2019年4月30日火曜日

「男性選びが中小型株投資に似ている」という岸田彩加氏に異議あり

タイトルからしてツッコミどころの多そうな記事ではある。東洋経済オンラインに4月29日付で「『男性選び』が『中小型株投資』に似ている理由~婚活女子が『年収』より重視する結婚の条件」という記事が載っている。まず「男性選び」が「中小型株投資」にあまり似ていない。筆者であるフリーアナウンサーの岸田彩加氏は「似ている理由」を以下のように説明している。
藩校模型学習館(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

【東洋経済オンラインの記事】

そして、多くの女性から聞く中でびっくりしたのは、「いい男(将来有望な男性)は、大学時代から付き合っている彼女が卒業後もがっちりホールドして離さず、そのまま結婚に持ち込む」という話です。有望な男子を捕まえるために、頑張って有名大学に行ったというハイレベル女子もいて、これまた驚きました。でも、これは別にあざといことではないような気がします。女性としてそういう本能を備えているのは、スゴイことだと思ってしまうのです。

このことはつまり、かなり若い(株価が低い)段階から将来有望であろう銘柄に目をつけ「保有」して高成長を待つ「中小型株投資」のようなものでしょうか。例えば、高品質でリーズナブルなメガネを販売しているJINSなどは、苦難の時もありましたが、約4年で株価が約150倍になりました。まさに、「いい男的な銘柄」かもしれません。

彼が一流大学を卒業して、大手企業に見事入社し2年ほど経ったところで、まずはきっちり利益確定(結婚)に持ち込む。その間、悪材料(浮気やケンカ)があっても、ジッと耐え忍ぶわけです。

もちろん耐えきれないくらいの暴落局面(さらなる悪事が発覚!?)が訪れたとき、余力(心の余裕など)がなければ損切り(サヨナラ)して、新たな銘柄に乗り換えたり、人によっては分散投資(複数の男性を見定める)することもあるでしょう

さらに、投資と恋愛は「分散投資みたいなものだから似ている」という話までありますよね。例えば、投資の場合、ビギナーがいきなり1つの銘柄に全力投球するのは確かに危険です。ただ恋愛も複数の相手と付き合うことを「リスク分散」と言ってしまうのは、意見がかなり分かれそうです。


◇   ◇   ◇

『男性選び』が『中小型株投資』に似ていない理由」を述べてみたい。

(1)「利益確定」しちゃったら…

彼が一流大学を卒業して、大手企業に見事入社し2年ほど経ったところで、まずはきっちり利益確定(結婚)に持ち込む」と岸田氏は言う。しかし「中小型株投資」では「利益確定」するためには持ち株を売却する必要がある。つまり投資対象とは「サヨナラ」だ(部分的な売却はあり得るが…)。

男性選び」では「利益確定=結婚」と岸田氏は考えているのだろう。この場合、投資対象とは「サヨナラ」していない。部分的な売却もない。投資家と投資対象が合併するようなものだ。「中小型株投資」での「利益確定」とは大きく異なる。


(2)「分散投資」に大きな違い

男性選び」でも「中小型株投資」でも「分散投資」はあり得るだろう。しかし、その性質は全く異なる。

中小型株投資」では「分散投資」に何の問題もない。100%推奨できる。そして5社より10社、10社より100社に「分散投資」した方がリスクを下げられる。加えて「分散投資」の対象になっていると投資先の企業が知っても、怒り出すことはまずない。

一方、「男性選び」では「分散投資」にメリットはあるもののリスクも大きい。5人より10人、10人より100人に「分散投資」した方が良いとも言えない。10人を超えるような「分散投資」は現実的に難しい。これも「中小型株投資」とは異なる。

さらに問題なのは投資対象となる「男性」の多くが「分散投資」に難色を示す点だ。故に「分散投資」をしていることがバレると有望な投資対象を失う可能性が高い。

さらに言えば「中小型株投資」では100社への「分散投資」を長期間に亘って維持できる。最終的に1社に絞り込むのはベストではない。むしろ愚策だ。

男性選び」の場合、「きっちり利益確定(結婚)に持ち込む」段階で投資対象は1人に絞られてしまう。「利益確定(結婚)」の段階でも「分散投資」を続ける選択がなくはないがリスクは大きい。

中小型株投資」であれば「分散投資」を維持したまま「利益確定」もできるし、それによって大きなリスクを負う必要もない。

「それでも『男性選び』は『中小型株投資』に似てますか?」と岸田氏に聞いてみたい。


※今回取り上げた記事「『男性選び』が『中小型株投資』に似ている理由~婚活女子が『年収』より重視する結婚の条件
https://toyokeizai.net/articles/-/276756


※記事の評価はD(問題あり)。岸田彩加氏への評価も暫定でDとする。

航空は「公共交通」にあらず? 日経「公共交通に変動運賃」

航空運賃」は「公共交通機関」の料金と言えるだろうか。「言えない」と考える人はまずいないだろう。だが、日本経済新聞には「タクシーやハイヤーは公共交通だが『航空』は違う」との考える記者もいるようだ。その前提で書いている記事が29日の朝刊に載っていた。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
            ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

29日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「公共交通に変動運賃~国交省検討、タクシー迎車で実験 客少ない時安く 来年制度化目指す」という記事についてお尋ねします。

記事では「国土交通省は公共交通機関に対し、曜日や時間帯によって運賃を変えることを認める検討に入った」 と記した上で「公共交通機関に導入する場合、固定された料金に慣れた利用者にとって負担が分かりにくくなる問題がある」「国交省は社会実験などを通じ、利用者にとって受け入れやすい分野を見極めた上で解禁していく方針だ」などと解説しています。

だとすれば「公共交通機関」には「曜日や時間帯によって運賃を変えること」が現状では認められていないはずです。しかし記事では「需要と供給の状況に合わせて価格を変動させる『ダイナミックプライシング(DP)』」に関して「これまでホテルの宿泊料金や航空運賃で使われてきた」とも記しています。だとすると「航空運賃」に関しては「曜日や時間帯によって運賃を変えること」が既に「解禁」されています。

公共交通機関」とは「一般の人々が共同で使用する交通機関。鉄道・バス・航空路・フェリーなど」(デジタル大辞泉)です。「航空運賃」を「公共交通機関」の運賃ではないと見なすのは無理があります。

公共交通機関」には「曜日や時間帯によって運賃を変えること」が現状では認められていないと取れる記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「公共交通に変動運賃~国交省検討、タクシー迎車で実験 客少ない時安く 来年制度化目指す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190429&ng=DGKKZO43899510Y9A410C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年4月29日月曜日

「中台のハイテク分断に現実味」が苦しい日経 原田亮介論説委員長

ネタに困って書いたのだとは思う。だとしても29日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~米中『新冷戦』揺れる台湾 ハイテク分断に現実味」という記事は苦しい内容だった。筆者は原田亮介論説委員長。「論説委員長」の肩書で長文のコラムを書くのならば、もっとしっかり構成を考えるべきだ。
玄海エネルギーパークから見た海
       ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら具体的に指摘していく。

【日経の記事】

米中の「新冷戦」で、台湾が揺れている。最大の投資先である中国とのハイテクを巡る「分断」が現実化する恐れがあるからだ。米国は本気で先端技術の流出を止めにかかっている。台湾の行方は日本にも他人事ではない



◎宣言通りになってないような…

最初の段落を読むと「台湾」は「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」があると感じる。「台湾の行方は日本にも他人事ではない」とも書いているので、記事の中で日本に絡める形で話が進むのだろうとも期待してしまう。しかし、その期待は裏切られる。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

 中国の習近平国家主席は「中国製造2025」を掲げ、先端産業育成を目指す。特に半導体は輸入依存度が高く、総額15兆円とされる巨額の基金を設けて国産化プロジェクトを進めている。頼みは台湾企業の技術力。中国に大量の技術者を招き、川上から川下までの一貫生産体制を構築する計画だ。

米政府は18年秋、そこに先制パンチを食らわせた。

まず商務省が福建省晋華集成電路(JHICC)向けの半導体製造装置の輸出を規制すると発表。同社は中国の半導体メモリー国産化プロジェクトの一角だ。さらに米連邦大陪審が「台湾の受託生産大手である聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた」として両社を起訴したのである。UMCはJHICCの提携先で、技術侵害でマイクロンと米中で訴訟合戦となっていた。

18年秋からUMCの株価は低迷。JHICCのプロジェクトもUMCが技術協力を大幅に縮小したことなどから量産開始を目前に頓挫した。

台湾に2度の駐在経験があるアジア経済研究所の川上桃子氏は「台湾では当初、米中対立について、米国が中国製品に関税をかければ、中国などに進出した台湾企業の地元回帰が進むという楽観論が多かった。だが、今はハイテク摩擦と技術漏洩で緊迫感が高まっている」と話す。

台湾にも技術などの漏洩を防ぐ営業秘密法がある。台湾企業が半導体関連の技術を窃取された事件は17年に17件起き、多くが中国企業への漏洩だった。1990年代から盛んになった人と経済の交流は水面下の動きも活発にしてきた。

台湾当局は、半導体工場の対中投資は旧世代半導体のラインに限って認めている。しかし地元経済誌は、台湾北部で半導体企業が集積する新竹科学工業園区の近くでは中国企業が営業拠点の看板をかけ、その実は技術者を招き、設置を禁じられている研究開発拠点にしていると伝える。

技術者の流出も今に始まったことではない。中国の主な半導体メモリー国産化プロジェクトはJHICC以外に2つあり、その1つは清華紫光集団が進めている。同社は15年に米マイクロンを買収しようとして米政府から待ったをかけられ、東芝メモリの買収にも意欲をみせていた。

清華紫光集団を支える人材は高額の報酬で引き抜かれた台湾の経営者や技術者だ。15年秋には台湾を代表するDRAMメーカー、南亜科技の総経理だった高啓全氏が移籍した。高氏はこの世界で「台湾のゴッドファーザー」と呼ばれる人物。韓国サムスン電子に対抗できるDRAM勢力を中国に築こうという願望が移籍の動機だったといわれる。


◎材料はそれだけ?

中国とのハイテクを巡る『分断』」が具体的にどういう状態を指すのか記事では触れていない。しかし、かなり深刻な状況に陥る印象は受ける。なのに記事には「分断」をイメージさせる材料が乏しい。
丸の内ビルディング(東京都千代田区)
     ※写真と本文は無関係です

まず商務省が福建省晋華集成電路(JHICC)向けの半導体製造装置の輸出を規制すると発表」と書いているが、これに関する報道を見ると「規制」の対象は米国企業のようだ。原田論説委員長の書き方だと「台湾企業」を狙い撃ちにした「規制」のように見える。

結局、「分断」に関する最大の材料は「『台湾の受託生産大手である聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた』として両社を起訴した」件だけだ。しかも「18年秋」と半年前の話。その後は「分断」に向けた目立った動きがないのだろう。「台湾にも技術などの漏洩を防ぐ営業秘密法がある」などと本筋から離れた話で紙面を埋めている。

これでは「米中の『新冷戦』」によって「中国とのハイテクを巡る『分断』」が台湾で現実味を帯びているとは実感できない。

ついでに言うと「両社を起訴」に関しては、その前に「聯華電子(UMC)が米マイクロン・テクノロジーの技術を盗み出し、JHICCに渡していた」と3社の名前が出てくるので、どの「両社」か分かりづらい。常識的な判断はできるが、書き方としては上手くない。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

今後の焦点は、半導体の受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)の対応だ。5Gの技術で先行しているとされる中国・華為技術(ファーウェイ)の最先端の半導体もTSMCが製造している。技術の保秘やコンプライアンスに定評があり、米企業も有力な顧客だ。ただ、売上高の「中国比率」はどんどん高まっている。

米政府は半導体そのものを対中輸出規制の対象にしているわけではない。日本企業の部品もファーウェイのスマートフォンに使われている。

だが、中国包囲網は狭まっている。19年4月になって発光ダイオード(LED)世界大手の中国企業が「輸出注意先」に指定され、米メーカーが半導体製造装置の取引を停止した。少なくとも半導体製造の関連技術は、米政府の厳しいチェックは避けられないだろう台湾だけでなく日本企業についてもだ



◎それで「分断」?

今後の焦点は、半導体の受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)の対応」らしいが、「TSMC」に米国が強硬姿勢を取りそうな話は出てこない。「少なくとも半導体製造の関連技術は、米政府の厳しいチェックは避けられないだろう」というだけで「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」を抱く必要があるのか。

TSMC」は「技術の保秘やコンプライアンスに定評」があるのならば、そもそも中国に技術を渡したがっていないのではないか。だとすると「米政府の厳しいチェック」があっても大した影響はなさそうだ。

しかも「米政府は半導体そのものを対中輸出規制の対象にしているわけではない」と原田論説委員長は言う。だったら「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」が本当にあるのか。仮にあるとして「分断」とは、どういう状況を指すのか。

そして「台湾の行方は日本にも他人事ではない」件に関する記述が出てきた。「台湾だけでなく日本企業についてもだ」と書いた後、記事は以下のように続く。


【日経の記事】

拓殖大総長で元防衛相の森本敏氏は「米国の中国に対する厳しい要求は、選挙後の政権が共和党だろうが民主党だろうが当面のところ変わらないだろう。まず貿易不均衡の是正、次いで海洋覇権の断念、3つ目が投資・貿易と安全保障にまたがる知的財産の窃取をやめること」と話す。



◎またしても、これだけ?

日本に関する記述はこれで終わりだ。この内容ならば、わざわざ台湾の事例から学ぶ必要はない。「台湾の行方は日本にも他人事ではない」と最初の段落で書いているが「確かにそうだな」と納得できる中身になっていない。

そして話は「総統選」へと移ってしまう。書くことがなくなってしまったので、脱線させて行数を稼いだのだろう。それでも一応、見ておこう。


【日経の記事】

台湾では20年1月に総統選がある。民進党の蔡英文総統は米国との関係強化を進め、中国の統一への圧力をかわそうとしている。19年4月には中国製の情報機器の調達規制を公的機関から公営企業に拡大し、技術流出に一段と厳しい姿勢をみせた。

これに対し、国民党から突然、出馬する意向を示したのが、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長だ。同社は中国で100万人ともいわれる雇用を生み、アップルのスマホ「iPhone」などを製造する。中国企業と組み、大陸で半導体をつくるためにシャープの技術も活用する構えだ。

出馬の真意は不明だが、習国家主席との近さや、事業成功のカギが大陸との関係にあったことを考えれば、経済も技術も「大陸との間の壁をもっと低く」という主張に傾いても不思議ではない。

総統選の行方を占うのは時期尚早だが、民進党が政権を維持するのは簡単ではないというのが大方の見方だ。



◎「時期尚早」なら…

20年1月」に迫った「総統選」について「行方を占うのは時期尚早」とは思えないが、仮に「時期尚早」だとしよう。だったら「民進党が政権を維持するのは簡単ではないというのが大方の見方だ」などと書くのも「時期尚早」ではないのか。「大方の見方」に意味はないはずだ。意味があるのならば「時期尚早」の方が怪しくなってくる。

それに「『大陸との間の壁をもっと低く』という主張に傾いても不思議ではない」と原田論説委員長が見ている「鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長」にも勝つ見込みがあるのならば「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」はさらに弱まる。

そして記事の最終段落は以下のようになっている。

【日経の記事】

複雑に絡み合う「ハイテク生態系」。半導体と台湾を巡る米中攻防で生態系にひびが入りつつあるが、終着点はまったくみえていない



◎やはり訴えたいことが…

最後に「終着点はまったくみえていない」と逃げて記事を締めている。「中国とのハイテクを巡る『分断』が現実化する恐れ」と打ち出したのだから、それに関する原田論説委員長の判断を入れてほしい。

例えば「もはや台湾と中国のハイテク分断は不可避だ。そして次に中国との分断を迫られるのは間違いなく日本だ」などと締めていれば「さすが論説委員長。リスクを取って大胆な主張をしたな」と思える(もちろん、その結論に説得力を持たせる構成にしなければならないが…)。

今回のように過去の出来事をあれこれ書いて、総統選の話に脱線して、最後に「終着点はまったくみえていない」で締めればいいのならば、書き手としての力量は大して必要ない。この手の記事を世に送り出していると「日経の論説委員長は力量が低くてもなれる」と読者に見破られてしまう。それは避けたい。


※今回取り上げた記事「核心~米中『新冷戦』揺れる台湾
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190429&ng=DGKKZO44192290V20C19A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_57.html

2019年4月28日日曜日

興味深いが疑問残る日経「アサヒ、社長解任に業績連動基準」

28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「アサヒ、社長解任に業績連動基準~ROEなど 透明性高める」という記事は興味深い内容だが、色々と疑問も感じた。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

アサヒグループホールディングス(GHD)は、業績不振が続けば社長兼最高経営責任者(CEO)を解任する基準を設けた。自己資本利益率(ROE)などが経営目標から一定期間下回ると、指名委員会で審議し取締役会での検証を経て解任する。

トップに権限を集中させ経営のスピード感を持たせながら透明性を高める狙いだ。日本企業で業績に連動させた解任基準を持つのは珍しい。

金融庁と東京証券取引所が2018年6月に企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード=総合2面きょうのことば)を改訂し、CEOが役割を果たしていない場合には、客観的に解任できる手続きを確立すべきだとの文言が加わった。アサヒGHDは海外のM&A(合併・買収)で事業がグローバル化しており、株主への経営責任をわかりやすく示す

アサヒGHDは19年12月期から3カ年の中期経営計画で、ROEで13%以上を維持することを主要指標の一つに掲げている。18年12月期のROEは13.2%だった。

同社は3月から泉谷直木会長の代表権が外れ、代表権を持つのは小路明善社長兼CEOの1人となり、早く意思決定できるようになった。新体制にあわせ、ROEや投下資本利益率(ROIC)、売上高など定量的な解任基準を取締役会で定めた。指名委員会が決算期ごとに解任基準に該当するかを審議する。基準に該当する場合は取締役会で検証し、社長兼CEOの役職を解任する。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)「一定期間」とは?

自己資本利益率(ROE)などが経営目標から一定期間下回ると、指名委員会で審議し取締役会での検証を経て解任する」と書いているが、「一定期間」がどの程度の「期間」なのか不明だ。これは記事に入れたい。

アサヒグループホールディングス」が明らかにしていないのならば、そう明示してほしい。非公表の場合、それで「株主への経営責任をわかりやすく示す」ことができるのかとの疑問が浮かぶ。

一定期間」を仮に3年としよう。その場合、最初の2年は「解任」にはならないはずだ。しかし記事では「指名委員会が決算期ごとに解任基準に該当するかを審議する」と説明している。これも解せない。「一定期間」とは1年なのか。だったら、そう書くべきだ。


(2)「定量的な解任基準」は非公表?

ROEや投下資本利益率(ROIC)、売上高など定量的な解任基準を取締役会で定めた」と書いているが、これだけでは「解任基準」が漠然としている。見出しで「アサヒ、社長解任に業績連動基準」と打ち出したのだから「解任基準」の内容は肝だ。

アサヒグループホールディングス」が教えてくれないという話ならば、それで「株主への経営責任をわかりやすく示す」ことができるのかとの疑問がここでも浮かぶ。


(3)何のための「審議」?

定量的な解任基準」を定めたのに「指名委員会が決算期ごとに解任基準に該当するかを審議する」のもよく分からない。「定量的」であれば「解任基準に該当するか」どうかは決算発表と同時に決まる。「指名委員会」が「審議する」までもない。

例えば「ROEで13%以上を維持」できたかどうかを判断するのに「指名委員会」の「審議」が要るだろうか。他の経営指標を組み合わせるにしても「定量的な解任基準」であれば「審議」は要らない気がする。


(4)ROEを入れるのは…

記事の問題点ではないが、「解任基準」にROEを採用するのはどうかとは思った。「社長兼CEO」の判断で動かせる数字は「解任基準」に用いない方が好ましいだろう。

ROEは自己資本を少なくしたり、借り入れを増やしたりすると数値が良くなりやすい。「このままだとROEが低くなって解任されそうだ。それは避けたいから思い切った自社株買いをやるか」と考える「社長兼CEO」が出てきてもおかしくない。それは「アサヒグループホールディングス」にとって憂慮すべき事態ではないか。


※今回取り上げた記事「アサヒ、社長解任に業績連動基準~ROEなど 透明性高める
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190428&ng=DGKKZO44325750X20C19A4MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」

27日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『痛み見ぬふり』世界に拡散」という記事の中で、菅野幹雄氏(肩書は本社コメンテーター)が「現代貨幣理論」(MMT)の有効性を否定している。しかし、まともな主張とは思えない。
玄海エネルギーパーク観賞用温室と玄海原発
    (佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

野党、民主党の急進左派に近い学者は『現代貨幣理論』(MMT)という仰々しい名前で、中銀マネーを当てにした財政拡張論を主張する」と述べた後で菅野氏は以下のように記している。

【日経の記事】

基軸通貨のドルを後ろ盾にすれば貨幣は自在に発行でき、巨額の財政出動をしても破綻はしない――。冒頭に挙げたMMTは現代版「打ち出の小づち」の構想ともいえ、左派の政策の理念的な支柱になりそうな勢いだ。

国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストで政府債務の問題に詳しいハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は心配顔だ。「『ただのランチ』はない。すでに高水準の債務があり、未手当ての年金債務や医療費支出もある。誰も気づかない『隠れ資産』があると考えるのは空虚だ」と厳しい。

FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる。そうしたリスクをまさに「見ない化」する発想といえる。

MMTを唱えるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授は日本が「理論を実証してきた」と語る。だがロゴフ氏は「日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか」と、成功例として捉える発想を否定する。



◎「否定」になってる?

MMT」に関して日経は別の記事(4月13日付)で「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、『財政赤字で国は破綻しない』と説く」ものだとしている。「基軸通貨のドルを後ろ盾にすれば貨幣は自在に発行でき、巨額の財政出動をしても破綻はしない」と書いた菅野氏もほぼ同じ理解だと見てよいだろう。

その上で「MMTを唱えるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授は日本が『理論を実証してきた』と語る」のに対し「ロゴフ氏は『日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか』と、成功例として捉える発想を否定する」と解説する。これでは主張が噛み合っていない。

日経の説明を信じれば、「MMT」は「通貨発行権を持つ国家」であれば「財政赤字で国は破綻しない」と訴えているだけだ。「高水準の債務と低成長が同居」しないと主張している訳ではない。

ステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授」も「日本が『理論を実証してきた』」と語っているだけで「成功例として」捉えていると言える記述は記事中にない。

確かに日本は「財政赤字」による「破綻」は免れているが、国として「成功」しているかは別問題だ。定義次第で「成功」しているとも失敗しているとも言える。問題は「MMT」の「実証」例と言えるかどうかだ。その疑問に菅野氏は答えていない。

FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」という解説も問題なしとしない。

まず、唐突にこの話を持ち出しても「MMT」との関連が分かりづらい。4月13日付の記事では「米連邦政府の利払い費は年4000億ドル(約44兆円)近くに膨れあがっており、金利上昇は財政悪化を招きかねない。そのためMMTの提唱者は、中央銀行が長期金利を操作して金利上昇を抑えるべきだとも主張する」と書いている。この絡みで菅野氏は「FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図」に触れたのだろう。

確かに「FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する」かもしれないが、「インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」と言い切る根拠は示していない。

それに「金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」と確信しているならば、日銀の異次元緩和には絶対反対の立場になるはずだ。しかし、過去の菅野氏がそういう立場で記事を書きてきたとは思えない。この辺りの疑問も残る。

MMT」は一見トンデモ理論のように思えるが、否定するのは意外と難しい。もちろん「否定するな」とは言わない。だが、菅野氏のような説明ではまともな否定論になっていない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『痛み見ぬふり』世界に拡散
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190427&ng=DGKKZO44267000W9A420C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

2019年4月27日土曜日

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う

26日の日本経済新聞朝刊に単純ミスを見つけた。筆者は中村直文編集委員。「令和」に元号が変わるのを機に日経もミス放置の悪癖を改めてほしい。そんな願いを込めて以下の内容で問い合わせを送った。
東京駅(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

26日の朝刊企業3面に載った「ヒットのクスリ~平成は『組み合わせ』の時代 個人の発想力、令和に復活?」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

令和はどうか。みうらじゅんさんは『平成はみんなの納得感を求める団体思考なのでつまらない。個人思考の昭和の方がはとんちんかんなものが出てくるし、濃い』と指摘していた

個人思考の昭和の方がはとんちんかんなものが出てくる」は「個人思考の昭和の方がとんちんかんなものが出てくる」の誤りではありませんか。「」が余計です。訂正記事の掲載と回答を求めます。記事に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

同じ26日朝刊の「強制不妊手術の検証徹底せよ」という社説では「救済法の成立は、強制不妊手術という負の歴史の終着点ではない。過去の過ちに向き合い、教訓を未来へと引き継ぐ。真の共生社会を築くための出発点にしなければならない」と訴えています。

読者からの間違い指摘を無視し、記事中の誤りの多くを放置してきた御紙自身にも当てはまる話です。「令和」の時代を目前に控え「過去の過ちに向き合い、教訓を未来へと引き継ぐ」ためには、今回の指摘に対してどう対応すべきでしょうか。答えは明らかです。

紙面上のミス放置は当たり前という日経の「負の歴史」に終止符を打つべく、中村様が行動を起こしてみませんか。

◇   ◇   ◇

ついでに記事の中で気になった点に触れておきたい。

【日経の記事】

忘年会ならぬ「忘年号会」もにぎやかになりそうで、早くも忘れられそうな平成。今回は平成最後なので、日経ヒット商品番付を振り返りながら忘れられないヒット話を残しておきたい。一つは2004年に夏の入場者数で日本一になった「旭山動物園」(北海道旭川市)の衝撃だ。

動物が寝てばかりいる動物園の"常識"を、いきいきと動き回る「行動展示」にがらりと変えたことで一躍有名になった旭山動物園。教訓ポイントは2つ。一つは制約を逆手にとったこと。入場者数が落ち込み、廃園も検討されただけに経費は厳しく、施設や仕掛け作りは自前。このため既製品ではできない空間が生まれ、新たな動物の姿を見せることができた。

2つ目は「働き方改革」。それまで飼育係は繁殖が最も重要な仕事だったが、「お客様の立場に立った」見せることを優先する方向にかじを切った。旭山が成功を収めた後、その手法に強い関心を示したのがセブン―イレブン・ジャパンを立ち上げた鈴木敏文氏。園長だった小菅正夫氏を招き、グループ社内報で対談し、「私たちの仕事と共通している。興味が尽きない」とうなった


◎鈴木氏の話要る?

最後に「セブン―イレブン・ジャパンを立ち上げた鈴木敏文氏」の話が出てくるのが引っかかる。「旭山動物園」の手法をコンビニにも応用したといった事例ならまだ分かる。

だが、「園長だった小菅正夫氏を招き、グループ社内報で対談し、『私たちの仕事と共通している。興味が尽きない』とうなった」だけならば、取り上げる価値はないだろう。

「中村編集委員は鈴木敏文氏の熱心な支持者なんだな。だからあんなにセブンに肩入れするのかも…」としか思えなかった。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~平成は『組み合わせ』の時代 個人の発想力、令和に復活?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190426&ng=DGKKZO44126040U9A420C1TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

2019年4月26日金曜日

「セブン、時短要望『拒絶せず』」の記事を受けて日経に求めるもの

コンビニエンスストア大手が25日、フランチャイズチェーン(FC)加盟店の人手不足などの是正に向けた行動計画を発表した」ことを受けて、26日の日本経済新聞朝刊企業1面に「セブン、時短要望『拒絶せず』 コンビニ大手が行動計画発表」という記事が載っている。そこには以下のような記述がある。
玄海エネルギーパーク観賞用温室と玄海原発
(佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

セブンは行動計画に時短の実験を3月に始めたことを盛り込んだ。現在、FC加盟店を含む合計13店舗で実施している。永松文彦社長は25日の記者会見で、「時短を希望するオーナーにはテスト結果を開示する」とした。24時間営業の原則は維持するとしたうえで、永松社長は「最終判断は加盟店オーナーに委ねる。(24時間営業を)やめたいという意見があれば拒絶はしない」と述べた。



◎担当記者らへお願い

この問題でよく記事を書いている今井拓也記者、流通関連を担当する田中陽編集委員、中村直文編集委員にお願いしたい。上記の記述からは1つの疑問が浮かぶ。それを今後の記事でしっかり解説してほしい。

最終判断は加盟店オーナーに委ねる。(24時間営業を)やめたいという意見があれば拒絶はしない」のであれば「24時間営業」に関しては「加盟店オーナー」が自由に選べる選択制となる。この理解でいいのかも紙面で明らかにしてほしい。

選択制だとすると「24時間営業の原則は維持する」との方針と整合しない。例えば「加盟店オーナー」の半数が「24時間営業をやめたい」と言ってくれば、本部は「拒絶はしない」はずだ。それでも「24時間営業の原則は維持」できているのか。

仮に「全体の9割以上の店舗は24時間営業にする。このラインは死守する」と言うのならば「24時間営業の原則は維持する」との説明にも納得できる。しかし、例外なく「最終判断は加盟店オーナーに委ねる」のであれば「24時間営業の原則は維持する」とは言い難い。

特に今井記者には期待したい。何かと逃げが目立つ田中編集委員や中村編集委員に比べれば、今井記者はリスクを負った解説ができそうな気がする。


※今回取り上げた記事「セブン、時短要望『拒絶せず』 コンビニ大手が行動計画発表
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190426&ng=DGKKZO44220610V20C19A4TJ1000


※記事の評価はC(平均的)。コンビニ24時間営業問題に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「ビジネスTODAY~コンビニ24時間転機」で引っかかること
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/today24.html

やはり本部寄り? 日経「24時間 譲れぬセブン」今井拓也記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24.html

事実上の選択制? 日経「セブン、契約解除求めず」に思うこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_91.html

「セブン24時間営業」の解説が残念な日経 田中陽編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24_11.html

セブンに「非24時間」のFC契約なし? 日経 今井拓也記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/24fc.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

2019年4月25日木曜日

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説

ジャーナリストの大西康之氏が書く記事は相変わらず問題が多い。FACTA5月号に載った「『JDI敗退』官邸官僚は万死」という記事にも首を傾げたくなる記述が目立つ。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

まずは冒頭部分を見ていこう。

【FACTA】

ジャパンディスプレイ(JDI)は4月12日、台湾の電子部品メーカーの宸鴻光電科技(TPK)など台中勢3社から800億円の金融支援を受けると発表した。2012年に発足した「日の丸液晶連合」は平成で終わり「中華液晶連合」として「令和」に生き残りをかける。「日の丸」にこだわり続けた結果、3千億円を超える血税が「無駄金」になった。JDIに出資するのはTPKの他、台湾金融大手の富邦グループ、中国大手ファンドの嘉実基金管理グループの3社。400億円強を現金で出資し、残りは新株予約権付社債を取得する。台中3社のJDIへの出資比率は49・8%になり「日の丸企業」ではなくなる。

「日の丸企業でなくなることが悪い」と言っているのではない。このグローバル化の時代、どこの資本がマジョリティーを握るかはさしたる問題ではない。問題は設立から7年の間に「日の丸液晶を守れ」の掛け声でJDIに注がれた血税が消えることだ


◎「血税が消える」?

この記述からは「JDIに注がれた血税が消える」ことは決まっていて、その額は「3千億円を超える」と判断できる。しかし記事を読み進めると「INCJはJDIの上場とその後の株売却で2千億円の投資のうち1600億円を回収、700億円の売却益を得た」と出てくる。

血税が消える」どころか「1600億円を回収、700億円の売却益を得た」らしい。投資としては大成功とも言える。「INCJ」から「JDI」への融資などもあるようだが、債権放棄に応じたといった話は聞かないし、大西氏もそうは書いていない。今回の記事では何を以って「JDIに注がれた血税が消える」と言っているのか謎だ。

JDI」がいずれ経営破綻すると大西氏は見ているということか。ならばそう書くべきだ。かつて「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と東芝の破綻を大胆に予言して見事に外した大西氏の読みを素直に信じる気にはもちろんなれないが…。

記事の続きを見ていこう。

【FACTAの記事】

JDIは19年3月期で5期連続の最終赤字が決まっている。一般的な上場企業なら3期連続で事実上の銀行管理になり、5期連続なら法的または私的整理のプロセスに入る状況である。すでに現預金は底をついており「有機ELなど新規事業への投資」の名目で官製ファンドの産業革新機構(INCJ)から調達した資金も、日々の運転資金で消えてしまった。 経営がうまくいかない最大の原因は「官の介入」だ。



◎そんな原則ある?

一般的な上場企業なら3期連続で事実上の銀行管理になり、5期連続なら法的または私的整理のプロセスに入る状況である」との説明が引っかかった。そんな原則があるのか。

常識的に考えればケースバイケースだろう。自己資本が厚く無借金の会社であれば「3期連続」で「最終赤字」になっても「事実上の銀行管理」にはなりにくい。

上場企業に親会社がある場合もそうだ。子会社の赤字が続いても、親会社の経営がしっかりしていれば「事実上の銀行管理」になる可能性はゼロに近い。

経営がうまくいかない最大の原因は『官の介入』だ」との説明も納得できなかった。記事では「寄り合い所帯のJDI経営陣が牽制しあっているうちに、いつの間にか実権を握った男がいる。社外取締役の谷山浩一郎である」と書き、「谷山浩一郎」氏による経営の問題点を指摘していくが、最後になって「だがJDI迷走の責任を谷山一人に負わせるのは酷である。谷山は経産省やその先にある官邸の意向を忖度して動いたに過ぎない」となってしまう。

実権を握った」のが「谷山浩一郎」氏で、同氏が勝手に「官邸の意向を忖度」したのならば、「経営がうまくいかない最大の原因は『官の介入』」とは言えない。「谷山浩一郎」氏の問題だ。

実際に「官の介入」があったのならば「谷山浩一郎」氏が「実権を握った」とは言えない。「実権」は「官邸官僚」にあったはずだ。「谷山浩一郎」氏は「官邸の意向を忖度して動いた」のではなく「官の介入」で操られていたことになる。

「どっちなの?」と大西氏に聞きたくなるが、本人もよく分かっていないのだろう。分かっているとしたら説明が下手すぎる。


※今回取り上げた記事「『JDI敗退』官邸官僚は万死
https://facta.co.jp/article/201905003.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

2019年4月24日水曜日

強引な「まとめ物」 日経「川重など油圧機器増産」の問題点

無理のある「まとめ物」はやめた方がいいと繰り返し訴えているが、日本経済新聞の紙面からなくなる気配はない。24日の朝刊企業2面に載った「川重など油圧機器増産 北米・アジアなど 建機需要増に対応」という記事も内容がかなり苦しい。全文を見た上で具体的に指摘したい。
浦山公園の桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

世界的な建設機械需要の高まりを背景に、油圧機器各社が生産体制を増強する。川崎重工業は2019年中にも米国で建機向けの生産を始める。KYBも約40億円を投じ日本と中国で増産する。北米やアジアなどのインフラ投資が活況な中、世界的に生産拠点を増やし貿易リスクにも備える。

川重は数億円を投じ米ミシガン州の販売・サービス拠点に建機向けポンプのラインを設け、年4千~5千台程度を生産する。

土木作業に使う油圧ショベル向けではなく、ホイールローダーや農業向けのトラクターなど新分野のポンプ需要を開拓する。「納入する機種の種類を増やし、需要変動に対応しやすくする」(嶋村英彦精密機械ビジネスセンター長)狙いだ。

中国やインド、英国でも増産を進めている。米生産開始で油圧機器の生産拠点は世界6極体制となり、世界全体の生産能力を21年度には18年度比で25%増やす。

KYBは長野県の小型ショベル工場で建屋を新設。コントロールバルブの生産能力を年間10万台前後と2割増やし秋にも稼働する。中型ショベル向けのモーターも日本、中国の工場合わせて6割増の年15万台にする

英調査会社のオフ・ハイウェイ・リサーチによれば世界の建設機械需要は18年に前年比26%増え過去最高の112万台に達した。19年以降は需要の伸びが一服しそうな状況だ

◇   ◇   ◇

気になった点を挙げてみる。

(1)なぜ2社?

これも繰り返し指摘しているが、まとめ物で2社は辛い。最低でも3社、できれば4社は欲しい。でないと「この業界ではそういう流れなんだな」と納得できない。


(2)話が違ってない?

世界的な建設機械需要の高まりを背景に、油圧機器各社が生産体制を増強する」と冒頭で打ち出しているが、最後に「19年以降は需要の伸びが一服しそうな状況だ」と述べている。

油圧機器各社が生産体制を増強する」のは「19年以降」だ。「需要の伸びが一服しそうな状況」で「各社が生産体制を増強する」のは解せない。過去の計画をいまさら止められないのか、あるいは「油圧機器各社」が愚かなのか。その辺りを記事は何も教えてくれない。


(3)「年4千~5千台」と言われても…

年4千~5千台程度を生産する」と書いているが、全体の生産規模に触れていないので「年4千~5千台」がどれほどのものか評価しづらい。

さらに言うと「農業向けのトラクターなど新分野のポンプ需要を開拓する」のであれば「世界的な建設機械需要の高まりを背景に」という説明とあまり整合しない。「農業向けのトラクター」は「建設機械」ではないだろう。


(4)いつの話?

KYB」について「中型ショベル向けのモーターも日本、中国の工場合わせて6割増の年15万台にする」と書いているが、「年15万台にする」時期は不明。whenに触れない日経の悪い癖が出ている。

まとめ物の企業ニュース記事を書く基礎的な能力が身に付いていない記者が書いて、それを指導すべき企業報道部のデスクも問題意識を持たずにそのまま紙面に載せてしまった--。今回の記事には、そんな印象を持った。


※今回取り上げた記事「川重など油圧機器増産 北米・アジアなど 建機需要増に対応
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190424&ng=DGKKZO44096000T20C19A4TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年4月23日火曜日

「男職場に5時まで編集長」の存在が怪しい日経「働くママ3.0」

23日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「働くママ3.0(1)男職場に『5時まで編集長』~『マミートラック』を超えて 夜型・長時間労働を変革」という記事は無理のある内容だった。「男職場に『5時まで編集長』」がまず怪しい。
筑後川沿いの桜(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

最初の段落では以下のように書いている。

【日経の記事】

働くママがバージョンアップしている。働き始めた1.0。家庭より仕事を優先する「バリキャリ」か、家庭を優先し昇進をあきらめる「マミートラック」で悩んだ2.0。今や働くことは当然で、ママを楽しみ、キャリアも大切にする3.0世代だ。女性誌VERY(光文社)初の女性編集長となった今尾朝子(47)もその1人。長時間労働や夜型勤務、社交も業務といった男職場に変革をもたらしている


◎文が不自然では?

まず「長時間労働や夜型勤務、社交も業務といった男職場に変革をもたらしている」という文が不自然だ。普通に解釈すると「長時間労働も夜型勤務も社交も全て業務に当たる男職場に変革をもたらしている」という意味か。しかし「長時間労働も業務」なのは当たり前というか、そういう言い方はしないというか…。

「『長時間労働』『夜型勤務』『社交も業務といった男職場』のそれぞれに変革をもたらしている」という解釈もできなくはない。しかし、それぞれが重なり過ぎている。

おそらく「長時間労働や夜型勤務は当たり前で社交も業務の一環とされる男職場に変革をもたらしている」と言いたかったのだだろう。だとすると舌足らずが過ぎる。

記事の言う通りならば「VERY」の編集部は「男職場」であり、「初の女性編集長となった今尾朝子」氏が職場に「変革をもたらしている」はずだ。しかし、記事からはその様子が浮かび上がってこない。

長くなるが、記事を最後まで見ていく。

【日経の記事】

出版不況で多くの雑誌が廃刊する中、主婦向け女性誌ではトップクラスの発行部数24万部(2018年10~12月、一般社団法人日本雑誌協会調べ)を誇る。

4年前、今尾が10カ月の産休・育休から戻った時は部で唯一のママ社員だった。「編集長の業務」とされる夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた

19年1月号の特集が反響を呼んだ。タイトルは「『きちんと家のことをやるなら、働いてもいいよ』と将来息子がパートナーに言わないために今からできること」。エッセイストの紫原明子がツイッターで取り上げると、2日間で1万リツイート。ウェブ記事へのアクセスは通常より2割増えた。

「君が働かなくても、僕の給料だけでやっていけるのに」「え、買ってきたの?今日、ご飯作れなかったの?」。特集誌面には、普段ママたちの神経を逆なでしているフレーズが躍った。

男女共同参画が叫ばれる中、夫の前時代的な意識や、社会に期待される妻の役割など、女性が日ごろ抱える葛藤。「働くママだけでなく、専業主婦や子供を持たない女性からも大きな共感を得た」。今尾は胸を張る。

フリーライターから中途採用された今尾は07年、35歳で女性初の編集長に抜てきされた。「スカートをはいているからといって女性のことを分かったつもりになるなよ」。就任直後、男性の先輩編集者からクギを刺された。「独りよがりな思い込みをせず、具体的な読者と向き合え」との助言と受け止めた。

1995年創刊のVERY。「シロガネーゼ」などの流行語を生んだように、かつての読者層は「裕福な専業主婦の奥様」。今尾は編集長に就任すると方針転換。「かっこいいママ」「働くママ」をターゲットにする。

編集長就任第1号の特集タイトルは「『カッコイイお母さん』は止まらない」。雑誌のコンセプトコピーも変えた。「基盤のある女性は、強く、優しく、美しい」。ここで言う基盤とは家族。家庭に「入った」ではなく、家庭を「築いた」からこそ、自分の意志で人生を切り開く女性の強さを表したかった。

起きている時間は常に雑誌のことを考えていた出産前に比べ、会社にいる時間は半減し「椅子に座る時間もない」。自宅に持ち帰っても時間が足りず、断念する仕事は多い。葛藤もあるが「家では子供が最優先。普通の生活を大切にしたい」。気負いのない本音が読者の共感を呼ぶ。

女性誌の敏腕編集長というと、強気で自信家のイメージが浮かぶが、今尾の自己評価は「子供の頃から本当に普通」。勉強でも部活動でも特別目立ったことはない。新卒で入った会社は3カ月で辞めてしまった。それだけに「すべてを器用に完璧にこなせるスーパーウーマンになれない。自分のような普通の女性は多いはず」と強く思う。

「雑誌に出てくるママたちは、キラキラし過ぎて見るのがつらい」との声は多い。今尾自身、家事代行やベビーシッターを活用すれば多くの悩みが解決することも分かっているが「誰もが軽やかにしなやかに生き方や考え方を変えられるわけではない」。

理想と現実のギャップ。先入観や価値観の揺らぎ。「女性の生き方は決して一様ではない。だからこそ、女性同士が共感し、協力し合える場でVERYはありたい」。今尾は前を見据える。

今尾の中にロールモデルや理想の上司は存在しない。今年の国際女性デーで話題になったキャッチコピーは「#わたしを勝手に決めないで」。多様化する女性の在り方を社会が受け入れていこうというメッセージだ。

限界を自分で決めず「こうあるべき」に縛られず。働くママは進化する。(敬称略)


◎色々とツッコミどころが…

記事には色々と疑問が浮かぶ。列挙してみる。

(1)「5時まで編集長」と言える?

定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた」という「今尾朝子」氏を「5時まで編集長」と呼べるだろうか。「5時半に退社」ならば「5時まで」の日はほぼない気がする。
菜の花と耳納連山(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です


(2)「男職場」なの?

VERY」の編集部は「男職場」のはずだ。こう呼ぶからには編集長以外のスタッフは男性でないと苦しい。しかし記事中にそれを確認できる記述はない。女性がそこそこいても「社交も業務」だったりすると「男職場」になると取材班は認識しているのか。だとすると一般的な「男職場」のイメージからは乖離している。


(3)「変革」ある?

今尾朝子」氏が「『編集長の業務』とされる夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活に切り替えた」のは分かる。しかし「男職場」をどう「変革」したのかは不明だ。

起きている時間は常に雑誌のことを考えていた出産前に比べ、会社にいる時間は半減」との記述から判断すると「VERY」の編集部は1日の労働時間が15時間を超えるような過酷な職場なのだろう。

そして編集長は「午後5時半に退社する生活」を続けている。残りの人たちはどうなったのか。「今尾朝子」氏が起こした「変革」で「夜の会食やパーティーの大半を断り、定時の午後5時半に退社する生活」ができるようになったのか。肝心なところが分からない。

記事には「自宅に持ち帰っても時間が足りず、断念する仕事は多い」との記述もある。だとしたら「5時まで編集長」とは名ばかりで、実際は長く働いている可能性もある。編集長自身に関しても「変革」ができているのか怪しい。

男職場」をどう「変革」したかに触れないで、雑誌の中身をあれこれ前向きに紹介されても困る。これでは「VERY」の記事型広告だ。

記事の最後には「松本和佳、河野俊、松原礼奈が担当します」と出ていた。初回の失敗をしっかり反省して2回目以降で立て直してほしい。


※今回取り上げた記事「働くママ3.0(1)男職場に『5時まで編集長』~『マミートラック』を超えて 夜型・長時間労働を変革
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190423&ng=DGKKZO44065530S9A420C1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。松本和佳記者、河野俊記者、松原礼奈記者への評価も暫定でDとする。

2019年4月22日月曜日

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員

日本経済新聞の西條都夫論説委員がまた雑な分析を披露している。22日の朝刊オピニオン面に載った「核心~平成の『敗北』なぜ起きた」という記事では「4月末に経済同友会代表幹事を退く小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長」を長々と持ち上げた後で、「平成の『敗北』なぜ起きた」について以下のように記している。
浦山公園の桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

そんな直言居士(※注:小林会長のこと)は、幕を閉じようとしている平成年間をずばり「敗北の時代」と呼ぶ。株式時価総額ランキングをみると、平成元年(1989年)には世界の上位20社のうち、NTTを筆頭に14社が日本企業だったが、今はゼロ。トヨタ自動車の41位が最高で、上位層は米国や中国のデジタル企業が占拠する。

マクロの経済指標でみても、89年には世界4位だった日本の1人当たり国内総生産(GDP)は18年には26位まで下落した。私たち日本人はかつて世界に誇った相対的豊かさをゆっくりと、だが確実に失いつつあるのだ。

その責任者は誰で、原因は何か。よく言われるのは人口減とデフレだが、いずれも根本原因とは思えない。人口減がトータルの経済規模に負の影響を与えるのは事実だろうが、それは人間の力では乗り越えがたい宿命論的な制約ではない。例えば人口増加率が1%程度だった中国はつい最近まで2桁の経済成長を実現してきた。人口がたいして伸びない中でも、やり方次第で高成長は可能なのだ。

デフレについても「マイルドなデフレ下で経済が繁栄した例は歴史上ある」と、マクロ経済が専門の立正大学の吉川洋学長は指摘する。代表例が19世紀のビクトリア女王統治下の英国だ。今の日本に似た「ダラダラとしたデフレ」が10年単位で続いたが、この時期に英国の産業や通商は飛躍し、フランスの沖合に浮かぶ島国が7つの海を支配する「大英帝国」に姿を変えた。

デフレや人口減が真犯人でないとすれば、何が停滞を招いたのか。小林会長の答えは極めてシンプル。「生産セクター、つまり企業の活力の衰えだ」という。日本企業がインパクトのある新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進んだのだ。総じて言えば、昭和の時代に急成長した日本企業も徐々に年老いて、リスクを嫌がる保守的な組織になったということかもしれない

それを数字で示すのが、企業セクターのカネ余りだ。内閣府の国民経済計算によると企業(非金融)の17年度の純貯蓄は33兆円弱にのぼり、9年連続で家計を上回る最大の純貯蓄主体になった。これが資本主義のあるべき姿だろうか。高度成長期は家計の貯蓄を銀行経由で企業が借りて、リスクを取って新事業や新設備に投資した。そんな成長サイクルが途絶して久しい。

小林会長自身にはこんな経験がある。他社に事業統合や買収を持ちかけ、交渉はいい線まで行くが、最後の最後で断られる。その際の相手方トップのセリフはいつも同じ。「有力OBの○○さんが反対で、説得できませんでした」――。当該事業の盛衰に今後の人生が左右される若い人の意見ならともかく、役目を終えた人の発言がなぜ重きをなすのか。これも企業活力を阻害する一因と考える。


◎それはそうでしょうが…

何が停滞を招いたのか。小林会長の答えは極めてシンプル。『生産セクター、つまり企業の活力の衰えだ』という」と述べた上で「総じて言えば、昭和の時代に急成長した日本企業も徐々に年老いて、リスクを嫌がる保守的な組織になったということかもしれない」と西條論説委員は教えてくれる。しかし、これではまともな分析になっていない。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

圧倒的な強さを誇ったプロ野球チームが下位に低迷するようになったとしよう。その時に解説者がこんな分析をしたらどうか。「何が停滞を招いたのか。それは選手の力の衰えだ。かつて大活躍した選手も年老いて華麗で豪快なプレーができなくなった」--。

「主力選手の力がいずれは衰えていくのは当然でしょ。問題はなぜ世代交代に失敗したかじゃないの? そこを分析しないと…」という不満が出てきそうだ。

西條論説委員の分析にも同じことが言える。「昭和の時代に急成長した日本企業」が衰えても、平成の時代に生まれた企業が牽引すればいい。米国ではそうなっている。なぜ日本は米国のような世代交代ができなかったのか。そこを分析しないと。

株式時価総額ランキング」を基に「企業の活力の衰え」を見るのはダメとは言わないが注意が要る。「平成元年(1989年)」はバブルのピークだ。当時の「ランキング」が異常だったと見る方が自然だ。

日本企業がインパクトのある新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進んだ」と西條論説委員は言うが、ならば当時の「ランキング」上位だったNTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、三菱銀行、東京電力は「インパクトのある新製品や新サービス」を次々と生み出して日本経済を引っ張っていく存在だったのか。


※今回取り上げた記事「核心~平成の『敗北』なぜ起きた
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190422&ng=DGKKZO43961980Z10C19A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

2019年4月21日日曜日

日経社説「旅行サイトの価格に透明性を」の辻褄合わない説明

宿泊料を競合するサイトと同じか、それ以下にさせる条項」があると「ホテルは需要に応じた機動的な値下げができない」事態に陥るだろうか。ならなさそうな気がするが、日本経済新聞の論説委員は「機動的な値下げができない」と確信して社説を書いているようだ。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
流川桜並木(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

21日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「旅行サイトの価格に透明性を」という社説についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

検査の対象は楽天トラベル、ブッキング・ドット・コム、エクスペディアを運営する3社。サイトで宿泊客を集め、ホテルから手数料を得るプラットフォーマーだ。ホテルとの契約の中で、宿泊料を競合するサイトと同じか、それ以下にさせる条項を設けていた疑いがあるという。これが事実だとすれば、ホテルは需要に応じた機動的な値下げができない。価格競争がゆがみ、料金が割高に設定されていた可能性がある

宿泊料を競合するサイトと同じか、それ以下にさせる条項を設けていた」場合、「ホテルは需要に応じた機動的な値下げができない」と言い切っています。しかし、この「条項」は「宿泊料を競合するサイトと同じか、それ以下にさせる」ことを求めているだけです。「機動的な値下げ」は禁じていません。

契約しているサイト全てにこの「条項」があっても、1泊1万円の提示額をホテル側が8000円にしたいと考えた場合、簡単にできます。全てで8000円を提示すればいいだけです。自社サイトだけ7000円といった「値下げ」はできませんが、価格を揃えれば7000円への引き下げも可能です。

これが事実だとすれば、ホテルは需要に応じた機動的な値下げができない」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

料金が割高に設定されていた可能性がある」との説明も解せません。「可能性」がゼロとは言いませんが、「機動的な値下げ」はできるのですから「料金が割高に設定されていた可能性」は低いと考える方が自然です。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


筆者は「自社サイトだけ安くするといった機動的な価格設定ができない」と言いたかったのだろう。もしそうならば、そう書くべきだ。


※今回取り上げた社説「旅行サイトの価格に透明性を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190421&ng=DGKKZO44007360Q9A420C1EA1000


※社説の評価はD(問題あり)。

2019年4月20日土曜日

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」

親子上場に否定的な記事は多いが、説得力のある主張に触れた記憶がない。20日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~親子上場問題の本質」という記事も例外ではない。まず「認識が間違っている」と思える記事の前半を見ていこう。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

金融庁と経済産業省が親子上場を議論の俎上(そじょう)に載せ、社外取締役の役割を強化しようと働きかけている。親子上場は経営の規律を弛緩(しかん)させるとの認識に基づくが、どこまで本質を突いているのか。

最近注目された親子上場の一つはソフトバンクグループによる通信子会社の新規公開だ。日産自動車の事件は、ルノーの支配下にあった事業会社、日産の経営問題でもある。

親子上場が大手を振ってきたのは、経営者や投資家に合理的な意思決定や判断の能力が欠如していたからだろう。企業側として、ある事業に成長性と高い利益率が見込めるのなら、それは宝物である。その事業の権利の一部といえども、外部投資家に売却するのは正しくない

では、ある事業を子会社として分離し、その株式の一部を外部投資家に売ったとして、その背景は何か。当該事業が宝物ではなくなったか、他にもっと有望な宝物が見つかったからだろう。しかし、そう判断したのなら、部分的な売却に対する説明が難しい。完全売却がより望ましい。



◎「売却するのは正しくない」?

筆者の「癸亥」氏は「ある事業に成長性と高い利益率が見込めるのなら、それは宝物である。その事業の権利の一部といえども、外部投資家に売却するのは正しくない」と言い切っている。これは明らかに間違っている。「価格次第では売却が正しい」と考えるべきだ。

企業側」が「成長性と高い利益率が見込める」子会社を有していて、その価値を100億円とみているとしよう。そこに「外部投資家」が1兆円で買いたいと申し入れてきた。ここで「売却するのは正しくない」と言えるのか。「当該事業が宝物ではなくなった」訳でも「他にもっと有望な宝物が見つかった」訳でもない。「癸亥」氏は1兆円で「売却するのは正しくない」と考えるのか。では10兆円ならどうなるのか。答えは明らかではないか。

部分的な売却」も同じだ。100億円の価値がある子会社があって、その株式の10%を1000億円で買ってくれる投資家がいる場合、「外部投資家に売却する」のは間違った判断ではないと考えるのが当然だ。

後半も見ておこう。

【日経の記事】

もっとも、魅力度の低下した事業の一部分を子会社として残すのは親会社にとって保険となりうる。魅力度が高いと考えた新規事業の成果が芳しくなければ、残しておいた子会社の利益を強引に吸い上げればいい。投資家側からすれば、そんな子会社株式とは残りかすか二番手事業でしかない。しかも部分的に保有させられる子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまうのなら、リスクが高すぎる

以上、親子上場には、企業側にはメリットが残りうる。投資家側にはデメリットしかないそんな上場制度を許してきたのは、投資家がきわめて従順だったからでもある。

さらにいえば、政府もまた親子上場制度のメリットを享受してきた。国有事業の民営化において、親子上場を利用してきたのは周知の事実である。そもそも、上場した親会社の経営権さえ政府が掌握している。投資家としては、政府の利益が優先されるリスクを強く意識せざるをえない。

親子上場の本質とは、株主総会という最高意思決定の場において、一般投資家が影響力を発揮できないことにある。社外取締役の人数を含めた取締役会の構成ではなく、親子上場そのものを許すかどうかが問われている。



◎「デメリット」しかない?

親子上場が「投資家側にはデメリットしかない」との解説にも同意できない。「ソフトバンクグループによる通信子会社の新規公開」に関して考えてみよう。「通信事業に投資したいが、ソフトバンクグループは他にも色々手を広げているのが難点」と考えている投資家にとって「通信子会社の新規公開」は悪くない話だ。親子上場には、投資対象を限定できるという「メリット」がある。

部分的に保有させられる子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまうのなら、リスクが高すぎる」との見方にも異を唱えたい。これに関しては「リスク」に見合って株価が低くなれば解決する問題だ。

癸亥」氏は「投資家がきわめて従順だった」というが、「投資家」は「リスクが高すぎる」投資対象にも文句を言わずにカネを払うほど愚かなのか。そういう投資家がいないとは言わないが、機関投資家を含め全体をそう見なすのは無理がある。

子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまう」リスクがないとは言わない。だが、それは株価で調整できる問題だ。親子上場だとの情報公開がないままの「新規公開」を認めているのならば別だが、日本の親子上場にそれはない。だったら後は投資家が「親子上場ディスカウント」をどう判断するかだ。

親子上場」を認めても大した問題はない。色々考えても、この答えしか出てこない。


※今回取り上げた記事「大機小機~親子上場問題の本質
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190420&ng=DGKKZO43946480Z10C19A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。

「オプジーボ巡る対立」既に長期化では? 日経ビジネス橋本宗明編集委員に問う

日経ビジネス4月22日号に載った「時事深層 INDUSTRY~オプジーボの対価巡り小野薬品と溝 本庶氏が小野薬品に突き付けた『1000億円』」という記事にはツッコミを入れたくなった。
浦山公園の桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

筆者の橋本宗明編集委員は最初の段落で「対立が長引けば産学連携の機運の高まりに冷や水を浴びせかねない」と書き、最後も「両者の対立が長引き、産学連携の機運の高まりに冷や水を浴びせる事態に発展することだけは避けてもらいたい」と締めている。内容がダブり過ぎている感じもするが、今回ツッコミを入れるのはそこではない。

記事の書き方から判断すると橋本編集委員は「現時点では対立は長引いていない」と見ているようだ。これが解せない。記事の一部を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

小野薬品と本庶氏は06年10月にライセンス契約を交わした。ただライセンス料が1%以下と低かったことから、11年に本庶氏側が料率の見直しを要請した。

13年には小野薬品から修正案が提示されるが、合意には至らず現在に至る。18年には小野薬品は一括支払いを提案するも本庶氏が拒否。


◎既に「長引いて」いるような…

記事の説明を信じれば「11年に本庶氏側が料率の見直しを要請した」ことが「対立」の出発点だ。だとすれば既に8年が経過している。「両者の対立」は十分に長引いているのではないか。「8年は長くない」と橋本編集委員は考えているのだろうか。だとしたら、どのぐらい「対立」が続けば「長引いた」と言えるのか示してほしい。

産学連携の機運の高まりに冷や水を浴びせかねない」という説明も解せない。「両者の対立」は8年も続いているのに、現時点では「産学連携の機運の高まり」が見られるようだ。

ノーベル賞受賞後の方が注目を浴びるという面はあるが、過去に両者が長く「対立」していても「産学連携の機運の高まり」を実現できたのだから、心配する必要はなさそうな気もする。

それに決着を急げば「産学連携の機運の高まりに冷や水を浴びせ」ないとも言い切れない。例えば「本庶氏側」に圧倒的に不利な条件で決着した場合、「」の側が「産学連携」に消極的になる可能性もある。

「対立はまだ長引いていないのか。長引くと本当に産学連携の機運の高まりに水を差すのか」に関して橋本編集委員はもう一度じっくり考えてほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY~オプジーボの対価巡り小野薬品と溝 本庶氏が小野薬品に突き付けた『1000億円』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00131/


※記事の評価はC(平均的)。橋本宗明編集委員への評価は暫定でCとする。

2019年4月18日木曜日

「誰が投げても勝てる野球」の実現を信じた日経 篠山正幸編集委員

日本経済新聞の篠山正幸編集委員はプロ野球に詳しいはずだが、なぜかよく分からない解説を披露する。18日の朝刊スポーツ面に載った「逆風順風~データ野球で薄れる『人』要素」という記事では以下のように書いている。
流川桜並木(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

野球界は今、メジャー発の革命のさなかにある。極端なシフトがその例だし、打撃は上からたたくより、打球が上がるスイングの方がいい、という「フライボール革命」もそうだ。

投手起用では救援投手を先発させ、まず相手上位陣の攻撃を封じて、先手を取れる確率を高くする、という新手も現れた。形だけの先発を立て、早い継投で目先を変えていく手法も試されている。

現代野球で、しょせん完投は望めず、何人かの投手でまかなうことになる。その場合の各人の分担回数と順番の最適解とは……。それはそれで興味深い設問で、大エースに頼らずとも勝てるシステムの模索といえる。新手法はいずれ、統計的な精査を受け、有効とされれば普及するだろうが、気がかりなのはその過程で「人」の要素が薄れていくことだ。

野球ファンは「人」についている面もある。誰が投げても勝てる野球は、誰が投げるかに注目するファンの欲求と両立するのか。効率と確率を究める先に、胸ときめくフィールドがあるとは限らない。



◎「誰が投げても勝てる」?

まず「誰が投げても勝てる野球は、誰が投げるかに注目するファンの欲求と両立するのか」という問題提起が謎だ。「形だけの先発を立て、早い継投で目先を変えていく手法」などがいくら普及しても「誰が投げても勝てる野球」は絶対に実現しない。こんなことは、わざわざ説明しなくても篠山編集委員も分かるはずだが…。

その過程で『人』の要素が薄れていく」との指摘も理解に苦しむ。「現代野球で、しょせん完投は望めず、何人かの投手でまかなうことになる」という状況は既にある。そこからさらに「効率と確率を究め」ても、1試合を「何人かの投手でまかなう」のは同じだ。なぜ「『人』の要素が薄れていく」のか。

投げる投手の数が少なければ少ないほど「『人』の要素」が濃くなると篠山氏は考えているのだろう。これも解せない。先発が8回まで投げて抑えに9回を任せると、先発完投より「『人』の要素が薄れていく」のか。強いて言えば2人の投手が出てくる方が「『人』の要素」は濃くなる気がする。控えめに言っても、濃さは同じではないか。



※今回取り上げた記事「逆風順風~データ野球で薄れる『人』要素
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190418&ng=DGKKZO43874000Y9A410C1UU8000


※記事の評価はD(問題あり)。篠山正幸編集委員への評価はDを維持する。篠山編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 篠山正幸編集委員「レジェンドと張り合え」の無策
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_10.html

「入団拒否」の表現 日経はどう対応? 篠山正幸編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post.html

大谷を「かぐや姫」に例える日経 篠山正幸編集委員の拙さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_11.html

下手投げは「道なき道」? 日経 篠山正幸編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_50.html

2019年4月17日水曜日

「新紙幣でタンス預金が減る」と第一生命経済研究所の熊野英生氏は言うが…

「新紙幣の発行でタンス預金が減る」という話がどうも理解できない。17日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「市場点描 マーケットの話題~タンス預金、新札発行で動くか」という記事でも、この問題を取り上げている。
ビューホテル平成(福岡県朝倉市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

家計に眠る現金「タンス預金」。日銀の超低金利政策もあり、じわりと増え続けている。紙幣の流通残高100兆円に対して50兆円(1月末時点)あるといわれる。2024年の新紙幣発行にはそのお金をあぶり出し、消費や投資を活性化させる狙いもあるとみられる。果たしてタンス預金は動くのだろうか。

前回の紙幣切り替えは02年8月に発表され、2年後の04年11月に新紙幣が発行された。発行時にはタンス預金が1年前に比べ3%減った。これを単純に当てはめると、約1兆5000億円のタンス預金が世の中に出回ることになる。

第一生命経済研究所の熊野英生氏はタンス預金残高は増え続け「23年には70兆円を超える可能性がある」と指摘。新紙幣の発行で「消費に回ることは期待できないが、2兆2000億円規模が金や外貨投資に流れそうだ」と予想する

一方で、みずほ証券の上野泰也氏は「タンス預金の取り崩しが活発になるとは考えにくい」とみる。長生きに備えて現金を手元に置く高齢者が多いほか、今後も旧紙幣が使えるためだ。日銀の異次元緩和が終わらず、預貯金の利率が低いままでは手元の現金を預貯金にシフトする動きも限られるとみる。


◎なぜ「金や外貨投資」に?

タンス預金の取り崩しが活発になるとは考えにくい」という「みずほ証券の上野泰也氏」の見方は納得できる。「今後も旧紙幣が使える」のだから問題はないはずだ。

そうは言っても「旧紙幣」が使えなくなると勘違いする人がかなりいるかもしれない。その場合、「新紙幣」と交換して「タンス預金」として持っておくのではないか。「新紙幣」に切り替わっても、「タンス預金」の必要性に変化が生じる訳ではない。

しかし「第一生命経済研究所の熊野英生氏」は「消費に回ることは期待できないが、2兆2000億円規模が金や外貨投資に流れそうだ」とコメントしている。きっと何らかの根拠があるのだろうが、記事では触れていない。「新紙幣の発行が始まったらタンス預金を取り崩して金で持った方がいいかも」と考える人がかなりいるだろう。そういう人に聞いてみたい。「なぜ?」と。

日経は4月12日付の「新紙幣、動くかタンス預金50兆円」という記事でもこの件に触れているので、その一部を見ておこう。

【日経の記事】

「タンス預金」への影響も考えられます。家の金庫などに保管されている紙幣は国全体で推定約50兆円です。眠るお金の目を覚まし、消費や投資に向かわせる副次効果を政府は狙っているようです。

例えば新紙幣になると駅の券売機や自動販売機などが改修され、古い紙幣は投入してもはじかれる可能性があります。その前に消費に回そうと考える人は出てきそうです

元税務署員のある税理士が注目するのは「脱税目的のタンス預金をあぶり出す効果」です。日本では相続課税から逃れようと「1千万円規模の現金を銀行から引き出して一万円の札束で家に隠しておく例が珍しくない」そうです。

その中には「焦って新紙幣に交換しようと銀行に持ち込む人がいる」かもしれません。現実には前述のとおり古い紙幣は有効だし、税務署は口座記録などから脱税を見抜きますが、現金ならばれないという迷信が根強いようです。



◎そんなに非合理的?

駅の券売機や自動販売機」で使えなくなるから「新紙幣」に替えておこうならばまだ分かる。なぜ「その前に消費に回そうと考える」のか謎だ。

脱税目的のタンス預金をあぶり出す効果」があるという話も理解に苦しむ。仮に「焦って新紙幣に交換」したとしても、それが直接的に「相続課税」につながるのか。多額の「タンス預金」を持っていたとしても、多くの場合はそれが「相続課税」を逃れたものなのか分からないはずだ。

百歩譲って「新紙幣」の発行には「脱税目的のタンス預金をあぶり出す効果」があるとしよう。しかし、記事によれば「税務署は口座記録などから脱税を見抜」けるし、「現金ならばれない」というのは「迷信」なので、「タンス預金をあぶり出す」までもなく、しっかりと「相続課税」はできているはずだ。なのに「タンス預金をあぶり出す」意味があるのか。

2つの記事から判断すると「合理的に判断できない人がたくさんいるので、新紙幣の発行によってタンス預金の取り崩しが起きる」ということか。実際にそうなるかもしれないが「そんなに多くの人非合理的に行動するかな」とは思う。


※今回取り上げた記事

市場点描~マーケットの話題 タンス預金、新札発行で動くか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190417&ng=DGKKZO43796520W9A410C1EN2000

新紙幣、動くかタンス預金50兆円
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190417&ng=DGKKZO43796520W9A410C1EN2000


※記事の評価はいずれもC(平均的)。

2019年4月16日火曜日

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」

日本経済新聞の中村直文編集委員にコンビニの24時間営業問題を論じてほしいと求めてきた。それが16日の朝刊で実現した。だが内容は残念だった。事実誤認と思える記述はあるし、何より「本部はこの問題にどう対応すべきか」という最も重要なところを論じていない。
筑後川沿いの桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】 

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

16日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~コンビニ、脱24時間の幸運」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

コンビニを生み出したきっかけは大型店の出店規制だ。政府は74年、中小零細の小売店を守るため、大規模小売店舗法(大店法)を施行した。小売り各社は小型店出店に走るが、『政府は米国で訴訟が相次いだ小型店を柱としたフランチャイズビジネスに警戒感を持っていた』(法政大学の矢作敏行名誉教授)という。そこでセブンは『中小小売店の活性化と近代化』『共存共栄』を掲げた。政府の狙いに寄せた理念で74年に1号店をオープンする。規制強化を逆手にとって誕生したコンビニだが、90年代からは規制緩和が追い風になる

中村様は「セブン」が「74年に1号店をオープン」したことを以って「コンビニ」が「誕生した」と捉えているのでしょう。「コンビニを生み出したきっかけ」が「74年」にできた「大店法」との認識なので、それより前に「コンビニ」はなかったはずです。

しかし北海道が地盤のセイコーマートのホームページを見ると「第1号店が開店(札幌市内)」したのが1971年です。ちなみにファミリーマートの「実験第1号店が埼玉県狭山市に開店(狭山店、現・入曽店)」したのは「1973年9月」で、これもセブンの「1号店」よりも先です。

ファミリーマートに関しては「あくまで実験店だから」との弁明ができますが、セイコーマートに関しては実験店ではありませんし、開業時期もセブンより3年も早いのです。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事の感想も述べてみます。

今回の記事を見た時に「普段から消費関連企業に優しくコンビニ関連記事でもセブン寄りの姿勢が目立つ中村編集委員がこの問題をどう論じるのか」と興味を持ちました。

結論から言えば、残念な内容でした。記事の終盤は以下のようになっています。

<記事の引用>

人手不足の改善が見込めない以上、コンビニはいったんかがむ必要があった。余力がある今、改革を迫られた24時間問題は、実は次の成長を模索する上で幸運だったのかもしれない。既存の加盟店支援とともに経営のIT化、出遅れ気味の海外市場の開拓などやるべきことは山ほどある。持続的な成長を再考するチャンスだ。

働き方や環境を重視する成熟社会では、収益優先の経済界の常識は時に世間の非常識になる。社会の変化に対応しながら、成長戦略を進める必要があるのは何もコンビニだけではない。過去の成功体験に陥らず、社会の利益を損なう芽を自主的に摘む重要性を24時間問題は投げかけている。

--引用は以上です。

大まかに言えば、今回の記事はコンビニの歴史を振り返った上で「24時間問題」は「持続的な成長を再考するチャンスだ」と述べているだけです。異論はありませんが、誰でも分かる当たり前の話です。問題は「24時間問題」にどう対応すべきかです。

選択制を全加盟店に適用すべきなのか。それとも例外的な扱いにするのか。例外的とする場合、基準はどうするのか。「24時間」以外を認める場合、営業時間はどうするのか。様々な難しい問題があります。そこを中村様がどう見ているのか示すべきです。

難しい問題なのは分かります。セブン寄りの中村様としては、24時間営業の原則を維持したい本部に肩入れしたいところでしょう。しかし、記事でそれを前面に出すと、加盟店に無理を強いる血も涙もない主張になってしまいます。

結局、「24時間問題にどう対応すべきか」を論じずに「持続的な成長を再考するチャンスだ」で逃げています。この内容ならば、顔写真まで入れて「編集委員」という肩書を付けてコラムを書く意義はありません。

中村様と同じ流通担当の田中陽編集委員は電子版の記事で24時間営業問題に関して「イノベーションで何とかなる」的な解説をしていました。「足元の問題にどう対応すべきか」から逃げて記事を書いたという点で中村様と共通します。

「セブン本部寄りではダメ」とは言いません。その立場であれば「24時間営業は本部にとって譲れない。契約違反が許されないのは当然だ。どうしてもできないなら加盟店の店主は廃業を考えるべきだ」などと主張すればいいのです。もちろんリスクはあります。それを引き受ける覚悟がないのならば「編集委員」の肩書は返上すべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~コンビニ、脱24時間の幸運
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190416&ng=DGKKZO43749280V10C19A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

2019年4月15日月曜日

週刊ダイヤモンド ようやく「訂正」は出たが内容が…

週刊ダイヤモンドが「ミス放置」の方針を転換したことは評価している。4月20日号には実際に訂正も出ていた。しかし訂正の内容に問題ありだ。訂正をそのまま反映させると記事として成立しなくなる。
筑後川沿いの桜(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

ダイヤモンド編集部には以下の内容で指摘しておいた。

【ダイヤモンド編集部へのメール】

週刊ダイヤモンド編集部  藤田章夫様 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様

4月20日号に載った「訂正とお詫び」についての指摘です。訂正は以下の内容でした。

【訂正とお詫び】

●本誌3月30日号38ページ3段目の「金利が低下すれば株価が上がり、片や債券価格は下がる」について、債券価格も「上がる」に、また同段の「株をロング(売り持ち)し、債券をショート(買い持ち)」を「株をロング(買い持ち)し、債券をショート(売り持ち)」に訂正します。

訂正後の記事は以下のようになります。

【訂正後の記事】

株と債券は、「逆相関」の関係にあるというのが定説だ。金利が低下すれば株価が上がり、債券価格も上がるといった具合だ。こうした局面にあるとみれば、株をロング(買い持ち)し、債券をショート(売り持ち)して運用する。

株価が上がり、債券価格も上がる」のであれば「株と債券は、『逆相関』の関係」になりません。「順相関」です。また「こうした局面(株価も債券価格も上がる局面)」では株も債券も「ロング(買い持ち)」するのが得策です。

記事内容を訂正する場合は、全体の流れの中での整合性にも気を配る必要があります。今回は間違ったところを単純に直してしまったので、記事として成立しなくなっています。

「次号で再び訂正を出すべきだ」とは言いません。ただ、オンライン版の記事は修正した方が良いでしょう。改善案を示しておきます。ついでに言うと「株と債券は、」の読点は不要です。そこも直しておきます。

【改善案】

株と債券は「逆相関」の関係にあるというのが定説だ。リスク選好の度合いが強まると株価が上がり、債券価格は下がるといった具合だ。こうした局面にあるとみれば、株をロング(買い持ち)し、債券をショート(売り持ち)して運用する。

訂正の内容に注文を付けましたが、「訂正とお詫び」を載せたこと自体は高く評価しています。ダイヤモンド社に限らず、組織内に色々なしがらみがあるのは理解しているつもりです。田中博氏、深澤献氏と2代に亘って続いた「間違い指摘の握り潰し」から抜け出すのは簡単ではなかったはずです。そんな中での方針転換には敬意を表します。

今回の「訂正とお詫び」を見る限り、経済記事の作り手としての実力が十分とは言えません。そこはこれから改善していけば良いのです。私も一読者として微力ながら御誌を支えていくつもりです。

◇   ◇   ◇

「単純ミスを連発して、その訂正にも問題あり」となると前途多難ではある。しかし、ミスから逃げずに向き合う姿勢さえあれば道は開ける。田中博氏、深澤献氏が編集長を務めていた時は、間違い指摘を握り潰すことで問題から目を背けていた。まさに暗黒時代だ。それに比べれば希望の光はしっかりと見える。週刊ダイヤモンドの今後に期待したい。


※今回の件に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html

2019年4月14日日曜日

日経ビジネス白井咲貴・長江優子記者に感じた女性活躍への「偏見」

日経ビジネス4月15日号に載った「スペシャルリポート~読者と考えた 御社の女性が活躍しない3つの理由」という記事では、女性関連の記事によく出てくる「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」を取り上げている。これを取り除く大切さを筆者ら(白井咲貴記者と長江優子記者)は説くが、記事からはむしろ女性活躍に関する筆者らの「偏見」を感じた。
久留米成田山の桜 ※写真と本文は無関係です

まず見出しの「御社の女性が活躍しない3つの理由」から考えていこう。この見出しには「女性が活躍していない会社がまだまだある」との前提を感じる。もちろん「ない」とは断定できない。しかし、記事を最後まで読んでも「女性が活躍しない」会社の具体例は出てこない。そもそも「女性が活躍しない」会社はあるのか。仮にあるとして、筆者らは具体的に把握しているのかとの疑問が残る。

何を基準に「活躍しない」かどうかを判断するのかも気になる。これは記事から何となく分かる。

【日経ビジネスの記事】

政府は、15年に閣議決定した「第4次男女共同参画基本計画」で、20年までに民間企業での課長相当に占める女性比率を15%、部長相当を10%程度とする目標を掲げた。だが、実績は乏しい。17年時点で課長相当は10.9%、部長相当は6.3%にとどまる。役員に至っては、10%の目標に対し3.7%だ。

掲げる目標が高いわけではない。世界各国の女性管理職比率を見てみると、日本は12.9%にもかかわらず、米国は43.8%、欧州諸国も30%を超えている国が少なくない。役員で見ると、日本の3.7%に対し、フランスは34.4%。英国など欧州諸国は軒並み20~30%台で、経営層に女性は深く浸透している。

男女雇用機会均等法をきっかけに少しずつ女性が働きやすい環境づくりが進んできた日本。それでも平成の30年が終わろうとする今も、海外と比べると、十分に女性が能力を発揮できる環境になっているとはいえない。何が女性のキャリア形成を阻んでいるのか。

日経ビジネスは読者と共に課題を探る「オープン編集会議」を立ち上げ、有識者への取材や、メンバー同士の議論を通じて、問題点を探ることにした。メンバーは会社員、起業家、専業主婦経験者など男性を含む多様なバックグラウンドを持つ22人。参加者の問題意識は下記の囲み記事に記したが、女性のキャリアを阻む要因は、大きく分けて3つに絞り込まれた。


◎管理職以外は活躍してない?

ざっくり言えば「女性管理職比率が低いから日本の女性は活躍していない」と読み取れる。ここに筆者らの「偏見」が垣間見える。

アナウンサーで考えてみよう。男性のAさんは大学卒業後にずっと同じテレビ局に勤めアナウンサーとして仕事をし、50歳でアナウンス部長になった。女性のBさんは30歳でフリーになり、その後は会社員時代を大きく上回る収入を得て50歳の今もアナウンサーの仕事をしている。

この場合、「男性のAさんは活躍したが女性のBさんは活躍できなかった」となるのか。常識的に考えれば、どちらもアナウンサーとして「活躍」したはずだ。「女性管理職比率」を見て、女性は活躍しているとかしていないとか判断する方がおかしい。

白井記者と長江記者には自分たちに引き付けて考えてほしい。もしずっと記者を続けて最後まで管理職にならなかったら「私たちは活躍できなかった」と思うのか。

記事の最後にも「偏見」を感じた。


【日経ビジネスの記事】

16年のOECDのデータによると、日本の大卒で就業していない女性の比率は2割に達する。能力とやる気があるのに活躍できていない潜在的な働き手はまだまだいる。そうした人材の力をどう引き出すか。平成の30年に積み残してきた社会課題を解決するために企業がやるべきことは少なくない。



◎「働いていない=活躍してない」?

上記のくだりからは「就業していない女性活躍できていない潜在的な働き手」との前提を感じる。個人的には「就業していない女性」の多くが育児や介護で「活躍」している気がする。
流川桜並木(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

女性関連記事を書く女性のほとんどはいわゆるキャリアウーマンだ。なので、どうしても「専業主婦は活躍していない」との前提で記事を書いてしまいがちだ。その前提が自分にあることに気付いていないならば、それこそ「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」だ。

「家事や育児を活躍とは見なさない。働いてなきゃ活躍しているとは言えない」--。白井記者と長江記者はそう思っているのだろうか。

最後に「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」に関する説明にもツッコミを入れておきたい。

【日経ビジネスの記事】

こういった風潮の原因は、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」と呼ばれる。「女性は出世したがらない」「子供のいる女性は育児に集中したいだろう」という思い込みが、女性の活躍を妨げている。これは男性のみならず、女性自身が持っている固定観念ともいえるから、根が深い。



◎「女性は出世したがらない」は「偏見」?

まず「女性は出世したがらない」との認識は「偏見」とは言い切れない。「全ての女性は出世したがらない」と信じているならば「偏見」だが、「女性は男性に比べて出世したがらない傾向がある」と思っている場合「偏見」ではない。そうした傾向を裏付ける調査もある。

子供のいる女性は育児に集中したいだろう」に関しては「子供のいる全ての女性は育児に集中したいだろう」との意味ならば、そんな認識を持っている人がいるのかとの疑問が湧く。白井記者と長江記者はそんな人物に出会ったことがあるのか。身近にいなくても、噂にでもそういう人がいると聞いたのか。これに関しては、こちらも根拠はないが「そんな人ほとんどいないのでは…」と言いたくなる。


※今回取り上げた記事「スペシャルリポート~読者と考えた 御社の女性が活躍しない3つの理由
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00024/


※記事の評価はD(問題あり)。白井咲貴記者への評価は暫定でDとする。長江優子記者への評価はDを据え置く。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_7.html

「サントリー 紅茶飲料に参入」に無理あり 日経ビジネス 長江優子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_12.html

2019年4月13日土曜日

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説

日産、ルノー双方の少数株主」全員が納得できるような両社の資本関係見直し案は存在するだろうか。個人的にはないと思うが、日本経済新聞の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は違う考えのようだ。13日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~ガチンコ資本主義の勧め」という記事で以下のように解説している。
筑後川沿いの桜(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

これから動きそうなのは、カルロス・ゴーン容疑者の逮捕を機に乱脈経営が明るみに出た日産自動車だ。親会社であるルノーの意向をくみ、日産車の生産をルノーの仏工場に移しすらした。少数株主無視の典型例である。

3月、社外の識者で構成する「ガバナンス改善特別委員会」が興味深い提言をしている。「日産株を10%以上持つ株主からは、首脳陣を迎えない」という内容だ。

43%の株を握るルノーを拒絶する内輪もめにも見えるが、こう読めばどうか。「10%未満に減らせば経営に加われる」

ルノーに株を売ってもらい、資本関係も対等にして出直す。ルノーは年間研究開発費の5倍を超える1兆円以上を手にし、株主配分や成長投資に回せる。日産、ルノー双方の少数株主が納得できる内容で、委員たちも投資家の意見をまめに聞いていた



◎「少数株主」は一枚岩?

まず「ルノーに株を売ってもらい、資本関係も対等にして出直す」と「日産、ルノー双方の少数株主が納得できる」となぜ梶原氏が確信しているか謎だ。少数株主の考えは1つではない。特に「ルノー」の「少数株主」の中には「連結業績に貢献してくれる日産株を手放すなんて大反対」という人も少なからずいるだろう。

ルノー」が日産株を市場で売却する場合、一時的とはいえ市場で売り圧力が強まり「日産」の株価下落要因となる可能性も高い。そうした事態を全ての「少数株主」が「納得」するとは考えにくい。

内輪もめにも見える」との説明も引っかかる。「社外の識者で構成する『ガバナンス改善特別委員会』」は「内輪」なのか。「社外の識者で構成」と梶原氏も書いている。実質的には「日産」の指揮下にあるといった事情があるのならば、そこに触れるべきだ。

ルノーに株を売ってもらい、資本関係も対等にして出直す」というのが誰の考えなのか分かりにくいのも気になる。

最初は梶原氏の案だと読み取った。しかし、その後に「日産、ルノー双方の少数株主が納得できる内容で、委員たちも投資家の意見をまめに聞いていた」と出てきて迷いが生じた。「この案、どう思いますか?」と「ガバナンス改善特別委員会」の「委員たち」が「投資家の意見」を「聞いていた」と取れる書き方だ。

梶原氏の案を「委員たち」が「面白い」と思って取り上げたのか。それとも「委員たち」自身の案なのか。そもそも「ガバナンス改善特別委員会」とは「資本関係」の見直しにまで踏み込んで提言する組織なのか。色々と疑問は浮かぶが、記事を読んでも答えは出ない。

書き方が下手で、伝いたいことを上手く表現できていないのだとは思うが…。

記事の書き手としての梶原氏はやはり苦しい。この評価は変わらない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~ガチンコ資本主義の勧め
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190413&ng=DGKKZO43673410S9A410C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

2019年4月12日金曜日

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」

まだ断定はできないが、週刊ダイヤモンドに革命が起きたのかもしれない。記事中に「革命」の文字を見つけたら要注意と訴えてきた身として、この言葉を安易には使えない。だが変化が本物ならば「革命」と呼んでもいいだろう。
ビューホテル平成(福岡県朝倉市)
      ※写真と本文は無関係です

記事への問い合わせにダイヤモンドの編集部から約4年ぶりに回答があった(この間にダイヤモンドオンライン編集部からは1度だけ回答を得ている)。記事中の説明の誤りを認め、訂正の掲載を知らせるものだ。

最初の問い合わせは無視されていた。編集長が4月から山口圭介氏に代わったのを受けて改めて回答を求めた結果だ。編集長交代が無関係とは考えにくい。

回答の内容は以下の通り。

【ダイヤモンドの回答】

平素より弊誌をご購読をいただき、誠にありがとうございます。

3月30日号にてご指摘いただきました件ですが、ご指摘どおり3点とも誤った記述でございました。原因は編集作業における単純な確認ミスでした。

訂正につきましては、4月20日号にて掲載いたします。

以後、こういった誤りがないように注意徹底して参ります。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

編集長へのメッセージと問い合わせの内容も改めて掲載しておく。

【編集長へのメッセージ】

週刊ダイヤモンド編集部 編集長 山口圭介様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。編集長就任おめでとうございます。4月13日号では「公正中立な視点で不確実な激変期の経済を報じつつ、自らの改革の正解も探していきたいと思いますと力強く抱負を述べていましたね。山口様ならば「改革を実行できると信じて、メッセージを送らせていただきます。

ご存じだと思いますが、御誌では田中博氏、深澤献氏と2代に亘り、読者からの間違い指摘を無視して記事中の誤りを握り潰すという対応を続けてきました。メディアとして「正解でないのは言うまでもありません。

例えば3月30日号の特集「株・為替の新格言」では「金利が低下すれば債券価格は下がる」「株をロング(売り持ち)」「債券をショート(買い持ち)」といった初歩的なミスを連発しています。しかし、問い合わせに回答はなく訂正も出ていません。

私の指摘が正しいとの前提に立てば、御誌は商品の欠陥を放置しています。4月13日号の特集「数式なしで学べる!統計学『超』入門には統計不正に関する以下の記述があります。

統計の専門家は『あり得ないミス』だと口をそろえている。ミスだと分かっていながら長年放置したことも問題だね。気付いた時点ですぐに正すべきだった

明らかな誤りでも当たり前のように「放置」してきた御誌が「ミスだと分かっていながら長年放置したことも問題だね。気付いた時点ですぐに正すべきだったと訴えているのは悪い冗談です。「だったら自分たちはどうなの?」との問いに、御誌は答えられないはずです。

ならばどうすべきでしょうか。「改革の正解」は明らかです。きちんと問い合わせに答え、誤りであれば訂正を出すように変えるのです。まず特集「株・為替の新格言」への間違い指摘に回答してみませんか。

「きちんと回答すれば、自分を編集長に引き上げてくれた前任者の手法を否定してしまう。恩義ある人にそんなことはできない」といった事情があるかもしれません。しかし山口様は「自らの改革の正解も探していきたい」と宣言したのです。やるしかありません。

記事中の誤りを握り潰す御誌の悪しき伝統は、少なくとも4年は続いています。しっかり編集部内に根付いているのです。雑誌編集者を志した段階では「記事中の誤りを放置するのが正しい」とは誰も思わないでしょう。しかし、編集長まで務めた田中氏や深澤氏も結局はダークサイドに堕ちました。誰かが変えなければなりません。「改革の意思を明確にした山口様の使命でしょう。

先ず隗より始めよ

新たな体制の下で「改革を引っ張る山口様にこの言葉を贈ります。絶対にやるべき正しい「改革」が目の前にあります。そこを避けて通る者が「正解に辿り着けるでしょうか。今こそ悪しき伝統を断ち切る時です。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 編集長 深澤献様 藤田章夫様 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様

3月30日号の特集「株・為替の新格言」の「Part 1~電脳相場か官製相場か 今、相場を動かすのはいったい誰なのか」に出てくる「短期の大幅な振れは無視せよ~アルゴリズム取引の正体」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。
浦山公園の桜(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

株と債券は、『逆相関』の関係にあるというのが定説だ。金利が低下すれば株価が上がり、片や債券価格は下がるといった具合だ。こうした局面にあるとみれば、株をロング(売り持ち)し、債券をショート(買い持ち)して運用する

この短い説明の中に3つの間違いがあると思えます。

(1)「金利が低下すれば債券価格は下がる」?

日本証券業協会のホームページでは「債券には、金利が上昇すると価格は下がり、金利が低下すると価格は上がる特徴があります」と説明しています。改めて言うまでもない常識です。しかし今回の記事では「金利が低下すれば債券価格は下がる」と断言しています。

(2)「ロング=売り持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「ロングポジション」とは「金融資産を『買った状態で保有する(買い持ち)』です」。しかし記事では「株をロング(売り持ち)」と書いています。

(3)「ショート=買い持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「金融資産を『売った状態で保有する(売り持ち)』のがショートポジション」です。しかし記事では「債券をショート(買い持ち)して」と書いています。

以上の3点は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。問題のくだりを読むと「筆者は市場に関する理解を決定的に欠いたまま記事を書いているのではないか」との疑念が拭えません。読者から購読料を得ているメディアとして、逃げずに説明責任を果たしてください。間違いであれば、当然に次号での訂正も必要となります。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。そうやって逃げ回ってきたことが、今回のような記事を生んだのではありませんか。改めて猛省を求めます。

◇   ◇   ◇

今回の対応を受けて、山口圭介編集長への評価をF(根本的な欠陥あり)からC(平均的)に引き上げる。それにしても、田中博氏、深澤献氏という過去2代の編集長の罪は重い。両氏への評価はFで固定するしかない。


※今回の件に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html

2019年4月11日木曜日

予想通りに第2回も苦しい日経朝刊の新紙面「ディスラプション」

「失敗が約束された新紙面」という評価はやはり正しかったようだ。10日の日本経済新聞朝刊ディスラプション面(4月からの新紙面)に載った「Disrution 断絶の先に 第1部 ブロックチェーンが変える未来(2)トークン不動産 マネー動かす」という記事も初回に続いて苦しい内容だった。
東京駅(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

今回のテーマは「トークンエコノミー」だ。その「破壊力」に触れたくだりを見ていこう。

【日経の記事】

ニューヨーク、マンハッタンのイーストビレッジ。日本食レストランや雑貨店などがひしめき、リトル東京と呼ばれる通りもある人気観光スポットの一角にこのほど新築コンドミニアムが完成した。各戸1700平方フィート(約158平方メートル)、12戸からなるこの物件が世界の投資家から関心を集めている。

不動産市場を変貌させる画期的な手法だ」。セレブ不動産ブローカーで不動産物件を扱うテレビ番組の人気タレント、ライアン・サーハント氏は米メディアのインタビューでこの新築コンドミニアムを称賛した。この物件が注目を浴びているのは、単にセレブが関わるからではなく、資金調達の方法が新しいからだ。

デベロッパーの建設費用は審査に時間のかかる銀行融資ではなく、この不動産を担保にした小口の「トークン(デジタル権利証)」で投資家から集めた。調達額は約3000万ドル(約33億円)。ブロックチェーン技術を活用し、公的な不動産登記の情報をデジタル化して売買の手間を減らす。「トークン不動産」は開発資金を提供した投資家が不動産の"持ち分"であるトークンを、交換業者を通じていつでも売却できる

不動産投資では物件からあがる賃料収入などの権利を小口に分ける証券化が一般的。トークン不動産は従来の証券化商品と異なり、物件情報を改ざん不可能な分散型台帳であるブロックチェーン上に保存する。複数の機関に散らばっていた情報を一括管理し、手続きを簡略化する。そうすれば手数料も従来の金融商品より低く抑えることができるとみられる

不動産はいったん購入すると、売却には時間がかかる。特に投資のプロである不動産ファンドの場合、一般的に投資してから5~7年は「ロックアップ」期間として持ち分を売却できない。運用先がトークンになれば、投資家はコストをかけずに24時間売却できるメリットがある



◎「証券化」と大差ないような…

不動産市場を変貌させる画期的な手法だ」というコメントは使っているが、記事を読む限りでは「トークン(デジタル権利証)」の破壊力はかなり小さそうだ。

従来と何が変わるのか。「『トークン不動産』は開発資金を提供した投資家が不動産の"持ち分"であるトークンを、交換業者を通じていつでも売却できる」らしいが、不動産の「証券化」商品も似たようなものだ。「24時間売却できる」とは言わないが、売却のしやすさで決定的な差はないだろう。「証券化」商品の方が市場に厚みがあり流動性が高いかもしれない。

手数料も従来の金融商品より低く抑えることができるとみられる」という説明も引っかかる。「低く抑えることができる」かどうか確認できていないのか。「交換業者を通じていつでも売却できる」と言い切っているのに、手数料が高いか低いかもはっきりしない。ひょっとすると、現状では手数料が高くなるのではないか。

仮に「トークン」の方が手数料が低いとしても、5%や10%の安さならば「ディスラプション(創造的破壊)」といった類の話ではない。

不動産はいったん購入すると、売却には時間がかかる」という問題には「証券化」商品で対応できる。「トークン」独自の利点ではない。結局、「手数料」以外に「トークン不動産」には目立った魅力がなさそうだ。しかも「手数料」が魅力的かどうかも明確になっていない。

記事では「テンプラム社のビンセント・モリナリ最高経営責任者(CEO)はトークン不動産について『流動性のない資産に流動性を与える』と説明する」というくだりもある。これに関しても「流動性の問題には証券化商品で対応できるのでは?」との疑問が消えない。

第2回で連載を中止してディスラプション面を廃止するのは難しいとは思う。しかし、このまま続けても苦しさが増すだけだ。「ブロックチェーン」によって「ディスラプション(創造的破壊)」が起きるという話に説得力を持たせられる記者は稀だろう。能力の問題ではない。課題の設定に無理がある。


※今回取り上げた記事「Disrution 断絶の先に 第1部 ブロックチェーンが変える未来(2)トークン不動産 マネー動かす
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190410&ng=DGKKZO43247750S9A400C1TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。記者への評価は見送る。

2019年4月10日水曜日

日経1面「ファミマ、24時間見直し試行」の辻褄合わない説明

10日の日本経済新聞朝刊1面に載った「ファミマ、24時間見直し試行 6月にも、FC270店対象に」という記事には辻褄の合わない説明が出てくる。「ファミマ」は「地域内の店舗がそろって営業時間を短くすると、加盟店売り上げや利益にどんな影響や効果があるかを調べる」 らしいが、記事の説明通りならば「そろって営業時間を短くする」実験はできそうもない。
筑後川沿いの桜と菜の花(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

ファミリーマートは6月、24時間営業の見直しを視野に入れ、営業時間を短縮した店舗の運営を試行する。地域や曜日を限り、およそ270のフランチャイズチェーン(FC)店を対象に営業時間を短縮する試みへの参加を募る。数十店が試行する見通し。コンビニエンスストアは人手不足や人件費上昇を背景に事業モデルの根本的見直しが急務となっている。

6月にも東京都文京区や千代田区の一部と長崎県諫早市や雲仙市などで日曜日の深夜時間帯を閉店する実験を始める。東京都豊島区の池袋周辺や秋田県南部の地域を対象とした深夜・早朝の営業時間短縮(時短)の実験も開始する。

両実験の対象エリアにあるFC店は約270店で、今後各店に実験への参加意向を確認し、希望した店すべてが参加できるようにする。期間は3カ月もしくは6カ月とし、営業時間は午前5時~翌午前1時、午前7時~午後11時までなど3種類を用意する考えだ。

これまで全国で数店舗の営業時間短縮を実験してきたが、地域内の店舗がそろって営業時間を短くすると、加盟店売り上げや利益にどんな影響や効果があるかを調べる。

地域全体をまとめることで店舗への配送網の見直しにまで踏み込む。実験の結果を経て、特定地域の営業時間を24時間より短くすることや、特定の曜日の深夜や早朝を休業することが可能かを検討する。本部の収益にどの程度響くかも調べる。

背景にあるのは人手不足だ。従業員やパートの確保がままならず、FC店の負担は増大している。ファミマは加盟店の支援も拡充する。



◎「数十店」にとどまるなら…

両実験の対象エリアにあるFC店は約270店」で「数十店が試行する見通し」と書いている。そして「参加を募る」方式なので、地域内に参加店舗と不参加店舗が混在するはずだ。それでどうやって「地域内の店舗がそろって営業時間を短くすると、加盟店売り上げや利益にどんな影響や効果があるかを調べる」ことができるのか。

例えば「秋田県南部」は強制参加とすれば、「地域内の店舗がそろって営業時間を短くする」状況を作れる。しかし、そうはならないようだ。たまたま「数十店」が特定地域に集中する可能性もゼロではないが、それを前提に実験をするとは思えない。

地域全体をまとめることで店舗への配送網の見直しにまで踏み込む」という説明も解釈に迷う。「店舗への配送網の見直しにまで踏み込む」のは実験での話なのか、実験後の展望なのか、よく分からない。

この説明が出てくる段落は全体に冗長な印象を受けた。「こと」が続くのも気になる。改善例を示してみる。

【改善例】

地域全体をまとめることで店舗への配送網の見直しにまで踏み込む。実験の結果を経て、特定地域の営業時間を24時間より短くしたり、特定の曜日の深夜や早朝を休業したりできるか検討する。本部の収益にどの程度響くかも調べる。

◇   ◇   ◇

こと」は3つから1つに減らせた。「ことが可能」は基本的に使わない表現だと覚えておいていい。例えば「短縮することが可能になる」は「短縮できる」「短くできる」などと言い換えてほしい。


※今回取り上げた記事「ファミマ、24時間見直し試行 6月にも、FC270店対象に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190410&ng=DGKKZO43531820Z00C19A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年4月9日火曜日

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉

記事中のミスの多くを放置してきた週刊ダイヤモンドが、4月13日号の特集「数式なしで学べる!統計学『超』入門」の中で統計不正に触れて「ミスだと分かっていながら長年放置したことも問題だね。気付いた時点ですぐに正すべきだった」と解説していた。自分に甘く他者に厳しいメディアの主張に説得力はない。
筑後川沿いの桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

一方で、4月から編集長となった山口圭介氏は「自らの改革の正解も探していきたい」と宣言していた。その言葉が本物ならば、ダイヤモンドのミス放置は無くせるはずだ。山口氏には以下の内容でメッセージを送ってみた。

【ダイヤモンドに送ったメール】

週刊ダイヤモンド編集部 編集長 山口圭介様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。編集長就任おめでとうございます。4月13日号では「公正中立な視点で不確実な激変期の経済を報じつつ、自らの改革の正解も探していきたいと思います」と力強く抱負を述べていましたね。山口様ならば「改革」を実行できると信じて、メッセージを送らせていただきます。

ご存じだと思いますが、御誌では田中博氏、深澤献氏と2代に亘り、読者からの間違い指摘を無視して記事中の誤りを握り潰すという対応を続けてきました。メディアとして「正解」でないのは言うまでもありません。

例えば3月30日号の特集「株・為替の新格言」では「金利が低下すれば債券価格は下がる」「株をロング(売り持ち)」「債券をショート(買い持ち)」といった初歩的なミスを連発しています。しかし、問い合わせに回答はなく訂正も出ていません。

私の指摘が正しいとの前提に立てば、御誌は商品の欠陥を放置しています。4月13日号の特集「数式なしで学べる!統計学『超』入門」には統計不正に関する以下の記述があります。

統計の専門家は『あり得ないミス』だと口をそろえている。ミスだと分かっていながら長年放置したことも問題だね。気付いた時点ですぐに正すべきだった

明らかな誤りでも当たり前のように「放置」してきた御誌が「ミスだと分かっていながら長年放置したことも問題だね。気付いた時点ですぐに正すべきだった」と訴えているのは悪い冗談です。「だったら自分たちはどうなの?」との問いに、御誌は答えられないはずです。

ならばどうすべきでしょうか。「改革の正解」は明らかです。きちんと問い合わせに答え、誤りであれば訂正を出すように変えるのです。まず特集「株・為替の新格言」への間違い指摘に回答してみませんか。

「きちんと回答すれば、自分を編集長に引き上げてくれた前任者の手法を否定してしまう。恩義ある人にそんなことはできない」といった事情があるかもしれません。しかし山口様は「自らの改革の正解も探していきたい」と宣言したのです。やるしかありません。

記事中の誤りを握り潰す御誌の悪しき伝統は、少なくとも4年は続いています。しっかり編集部内に根付いているのです。雑誌編集者を志した段階では「記事中の誤りを放置するのが正しい」とは誰も思わないでしょう。しかし、編集長まで務めた田中氏や深澤氏も結局はダークサイドに堕ちました。誰かが変えなければなりません。「改革」の意思を明確にした山口様の使命でしょう。

先ず隗より始めよ

新たな体制の下で「改革」を引っ張る山口様にこの言葉を贈ります。絶対にやるべき正しい「改革」が目の前にあります。そこを避けて通る者が「正解」に辿り着けるでしょうか。今こそ悪しき伝統を断ち切る時です。

◇   ◇   ◇

3月27日に送った問い合わせの内容は以下の通り。編集長の名前を変えて、4月9日に改めて同じ内容で問い合わせしている。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

編集長 深澤献様 藤田章夫様 竹田幸平様 竹田孝洋様 中村正毅様

3月30日号の特集「株・為替の新格言」の「Part 1~電脳相場か官製相場か 今、相場を動かすのはいったい誰なのか」に出てくる「短期の大幅な振れは無視せよ~アルゴリズム取引の正体」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

株と債券は、『逆相関』の関係にあるというのが定説だ。金利が低下すれば株価が上がり、片や債券価格は下がるといった具合だ。こうした局面にあるとみれば、株をロング(売り持ち)し、債券をショート(買い持ち)して運用する

この短い説明の中に3つの間違いがあると思えます。

(1)「金利が低下すれば債券価格は下がる」?

日本証券業協会のホームページでは「債券には、金利が上昇すると価格は下がり、金利が低下すると価格は上がる特徴があります」と説明しています。改めて言うまでもない常識です。しかし今回の記事では「金利が低下すれば債券価格は下がる」と断言しています。

(2)「ロング=売り持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「ロングポジション」とは「金融資産を『買った状態で保有する(買い持ち)』です」。しかし記事では「株をロング(売り持ち)」と書いています。

(3)「ショート=買い持ち」?

三菱UFJ信託銀行の用語集によると「金融資産を『売った状態で保有する(売り持ち)』のがショートポジション」です。しかし記事では「債券をショート(買い持ち)して」と書いています。

以上の3点は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。問題のくだりを読むと「筆者は市場に関する理解を決定的に欠いたまま記事を書いているのではないか」との疑念が拭えません。読者から購読料を得ているメディアとして、逃げずに説明責任を果たしてください。間違いであれば、当然に次号での訂正も必要となります。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。そうやって逃げ回ってきたことが、今回のような記事を生んだのではありませんか。改めて猛省を求めます。


◇   ◇   ◇


※山口圭介氏の「改革」への意思が本物かどうか、しばらく様子を見たい。


追記)※今回の件に関しては望ましい変化が見られた。それに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html