2019年3月31日日曜日

日経 大場俊介氏の拙さ目立つ朝刊1面「新元号」解説

31日の日本経済新聞朝刊1面に大きく出ている「政治・外交…転機の予感 新元号あす公表」という記事は、毒にも薬にもならないような内容だ。それはまだいいとしても、拙い書き方が引っかかった。筆者は大場俊介氏。今回は肩書なしだが、2月には「政治部次長」として記事を書いていた。記者を指導する立場の人物が1面の記事でレベルの低さを見せつけているのが辛い。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
          ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】

安倍首相は今回、前例踏襲を決めていた新元号公表の手続きに少し手を加えた。菅義偉官房長官が記者会見で墨書した新元号を掲げて説明した後、自身も正午ごろから会見を開き談話を読み上げることにした。元号に込めた意味や国民へのメッセージを自ら語るのは、首相として転機を背負う覚悟の表れともとれる。


◎「菅義偉官房長官が記者会見で墨書」?

上記の説明だと、どこに「手を加えた」のかはっきりしない。事情が分かっている読者も多いとは思うが「だからこの説明で良い」とは言えない。

菅義偉官房長官が記者会見で墨書した新元号を掲げて説明した」と書くと「『菅義偉官房長官が記者会見で墨書した新元号を掲げて(安倍首相が)説明」とも解釈できる。

日経は別の記事で「閣議決定後、菅氏が記者会見で新元号を公表し、出典も明かす。平成改元と同様、墨書した新元号を額に入れ、掲げながら説明する見通しだ」と書いていた。この辺りから判断すると「菅義偉官房長官が墨書」でも「記者会見で墨書」でもないのだろう。

改善例を示してみる。

<改善例>

安倍首相は今回、前例踏襲を決めていた新元号公表の手続きに少し手を加えた。墨書した新元号を掲げて菅義偉官房長官が記者会見で説明するだけで終わらず、首相自身も正午ごろから会見を開き談話を読み上げることにした。

◇   ◇   ◇

ついでにもう1つ述べておきたい。記事には「合計特殊出生率が丙午(ひのえうま)の1966年を下回る1.57まで下がり、日本が抱える最大の問題である人口減少の予兆が出たのも平成元年だった」との記述がある。

主観的な問題なのでどちらが正しいとは言えないが、「日本が抱える最大の問題」が「人口減少」だとは思えない。個人的には「人口減少」を歓迎している。容認派ではなく、極端に言えば推進派だ。

人類の存続にとって環境問題は大きなテーマだと感じている。「22世紀の人類が持続可能な環境を得るためには、21世紀中の人口を増やすべきか」と問われれば、「なるべく増やすべきではない」と答えたい。なので、日本に限っても人口は増えるより減った方がいい。

日本の人口は1000万人もいれば十分だ。「2億人と100万人はどっちがいいか」と聞かれたら「100万人」と答える。本州以外にはほとんど人が住んでいないといった未来も悪くない。その方が持続可能性が高そうだ。

例えば「日本の人口が2億、3億へと増えていく」という状況になった時には、破滅的な結末が待っていそうな気がする。人々の選択の結果として緩やかに人口が減っていくのならば、放置しておいてほしい。


※今回取り上げた記事「政治・外交…転機の予感 新元号あす公表
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190331&ng=DGKKZO43150910Q9A330C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。大場俊介氏への評価はDを維持する。大場氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

行数埋めただけの 日経 大場俊介次長「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_13.html

「訴えたいことがない」のが辛い日経 大場俊介政治部次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_9.html

「総総分離論」でも自説なしの日経 大場俊介政治部次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_24.html

2019年3月30日土曜日

「教育資金、2割を分散型投信に」と言う日経 南毅記者を信じるな

「日本経済新聞の南毅記者が書いた記事は参考にするな」--。「子どもの教育資金をどのように蓄えたらいいか悩む親」が日経を読んでいたら、こう助言したい。30日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「教育資金の積み立て術~2割を分散型投信に」という記事には色々と引っかかる部分があった。最も問題なのは「2割を分散型投信に」と打ち出している点だ。南記者は以下のように解説している。
東京駅(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

投資信託などで運用するのはどうか。預金などと異なり元本割れリスクがあるため教育資金作りになじまないとの声は根強いが、FPの深野康彦氏は「積立資金の2割程度を運用に回すのが妥当」と話す。「教育費が想定以上にかかる場合に備えて資産を増やすことも考えたい」という。

図Cは毎月の積立資金のうち8割を定期預金、残り2割を運用に回したときのイメージ。運用先は国内外の株式や債券に分散投資してリスクを抑えるバランス型投信を想定している

例えば期間18年の場合、毎月の積立金額(図Bのケースと同じ約3万2000円)の2割に相当する約6500円を投信で運用。その成績によって預金を含めた全体の資産額がどう増減するか、統計学の手法を基に試算している。

運用成績がかなり好調だった場合の資産額は約890万円。これは積立資金の10割を定期預金に預けたケース(700万円)を大きく上回る。反対に運用が不調だった場合、資産額は約670万円になる。元本割れリスクは残るものの運用の効果が見てとれる。

投信はつみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)の口座を通じて購入するのが効率的だ。購入元本ベースで年40万円まで分配金・売却益が最長20年間、非課税となるためだ。



◎バランス型投信がダメな理由

個人的には「教育資金」と用途を限定してカネを貯めるのはお薦めしないが、好みの問題とも言えるので、ここでは問わない。だが「バランス型投信」は明らかに誤った選択だ。

なぜ「積立資金の2割程度を運用に回すのが妥当」なのか不明だが、取りあえず受け入れてみよう。ここでは「無リスク資産(預金、国債)8割、リスク資産2割が妥当」との前提で話を進める。

バランス型投信」で運用すると「国内外の株式や債券に分散投資」するので、ここにも国債が紛れ込んでしまい無リスク資産の比率が上がってしまう。仮に「バランス型投信」に占める無リスク資産の比率は5割で、これを前提に「積立資金の2割程度を運用に回すのが妥当」と判断したと考えてみよう。

この場合、最初から「無リスク資産9割、リスク資産(株式投信など)1割」にした方がスッキリする。せっかく無リスク資産の比率を決めておいたのに、「バランス型投信」で運用するとその管理が難しくなる。

また「バランス型投信」を選ぶと、極めて利回りが低い無リスク資産の部分にも信託報酬がかかってしまい、さらに利回りが低くなる。

加えて南記者は「バランス型投信」を「つみたてNISA(積立型の少額投資非課税制度)の口座を通じて購入する」よう提案している。明らかに非合理的だ。せっかくの「非課税」枠に低リターンの無リスク資産を紛れ込ませてどうする。「非課税」枠は期待リターンの高いリスク資産で埋めるべきだ。「非課税制度」の恩恵を最大限に生かそうとすれば、当然にそうなるはずだが…。


※今回取り上げた記事「教育資金の積み立て術~2割を分散型投信に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190330&ng=DGKKZO43076060Z20C19A3PPE000


※記事の評価はD(問題あり)。南毅記者への評価は暫定でDとする。

中台統一で台湾海峡が「内海」になると誤解した櫻井よしこ氏

櫻井よしこ氏に関しては、2015年に引退を勧告をした。久しぶりに櫻井氏が書いた記事を読んでみたら、相変わらず事実誤認が多い。引退勧告は正しかったようだ。ダイヤモンド編集部だけでなく櫻井氏のホームページにも以下の内容で問い合わせを送った。櫻井氏にはジャーナリストとして説明責任をぜひ果たしてほしい。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集長 深澤献様  櫻井よしこ様

3月30日号の「新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽(Number 1273)日本の国益に重なる台湾総統選挙~親日派の若き政治家は健闘できるか」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

わが国に物資を運ぶ大型船やタンカーが台湾海峡を通過できるのはそれが公海だからだ。台湾が中国に領有されれば、同海峡は中国の内海となる。日本の瀬戸内海のようなものだ

デジタル大辞泉では「内海」を「周りを陸地に囲まれ、狭い海峡で外洋と連絡している海。瀬戸内海など」と説明しています。「日本の瀬戸内海のようなものだ」と櫻井様も書いているので、この定義で問題ないでしょう。地図を見てもらえれば分かりますが、「台湾海峡」は「周りを陸地に囲まれ、狭い海峡で外洋と連絡している海」ではありません。

幅約150km、最も狭い所は135km」(世界大百科事典)の「台湾海峡」を「内海」と見なすのは無理があります。「台湾が中国に領有されれば、同海峡は中国の内海となる」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

わが国に物資を運ぶ大型船やタンカーが台湾海峡を通過できるのはそれが公海だからだ」との説明も問題なしとしません。「公海」とは「内水、領海、排他的経済水域、群島水域を除いた海洋をいう」とブリタニカ国際大百科事は定義しています。「排他的経済水域」は沿岸から200カイリ(約370キロ)の範囲なので、「幅約150km」の「台湾海峡」は中国などの「排他的経済水域」に入るはずです。つまり「公海」とはなりません。

記事の説明は二重に誤っているのではありませんか。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽(Number 1273)日本の国益に重なる台湾総統選挙~親日派の若き政治家は健闘できるか
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26199


※記事の評価はE(大いに問題あり)。櫻井よしこ氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。櫻井氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

スイスの徴兵制は60歳を超えてから?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_27.html

櫻井よしこ氏の悲しすぎる誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_90.html

櫻井よしこ氏への引退勧告
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_6.html

櫻井よしこ氏のコラム 「訂正の訂正」は載るか?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_10.html

櫻井よしこ氏へ 「訂正の訂正」から逃げないで
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_16.html

櫻井よしこ氏 文章力でも「引退勧告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_19.html

田中博ダイヤモンド編集長へ贈る言葉 ~訂正の訂正について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_22.html

手抜きが過ぎる櫻井よしこ氏  ダイヤモンド「縦横無尽」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_19.html

週刊ダイヤモンドの記事 誤り認めた櫻井よしこ氏を評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_11.html

週刊ダイヤモンド「縦横無尽」で櫻井よしこ氏にまた誤り?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_7.html

週刊ダイヤモンドで再びミス黙殺に転じた櫻井よしこ氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_17.html

毎日は加戸氏を「徹底的に無視」? 櫻井よしこ氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_29.html

「森友文書書き換え問題」櫻井よしこ氏の辻褄合わない説明
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_22.html

2019年3月29日金曜日

日経 高橋そら記者に不安感じた「ウォール街ラウンドアップ」

「(米国の)住宅市場がこのまま一本調子に回復に向かうのかはしばらく見極める必要がありそうだ」と書いてあったら、どう理解するだろうか。足元では「回復」傾向だとは感じるはずだ。しかし、日本経済新聞の高橋そら記者によると「直近の住宅関連指標は強弱が混在しており、米商務省が発表した2月の住宅着工件数(季節調整済み、年率換算)は前月から減少した」らしい。どうもよく分からない。
ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒル
        ※写真と本文は無関係です

28日の夕刊マーケット・投資面に載った「ウォール街ラウンドアップ~米住宅市場、底入れに期待」という記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

住宅市場は米景気の先行きを映す鏡だ。足元で底入れの兆しが見えたとはいえ、建築業者の労働力不足や材料費高騰といった根本的な問題が解消したわけではない。直近の住宅関連指標は強弱が混在しており、米商務省が発表した2月の住宅着工件数(季節調整済み、年率換算)は前月から減少した。このため「住宅の建築活動が軟調に推移する可能性が高い」(米国野村証券)との指摘もある。

相場を動かす新たな材料に乏しいなか、市場関係者の関心は米景気の強弱を反映する企業業績や経済指標に移りつつある。今週後半にも中古住宅販売指数の公表が控えている。住宅市場がこのまま一本調子に回復に向かうのかはしばらく見極める必要がありそうだ


◎整合性の問題が…

底入れ」はしたが「このまま一本調子に回復に向かうのかはしばらく見極める必要がありそうだ」と言うのは分かる。だが、記事を読む限り「足元で底入れの兆しが見えた」だけで「底入れ」したかどうかは微妙なようだ。「『住宅の建築活動が軟調に推移する可能性が高い』(米国野村証券)との指摘もある」のならば、基調は弱いとも感じる。

なのに最後に「このまま一本調子に回復に向かうのかはしばらく見極める必要がありそうだ」と強引にまとめてしまったので、整合性の問題が生じてしまった。例えば「住宅市場が本当に底入れとなるのか、しばらく見極める必要がありそうだ」とすれば問題は解消する。

「どう着地させるか考えないまま行数を埋めて、何となくそれらしい言葉で締めてみたのかな」と疑いたくなる内容だ。高橋記者の書き手としての技量に疑問を感じさせる記事だった。


※今回取り上げた記事「ウォール街ラウンドアップ米住宅市場、底入れに期待
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190328&ng=DGKKZO43013970Y9A320C1ENI000


※記事の評価はD(問題あり)。高橋そら記者への評価も暫定でDとする。

2019年3月28日木曜日

イチローは不出場が決まってた? 権藤博氏の誤解を正さぬ日経の罪

野球評論家の権藤博氏にコラムを任せるのはやめた方がいいと以前に指摘した。どうしても続けさせたいのならば周りがしっかり支えるべきだ。しかし28日の日本経済新聞朝刊に載った「悠々球論 権藤博~イチロー、孤高の戦い貫く」という記事を読む限り、問題は改善していないようだ。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)
       ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

権藤博様  日本経済新聞社 運動部 担当者様

28日朝刊スポーツ面に載った「悠々球論 権藤博~イチロー、孤高の戦い貫く」という記事についてお尋ねします。記事中で権藤様はイチローに関して「この1年、試合に出ないと決まっていたのに、いつもと同じ調整を続けたという。これも誰にもできないことだ」と記しています。

言うまでもありませんが、3月20~21日のアスレチックスとの開幕2連戦にイチローは先発出場しています。しかも開幕前にマリナーズのゼネラルマネジャーらがイチローを出場させる方針を明らかにしていました。日経もそう報じています。

だとすると「この1年、試合に出ないと決まっていた」との説明は明らかな誤りではありませんか。開幕2連戦に関しては、「試合に出ると決まっていた」と理解すべきです。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「悠々球論 権藤博~イチロー、孤高の戦い貫く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190328&ng=DGKKZO43002880X20C19A3UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。聞き書きだと推定し、権藤博氏への評価は見送る。権藤氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

上原浩治投手への誤解が過ぎる日経「悠々球論 権藤博」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_81.html

ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」

ミスには寛容なつもりだ。自分自身が誤りの多い人間だからだ。しかし、初歩的なところで続けて間違った説明をされると「筆者はちゃんと分かって書いてるのかな?」と不安になる。週刊ダイヤモンド3月30日号の特集「株・為替の新格言」には、読んでいて大きな不安を感じたくだりがある。
呼子大橋(佐賀県唐津市)からの風景
       ※写真と本文は無関係です

編集部に送った問い合わせの内容は以下の通り。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 編集長 深澤献様 藤田章夫様 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様

3月30日号の特集「株・為替の新格言」の「Part 1~電脳相場か官製相場か 今、相場を動かすのはいったい誰なのか」に出てくる「短期の大幅な振れは無視せよ~アルゴリズム取引の正体」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

株と債券は、『逆相関』の関係にあるというのが定説だ。金利が低下すれば株価が上がり、片や債券価格は下がるといった具合だ。こうした局面にあるとみれば、株をロング(売り持ち)し、債券をショート(買い持ち)して運用する

この短い説明の中に3つの間違いがあると思えます。

(1)「金利が低下すれば債券価格は下がる」?

日本証券業協会のホームページでは「債券には、金利が上昇すると価格は下がり、金利が低下すると価格は上がる特徴があります」と説明しています。改めて言うまでもない常識です。しかし今回の記事では「金利が低下すれば債券価格は下がる」と断言しています。

(2)「ロング=売り持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「ロングポジション」とは「金融資産を『買った状態で保有する(買い持ち)』です」。しかし記事では「株をロング(売り持ち)」と書いています。

(3)「ショート=買い持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「金融資産を『売った状態で保有する(売り持ち)』のがショートポジション」です。しかし記事では「債券をショート(買い持ち)して」と書いています。

以上の3点は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。問題のくだりを読むと「筆者は市場に関する理解を決定的に欠いたまま記事を書いているのではないか」との疑念が拭えません。読者から購読料を得ているメディアとして、逃げずに説明責任を果たしてください。間違いであれば、当然に次号での訂正も必要となります。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。そうやって逃げ回ってきたことが、今回のような記事を生んだのではありませんか。改めて猛省を求めます。

◇   ◇   ◇

「天下の週刊ダイヤモンドの記者がこんなにミスを連発するか? 連発したとしても周りの誰かが気付くだろう」と思って何度も記事を読み返してみたが、どう考えても間違いだ。

深澤献編集長には改めて問いたい。「それでもやはり問い合わせを無視しますか? そこにメディアとしてのどんな正しさがありますか?」


※今回取り上げた特集「株・為替の新格言
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26175


※特集や担当者らへの評価は編集部の対応を見た上で決めたい。4人の担当者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「マカオ返還」は忘れた? 週刊ダイヤモンド「投資に役立つ!地政学・世界史」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_29.html

バランス型投信を「投資の王道」と言う週刊ダイヤモンドへの「異論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_30.html



追記)後に記事の誤りを認める回答があった。この件に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html

2019年3月27日水曜日

「中国への進出は最後」のはずだが…東洋経済「ドンキの正体」

週刊東洋経済3月30日号の特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か」の中で「パン・パシフィック・インターナショナル ホールディングス」の社長は「中国への進出はいちばん最後」と述べている。一方で、特集に付けたグラフに「今夏には香港進出も検討」という説明が出てくる。そこで、以下の内容で問い合わせを送った。
玄海町次世代エネルギーパーク あすぴあ(佐賀県)
           ※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集部 編集長 山田俊浩様 真城愛弓様 石阪友貴様

3月30日号の特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か」についてお尋ねします。「INTERVIEW パン・パシフィック・インターナショナル ホールディングス 社長兼CEO 大原孝治~西友を買うより西武に関心がある」という記事の中で、「大原孝治」氏は海外展開について「チャンスがあるところに出店する。検討しているのは台湾、マレーシア、フィリピンあたり。中国への進出はいちばん最後。法改正が頻繁に実施される国には進出しづらい」と述べています。

一方、36ページでは「今夏には香港進出も検討」というタイトルを付けて「グループ海外店舗数」をグラフにしています。「中国への進出はいちばん最後」であれば「今夏には香港進出も検討」とはならないはずです。言うまでもなく「香港」は中国の一部です。中国が「法改正が頻繁に実施される国」であれば「香港」にもその影響は及びます。

この矛盾はどう理解すれば良いのでしょうか。「大原孝治」氏の発言を正確に伝えていないのかもしれません。発言が記事の通りで「今夏には香港進出も検討」も正しい場合、「大原孝治」氏の発言に事実誤認があるはずです。どこかに誤りがあると考えないと、説明が付きません。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

整合性の問題は他にもあります。インタビュー記事の中で「ドミナント(集中出店)戦略も採用していないので、ほかのチェーンストアのように自社競合を起こすこともない」と「大原孝治」氏は言い切っています。しかし37ページの「ドンキ10の非常識」という図では「10 自社店舗もライバル」となっています。「ライバルではあるが競合はしていない」との弁明も不可能ではありませんが、やはり「競合」はあると見るべきでしょう。

例えば「ドンキ」は新宿区だけで6店舗あります。新宿東南口店と新宿歌舞伎町店は歩いて数分の距離です。それで「自社競合を起こすこともない」とは思えません。この辺りは取材時にさらに突っ込んで質問するといった対応が必要だったのではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

あくまで推測だが「今夏には香港進出も検討」も「中国への進出はいちばん最後」も正しいのだろう。社長の発言は「中国(本土)への進出はいちばん最後」との趣旨ではないか。だとしたら記事中で担当者らが補う必要がある。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20228


※当該記事を含め特集全体の評価はC(平均的)。インタビュー記事を書いた石阪友貴記者への評価は暫定でC(平均的)とする。真城愛弓記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cに引き上げる。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

大原社長は創業時からいた?東洋経済「ドンキの正体」に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_26.html


※真城記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「瀬戸際に立つアパレル店舗」を描けていない東洋経済の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_9.html

「断トツ」が3施設? 14位でも「三大SC」? 東洋経済に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/14sc.html

2019年3月26日火曜日

「GAFAがデータ独占」と誤解した週刊ダイヤモンド重石岳史記者

GAFAによるデータ独占」が起きていると思い込んでしまう人の思考回路があまり理解できないが、珍しくはないようだ。日本経済新聞や日経ビジネスだけでなく、週刊ダイヤモンドも3月30日号で「このままGAFAによるデータ独占を放置すれば」などと堂々と書いていた。筆者の重石岳史記者にはぜひ認識を改めてほしい。
天主堂の見える丘(長崎市)からの風景
           ※写真と本文は無関係です

ダイヤモンド編集部に送った問い合わせの内容は以下の通り。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 編集長 深澤献様 重石岳史様

3月30日号の「DIAMOND REPORT~GAFA vs 公取委 データ独占にメス!攻防戦幕開け」という記事についてお尋ねします。記事には「プラットフォーマーがデータを独占する現状を問題視し、法規制の動きが各国で顕在化しているのだ」「日本の当局には、このままGAFAによるデータ独占を放置すれば国内産業が地盤沈下するという危機感もある」との記述があります。

記事の説明が正しければ「現状」では「GAFAによるデータ独占」が起きており「日本の当局」もそれを認識しているはずです。しかし、そうは思えません。

百歩譲って「GAFA」が世界中のデータの全てを有しているとしましょう。その場合でも「GAFA」は別々に経営される企業なので4社による「寡占」にしかなりません。

では、「GAFA」を1つの企業と見なせば「データ独占」と言えるでしょうか。この場合、「GAFA」以外のデータ保有量がほぼゼロとなるはずです。これはあり得ません。マイクロソフト、アリババ、ツイッターといった企業は「データ」をほとんど有していないのですか。

IT企業に限りません。ダイヤモンド社も多くの「データ」を持っているはずです。金融機関であれ自動車メーカーであれ「データ」保有量ゼロの企業を探す方が難しいでしょう。その中には「GAFA」が持っていない「データ」も当然にあるはずです。

日本の当局」は「GAFAによるデータ独占」があると認識しているのでしょうか。重石様が書いた「杉本和行(公正取引委員会委員長)」氏のインタビュー記事にヒントがあります。

記事中には「プラットフォームを介して消費者と出品者がつながる二面市場では、消費者が増えるほど効果が増大するネットワーク効果が働くため、独占的もしくは寡占的になりやすい傾向がある」「確かに個別で見ると市場支配的な地位を占める企業も生まれている」「例えばデータを不当に囲い込む行為や、プラットフォームビジネスが取引先に不当に不利益を与える行為は問題があるという視点で対応します」といった杉本氏の発言が出てきます。しかし「GAFAによるデータ独占」が起きているとの認識を窺える発言は出てきません。

GAFAによるデータ独占」が既に実現していると取れる説明は誤りと考えてよいのでしょうか。その認識を「日本の当局」も持っているとの説明も、杉本氏のインタビュー記事から判断すれば違うと思えます。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。これに関しては編集長である深澤様の責任が重大です。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「DIAMOND REPORT~GAFA vs 公取委 データ独占にメス!攻防戦幕開け
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26174


※記事の評価はD(問題あり)。重石岳史記者への評価もDを据え置く。「データ独占」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html

「GAFAがデータ独占」と誤解するのは日経グループの癖?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/gafa.html

大原社長は創業時からいた?東洋経済「ドンキの正体」に疑問

週刊東洋経済3月30日号の特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か」は、ヨイショ色が強いものの出来は悪くない。ただ、引っかかる点がいくつかあった。その1つが「創業時から(創業者である安田氏の)その手腕を目にしてきたのは、社内に大原社長ただ1人となった」との記述だ。「記事の説明が完全に正しくて、問い合わせの方が的外れ」という可能性は残るが、以下の内容で問い合わせをしてみた。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集部 編集長 山田俊浩様 真城愛弓様 

3月30日号の特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か」についてお尋ねします。39ページの記事で真城様は「だが、安田氏も今年の5月で70歳になる。創業時からその手腕を目にしてきたのは、社内に大原社長ただ1人となった」と書いています。39ページの「ドン・キホーテの歴史」を見ると「創業」は1978年です。記事の説明が正しければ「大原社長」は同年から「安田氏」の「手腕を目にしてきた」はずです。

しかし43ページのインタビュー記事にある「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの大原孝治社長」の略歴では「1963年生まれ。93年ドン・キホーテ(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)入社」となっています。

入社したのは創業から15年ほど経ってからです。その間にずっと「安田氏」の下でアルバイトをしていたとは考えづらいですし、「1963年生まれ」であれば「安田氏」が創業した当時は中学生か高校生でしょう。

そうした点から判断すると「創業時から(安田氏の)その手腕を目にしてきたのは、社内に大原社長ただ1人となった」との説明は誤りではありませんか。問題なしと見ているのであれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「ドンキの正体~次代の流通王か永遠の異端児か
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20228


※当該記事を含め特集全体の評価はC(平均的)。真城愛弓記者への評価は暫定D(問題あり)から暫定Cに引き上げる。真城記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「瀬戸際に立つアパレル店舗」を描けていない東洋経済の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_9.html

「断トツ」が3施設? 14位でも「三大SC」? 東洋経済に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/14sc.html

2019年3月25日月曜日

1面トップなのに中身乏しい日経「希少薬、日本発で世界へ」

25日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「希少薬、日本発で世界へ~富士フイルムや武田、収益源に」という記事は苦しい内容だった。中身の乏しい話を強引にまとめてアタマ記事に仕立てたのだろう。繰り返し訴えているが、苦し紛れのまとめ物をニュース記事にするのは避けた方がいい。
平和祈念像(長崎市)※写真と本文は無関係です

最初の段落は以下のようになっている。

【日経の記事】 

日本の製薬各社が難病でもある希少疾患(総合・経済面きょうのことば)向けの開発を加速する。患者数が少なく企業が及び腰になる分野だったが、デジタル化の進展や政府の支援を背景に収益化が視野に入った。富士フイルムや武田薬品工業などは国内外で事業化を加速し、欧米大手に対抗できる収益源を育てる。効果的な薬が乏しかった希少疾患の治療法拡充が期待されるほか、患者数が多い他の難病への応用など技術・産業基盤の強化につながる可能性もある。



◎「開発を加速」と言うが…

日本の製薬各社が難病でもある希少疾患向けの開発を加速する」「富士フイルムや武田薬品工業などは国内外で事業化を加速」と言うが、続きを読むとどうも怪しい。まずは「富士フイルム」を見ていく。

【日経の記事】

富士フイルムは希少疾患「ライソゾーム病」の治療研究を本格化する。体内で不要となった物質を分解する酵素に異常が起き肝臓や骨、中枢神経に重篤な症状が出る。酵素を人為的に補う対症療法が中心で成人になる前に死亡するケースが多い。富士フイルムは再生医療技術を応用。マウスでの実験で疾患の原因となる不要酵素の蓄積を減少させる効果を確認した。

◎「本格化する」してる?

富士フイルムは希少疾患『ライソゾーム病』の治療研究を本格化する」と言うが、どう「本格化する」のかは教えてくれない。最初に出てくる事例がこれだと後は推して知るべしだ。一応、他も見ておこう。


【日経の記事】

武田は希少疾患の大手シャイアーを約7兆円で買収。取り込んだ技術をもとに血液難病の「血友病」や体の様々な場所が腫れる「遺伝性血管浮腫」など12種類の医薬品候補の開発を進める。クリストフ・ウェバー社長は「日本の製薬会社として、希少疾患で世界の先頭を走る」と明言。がんや中枢神経疾患などに続く新たな柱に育てる。

◎「加速」してないような…

富士フイルムや武田薬品工業などは国内外で事業化を加速」させているはずだが、上記のくだりを読んでも「武田」が「事業化を加速」させている感じはない。「開発を進める」と書いているだけだ。

3つ目の事例も見ておく。

【日経の記事】

中堅製薬のJCRファーマは希少疾患治療で難題となる脳への薬物伝達で画期的な新技術の開発に成功した。パーキンソン病やアルツハイマー病など脳神経に関係する難病にも応用でき、世界の製薬大手が提携を持ちかけている。

◎「希少薬」から外れてない?

JCRファーマ」に至っては「希少薬」そのものを開発しているのではないようだ。「画期的な新技術」と言うものの、どこが「画期的」なのかも触れていない。やはりこの記事はまとめ物としては苦しい。なのに1面トップに持ってくるとは、悪い意味で度胸がある。

ついでに言うと、この記事には整合性の問題も感じた。記事によると「希少疾患は患者数が極めて少ない難病」で「個々の希少疾患の市場規模は小さい」らしい。なのに「各社は日本で開発に成功した新薬を海外展開すれば、希少疾患の分野でも年間売上高が1千億円超の『ブロックバスター(大型新薬)』が育つと判断している」という。

だとしたら「個々の希少疾患の市場規模は小さい」とは必ずしも言えない。「希少疾患」の治療薬が「大型新薬」に育つと言われると矛盾を感じる。超高額の薬ならば、あり得ると言えばあり得るが…。


※今回取り上げた記事「希少薬、日本発で世界へ~富士フイルムや武田、収益源に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190325&ng=DGKKZO42846320U9A320C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

「イノベーションが止まる」に無理がある日経 太田泰彦編集委員

日本経済新聞の太田泰彦編集委員が25日朝刊企業面の「経営の視点~公取委アマゾン調査の意義 消費者主役で革新を」という記事で無理のある解説をしていた。「アマゾン」に「『おすすめ』や検索の機能」に関する「アルゴリズムの開示を義務づけたら」「人工知能(AI)を含めイノベーションが止まるだろう」と太田編集委員は主張するが、本当にそうなるだろうか。

スターフライヤーの機体(福岡空港)
       ※写真と本文は無関係です
問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】

たとえばアマゾンに「おすすめ」や検索の機能がある。どういう仕組みで表示の順位を決めるのか。「うちの製品が上位に来ないのは不公平だ」という不満から、データの独占を排し、透明性を高めるべきだという議論が高まっている。

アルゴリズムの開示を義務づけたら何が起きるか。手の内を明かす前提なら、より優れた機能を追求し他社と競い合う意味はなくなる。人工知能(AI)を含めイノベーションが止まるだろう。巨大さが技術革新を生むのが、デジタル経済の特徴でもある

欧州連合(EU)の欧州委員会が2月に公表した新規則は、検索やランキングにどのような要素を勘案するか、情報開示を義務づけた。これまでは自由放任でグーグル、フェイスブックなどGAFAが育った米国と対照的に、欧州は規制強化に急傾斜している。

日本政府も成長戦略に盛り込もうと、プラットフォーマーのルール整備に突き進む。先行するEUは参考になるが、イノベーションが阻害されるのでは競争政策の本来の趣旨に反する。



◎どう考えても無理がある

太田編集委員の見方が正しければ「欧州連合(EU)の欧州委員会」が「検索やランキングにどのような要素を勘案するか、情報開示を義務づけた」ことで「人工知能(AI)を含めイノベーションが止まる」はずだ。しかし「人工知能(AI)を含めイノベーションが止まる」ことはない。自信を持って断言できる。

検索やランキングにどのような要素を勘案するか」が分かったところで「アルゴリズム」の全てが分かる訳ではない。様々な「要素」を基に総合的な判断で「おすすめ」などが決まるはずだ。ならば「アルゴリズム」をさらに改良していくインセンティブは失われない。

アルゴリズムの開示を義務づけたら」と言うのは「アルゴリズムに関する全ての情報開示を義務づけたら」という意味だと太田編集委員は反論したくなるかもしれない。それでもインセンティブは失われないだろう。取引先と個別に守秘義務契約を結べば済む話だ。

「『情報開示』の対象は取引先だけではない」と太田編集委員は言うかもしれない。それでもイノベーションが止まる」とは思えない。公開された情報を基に「アルゴリズム」を改良しようとする人が出てくる気がする。より優れた「アルゴリズム」を望む人はいるはずだ。

この場合、ひょっとしたら「アマゾン」は「アルゴリズム」の改良をやめるかもしれない。しかし「人工知能(AI)を含めイノベーションが止まる」とは考えにくい。「アルゴリズム」の情報開示が義務付けられると、「アマゾン」はAIスピーカーの改良などでも意欲を無くしてしまうだろうか。

イノベーション」はIT絡みとは限らない。「アルゴリズムの開示を義務づけた」場合、「アマゾン」は物流関連でも「イノベーション」に興味を失うのか。少し考えれば太田編集委員も分かるはずだ。

ついでに言うと「巨大さが技術革新を生むのが、デジタル経済の特徴でもある」との説明にも同意できない。太田編集委員の言う通りならば、小規模なスタートアップ企業に「技術革新」を期待しても無駄だが、本当にそうか。

3月18日付の日経電子版には「続々ユニコーンに進化中 世界のAIスタートアップ」という記事が載っている。こうした「AIスタートアップ」は「技術革新」を生まずに「ユニコーンに進化」したのだろうか。


※今回取り上げた記事「経営の視点~公取委アマゾン調査の意義 消費者主役で革新を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190325&ng=DGKKZO42765020S9A320C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html

日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html

説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html

日経 太田泰彦編集委員の力不足が目立つ「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_18.html

日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_12.html

日経 太田泰彦編集委員の辻褄合わない「TPPルール」解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/tpp.html

「日本では病院のデータ提供不可」と誤解した日経 太田泰彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_26.html

2019年3月24日日曜日

「1人当たり成長率」って何? 東洋経済 大崎明子氏への質問

週刊東洋経済の大崎明子氏(肩書は本誌コラムニスト)によると「1人当たり成長率の伸びは米国も日本並みに低下」しているらしい。ただ「1人当たり成長率」の意味がよく分からない。以下の内容で問い合わせを送ってみた。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集部 編集長 山田俊浩様 大崎明子様

3月30日号の「ニュースの核心~閉塞感が増す世界経済」という記事についてお尋ねします。まずは「米欧では日本の後を追うように長期停滞論が語られるようになった。1人当たり成長率の伸びは米国も日本並みに低下」という記述に関してです。「1人当たり成長率」とは聞き慣れない言葉です。文脈から考えて「1人当たりGDPの伸びは米国も日本並みに低下」と言いたかったのではありませんか。誤りであれば。次号で訂正してください。問題なしとの判断であれば、その根拠を教えてください。

人口増加と開発投資をテコに成長するフロンティアはインド、次はアフリカぐらいしか残されていない」との解説も引っかかりました。まず「インド」と「アフリカ」が残っているのならば「フロンティア」はかなり残っている感じがします。

人口増加と開発投資をテコに成長するフロンティア」の基準が明確ではないので何とも言えませんが「インド」が「フロンティア」に当たるのならば、「アフリカ」以外にも「フロンティア」は残っているのではありませんか。アフガニスタン、イラク、カンボジアなどはどうでしょう。アジア以外では南米も人口が概ね増加傾向です。

本当に「人口増加と開発投資をテコに成長するフロンティアはインド、次はアフリカぐらいしか残されていない」のでしょうか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~閉塞感が増す世界経済
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20227


※記事の評価はD(問題あり)。大崎明子氏への評価は暫定B(優れている)から暫定C(平均的)に引き下げる。大崎氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済に載った木内登英氏のインタビュー記事が興味深い
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_23.html

2019年3月23日土曜日

セブンに「非24時間」のFC契約なし? 日経 今井拓也記者に問う

日本経済新聞の今井拓也記者は悪くない書き手だと思う。セブンイレブンの24時間営業問題では、田中陽編集委員や中村直文編集委員が頼りにならない中で奮闘しているのも分かる。ただ、合格点は与えられない。23日朝刊の記事にも疑問が残った。これは、田中陽編集委員が電子版(8日付)に書いた「ニュースこう読む~セブン『東大阪の乱』 正念場の24時間営業」という記事にも共通する問題だ。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 今井拓也様

23日朝刊企業面に載った「ビジネスTODAY~コンビニ『24時間』岐路に セブン実験後の行方は…」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の2カ所です。

もっとも現時点で終日営業を基本としたフランチャイズ契約を見直す予定はない。セブン―イレブン・ジャパンとFC加盟店オーナーが結ぶフランチャイズ契約に『加盟店契約の全期間を通じ、年中無休で、連日24時間開店し、営業を実施する』と明記されている。『フランチャイズ契約は憲法のようなもの』(セブン幹部)で、これを維持するのが基本姿勢だ

問題は、いったん非24時間化が認められれば、時短店舗が例外ではなくなり、広がっていく可能性がある点だ。22日には長野県で、24時間営業義務の廃止について、利用者から賛同の署名を集める団体も現れた

これを読むとセブンイレブンで「24時間営業」を免除されている加盟店はないと理解したくなります。しかし「セブン&アイ、小田急駅構内にコンビニ出店 提携後初」という2018年10月1日付の日経の記事によると「セブン―イレブン小田急マルシェ新宿店」の営業時間は「午前6時30分~午後11時」です。日経は提携時に「(小田急は)駅構内売店やコンビニはセブン―イレブンのフランチャイズ店舗に転換していく」とも報じています。小田急商事のホームページで「セブンイレブン」の営業時間を見ると16店が「非24時間営業」となっています。

連日24時間開店し、営業を実施する」と「明記されて」いない「フランチャイズ契約」を結んだ加盟店は既に存在するのではありませんか。今回の記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。少なくとも不正確で誤解を招く説明だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ついでで恐縮ですが、文の書き方にも注文を付けておきます。

収益性や夜間や早朝の物流のあり方、閉店や開店に伴う従業員の作業負荷などを検証する目的だ」と書くと1つの文に並立助詞の「」が3回も出てきて読みにくくなります。読点を打っていないので「『収益性や夜間や早朝』の物流のあり方」とも取れます。

例えば「収益性だけでなく、夜間・早朝の物流のあり方、閉店や開店に伴う従業員の作業負荷などを検証する目的だ」とすれば、かなり読みやすくなります。「1つの文に2つ以上の『』を使うと読みにくくなるので、なるべく避ける」と覚えておいてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ビジネスTODAY~コンビニ『24時間』岐路に セブン実験後の行方は…
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190323&ng=DGKKZO42816180S9A320C1TJC000


※記事の評価はC(平均的)。今井拓也記者への評価はCで確定とする。「コンビニ24時間営業問題」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「ビジネスTODAY~コンビニ24時間転機」で引っかかること
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/today24.html

やはり本部寄り? 日経「24時間 譲れぬセブン」今井拓也記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24.html

事実上の選択制? 日経「セブン、契約解除求めず」に思うこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_91.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

絶賛に値する日経ビジネス東昌樹編集長の「編集長の視点」

「素晴らしい」の一語に尽きる。日経ビジネス3月25日号に東昌樹編集長が書いた「編集長の視点~取締役会議長に禁じ手 日産は変われない」というコラムは文句の付けようがない。まずは全文を見てほしい。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

日産自動車はこれからどうなってしまうのでしょうか。

カルロス・ゴーン元会長の不正疑惑で揺れる日産。コーポレートガバナンス(企業統治)を強化するために新設したガバナンス改善特別委員会が「会長が務めていた取締役会議長を社外取締役に任せるべき」と近く提言するようです。日産はこれを受け入れる見通し。すでに会長職は空席にすることで調整しており、取締役会議長が日産企業統治のトップとなります。

日産がその取締役会議長に招こうと検討しているのは経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問だとされます。榊原さんはNTTなどの社外取締役や経済財政諮問会議の議員も務め、実績も能力もある立派な方です。しかし、日産が本気でガバナンスを改革したいと思っているなら、別の方を探した方がよいのではないかと思います。

なぜなら、「社外取締役を取締役会議長に」と提言するガバナンス改善特別委員会の委員長は榊原さんだからです。これは社長指名委員会のメンバーが社長になるようなものです。

労働組合が強い時には労組の言いなりになり、ゴーン元会長が君臨するとその言いなりに。安直に強い者を担ぎ上げ、おもねる体質が日産問題の根底にあるのは間違いありません。今度は経団連会長の看板に頼ろうとしているのならば、日産のガバナンスは改善できるとは思えません。

今号の特集は「人材問題」。人手不足は深刻ですが、よく目を凝らせば、人材は社内外にいるものです。取締役会議長の適任者もきっと。


◎手本とすべき記事

記者として最も必要なものは何かと問われれば「健全な批判精神」と答えてきた。署名入りでコラムを執筆するならば「自分だから書ける、自分にしか書けないものは何か」を考えてほしいとも訴えてきた。

記事の書き手には、結論に説得力を持たせるべく構成を考え、簡潔で分かりやすい文にまとめる技術も要る。その上で、リスクを負って自らの主張を世に問う覚悟も欠かせない。

そうした条件を満たす書き手がコラムを書いたら、どんな内容になるか。今回の「編集長の視点」が1つの答えだ。

日経では「経団連」に批判的な記事が載ることは稀だ。東編集長は「経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問」を直接的に批判している訳ではないが、「経団連」や「榊原さん」のご機嫌を損ねる可能性は十分にある。そうなれば、いずれ日経本社に戻る東編集長の処遇にマイナスに働く懸念もある。そのリスクを負って今回のコラムを書いた姿勢をまずは評価したい。

日産がその取締役会議長に招こうと検討しているのは経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問だとされ」ていることに対し「日産が本気でガバナンスを改革したいと思っているなら、別の方を探した方がよいのではないか」「社長指名委員会のメンバーが社長になるようなもの」と異を唱えているのも納得できる。

調べた範囲では、東編集長と同じ視点に立っている記事は見つけられなかった。唯一無二とは断定できないが、東編集長だからこそ書ける内容に仕上がったと言えるだろう。「今号の特集は『人材問題』」と誌面の中身に触れた後で「よく目を凝らせば、人材は社内外にいるものです。取締役会議長の適任者もきっと」と結んでいる。着地も見事だ。

今回の記事には、コラムの書き手が手本にすべき要素がぎっしり詰まっている。記事作りに関わる多くの人に読んでほしい。そう願わずにはいられない。


※今回取り上げた記事「編集長の視点~取締役会議長に禁じ手 日産は変われない
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00107/00013/


※記事の評価はA(非常に優れている)。東編集長への評価はB(優れている)を据え置くが強含みとする。東編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

コメントの主は誰? 日経ビジネス 東昌樹編集長に注文
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_16.html

「中間価格帯は捨てる」で日経ビジネス東昌樹編集長に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_87.html

「怪物ゴーン生んだ」メディアの責任に触れた日経ビジネス東昌樹編集長に期待
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_3.html

詰め込み過ぎが惜しい日経ビジネス東昌樹編集長の「傍白」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_17.html

2019年3月22日金曜日

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」

「そう言う日経自身はどうなの?」と聞きたくなる記事が22日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に出ていた。「Deep Insight~進化続ける『働きたい会社』」という記事で筆者の中山淳史氏(肩書は「本社コメンテーター」)は以下のように書いている。
長崎県美術館(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

(転職志向が強まっている)理由は終身雇用に飽き足らないミレニアル世代の特徴だ、との見方もある。だが専門家の多くが指摘するのは日本企業の組織の実情だ。例えば若い世代が就活時や入社後に接し、驚くのはバブル期の大量採用組を中心とした40歳代後半以降の社員の多さだという。

45歳以上の大企業社員は現在、全国に約500万人いる。そのうち約200万人は管理職になれなかったり、役職定年を迎えたりしてポストのない社員と推定されている。若い社員はそうした世代から会社への不満を聞かされる一方、先輩層が滞留する結果、やりたい仕事を与えてもらえない組織に幻滅していく

若者を巡る変化は日本企業への警鐘だ。平成と重なる「失われた30年」の間、多くの企業は再教育やキャリア形成への支援が手薄なまま組織を硬直化させた。技術革新は当然生まれにくくなり、それ以上に「日本の大企業で働くことが本当に幸せか」という根源的な命題まで突きつけられてしまった可能性がある。

新元号の下で始まる時代に向け、新しい企業の姿を見つめ直す時かもしれない。考える起点はやはり、若者をはじめ社員が心の奥底で抱いているいまの組織への違和感だろう。



◎日経にも当てはまるのでは?

40歳代後半以降の社員の多さ」は日本経済新聞社にも当てはまる。「管理職になれなかったり、役職定年を迎えたりしてポストのない社員」もいる。そうした社員の中には「会社への不満」を抱える者もいるはずだ。

日経では「若い社員」は「組織に幻滅」していないのか。日経は「再教育やキャリア形成への支援が手薄なまま組織を硬直化」させていないのか。署名入りで「働きたい会社」をテーマにコラムを書くのならば、「そういう日経はどうなの?」という疑問には答えてほしい。もちろん、多くの紙幅を割く必要はない。

例えば「若い社員はそうした世代から会社への不満を聞かされる一方、先輩層が滞留する結果、やりたい仕事を与えてもらえない組織に幻滅していく」と書いた後に「それは自分が所属する日本経済新聞社にも当てはまる問題だ」と一言入れるだけで「自分たちのことは棚に上げて何を偉そうに語っているのか」という感じがなくなる。

「そんなこと書いたら上から睨まれて『本社コメンテーター』でいられなくなる」と恐れるのならば、この手の問題は記事にしない方がいい。

ついでに、記事で取り上げた「ティール(青緑)組織」に関する記述にもツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

ではラルー氏が推奨するティール(青緑)組織とは何かと言えば、「上下関係や目標管理がない」「一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う」組織だ。例えれば生態系や臓器に近い。そんな組織が本当に存在するのかと思う人は多いだろう。だが同書に出てくるのは空想の産物ではなく、同氏が「既存の企業に違和感を覚え、世界中を歩いて発見した」というパフォーマンスの高い実在の企業や非営利組織だ。

中略)日本にもティール組織に似た企業は存在する、と私は考える。岐阜県にある電気設備機器メーカー、未来工業は社長、役員、管理職がいる普通の会社組織の体裁をとっている。だが、業務の「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」を一切求めず、社員一人一人に権限を与え、それを組織全体で支える経営で知られる。

山田雅裕社長は「社員のやる気がすべて。それを失っては組織がうまく回るはずがない」と話す。仕事に打ち込んでもらうために、社員からは1件500円で「業務改善提案」を募り、無駄な業務を年間5千件もとりやめる。残業は禁止。休日は日本企業で最も多い年間140日に達するが、創業以来赤字を出したことは一度もない。昨年12月には東証1部へ上場を果たした。

もう一社ある。コピーライターの糸井重里氏が経営し、手帳の販売などで知られるほぼ日(ジャスダック上場)。同社も似ており、社員の自主性、リーダーシップでヒット商品を連発している

もともとは「東京糸井重里事務所」だった。改組したのは、「一緒に働く人と自分の関係が『子弟』から『教え合う仲』に一変したため。インターネットの普及は人と人の関係を大きく変え、若い人の方がむしろネットを巧みに操って情報を豊富に獲得する時代になった」と糸井氏は言う。



◎対して「似て」ないような…

ティール(青緑)組織」は「『上下関係や目標管理がない』『一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う』組織だ」と中山氏は言う。ほとんどの組織には「一人一人が自らの考えと意志で働き、互いに支え合う」面がある。故に重要なのは「上下関係や目標管理がない」ことだと思える。

未来工業」は「社長、役員、管理職がいる普通の会社組織の体裁をとっている」。「目標管理」があるかどうかは説明がない。それで「ティール(青緑)組織」に似てると言われても困る。

ほぼ日」も同様だ。「社員の自主性、リーダーシップでヒット商品を連発している」だけならば、「上下関係や目標管理がない」とは言い難い。社員の裁量を広く認めているだけとも取れる。「ティール組織に似た企業は存在する」と言うならば、最低でも「上下関係や目標管理が『ほぼ』ない」事例が欲しい。「未来工業」も「ほぼ日」もその条件を満たしているようには見えない。

日本にもティール組織に似た企業は存在する」と中山氏は言う。裏返せば、似た企業はあっても「ティール組織」と呼べる企業は「存在」を確認できないのだろう。そして「似た企業」として取り上げた2社も、それほど「似た企業」ではなさそうだ。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~進化続ける『働きたい会社』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190322&ng=DGKKZO42707810Q9A320C1TCR000


※記事の評価はC(平均的)。中山淳史氏への評価もDを据え置くが、強含みとする。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

2019年3月21日木曜日

ETFの信託報酬 最安は0.5%? 日経 根本舞・松本裕子記者の誤解

日本経済新聞の根本舞記者と松本裕子記者は「(日本国内の信託報酬は)指数連動のETFでは同0.5~1%以下」と認識しているらしい。何のために「以下」を付けているのかよく分からないが、事実誤認があると思える。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
名護屋城天守跡(佐賀県唐津市)からの風景
        ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 根本舞様 松本裕子様

21日の朝刊金融経済面に載った「投信、独自指数運用広がる~スタートアップと連携 低コスト、AIが銘柄選択」という記事についてお尋ねします。記事には「国内ではテーマ型の投資信託の信託報酬は年1.5~2%なのに対し、指数連動のETFでは同0.5~1%以下だ」との記述があります。これを信じれば、国内の「指数連動のETF」の「信託報酬」は「0.5~1%」の範囲に収まっているはずです。

しかし、信託報酬0.5%未満のETFは当たり前に存在します。日経電子版の「投資信託」で検索するだけでも、そうしたETFが多数出てきます。例えば「TOPIX連動型上場投資信託(野村アセットマネジメント)」の「実質信託報酬」は「0.2592%」です。

記事では「0.5~1%以下」(日本語として不自然ですが…)となっているので「『0.5~1%』以下」との趣旨である可能性も考慮しました。この場合、単に「1%以下」と書けば済みます。「0.5~」を入れる意味がありません。「0.5~1%以下」は「0.5~1%」と解釈するのが妥当でしょう。

指数連動のETFでは同0.5~1%以下」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「投信、独自指数運用広がる~スタートアップと連携 低コスト、AIが銘柄選択
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190321&ng=DGKKZO42713320Q9A320C1EE9000


※記事の評価はD(問題あり)。松本裕子記者への評価はDを維持する。根本舞記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。


※松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「超低金利 揺れる企業年金」の苦しい内容
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/06/blog-post_21.html

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post.html


※根本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

今のスマホではAIを使えない? 日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/ai.html

2019年3月20日水曜日

6%増収でも「ドラッグストアは成長の踊り場」と日経は言うが…

20日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「ビジネスTODAY~ドラッグ店 消耗戦に 売上高7兆円見込むも利益率低下 人件費・爆買い鈍化が重荷」という記事は問題が多かった。まずは冒頭の「ドラッグストアが成長の踊り場に立っている」との見立てが苦しい。記事では以下のように説明している。
小石川後楽園(東京都文京区)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ドラッグストアが成長の踊り場に立っている。2018年度は総売上高で7兆円を突破する見通しだが、人件費上昇や訪日客の爆買いの一服で利益率は低下傾向だ。これまでドラッグストアは高収益の医薬品や化粧品のもうけを元手に、食品や日用品の安値攻勢でスーパーやコンビニエンスストアの牙城を切り崩してきた。一段の成長に向けた店舗拡大は消耗戦になりつつある。

日本チェーンドラッグストア協会の調査によると、18年度の全店売上高は前年度比6.2%増の7兆2744億円となるもようだ。店舗の純増数も過去15年で最高となり、合計の店舗数は2万店を超えるようだ。市場規模はこの3年間、年率5~6%増のペースで拡大している。

一方、百貨店は18年に前年比微減の5兆8870億円、コンビニは同2.6%増の10兆9646億円だった。ドラッグストアは百貨店を16年度に抜き去り、コンビニの背中を猛追する格好だ。



◎「6.2%増」でも「踊り場」?

ドラッグストア全体の「成長」を見る場合、売上高や店舗数で判断するのが普通だろう。「18年度の全店売上高は前年度比6.2%増」「店舗の純増数も過去15年で最高」「市場規模はこの3年間、年率5~6%増のペースで拡大」となっているのならば「成長の踊り場に立っている」とは言い難い。

筆者ら(池下祐磨記者と山田航平記者)は利益で「成長」を見ているのかもしれない。だが、「市場規模」が順調に拡大している業界の場合、「利益率は低下傾向」だとしても「成長の踊り場に立っている」とは言わない気がする。

どうしても利益で「成長」を語りたいのならば「ドラッグストアが利益面で成長の踊り場に立っている」などと書いた方がいい。

さらに言えば、記事では「マツモトキヨシホールディングス、サンドラッグ、ココカラファイン、スギHD、ウエルシアHDの大手5社は、18年度第3四半期にマツキヨを除く4社が営業減益となった」とは書いているものの、「ドラッグストア」全体の利益は不明だ。「大手5社」で見た利益の額にも減少率にも触れていない(記事に付けたグラフから減益率はある程度分かるが…)。

見出しが「ドラッグ店 消耗戦に」となっていて「踊り場」を使っていないのは、整理部の担当者も「成長の踊り場」になっていないと感じたのかもしれない。

もう1つ気になるのが「人件費上昇や訪日客の爆買いの一服で利益率は低下傾向だ」と最初の段落で触れているのに、最後まで読んでも「利益率」のデータが一切出てこないことだ。いつと比べてどの程度の「低下」なのかも不明。これでは苦しい。

次は文の書き方について注文を付けたい。

【日経の記事】

爆買いの一服で高収益の医薬品や化粧品のもうけを元手に、食品や日用品で安値攻勢をかける戦略は成り立たなくなる可能性がある。



◎語順が…

筆者らは「爆買いの一服で~成り立たなくなる可能性がある」と言いたいのだろう。しかし、途中に読点もあるので関係が分かりにくい。「『爆買いの一服で高収益』の医薬品」とも取れる。これは語順を変えるだけで簡単に問題を解消できる。

【改善例】

高収益の医薬品や化粧品のもうけを元手に食品や日用品で安値攻勢をかける戦略は、爆買いの一服で成り立たなくなる可能性がある。

◇   ◇   ◇

どちらが分かりやすいか、池下祐磨記者と山田航平記者はしっかり比べてほしい。

最後に記事の終盤にもツッコミを入れておく。

【日経の記事】

ウエルシアHDは18年3月に中堅の一本堂を買収したが、生き残りのための再編はまだ緒に就いたばかりだ。人手不足解消のため、後継ぎのいない地域の調剤薬局の買収を検討する動きも出てきた。頭打ちのコンビニ市場を追い越せるか。快進撃してきたドラッグストアは試練の時を迎えた。



◎本当に「まだ緒に就いたばかり」?

本当に「生き残りのための再編はまだ緒に就いたばかり」なのか。これまでも多くの「再編」があったはずだ。「ウエルシアHD」に限っても、2006年に「いいの」と「ナカヤ」を吸収合併し、その後も次々と多くの会社を吸収合併したり子会社化したりしているようだ。「18年3月に中堅の一本堂を買収」するまでの「再編」は「生き残りのため」ではなかったとの判断なのか。ちょっと考えにくい。


※今回取り上げた記事「ビジネスTODAY~ドラッグ店 消耗戦に 売上高7兆円見込むも利益率低下 人件費・爆買い鈍化が重荷
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190320&ng=DGKKZO42663730Z10C19A3TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。池下祐磨記者と山田航平記者への評価も暫定でDとする。

東洋経済のコラムで「単年登録者」への配慮欠いた小林浩美LPGA会長

日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長が週刊東洋経済のコラムで「日本女子プロゴルフ協会(LPGA)は、当協会のプロテストに合格して、初めてプロゴルファーと認定しています」と書いていた。違う気がしたので、以下の内容で東洋経済の編集部に問い合わせを送った。ほぼ同じ内容をLPGAにも送っている。
別府湾(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

今回の記事では「単年登録者」に対する小林会長の配慮のなさも感じた。その点も問い合わせの中で触れている。内容は以下の通り。


【東洋経済新報社への問い合わせ】

週刊東洋経済編集長 山田俊浩様 日本女子プロゴルフ協会会長 小林浩美様

週刊東洋経済3月23日号の「ゴルフざんまい No.637 プロゴルファーと単年登録者の違い」という記事についてお尋ねします。記事中には「日本女子プロゴルフ協会(LPGA)は、当協会のプロテストに合格して、初めてプロゴルファーと認定しています」「日本女子プロゴルフ協会は創立以来、プロテストに合格した人をプロゴルファーと認定する団体であり、プロテストに合格した人(現在898名)を当協会の会員とする会員組織だからです」「当協会では、プロテストに合格した人をプロゴルファーと認定しています」といった記述があります。

これを信じれば「LPGA」の「会員」である「プロゴルファー」は全員「プロテストに合格」しているはずです。本当にそうでしょうか。例えば畑岡奈紗選手です。

2017年10月5日付の日刊スポーツの記事によると「静岡・裾野市の東名CCで日本女子プロ協会(LPGA)から会員証を授与された」ことを受けて畑岡選手は「プロテストに合格しないと手にできないものと思っていたので、優勝で手にできたことはうれしい」とコメントしています。記事では「今季からLPGAはツアー優勝した選手が会員申請した場合、理事会を経て入会を承認している」と説明しています。この制度は小林様も承知しているはずです。

LPGA」のホームページで畑岡選手のプロフィールを見ると「プロフェッショナル会員」となっています。「日本女子プロゴルフ協会(LPGA)は、当協会のプロテストに合格して、初めてプロゴルファーと認定しています」といった説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「単年登録者=プロゴルファーではない」と取れる書き方には疑問を感じました。「単年登録者=当協会認定のプロゴルファーではない」とするのは分かります。しかし記事には「単年登録者」に関して「一般企業の方がプロゴルファーだと錯覚して自社のプロアマ大会に呼んでしまったり」といった記述もあります。

LPGA」認定のプロゴルファーの条件を決める権限は「LPGA」にあるでしょう。しかし「プロゴルファー」の定義を決めるのは「LPGA」ではありません。例えば「ゴルフのトーナメント出場やレッスンから収入を得ている者」と定義すれば「単年登録者」も立派な「プロゴルファー」です。

多くのメディアでは「単年登録者」を「女子プロ」として扱っていますが、それは間違いですか。「単年登録者」を「自社のプロアマ大会」に呼んだ「一般企業の方」は「(単年登録者を)プロゴルファーだと錯覚」しているとは言い切れません。

女子ツアーにも貢献している「単年登録者」をプロでもアマチュアでもない中途半端な存在だと解説する今回の記事には、「単年登録者」への配慮が欠けていると感じました。「彼女らも立派なプロゴルファーだが、当協会認定のプロゴルファーではない」でいいのではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ゴルフざんまい No.637 プロゴルファーと単年登録者の違い
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20166


※記事の評価はD(問題あり)。小林浩美LPGA会長への評価は見送る。

2019年3月19日火曜日

TOBで伊藤忠以外の株主は損? 日経 松崎雄典編集委員の「一目均衡」

伊藤忠商事によるデサントへの敵対的TOB(株式公開買い付け)が成立した」のを受けて、日本経済新聞の松崎雄典編集委員は19日朝刊の記事で「伊藤忠にはうまい投資だが、裏を返せば他の株主は損を被る」と書いていた。この説明がどうも引っかかる。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
狭霧台(大分県由布市)※写真と本文は無関係

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 松崎雄典様

19日の朝刊投資情報面に載った「一目均衡~『初』の敵対的TOB 光と影」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

今回のTOBには影の側面もある。第2位株主が伊藤忠に賛同しており40%しか持たなくても議決権の過半を握ることが可能だ。10%の買い増しという最小限の資金で実質的な支配権を買った。伊藤忠にはうまい投資だが、裏を返せば他の株主は損を被る

今回のTOBでは買取価格に大きなプレミアムが付いています。TOBに応募して保有株を売却した株主は「損を被る」でしょうか。多くの株主が利益を得ているはずです。TOBの公表を受けて市場価格も大きく上昇したので、市場で売却した株主も同様でしょう。

記事で言う「他の株主」とは現時点での伊藤忠以外の「株主」との可能性も考慮しました。その場合も、TOB公表後の株価上昇を考慮すると「他の株主は損を被る」とは言えません。

具体例を見てみましょう。記事には以下の記述があります。

ある英系運用会社はTOBに応募して保有株の一部を現金化したうえで、株主として残るという。卸を経由した販売から自社店舗販売に比重を移して株価が大幅高となったゴールドウインのような改革を望んでいる

この「英系運用会社」は「損を被る」側ですか。よほどの高値づかみの株でない限り、「保有株の一部を現金化」して利益を得ているでしょう。さらに「株主として残る」訳ですから、TOB公表後の市場価格上昇の恩恵も受けています。

伊藤忠にはうまい投資だが、裏を返せば他の株主は損を被る」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。この説明からは「伊藤忠と他の株主はゼロサムゲームの関係」との前提を感じます。しかし、そうではありません。「伊藤忠」にも「他の株主」にも「うまい投資」となる可能性はあるのです。

記事では「英系運用会社」が「卸を経由した販売から自社店舗販売に比重を移して株価が大幅高となったゴールドウインのような改革を望んでいる」と書いています。そうなれば、やはり「伊藤忠」にも「他の株主」にも「うまい投資」となる可能性が高まります。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「一目均衡~『初』の敵対的TOB 光と影
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190319&ng=DGKKZO42592240Y9A310C1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。松崎雄典編集委員への評価はDを維持する。松崎編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 松崎雄典記者へ問う 「0.07ポイント差は有意?」 
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/08/007.html

書かせすぎでは? 日経証券部 松崎雄典記者「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/10/blog-post_58.html

円はドルより「安全」?日経 松崎雄典記者の1面解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/01/blog-post_17.html

「日本はHFTほとんどない」? 日経 松崎雄典編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/hft.html

日経ビジネス特集「ダイナミック・プライシング」の問題点

インタビュー記事を作る場合、取材相手が事実誤認していることはよくある。しかし、その発言を「本人がそう言ってるんだから」と記事にしては記者失格だ。取材相手が経営する会社の内部事情など確認できない件もある。ただ、少し調べれば分かる範囲であれば、しっかりチェックすべきだ。
伐株山園地(大分県玖珠町)から見た風景
           ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス3月18日号の特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価」の中のインタビュー記事で、星野リゾートの星野佳路代表が「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」と語っていた。ここには明らかな事実誤認がある。

これに関する問い合わせと回答は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 藤村広平様

3月18日号の特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価」について2点お尋ねします。

(1)居酒屋では時間帯で値段が変わらない?

星野リゾート代表 星野佳路氏のインタビュー記事に「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」という星野氏の発言が載っています。「居酒屋」に関しては、明らかな事実誤認ではありませんか。

外食業界では「ハッピーアワー」を設定してビールなどの価格を割り引く店が山のようにあります。居酒屋で「午後6時までビール3割引き」といった表示を目にした経験はありませんか。

居酒屋でビールを飲んでも時間帯で値段が変わることはない」という認識は誤りだと考えてよいのでしょうか。星野氏に事実誤認があったとしても、藤村様が記事にする段階で対応できたはずです。なぜそのまま記事にしてしまったのですか。


(2)ホテルは休日が高い?

特集には「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」との記述があります。一般的には、「休前日=土曜」「休日=日曜」です(祝日は無視して考えます)。なので「土曜と日曜が高くて、月曜から金曜までが安い」と藤村様は認識しているのでしょう。しかし、常識的には「金曜と土曜が高くて、日曜から木曜までが安い」ではありませんか。

記事で取り上げていた「女性向けカプセルホテル『MAYA TOKYO WOMAN』」のホームページを見てください。「平日」の金曜より「休日」の日曜の方が安くなる傾向が確認できます。「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。

ついでで恐縮ですが、特集に関して他にも2つ指摘しておきます。まず「革命」についてです。

藤村様は「商いの根幹である値決めに、革命が起きようとしている」と冒頭で打ち出しています。基本的に「革命」を使うのはお薦めしません。特集を盛り上げたいのは分かりますが、「革命」を打ち出した企画で「確かに革命だな」と感じた記憶がほとんどありません。

日本経済新聞の正月企画に顕著ですが、「革命」という言葉は多くの場合「それほど凄いことは起きていないが、何とか盛り上げて書きたい」という作り手の気持ちの表れです。今回の「ダイナミック・プライシング」も「それほど新しい動きではない」と藤村様自身が認識しているのが記事から伝わってきます。そこを無理して「革命」に見せる必要はないのです。かえって説得力がなくなります。

また、「『一物一価の原則』が通用しない時代が目前に迫っている」との説明にも問題を感じました。今は「『一物一価の原則』が通用する時代」と言えますか。個人的には「『一物一価の原則』が通用する時代」を経験したことがありません。

今が「『一物一価の原則』が通用する時代」ならば、同じ銘柄のペットボトル飲料はコンビニでもスーパーでもドラッグストアでも同じ価格で売られているはずです。しかし、そうはなっていません。かなりの価格差があります。

ブリタニカ国際大百科事典 によると「一物一価の法則」は「完全競争市場の成立」を前提としており「財の移動やサービスの提供に物理的・人為的制約がないこと」が求められます。そうした条件を満たして「一物一価の法則」を具現化した時代があったでしょうか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。注文ばかり付けましたが、特集自体は興味深く読めました。今後に期待しています。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、お答えさせていただきます。

(1)居酒屋について

確かにご指摘の通り、居酒屋では「ハッピーアワー」などで値段が変動するケースはあります。ただしホテル料金とは違い、2倍や3倍に価格が上下するのはまれかと思います。星野代表はそうした点を考慮して、「値段が変わることはない」と述べたのだと考えます。編集部として補足すべきだったかもしれませんが、読みやすさを重視して発言をより忠実に再現しました。

(2)ホテルは休日が高い

厚生労働省がまとめた「平成30年就労条件総合調査」によると、日本企業の 84.1%は
「何らかの週休2日制」を採用しています。業種・業態によって休みの 曜日は異なりますが、日本では土曜日と日曜日を「休日」と考えるのが一般的でしょう。その場合、「休前日」は金曜日と土曜日のことを意味します。メールでは「休日=日曜」と限定していらっしゃいますが、週休1日制を採用する企業は8.9%のみ(同調査)です。土曜日は「休日」であるのと同時に「休前日」でもあります。金曜日は「休前日」であり「平日」です。
ただ、「休日や休前日になると高くなり」という表現が言葉足らずだった点は否めません。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。ご期待にお応えできるよう、真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。

◇   ◇   ◇

上記の回答に関して補足してコメントしたい。

まず「読みやすさを重視して発言をより忠実に再現しました」との弁明は無理がある。「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」という発言を「マクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」と修正すれば済む話だ。その方が「読みやす」いとも言える。「居酒屋でビール」は今回のインタビュー記事に必須の要素ではない。

次に「一般的」にはいつが「平日」「休前日」「休日」かについてだ。今回の場合、ホテル予約に関しての「一般的」を考えるべきだ。例えばJTBでは「休前日=祝祭日の前日と土曜日」「休日=休前日以外の日曜日と祝祭日」「平日=休前日・休日以外の月~金曜日」としている。これに従えば、祝日を考慮しない場合に金曜は「休前日」とは言えない。

百歩譲って金曜が「休前日」だとしても、日経BP社の回答にあるように「金曜日は『休前日』であり『平日』」となってしまう。そう認識しているのに「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」と書いたのならば、わざと読者を惑わせる書き方をしたと言われても仕方がない。実際は、あまり深く考えずに書いてしまっただけだと思うが…。

また、記事では「休日や休前日になると高く」なると書いているので、日曜も「高く」なる必要があるが、現実はそうなっていない。今回の回答では、その問題にも上手く答えられていない。


※今回取り上げた特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00059/


※記事の評価はD(問題あり)。藤村広平記者への評価はDで確定させる。藤村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

読むに値しない日経ビジネス藤村広平記者の「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_30.html

瑣末な問題あるが日経ビジネス「コンビニ大試練」を高評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_28.html

Jフロントは保育事業に参入済み? 日経ビジネスの見解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_12.html

「減り続けるATM」に無理がある日経ビジネス藤村広平記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/atm.html

2019年3月18日月曜日

中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~中国のもう一つの憂鬱 『中進国の罠』どう回避」という記事で原田亮介論説委員長が「中進国の罠」を「どう回避」するのか「一つの処方箋」を示してくれている。これが説得力に欠ける中身だった。そのくだりを見ていこう。
八坂川(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】
  
1人当たりGDPが1万ドルを超えるあたりから、途上国の経済成長が停滞する――。「中進国の罠」である。戦後これを回避できたのは日本などごく一部の国だ。習近平体制も、20年までは表向き6%成長を死守するとして、その後の成長率の低下をどこまで抑えられるだろうか。

ロンドンに本社を置く調査会社キャピタル・エコノミクスは独自に中国の実質成長率を推計し、18年は公式統計より1.3ポイント低い5.3%とみている。構造改革が進まないと、20年代末までに「2%まで下がる恐れがある」とチーフエコノミストのニール・シアリング氏はブログで指摘している。

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ。「01年の世界貿易機関(WTO)加盟は外圧となり、中国を変えた。もう一度それができるかどうか」(関氏)

いま中国では1日あたり1万8千社の会社が生まれている。1週間で日本の年間の新設法人数に匹敵する規模だ。問題はこうした旺盛な起業家精神をどのようにイノベーションにつなげるかだ

例えば日本企業からも悪名高い、技術やノウハウを中国に「強制移転」するよう求める制度がある。米中摩擦でも争点となり、中国は見直す方針だ。知財を保護しなければ国内起業家も不利益を被る。既得権を壊し、世界に通じるルールづくりを急ぐ時だ

◇   ◇   ◇

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ」という原田論説委員長の解説に感じた疑問を挙げてみる。

◎疑問その1~「外圧」が有効?

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ」との書き方からは「やりたくても抵抗が強い改革を実行するために『外圧』を利用すべきだ」とのニュアンスを感じる。

民主主義国家では国民に不人気な政策を導入する時に「外圧」が有効かもしれない。選挙や議会を考える必要があるからだ。しかし中国はそうではない。例えば「知財を保護」する政策を中国の指導部が実施に移したいと考えている時に「外圧」を利用する必要はあるだろうか。


◎疑問その2~「強制移転」の見直しが有効?

原田委員長は「外圧」を受けて「技術やノウハウを中国に『強制移転』するよう求める制度」の見直しも「中進国の罠」を「回避」するために有効だと見ているようだ。「強制移転」はどちらかと言うと制度として残した方が「中進国の罠」を「回避」するのに有効のような気もする。「技術やノウハウ」は経済成長の重要な要素だ。総合的に見ると「強制移転」の見直しが中国にとっても好ましいのかもしれないが、「処方箋」にはなりそうもない。


◎疑問その3~「知財保護」が有効?

知財を保護しなければ国内起業家も不利益を被る。既得権を壊し、世界に通じるルールづくりを急ぐ時だ」と記事を結んでいるので、「知財を保護」すれば「中進国の罠」を「回避」できると原田論説委員長は見ているのだろう。

これもよく分からない。「問題はこうした旺盛な起業家精神をどのようにイノベーションにつなげるかだ」とも書いているので、「知財を保護」→「イノベーション」が増加--と想定しているのかもしれない。

日本は知財保護で先行していて、中国は遅れているとの前提で考えてみよう。日本は次々と「イノベーション」を生み出しているのに中国はさっぱりならば、「知財を保護」すれば「イノベーション」が増加するかもと考えるのも分かる。

しかし、イメージで言えば、近年は日本よりも中国の方が「イノベーション」を生み出している感じがする。「イノベーション」の多寡と直接結び付く訳ではないが、例えばユニコーン企業は米国に次いで中国が多いとされている。

外圧」を利用して「知財を保護」すれば「イノベーション」に結び付いて「中進国の罠」を「回避」できるだろうか。無理とは言わないが、やはり説得力は感じられない。



※今回取り上げた記事「核心~中国のもう一つの憂鬱 『中進国の罠』どう回避
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190318&ng=DGKKZO42520980V10C19A3TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員

久しぶりに日経ビジネスの田村賢司主任編集委員を取り上げてみたい。田村編集委員が書いた3月18日号の「米朝物別れで日本防衛に“危機”」という記事は色々と問題が多かった。中でも以下のくだりが最も引っかかった。
渋谷駅前(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

今回決定した米韓合同軍事演習の停止だけでも、「これが数年続けば兵員の練度が下がるのは確実」(海上自衛隊の元艦隊司令官、香田洋二氏)とされる。仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる。仮に有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合、有力な米軍兵力が韓国内になければ何が起こるか分からないからだ。



◎今の「防衛線」は38度ライン?

仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる」と田村主任編集委員は言う。つまり今の「日本の防衛線」は「対馬海峡」より北になる。それがどこか明示していないが、仮に北朝鮮と韓国の国境を「日本の防衛線」としよう。

だとすると、日本は北朝鮮が韓国に侵攻してきた時に「日本の防衛線」を突破されたことになる。この場合に日本は自衛隊を投入して北朝鮮を撃退し「日本の防衛線」を守る必要があるが、明らかな憲法違反だ。なのに「防衛線」と言えるだろうか。

ついでに言うと「仮に有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合、有力な米軍兵力が韓国内になければ何が起こるか分からないからだ」との説明も引っかかる。裏返して言えば「有事の際の戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない場合でも、有力な米軍兵力が韓国内にいれば何が起こるか分かる」はずだ。しかし、「有事」でしかも「戦闘初期にミサイルなど火力で圧倒できない」のであれば、「有力な米軍兵力が韓国内」にいても、その後の展開は見通しにくい。

今回の記事のテーマは「米朝物別れで日本防衛に“危機”」だ。この見立ても苦しい。「今回の合同軍事演習停止」を受けて「日本にとっての影響は想定以上に大きいのではないか」と田村主任編集委員は分析している。しかし根拠は乏しい。

今回決定した米韓合同軍事演習の停止だけ」ならば「これが数年続けば兵員の練度が下がるのは確実」といった程度の問題だ。それで「日本防衛に“危機”」「日本の安全保障は大きな影響を受けかねない」と見るのは大げさすぎる。

仮に在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態となれば、日本の防衛線は対馬海峡まで下がることを想定する必要が出てくる」とも書いているが、「在韓米軍の撤退、あるいはそれに近い事態」が現実的になっている感じもない。あくまで仮定の話だ。「米朝物別れで日本防衛に“危機”」との分析に説得力はない。

さらに言えば、最後の段落も理解に苦しんだ。

【日経ビジネスの記事】

まして日韓の政治関係が悪化し、自衛隊と韓国軍の間まで冷え込んでいる状況は、日本にとって楽観できないと言うべきだろう。有事の際、中国は軍事的に表だって北朝鮮を支援することはないが、「米国の占領などを黙ってみていることはあり得ない」が外交関係者の一致した見方。日韓関係の改善が見込めない今、防衛戦略も見直さざるを得なくなっているのではないか


◎なぜ「見直し」が必要?

日韓関係の改善が見込めない」と「防衛戦略」を見直す必要が出てくると田村編集委員は言う。どこをどう見直すべきか触れていないので判断は難しいが、日本の「防衛戦略」とは良好な「日韓関係」を前提にしたものなのか。韓国は同盟国でもない。
月隈公園(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

有事の際、中国は軍事的に表だって北朝鮮を支援することはないが、『米国の占領などを黙ってみていることはあり得ない』が外交関係者の一致した見方」ならば、「日本にとって楽観」できる状況ではないか。朝鮮半島での「有事の際」に「中国」が「軍事的に表だって北朝鮮を支援することはない」のだから、米中の直接対決は避けられる。


最後に文の作り方にも苦言を呈しておく。

【日経ビジネスの記事】

昨年末の日本海・能登半島沖での海上自衛隊機に対する韓国海軍駆逐艦からの火器管制レーダー照射問題や、韓国に寄港する海上自衛隊の護衛艦に自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛を求めるなど、政治同様にその関係は冷え込んでいる。



◎並べ方が…

上記の文は「」を使って何と何を並べているのか分かりにくい。形式的には「火器管制レーダー照射問題」と「自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛」だ。しかし、それだと「火器管制レーダー照射問題を求める」ことになり、意味が通じない。

文脈から判断すると「火器管制レーダー照射問題」と「自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛を求める」を並べているのだろう。だが名詞と動詞なので不自然だ。改善例を示してみる。

【改善例】

昨年末の日本海・能登半島沖での海上自衛隊機に対する韓国海軍駆逐艦からの火器管制レーダー照射問題や、韓国に寄港する海上自衛隊の護衛艦への自衛艦旗(旭日旗)掲揚自粛の要請などもあり、政治同様にその関係は冷え込んでいる。


※今回取り上げた記事「米朝物別れで日本防衛に“危機”
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00108/00011/


※記事の評価はD(問題あり)。田村賢司主任編集委員への評価はDを維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

2019年3月17日日曜日

日経「米欧とカナダ、ロシア追加制裁」に見える中村亮記者の拙さ

16日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「米欧とカナダ、ロシア追加制裁」というベタ記事には、作り手の技術の低さが表れている。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
日田駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

【ワシントン=中村亮】米財務省は15日、ロシア政府がウクライナの艦船を拿捕(だほ)した事件などにかかわったとして、ロシア治安当局者を含む6個人・8団体に経済制裁を科したと発表した。欧州連合(EU)とカナダも同日、追加制裁を発動して周辺国への内政干渉を続けるロシアに協調して対抗する姿勢を示した



◎ロシアが「追加制裁を発動」?

欧州連合(EU)とカナダも同日、追加制裁を発動して周辺国への内政干渉を続けるロシアに協調して対抗する姿勢を示した」と書くと「追加制裁を発動して周辺国への内政干渉を続けるロシア」に「欧州連合(EU)とカナダ」が「協調」するとも取れる。

改善例を示してみる。

【改善例】

欧州連合(EU)とカナダも同日、周辺国への内政干渉を続けるロシアに追加制裁を発動し、米国と協調してロシアに対抗する姿勢を示した。

◇   ◇   ◇

中村記者は記事の書き方の基礎的な技術が身に付いていないようだ。国際アジア部のデスクの責任ももちろん重い。


※今回取り上げた記事「米欧とカナダ、ロシア追加制裁
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190316&ng=DGKKZO42557820W9A310C1NNE000


※記事の評価はD(問題あり)。中村亮記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。中村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_3.html

カナダが「欧州」に見える日経「米欧、軍事費でも摩擦」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_8.html

EU批判は「NATO批判」? 日経  中村亮記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/eunato.html

2019年3月16日土曜日

「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏

日本経済新聞の村山恵一氏は「本社コメンテーター」の肩書を持つ書き手の中で最も不安要素が少ないと評価してきた。しかし15日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日本の部長、データを学べ」という記事は問題が多かった。まず冒頭部分から見ていこう。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米IT(情報技術)企業群、GAFAに対するデータ独占批判が世界的に高まっている。米国では一部の政治家が会社分割さえ叫ぶ。中国勢のBATを含め、大量の個人データを集めてデータサイエンスを駆使するプラットフォーマーの存在感は、確かに大きい。



◎GAFAがデータ独占?

これまで何度も指摘してきたが「GAFA」を「連携して動く企業グループ」と見なしたとしても「データ独占」はあり得ない。「中国勢のBATを含め、大量の個人データを集めてデータサイエンスを駆使するプラットフォーマーの存在感は、確かに大きい」と村山氏も書いている。ならば「中国勢のBAT」もかなりの「データ」を有しているはずだ。

デジタルデータに限っても、4社による「データ独占」などできるはずがない。「データ独占批判が世界的に高まっている」のだとしたら、誤解に基づく「批判」に過ぎない。

さて、今回の主要テーマは「日本の部長、データを学べ」だ。しかし、どうも話が苦しい。

【日経の記事】

では、肝心の産業界はどうか。データ人材が存分に能力を発揮できるデジタル文化が企業に根づいていなければ意味がない。

大企業の中間管理職にパッションがない。このままではだめとわかっているが、学び直す勇気がない」。デジタルハリウッド大学の杉山知之学長は話す。この15年でデジハリでITを学ぶ社会人は多業種に広がったが、世の中を見渡せば、なお少数派だ。データ経営のけん引役となるべき部長や課長がブレーキでは困る。

成長する世界のIT市場で日本企業のシェアは低落傾向にある。各種の調査を見ても、AI導入に消極的な企業が多い。経営者の責任は重大だが、多くのミドルの不作為も否定できないと思える



◎「ITを学ぶ=データを学ぶ」?

大企業の中間管理職」に「学び直す勇気がない」としよう。何を「学び直す」かというと「IT」のようだ。「ITを学ぶ=データを学ぶ」ではないはずだ。もちろん重なる部分はあるが、どうも話が噛み合っていない。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)
       ※写真と本文は無関係です

また「ITを学び直す勇気がない=データ経営に消極的」とも言い切れない。「自分ではやりたくないが、部下がやってくれるなら大歓迎」という人は当たり前にいるだろう。

多くのミドルの不作為も否定できないと思える」と村山氏は言うが、「ミドルの不作為」が本当にあるのか何の根拠も示していない。村山氏の想像の域を出ていないのだろう。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

そうしたなか、ようやくと言うべきか。CD販売のタワーレコードが来月、ITを使いこなす人材の育成事業を始める。大量のデータを高速処理できる5Gの登場でライブや配信など娯楽も変わる。音楽に関わる人たちを鍛え業界のデジタル感度を上げる



◎あまり関係ないような…

そうしたなか、ようやくと言うべきか」と書いてあるので「タワーレコード」が始める「人材の育成事業」は「ミドル」が「データ」を学ぶものかと思ってしまう。しかし、「ミドル」に絞ったものでも「データ」に絞ったものでもないようだ。

ITを使いこなす人材の育成事業を始める」だけで、なぜ「ようやくと言うべきか」と感じたのか。「音楽に関わる人たちを鍛え業界のデジタル感度を上げる」ものならば、そもそも「音楽」に関係ない「ミドル」は対象外だ。「データ人材」を「育成」するのかも微妙だ。

日本全体でデータサイエンスの水準を引き上げられれば、世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」という村山氏の主張に異論はない。しかし大企業の「ミドル」に「データ」を学ばせたがる気持ちが理解できない。

ミドル」の「学び直し」によって「自分の仕事の質が高まり、年若い部下との会話が円滑になり的外れな意思決定も減る」と言うが、それによって「世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」とは思えない。

大企業の中間管理職」自身が「世界をあっと言わせる起業家」になる可能性は非常に低い。今は大企業にいる若手社員から「世界をあっと言わせる起業家」を輩出したいという話ならば、大企業は「データ経営」に消極的な方が好ましい。大企業に不満を持った人材がどんどん「起業」に踏み切れば「世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」。

村山氏も書きたいことが尽きてきたのだろうか。少し心配になる記事だった。


※「Deep Insight~日本の部長、データを学べ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190315&ng=DGKKZO42465450U9A310C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価はC(平均的)を据え置くが、弱含みとする。

2019年3月15日金曜日

事実上の選択制? 日経「セブン、契約解除求めず」に思うこと

セブンイレブンは24時間営業の選択制を事実上認めたのではないか--。15日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「セブン、契約解除求めず 時短営業オーナーに伝達」という記事を読んで、そう感じた。記事の全文を見た上で、気になった点を記してみたい。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関

【日経の記事】

コンビニエンスストア「セブン―イレブン」で、2月から時短営業をしている大阪府東大阪市の加盟店オーナーに対し、セブン―イレブン・ジャパンが時短営業を理由に契約を解除することはないと伝えていたことが14日、分かった。「東大阪南上小阪店」のオーナーの松本実敏さんが明らかにした。

同店では、2月までの8カ月間で13人が辞めたことから人手が不足し、2月1日から営業時間を午前6時から翌午前1時までの19時間に変更した。セブン側は、フランチャイズ契約に違反する状態と指摘し、契約解除の理由になり得るほか、違約金が発生する可能性があると伝えていた。

松本さんによると、今月11日にセブン本部の担当者が店を訪れた際に「短縮営業を理由にただちに契約を解除して違約金を求めることはない」と伝えられたという。同店の時短営業については「合意があったことにするか実験店とするかは検討したいと言われた」(松本さん)。このほか松本さんは本部側から接客クレームや労務管理の改善を求められたという。

セブン―イレブン・ジャパンでは今月にも全国の直営店と加盟店で時短営業の実験を始める。今後、加盟店側から営業時間の短縮を求められた場合は「個別の事情に応じて話し合う」としている。



◎今井拓也記者に望むこと

今回の記事の内容に大きな問題はない。強いて言えば「これは選択制を事実上認めたのではないか」という疑問に答えてほしかった。

短縮営業を理由にただちに契約を解除して違約金を求めることはない」と本部が言っていて、「今後、加盟店側から営業時間の短縮を求められた場合は『個別の事情に応じて話し合う』」のであれば、全ての加盟店に「時短営業」への道が開ける。

時短営業」を求めれば、まずは「話し合う」ことになるはずだ。交渉が決裂しても「時短営業」を強行すればいい。「短縮営業を理由にただちに契約を解除して違約金を求めることはない」との本部の方針が本物ならば、契約での縛りは気にしなくていい。

ただちに」と書いているので、いずれは「契約を解除して違約金を求めること」があるかもしれない。「東大阪南上小阪店」は例外で、他の加盟店には強硬姿勢を取るとの可能性も残る。ただ、常識的に考えれば、セブンは「時短営業」を求める加盟店に柔軟姿勢を示すと決めたのだろう。

それは「合意があったことにするか実験店とするかは検討したいと言われた」とのコメントからも推察できる。「東大阪南上小阪店」の「時短営業」を「合意があったことにする」のであれば、人手不足を理由に「時短営業」を求める他の加盟店に対して「東大阪南上小阪店は特殊な例外だ」とは主張しづらい。

2月28日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「ビジネスTODAY~24時間 譲れぬセブン 利益分配 人件費は加盟店負担 高収益モデル岐路に」という記事で、「セブン―イレブン・ジャパンは一部店舗で時短営業の実験を始める方針だが、なお『決して24時間営業の原則を変えるわけではない』と強調する」と今井拓也記者は書いていた。

3月15日の記事に署名はないが、今井記者が関わっている可能性は高い。そこで今井記者にお願いがある。以下の3つの疑問に答える記事を書いてほしい。

(1)セブンは事実上、選択制を認めたのではないか?

(2)「24時間営業の原則」は崩れたのか?

(3)実験は何のためにやるのか?

全ての加盟店に「時短営業」への道が開かれているのならば、「決して24時間営業の原則を変えるわけではない」と言えるかどうか怪しい。とは言え「それでも原則は残っている」と見なすのも不可能ではない。今井記者から見て「24時間営業の原則」は堅持されているかを論じてほしい。

実験についても「決して24時間営業の原則を変えるわけではない」という方針が決まっているのであれば、やっても意味がないと感じた。今回の記事は事実上の選択制に踏み切った取れる内容だったので、やはり「方針が決まったのならば、実験は不要」だと思える。

セブンの本部は何のために実験をやるのか。それは必要な実験なのか。あるいは「我々も色々と対策を考えてます」と加盟店や世間にアピールするためのものなのか。

どちらかと言えば本部寄りの今井記者には書きにくい話だとは思う。署名入りの記事でなくてもいい。「なるほど」と納得できる記事を期待したい。


※今回取り上げた記事「セブン、契約解除求めず 時短営業オーナーに伝達
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190315&ng=DGKKZO42487350U9A310C1TJ2000


※記事の評価はC(平均的)。セブンの24時間営業問題に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「ビジネスTODAY~コンビニ24時間転機」で引っかかること
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/today24.html

やはり本部寄り? 日経「24時間 譲れぬセブン」今井拓也記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

「新・物言う株主」が新しくない日経 浜岳彦記者の「スクランブル」

14日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に載った スクランブル~新『物言う株主』は買い? 東芝への経営関与 試金石」という記事は、話の柱となる「新『物言う株主』」に無理がある。最初の段落で筆者の浜岳彦記者は以下のように述べている。
日田市役所(大分県)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

物言う株主が日本株を再び揺さぶり始めた。オリンパスに続いて東芝にも経営関与を提案。かつての村上ファンドのように株主還元を迫るだけでなく、自ら経営に関与しようとするのが今の潮流だ。新型の物言う株主は日本で市民権を得るか。東芝が試金石だ。



◎昔の「物言う株主」は株主還元だけ要求?

かつての村上ファンドのように株主還元を迫るだけでなく、自ら経営に関与しようとするのが今の潮流だ」と言うが、以前から「物言う株主」は「自ら経営に関与しよう」してきたはずだ。

日本大百科全書(ニッポニカ)」は「物言う株主」について以下のように説明している。

株主としての権利を行使し、企業価値が向上するよう経営の見直しを求める投資家の総称。海外では、大量に取得した株式をてこに、積極的に経営改革を迫ることから、アクティビストactivist(行動主義者)とよばれる。経営効率を高めて株価や配当を引き上げる目的で、低収益事業の売却、高収益事業の買収・合併(M&A)、経営資源の集中、コスト削減、手元資金の活用、改革に消極的な役員の退任、改革推進派の役員選任などを要求する傾向がある。(中略)2013年にはアメリカのヘッジファンド大手サード・ポイントThird Point LLCがソニーの映画・音楽部門の分社化を要求するなど、市場での存在感を高めていった

この説明を信じれば「物言う株主」は過去にも「株主還元を迫るだけ」の存在ではなかったことになる。それを裏付けるような事例を浜記者も取り上げている。

【日経の記事】

物言う株主の関与が成功するとは限らない。かつて米スティール・パートナーズはアデランスホールディングスに経営陣を送り込むがうまくいかず、同社はMBO(経営陣が参加する買収)で上場廃止に。米国でも物言う株主を取締役に招いたゼネラル・エレクトリックは経営が混迷する。



◎2009年には「潮流」が…

米スティール・パートナーズ」が「アデランスホールディングスに経営陣を送り込」んだのが2009年だ。なのに「自ら経営に関与しようとするのが今の潮流」で、そうした手法をだと「新『物言う株主』」になるのか。

浜記者はさらに以下のように解説する。

【日経の記事】

経営陣を送り込み、手間暇をかけてまでリターンを高めようとする背景にはファンド間の競争激化がある。指数連動のパッシブ型ファンドは低コストを武器に巨額のマネーを引き付ける。一方で個別企業を選別するファンドは「特色を出さなければ生き残れない」(国内ヘッジファンド)。



◎「特色」出せる?

経営陣を送り込み、手間暇をかけてまでリターンを高めようとする」ことで「ファンド」としての「特色」が出せるだろうか。「アクティビスト」ならば当たり前の話であり、「特色」は感じられない。

結局、「新型の物言う株主」は存在自体が怪しいと言うべきだろう。


※今回取り上げた記事 スクランブル~新『物言う株主』は買い? 東芝への経営関与 試金石
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190314&ng=DGKKZO42429630T10C19A3EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。浜岳彦記者への評価もDで確定とする。浜記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「ソニーがフル生産しない理由」が謎の日経「会社研究」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_70.html

2019年3月14日木曜日

「人生100年時代すぐそこ」と日経 辻本浩子論説委員は言うが…

人生100年時代は、もうすぐそこだ」と感じる人の気持ちが理解できない。だが、その前提で書かれた記事はよく目にする。14日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~人生100年時代 支えられ上手に」という記事もそうだ。筆者の辻本浩子論説委員は冒頭で以下のように記している。
小石川後楽園(東京都文京区)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本人の平均寿命が延びている。最新のデータでは男性が81.1歳、女性が87.3歳で、いずれも過去最長だ。100歳以上の人も、すでに約7万人いる。人生100年時代は、もうすぐそこだ



◎「90年」にも達していないのに…

日本人の平均寿命」が男女とも90歳にも達していないのに「人生100年時代は、もうすぐそこ」だと言えるのか。男性に至っては「平均寿命」が「81.1歳」なので「人生90年時代」さえ遠い。

「男女の平均寿命が100歳を超えたら人生100時代の到来」と仮定すれば、「人生100年時代はずっと先だ」。個人的には、自分が生きている間に「人生100年時代」は訪れないとみている。

ついでに、記事にいくつかツッコミを入れておこう。

【日経の記事】

次いで大事なのは、コミュニケーションだ。「介護は、する人とされる人との合作。双方のリスペクトが根底になければならない」。高齢社会をよくする女性の会の樋口恵子さんは話す。

だが実際はどうか。「家族が介護するのは当たり前、ありがとうすら言わない、という時期が長く続いた」。介護職員に対しても専門職としてみない古い意識が抜けないことがあるという。


◎そんな「時期」あった?

まず「高齢社会をよくする女性の会の樋口恵子さん」が引っかかる。せめて「NPO法人である『高齢社会をよくする女性の会』の樋口恵子理事長は~」ぐらいの情報は入れてほしい。

その「樋口恵子さん」の「家族が介護するのは当たり前、ありがとうすら言わない、という時期が長く続いた」とのコメントがさらに引っかかった。「そんな時期あった? あったとして、いつ終わったの?」とは思う。

家族が介護するのは当たり前、ありがとうすら言わない」という考えの人はいつの時代もいるだろう。一方で「介護」してもらった時に「ありがとう」と感謝を伝える人も絶えたことはないと思える。

現場を全て見ている訳ではないが「人それぞれ」なのは容易に推測できる。「樋口恵子さん」から見ると、「家族が介護する」時の状況は画一的で、ある時期に一気に変わってしまうものなのか。

今回の記事は、当たり前過ぎることを書いているのも気になった。辻本論説委員は日経の読者を中学生レベルだと見ているのか。一部を見ておこう。

【日経の記事】

では、どうしたらいいのか。「あいさつする、感謝する、というのは基本。元気なうちから自らボランティアなどで介護について学び、地域にネットワークを築くこともいい準備になる」。早くからできることも多いのだ。

一方で、いざ介護が必要になり家族と同居している場合は「『ながら介護』を受け入れることも大事」と樋口さんは話す。家族が仕事をしながら介護する、ときに休息を入れながら介護することだ。



◎今さら、それ?

中高年が多い日経読者に「あいさつする、感謝する、というのは基本」と教えてもとは思う。「ながら介護」の話も自明であり、役に立ちそうもない。「ときに休息を入れながら介護する」以外の選択肢はない。それに「24時間365日、休息なしに介護するのが当然」と思っている人は、ほとんどいないはずだ。

「外出する時は周囲をよく見て交通事故に遭わないように注意しましょう」といった話と似たレベルの助言を辻本論説委員は延々と続ける。日経読者向けには、もう少し高度な内容でいいのではないか。


※今回取り上げた記事「中外時評~人生100年時代 支えられ上手に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190314&ng=DGKKZO42409340T10C19A3TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。辻本浩子論説委員への評価もDを据え置く。辻本論説委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 辻本浩子論説委員「育休延長、ちょっと待った」に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_16.html

2019年3月13日水曜日

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解

いつものことではあるが、日本経済新聞の梶原誠氏が書く記事が苦しい。13日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~中国異変、邦銀追い込む」という記事を読むと、「梶原氏は基本的な状況認識ができていないのでは?」と不安になる。日経には以下の内容で問題点を指摘した。
勘定場の坂(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 梶原誠様

13日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~中国異変、邦銀追い込む」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

<記事の引用>

他の銀行はみずほの教訓を受け止め、「市場で無理をするのは控えよう」と決断できるか。残念ながら、そうはなりそうにない。

「預貸ビジネスの不振を補うために、無理な投資に手を染めて失敗する銀行は現れるか」。筆者はこんな問いを、当事者である銀行の投資担当者、銀行に投資商品を売る証券会社の営業担当者、銀行の業績を予想する2人のアナリスト、株式市場全体を見渡すストラテジストに投げかけた。5人はそろって「現れる」と答えた。

収益源の分散が遅れる地方銀行が特に怪しい。超低金利政策が続けば利息収入が減り、64行合計で前年度に約1兆円あった業務純益は10年後に消える試算もある。株主は収益を確保するよう圧力を加える。稼げる可能性があるのは、危うくても市場部門しかない。

リスクはもう抱えつつある。全国地方銀行協会によると、地銀が持つ有価証券のうち日本国債の割合は、「異次元緩和」前の12年末(48%)から18年末(26%)へと大きく圧縮した。逆に、株の上場投資信託(ETF)などリスク商品が主体の「その他有価証券」は3%から13%へと急拡大した。

--引用は以上です。

このくだりを読むと「預貸ビジネスの不振を補うために、無理な投資に手を染めて失敗する銀行」は「みずほ」以外にはまだ現れていないとの前提を感じます。「収益源の分散が遅れる地方銀行が特に怪しい」「リスクはもう抱えつつある」との記述から判断すると、「地方銀行」はまだ「無理な投資に手を染めて失敗する銀行」が出てきていないと理解するしかありません。

しかし、栃木銀行は「無理な投資に手を染めて失敗する銀行」に相当するのではありませんか。1月31日付の「栃木銀、4~12月期赤字転落 リーマン・ショック以来」という日経の記事によると栃木銀行の「2018年4~12月期連結決算は最終損益が2億3700万円の赤字」となっています。「10月に含み損を抱えた外債投信を売却したのに伴い35億円の損失を計上したのが響いた」ようです。しかも「12月末時点でも42億円の含み損を抱えている」状況です。

日経の「外債運用頼み限界、市況変化への対応後手 北関東 地銀サバイバル 2番手行の苦悩(上)」という記事(2018年11月20日付)では「栃木銀はマイナス金利政策で貸出金利回りの低下が続くなか、外国債券の運用に頼ってきた」と記しています。また「安全・確実な運用に軸足を移す」という「黒本淳之介頭取」のコメントも載せています。

こうしたことから判断すると、栃木銀行は「預貸ビジネスの不振を補うために、無理な投資に手を染めて失敗する銀行」に当たるはずです。「預貸ビジネスの不振を補うために、無理な投資に手を染めて失敗する銀行は現れるか」という問いを「アナリスト」や「ストラテジスト」に投げかけるのは、意味がないのではありませんか。既に「現れ」ていませんか。

「栃木銀行のようなケースが今後も起きるか」という意味で「無理な投資に手を染めて失敗する銀行は現れるか」と聞いたとの可能性も考慮しましたが、文脈的に無理があると思えます。今回の記事では「無理な投資に手を染めて失敗する銀行」に関して、梶原様の事実認識に問題がありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~中国異変、邦銀追い込む
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190313&ng=DGKKZO42361290S9A310C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

2019年3月12日火曜日

「サントリー 紅茶飲料に参入」に無理あり 日経ビジネス 長江優子記者

例えば、アパレルメーカーのA社がBというブランドで婦人服を手掛けているとしよう。新たにCという婦人服ブランドを立ち上げる時に「A社はCというブランドで婦人服市場に参入する」と言うだろうか。個人的には、誤った説明だと感じる。
復旧した花月川橋梁(大分県日田市)
         ※写真と本文は無関係です

「10の婦人服ブランド持てば、一度も撤退を経験していなくても『10回目の婦人服市場参入』になる」と理解する人はまれだろう。

日経ビジネス3月11日号の「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由」という記事では、冒頭で「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」と記している。しかし、同社は「リプトン」のブランドでも「紅茶飲料」を手掛けてきた。それでも「紅茶飲料市場に参入する」と言えるのか。

この点を問い合わせてみたので、回答と併せて内容を紹介したい。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

3月11日号の「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由」という記事についてお尋ねします。冒頭で長江様は「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」と記しています。だとすれば、「サントリー食品インターナショナル」はこれまで「紅茶飲料」を手掛けていなかったはずです。

しかし、記事を読み進めると「サントリー食品は米蘭ユニリーバが手掛ける紅茶ブランド『リプトン』のペットボトル製品をライセンス契約している。にもかかわらずなぜ、缶コーヒーブランドのボスで紅茶市場に参入するのか」と出てきます。こちらを信じれば「リプトン」のブランドで既に「紅茶飲料市場に参入」済みです。サントリーのホームページで「ソフトドリンク一覧」の中から「紅茶飲料」の項目を開くと「クラフトボスTEA」とともに「リプトン」の商品が表示されます。

サントリー食品インターナショナル」の過去のニュースリリースでは「ユニリーバ・ジャパンとサントリーは、2000年9月に紅茶ブランド『リプトン』について、両社が商品開発からマーケティングまで共同して推進することで基本合意しており、現在、サントリー食品インターナショナルが、日本における『リプトン』ブランドの缶・PET容器入り紅茶飲料を製造販売しています」と説明しています。

これで「紅茶飲料市場に参入」していないと見なすのは無理があります。「サントリー食品インターナショナルが缶コーヒーブランド『BOSS(ボス)』で紅茶飲料市場に参入する」との説明は誤りではありませんか。

付け加えると、上記のくだりに続く「柳井常務執行役員は『コーヒーだけではカバーできていなかった顧客を取り込みたい。それにはボスの認知度を生かすことが近道だと考えた』と話す」との説明も腑に落ちません。これでは「紅茶飲料は『リプトン』だけではなぜダメなのか」の理由になっていません。

まず「コーヒーだけではカバーできていなかった顧客(例えば、コーヒーは嫌いだが紅茶は好きという顧客)」は「リプトン」でも「カバー」できます。そもそも「コーヒーだけ」という前提が解せません。これまでも「リプトン」の「紅茶飲料」はあったのです。

ボスの認知度を生かすことが近道」という説明も引っかかります。「ボスの認知度」が低いとは言いませんが「紅茶飲料」で言えば「リプトン」の方が上でしょう。少なくとも圧倒的に下ではないはずです。なのになぜ「ボスの認知度を生かすことが近道」と言えるのですか。

例えば「コーヒーは飲むが紅茶は馴染みがないという顧客にもアピールしたかった。それにはボスの認知度を生かすことが近道だと考えた」となっていれば納得できます。記事では「柳井常務執行役員」の発言をそのままコメントとして使っているのでしょうが、長江様は取材していて何も疑問を感じませんでしたか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、お答えさせていただきます。

記事のリードや本文では「ボスで紅茶飲料市場に参入」と記しました。サントリー食品が「リプトン」ブランドを扱っているのは、ご指摘の通りです。ただし同社が「BOSS(ボス)」というブランドを冠した紅茶飲料を市場に投入するのは、これが初めてです。そうした意味から、このような表現を用いました。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。ご指摘ありがとうございました。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~サントリーが『ボス』ブランドで紅茶飲料を売る理由
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00071/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDを据え置く。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_7.html