2022年1月31日月曜日

台湾有事の「議論を大々的に行うべきではない」と週刊ダイヤモンドで訴えた田中均氏の罪

日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中均氏が週刊ダイヤモンド2月5日号にとんでもないことを書いていた。「日本の市場・経済を揺るがしかねない今年の『7大地政学リスク』」という記事の一部を見ていこう。
夕陽


【ダイヤモンドの記事】

台湾有事となり、米国が軍事介入すれば、日本は米国を支援することになる。日本の米軍基地を使って行動する場合は安全保障条約上の事前協議事項となるだろうし、安保条約を維持するのであれば日本が米軍支援を拒否することは想定できない。

台湾有事となれば、日本は大きな犠牲を覚悟せざえるを得ない。台湾有事に備えることは必要だが、それを想定した議論を大々的に行うべきではない。

むしろ台湾有事を防ぐ外交的工作を率先してやっていかなければならない。

◎「議論を大々的に行うべき」では?

台湾有事となれば、日本は大きな犠牲を覚悟せざえるを得ない」のに「それを想定した議論を大々的に行うべきではない」と田中氏は言う。普通に考えれば逆だ。「台湾有事」に際して「米国を支援すること」で多くの日本人が命を失うと「覚悟せざえるを得ない」のだ。本当に「日本は米国を支援」すべきなのか国民的な議論をしておくべきだ。

議論を大々的に」行い「台湾有事の際は米国とともに中国と戦おう」と訴えた政党が選挙で大勝して、その結果として「日本が米軍支援」に踏み切り「大きな犠牲」を出すのならば、まだ納得できる。

しかし田中氏の考えは逆だ。「議論を大々的に行うべきではない」理由を記事で明らかにはしていないが、この「議論」を進めていけば「安保条約を維持」する必要があるのか国民の間に疑問が膨らむと見ているのだろう。

台湾を中国の一部と見る日本の立場を維持すれば、中国が台湾に侵攻しても基本的には中国の国内問題だ。なのに米国とともに「軍事介入」すれば、専守防衛とは程遠い。平和を守るための日米同盟のはずが、日米同盟ゆえに中国の内戦に介入する形で戦争に巻き込まれてしまう。

それでいいのかと問われれば、多くの国民が拒否反応を示すだろう。田中氏はそうした事態を恐れているのではないか。

台湾有事」になってしまったら仕方ない。米国の属国として米軍の指示に従い、なし崩し的に戦争に参加していくしかない。多くの犠牲者を出すだろうが米国には逆らえないーー。田中氏の気持ちを推し量るとそんなところか。

田中氏はそれでいいかもしれないが、そこで「大きな犠牲」を払う側としては看過できない。国民の命を軽視するのも程がある。「議論を大々的に行うべき」だと声を大にして訴えたい。


※今回取り上げた記事「日本の市場・経済を揺るがしかねない今年の『7大地政学リスク』


※記事の評価はE(大いに問題あり)

日経 羽田野生記者が書いた中国人民大学教授のインタビュー記事は興味深い

 31日の日本経済新聞朝刊国際面に羽田野生記者が書いた「『27年までに台湾武力統一』 中国、米上回る軍事力~タカ派中国人民大の金燦栄教授 米軍介入の有無焦点に」という記事は興味深い内容だった。台湾有事の問題を考える上で参考になる。本社コメンテーターの肩書で米中関係を論じている秋田浩之氏も、この記事を読んだ上で自らの立ち位置を明確にしてもらいたい。

筑後川と恵蘇宿橋と夕陽

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

米中関係を専門とする中国人民大学の金燦栄教授は日本経済新聞の取材で、習近平(シー・ジンピン)指導部が2027年までに台湾の武力統一に動くとの見方を示した。台湾有事では中国人民解放軍がすでに米軍を上回る戦力を保持していると指摘した。

金氏は習指導部の外交政策に助言する学者の一人とされる。タカ派の論客としても知られ、インターネットを中心に活発に発信している。

習指導部は台湾統一を目標に掲げるが、時期は示していない。金氏は「22年秋の共産党大会が終われば、武力統一のシナリオが現実味を増す。解放軍の建軍から100年となる27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調した。

米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官も21年3月、米上院軍事委員会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と述べた。

台湾有事では米軍が介入するかどうかが一つの焦点となる。金氏は「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」と主張し、「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と説いた。

解放軍は中国近海に米軍艦艇を寄せつけない戦略をとっており、中国近海での対米国のミサイル攻撃力を磨いていることなどが念頭にあるとみられる。

日本では「台湾有事は日本有事」(安倍晋三元首相)との声がある。金氏は「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない。この問題で米国はすでに中国に勝つことはできない日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない。新しい変化が起きていることに気づくべきだ」と語った。


◎日本は台湾有事に介入すべきか?

関連記事の中で「(台湾に対して)中国が武力行使に踏み切れば、当然、米国との対決が待っている」と羽田記者は書いているので、この前提で考えてみよう。

日経はこれまで念仏のように「日米同盟の強化」を唱えてきた。言い換えれば「属国路線の強化」だ。そうなると当然に「台湾有事は日本有事」となる。

米国が中国と戦うのだから、日本も子分として協力するしかない。結果として、日本が攻撃を受けた訳でもないのに中国との戦争に突入する。20世紀に続いて21世紀でも中国と戦争だ。

結果が勝利ならば救いはある。しかし「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と「金燦栄教授」は述べているらしい。

この分析が正しいのかどうかは分からない。英国、オーストラリアなどを加えるとどうなのかも考える必要があるだろう。だが、他の報道なども併せて考えると台湾有事で「米国との対決」となった場合に中国が圧倒的に劣勢とは考えにくい。

そこでどうするかだ。個人的には「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない」と訴える「金燦栄教授」に同意する。日本は台湾を中国の一部と認めている。中国が武力統一に踏み切ったとしても基本的には中国の国内問題だ。

そこに軍事介入して多くの自衛隊員が命を落とすことを容認できるのか。

日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない」と考えるのは当然だ。そうなれば自衛隊員だけでなく一般市民にも多くの犠牲者が出る。

それでも「台湾有事に日本は絶対に介入すべき」なのか。そこを秋田氏らには考えてほしい。「対中戦争をためらうなとは言いにくいし、だからと言って日米同盟の強化を唱えるのはやめたくないし…」というジレンマがあるのだろう。日経はこの問題でやたらと歯切れが悪い。

しかし「金燦栄教授」は「27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調している。思考停止に陥っている余裕はない。


※今回取り上げた記事「『27年までに台湾武力統一』 中国、米上回る軍事力~タカ派中国人民大の金燦栄教授 米軍介入の有無焦点に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220131&ng=DGKKZO79688530Q2A130C2FF8000


※記事の評価はB(優れている)。羽田野生記者への評価は暫定でBとする。

2022年1月30日日曜日

「非食品」の伸びで利益押し下げ? 日経ビジネス江村英哲副編集長の誤解

日経ビジネスの江村英哲副編集長が1月31日号に書いた「時事深層 COMPANY 海外で好調のセブン&アイ~国内コンビニに忍び寄る不安」という記事は、業績関連の説明に問題を感じた。「2022年2月期通期の連結業績予想を上方修正したセブン&アイ・ホールディングス」の「国内コンビニ事業」について江村副編集長は以下のように記している。


【日経ビジネスの記事】

それ(海外コンビニ事業)と対照的だったのが国内コンビニ事業。通期見通しを営業収益、営業利益ともに下方修正した。営業利益は前の期比5.1%増としていた予想を同2.0%減に引き下げた。

国内ではテレワークの広がりでオフィス街の昼間人口が減少し、都市型店舗の売り上げが減っている。セブン&アイは住宅街やロードサイドの店舗で巣ごもり需要を取り込み、「加工食品」や「ファストフード」など粗利率の高い商品を伸ばす想定だったが、その狙いが外れた。

食肉価格が世界的に高騰する「ミートショック」で鶏肉の供給が不足。カウンターなどで販売する鶏肉商品を思うように伸ばせなかった。たばこ増税前の駆け込み需要により、相対的に粗利率の低い「非食品」が伸長したことも利益を押し下げる一因となった


◎「非食品」が伸びたのに「利益押し下げ」?

上記のくだりで最も引っかかったのが「たばこ増税前の駆け込み需要により、相対的に粗利率の低い『非食品』が伸長したことも利益を押し下げる一因となった」との解説だ。「非食品」の「粗利率」がプラスとの前提で言えば、記事の説明は間違っている。

非食品」の売上高が「伸長」すればするほど「利益」は押し上げられる。普通に考えれば分かるはずだ。仮に「たばこ」の粗利益率が10%で低いとしよう。それ以外の商品は売上高も粗利益率も不変とする。販管費なども変化しない。「増税前の駆け込み需要」で「たばこ」の売上高だけ前年同期の10倍になったと考えてほしい。「国内コンビニ事業」の営業利益はどうなるだろうか。当然に増える。

相対的に粗利率の低い『非食品』が伸長」した場合、「国内コンビニ事業」全体(あるいは会社全体)で見た「粗利率」を「押し下げる」要因にはなる。「利益」ではない。「利益」率だ。江村副編集長はそこを混同しているのではないか。

食肉価格が世界的に高騰する『ミートショック』で鶏肉の供給が不足。カウンターなどで販売する鶏肉商品を思うように伸ばせなかった」という説明にも似た問題を感じる。「思うように伸ばせなかった」という書き方だと「ある程度は伸びた」と取れる。だったら「粗利率」が下がっていない前提で言えば増益要因となる。

国内コンビニ事業」の「営業利益」は通期見通しで「2.0%減」。記事で触れていないので21年3~11月期について調べてみると3%減となっていた。営業収益はいずれも2%増なので増収減益だ。「粗利率」が落ち込んだり販管費が増えたりといった要因がないと増収減益にはならない。しかし、記事を最後まで読んでも、3~11月期と通期がなぜ増収減益なのか見えてこない。

もう1つ気になったのが「国内ではテレワークの広がりでオフィス街の昼間人口が減少し、都市型店舗の売り上げが減っている」との説明だ。2021年2月期ならば分かる。しかし記事で解説しているのは「2022年2月期」だ。前期に比べれば「巣ごもり」が減り「都市型店舗の売り上げ」が戻っている気がする。そうなっていないのならば、その理由は触れてほしい。

江村副編集長は記者を指導する立場にいるはずだ。しかし今回の記事は悪い見本にしかなっていない。そこはしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY 海外で好調のセブン&アイ~国内コンビニに忍び寄る不安

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01334/


※記事の評価はD(問題あり)。江村英哲副編集長への評価も暫定でDとする。

2022年1月29日土曜日

インフレ対応として預貯金・国債へのシフトを日経 小栗太編集委員は勧めるが…

日本経済新聞の小栗太編集委員が29日朝刊マネーの学び面に書いた「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視」という記事は問題が多かった。ここでは資産運用に関する解説を見ていく。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす。米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は、早ければ3月にも政策金利の引き上げ開始を見込む。市場では金融引き締めで米国の景気回復にブレーキがかかることへの警戒感が台頭。ウクライナを巡る地政学リスクも加わり、世界的な株価の乱高下が起きている。

昨年までの株高を背景に、日本の個人投資家の間では米国株などへの投資が膨らみ、世界的な株価や為替相場の乱高下で大きな損失を被るリスクが高まっている。相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め、運用先を分散しておくことが重要となる


◎特別なことはしない方が…

まず「インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす」という説明がよく分からない。問題は「インフレ」ではなく「インフレ不安」なのか。とりあえず「インフレ」の方だとしよう。名目ベースで言えば「インフレ」は「個人の資産運用」にとってプラスだ。基本的には株価も上がりやすい。

物価の影響を除いた実質ベースで言えば、どちらとも言えない。過去のデータから経験則は導き出せるかもしれないが、小栗編集委員もそうしたデータは見せてくれない。「インフレ」傾向が強まっているからと言ってリスク資産の比率を下げる必要は感じない。

ところが「相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきだと小栗編集委員は言う。これは賛成できない。

通常であれば「インフレ」は金利上昇を伴うので「預貯金や個人向け国債」(ただし国債は変動金利型に限る)を持つのは悪くない選択だ。預貯金金利も連動して上がってくれる。

しかし現状では「預貯金や個人向け国債」は「インフレ」に弱すぎる。日銀は物価上昇率が2%を安定的に超えてこない限り利上げには踏み切らないだろう。つまり2%の「インフレ」になっても「預貯金や個人向け国債」の利回りはほぼゼロのままだ。実質価値は目減りが避けられない。なのに預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきなのか。

相場が不安定で先行きの不透明感が強い」のは多かれ少なかれいつものことだ。それでいちいちリスク資産の比率を下げていたら何のために投資しているのか分からなくなる。

個人投資家」であれば、持っておくべき無リスク資産の金額を決めたら、残りの資金はリスク資産に投じてひたすら待つスタンスでいい。「インフレ」だからとか「地政学リスク」とかを考えても仕方がない。そうした材料は既にほとんどが市場価格に織り込まれている。

インフレ」だからと言って資産運用で特別なことはしない。それが「インフレ不安」に対応する一番の方法だと思える。


※今回取り上げた記事「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220129&ng=DGKKZO79637520Y2A120C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。小栗太編集委員の評価はE(大いに問題あり)を据え置く。小栗編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

「『金利消失』新興国でも」と読者を欺く日経 小栗太編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_23.html

ビットコイン解説に見える日経ヴェリタス小栗太編集長の「限界」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_4.html

処方箋を示してる? 日経1面「人口病に克つ」への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_97.html

日経 小栗太氏 E評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_18.html

2022年1月28日金曜日

「日本はMMTの成功例なのか?」に答えを出さないフォーブス・ジャパン「伊藤隆敏の格言致知」

27日付のフォーブス・ジャパンに載った「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」という記事は問題が多かった。そもそも、この記事では「日本はMMTの成功例なのか?」という問題提起しながら、結局は答えを出していない。そこは後で触れるとして、まずは「MMT」に関する伊藤氏の解説から見ていこう。

夕暮れ時の筑後川


【フォーブス・ジャパンの記事】

国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張する、MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)信奉者だ。

自国通貨建て国債をいくら発行しても、債務不履行にはならない、というMMTの主張は正しい。しかし、債務不履行にはならなくても、経済には大きな打撃になるシナリオはある。


◎MMTをちゃんと理解してる?

まず「MMT」では「国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張」しているだろうか。通貨主権を持つ国が能力面で「いくらでも国債を発行することができる」と見ているのは確かだが「MMT」ではインフレを制約条件としている。なので「インフレを抑え込めていれば、いくらでも国債を発行することができると主張」しているなどと説明すべきだ。

それは「先進国」に限った話ではない。「MMT」の主唱者であるステファニー・ケルトン氏は著書の中で「(MMTは)高いレベルの通貨主権を持つあらゆる国において、政策の選択肢を理解し、改善するのに役立つ」と述べている。「MMT」の考えでは、通貨主権さえあれば途上国でも「債務不履行はありえない」と言える(政府が債務不履行を容認する場合は別)。

伊藤氏は「MMT」をきちんと理解しているのか。そこが引っかかった。

記事の続きを見ていこう。


【フォーブス・ジャパンの記事】

将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる。買い手を引き留めるには、国債金利を引き上げるか、財政収支を黒字化しなくてはならない。国債金利の急騰は、国債を保有する金融機関に巨額の評価損をもたらし銀行危機に発展する。財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる。

金利高騰も、増税も避けるには、中央銀行が無制限に国債を買い取るしかない。自国通貨建て国債の場合これが可能だが、それはハイパーインフレにつながり、経済活動に大きな混乱を招く。


◎色々とおかしな点が…

将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる」という前提が成立するだろうか。「国債の償還可能性に少しでも疑問が生じる」状況は既にある。その象徴とも言えるのが、いわゆる矢野論文だ。

文藝春秋2021年11月号で「あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです」と財務事務次官の矢野康治氏が認めている。

少し」どころか「国債の償還可能性」に多大な「疑問が生じる」事態だ。矢野論文の発表後には「国債の買い手がいなくなる」事態に発展しただろうか。「国債金利の急騰」が起きただろうか。財務事務次官が「タイタニック号」を引き合いに出して財政の危機的状況を訴えているのに、国債の利回りが0%近辺に張り付いたままなのは、なぜか。

伊藤氏はそこを検討しなかったのか。

ついでに言うと「財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる」という説明が理解できなかった。「財政緊縮」策として増税に踏み切った場合、税金を納めるのは現役世代のはずだ。しかし、なぜか「将来世代に増税を課すことになる」と伊藤氏は解説する。だとすると積極財政策は「将来世代」への減税なのか。こちらの理解力に問題があるのかもしれないが、話が見えてこない。

さらに続きを見ていく。


【フォーブス・ジャパンの記事】

実質成長率が実質金利を上回っていれば、債務は維持可能だ、という考え方もある。これは、この条件が成り立っていれば、毎年の(基礎的)財政収支を均衡させることで、長期的に債務・GDP比率を低くしていくことができるからだ。しかし、現在、成長率が金利を上回っていたとしても、それが未来永劫続く保証はない。

公的債務が積み上がると、国債金利が上昇して、予算に占める金利負担が上昇してマイナスの効果をもたらす。だが、1990年以降、先進国では名目国債金利が長期的に低落傾向にあり、長期的に維持可能な(均衡)実質金利も低下してきたと考えると、より高い債務水準を維持できる。彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という。

しかし、現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である。20〜64歳の働き手の人口は、1998年をピークに減少を続けている。


◎で「日本はMMTの成功例」?

日本はMMTの成功例なのか?」という話に最も近づいたのが上記のくだりだ。しかし「彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という」と述べた後、本当に「証明している」のかを論じないまま「現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である」と話を逸らしてしまう。

そもそも日本に「人口減少」という「問題がある」ことぐらい「財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも」知っているのではないか。

記事からは「MMTを否定したいけど否定できる論理展開はできそうもない。だから話を逸らせて記事をまとめてみた」という印象を受けた。「日本はMMTの成功例なのか?」という見出しに釣られて記事を読んだ身としては、ガッカリと言うほかない。


※今回取り上げた記事「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」https://forbesjapan.com/articles/detail/45529/2/1/1


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月26日水曜日

「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」米国が「派兵準備」? 日経の記事に矛盾あり

26日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「米ロ、冷戦期以来の緊張 金融市場揺るがす~東欧に米軍8500人派兵準備」という記事はツッコミどころが多い。まず「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来の事態だ」との説明について考えたい。ポイントは2つある。

夕暮れ時の筑後川

そもそも米ロは「直接対峙」となるのか。13版の記事では「ロシア軍はウクライナ国境付近に集結しており、同国を挟んで米ロが対峙する」と説明している。だとすると「直接対峙」というより「間接対峙」だ。

もう1つ気になるのが「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来」との説明だ。記事には「1990年代の台湾海峡危機では、米国の圧倒的な軍事力の前に中国は引き下がった」との記述がある。つまり「1990年代の台湾海峡危機」では米中という「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙」している。そして、この「危機」が起きたのは冷戦終結後の1996年。となると「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来」ではなくなる。

追加でツッコミを入れておきたいのが「現在の米国は国力が低下し、ウクライナ情勢に関与する余裕はない」という解説。記事には「米国防総省は24日、ウクライナ周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣する準備に入ったと明らかにした」との記述もある。

ウクライナ周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣する」意思と能力があるのに「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」のか。「米軍を派遣する準備に入ったと明らかにした」のは単なる脅しなのか。脅しだとしても「関与」はしているのではないか。

日経は26日付の電子版に「ウクライナ、ロシア再侵攻説の否定に躍起~米に同意せず」という記事を載せている。これによると「ウクライナに対するロシア軍侵攻が間近に迫っているとの見方は主に米国が示しているが、ゼレンスキー大統領や国防相らが真っ向から否定」しているらしい。

つまりウクライナが助けを求めている訳でもないのに、米国主導で「ウクライナに対するロシア軍侵攻が間近に迫っているとの見方」を広めて「米軍を派遣する準備」に入っている。なのに「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」と認識してしまうのは、ピントがズレすぎている。


※今回取り上げた記事「米ロ、冷戦期以来の緊張 金融市場揺るがす~東欧に米軍8500人派兵準備

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220126&ng=DGKKZO79549080W2A120C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月25日火曜日

斎藤正勝氏に丸め込まれた? 日経 関口慶太記者「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」

25日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に関口慶太記者(肩書はフィンテックエディター)が書いた「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」という記事には色々と疑問が湧いた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

室見川

【日経の記事】  

「1カ月で30社超の新規株式公開(IPO)は多すぎる。これが続くとマーケットを壊しかねない」。auカブコム証券の前社長で、現在はミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏は17日、東京証券取引所を訪れ、山道裕己社長に訴えた。

2021年12月のIPOは34社(東京プロマーケット含む)。1991年以来、30年ぶりの高水準となった。年間の4分の1が1カ月に集中した。12月24日は1日だけで7社が上場した。

個人マネーが中心の新興市場は、IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい。東証マザーズ指数は21年12月に8%下落。22年1月はさらに18%下落している


◎「資金回転が効かなくなった」?

まず「IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい」という説明が謎だ。

初値が公開価格を下回る銘柄が続出」することが「資金回転の効かなくなった」根拠と言えるのか。「資金回転」の定義にもよるが、売買がきちんと成立しているのならば「資金回転」は効いているのではないか。

東証マザーズ指数は21年12月に8%下落」したらしいが、これを「IPOの集中」と単純に結び付けているのも引っかかる。因果関係を証明できないのは分かる。それでも「IPOの集中」が指数の下落につながったと見る市場関係者のコメントぐらいは欲しい。

22年1月はさらに18%下落している」とも書いている。これはさすがに苦しい。12月に「IPOの集中」が起きたので12月の株価が下がったという話はまだ分かる。翌月に2倍以上の下落率となったのならば別の要因と見るべきだ。翌月になった改めて「IPOの集中」を株価に織り込むとは考えにくい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

一極集中の悪影響は明らかなのに12月に集中するのはなぜか。IPOの主幹事を務める大手証券会社の幹部は「上場後の下方修正を避けるためだ」と明かす。「3月期決算だと、4~9月の上半期の結果が出た秋に上場申請すれば、年間計画がぶれる可能性が低くなる」というわけだ。

上場する企業や主幹事証券がIPO直後の下方修正を過度に恐れるきっかけになったのが、2015年のgumiショックだ。

14年に東証1部に上場したgumiは、上場からわずか2カ月半後に大幅な下方修正を発表した。株価はストップ安となり、日本取引所グループの斉藤惇最高経営責任者(当時)は「3カ月で営業黒字から赤字にするのは、経営者としてありえない」と批判。主幹事証券にも怒りの矛先を向けた。

15年3月に東証と日本取引所自主規制法人は日本公認会計士協会に対し「新規公開の品質向上に向けた対応のお願い」と題する要請をした。上場直後に業績予想を大幅修正する場合には前提条件やその根拠の適切な開示をするよう求めた。東証の永田秀俊上場推進部長は「主幹事証券や監査法人は、東証は上場直後の下方修正は認めないと受け止めたのではないか」とみる。

12月と違い、1月はほとんどIPOがない。1月でも年間計画は見通せるはずだが、1月の上場には準備の問題がある。12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る。IPOに向けて機関投資家を回って事業や財務の説明をするロードショーができないのが、1月に上場する企業が少ない理由だ。


◎2月はなぜ少ない?

IPOが「12月に集中する」のは「上場後の下方修正を避けるため」らしい。「1月でも年間計画は見通せるはず」だが、「12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る」から「1月に上場する企業が少ない」らしい。「クリスマスの時期」に休むと言っても数日の話ではないかと思える。「ロードショーができない」という説明を受け入るとしても、だったら2月はなぜダメなのかとの疑問は残る。

記事の終盤も見ておく。


【日経の記事】

解決策はある。決算期をずらすことだ。例えば12月期決算ならば、9~10月に年間計画が見通せる。3月期決算企業は東証1部の約7割。日本公認会計士協会などは20年3月、公認会計士を見つけられない監査難民を解消するためにも「決算期を異なる時期とすることが期待される」とする報告書をまとめている。

IPOの増加はリスクマネーの供給を増やそうと官民挙げて取り組んだ成果だ。ただ結果として生じたマーケット需給の悪化は放置できない。企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか。


◎どうやって「ずらす」?

解決策はある。決算期をずらすことだ」と関口記者は言うが具体策には触れていない。「企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか」と呼び掛けているだけだ。「3月期決算」以外の企業の上場申請を優先して審査する仕組みに改めるとか、何か策を提言してほしい。

個人的には12月に「IPOの集中」が起きても「市場を壊す」ようなことはないと思える。百歩譲って12月に「マーケット需給の悪化」が起きるとしよう。これは「放置」でいい。

そもそも「マーケット需給」が緩むことを単純に「悪化」とは見るべきなのか。結果として株価が下がっても、押し目を拾いたい人にとっては好機だ。

そもそも企業の株価は、中長期で見れば企業価値に見合ったものになるのではないか。「IPOの集中」の影響で本来の価値よりも大幅に低い水準で初値が付いた企業があるとしよう。割安な株価でこの企業に投資したいと考える投資家にとっては絶好の買い場だ。そうやって株価は修正されていく。一時的な「需給の悪化」による株価の変動を気にする必要はない。

12月に「IPOの集中」が起きているということは、裏返せば他の月の「IPO」は少ない訳だ。これは「マーケット需給」の“改善”要因となる。結局、集中させても分散させても年間ベースでの「IPO」による株式の新規供給は同じなのだから12月の「マーケット需給の悪化」は他の月の“改善”で相殺されるはずだ。

関口記者は「ミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏」に上手く丸め込まれたのだろうか。ここで書いたような話は「フィンテックエディター」というもっともらしい肩書を付けて日経に株式関連の記事を書く記者ならば、当然に理解しているべきなのだが…。


※今回取り上げた記事「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220125&ng=DGKKZO79505890U2A120C2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。関口慶太記者への評価はDを維持する。関口記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html

「お金のデザイン」が好きすぎる日経「市場の力学」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_53.html

逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(1)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_26.html

逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(2)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_27.html

2022年1月24日月曜日

子供へのワクチン接種でも賛否を明確にしない日経社説の罪

24日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に載った「子どもの接種は『個別』対応で」という社説は残念な内容だ。「新型コロナウイルスワクチンの5~11歳を対象とする接種」に対して賛否を明確にせず「かかりつけ医や小児科医による個別接種で対応するのが望ましい」といった「接種」の進め方に焦点を当てて逃げている。

耳納連山と夕陽

子どもの接種」が子供のためにならないことは筆者も分かっているようだ。しかし社論としてワクチン接種を推してきた経緯もあり、歯切れが悪くなったのだろう。中身を見ながら問題点を見ていきたい。


【日経の社説】

新型コロナウイルスワクチンの5~11歳を対象とする接種が3月にも始まる。厚生労働省が21日、米ファイザー製を特例承認した。かかりつけ医や小児科医による個別接種で対応するのが望ましい。

子ども向けワクチンは投与成分量を12歳以上の3分の1にしたもので、3週間の間隔をあけて2回打つ。2月に輸入が始まる予定。政府は早急に供給計画を自治体に示す必要がある。

ワクチンは病気予防のため健康な体に打つ。接種するかどうかはメリットとデメリットとをよく考えて判断しなければならない

新型コロナは子どもの場合、感染・発症しにくく、かかったとしても重症化リスクは極めて低いとされてきた。高齢者にうつすと重症者増につながるとしても、接種の負担を子どもに強いることに慎重な専門家の意見もあった。

ただ、オミクロン型の大流行で状況は変わった。国内でも子どもの感染・発症が増え、全国で学級閉鎖が相次ぐ。

海外での臨床試験や先行例から深刻な副作用はほとんど報告されていない。行動制限を最小限にし学校での集団感染を防ぐためにも接種の意義はある


メリットとデメリットとをよく考えたら…

オミクロン型の大流行で状況は変わった」と言うが「子どもの場合」「重症化リスクは極めて低い」という「状況」は変わっていない。子供の健康に関して言えば「重症化リスク」や死亡リスクはほぼゼロだ。一方「ワクチン」にはある程度の「副作用」がある。「深刻な副作用はほとんど報告されていない」とも書いているが、わずかでも「深刻な副作用」の可能性があるワクチンを「重症化リスク」ほぼゼロの子供に打つ意味はない。

メリットとデメリット」を考慮すれば「接種はさせない」との結論に至る。

行動制限を最小限にし学校での集団感染を防ぐためにも接種の意義はある」とも日経は書いているが、子供に限定して考えればコロナ対応の「行動制限」はゼロでいい。「集団感染」が起きても子供たちは無症状か軽症なのだから「学級閉鎖」をする必要ない。体調が悪い子供が学校を休めばいいだけだ。

高齢者にうつす」といった話は大人の問題だ。「高齢者」を守るために、子供にとっては「デメリット」が上回ることが明らかなワクチン接種を求めるのか。子供を犠牲にして「高齢者」を含む大人を守るべきなのか。そこを考えてほしい。

そもそも「ワクチン」で感染を防げるのかという問題もある。国民の約8割が2回のワクチン接種を終えた日本でも「オミクロン型の大流行」は起きた。「接種から時間が経ったからだ」と言うのならば、子供への接種効果もすぐに消えて追加接種となる。そのころには新たな変異株も生まれているだろう。その変異株に対応したワクチンが開発されたら、また接種して…という繰り返しが予想される。

自分の判断で接種する大人がワクチン漬けになるのは自己責任とも言える。しかし子供は違う。大人を守るために、接種のメリットがない子供をワクチン漬けにしていくべきなのか。答えは明らかだ。

社説の後半も見ておこう。


【日経の社説】

発熱や注射部位の痛みといった副作用が想定される。高熱を出すと子ども特有のけいれんを引き起こす懸念もある。接種後の体調管理が重要で、医師と意思疎通しやすい個別接種で進めるのがいい。

市区町村の中には集団接種を選択するところも出てくるだろう。その場合も医師会の協力を得て、会場に小児科医らが常駐する体制をとるべきだ。

打つかどうか本人が納得して判断することも大事になる。保護者らはわかりやすい言葉で丁寧に説明することだ

2年間、不便なマスク生活を強いられた子どもたちには相当なストレスがかかっている。接種の有無で新たな差別やいじめを生まぬよう、学校や地域社会は目配りしてほしい。コロナ禍から子どもを守る大人の責務といえる


◎「大人の責務」を強調するなら…

子供への接種が問題含みなのは日経も理解しているのだろう。「打つかどうか本人が納得して判断することも大事になる」などと書いている。ワクチンにより重大な健康被害が出ても「本人が納得」して接種したのだからと責任逃れはしやすくなる。だが、これは酷い話だ。

5~11歳」が「メリットとデメリットとをよく考えて判断」できると本気で思っているのか。「注射は嫌だ。痛いのは嫌い」といった主張はできるだろうが、子供全員に冷静で合理的な判断を求めるのは無理な話だ。大人でも「メリットとデメリットとをよく考えて判断」している人は少数派だろう。

コロナ禍から子どもを守る」のが「大人の責務」だと日経の論説委員が本気で思っているのならば、子供への接種には強く反対すべきだ。「子どもの接種は『個別』対応で」などと逃げを打っている場合ではない。


※今回取り上げた社説「子どもの接種は『個別』対応で」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220124&ng=DGKKZO79478800U2A120C2PE8000


※社説への評価はD(問題あり)

2022年1月22日土曜日

大塚耕平 参院議員のMMTに対する誤解が目立つFACTA「三耕探究⑦」

参議院議員の大塚耕平氏はMMT(現代貨幣理論)を誤解しているようだ。FACTA2月号に載った「三耕探究⑦ 日本の危機!『六重苦』で『貧しい国』の断崖」という記事からは、そう判断できる。中身を見ながら具体的に指摘したい。

中之島公園

【FACTAの記事】

故小渕首相の時代に「二兎論争」があった。財政再建と経済成長を二匹の兎に喩え、どちらの兎を追うか、両方追うか、あるいは「二兎を追う者は一兎をも獲ず」の諺(ことわざ)どおりなのか。

現在は新「二兎論争」の様相を呈している。以下、対比のために、財政健全化を追求する考え方をTMT(Traditional Monetary Theory)、伝統的金融理論と記す。

MMT派の主張のポイントは主に3点だ。

第1は、国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要と主張する。日本の純資産はゼロ近傍(負債と資産がほぼ同額)なので問題ないと結論づけている


◎そんな主張してる?

国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要」とMMT派は主張しているのか。MMT派の主張の全てに目を通している訳ではないので「ない」とは断言できない。だが、個人的にはそういう主張を目にしたことがない。

MMTの主唱者として知られるステファニー・ケルトン氏は著書「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」の中で以下のように記している。

MMTのレンズで見れば、政府は一般家庭や民間企業とはまったく違う。両者の間には、シンプルで否定できない違いがある。政府が通貨(米ドル)を『発行』するのに対し、他のすべての経済主体は通貨を『利用』するだけだ

政府の財政に関して「一般家庭や民間企業」と同じように考えることをMMTは戒めている。この考えに従えば「」の財政状況を「純資産」で見て「問題ない」とかあるとか論じること自体が無意味だ。

記事の続きを見ていこう。


【FACTAの記事】

第2は、日銀が国債を買い続けることができる(事実上の引き受けができる)ため、政府は日銀に紙幣を発行させれば財政は回り続けると主張する。いわゆる「統合政府論(アマルガメーション・アプローチ)」である。

第3は、財政赤字は拡大しているものの、現に何も起きていない、インフレも発生していない、だから大丈夫と主張する。

一方、TMT派は上記3点に関してそれぞれ次のように主張する。

第1に、国の資産と言っても、実際にそれを購入する人がいなければ資産としての価値も意味もない。純資産がゼロ近傍だから「大丈夫」なのではなく、ゼロ近傍だから「大丈夫ではない」という真逆の判断だ


◎「純資産がゼロ近傍だから『大丈夫』」?

MMTの一般的な考え方に基づけば「純資産がゼロ近傍だから『大丈夫』」とはならない。通貨主権を持つ日本の場合、政府の「純資産」はプラスでもマイナスでもゼロでも支払い能力に影響はない。政府・日銀は無から日本円を創出できる。「資産」を「購入する人」がいるかどうかは関係ない。そこは大塚氏にも理解してほしい。

さらに続きを見ていこう。


【FACTAの記事】

第2に、日銀が国債を買い続けることはできないと主張する。日銀がYCC(イールド・カーブ・コントロール)と称して長期金利を政策的に低位固定化せざるを得なくなっていることが、市場の国債消化能力が限界に達しつつあることの証左と指摘する。

日銀がYCCを止めると、国が民間金融機関に市場経由で国債を発行し、それを日銀が市場から取得するという「日銀トレード」ができなくなる。そうなれば日銀はまさしく国債を直接引き受けするしかない。その場合、投資家は国債売却、円売り、つれて日本株売りという悪循環に陥る。つまり、債券安、円安、株安のトリプル安だ。

第3に、上記第2の状況に至って急激な円安が生じると、輸入物価高を含め、制御できないインフレが発生すると主張する。

そのうえで、上記第2、第3の状況が現実化した場合、政府はその流れを止めるために財政再建策を発表しないと市場も投資家も「日本売り」を止められない。その結果、結局は伝統的な理論通りに財政再建策を発表することとなり、それはTMTが妥当であることの証左とする。これだけ真逆の主張だから、いくら議論してもMMT派とTMT派の主張の優劣について結論が出るはずがない


◎「真逆の主張」?

大塚氏が描く「TMT派の主張」には問題が多い。全てに言及すると長くなるので、ここでは1つだけ指摘しておこう。「日銀がYCCを止める」と「債券安、円安、株安のトリプル安」に陥り、さらには「制御できないインフレが発生する」と「TMT派」は主張しているらしい。だとすれば「YCCを止め」なければ済むのではないか。

YCC」を続けられなくなる理由を大塚氏は記していない。「日銀が国債を買い続けることはできない」とも「TMT派」は主張しているらしいが、なぜ「国債を買い続けることはできない」と見ているのかも謎だ。「日銀」は無から無限に日本円を創出できるのだから「国債を買い続けること」は簡単にできる。

大塚氏はそこが理解できないだろうのか。「これだけ真逆の主張だから、いくら議論してもMMT派とTMT派の主張の優劣について結論が出るはずがない」と投げ出してしまう。

そもそも「真逆の主張」だから「結論が出るはずがない」という理屈が謎だ。そっくりの「主張」ならば「優劣について結論」を出すのが難しいのは分かる。「真逆」ならば話は分かりやすい。例えば「宇宙人はいる」と「宇宙人はいない」というのは「真逆の主張」だ。だからと言って「結論が出るはずがない」と見るべきだろうか。宇宙人の存在を確認できた時には「主張の優劣について結論が出る」のではないか。

さらに言えば「真逆の主張」との見方が妥当ではない。「制御できないインフレが発生」した場合に「財政再建策を発表する」のが「TMT派の主張」らしいが、これはMMTと矛盾しない。

インフレにならない限り、財政赤字は気にしなくてよい、国債はいくら発行してもよいと主張する」のがMMTだと大塚氏も記事で解説している。裏返せば「インフレ」になると話が変わってくる。「制御できないインフレが発生」している場合、MMTに基づく政策運営でも「財政赤字」は縮小に向かう可能性が高い。「制御できないインフレ」は好ましくないという点でMMTと「TMT」は一致している。

さらに見ていこう。


【FACTAの記事】

「結論のない議論」に終始することなく「現実的な具体策」を考えてみる。

第1に、財政状況が「悪い」よりは「良い」方が望ましいことには誰もが賛同するだろう。


◎「誰もが賛同」?

財政状況が『悪い』よりは『良い』方が望ましいことには誰もが賛同するだろう」と書いてしまうのは大塚氏がMMTを理解していないからだ。

MMTのレンズに基づく財政運営では、特定の財政上の結果を目指すことは一切ない。財政赤字の増加は赤字の縮小、あるいは財政黒字と同じように許容されるべきものだ」とケルトン氏も著書の中で述べている。MMTでは「財政赤字」より「財政黒字」の方が好ましいとは考えない。

さらに見ていく。


【FACTAの記事】

第2に、だからと言って、財務次官寄稿のような内容を今すぐ実行できるはずがない。経済状況を悪くしても財政状況を改善するという対応は本末転倒だ。この論理にも多くの人が合意できると思う。

第3に、とは言え、日本は純資産がゼロ近傍だから「大丈夫」か「大丈夫ではない」かは、後者に分がある

IMFの最新統計(財政モニター<2018年10月>掲載の2016年時点データ)では、日本の資産に占める金融資産の割合は47.1%。残り52.9%は非金融資産だ。橋や道路、山林等の非金融資産は、誰かが購入しないと資産価値はない。国民が購入するとも思えず、だからと言って諸外国(中国等)に売却する訳にもいかない。

第4に、以上を踏まえると、この局面では財政出動、積極財政を維持できる工夫をしつつ、異常な金融緩和による財政ファイナンスを是正する意思表示、市場に対するメッセージを発することが必要だ。


◎明らかに「大丈夫」に分がある

政府保有資産のうち「非金融資産」は売りたくても売れないから国の「財政状況」は「大丈夫ではない」と大塚氏は言う。繰り返しになるが政府・日銀は無から日本円を創出できる。保有資産を売却して日本円を調達する必要はない。なので日本円の支払い能力に関しては「純資産がゼロ近傍」だろうが大幅なマイナスだろうが「大丈夫」だ。

「MMT派になってくれ」と大塚氏にお願いするつもりはない。大塚氏はどちらかと言えば「TMT派」に近いのだろう。それはそれでいい。ただMMTへの誤解は目に余る。

本当にMMTの主唱者たちは「国は負債だけではなく資産も有しており、純資産(資産マイナス負債)で考えることが必要」などと訴えているのか。そこだけでも調べてみてほしい。


※今回取り上げた記事「三耕探究⑦ 日本の危機!『六重苦』で『貧しい国』の断崖

https://facta.co.jp/article/202202018.html


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月20日木曜日

懲りずに投資家をアクティブファンドへ誘い込もうとする楽天証券 篠田尚子氏

楽天証券経済研究所ファンドアナリストの篠田尚子氏は仕事上、アクティブファンドを投資家に薦めなければならない立場なのかもしれない。そこを責めるつもりはないが、投資初心者にとっては厄介な存在だ。週刊エコノミスト1月25日号の「Q7 インデックスに勝つアクティブファンドって?~日本株対象は多く、米国株は少ない」という記事でも言葉巧みに投資家をアクティブファンドへ誘い込もうとしている。

コスモス甘木インター店

一部を見ていこう。

【エコノミストの記事】

かたや日本はというと、企業の成長性はさほど関係なく、株式時価総額の上位銘柄もダイナミックな変化は見られない。米国ほど株式市場に十分な自浄作用が働いていないということになる。

おさらいすると、米国は、勝者がどんどん上を目指せる一方、敗者が退場するサイクルでインデックス型投信でも十分なパフォーマンスを得られる。インデックス運用はパッシブ(=受動的)な運用方法の1つだが、米国の場合はインデックスそのものがアクティブ(=能動的)な動きをしている。例えば「米国株はインデックス型」「日本株はアクティブ型」にするなどとファンドを選びやすくなる。


◎「日本株はアクティブ型」?

仮に日本では「米国ほど株式市場に十分な自浄作用が働いていない」としよう。そのために「インデックス型投信」では「十分なパフォーマンスを得られ」ないとしても「日本株はアクティブ型」と考える必要はない。「アクティブ型」は「信託報酬が相対的に高くなる」と篠田氏も記事で説明している。

日本株はアクティブ型」と言うならば、コストを差し引いた後でも「アクティブ型」の「パフォーマンス」が「インデックス型」を上回る確率が高いと言える根拠が欲しい。しかし、記事にそうしたデータは見当たらない。そのことは篠田氏も分かっているのだろう。「例えば『米国株はインデックス型』『日本株はアクティブ型』にするなどとファンドを選びやすくなる」と遠回しな言い方をしている(日本語としてやや不自然な文だが、ここでは問題としない)。

その代わりに篠田氏はあまり意味のないデータを出してくる。そこも見ておこう。


【エコノミストの記事】

投信の運用力を測る指標は数々あるが、ここではシンプルにリターン(分配金再投資後基準価額)で、日本株と米国株のアクティブファンドの運用力を確認してみよう。

米国株と日本株それぞれを投資対象とするアクティブファンドについて、過去1年、3年、5年、10年のリターンをインデックスファンドと比較し、全期間でインデックスファンドを上回ったアクティブファンドの本数は、日本株「33」、米国株「4」だった。


◎33本が有力?

全期間でインデックスファンドを上回ったアクティブファンド」が日本株では「33」あるらしい。「これらを選べばインデックスファンドに勝つ可能性が高い」とは篠田氏も言っていない。だったら何のためにこの数字を見せたのか。何とか「アクティブファンド」に誘い込もうとする意図は感じる。

アクティブファンド」の好成績は基本的にまぐれと見るべきだ。例外なしとは言わないが、実力で超過リターンを得ているファンドを見抜く方法はほぼない。「自分にはそれが分かる」という投資家ならば「アクティブファンド」を選ぶことに合理性があるが、それ以外の投資家は「信託報酬が相対的に高くなる」アクティブファンドを選択肢から外していい。

もう1つ気になるのが「33」と「4」の対比だ。これだけ見ると「日本株」ならば「インデックスファンド」に勝ちやすいような印象を受ける。しかし「米国株はそもそも母数となるファンドの数が日本株と比べて少ない」らしい。ならば、なぜ「全期間でインデックスファンドを上回ったアクティブファンド」をファンド全体に対する比率で見せないのか。その辺りにも「日本株はアクティブ型」へと誘導しようとする篠田氏の意図を感じる。


※今回取り上げた記事「Q7 インデックスに勝つアクティブファンドって?~日本株対象は多く、米国株は少ない

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220125/se1/00m/020/023000c


※記事の評価はD(問題あり)。篠田尚子氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「アクティブ投信」を薦める楽天証券経済研究所の篠田尚子氏を信じるな!https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_15.html

「毎年決まった日」にリバランスすべき?篠田尚子氏の週刊エコノミストでの解説に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_2.html

2022年1月19日水曜日

「ギャンブルはハイリターン」と週刊エコノミストで解説した愛宕伸康氏の誤解

ギャンブルは株式投資よりも高いリターンを得られるだろうか。その可能性は低いと見るべきだが、いちよし証券上席執行役員チーフエコノミストの愛宕伸康氏はギャンブルの方がリターンが高くなるとの考えらしい。週刊エコノミスト1月25日号の「Q1 『投資』と『ギャンブル』の違いは?~お金を投じる目的で考える」という記事で以下のように説明している。

阪急神戸三宮駅

【エコノミストの記事】

ここでは、金融商品の具体的なリスク特性には言及しないが、図(注:リスクとリターンの関係を示したもの)のゼロ近辺にリスクとリターンの最も小さい「預貯金」が位置することに異論はないだろう。そしてリスクが大きくなるにつれて「債券(国債)」「投資信託」「株式」の順にリターンが大きくなり、最後に「ギャンブル」が位置するとイメージできる。

◎ギャンブルはハイリターン?

記事には「市場は、有価証券の短期売買でさや取りを狙う行為を投機と呼び、胴元が寺銭を取るギャンブルとは区別している」との記述がある。なのでここでは「ギャンブル=胴元に寺銭を取られる賭け事」と考えたい。

例えば競馬だ。寺銭の割合(控除率)を20%とすると馬券を買った人の期待リターンはマイナス20%だ。株式の期待リターンがプラスだとすれば、明らかに競馬はリターンが低い。リスクがそれなりに大きいとすればハイリスク・ローリターンと見るべきだ。

リスクの大きさに見合ってリターンも大きくなるのならば、ギャンブルに投資資金を投じるのは必ずしも悪いことではない。まともな投資対象と見なされないのは、リスクの高さとは裏腹にローリターン(しかもマイナス)だからだ。そこを愛宕氏は理解していないのか。

付け加えると「リスクとリターンの最も小さい」のが「預貯金」で、その次に「リスク」が小さいのが「債券(国債)」という説明もおかしい。

国債」と「預貯金」で言えば「国債」の方がリスクは小さい。日本の政府と民間銀行のどちらが破綻リスクが小さいかは言うまでもない。ただ1000万円以下の「預金」は政府が保護してくれるので「国債」と同程度のリスクと言える。


※今回取り上げた記事「Q1 『投資』と『ギャンブル』の違いは?~お金を投じる目的で考える


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月18日火曜日

「日経本紙・電子版購読数261万」記事に過去との比較がないので調べてみたら…

データを見せる記事では過去との比較が重要だ。改めて説明するまでもない。しかし18日の日本経済新聞朝刊社会面に載った「日経本紙・電子版購読数261万」という記事には、その比較がない。「日本経済新聞は半年ごとに最新の部数、購読数を紙面と電子版でお知らせしています」と言うものの、これではあまりに不親切だ。比較をしないのは「減っているところを見せたくない」との意図からだろう。そこで今回の記事に半年前との比較を加えてみた。

大阪取引所

【日経の記事】

日本経済新聞社は17日、2021年12月の「日本経済新聞」朝刊販売部数(日本ABC協会公査)と22年1月1日時点の「電子版」有料会員数との合計が261万1735(半年前比2%減)だったと公表しました。電子版の有料会員数は79万7362(同1%減)でした。また、日経電子版の有料会員数に、日経産業新聞、日経MJ、日経ヴェリタスの紙面ビューアー契約数、人事ウオッチとNIKKEI Financialの契約数を加えた「デジタル購読数」は、1月1日時点は87万189(同1%減)です。

日本経済新聞は半年ごとに最新の部数、購読数を紙面と電子版でお知らせしています。


◎きちんと伝えた方が…

朝刊販売部数」と「『電子版』有料会員数との合計」をメインで見せるのならば、せめてこの数字だけでも比較を見せたらどうか。中途半端な伝え方が残念だ。

カッコ内の比較は過去の記事に出ていた数値をこちらで調べて出してみた。比較するのは前年同期でも構わない。日経朝刊+電子版有料会員で見ると、前年同期比で5%のマイナス。「電子版の有料会員数」と「デジタル購読数」はプラスだが、紙の新聞の減り方がきつく補えていない。

ちなみに「『日本経済新聞』朝刊販売部数」は1年前に比べて18万部近く減っている。減少率は9%。これだけ減り方が急だと経営面では厳しい。それでも、きちんと伝えた方がいい。報道機関なのだから。


※今回取り上げた記事「日経本紙・電子版購読数261万」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220118&ng=DGKKZO79299450X10C22A1CT0000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月17日月曜日

福井村田製作所の工場が一部停止しても「生産に影響なし」の理由が謎な日経の記事

17日の日本経済新聞朝刊ビジネス面に載った「福井村田製作所の工場、コロナで一部停止~再びクラスター」という記事は理解に苦しんだ。全文は以下の通り。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

村田製作所は16日、生産子会社の福井村田製作所(福井県越前市)で従業員の新型コロナウイルスの感染が拡大し、15日から一部で操業を停止したと明らかにした。同社によると県から感染者集団(クラスター)が発生したと認定された。工場では主力の積層セラミックコンデンサー(MLCC)などを生産するが「生産や出荷に影響はない」(同社)としている。

福井村田製作所では1月に入って新型コロナの感染者が増えていた。全従業員約8千人のうち、感染者は16日に5人増え、累計で116人となった。自宅待機者も累計1256人にのぼる。クラスターが発生したのは武生事業所(同市)の生産棟の一部フロアで、約260人が働いている。

感染拡大を受けて、福井村田製作所は全従業員を対象に1日約1千人の規模で自主的なPCR検査を実施している。同社では2021年8月にも大規模なクラスターが発生し、一時すべての生産ラインを停止していた。同社は「多くの方に迷惑をかけ、おわびする」としている。


◎「影響はない」?

福井村田製作所」では「一部で操業を停止した」のに「生産や出荷に影響はない」らしい。在庫があれば「出荷に影響はない」かもしれないが、「生産」には「影響」が出そうなものだ。なぜ「一部で操業を停止」しても「生産」への「影響」をゼロに抑えられるのか。その説明は欲しい。記者は取材時に疑問を持たなかったのか。

気になる点は他にもある。「生産や出荷に影響はない」はずなのに、「多くの方に迷惑をかけ、おわびする」という「福井村田製作所」のコメントが出てくる。実は「生産や出荷に影響」が出ているのか。それとも「2021年8月にも大規模なクラスターが発生し、一時すべての生産ラインを停止していた」ことへの今さらながらの「おわび」なのか。あるいは今年に入って再び「クラスターが発生」したことを顧客ではなく地域社会に「おわび」しているのか。

色々と分からない記事だった。

個人的には「生産や出荷に影響はない」のならば、「おわびする」必要はないと感じる。


※今回取り上げた記事「福井村田製作所の工場、コロナで一部停止~再びクラスター

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220117&ng=DGKKZO79267670W2A110C2TB0000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月14日金曜日

日経1面「東証再編 市場はよみがえるか(下)」に見える矛盾

14日の日本経済新聞朝刊1面に載った「東証再編 市場はよみがえるか(下)止まらぬ地盤沈下~強い企業へマネー導く」という記事には矛盾を感じた。まず以下のくだりを見てほしい。

田主丸町中央公園

【日経の記事】

地盤沈下の一因は上場企業の水ぶくれだ。「上場企業が多すぎて売買が分散し、全体が割安になってしまっている」(仏コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏)。国内総生産(GDP)比の上場企業数は米や独の4~6倍にのぼる。米国では上場廃止の理由の7割がM&A(合併・買収)。弱い企業が買収されながら新陳代謝が進む


◎「全体が割安」になる?

上場企業が多すぎて売買が分散し、全体が割安になってしまっている」との見方に同意できない。だとすれば日本の「上場企業」を「割安」な値段で買収できるはずだ。そうした動きが日本では乏しい一方で、米国では「弱い企業が買収されながら新陳代謝が進む」とすれば「割安」企業が多いのはむしろ米国の方ではないか。

基本的に「上場企業」の株式が「割安」な価格で長期にわたって放置されることはないと見るべきだ。放置されていればアービトラージャーが現れるはずだ。そうならない特殊な環境になっているのならば、その説明が欲しい。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

細るマネーを伸びる企業に振り向けるべく、今回、東証は一計を案じた。

「プライム市場にいるだけでは経済的なメリットは得られない工夫をこらした」。ある金融庁幹部は東証株価指数(TOPIX)から流動性の低い銘柄を除外する決断をこう位置づける。TOPIXは東証1部全銘柄で構成する国際的にも特異な指数のために、成長力の乏しい企業も指数連動運用で買われてしまう。この問題に手を打ち、マネーの拡散を防ぐ狙いだ。

ただ、絞っても1500社程度。「もっと絞り込まないと本当に成長性のある企業が育たない」(京都大学の川北英隆名誉教授)。時価総額上位100社の創業からの「年齢」は日本は約80歳。デジタル時代の勝ち組が増えた60歳代の米欧や30歳未満の中国に比べて老いている。新陳代謝が進む市場設計が急務だ。

「逆ピラミッドを変えなければ」。金融庁や有識者が議論を進めているのが、東証1部は水ぶくれしているのに新興市場は小さく未公開株の取引はほぼない日本の市場構造だ。

米国は上場企業とは別に1万社以上の未公開企業の株式が取引され、有望ベンチャーへの投資も厚い。内部統制など負担が高まる上場の前に成長段階に沿って資金調達できる構造が新陳代謝を支える。


◎「売買が分散」してもいい?

売買が分散」するのはまずいかのように書いていたのに「米国は上場企業とは別に1万社以上の未公開企業の株式が取引され、有望ベンチャーへの投資も厚い」と米国を持ち上げている。

日本では「未公開株の取引はほぼない」のだから、「株式が取引され」ている企業は米国の方が圧倒的に多いはずだ。だとしたら米国でもかなり「売買が分散」している。なのに「売買が分散」すること自体を問題視すべきなのか。



※今回取り上げた記事「東証再編 市場はよみがえるか(下)止まらぬ地盤沈下~強い企業へマネー導く

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220114&ng=DGKKZO79206130U2A110C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月13日木曜日

「レジ袋の卸値上昇」を描いてる? 日経 田中浩司記者「価格は語る~レジ袋『有料』で卸値上昇」

13日の日本経済新聞朝刊マーケット商品面に田中浩司記者が書いた「価格は語る~レジ袋『有料』で卸値上昇 需要減でも店側には利益 原料高の転嫁しやすく」という記事は興味深く読めた。しかし肝心の「レジ袋」の「卸値上昇」の説明に問題が多い。「レジ袋の需要は急減しているが、なぜか卸値は上昇している」というのが記事の柱なのだから、ここはしっかり伝えてほしい。

ハクセキレイ

まず気になるのが、グラフに「原料の高純度ポリエチレン」の値動きを使っていることだ。記事の趣旨から考えても「レジ袋」の「卸値」の動きを見せるべきだ。

高密度ポリエチレンの国内価格は20年7月に約10%下落したが、21年に入って原油・ナフサ(粗製ガソリン)の高騰を受けて12月までに約28%上昇した」と「原料」についてはそこそこ詳しく価格動向を書いているのに「レジ袋」の「卸値上昇」の情報は見当たらない。関連がありそうと思えるのは以下のくだりぐらいだ。


【日経の記事】

これを受け、福助工業(愛媛県四国中央市)や大倉工業などフィルム・レジ袋大手が高密度ポリエチレンフィルムの転嫁値上げを表明。21年12月までにレジ袋有料化の直後から3割弱上昇した


◎「レジ袋」の「卸値」は?

高密度ポリエチレンフィルム」についてはメーカーが原料高の「転嫁値上げを表明」し価格が「3割弱上昇した」らしい。ただ、これは「高密度ポリエチレンフィルム」のメーカー出荷価格の話だ。「レジ袋」は「高密度ポリエチレンフィルム」から作るのだろう。なので「レジ袋」の一段階前の話と言える。

付け加えると「卸値」とは「卸売商が小売商に商品を売り渡す場合の値段」(日本国語大辞典)だ。「レジ袋」を仕入れた「卸売商」が売値を上げなければ「レジ袋」の「卸値上昇」とはならない。しかし、そういった話は出てこない。

記事には「レジ袋」に関して「小売事業者の仕入れ値は、サイズや取引量にもよるが、1枚1円前後といわれる」との記述がある。これが「卸値」だと思われる。

記事には以下の事例も出てくる。


【日経の記事】

首都圏に食品スーパー約130店を展開するいなげやは現在、店頭で1枚5円と2円で提供しているレジ袋の仕入れ価格の引き上げを受け入れることを決めた。メーカーとの価格交渉の席に着いた担当者は「無料のサービスとして配っている時ならおいそれとのめなかっただろう」と話す。


◎「卸売商」は介在してる?

いなげや」は「メーカーとの価格交渉」で「レジ袋の仕入れ価格の引き上げ」を決めたようだ。断定はできないが「メーカー」と直接取引していて「卸売商」は介在していないようにも見える。この辺りも引っかかる。

レジ袋」と「高密度ポリエチレンフィルム」。「卸値」とメーカー出荷価格。田中記者はその辺りをきちんと整理しないまま記事を書いてしまった印象がある。「レジ袋」の「卸値」をメインに据えるのならば「卸売商」の「レジ袋」販売価格がどう変化したのか、しっかり説明してほしい。


※今回取り上げた記事「価格は語る~レジ袋『有料』で卸値上昇 需要減でも店側には利益 原料高の転嫁しやすく」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220113&ng=DGKKZO79156430S2A110C2QM8000


※記事の評価はD(問題あり)。田中浩司記者への評価も暫定でDとする。

2022年1月12日水曜日

日経も「5類」支持へ? 「感染症法、なお『結核並み2類』」という記事に感じた希望

2020年の段階から「新型コロナウイルス対策はやりすぎ。従来のインフルエンザと同等の扱いでいい」と訴えてきたが、日本経済新聞もようやくその考えに近づいてきたようだ。12日の朝刊総合1面に載った「感染症法、なお『結核並み2類』~沖縄では保健所パンク」という記事は希望が持てる内容だった。一部を見てみよう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

感染症法は疾病を感染力や致死率などで分類して必要な措置を定めている。オミクロン型は重症化率が従来のデルタ型に比べて低く、いまの厳しい措置がリスクに見合っていない可能性もある。

新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ、結核などと同じ「2類相当」とされる。この分類を見直し、季節性インフルエンザと同じ「5類」に見直すべきだとの声もある。

仮に5類に扱いを引き下げれば、保健所が感染者を一人ひとり把握したり、入院措置や外出自粛を求めたりすることもなくなる。海外での流行を受けて、入国時の隔離や停留を求める水際措置を講じることもなくなる。

保健所の逼迫が軽減するなどのメリットがある半面、感染の広がりが追えなくなったり、医療費の自己負担が発生するなどデメリットも生じる

オミクロン型は重症化率が低いとはいえ、これから重症者が増えるリスクは残る。毒性の強い別の変異型があらわれる可能性もある。政府は現状の分類を維持しつつ乗り切る構えだが、保健所業務の抜本的な見直しなどは先送りになっている。

日本は政策判断の根拠があいまいという課題を引きずる。国内外の情報を集約し、経済社会活動と感染対策の両立が可能な道筋をデータに基づいて模索する必要がある。


◎明確に「5類」を求めてはいないが…

結核などと同じ『2類相当』」はやりすぎで「『5類』に見直すべきだ」と日経が明確に打ち出している訳ではない。ただ「その方向に動くべきではないか」との問題意識は覗える。

新型コロナウイルスは当初から重症化リスクが低い。「オミクロン型」では、それがさらに低くなっているようなので、もはや「ただの風邪」と見るべきだ。日経は「5類」にする「デメリット」として「感染の広がりが追えなく」なることを挙げるが、ただの風邪の「感染の広がり」を細かく追う必要はない。

医療費の自己負担」を「デメリット」と見るのもどうかと思う。「医療費の自己負担」はあるのが当たり前で、普通の状態に戻るだけだ。日経は財政再建を支持しているのだから、この立場から言えば財政負担が減るという意味で「メリット」とも言える。

5類」への見直しを日経が紙面で求めてくれれば微力ながら応援するつもりだ。今後の記事に期待したい。


※今回取り上げた記事「感染症法、なお『結核並み2類』~沖縄では保健所パンク

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220112&ng=DGKKZO79127820S2A110C2EA1000


※記事の評価はC(平均的)

2022年1月11日火曜日

文藝春秋「女性首相は我慢しない」に感じたブレイディみかこ氏の誤解

文藝春秋2月号にライター・コラムニストのブレイディみかこ氏が書いた「女性首相は我慢しない」という記事には思い込みの強さを感じた。一部を見ていこう。

カモ

【文藝春秋の記事】

日本は外圧で変わる国なので、米国に女性大統領が生まれたら、日本も変わらざるを得なくなるでしょうけどね。おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合いで何とかする政治が通用しなくなりますから


◎「おじさん首脳同士」なら何とかなる?

記事には「安倍晋三、森喜朗といった『おじさん政治』を象徴する人々」との記述があるので、今回の記事での「おじさん」には60代以上の男性も含むとの前提で考えてみる。

ブレイディみかこ氏は「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合いで何とかする政治が通用」してきたと見ているようだ。これは無理がある。

日米関係に限定しても「だったらなぜ日米開戦を止められず日本は壊滅的な敗戦を経験したのか」との疑問が湧く。戦争という事態に至ったのに「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合い」で「何とか」なったと見るべきなのか。

少し現代史を振り返れば分かるはずだ。国の「首脳」はほとんどが「おじさん」だったが、「おじさん首脳同士のホモソーシャルな付き合い」で戦争を回避できた訳ではない。悲惨な戦争を人類は繰り返してきた。

続きを見ていこう。


【文藝春秋の記事】

2021年「世界ジェンダー・ギャップ報告書」によると日本は世界で120位でした。日本の上の119位はアンゴラで、その上にはギニアやガーナがランクインしています。もちろん日本はG7では最下位。しかも政治分野だけだとさらに147位まで下がります。


◎なぜアフリカの国を並べた?

日本の上の119位はアンゴラで、その上にはギニアやガーナがランクインしています」とアフリカの国を3つ並べたのはなぜか。「もちろん日本はG7では最下位」というくだりなどから推測すると「アンゴラ」や「ギニア」や「ガーナ」のような遅れた国にも負けていると訴えたかったのだろう。だが「アンゴラ」「ギニア」「ガーナ」が「負けてはマズい国」と言える根拠は示していない。こういう形で国を列挙するのは感心しない。

さらに言えばジェンダーギャップ指数(2020年)で9位はルワンダ、12位はナミビアだ。「G7」で言えばドイツが10位に入っているが、残りの6カ国は全てルワンダとナミビアより下に位置する。だからと言って「G7」各国は危機感を持つべきなのか。

男女格差はあってもいい。例えば保育士志望者の90%以上が女性だとして、採用時に男女同数を目指すべきだろうか。あるいは保育士志望の女性に「保育士なんか目指すな」と働きかけるのが望ましいのか。個人の自由な選択に任せた結果として男女格差が生じるのならば、その格差は放置でいい。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【文藝春秋の記事】

「生きづらい」という言葉を日本の女性からよく聞きますが、生きづらさが政治と繋がっていると意識している人は少ない印象です。自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思うから、結局は何1つ改善されない。職場や家庭で女性が生きづらさを引き受け、こういうものだと諦めていれば、真の意味で女性を代弁する政治リーダーも出てこないでしょう。それらは繋がっているからです。日本も、階層を越えて女性たちが連帯し、今より生きやすくなる政治を求める時期に来ているのでは。連帯に必要なのも、階層や意見の違う女性の靴を履くエンパシーです。その中から、おじさんの「駒」じゃない女性政治指導者が出てくるだろうと思います。


◎女性はひたすら耐える存在?

先進国なのに極端に女性の政治進出が遅れている日本」の現状をブレイディみかこ氏は嘆くが、状況認識が根本的に間違っている気がする。昨年4月7日付のプレジデントオンラインの記事では男女の幸福度の差を論じている。これを基に考えたい。

世界価値観調査」で「幸福度について女性から男性を引いた値、すなわち『幸福度女性優位』のランキング」を見ると日本は2位で「前回、前々回の結果は、それぞれ、世界1位、世界11位だった」らしい。これ以外の調査結果も踏まえた上で記事では「日本の女性の幸福度が男性を上回る程度は、まず間違いなく、世界トップレベルにあるといってよいであろう」と結論付けている。

『生きづらい』という言葉を日本の女性からよく聞きます」というブレイディみかこ氏の言葉に嘘はないだろう。しかし、個人的な経験から全体像を決め付けてしまうのは危険だ。男女の比較で言えば「生きづらさ」をより強く抱えているのは男性の方と見るのが自然だ。

ここから「日本では男性に比べて女性が幸福度の面で恵まれた状況にあるので、女性の政治進出が進まないのでは」との仮説が成り立つ。「生きづらさ」があるのに「自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思う」状況にあるとは考えにくい。女性差別的なコンテンツなどを激しく批判する女性は珍しくない。なのに「自分さえ我慢すればいいんだ、とみんなが思う」ほど日本女性は我慢強いと見るべきなのか。

日本で「女性の政治進出」が進まないのは端的に言えば女性のやる気が乏しいからだ。選挙制度は男女平等で有権者では女性が多数派だから、その気になれば女性は「連帯」して多くの議席を獲得できる。なのにその意思が弱いのは「幸福度女性優位」が世界トップクラスで、現状を政治の力で変えたいと願う女性が少ないからと考えると腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「女性首相は我慢しない


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月10日月曜日

「異次元緩和撤退が株高持続の条件」? 日経QUICKニュース永井洋一編集委員の無理筋

10日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に日経QUICKニュースの永井洋一編集委員が書いた「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷」という記事には色々と疑問を感じた。順に見ていこう。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

2021年は欧米株が最高値を更新するなか、日経平均株価は32年前の最高値まで2割以上も低い水準にとどまった。日本株が買われない「真相」の一つは銀行の店頭で示される名目金利から物価変動の影響を除いた実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある。実質金利の低下は最高値更新の条件といえる

財務省によれば21年の海外投資家による日本国債の買越額は10兆円以上に膨らみ、14年以降で最大規模となった。一方、株式は1兆円程度の買い越しにとどまった。ここ数年、海外勢は日本株から日本国債への資金シフトを続けている。「ほかの国に比べて日本は低成長・低インフレが続くとの見方が背景にある」(野村証券の中島武信氏)

10年物国債の名目の利回りから消費者物価指数(CPI)の前年同月比の上昇率を控除して便宜的にはじいた実質長期金利(21年11月までの3年平均)は米国がマイナス1%、ドイツがマイナス2%程度なのに対し、日本はほぼゼロ、中国はおよそ1%だ。株価が伸び悩む日本と中国は相対的に実質金利が高い。


◎実質金利が高い?

日本株が買われない」要因として「実質金利の高さがもたらす民間投資の低迷との見方がある」と永井編集委員は言う。「実質金利」が「ほぼゼロ」だから「民間投資」が「低迷」するのか。「投資」をしたいと望む企業にとって「実質金利」が「ほぼゼロ」ならば強力な追い風と言える。

名目金利も「実質金利」も「長期金利」ベースでさえ「ほぼゼロ」まで下がっているのに「民間投資」が「低迷」しているとすれば、そもそもの「民間投資」需要が非常に弱いとみるべきだ。

なのに「実質金利の低下は最高値更新の条件」なのか。「米国がマイナス1%」だとしたら日本は「実質金利」が1%分下がるだけで並ぶ。今はゼロ近辺の物価上昇率がプラス1%になれば実現だ。最近の経済情勢を考えれば、それほど難しくない。原油高などを受けてインフレ率が1%を安定的に超えてきたとして、それで「民間投資」が盛り上がるのか。

さらに気になったのが以下のくだりだ。


【日経の記事】

問題は、こうした海外要因に振り回されやすい日本株が抱える構造的な脆弱性にある。

日本経済の低迷の原因は国債の大量発行にある。景気対策で目先の国内総生産(GDP)は増えても、その資金を国債で賄う限り、政府の資金需要が民間経済を押しのける『クラウディングアウト』が発生し、名目金利から期待物価上昇率の影響を除いた実質金利を押し上げるためだ」。バブル経済研究の第一人者である慶応大の櫻川昌哉教授は指摘する。

名目金利はゼロ%まで下がると人々は将来、何かに投資するのに備えてお金を流動性の高い現金や預金に滞留させる。国民の預金は金融機関を通じて国債に吸い上げられ、民間の資金需要が締め出される。その結果、経済活動はふるわず、期待物価上昇率が低迷するので実質金利が高止まりする。長期停滞と呼ばれる日本の病根だ。「国債の大量発行の結果、日本人は気づかぬうちに長期デフレや潜在成長率の低下といったコストを支払わされている」(櫻川氏)


◎「クラウディングアウトが発生」?

クラウディングアウト」とは「国債の増発などによる政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ、金融が逼迫して民間の資金需要を抑制する現象のこと」(百科事典マイペディア)だ。これが日本で発生していると「慶応大の櫻川昌哉教授」が言っているらしい。しかし長期金利ベースで見ても日本の金利はゼロ近辺に張り付いたままだ。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」るような動きは全く見られない。

日本の企業は現預金をため込み過ぎだとの指摘もある。「政府の資金需要の増加が市中金利を上昇させ」ているために企業が資金を調達できず、投資したくてもできない状況には程遠い。

記事の結論部分もかなり無理がある。


【日経の記事】

21年末の東証1部の時価総額は735兆円と1999年末比1.6倍となったが、国債の発行残高は947兆円(21年3月末時点)と22年で3.2倍に膨らんだ。長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる


◎株安になりそうだが…

長期的な株高持続の条件は一にも二にも財政再建と日銀の異次元緩和撤退ということになる」という驚くべき結論を永井編集委員は導き出している。

では「長期的な株高持続」を狙って政府・日銀が「異次元緩和撤退」を決めたらどうなるだろうか。長期金利のコントロールをやめ市場に任せる。日銀は保有国債の大部分を市場で売却する。そうなると長期金利にはかなり上昇圧力がかかる。

さらに「財政再建」のために公的年金の支給額を半減させ、支給開始年齢も80歳からとするのはどうか。国家公務員の給与も一律半額とするなど歳出削減を強力に実行してみよう。

こうした動きは名目金利を上昇させる一方で、消費低迷などを通じて物価下落要因となるだろう。つまり「実質金利」には上昇圧力がかかる。「実質金利の高さ」を問題視していたのに、永井編集委員の提案に従うと「実質金利」は上昇する可能性が高い。それで「長期的な株高持続」につながるのか。よく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「日本株、買われない『真相』~実質金利高止まりで低迷

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220110&ng=DGKKZO79080140Z00C22A1ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。永井洋一編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。

2022年1月9日日曜日

問題多い日経「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力」

9日の日本経済新聞朝刊1面に載った「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力」という記事は問題が多かった。順に見ていこう。

巨瀬川

【日経の記事】

北欧の島国アイスランドは2008年、リーマン・ショックの際、危険な投資にのめり込んだツケが回り、財政が破綻する危機に陥った

なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた――。政府はこう分析し、女性を積極的に登用する社会へと転換を図った。


◎「財政が破綻する危機」?

アイスランドは「2008年」に「財政が破綻する危機に陥った」と言えるだろうか。「アイスランドの金融危機」を解説した2017年の記事で日経自身が「政府債務は大きくなく、ギリシャのような財政危機には発展しなかった」と書いている。

基本的には銀行経営が行き詰った「金融危機」と捉えるべきだ。そうでないと、なぜ「男性中心の経営」が危機を招くのか辻褄が合わない。

続きを見ていく。


【日経の記事】

09年に初の女性首相が誕生。企業などに女性役員比率を4割以上にするよう求めた。11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった


◎比較するなら…

11年以降、新型コロナウイルス禍前までの実質国内総生産(GDP)の成長率は平均で3.5%に高まった」と書いているが、どのくらい高まったのか触れていない。これは困る。11~19年の「成長率」であれば、02~10年との比較が欲しい。

今回の記事には「アイスランド、09年の大転換」との見出しが付いている。だったら10年以降の「成長率」で見るのが自然だ。19年までならばちょうど10年でキリも良い。それをわざわざ「11年」からの9年間で見ている。ご都合主義の臭いはする。

さらに見ていく。


【日経の記事】

アイスランドは09年、男女平等の度合いをランキングにした「ジェンダーギャップ指数」でトップに躍り出る。以来、12年連続でその地位を維持し、女性の労働参加率(15~64歳)も80.7%(20年時点)と高い。


◎「男女平等の度合いをランキングにした」?

男女平等の度合いをランキングにした『ジェンダーギャップ指数』」という説明には問題がある。これは「ジェンダーギャップ」(男女格差)のランキングに過ぎない。完全に「男女平等」な社会でも「ジェンダーギャップ」はあり得る。混同すべきではない。

例えば日本の看護師の90%以上が女性で大きな「ジェンダーギャップ」があるとしても「男女平等の度合い」が低いとは言えない。

さらに気になるのが「アイスランドは09年」にこのランキングで「トップに躍り出る」という話だ。先に触れたように今回の記事では「アイスランド、09年の大転換」と見出しで打ち出している。これまで100位以下だったところから一気に「トップに躍り出る」といった話ならば「大転換」と呼ぶのも分かる。

ところが08年のランキングでアイスランドは4位だったようだ。つまり既に「ジェンダーギャップ指数」の順位は高かった。4位から1位になったからと言って「大転換」があったと言えるのか。

記事では「なぜ危機を招いたのか。男性中心の経営がコンプライアンス(法令順守)の意識を欠如させた」とも書いていた。08年時点で4位なのに「男性中心の経営」だったのか。だとすれば「ジェンダーギャップ指数」の4位はどんな意味を持つのか。

最後に記事の結論部分にも注文を付けておこう。


【日経の記事】

男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中、日本は女性を生かす社会を描けていない。賃金格差、子育て、積極的な登用などの課題に本気で向き合わなければ成長へのきっかけはつかめない。国や企業は変わる勇気を示せるか。覚悟が問われる。


◎色々と引っかかる点が…

男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中」と書いているが、記事で取り上げたそれらしき国はアイスランドだけ。しかも「男女平等」が「成長の原動力」になっていると取れる記述はない。

ジェンダーギャップ指数」4位でも「財政が破綻する危機」に陥るのに、「ジェンダーギャップ」の解消が「成長の原動力」になるのか。

日本は女性を生かす社会を描けていない」との説明も納得できない。個人的には「日本は女性を生かす社会」になっていると感じる。取材班のメンバーは自分たちの周りをよく見回してほしい。自分の力を生かす場もなく無為に日々を過ごしている「女性」ばかりが視界に入ってくるだろうか。

日経で女性記者は活躍していないのか。コロナ禍で大きな負担を強いられた医療現場で働く人たちは男性ばかりなのか。家庭で子供や高齢者の世話をしているのはほとんどが男性なのか。少し考えれば分かるはずだ。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(8)アイスランド、09年の大転換~男女平等が生む活力

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220109&ng=DGKKZO79079580Z00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月8日土曜日

日経 小竹洋之編集委員の「オピニオン」が見えない「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」

日本経済新聞の小竹洋之氏は「編集委員」だ。読者から見ると、何かご利益がありそうな肩書にも見える。そして8日の朝刊に小竹氏が書いた「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」という記事が載っているのはオピニオン面。「筆者が明確な意見を述べてくれるのだろう」と期待したくなる。しかし、今回の記事はそうなっていない。

田主丸町中央公園

米国ではいま『ニュー・ピューリタン(新清教徒)』という言葉が広がる。人種や性などの差別を是正するため、標的のキャンセル(消去)も辞さない人々である」と述べた上で米国での「草の根監視社会」の現状をあれこれ書いて話は進む。しかし、これに対して小竹氏がどんな主張を持っているのかは明らかにならない。そして記事は以下のように終わる。

【日経の記事】

他者に寛容でありたいと望むが故に、それを押しつけて不寛容になるという「寛容のパラドックス(逆説)」。民主主義国家の草の根の監視社会には、権威主義国家とはまた違う息苦しさが漂う。


◎それだけ?

民主主義国家の草の根の監視社会には、権威主義国家とはまた違う息苦しさが漂う」というのが、この問題に関して小竹氏が出した最終的な結論なのか。「困ったもんだね」程度の話しかしていない。

その「息苦しさ」にどう対処すべきなのか。そこを論じてほしかった。今回の記事では米国の話に終始していたので、日本の現状に関しても触れた上で小竹氏の描くあるべき「社会」の姿を読者に示すべきだ。

小竹氏の参考になるように自分の意見を少し述べてみたい。

記事の中には「優先すべきは『社会の正義』か、それとも『言論の自由』か」というくだりがある。「言論の自由」を守ることも「社会の正義」の一部と言えるので、この設問自体に問題を感じる。これを「発言の適切さ」か「言論の自由」かという問題に置き換えた場合、個人的には「言論の自由」を重視したい。

今回の記事には以下の記述もある。

【日経の記事】

米教育人権団体FIREのデータベースによると、人種や性などにからむ言動が問題となった学者は2015年以降で505人。大学が講演に招いた政治家や有識者らに抗議の声が上がったのは、00年以降で497件にのぼる。およそ6割が左派、3割が右派からの圧力を受けていた。

明白な差別で処分されてしかるべきケースもあれば、責任を問われるのが酷なケースもある。ではアボット氏の場合はどうか。ナチスを想起させる表現は軽率だったとはいえ、本来の講演テーマとは無関係の持論を理由に発言の機会を奪うのはおかしいと、米政治学者のヤシャ・モンク氏はいう。


◎「明白な差別」は処分されるべき?

言論の自由」を重視する立場で言えば「明白な差別で処分され」るのも好ましくない。例えば「在日韓国人は日本から出ていけ」という発言は明らかに差別的で不適切だと感じるが、この発言を理由に何らかの「処分」を下すのは好ましくない。

明白な差別」も人によって異なる。例えば国会議員の3割を女性に割り当てるクオータ制は導入されれば男性への「明白な差別」だが、だからと言ってクオータ制導入論者を「処分」すべきなのか。導入論者の多くは「明白な差別」には当たらないと訴えるだろう。

脅迫、名誉棄損、風説の流布などに関しては「言論の自由」の制限がやむを得ない面もあるが、最小限に留めたい。

その代わりに「抗議の声」は、これまたできるだけ自由を確保したい。結果として罵詈雑言の応酬となるような事例も出てくるだろう。それでも、言いたいことも言えない「息苦しさ」を抱える社会よりはいい。

小竹氏はどう感じるだろうか。同意してくれとは言わない。自分の色をしっかり出してコラムを書こう。それが難しいのならば、後進に道を譲ることも考えるべき時期だ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~草の根監視社会に映る分断」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220108&ng=DGKKZO79043760X00C22A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之編集委員への評価はDを据え置く。小竹編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_14.html

「『大きな中央銀行』でいいのか」と問うた日経 小竹洋之上級論説委員に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post.html

日経 小竹洋之編集委員は「コロナ世代」対策の具体論を語れhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post_13.html

2022年1月7日金曜日

「センテナリアンの挑戦」が見当たらない日経1面連載「成長の未来図(6)」

7日の日本経済新聞朝刊1面に載った「成長の未来図(6)高齢化の不安、乗り越える~センテナリアンの挑戦」という記事も苦しい内容だった。最大の問題は「センテナリアンの挑戦」を描いていないことだ。その前に記事の冒頭部分にもツッコミを入れておきたい。

田主丸駅

【日経の記事】

いま50歳のあなたが22世紀まで生きるかもしれない――。2021年6月、「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率は13%」とした論文が発表された。

延び続ける寿命の解明は「経済政策や人生設計に大きな影響を及ぼす」。米ワシントン大のマイケル・ピアース氏らは各国の110歳以上のデータから史上最高齢とされる122歳をどれだけ上回るかを推定した。


◎寿命の頭打ちを示唆しているのでは?

今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率は13%」というデータをどう見るべきだろうか。取材班は「延び続ける寿命」を示すものと捉えたようだ。

間違いとは言えないが、個人的にはむしろ逆に見える。今の「最長寿命」が「122歳」。これが「今世紀」末に「130歳」になるとしよう。10年で1歳という緩やかなペースだ。しかも実現の可能性はわずか「13%」。「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延び」ずに終わる「確率」が87%と言い換えればどうか。「最長寿命」はかなり頭打ちだと思えるのではないか。

問題の「センテナリアンの挑戦」に話を戻そう。ここから最後まで記事を一気に見てみる。


【日経の記事】

高齢化率で世界トップを走る日本で、1世紀を生き抜いた人々を示す「センテナリアン」が急増している。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の100歳以上は50年に53万2千人。1990年代初めに起きた百寿の双子姉妹「きんさん、ぎんさん」ブームから60年で140倍に膨らむ。

だが不安が先行し、歓迎ムードはない。権藤恭之大阪大教授らの18年の調査によると、30~75歳で「100歳まで生きたい」と答えた人は6.8%にとどまる。

孤独も余生に影を落とす。死離別で独身になる75歳以上の女性は30年までの10年間で130万人増え、800万人を超える。映画とは異なる高齢者版「ホーム・アローン」が待ち受ける。

センテナリアンが身近になる社会に夢は描けるか

広島大の角谷快彦教授は金融リテラシーの重要性を訴える。高齢期を控えた人への調査をもとに、複利やインフレの理解度が高い人ほど資産を増やし、老後の不安が軽くなる傾向を示した。「お金のリスクに対処できるようになれば安心感が高まる」

60歳以上の貯蓄を含む金融資産を推計したところ、19年時点で約1200兆円だった。15年間で約350兆円伸び、全体の3分の2を占める。国際通貨基金(IMF)は日本の高齢者の貯蓄率が近年上昇しているとし「想定外の長生きに備え退職後も貯蓄を続けている」と分析する。

眠っている資産は「シルバーエコノミー」の原動力になりえる。

ニッセイ基礎研究所の試算によると、60歳以上の消費総額は10年ごろから年1兆円規模で増え、30年に家計消費の49%(111兆円)に及ぶ。

前田展弘・主任研究員は人生後半のライフスタイルを提案するようなサービスの市場が未開拓だと指摘。「高齢者の課題を解決するビジネスが育てば、消費が飛躍的に伸びる余地はある」と話す。

担い手としての期待は消費だけではない。米ハーバード大のデビッド・ブルーム氏らは20年、労働、ボランティア、孫の世話など欧米の高齢者の経済的貢献度が国内総生産(GDP)の7.3%に相当すると算出した。日本の20年のGDPで見れば、建設業(5.9%)や小売業(5.7%)を上回る。

日本では65歳以上の労働参加率が25.3%(19年)と米国(20.2%)、ドイツ(7.8%)より高い。内閣府調査では65歳を超えても働きたい人が7割に達し、働く意欲はまだ眠っている。経験を生かせる職業教育、社会課題の介護や子育て、地域に根ざした企業や観光の支援など活躍を待つ現場は少なくない。

日本の高齢化率は29.1%と先進国で突出して高く、これが社会保障費の増大を招き、財政や家計を逼迫させる要因となってきた。しかし、寿命が着実に延びていくとすれば、65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れる

リモートワークや自動化の技術などを最大限駆使することで、元気で意欲も旺盛な高齢者の社会参加をどう促していくか。それ次第で未来の光景は大きく変わる。


◎途中から話が…

途中までは「センテナリアン」の話が続く。しかし「センテナリアンが身近になる社会に夢は描けるか」と問いかけたのを最後に「センテナリアン」は登場しなくなる。「センテナリアンの挑戦」を描いていないだけでなく「センテナリアン」自体を論じなくなっている。

そして「60歳以上の貯蓄を含む金融資産」「60歳以上の消費総額」「65歳以上の労働参加率」などと年齢を60代まで下げて話を進めてしまう。「65歳以上を高齢者と画一的に考え、限界を設定する必然性は薄れる」としても「センテナリアン」に関しては全く話が違ってくるはずだ。

センテナリアン」を「元気で意欲も旺盛な高齢者」と見なして「労働参加」を促すべきなのか。それを実践している「センテナリアン」は今でも当たり前にいるのか。その辺りに言及しないまま記事を終えている。

例外的な事例を取り上げて「センテナリアン」でも元気に働けると訴えるのもどうかと思うが「センテナリアンの挑戦」と見出しで打ち出すならば、「センテナリアン」がしっかり「社会参加」している姿は描くべきだ。

適当な事例がなかったのならば、記事の構成自体を考え直してほしかった。それが難しいのは分かるが…。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(6)高齢化の不安、乗り越える~センテナリアンの挑戦

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220107&ng=DGKKZO79016830X00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月6日木曜日

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」

日本経済新聞の秋田浩之氏(本社コメンテーター)が6日の朝刊オピニオン面に書いた「Deep Insight~弱者の日本、どう守る」という記事には大きく2つの問題がある。まず「弱者の日本」という前提が苦しい。記事を見た上で、そう考える理由を述べたい。

夕暮れ時の筑後川
【日経の記事】

日本の現状を一言でいえば、安全保障上、「弱者」の立場に置かれているという点に尽きる。中国との軍事バランス上、それは明らかだ。中国軍がもつ主力の戦闘機は3.7倍、戦闘艦艇1.5倍、潜水艦2.5倍にのぼる。

米国のインド太平洋軍と自衛隊を合わせても、この構図がひっくり返ることはない。中国軍の主力の戦闘機、戦闘艦艇、潜水艦は米インド太平洋軍の5~5.6倍に達し、ミサイル戦力でも大きく差を広げている。

中国への日米の劣勢ぶりは安倍政権下、日本がひそかに重ねたシミュレーションなどでも明らかになった。元米軍幹部によると、台湾海峡での米中戦争を想定した米軍の図上演習でも近年、米側が敗れるケースが多い。

むろん、世界中の戦力をかき集めれば、米国は中国を大きくしのぐ。ただ、米艦隊を米本土などからアジアに移動させるには数週間かかる。米軍機はすぐに飛んでこられるが、アジアで使える軍用空港は限られ、戦時にはその一部も壊されかねない。


◎どこが「弱者」?

世界中の戦力をかき集めれば、米国は中国を大きくしのぐ」のであれば、米国は中国との比較で「弱者」ではない。日米同盟が機能する前提で言えば、日本も「弱者」とは言い難い。「米艦隊を米本土などからアジアに移動させるには数週間かかる」としても「米中戦争」での中国優位が長くは続かないはずだ。

もう1つの問題に話を移そう。


【日経の記事】

北朝鮮への対応と並んで、日本が重点を置くべきなのは、台湾海峡の安定だ。日米による各種のシミュレーションによれば、ここで米中がぶつかれば大戦争になり、日本も戦域になってしまう危険性が高い。在日米軍などが標的になるほか、中国が作戦上、日本の南西諸島の一部を占拠しようとすることも考えられる。

各国に甚大な犠牲をもたらす戦争は、何としても防がなければならない。紛争は、力の均衡が崩れたときに起きやすくなる。台湾海峡の平和を保つには中国優位の軍事バランスに歯止めをかけ、「台湾侵攻は難しい」と中国が思うようにすることがまず肝心だ。

このため日本が果たせる役目は、主に3つある。第1に、軍事バランスのかなめである海空の防衛力をさらに強めていくことだ。作戦上、重みを増すサイバーと宇宙領域への投資も大事になる。

もっとも、中国の国防費は日本の約4倍に達しており、これだけで状況を好転させるのは難しい。そこで第2に、自衛隊と米軍の連携を深め、日米総体で対中抑止力を高めることが急務になる。


◎肝心な問題になぜ触れない?

各国に甚大な犠牲をもたらす戦争は、何としても防がなければならない」のはその通りだ。だからと言って「戦争」になった場合の対応を考えなくて良い訳ではない。秋田氏はこの問題から逃げ続けている。そこが残念だ。

逃げている理由は推測できる。日経の大好きな「日米同盟強化」を推進し続けると、中国の内戦に介入する形で中国との戦争に巻き込まれる可能性が高まるからだ。

簡単な「シミュレーション」をしてみよう。

中国がある日、台湾への軍事侵攻に踏み切る。その時に中国は以下のように宣言する。

「これはあくまで国内問題だ。台湾は中国の一部であり、他国は干渉しないでほしい。台湾以外への攻撃は絶対にしない。日本も自制してほしい。日本が軍事面での中立を守れば、在日米軍基地や尖閣諸島も含め日本への攻撃はないと保証する」

一方、米国は台湾の独立を即座に承認して中国に宣戦布告。英国、オーストラリアも米国に同調。米国は日本にも台湾独立の承認と対中宣戦布告を求めてくる。こうした事態に陥った時に日本はどう対応すべきか。秋田氏にはそこを考えてほしい。

日米同盟の強化を念仏のように唱え続けていた日経の路線を踏襲すれば、米英豪とともに対中戦争に踏み切るしかない。平和を守るための日米同盟だったはずが、日米同盟の存在ゆえに戦争に巻き込まれる皮肉。しかも「日本への攻撃は絶対にしないから中立を守ってくれ」と訴えている中国に戦争を仕掛けることになる。

その辺りが秋田氏にも分かるのだろう。「起こっては困ることについては考えない」という姿勢でやり過ごそうとしているように見える。

そうなると何のための「本社コメンテーター」なのかという話になる。

肝心の問題から逃げ続けたままでいいのか。秋田氏には改めて自問してほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~弱者の日本、どう守る」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220106&ng=DGKKZO78957760V00C22A1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

2022年1月5日水曜日

「日本の問題は平等主義」に無理がある日経1面連載「成長の未来図(4)」

日本経済新聞の正月1面企画「成長の未来図」はそれほど悪い出来ではない。日経が好む「世界一変系」の1面連載でないのは評価できる。ただ、5日朝刊に載った「(4)動くか『社会エレベーター』~めざす明日は見えますか」は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

一定の格差は今よりも良い未来を渇望する原動力になりうる半面、固定化すれば絶望や諦めにつながる。肝心なのは格差を乗り越えるという目標と手応えを持てるかだ。

経済協力開発機構(OECD)が提唱する「社会エレベーター」という指標は格差を克服する難易度を探るうえで目安になる。各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ階層が変わる確率を2018年に分析した。

導き出された数値は最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す。エレベーターがうまく動けば成り上がるチャンスは早まる。


◎まず指標が分かりづらい…

まず「『社会エレベーター』という指標」が分かりづらい。「最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す」この指標で日本は「4世代」となっている。これをどう理解したらいいのだろう。

「最短でも4世代は必要」と言いたいのか。しかし、あり得ない。「最貧層に生まれ」たものの街を歩いていたらスカウトされ芸能人として大成する人もいるはずだ。

社会エレベーター」で「4世代」という場合、平均で「4世代」かかるということか。しかし、そうは明示していない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

階級制度「カースト」が根強く残るインドは、はい上がるのに7世代(210年)と厳しい結果を突きつけられた。しかし急速な発展で変革の兆しが見える。

「IT(情報技術)の巨人を征服するインド人」。21年11月、同国はパラグ・アグラワル氏のツイッター最高経営責任者(CEO)就任に沸いた。地方の借家で育ち、インド工科大を経てビッグテックを率いる37歳は飛躍を遂げた象徴だ。

IT分野はカーストに規定がないため職業選択の制約を受けず、貧しくても秀でていれば競える。ユニコーン企業は21年11月時点で48社に上り日本(6社)を圧倒、年5万人超の人材が米国へ羽ばたく。地元メディアによると、グーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏も冷蔵庫がない質素な家庭から上り詰めた。

10年の義務教育の導入により貧困地域にできた公立学校に通うスーラジ・ライタ君(13)は「二輪車のエンジニアになりたい」と目を輝かす。米ニューヨーク大の研究者らによると、格差の流動性を示す数値は18年以降も改善を続ける。

インドと対照的に日本のエレベーターの動きは鈍い。平均所得への道のりは4世代とOECD平均(4.5世代)より短いが、京都大の橘木俊詔名誉教授は「格差の大きさより全体的な落ち込みが問題だ」と指摘する


◎インドに学ぶ?

平均所得への道のりは4世代とOECD平均(4.5世代)より短い」日本は優等生とも言える。しかし「はい上がるのに7世代(210年)と厳しい結果を突きつけられた」インドに学ぶべきだと記事では示唆している。インドの「数値は18年以降も改善を続ける」としても、優等生が参考にすべき対象ではないだろう。

記事の冒頭で「一定の格差は今よりも良い未来を渇望する原動力になりうる」と書いていた。「4世代」はその「一定の格差」に収まっていないのか。収まっていないとすれば、どこに基準があるのか。そこは明確にしてほしかった。

今回の記事の前半では「格差」縮小を求めていると取れる内容が続くが、後半はむしろ逆になる。「格差の大きさより全体的な落ち込みが問題」という「京都大の橘木俊詔名誉教授」のコメントがその始まりだ。「だったら前半の記述は何のため」と言いたくなる。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

低成長で賃金は約30年伸びず所得の低い層が膨らんだ。厚生労働省によると18年の年収400万円未満の世帯は全体の約45%を占め、1989年比で5ポイント近くも増えた。

「大人になったとき親世代より経済状況がよくなっているか」。ユネスコが21カ国の15~24歳に尋ねた調査で日本の「はい」の割合は28%で最低。ドイツ(54%)や米国(43%)を大きく下回る。

日本の問題は平等主義がもたらす弊害だ突出した能力を持つ人材を育てる機運に乏しく、一方で落ちこぼれる人たちを底上げする支援策も十分でない。自分が成長し暮らしが好転する希望が持てなければ格差を乗り越える意欲はしぼむ。

北欧の施策が参考になる。最貧層から2世代で平均所得に到達するデンマークは義務教育を延長して遅れている子どもを支え、大学生の起業も促す。北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%を超え、2.8%の日本との差は大きい


◎どこに「平等主義がもたらす弊害」?

日本の問題は平等主義がもたらす弊害だ」と言うものの、何を以って「平等主義」と言っているのか、よく分からない。「突出した能力を持つ人材を育てる」ことも「落ちこぼれる人たちを底上げする支援策」も、その恩恵を受ける権利が平等に与えられていれば「平等主義」とも言えるはずだ。

義務教育を延長して遅れている子どもを支え、大学生の起業も促す」デンマークは反「平等主義」なのか。全ての国民がこれらの政策の恩恵を受ける権利を等しく有しているのならば「平等主義」から外れている感じはしない。

北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%を超え、2.8%の日本との差は大きい」とも書いているが、これも「平等主義」とは関係ない。「教育の財政支出」が多くても、例えば白人にしか教育の機会を与えないとすれば「平等主義」ではない。

記事の終盤を見ておこう。


【日経の記事】

日本は能力を高めた人に報い、生かす発想も乏しい。米ブルッキングス研究所によると日本の大学院修了者の所得は高卒者より47%高いが、増加率は米国(72%)やドイツ(59%)を下回る。同研究所のマーティン・ベイリー氏らは「日本企業は採用を見直し高度人材を厚遇すべきだ」とする

世界は人材育成の大競争時代に入った。支援が必要な人たちを救って全体を底上げしながら、横並びを脱して新しい産業をけん引するトップ人材も増やす。一人ひとりの能力を最大限に生かす仕組みをどうつくり上げるか。さびついた社会エレベーターを動かす一歩がそこから始まる


◎色々と引っかかるところが…

日本企業は採用を見直し高度人材を厚遇すべきだ」としよう。人件費の総額が大きく変わらない前提で言えば、これは格差拡大策だ。それでいいのか。「高度人材を厚遇」すると「さびついた社会エレベーターを動かす」きっかけになるのか。基本的には逆になると考えるべきだ。

高度人材」は自分の子供により潤沢な教育関連の投資ができるようになる。一方「最貧層」の家庭に生まれた子供が塾に行ったりするのは、一段と難しくなる。

さらに言えば「大学院修了者」が「高度人材」なのかも疑問だ。日本では「高卒者」と「大学院修了者」の能力差が米独より小さい可能性もある。だとしたら「大学院修了者の所得」が「高卒者」を上回る度合いが米独より小さいからと言って問題視する必要はない。

そもそも比較対象はなぜ米独限定なのか。ご都合主義的に比較対象を選んでいる疑いが残る。

付け加えると「大学院修了者の所得」がそれほど高くないからと言って「日本は能力を高めた人に報い、生かす発想も乏しい」と断じるのは無理がある。日本は「能力を高めた人」であれば高卒でも学部卒でも等しく「報い、生か」しているだけかもしれない。

やはり今回の記事は説得力に欠ける。それが結論だ。


※今回取り上げた記事「成長の未来図(4)動くか『社会エレベーター』~めざす明日は見えますか

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220105&ng=DGKKZO78945980V00C22A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年1月4日火曜日

「中間層」に焦点当てる意味ある? 日経「エネ価格高騰、低収入ほど打撃」

4日の日本経済新聞朝刊 経済・総合面に載った「エネ価格高騰、低収入ほど打撃 中間層に『貧困化』懸念~1月消費者物価、電気代は最高の見通し」という記事は、なぜ「中間層」に焦点を当てたのか理解に苦しんだ。

生月大橋

最初の段落で以下のように説明している。

【日経の記事】

原油や食料品の価格上昇の影響が国内の家計に広がってきた。エネルギー価格の高騰は電気代など光熱費に遅れて波及するため、当面家計を圧迫する見通しだ。生活必需品の値上がりは年収が少ない層ほど負担が大きい。年収低迷が続く中でインフレが先行すれば中間層の「貧困化」が同時に進む「スクリューフレーション」が日本でも生じかねないと懸念する声も上がる


◎問題は「年収が少ない層」では?

年収低迷」は全体に共通しているとしよう。この中で「生活必需品の値上がり」は「年収が少ない層ほど負担が大きい」らしい。となれば「貧困化」は年収の多寡にかかわらず起きている。その中で「貧困化」が顕著なのは「年収が少ない層」だ。しかし記事では、そこに焦点を充てず「中間層」に話を絞っている。これが解せない。

中間層」に触れた部分をさらに見ていこう。


【日経の記事】

内閣府の分析によると、エネルギー関連の4品目(電気代、ガス代、灯油代、ガソリン代)の値上がりは収入が低いほど負担感が増す。総務省の家計調査にもとづく年収分類で、高収入層(平均年収1217万円)の収入に占める負担増加額の割合は22年1月時点で0.3%程度と見込むが、低収入層(同255万円)は1%近くになる。

政府・日銀は年2%の物価上昇を目指してきたが、収入の低迷が続く中でコストプッシュ型の「悪いインフレ」が加速すれば格差拡大につながりかねないと懸念する声も出てきた。中間層が貧しくなることを意味する「スクリューイング」とインフレーションを組み合わせた「スクリューフレーション」という見方だ。

08年のリーマン・ショック後に米国を中心に広まった。消費の重要な担い手となってきた中間層を減らし、経済に打撃を与える懸念が指摘されている。

第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは「日本も中間層が減り、スクリューフレーションが深刻化する可能性がある」と分析する。


◎「中間層」が減る?

『悪いインフレ』が加速すれば格差拡大につながりかねない」と心配するのならば「年収が少ない層」に焦点を当てて「格差拡大」を防ぐために何をすべきか論じるのが自然だ。しかし、なぜか「中間層」に注目している。「中間層」は「悪いインフレ」による打撃が中ぐらいなのだから「格差拡大」に関しては最も忘れていい層だと思える。

今回の記事は「スクリューフレーションが日本でも…」と訴えたい気持ちが先走ってしまったのではないか。

さらに言えば、「年収」によって「中間層」を定義する場合「悪いインフレ」が「中間層」を減らすのではと心配する必要はない。問題は「年収」だからだ。これが横ばいとの前提で考えれば、「悪いインフレ」は実質的に「中間層」を貧しくするが「中間層」からの脱落を促す訳ではない。


※今回取り上げた記事「エネ価格高騰、低収入ほど打撃 中間層に『貧困化』懸念~1月消費者物価、電気代は最高の見通し

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220104&ng=DGKKZO78902580U2A100C2NN1000


※記事の評価はD(問題あり)