2021年11月30日火曜日

日経 細川幸太郎記者が伝えた韓国の動向が教えてくれるワクチン効果の弱さ

新型コロナウイルスに関して韓国の動向は参考になる。その意味で30日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「韓国の接種証明、半年で失効~死者最多で3度目促す 期限切れなら行動制限」という記事は興味深く読めた。記事の説明が大筋で正しいとすれば「ワクチンに大した効果はない。日本での感染者数急減の要因をワクチンに求めるのは間違い」と示唆している。

大阪城公園

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

韓国政府は29日、新型コロナウイルスのワクチン接種完了者に付与していた「接種証明」に半年間の有効期限を設けると発表した。韓国では接種完了者が感染するブレークスルー(突破)感染が6割を超え、新規感染者や重症者、死者の人数が過去最多水準となっている。欧州に続き期限設定で追加接種を促す動きがアジアでも出てきた。

中略)韓国政府はワクチン接種率が70%を超えたのを受けて、11月1日に「日常回復」を掲げて飲食店利用などの行動制限を大幅に緩和した。結果的に街には人があふれ、17日には1日あたりの最多感染者数を2カ月ぶりに更新。24日には4115人の新規感染者が確認された。死者数も過去最多水準が続く。


◎アストラゼネカに原因を求めても…

韓国では接種完了者が感染するブレークスルー(突破)感染が6割を超え」たらしい。「ワクチン接種率が70%を超え」る程度のようだ。これらを比較すると「ワクチン」の「感染」予防効果は非常に弱いと思えてくる。

新規感染者」だけでなく「重症者、死者の人数が過去最多水準となっている」のだから重症化や死亡を防ぐ効果も乏しいと見るべきだろう。「ワクチン接種率」でほぼ同レベルの日本はここから学ぶべきだ。

ワクチン」には大きな効果があると信じたがる人は「アストラゼネカ製のワクチンがダメなんだ。日本とは違う」と考えるかもしれないが、そこも苦しい。


【日経の記事】

防疫当局は英アストラゼネカ製のワクチンの予防効果低下も指摘している。アストラ製ワクチンの中和抗体量が接種完了後3カ月で半分以下に減少したと発表。米ファイザー製は5カ月で半減したという。韓国では接種完了者の27%に相当する1100万人がアストラ製を接種しているため足元の感染拡大のひとつの要因となった可能性がある。


◎違いが小さすぎる

アストラ製ワクチンの中和抗体量が接種完了後3カ月で半分以下に減少したと発表。米ファイザー製は5カ月で半減したという」と記事では書いている。「半減」するまでの期間が「3カ月」と「5カ月」。似たようなものだ。いずれにしても「半減」する。しかも「接種完了者の27%」しか「アストラゼネカ製」を接種していない。

足元の感染拡大のひとつの要因となった可能性」がゼロとは言わないが、メインの要因と見るのは無理がある。「新規感染者や重症者、死者の人数が過去最多水準」の韓国と、ほぼゼロコロナの日本の差は決定的だ。これを「接種率」が同水準の「ワクチン」で説明しようとする人の気が知れない。


※今回取り上げた記事「韓国の接種証明、半年で失効~死者最多で3度目促す 期限切れなら行動制限

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211130&ng=DGKKZO77991060Z21C21A1FF8000


※記事の評価はC(平均的)。細川幸太郎記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。細川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

記事の柱を意識してる? 日経 細川幸太郎記者「LG系、TV液晶韓国生産中止」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/lgtv.html

「北朝鮮、日本上空越える『発射』を示唆」で感じた日経とNHKの実力差
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/nhk.html

適法でも「ライドシェア起訴」? 理解に苦しむ日経 細川幸太郎記者の記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_9.html

2021年11月29日月曜日

むしろ逆では? 日経「ヤクルト日本一高津采配『いつも仕様』貫く」

29日の日本経済新聞朝刊スポーツ2面に載った「ヤクルト日本一 高津采配『いつも仕様』貫く~高橋、第2戦で初完封 先発登板間隔長めに」という記事は的外れだと感じた。「プロ野球のSMBC日本シリーズ」で「高津監督」は「いつも仕様」にこだわらず、短期決戦向けの「采配」を選んだのではないか。

大阪城公園

しかし木村祐太記者と田村城記者は逆の考えのようだ。「シリーズ仕様の采配に衣替えした中嶋監督に対し、いつも仕様を貫いた高津監督に勝利の女神はほほ笑んだ」と記事を締めている。この分析が違うと思える根拠を3つ挙げたい。


(1)高橋完封は「いつも仕様」?

第2戦で完投経験のない高橋を九回も続投させ、完封勝利に導いた」ことに関して「第1戦で逆転サヨナラ負けを喫した守護神マクガフの起用に不安があったにせよ、九回は継投する局面だった。そんな中、高津監督は続投を選択」と記事でも書いている。ならば「いつも仕様」の「采配」ではなかったと見る方が自然だ。


(2)マクガフの続投をどう見る?

第6戦を延長十二回の接戦の末、2-1」で勝ったヤクルトは抑えのマクガフ投手が10回2死から最後まで投げている。サンスポによると「今季初のイニングまたぎ」だ。「いつも仕様」から大きく逸脱している。木村記者と田村記者にはこれが「いつも仕様」に見えたのか。


(3)第7戦も「いつも仕様」になった?

「(第1戦・第2戦の先発である)奥川と高橋を第7戦に投入する算段だったのだろう」という見方には同意する。実現はしなかったが、この前提で考えると「第7戦」では、さらに「いつも仕様」から離れる考えが「高津監督」にはあったはずだ。

そうした点を考慮すると「シリーズ仕様の采配に衣替えした高津監督に勝利の女神はほほ笑んだ」と思える。「中嶋監督」との対比で記事をまとめたかったのだろうが、無理が過ぎる。


※今回取り上げた記事「ヤクルト日本一 高津采配『いつも仕様』貫く~高橋、第2戦で初完封 先発登板間隔長めに

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211129&ng=DGKKZO77963290Y1A121C2UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。木村祐太記者と田村城記者への評価は暫定でDとする。

2021年11月28日日曜日

東洋経済オンラインで「MMTは大間違い」と断言した小幡績 慶大准教授の大間違い

慶応大学大学院准教授の小幡績氏が相変わらず無理のある主張を続けている。27日付の東洋経済オンラインに載った「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」という記事では「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と意気込むが、その説明に説得力はない。中身を見ながらツッコミを入れてみたい。

【東洋経済オンラインの記事】

大阪城

また「自国通貨建ての国は、理論的に絶対財政破綻しない」という議論は、元日銀の著名エコノミストですら書いているが、それは、机上の理屈であり、現実には実現不可能なシナリオである。それは、日本銀行が国債を引き受け続けるとインフレになるからではない。その場合は、インフレまで時間稼ぎができるが、インフレになる前に、即時に財政破綻してしまうからである。

日本銀行は、すでに発行されている国債を、市場で買うことはできる。だから、理論的には、日本国内に存在するすべての国債を買い尽くすことはできる。しかし、財政破綻回避のために買う必要があるのは、既存の国債ではない。新発債、つまり、日本政府が借金をするために新たに発行する国債である。そして、これを日本銀行が直接買うこと、直接引き受けは、法律で禁止されている。だからできない。

これを回避する方法は2つである。

1つは、民間金融機関に買わせて、それを日本銀行が市場で買うことである。これは、現在すでに行われている。民間主体から見れば、いわゆる「日銀トレード」で、日銀が確実に買ってくれるから、政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつけるのである

この結果、日本国債のほぼ半分は日銀が保有することになってしまった。

問題は、これがいつまで継続できるか、ということである。日銀は、継続性、持続性が危ういとみて、イールドカーブコントロールという前代未聞の、中央銀行としてはもっともやりたくない金融政策手段に踏み切り、国債の買い入れ量を減少させることに成功した。

逆に言えば、これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである。それでも、政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう


◎日銀の国債購入能力に限界はある?

これ以上買うことの困難は現実に始まっており、無限に市場経由で、日銀に引き受けさせることはできないのである」と小幡氏は言うが、「引き受け」は限界を気にせず簡単にできるのではないか。

日銀は確かに「無限に」国債を買える訳ではない。買える国債が枯渇してしまう可能性はある。それは日銀の購入能力に限界があるからではない。モノがないだけだ。なので「政府が国債を発行し続けた」場合に「市場経由で」その全てを買い付けるのは簡単だ。日本円は日銀が無から創出できる。金(ゴールド)など裏付けとなる資産も必要ない。

政府が国債を発行し続けたらどうなるか。民間金融機関は、これを引き受けるのを躊躇し、少なくとも一時的には中止するだろう」と小幡氏は予想するが、なぜそう考えるのか謎だ。

政府から新規に発行された国債を引き受け、それに利ざやを乗せて、日銀に売りつける」のが「日銀トレード」で「日銀が確実に買ってくれる」のだから、確実に「利ざや」を稼げる。そんな旨味のある取引をなぜ「少なくとも一時的には中止する」のか。日銀の国債購入能力に限りがあると小幡氏は思っているのか。限りがあるとしたら、それは金額でどの程度なのか。その金額はどうやって算出するのか。

記事の続きを見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

このとき、政府がどうするかが問題である。政府の道は2つである。1つは、危機をようやく認識し、国債発行を減らすことを決意し、遅まきながら財政再建に取り組む、という道である。しかし、これまでの政府の財政再建の取り組みからして、この道はとらない可能性が高い。

そうなると、もう1つの道しかなく、日銀に直接引き受けをさせるように、法律改正をすることになる。理論的に日本では財政破綻は起きないと主張している人々は、この手段があるから、自国通貨建ての国債を発行している限り、財政破綻しないと言っているのである。

残念ながら、この手段は現実には不可能である。

なぜなら「中央銀行に国債を直接引き受けさせる」という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻するからである。

日銀、国債直接引き受けへ、という報道が出た瞬間、世界中のトレーダーが日本売りを仕掛け、世界中の投資家もそれに追随して投げ売りをする。

まず、円が大暴落し、その結果、円建ての国債も投げ売りされ、円建ての日本株も投げ売られる。混乱が収まった後には、株だけは少し買い戻されるだろうが、当初は大暴落する。

つまり、為替主導の、円安、債券安、株安のトリプル安であり、生易しいトリプル安ではなく、1998年の金融危機ですら比較にならないぐらいの大暴落である。1997年から1998年の1年間で、1ドル=112円から147円まで暴落したが、「日銀直接引き受け報道」が出て、政府が放置すれば、その時のドル円が110円程度であれば、1週間以内に150円を割る大暴落となり、状況によっては、200円を突破する可能性もある。

ただし、これも現実には起きない。なぜなら、日銀国債直接引き受け報道が出れば、直ちに為替取引も債券取引も株式取引もまったく成り立たなくなり、金融市場は全面取引停止に追い込まれるからだ。


◎インドネシアをどう見る?

2020年7月9日付の日経の記事によると「インドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は6日、中銀と国債の直接引き受けの拡充で合意したと発表」したらしい。「インドネシア中銀は既に6月までに、30兆ルピアを超える国債を直接購入している」ようなので「国債直接引き受け」は実現していると言える。

『中央銀行に国債を直接引き受けさせる』という法律を成立させれば、いや国会に提出されたら、いや、それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」と小幡氏は断言する。ならばインドネシアはとっくに「破綻」しているはずだが、そうなのか。「金融市場は全面取引停止に追い込まれ」たのか。

ひょっとすると、インドネシアは「中央銀行に国債を直接引き受けさせ」ても大丈夫なのに、日本は「政府が自ら検討している、と報じられた時点」で「破綻」してしまうという話なのか。だとしても、なぜそう言えるのか説明はない。小幡氏が自分に都合良くストーリーを描いているだけだと思える。

さらに見ていこう。


【東洋経済オンラインの記事】

メディアも政治家も、やっと大騒ぎを始め、日銀の直接引き受け報道を政府は否定することになるからだ。しかし、否定しても、いったん火のついた疑念は燃え盛り、取引は再開できないか、再開すれば、さらなる暴落となる。よって、これを収めるには、日銀直接引き受けなど絶対にありえない、という政府の強力で具体的な行動が必要となる。実質的で実効的でかつ大規模な財政再建策とその強い意志を示さざるを得ないだろう。こうなって初めて、暴落は止まる。

つまり、禁じ手といわれている、日銀の直接引き受けは、タブーを犯せば理論的には可能だ。だが現実にはタブーを犯した政府と中央銀行は国際金融市場に打ちのめされるため、結局、禁じ手はやはり禁じ手のままとなる。「自国通貨建ての政府債務なら、いくらでも借金できる」というのは幻想で、為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける。

そして、為替の暴落を許容しても、結局国債が暴落してしまい、借金はできなくなり、すべてを日銀に依存することになる、同時に、株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆されるだろう。その結果、その政権あるいは次の政権は、財政再建をせざるを得ず、日銀引き受けは結局実現することはない。


◎結局「財政破綻」に至らない?

為替取引が国際的に行われている限り、それは、自国通貨建てであろうとも、金融市場から攻撃を受ける」から結局「直接引き受け」は実現しないと小幡氏は言う。繰り返しになるが、だったらインドネシアはなぜ「直接引き受け」を実現できたのか。「株式も短期的には大暴落となるから、政治的に持ちようがなく、政権は株式市場により転覆される」ので「直接引き受け」は「結局実現することはない」はずなのに、そうはなっていない。

他にも問題がある。「直接引き受け」に関して「それを政府が自ら検討している、と報じられた時点で、政府財政よりも先に、日本が破綻する」はずなのに、小幡氏の描いたストーリーでは「日本が破綻」しているようには見えない。

金融市場」が「全面取引停止に追い込まれる」と、それだけで日本は「破綻」なのか。「破綻」の定義が謎だ。政府は存続していて「政府財政」も「破綻」していないのに「金融市場」の取引が止まったぐらいで国が「破綻」してしまったと小幡氏は確信するのか。全く同意できない。

それより重要なのが「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と打ち出したのに、「財政破綻は日本では起きない」と小幡氏自身も裏付けてしまっていることだ。

日銀引き受けは結局実現することはない」し、「その政権あるいは次の政権は、財政再建」に取り組むようだ。この過程で「政府財政よりも先に、日本が破綻」してしまうらしいが、結局は「政府財政」の「破綻」を描いていない。「すべてを日銀に依存することになる」としても、それで済むなら「財政破綻」には至らない。

インフレになる前に、即時に財政破綻してしまう」という話はどうなったのか。小幡氏が自分に都合良く描いたストーリー展開でも「財政破綻」がどうやって起きるか具体的に示せないのに、「財政破綻」の心配をする必要があるのか。

自国通貨建ての債務に関して「財政破綻」が起きないとは言わない。政府が債務不履行を望む(あるいは許容する)場合だ。それはないとの前提で言えば「『財政破綻は日本では起きない』という主張は、完全に誤りであることを説明しよう」と頑張ってみた小幡氏に「誤り」がある。

なぜインドネシアで「直接引き受け」が実現したのか。そこをまず考えてほしい。結果として、自らの「大間違い」に気付けるかもしれない。


※今回取り上げた記事「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い

https://toyokeizai.net/articles/-/471734


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_14.html

2021年11月27日土曜日

日経 石川潤記者のワクチン信仰が垣間見える「ドイツの新規感染者7万人超」

記事の書き手は固定観念に囚われないことが大事だ。最近の新型コロナウイルス関連記事を読んでいると「ワクチンには大きな効果がある」という思い込みがもたらす弊害が目に付く。27日付で日本経済新聞電子版に石川潤記者が書いた「ドイツの新規感染者7万人超、空軍が重症者を輸送」という記事もそうだ。

大阪城

全文を見た上で問題点を指摘したい。

【日経の記事】

ドイツの新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。独ロベルト・コッホ研究所が26日公表した新規感染者数は7万6000人を突破し、3日連続で過去最高を更新した。医療システムへの負担が高まり、独空軍は同日、感染の深刻な地域からの重症者の輸送を開始した。行動制限の強化やワクチン接種の義務付けなどの追加策を求める声も高まってきた。

ドイツのワクチン接種率は68%だが、東部ザクセン州の接種率が58%にとどまるなど、地域間で差がある。接種率の低い東部、南部を中心に感染が広がり、医療システムの逼迫が深刻になっている。集中治療を受ける患者数は4300人を超え、過去のピーク(5700人強)に近づいている。死者は累計で10万人を突破した。

独空軍の特別機は26日、感染が広がっている南部バイエルン州から、比較的抑えられている西部へ重症者を輸送する作業に着手した。医療崩壊を避ける狙いだが、ドイツ全体で感染が拡大しているため、対応には限界もある。

ドイツは24日にドイツ社会民主党、緑の党、自由民主党の3党が連立政権の樹立で合意し、12月上旬にショルツ政権が成立する見通しとなった。感染の抑制と医療崩壊の回避が新政権の最初の課題となる。ドイツは18日、ワクチン未接種者への規制を強化し、電車や職場でも接種済みか検査陰性の証明を求めると決めたばかりだ。


◎なぜ「ドイツ全体で感染が拡大」?

ドイツ全体で感染が拡大している」と石川記者は言う。しかし、なぜ「ドイツ全体で感染が拡大している」のかは説明していない。「ドイツのワクチン接種率は68%」とかなり高い。それでも「新規感染者数は7万6000人を突破し、3日連続で過去最高を更新した」のならば「ワクチン」の効果はかなり低いと見るのが自然だ。

ドイツ全体で感染が拡大している」理由が分からないのならば仕方がない。だったら、そう書くべきだ。なのに「接種率の低い東部、南部を中心に感染が広がり~」と「接種率」の差が感染状況の差につながっているような書き方をしている。

だが「東部ザクセン州の接種率」は「58%」で全体の接種率である「68%」と大差はない。「58%」と「68%」には決定的な違いがあるのか。あるとしたら、なぜ「接種率の低い東部、南部」だけでなく「ドイツ全体で感染が拡大している」のか。

そこを石川記者には考えてほしい。「ワクチンは非常に有効」という前提を疑ってみないと客観的な分析は難しいはずだ。


※今回取り上げた記事「ドイツの新規感染者7万人超、空軍が重症者を輸送」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR26DPV0W1A121C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。石川潤記者への評価はDを維持する。石川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日銀担当 石川潤記者への信頼が揺らぐ日経「真相深層」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_29.html

必須情報が抜けた日経「独決済ワイヤーカードに空売り規制」 
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_20.html

2021年11月25日木曜日

FACTA「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」に見える大西康之氏の誤解

ジャーナリストの大西康之氏によると「日本を含む世界のあちこちで土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない『三無』で、『ものづくり』をするベンチャーが急成長を始めている」らしい。それが本当だとしてもFACTA12月号で取り上げた「インスタリム」と「aba」は「三無」とは言い難い。なので以下の内容で問い合わせを送っている。

大阪城

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様 FACTA編集人兼発行人 宮嶋巌様

12月号に大西様が書いた「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」という記事についてお尋ねします。記事では「日本を含む世界のあちこちで土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない『三無』で、『ものづくり』をするベンチャーが急成長を始めている」と述べた上で「IoTベンチャーのインスタリム」と「ケアテック・ベンチャーのaba」を取り上げています。記事の内容が正しいのならば、この2社は「土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない」はずです。

まず「資本」について考えます。両社のホームページを見ると、資本金は「インスタリム」が1億6701万円、「aba」が3111万円です。これだけの資本金があるのに「資本」を「持たない」経営と言えるでしょうか。記事の中で、3Dプリンターに関して「aba」の関係者が「かつては数千万円しましたが今は小型車1台くらいの値段で買えます」とコメントしています。つまり「aba」は、資本財として3Dプリンターを保有しているはずです。

次に「労働」です。「インスタリム」のホームページには「医療機器デザイナー、戦略コンサル/ベンチャー出身者、デジタル義肢装具士、AIエンジニア、3Dプリンティングエンジニア、医療セールスの専門家、ビジネスオペレーションの専門家など、相互に強みを活かしあいながら、お互いが、密接に協力・連携することにより、世界初の義足のマスカスタマイゼーションを可能にしています」との説明があります。機械設計エンジニアや生産技術エンジニアの募集もしているようなので、「労働」なしで事業を展開しているとは思えません。

aba」のホームページを見ると社員数12名と出てきます。つまり「労働」者が12人います。技術開発部や営業部といった部署もあるようなので「労働」があると考えるべきです。

インスタリム」と「aba」に関して「土地、資本、労働の三大要素を一つも持たない」と見なしたのは誤りではありませんか。少なくとも「資本」と「労働」は活用していると思えます。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視して多くのミスを放置する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「『三無』創業にかけるカッコいい若者たち」 https://facta.co.jp/article/202112004.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html

大西康之氏が書いたFACTA「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」の問題点https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/facta.html

FACTA「『防衛と原発』東芝は国有化される」の手抜きが過ぎる大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/facta.html

2021年11月24日水曜日

デフレだと投資や消費をしないのが合理的? FACTAで珍説を披露した中野剛志氏

評論家の中野剛志氏がFACTA12月号に書いた「日本国債のデフォルトはあり得ない」という記事は財政破綻に関する説明に問題は感じない。しかし「デフレ」についての記述には明らかな誤りがある。そこを見ていこう。

大阪ビジネスパーク

【FACTAの記事】

デマンドプルインフレは、経済成長と深い関係にある。というのも、成長する経済は、需要が供給をやや上回った状態にある。需要があるから、企業は設備投資や技術開発投資を行い、労働者は就業機会を得られる。新規設備、新技術、雇用は供給力を高め、経済は成長する。このように、成長する経済は「需要>供給」の状態だから、マイルドなインフレとなる。逆にデフレだと、経済成長は難しい。需要が不足し、企業が積極的な投資を行わないのだから、経済が成長するはずがない


◎逆も成り立つのでは?

成長する経済は、需要が供給をやや上回った状態にある」とは限らない。単純化のためにコメだけで成り立っている「経済」を考えてみよう。この国では年間100キロのコメを生産しており、需要も100キロだ(つまり「需要=供給」)。そこで品種改良に成功し、翌年には一気に150キロのコメを作れるようになった。しかし需要は140キロにしか増えず、残り10キロは売れ残って農家の倉庫に眠ったままだ。

この「経済」は「需要>供給」とはなっていない。供給超過だ。結果として「デフレ」になる可能性はあるが、実質ベースで見れば明らかに「成長する経済」だ。

中野氏は「需要」が増えて、それを追いかける形で「供給」が増えると思い込んでいるのかもしれないが、必ずそうなるとは限らない。「供給」増加と価格下落が先行して「成長する」パターンもあり得る。

さらに見ていこう。


【FACTAの記事】

マクロ経済運営上、絶対に避けるべきは、デフレである。デフレとは、言い換えれば、貨幣価値が上昇する現象である。貨幣価値が上昇するなら、誰も投資や消費を行わず、貨幣を貯蓄しておくのが合理的な経済行動となる。したがって、デフレになると、民間主導で投資や消費が増えることは期待できない。そこで、政府が投資や消費を拡大し、需要を増やして、デフレという異常事態を脱却し、マイルドなインフレにしなければならない。インフレになれば、企業や個人は消費や投資をいっそう増やすので、民間主導による正常な経済成長も可能となろう。


◎「誰も投資や消費を行わず」?

貨幣価値が上昇するなら、誰も投資や消費を行わず、貨幣を貯蓄しておくのが合理的な経済行動となる」から「マクロ経済運営上、絶対に避けるべきは、デフレである」と中野氏は訴える。そうだろうか。

中野氏に言わせれば「平成十年から四半世紀にわたって日本はデフレ」らしい。同意はしないが、この前提で考えてみよう。「平成十年から四半世紀にわたって」日本で「合理的な経済行動」を選んだ人は「誰も投資や消費を行わず」に過ごしていたのか。だとしたら、そうした人の多くはスーパーで食料を購入することもできずに餓死しているだろう。それが「合理的」なのか。

デフレ」なのにディズニーランドで楽しい時間を過ごした人たちは「合理的な経済行動」ができなかったと見るべきなのか。「貨幣を貯蓄しておく」よりもレジャーに使って人生を楽しみたいと考えるのは非「合理的」なのか。

投資」に関しても同様だ。ゼロ金利下で物価下落率0.1%の時に株式の期待リターンが5%だとしよう。この状況で株式に「投資」するのは、なぜ「合理的な経済行動」から外れてしまうのか。0.1%の「デフレ」だと株式の期待リターンは自動的に0.1%を下回ると中野氏は考えているのか。

デフレ」で「貨幣価値が上昇する」からと言って、企業も個人も「投資や消費」をやめてしまう訳ではないし、それが「合理的な経済行動」から逸脱するとは限らない。少し考えれば分かるはずだ。

日本は本当にずっと「デフレ」なのかについても考えてみよう。「日本は、過去二十年以上、デフレという異常事態にあったのであり、平時であったことなどない」と中野氏は言うが「デフレ」かどうかの判断基準には触れていない。

確かに2020年は年間ベースで消費者物価指数が下落した。しかし、総合指数でわずか0.2%。しかも下落は4年ぶりだ。つまり、19年までの3年間は物価はマイナスではなかった。だとすると、消費者物価指数が多少上がっても「デフレ」だと中野氏は認識しているのだろう。

過去二十年」の消費者物価指数をグラフにしてみると分かるが、物価は下落と言うより横ばいだ。横ばい基調ならば「物価は安定」と見るのが素直だと思えるが、ずっと「デフレ」だったと見なし「異常事態」だと訴える。無理があると言うほかない。


※今回取り上げた記事「日本国債のデフォルトはあり得ない」https://facta.co.jp/article/202112019.html


※記事の評価はD(問題あり)

2021年11月22日月曜日

まともな根拠なしに「ワクチン3回目が必要」と説く日経 滝順一編集委員

日本経済新聞の滝順一編集委員が22日の夕刊ニュースぷらす面に書いた「ニッキィの大疑問~ワクチン3回目なぜ必要? コロナ第6波に備え 抗体活性化」という記事は無理がある。「ワクチン3回目」が「必要」との前提がそもそも引っかかるが、だったら「必要」と言える根拠をしっかり示してほしい。なのに記事には、それが見当たらない。

大阪城

どうして3回目の接種が必要になるのですか」という問いに対する滝編集委員の答えを見ていこう。


【日経の記事】

ワクチンを接種すると、人間の体内で「中和抗体」が作られます。中和抗体はウイルスの感染力などを抑えるタンパク質で、これによりウイルスへの感染が抑えられます。

しかし、接種してから時間がたつと、体内の中和抗体は減ってしまうことが報告されています。すでに2回接種していても、半年以上が過ぎると、ワクチンの効果が一部薄れてしまうのです。

3回目の接種をすれば、中和抗体は大きく増えることがわかっています。冬は空気が乾燥し、室内での活動も増え感染リスクが高まる傾向にあります。流行の第6波への備えを怠ることはできません。

マスク着用など、基本的な感染防止策は引き続き必要です。そのうえで高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人などは3回目の接種が望ましいと考えられます

ただ、ワクチンによって活性化される体の防御システム(免疫)は、中和抗体だけではありません。2回目までの接種でできた中和抗体は薄れても、ウイルスを退治する免疫細胞などの働きは残っており、全くの無防備にはなりません。抗体が減っても、入院や重症化を防ぐ効果は持続するという報告もあります


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。


(1)薄れてしまう「一部」とは?

すでに2回接種していても、半年以上が過ぎると、ワクチンの効果が一部薄れてしまう」から「3回目の接種が必要」というのが滝編集委員の答えだ。こんな漠然とした説明しかできないのか。

一部」とは何を指すのか。そして、どの程度「薄れてしまう」のか。それが分からないと「3回目の接種が必要」かどうか判断できない。そこが記事の肝なのに、さっさと「いつごろ3回目の接種が始まりますか」という話に移っている。無責任が過ぎる。


(2)ワクチンなしは「無防備」?

2回目までの接種でできた中和抗体は薄れても、ウイルスを退治する免疫細胞などの働きは残っており、全くの無防備にはなりません」と書いてあると、未接種者は「全くの無防備」だと理解したくなる。しかし、未接種者も自然免疫や獲得免疫で「ウイルスを退治する」仕組みを体内に持っている可能性が高い。「ワクチンを接種する」方向に誘導したい気持ちがあるのだろうが、感心しない書き方だ。


(3)だったら「必要」ないのでは?

2回目までの接種」の後に「抗体が減っても、入院や重症化を防ぐ効果は持続するという報告もあります」と滝編集委員は言う。その「報告」が正しいとの前提で言えば、「2回目までの接種」で十分ではないのか。

入院や重症化を防ぐ効果」を上乗せできないとすると、何のために「3回目の接種」をするのか。無症状や軽症で済む感染を防ぐためなのか。であればメリットが小さすぎる。


(4)若くて基礎疾患もない場合は?

高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人などは3回目の接種が望ましい」とも滝編集委員は書いている。裏返せば「高齢者や、基礎疾患があってリスクの高い人など」を除くと「3回目の接種」は必要ないとも取れる。そこもしっかり説明してほしい。

次に「海外の状況」を説明した部分にもツッコミを入れておこう。


【日経の記事】

ワクチン接種が早く進んだイスラエルは8月から3回目接種を開始しました。米国やドイツ、フランス、英国も9月から年齢の高い人や基礎疾患などリスクのある市民に3回目接種を始めました。

これらの国は経済活動の再開に伴い、一度は減少していた感染者が再び増加する傾向にあります。ワクチンの接種率が6~7割と日本(約76%)に比べて低いことも感染者増加の一因と考えられます


◎ワクチン効果と言える?

日本は「ワクチンの接種率」が高いから「感染者」を抑えられているが、「イスラエル」「米国やドイツ、フランス、英国」では「接種率」が日本より低いから「感染者増加」を招いていると滝編集委員は見ているのだろう。

これは無理がある。まず「約76%」と「6~7割」であれば「接種率」に大きな違いはない。さらに韓国の問題がある。

日経の記事によると「韓国のワクチン接種率は日本とほぼ同じ78%」だが、11月18日には「新型コロナウイルスの新規感染者数が3292人と1カ月半ぶりに過去最多を更新した」らしい。韓国も含めて考えれば「ワクチンの接種率」の差で感染動向を説明するのは困難だ。

滝編集委員には一種のワクチン信仰があるのだろう。科学技術担当の編集委員ならば、そうした信仰の類を排して物事を分析してほしい。


※今回取り上げた記事「ニッキィの大疑問~ワクチン3回目なぜ必要? コロナ第6波に備え 抗体活性化

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211122&ng=DGKKZO77776020S1A121C2EAC000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。滝順一編集委員への評価は暫定でEとする。

2021年11月21日日曜日

小田嶋隆氏は「全面的に支持」の意味を理解してない?日経ビジネス「pie in the sky」

日経ビジネス11月22日号にコラムニストの小田嶋隆氏が書いた「pie in the sky 絵に描いた餅ベーション~小遣いに図書券をくれる人」という記事は苦しい内容だった。「自民・公明両党が、このほど18歳以下の国民に10万円相当の給付を実施することで合意したのだそうだ。全面的に支持する」と小田嶋氏は言う。本当に「全面的に支持」しているだろうか。「いくつかモヤモヤする点がある。以下、列挙してみる」と述べた上で以下の3つの注文を付けている。

大阪ビジネスパーク

1・国策に関わる重大な決定を、国会にはかることなく、どうして与党だけで決めてしまうのか。

2・シンプルに現金10万円を配らずに半額の5万円を「費消先を限定したクーポン」にするのはなぜか。

3・この期に及んで所得制限を検討しているのはなぜか。


そして結論に至る。「というわけで、1・国会の決議を経た上で、2・10万円の全額を現金で、3・即座に、全世帯に配布するのが望ましい支給方法だと私は考えている」と小田嶋氏は言う。

・「半額の5万円」を「クーポン」にするのは反対。「10万円の全額を現金」にするのが望ましい。

・「18歳以下の国民」に限定したり「所得制限」を付けたりするのには反対。「全世帯に配布」するのが望ましい。

これが小田嶋氏の主張だ。「自民・公明両党」の案とはかなり異なる。なのに「全面的に支持」なのか。「全面的に支持」の意味を小田嶋氏は理解しているのか。「大筋で支持」ぐらいの意味で「全面的に支持」と書いている気がする。

記事の終盤にもツッコミどころがある。そこを見ていこう。


【日経ビジネスの記事】

子どもだったころを思い出してみると、小遣いを貰う立場の者としてなによりうれしかったのは現金だ。図書券とか書籍とか知育玩具とかをよこす大人には、むしろ敵意を持ったものだ。なぜなら「君にはこれがふさわしい」という押し付けは、当方の自己決定権を踏みにじる抑圧だからだ。


◎「書籍とか知育玩具」は「小遣い」?

小遣いを貰う立場の者としてなによりうれしかったのは現金だ。図書券とか書籍とか知育玩具とかをよこす大人には、むしろ敵意を持ったものだ」と小田嶋氏は言う。「図書券」は微妙だが「書籍とか知育玩具」は「小遣い」ではない。

大人」から「書籍とか知育玩具」をもらった時に「小遣い」をもらったと小田嶋氏が認識していたのであれば、「小遣い」の意味を理解していなかったと見るべきだろう。

小遣い」に関して日本大百科全書(ニッポニカ)は「小遣い銭の略で、ここでは、自分の意志により自由に使うことが許されている、子供のもつ金銭のことをいう」と解説している。「図書券」でさえ「小遣い」に含めるのは苦しい。

付け加えると「『君にはこれがふさわしい』という押し付けは、当方の自己決定権を踏みにじる抑圧」だとも思えない。例えば「書籍」を与えられて強制的に読書をさせられたのならば「自己決定権を踏みにじる抑圧」との見方に納得できる。

「いい本だからお薦めだよ。興味がなかったらゴミ箱に捨てといて」と言って「書籍」を渡された場合、読む気にならなければ勝手に処分すればいいだけの話だ。どこに「自己決定権を踏みにじる抑圧」があるのか。

結びのくだりも見ておこう。


【日経ビジネスの記事】

「でも、現金だとバカな使い方をするからなあ」と思っている人は、ぜひ胸に手を当てて自分の子ども時代を思い出してほしい。「バカな使いみちにつぎこんだお金」が、現在のあなたをつくっているのではないか?

私はそうだ。バカだったからこそ、いまこうして暮らしていられる。


◎それだけじゃないような…

『バカな使いみちにつぎこんだお金』が、現在のあなたをつくっているのではないか」と小田嶋氏は問いかける。これに対する答えは「『バカな使いみちにつぎこんだお金』も『書籍とか知育玩具』も、現在の自分を形作る要素になっている」といったところか。

子供の頃、自分の部屋には世界地図と日本地図が貼ってあった。親が勝手に貼ったものだ。特に何を学べとも言われた記憶はないが、これらの地図で都道府県名や国名をいつの間にか覚えてしまっていた。

現金」はくれずに「君にはこれがふさわしい」という親の思い込みで地図は購入され、部屋に貼られたのだろう。だが、これが日本や世界に関心を持つきっかけになった。「バカな使いみちにつぎこんだお金」だけが「現在のあなたをつくっている」訳ではない。

世の中はそんなに単純ではない。そのことを「バカだったからこそ、いまこうして暮らしていられる」小田嶋氏には分かってほしい。


※今回取り上げた記事「pie in the sky 絵に描いた餅ベーション~小遣いに図書券をくれる人

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00139/


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

試合時間が長いと番狂わせが起きやすい? 小田嶋隆氏のサッカー論に見える誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_24.html

コロナ楽観論者が医療システムに「テロ行為」? 小田嶋隆氏の衰えが辛いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_4.html

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html

「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html

「女性側に原因がないこともない」を「失言」と見なす小田嶋隆氏に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_27.html

「彼女が中止のホイッスルを吹く日」に期待する小田嶋隆氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_16.html

日経ビジネスでの橋下徹氏批判に見える小田嶋隆氏の「あまりにも粗雑な詭弁」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post.html

2021年11月19日金曜日

MMTに対する中空麻奈氏の誤解が凄い日経「エコノミスト360°視点」

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏を記事の書き手としては評価していない。19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」という記事でも、雑な主張が目立った。一部を見ていこう。

大阪城

【日経の記事】  

持続可能な社会をつくるには、財政規律を守りキャッシュフローを潤沢に回す仕組みが肝要だ。それが財政再建の着実な推進につながる。

それでも、財政再建を振りかざした途端、いくつもの反論が出てこよう。代表的なものとして3つ挙げる。第1に、金利が低い間はどれだけ借金しても問題はないとする、いわゆる現代貨幣理論(MMT)。第2に、借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方。第3に、借金として財務省が発行する日本国債は日銀が購入すればよく、統合政府ベースではネットで負債は減少するというバランスシート統合論だ。


◎金利の問題?

中空氏は「MMT」を誤解しているようだ。「MMT」とは「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」(「全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室」より)という理論だ。

金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは言っていない。インフレ率と金利は連動しやすいが、必ず連動する訳ではない。「金利が低い」としても「高インフレ」になってくれば話は別だ。この時に「どれだけ借金しても問題はない」と「MMT」は考えない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

MMTはいくつもの制約と仮定のもとに成り立つ恒等式にすぎないうえ、金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない。日本の資産に計上される空港や防衛施設などの公用地や外交上も有効な米国債などは軽々に売却できない。また、独立している日銀のバランスシートを統合して帳面上ネットゼロを果たしたところで、負債残高が消えるわけではない、のである。


◎やはり理解してない?

やはり中空氏は「MMT」を理解していないようだ。「金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない」と書いているが、そもそも「MMT」は「金利が十分に低ければ財政の悪化に歯止めをかけられる」と訴えている訳ではない。インフレを抑えられている状況であれば「財政の悪化」を問題視する必要がないと唱えている。

ここから中空氏はさらに無理のある主張を展開していく。見ておこう。

【日経の記事】

しかし、言い古された考え方を蒸し返すことがここでの本意ではない。力説したいのは財政再建派と、基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化を一時凍結し景気を優先するいわゆるリフレ派の、二項対立での捉え方からそろそろ卒業すべきではなかろうか、という点だ。

リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろうし、財政再建派も堅調な景気回復を完全に諦めたわけではない。ただ、20年間にわたって1%にも届かないような成長しかしていない日本で、過度に楽観的な景気回復シナリオを描くのは幻想が過ぎるだろう。


◎まとめて「リフレ派」?

リフレ派の主張は、政府・中央銀行が数パーセント程度の緩慢な物価上昇率をインフレターゲットとして意図的に定めるとともに、長期国債を発行して一定期間これを中央銀行が無制限に買い上げることで、通貨供給量を増加させて不況から抜け出すことが可能だとするもの」(知恵蔵)だとしよう。

中空氏は「MMT」と「借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方」と「バランスシート統合論」をひとまとめにして「リフレ派」と呼び、「財政再建派」との「二項対立」があると説く。

MMT」論者は基本的に「リフレ派」ではない(重なる人も多少はいるだろうが…)。「MMT」はインフレ警戒的だ。インフレ歓迎的な「リフレ派」とは、あまり相性が良くない。

中空氏は「MMT」(あるいは「リフレ派」)への理解を欠いたまま「リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろう」と推測している。

MMT」では「景気が上昇した」からと言って「財政再建を目指す」ことはない。インフレが抑えられている前提で言えば「景気が上昇した」としても、国民にとってプラスとなる財政支出があれば「財政再建」など気にせずに支出すべきとなる。

ここでは代表的な「MMT」論者であるステファニー・ケルトン氏が書いた「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」の一部を引用しておこう。


【本の引用】

国家として財政の均衡を目指すのをやめ、経済の均衡を回復させることに積極的に取り組んだらどうだろう。MMTのレンズに基づく財政運営では、特定の財政上の結果を目指すことは一切ない。財政赤字の増加は赤字の縮小、あるいは財政黒字と同じように許容されるべきものだ。重要なのは財政年度の終了時点で予算の枠からこぼれ落ちた数字ではない。誰もが生き生きと暮らせる、健全な経済の実現こそが重要だ。働きたいと思う人全員に行き渡るだけの、正当な報酬を支払う仕事はあるだろうか。国民は必要な医療と教育を受けられているだろうか。高齢者は尊厳ある第二の人生を送れるだろうか。すべての子供に十分な食べ物、きれいな飲み水、安全な住居があるだろうか。地球が生存可能な惑星であり続けるように、できることはすべてやっているだろうか。要するに、私たちは本当に重要な「赤字」に対処しているだろうか。


◇   ◇   ◇


これだけでも読めば「MMT」が「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」ものではないと分かるはずだ。とりあえず「財政赤字の神話」だけでも中空氏には読んでほしい。

MMT」は「金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは唱えていないし、「リフレ派」でもないし、「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」訳でもない。

そこを理解しないと話は始まらない。出発点で躓いていることに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211119&ng=DGKKZO77686420Y1A111C2TCR000


※記事の評価はE(大いに問題あり)中空麻奈氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_10.html

日経「エコノミスト360°視点」でBNPパリバ証券 中空麻奈氏が見せた市場への理解不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/360bnp.html

2021年11月18日木曜日

ユーロ下落でも円の「独歩安」と書いた日経に問い合わせ

日本経済新聞の「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず」という記事には2つの問題を感じた。日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

大阪城

【日経への問い合わせ】

18日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

21年になると円の実質実効レートは9%下げ、主要通貨で独歩安になった。ドルは5%上昇し、ユーロは3%の下落にとどまる。新型コロナウイルス禍からの経済回復過程で、日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している

独歩安」とは「為替相場で、単独の通貨のレートだけが下がること」(デジタル大辞泉)です。「主要通貨」を「」「ドル」「ユーロ」とした場合、「」が「主要通貨で独歩安になった」のならば「ドル」と「ユーロ」は「上昇」しているはずです。しかし「ユーロは3%の下落」。つまり「」の「独歩安」ではありません。「ドル」の「独歩高」です。

」が「主要通貨で独歩安になった」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、もう1つ指摘しておきます。

円の実質実効レート」が下がった要因について「日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している」と書いています。この説明は間違いではないものの不適切です。

物価上昇率が低い国の通貨は名目レートが上昇するのが基本です。本来ならば「日本の物価が海外と比べて上がらない」場合は名目レートが円高となり調整されます。その調整が進まないから「円の実質実効レート」が低下していると見るべきでしょう。

なぜ調整が起きないのか。そこを解説しないと「円の実質実効レート」が下がっている理由は見えてきません。

日本の物価が海外と比べて上がらないことが影響している」のならば、物価が上がれば「円の実質実効レート」も上がっていくはずだと多くの読者は思うでしょう。しかし、相対的に物価上昇率が高くなれば名目レートに下押し圧力がかかると考えるべきです。

記事の筆者は、物価動向が名目レートに与える影響を無視したまま「円の実質実効レート」の下落を論じているのではありませんか。

問い合わせは以上です。「独歩安」に関しては回答をお願いします。日経では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表するメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「円の実力、低下傾向続く~実質実効レートが50年ぶり水準に接近 円安、成長に寄与せず

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211118&ng=DGKKZO77663310X11C21A1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年11月17日水曜日

「現在世代の消費」に使うと「将来世代に残るのは借金だけ」と誤解した東洋経済の野村明弘氏

週刊東洋経済の野村明弘氏は財政問題で誤解があるようだ。11月20日号の「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」という記事からは、そう判断できる。問題のくだりを見ていこう。

大阪城公園

【東洋経済の記事】

一方、選挙で主張された「減税や現金給付で国民の可処分所得を増やす」というのは分配政策ではなく、再分配政策だ。ただし、誰から誰への分配かが重要だ。

大規模金融緩和による超低金利が長期化する中、与野党はこうした政策を国債発行で賄う姿勢をますます強めている。積み増される国債の負担を被るのは将来世代だ。道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれるが、現在世代の消費のために使われるとあっては、将来世代に残るのは借金だけだ。これでは、将来世代から現在世代への再分配といえなくもない。


◎「国債」が資産として残るはずだが…

政府が「現在世代」に「現金給付」をして、それが「現在世代の消費のために使われる」としよう。この場合「将来世代に残るのは借金だけ」だと野村氏は言う。明らかな誤解だ。

こうした政策を国債発行で賄う」前提で考えてみよう。記事には「主たる国債保有者である高資産家・高所得者」との記述もあるので、とりあえず「高資産家・高所得者」が「国債」の保有額を積み増すとしよう。

この枠組みでは「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。「高資産家・高所得者」の資産を相続する「将来世代」が「国債」を資産として引き継ぐ。

道路や橋など社会インフラへの支出や投融資に使われるのであれば、将来世代には資産も一緒に引き継がれる」と野村氏は言う。これも間違っていないが「現在世代の消費のために使われ」たからと言って「将来世代に残るのは借金だけ」とはならない。国内で国債を引き受けていれば「将来世代」には「国債」自体が資産として残る。

記事の続きも見ておこう。


【東洋経済の記事】

また、日本の公的債務残高が主要国で最悪の水準にある中、将来、インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合はどうなるか。

政府は財政を持続させるために増税や給付カットを行い、そこで得たお金を国債の元利払いに充てるだろう。「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者。彼らから、主たる国債保有者である高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」(権丈氏)。


◎「財政を持続させるため」?

政府・日銀には日本円を無限に創出する力がある。なので「インフレや金利上昇の局面に遭遇した場合」でも「財政を持続させるため」に「増税や給付カット」に踏み切る必要はない。ここも野村氏は誤解しているのではないか。

インフレ」に問題ありとは言える。許容範囲を超えた「インフレ」を抑えるためには「増税や給付カット」も必要だ。ただ「増税や給付カットで影響の大きいのは中・低所得者」という決め付けが謎だ。やり方次第だろう。

高資産家・高所得者」の負担が重くなるように「増税や給付カット」を進めればいいだけの話ではないか。「高資産家・高所得者へ所得が“逆再分配”されることになる」のが避けられないと思わせるような書き方は感心しない。

話をまとめよう。

必要があれば「現在世代の消費のために使われ」るとしても「国債」に頼って「再分配政策」を進めていい。「将来世代に残るのは借金だけ」というのは誤った認識だ。

結果として「インフレ」がひどくなってくれば「増税や給付カット」も選択肢に入るが「中・低所得者」への影響を相対的に小さくするやり方はいくらもある。

この結論に、どこかツッコミどころがあるだろうか。もし思い付かないのならば、野村氏には従来の認識を改めてほしい。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~衆院選『分配論争』への大いなる疑問」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/28761


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html

「最悪の事態」が起きない前提で「最悪シナリオ」を描く東洋経済 野村明弘氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_15.html

2021年11月16日火曜日

日経の「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言」という記事は興味深い

14日付の日本経済新聞電子版に松本史記者が書いた「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言~現地報道」という記事は興味深い。「台湾有事」に関して日本の選択を考える上で参考になる。一部を見ていこう。

大阪城

【日経の記事】

オーストラリアのダットン国防相は14日までに地元紙のインタビューに応じ、台湾有事の際に米国を支援する姿勢を明確にした。中国に対する豪州の強硬姿勢を改めて示した形で、外国による台湾問題への介入に警戒を強める中国からの反発は必至だ。

ダットン氏は豪紙「オーストラリアン」に対し、台湾を巡る有事の際に「もし(同盟国である)米国が行動を起こすことを選択したら、我々が米国を支援しないことは考えられない」と述べた。また台湾に対する中国の意図は明確だとし「高い水準で準備を行い(軍事的)能力による強い抑止力を持つべきだ」と強調した。

ダットン氏は今年3月に国防相に就任した。モリソン政権内でも対中強硬派として知られる。4月に台湾有事について「軽視すべきとは思わない」と発言したほか、有事の際には米国と足並みを揃える姿勢も示唆していた。


◎オーストラリアが戦うなら…

支援」が何を指すのか必ずしも明確ではないが、「オーストラリア」は「台湾を巡る有事の際」に「米国」とともに戦う覚悟を決めたのだろう。

そこで日経(特に、日米同盟強化を訴えるのが大好きなベテランの書き手)に考えてほしいのが日本の針路だ。日米同盟強化を支持する立場からは「オーストラリアに負けず米国への忠誠を誓おう。米国が中国と戦う時は日本も全面参戦だ」となるのが自然だ。

そう訴えたいなら、それでいい。とにかく立場を明確にしてほしい。

「米国やオーストラリアが中国と戦うとしても、日本は巻き込まれたくない」と願うのならば、「日米同盟強化」と念仏のように唱えるだけではダメという話になるはずだ。

単純に言えば「日米同盟強化(属国路線継続)」と「対中戦争回避」の選択になる。

「どちらも大事。だから、どちらかを選ばなければならない事態については考えない」というのが今の日経の立場のように見える。その思考停止状態からぜひ抜け出してほしい。


※今回取り上げた記事「豪国防相、台湾有事で米国支援を明言~現地報道


※記事の評価はC(平均的)。松本史記者への評価は暫定Dから暫定Cへ引き上げる。松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心な情報をなぜ抜いた? 日経 松本史記者の「豪カンタス航空、1500億円最終赤字」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1500.html

2021年11月14日日曜日

「新規感染者に底打ち感」と伝えた日経に感じるゼロコロナ志向

やはりゼロコロナを目指すのが日本経済新聞の考えなのか。14日の朝刊総合2面に載った「感染者下げ止まり 東京、11月は横ばい~若年層の感染目立つ」という記事は、そう感じさせる内容だった。そこは日経の勝手かもしれないが、説明には色々と無理があった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

大阪城

【日経の記事】

減少傾向にあった新型コロナウイルスの新規感染者に底打ち感が出ている。東京都の13日時点の7日間平均は約24人と、前週より20%増えた。今夏の「第5波」のピーク時と比べると0.5%程度の低い水準ではあるものの、11月に入ってほぼ横ばい圏にある。ワクチン接種対象外の10歳未満の子供ら若年層の感染が目立つ


◎「低水準のまま」でいいのでは?

ピーク時と比べると0.5%程度の低い水準」まで来れば「底打ち」するのは当然だ。東京都の人口を考えれば「24人」は「ゼロコロナをほぼ達成」とも言える。しかし、そうは考えずに「下げ止まり」「底打ち」と見るのか。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

東京都では8月19日の約4923人をピークとしてワクチン接種率の上昇などを受けて減ってきたが、11月第2週は20人台で推移する。


◎「分からない」でいいのでは?

感染者数が減った要因として「ワクチン接種率の上昇」を挙げるのは無理がある。そもそも「8月19日」に「ピーク」を迎えるまでの段階で「接種率の上昇」は続いていた。「接種率」と感染者数の関連はかなり乏しい。急減の理由は「分からない」が妥当だろう。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長は11日、都内の感染状況を評価するモニタリング会議後に「(新規感染者は)下げ止まったと考えている」と述べた。

同日のモニタリング会議では新規感染者のうち、30歳代以下の若年層が6割弱を占めると報告された。若年層のワクチン接種率は高齢者らと比べると低い。また、接種対象外の10歳未満の割合が1割強に上昇した


◎これまた強引な…

最初の段落で「ワクチン接種対象外の10歳未満の子供ら若年層の感染が目立つ」と書いているが「10歳未満の割合」は「1割強」に過ぎない。しかも過去との比較も見せていない。東京都の1日当たりの感染者数が「20人台」だとすると、そのうち「10歳未満」は2~3人だ。なのに「10歳未満」を強調する意味があるのか。子供の「ワクチン接種」を推進したい意図があるとすれば、かなり筋が悪い。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

自治体によっては感染者が確認されない日もあるなか、大阪府でも減少ペースは鈍り、足元の新規感染者の7日間平均は30人前後。11日には豊中市の児童施設でクラスター(感染者集団)の発生が明らかになった。少なくとも未就学児27人と職員11人の感染が確認された。


◎なぜ東京と大阪だけ?

今回の記事は東京都と大阪府の数字しか見せていない。グラフもそうだ。

減少傾向にあった新型コロナウイルスの新規感染者に底打ち感が出ている」と伝えたいのならば、全国の数字を見せるのが素直だ。なぜ、そこは避けたのか。「減少傾向」が続いているからなのか。

記事の終盤も見ておこう。


【日経の記事】

ワクチンの普及とともに接種後に感染する「ブレークスルー感染」も起きている。大阪府の調査では、10月1~17日に判明した感染者の12%が2回接種して2週間たっていた。ワクチンを打っていても感染する可能性があり、自治体はマスクの着用や手洗いなど基本的な感染防止対策の徹底を呼びかけている。

国際医療福祉大学の和田耕治教授(公衆衛生学)は「新規感染者は一部地域でやや増えているものの、現段階はリバウンドの状態ではない」と指摘したうえで、「規模がどれくらいになるかは不明ながら、第6波はどこかで来る。感染者が増えてきたときに警戒を呼びかけられるかがカギになる」と話す。


◎コメントが謎…

感染者が増えてきたときに警戒を呼びかけられるかがカギになる」という「国際医療福祉大学の和田耕治教授」のコメントは何を言いたいのか分かりにくい。

まず何の「カギになる」のか。「第6波はどこかで来る」のだから「第6波」を未然に防ぐための「カギ」ではないようだ。では何だろう。候補は色々と考えられるが、記事からは特定できない。

それに「感染者が増えてきたときに警戒を呼びかけられるかがカギになる」と言われると「警戒を呼びかけ」ることが難しいようにも感じるが、簡単ではないのか。「感染者が増えてきたとき」には政府、自治体、メディアなどが勝手に色々と「警戒を呼びかけ」てしまうはずだ。つまり「カギ」はほぼ確実に機能する。だとしたら「和田耕治教授」は何を心配しているのか。


※今回取り上げた記事「感染者下げ止まり 東京、11月は横ばい~若年層の感染目立つ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211114&ng=DGKKZO77551680U1A111C2EA2000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年11月12日金曜日

筆者のワクチン信仰が垣間見える日経社説「3回目職域接種の準備万全に」

ワクチンへの信仰心を一度持ってしまったら、冷静な分析や判断は難しくなるのだろう。12日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「3回目職域接種の準備万全に」という社説には、安易なワクチン信仰が目に付いた。一部を見ていこう。

御堂筋

【日経の社説】

12月から新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が始まる。医療従事者や高齢者に続き、来春以降は2回の接種を終えた全員が対象になる。企業や大学での職域接種をうまく生かし、滞りなく進めてほしい。

ワクチンは接種完了後、半年たつと感染予防効果が大きく減ることがわかってきた。3回目の追加接種によって免疫力を回復させ、再び感染・発症しにくくする


◎いつまでやる?

ワクチンは接種完了後、半年たつと感染予防効果が大きく減る」としよう。「ワクチン」に頼って感染対策を進める場合、年2回の「接種」を死ぬまで続けるのが標準になるはずだ。なのに今後も「職域接種」を続けるべきなのか。いつになったらやめるのか。「感染者が大幅に減ったら」と言うならば、その条件は既に満たしている。

日経は給付金を使ったバラマキに否定的だ。「ワクチン」も無料を維持するのならば、かなりのバラマキだ。感染が収まっても「再拡大を防ぐため」という理由でずっと無料にすべきなのか。そこも考えるべきだ。

少し話がそれた。本題のワクチン信仰に関するくだりを見ていこう。


【日経の社説】

厚生労働省は2回目接種後8カ月以上たった人に実施する方針。今月中旬にも専門家会合で、接種の進め方や推奨の度合い、使用するワクチンなど詳細を決める。

日本は他の主要国に比べワクチン接種で出遅れた。しかし、6月以降、職域接種を取り入れ、接種スピードを加速させた。短期間に国民の7割超が接種を終え、第5波が急速に収まる要因になった


◎断定できる根拠ある?

ワクチン接種」は「第5波が急速に収まる要因になった」と言い切っている。何を根拠にそう断定したのか。感染者数の急減は「ワクチン接種」率の高まりでは説明できないと多くの専門家が指摘している。

日経の記事でも、例えば大阪大学特任教授の松浦善治氏は以下のように述べている。

新型コロナウイルス感染症の新規患者数が日本で急減した理由は分からない。ワクチン接種が進んだことが指摘されがちだが、海外でも接種が遅れたインドネシアで患者が減り、タイやロシア、英国は増えてきた。ワクチンだけでは説明できない

日本でも「6月以降、職域接種を取り入れ、接種スピードを加速させた」のに、8月に感染者数がピークに達した。「ワクチン接種」に大きな効果があるのならば、そもそも「第5波」はなぜ起きたのか。その後に驚くほどのスピードで急減したのだから「ワクチン接種」との関連を確信する方がおかしい。

なのに「第5波が急速に収まる要因になった」と何の疑いも持てず書けるのだとしたら、「ワクチン」への信仰心が芽生えてしまったのだろう。

社説の最後には、どう理解すべきか分からない説明も出てくる。そこも見ておこう。


【日経の社説】

ワクチン未接種だと感染した際に肥満や糖尿病の人と同じような重症化リスクになるとの見方もある。一度も打っていない人が12月以降、打つ機会を逃すようなことがあってはならない。

◎何と何を比べた?

ワクチン未接種だと感染した際に肥満や糖尿病の人と同じような重症化リスクになるとの見方もある」という説明がよく分からない。

ワクチンが存在しない状況下で、「肥満や糖尿病の人」(ここではハイリスク群と呼ぶ)の「重症化リスク」は10%、そうでない人(ローリスク群と呼ぶ)の「重症化リスク」は1%と仮定しよう。社説の説明を単純に信じれば、ローリスク群が「ワクチン未接種」を選択すると「重症化リスク」が一気に10%へ上がってしまう。

これは奇妙だ。「ワクチン未接種」を選択したからと言って、ローリスク群の体には何の影響もない。なのに「接種しなくていいや」と決めただけで「重症化リスク」が跳ね上がるのか。常識的にはあり得ない。

では、社説の筆者は何が言いたかったのか。

肥満・糖尿病とは無縁な人がワクチン未接種で感染した場合、肥満・糖尿病の問題を抱えている接種済みの人と同程度の重症化リスクが生じるとの見方もある

自分は上記のように解釈した。これが正しいとすれば、社説の説明は雑で下手だ。

この解釈の場合も、何が問題なのか分かりにくい。ローリスク群の「重症化リスク」は「未接種」でも1%のままだ。ハイリスク群の「重症化リスク」が「ワクチン接種」によって1%に下がりローリスク群と同程度になったとしよう。

「良かったね」でいいのではないか。特に問題はない。ローリスク群の「重症化リスク」が高まる訳ではない。

ローリスク群は「ワクチン接種」をすれば「重症化リスク」を0.1%まで引き下げられるとしよう。この場合「重症化リスク」を0.9ポイント下げることに意味があるかどうかを「接種」のリスクと比較して検討すればいい。

意味があると思えば「接種」、ないと思えば「未接種」でいい。社説の筆者は「未接種」だと危険だと訴えたいのだろうが、説明は下手だし、きちんとした根拠も提示できていない。

ワクチンへの信仰心を持つ人が社説を書くのは好ましくない。今さら「信仰心を捨てて冷静に分析しろ」と言っても難しいとは思うが…。


※今回取り上げた社説「3回目職域接種の準備万全に」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211112&ng=DGKKZO77495460S1A111C2EA1000


※社説の評価はE(大いに問題あり)

2021年11月11日木曜日

台湾有事の「肝」を論じる気配が見えた日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

一歩前進と言うべきか。11日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に秋田浩之氏(本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~台湾併合が招く悪夢」 を読んで、そう感じた。中国による「台湾併合」が及ぼす影響が記事のテーマだ。「その前に論じるべきことがあるだろう。なぜ肝の論点から逃げる?」と思いながら読み進めていたら、最後の最後に「肝」への言及があった。その部分を見ていこう。

夕暮れ時の耳納連山

【日経の記事】

もっとも、台湾海峡で戦争になれば、日本の一部も戦域になり、日本が戦闘に直接関与すれば、さらに甚大な犠牲を生む恐れがある。日米同盟の重要性を踏まえつつ、政府はこの代償の大きさも、厳密に分析しなければならない

いま大切なのは感情論や精神論ではなく、軍事作戦と台湾併合の両方のリスクを精査し、突き合わせることだ。その作業を徹底しなければ、台湾有事で日本は「何を、どこまで」やるのか、正しい答えにはたどりつけない。


◎秋田氏自身の「答え」は?

台湾海峡で戦争になれば、日本の一部も戦域になり、日本が戦闘に直接関与すれば、さらに甚大な犠牲を生む恐れがある。日米同盟の重要性を踏まえつつ、政府はこの代償の大きさも、厳密に分析しなければならない」ーー。その通りだ。

台湾有事」に関する最も重要な論点はここだ。「台湾」を中国の一部と認める日本にとって「台湾有事」は中国の内戦のはずだ。しかし「台湾併合」を「悪夢」と見なし「日米同盟」を最重視してしまうと、米国が「台湾」防衛に動いた場合に、日本は自国が攻撃を受けた訳でもないのに中国との戦争に巻き込まれてしまう。

日経のように「日米同盟」の強化を念仏のように唱えてきた立場からすると「米国が中国と戦うならば、日本も中国と全面戦争だ」と訴えるのが分かりやすい。しかし、そうなると「中国の一部だと認めている台湾を守るために、憲法の制約もある日本がなぜ多大な犠牲を払ってまで中国と戦わなければならないのか」との疑問が湧く。

それがこの問題の難しいところだ。

なので、日経はこの問題を曖昧にしているのだろう。ところが今回の記事では問題に言及してきた。その点は素直に評価したい。

ただ、やはり自ら「答え」を出すには至っていない。秋田氏も「政府」に「厳密」な「分析」を求めているだけだ。

いま大切なのは感情論や精神論ではなく、軍事作戦と台湾併合の両方のリスクを精査し、突き合わせることだ。その作業を徹底しなければ、台湾有事で日本は『何を、どこまで』やるのか、正しい答えにはたどりつけない」という見方に異論はない。

ならば秋田氏の考える「正しい答え」は何なのか。それを読者に提示すべきだ。

今回の記事には「日本の安保担当者」のコメントも出てくる。こうした人たちへの取材を通じて、秋田氏は何が「正しい答え」だと感じたのか。「とにかく何が何でも日米同盟強化」という思考停止状態のままでは「正しい答え」に辿り着けないことに秋田氏も気付き始めているのではないか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~台湾併合が招く悪夢」 

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211111&ng=DGKKZO77432230Q1A111C2TCR000


※記事の評価はC(平均的)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持するが強含みとする。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight.html

日経 秋田浩之氏が書いた朝刊1面「世界、迫る無秩序の影」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/1_15.html

英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/deep-insight_29.html

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/07/blog-post.html

「日本は世界で最も危険な場所」に無理がある日経 秋田浩之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/blog-post_11.html

日経 秋田浩之氏「Deep Insight~TPP、中国は変われるか」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/deep-insighttpp.html

2021年11月10日水曜日

衆院選の自民勝利の分析に無理がある日経コラム「大機小機」

10日の日本経済新聞朝刊マーケット総合面に載った「大機小機~痛み伴う改革の議論避けるな」という記事は衆院選に関する分析に無理がある。記事の終盤を見ていこう。

【日経の記事】

夕暮れ時の筑後川

総選挙では自民党が単独で絶対安定多数を得て、バラマキを訴えた野党は議席を減らした。予想外の勝利は、若年層の支持によるものらしい。確かに財源なき給付の大盤振る舞いは、彼らの未来を質入れすることを意味するのだ

そんな中で議席を約4倍に増やしたのが日本維新の会である。彼らは言う。「分配の原資は成長と改革」。成長できないなら、その分は痛みを伴う改革で捻出すればよい。これぞ大人の意見ではあるまいか。「成長と分配」だけの議論は、どうにもうさん臭いのである


◎どういう理屈?

国債を「財源」とは見なさないとの前提で言えば「財源なき給付の大盤振る舞い」を訴えたのは「自民党」も同じだ。実際に現金給付の話が具体化している。「彼ら(若年層)の未来を質入れすること」に「若年層」が拒否反応を示したのならば「自民党」は「若年層の支持」を得られないはずだ。辻褄が合っていない。

筆者の四つ葉氏は「日本維新の会」だけが「彼らの未来を質入れすること」から距離を置いていると見ているようだ。だとすれば「若年層の支持」は「日本維新の会」へと向かうのではないか。しかし、なぜか「若年層の支持」が「自民党」に「予想外の勝利」をもたらしたらしい。

ついでに言うと「日本維新の会」が「分配の原資は成長と改革」と訴えていると見なすのは苦しい。確かに「改革なければ分配なし」などと訴えていたようだが、一方で2年限定での消費税率引き下げを公約として掲げていた。

これに関して日本維新の会の副代表(大阪府知事)を務める吉村洋文氏は「ずっとは無理だと思ってます。財源の問題もあるので。ただ、コロナ禍で厳しい生活をされている方も多いですから、2年間とか期間を区切って消費税を5%に減税する」とテレビ番組で語ったらしい(コメントはスポニチの記事から引用)。

ここからは「成長と改革」の前に「分配」という姿勢がうかがえる。

『成長と分配』だけの議論は、どうにもうさん臭いのである」と四つ葉氏は言うが、今回の記事で同氏が披露した無理のある分析もかなり「うさん臭い」のではないか。


※今回取り上げた記事「大機小機~痛み伴う改革の議論避けるな

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211110&ng=DGKKZO77415940Z01C21A1EN8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年11月9日火曜日

拙さ目立つ日経「EPS、医薬関連に経験者派遣」

8日の日本経済新聞朝刊ビジネス面に載った「EPS、医薬関連に経験者派遣~中高年を積極活用」という記事は完成度が低かった。全文を見た上で問題点を指摘したい。

夕暮れ時の耳納連山

【日経の記事】

医薬品開発支援のEPSホールディングスは、医療関連企業向けに製薬会社などで実務経験を持つベテランを活用した人材派遣・紹介事業を始める。中高年を積極的に採用し、多様な働き方を求める人材と即戦力を求める企業をつなぐ。

グループ会社のHATARAKUエルダー(東京・新宿)を通じて始める。このほど人材事業を展開するのに必要な認可を取得した。製薬や医療機器メーカーの経験者を中心に、50歳以上も積極的に受け入れる予定。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法で70歳まで従業員の就業機会を確保することが努力義務となり、中高年の間でも多様な働き方への関心が高まっている。

同社は製薬や医療機器業界向けの業務受託を手がけており、医薬情報担当者(MR)を活用した情報提供活動や新製品発売後の調査などを提供している。受託事業や人材事業を通じて、3年後に30億円の売上高を目指す。


◇   ◇   ◇


問題点を列挙したい。

(1)いつ「始める」?

人材派遣・紹介事業を始める」と書いているが、いつ「始める」のか不明。日経にありがちな「when抜きニュース記事」だ。

whenが抜ける理由は「うっかり型」と「確信犯型」に分けられる。今回は後者ではないか。「このほど人材事業を展開するのに必要な認可を取得した」との記述から、既に「人材派遣・紹介事業を始め」ているのではと疑いたくなる。その場合「人材派遣・紹介事業を始めた」と過去形で書くべきだが、ニュース性が乏しくなってしまう。そこで「始める」と表記して時期には触れないようにしたのではないか。

この見立てが正しければ読者への背信行為だ。「うっかり型」の方がまだ救いがある。


(2)語順が…

医療関連企業向けに製薬会社などで実務経験を持つベテランを活用した人材派遣・紹介事業を始める」と書くと「『医療関連企業向けに製薬会社などで実務経験を持つベテラン』を活用した人材派遣・紹介事業」と理解したくなる。

おそらく「製薬会社などで実務経験を持つベテランを活用した人材派遣・紹介事業を医療関連企業向けに始める」と言いたいのだろう。語順に問題がある。少し書き方を工夫すれば、かなり分かりやすくなる。


(3)拙すぎる…

同社は製薬医療機器業界向けの業務受託を手がけており、医薬情報担当者(MR)を活用した情報提供活動新製品発売後の調査などを提供している」という文は拙すぎる。プロと呼べるレベルには程遠い。並立助詞「」の使い方が下手だ。

情報提供活動や新製品発売後の調査などを提供している」と書くと「情報提供活動を提供している」と取れるので「提供」がダブってしまう。

同社は製薬や医療機器業界向けの業務受託を手がけており」という部分も「同社は製薬を手がけて」いると誤解されかねない。これらを踏まえて改善例を示しておく。

【改善例】

同社は製薬・医療機器業界向けの業務受託を手がけており、医薬情報担当者(MR)を活用して情報を提供したり新製品発売後の調査を請け負ったりしている



◇   ◇   ◇



※今回取り上げた記事「EPS、医薬関連に経験者派遣~中高年を積極活用

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211108&ng=DGKKZO77345740X01C21A1TB0000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年11月8日月曜日

女性議員を増やしたいと願う日経 天野由輝子記者に考えてほしい3つのこと

女性議員を増やそうという議論には意味がないと感じている。しかし、増やそうと訴える記事がなぜか後を絶たない。8日の日本経済新聞朝刊女性面に天野由輝子記者(女性活躍エディター)が書いた「『2535』実現に向け議論を」という記事を材料に、この問題を考えてみたい。

錦帯橋

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

「2535」という数字がある。国は2025年までに、国政や地方選挙の候補者に占める女性を35%に高める目標を掲げているのだ。22年夏の参院選、23年春の統一地方選を経て、次の衆院選までに今回の倍の水準の候補者を立てる必要がある。政治分野の男女共同参画推進法は男女均等を努力義務にとどめており、早くも実現が不安視されている。

国には企業などの指導的地位に占める女性比率の目標を修正した経緯がある。20年に30%に高めるとしていたのに「20年代の可能な限り早期に30%」とゴールポストを動かした。今回も女性比率が低かった与党を中心に根本的な議論や総括をしなければ、2535の実現はさらに遠くなる。その結果、女性を重要な意思決定の場に加えようとする世界の潮流から取り残されてしまう


◇   ◇   ◇


天野記者には以下の3点を考えてほしい。


(1)そもそも目標設定は正しい?

国は2025年までに、国政や地方選挙の候補者に占める女性を35%に高める目標を掲げている」らしい。この「目標」設定は正しいのか。そもそも「国政や地方選挙の候補者に占める女性」の比率に関して「目標」を設定すべきなのか。そこをまず考えてほしい。

個人的には「特定の属性の人たちを政治の場に誘導しようとするのは好ましくない」と考えている。極端な例で考えれば分かるはずだ。国会議員に立候補する場合、女性であれば1人1000万円の報奨金が国からもらえて、男性が立候補する場合は逆に1000万円の手数料を取られるとしよう。

この政策には「候補者に占める女性」比率を高める効果があるはずだ。しかし、クオータ制などと同じように明らかな性差別だ。男女平等の原則を崩してまで女性を政治の場に誘導すべきなのか。

努力義務にとどめて」いれば大きな害はないが「」が「女性候補者を増やしたい」などと目標を掲げることには危険なものを感じる。

天野記者は政府が「目標」を設定すると無条件に「達成すべきもの」として受け入れてしまうタイプなのか。だとしたら、かなり危うい。


(2)「世界の潮流から取り残され」たらダメ?

このままでは「女性を重要な意思決定の場に加えようとする世界の潮流から取り残されてしまう」と天野記者は嘆く。しかし、「世界の潮流から取り残され」るとなぜダメなのかは教えてくれない。

国には個性があっていい。「世界の潮流から取り残され」てはダメだと考えるのは、同調圧力を気にしがちな日本人にありがちな発想だ。別に「取り残され」てもいいではないか。

取り残され」ると大きなデメリットがあるなら分かる。しかし天野記者はそこに触れていない。例えば「世界の潮流」が徴兵制導入に傾いたら、日本も徴兵制にすべきだろうか。

そこは徴兵制の良し悪しを検討して決めるべきだろう。「世界の潮流」を見て多数派に同調しようとするのは愚かな意思決定だ。女性議員の問題でも同じことが言える。


(3)「女性よ頑張れ」となぜ訴えない?

この手の記事でいつも思うのが「なぜ女性に頑張れと訴えないのか」という問題だ。「女性=何も問題ない存在」との前提で社会構造や政策を変えようと考える筆者が目立つ。

日本で女性議員が少ないのは、単純に言えば女性にやる気が乏しいからだ。

女性が新党を立ち上げて大量の女性候補者を擁立し、その候補者に女性有権者がこぞって投票する。これだけで女性議員は大幅に増やせる。

選挙権も被選挙権も男女平等だ。有権者という括りで言えば、女性は多数派に当たる。なのに女性議員が少ないとすれば、まず考えるべきは女性のやる気のなさだ。

「女性には何の問題もない。社会構造とか何か他に問題があるはずだ」との考えに固執している限り本質は見えてこない。

まず女性自身の問題を考えてみる。そこから逃げていないか。天野記者には自問してほしい。


※今回取り上げた記事「『2535』実現に向け議論を

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211108&ng=DGKKZO77289040V01C21A1TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。天野由輝子記者への評価はDを維持する。天野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「育児男女差→出生率低下に影響」が苦しい日経1面「チャートは語る」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/10/1.html

2021年11月6日土曜日

比較対象を恣意的に変更? 日経 大下淳一記者「記者の目~テルモ、最高益に潜む死角」

 6日の日本経済新聞朝刊ビジネス面に載った「記者の目~テルモ、最高益に潜む死角 『攻め』の投資、競合に見劣り」という記事には色々と引っかかるところがあった。筆者の大下淳一記者に助言するつもりでツッコミを入れてみたい。

厳島神社

【日経の記事】

テルモの株価が高値圏で推移している。利益率の高い医療機器で販売を伸ばし、2022年3月期の連結純利益(国際会計基準)は前期比19%増の920億円と過去最高を見込む。新規事業を取り込む過去の投資が奏功したが、世界の同業大手と比べるとM&A(合併・買収)など「攻め」の投資規模は稼ぐ力に比して見劣りする。さらなる成長へ積極投資も必要となる。


◎何のために「株価」から?

大下記者は「テルモの株価が高値圏で推移している」と最初に書いている。しかし「株価」に触れたのはここだけだ。何のために「株価」から書き始めたのか。

この書き出しだと「テルモの株価が高値圏で推移している」ことについて、あれこれ論じるだろうと読者に期待させてしまう。そこは書き手として意識すべきだ。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

テルモの「稼ぐ力」は海外の医療機器大手にひけを取らない。QUICK・ファクトセットによると、テルモの直近5年の売上高に対するEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)比率は24.8%。アイルランドのメドトロニック(30.2%)には及ばないが、米アボット・ラボラトリーズ(22.5%)や米ボストン・サイエンティフィック(24%)などと肩を並べる。


◎なぜこの3社?

比較対象として「メドトロニック」「アボット・ラボラトリーズ」「ボストン・サイエンティフィック」が出てくる。個人的には聞いたこともない会社だ。そういう読者は多いだろう。

医療機器大手」なのは分かるが、業界内での序列ぐらいは入れてほしい。「テルモ」も含めて世界の「大手」4社ならば、そう書いてくれるだけでも違う。「世界の大手4社を比較しているんだな」と思えるからだ。

ついでに言うと「稼ぐ力」をなぜ「売上高に対するEBITDA比率」で見るのかという疑問も残る。利益率が高くても利益の水準が大きく見劣りするのならば「稼ぐ力」で「海外の医療機器大手にひけを取らない」とは感じられない。

最初の段落で「2022年3月期の連結純利益(国際会計基準)は前期比19%増の920億円と過去最高を見込む」と書いたのだから、まずは「連結純利益」の水準で比較するのが素直だ。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

過去のM&Aで取得した事業が実を結び始めたことが大きい。テルモは06年、米マイクロベンション(カリフォルニア州)を買収して脳血管用の医療機器に参入。16年には約400億円で同業の米シークエント・メディカル(カリフォルニア州)を買った。11年には米カリディアンBCT(コロラド州)を2000億円強で買収し、血液関連事業も強化した。


◎M&Aで利益率向上?

過去のM&Aで取得した事業が実を結び始めたことが大きい」と大下記者は言う。利益率の高い企業を「買収」したのか、「買収」した企業の利益率を高めたのだろう。だとしたら、その辺りの説明は欲しい。「M&Aで取得した事業が実を結び始めた」からと言ってグループ全体の利益率が高まる訳ではない。

さらに続きを見ていく。ここが最も引っかかった部分だ。


【日経の記事】

ただ、過去10年間のEBITDA合計額に対してM&Aに投じた金額(QUICK・ファクトセットによる)は39%。直近5年間では27%にまで落ちる。対して、ボストンは過去10年間で51%、米ストライカーは60%といずれも利益の半分以上をM&Aに投じている。


◎比較対象をなぜ変えた?

最初に比較対象として選んだのは「メドトロニック」「アボット・ラボラトリーズ」「ボストン・サイエンティフィック」。しかし、ここでは2社が抜けて「ストライカー」が加わっている。

テルモ」が「M&Aに投じた金額」は小さいと見せたいので、都合のいい比較対象を選んだのだろうか。だとしたらデータの使い方がご都合主義だ。分析としては信頼に値しない。

しかも、比較対象はさらに変わっていく。


【日経の記事】

内部成長を後押しする研究開発も同様だ。結果として、テルモの過去5年の平均売上高成長率は5.1%と、成長スピードでアボット・ラボラトリーズ(13.5%)やストライカー(6.1%)の後じんを拝する。


◎やはり疑惑が…

今度は「ボストン・サイエンティフィック」を外し「アボット・ラボラトリーズ」を復活させている。

そして「テルモ」の「平均売上高成長率は5.1%」で「ストライカー(6.1%)」と大差ない。「成長スピード」で「後じんを拝する」と訴えたいから、そのストーリーに合致する比較対象を選んだのではと感じさせる。

そして記事は結びを迎える。


【日経の記事】

テルモも投資の必要性は認めている。佐藤慎次郎社長は4日の決算説明会で、過去のM&Aを通じて米国事業が22年3月期に連結売上高の3割弱まで拡大すると説明。「これまで以上に(M&Aの可能性を)注視したい」と述べた。成長スピードを高める投資を積極化できるかも問われている。


◎ここでも比較が…

米国事業が22年3月期に連結売上高の3割弱まで拡大する」と書いているが、過去との比較もないので「3割弱」の持つ意味がよく分からない。

「(テルモは)成長スピードを高める投資を積極化」すべきだと大下記者は今回の記事で訴えたかったのだろう。それはそれでいい。だからと言って、ご都合主義的に比較対象を選んでいい訳ではない。

仮説を立ててストーリーを作るのは大事だ。しかし、筋立てに無理があると思えたら潔く撤退する覚悟は持ってほしい。それができないと、今回のような説得力に欠ける記事を読者に届ける結果となってしまう。

そのことを大下記者には考えてほしい。


※今回取り上げた記事「記者の目~テルモ、最高益に潜む死角 『攻め』の投資、競合に見劣り

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211106&ng=DGKKZO77331730V01C21A1TB0000



※記事の評価はD(問題あり)。大下淳一記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。大下記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


「精度85%のがん検査」に意味ある? 日経 大下淳一記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/85.html

2021年11月5日金曜日

「成長と分配」は解決策にならないのに「成長」で問題解決? デービッド・アトキンソン氏の矛盾

小西美術工芸社社長のデービッド・アトキンソン氏の主張にはツッコミどころが多い。5日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~成長のために本当にやるべきこと」という記事でも、その傾向は変わっていない。中身を見ながら具体的に指摘したい。

岩国城の近く

【日経の記事】  

総選挙で信任を得た岸田文雄政権は「新しい資本主義」を強調している。中心に「成長と分配」が掲げられているが、日本の課題は成長と分配で解決できるほど甘くない

給料が増えていないにもかかわらず、高齢者を支える生産年齢人口の減少により増税が繰り返され、可処分所得は減る一方だ。結果、個人消費は冷え込む。また、企業は将来の先行きが見えないので投資をしない。従って国内総生産(GDP)も増えない


◎説明になってる?

日本の課題は成長と分配で解決できるほど甘くない」とアトキンソン氏は言う。ならば「成長」でも「分配」でもダメだと納得できる根拠が欲しい。しかし、なぜか「従って国内総生産(GDP)も増えない」という話になってしまう。

成長」では「解決」できないのではなく「成長」自体が無理だと言っているだけだ。これでなぜ「日本の課題は成長と分配で解決できるほど甘くない」となってしまうのか。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

そして急増する社会保障費を負担するために国の財政は悪化している。社会保障の増加は企業の生産性を高め、経済成長に資する生産的政府支出(PGS)を犠牲にする。日本のPGSはGDP比で1割を切り、先進国の平均24.4%を大きく下回っている。


◎「社会保障の増加は企業の生産性を高め」る?

上記のくだりは書き方が下手だ。素直に読めば「社会保障の増加は企業の生産性を高め」ると取れる。推測だが「社会保障の増加は『企業の生産性を高め、経済成長に資する生産的政府支出(PGS)』を犠牲にする」と言いたいのだろう。

日経の担当者も、この問題に気付かなかったのか。あるいは「社会保障の増加は企業の生産性を高める」と解釈するのが正解なのか。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

この問題を根本から解決するには、社会保障を削るか、生産性の向上しかない。しかし、現実にはどちらも反対が根強い。とくに社会保障削減は、最大の票田たる高齢者が猛烈に反対する。そこに手を突っ込みたくないから、「成長と分配」になるのだろう。しかし生産年齢人口が減るなか、労働参加率が限界に近い日本では、人口増加という形での自然増による大幅な経済成長はありえない。

となると、既存の生産要素を組み直し、生産性の高い分野に再配分するしかない。筆者がかねて主張している、中小企業を強化せよという話だ。ところがそれは中小いじめだという横やりが入る。

新政権が示唆する大企業の努力と下請け救済では、大した生産性の改善はない。大企業も頑張らないといけないが、社会保障負担に対応できるほどの生産性向上は不可能だ。上場企業で働く労働者の割合は約2割で、企業数なら0.3%である。いじめの対象になる下請けは、中小企業白書によれば、中小企業の1割にも満たない。

生産性を大きく向上させるには、日本企業の99.7%を占め、7割以上の労働者を雇用している中小企業を全体として底上げするしかない。しかし私が中小企業の問題に触れると、すぐに「淘汰策だ!」と反対される。現状維持をしたい人が、そう叫ぶことによって改革の回避を図っているように見える。

また賃上げする企業を税制面で優遇するというが、それは性善説である。7割近くの企業は法人税を納めておらず、税率優遇程度で賃上げする企業は少ないと思う。「生産性を上げてから賃上げをする」という向きもあるが、そもそも賃上げを考えていない企業はどうするのか。結局、最低賃金が肝心なのだ


◎問題はベストな上げ幅では?

アトキンソン氏は「最低賃金」の引き上げを訴え続けているが、どの程度の期間にどのぐらい上げるのがベストなのかは教えてくれない。「最低賃金」を上げさえすれば「日本の課題」が解決するならば話は簡単だ。「最低賃金」を時給1億円にすれば1日働いただけで誰でも後は遊んで暮らせる…とならないのはアトキンソン氏も分かるはずだ。

最低賃金」の引き上げに効果があるとしても、期間と上げ幅はどうするのか。最適解をどういう基準で決めるのか。基準を決める上での理論的な根拠は何か。その答えを出さない限り、アトキンソン氏の主張に説得力は生まれない。

アトキンソン氏はMMTにも批判の矛先を向けている。これにもツッコミを入れておこう。


【日経の記事】

さらに、高所得者の税負担を増やすとか、インフレにならない限り借金をしてもいいという現代貨幣理論(MMT)の導入も耳にする。高所得者の負担額などたかが知れている。MMTを使って社会保障負担を新札を刷って賄ったとしても、より以上に財政を悪化させるだけだろう


◎何が問題?

MMTを使って社会保障負担を新札を刷って賄ったとしても、より以上に財政を悪化させるだけだろう」とアトキンソン氏は言う。強い通貨主権を持つ国は「インフレにならない限り借金をしてもいい」というのが「MMT」の考え方だ。「インフレにならない」前提で言えば「財政を悪化させ」ても問題はない。アトキンソン氏が重視する「生産的政府支出(PGS)」を増やす余地も生まれる。

社会保障負担を新札を刷って賄ったとしても」インフレになるだけだと言うなら分かる。しかし「財政を悪化させ」るだけならば、問題はないはずだ。政府・日銀は日本円を無限に創出できるので国債の債務不履行などを心配する必要もない。

記事の結論部分にもツッコミを入れておこう。


【日経の記事】

日本経済衰退の本質は、高齢化社会の負担にどう対応するかである。まず持続性が強い「成長」を担保する中小企業の強化策がなければ、この新たな政策も画餅に終わると言わざるを得ない


◎話は戻るけど…

日本の課題は成長と分配で解決できるほど甘くない」とアトキンソン氏は訴えていたはずだ。なのに「まず持続性が強い『成長』を担保する中小企業の強化策がなければ、この新たな政策も画餅に終わると言わざるを得ない」と結局は「成長」を求めている。

中小企業の強化策」を進めれば「成長」が可能だとしよう。だとしたら「日本の課題は成長と分配で解決できる」のではないか。なのに、なぜ「日本の課題は成長と分配で解決できるほど甘くない」と断定してしまったのか。

やはりアトキンソン氏の主張は苦しい。この結論でいいだろう。



※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~成長のために本当にやるべきこと」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211105&ng=DGKKZO77260750U1A101C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。アトキンソン氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

D・アトキンソン氏の「最低賃金引き上げ論」に欠けている要素
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/d.html

改めて感じたアトキンソン氏「最低賃金引き上げ論」の苦しさ
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_10.html

日経でも雑な「最低賃金引上げ論」を披露するアトキンソン氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_11.html

相変わらず説明に無理があるデービッド・アトキンソン氏の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_7.html

最低賃金引き上げ率「5%」の根拠を示さないデービッド・アトキンソン氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/5.html

日経で「最低賃金の引き上げ」を再び訴えたデービッド・アトキンソン氏へのツッコミhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post.html

2021年11月2日火曜日

まとめ物として成立していない日経夕刊1面「コンビニおでん、人手不足で激減」

2日の日本経済新聞夕刊1面に載った「コンビニおでん、人手不足で激減~ファミマ、提供店2割」という記事は苦しすぎる。これで1面に持っていけると思えたのが不思議だ。全文を見た上で問題点を指摘したい。

錦帯橋

【日経の記事】

コンビニエンスストア大手が店頭でのおでん販売を縮小している。ファミリーマートは2019年まではほぼ全店で取り扱っていたが、21年は約2割の店舗での提供にとどまる。ローソンは約4割だ。人手不足で従業員の作業負荷が高まっていた中、新型コロナウイルス禍が追い打ちをかけた。店頭の「冬の風物詩」の様子が変わりつつある。

ファミマでおでんを販売するのは国内約3800店で、全約1万6千店の2割程度にあたる。

ファミマ本部は19年まで、おでんを「標準の品ぞろえ」に設定。結果的にフランチャイズチェーン(FC)加盟のほぼ全店が取り扱っていた。だが、20年に「選択制」へ変えたところ、売らない加盟店が急増した

背景にあるのは人手不足だ。店頭でのおでん販売は仕込みや温度管理に手間がかかり、従業員の負担が大きい。売れ残った場合のフードロス(食品廃棄)という課題も抱えていた。そこにコロナ禍の直撃で「衛生面の管理がさらに難しくなった」(ファミマ)。ローソンも同様の構図だ。

ファミマやローソンでも、引き続き冬季の集客の柱に据える加盟店もある。

大手で最初に店頭でのおでん販売に参入したセブン―イレブン・ジャパンは今冬も、ピーク時は約2万1千店のうち大半の店舗で販売予定だ。

おでんは巣ごもり消費と相性が良く、酒類の売り上げ増も期待できる。販売を続ける店舗では、調理鍋の前にアクリル板を置いたり、セルフサービスを中止して従業員が取り分けたりと、コロナ禍に合わせた売り方に工夫を凝らしている。


◎まとめ物として成立してる?

コンビニエンスストア大手が店頭でのおでん販売を縮小している」というのが記事の柱だ。いわゆる「まとめ物」で「コンビニエンスストア大手」3社の動向をまとめている。

まず「セブン―イレブン・ジャパンは今冬も、ピーク時は約2万1千店のうち大半の店舗で販売予定」なので「おでん販売を縮小」とは言えない。

次に「ローソン」。「店舗での提供」が「約4割」という数字はあるが、過去との比較がないので「おでん販売を縮小」と言えるのか、よく分からない。

結局、記事の頼りは「ファミリーマート」だ。「2019年まではほぼ全店で取り扱っていたが、21年は約2割の店舗での提供にとどまる」ようなので「2019年」との比較では確かに「縮小」となる。

ただ「20年に『選択制』へ変えたところ、売らない加盟店が急増した」とも書いている。だとしたら「縮小」は「20年」には起きていた。「21年」もさらに大きく減るのならば記事にする意味はあるかもしれないが、「20年」との比較は見当たらない。

となると、「コンビニエンスストア大手」が「21年」に「おでん販売を縮小」する事例は出てこないことになる。それで「コンビニおでん、人手不足で激減」と見出しを立て1面に持ってきて良いのか。

「そこまでしないと夕刊は埋まらない」と言うのならば夕刊は廃止でいい。


※今回取り上げた記事「コンビニおでん、人手不足で激減~ファミマ、提供店2割」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211102&ng=DGKKZO77196010S1A101C2MM0000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

昨年後半の致死率急低下を「ワクチン効果」と言い切る日経の錯誤

一度何かを信じたら、それを修正するのは難しいということか。2日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「コロナ致死率、ピークの3分の1~ワクチン浸透 世界で死者500万人」という記事を読んで、そんなことを思った。「ワクチン浸透」の結果として「コロナ致死率、ピークの3分の1」という作りになっているが、どう考えても無理がある。

久留米市野球場

最初の段落を見てみよう。

【日経の記事】

世界で新型コロナウイルスの感染に伴う死者数が累計500万人を超えた。季節性インフルエンザなどと比べてなお死亡リスクは高いものの、先進国を中心にワクチン効果が浸透し、致死率はピークの3分の1以下に低下した。ワクチンの偏在を解消して接種の遅れる途上国への供給を促すと同時に、開発の進む治療薬の普及を急ぎ、コロナの致死率を一段と引き下げることが日常生活を取り戻すカギとなる。


◎なんでそうなる?

先進国を中心にワクチン効果が浸透し、致死率はピークの3分の1以下に低下した」と言い切っている。記事に付けたグラフからは「世界の累計死者数を累計感染者数で割った『致死率』は直近で2%程度(日本は1%程度)とピークだった2020年春頃の3分の1以下に低下した」ことが読み取れる。しかし、この説明は重要な点に触れていない。

致死率」は「ピーク」を付けた後に急激に低下し「2020年」の終わりごろには「ピークの3分の1以下に低下」し、その後はほぼ横ばいだ。

一方、海外も含めワクチン接種が本格化したのは2021年になってからだ。つまり「2020年春頃」から年末にかけての急激な「致死率」の低下を「ワクチン効果」では説明できない。今年に入って「致死率」が下げ止まっていることを考えると「ワクチン」には「致死率」を下げる力はないのではと疑う方が自然だ。なのになぜか「ワクチン効果が浸透し、致死率はピークの3分の1以下に低下した」と書いてしまう。

意図的に読者を誤解させようとしているのか。それとも「ワクチン」信仰が強すぎて、まともな分析ができていないのか。筆者の判断力が極度に低下しているとしてもデスクが「おかしい」と気付いていれば、この内容で良しとはならなかったはずだ。なのに、なぜこうなってしまったのか。

2020年春頃」から年末にかけての「致死率」低下を2021年に入って接種が本格化した「ワクチン」の効果で説明できるのかーー。改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「コロナ致死率、ピークの3分の1~ワクチン浸透 世界で死者500万人」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211102&ng=DGKKZO77189070R01C21A1EA1000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2021年11月1日月曜日

日本は人口減を未経験? 東洋経済オンラインの記事に見える小川淳也氏の誤解

東洋経済オンラインの記事によると、立憲民主党から衆院選に出て再選を果たした「小川淳也氏」は「人口減、低成長、財政悪化、気候変動」を「日本や世界」が「歴史上経験したことのない構造問題」と捉えているらしい。明らかに違うと思えたので、以下の内容で東洋経済に問い合わせを送っている。

夕暮れ時の工事現場

【東洋経済への問い合わせ】

東洋経済 林哲矢様 

11月1日付で東洋経済オンラインに載った「いまだ支持伸びぬ野党が魅力取り戻す3つのカギ~密着取材の映画が反響呼んだ小川淳也氏が語る」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは小川氏の以下の発言です。

人口減、低成長、財政悪化、気候変動といった、歴史上経験したことのない構造問題に日本や世界は直面している。このような大きな問題にどんな政策で臨むのか、体系立った全体像を国民に示す必要がある

この発言を信じれば日本は「人口減」を「歴史上経験した」がないはずです。しかし2019年4月26日付の東洋経済オンラインに載った「『人口減少』時代への対処は江戸に学ぶといい」という記事では全く話が違っています。

人口減少は、日本史上未曾有の出来事ではありません。歴史をひもとくと、日本の人口減少期は過去3度ありました。最初は縄文時代の中後期。次に、平安後期から鎌倉時代にかけて。そして、江戸中期から後期にかけてです」と記しています。

次は「財政悪化」についてです。これも東洋経済オンラインの過去の記事を参考にしましょう。2015月12月28日付の「結局、借金大国日本は財政破綻を迎えるのか」という記事には「太平洋戦争中の1944年度にも同比(注:債務残高の対GDP比)200%強あり、その後、敗戦を経てすさまじいインフレや預金封鎖を経験したからです。つまり、財政破綻と言ってもいい状況まで行ったというわけです」との記述があります。

今回の記事によると、小川氏も「太平洋戦争」を「日本が経験したハードランディング」と認識しているようです。戦中から終戦直後にかけて日本は「財政悪化」を「経験した」のではありませんか。

最後に「気候変動」にも触れておきます。最後の氷期であるウルム氷期が約7万~1万年前とされているので「世界」がこれまでにも「気候変動」に直面してきたのは間違いないでしょう。近いところで言えば、日本でも江戸時代に小氷期があったと言われています。縄文時代は今より暖かかったようなので、日本の縄文時代以降を見ても「気候変動」の問題はあったはずです。

人口減、低成長、財政悪化、気候変動といった、歴史上経験したことのない構造問題に日本や世界は直面している」という小川氏の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「いまだ支持伸びぬ野党が魅力取り戻す3つのカギ~密着取材の映画が反響呼んだ小川淳也氏が語る

https://toyokeizai.net/articles/-/465699


※記事の評価はD(問題あり)