2020年7月31日金曜日

9社中5社が増益でも「ネット証券、利益なき繁忙」と日経は言うが…

31日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「ネット証券、利益なき繁忙~日米大手4~6月、3社減益・1社赤字 手数料無料化が打撃」という記事はかなり強引な作りだ。「利益なき繁忙」という想定にこだわり過ぎだと思える。
冠水した国道210号線(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

最初の段落では以下のように書いている。

【日経の記事】

日米の主要なインターネット証券が売買手数料の無料化で収益減少に苦しんでいる。2020年4~6月期は新型コロナウイルスによる株価の急落と外出自粛要請で個人投資家の投資意欲は高まった。だが手数料の引き下げ競争が激化し、日米大手9社のうち3社が減益、1社が赤字になった。激しい顧客獲得競争の末、「利益なき繁忙」の様相を呈している



◎残りの5社は?

日米大手9社のうち3社が減益、1社が赤字になった」と書いているが、これだと「5社は増益?」と思ってしまう。記事の後半で「一方、日本では無料化に距離を置いた4社は最終利益が前年同期比5~8割増と大幅増益となった」などと書いてはいる。

普通に考えれば「ネット証券、無料化への姿勢で明暗」といった話になるはずだ。なのに「利益なき繁忙」で押し切っている。

記者の考えた道筋は想像できる。記事に出てくる最初の事例は「信用取引の売買手数料という貴重な収益源を無料にしたauカブコム」だ。この赤字転落を受けて「利益なき繁忙」でまとめられないかと思い付いたのではないか。

しかし残りの日本勢は「5~8割増と大幅増益」。そこで減益が多い米国勢とくっ付けて「利益なき繁忙」に仕立て上げたのだろう。

米国勢に関してもTDアメリトレード・ホールディングは3%の増益。インタラクティブ・ブローカーズは減益だがわずか1%。そもそも米国勢は利益水準が日本勢より1桁多い。米国勢に絞っても「利益なき繁忙」は少し苦しい。

記事を書く上でストーリーをあらかじめ組み立てておくことは重要だ。しかし、縛られてはいけない。時には大胆な修正も要る。今回の記事では、それができていないと感じた。


※今回取り上げた記事「ネット証券、利益なき繁忙~日米大手4~6月、3社減益・1社赤字 手数料無料化が打撃
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200731&ng=DGKKZO62093990Q0A730C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月30日木曜日

前年度との比較がなぜない? 日経「外食1000店超が閉鎖」の問題点

30日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「外食1000店超が閉鎖~業態転換など長期低迷に備え 異業種と店員融通も」という記事は、あまり意味がないと感じた。記事の最初の方を見た上で具体的に指摘したい。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大が収まらないなか、外食産業が店舗の閉鎖を強いられている。日本経済新聞が国内上場企業の主要100社の閉店計画を調べたところ、29日時点で1000店舗を超えた。外食は雇用の受け皿としての役割も大きい。低迷が長引くとみて、宅配特化などの業態転換や業種を越えた店員融通に動く企業も出始めた。

外食の上場主要100社の2020年度の出店計画(実施済みも含む)は、閉店数が約1200店に上った。19年度末の店舗数約6万の2%にあたる。出店数は約600店舗にとどまり、閉店が出店を大きく上回った


◎前年度と比べないと…

見出しでは「外食1000店超が閉鎖」と打ち出している。しかし「1000店超」という数字に特に意味はない。日本全体の数字ならば意味があるが、あくまで「国内上場企業の主要100社の閉店計画」だ。「国内上場企業」全体の数字でもない。さらに言うと「100社」を選ぶ基準にも触れていない。その「100社の閉店計画」が「1000店超」になるだけだ。切り方次第で数字は大きく変わる。

最も気になるのが前年度との比較がない点だ。「2020年度」の「閉店数が約1200店」になるのは分かるが、前年度に比べてどのぐらい多いのか触れていない。「出店数」も同様だ。「新型コロナウイルス」の影響で「閉店」が増えて「出店」が減っているとは思う。それがどの程度かは興味があるが、肝心なところを書いていない。

「(閉店数が)19年度末の店舗数約6万の2%にあたる」といった情報は、前年度との比較をした後に入れればいい。


※今回取り上げた記事「外食1000店超が閉鎖~業態転換など長期低迷に備え 異業種と店員融通も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200730&ng=DGKKZO62062350Z20C20A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月29日水曜日

「CDSスワップ」で合ってる? 久しぶりに週刊エコノミストへ間違い指摘

週刊エコノミストの記事に関して久しぶりに間違い指摘をしてみた。内容は以下の通り。
道路が冠水した福岡県久留米市内
      ※写真と本文は無関係です

【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部  岡田英様 浜田健太郎様 

8月4日号の特集「コロナ株高の終わり~中央銀行の罪」の最初に出てくる「危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「図2」の「債権のデフォルトリスクの目安となるCDSスワップは大きいほど危険。3月に急上昇した後、5月から低下した」という説明文です。「CDSスワップ」 とは聞き慣れない言葉ですし、「CDS」が「クレジット・デフォルト・スワップ」の略なので「CDSスワップ」とすると「スワップ」がダブってしまいます。「CDSスワップ」は「CDSスプレッド」の誤りではありませんか。このグラフはそもそも「日産社債(5年物)のCDSスプレッド(保証料率)の推移」を表したものです。「CDSスワップ」を「CDSスプレッド」 に置き換えると、しっかり整合します。

問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。

また、記事には「インフレに強い金の価格は価格が急騰している」との記述もありました。「価格」が無駄に重なっています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかったが、8月25日号に訂正は出た。


※今回取り上げた記事「危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200804/se1/00m/020/062000c


※記事の評価はD(問題あり)。岡田英記者への評価はDで確定とする。浜田健太郎記者への評価は暫定でDとする。今回の記事については以下の投稿も参照してほしい。

拙さ目立つ週刊エコノミスト岡田英・浜田健太郎記者の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_28.html


※岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日産ゴーン会長逮捕」の記事に粗が目立つ週刊エコノミスト
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_25.html

2020年7月28日火曜日

拙さ目立つ週刊エコノミスト岡田英・浜田健太郎記者の記事

週刊エコノミスト8月4日号の特集「コロナ株高の終わり~中央銀行の罪」の最初に出てくる「危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も」という記事は拙い書き方が目立った。内容自体はそれなりにまとまっているが、これだけ拙さが目立つと合格点は与えられない。岡田英記者と浜田健太郎記者はしっかり反省してほしい。
増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
         ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【エコノミストの記事】

結局、日米欧と英国、カナダ、スイス、スウェーデンの主要7カ国の中銀で計6兆㌦(約640兆円)規模で国債や社債などの資産購入に踏み切った。


◎「欧」は国?

日米欧と英国、カナダ、スイス、スウェーデンの主要7カ国」と書いているが「」は国ではない。また「英国、スイス、スウェーデン」は「」の一部でもある。言わんとすることは分かるが、きちんと書けているとは言えない。

次は同じ言葉の繰り返しについて。

【エコノミストの記事】

「FRBによる下支え効果は9月ごろまでだろう」と見るのは、金融アナリストの豊島逸夫氏。「秋にかけて米国の経済指標が良い状況が続けば、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でパウエル議長が資産圧縮の可能性をにじませる可能性はある」と指摘する。



◎「可能性をにじませる可能性はある」では…

資産圧縮の可能性をにじませる可能性はある」と「可能性」を繰り返しているのが拙い。「豊島逸夫氏」が実際にそう発言していたとしても、そのまま載せるのは感心しない。趣旨を変えない範囲で、多少の修正はすべきだ。

繰り返しをもう1つ。

【エコノミストの記事】

実際、インフレに強い金の価格は価格が急騰している。

◎ミスだとは思うが…

これはミスなのだろう。「価格」が1つ余計だ。

最後にもう1つ。

【エコノミストの記事】

既発の日産社債(5年物)のCDSスプレッドは、コロナ以前は0・5%程度から4月上旬に3・5%まで跳ね上がった後に下がり始め、足元では1・8%に低下(図2)。



◎「コロナ以前は」だと…

コロナ以前は」だと上手くつながらない。「コロナ以前の0・5%程度」とすべきだろう。

この記事には誤りだと思える部分もあった。それは別の投稿で触れる。


※今回取り上げた記事「危うい株価の『峠』は9月~中銀下支えの“手じまい”も
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200804/se1/00m/020/062000c


※記事の評価はD(問題あり)。岡田英記者への評価はDで確定とする。浜田健太郎記者への評価は暫定でDとする。岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「日産ゴーン会長逮捕」の記事に粗が目立つ週刊エコノミスト
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_25.html

2020年7月27日月曜日

東洋経済での「今の体制」批判が強引な法政大学教授の山口二郎氏

基本的にはヨイショ記事が嫌いで、批判精神に溢れた記事が好きだ。しかし批判的であれば何でもいい訳ではない。説得力は欲しい。その点では週刊東洋経済8月1日号に法政大学教授の山口二郎氏が書いた「フォーカス政治~コロナ医療体制『日本モデル』の限界」という記事は苦しい気がした。
冠水したTSUTAYA合川店周辺(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

まず気になったのが以下のくだりだ。

【東洋経済の記事】

最も驚くべきニュースは、東京女子医大病院で夏のボーナスがカットされたことで400人に上る看護師が退職を希望しているという話である。京都大学医学部附属病院は、手術室や検査室を陰圧化する工事費用をクラウドファンディングで集めると発表した。国民の一人として恥ずかしく、日本は先進国だとはいえない状況である



◎「先進国」だからこそとも言えるような…

京都大学医学部附属病院」の話から「日本は先進国だとはいえない状況」と読み取るのがよく分からない。国が出すべき資金を「クラウドファンディング」で集めさせるなんてということか。

個人的には「国民の一人として恥ずかしく」はない。むしろ良い傾向ではないか。山口氏が言うように「既存の体制で新型コロナウイルス感染者を引き受ければ、病院は付随する対策のために追加的支出を余儀なくされ、経営が厳しくなる一方、医師や看護師も一層疲弊する」のかもしれない。だからと言って、国が何でも面倒を見るのが「先進国」的だとは思えない。

国の補助金は使途が決まっているので、「クラウドファンディング」で資金を集めて問題に対応しようと国立大学系の病院が考えるなど一昔前ならあり得なかった。「京都大学医学部附属病院」の件は「日本は先進国だ」と言える根拠にもなり得るのではないか。しかし山口氏に言わせると「インパール作戦の現代版」にまでなってしまう。

その部分も見ておこう。

【東洋経済の記事】

一連の動きを見ていると、兵士は勇敢で優秀だが、指揮官は無能という大日本帝国の軍隊を連想させられる。指揮官は、兵站を無視し、精神主義だけで兵士を戦わせ、膨大な犠牲を出した。京大病院の話を聞くと、インパール作戦の現代版だと思う。医療だけではなく、学校、保育所、介護施設など対人サービスを行う現場では職員が超人的頑張りを続けてきたが、それも限界である。第一線の職員の滅私奉公で世の中を維持するという「日本モデル」はここで止めなければならない。



◎「インパール作戦の現代版」と言うなら…

京大病院の話」を「インパール作戦の現代版」とまで言うならば「膨大な犠牲を出した」例が欲しい。「手術室や検査室を陰圧化する工事費用をクラウドファンディングで集める」だけでは「兵士」に「膨大な犠牲」が出ている感じはしない。

記事の冒頭で「今の体制は、精神主義で膨大な犠牲を出した大日本帝国の軍隊を連想させる」と山口氏は言う。この手の対比は上手くいけば美しい仕上がりになる。しかし、強引さが目立つと記事の説得力を損なう結果になる。今回はやはり後者だと感じた。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~コロナ医療体制『日本モデル』の限界
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24189


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月25日土曜日

預金も「物価の伸びの分、損」? 日経「米の実質金利 過去最低に」

25日の日本経済新聞朝刊総合4面に載った「米の実質金利 過去最低に~進むドル安、株式などに流入 金は最高値に迫る」という記事は、基本的にはためになる内容だ。ただ「実質金利」に関する以下の説明だけは問題を感じた。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米国で、物価と比較した金利の水準である実質金利が10年金利でマイナス0.9%と過去最低の水準に低下した。現預金を抱えていては物価の伸びの分、損をするため、ドルの預金や国債などから株式や金などにマネーが動いている。



◎預金は違うような…

実質金利」がマイナスになった場合、「現預金を抱えていては物価の伸びの分、損をする」だろうか。「現金」は分かる。問題は「預金」だ。

記事によると「10年物国債利回りは0.5%台」(ここでは0.6%と考える)。一方、「物価連動債から計算される物価上昇率の市場予想は3月の0.5%から1.5%に上昇」したらしい。そこで、「物価の伸び」が「1.5%」、「預金」金利が0.6%で「実質金利」が「マイナス0.9%」になるケースを考えてみよう。

物価の伸びの分、損をする」のであれば「預金」者は「1.5%」の「」になるはずだ。しかし「現金」保有者と異なり0.6%の金利が得られる。つまり「」は「0.9%」に留まる。

単純な話ではあるが、金利を無視して「現預金」を同じように扱う記事は少なくない。そこは明確に区別してほしい。


※今回取り上げた記事
米の実質金利 過去最低に~進むドル安、株式などに流入 金は最高値に迫る
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200725&ng=DGKKZO61908610U0A720C2EA4000


※記事の評価はC(平均的)

「積極的安楽死」への踏み込み不足が残念な日経 前村聡記者の解説記事

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の林優里さん(当時51)に薬を与えて死亡させたとして、医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕された」事件に関し、日本経済新聞の前村聡記者(社会保障エディター)が24日の朝刊社会面に「回復難しい患者 ケアは十分か」という解説記事を書いている。ダメな記事とは言わないが、肝心なところに踏み込んでいない気はした。
冠水したTSUTAYA合川店周辺(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】

医師が薬を投与するなどして患者の死期を早める「積極的安楽死」は、日本では患者が希望しても嘱託殺人罪などに問われる。終末期ではなく回復の見込みのない患者が死を望むことがあるが、精神的・社会的援助が不足しているケースも多く、支援体制の整備が求められている。



◎そういう問題じゃ…

自分が「終末期ではなく回復の見込みのない患者」で「死を望む」場合、前村記者の記事を読んだら「そういう問題じゃないんだよ」と嘆きたくなるだろう。「支援体制の整備」をいくら進めても「死を望む」患者はいるはずだ。その場合にどう対処すべきかが問題なはずだ。

記事では、この問題に触れているくだりもある。

【日経の記事】

必ずしも終末期ではないが、回復の見込みのない患者が死を望むことはある。オランダや米国の一部の州などでは患者の安楽死を認めている。

日本医師会の「医師の職業倫理指針」(16年10月改訂)では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を例示し、終末期ではない患者の延命治療の中止について「容認する意見がある一方、かなり強い反対意見もあり、国民的な議論が必要とされる」と認めていない。

医療倫理に詳しい慶応大学の前田正一教授は「薬物を投与して患者を死亡させる積極的安楽死は、耐えがたい肉体的苦痛などがない限り、日本では法的にも倫理的にも許容されていない。まして診療せずSNSを通じて依頼を受けたとすればありえない」と指摘する。


◎で、前村記者はどう思う?

必ずしも終末期ではないが、回復の見込みのない患者が死を望む」場合にどうすべきか、前村記者の考えを打ち出してほしかった。

日本では法的にも倫理的にも許容されていない。まして診療せずSNSを通じて依頼を受けたとすればありえない」という「慶応大学の前田正一教授」のコメントで記事を締めていることから推測すると「オランダや米国の一部の州など」のようにするのは反対なのだろうが、曖昧に逃げている感は否めない。

積極的安楽死」について「法的にも倫理的にも許容されていない」と「前田正一教授」は言うが、「倫理的」に「許容」する人はそこそこいそうだ。「医師の職業倫理指針」にも「容認する意見がある」と記事でも書いている。自分も「容認」派だ。

同じ面のメインの記事によると「当初、林さんは自殺ほう助による安楽死が認められているスイスに渡ることを希望していたとみられるが、病状が進行」したために断念し「医師2人」に「嘱託殺人を依頼していた」らしい。

日本に「スイス」と同じ仕組みがあれば、「林さん」は普通に「安楽死」できただろう。「医師2人が嘱託殺人容疑で逮捕され」るような事態も起きなかった。それではダメなのか。嫌がる人を強引に「安楽死」させる訳ではない。苦しむ本人が強く望むのに「支援体制の整備」を進めて「それでも生きろ」と強いるのが「倫理的」に正しいのか。

そこを前村記者には正面から論じてほしかった。


※今回取り上げた記事「回復難しい患者 ケアは十分か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200724&ng=DGKKZO61889530T20C20A7CC1000


※記事の評価はC(平均的)。前村聡記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。

2020年7月23日木曜日

「『金利消失』新興国でも」と読者を欺く日経 小栗太編集委員

23日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「ポジション~『金利消失』新興国でも 利下げ止まらず 再び投資マネー流出も」という記事は読者を欺く内容になっている。筆者の小栗太編集委員には、その自覚があるのではないか。「日米欧で起きた『金利消失』の動きが新興国にも広がりつつある」という説明が本当かどうか。記事の前半を見ていこう。
道路が冠水した福岡県久留米市内※写真と本文は無関係

【日経の記事】

日米欧で起きた「金利消失」の動きが新興国にも広がりつつある。新型コロナウイルスの感染拡大が中南米やアジアでも深刻化し、政策金利の引き下げによる景気下支えを続けているためだ。日米欧の大規模な資金供給で投資マネーは新興国に戻りつつある。だが感染拡大が長引けば、新興国から再びマネーが流出する懸念も拭えない。

「まだ利下げは終わりではない」。BNPパリバ証券はこんなリポートをまとめ、新興国による利下げが今後も止まらないとの見通しを示した。同社が分析した主要新興国25カ国のうち、年内に17カ国が追加利下げに踏み切るという。

実際、6月25日にはメキシコ、7月に入っても7日にマレーシア、16日にはインドネシアが政策金利を相次いで引き下げた。すでに政策金利が消失した日米欧などの先進国だけでなく、新興国でも金利消失に向けた動きが強まっている

新興国で利下げが相次ぐのはコロナの感染拡大で経済活動が落ち込み、物価も低迷しているからだ。中央銀行が金融政策の目標に置く物価水準を下回る国も少なくない。



◎具体例ゼロでは…

冒頭で「『金利消失』の動きが新興国にも広がりつつある」と宣言し、さらに記事の後半でも「先進国から新興国へと広がる『金利消失』の動きは、先進国の長期停滞を招くと同時に、新興国からの資金流出リスクを高める」と解説している。これを信じれば既に「『金利消失』の動き」は「新興国へと広がる」状況になっているはずだ。しかし記事を最後まで読んでも具体例は出てこない。

6月25日にはメキシコ、7月に入っても7日にマレーシア、16日にはインドネシアが政策金利を相次いで引き下げた」とは書いている。では、こうした国では「『金利消失』の動き」が起きているのか。

日経の別の記事では「メキシコ銀行(中央銀行)は25日、金融政策決定会合を開き、政策金利を0.5%引き下げて5%にすることを決めた」と伝えている。「5%」であれば「金利消失」には程遠い。マレーシアは1.75%、インドネシアは4%とやはり「金利消失」には至っていない。

金利消失」と言うからには政策金利がゼロかマイナスでないと厳しい。「ほぼゼロ」ならばまだ分かるが、今回の記事には「ほぼゼロ」の事例すらない。なのに「『金利消失』の動きが新興国にも広がりつつある」との前提で話が進んでいく。

小栗編集委員も「『金利消失』の動きが新興国にも広がりつつある」とは思っていないのだろう。具体例を記事に入れなかったのは、そのためだと推測できる。記事には「新興国でも金利消失に向けた動きが強まっている」とトーンダウンした記述も見られる。

前提に無理があるが、その方が記事にしやすいから、あえて読者を欺く道を選んだとも言える。「記事に『金利消失』の具体例を盛り込むという発想がそもそもなかった」という場合、書き手としての基礎的な能力に疑問符が付く。いずれにしても「編集委員」の肩書を付けて記事を書かせるのは苦しい。


※今回取り上げた記事「ポジション~『金利消失』新興国でも 利下げ止まらず 再び投資マネー流出も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200723&ng=DGKKZO61853360S0A720C2EN2000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小栗太編集委員への評価もEを据え置く。

2020年7月22日水曜日

乏しい根拠で4人の官僚を「馬鹿」と呼ぶFACTAの「愚行」

記事の中で人を「馬鹿」と呼ぶことには極めて慎重であるべきだ。基本的には選択肢から外していい。あえて使うならば「馬鹿と言われても仕方がない」と読者に思わせる強い根拠が要る。しかしFATA8月号に載った「どんな愚行も許される『ハウス前田』と4人の『馬鹿』」という記事は、その条件を満たしていない。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【FACTAの記事】

こうした前田の行動を支えるのが4人の官僚だ。省内では「前田チーム」と上品に呼ばれるが、口の悪いOBからは「4馬鹿官僚」と罵られている4人だ。

チームのリーダー格が政策立案総括審議官の荒井勝喜。国会で持続化給付金問題を突き付けられた前田を徹底擁護した。前述の広島・島根出張の省内同行者を選んだのも荒井だという。荒井は総務課長時代の18年11月、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の取締役会が設立からわずか2カ月で空中分解するきっかけを作った人物

役員報酬は業績連動分を入れて最大で3150万円にすることなどを盛り込んだ「荒井ペーパー」を作成し、当時のJICの社長田中正明らに突きつけた。同年9月には1億円超の報酬を提示していたのに、急に減額した。これを契機に、政府の関与を強めたい経産省と、投資への自由裁量を求めるJIC取締役会が対立を深め、民間出身の取締役9人が一斉に退任した。

JICとの交渉を事務方として直接担っていたのが当時産業創造課長だった「4馬鹿官僚」のナンバー2、佐々木啓介だった。今は大臣官房商務サービスグループ参事官を務める。「アベノマスク」配布のチームリーダーとして知られ、上から目線で「数さえそろえばいいんだ」と言い切って世間から顰蹙をかったあの御仁だ。「実は、電通出身の平川と一番親しいのがこの佐々木だ。毎晩一緒に飲み歩くほどの関係から前田に紹介した」と同省OBは解説する。

残る2人はサービス政策課長の浅野大介と、現在、経産省政策企画委員から群馬県副知事として出向中の宇留賀敬一だ。2人は、「前田ハウス」で宴会が開かれる際に買い物をする「使いっ走り」だ

ある若手官僚が指摘する。「JIC問題なども含めてこの4人は仕事で失敗しようが、遊びみたいな公務出張をしようが何のお咎めもなし。それどころか出世が早い。それも首相秘書官の今井の評価が高いからだとみられている。経産省は全員こんな官僚ではないが、真面目にやっている若手の中には、何だかばかばかしくなった、辞めたいという人が増えた」


◎匿名コメントを使っての「馬鹿」では…

まず「口の悪いOB」という他者のコメントを使って「4人の官僚」を「馬鹿」と呼んでいるのが感心しない。筆者が自らの責任で「馬鹿」と呼ぶべきだ。コメントを使うならば実名コメントが筋だ。今回のような書き方でいいのならば、匿名の悪口を使って誰のこともも「馬鹿」と呼べる。

それでも「馬鹿」と呼ぶに値する根拠が示せていればまだいい。ところが、そこも怪しい。

荒井は総務課長時代の18年11月、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の取締役会が設立からわずか2カ月で空中分解するきっかけを作った人物」らしい。「JIC」に関して事をうまく運べなかったかもしれないが、誌面を使って「馬鹿」と言われなければならないような話なのか。

「『4馬鹿官僚」のナンバー2、佐々木啓介」に関しては「『アベノマスク』配布のチームリーダーとして知られ、上から目線で『数さえそろえばいいんだ』と言い切って世間から顰蹙をかったあの御仁」のようだが、これと「JICとの交渉を事務方として直接担っていた」という話だけで「馬鹿」と呼ぶのは酷だ。

残る2人」は「『前田ハウス』で宴会が開かれる際に買い物をする『使いっ走り』」というだけで、なぜ「馬鹿」なのか不明だ。

子供がよく「馬鹿って言う奴が馬鹿なんだぜ」と言うが、その言葉を思い出させる記事だった。


※今回取り上げた記事「どんな愚行も許される『ハウス前田』と4人の『馬鹿』
https://facta.co.jp/article/202008029.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月20日月曜日

「人も設備も過剰で『超短納期』」の説明が苦しい日経ビジネス

日経ビジネス7月20・27日合併号の特集「危機に強い ぽっちゃり企業」の中の「『余剰人員は悪』を疑え エーワン精密~人も設備も過剰で『超短納期』」という記事は理解に苦しむ内容だった。記事を見た上で具体的に指摘したい。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

⼭梨県中央部の甲府盆地。南アルプスの⼭々を望む⼟地に、⼯作機械向け部品を製造するエーワン精密の5棟の⼯場が建っている。第1⼯場には、近く、2億円規模の最新鋭の機械設備数台が⼊る予定だ。第1⼯場は面積の約3割しか埋まっていなかった。その空いている場所に新たな設備が設置される。

「すでに空きスペースがあったから、すぐに機械設備を発注できた。それに、不況のときに購⼊した⽅が、価格も安くなるし、機械メーカーのエンジニアも時間をかけて作業をしてくれる」。半世紀にわたり、エーワン精密を率いてきた梅原勝彦相談役はこう話す。

実は、第1⼯場⾃体も景気が悪化したリーマン・ショック直後の2009年に建設した。設備や⼯事の費⽤は2〜3割程度抑えられたという。

不況期でも設備量を「やや過剰」にしているのは、急な注文にも対応し、超短納期で製品を提供するのがエーワン精密の最⼤の強みだからだ。例えば、主力の「コレットチャック」という製品は、他社なら納⼊まで1〜2週間かかるが、エーワン精密なら早ければ翌⽇に納⼊できる。他社との競争で優位に⽴てるし、顧客とも対等な価格交渉が可能になる。

「もう少し価格を下げてもらえませんか」。顧客である売上⾼数千億円規模の⼤⼿企業の担当者が頼むと、エーワン精密の担当者はためらいなくこう⾔って電話を切った。「それはできません」

今から⼗数年前のこと。相⼿先の⼤⼿は、あの永守重信会⻑が率いる⾼成⻑企業の⽇本電産である。エーワン精密は、その値下げ要求に毅然とした態度を取った。

「短納期や品質など相⼿に与えられるメリットがあるから顧客は価値を認めてくれる」と梅原⽒は⾔う。同社は不況期でも値下げには⼀切応じない姿勢を貫いてきた。

受けた注⽂のうち6割程度は、エーワン精密側の⾒積価格が通っている。⾔い換えれば、残りの4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかったということだ。典型例が、機械を構成する「カム」と呼ぶ部品で、もう50年以上、価格を変えていないという。

同社は⼈員も「やや過剰」。不況期の人員整理は珍しくないが、エーワン精密の考え⽅は正反対だ。好況になって需要が戻ったときのために⼈員を抱えておく。さらに、約100⼈の従業員は全員が正社員である。「せっかく育てた社員たちを雇い続けなければ会社にとってマイナス」がエーワン精密流の考えなのだ。値下げをしない収益性の高さが雇用を守る“原資”となる。

好不況の波にも左右されず、どんなときにも柔軟に対応する「やや過剰」の経営がエーワン精密を⽀えている。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)なぜ「相談役」?

半世紀にわたり、エーワン精密を率いてきた梅原勝彦相談役はこう話す」と書いてあると、今も「梅原勝彦相談役」が「エーワン精密を率いて」いるような印象を受ける。だが、会社のホームページを見ると社長もいるようだ。「相談役」に語らせるなとは言わないが、なぜ社長などではなく「相談役」が前面に出てくるのかの説明は欲しい。社長はお飾りで「相談役」が実質的な経営トップと理解すればいいのだろうか。


(2)なぜ「超短納期」にできる?

人も設備も過剰で『超短納期』」というのは記事の柱だ。しかし「超短納期」を実現できる仕組みがよく分からない。「他社なら納⼊まで1〜2週間かかるが、エーワン精密なら早ければ翌⽇に納⼊できる」のであれば、圧倒的な差だ。「人も設備も過剰」にすると、これを実現できるだろうか。

過剰」と言っても、あくまで「やや過剰」だ。「他社」の設備稼働率が100%だとしたら「エーワン精密」も90%程度はあるだろう。他の条件が同じだとして、なぜここまで「超短納期」にできるのか謎だ。

人も設備」も「やや過剰」にするだけで、これだけ圧倒的な差を付けられるならば「他社」も追随しそうなものだが…。

やや過剰」がどの程度の「過剰」なのか明確でないのも残念だった。できれば具体的な数値で示してほしい。


(3)「取引が成⽴しなかった」?

受けた注⽂のうち6割程度は、エーワン精密側の⾒積価格が通っている。⾔い換えれば、残りの4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかったということだ」という説明には矛盾を感じる。

受けた注⽂」であれば、「受注」しているはずだ。価格面でも合意ができていると見るのが普通だ。しかし「4割は価格で折り合えず、取引が成⽴しなかった」と書いている。価格で折り合わないのに「注⽂」を「受けた」のか。

「商品供給の要請10に対し、価格面で合意して実際に供給したのが4」と言いたかったのではないか。だとしたら記事の説明は間違いだと思える。


(4)実質値下げだが…

ついでにもう1つ。「もう50年以上、価格を変えていない」ことを「値下げには⼀切応じない姿勢を貫いてきた」例として挙げている。間違いではないが「50年以上」も価格を据え置いているのならば、昭和期のインフレを考慮すると実質的には「値下げ」をしている。



※今回取り上げた記事「『余剰人員は悪』を疑え エーワン精密~人も設備も過剰で『超短納期』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00513/?P=4


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月19日日曜日

問題多い日経 桃井裕理政治部次長の「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」

19日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」という記事は苦しい内容だった。筆者の桃井裕理政治部次長はネタに困って書いたのだとは思う。それにしても問題が多い。
道路が冠水した福岡県久留米市内
        ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ていこう。

【日経の記事】

サイバーセキュリティー企業の米ファイア・アイによると、ベトナムのハッカー集団が1月から4月にかけ中国政府にサイバー攻撃を仕掛けた。標的は中国の応急管理省と武漢市当局。最初の攻撃は1月6日だ。

ベトナムは新型コロナウイルスへの早い対策が奏功し、感染者300人台、死者0人にとどまる。同国だけではない。コロナ禍で迅速に動いた国には常に脅威と隣接する小国が目立つ。


◎「サイバー攻撃を仕掛けた」のは政府?

中国政府」への「サイバー攻撃」は「ベトナム」政府による「新型コロナウイルスへの早い対策」の一環だと桃井次長は見ているのだろう。違うとは言わない。そうならそうと書いてくれないと、何のために「サイバー攻撃」の話を持ってきたのか分からない。「ベトナム」政府が公式には認めていないのならば「ベトナム政府の支援を受けたとみられるハッカー集団」といった説明でもいい。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

フィンランドは欧州にあって感染者を7000人台に抑え、医療崩壊も起こさなかった。同国はソ連の大軍に2度侵攻され、死闘の末に独立を保った。今も兵役が課され、多くの備蓄庫や核シェルターがある。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、戦後初めて備蓄庫の物資が放出され、医療機関に大量の防護服や医療用マスクが運び込まれた。

台湾はSARS(重症急性呼吸器症候群)の苦い経験に加え、情勢に敏感な同胞ネットワークを中国大陸に持つ。武漢便の検疫強化など当局が対策に踏み切ったのは昨年末に遡る。

感染症対策は有事の戦術や兵たんと通ずる。こうした国には備えがあった。そして、その備えや鋭敏さは「環境の必然」が生んだ。



◎台湾は「国」?

コロナ禍で迅速に動いた国には常に脅威と隣接する小国が目立つ」例として「フィンランド」や「台湾」を取り上げたのだろう。「台湾」の話の後にも「こうした国には備えがあった」と書いている。「こうした国」に「台湾」が入っているのは明らかだ。

台湾」は実質的には「」だが、日経はこれまで「台湾」に関して「地域」と表現してきたはずだ。そことの整合性が気になった。

記事はここからガラッと話が変わる。

【日経の記事】

コロナ対策で出遅れた日本にポストコロナへの備えはあるだろうか。新たな危機の一つに米中のデカップリングがある。中国からの企業買収の防衛などは当然のこと。難しさは「米国の脅威」への備えにある。

中国をサプライチェーンから切り離す動きは米大統領選の行方にかかわらず続くだろう。ローテク製品は許されても最先端分野が許されないのは間違いない。

問題はグレーゾーンにある。米中の間合いで「許されない範囲」はダークからライトグレーまで動き得る。しかも今は民生・軍事技術の境界が明確でない。情勢を読めずに地雷を踏めば「東芝機械ココム違反事件」のような事態も起きる。


◎「東芝機械ココム違反事件」の説明は?

コロナ対策で出遅れた日本にポストコロナへの備えはあるだろうか。新たな危機の一つに米中のデカップリングがある」と話が展開している。関連付けは一応しているが「ベトナム」「フィンランド」「台湾」といくつも事例を出して長々と「コロナ対策」の話をする必要性は感じられない。事例として使うにしても1つで十分だ。この辺りに行数稼ぎの臭いを感じる。

そもそも「米中のデカップリング」と「ポストコロナ」は関係が薄い。「コロナ」問題が収束しなくても「米中のデカップリング」は起こりうる。「新たな危機の一つに米中のデカップリングがある」との見方にも同意できない。米中対立という話ならば「コロナ」の前からある。

さらに言えば「情勢を読めずに地雷を踏めば『東芝機械ココム違反事件』のような事態も起きる」と注釈なしに「東芝機械ココム違反事件」に言及しているのは感心しない。「読者のほとんどはこの事件をよく知っている」との前提が桃井次長にはあるのだろう。しかし30年以上前の事件に関して、そう判断するのは無理がある。

東芝機械ココム違反事件」とは「東芝機械がココムに違反してソ連にNC工作機械を輸出した事件」(ブリタニカ国際大百科事典)だ。「ココムに違反」しなければ問題は起きなかった。「米中のデカップリング」に関して「問題はグレーゾーンにある」と捉えているのならば、明確な「違反」が問題視された「東芝機械ココム違反事件」とは話が違ってくるのではないか。

今回の記事には理解できない説明もあった。以下のくだりだ。

【日経の記事】

「自国や自社の技術が軍事技術に関わる恐れはあるか。日本政府も企業もこれまであまりに鈍感だった」。国家安全保障局次長を務めた同志社大の兼原信克特別客員教授は警告する。

日本には強い必然性がなかった事情もある。米国防総省の研究・開発・試験・評価の予算は約10兆円。巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になるランド研究所など技術を調査するシンクタンクにも優秀な人材が集まる


◎日本企業は「鈍感」?「敏感」?

日本政府も企業もこれまであまりに鈍感だった」というコメントから判断すると、日本企業は「鈍感だった」はずだ。しかし、その後に「巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になる」と出てくる。こちらを信じれば、日本企業は「敏感」なはずだ。

記事の流れとしては「鈍感」の方がしっくる来る。ただ「巨大な市場に企業はおのずと自社技術の可能性に敏感になる」との記述からは「敏感」と読み取るしかない。なので混乱してしまう。「敏感」になるのは米国企業限定と言いたいのか。しかし「巨大な市場」であれば日本企業も関わっている可能性が高いし、桃井次長も「米国企業」とは言っていない。

ランド研究所など技術を調査するシンクタンクにも優秀な人材が集まる」との説明もよく分からなかった。「ランド研究所」は米国の「シンクタンク」だ。そこに「優秀な人材が集まる」と「日本」としては「敏感」になる「強い必然性」がなくなるのか。

この因果関係が理解できなかった。桃井次長にしっかり話を聞けば「そういうことか」と納得できるのかもしれない。しかし、記事に盛り込んだ情報だけではよく分からない。

苦し紛れに書いた記事だとしても、この完成度では辛い。全体として「しっかり読者に説明しよう」という意識が低い気がする。


※今回取り上げた記事「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200719&ng=DGKKZO61639030X10C20A7EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。桃井裕理次長への評価はDで確定とする。桃井次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「米ロ関係が最悪」? 日経 桃井裕理記者「風見鶏」に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_1.html

2020年7月18日土曜日

「スウェーデンは日常を変えない集団免疫戦略」? 日経 矢野寿彦編集委員に問う

矢野寿彦編集委員は日本経済新聞の編集委員の中では評価できる書き手だ。ただ、18日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~解なき時代の科学と政治」という記事には、スウェーデンに関して引っかかる記述があった。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない「集団免疫」戦略をとった。高齢者を中心に当初、大勢の死者を出した政策は、世界から批判を浴びた。だが、自国民からの信頼は変わらず厚い。公衆衛生庁の責任者でコロナ対策を指揮する疫学者が連日のように記者会見し、最新のデータを使って丁寧に説明する。政治と科学がうまく結びつき、適切なリスクコミュニケーションが貫かれる。



◎「スウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略」?

パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略をとった」と断言している。一方、医師・疫学研究者の上田ピーター氏は文藝春秋8月号の「スウェーデン『集団免疫作戦』のウソ」という記事で、矢野編集委員のような見方を否定している。

記事の一部を見てみよう。

【文藝春秋の記事】

まずスウェーデンの政策に関して、世界では『強制的なロックダウンを避けて独自路線を採った」「集団免疫の獲得を目指して、なるべく多くの人が感染することで事態を早期に収束させようとしたが、結局、失敗に終わった」と報じられています。しかし、こうした「集団免疫論」は、公式には一度も表明されていません。その対策は、実はそれほど“独自”なものではなかったのです。

対策の中身を具体的に見ていくと、まず法律で強制したのは、「高齢者施設の訪問と50人以上の集会の禁止」「飲食店において、客同士の距離をとるための制限」です。「少しでも症状のある人の隔離」は、法的拘束力のない「勧告」として定められ、それを促すために、「医師の診断なしで病気欠勤が許容される期間」が3週間に引き上げられました。

中略)法律や警察によってすべてを強制するのではなく、国が情報を提供し、具体的な対応は国民に委ねるという点は、徹底的なロックダウンを行った国とは異なります。しかし、政府の要請と国民の自発的な自粛で対応した日本とは、かなり近いのではないでしょうか。

中略)例えば、4月のストックホルム市内では、車の数が30%減少し、歩行者の数は70%減少しています。公共交通機関の利用は3月から4月にかけて、60%減少しています。つまり実質的には、ほぼ「ロックダウン状態」。

70歳以上の高齢者の9割以上は、自主的に外出を控え、ストックホルムの労働人口の45%は、フルタイムでの在宅勤務でした。労働人口の27%は、リモートワークがしにくい教育、医療、介護の仕事ですから、かなり高い割合だと言えます。

ストックホルムマラソン、サッカーリーグ、春祭りなどのイベントもすべて中止。通常なら4月中旬のイースター休暇には、国民の多くが国内旅行に出かけるのですが、前年比で90%減。ある調査では、「何も特別なことはせず普段通りに行動した」と答えたのは、わずか1%でした。

◇   ◇   ◇

上田氏の説明が間違っている可能性ももちろんある。ただ「スウェーデンの首都ストックホルムで、医師として」働いている上田氏が詳細に同国の状況を伝えているのだから、信頼度は高そうだ。

文藝春秋の記事が大筋で事実を正しく伝えているとすれば「パンデミックに対しスウェーデンは日常を変えない『集団免疫』戦略をとった」という矢野編集委員の解説は間違いとなる。「ストックホルムマラソン、サッカーリーグ、春祭りなどのイベントもすべて中止」となれば「日常」は自ずと変わってくる。「集団免疫論」も上田氏によれば「公式には一度も表明されて」いない。

自分の説明に問題がなかったのか矢野編集委員はしっかり検証してほしい。

ついでに1つ注文。今回の記事では平仮名表記が多過ぎる。

誰も正解をもたない」「透明性にもとづく科学」「政策責任の所在がみえなくなる」「薬の効果をめぐって正反対の結果がでることもある」「科学者の間で意見がわれる」などと書いているが「持たない」「基づく」「見えなくなる」「巡って」「出る」「割れる」と漢字表記しない意図が分からない。無駄に平仮名が多いと読みにくさを感じる。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~解なき時代の科学と政治
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200718&ng=DGKKZO61660010X10C20A7TCR000


※記事の評価はC(平均的)。矢野寿彦編集委員への評価もCとする。

2020年7月17日金曜日

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」

経済記事ではデータによる裏付けが大切だ。しかし17日の日本経済新聞朝刊企業1面に中村直文編集委員が書いた「ヒットのクスリ~マジックインキのふりかけ 大阪、笑いでブランド再生」という記事では、データが全く出てこない。これでは「ヒット」しているのかも「笑いでブランド再生」ができているのもか判断できない。
大雨で浸水被害を受けた福岡県久留米市
        ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

「マジックインキ」の形をしたふりかけは「マジックふりかけ」、調味料は「マジックインキッチン」が商品名。輪ゴムで有名な「オーバンド」のキャンディーは、商品名の下にローマ字で「輪ゴムちゃうで!あめちゃんやで!」と関西弁の突っ込みがある。

以前から気になっていた。大阪の土産はなぜパロディーが多いのかと。そもそも他の観光都市と違い、代表的な土産を持っていないからだ。このため「笑いの文化とお客様が一目で喜ぶ商品を重視している」(ジェイアール西日本デイリーサービスネット)。

だがマジックインキッチンなどを企画するヘソプロダクション(大阪市)の稲本ミノル社長に話を聞くと、ただのウケ狙いではなかった。「バカバカしいことを本気でやる」「感動的なモノづくり」などを掲げ、物語を追求していた

マジックインキの場合、ふりかけの商品企画を頼まれたのがきっかけ。例えば京都の銘菓「八つ橋」をふりかけにするレベルでは感動が湧いてこない。あれこれ考えていると、「どんなものにも書けるマジック」と銘打った事務用品のカタログが目に留まった。

「かける」「マジック」(魔法)の言葉を気に入った稲本氏はマジックインキ製造の寺西化学工業と商標を持つ内田洋行に企画を持ち込んだ。マジックインキは油性マーカーの代名詞だったが、ゼブラの「マッキー」にお株を奪われていた。

「寺西化学のように実力はあるけど埋もれた大阪の企業は多い。ブランドを再生することで大阪の役にも立つ」(稲本氏)。大阪には「フエキ糊」「パインアメ」など一世を風靡した商品がたくさんある。ヘソプロは野村克也監督のように「再生工場」を自任する

懐かしさに新しい価値を加え、SNS(交流サイト)で話題を呼んで人気土産になった。同社には「医学会に行ってきました KOBE SWEETS」という土産菓子もある。有名な観光地へ「行ってきました」のパロディーだが、学会という狭い概念に絞り込んで希少性がアップ。神戸の価値の再発見にもつながり、物語が成立する


◎「再生工場」になってる?

マジックふりかけ」などの「パロディー」商品で「マジックインキ」の「ブランドを再生」したと中村編集委員は認識しているのだろう。だが、何のデータもない。

まず「パロディー」商品が「ヒット」しているかどうかが分からない。こうした商品が「ヒット」して、その波及効果で「マジックインキ」の販売が大幅に伸びたといったデータがあれば「笑いでブランド再生」という話に説得力が出てくる。そこを省いて「ヘソプロは野村克也監督のように『再生工場』を自任する」と言われても困る。

ついでに言うと、既に亡くなっている「野村克也」氏に関して、いきなり「野村克也監督」と書くのも感心しない。どこの「監督」だったのかも説明していない。

ただのウケ狙いではなかった」「物語を追求していた」と言っていた割に、どういう「物語」なのか分かりにくいのも気になった。「マジックインキ」の「ブランドを再生」させるという「物語」なのか。だとしたら「物語」が成立したかどうかはデータで裏付けて読者に示すべきだ。

物語」に関しては「『医学会に行ってきました KOBE SWEETS』という土産菓子」の話がさらに理解に苦しんだ。記事の説明では、どんな「物語」があるのか読み取れない。「神戸の価値の再発見にもつながり」というくだりも、よく分からない。「医学会」と言えば「神戸」なのか。そこに「神戸の価値」があるのか。事情に疎い読者にも分かるように書いてほしい。



※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~マジックインキのふりかけ 大阪、笑いでブランド再生
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200717&ng=DGKKZO61499900U0A710C2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

2020年7月16日木曜日

「気象予測の力」で「投資家として大暴れできる」と日経 梶原誠氏は言うが…

株式市場で市場平均を上回る高いリターンを得るのは容易ではない。しかし日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)には秘策があるようだ。16日の朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~気象予測 投資の新常識に」という記事で、その方法を惜しげもなく教えてくれている。しかし有効な助言とは思えなかった。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

筆者が投資家なら、気象予測の力を磨くだろう。台風シーズンの前には進路と災害を予測し、そこに工場を持つ企業の備えを調べる。そして準備が万全な企業と、その工場の製品に依存する世界の企業を抽出しておく。

いざ台風が来たら、それらの企業の株もパニック売りにさらされる。実態を下回る株安になったら工場の無事を確認して買う。

逆もまた真なりだ。気象予測の専門家は、今のうちに証券アナリストの力を身につけたらどうか。気象は投資の必須科目に浮上した。気象感度がまだ弱い兜町では、独自の視点を持つ投資家として大暴れできるだろう


◎きちんと「進路と災害を予測」できる?

まず引っかかったのが「売り」から入らないことだ。「パニック売りにさらされる」と事前に予測できるのならば、空売りしておいて「パニック売りにさらされ」た後に買い戻せば大きな利益を期待できる。この場合、「準備が万全な企業と、その工場の製品に依存する世界の企業を抽出しておく」といった手間は省いてもいい。「パニック売り」が起きると分かっていれば、それだけで利益を上げられるからだ。

梶原氏の教えでより問題なのは「気象予測の力を磨く」ことで「台風シーズンの前」に「進路と災害を(かなり正確に)予測」できると見ている点だ。

台風シーズン」を7~10月だとしよう。梶原氏はその前に「予測」するので、予測対象となる期間はかなり長くなる。気象予測に関しては、わずかな初期値の違いで結果が大きく異なるバタフライ効果が働くことが知られており、「予測」する期間が長くなればなるほど、精度の高い「予測」は原理的にできなくなる。これは「気象予測の力を磨く」ことでは解決できないとされる。

梶原氏の「予測」の場合、「台風」がいつ来るのかは重要ではない。ただ「進路」と「威力」はきちんと「予測」する必要がある。バタフライ効果の壁を乗り越えて、そうした「気象予測の力」を獲得できるのか。そこが気になるが、記事では言及していない。

気象予測は短期であれば高い精度が期待できるので「気象予測の専門家」が「投資家として大暴れ」する余地はある。ただ、「逆もまた真なり」との説明から判断すると、「気象予測の専門家」も梶原氏と似たような手法を用いると想定しているのだろう。であれば成果は期待薄だ。

気象予測の力を磨く」ことで自分は他の投資家を出し抜けると梶原氏が考えているのならば、あまりに無邪気だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~気象予測 投資の新常識に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200716&ng=DGKKZO61545750V10C20A7TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight_16.html

2020年7月15日水曜日

「高止まり」の使い方が気になる日経「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し」

高止まり」とは「金利や物価が、高い状態でとどまっていること。高値安定」(大辞林)という意味だ。水準が高くても、そこそこ動いていれば「高止まり」とは言えない。15日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し~コロナ禍、米は5月20%台 日本、20年ぶり高水準も」という記事では、この「高止まり」の使い方が引っかかった。
豪雨被害を受けた天ケ瀬温泉(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

まず米国に関する説明を見ていこう。

【日経の記事】

米商務省によると、米国の5月の貯蓄率は23.2%だった。過去最高だった4月(32.2%)からは下がったものの、1959年の統計開始以降で2番目の高い水準だ。コロナ禍が深刻になる前の2月まで8%前後で安定していたのに比べても突出して高い。

5月は各州で外出規制の緩和など経済活動が徐々に再開され、自粛の反動から「リベンジ消費」も活発になった。個人消費支出(季節調整値)は4月の前月比12.6%減から一転、5月は8.2%増と過去最大の伸び率を記録した。ただ政府の失業保険給付金などが個人所得を下支えするなか、消費の持ち直しはまだ途上で、貯蓄率も高止まりしている



◎「貯蓄率も高止まりしている」?

貯蓄率も高止まりしている」と言い切っているが、「過去最高だった4月(32.2%)」から「5月の貯蓄率は23.2%」と急落している。「」ではあるが「止まり」には当たらない。

では欧州はどうか。


【日経の記事】

欧州でも貯蓄率は急上昇している。SMBC日興証券によると、ドイツは1~3月期に12%強と約17年ぶりの高水準になった。所得が減った以上に消費が落ち込んだ。



◎「急上昇」ならば…

欧州でも貯蓄率は急上昇している」のならば「高止まり」ではない。「高止まりの兆し」が出ている可能性はあるが、「欧州」に関する説明は上記のくだりだけだ。

日本に関しては微妙ではある。


【日経の記事】

日本は内閣府が国内総生産(GDP)統計に基づき、家計の貯蓄率を推計している。直近の公表データは2019年10~12月期の6.6%。日本経済研究センターの試算では20年1~3月期に8.1%、4~6月期には8.9%と約20年ぶりの高水準に達する。



◎横ばい圏と言えなくもないが…

問題は「20年1~3月期に8.1%、4~6月期には8.9%」という動きをどう見るかだ。これを「高止まり」「高止まりの兆し」と取れなくもない。しかし上昇基調が続くとも解釈できる。

記事には「ドイツ証券の小山賢太郎チーフ・エコノミストは日本の貯蓄率が4~6月期に18%台まで急上昇した後、21年中も10~11%台とコロナ前より高い水準で推移すると予測する」との記述もある。「21年中も10~11%台」で「推移する」のであれば、これを「高止まり」と見ることはできる。しかし「18%台まで急上昇した後」に「10~11%台」へと落ちるのであれば「安定」している感じはない。

そもそも記事には日米独の3カ国しか出てこない。これで「新型コロナウイルスによる景気悪化を受け、所得のうち貯蓄に回る割合を示す貯蓄率が先進国で高止まりの兆しをみせている」と打ち出すのは、やや苦しい。表やグラフで見せるやり方でもいいので、もう少し多くの「先進国」の動向を紹介してほしかった。


※今回取り上げた記事「先進国の貯蓄率、高止まりの兆し~コロナ禍、米は5月20%台 日本、20年ぶり高水準も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200715&ng=DGKKZO61516290U0A710C2EE8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月14日火曜日

理解に苦しんだ日経 中山淳史氏の「Deep Insight~テスラが変える車のKPI」

日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)が書く記事が相変わらず苦しい。14日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~テスラが変える車のKPI」という記事では理解不能と思える記述も見られる。中身を見ながら具体的に指摘していく。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

時価総額が売上高の何倍にまで達しているかを示す「プライス・トゥー・レベニュー」という指標がある。それで見ると、トヨタを含め主要な自動車メーカーの倍率は1倍を割り込む(成長を期待されていない)一方、テスラは10倍超だ。これはフェイスブック(9倍)などと同水準であり、テスラがIT企業と似た期待感で株が買われていることを示す。



◎トヨタは「成長を期待されていない」?

プライス・トゥー・レベニュー」が「1倍を割り込む」企業は「成長を期待されていない」と中山氏は見ているのだろう。根拠は不明だ。

投資家が期待する「成長」とは、基本的には「利益成長」だ。「売上高」と「時価総額」を比べて「成長を期待されていない」とか「期待されている」とか論じて意味があるのか。

続きを見ていこう。今回の記事で最も理解に苦しんだ部分だ。

【日経の記事】

買われすぎとの指摘はあるが、根拠はないと言い切る確かな反論も逆にないプライス・トゥー・レベニューでいえば、あと15~20年で電気自動車は世界の自動車市場(年間約1億台)の約3割を占め、先行者利益のあるテスラは25%のシェアを握る。各種調査のそんな平均値に従えば、同社の販売台数は今の約40万台から800万台近くにまで増える計算だ。



◎何が言いたいのか…

買われすぎとの指摘はあるが、根拠はないと言い切る確かな反論も逆にない」がまず分かりにくい。最初は「買われすぎとの指摘はあるが、(買われすぎとの指摘に)根拠はないと言い切る確かな反論も逆にない」と理解したくなった。

少し分かりやすく言えば「買われすぎとの指摘はあるが、その指摘に根拠なしとは言い切れない」といった趣旨になる。つまり「買われすぎとの指摘」を支持する内容になる。これは文脈的に整合しない。

おそらく「買われすぎとの指摘はあるが、(高水準の株価に理論的な)根拠はないと言い切る確かな反論も逆にない」と伝えたかったのだろう。例えば「買われすぎとの指摘はあるが、テスラの株価をバブルと言い切れる確かな根拠もない」とすれば、格段に分かりやすくなる。ほぼ同じ意味になるはずだ。

プライス・トゥー・レベニューでいえば、あと15~20年で電気自動車は世界の自動車市場(年間約1億台)の約3割を占め、先行者利益のあるテスラは25%のシェアを握る」というくだりは色々と考えたが、結局は何が言いたいのか分からなかった。「プライス・トゥー・レベニューでいえば」が何のために付いているのかが難問だ。

プライス・トゥー・レベニュー」は「トヨタを含め主要な自動車メーカーの倍率は1倍を割り込む一方、テスラは10倍超」となっている。この事実から「あと15~20年で電気自動車は世界の自動車市場(年間約1億台)の約3割を占め、先行者利益のあるテスラは25%のシェアを握る」と予測できるということか。全く理解できない。

自分の読解力不足なのかもしれないが、これをすんなり理解できる読者は当たり前にいるのか。

付け加えると、上記の書き方だと「テスラ」が「25%のシェアを握る」のが「世界の自動車市場」なのか、「電気自動車」市場に限った話なのか判断に迷う。

中山氏に「Deep Insight」を任せるのは、やめた方がいい。やはり結論はここに落ち着く。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~テスラが変える車のKPI
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200714&ng=DGKKZO61452240T10C20A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_16.html

やはり苦しい日経 中山淳史氏の「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_27.html

2020年7月13日月曜日

「ダイキンの在庫過多経営」に無理がある週刊ダイヤモンド新井美江子記者

週刊ダイヤモンド7月18日号に載った「特別インタビュー~アフターコロナで定石を否定 ダイキンの『在庫過多』経営」という記事には強引さを感じた。まず「『在庫過多』経営」を標榜するという話に無理がある。「過多」であれば、必ず「好ましくない多さ」になる。そこを目指そうとする「経営」があり得るのかという疑問が湧く。
冠水した国道210号線(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

百歩譲って「『在庫過多』経営」があり得るとして「ダイキン」は本当にそこを目指しているのか。新井美江子記者の問いと、井上礼之ダイキン工業会長の答えを見てみよう。


【ダイヤモンドの記事】

--では、サプライチェーン戦略にさほど変更は必要ない?

SCMの目的は需要と供給のギャップのコントロールやと言いましたが、これは結局、「在庫をできるだけ最適化、最小化して少ない資金で事業を回せるようにする」ということやと思うんですよ。でも、保護主義が進むにつれて、私は在庫を多く持つという方向にサプライチェーンが変わってくる可能性があると思いますね。

いい商品を作って社会貢献しよう、社会的責任を果たそうと言うているのに、保護主義とか自国第一主義になっているからといって、そういう品物を消費者に届けないというのは、ものすごく間違った企業行動やと思うんですね。

資金は余分に要るようになるけれども、在庫を持ってでもお客さんが必要なときに、間違いなしに届けられるサプライチェーンにしていく必要があるかも分からんわけですよ。こういう変化には、トップも含めて柔軟に取り組んでいかないかんと思っています。

--保護主義が進むと物を動かすのにちょっと時間がかかるようになるかもしれないから、在庫過多も許容しなければならないと。

いいものやったら在庫になっていたっていずれ売れるはずなんですね。1~2年たったら売れなくなるようなものを作っているから、在庫を持ったらいかんていう話になっているわけですよ。

--在庫が増えれば利益は上がりにくくなる。それでも勝てる商品を作るということですね。

そうです。挑戦しないとね。コロナという大きな危機のときには、そういう経営が必要なんですよ。


◎「在庫過多」とは言っていないが…

『在庫過多』経営」とインタビュー記事の見出しで打ち出すのならば、取材相手が「在庫過多」という言葉を使っていないと苦しい。今回の記事で「在庫過多」と言っているのは新井記者の方だ。

「今後は在庫過多経営でいくのですか?」「その通りです」というやり取りがあるのならば、まだ分かる。だが井上会長は「在庫過多も許容しなければならない」という考え方に同意はしていない(否定もしていないが…)。

「井上さん、ダイヤモンドの記事見ましたよ。今後は『在庫過多経営』でいくそうですね」と知人に言われたら「在庫過多でいいなんて私は一言も言ってません」と井上会長は答えそうな気がする。

もう1つ気になったのが以下のくだりだ。


【ダイヤモンドの記事】

そうして調達面を強化してもコストが成り立つように経営基盤を見直していく。技術開発によって、コストが高くなる分だけ製品の価格を上げても売れる品質のいい商品を作っていくとか、根本的に戦略を見直していかないと成り立たないなぁと思ってます。

--それで競合にまた一段と差をつけると。

それともう1つね。サプライチェーンマネジメント(SCM)の目的を一口で言うと、需要と供給のギャップのコントロールやと思うんですね。ということは、大事なのはサプライチェーン構築の“起点”となる地域のエンドユーザーの需要動向をいかに迅速につかむかです。



◎ヨイショ色が…

それで競合にまた一段と差をつけると」が質問として機能していない上に、露骨なヨイショに見える。記事の冒頭でも「変革力すさまじい同社」などと書いていたので嫌な予感はしたが…。新井記者が聞き手では、井上会長に厳しく斬り込むのは難しいだろう。

それでいいのか、新井記者はよく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「特別インタビュー~アフターコロナで定石を否定 ダイキンの『在庫過多』経営


※記事の評価はD(問題あり)。新井美江子記者への評価はDを維持する。新井記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

記事の手抜きが過ぎる週刊ダイヤモンド新井美江子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_8.html

2020年7月12日日曜日

丹羽宇一郎氏が書いた文藝春秋「日本よ、『鎖国』するな」の問題点

日中友好協会会長・元中国大使の丹羽宇一郎氏が文藝春秋8月号に書いた「日本よ、『鎖国』するな」という記事には色々と問題を感じた。まずは以下のくだりについて論じたい。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
            ※写真と本文は無関係です

【文藝春秋の記事】

日本が直面している最大の問題は、人口減少です。働き手の数が減れば、それだけ経済規模が小さくなり、国全体が貧しくなるからです。


◎「経済規模」が小さい国は貧しい?

この手の主張をする人を時々見かける。「国の豊かさ=その国のGDPの総額」と定義すれば、「人口減少」によって「国全体が貧しく」なる可能性が高い。だが、この場合、定義に問題がある。GDPを使うのが適切だとしても、1人当たりで見なければ意味がない。

例えばインドはスイスより「経済規模」は大きい。だからと言って「スイスの方が貧しい国だ」と考える人は稀だろう。

丹羽氏もこの点について考慮していない訳ではない。

【文藝春秋の記事】

人口減少は、必ずしも社会の衰退とイコールではありません。「人口減少悲観論」は、昭和の成功モデルをベースにしているからです。

人口減少の中でも日本の国際競争力を維持するには、1人あたりGDPを増やせばいい。この1人あたりGDPを増やすためには、労働生産性を高めるしかありません。もし、日本の労働者全員が、10時間かかっていた仕事を8時間で終えることができれば、人口が2割ほど減ってもGDPは現状維持されます。現政権が進める働き方改革でも、労働生産性の向上が鍵となっています。


◎「労働生産性を高めるしか」ない?

労働生産性=GDP÷就業者数」としよう。この場合、「1人あたりGDPを増やすためには、労働生産性を高めるしかありません」とは言えない。「労働生産性」が不変でも、高齢者などを働かせて「就業者数」を増やすと、全体のGDPが増えるので「(国民)1人あたりGDP」は伸ばせる。

それはいいとして、「人口が2割ほど減ってもGDPは現状維持されます」と丹羽氏が述べているように、「日本が直面している最大の問題は、人口減少」などと主張する人は、総じて「GDP」の「現状維持(あるいは拡大)」にこだわる。そこが理解できない。人口が半分になるなら、基本的にGDPも半分でいい。

村人が半分に減ったのに「村のみんなが2倍働けば、これまで通りの量のコメを収穫できる。頑張ろう」と言われても、個人的には「頑張って2倍働くぞ」という気持ちにはなれない。それと同じことだと思うが…。

次に移ろう。

【文藝春秋の記事】

いま世界の最先端科学技術を牽引するのは、アメリカ、ヨーロッパ、中国です。米欧中の科学者が共同研究を進める分野は多く、実際に共同論文が次々と発表されています。2018年のOECD調査によれば中国には約190万人、アメリカには約140万人の科学者がいます。一方、日本には68万人しかいない。


◎人口比では…

日本は「科学者」が少ないから「世界の最先端科学技術を牽引」できないと丹羽氏は訴えたいのだろう。だが、中国の人口は日本の10倍以上だ。米国も3倍近い。人口比で見れば日本の「科学者」は米中を大きく上回るのではないか。そこを考慮しなくてよいのか。

しかも、なぜか「ヨーロッパ」を無視している。ドイツ、フランス、英国などを個別に見れば「科学者」の数が日本を大きく下回っているのだとすれば、データの見せ方が恣意的すぎる。

最後は「資本主義」に関するくだりを見ていく。

【文藝春秋の記事】

私は資本主義のシステムは正しいと考えています。ただし、資本主義を名乗るには「自由」と「平等」が保障されていることが最低条件です。

もちろん、資本主義とは一色ではありません。アメリカ型の資本主義もあれば、日本型もある。各国の文化、歴史を背景に様々な色彩をもつのが資本主義だと私は理解しています。中国に自由と平等があれば、正真正銘の資本主義ですので、中国型の資本主義があってもいい。私は以前から「中国は、巨大な資本主義国家になる」と言いつづけてきました。建国100年を迎える2049年に、資本主義国家の中国が誕生すると予想しています。


◎「資本主義」には自由と平等が必須?

デジタル大辞泉では「資本主義」を「封建制度に次いで現れ、産業革命によって確立された経済体制。生産手段を資本として私有する資本家が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者から労働力を商品として買い、それを上回る価値を持つ商品を生産して利潤を得る経済構造。生産活動は利潤追求を原動力とする市場メカニズムによって運営される」と説明している。一般的な定義だろう。

しかし丹羽氏は「資本主義を名乗るには『自由』と『平等』が保障されていることが最低条件です」と言い切っている。「自分の思う資本主義はそうなんだ」と言われればそれまでだが、一般的な定義とはかけ離れている。

記事の別のところで「中国は事実上の資本主義国家と解釈されます」と丹羽氏は述べている。この説明との整合性も気になる。中国では実質的に「『自由』と『平等』が保障されている」のならば分かるが、少なくとも「自由」に関しては違うだろう。

最低条件」を満たしていなくても「事実上の資本主義国家」とは言えるということか。強引な説明はできそうな気もするが、整合性に問題があると見るべきだろう。


※今回取り上げた記事「日本よ、『鎖国』するな


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月11日土曜日

「非正規」で働く女性は「力を十分に生かせていない」? 日経社説に異議あり

女性活躍」をテーマにした主張には首を傾げたくなるものが多い。11日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「女性活躍へ働き方と暮らし方の改革を」という社説もそうだ。「働く女性は増えた。だがその力を十分に生かせていない」と言い切っているが、そうは思えない。社説の前半を見ていこう。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

 働く女性は増えた。だがその力を十分に生かせていない。この中途半端な状態を抜け出すには、働き方と暮らし方の改革が必要だ。

女性の現状を示す指標として長年、注目されてきたのが「M字カーブ」だ。子育て期に女性がいったん仕事を離れ、就業率がガクンと下がる現象を指す。今はMの落ち込みがだいぶ緩和され、グラフは台形に近づきつつある。

ただ、課題はなお多い。すぐに再就職する人も多いが、その大半は非正規だ。このため女性の正規雇用率をみると、20代後半をピークに下がり続ける。グラフにすると、「L」を伏せた「へ」のような形になる。内閣府の有識者懇談会「選択する未来2.0」は今月、中間報告でこの問題を提起し、「L字カーブ」として紹介した。

政府は2013年から「女性活躍」を掲げてきた。「M」は消えても「L」が続く状況では、いまだ成果は十分とはいえない。管理職に占める女性の割合は、日本では15%ほどだ。おおむね3、4割の欧米に比べて低い


◎「非正規」だと「活躍」できない?

政府は2013年から『女性活躍』を掲げてきた。『M』は消えても『L』が続く状況では、いまだ成果は十分とはいえない」という記述から判断すると「非正規」雇用の比率が高いことを根拠に「(女性の)力を十分に生かせていない」と筆者は見ているのだろう。

これは「非正規」で働く女性に失礼な話だ。「正規雇用」で働かなければ「女性活躍」だと見なさない理由が分からない。きちんと仕事をしていれば「非正規」でも「活躍」と言えるのではないか。

管理職に占める女性の割合は、日本では15%ほどだ。おおむね3、4割の欧米に比べて低い」と記述にも同様の問題を感じる。職場では「管理職」が「活躍」していて、それ以外の従業員は「活躍」していないのか。基本的には「管理職」かどうかに関係なく、「活躍」したりしなかったりしているはずだ。

正規雇用」で「管理職」になる人材だけを「活躍」していると筆者は見ているのかもしれない。だとしたら、かなりの偏見だ。個人的には「非正規」の女性も含めて、日本の女性は「その力を十分に生かせて」いると感じる。

ついでに言うと「内閣府の有識者懇談会『選択する未来2.0』」が紹介したという「L字カーブ」は無理がある。「『L』を伏せた『へ』のような形」ならば、もはや「L字」ではない。素直に「への字カーブ」でいい。



※今回取り上げた社説「女性活躍へ働き方と暮らし方の改革を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200711&ng=DGKKZO61398300Q0A710C2EA1000


※社説の評価はC(平均的)

2020年7月10日金曜日

日経「悠々球論~『侍投手』責任持たせてこそ」に感じる権藤博氏の限界

「野球評論家の権藤博氏にコラムを任せるのはそろそろやめた方がいい」と以前に訴えた。9日の日本経済新聞朝刊スポーツ面に載った「悠々球論~『侍投手』責任持たせてこそ」という記事を読んで、改めて同氏の限界を感じた。
大雨で増水した大分県日田市の三隈川(筑後川)
           ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】

それはさておき、菅野や吉井らのような自分の世界を持った投手が、めっきり減ったのは残念なこと。

先発の起用法がいけないのだ。中6日で、たまにしか投げない先発が、100球前後で降板する。勝ち負けつかずにマウンドを降りることも多く、本当の「責任投手」が誰か、はっきりしない。先発が中4、5日の間隔でどんどん投げて、ちゃんと責任を取れる体制にしないと、侍は出てこないだろう。


◎色々と気になる点が…

先発が中4、5日の間隔でどんどん投げて、ちゃんと責任を取れる体制にしないと、侍は出てこないだろう」と権藤氏は言うが「菅野」は「中4、5日の間隔でどんどん投げて」はいない。「自分のスタイルがある選手は強い、と納得した」と権藤氏が評した中日の「吉見一起」もそうだ。「ロッテでコーチを務めている吉井理人(近鉄など)」は微妙だが、日本で先発をやっていたのが主に1990年代ということを考えると「中4、5日の間隔でどんどん投げて」いたとは考えにくい。

権藤氏が「自分の世界を持った投手」として挙げているのは、この3人だ。基本的には「中6日で、たまにしか投げない先発」が当たり前の中で「自分の世界」を築いてきたのではないか。

また「中6日」と「本当の『責任投手』が誰か、はっきりしない」ことを一緒に論じているのも引っかかる。「本当の『責任投手』が誰か、はっきりしない」のが問題ならば、先発完投にこだわるしかない。その場合、「中6日」の方が完投はしやすい。

中4、5日の間隔でどんどん投げて」いくならば、「100球前後で降板する」傾向はさらに強まるのではないか。

中6日」が問題という話はよく分からない。「中4、5日」だと「」が出てくるが、「中6日」では無理だと決め付ける理由は見当たらない。

そもそも「中6日」とか「中4、5日」は先発の話で中継ぎや抑えには関係ない。投手として「自分の世界」を持てるのは先発投手だけだと権藤氏は考えているのだろうか。そもそも「吉井」氏には救援投手のイメージが強いが…。


※今回取り上げた記事「悠々球論~『侍投手』責任持たせてこそ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200709&ng=DGKKZO61312560Y0A700C2UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。権藤氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

上原浩治投手への誤解が過ぎる日経「悠々球論 権藤博」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_81.html

イチローは不出場が決まってた? 権藤博氏の誤解を正さぬ日経の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_66.html

2020年7月9日木曜日

「ジョブ型導入で労働生産性向上」が苦しい日経「コロナが変える働き方」

日本経済新聞は最近やたらと「ジョブ型」を推してくる。9日の朝刊総合2面に載った「コロナが変える働き方(下)日本流のジョブ型雇用模索~解雇規制巡る議論浮上も」という記事もその1つ。この記事では「ジョブ型」を導入すれば労働生産性が高まると煽っている。しかし根拠は乏しい。
大雨で冠水した道路(福岡県久留米市)
         ※写真と本文は無関係です

日本生産性本部(東京・千代田)の調査では、日本の時間当たりの労働生産性は1970年以降、主要先進7カ国中で最下位の状況が続いている。就業者1人当たりの生産性でもジョブ型を導入している国に遅れる

ジョブ型」にすると「労働生産性」が高まるという根拠と言えるのは、このくだりだけだ。では本当に「就業者1人当たりの生産性でもジョブ型を導入している国に遅れる」のだろうか。これに関しては記事にグラフを付けている。しかし問題が多い。

ジョブ型の国は生産性が高い」という説明文を付けたグラフでは、上位からポーランド、エストニア、韓国、スイス、フランス、米国、オランダ、ドイツ、英国、イタリア、ギリシャ、日本となっている。しかし、どの国が「ジョブ型」なのかは不明だ。

記事には「欧米のジョブ型」という言葉も出てくるので、仮に「欧米=ジョブ型」「日韓=メンバーシップ型」だとしよう。これだと韓国が上位にいるので「ジョブ型の国は生産性が高い」とは言い切れない。

さらに問題なのが、このグラフで示した数値が「2015~18年平均」の「就業者1人当たりの労働生産性上昇率」だということだ。あくまで「上昇率」であり、「労働生産性」が高いかどうかは分からない。トップのポーランドが3%超で最下位の日本がわずかなマイナスだとしても「ポーランドの方が日本より労働生産性が高い」とは言い切れない。

結局、この記事では「ジョブ型」にすると「労働生産性」が高まるという根拠は示せていない。

付け加えると「ジョブ型」の国では労働生産性が高く「メンバーシップ型」の国では低いという傾向が見て取れたとしても、「ジョブ型」にすると「労働生産性」が高まると判断するのは早計だ。相関関係があっても因果関係があるとは限らない。

労働生産性」向上を理由に「ジョブ型」を推してくる日経の記事は怪しい--。とりあえず、そう思っておいた方が良いだろう。


※今回取り上げた記事「コロナが変える働き方(下)日本流のジョブ型雇用模索~解雇規制巡る議論浮上も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200709&ng=DGKKZO61306530Y0A700C2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月8日水曜日

過去との比較が不十分な日経「大手銀、店舗業務を効率化」

7日の日本経済新聞朝刊 金融経済面に載った「大手銀、店舗業務を効率化~三井住友、全支店に予約制 手続き、ネット利用拡大」という記事は過去との比較がきちんとできていない。それで「ネット利用拡大」と打ち出すのは感心しない。全文を見た上で具体的に指摘したい。
九州佐賀国際空港(佐賀市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大手銀行で個人向け取引のデジタル化がじわりと広がっている。三井住友銀行では4~6月の取引のうち、インターネット経由の比率が50%を超えた。みずほ銀行でもネットでの口座開設が増えている。新型コロナウイルスの感染予防のために呼びかけてきたネット利用が広がり、店舗業務の効率化が進みそうだ。

金融インフラを担う銀行はコロナ下でも営業継続を求められている。大手行の手続きの大半はすでにネットで代替でき、店舗の「3密」を避けるためにホームページや店頭でネット取引の活用を呼びかけてきた。

当初は窓口を訪れる顧客が目立ったが、三井住友銀では、口座開設や名義変更などの各種手続きにおけるネット取引の利用率が4~6月で50%を超えた。みずほ銀は5月に口座を開設した顧客のうち、4割がネット経由で、三菱UFJ銀行はスマートフォン経由の口座開設が6月に前年比で5割増えた

三井住友銀は6日、412ある全国の支店すべてで来店時の予約を受け付けると発表した。店舗ではコンサルティングなど高度なサービスに注力する考えで、リアルとネットの差別化を図りたい考えだ。三菱UFJ銀やみずほ銀もネットでの来店予約の対象を広げており、今後は地銀などにも広がりそうだ。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

◆以前の「利用率」は?

三井住友銀行では4~6月の取引のうち、インターネット経由の比率が50%を超えた」とは書いているが、その前との比較はない。1~3月でも前年同期でもいい。「デジタル化がじわりと広がっている」と伝えたいのならば、過去との比較は要る。

付け加えると「三井住友銀行では4~6月の取引のうち、インターネット経由の比率が50%を超えた」と記した後に「三井住友銀では、口座開設や名義変更などの各種手続きにおけるネット取引の利用率が4~6月で50%を超えた」と同じような情報を繰り返している。重複を避けて記事を作る技術を身に付けてほしい。


◆「みずほ」も比較がない…

みずほ銀行でもネットでの口座開設が増えている」「みずほ銀は5月に口座を開設した顧客のうち、4割がネット経由」と書いているだけで、こちらも過去の数値との比較がない。


◆「三菱UFJ」は比較があるが…

三菱UFJ銀行はスマートフォン経由の口座開設が6月に前年比で5割増えた」と、ここだけは過去の数値との比較がある。ただ「スマートフォン経由の口座開設」の比率がない。「三井住友」と「みずほ」では「ネット経由」の比率を見せたのに、なぜ「三菱UFJ」では触れないのか。「三菱UFJ」が公表していないのならば、その点を明示してほしい。


◆予約制「従来」はどうだった?

記事の終盤に出てくる「来店時の予約」の話にも注文を付けておきたい。「三井住友銀は6日、412ある全国の支店すべてで来店時の予約を受け付けると発表した」と書いているだけで、従来どうだったのかは分からない。

日経の別の記事では「三井住友銀は2019年1月に試験的に予約制を導入し、店舗の混雑を防ぐ目的から対象となる店舗を広げてきた」「現状、300店舗で予約制を導入している」と説明している。「現状、300店舗」という情報は今回の記事でも盛り込むべきだろう。


※今回取り上げた記事「大手銀、店舗業務を効率化~三井住友、全支店に予約制 手続き、ネット利用拡大
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200707&ng=DGKKZO61203970W0A700C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月7日火曜日

これで「新業態」? 日経「イオンモールが新業態~ベトナムでオフィス併設」

7日の日本経済新聞朝刊企業2面に「イオンモールが新業態~ベトナムでオフィス併設」という記事が載っている。これは「新業態」と呼べるのか。記事の全文を見た上で考えたい。
筑後川サイクリングロード(福岡県うきは市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

イオンモールは2022年度、ショッピングセンター(SC)「イオンモール」の新業態をベトナムのハノイ市内に開業する。オフィスを併設し駐車場を地域に貸し出す。新型コロナウイルスで世界景気が下振れするなかでも成長する東南アジア市場の開拓を続ける。

ハノイ市中心部から南へ6キロメートルの場所に建設する。総投資額は数百億円とみられる。ベトナムのイオンモールとしては計画中を含め7つ目となる。入居企業に貸し出す総賃貸面積は8万4千平方メートル。うち商業施設は6万平方メートル程度を想定する。

イオンモールの岩村康次社長は今回の新SCについて「新事業として新たな価値を提供したい」と強調。急速な都市化でオフィスの立地や駐車場が不足するハノイのニーズに対応するため建物の上層部にオフィスを備え、平日は駐車場の貸し出しを検討する


◎「新事業」かもしれないが…

ショッピングセンター(SC)『イオンモール』の新業態をベトナムのハノイ市内に開業する」と書いているが「新業態」とは思えない。小売業では「紳士服専門店」「食品スーパー」といった括りを「業態」と捉えるのが一般的だ。紳士服専門店チェーンが靴専門店の展開を始めるのであれば「新業態」でいいだろう。

イオンモール」の場合は違う。「オフィスを併設し駐車場を地域に貸し出す」だけだ。「商業施設」部分が従来とほぼ同じならば「『イオンモール』の新業態」と見なすのは無理がある。

例えば、新しい百貨店ができて、10階までが百貨店で11~20階を賃貸用オフィスとする場合、オフィス併設が初めてだからと言って「百貨店の新業態」と感じるだろうか。

イオンモールの岩村康次社長は今回の新SCについて『新事業として新たな価値を提供したい』と強調」したらしい。「新事業」という見方に異論はない。だが「岩村康次社長」も「新業態」とは思っていないのだろう。

ついでに3つ指摘しておく。

1つ目。最初に「駐車場を地域に貸し出す」と断定しているのに、最後の方で「平日は駐車場の貸し出しを検討する」と「検討」になっている。「検討」が正しいのならば、最初の断定は好ましくない。

2つ目。「急速な都市化でオフィスの立地や駐車場が不足する」とのくだりは「立地」が無駄。「急速な都市化でオフィスや駐車場が不足する」としても何の問題もない。簡潔な説明を心掛けてほしい。

3つ目。「新SC」を「新業態」と見なし「東南アジア市場の開拓を続ける」と書いたのならば、今後の展開に触れてほしい。決まっていないのならば、その点を読者に伝えるべきだ。「イオンモール」の関係者に「今後の東南アジアでの出店はオフィス併設を軸に考えたい」などと語らせる手もある。


※今回取り上げた記事「イオンモールが新業態~ベトナムでオフィス併設
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200707&ng=DGKKZO61194630W0A700C2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月6日月曜日

なぜ「S&Pグローバル」だけで分析? 日経「格下げ最多、世界で1400社」

日本経済新聞の朝刊1面トップを飾った「格下げ最多、世界で1400社~中銀支援で債務拡大」という記事にいくつか注文を付けたい。まずは最初の方を見ていこう。
日田駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

企業の借金を返す力が落ちている。今年格付けが下がった企業は世界で約1400社と最多のペースだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中央銀行は企業の資金繰りを支援している。資金調達はしやすい状況だが、もともと生き残りが難しい企業まで延命されることで将来の危機が深まる懸念も出ている。

格付けは返済能力を反映する。手元資金を確保するため借入金が膨らむ一方で、新型コロナの収束に時間がかかり、返済原資となる将来の稼ぎの回復は鈍くなっている。

米格付け会社S&Pグローバルが格下げした社債発行企業は6月25日までに世界で1392社と、前年同期の3.4倍に増えた。過去最多だったリーマン・ショック後の2009年とほぼ同じ水準だ


◎1面トップで取り上げるなら…

格下げ最多」と1面トップで打ち出しているのに「S&Pグローバルが格下げした社債発行企業」だけを数えているのが引っかかる。ムーディーズやフィッチも含めて「格下げ」の動向を見るべきだ。「S&Pグローバル」に絞る方が好ましいと筆者ら(大西康平記者、宮本岳則記者)が考えるのなら、その理由を示してほしい。

過去最多だったリーマン・ショック後の2009年とほぼ同じ水準」と出てくるのも気になった。「実は09年を若干下回っているのに『ほぼ同じ水準』と見て『最多のペース』にしたのでは?」と疑いたくはなる。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

S&Pはクルーズ船最大手の米カーニバルや、独ルフトハンザ航空、仏ルノーを債務返済能力に不安がある投機的等級に引き下げた。日本では21社が格下げされ、投資適格級だがトヨタ自動車や三菱重工業も下がった。

格付けが下がると、借り換えのコストが高くなる。「返済が優先され、投資に資金が回らなくなる」(大和総研の佐藤光氏)との懸念もある。

米国では19年末時点で全体の57%が投機的等級だ。欧州も約4割に達する。今年の格上げは世界で175社にとどまり、比率はさらに高まる。日本は低格付け債市場がなく、格付けのある企業の大半は投資適格だ


◎日本の情報が漠然としているが…

上記のくだりでは日本の情報が漠然としているのが引っかかった。「日本では21社が格下げ」とは書いてあるが、増減には触れていない。「最多のペース」かどうかも分からない。

投機的等級」の比率に関しても「付けのある企業の大半は投資適格だ」と記しているだけで具体的な数字がない。この辺りはもう少し詳しい情報が欲しい。

付け加えると「日本は低格付け債市場がなく」と言い切っているのも引っかかる。

今回の記事では「S&Pグローバル」の格付けだけを切り出している。その「S&Pグローバル」はソフトバンクグループをBB+と「投機的等級」に格付けしている。ムーディーズもやはり「投機的等級」としている。これらを基準にすればソフトバンクグループの社債は「低格付け債」だ。本当に「日本は低格付け債市場がなく」と言えるのか。

「国内の格付け会社から投資適格の格付けを得ているから」との反論はできるが、だったらなぜ記事は「S&Pグローバル」1社の格付け動向だけで作ったのかと聞きたくなる。


※今回取り上げた記事「格下げ最多、世界で1400社~中銀支援で債務拡大
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61179560V00C20A7MM8000/


※記事の評価はC(平均的)。大西康平記者への評価はCで確定とする。宮本岳則記者への評価はCを据え置く。両記者については以下の投稿も参照してほしい。

間違い指摘の無視を続けた日経が2年ぶりの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_43.html

ちょっと大げさ…日経「新興国 高まる債務リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_24.html


※宮本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 宮本岳則記者「野村株、強気の勝算」の看板に偽り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post.html

日経 宮本岳則記者「スクランブル」での不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_3.html

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

断定して大丈夫? 日経「ウーバー上場手続き 時価総額、米歴代2位」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/2.html

2020年7月5日日曜日

「主要国」の範囲は? 日経「チャートは語る~在宅定着、ニッポンの壁」

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~在宅定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準 『仕事』の見直し急務」という記事では「主要国」をどう見ているのかが気になった。橋本慎一記者と松井基一記者(雇用エディター)は以下のように説明している。
筑後川の宮の陣橋(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本は在宅が定着しにくい――。そのことを示すのが、英エディンバラ大学などの研究者が試算したデータだ。業種、学歴などのデータを基に総雇用者数に占める在宅勤務が可能な人の割合を算出。日本は47.2%。英国の53%や米国51.7%などを下回り、主要国で最低水準だ。


◎主要国の範囲は?

在宅勤務できる人の割合」を示した記事中のグラフを見ると、米国、英国、ドイツ、オランダ、スイス、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、エストニア、オーストラリア、韓国、日本を確認できる。

米国、英国、ドイツ、日本は分かるが、残りは「主要国」と言えるか微妙。エストニアに関しては明らかに「主要国」ではない。

グラフで示した国が「主要国」という意図は筆者らにはないのかもしれない。だとしたら、どういう基準で「主要国」を決めているのかは明示してほしい。「主要国」の範囲を示さずに「主要国で最低水準だ」と言われても困る。

常識的に考えれば「主要国」に中国は入れてほしい。インド、ロシア、ブラジル辺りも外せない気がする。

今回の記事では「欧米」との比較に主眼を置いている。この手の比較には恣意性を感じる。「主要国で最低水準だ」と訴えたいのならば、「欧米」偏重はさらに好ましくない。

記事にいくつか追加で注文を付けておく。

【日経の記事】

インターナショナル・ワークプレース・グループ(IWG)が19年に約1万5千人を対象に実施した調査では、85%が在宅勤務などの柔軟な働き方が生産性向上に結びつくと回答。経済協力開発機構(OECD)の調査(18年時点)で時間あたり生産性が米国に比べ4割低い日本にとって、在宅勤務をしやすい環境を整えることが国際競争力を高めるためにも不可欠だ。

世界がコロナ禍による雇用危機に直面する中、在宅勤務できる仕事は増えている。英オックスフォード大が、オンラインで仕事が可能な世界の求人数を基に算出する指数(16年5月を100として指数化)は今年5月、過去最高の170台となった。ソフトウエア開発、法務や財務など専門職で求人の広がりが鮮明だ。少子高齢化が進む中で長期的に仕事の担い手を増やすためにも、こうした在宅勤務しやすい職種へのシフトが必要となりそうだ



◎「在宅勤務」で「生産性向上」?

個人的には「在宅勤務」が「生産性向上」に結び付くという理屈がよく分からない。「時間あたり生産性」で考えてみよう。橋本記者と松井記者が日経の本社で記事を書くと、新聞記事換算で1時間に100行分を「生産」できるとしよう。これを自宅でやると120行や130行を書けるようになるだろうか。基本的には変わらない気がする。

「自宅の方がリラックスできる」といったプラス面は思い付くが、それほど大きな効果はなさそうだ。「資料が揃わない」「緊張感に欠ける」「家族が話しかけてくる」といったマイナス面もあるだろう。

橋本記者と松井記者は「IWG」の調査結果を根拠に挙げている。しかし「在宅勤務などの柔軟な働き方が生産性向上に結びつく」という話ならば、重要なのは「在宅勤務」ではなく「柔軟な働き方」のはずだ。「在宅勤務」はその一部でしかない。

日経は別の記事では「新型コロナウイルスの影響で在宅勤務を導入する企業が増えるなか、生産性の向上が焦点となってきた。日本生産性本部の調査では7割弱の人が効率が下がったと答えた」と伝えている。橋本記者と松井記者も、この調査結果を知っているのではないか。

在宅勤務」が「生産性向上に結びつく」と決め付けるのは危険な気がする。

少子高齢化が進む中で長期的に仕事の担い手を増やすためにも、こうした在宅勤務しやすい職種へのシフトが必要となりそうだ」という結論にも賛成できない。

ソフトウエア開発、法務や財務」といった「在宅勤務しやすい職種」に「シフト」させる「必要」は感じない。必要なところに必要な人材を配置すべきだ。「在宅勤務しやすい職種」かどうかを考慮するのは、本末転倒だと思える。

例えば、医療や介護が「在宅勤務しにくい職種」だとしよう。そこで人手が足りていないのに、人材を「ソフトウエア開発、法務や財務」へと「シフト」させるべきなのか。「生産性向上」のためには、医療や介護で人材が不足しても良いのか。

在宅勤務」や「生産性向上」がどうでもいいとは言わないが、それほど重要な要素とは思えない。そこを基準に物事を考えるのはいかがなものか。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~在宅勤務定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準 『仕事』の見直し急務
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60610060R20C20A6EA2000/


※記事の評価はC(平均的)。橋本慎一記者と松井基一記者への評価は暫定でCとする。

2020年7月4日土曜日

「ENEOS難局 シェルに重なる」と感じられない日経 武田健太郎記者の記事

4日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「ENEOS難局 シェルに重なる~原油需要減、稼ぐ力が低下 『積極還元』に影響も」という記事は悪い出来ではないが「シェルに重なる」とはあまり感じられない。
二連水車(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

6月25日に社名を変えたばかりのENEOSホールディングスが難局を迎えている。欧州の石油最大手、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが同30日に発表した巨額減損の主因を探ると、原油価格の下落や実需低迷という業界共通の悩みが鮮明。ENEOSも稼ぐ力の劣化につながり積極還元の方針にも響きかねない。

シェルは2020年4~6月期に最大220億ドル(約2兆3800億円)の減損計上を発表した。減損は、資産価値を引き下げた分を損失として認識する会計上の処理で、一過性で終わることが多い。問題は、減損が必要と判断した今の経営環境の悪化。コロナ禍を機に世界の原油需要が本格的に縮小する可能性が出ている。

今のところ海外メジャーほどの大規模な減損リスクは小さそうだ。シェルは20年の原油レートを1バレル60ドルから35ドルに下げたが、ENEOSは20年3月期の半分の30ドルで設定済みだ。資源安の影響が大きい石油・天然ガス開発部門の売上高もシェルの数十分の1。備蓄原油の在庫や石油・天然ガス開発に関する減損で合計3000億円近くを計上するなど前期に資産価値を下げており、追加損が出にくい面もある。


◎「重ならない」と強調しているような…

上記のくだりでは、「巨額減損」を発表した「英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル」などと比較して「ENEOSホールディングス」の「減損リスクは小さそうだ」と分析している。「シェルに重なる」感じはあまりない。

では、ここから「シェルに重なる」のだろうか。続きを見ていこう。

【日経の記事】

それでも気になるのが販売の減少だ。お金を稼ぐ力を示す営業キャッシュフロー(CF)の悪化につながるからだ。コロナ影響で4~9月の国内ガソリン需要は2割、ジェット燃料で8割減る見通し。21年3月期の最終損益は減損が無くなり400億円の最終黒字(前期は1879億円の赤字)に改善するが、営業CF(休日影響除く)は4990億円と前期から約1100億円減る。運転資金の増減などを勘案した実質ベースでは3700億円規模と1500億円減る見通しだ。

同社は23年3月期まで3年間で計1兆5000億円の設備投資を計画する。40年に国内ガソリン需要が半減するとみて戦略投資は8300億円と手厚くする。水素や再生エネルギー、電力・ガス小売り拡大、EV(電気自動車)充電やカーシェア拠点向けサービスステーション設置などを予定。3年間で創出する営業CFはすべてこの投資分で無くなる見通しだ。

株主還元額は3年で計3000億円程度と前期までの3年間と同水準を計画する。予定する資産売却(1500億円分)で賄いきれないため、有利子負債を積み増す計画だ。負債を増やした場合、財務の健全性を示す純有利子負債資本倍率(ネットDEレシオ)は現在の0.7倍から0.8倍に悪化する。1倍を下回り健全だが、コロナ後は原油の需要や価格へのリスクがある。来期以降は1バレル60ドルと見込んでおり、実需低迷が長引けば想定する営業CFを創出できるかは不透明だ。


◎「シェル」との比較は?

稼ぐ力の劣化」の話になったが「シェル」との比較は見当たらない。「シェルに重なる」と打ち出し、減損に関しては「重ならない」と分析したのだから「稼ぐ力の劣化」に関しては、しっかり「シェルに重なる」ように見せてほしかった。

付け加えると「来期以降は1バレル60ドルと見込んで」いるのが気になった。「シェルは20年の原油レートを1バレル60ドルから35ドルに下げたが、ENEOSは20年3月期の半分の30ドルで設定済み」とその前に書いていたが、「シェル」は21年以降をどう見ているのかに記事では触れていない。

日経の別の記事では「21年は40ドル、22年は50ドルと、それぞれ従来の60ドルから引き下げる。23年以降の長期は従来と同じ60ドルとした」と報じている。「ENEOS」の方がかなり楽観的だ。となると「ENEOS」にも「減損」リスクがそこそこありそうだ。筆者の武田健太郎記者はなぜそこに言及しなかったのか。

記事の最終段落にも注文を付けておく。

【日経の記事】

「戦略投資は絶対に削れない」(杉森務会長)以上、やれることは効率化と投資選別しかない。これまで国内の製油所・製造所を統廃合してきたもののコロナ危機を想定しておらずさらなる一手が必須。投資面では戦略分野以外での絞り込みが急務だ。


◎「やれることは効率化と投資選別しかない」?

「『戦略投資は絶対に削れない』(杉森務会長)以上、やれることは効率化と投資選別しかない」という分析には賛成できない。少なくとも「株主還元」を減らす手はある。

株主還元」に関しては最初の段落で「積極還元の方針にも響きかねない」とも書いている。なのに「株主還元」が減る可能性に関しては第2段落以降で触れていない。ここも気になった。

さらに言えば「積極還元の方針」があるのかどうかも疑問だ。「株主還元額は3年で計3000億円程度と前期までの3年間と同水準を計画」しているらしい。「同水準」なのに「積極還元」なのか。

さらについでに言うと「これまで国内の製油所・製造所を統廃合してきたもののコロナ危機を想定しておらずさらなる一手が必須」というくだりは「しておらずさらなる」と平仮名が続いて読みにくい。「コロナ危機を想定しておらず、さらなる一手が必須」と読点を打ってほしかった。


※今回取り上げた記事「ENEOS難局 シェルに重なる~原油需要減、稼ぐ力が低下 『積極還元』に影響も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200704&ng=DGKKZO61162020T00C20A7DTA000


※記事の評価はC(平均的)。武田健太郎記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。武田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

デサントは「巨大市場に挑まない」? 日経ビジネスの騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_11.html

「人生100年」に無理がある日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100100.html

年金支給開始85歳でも「幸せ」? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/85-100.html

今世紀中は高齢者が急増? 日経ビジネス「幸せ100歳達成法」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/100_7.html

「高齢者人口が急増」に関する日経ビジネスの回答に注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_8.html

問題多い日経ビジネス武田健太郎記者のロボアド記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_15.html

武田健太郎記者のロボアド記事に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_18.html

2020年7月3日金曜日

日経「十字路~今の相場はバブルじゃない」で馬渕治好氏に感じた不安

ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏は市場をきちんと理解しているのだろうか。2日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資面に載った「十字路~今の相場はバブルじゃない」という記事を読むと、かなり怪しい気がしてくる。

能古港(福岡市)※写真と本文は無関係です
記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

バブルを定義するうえで、証券などの価格が実態が示す価値よりはるかに高い状態を指す、という点に異論はないだろう。ただしそれだけでは、バブルとは言い難い。

バブルが成立するには、その時点で、ほとんどの市場参加者がバブルだとは露とも思っていないことが必要だろう。多くの投資家がすでに割高と判断を始めれば、その水準からバブルが完成するまで買い上げる向きは、現れないからだ。バブルの渦中では、皆が「いかに今の価格が妥当なのか」と、自身の買いを正当化するのに忙しいはずだ。

新型コロナウイルスの流行が続いているにもかかわらず、主要国の株価が3月の安値からかなり上昇してバブルになっている、という主張をよく耳にする。ただそういう声が多いならば、今はバブルではない。なので、これからバブル崩壊という形での大幅な株価下落はないだろう。



◎何でそうなる?

今の株式相場は「バブル」かもという声が多いならば「今はバブルではない」と馬渕氏は断言する。その根拠として「バブルが成立するには、その時点で、ほとんどの市場参加者がバブルだとは露とも思っていないことが必要だろう。多くの投資家がすでに割高と判断を始めれば、その水準からバブルが完成するまで買い上げる向きは、現れないからだ」と説明している。これは二重に間違っている。

まず「多くの投資家がすでに割高と判断」していても「その水準からバブルが完成するまで買い上げる向き」が現れる可能性は十分にある。例えば「割高と判断」している投資家の割合が9割だとしよう。残りの1割はまだ強気に買いまくっている。そして弱気派のうち5%ほどが売りに回るとしよう。この場合、相場が「その水準から」さらに上がる余地は十分にある。

相場が上昇するためには「ほとんどの市場参加者」が強気である必要はない。売りを吸収できるだけの買い手がいれば十分だ。

仮に「多くの投資家がすでに割高と判断を始めれば、その水準からバブルが完成するまで買い上げる向きは、現れない」としよう。その場合も「今はバブルではない」と言える根拠にはならない。既に「バブル」のピークに達している可能性があるからだ。

多くの投資家がすでに割高と判断」していることを根拠に「今はバブルではない」と結論付けるのはおかしい。「今はバブルの始まりではない」なら分かるが…。

バブル」のピーク時に「ほとんどの市場参加者」が「バブル」だと認識していない場合は当然あるだろう。だが「多くの投資家がすでに割高と判断」していてもおかしくない。「多くの投資家がすでに割高と判断」していても「バブル」崩壊はやはりあり得る。


※今回取り上げた記事「十字路~今の相場はバブルじゃない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200702&ng=DGKKZO61017960R00C20A7ENI000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年7月2日木曜日

「コメの需要」に関する分析が一面的な日経 北川開記者

2日の日本経済新聞朝刊マーケット商品面に載った「20年産米、6年ぶり下落も~作付け減でも需給緩和 コロナで外食需要激減」という記事は分析の甘さが気になった。北川開記者は以下のように解説している。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

コメ市場で2020年産米の需給が緩むとの見方が広がっている。コメの生産調整(減反)廃止後も産地は増産に慎重だ。にもかかわらず、過去の新米卸値の上昇に伴うコメ離れと新型コロナウイルスに伴う中食・外食需要の激減で供給が需要を上回る見通しだ。6年ぶりに新米卸値が下落する可能性もありそうだ。

中略)コメの需要量が食の多様化や小売価格の上昇で年間10万トンずつ落ちるなか、需要増の「頼みの綱」(農水省関係者)は外食向けだった。米穀安定供給確保支援機構(東京・中央)によれば、1人が中食・外食で1カ月に消費する精米の量は19年度が1.5キロと5年前より13%増えた。家庭内が3.1キロと3%減ったのとは対照的だ。

だが、新型コロナウイルスの感染拡大で中食・外食需要が急減。緊急事態宣言解除後もまだ回復は鈍く「19年産の販売が遅れて余れば、20年産価格に響く」(全国農業協同組合連合会幹部)。


◎一方にだけ目を向けても…

新型コロナウイルスに伴う中食・外食需要の激減」を「需給が緩む」要因と見るのは分かる。しかし、その「需要」のかなりの部分は「家庭内」での消費に回るはずだ。

新型コロナウイルス」の問題が起きたからと言って、人々が食事の量を減らすわけではない。全体的な「需要」がほぼ同じだとすれば、どこかが「激減」すれば、どこかが増える。「コメの需要量」も全体を見て考える必要がある。

例えば「コメ」を「家庭内」で食べる人がほとんどいないという状況ならば、「中食・外食需要の激減」はそのまま「コメの需要量」の「激減」につながりそうだ。

しかし「1人が中食・外食で1カ月に消費する精米の量は19年度が1.5キロ」なのに対して「家庭内が3.1キロ」と「家庭内」の方が多い。ならば、「中食・外食需要の激減」を「家庭内」の消費増加で相殺してもおかしくない。

「そうはならない」と北川記者が思っているのならば、その根拠を読者に示すべきだ。

両面を見なければ、きちんとした分析にならないことは多い。為替相場や原油相場が経済に与える影響もそうだ。

経済記事を書く上では、そこをしっかり意識してほしい。


※今回取り上げた記事「20年産米、6年ぶり下落も~作付け減でも需給緩和 コロナで外食需要激減
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200702&ng=DGKKZO60871300W0A620C2QM8000


※記事の評価はD(問題あり)。北川開記者への評価も暫定でDとする。

2020年7月1日水曜日

香港は「中国外」? 日経社説「香港繁栄へ独立した法制度を維持せよ」に注文

1日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「香港繁栄へ独立した法制度を維持せよ」という社説にはいくつかツッコミを入れたくなる部分があった。
有明佐賀空港 空港公園に展示されているYS-11型機
             ※写真と本文は無関係です

まずは最初の段落を見ていこう。

【日経の社説】

香港の自由と繁栄を支えてきた「一国二制度」と「高度の自治」の根幹を揺るがす法制度が突然、出現した。しかも、香港立法府の頭越しに中国・北京で拙速に審議・決定した手法は余りに強権的である。今からでも遅くない。中国は香港の統制強化につながる措置を直ちに考え直すべきだ。


◎「突然」でもないような…

同じ朝刊の1面の記事では「中国が香港への統制を強化する『香港国家安全維持法』は習近平(シー・ジンピン)指導部が導入方針を明らかにしてからわずか1カ月あまりで成立した」と書いている。「いよいよか」とは思うが「突然、出現した」感じはない。

続きを見ていく。

【日経の社説】

香港国家安全維持法は中国内だけで通用してきた共産党政権による国家安全の考え方を香港にも適用する内容である。その司令塔として香港行政長官をトップとする「国家安全維持委員会」を新設し、顧問を中央政府から送る。



◎この書き方だと…

香港国家安全維持法は中国内だけで通用してきた共産党政権による国家安全の考え方を香港にも適用する内容である」と書くと「香港」は「中国内」ではないと取れる。しかし、言うまでもなく「香港」は「中国」の一部だ。

最後にもう1つ。

【日経の社説】

香港返還に向けて1984年に中英両国が署名した共同宣言では、香港の独立した司法制度を約束している。世界中から香港に人や資本が集まるのは独立した法体系という伝統ゆえであり、中国本土も多大な恩恵を受けてきた。国際公約を骨抜きにする新制度は香港の市場機能を弱め、外国人の安全まで脅かす恐れがある


◎どういう根拠で…

国際公約を骨抜きにする新制度は香港の市場機能を弱め、外国人の安全まで脅かす恐れがある」と書いているが、なぜ「外国人の安全まで脅かす恐れがある」のかには触れていない。そこは説明が欲しい。

好ましいかどうかは別にして、「香港国家安全維持法」を用いて抗議行動などを抑え込めば、外国人観光客などにとっては、従来より「安全」に過ごせる可能性もありそうだが…。



※今回取り上げた社説「香港繁栄へ独立した法制度を維持せよ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200701&ng=DGKKZO60981370Q0A630C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)