2022年12月27日火曜日

「量産する」と書いているが実は量産開始済み?と思える日経夕刊1面の記事

日本経済新聞の企業ニュースに「when」が抜けるのは悪しき伝統。26日の夕刊1面に載った「イーレックス、バイオマス発電燃料をベトナムで量産」という記事もその一例だが、やり方が巧妙になっている気がする。記事の全文を見た上で「量産」開始時期について考えてみたい。

宮島

【日経の記事】

電力小売り大手のイーレックスはバイオマス発電用燃料をベトナムで量産する。イネ科の植物「ソルガム」の商業栽培に着手し、2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす。発電量に換算して約1億5000万キロワット時と、一般家庭3万5000世帯分の年間需要をまかなえる。加工して日本に運び、自社の発電所などで使う。木材からつくる燃料よりコストを抑え、低炭素電源の原価低減につなげる。

まず南部ロンアン省など4カ所で農場を運営し、燃料用品種を育てる。ソルガムは3カ月で高さ6メートルほどに成長する。24年度には栽培面積を約15平方キロメートルと、現状の2.5倍に増やす予定だ。ソルガムは乾燥に強い一年草で、生育が早く年3回ほど収穫できる。ベトナム国内の生産委託先の工場などで葉や茎を粒状の燃料「ペレット」に加工し、日本に輸出する。

ペレットは22年度中にも運営する糸魚川発電所(新潟県糸魚川市)で石炭と混ぜて燃やし始める。バイオマス発電の燃料は木材からつくる木質ペレットが一般的だが、より安価な燃料を自社生産してコストを抑える。今後は他の発電会社にも外販する方針で、将来はベトナム国内での販売も視野に入れる。23年度にソルガムの事業規模を10億円に増やす。

バイオマス燃料は草木の生育過程で光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収するため、火力発電の環境負荷を減らせる。木質ペレット原料となるアカシアやユーカリは、植樹から伐採まで早くとも4~5年程度かかる。ソルガムは同じ栽培面積から得られる熱量がアカシアなどの約5倍と、効率が高い。


◎実はもう「量産」開始済み?

イーレックスはバイオマス発電用燃料をベトナムで量産する。イネ科の植物『ソルガム』の商業栽培に着手し、2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす」と書いてあると、断定はできないものの「量産」開始は「2024年度」なのかなと感じる。

しかし読み進めると「24年度には栽培面積を約15平方キロメートルと、現状の2.5倍に増やす予定だ」と出てくる。つまり「現状」の「栽培面積」は6平方キロメートル。「収穫量」も連動すると考えると「現状」でも年間12万トンもの「ソルガム」を作っている計算になる。であれば既に「量産」は始まっていると見るのが自然だ。

それを裏付けるように「ペレットは22年度中にも運営する糸魚川発電所で石炭と混ぜて燃やし始める」とも記している。

これをどう理解すればいいのか。

おそらく「量産」は始まっている。「量産を始めた」と過去形にすると夕刊とはいえ1面には厳しいといった判断があったのかもしれない。そこで「量産する」と将来の話のように見せたのではないか。「量産開始時期に触れてない」と言われないために「2024年度には収穫量を年30万トンまで増やす」と「2024年度」を直後に持っていく。しかし「量産開始時期=2024年度」とは言い切らない。

この推測が当たっているのならば悪い意味でテクニックは身に付いている。だが、この手の記事を世に送り出していては読者からの信頼は得られないだろう。


※今回取り上げた記事「イーレックス、バイオマス発電燃料をベトナムで量産

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221226&ng=DGKKZO67147560W2A221C2MM0000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年12月21日水曜日

日経の河浪武史 金融部長は管理職業務に専念した方が…

日銀による事実上の利上げを受けて日本経済新聞の河浪武史 金融部長が21日の朝刊総合2面に「成長と規律、回復へ一歩」という解説記事を書いている。なぜ編集委員らではなく河浪部長なのだろう。記事の出来もそんなに良くない。このレベルが限界なら管理職業務に専念した方がいい。問題点をいくつか挙げてみる。

錦帯橋
(1)今は「金利がない世界」?

市場だけでなく、企業にも家計にもサプライズとなり『金利がある世界』への備えは十分とはいえない」「『金利のある世界』には万全の備えが必要になる」と書いているので河浪部長にとって今の日本は「金利がない世界」なのだろう。

長期金利で言えばこれまでの許容上限が0.25%で、ほぼここに張り付いてきた。0.25%だと「金利がない世界」だが、それが0.5%になると「金利のある世界」なのか。その認識で記事を書いていると思うと少し怖い。


(2)どちらも「市場のハンドリング」の失敗では?

記事の書き方が下手だと感じた部分もあった。

日銀緩和の出口は繊細な手綱さばきが求められる。経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる。一方で市場のハンドリングを誤れば、金利急騰という大打撃を負いかねない」と河浪部長は言う。

経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる」というのも「市場のハンドリング」を誤った場合に起きることのはずだ。なのに「一方で市場のハンドリングを誤れば、金利急騰という大打撃を負いかねない」とつないでしまう。

改善例を示しておく。

【改善例】

日銀緩和の出口は繊細な手綱さばきが求められる。経済を冷やしてしまえば、日本は一転してデフレ懸念に見舞われる。一方で、市場のハンドリング次第では金利急騰という大打撃を負うリスクもある

このくだりの続きにも疑問を感じた。


(3)格下げが「日本経済の致命傷」?

いずれもコロナ危機後の過大債務を直撃して『日本国債の格下げリスクに直結する』(3メガ銀行首脳)。それは日本経済の致命傷となる」と河浪部長は言うが1990年代から「日本国債の格下げ」は何度もあった。それでも「日本経済の致命傷となる」ような大きな影響は起きていない。なのになぜ「日本経済の致命傷となる」と言い切ってしまうのか。

今回はこれまでと違うと考えるのなら、その理由は欲しい。あまり考えずに書いているような気がするが…。


※今回取り上げた記事「成長と規律、回復へ一歩」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221221&ng=DGKKZO67014560R21C22A2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。河浪武史氏への評価はDを据え置く。河浪氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日本では家計が「物価は上がらないと判断」? 日経 河浪武史記者の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/blog-post_28.html

「インフレはドル高招く」と日経 河浪武史記者は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/12/blog-post_14.html

「米利上げ 独走強まる」に無理がある日経 河浪武史記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_32.html

米ゼロ金利は「2008年の金融危機以来」? 日経 河浪武史記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/2008.html

日経 河浪武史・後藤達也記者の「FRB資産 最高570兆円」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/frb-570.html

2022年12月5日月曜日

「国と国の戦争」を「過去の遺物」と思い込んでいた日経 芹川洋一論説フェロー

日本経済新聞の芹川洋一論説フェローが5日の朝刊オピニオン面に書いた「核心~令和の国難に防人の備え」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

【日経の記事】

2022年も余すところわずかとなった。世界の歴史で特筆大書される年になるにちがいない。いうまでもなく2月24日にはじまったロシアのウクライナ侵攻のためだ。

国と国の戦争という過去の遺物と思われていたものが9カ月すぎてもなおつづいている。国際政治は権力闘争で、それを左右するものが軍事力という現実もまざまざとみせつけた。国際政治学者モーゲンソーのいうとおりだ。


◎「過去の遺物」と思ってた?

国と国の戦争」を「過去の遺物」だと芹川氏は思っていたのか。だとしたら怖い。2021年には中国とインドが軍事衝突を起こしている。それがなくても台湾有事で米国が中国と直接戦うのかが論じられてきた。そういう状況で「国と国の戦争」を「過去の遺物」と認識したのならば引退を検討していい。

台湾有事に関する記述にも疑問を感じた。


【日経の記事】

ただもし台湾有事になればどうなるのかを想定、さまざまな対策を詰めておく必要がある。尖閣諸島や与那国島など南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になるためだ。


◎なぜ「戦域に入るのは必至」?

台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」と芹川氏は言うが、その理由は記していない。中国からすれば台湾を攻撃する際に「南西諸島」も「戦域」に入れる可能性は低いだろう。台湾への攻撃だけであれば「あくまで国内問題」と中国は主張できるが「南西諸島」にまで「戦域」を広げてしまうと日米参戦に正当性を与えてしまう。

日本にとって一番悩ましいのは、中国が台湾だけを攻めている状況で親分である米国が中国との開戦を決意し、日本にも子分として参戦を求めてくる場合だ。日米同盟の強化を念仏のように唱えてきた日経の論説委員長経験者としては「その時は米国と距離を置け」とは言いづらいのだろう。しかし「日本が攻められていなくても米国が求めるなら子分として参戦を拒めない」と言うのも苦しい。なので「台湾有事」では「南西諸島が戦域に入るのは必至」とご都合主義的に決め付けたのではないか。

「台湾有事の際に米国が参戦を求めてきたら、日本が攻撃されていなくても米国と共に中国と戦うべきなのか?」

この問いに芹川氏は答えてほしい。「本社コメンテーター」の秋田浩之氏と同様にこの問題から逃げ続けるのならば安全保障上の問題を論じる書き手としては評価できない。

記事ではこの後「白村江の戦い」「蒙古襲来」など歴史のおさらいが続き以下のような結論に至る。


【日経の記事】

古代の防人、中世の御家人、明治の人びと……先人たちは涙ぐましい努力でふんばった。令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ。そして国難を回避するための政治指導者たちの力量だ。今の日本は果たして大丈夫だろうか。

◎そこを語らないと…

芹川氏は「今の日本は果たして大丈夫だろうか」で記事を締めてしまう。「大丈夫」かどうか自らの見解を示した上で「大丈夫」でないのならば、どういう政策を選択すべきか読者に訴えるべきだ。

日本の歴史を振りかえると、似たような状況の時代があったように思い、本社の論説委員会の本棚にあった山川出版社の高校教科書の『詳説日本史B』を手に取ってみた」といった余計な説明は要らないし歴史に触れた部分も長すぎる。「今の日本」が具体的に何をすべきかを論じることに紙幅を割いてほしかった。

「防衛力強化のために今こそ大増税を」でもいい。具体論からなぜ逃げるのか。

ついでに言うと芹川氏の文章は相変わらず平仮名だらけで読みづらい。

例えば「9カ月すぎてもなおつづいている」は「9カ月過ぎてもなお続いている」の方が読みやすい。使っている漢字もごく簡単なものだ。ずっとそうだが芹川氏はなぜこんなに平仮名好きなのか。

紛争がおこる」「バランスがくずれた」「年内決着にむけて」「ふたたび敗退」「城をきずいた」…。平仮名表記を選ぶ理由が理解できない。


※今回取り上げた記事「核心~令和の国難に防人の備え

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221205&ng=DGKKZO66495060S2A201C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「核で抑止」日本はOKで北朝鮮はNG? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2022/05/okng.html

昔話の長さに芹川洋一論説フェローの限界が透ける日経「核心~令和臨調、3度目の挑戦」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/03/3.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_18.html

「スペイン風邪」の話が生きてない日経 芹川洋一論説フェロー「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_27.html

日経 芹川洋一論説フェローが森喜朗氏に甘いのは過去の「貸し借り」ゆえ?https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_11.html

日本の首相に任期あり? 菅首相は安倍政権ナンバー2? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/2.html

2022年11月25日金曜日

データの扱いが恣意的すぎる日経1面連載「人口と世界~わたしの選択」

日本経済新聞朝刊1面連載「人口と世界~わたしの選択」が終わった。相変わらずの「欧州を見習おう」的な話で説得力はない。取材班は「欧州を見習うべき」との主張の苦しさにたぶん気付いている。しかし、そこを認めてしまうと「少子化克服の手本は途上国」といった話になってしまうので受け入れがたいのだろう。代わりに選んだのがデータを恣意的に扱うことだ。これは罪深い。

宮島

第1回の連載では「出生率が高い国は婚外子割合も高い」との説明文を付けて「婚外子割合」と「合計特殊出生率」の関係をグラフにしている。そうすると、この2つに相関関係があるように見える。しかしグラフの作り方に問題がある。

対象を「OECD各国で出生率が2以下」に絞っているのはなぜか。本来は世界全体を見るべきだがOECD加盟国に絞るのはまだ許せる。しかし「出生率が2以下」はさすがに許容範囲外だ。「出生率が高い国は婚外子割合も高い」という傾向を示したいなら「出生率が高い国」の情報は重要。なのに2を超える「出生率が高い国」をわざわざ外してグラフを作っている。対象外とした「出生率が高い国」では「婚外子割合」が低いのだろう。

この手法は最終回となる第4回でも使っている。

日本や韓国は女性の労働参加と出生率向上を両立できていない」という説明文を付けたグラフも「合計特殊出生率」の目盛りの上限が1.8なので「OECD各国で出生率が2以下」の範囲でしか見ていないようだ。しかも、このグラフでは注記でその点に触れていない。

最終回では「先進国では1970年代まで働く女性が増えるほど、仕事の負担で出生率が下がる傾向が強かった。80~90年代にデンマークやノルウェーは女性の労働参加率と出生率が同時に上昇した。共働きによる世帯年収の増加で余裕が生まれ、子供を多く持ったが、韓国などは働く女性は増えたが、出生率は下がった」と欧州を成功事例のように取り上げる。

しかし、その根拠をなぜか「80~90年代」の「デンマークやノルウェー」に求める。例えば「ノルウェー」は2010年代に入って出生率が低下傾向にあり、その水準は日本と大差ない。こうした不都合な事実に取材班はあえて触れない。

様々なデータは「先進国的な社会構造になると少子化傾向が定着する」と示唆している。取材班が見習いたがる欧州の国で人口置換水準となる2強の出生率を安定的に維持している例はない。

どうしても先進国を見習いたいならイスラエルだが、高い出生率の背景に宗教的な要素のある同国を手本にはしたくないのだろう。なので結局は無理のある主張になってしまう。

「先進国的でありたいなら少子化を受け入れるしかない。少子化を克服したいなら先進国的な社会構造を崩す覚悟を持つ」

結局はこの二者択一だろう。


※今回取り上げた記事「人口と世界:わたしの選択(4)社員の生き方を重視、出生率左右~企業経営新たなあり方」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC190M60Z11C22A0000000/


※連載全体の評価はD(問題あり)

2022年11月19日土曜日

アクティブ型投信を選択肢に入れる合理性ある? 日経 阿部真也記者に問う

アクティブ型投信を前向きに紹介する記事は評価できない。19日の日本経済新聞マネーのまなび面に阿部真也記者が書いた「投信、長期の運用力で選ぶ~効率・規模・投資先から候補」という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘していきたい。

錦帯橋

【日経の記事】

初心者が投信で長期運用を考える際に、最初の選択肢となるのが株価指数などに連動するよう運用するインデックス型と呼ばれる商品だ。日経平均株価や米S&P500種株価指数に連動する投信はニュースなどで情報を得やすく、運用中にかかる信託報酬といったコストが低いのが魅力だ。国内外の株式や債券などに分散して投資すれば、着実な運用成果につながるとされる。

一方で、指数を上回る運用成績を目指す投信もある。アクティブ(積極運用)型と呼ばれ、プロのファンドマネジャーが投資先を選ぶ。長期の運用ではより大きな投資リターンを狙って資産の一部を振り向ける位置付けといえる。ただ、アクティブ型は投資先を調べる手間がかかる分、インデックス型に比べコストが大きく、運用成績で不利になりやすい面がある。「良い投信」を選べるかどうかが重要になる

ではどのように投信を選んだらよいのだろう。楽天証券経済研究所の篠田尚子ファンドアナリストは「複数の条件から消去法的にスクリーニングすると選びやすくなる」と助言する。専門家が重視する代表的な条件を見ていこう。


◎なぜアクティブ型に誘導?

インデックス型に比べコストが大きく、運用成績で不利になりやすい面がある」と言いながら「なぜアクティブ型も選択肢にするのか」を論じないまま「ではどのように投信を選んだらよいのだろう」とアクティブ型も投資対象として検討する前提で話が進んでしまう。

これが解せない。「初心者が投信で長期運用を考える際」に「アクティブ型」は検討する必要がない。阿部記者は違う考えのようだが、そこに根拠はあるのか。今回の記事では「国内株式、シャープレシオ10年1.0以上、純資産10億円以上など」の「条件を設定して抽出した日本株投信の例」を出している。例に挙げた5つの投信の信託報酬(税込み)は0.92~2.00%。インデックス型なら0.1%未満も珍しくないのに0.92~2.00%もの費用を負担してアクティブ型に資金を投じる合理性はあるのか。

阿部記者は今回の記事でそこを正面からは論じていない。おそらく「シャープレシオなど過去の実績を見て優れたものであれば高コストが正当化できる場合もある」と言いたいのだろう。「投信選びや購入後の注意点」として「信託報酬などのコストにこだわりすぎない」と入れている辺りから阿部記者の考えが伝わってくる。

「過去のパフォーマンスが良かった投信に投資しても将来のリターンを高める効果はない」というのが投資の定説だ。それを阿部記者が否定するなら、その根拠は欲しい。定説を肯定するのならば「アクティブ型はコストが高い分インデックス型に劣る」と考えるほかない。なのでアクティブ型は最初から選択肢に入れなくていい。

高コストのアクティブ型を選ぶことを正当化できるとしたら「この投信の高いパフォーマンスはまぐれではなく実力だ。ファンドマネジャーに特別な力がある」と確信できる時だけだ。「そんなアクティブ型投信がある訳ない」とは言わない。しかし、あるとしても極めて少数だろうし、そこを「初心者」が正しく見抜ける可能性はほぼゼロ。だったら「投資初心者はとにかくコストを重視せよ。高コストのアクティブ型は検討しなくていい」と説くべきだ。

過去の成績を過信しない」などとも入れているので「アクティブ型の高コストを正当化するのは難しい」と阿部記者は理解しているのかもしれない。なのになぜ今回のような記事になってしまうのか。

金融業界の回し者だから?


※今回取り上げた記事「投信、長期の運用力で選ぶ~効率・規模・投資先から候補

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221119&ng=DGKKZO66096420Y2A111C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。阿部真也記者への評価も暫定でDとする。

2022年11月9日水曜日

週刊ダイヤモンド岡田悟記者に記事の書き方で7つの助言

週刊ダイヤモンド11月12・19日号に岡田悟記者が書いた「9000人リストラでも株価急落~クレディ・スイス“脱落”の衝撃」という記事は問題が多かった。岡田記者に助言を送る形で具体的に指摘していきたい。まずは株価に関する説明から当該部分を見ていく。

錦帯橋

【ダイヤモンドの記事】

とりわけ減収幅の大きい投資銀行部門を切り離しつつ、従業員は5万2000人から4万3000人と9000人削減する大リストラも行う。増資も行ってCET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)は14%に手厚くできるとの見通しを示したが、株式市場は全く評価しなかった。なぜか。

米ブルームバーグは日本時間の10月28日に配信した記事で、25年の有形自己資本比率を6%に引き上げるとの目標について、「ドイツ銀行の今年の目標を下回る」と指摘した。

ドイツ銀行も投資部門のリスク管理の甘さで損失を出し、リストラを強いられたが、足元では商業銀行部門が好調で業績が回復している。


◎助言その1~株価急落の理由をしっかり説明しよう!

今回の記事では「株価急落」の理由をきちんと説明できていない。記事からは「クレディ・スイス」の「25年の有形自己資本比率」目標が「ドイツ銀行の今年の目標」を上回るかどうかが注目されていて、それを下回ったから「株価急落」が起きたと読み取れる。ただ、常識的には考えにくい。

そこで「ブルームバーグ」の当該記事を見ると以下のように説明していた。

今後の増資に伴う株式の希薄化と2025年までの配当が『名目』にとどまる見通しを背景に、クレディSの株価は27日に19%急落して引けた。1日当たりの下落率として過去最大だった。アナリストらはクレディSが掲げた25年に有形自己資本利益率を6%に引き上げる目標についても失望を示し、シティグループのアンドルー・クームス氏はこの目標を『低い』と批判した。この数字はドイツ銀行の今年の目標を下回る

ここからは「今後の増資に伴う株式の希薄化と2025年までの配当が『名目』にとどまる見通しを背景に、クレディSの株価」は急落したと取れる。しかし岡田記者はそこに触れていない。

25年に有形自己資本利益率を6%に引き上げる目標」についても「アナリストら」が「失望」を示しているようなので下げ材料とはなったのだろうが「ドイツ銀行の今年の目標」との比較は「シティグループのアンドルー・クームス氏」が出したもので「株価急落」の主な要因とは考えにくい。

増資に伴う株式の希薄化」という容易に推測できる「株価急落」の理由を岡田記者はなぜ無視したのか。


◎助言その2~できれば同じ指標を使おう!

CET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)は14%に手厚くできるとの見通しを示した」と書いた後で「有形自己資本比率を6%に引き上げるとの目標」という話が出てくる。「CET1と呼ばれる自己資本比率」と「有形自己資本比率」がどう違うのかの説明もない。

25年の有形自己資本比率を6%に引き上げる」らしいので「CET1と呼ばれる自己資本比率」より数字が低くなりやすいのだろうが、その理由をきちんと説明できる人は週刊ダイヤモンドの読者でも稀だろう。

できれば同じ指標で話を進めるべきだし、「有形自己資本比率」を使う場合は一般的な「自己資本比率」とどう違うのか説明を入れてほしい。


◎助言その3~用語の説明は正確に!

CET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)」という説明は問題が多い。「銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保」というのは「CET1と呼ばれる自己資本比率」の説明と取るしかないが、これだと「比率」の説明になっていない。分母が何かは入れたい(たぶんリスク資産)。

また「CET1と呼ばれる自己資本比率」と表記すると「CET1」は「比率」を指すと思ってしまうが実際は「自己資本」の構成項目。「CET1と呼ばれる自己資本(普通株式と内部留保)比率」ならまだ分かる。


◎助言その4~記事は簡潔に書こう!

従業員は5万2000人から4万3000人と9000人削減する大リストラも行う」という文は無駄が多い。「5万2000人から4万3000人」と書くなら「9000人」は要らない。また「行う」はできるだけ使わずに記事を書いてほしい。この直後にも「増資も行って」と記しているので諸々併せて改善例を示してみる。

【改善例】

とりわけ減収幅の大きい投資銀行部門を切り離しつつ、従業員は9000人減の4万3000人へと大幅削減する。増資もして、CET1と呼ばれる自己資本(普通株式と内部留保)のリスク資産に対する比率を14%にできる見通しを示したが、株式市場は全く評価しなかった


◎助言その5~具体的な数字を見せよう!

今回の記事では「クレディ・スイス」に関して「デフォルト懸念が高まると上昇するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率(スプレッド)が10月に入って、他の欧州系に比べて大きく上昇した」「もともと強固な財務基盤を有するのに反して、CDSのスプレッドが拡大し、株価は下落を続けた」と繰り返し「CDS」に触れている。なのに「CDSのスプレッド」の具体的な数値はない。グラフもない。これは辛い。


◎助言その5~「衝撃」を描こう!

見出しに「クレディ・スイス“脱落”の衝撃」を選んだのだから、どんな凄い「衝撃」があったかしっかり描くべきだ。なのに「衝撃」自体を描いていない。「投資銀行“冬の時代”にあって、クレディ・スイスがとうとう脱落したと言える。同じスイスのUBSが上半期で26億ドルの税引き前利益を稼ぎ出しているのと比べても厳しい」などと記しているだけだ。

脱落」に驚く関係者のコメントや「脱落」を受けて慌てる同業他社の動向など何か欲しい。


◎助言その6~独自性を出そう!

今回の記事には岡田記者が取材をした痕跡が見当たらない。他社の記事をかき集めれば書けるような内容だ。「株価急落」の背景説明も「ブルームバーグ」の記事に頼っている。

絶対に取材が必要とは言わないが、それができないなら新たな切り口はほしい。今回の記事には、そこも見当たらない。「ブルームバーグ」の記事が出た10日後に岡田記者の記事は読者に届く。だったら、それなりの付加価値を加えないと。

大した取材もせず独自性の乏しい解説を並べて「ここ数年のハイリスクな取引と経営陣の混乱が続くまま、年明けの大荒れの市場に突入し、大リストラを強いられたスイスの名門の難路は続きそうだ」という当り障りのない結論を導く。

それでいいのか。


◎助言その7~「同社」の使い方に注意!

最後に細かい話を1つ。「証券化ビジネスの売却先には日本のみずほフィナンシャルグループの名前も挙がったが、結局、アポロ・グローバル・マネジメントとパシフィック・インベストメント・マネジメントとなった。そして残りの投資銀行部門はかつて同社が~」と書くと「同社=パシフィック・インベストメント・マネジメント」に見える。ここは「かつてクレディ・スイスが」とすべきだ。


※今回取り上げた記事「9000人リストラでも株価急落~クレディ・スイス“脱落”の衝撃


※記事の評価はD(問題あり)。岡田悟記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンドの特集「コンビニ地獄」は基本的に評価できるが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_29.html

週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの「おうちダイレクト」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_4.html

こっそり「正しい説明」に転じた週刊ダイヤモンド岡田悟記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_96.html

肝心のJフロントに取材なし? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者の怠慢
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post.html

「人件費が粗利を圧迫」? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_25.html


2022年11月5日土曜日

「金融緩和10年の功罪」をきちんと論じていない日経ビジネス三田敬大記者

日経ビジネス11月7日号に三田敬大記者が書いた「日銀、急激な円安が問う金融緩和10年の功罪~漂流する中銀の『独立』」という記事は期待外れだった。「急激な円安が問う金融緩和10年の功罪」をきちんと論じているとは思えない。記事の終盤を見てみよう。

宮島

【日経ビジネスの記事】

異次元の金融緩和10年。この間の日銀をいかに総括すればよいか。金融政策の評価は難しい。自然科学と異なり「別の選択肢を実施していたらどうなっていたか」という再現性検証が事実上不可能だからだ。緩和継続を優先する人は「もうすぐ効果が出る」と言い続け、修正派は「実験期間は十分過ぎた。副作用に配慮して自由度を高めるべきだ」と主張する。専門家も間違える。「高いインフレを目指して緩和を継続すべし」と90年代に唱えた米経済学者のポール・クルーグマン氏は、2015年には「一定の条件下では緩和は効かない」と宗旨変えした。

一つ確実に言えるのは、金融政策の効果は非常に大きいものの、過剰な期待はできない、という当然のことが改めて示されたこと。個人が消費意欲を高め、企業がもうかるビジネスを生み出し、政府が効率的な支出を行うには、各主体の創意工夫・努力が必要ということは間違いない。

日銀法改正から四半世紀がたった。米中冷戦やグローバルなインフレなど、世界経済の状況が激変する中で、日銀は独立した金融政策の専門家集団として、日本のためにどう力を発揮すべきなのか。その意義が今ほど問われている時はない


◎肝心なところが…

まず、この記事には「」が見当たらない。「」はなかったと三田記者が見るのならば、そう書いてほしい。「金融政策の効果は非常に大きい」とは言い切ってしまうが、その根拠は示さない。「非常に大きい」と確信できるのならば、どの程度の大きさなのかは読者に見せるべきだ。

金融政策」に「過剰な期待はできない」のは当たり前。どの程度の「期待」ができるのか三田記者の考えが知りたかった。

」に関しても物足りない。全体を見渡しても「長期にわたる低金利は金融機関の収益低下や資産運用環境の悪化、国債市場の機能低下などの副作用を招いた。間接的に政府の拡張財政を支えているとの批判もある」と書いている程度。

マイナス金利、国債や上場投資信託(ETF)の大量購入、イールドカーブ・コントロール──。非伝統的な金融政策を果敢に繰り出す日銀」をどう評価するのか。そこは論じてほしかった。

結局は「米中冷戦やグローバルなインフレなど、世界経済の状況が激変する中で、日銀は独立した金融政策の専門家集団として、日本のためにどう力を発揮すべきなのか。その意義が今ほど問われている時はない」と日経の社説のような締め方をしてしまう。

急激な円安が問う金融緩和10年の功罪」をきちんと検証しようとする姿勢は最後まで見えなかった。



※今回取り上げた記事「日銀、急激な円安が問う金融緩和10年の功罪~漂流する中銀の『独立』

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00231/


※記事の評価はD(問題あり)。三田敬大記者への評価も暫定でDとする。

2022年11月2日水曜日

雑な分析が残念な週刊ダイヤモンド「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」

週刊ダイヤモンド11月5日号に載った「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」という記事は残念な内容だった。筆者は日興リサーチセンター研究顧問・東京大学名誉教授の吉川洋氏、日興リサーチセンター理事長の山口廣秀氏、日興リサーチセンター理事長室前室長の井筒知也氏。勉強が得意な人たちなのだろうが、だからと言って説得力のある提言ができる訳ではないようだ。

錦帯橋

筆者らは「1人当たりのGDPの動きは人口減少とは関係ない。それを決めるのはイノベーションである」と言う。しかし、そう断言できる根拠は示していない。

IMF(国際通貨基金)の統計による1人当たりのGDPの推移を見ると、2000年には『失われた10年』を経た後であるにもかかわらず、日本はルクセンブルクに次いで世界第2位だった。しかし10年後には18位、さらにアベノミクス8年の後の21年には28位まで落ち込んだ。21世紀に入ってから過去20年、日本経済低迷の原因は、イノベーションの停滞に求められなければならない

ということは2000年までは世界トップレベルの「イノベーション」大国だったのに21世紀にはいると突然「イノベーション」を生み出せなくなったはずだ。しかし、そうした話は見当たらない。記事は以下のように続く。

この事実はスイスのIMD(国際経営開発研究所)の国際ランキングでも確認できる。企業の効率性では、1位デンマーク、6位台湾、7位香港、9位シンガポール、12位米国、21位ドイツなどと続くが、日本は、46位ギリシャ、50位ルーマニアの後塵を拝して、なんと51位である。日本企業の国際的評価は今や地に落ちたといっても過言ではない

イノベーション」創出力ランキングが21世紀に入って急低下したのならまだ分かる。しかしなぜか「企業の効率性」ランキング。しかも2000年との比較もない。これでは「日本経済低迷の原因は、イノベーションの停滞に求められなければならない」と言われても納得できない。

今回の記事の柱である「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」という主張にも説得力はない。「民間企業などのリスクテーキング能力が委縮している今日、日本では『最後のリスクテーカー』としての政府の役割が大きい。日本経済全体の『アーキテクト』である政府のリーダーシップが求められる」と筆者らは訴える。

2000年までは「イノベーション」が湧き出ていたのに21世紀に入ると突然枯渇したとの認識なら、なぜそうした急激な変化が起きたのかを分析する必要がある。しかし筆者らはそうは考えないようだ。

スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額だけ見ると、米国の1%にも満たない規模にとどまっている。中国と比べても5%程度である。『エコスシステム』の重要な一環を担うリスクマネーが、こんな状態ではイノベーションが進むはずもない

筆者らの言う通りだとしたら、2000年の段階では米国を上回る「スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額」が日本にあったはずだ。しかし、そうした話も出てこない。日本における「ベンチャーキャピタル」の存在感は元々小さい。それが「イノベーション」を生み出せない原因ならば、20世紀にも「イノベーション」は生まれなかったはずだ。

百歩譲って「スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額」を増やせば「イノベーション」も生まれてくるとしよう。だが、その役割を政府が「リスクテーカー」として果たすべきなのか。

海外の成功例などを示していれば多少は検討の余地も生まれる。しかし、これまた記事にそうした話はない。「日本では『最後のリスクテーカー』としての政府の役割が大きい」とは言うものの具体的にどう動くべきかも示していない。

分析が雑な上に主張にも説得力がない。今回の記事に関してはそう評価したい。


※今回取り上げた記事「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ


※記事の評価はD(問題あり)

2022年10月29日土曜日

「少子化対策はフランス・スウェーデンを見習え」に説得力欠く日経ビジネスの記事

「少子化を克服したかったらフランスやスウェーデンを見習え」ーー。これまで繰り返されてきたこの主張に説得力はないが、それでもこのパターンの記事はなくならない。日経ビジネス10月31日号の特集「産める職場の作り方~人口減少は企業が止める」の中の「フランスとスウェーデン、高出生率の秘訣~充実の国家支援で 子育ての負担減らす」 という記事もやはり苦しい内容だった。そうなる理由を述べてみたい。

錦帯橋

(1)フランスとスウェーデン、出生率はなぜ低下?

フランスの2020年の合計特殊出生率は1.83と欧州連合(EU)内でもっとも高く、スウェーデンは1.66でその後を追う。両国ともに近年は出生率が下落傾向にあるが、それでも日本に比べると高い。ともに急速な人口減少の危機にひんした時期があり、少子化対策を国家戦略の需要な柱に据えてきた。まずはフランスの事例を見てみよう

今回の記事では「両国ともに近年は出生率が下落傾向にある」ことに触れてはいるが、そこを分析せずに「それでも日本に比べると高い」と見習うべき対象として認定してしまう。

出生率が「日本に比べると高い」国は「フランスとスウェーデン」に限らない。圧倒的な“優等生”はアフリカに多い。先進国に限定するとしてもイスラエルがある。こうした国々を無視して、出生率の水準も大して高くなく「近年は出生率が下落傾向にある」国をなぜ手本にするのか。そこを説明しないと説得力は生まれない。


(2)フランスとスウェーデンの「移民効果」は無視?

フランスとスウェーデン」は移民受け入れが多い国として知られる。フランスでは移民を除くと出生率は高くないとも言われる。この辺りに記事では触れていない。移民は最初は出生率が高くても社会に同化していく中で出生率が低下するという話もある。

移民の多さが「フランスとスウェーデン」の“高い”出生率を支えているならば「日本も移民受け入れを積極的に進める」のが少子化対策となる。しかし記事では、そこも論じていない。結果として、ありがちな「子育て支援を見習え論」になってしまっている。


(3)子育て支援策に大きな効果ある?

フランスは、90年代以降に子育て支援策を強化する。その柱は主に以下の3つだ。①子どもがいても新たな経済負担が生じないようにする② 保育制度の拡充③育児休業の充実──だ。こうした改革が奏功し、2000年ごろから出生率が上がっていく」と記事では解説している。

しかし2010年代になると出生率は低下傾向となり「2000年ごろ」の水準にほぼ戻っている。つまり効果は乏しかった。「子育て支援策を強化」しても効果は限定的と見るのが妥当だ。なのに記事では、その辺りも無視してしまう。

フランスやスウェーデンにおいては、国が少子化対策を強力に推し進めている。GDP(国内総生産)に占める少子化対策への公的支出の割合は、スウェーデンが3.4%、フランスは2.9%と、日本(1.6%)の2倍前後に上る。両国は多額の予算と制度を駆使して出生率を高めており、見習うべき点は多い」と記事では結論付けている。ありがちなパターンだ。

少子化対策への公的支出」を増やすと「出生率を高め」るという因果関係を前提にしているようだが、この3カ国の数字だけからは因果関係を断定できない。「公的支出の割合」はスウェーデンがフランスを上回るが出生率では逆なのも気になる。

仮に因果関係があるとしても「フランスとスウェーデン」では出生率が低下しているのだから「効果は持続的ではない」という可能性は高い。


(4)フランスとスウェーデンに追い付けば満足?

少子化対策への公的支出」を「フランスとスウェーデン」並みにすると出生率も並ぶとしよう。それで良しとするのか。高い方のフランスでも出生率は「1.83」。人口置換水準に及ばない。なのに「公的支出」を倍増させる意味があるのか。

少子化克服を目指すなら人口置換水準が目安になるだろう。そして、この水準を上回る国は世界にたくさんある。なのになぜ「フランスとスウェーデン」を「見習うべき」なのか。

その答えはこの記事にもない。



※今回取り上げた記事「フランスとスウェーデン、高出生率の秘訣~充実の国家支援で 子育ての負担減らす

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/01265/


※記事の評価はD(問題あり)

2022年10月24日月曜日

相変わらず問題多い日経 中村直文編集委員の「経営の視点~物価高に迷うコンビニ」

日本経済新聞の中村直文編集委員が問題の多い書き手であることは何度も指摘してきた。24日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点:物価高に迷うコンビニ~量販化、成長か淘汰か」という記事でも、その評価は変わらない。「物価高に迷うコンビニ」と見出しを付けているが、最後まで読んでもコンビニが「迷う」話は出てこない。それ以外にも色々と問題を感じた。中身を見ながら中村編集委員に助言していきたい。

岩国城

【日経の記事】

ローソンでは日清食品のカップヌードルが6月に198円から231円に値上がりした。かつてコンビニエンスストアは便利さが持ち味で、価格設定の優先順位は低かった。しかし今は違う。

価格のインパクトが増し、値ごろ感のある商品をそろえる「量販化」を加速しないと、顧客にそっぽを向かれてしまう。値上げをしながらも、柔軟な価格対策も急務。新型コロナに加え、物価高はコンビニに次の経営の方向性を示すように迫ったのだ。

ファミリーマートは昨年秋から物価高の局面を見据え、細見研介社長が号令をかけ、よりきめ細かな店頭価格を設定する取り組みを始めた。


◎店頭価格は本部が決める?

ここまでを読むと「コンビニにおける店頭価格の決定権は本部にある」との前提を感じる。コンビニの主流であるFC店では、少なくとも形式的には価格決定権は加盟店にあるのではないか。

「実質的には本部が決めている」と見るなら、それはそれでいい。ただ、その辺りの説明は欲しい。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

今年3月に価格戦略・販売計画グループを発足。これまではカテゴリー別に価格を決めていたが、「価格でファミマのメッセージを感じ取ってもらいたく、全体のバランスを再考した」(担当者)。

例えばおにぎり。価格帯を上から「松・竹・梅」とした場合、200円を超える「スパムむすび」「豚ロースの生姜焼きおむすび マヨネーズ入り」などの松、150円台以下の梅は充実していた。しかしその中間に当たる竹は乏しい。そこで170~180円前後のおにぎりを増やし、バランスをとった

いわゆる価格の松竹梅の法則の活用でもある。2つの価格コースでは低い価格を選ぶ傾向が強いが、3つに設定すると竹を選びやすくなる。一番上はぜいたくに感じ、一番下では貧しく感じてしまうからだ。物価高で消費者の価格選好はより複雑になる。そこでファミマは選択肢を広げ、買いやすさを促そうというわけだ。


◎で、結果は?

170~180円前後のおにぎりを増やし、バランスをとった」時期が記事からは明確に判断できないが仮に「今年3月」ごろだとしよう。であれば結果が出ているはずだ。

なのに中村編集委員はそこには触れない。狙い通りならば「200円を超える『スパムむすび』『豚ロースの生姜焼きおむすび マヨネーズ入り』などの松」と「150円台以下の梅」は販売が落ち込むものの「170~180円前後のおにぎり」が中心となって全体での増収を確保しているはずだ。

ファミマ」がそこは明らかにしないのならば、この取り組みを前向きに取り上げる意味はない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

余談だが、数年前の出張時に有名神社に立ち寄ったときのこと。肉親の病気回復のために厄払いを申し込もうとすると、祈祷(きとう)料は5000円、8000円、1万円の3種類だった。さすがに最低価格は除外し、8000円か1万円。肉親への祈りなので2000円をケチるのもどうかと思い、1万円を選択。もしこれが7000円と1万円ならば、7000円を選択した可能性もある。価格心理は実に微妙だ。


◎要らない「余談」

この「余談」は要らない。まず3つの選択肢の中で最高価格の「1万円を選択」しているので「松竹梅の法則」の実例になっていない。

また「2000円をケチるのもどうかと思い、1万円を選択」したのに「7000円と1万円ならば、7000円を選択した可能性もある」となるのが解せない。「2000円」と3000円は中村編集委員にとってそんなに大きな差なのか。

記事に説得力を持たせる効果を狙ったのだろうが逆効果だと思える。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

本題に戻るが、最大手のセブン―イレブン・ジャパンも松竹梅価格戦略の見直しに動いた。グループのスーパー、イトーヨーカ堂が扱う低価格プライベートブランド(PB)の「ザ・プライス」をリニューアルし、60店で実験的に導入した。物価高でのニーズを見極めようと、あえて価格帯を広げたのだ。

これまでプレミアムを軸に付加価値路線がセブンの持ち味だった。しかしコロナでコンビニの売り上げは低下。大容量品の拡充など日常的な買い物への対応強化を進めてきた。さらに物価高に賃金上昇が追いついていかず、セブンといえども節約志向シフトは欠かせない。


◎どう見直した?

セブン―イレブン・ジャパンも松竹梅価格戦略の見直しに動いた」と言うが、どう「見直し」たのかよく分からない。

ザ・プライス」を「60店で実験的に導入した」ことと「松竹梅価格戦略」の関連を中村編集委員は説明していない。「松竹梅」の下に位置する価格帯の商品を置いたのか何なのか、そこは触れるべきだ。

「行数の関係でできない」と言うなら「セブン」の話は省いていい。

結論部分にも問題を感じた。


【日経の記事】

コンビニの量販化はスーパーやドラッグストアなどとの業態間競争の激化も意味する。次の成長への一歩か、淘汰の始まりか。人口減、物価高などの逆風下、それぞれが顧客を持続的に誘導する次の「動線」が求められている。


◎「コンビニの量販化」を論じてた?

コンビニの量販化はスーパーやドラッグストアなどとの業態間競争の激化も意味する」と中村編集委員は言うが、今回の記事で「コンビニの量販化」を論じているのか。

セブン」の話は分かるが「170~180円前後のおにぎりを増やし、バランスをとった」という「ファミマ」の話は「量販化」とは言い難い。

量販化」を論じたいのならば、コンビニが低価格志向を強めている状況を描き、それが業績にどういう影響を与えているのかを分析すればいい。

しかし今回の記事では分析する意欲すら見えない。これが中村編集委員の実力なのだろう。


※今回取り上げた記事「経営の視点:物価高に迷うコンビニ~量販化、成長か淘汰か

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221024&ng=DGKKZO65380740T21C22A0TB0000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「『嫌い』が変える消費」の解説が強引な日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/05/blog-post_30.html

マックが「体験価値」を上げた話はどこに? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/blog-post_15.html

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post.html

データでの裏付けを放棄した日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_17.html

「バンクシー作品は描いた場所でしか鑑賞できない」と誤解した日経 中村直文編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_11.html

「新型・胃袋争奪戦が勃発」に無理がある日経 中村直文編集委員「経営の視点」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_26.html

「悩み解決法」の説明が意味不明な日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_19.html

問題多い日経 中村直文編集委員「サントリー会長、異例の『檄』」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_89.html

「ジャケットとパンツ」でも「スーツ」? 日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_30.html

「微アルコール」は「新たなカテゴリー」? 日経 中村直文編集委員の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_12.html

「ながら族が増えた」に根拠欠く日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_14.html

「プロセスエコノミー」の事例に無理がある日経 中村直文編集委員「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insight.html

2022年10月19日水曜日

「どこよりも強力な利上げを進める」のは米国と誤解した日経 菅野幹雄上級論説委員

「世界で最も強力な利上げをこの1年で進めたのは米国」と日本経済新聞の菅野幹雄上級論説委員は思い込んでいるようだ。誤りだと思えるので以下の内容で問い合わせを送った。 

錦帯橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 上級論説委員 菅野幹雄様

19日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~近づく『最悪』、漂流する協調」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「物価高が賃金上昇の連鎖反応を起こす米国は1年で3%という、どこよりも強力な利上げを進める」との記述です。

これは本当でしょうか。9月16日付の日経の記事では「アルゼンチン中央銀行は15日、政策金利を5.5%引き上げて75%にすると発表した。今年9回目の利上げとなる」と伝えています。「1年で3%」という米国の「利上げ」幅を1回で上回っています。過去「1年」では40%を超える「利上げ」となっています。

ブラジルもこの「1年」で政策金利を2%から13.75%へ引き上げています。「米国は1年で3%という、どこよりも強力な利上げを進める」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの「上級論説委員」として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「中外時評~近づく『最悪』、漂流する協調

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221019&ng=DGKKZO65235540Y2A011C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

「デフレ圧力が残っている」と日経 菅野幹雄上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/06/blog-post_29.html

米国は「民主主義の再建」段階? 菅野幹雄ワシントン支局長に考えてほしいことhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_30.html

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「トランプ流の通商政策」最初の成果は日米?米韓? 日経 菅野幹雄氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_27.html

新型コロナウイルスは「約100年ぶりのパンデミック」? 日経 菅野幹雄氏に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/100.html

「中間選挙が大事」は自明では?日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」に足りないものhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/deep-insight.html

「『マルチの蘇生』最後の好機」に根拠欠く日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/deep-insight.html

2022年10月17日月曜日

「だったらなぜドル高?」と聞きたくなる日経 大塚節雄記者の「Market Beat」

日本経済新聞の大塚節雄記者(金融政策・市場エディター)を悪くない書き手と見てきた。ただ17日の朝刊グローバル市場面に載った「Market Beat:ドル高、『仁義なき通貨選別』~円安、政策のジレンマ映す」という記事を見るとかなり苦しい。中身を見ながら具体的に指摘したい。

下関駅前

【日経の記事】

ドル高が一段と進んだ8月以降の主な通貨のドルに対する騰落率をみると、韓国ウォン、英ポンド、資源国通貨、そして円の下落が目立つ


◎「資源国通貨」の下落が目立つ?

円や韓国ウォン、資源国通貨の売りが目立つ」との説明文を付けたグラフでは17の通貨の「ドル騰落率」を見せている。それを見る限りでは「資源国通貨」の「下落が目立つ」感じはない。下落率の小ささ(メキシコペソが唯一の上昇でこれを1位とする)で見るとブラジルレアルが2位でロシアルーブルが3位と「資源国通貨」が上位に顔を出している。

ついでに言うと下落率が最大のアルゼンチンペソについて記事で一言も触れていないのも引っかかった。

この記事の中で最も問題なのは「なぜドル高なのか?」の疑問が残ることだ。それに絡むくだりを見ていこう。


【日経の記事】

各国のインフレ率と政策金利の関係をみると、それぞれの「インフレの深刻度」が推し量れる。具体的には政策金利からインフレ率を差し引けば値が小さいほどインフレへの対応が遅れていることを示唆する。これは現実のインフレ率で計算した「実質政策金利」といえる。大幅な実質マイナス金利のままなら、インフレに対して利上げが足りないことになる。

その数値は米国がマイナス4.8%。なお利上げは止められない。英国はマイナス6.8%ともっと大幅なマイナスだ。ノルウェー、韓国、ニュージーランドはマイナス2%台にとどまる

おおむねインフレの深刻度が大きいほど通貨が売られやすい傾向が読み取れそうだ。ただし英ポンドは深刻度の割に下げが小さい。中銀の国債購入で急激なポンド安がいったん和らいだためだが、中銀のインフレ対応の必要性が高いことと政策の混乱を踏まえれば、ポンド安の余地はなお残るかもしれない。

バブル経済崩壊後の最安値を更新する円はどうか。インフレ圧力が小さく利上げ競争には参戦していないが、インフレの深刻度はマイナス2.5%とノルウェーや韓国と大差ない。政策金利が主要国で唯一「名目マイナス」だからだ。ゼロ%に戻せば計算上、インフレの深刻度は改善する。


◎だったらドル安のはずだが…

おおむねインフレの深刻度が大きいほど通貨が売られやすい傾向が読み取れそうだ」と大塚記者は言う。「その数値は米国がマイナス4.8%」で「マイナス2%台」の「ノルウェー、韓国、ニュージーランド」を大きく上回る。ポンドはともかく円などが対ドルで値下がりするのが解せない。そこの解説は欲しい。

もう1つ気になるのがトルコリラだ。大塚記者は無視しているが、インフレ率80%超で政策金利12%のトルコリラが17通貨の中では「インフレの深刻度」で他を圧倒しているはずだ。しかし「下落率の小ささ」では4位とかなり上位。都合が悪いから無視したのだとすれば感心しない。

付け加えると「実質政策金利」を「インフレの深刻度」の指標と見るのは苦しい。「インフレの深刻度」はやはりインフレ率で見るべきだ。「実質政策金利」に関しては「インフレ対応の進行度」の指標とでもすべきだろう。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。


【日経の記事】

止まらない円安は市場が政策のジレンマを突いた結果だともいえる。米インフレのピークアウトをただ待つのではなく、金融緩和の効果を確保しつつ金利変動を柔軟にするといった政策面の不断の工夫が必要だろう。暴力的なまでの通貨選別に走る市場を前に矛盾を放置したままでは危うい。


◎どこが「暴力的」?

暴力的なまでの通貨選別に走る市場」と大塚記者は言うが、何を見て「暴力的」と判断したのか。グラフを見ると8月以降の騰落率でメキシコペソが1%程度のプラスで、対極にいるアルゼンチンペソが13%程度のマイナス。2カ月半でこの程度の値動きなら驚きはない。

大塚記者にはこの程度の「通貨選別」が「暴力的」に見える?


※今回取り上げた記事「Market Beat:ドル高、『仁義なき通貨選別』~円安、政策のジレンマ映す

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221017&ng=DGKKZO65185260W2A011C2ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。大塚節雄記者への評価C(平均的)からDへ引き下げる。大塚記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「無事これ名馬」だが…日経 大塚節雄記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_15.html

FRBは「巨額の損失リスク」を負わない? 日経 大塚節雄記者「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/frb-deep-insight.html

2022年10月11日火曜日

「アンコンシャス・バイアス」解き放つべきは日経 高橋里奈記者の「思い込み」では?

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」ーー。この言葉を使って女性問題を論じている記事に説得力を感じたことがない。10日の日本経済新聞朝刊女性面に高橋里奈記者が書いた「私の『思い込み』解き放つ」という記事もそうだ。高橋記者には「アンコンシャス・バイアス」に関する自らの「思い込み」を解き放ってほしい。

宮島連絡船

中身を見ながら具体的に記事の問題点をしてきしていく。

【日経の記事】

だが女性自身にも「夫には大黒柱でいてほしい」「子どもができたら育休を長く取るのは母である私であるべきだ」といったアンコンシャス・バイアスが、自らはしごを壊している面もありそうだ。

内閣府が2021年に実施した「性別による無意識の思い込み」調査によると、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」と答えた女性は47%に上る。「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきではない」、「家事・育児は女性がすべきだ」という女性も2~3割いた。男女間での役割分業意識は女性の中にも根強い。


◎「無意識」になってる?

内閣府」の「調査」にも問題はあるが、それをそのまま紹介する高橋記者は何も疑問を感じなかったのか。

男性は仕事をして家計を支えるべきだ」と答えた「女性」には「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」という「無意識の偏見」はない。「無意識」ならば「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」との回答はできない。なのに、なぜ「無意識」と見るのか。

男性は仕事をして家計を支えるべきではない」と答えたのに実際の行動では「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」との前提で判断しているといった事例があれば「無意識の偏見」と言うのもまだ分かるが…。

さらに言えば「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」という考えは「偏見」ではない。事実に反しているのならば「偏見」に当たるが「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」というのは価値観の話。これを「偏見」と見る場合「男性も女性も仕事をして家計を支えるべきだ」といった考えを「偏見」と見なす主張も成り立つはずだ。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

こうした意識はなぜ生まれるのか。「アンコンシャス・バイアスは相手だけでなく、自分に対するものもある」と主張してきたアンコンシャスバイアス研究所(東京・港)の守屋智敬代表理事は、「過去の経験や見聞きしたことによって影響を受け培われるもので、自己防衛本能により生まれる」と説く。

「自分に対するアンコンシャス・バイアスは、自分の可能性を狭める」ものでもある。困難を伴う挑戦はしないほうが居心地はよいかもしれない。だが思考や行動を変えると「見える世界も変わり未来も変わる」と守屋氏は訴える。

例えば「育児中だから出張が多いこの仕事は私には無理」と頭ごなしに決めつける思考は自分の可能性を限定すると守屋氏は指摘する。「本当に無理なのか、思い込みではないのか」と振り返ってみる。「自らに疑問を持ち、どうしたら実現できるか、上司やパートナーと相談することが大事」とアドバイスする。従来の考え方を変えてみようとする、少しでも周囲に相談してみる、という一歩が思い込みから抜け出し新たな飛躍への突破口になる。


◎またまたおかしな話が…

自分に対するアンコンシャス・バイアスは、自分の可能性を狭める」ものなのか。ならば「自分にできないことなんてない。自分は全知全能の存在だ」といった類の「アンコンシャス・バイアス」は存在しないのか。だとしたら、なぜ「自分の可能性」を広げる方向には働かないのだろう。

育児中だから出張が多いこの仕事は私には無理」と「頭ごなしに決めつける思考」を「アンコンシャス・バイアス」と見なすのも苦しい。この場合も「無意識」とは考えにくいし「偏見」とも言い難い。「育児」と「この仕事」の兼ね合いではないのか。

例えば「年間20回程度の海外出張がある『この仕事』を6歳3歳1歳の3人の『育児』と両立させるのは難しい。夫は長期入院中だし他に頼れる人もいないし…」などと考える人は「アンコンシャス・バイアス」に囚われているのだろうか。

アンコンシャス・バイアス」は巷に溢れていると「アンコンシャスバイアス研究所(東京・港)の守屋智敬代表理事」が訴えるのは立場上当たり前かもしれない。高橋記者はそこを差し引いて考えているのか。

記事に付けた「あなたにあてはまる?性別に関するアンコンシャス・バイアスの実例」は出所が「アンコンシャスバイアス研究所の守屋智敬代表理事」となっている。その事例もやはりおかしい。

例えば「『私は主夫です』と聞くと、なんで?と、とっさに思う」のはなぜ「アンコンシャス・バイアス」に当たるのか。まず「無意識」が確認できない。

自分は「男性が当たり前に専業主夫になれる社会になれば良いのに…」と思っているが「『私は主夫(ここでは専業主夫と仮定)です』と聞くと、なんで?」とは聞きたくなる。それは「なかなかなれない専業主夫になれたのはなんで?(どんな状況だったから、それを実現できた?)」との趣旨だ。これは「偏見」なのか。極めて事例が少ないものに接した場合「なんで?」と思うのは当たり前だ。

例えばスキージャンプ日本代表選手の出身地が沖縄県だったら「なんで?」と思うのは当然。「スキージャンプの選手は基本的に雪国出身」との認識があるからだが別に「偏見」ではない。「スキージャンプの選手は雪国出身でないとなれないので沖縄出身という経歴は虚偽に決まっている」などと言い出せば「偏見」だろうが…

この記事の関連記事の中で「職場では男性の上司の考えが変わらないと前には進まない」と高橋記者は言い切っている。この考えの方が「偏見」と言える。

まず「職場」に「男性の上司」がいるとは限らない。また「男性の上司の考えが変わらない」場合でも「」に進む場合は十分にあり得る。例えば従業員の女性比率が高まることを「前に進む」と見る場合、「部下にするなら男性がいいなあ」という「男性の上司の考え」が変わらなくても、男性の採用が難しく結果的に女性の部下が増えてしまう事態はあり得る。

職場では男性の上司の考えが変わらないと前には進まない」と思い込むのは「アンコンシャス・バイアス」には当たらないのか。当たらないとすれば、今回の記事で挙げた事例は本当に「アンコンシャス・バイアス」に該当するのか。高橋記者には改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「私の『思い込み』解き放つ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221010&ng=DGKKZO64964760X01C22A0TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。高橋里奈記者への評価はCからDへ引き下げる。高橋記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経の高橋里奈記者 「スタバ」で触れていない肝心なこと
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_13.html

2022年10月3日月曜日

古い話を「これからの話」に見せたかった? 日経「住友林業、豪住宅で太陽光標準化」

色々と疑問を感じる記事が3日の日本経済新聞朝刊ビジネス面に載っていた。「住友林業、豪住宅で太陽光標準化~光熱費を最大75%削減」という記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

錦帯橋

【日経の記事】

住友林業はオーストラリアですべての戸建て注文住宅に太陽光パネルを標準搭載する。オール電化も備えることで光熱費を最大75%削減でき、使用時のエネルギーを実質ゼロにするZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)化も可能だ。住宅ローン金利や建設コストが高騰する中、同国の脱炭素規制や需要層の関心の高まりに対応する。

注文・分譲住宅を手がける子会社のヘンリーグループが南部ビクトリア州で6月に、北東部クイーンズランド州で8月に太陽光パネル搭載を標準化した。冷暖房や調理機器を電化して太陽光で発電した電力を自家消費し余剰分は売電する。豪州での注文住宅の価格が25万豪ドルから50万豪ドル(2500万~5000万円)に対し、太陽光パネルの設置費用は100万円程度と見込む。電気代が高騰していることから「6~7年で回収できる価格」(住友林業)という。


◇   ◇   ◇


(1)これからの話?

住友林業はオーストラリアですべての戸建て注文住宅に太陽光パネルを標準搭載する」と冒頭にあるので「これから」の話かなと感じる。しかし読み進めると「注文・分譲住宅を手がける子会社のヘンリーグループが南部ビクトリア州で6月に、北東部クイーンズランド州で8月に太陽光パネル搭載を標準化した」と書いてあるだけで今後の展開には触れていない。

ニュース性があるように見せるために過去の話をこれからの話のように書いてみたということか。断定はできないが、その可能性は高い。


(2)他の州は?

住友林業はオーストラリアですべての戸建て注文住宅に太陽光パネルを標準搭載する」と書いているものの「ビクトリア州」と「クイーンズランド州」の話しか出てこない。「住友林業」はこの2州でしか事業をしない方針なのか。他の州や地域へは今後広げていくのか。そこの説明は欲しい。後者ならば、その時期にも触れる必要がある。


(3)それでも「注文住宅」?

注文住宅に太陽光パネルを標準搭載する」ということは「太陽光パネル」なしを顧客は選べないのか。仮にそうならば、それで「注文住宅」と言えるのかとは思う。


(4)なぜ「75%削減」止まり?

オール電化も備えることで光熱費を最大75%削減でき」るらしいが、なぜ「75%削減」止まりなのか。「オール電化」で「余剰分は売電する」のならば状況次第では利益が出ても良さそうだが…。


(5)グループ全体ではどう?

行数の関係で入れられない場合もあるだろうが「住友林業」グループ全体でどうなっているのかは盛り込みたい。日本では「標準搭載」が終わっていて、それを海外でも広げる初の試みとなるのがオーストラリア…といった話があると好ましい。

住友林業」の海外事業の中でオーストラリアの位置付けがどうなっているのかも分かるとさらにいい。


総括すると、ニュース記事をきちんと書く力が付いていないのに「古い話でもニュース性があるように見せる技術」は持っているのかなと思わせる記事だった。


※今回取り上げた記事「住友林業、豪住宅で太陽光標準化~光熱費を最大75%削減」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20221003&ng=DGKKZO64811110S2A001C2TB0000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年9月28日水曜日

日経が朝刊1面に載せた「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り」に思うこと

注目すべき記事が28日の日本経済新聞朝刊1面に載っていた。見出しは「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」。1面の記事の訂正でさえ1面に載せたがらない日経が、そこそこのスペースを割いて「誤解を与える表現や誤り」を「おわび」している。とりあえず好ましい変化だ。それを踏まえた上で、この件について考えてみたい。

宮島連絡船

そもそも8日の朝刊1面に載った「ロシア石油、欧州へ裏流通 船舶情報など日経分析~ギリシャ沖で移し替え1隻→41隻 制裁効果阻む恐れ」という記事に無理がある。「ロシア石油、欧州へ裏流通」と打ち出したものの、日経が「社内調査では、一連の記事の他の部分に誤りはなく」とした部分からも「裏流通」とは判断できない。

EUは来年2月までにロシア石油の海上輸入を止める」が「現時点で取引は違法ではない」と8日の記事でも書いている。言ってみれば「ロシア石油、欧州へ“表”流通」という話。しかも、その根拠を「英リフィニティブのデータ」に頼っている。これだけでは朝刊1面トップには弱いとの判断が働いたのだろう。それが「誤解を与える表現」へとつながったと考えると腑に落ちる。

8日の記事で日経が電子版から削除した部分は以下の通り。

【日経の記事(9月8日)】

8月24日、日経はギリシャ南部のラコシア湾で2隻のタンカーが横付けして石油を移し替える「瀬取り」の瞬間を写真に捉えた。1隻はギリシャ籍の「シーファルコン」で4日にロシア北西部の石油積み出し基地ウスチ・ルガ港を出港。もう1隻も4日にトルコの港を出たインド籍の「ジャグロック」だ。地域住民によるとロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、湾内に停泊するタンカーが急増したという。


◇   ◇   ◇


これに対して28日の朝刊社会面に載せた「編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」という検証記事では以下のように説明している。

【日経の記事(9月28日)】

8月24日のタンカー2隻の取材は海上で行い、写真や映像を撮影しました。その後の分析で、1隻は石油基地があるロシアの港から現場海域に来たギリシャ籍タンカー、もう1隻はイラク発トルコ経由のインド籍タンカーと分かりました。

担当デスクはギリシャ沖で急増する石油取引の事例として記事で取り上げることを念頭に、積み荷の重さを示す「喫水」データの変化から、2隻の移し替えの状況を調べるよう取材班に指示。喫水の分析でこの取引はインド籍船からギリシャ籍船への移し替えで、ロシア産石油の取引だった可能性は低いと取材班の記者は判断し、デスクも共有しました

デスクは上司のグループ長と記事を巡る協議の際にこの情報にも言及しましたが、意思疎通が不十分で、グループ長はロシア産石油と誤認したままでした。一方、デスクは海上取引の一事例として記事に使うことを了承されたと受け止め、編集作業を進めました。他の編集幹部にも取材班の判断は伝わりませんでした。

一連の記事は、この2隻がロシア産石油を移し替えたとは記述していません。ただ、「ロシア石油」「裏流通」の見出しとともにタンカー2隻の写真や映像を掲載した記事は、2隻がロシア産石油を取引したという誤解を読者に与えました。

当社は今回の問題をインド籍船側の指摘で把握し、調査しました。デスクが編集幹部らとの十分な意思疎通を欠いたまま誤解を招く記事を作成したこと、編集幹部の認識や確認が明らかに不十分だったことなどを重く受け止め、再発防止を徹底します。


◎知っていたなら…

まず書いていないことに触れておこう。

8日の記事には末尾に「長尾里穂、朝田賢治、関優子」と担当記者の名前が出ており、タンカーの写真には「長尾里穂撮影」との説明が付いている。

この3人は記事をチェックする時に「誤解を与える」説明だと思わなかったのか。だとすれば記者としては致命的だ。

では「誤解を与える」と思っていたならどうだろう。「デスク」や「上司のグループ長」に「このまま記事を出すと誤解を与えてしまいます」とは訴えたのか。そこが気になる。

サラリーマンとして「デスク」や「上司のグループ長」に意見をしにくいのは分かる。しかし、ある程度の行動はしてほしい。自分だったら「このままではマズい」と訴えた上で、どうしてもそのまま行くと上が判断したら「せめて署名から自分の名前を外してほしい」とは求める。3人の記者はどう動いたのか。

デスク」が「誤解を与える表現」だと自覚していたのかどうかも引っかかる。そこは検証記事で明らかにしてほしかった。

推測はできる。

「誤解を与える説明になっているのは自覚していた。しかし『この2隻がロシア産石油を移し替えた』とは書いていない。指摘を受けたら、そう答えて逃げればいい。正直に書いたら事例として成立しないし、それだと1面トップの記事としては弱い。嘘にならない範囲で盛り上げて1面トップの記事に仕上げるのがデスクの仕事。自分はそれをしっかりやっただけだ」

こんなところだろう。サラリーマンとしては正しく実力を付けているとも言える。それが結果的に読者を欺く方向に動くのが悲しい。

再発防止策として何をしたらいいのだろう。

個人的には「1面(特に1面トップ)に記事を持っていくことが社内的なアピールになり評価につながる」という仕組みを改めるべきだと考える。

「1面に持っていける記事を出せ」「1面候補の記事を何とか1面トップ級に仕上げろ」

こうした圧力を現場にかけていくと記事は歪んでいく。

そのことを今回の件から学んでほしい。


※今回取り上げた記事

「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64679060Y2A920C2MM8000

編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64677360X20C22A9CT0000


※記事への評価は見送る

2022年9月26日月曜日

原発問題で逃げの姿勢が目立つ日経のエネルギー・環境問題「緊急提言」

多くの人手と時間は使ったのだろう。しかし結果は当り障りのない具体性の乏しい「緊急提言」になってしまった。

錦帯橋

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「原発、国主導で再構築を 再生エネ7割目標に~エネルギー・環境、日経緊急提言 『移行期』の安定と脱炭素両立」という記事(関連記事も含む)は残念な内容だった。1面と社説、さらに特集2ページを使ってこの中身では辛い。

緊急提言」の肝は「原発、国主導で再構築を」。つまり「国がしっかり考えてね」という話。「提言は論説委員会と編集局が検討チームをつくり、専門家らと議論を重ねてまとめた」らしいが、その結果がこれでは浮かばれない。

特に「原発」では肝心の問題に日経としての答えを出していない。そこから逃げて何のための「緊急提言」なのか。特集面の「原子力:安全性・信頼性・透明性の確保を前提に」という記事を見ながら問題点を指摘したい。


【日経の記事】

ウクライナで原発周辺が攻撃対象となり、外部電源喪失への懸念が生じたことは看過できない。規制当局と事業者が協力して、海外事例も参考に最適な防護策を検討し、放射性物質の拡散が起きないよう、できうる限りの対策を実施する必要がある。


◎結局、具体策はなし?

原発問題の肝の1つが安全保障。「ウクライナで原発周辺が攻撃対象となり、外部電源喪失への懸念が生じたことは看過できない」のはその通り。原発は攻撃対象となれば重大事故につながりやすく安全保障上の大きな弱点となる。敵に占拠された場合は反撃が難しいという問題もある。「ウクライナ」はそのことを改めて認識させてくれた。

そこで日経はどう考えるのか。出した答えは「規制当局と事業者が協力して、海外事例も参考に最適な防護策を検討し、放射性物質の拡散が起きないよう、できうる限りの対策を実施する必要がある」。つまり「規制当局と事業者が協力して」しっかり「対策を実施」してねとお願いしているだけ。具体策はゼロ。難しい問題だから逃げたのだろう。

この問題で具体策を打ち出せる力が自分たちにないと思うのならば「緊急提言」を出そうなどとは考えないことだ。

もう1つの肝である高レベル放射性廃棄物の処分問題も日経として答えを出す力はないようだ。「原発事業の形態、損害賠償の見直しに加え、核燃料サイクルのあり方、バックエンドの問題なども公開の場で議論の俎上(そじょう)に載せるのがよい」「使用済み核燃料の再処理と地層処分、廃炉などバックエンドにも国に積極的な関与を求める。処分地決定には期限を設け、新増設とセットで計画を進める」としか記していない。

公開の場で議論」した後で「」が「積極的」に「関与」して何とかしてねというレベルの話だ。「処分地決定には期限を設け」るべきと考えるならば、せめてその「期限」だけでも具体的に提言してほしかった。

結局「原発はしっかり活用すべきだが高レベル放射性廃棄物の処理問題とか安全保障の問題とか厄介なことは国や事業者に頑張って考えてもらおう」というのが日経の考えだろう。

今回の「緊急提言」を読み解くとそうなる。



※今回取り上げた記事「原子力:安全性・信頼性・透明性の確保を前提に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220926&ng=DGKKZO64596710U2A920C2M12500


※記事の評価はD(問題あり)

2022年9月21日水曜日

岡島喜久子WEリーグチェアの説明に誤り 日経「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」

女性登用」を推し進めようとする主張は性別にこだわる時点で説得力がなくなる。20日の日本経済新聞朝刊スポーツ面にWEリーグチェアの岡島喜久子氏が書いた「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」という記事もその一例だ。まず以下のくだりにツッコミを入れてみたい。

下関駅前

日経の記事】

2009年以降、国際大会で優勝したチームの96%が女性監督だったというデータをご存じだろうか。数少ない例外の一つが佐々木則夫監督。男性指導者の力を否定するわけではない。ヨーロッパなどサッカー先進国では、女性が男性を脅かす存在だとはとらえていないのだと思う。

ビジネスゴルフを4人で回った日のこと。この手のラウンドは往々にして男性3人に対して女性1人、という比率が多い。その日は逆だった。

3人いる女性陣のペースに男性が合わせる。プレー後、女性がシャワーや身だしなみに時間をかける間、男性は待つ。いつもとは勝手の違ったその男性はつぶやいた。「マイノリティーになるとは、こういうことなんだとわかった」。その立場になってみると、分かるのだ。


◎女性が1人でも同じことでは?

まず女性は「マイノリティー」なのか。「2009年以降、国際大会で優勝したチームの96%が女性監督だった」のであれば「男性指導者」の方が「マイノリティー」だ。日本は逆と言いたいのかもしれないが、そうしたデータは示していない。

さらに引っかかるのが「ゴルフ」の話だ。「女性がシャワーや身だしなみに時間をかける間、男性は待つ」のは「女性」がいれば1人でも同じことは起きる。例えば同じ車で帰るのならば「女性」が1人でも残り3人の「男性は待つ」。当然の話だ。

マイノリティーになるとは、こういうことなんだとわかった」と「その男性はつぶやいた」らしいが本当かなとは思う。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

日テレ東京VやACミラン(イタリア)など強豪6クラブが米国で競ったカップ戦をみてきた。ミランの快足、早いパス回しに日テレ東京Vは圧倒され、自分たちのパスは通らない。1-3で屈した内容は、東京五輪で日本代表が喫したやられ方をなぞるかのようだった。

世界は進んでいる。プレー面にとどまらない。その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性。日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じたという。そんな違和感に男性が気づいてくれること、女性への視線を変えることが変革の一歩だと思う。


◎「4チームの監督、団長はみな女性」?

上記のくだりには誤りがあると思える。日経には以下の内容で問い合わせしている。

《日経への問い合わせ》

日本経済新聞社 運動部 担当者様

20日の朝刊スポーツ面にWEリーグチェアの岡島喜久子氏が書いた「スポートピア~女性登用、不変のテーマ」という記事についてお尋ねします。

記事では「日テレ東京VやACミラン(イタリア)など強豪6クラブが米国で競ったカップ戦」に関して「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」と説明しています。これを信じれば日テレ東京Vの「監督、団長」は「女性」のはずです。しかし、この直後に「日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じたという」と岡島氏は記しています。

日テレ東京Vの「監督、団長」が男性であれば「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」とは言えません。日テレ東京Vの監督は当時も男性のようなので「その大会に米国外から集結した4チームの監督、団長はみな女性」との記述に問題があると思えます。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので上記のくだりに関してさらに指摘しておきます。

「6クラブ」のうち日テレ東京V以外は「監督、団長」が「みな女性」だったのならば「日テレ東京Vの男性監督、男性団長は珍奇なようで決まりが悪いというか、これでいいのだろうかとも感じた」との説明もまだ分かります。なぜ米国のクラブは除いたのでしょうか。

米国の2つのクラブと日テレ東京Vを除く「チームの監督、団長はみな女性」だったのだとすれば「チームの監督、団長はみな女性」と言えるのは参加クラブの半数です。かなり話が変わってきます。

「世界は進んでいる」と訴えるために、その趣旨に添わない米国のクラブは無視することにしたのでしょう。気持ちは分かりますが、こうしたご都合主義的なデータの使い方は感心しません。

問い合わせは以上です。「4チームの監督、団長はみな女性」で正しいのかどうかは回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある対応を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

問い合わせは以上。岡島氏は記事を以下のように締めている。

【日経の記事】

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する道筋をつくっていかねば、変わらない。トップが誰であろうと変わらぬテーマであり続ける。


◎なぜ性別にこだわる?

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する道筋をつくっていかねば、変わらない」と岡島氏は言うが、なぜ変える必要があるのか。

重要なのか「指導者やリーダー」としての資質だ。性別に関係なく優れた「指導者やリーダー」を登用してくのが基本ではないのか。

意識的に女性の指導者やリーダーをつくり、登用する」ために「指導者」としての実力が見劣りしても、あえて女性を選ぶのか。それは日本の女子サッカーのためになるのか。


※今回取り上げた記事「スポートピア~女性登用、不変のテーマ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220920&ng=DGKKZO64451060Z10C22A9UU8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2022年9月17日土曜日

ジョージアでのロシアの「裏工作」話に根拠欠く日経 秋田浩之氏

「せっかく海外出張でジョージアに行ったのだから何か記事にしないと…」という気持ちは分かるが、それが無理につながったのだろう。17日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~侮れないロシア『裏工作力』」という記事は苦しい内容だった。

宮島連絡船

各国から重い制裁を浴び、ロシアの国力は衰えていくだろう。だが、旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない。そのことをジョージアは教えている」と記事を締めた秋田氏。しかし、この結論に説得力を持たせる材料を示せていない。「ジョージア」関連の「裏工作」に関する記述を見ていこう。


【日経の記事】

地元の政治専門家らにたずねると、ジョージアの対ロ関係のキーパーソンとして「陰の権力者」の名前が浮かび上がる。

同国の国内総生産(GDP)の2割以上に当たる資産を持つとされる大富豪、ビジナ・イワニシビリ氏。ソ連崩壊後のロシアで事業を広げ、莫大な財をなした。

その後、政党「ジョージアの夢」(現与党)を創設し、12年10月の議会選で勝利、首相に就く。翌年秋に首相は退いたが、財力と人脈で「いまに至るまで、政府に絶大な影響力を持っている」(元ジョージア政府高官)という。

興味深いのは、イワニシビリ氏とロシアのつながりの深さだ。非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルによると、12~19年、オフショア事業体を通じ、彼は少なくとも10社のロシア企業を所有していた。ロシアからみれば、対ジョージア工作上、願ってもない人脈だ。

イワニシビリ氏とプーチン政権に具体的な連携があるのかどうか、実態は闇の中だ。ただ、英オックスフォード大のニール・マクファーレン教授は「彼の承認がなければ、ジョージア政府はここ数年、親欧米から対ロシア中立に近い路線にまで、転換することはなかっただろう」と分析する。


◎結局は推測?

長々と説明しているものの「イワニシビリ氏とプーチン政権に具体的な連携があるのかどうか、実態は闇の中」らしい。これでは「旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない」と言い切る根拠にはならない。

彼の承認がなければ、ジョージア政府はここ数年、親欧米から対ロシア中立に近い路線にまで、転換することはなかった」としても、それがロシアの「裏工作」によるものと信じるに足る材料は見当たらない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

ロシアが影響力を振るう手段は、軍事脅迫や独自の人脈以外にもある。専門家によれば、プーチン政権は「欧米にはジョージアを助ける意志はない」といった偽情報を拡散し、世論のロシア離れを食い止めようとしている。


◎これが「裏工作」?

欧米にはジョージアを助ける意志はない」というのが「偽情報」だとなぜ断定できるのか。

今回の記事でも「ジョージアには『北大西洋条約機構(NATO)に入れる見通しが立っていない以上、ロシアと過度に敵対せず、うまく共存するしかない』(同国元高官)という心理が働く」と秋田氏自身が書いている。

欧米にはジョージアを助ける確固たる意志がある」のならば「NATOに入れる見通し」も立ちそうなものだ。

欧米にはジョージアを助ける意志はない」という情報をロシアが「拡散」しているとしても「偽情報」かどうかは怪しいし「裏工作」と呼ぶほどの話なのかと感じる。

仮に「裏工作」に含めるとしても「ジョージア」に関する「裏工作」話はこれで終わりだ。「実態は闇の中」という話と合わせても「旧ソ連仕込みの対外裏工作力の危険は、決して侮れない。そのことをジョージアは教えている」とは、とても思えない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~侮れないロシア『裏工作力』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220917&ng=DGKKZO64394090W2A910C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


相変わらずの「日米同盟強化」に説得力欠く日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/deep-insight.html

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/deep-insight.html

「弱者の日本」という前提が苦しい日経 秋田浩之氏の「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/01/deep-insight.html

「大国衝突」時代に突入? 日経 秋田浩之氏「大国衝突、漂流する世界」の無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_23.html

2022年9月13日火曜日

政府・トヨタの広報担当のつもり? 日経 金子冴月記者「経産相、自動運転『レベル4』に試乗」

「日本経済新聞は政府やトヨタ自動車の広報用メディアなのか」と思わせる記事が12日の夕刊ニュースぷらす面に出ていた。金子冴月記者が書いた「経産相、自動運転『レベル4』に試乗~米のトヨタ拠点を視察」という記事の全文は以下の通り。

錦帯橋

【日経の記事】

訪米中の西村康稔経済産業相は10日(日本時間11日)、シリコンバレーにあるトヨタ自動車の研究開発拠点を視察した。特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」を目指した試験車に乗車した。政府は2025年度までに全国40カ所でレベル4の自動運転サービスの実現を目標に掲げており、規制緩和など対応を急ぐ。

視察したトヨタ・リサーチ・インスティテュートは人工知能(AI)や自動運転、ロボットなどの最先端技術に関するトヨタ自動車の研究開発拠点だ。

西村氏は特定の場所であれば人が介在しない「レベル4」の実用化を目指した試験車で、市街地を10分ほど走行した。西村氏は後部座席に乗り、技術者が操作した。

乗車中は「安心して身を委ねられる」と話していたという。試乗後、記者団に「自動車が100年に1度の大きな変革期にきている。そのことを改めて肌で実感した」と語った。

自動運転車は、自動ブレーキや前方車追従などの機能がある「レベル1」や「レベル2」から、完全に車に運転を任せる「レベル5」まで、5段階にわかれる。

日本では4月、特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」を許可する制度を盛り込んだ道路交通法の改正案が成立した。経産省は22年度中にも福井県永平寺町でレベル4の自動運転の実現を目指している。

西村氏は記者団に対し、早ければ来月にも首相や関係閣僚とともに、自動車会社トップらと自動車がもたらす将来の社会を見据えた意見交換をしたいとの意向を示した。世界の自動車メーカーが競争を激化させる中、日本も環境整備を加速していくため、官民で課題などを議論する。


◎大きく取り上げているが…

囲み記事としてかなりの紙面を割いているが特にニュースはない。「西村康稔経済産業相」が「トヨタ自動車の研究開発拠点を視察した」だけの話だ。「特定の条件下で運転を完全に自動化する『レベル4』を目指した試験車に乗車した」ことも含めて大きく取り上げる価値はない。ベタ記事でも苦しい中身だ。

これを長々と記事にしたのが金子記者の意思かどうかは分からない。「面白い話だ。これはしっかり書き込もう」と金子記者が判断したのならば「自分は政府やトヨタの広報担当」といった意識が芽生えているのではないか。

この内容で大きめの囲み記事にする価値があると考えた担当デスクにも似たような意識があるのだろう。それも怖い。

金子記者としては「こんな話を記事にしなくても…」と思いつつ本社からの指示であれこれ書いたのかもしれない。そうだとしたら同情を禁じ得ない。政府や有力企業に媚びる傾向が日経で一段と強まっている表れだろう。


※今回取り上げた記事「経産相、自動運転『レベル4』に試乗~米のトヨタ拠点を視察

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220912&ng=DGKKZO64239290S2A910C2EAF000


※記事の評価はD(問題あり)。金子冴月記者への評価も暫定でDとする。

2022年9月10日土曜日

朝刊1面トップには苦しすぎる日経「グーグル、検索で国ごとに最適化」

「これで1面トップはさすがに苦しいだろう」と編集局の幹部は思わなかったのだろうか。10日の日本経済新聞朝刊に載った「グーグル、検索で国ごとに最適化~アジア主要国にチーム ニーズに対応、開発分散」という記事は苦しい内容だった。一言で言えば「ほぼニュース性がない」。

宮島連絡船

グーグル、検索で国ごとに最適化」が記事の柱だ。これまで「検索で国ごとに最適化」しない方針だった「グーグル」が「アジア主要国」を皮切りに「最適化」に乗り出すという話ならば1面トップの扱いも分かる。しかし、そうはなっていない。

まず「アジア」以外の動向については触れていない。なので「最適化」に乗り出す最初の地域が「アジア」かどうか判断できない。

それでもこれから「アジア主要国にチーム」を置くという話がしっかり出てくるのならば救いがある。しかし、そうはならない。日本に関しては以下のように書いている。

日本では2021年に専任チームの設立を決め、検索を担当するゼネラルマネジャーや研究開発のポストなどを順次増やしている。日本のユーザー特性に焦点を当て、使い勝手を向上させる機能の開発を進めている

専任チームの設立」の時期は断定できないが「2021年」だとすると「アジア主要国」での「最適化」は昨年には動き出していたことになる。それでも、これから一気に「アジア主要国」に広げていくという話なら何とかなる。インドに触れたくだりも見ておこう。

同様の専任チームはインドにも設立した。同国では『音声での検索が3割を占め、しかも複数の言語が使われる』(ラガバン氏)ことから、会話の解析技術を優先して開発しているという

インドでも「専任チーム」は既にあるようだ。では日本とインド以外の「アジア主要国」に広げていくのか。そうだとは思うが日印以外の「アジア主要国」がどの国を指すのか記事には明確な説明がない。

各市場に特化した開発チームを日本やインドを皮切りに東南アジアの国々へ広げ~」と書いているので「東南アジアの国々」だろうが、国の特定はできない。記事中に「ベトナム」の話は出てくるものの「アジア主要国」に含めていると取れる書き方ではない。

日本やインド」には既に「専任チーム」がある。これから「専任チーム」を作る「東南アジアの国々」が具体的にどの国を指すのか不明だし設立の時期にも触れていない。

検索・広告事業を率いるプラバッカー・ラガバン上級副社長が都内で日本経済新聞のインタビューに応じ」たからニュースはほぼなくても頑張ってニュース記事に仕立てたのだろう。

仮にそれを認めるとしても1面に持ってくる必要はない。同日の1面にある「物価高対策」でも「希望子ども数」でもいい。もっと1面トップにふさわしいネタがあったはずだ。

記者というより、この記事を1面トップに選んだ編集局幹部に反省を促したい。


※今回取り上げた記事「グーグル、検索で国ごとに最適化~アジア主要国にチーム ニーズに対応、開発分散

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220910&ng=DGKKZO64224640Q2A910C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2022年9月5日月曜日

ツッコミどころが多い日経ビジネス薬文江記者の「広がれ“イクメン休業”」

日経ビジネス9月6日号に薬文江記者が書いた「広がれ“イクメン休業” 男女格差是正の試金石」という記事は色々とツッコミどころが多かった。具体的に指摘してみたい。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

厚生労働省によると、男性正社員のうち育休取得を希望したものの制度を利用できなかった割合は4割に達し、利用したのは2割にとどまる。日本企業に広く男性育休への理解を浸透させるのは容易ではない。

大きな壁となっているのが、「男は仕事、女は家庭」と性別で役割を決める社会通念だ。性別役割意識といわれ、日本は特にその傾向が強い。内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査報告書」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方に反対するスウェーデン人の割合は95.3%に達したのに対し、日本人は56.9%だった。NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表は「日本の男性育休制度は(期間や給付金の面で)世界一の水準だが、男女分業意識が根強いことが普及を妨げている」と指摘する。


◎なぜスウェーデンとだけ比較?

性別役割意識といわれ、日本は特にその傾向が強い」と書いているが、なぜか「スウェーデン」としか比較していない。これでは「日本は特にその傾向が強い」かどうか判断できない。

続きを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

内閣府が別の調査で日本人の性別役割意識を年代別に集計したところ、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」との質問に対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計が60代男性で63.5%を占めた。20代と30代の男性の比率はそれより下がるが、それでも40%を超える。

この「男は仕事をして家計を支えるべきだ」というのは、「男らしさ」に関する無意識の思い込み(バイアス)といえる。こうしたバイアスを持つ人が多いと、社会で性別役割分担が固定されバイアスに沿った画一的な生き方を強いられる。「男性学」やジェンダー論専門の伊藤公雄・京都産業大学教授は「ジェンダー平等に向け社会や家庭が急速に変化する中、無意識に持つ古い男性像との乖離(かいり)が大きくなり『生きづらさ』を感じる男性は多い」と解説する。


◎なぜ「無意識」?

『男性は仕事をして家計を支えるべきだ』との質問に対して『そう思う』『どちらかといえばそう思う』」と答えた人が多いことを問題視しているのに、なぜこういう考え方を「無意識の思い込み」と見なすのか。「無意識の思い込み」ならば「そう思わない」と答えるのが自然だろう。明確に「そう思う」人がなぜ「無意識」となってしまうのか。

さらに言えば「バイアス」とも言い難い。「男は仕事をして家計を支えるべきだ」というのは事実認識ではないからだ。1つの価値観であり認知が歪んでいる訳でもない。

薬記者の方に「バイアス」があるのではと感じる記述は他にもある。


【日経ビジネスの記事】

男女格差是正の先にあるのは、豊かな社会の実現だ。世界経済フォーラムは、国の豊かさを示す1人当たり国民総所得(GNI)と男女格差の相関関係をリポートで示している。それによると、北欧や英国、ドイツ、米国などGNIが高い国は共通して、男女格差が小さい傾向がある


◎相関ある?

記事に付けたグラフを見ても相関関係は感じない。あるとしてもわずかだろう。さらに言えば、相関関係があるからと言って因果関係があるとは限らない。なのに「男女格差是正の先にあるのは、豊かな社会の実現だ」と言い切ってしまっていいのか。

そして最大の問題が以下の記述だ。


【日経ビジネスの記事】

ジェンダー平等は女性の社会参画と同時に、男性に積極的な家事・育児への関わりを求めている。共働き世帯の育児環境を整えることで、出生率の改善と労働人口の増加が見込める。企業はより質の高い労働力を確保する選択肢が広がり、経済が活性化する好循環が生まれる。

また、社会の変化がもたらす多様な経験や価値観はイノベーションも後押しする。性別に縛られない柔軟な生き方にこそ、30年に及ぶ経済停滞の突破口がある


◎そんな根拠ある?

共働き世帯の育児環境を整えることで、出生率の改善と労働人口の増加が見込める」と薬記者は言うが何か根拠があるのか。日本では「共働き世帯の育児環境」を改善してきたが少子化には歯止めがかかっていない。

育休を取る男性が増えるのは悪くないが「出生率の改善」にはつながりそうもない。

社会の変化がもたらす多様な経験や価値観はイノベーションも後押しする」とも書いていて、これも根拠は示していない。薬記者の願望と見るべきだろう。

性別に縛られない柔軟な生き方にこそ、30年に及ぶ経済停滞の突破口がある」との結論にも同意できない。高度成長期には「性別に縛られない柔軟な生き方」があったのか。「性別に縛られない柔軟な生き方」は良いとしても、そこに「経済停滞の突破口がある」とは思えない。


※今回取り上げた記事「広がれ“イクメン休業” 男女格差是正の試金石」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00220/


※記事の評価はD(問題あり)。薬文江記者への評価も暫定でDとする。

2022年8月31日水曜日

週刊エコノミスト:「出生率向上のヒントはドイツに」が苦しい藤波匠氏の記事

週刊エコノミスト9月6日号に藤波匠氏(日本総合研究所上席研究員)が書いた「エコノミストリポート:出生率向上のヒントはドイツに~2030年が少子化対策リミット 日本が迎えるラストチャンス」という記事は興味深い内容だったが、結局は「カネをつぎ込んで少子化対策をやるしかない」的な提言になっているのが惜しい。

宮島連絡船

まずは現状分析のくだりを見ていこう。

【エコノミストの記事】

フランスやフィンランドなど、積極的な少子化対策によって合計特殊出生率(TFR)の押し上げに成功した欧州諸国で、近年、TFRの低下が目立っている。一方で、以前はTFRが低く、日本と同程度であったドイツなど欧州の一部の国で、TFRが上昇傾向を示している。この背景には何があるのか。欧州諸国のTFRの動向などから、日本の少子化対策について考えてみたい。

TFRとは15~49歳の女性の年齢別出生率の合計で、1人の女性がその期間に生む平均の子どもの数を示す。人口維持のためには、TFR2.07以上が必要とされている。図1は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中、36カ国の2010年から20年までのTFR変化率をまとめたものだ。10年のTFRが他の国々から乖離(かいり)しているイスラエル(TFR3.03)とTFR下落率が30%を超える韓国は除外している。

図1を見ると、10年にTFRの高かった国ほど高い下落率を示していることが分かる。例えば、子育て支援先進国として名高いフィンランドは、TFR1.87(10年)から1.37(20年)と著しく低下している。政策効果によって一時的にTFRを高めることができたとしても、その状況を持続することが容易ではないことがうかがえる

ドイツやハンガリーなど、10年にTFRが低かった国の一部には、その後上昇傾向がみられた国もあるが、全体としては、低下した国の方が多かった。その結果、イスラエルと韓国を除くOECD36カ国の平均TFRは、10年の1.72から20年には1.57に低下し、しかも多くの国が平均値近傍に収束する傾向がみられる。TFRが平均値±0.1の範囲に入る国の数は、10年は20カ国だったが、20年には26カ国へ増えている。


◎先進国的である限りは…

少子化対策を論じる人の多くはフランスをなど欧州先進国を手本にしたがる。しかし、そこに答えはないことを上記の分析は示唆している。

子育て支援先進国として名高いフィンランドは、TFR1.87(10年)から1.37(20年)と著しく低下している」のに「欧州を見習って先進的な子育て支援をやろう。そうすれば少子化も克服できる」などと訴える方がどうかしている。

政策効果によって一時的にTFRを高めることができたとしても、その状況を持続することが容易ではない」という分析は同意できる。「子育て支援」をするなとは言わないが、少子化対策と絡めるのはやめた方がいい。

結論としては(1)少子化克服を諦める(2)先進国的であることを諦めて少子化対策を進めるーーのどちらかだと感じる。

しかし藤波氏はそういう結論に辿り着かない。そこも見ておく。


【エコノミストの記事】

ドイツをはじめとする欧州諸国の状況を踏まえると、日本の少子化対策に示唆されることは、「少子化対策とは総合政策」との認識が重要なポイントだということだ。ドイツでは、政策面のみならず、経済環境の好転がTFR回復の起爆剤となった。30年までの少子化対策の好機に、社会政策と経済政策の両面において、全力で若い世代を支える発想が必要といえよう。


◎ドイツを見習う?

藤波氏も結局は「欧州を見習え」から脱却できていない。この記事ではドイツに頼っている。

90年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、外国籍の親から生まれる子どもが増えている」「ドイツで12~16年にかけて出生数が増加したのは、少子化対策の効果によるものばかりとは言い難く~」と藤波氏自身が記事の中で認めている。

移民容認政策にかじを切った」効果が出た上に「経済環境の好転がTFR回復の起爆剤」となったドイツでさえ出生率は1.5程度。「人口維持のためには、TFR2.07以上が必要とされている」のに遠く及ばない。なのに欧州の“優等生”ドイツから学ぶべきなのか。

政策効果は時間とともに逓減することが懸念されるため、若い世代に対して、絶えず『よりよい未来を提示』する必要がある」とも藤波氏は言う。その結果として少子化を克服した国がそもそもあるのか。

個人的には、少子化は放置で良いと見ている。日本は人口が多すぎるし先進国的な部分を捨てることへの抵抗も大きいだろう。減るところまで減れば自然と人口は上向くのではないか。減り続けて日本列島から日本人が消えるとしても、人々の自由な選択の結果としてそうなるのであれば受け入れたい。

出産の中心的世代が大きく減ることのない今後10年程度は、本格的な少子化対策を講じるラストチャンスといえよう」と藤波氏は言うが同意できない。明治初期の人口は今の3分の1以下だった。そこから人口を急増させた実績もある。「チャンス」は20年後にも30年後にも100年後にもあるだろう。



※今回取り上げた記事「エコノミストリポート:出生率向上のヒントはドイツに~2030年が少子化対策リミット 日本が迎えるラストチャンス

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220906/se1/00m/020/041000c


※記事の評価はC(平均的)

2022年8月29日月曜日

「電力不足対策」で自分なりの案を出せない日経ビジネス田村賢司編集委員

 コラムを書く時には「自分だから書けることとは何だろう」と必ず考えてほしい。編集委員というご利益ありそうな肩書を持っているならなおさらだ。そういう意味で日経ビジネスの田村賢司編集委員が8月29日号に書いた「ニュースを突く~迷走する電力不足対策」という記事には落第点しか与えられない。中身を見ながら問題点を指摘したい。

錦帯橋

【日経ビジネスの記事】

電力不足の危機が今冬また襲ってきそうだ。夏の需給逼迫懸念に続き、需要がピークを迎えるたびに起こるこの問題は、日本のエネルギー政策の立ち遅れを示している。

「できる限り多くの原発、この冬でいえば最大9基の稼働を進め、(中略)火力発電の供給能力を追加的に10基を目指して確保するよう指示致しました」。岸田文雄首相は7月14日、記者会見で冬の電力不足解消への強い姿勢を示した。

それほど需給の状況は厳しい。電力の広域需給の司令塔となる電力広域的運営推進機関(OCCTO)は6月末、全国の電力需給見通しをまとめた。大手電力会社管内の毎月の想定最大需要に対する供給の「余力」を示したもので、安定供給のためには供給力が最大需要を最低3%上回る必要がある。これによると、来年1月は東北、東京電力管内が1.5%、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の各電力管内は1.9%と極めて厳しい状況になる。東北、東電管内は2月も1.6%で、綱渡りの状況が2カ月も続くと予想されている。

岸田首相の指示は、この危機的状況に対するものだが、これを十分な対策と呼んでいいものか。まず、9基稼働する原発は、定期点検などが終了して稼働が既に予定されていたもので、新たに加わるわけではない。しかも、九州電力の川内原発1号機は来年2月途中から定期点検に入る予定で、首相の言う9基が動くのは数週間でしかない。

火力の10基は追加だから、これで3%に届かない分を埋めるのだろう。だが、その対象のほとんどは老朽火力発電所である。「当然、故障は起こりやすい。発電効率の悪い老朽火力を動かすのだから、固定費の一部を国が負担するなど、特別な対応も必要になるだろう」(電力担当アナリスト)。厳しく言えば短期的な弥縫策(びほうさく)にすぎない

老朽火力発電所の故障が続いたらどうなるのか。再稼働できる原発が増えなければどうなるのか。来年夏以降の需要期にまた同じような危機がやってくる可能性は消えない。


◎おさらいはしてもいいが…

ここまでは「おさらい」だ。「厳しく言えば短期的な弥縫策(びほうさく)にすぎない」「来年夏以降の需要期にまた同じような危機がやってくる可能性は消えない」などと書いているので、ここから田村編集委員が自分なりの具体策を披露してくれるのだろうと期待してしまうが、そうはならない。続きを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

中長期の対策としてなのだろう、政府は2020年に「容量市場」というものを立ち上げた。これは、実際の電力を取引する卸市場とは異なり、発電事業者が数年先などに発電できる能力を売る市場。発電事業者が数年先に「○万kWの発電力を確保する」という将来の供給力を取引するものだ。買い手はOCCTOで、資金は小売事業者が負担する。

狙いはまさに将来の発電能力を確保するためだった。需給逼迫の一因は、16年にほぼ終わった電力自由化と脱炭素化の大波だ。自由化で経営に必要なコストを電力料金に上乗せできる総括原価方式が崩れ、一方で新電力との競争が激化した。そこに脱炭素化が迫り、電力会社はコストが高く、温暖化ガス排出抑制で不利な火力発電所の新設に慎重になり、老朽火力の廃止にも動いた。

それが結果として発電所の縮小を招いた。容量市場は発電力の確保で一定の収入を得られるようにして事業者に発電所投資を促すものだ。ところが、この制度設計が十分に進まない。20年に実施した初回の容量市場では事前設定した上限価格に張り付き、昨年は逆に大幅下落した。初年度は逆数入札と呼ばれる特殊な仕組みを設けたことなどで高値になったが、昨年はそれを廃止したためと言われる。軌道に乗ったとは言えない状況の中、来年は再生可能エネルギーなど脱炭素電源(発電設備)の新市場を設けるという。

今の容量市場は4年後の1年間の発電能力の取引だが、新市場は複数年の発電能力の値付けをする案が検討されている。容量市場が発電設備維持の効果を生むかも分からない中で、また新たな改革が始まる。短期だけでなく、中長期対策まで弥縫策にならないか。それが心配だ


◎脱線させて終わり?

いよいよ本題に入るかと思ったら「容量市場」の話に移り「短期だけでなく、中長期対策まで弥縫策にならないか。それが心配だ」で話を終わらせてしまう。電力不足の問題と関連はあるが話は脱線気味だ。

容量市場」の話をしたいならば、そこに絞った方が良かった。「初年度は逆数入札と呼ばれる特殊な仕組みを設けたことなどで高値になった」と書いているが「逆数入札」の説明を省いているので制度の問題点が伝わってこない。しかも結局は「心配」しているだけで、田村編集委員が考えるあるべき姿は示していない。

短期的な弥縫策(びほうさく)にすぎない」「短期だけでなく、中長期対策まで弥縫策にならないか。それが心配だ」と言うのならば、自分の具体案を出してほしい。「そんなの難しくてできない」と感じるのならば「弥縫策」に理解を示してもいい。それだけ難しい問題ということだ。

岸田首相の指示は、この危機的状況に対するものだが、これを十分な対策と呼んでいいものか。まず、9基稼働する原発は、定期点検などが終了して稼働が既に予定されていたもので、新たに加わるわけではない」といった記述からは田村編集委員が原発推進派だと推測できる。

自分とは違う考えだが、それはそれでいい。だが推進派ならば2つのことは必ず考えてほしい。

まず高レベル放射性廃棄物の最終処分問題。これをどうするのか自分なりに結論を出してから推進論を展開してほしい。

もう1つは安全保障との絡みだ。ウクライナの状況を見ても分かるように、原発が敵国から攻撃を受けたり占拠されたりといった状況は日本でも起こり得る。これについてどう考えるのか。

火力発電所ならば破壊されてもまた作ればいい。だが戦闘などで原発に重大な事故が起きた場合、影響は広範囲かつ長期に及ぶ。損害も甚大になりやすい。それでも原発を動かすべきなのか。その判断からは逃げないでほしい。


※今回取り上げた記事「ニュースを突く~迷走する電力不足対策」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00194/


※記事の評価はD(問題あり)。田村賢司編集委員の評価はDを維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ワクチン信仰は捨て切れない? 日経ビジネス「危機は去ったのか」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/12/blog-post_6.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_18.html

「名目」で豊かさを見る日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_3.html

「名目」で豊かさを見る理由 日経ビジネスの苦しい回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_14.html

日経ビジネス「東大の力~日本を救えるか」に感じた物足りなさhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/blog-post_6.html

2022年8月23日火曜日

台湾有事で肝心な「シナリオ」を論じていない週刊ダイヤモンドの記事

台湾有事を扱うほとんどの記事では肝心なシナリオを検討していない。週刊ダイヤモンド8月27日号に載った「台湾有事で日本人の想像を絶する『過酷シナリオ』、気付けば自衛隊が中国軍と対峙し大損害」という記事もそうだ。冒頭部分を見ていこう。

大山ダムの銅像

【ダイヤモンドの記事】

緊迫する台湾情勢を巡っては、安全保障の専門家の間では常識でも、国民があまり知らない“不都合な真実”がある。それは、米国が日本の自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請することが考えられ、日本がそれに応じた場合、大損害を被る可能性が高いということだ。

ほとんどの日本国民は有事の際の日本の役割は「米軍の後方支援」だと考えているだろう。だが、日本が台湾有事に巻き込まれ、気が付いたら中国と直接戦っていたという事態は十分にあり得るのだ。


◎攻められなくても攻めるのか…を考えないと

中国が台湾への軍事行動に踏み切った場合、武器供与などの支援はするが派兵はしないというウクライナ型の対応を米国はすると見ている。これがメインシナリオだが「米国が日本の自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請する」事態も当然に想定すべきだ。

この時に最も対応に苦慮するのが日本への攻撃を受けていない場合だ。「日本への攻撃はしないから中立を守ってほしい。しかし米国と共に軍事介入するならば核攻撃を含めあらゆる反撃を日本本土に仕掛けていく」と中国が警告しているとしよう。

そして米国が「自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請」してきた。属国である日本に拒否する選択はあるのか。ここを考える必要がある。

日本は台湾を独立国とは認めていないので、台湾有事は中国の“内戦”とも言える。何の攻撃も受けていない日本がその“内戦”に軍事介入するのか。この場合「日本がまた侵略してきた」という中国の主張に説得力が出てしまう。

この状況で中国と戦って多数の日本人が命を落とすことを国民は許容するだろうか。許容しなくても政府が押し切って米国の子分として中国と戦うべきか。台湾有事で最も判断に迷うのはここだ。しかし、今回の記事でも触れてはいない。

気が付いたら中国と直接戦っていた」という想定で話を進めているが、問題なのは「攻められていない状況でも米国と共に軍事介入するのか」だ。

記事の言う「過酷シナリオ」も一応は見ておこう。


【ダイヤモンドの記事】

自衛隊の基地はほとんどが中国のミサイルの射程圏内にあり、圏外に退避するのは難しい。自衛隊は中国の攻撃に耐えながら、海兵隊など退避せずに残った軍による“我慢の戦い”を側面支援するしかない。

数週間後、ようやく米軍が来援したとしても、自衛隊が一息つけるわけではない。

というのも、米軍が、自衛隊の戦闘機Fー35や潜水艦を前線に投入するように求めてくる公算が大きいからだ。米軍の戦死者が増え、米国内で「同盟国である日本も一緒に最前線で戦うべきだ」という世論が高まれば、日本が米軍の要請を断るのは簡単ではなくなる。

日米と中国の戦いはエスカレートし、双方が大きな損害を受ける。


◎「中国が先制攻撃」なら迷いはないが…

中国が日本に先制攻撃を仕掛けてきたのならば迷いはない。「大きな損害」を覚悟して戦うのもいいだろう。

問題は先述したような状況の場合だ。日本人の多くが戦争を望まないのに、親分である米国に逆らえずに中国の“内戦”に介入する形で戦争が始まり、日本は侵略者として中国からの反撃を受ける。そして「自衛隊の基地」などが「中国の攻撃」の対象となり、自衛隊員だけでなく多くの民間人にも死傷者が出る。

「なぜ日本は再び中国を侵略するのか」「なぜ台湾を守るために、多くの日本人の命が犠牲なる必要があるのか」

難しすぎる問いなのか、多くの書き手がこの問題から逃げているように見える。

週刊ダイヤモンド編集部では、この問題にぜひ答えを出してほしい。


※今回取り上げた記事「台湾有事で日本人の想像を絶する『過酷シナリオ』、気付けば自衛隊が中国軍と対峙し大損害

https://diamond.jp/articles/-/307609


記事の評価はC(平均的)

2022年8月21日日曜日

読者に誤解与える日経 福山絵里子記者「子育て世代『時間貧困』」

21日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「子育て世代『時間貧困』~共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少」という記事は読者に誤解を与える内容だと感じた。中身を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の熊本市内

【日経の記事】

時間の余裕のなさを示す「時間貧困」が6歳未満の子どもを育てる世代を苦しめている。正社員の共働き世帯の3割が、十分な育児家事や余暇の時間をとれない状況に陥っている。母子家庭では育児に充てる時間が2人親家庭の半分以下で、家族の形による育児時間の格差も広がる。国際的にも日本人の子どものケアや余暇などに充てる時間は主要7カ国(G7)で最も少ない。

慶応義塾大学の石井加代子・特任准教授らが分析した。1日24時間を(1)食事や睡眠など基礎生活に必要な時間(2)可処分時間――に分け、可処分時間から労働・通勤時間を差し引いた時間が、国の統計で示される一般的な育児・家事時間より少なければ「時間貧困」と定義した。


◎まず定義が…

慶応義塾大学の石井加代子・特任准教授ら」の「時間貧困」の定義がまずおかしい。「育児・家事時間」が平均より少ないというだけで「時間貧困」なのか。ある世帯では「家事や育児より仕事に時間を使いたい。そのために家事代行や保育サービスを積極的に利用しよう」と考えたとしよう。この世帯は「育児・家事時間」が平均より少なくなる可能性が高い。だからと言って「時間貧困」と見るべきなのか。生活スタイルに応じて時間配分をしているだけという場合もあり得る。

この「時間貧困」の定義からは、誰もが平均的な「育児・家事時間」を確保したいはずだとの前提を感じる。しかし、そうとは限らない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

例えば、6歳未満の子どもが1人いる世帯では、平均およそ1日8時間を家事、育児、介護、買い物に使っている。

分析の結果、6歳未満の子どもがいる正社員の共働き世帯の場合、31%が時間貧困に陥っていた。妻と夫で分けると、妻の80%が時間貧困だったのに対し、夫は17%。石井特任准教授は「夫の家事への参加時間の少なさが、働く妻の余裕をなくしている」と説明する。


◎「働く妻の余裕」を測定できる?

時間貧困」の分析では「働く妻の余裕」を判断できない。「妻の80%が時間貧困」となるのは「片働き」「正社員+非常勤」世帯の妻の「育児・家事時間」が長いからだろう。夫の場合はどの世帯でも働き方に差が出にくいので「時間貧困」の比率が低くなる。それは当たり前の話だ。夫と妻で「時間貧困」の比率を比べても、あまり意味がない。

それを「妻の80%が時間貧困」と打ち出すと「働く妻の余裕」がないように見える。しかし、そうとは限らない。「働く妻」が「育児・家事」を積極的に外部委託している場合「働く妻の余裕」が専業主婦を超えてもおかしくない。

夫の家事への参加時間」を増やすべきと「石井特任准教授」は考えているようだが、これはおかしな話だ。夫の「育児・家事時間」を増やして妻の「育児・家事時間」を減らすと「働く妻の余裕」は出るだろうが「育児・家事時間」が減ってしまうので「時間貧困」はさらに深刻になる。

働く妻」の「時間貧困」を減らすには「育児・家事時間」を増やすのが効果的だ。「食事や睡眠など基礎生活に必要な時間」を減らすのは現実的ではないとすれば「労働・通勤時間」を減らすしかない。

少子化を加速させないためにも、男性の家事参加はもちろん、働き方の見直し、家事の一層の支援が喫緊の課題となっている」と福山絵里子記者は記事を締めている。

時間貧困」を減らしても「少子化」対策にはならないと思うが、仮になるとしよう。そうなると働く妻の「労働・通勤時間」は削るべきとの結論になる。

記事に付けたグラフを見ると、妻の「時間貧困」の割合は「正社員+非常勤」世帯で30%、「片働き」世帯で0%だ。となると「少子化を加速させないためにも女性たちは仕事を辞めて専業主婦へ」と誘導すべきだろう。

この結論を福山記者は受け入れられる?



※今回取り上げた記事「子育て世代『時間貧困』~共働きの3割が確保できず 子どものケアや余暇、日本はG7最少

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220821&ng=DGKKZO63626740R20C22A8EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。福山絵里子記者への評価はDで確定とする。

2022年8月19日金曜日

2021年の豪州戦に負ければ「W杯への道が絶たれ」てた?日経 岸名章友記者の誤解

日本経済新聞の岸名章友記者は悪くない書き手だと思うが、19日夕刊の記事では事実誤認と思える記述があった。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

筑後川昇開橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 岸名章友様

19日の夕刊くらしナビ面に載った「スポーツの流儀:日本サッカーの未来図(3) 森保監督、『情と徹』で道開く~和製指揮官成功の試金石に」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「2021年10月、負ければワールドカップ(W杯)への道が絶たれるアジア最終予選オーストラリア戦」との説明です。

この試合に関して21年10月21日付の日経の記事では「負ければW杯出場が自動的に決まるB組2位以内が厳しくなる日本」と書いています。つまり「負け」でもまだ「2位以内」の可能性が残る訳です。「2位以内」が不可能となっても、3位ならばプレーオフを勝ち抜いて出場権を得る道があるので「ワールドカップ(W杯)への道が絶たれる」ためには「B組」4位以下を確定させる必要があります。しかし「オーストラリア戦」前の段階で7試合を残して3位の日本が、次の試合の負けで4位以下を確定するとは考えられません。

2021年10月、負ければワールドカップ(W杯)への道が絶たれるアジア最終予選オーストラリア戦」という記述は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「スポーツの流儀:日本サッカーの未来図(3) 森保監督、『情と徹』で道開く~和製指揮官成功の試金石に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220819&ng=DGKKZO63569770Z10C22A8KNTP00


※記事の評価はD(問題あり)。岸名章友記者への評価はB(優れている)からC(平均的)に引き下げる。岸名記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


武藤はCFとして海外で勝負できてない? 日経 岸名章友記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/cf.html

2022年8月15日月曜日

「偏差値時代、終幕の足音」が大げさな日経1面連載「教育岩盤~漂流する入試」

15日の日本経済新聞朝刊1面に載った「教育岩盤:漂流する入試(1)偏差値時代、終幕の足音~大学『推薦・総合型』が過半に 入学後の指導、重み増す」という記事。「偏差値時代、終幕の足音」という見出しにはインパクトがあるが、中身を伴っていない。「偏差値で大学が序列化される時代が終わろうとしている」と言い切った根拠に関する記述を見ていこう。

有明海

【日経の記事】

リクルート進学総研が今春、約1万1千人を対象にした調査では第1志望の大学に入れた受験生は68.3%で、前回の19年より14.8ポイント増えた。年内入試が主流になれば一般入試の難易度を示す偏差値は意味を失う。小林浩所長は「大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」と語る。


◎意味は失わないのでは?

年内入試が主流になれば一般入試の難易度を示す偏差値は意味を失う」と日経は言うが、なぜそう思うのか謎だ。今回の記事では「全国の大学でのAOと推薦による入学者は00年度に33.1%だったが、21年度は50.3%で初めて半数を超えた」と説明している。つまり「年内入試が主流」になっている。日経の見立て通りならば、既に「偏差値」は意味を失っていてもいい。そうなっているのか。

年内入試が主流」になっても「偏差値」は意味を失わないだろう。厳密に言えば「偏差値」で表される大学・学部の序列は意味を失わない。

AOと推薦」の難易度も、その序列に従って決まるはずだ。「付属・系列校」を考えれば分かりやすい。基本的には大学入試の難易度に沿って「付属・系列校」の難易度も決まる。「大学が付属・系列校や指定校からの推薦などで入学者を年内に『囲い込む』動きが止まらない」らしいが、その時に「入学者」の多くは「付属・系列校」の「偏差値」を学校選びの基準にするだろう。その「偏差値」が大学のそれと連動するのだから「年内入試が主流」になっても「偏差値」は意味を持つ。

大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」と見るのも無理がある。「大学選びの軸が偏差値しかない時代」がそもそもあったのか。学びたいこと、立地、学費なども以前から「」だったと思える。

今回の記事に驚くような内容はない。何とかインパクトを持たせようとして「偏差値で大学が序列化される時代が終わろうとしている」と大きく出たのだろう。しかし、書いた本人も「終わろうとして」いないことに気付いている気がする。


※今回取り上げた記事「教育岩盤:漂流する入試(1)偏差値時代、終幕の足音~大学『推薦・総合型』が過半に 入学後の指導、重み増す

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220815&ng=DGKKZO63430360V10C22A8MM8000


※記事の評価はD(問題あり)