2018年6月26日火曜日

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員

日本経済新聞の中村直文編集委員が26日の朝刊企業3面に書いた「奔放さ 保てるか」という解説記事は分析が雑だ。前沢友作スタートトゥデイ社長のインタビュー記事に付けたその記事の中身を見ていこう。
佐世保駅(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。

【日経の記事】

スタートトゥデイの強みは何か。子供っぽさと企業体質のアナログ性だろう。祖業は輸入CDなどのカタログ販売だが、2000年にネットという新しい「おもちゃ」を見つけるとすぐに切り替えた。ほぼ同時期に難しいと言われたファッションも扱い始めた。今回のゾゾスーツも「自分に合う服が欲しい」という前沢社長の無邪気なニーズから始まった

アナログ性とは「楽しく働けば働くほどもうかることに気づいた」(前沢社長)と話す社内コミュニケーションのこと。本社のある千葉・幕張に住む社員には「幕張手当」を支給し、時間に縛られない働き方を長く励行している。自由な雰囲気を醸し出す今のIT(情報技術)企業の原型を創造してきた

実は近年メディアの取材に応じていなかった。理由は「その時間を社内のコミュニケーションに充てたかった」(前沢社長)。もっともグローバル展開を始め、年間売上高は2019年3月期には1500億円近くに達する見込み。スタートトゥデイが何を目指すのかを社内外に広く伝える必要性が生まれ、「社外」コミュニケーションのあり方を修正した。

かくも奔放な前沢社長も少し大人の階段を上らざるを得ない状況になったわけだ。思い出に浸るまもなく、常識外れのライバルがさらに湧いてくるネットの世界。今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

◎疑問その1~どこに「アナログ性」?

アナログ性とは『楽しく働けば働くほどもうかることに気づいた』(前沢社長)と話す社内コミュニケーションのこと」と中村編集委員は言う。しかし、何が「アナログ」なのか謎だ。
門司港(北九州市)から見た関門橋 ※写真と本文は無関係です 

楽しく働けば働くほどもうかること」に「アナログ性」は感じられない。「千葉・幕張に住む社員には『幕張手当』を支給し、時間に縛られない働き方を長く励行している」のも、アナログとかデジタルの問題ではない。

例えば「社内の連絡でメールは禁止。全て口頭か紙のメモに頼っている」などと書いてあれば「社内コミュニケーション」に「アナログ性」があると納得できるのだが…。


◎疑問その2~「幕張手当」があると「時間に縛られない」?

幕張手当」があると、本社の近くに住むインセンティブは働くだろう。「終電を気にせず長時間労働ができる」という意味では「時間に縛られない働き方」かもしれないが、だとすると褒められた話ではない。

「そんなブラック企業ではない」という場合、「幕張手当」と「時間に縛られない働き方」の関係が分からなくなる。例えば「出社時間も退社時間も自由。労働時間は1日1~8時間で自由に選べる」という制度ならば「時間に縛られない働き方」だとは思うが、そうなると「幕張手当」は関係なくなる。


◎疑問その3~「IT企業の原型を創造」?

自由な雰囲気を醸し出す今のIT(情報技術)企業の原型を創造してきた」のが「スタートトゥデイ」だとは知らなかった。グーグルなどのIT企業は確かに「自由な雰囲気」がありそうだ。中村編集委員の解説通りならば、米国の巨大IT企業などもその「自由な雰囲気」は「スタートトゥデイ」が築いた「原型」を引き継いでいるのだろう。否定する材料を持ち合わせているわけではないが、ちょっと信じ難い。


◎疑問その4~どこが「かくも奔放」?

かくも奔放な前沢社長」と中村編集委員は言うものの、記事からは「奔放」さが伝わってこない。強いて言えば「今回のゾゾスーツも『自分に合う服が欲しい』という前沢社長の無邪気なニーズから始まった」というくだりか。しかし、経営者としてそれほど「無邪気」とも「奔放」とも思えない。

例えば「突然、社内の人間と連絡を断って2カ月間行方不明に。その間は気の向くまま海外を旅していた」といった話があれば「かくも奔放な前沢社長」と言われて納得できる。しかし、記事中にその手の事例は見当たらない。


◎疑問その5~今のスタートトゥデイは「小規模」?

今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する」という結論部分も苦しい。「年間売上高は2019年3月期には1500億円近くに達する見込み」ならば、立派な大企業だ。現状で「子供っぽさと企業体質のアナログ性」という「強み」を持っているのであれば、既に「規模と強みを両立」できている。

年商10億円レベルならば「今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する」かもしれないが、スタートトゥデイは桁が2つ違う。

中村編集委員は思い付き程度の分析を軽い気持ちで記事にしている印象がある。編集委員というご利益のありそうな肩書を付けて記事を書くのだから「自分の分析に妥当性はあるのか」と深く自問してから構成を考えてほしい。


※今回取り上げた記事「奔放さ 保てるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180626&ng=DGKKZO32227960V20C18A6TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

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