば世界中が迷惑をこうむる可能性が高い。

昨年来、米国でModern Monetary Theory(MMT、現代金融理論)と呼ばれる財政学の理論が話題になっている。「自国通貨で借りている財政赤字は紙幣を印刷すれば返せるのだから、巨額でも構わない」というものである。

伝統的な経済学とは大きく異なる「異端」であるが、一定の人気を博しているようだ。新型コロナ不況に際して各国政府が巨額の財政出動を迫られたことから、その理論的な裏付け(言い訳?)としても使われるかもしれない。

大接戦となった米国大統領選挙は、現職のドナルド・トランプ氏が投票での不正を裁判所に訴えており予断を許さないが、11月8日(日本時間)に民主党のジョー・バイデン前副大統領が事実上の勝利演説をした。

米国の民主党左派はMMTに好意的なので、来年1月以降のバイデン政権の中でMMTが一定の影響力を持つことになるかもしれない。これは危険であるとともに、米国以外に悪影響を及ぼしかねない迷惑な政策であり、今後の推移に注目したい。

筆者は、日本の財政赤字には比較的寛容で、財政が破綻する可能性は低いので、財政再建より景気対策をしっかり行うべきだ、という立場であるが、それでもMMTに賛同するほど楽観的ではない。

無理なく増税できるのであれば、すべきだと筆者は考えている。それは、財政赤字が膨らむと、インフレが起きる可能性が高まるからである。

MMT論者は、日本では巨額の財政赤字が続いてもインフレが起きていないのだから、インフレを懸念することはない、と考えているのかもしれないが、それは二つの意味で危険である。


◎MMTを理解してる?

MMT」とは「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」(中野剛志氏の「全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室」より引用)という理論だ。「自国通貨で借りている財政赤字は紙幣を印刷すれば返せるのだから、巨額でも構わない」という塚崎氏の理解だと問題が残る。

なので「MMT論者は、日本では巨額の財政赤字が続いてもインフレが起きていないのだから、インフレを懸念することはない、と考えているのかもしれないが、それは二つの意味で危険である」といった主張をしてしまうのだろう。「MMT論者」であれば「高インフレ」が生じる可能性を認めつつ、それを抑えるべきとの立場になる。しかし、なぜか「インフレを懸念することはない、と考えているのかもしれないが~」と塚崎氏は書いてしまう。出発点から間違っている。

続きを見ていこう。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

一つには、日本でもこれからインフレが起きるかもしれないからである。もう一つには、日本で起きないから海外でも起きないとは限らないからである。

というよりも、MMTはインフレを起こすのではなく、いざインフレが起きたときにそれを加速する燃料の役割を果たすと考えられるので、日本や海外で本当にインフレを加速するのか否かを見てみないと何ともいえないというのが実情だ。


◎MMTは「インフレを加速」?

MMTはインフレを起こすのではなく、いざインフレが起きたときにそれを加速する燃料の役割を果たす」と塚崎氏は考えている。これも誤解だ。「高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」というのが「MMT」の考え方なので、「高インフレ」になれば増税や政府支出削減で「財政赤字」を抑える方向に動く。「MMT」に基づいて経済政策を決める場合「いざインフレが起きたとき」には「それを加速する燃料の役割」は果たせない。逆にブレーキを踏んでしまう。

記事の中で塚崎氏は「単純化して言えば、MMTは、政府が日銀から借金をして支出をし、それを増税せずに放置する」とも述べている。これも誤解だ。「増税せずに放置する」かどうかは「インフレ」の状況次第だ。

繰り返すが「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」というのが「MMT」の基礎だ。塚崎氏にはまずそこを学んでほしい。


※今回取り上げた記事「バイデン政権の米国がMMTを採用すれば世界が迷惑する理由」https://news.yahoo.co.jp/articles/82f786cf042eb110bade7de217a3d9e0782aea89?page=1


※記事の評価はE(大いに問題あり)。塚崎公義氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

久留米大学の塚崎公義教授の誤り目立つ東洋経済「50歳からのお金の教科書」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50_9.html

2020年11月13日金曜日

読売はちゃんと書いているのに…必須情報が抜けた日経「すかいらーく、200店閉鎖へ」

13日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「すかいらーく、200店閉鎖へ~今期最終赤字150億円、雇用は維持」という記事は基本的な情報が欠けている。「200店閉鎖」に関するくだりは以下のようになっている。

耳納連山と筑後川

【日経の記事】

すかいらーくホールディングスは12日、2021年末までに不採算店舗を中心に全約3000店のうち、7%にあたる約200店を閉めると発表した。業績が大幅に悪化する中、コスト削減を進める。

都市部に店舗の多い「ジョナサン」を中心に閉鎖し、宅配に力を入れている「ガスト」やからあげ専門店「から好し」など他業態に転換する。人員削減はせず、配置転換で雇用を維持する。


◎店舗数は減らない?

約200店を閉めると発表した」と書く一方で「他業態に転換する」とも記している。結局、店舗数は変わらないとも取れるが、よく分からない。そこで他社の記事を見てみた。

今年はすでに85店を閉店しており、首都圏を中心に21年末までにさらに約120店を閉店する計画だ。一方、持ち帰りや宅配の専門店など、約80店を新たに出店する」と読売新聞は書いている。これだと問題は感じない。日経も「約80店を新たに出店する」という情報は入れるべきだ。

経済紙の方が雑な書き方で肝心な情報を盛り込めていないのは辛い。反省を促したい。


※今回取り上げた記事「すかいらーく、200店閉鎖へ~今期最終赤字150億円、雇用は維持

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201113&ng=DGKKZO66169830S0A111C2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

「クオータ制」は差別ではない? 日経ビジネスで田中知美氏が展開する無理筋

クオータ制は男性への『逆差別』か?」に関しては、「」かどうかはともかく「差別」と考えるのが自然だ。「だから導入するな」とは言わない。「クオータ制」によって世界の諸問題が一気に解決するのならば「差別」に目をつぶって導入する選択もありだ。しかし、強引に「差別」ではないかのような主張をするのは感心しない。世界銀行上級エコノミストの田中知美氏が日経ビジネスに書いた「クオータ制は男性への『逆差別』か?~世界の調査から見えた事実」という11月12日付の記事も、無理のある論理展開が目に付いた。問題のくだりを見ていこう。

JR久留米駅に入ってくるSL無限列車

【日経ビジネスオンラインの記事】

前述のスタンフォード大学のニーデルレ教授とピッツバーグ大学のヴェスターランド教授は、スイス・チューリッヒ大学のカーミット・セガール助教授との共同研究("How Costly Is Diversity? Affirmative Action in Light of Gender Differences in Competitiveness", Management Science, Vol 59, No.1, January 2013)で、米ハーバード大学の学生を被験者に、女性へのクオータ制を実験に導入してみた。

この実験ではグループあたりの人数を4人から6人に増やし、男女それぞれ3人ずつを1グループにした。そして競争による報酬の場合は各グループで2人の勝者に報酬が支払われることになった。

クオータ制のラウンドが実験に追加され、クオータ制のラウンドでは勝者2人のうち1人は必ず女性が選ばれるというルールが導入された。実験の結果、クオータ制がない場合には能力がある女性の多くが競争を選択しないがクオータ制が導入されると競争を選ぶようになったため女性の勝者が増えた。

能力が低いのに競争を選んでいた男性が競争に勝つ確率は低くなったが、能力が高い男性は以前と同じように競争に勝つので優秀な男性に不利になるというような逆差別の問題は起きなかった。つまり、クオータ制が導入される前は能力が高いトップ2人の男性が競争に勝っていたが、クオータ制の下では、最も能力が高い男性と最も能力の高い女性が勝者として選ばれることが多くなった。

能力が2番目に高い男性よりも最も能力が高い女性の方が高い能力を持つことが多いので、勝者の質も低下しなかった。この実験は大学生を対象に行われた人工的な設定であるため、実際の企業内の状況や企業文化を反映しているわけではない。しかしながら、クオータ制が必ずしも逆差別を生まない、そして企業の効率性も損なわない可能性があることを示唆している


◎「能力が高い男性は以前と同じように競争に勝つ」?

クオータ制が必ずしも逆差別(の被害者)を生まない」というのは間違いではない。企業が自由に管理職を選んだら、たまたま「クオータ制」が求める「30%以上は女性」という条件を満たしていた場合「差別」のせいで管理職になれない男性は生まれない。しかし、全体に当てはめていけば「クオータ制」は必然的に「差別」を生む。それを論証していきたい。

まず田中氏の説明には矛盾がある。「クオータ制」を導入しても「能力が高い男性は以前と同じように競争に勝つ」と田中氏は言う。しかし「クオータ制が導入される前は能力が高いトップ2人の男性が競争に勝っていたが、クオータ制の下では、最も能力が高い男性と最も能力の高い女性が勝者として選ばれることが多くなった」はずだ。「能力が高いトップ2人の男性」のうち1人は敗者となる。それでも「能力が高い男性は以前と同じように競争に勝つ」と言えるのか。

本題に移ろう。

能力が2番目に高い男性よりも最も能力が高い女性の方が高い能力を持つことが多いので、勝者の質も低下しなかった」としよう。だから「差別」はないと言えるだろうか。「能力が2番目に高い男性よりも最も能力が高い女性の方が高い能力を持つことが多い」としても、一部の「グループ」では「能力が2番目に高い男性」と比べると能力が低い「女性」が勝者となる。この場合、敗者となった「男性」は明らかに「差別」の犠牲者だ。

能力が2番目に高い男性よりも最も能力が高い女性の方が(必ず)高い能力を持つ」と言えるのならば議論の余地はあるが、そうではないのならば「差別」があると考えるしかない。

この実験」では「勝者」を2人にしているが、これを1人にして「クオータ制」を導入するとさらに問題は大きくなる。「クオータ制が導入される前は能力が高いトップ2人の男性が競争に勝っていた」らしいので「勝者」を1人にしても当然に全員「男性」になる。「クオータ制」で3割の「勝者」を「女性」にすると、グループ内で最も「能力が高い男性」のうち3割は確実に敗者となる。「能力が高い男性は以前と同じように競争に勝つ」という田中氏の説明はさらに成立しなくなる。

クオータ制」が「差別」に当たることは認めた方がいい。強引に正当化しようとすると「クオータ制」導入論者が無理筋を主張する人に見えてしまう。「差別」によって不利益を被る人もいるが、それを補って余りある社会的利益があるので導入しようと訴える他に「クオータ制」を正当化する道はないと思える。


※今回取り上げた記事「クオータ制は男性への『逆差別』か?~世界の調査から見えた事実

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00027/103000021/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月12日木曜日

日経社説「オンライン診療解禁の後退を危惧する」に感じた矛盾

12日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「オンライン診療解禁の後退を危惧する」という社説には矛盾を感じた。全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の社説】

耳納連山から見た夕陽

菅義偉首相が恒久化を指示したオンライン診療の解禁について、政府内の議論があらぬ方を向き出した。初診患者は「かかりつけ医」にかぎる方針を田村憲久厚生労働相が示したためだ。

解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである。規制改革を政権のど真ん中に置く首相の指導力が問われる局面だ。

厚労相によると、オンラインでの初診はかかりつけ医にかぎる方向で河野太郎規制改革相、平井卓也デジタル改革相と合意した。

対象とする病気の種類などは、医療関係者らをメンバーとする厚労省の検討会で議論する。診療報酬のあり方は、厚労相の諮問機関である中央社会保険医療協議会が審議することになろう。

問題は、かかりつけ医の範囲がはっきりしない点にある。日本医師会は「何でも相談でき、最新の医療情報を熟知し、必要なときに専門医を紹介でき、身近で頼りになる総合能力を持つ医師」などと定義している。

しかし、こんな理想の医師が自宅や勤め先の近くにいる人は、さほど多くないのではないか。その範囲を狭くとらえることになれば、患者が望んでもオンラインによる初診はほとんど使えない事態にならないかが心配だ。

医師会は「医師が対面で五感を研ぎ澄ませて患者を診るほうが得られる情報が多く、見落としのリスクが小さい」などを根拠に、オンライン診療を対面診療の補完手段と位置づけている。

対面診療の重要性は私たちも共有している。必ず対面でなければならない場面はある。かたやデジタル技術の長足の進歩が、対面を上回る効果を発揮するオンライン診療を可能にするとも考える。

コロナ禍の特例であるオンライン診療の解禁を維持し、時と場合によって医師・患者の双方が対面とオンラインを適切に使い分ける環境を整える。安全性と効果を見極め、向精神薬や高リスク薬などの処方を絶えずチェックする。必要なら制度をより良く改める。これらこそが厚労省の使命である

厚労相が医師会の立場を代弁するのは立場上やむを得ない面があろう。だが改革を推し進めるべき河野氏と平井氏が同調するとは、どうしたことか。いま一度、首相の意図を肝に銘ずべきである。


◎解禁反対となるのが筋では?

解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである」と社説では書いている。そして「対面診療の重要性は私たちも共有している。必ず対面でなければならない場面はある」とも認めている。この2つの辻褄を合わせるためには「コロナ禍の特例であるオンライン診療の解禁」の維持には反対となるはずだ。

解禁」を維持すれば「対面でなければならない場面」でも「オンライン診療」が認められてしまう。しかし社説では「オンライン診療の解禁を維持」することを「厚労省の使命」として挙げている。これを書いた論説委員は矛盾を感じなかったのか。

「完全な解禁は求めていない。『患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療』を認めろと言っているだけだ。『無益』な『オンライン診療』を認めろとは言っていない」との反論はやや無理があるが、できるかもしれない。

だとすると「有益」かどうかの線引きが必要になる。しかし社説ではそこを何も論じていない。なので「解禁とは、患者・医師の双方にとって有益なオンライン診療を条件をつけずに認めることである」というくだりに関しては「オンライン診療=患者・医師の双方にとって有益」と解釈するのが自然だ。

そもそも「オンラインによる初診」が「ほとんど使えない事態」になると、そんなに困るものなのか。1回ぐらいは「対面診療」を受けた方が良さそうな気はする。「向精神薬」をオンライン診療で手軽に処方してくれると評判の病院があって、そこが全国から大量の患者を集めるといった状況も完全解禁だと考えられる。それを許すことが好ましいとはとても思えないが…。


※今回取り上げた社説「オンライン診療解禁の後退を危惧する」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201112&ng=DGKKZO66094480R11C20A1EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年11月11日水曜日

少子化克服を「諦めるわけにはいかない」日経 辻本浩子論説委員に気付いてほしいこと

少子化問題を語る多くの書き手が「問題解決のために社会を進歩的な方向へ動かすべきだ」と訴える。これだと必ず説得力がなくなってしまう。11日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に辻本浩子論説委員が書いた「中外時評~男性育休をニューノーマルに」という記事もその例に漏れない。個人的には少子化は放置でいい。だが辻元論説委員は違うようなので、ここでは「少子化を食い止めるべき」との前提で考えていく。


サッポロビール九州日田工場

【日経の記事】

29年ぶり――。そんな言葉にわいたのが、11月上旬の東京株式市場だ。日経平均株価は1991年以来の水準にまで回復した。その一方で、同じぐらいの月日がたっても回復の道のりが見えない分野がある。少子化だ。

いわゆる少子化対策が始まったのは90年だった。1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、前年に過去最低の1.57になったのがきっかけだ。いま出生率は1.36(2019年)とさらに低い。生まれた赤ちゃんの数も19年は過去最少の86万人まで減少した。もはや少子化は当たり前。日本の「常態」となっている。

これさえすれば解決という特効薬はない。そもそも若い人からしてみれば、少子化対策のために子どもを持とうとは思わないだろう。大事なのは環境整備。若者が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会であるかどうかだ。残念ながら、いまだにそういう社会にできていない。その結果がいまの出生率や出生数なのだ


◎社会を良くすれば少子化は克服できる?

若者が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会」にすれば「出生率や出生数」が上向くと辻本論説委員は考えているようだ。しかし、その根拠は示していない。

辻本論説委員にはぜひ考えてほしい。戦後間もない第1次ベビーブームの時代は「若者が安心して暮らせる社会」だったのか。「安心して暮らせる」という意味では圧倒的に今の方が上だ。しかし、ベビーブームを実現したのは、食べる物にも困るような貧しい「社会」だ。

現在で考えてみよう。北朝鮮と韓国。どちらの方が「若者が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会」と言えるだろうか。圧倒的多数は韓国と答えるはずだ。しかし「出生率」は北朝鮮の方がはるかに高い。

若者が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会」を実現できれば少子化問題が解決するというのは、おそらく幻想だ。むしろ逆ではないか。例えば新型コロナウイルスの問題が深刻化して今後1年間で日本の人口の9割が失われるとしよう。そうなれば「若者が安心して暮らせる社会、将来に希望を持てる社会」には程遠い。しかし「出生率」は急激に上向きそうな気がする。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

諦めるわけにはいかない。安心して、希望をもって暮らせる社会に変えていく。そのための大前提となることは、大きく2つあろう。

1つは若い世代への就業支援だ。いまの少子化の流れを決定づけたのは90年代から00年代にかけての就職氷河期だった。不安定な非正規雇用のため家族を持てない人が多くいる。

いま新型コロナウイルス流行の影響で、若者のあいだに再び不安が広がっている。第2の就職氷河期が起きれば、その影響は長期に及びかねない。どう支援し、就業のチャンスを広げるか。官民あげて対策を考えることが急務だ。


◎根拠に欠けるような…

若い世代への就業支援」が少子化克服のために有効かどうかも怪しい。辻本論説委員の見方が正しいのならば「就職氷河期」が終わり「若者」の雇用環境が大幅に改善する過程で「出生率」も大きく上昇するはずだ。しかし、そうはなっていない。

雇用が無関係とは言わない。ただ、産みたい人は貧しくても産むし、産みたくない人は収入が多くても産まないという傾向が強いのではないか。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

もう1つは多様な生き方を許容する職場づくりだ。共働きが増えて価値観も多様になっているのに、働き方はいまなお極めて単一的だ。これが子育ての壁になっている。

例えば男性の育休取得率はいまだ7%台だ。職場の横並び意識はなお強い。


◎さらに関係なさそうな…

男性の育休取得」が容易になるのは悪くない。ただ、少子化対策としての意味はほとんどないだろう。「夫が育休を取ってくれるならば出産したいが、それが難しければ諦める」という女性がたくさんいるのならば、少子化対策として意味がある。だが、普通に考えれば、いてもわずかではないか。

「男性ももっと積極的に育児を」と辻本論説委員は望んでいるのだろう。それが少子化克服にもつながるとなれば主張に説得力が出てくる。しかし、男性の育休取得率が高い北欧諸国などが少子化を克服できていないという不都合な事実には触れていない。

進歩的な方向に社会を動かしたいのは理解できるが、それを少子化対策と絡めると無理が生じる。そのことを辻本論説委員は気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「中外時評~男性育休をニューノーマルに」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201111&ng=DGKKZO66051700Q0A111C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。辻本浩子論説委員への評価もDを据え置く。辻本論説委員については以下の投稿も参照してほしい。


日経 辻本浩子論説委員「育休延長、ちょっと待った」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_16.html

「人生100年時代すぐそこ」と日経 辻本浩子論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/100.html

2020年11月10日火曜日

日経「円高継続に警戒感」に感じた分かりにくさ

10日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「円高継続に警戒感~リスク選好、国債には売り」という記事は分かりにくかった。まず前半部分を見ていこう。

室見川緑地(福岡市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

米大統領選で民主党のバイデン前副大統領の当選が確実となり、外国為替市場では円高への警戒感が強まっている。米政治を巡る不透明感が後退し、投資家心理が改善。株式相場の上昇に歩調を合わせてドルを売る動きが続くとの見方が多い

9日の東京外国為替市場で対ドルの円相場は1ドル=103円台での小幅な値動きが続いた。バイデン氏の当選確実を受けて断続的に円買い・ドル売りが出た一方、国内輸入企業による実需の円売り・ドル買いが入った。

市場関係者の間では今後も円高基調が続くとの見方が広がっている。9日は日経平均株価の上げ幅が前週末比で一時600円を超えた。あおぞら銀行の諸我晃氏は「今後米国で追加経済対策への期待が高まれば、投資家の運用リスクを取る動きが続き、基軸通貨であるドルには売り圧力が強まる」と指摘する。


◎リスクオンだとなぜ円高?

一般的には「リスクオン→円安」「リスクオフ→円高」だ。最近は逆の動きが見られるとしても、なぜそうなるのかの説明は欲しい。しかし記事では「投資家心理が改善」したので「ドルを売る動きが続くとの見方が多い」と解説しているだけだ。

あおぞら銀行の諸我晃氏」も「投資家の運用リスクを取る動きが続き、基軸通貨であるドルには売り圧力が強まる」としか述べておらず、「リスクオン→円高」という流れになぜなるのかは教えてくれない。

記事を読み進めると、さらに混乱する。


【日経の記事】

投資家のリスク選好姿勢は債券市場にも影響した。相対的に安全な資産とされる国債には売りが出て、日本の長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは9日に一時、前週末比0.010%高い(価格は安い)0.025%まで上昇した。

円高の勢いがさらに強まるリスクを指摘する声も出ている。クレディ・アグリコル銀行の斎藤裕司氏は「英国と欧州連合(EU)の通商交渉など、先行きのリスク要因はまだ残る」と話す。投資家心理が悪化する局面では、低リスク通貨とされる円には、ドル以上に買いが入りやすい。「円が対ドルで101円台まで上昇する可能性もある」(諸我氏)という。


◎リスクオフでも円高?

投資家心理が悪化する局面では、低リスク通貨とされる円には、ドル以上に買いが入りやすい」らしい。つまり「リスクオンでも円高、リスクオフでも円高」となる。矛盾している訳ではないが、もう少し丁寧に説明しないと読者の理解は得られないだろう。

付け加えると「外国為替市場では円高への警戒感が強まっている」という書き方は引っかかる。「外国為替市場」の参加者は皆が円安歓迎ならば話は分かる。しかし「国内輸入企業」は円高を好む傾向が強そうだ。株式市場関係者が「円高→株安」を警戒しがちなので、こうした表現になるのだとは思うが「円高=悪いこと」と印象付ける書き方はできれば避けてほしい。


※今回取り上げた記事「円高継続に警戒感~リスク選好、国債には売り

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201110&ng=DGKKZO66010790Z01C20A1EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月9日月曜日

データの見せ方がご都合主義的な日経 佐伯遼・富田美緒記者「チャートは語る」

8日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「チャートは語る~マイナス利回り、欧州覆う コロナ第2波 強まる景気懸念」という記事には無理を感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

耳納連山の電波塔※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

世界の金利低下に拍車がかかっている。米ブルームバーグによると利回りがマイナス圏の債券残高は6日に17兆ドル(約1700兆円)を超え、過去最大となった。震源地は欧州だ。新型コロナウイルス感染の第2波が広がり、景気不安から安全資産である国債に資金が向かっている。中央銀行がさらなる金融緩和に前向きなことも国債への資金シフトを促しているが、景気低迷の長期化でマイナス金利が長引く懸念もある。

金融情報会社リフィニティブのデータをもとに世界主要62カ国・地域の10年債利回りを調べたところ、53%にあたる33カ国がマイナスから0%台となった。先進国・新興国ともにこぞって緩和に向かった直後の6月(30カ国)より増えた。


◎大きな変化はないような…

世界の金利低下に拍車がかかっている」根拠として「利回りがマイナス圏の債券残高」が「過去最大となった」ことを挙げている。嘘はないのだろう。だが記事に付けたグラフを見ると「10年債利回り」がマイナスとなっている「国・地域」の割合は2019年以降、20%程度でほぼ横ばいだ。

筆者ら(佐伯遼記者と富田美緒記者)はこれでは都合が悪いと考えたのだろう。対象を「0%台」にまで広げて「6月(30カ国)より増えた」と説明している。この辺りはご都合主義的なデータの使い方だ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

中でも欧州の金利低下が目立つ。ドイツが一時マイナス0.6%台後半と約8カ月ぶりの水準に低下したほか、フランスも10年物がマイナス0.4%に沈んだ。6月時点では1%台だった南欧諸国でも低下が進み、イタリアは0.6%台、ギリシャは0.8%台だ。


◎間違ってはいないが…

欧州の金利低下が目立つ」のも間違いではないだろう。だがプラス圏にあった国がマイナスに転じた例は示していない。「マイナス利回り、欧州覆う」という見出しも誤りとは言えない。ただ「コロナの前からそうなのでは?」と言いたくなる。

プラス圏の国が今年に入ってどんどん消えているならば「マイナス利回り、欧州覆う」という見出しでしっくり来る。しかしプラス圏の国はプラス圏の中で「金利低下」が起きているだけのようだ。

世界の金利低下に拍車がかかっている」と言うと大きな動きが起きているように見える。実際には「欧州中心に金利低下傾向が続いている」といったレベルではないか。そもそも先進国では低金利が定着している。そこから「金利低下に拍車」を掛けるのはかなりハードルが高い。

小さな動きを大きく見せようとする「努力」が今回の記事の無理を生んでいる気がする。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~マイナス利回り、欧州覆う コロナ第2波 強まる景気懸念

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201108&ng=DGKKZO65970410X01C20A1EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯遼記者への評価はDで確定とする。富田美緒記者への評価はDを据え置く。両記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「外貨投資、思わぬ落とし穴」 佐伯遼記者への疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/08/blog-post_54.html

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_13.html

2020年11月7日土曜日

「増産」に関する情報がなさすぎる日経「日鉄、EV向け鋼板増産」

5日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「日鉄、EV向け鋼板増産~400億円で新加工設備」という記事は悪い意味で凄い。「増産」を伝えるニュース記事なのに、どの程度の「増産」になるのか全く触れていない。

石橋文化センター(久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。


【日経の記事】

日本製鉄は瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市)に400億円程度を投じ、電気自動車(EV)に使う高性能鋼板を増産する。環境規制を背景にEVの高性能化に役立つ鋼板の需要は増えている。トヨタ自動車など自動車大手がEVへの投資を一段と増やす中で、供給能力を高める。

投資するのはEVモーターの中心部に使う「電磁鋼板」。EVは、省エネ性に優れて長い距離を走行できるモーターが必要になる。磁性をコントロールする高性能な電磁鋼板を使うことで、モーターの省エネ化につながる。より薄く軽量化にもつながる電磁鋼板の需要は世界的に伸びており、日鉄は21年以降に瀬戸内製鉄所広畑地区に投資して、新たな加工設備を導入する方針だ

日鉄は19年以降、広畑地区のほか、九州製鉄所八幡地区(北九州市)で電磁鋼板向けに設備投資をしてきた。今回の追加投資で、同社の電磁鋼板関連の投資は総額で1000億円を超える。

国内ではJFEスチールも西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)で設備増強を検討している。

鉄鋼各社が投資を急ぐのは、新興国などでの電力需要の高まりに加え、世界的にEVの普及拡大を見込んでいることが大きい。


◎他社の話を入れる前に…

電気自動車(EV)に使う高性能鋼板を増産する」という話を柱に据えて記事を書くならば、どの程度の「増産」になるかは必ず入れるべきだ。それが分からないのならば「増産」で見出しを立てるのは諦めてほしい。

仮に「増産」がものすごく重要なニュースで、取材してもどの程度の「増産」か分からなかったのだとしよう。その場合は「分からない」と記事中で明示すべきだ。

できれば現状でどの程度の生産量なのかも入れたい。しかし、そうした情報もない。「増産」の時期は「21年以降」だと言うことは分かるが、「21年以降」はあくまで「投資」の時期なので「増産」が始まる時期には触れていない。情報がなさすぎだ。

鉄鋼各社が投資を急ぐのは、新興国などでの電力需要の高まりに加え、世界的にEVの普及拡大を見込んでいることが大きい」と最初の段落とのダブり感がある情報を盛り込むぐらいならば「日本製鉄」が「電気自動車(EV)に使う高性能鋼板」の市場でどのぐらいのシェアを持っているのかといった話を入れたい。

国内ではJFEスチールも西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)で設備増強を検討している」といった他社の話に触れるのは「日本製鉄」の情報をしっかり伝えてからだ。


※今回取り上げた記事「日鉄、EV向け鋼板増産~400億円で新加工設備」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201106&ng=DGKKZO65896760V01C20A1TJ2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2020年11月6日金曜日

「きょう決算発表」のタイミングで「サッポロHDの不動産事業」を分析する日経に注文

ニュース記事のように見せて何もニュースはない--。そんな記事を最近の日本経済新聞ではよく見かける。6日の朝刊企業2面に載った「サッポロHDの不動産事業、恵比寿のテナント縮小続く~きょう決算発表、稼ぎ頭にも逆風」という記事もそうだ。この中身でわざわざ「決算発表」前に載せる気が知れない。

JR久留米駅に停車中の無限列車
     ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

サッポロホールディングスは6日に2020年1~9月期連結決算(国際会計基準)を発表する。新型コロナ下の酒類の需要減で大幅減益が避けられない中、注目が集まるのが不動産事業だ。実は営業利益の7割と酒類を上回る稼ぎ頭だが、主力の東京・恵比寿で相次ぎ有力テナントの撤退や縮小が決定。都市部のオフィス需要の伸び悩みが避けられない中、懸念材料となっている。

サッポロHDはビールが祖業だが、恵比寿や札幌といった工場跡地の再開発による不動産事業で収益の基盤を固めている。19年12月期は不動産事業の営業利益が127億円と、ビールが主体の酒類の76億円を上回る。20年12月期は酒類が赤字見通し(事業利益ベース)の中、不動産は唯一の黒字事業となる。

その不動産事業の中心がビール工場跡地を再開発し、1994年に開業した複合商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」だ。地上40階建てのタワーを中心に約10棟の建物が並び、年間約1300万人が利用する。恵比寿が不動産事業の営業利益の6割を稼いでいる。

この恵比寿から主力テナントの撤退や縮小が続いている。恵比寿ガーデンプレイスの商業施設を代表する恵比寿三越が21年2月28日に閉店する。延べ床面積は全体の約7%にあたり、地下2階から地上2階までの4フロア1棟をまるごと使っている。

オフィス棟でも新型コロナ下のテレワークの普及で、入居企業がフロアの賃貸面積を減らし始めた。本社オフィスを構えるコロプラは11月中に4割を解約する予定だ。

不動産仲介大手の三鬼商事(東京・中央)によると、恵比寿がある渋谷区のオフィス空室率は20年9月時点で4.48%と前年同月比で2.97ポイント上昇した。2月は1.87%と極めて低水準だったが上昇が続いている。

平均賃料も9月まで5カ月連続で下落。IT企業が集積する渋谷はテレワークへの移行が加速しており、もはやコロナ前のような旺盛な需要はない。

サッポロHDの岩田義浩常務は「21年12月期以降、オフィスの入居率が数%下がる可能性がある」と話す。

野村証券の藤原悟史アナリストは「恵比寿の不動産の価値は高く大崩れはしないと思うが、後継テナントの決定時期が遅れればリスクだ」と話す。市場予想平均のQUICKコンセンサスは、19年12月期の連結純利益(43億円)水準まで回復するには22年12月期までかかるとみている。

サッポロHDは恵比寿をてこ入れしようと、恵比寿三越の跡地をオフィスや物販、サービスの複合施設につくり直す計画だ。建物1棟を貸していた恵比寿三越と比べ、フロア合計での賃料収入を高める。再開は22年中の見通しだ。

新型コロナ下で当面はビールなど酒類販売の大きな回復は厳しい。6日の決算発表で、不動産事業の先行きにどう言及するかに注目が集まる


◎決算発表を受けて書いた方が…

上記の記事は簡単に言えば「稼ぎ頭の不動産事業もコロナで厳しいです。6日の決算発表でどういう説明するか注目ですね」という話だ。「不動産事業の先行きにどう言及するかに注目が集まる」と言うのならば、どこが「言及」のポイントになるか解説が欲しい。しかし、そういう深掘りはない。

この内容ならば行数を割いて載せる必要は乏しいと感じる。「決算発表」後に「不動産事業」に関する「言及」も含め詳細に分析した方がよいのではないか。

「業績の先取り記事は要らない」と訴え続けているので解説記事にシフトすることに異論はない。ただ、ニュース記事かどうか分かりにくいのは困るし、掲載のタイミングも考えるべきだ。


※今回取り上げた記事「サッポロHDの不動産事業、恵比寿のテナント縮小続く~きょう決算発表、稼ぎ頭にも逆風

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201106&ng=DGKKZO65878800V01C20A1TJ2000


※記事の評価はC(平均的)

2020年11月5日木曜日

日経の記事で「死の権利はあるか」への答えを避けた会田薫子 東大大学院特任教授

5日の日本経済新聞朝刊オピニオン1面に「複眼~『死の権利』はあるか」という記事が載っている。「患者に『死の権利』はあるのか。患者や専門家に聞いた」と言うものの、東京大学大学院特任教授の会田薫子氏は「『死の権利』はあるか」との問いに答えを出していない。他の2人は「ある」「ない」と明言しているだけに会田氏の姿勢には失望した。聞き手である前村聡記者が「『死の権利』はあるか」どうかを明言するよう迫ってくれたのかとも思う。

耳納連山に沈む夕陽※写真と本文は無関係です

会田氏の発言の一部を見ておこう。


【日経の記事】

01年に世界で初めて安楽死を合法化したオランダのように「死の権利」を確立すると、医師が「死なせる義務」を負うことも理解すべきだ。

家族など患者と「人生の物語」をつくる人のケアも必要だ。人生の集大成支援がエンドオブライフ(人生の最終段階)のケアでは重要となる。

今回の事件は分からない点も多い。スピリチュアル・ケア(実存的な苦痛に対するケア)を含めた緩和ケアが十分ならば治療終了を希望しなかったのではないか。治療終了の希望を家族などと話し合ったのか。入院して病院の臨床倫理委員会で是非を議論する選択肢を検討したのか。今後の解明に期待したい。

医療技術の進歩は光と影をもたらした。患者が家族らと話し合って意思決定し、適宜見直すアドバンス・ケア・プランニング(ACP)が推奨されているように、私たちはエンドオブライフのあり方に真剣に向き合う必要がある。


◎曖昧にしておきたい?

オランダのように『死の権利』を確立すると、医師が『死なせる義務』を負うことも理解すべきだ」との発言から判断すると会田氏は「死の権利」を認めることに消極的な立場なのだろう。それはそれでいい。ならば、そこを明言してほしい。なぜ曖昧にしたがるのか分からないが、元々そういう人ならば今回の企画の3人からは外してほしかった。

ついでに会田氏の発言にツッコミを入れておきたい。

まず「『死の権利』を確立すると、医師が『死なせる義務』を負う」と決め付ける必要はない。「死の権利」を行使するのに医師の助けが必要となる場合は安楽死を手掛ける医師に頼るという仕組みにすることもできる。この場合、患者が「死の権利」を行使したいと申し出てきたら主治医は「専門の医師を紹介しましょう」と言えば済む。

京都のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の嘱託殺人事件」について「分からない点も多い」としながら「スピリチュアル・ケア(実存的な苦痛に対するケア)を含めた緩和ケアが十分ならば治療終了を希望しなかったのではないか」と判断しているのも解せない。

緩和ケアが十分」でも「治療終了を希望」した可能性も当然にあるだろう。また「分からない点も多い」のならば「緩和ケアが十分」だったかどうかも分からないのではないか。また、どの程度の「緩和ケア」で「十分」とするのかも人によって見解が大きく分かれるだろう。「十分」な情報がない中で「治療終了を希望しなかったのではないか」などと推測するのは感心しない。

付け加えると、前村記者の「まとめ」も曖昧な内容で失望した。

全文は以下の通り。

【日経の記事】

患者の「死にたい」は「生きたい」という思いと表裏一体である。患者の気持ちに寄り添い、理由を一つ一つ解きほぐしていくしかない。

現在の医療でも治療法がなく、死に直面する患者はいる。高齢者では人生の最終段階での延命治療の是非を巡る議論が進み、患者らの意思を尊重して治療の差し控えは広がった。一方、いったん始めた延命治療を終了することは刑事訴追などを恐れ広がらず、苦しむ患者と家族はいる。

死は生の延長線上にある。「生きる権利」の保障が前提となる。同時に、患者とその人生に関わった人の思いを踏まえ、医療・ケアチームとともに本人の幸せを選択する道を広げるべきだ。今回の事件の特異な面ではなく、死に向き合う患者の視点から現在の課題を見直す必要がある。


◎結局、どっち?

患者の『死にたい』は『生きたい』という思いと表裏一体である」との書き出しから判断すると「死の権利」を認めない立場なのかと思える。しかし終わりの方では「本人の幸せを選択する道を広げるべきだ」とも書いている。これだと安楽死容認とも取れる。そして「死に向き合う患者の視点から現在の課題を見直す必要がある」とばんやりした形で記事を締めてしまう。

「結局どっち?」と聞きたくなるような中身だ。「『死の権利』があるとは言いたくない。でも『ない』と言い切ってしまうと、ただ苦しみの中で生きるしかない人を救えなくなる」などと前村記者は考えているのではないか。その迷いが記事に表れている。

ただ、どっちつかずの記事ならなくていい。前村記者は「死の権利」があると思うのか、ないと思うのか。別の機会でもいいので明確な立場から記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「複眼~『死の権利』はあるか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201105&ng=DGKKZO65830600U0A101C2TCS000


※記事の評価はC(平均的)。前村聡記者への評価はCで確定とする。前村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「積極的安楽死」への踏み込み不足が残念な日経 前村聡記者の解説記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_25.html

2020年11月4日水曜日

三井住友海上の「完全ジョブ型雇用」の定義が不明な日経の記事

ジョブ型」雇用に関する記事を最近よく目にするが、どうも胡散臭い。実態は大して変わらないのに「ジョブ型」と呼ぶことで大きな変化があるように見せている気がする。4日の日本経済新聞朝刊 総合・経済面に載った「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」という記事もそうだ。

沖端川大橋(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

三井住友海上火災保険は2021年からジョブ型の働き方を取り入れる。上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する。賞与の成果反映部分に差をつけることで、生活給も含めた金額の差は同クラスで2倍に広がる。サービスや業務のデジタル化を進めるなか、旧来型の仕組みでは人材の確保が難しいと判断した。

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する。在籍年数にとらわれずに年俸を設定し、中途採用を強化する。

専門職以外の社員では21年4月から人事制度が成果重視になる。上司が期待する行動や成果を明示し、本人と合意した上で考課の基準とする。

年俸制への完全な切り替えは影響が大きいと判断し、当面は配置や報酬の算定で勤続年数も評価する。現状は賞与の3割が成果反映部分だ。新制度では最上位と最下位の評価が最大10倍開く。30歳代後半の課長の場合、最下位が20万円で最上位は200万円。賞与の総額は約2倍の差が出る。

成果反映部分は評価が6段階あっても中央の3段階しか使っていなかった。ジョブを定義し評価を明確にし、6段階すべてを活用する。

ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた。


◎「完全ジョブ型雇用」とは?

資産運用、データサイエンティスト、保険数理などの専門職は22年4月から完全ジョブ型雇用を導入する」と書いてあるが「完全ジョブ型雇用」の定義は不明。これでは困る。

上司が社員1人ずつにジョブディスクリプション(職務定義書)を定め、成果を報酬に反映する」のは不完全な「ジョブ型雇用」ということか。

しかし、これもよく分からない。日本の雇用形態は「メンバーシップ型」だと言われるが、日本の一般的な会社員でも担当業務はある。それを「ジョブディスクリプション(職務定義書)」として文書にすると「ジョブ型雇用」になるのか。「ジョブディスクリプション」で経理の仕事を割り振り、次の年には営業担当として「ジョブディスクリプション」を定めた場合も「ジョブ型雇用」なのか。

成果を報酬に反映する」ことは「メンバーシップ型雇用」でも当たり前にやってきたはずだ。その比率を高めると「ジョブ型雇用」になるのか。

記事の最後では「ジョブ型雇用はKDDIや日立製作所などが導入する。年功要素が残る金融業界でも、成果重視に切り替える動きが出てきた」と説明している。やはり「成果重視」だと「ジョブ型雇用」と見なすのか。

例えば「データサイエンティスト」を「データサイエンティスト」職として採用し、それ以外の仕事は一切させないと「ジョブディスクリプション」で定めるとしよう。経理や営業などへの異動ももちろんない。しかし給与だけは「年功要素」だけで決める。この場合は「ジョブ型雇用」とは呼べないのか。今回の記事からは「ジョブ型雇用」ではないと判断するしかないが、だとすると「ジョブ型雇用」とは一体何なのかとの疑問がやはり残る。


※今回取り上げた記事「三井住友海上、賞与の差 課長級で2倍~来年から一部ジョブ型」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201104&ng=DGKKZO65790950T01C20A1NN1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年11月3日火曜日

日経 山下真一氏の「一目均衡~ESGマネー導く条件」に感じた「ないものねだり」

3日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~ESGマネー導く条件」という記事でシニアライターの山下真一氏は「ESG(環境、社会、企業統治)」投資に関して「企業の情報開示や評価の改善を急ぎ、投資マネーの力を正しく発揮させる必要がある」と訴えている。しかし、これはないものねだりだと感じた。

有明海(柳川市)※写真と本文は無関係

記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

勢いを増すESG投資が広く深く支持を得るには時間がかかりそうだ。日本の商社やカナダの金鉱山会社について、ESGを重視する欧州の一部年金基金は投資対象外のリストに載せている。一方で、米著名投資家バフェット氏はまさにこれらの企業に投資したばかり。まるで孤高のバフェット氏が、気候変動対策は大切だがリターンは重視しないのかと、疑問を投げかけているかのようだ。

米労働省もESG投資をけん制し、「年金運用は金銭的な利益のみを考慮すべきだ」との案を示した。運用会社は労働省案に批判的だが、個人を中心に、老後資金の運用は金銭的利益を優先してほしいと一定の賛成もある。

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件。そのためには、ESGマネーが企業の開示や評価にもとづき、正しく優良企業へと向かう流れを確立することが前提になる。開示基準の統一化や評価のルール作りを急ぎ、ESG投資という「仏」に、選別眼のある「魂」を入れる必要があるだろう


◎「選別眼のある『魂』を入れる」?

ESG投資がさらに浸透するには、CO2削減量に応じて株価が形成されるなど、ESG要因が短期、長期のリターンを左右すると示されることが条件」という説明はやや分かりにくいが「ESG投資がさらに浸透するには、ESG投資によって市場平均を上回る確率が高まると示されることが条件」との趣旨だとしよう。この場合「ESG投資という『仏』に、選別眼のある『魂』を入れる」ことを求めるのは酷だ。

仮にある評価機関が「ESG投資」の対象企業を正しく選べるようになったとする。結果として、この評価機関の選んだ銘柄でポートフォリオを作れば市場平均を上回るリターンを得られると「示され」、山下氏の望む状況が作れたとしよう。

そうなると当然に「ESG投資」に資金が流れ込み株価の割高感が強まる。結果として「正しく」選んだ銘柄から市場平均を上回るリターンが得られにくくなる。

安定的に市場平均に勝てる必勝法は基本的にない。あったとしても、多くの人に知られてしまっては持続性がなくなってしまう。「ESG投資」も「さらに浸透」した上で市場平均を上回るリターンを安定的に得る術はないと考えるべきだ。

そもそも「CO2削減量に応じて株価が形成される」ような状況になれば「CO2削減量」ゼロの高収益企業の時価総額が破綻寸前の企業を下回ってもおかしくない。果たしてそれが株式市場のあるべき姿なのか。

ESG投資」をやるのは勝手だが「応援したい企業にしか投資しない。結果としてリターンが悪くても構わない」といった類のものであるべきだ。「リターンにも旨みを」と言い始めるとおかしな話になってくる。


※今回取り上げた記事「一目均衡~ESGマネー導く条件」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201103&ng=DGKKZO65783520S0A101C2DTA000


※記事の評価はC(平均的)。山下真一氏への評価も暫定でCとする。

2020年11月1日日曜日

東洋経済「ニュースの核心」結果論で語らない山田雄大氏の姿勢を評価

 経営の失敗を分析するのは難しくない。結果論で物が言えるからだ。しかし経営判断を下す時点では様々な不確定要素がある。なので「あそこでこうしておけば良かったのに…」と安易に語るのはズルい気もする。その意味では週刊東洋経済11月7日号に山田雄大氏(肩書は本誌コラムニスト)が書いた「ニュースの核心~『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」という記事は評価できる。

沖端川大橋(柳川市)※写真と本文は無関係

三菱重工業が取り組んできた旅客機スペースジェット(旧MRJ)が事実上の事業断念に追い込まれた」件に触れて山田氏は以下のように記している。


【東洋経済の記事】

とはいえ、サイズは違うが同じ航空機事業では、未経験のホンダがホンダジェット事業を軌道に乗せつつある。参入時点の成功確率を客観的に評価すれば、MRJのほうが高かったのではないか。

ここで三菱重工を非難しようとしているのではない。四半世紀に及ぶ経済誌記者の経験からいえば、新事業やM&Aなどで「正しそう」な戦略が、当初の印象に反してうまくいかないのだ。


◇   ◇   ◇


新事業やM&Aなどで『正しそう』な戦略が、当初の印象に反してうまくいかない」と感じるのはよく分かる。「『正しくなさそう』な戦略」を積極的に選ぶ経営者もそれほど多くはないだろう。ただ、なぜ「うまくいかない」のかに関しては山田氏の意見に同意できない。そのくだりを見ていこう。


【東洋経済の記事】

東芝による米原子力メーカー、ウエスチングハウス(WEC)の買収も似た色合いがある。06年の買収時、原子力発電は世界中で再評価されていた。東芝が手がけるのは沸騰水型炉(BWR)で、世界で主流の加圧水型炉(PWR)の親玉であるWECを買収すれば、BとPを持つ唯一の原子炉メーカーとして躍進できる。

決定時の社長だった西田厚聰氏は最後まで正しかったと主張していたが、実際、その戦略は論理的には正しかったのだろう。

しかし、多数あった新設計画は机上のものが大半だったうえ、東日本大震災と福島第一原発事故で市場環境は一変した。名門意識が高いWECを御し切れないまま、数少ない受注案件は安全規制強化もあって費用が膨張していった。最終的に1兆円を優に超える損失を招き、東芝を危機に追い込んだ。

「正しそう」であるがゆえに、状況判断が甘くなる──。そう結論づけるのは強引すぎるだろうか(反証する事例も多々あるかもしれないが)。いずれにしろ、当事者は失敗原因を分析したうえで、今後の事業計画の教訓として生かし、新たな挑戦を続けるべきだ。


◎そもそも成功確率が低いのでは?

今回の記事には「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」という見出しが付いている。しかし「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」と言えるデータは示していないし、記事中では「『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」とも訴えていない。「『正しそう』な戦略が、当初の印象に反してうまくいかない」と述べているだけだ。

その要因として「『正しそう』であるがゆえに、状況判断が甘くなる」のではないかと山田氏は分析している。とは言え買収額や投資額を勘案しても「正しそう」ならばゴーサインが出るのは必然だ。「戦略は論理的には正しかった」のにストップをかける方がどうかしている。

推測だが、そもそも「新事業やM&A」の成功確率がかなり低いのではないか。だから「正しそう」な案件でも多くの失敗例を目にすることになる。市場環境の激変や強力な競合相手の登場を事前に見通せる経営者は基本的にいない。「原子炉」に関して「東日本大震災と福島第一原発事故で市場環境は一変した」が、これを織り込んで「戦略」を練るのはまず無理だ。

なので「失敗原因を分析したうえで、今後の事業計画の教訓として生か」すのは難しいと思える。「新たな挑戦を続ける」ならば、成功確率は低いとの前提に立って、失敗した時に備えたリスク管理をしっかりすべきとの結論になるだろう。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~『正しそう』な戦略ほどうまくいかない」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25055


※記事の評価はB(優れている)。山田雄大氏への評価はBを据え置く。山田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済 山田雄大記者の秀作「スズキ おやじの引き際」https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_5.html