2021年7月31日土曜日

歯切れの悪さ目立つ日経 上杉素直氏「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め」

31日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め」という記事は歯切れが悪かった。「山口銀行など3つの銀行を傘下にもつ山口フィナンシャルグループ(FG)の会長兼グループ最高経営責任者(CEO)だった吉村猛取締役」について上杉氏は記事の後半で以下のように書いている。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

もっとも、今回の人事に驚きを覚えるのは、その唐突さだけが理由でない。16年に社長に就いた吉村氏は改革派の剛腕として名をはせた経営者だった。

山口の産品を全国に届ける地域商社、地元企業に経営層の人材を紹介する専門企業……。吉村氏は銀行から「地域価値向上会社」への転換を掲げ、毎年のように新しい組織をつくって金融以外の新ビジネスを広げていた。

先の国会で成立した改正銀行法は銀行の事業会社への出資規制を緩め、地方銀行が金融以外のビジネスに力を入れる環境を整えた。そんな法改正の何歩も先を行くのが山口FGであり、吉村氏の経営手腕だと評されていた。

では、いったい何が6月の解任劇を招いたのか。直接の引き金は新銀行の構想をめぐる対立だったが、そこへ至るまでを振り返ると、改革を急いだがゆえに抱え込んだ課題も見えてくる。多くの地銀が近い将来向き合う可能性が高いテーマだともいえる。

伏線になった2つの懸念に注目したい。一つは銀行業の現場の士気にまつわる懸念だ

「あの会社は昔は銀行だったらしいね、と言われるようになりたい」。吉村氏が口癖のように語っていたセリフだ。金融以外の新ビジネスを急いで伸ばそうというのが真意だろうが、銀行業に携わる大多数の行員たちはどんな気分で受け止めただろうか。

収益はさっぱりだとしても、銀行業は顧客との強い結びつきをもたらす。行員のプライドの源にもなっている。本業とのシナジーあっての新ビジネスだとすれば、やはり銀行業の活気は改革を進める必要条件になるはずだ。

つまり、古きを守りながら新しいものを育てる曲芸めいた技能が求められるわけだが、そのバランスは難しい。山口FGの場合、社外取締役から「現場がついてきていないのではないか」という心配の声が上がっていたそうだ。経営のかじ取りをめぐる対立の芽は少し前から現れていた。


◎「現場の士気」は低かった?

改革を急いだがゆえに抱え込んだ課題」として「銀行業の現場の士気にまつわる懸念」を挙げているが「現場の士気」が低かったと言える材料は見当たらない。「社外取締役から『現場がついてきていないのではないか』という心配の声が上がっていたそうだ」とは書いているが、「吉村氏」と対立する側の「社外取締役」の「心配の声」だけでは何とも言えない。

心配の声が上がっていたそうだ」という書き方から推測すると、上杉氏はこの「社外取締役」から直接話を聞いた訳でもないのだろう。

現場の士気」をどうやって判断するかという問題もある。「吉村氏」のやり方に反対の行員が多数を占めていたとしても、だから「現場の士気」が低かったとは言い切れない。「CEOには不満があるが仕事はやりがいがあるし一生懸命やりたい」という行員がいてもおかしくない。

現場の士気」を問題にするならば、もう少し突っ込んだ取材が必要だろう。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

もう一つの伏線になったのは経営者の焦りではなかったか。山口FGに対する株式市場の評価が上がらないことを懸念する吉村氏の姿を覚えている人は多い。

それもそのはず。銀行が金融以外のビジネスを手がけても簡単にもうかるわけはないからだ。たとえば20年に参入した農業にしても、名産のワサビを途絶えさせない心意気はよいが、目先の収益はまた別の話だ。ほかの新ビジネスだって事情は似ている。

地域の将来にコミットしなければ、長い目で見た地域の発展も地銀の成長も見込めない。だが、すぐもうからないどころか成功する保証もないのだから、冷徹な株式市場が評価しないのもわかる。地銀改革の厳しさがここにある。それでもなお、収益を高める一発逆転の手としてミドルリスクの新銀行に走ったのだとしたら、山口FGらしくはなかった


◎辻褄合ってる?

銀行が金融以外のビジネスを手がけても簡単にもうかるわけはない」「収益を高める一発逆転の手としてミドルリスクの新銀行に走った」という書き方から判断すると「ミドルリスクの新銀行」は本業の「金融」故に「簡単にもうかる」可能性を秘めていると取れる。

だったら、やるべきではないか。「収益を高める一発逆転の手」を捨てて「簡単にもうかるわけ」がない「金融以外のビジネス」に手を出し続けるのが「山口FG」らしさなのか。

そもそも「ミドルリスクの新銀行」は「収益を高める一発逆転の手」なのかという疑問も湧く。記事の冒頭で上杉氏は「経営破綻した日本振興銀行」に触れ「(山口FGの新銀行は)その振興銀のいきさつを思い出させる案件だ、と指摘する当局関係者がいた」と述べている。だったら「収益を高める一発逆転の手」と見なす方がどうかしている。

簡単にもうかるわけはない」事業を新たに始めたという意味で「ミドルリスクの新銀行」の件は「山口FG」らしいと見る方が自然だ。

記事の結論部分も見ておこう。


【日経の記事】

もちろん、難しいから改革のペースを落とせばよいということにはならない。実行の局面に入ったからこそ見えてきた課題を着実に解消し、改革を軌道に乗せるのが王道だ。吉村氏の後任CEOに指名された椋梨敬介社長は「対話」を掲げてスタートした。その仕切り直しの巧拙は業界の改革機運を左右する重みをもつ。


◎結局、どっちを支持?

「『吉村氏』に問題あり。解任は妥当」と言いたいのかと思っていたら「難しいから改革のペースを落とせばよいということにはならない」とも最終段落で書いている。上杉氏の迷いが記事に投影されている印象を受ける。

今回の「山口FG」の件を取り上げるならば、「吉村氏」と「社外取締役」のどちらに付くかは明確にしたい。「どっちもどっち」と打ち出しても良いだろう。だが、上杉氏はあれこれ書いてはみたものの、結局うやむやに記事を終わらせている。

最後の段落では「吉村氏の後任CEOに指名された椋梨敬介社長」に触れた上で「その仕切り直しの巧拙は業界の改革機運を左右する重みをもつ」と成り行き注目型の結論で逃げている。それが上杉氏にとっての精一杯ならば、この問題を取りげるのは荷が重すぎた。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210731&ng=DGKKZO74350940Q1A730C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html

日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html

「法人税の最低税率」への誤解が怖い日経 上杉素直氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/deep-insight.html

2021年7月29日木曜日

朝刊1面トップがこの完成度では…日経「追跡広告見直し機運」

29日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も」という記事は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

有明海

【日経の記事】

ネット閲覧履歴などに基づき個人ごとに広告を出すターゲティング(追跡型)広告(総合2面きょうのことば)の見直しが日本でも広がり始めた。サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす。個人データを使わない広告の採用企業も増えている。個人情報の乱用につながるとの批判が高まり、データの入手が難しくなるためだ。プライバシー保護が技術開発を促し、ネットビジネスを大きく変えつつある。


◎2社だけでは…

この記事はいわゆる「まとめ物」だ。「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」という話に説得力を持たせるなら最低でも3社は事例が欲しい。1面トップであれば5社ぐらいあってもいい。しかし最後まで読んでも「サッポロビール」と「アスクル」しか出てこない。

記者は当然、他にも事例を探したのだろう。なのに2社しか見つからなかったのであれば「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」と理解するのは早計だ。

記事では「(日本の)ネット広告の中でも1兆円超が追跡型とみられる」とは書いているが、その規模が小さくなっているという話は出てこない。やはり怪しい。

さらに言えば「サッポロビール」と「アスクル」の話にも問題がある。その部分を見ていこう。


【日経の記事】

状況は急変している。酒類事業の広告宣伝・販促費に約190億円を使うサッポロビールは「個人追跡型には今後、頼れなくなる」として予算を約7割減らし、ネット広告全体に占める追跡型の比率を3割から1割以下にした。アスクルはネット通販「ロハコ」で追跡型広告の予算を直近3年で10分の1に減らした


◎予算は削減済み?

最初の段落では「サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす」と書いているので、これから「予算」が減るのだと理解したくなる。しかし読み進めると「サッポロビール」も「アスクル」も「予算」を削減済みだと分かる。騙しに近い書き方だ。

アスクル」は「予算を直近3年で10分の1に減らした」のだから、予算削減の動きはかなり前から出ていたはずだ。なのに「状況は急変している」のか。もう減らし終わっているのではないか。「アスクル」に関しては「予算」の規模に触れていないのも辛い。

例えば年間1億円の予算を1000万円に減らした程度ならば、事例としてのインパクトは弱い。だから実額に触れなかったのだろうか。

では「サッポロビール」の事例はどうか。

まず、いつ予算を減らしたのか、この書き方では分からない。「約190億円」がどの期間の「広告宣伝・販促費」なのかも不明だ。年間ベースの話だとは思うが、そこは明示すべきだ。

年間「約190億円」という水準が一定だと仮定すると「追跡型」の予算は57億円から19億円以下に減ったことになる。2020年度が57億円で21年度が19億円以下ということなのか。

そうかも知れないが、いくつかの仮定を置いているので断定はできない。いつの予算がいつと比べてどのぐらい減ったのか。肝となる話なのだから、きちんと説明してほしい。

事例が2つしかないのならば、なおさらだ。

夏枯れなのかもしれないが、朝刊1面トップの記事の完成度がこの低さでは辛い。


※今回取り上げた記事「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210729&ng=DGKKZO74274800Z20C21A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月28日水曜日

「入院率」は適切な指標? 日経「医療懸念、都内で再び」に思うこと

28日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」という記事は悪い出来ではない。「重症者の病床使用率はもっとも厳しかった1月の第3波ほどの逼迫感はない」などとも書いており、バランスもそこそこ取れている。とは言え引っかかる部分もあった。

電柱と夕陽

特に気になるのが「内閣官房によると26日時点で感染者のうち入院している人の割合を示す入院率が2割と、最も深刻な『ステージ4』に達した」ことだ。「『ステージ4』に達した」のはその通りだろう。だた「入院率」という指標には疑問を感じる。記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

緊急事態宣言の対象とすべきかなどの目安にする指標のうち、入院率は今春から使う新しいものだ。コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する。そのため入院率は数値が低いほど、受け入れることができない患者が増え、医療が逼迫している可能性があることを意味する


◎療養者は全員入院すべき?

入院率」の分母は「療養する人」全体だ。新型コロナウイルス関連の療養者は全員入院が好ましいのだろうか。この問題を日経には考えてほしい。「入院させるべき療養者」が分母ならば「入院率」で「医療が逼迫している」かどうかを見るのは適切だ。しかし「療養する人」の中に入院の必要がない人を含むのならば話は変わってくる。

常識的に考えれば「療養者=入院が必要な人」ではないはずだ。今の定義ならば「入院率」の指標としての有用性は低い。

付け加えると「コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する」という説明は正確さに欠ける。

コロナ患者が増加」しても「入院する必要」がない人が増えただけならば「本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人」が「増加する」とは限らない。さらに言えば、医療の受け入れ体制を拡充すれば「コロナ患者が増加」する一方で「自宅や施設で療養する人」が減る可能性もある。

ついでに「重症者」についてもコメントしておきたい。

【日経の記事】

東京都は26日、救急などの一般医療を一部制限し、コロナ病床を確保するように医療機関に要請した。都内の新規感染者数は6月中旬ごろから増加傾向が続いている。

感染力が強いデルタ型(インド型)の割合が高まっていることが背景にある。専門家からは過去最多を超えてもなお増加する可能性を指摘する声が上がる。重症者数は27日時点で82人となり、4連休を挟んで1週間で22人増えた。厚労省によると、重症者向けの病床使用率は21日時点で53%とステージ4の水準だ


◎わずか「82人」で「ステージ4」とは…

東京都」の「重症者数は27日時点で82人」と100人に満たない。人口比で見れば極めて低水準だ。それで「ステージ4」になってしまうとしたら、基準が厳しすぎるか医療体制が脆弱すぎるかのどちらかだ。

なのに、飲食店に営業自粛を求めたり人々の外出を抑制したりすべきなのか。この点も日経には改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210728&ng=DGKKZO74241980Y1A720C2EA2000


※記事の評価はC(平均的)

2021年7月27日火曜日

「感染急拡大への危機意識高めよ」と言う割に厳しい措置を求めない日経の社説

日本経済新聞の社説が相変わらず苦しい。27日の朝刊総合1面に載った「政府は感染急拡大への危機意識高めよ」という社説では「政府は対策を再考すべきだ」と求めているが、何をどう変えるべきなのかよく分からない。中身を見ながら具体的に指摘したい。

有明海

【日経の社説】

東京など大都市を中心に新型コロナウイルスの感染が急拡大を続けている。病床も埋まりだし医療現場は逼迫し始めている。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が効果をあげているとは言い難く、政府は対策を再考すべきだ

感染拡大の中心は40~50代の働き盛りだ。職場や会食の場での感染が多い。高齢者から進めているワクチン接種はまだ行き渡っておらず、歯止めが利きにくい。

7月22~25日の4連休中には多くの人が移動した。東京五輪の会場周辺も人だかりが目立つ。8月のお盆の時期は帰省などによる人流の増加も予想される

人と人が接する機会が増えれば感染拡大リスクは高まる。感染力の強いインド型(デルタ型)の広がりが事態を悪化させている。

今のところ重症者は過去のピークに比べ少ないが、若い世代で入院患者は増えており呼吸管理が必要な中等症が多いという。

東京では自宅療養者が急増しており、入院先が決まらない「調整中」も増加傾向だ。これらも入院予備軍といえ、短期間に病床が埋まる事態が懸念される。


◎だったら厳しい措置を求めては?

政府は感染急拡大への危機意識高めよ」「政府は対策を再考すべきだ」と求め「東京五輪の会場周辺も人だかりが目立つ。8月のお盆の時期は帰省などによる人流の増加も予想される」と認識しているのならば、「東京五輪」を中止し「帰省など」を制限すべきと論陣を張るのが自然だ。しかし、そうはならない。

では、日経が求めている「対策」とは何だろうか。社説の続きを見ていこう。


【日経の社説】

軽症者が自宅やホテルで安心して静養できるよう、医師や看護師に常時連絡がつく体制を整える。中等症の患者は早めの治療で重症化を食い止める。こうして、重症病床が埋まるのをできるだけ遅らせ、救える命を救えない事態を防ぐことが大切だ。


◎今は連絡がつかず遅めの治療?

政府は感染急拡大への危機意識高めよ」「政府は対策を再考すべきだ」と言う割に、大したことは求めていない。今は「医師や看護師に常時連絡がつく体制」が整っておらず「中等症の患者」は遅めの治療で「重症化を食い止め」られない状況なのか。その辺りもよく分からない。「短期間に病床が埋まる事態が懸念される」のならば、せめて「病床」の拡充ぐらいは訴えればとも思うが、それもない。

結局「対策」をどう「再考すべき」なのか見えてこない。

続きを見ていこう。


【日経の社説】

厚生労働省の専門家組織のメンバーからは、新型コロナ感染が始まって以来、「今が一番危機的な状況である」との指摘もある。問題は、危機意識が政府内ですら共有されていない点だ。

英国やフランス、米国で、感染者が多いにもかかわらず行動制限が解除されたのを見て「日本も大丈夫」と考える人も多いかもしれない。だが、日本はワクチン接種率が低く「まねをすべきではない」と専門家は口をそろえる。

政府はいま一度、感染の現状と医療の実情、対策ごとの感染抑止効果などをデータに基づき丁寧に説明してほしい。そのうえで菅義偉首相が記者会見し、国民にあらためて協力を求めるべきだ。

ワクチンを40~50代に優先接種するのも有効だろう。人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ。緊急事態や重点措置を漫然と続けているだけでは、危機を逃れられない。


◎今さら「40~50代に優先接種」?

最後に「ワクチンを40~50代に優先接種するのも有効だろう。人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ」と追加で案を出している。

日経は「危機意識」が高いのならば、もう少しまともな案が出てきても良さそうなものだ。「40~50代」の「接種」はもう始まっている。高齢者が先行し、若者は「接種」に積極的ではないので、何もしなくても今後は「40~50代に優先接種する」のに近い形になる。しかも10~11月には、希望する全ての人の「接種」が終わる予定だ。「40~50代」の「接種」を多少早めても大きな違いはないだろう。

人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ」という対策も意図が読みづらい。陰性ならば「行動を控え」る必要はないとの考えなのか。「緊急事態宣言」下の東京都では全ての人に「行動を控えてもらう」よう呼びかけているのではないのか。日経の主張が通れば「対策」を緩める方向に動きそうな気もするが、それでいいのか。

結局、日経の「危機意識」もそれほど強くないのだろう。それでいいとは思うが…。


※今回取り上げた社説「政府は感染急拡大への危機意識高めよ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210727&ng=DGKKZO74200240W1A720C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2021年7月26日月曜日

「米国では暮らしが一変」に無理がある日経1面連載「キャッシュレス新世紀(上)」

悪い癖は簡単にはなくならないということか。日本経済新聞朝刊1面でまたも「世界一変系」の連載が始まった。世界はそんなに簡単に一変しないので、この手の連載はどうしても無理が生じる。26日の「キャッシュレス新世紀(上)塗り替わる世界金融地図~フィンテック、決済席巻 低所得層に恩恵大きく」という記事も例外ではない。

船小屋温泉大橋

最初の事例では「デジタル金融の最前線をいく米国では暮らしが一変した」と言い切っている。その説明に説得力があるかどうか見ていこう。


【日経の記事】

デジタル金融の最前線をいく米国では暮らしが一変した。ニューヨークに住む高校生ダニエル・モーティマー君(18)は、親からお小遣いを送金アプリ「ベンモ」で受け取る。「外での支払いは99%がアプリかカード。財布に現金は5ドルくらいしかない」。友達とカフェで割り勘するときもベンモで決済する。

現金以外の支払い手段はこれまでクレジットカードやデビットカードだった。コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった。独調査会社スタティスタによるとベンモの送金額は1~3月に510億ドル(約5兆6000億円)と2年で2.4倍に急増した。米アクセンチュアは世界で30年までの10年間に48兆ドル、2兆7000億件の決済が現金からキャッシュレスにかわると予測する。


◎どこが「一変」?

ダニエル・モーティマー君」の事例はいつ、どんな変化が起きたのか不明だ。とりあえず1年前は「現金」のみを使っていたと仮定しよう。それが「親からお小遣いを送金アプリ『ベンモ』で受け取る」ようになり「外での支払いは99%がアプリかカード」になっただけだ。

友達とカフェで割り勘する」といった生活スタイルに変化はないのだろう。「支払い手段が一変した」かもしれないが「暮らしが一変した」感じはない。わざわざ事例に出した人物の変化がこの程度なのだから「米国」全体の「一変」度合いは推して知るべしだ。

現金以外の支払い手段はこれまでクレジットカードやデビットカードだった。コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった」という説明も引っかかった。米国では小切手決済が昔から普及している。日本だとSuicaなどの電子マネーもかなり歴史がある。「現金以外の支払い手段」が「これまでクレジットカードやデビットカード」に限られていたかのような説明には問題がある。

さらに言えば「コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった」という説明も苦しい。「送金」は「コロナ下」で「広がった」訳ではない。「コロナ下」でさらに「広がった」かもしれないが、「送金」自体は昔から当たり前にある。「スマホ決済やスマホ送金」という趣旨で「スマホ決済や送金」と記したのだろうか。だとしたら書き方が下手だ。

連載はあと2回続く。先が思いやられる。


※今回取り上げた記事「キャッシュレス新世紀(上)塗り替わる世界金融地図~フィンテック、決済席巻 低所得層に恩恵大きく

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210726&ng=DGKKZO74168980W1A720C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月24日土曜日

世界初のジェット機は1952年の「コメット」? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」

それ(五輪の多様性)を可能にしたのは航空機の進歩でもあった。プロペラ機より長く、速く飛ぶ世界初のジェット機『コメット』(英デハビランド製)が実用化されたのは52年」と日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)が記事に書いていた。しかし第2次世界大戦中にはドイツがジェット戦闘機を実用化していたはずだ。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

有明海のカモメ

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

24日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『飛ぶ』で占う五輪の未来図」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「それ(五輪の多様性)を可能にしたのは航空機の進歩でもあった。プロペラ機より長く、速く飛ぶ世界初のジェット機『コメット』(英デハビランド製)が実用化されたのは52年」という記述です。

世界最初のジェット機は1939年に完成したドイツのハインケル178機とされて」(日本大百科全書)います。「実用化」で言えば1944年のメッサーシュミットMe262(ドイツの戦闘機)が「世界初のジェット機」のはずです。「コメット」は「世界初のジェット旅客機」とは言えますが「世界初のジェット機」には当たらないのではありませんか。

プロペラ機より長く、速く飛ぶ」という意味で「世界初のジェット機」という可能性も考慮しました。しかし「コメット」の航続距離は従来のプロペラ機とほぼ同じだったようなので、「プロペラ機より長く、速く飛ぶ」というのは「ジェット機」の一般的な性質に触れたものだと理解しました。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『飛ぶ』で占う五輪の未来図

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210724&ng=DGKKZO74104730R20C21A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。


日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_16.html

やはり苦しい日経 中山淳史氏の「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_27.html

理解に苦しんだ日経 中山淳史氏の「Deep Insight~テスラが変える車のKPI」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/deep-insightkpi.html

ROEは「分母と分子を複利で成長させ」ないと維持できない? 日経 中山淳史氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/roe.html

2021年7月22日木曜日

FACTA「『防衛と原発』東芝は国有化される」の手抜きが過ぎる大西康之氏

FACTA8月号にジャーナリストの大西康之氏が書いた「『防衛と原発』東芝は国有化される」という記事は手抜きが過ぎる。「第2次世界大戦中」からの東芝の歴史を振り返るなど、これまでの流れのおさらいに記事の大半を使っており、最近の動きを取材した形跡は窺えない。これで、どうやって「東芝は国有化される」という結論に持っていくのか。最後の段落を見てみよう。

田主丸駅

【FACTAの記事】

こうして見ると、東芝と政府、とりわけ経産省との関係は異常である。民生事業の大半を切り離した東芝は「原子力と防衛の会社」になった。そんな会社が不特定多数の株主を受け入れる上場企業であり続けるのは難しい。安全保障の一翼を担う会社として国有化するのが一番分かりやすいが、国有化すればかつての国鉄のように、赤字を垂れ流す会社になるのは見えており、流れる赤字は「血税」で埋めるしかない。東芝不祥事は民生と防衛の境を曖昧にしてきた戦後日本の「総決算」を、国民に突きつけている。


◎「東芝は国有化される」はどこへ?

結局「東芝は国有化される」との結論を導かずに記事を締めてしまった。「国有化するのが一番分かりやすい」と書いているだけだ。騙しと言っていいだろう。

東芝が「『原子力と防衛の会社』になった」かどうか怪しいが、とりあえず受け入れてみよう。だからと言って、なぜ「上場企業であり続けるのは難しい」のか。上場廃止基準にでも抵触するのか。説明はない。

そして「国有化すればかつての国鉄のように、赤字を垂れ流す会社になるのは見えて」いるらしい。「国有化」した上に「原子力と防衛の会社」として生きていくのだから、政府が顧客となる「防衛」部門では赤字になりにくそうな気がする。しかし、なぜか「赤字を垂れ流す会社になる」と大西氏は断言してしまう。

本当に「上場企業であり続けるのは難しい」のならば「東芝は国有化される」と本文中で言い切っても良さそうだが、なぜか及び腰だ。

そう言えばFACTA2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と大西氏は予言していた。いまだに実現はしていない。この件での総括をFACTAと大西氏には求めたが音沙汰なしだ。

だが大西氏も少しは学んだのかもしれない。「国有化するのが一番分かりやすい」で逃げを打ち、それでは引きが弱いので「東芝は国有化される」という見出しを受け入れたということか。だとしたら腑に落ちる。

記事を書くなら取材をきちんとする。見通しを語るなら、根拠を明確にした上でリスクを取って結論を出す。そのどちらも今の大西氏にはできていない。


※今回取り上げた記事「『防衛と原発』東芝は国有化される」https://facta.co.jp/article/202108004.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/facta-jic.html

「JDIに注がれた血税が消える」?FACTAで大西康之氏が奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/jdifacta.html

FACTA「アップルがJDIにお香典」で大西康之氏の説明に矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/factajdi.html

FACTA「中国に買われたパソコン3社の幸せ」に見える大西康之氏の問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/facta3.html

FACTA「孫正義『1兆円追貸し』視界ゼロ」大西康之氏の理解力に疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/facta1.html

文藝春秋「LINEはソフトバンクを救えるか」でも間違えた大西康之氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/line.html

大西康之氏が書いたFACTA「コロナ禍より怖い『食べログ』の減点」の問題点https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/facta.html

2021年7月21日水曜日

日経・東大調査「多様な働き方できる自治体」ランキングに意味ある?

21日の日本経済新聞朝刊1面に載った「多様な働き方できる自治体、『10万人都市』上位~本社・東大調査、首位は石川・小松」という記事を読む限りでは、この「調査」に意味はない。そう感じた理由を述べてみる。

有明海

◎理由その1~「多様な働き方」とは?

記事では「多様な働き方」を定義していない。「テレワークが広がり、自宅やその周辺で効率よく働けることを重視する人が増えてきた。生活サービスの使いやすさも求められ、多様な働き方や生活を実現できる都市が再評価され始めた」などとは書いているが、これでは何を以って「多様な働き方」とするのか判断できない。

テレワークがしやすい自治体」とか「ワーケーションに適した自治体」といった具合に、焦点を絞った方が良かったのではないか。


◎理由その2~「10万人未満」が対象外だと…

今回の調査で「10万人都市」が「上位」に来たと日経は言う。嘘ではないだろうが、2つの意味で問題がある。まず「人口10万人以上の市と特別区に絞り、その実力を探った」ことだ。

この調査では人口が少ない方が高い点数が出る傾向があるとしよう。その場合「10万人都市」が「上位」に来たのは「人口10万人」で線を引いたからだという可能性が出てくる。作業が大変になるので「人口10万人」未満は対象外としたのだろうが、それで「10万人都市」が「上位」にと打ち出されてもとは思う。

もう1つの問題は「10万人都市」が全体に占める比率を見せていないことだ。「トップ30の68%を10万人台の都市が占めた」とは書いている。仮に、調査対象となった「主要287市区」のうち60%が「10万人都市」だとしたら「トップ30の68%を10万人台の都市が占めた」としても大した話ではない。逆に「10万人都市」が全体では10%に満たないなら、「トップ30の68%」という数字はかなりのものだ。なぜ、そこを見せないのか。


◎理由その3~「通勤時間」に意味ある?

今回の調査の最下位は埼玉県所沢市。ワースト3を埼玉県の市で占めている。「通勤時間」の長さがマイナスになったのだろう。しかし「通勤時間」が長い人が多いからと言って「多様な働き方」がしにくいとは限らない。「多様な働き方」の定義が明確ではないので「テレワーク」に限って考えてみよう。

テレワーク」を選ばない人が多いからと言って、その地域で「テレワーク」がしにくい訳ではない。所沢市では「テレワーク」をしない人が多く、結果として「通勤時間」が長くなっているとしよう。だからと言って「テレワーク」に向かない市だと評価すべきだろうか。

今回の調査に関しては「保育サービス利用率」「地域内の経済循環率」「コロナ前後の昼間人口増減率」にも同じ問題を感じる。これらの数値と「多様な働き方」のしやすさに直接的な関係があるのか。

さらに言えば「経済循環率」については用語解説も入れるべきだろう。


◎理由その4~「徒歩圏に生活関連施設がある人口比率」と言われても…

徒歩圏に生活関連施設がある人口比率」を点数化するのも意味がなさそうだ。まず「生活関連施設」の定義が分からない。なぜ「徒歩圏」なのかも不明だ。田舎で働く人は多くが車を利用している。「徒歩圏に生活関連施設」がないとしても、車で5分の場所に「生活関連施設」があれば不自由はない。自転車やバイクを使う手もある。「徒歩圏に生活関連施設がある」かどうかで「多様な働き方」のしやすさを測られても…とは感じる。

やはり今回の調査は意味がない。


※今回取り上げた記事「多様な働き方できる自治体、『10万人都市』上位~本社・東大調査、首位は石川・小松

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210721&ng=DGKKZO74074220R20C21A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月20日火曜日

ロンドン五輪では「全競技で男女実施実現」? 日経「Tokyoモデル(下)」の誤り

日本経済新聞によると、2012年のロンドン五輪では「ボクシングで女子採用、全競技で男女実施実現」となったらしい。新体操やシンクロナイズドスイミング(現在のアーティスティックスイミングで「男女実施」が「実現」しただろうか。東京五輪でも「実現」していないはずなので、以下の内容で問い合わせを送った。

長洲港

【日経への問い合わせ】

20日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「Tokyoモデル(下)女子選手比率、最高の48%~多様性の価値示せるか」という記事についてお尋ねします。記事に付けたグラフでは、2012年のロンドン五輪のところで「ボクシングで女子採用、全競技で男女実施実現」と説明しています。しかし新体操とシンクロナイズドスイミングで男子競技は「実施」されていないはずです。

「12年ロンドンでボクシングの女子が採用され、全競技で女子実施が実現した」という本文中の説明に問題はありません(馬術で「女子実施が実現した」とは言えないかもしれませんが、ここでは問いません)。しかし「全競技で女子実施」になるからと言って「全競技で男女実施実現」とは言えないのです。東京五輪でも、新体操とアーティスティックスイミングでは「男女実施実現」に至っていません。

「ボクシングで女子採用、全競技で男女実施実現」という説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Tokyoモデル(下)女子選手比率、最高の48%~多様性の価値示せるか

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210720&ng=DGKKZO74035030Q1A720C2EA1000


※グラフの説明は誤りとの前提で記事の評価はD(問題あり)とする

2021年7月19日月曜日

「パッシブ化の弊害強く」に説得力欠く日経 川崎健編集委員の「Market Beat」

パッシブ運用」を問題視する記事は基本的に説得力がない。19日の日本経済新聞朝刊グローバル市場面に川崎健編集委員が書いた 「Market Beat『タダ乗り投資』市場蝕む~パッシブ化の弊害強く」という記事もそうだ。最後まで読んでも「弊害強く」とは感じられない。中身を見ながら具体的に指摘したい。

夕暮れ時の巨瀬川

【日経の記事】

株式市場は古くから、景気や企業業績の実態を正確に映し出す「経済の鏡」に例えられてきた。だが、この鏡が曇り始めているのではないか。そんな疑念を抱かせる重大な構造変化が、世界の株式市場で進行する。株価指数の構成銘柄をまるごと保有して市場並みの運用成績をめざす「パッシブ運用」の膨張だ。

「インデックスファンドは割高な値段で買ってしまう」。米リサーチ・アフィリエイツのロブ・アーノット会長はいう。典型例が2020年12月に米S&P500種株価指数に採用された米電気自動車のテスラ株だ。

テスラの時価総額は指数組み入れ前に6600億ドル(約72兆円)とトヨタ自動車の2倍以上に膨らんだ。S&P500は時価総額加重平均型の指数で、時価総額に比例して組み入れ比率が決まる。連動するパッシブファンドはテスラの時価総額に見合う1000億ドル規模の買いを入れた。

だが組み入れ後のテスラ株はさえない。現在まで6%下落し、18%上昇したS&P500を下回る。パッシブファンドはたとえ株価が割高でも機械的に買っており、その反動が出ている。

テスラは効率的な手法とされるパッシブ運用が実は非効率である事実を示唆するが、パッシブ運用は膨らむ一方だ。


◎どこが「非効率」?

割高」な水準で買うことを「非効率」と川崎編集委員は見ているようだ。だとすれば、そもそも「パッシブ運用」が「効率的な手法とされ」てきたのかが疑わしい。

パッシブ運用」は低コストという意味では「効率的」ではあるが、「割高」な水準で買わずに済む訳ではない。株式相場が時に「割高」になったり割安になったりするものだと仮定しよう。「パッシブファンド」は常に売られているのだから「割高」な時に購入する投資家も当然にいる。

逆に、効率的市場仮説が成立している(市場は効率的)だと仮定すると、いつ買っても「割高」ではないし、割安でもない。「テスラ株」が「S&P500種株価指数に採用された」後に「さえない」展開になったからと言って、採用直前の株価が「割高」だったとは言えない。市場が効率的だとの前提に立てば、その時点での株価は原理的に「割高」にはならない。

組み入れ後のテスラ株はさえない」という事実は「パッシブ運用」に関して新たに何かを教えてくれている訳ではない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

オープンエンドファンドと上場投資信託(ETF)を足した世界の株式ファンドに占めるパッシブ運用は20年末に10.6兆ドル。数字を遡れる07年の7.4倍に膨らんだ。

一方、個別株を選別するアクティブ運用は13.5兆ドル。世界の株式ファンドに占めるパッシブ比率は44%に上がった

ほぼ右肩上がりだったリーマン危機後の相場では個別銘柄を売り買いせず、低コストのパッシブ運用で指数構成銘柄に分散投資するのが効率的だった。一方、多くのアクティブファンドは指数に勝てず、パッシブファンドに資金が流出した。

パッシブファンドは1976年に米バンガード・グループ創業者のジョン・ボーグルが個人向けに初めて販売。40年以上を経てパッシブファンドはアクティブに匹敵するまで成長した。

ボーグルがファンドを立ち上げた時に誰も予想していなかったことがある。パッシブが株式市場の多数派になる事態だ


◎「パッシブが株式市場の多数派」?

世界の株式ファンドに占めるパッシブ比率は44%」に過ぎない。なのに「ボーグルがファンドを立ち上げた時に誰も予想していなかったことがある。パッシブが株式市場の多数派になる事態だ」と書いている。「44%」で「多数派」なのか。あるいは、近く「多数派」になりそうなのか。

44%」はあくまで「株式ファンドに占める」比率だ。個人投資家による個別株投資などの「アクティブ」運用も含めれば「パッシブ」の比率はさらに下がるだろう。「パッシブが株式市場の多数派になる事態」はまだ起きていないし、そうなる日が近い訳でもなさそうだ。

続きを見ていく。


【日経の記事】

「全ての情報を反映するマーケットに勝ち目がないからと投資家全員がパッシブ運用になってしまったら、誰が市場に情報を反映させるのか」。米国でパッシブ比率が4割を超えた17年、ノーベル経済学賞のロバート・シラー教授は言った。

パッシブ運用の有効性は、株価には入手可能な情報が全て反映されており、誰も市場を出し抜けないという「効率的市場仮説」が裏付けだ。株価は常に妥当な水準だから、銘柄を調査せずともコストが高いアクティブ運用に勝てるという。


◎パッシブ運用の有効性は「効率的市場仮説」が裏付け?

パッシブ運用の有効性」は「『効率的市場仮説』が裏付け」との見方には同意できない。そもそも「仮説」で「裏付け」できるものなのか。

効率的市場仮説」が成立しなくても「パッシブ運用の有効性」は残り得る。低コストだ。「アクティブ運用」が「パッシブ運用」を運用成績(コストは考慮しない)で上回るとしても、コストを含めたリターンで負けてしまうのならば、やはり「パッシブ運用」は有効だ。

コスト面で差がなくなれば、「効率的市場仮説」が成立する前提であっても「パッシブ運用」に優位性はない。この状況では「アクティブ運用」と「パッシブ運用」の差に意味がなくなる。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

だがパッシブ運用はコストをかけて企業を調査し、株価に情報を反映させる多数のアクティブ運用者がいて初めて成立する。「パッシブ運用は他人の努力へのフリーライダー(タダ乗り)だ」。シラー教授は喝破した。パッシブが多数派になった途端、市場の価格発見機能が蝕(むしば)まれる恐れが出てくる


◎「多数派」かどうかが重要?

パッシブ運用はコストをかけて企業を調査し、株価に情報を反映させる多数のアクティブ運用者がいて初めて成立する」とは思えない。「アクティブ運用者」がいない世界では「市場の価格発見機能」は損なわれるだろう。それが株式市場のあるべき姿とはかけ離れているとしても「パッシブ運用」が不可能になる訳ではない。

パッシブが多数派になった途端、市場の価格発見機能が蝕まれる恐れが出てくる」という説明はさらに謎だ。

パッシブ」比率49%の時は「市場の価格発見機能」がしっかり働くのに51%になると「途端」に「機能が蝕まれる」のか。「多数派」かどうかが、そんなに決定的な意味を持つ理由が分からない。

さらに続きを見ていく。


【日経の記事】

世界がこれから直面するパッシブ化の弊害を探るうえで参考になる市場がある。この日本だ。

日本株はETFを買ってきた日銀が実質的な筆頭株主だ。日本はパッシブ比率が73%に達する「パッシブ先進国」だ。

東京証券取引所では1日の売買代金に占める午後3時の「大引け」時の比率が14%に達した。パッシブファンドは成績を指数と一致させるため、大引けで注文を出す場合が多い。パッシブ比率の高まりを映し、大引け時に売買が集中している。

これは「ザラバ」と呼ぶ日中取引の閑散ぶりの裏返しだ。「持ち合い全盛の80年代と似た光景だ」。70年代から日本株を見てきた米ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズのジョン・アルカイヤ日本代表はいう。パッシブ運用は資金が流出しない限り、構成銘柄を持ち続ける。パッシブが保有する株は持ち合いと同じ固定株となり、市場の流動性を下げる

そんな市場で最近目立つ現象がある。米国で悪材料が出ると本家の米国以上に相場が下がるのだ。パッシブ運用が固定株となり、流動性低下を通じて相場の変動を高める逆説に直面している

パッシブ化の弊害をどう抑えるか。日本の市場参加者は世界のフロントランナーとして、この問題に真っ先に取り組むタイミングにきている。


◎それは「パッシブ化の弊害」?

固定株」が増えると「市場の流動性を下げ」てしまうのは確かだ。しかし、それは「パッシブ化の弊害」なのか。むしろ長期投資の「弊害」だ。「アクティブ運用」でも銘柄入れ替えをしないまま投資家が長期投資に徹する場合は「固定株」となり得る。「パッシブ運用」であっても「資金が流出」すれば「市場の流動性」を高める効果がある。

それに「米国で悪材料が出ると本家の米国以上に相場が下がる」からと言って、「流動性低下を通じて相場の変動を高める」動きだと断定はできない。「相場の変動」を起こす要因は「米国で悪材料」以外もあるからだ。

パッシブ運用」の増加が「流動性低下を通じて相場の変動を高め」ていると言える根拠を川崎編集委員は示していない。

パッシブ化の弊害」を訴える記事が説得力を欠くのは「アクティブ運用」を応援したいという意図が見え隠れするからだ。川崎編集委員のような書き手には「アクティブ運用」側からの働きかけが多いのではと推測している。

パッシブ化の弊害」は少なくとも現時点では確認できない。今回の記事を読む限りではそう判断していいだろう。



※今回取り上げた記事 「Market Beat『タダ乗り投資』市場蝕む~パッシブ化の弊害強く

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210719&ng=DGKKZO73994810Y1A710C2ENG000


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健編集委員への評価はDで据え置く。川崎編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html

日経 川崎健次長の「一目均衡~調査費 価格破壊の弊害」に感じた疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_23.html

日経 川崎健編集委員「一目均衡~失われた価格発見機能」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_16.html

日経「統治改革、東芝が試金石」に感じる川崎健編集委員の説明不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_15.html

2021年7月17日土曜日

粕屋町、嘉島町、菊陽町も「中核都市」? 日経ビジネスの回答を見て考えたこと

苦しい弁明に接するのは嫌いではない。そこから見えてくるものもある。無印良品に関する「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」という説明が正しいのか。日経ビジネスから回答が届いたので、それを材料に考えてみたい。

大阪市中之島

問い合わせと回答は以下の通り。

【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス編集部 奥平力様 

7月12日号に載った「スペシャルリポート 小商圏攻略の切り札になるか~無印良品、マリオットも進出『道の駅』が持つ潜在力」という記事についてお尋ねします。無印良品に関して「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」と奥平様は言い切っています。

福岡県を例に取りましょう。「県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」に該当するのは福岡市と久留米市です(中核都市=中核市…との前提です)。政令指定都市の北九州市も「中核都市まで」に該当すると見なしましょう。記事の説明が正しければ、福岡県内の無印良品はこの3市にしかないはずです。

無印良品のホームページによると、大牟田市、直方市、福津市、筑紫野市、粕屋町、行橋市、飯塚市にも出店しています。ちなみに熊本県でも嘉島町、菊陽町に店があります。

福岡県や熊本県を「地方」ではないと見るのは無理があります。「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経ビジネスの回答】

ご指摘のあった福岡県の店舗に関しては、筑紫野市、粕屋町、福津市、直方市はイオンモール、行橋市はゆめタウンに出店しています。筑紫野市と粕屋町は福岡市の、直方市と行橋市は北九州市の、福津市は福岡と北九州両市の衛星都市で、いずれも福岡市もしくは北九州市の商圏に店舗を構えたとの認識を良品計画は持っています。

残る大牟田市と飯塚市ですが、まず大牟田市は福岡県最南に位置し隣接する熊本県荒尾市と一体で都市圏を構成し、その都市圏人口は20万人を超えています。飯塚市も筑豊地域の中心で、20万人近い都市圏人口を有しています。

熊本県については、嘉島町はイオンモール、菊陽町はゆめタウンへの出店で、両町とも熊本市のベッドタウンとしての性格が強く、良品計画としては、熊本市の郊外に店を出したと捉えています。

良品計画が商圏としての大都市あるいは地域の中核都市に出店しているとの認識のため、記事中の表現といたしました。


◎取材相手を信用し過ぎるな!


粕屋町」も「嘉島町」も「菊陽町」も「県庁所在地か、その次の規模の中核都市」に入るとの強引な説明だ。その強引さは回答を読んでもらえれば分かるので、ここで深追いはしない。問題は、なぜこうなってしまったのかだ。

良品計画が商圏としての大都市あるいは地域の中核都市に出店しているとの認識のため、記事中の表現といたしました」との説明にヒントがある。推測にはなるが、以下のような経緯があるのだろう。

取材時に「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」という説明が「良品計画」からあった。奥平記者はそのまま記事にした。問い合わせを受けて「良品計画」に確認すると「商圏としての大都市あるいは地域の中核都市に出店しているとの認識」だと言われたーー。そんなところではないか。

店舗に関しする情報がホームページに出ているのは誰でも分かるのだから、「良品計画」の説明が正しいのか確かめてほしかった。「県庁所在地か、その次の規模の中核都市」以外に出店しているのは福岡県と熊本県に限らない。ざっとでも見ておけば、今回の問題は起きなかったはずだ。

「取材先を信用し過ぎるな」というのが今回の教訓だ。ホームページなどで確認できない情報は仕方がない。しかし社員数や業績などは取材相手がその会社の人であっても、念のために確認する用心深さが欲しい。


※今回取り上げた記事「スペシャルリポート 小商圏攻略の切り札になるか~無印良品、マリオットも進出『道の駅』が持つ潜在力

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00160/


※記事の評価はD(問題あり)とする。奥平力記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げた。奥平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

マンションバブル崩壊を「最悪」と日経ビジネス奥平力記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_5.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

2021年7月15日木曜日

「同質的集団にイノベーションなし」と日経に書いた大沢真知子日本女子大名誉教授の誤解

 女性問題を女性論者に語らせるとツッコミどころの多い内容になりやすいーーという経験則がある。日本女子大学名誉教授の大沢真知子もそれが当てはまる1人のようだ。15日の日本経済新聞朝刊経済教室面に載った「やさしい経済学~女性活躍社会に必要なこと(9) 多様な価値観尊重の重要性」 という記事にツッコミを入れていきたい。

筑後川と夕陽

【日経の記事】

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長が、「女性が多い会議は時間がかかる」という趣旨の発言で辞任しました。森氏は「私どもの組織委員会の女性はみんなわきまえておられて」とも述べ、古い世代のリーダーの意見に従うことが暗黙の了解であることを印象づけました。

実際には女性が多い会議は時間がかかるわけではありません。特に女性がリーダーになると、会議の時間は短くなるようです。働く女性の多くは家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねています。その過程で物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけているからです


◎女性特有の長所?

女性は「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけている」としよう。だからと言って「会議の時間は短くなる」のか。「会議」の「優先順位」が高い場合には「会議の時間」は長くなりやすいだろう。女性は「会議」の「優先順位」を低く設定すると決まっているのか。

さらに言えば「重要なことからこなすやり方」が身に付いているのは感心しない。こういう人は、重要性の低い顧客との約束をキャンセルして大事な顧客との商談を入れたりしそうだ。出世のためには正しい「やり方」かもしれないが、人としてはあまり信頼できない。

物事に優先順位をつけ」て仕事をするのは基本的に誰もがやっていることだ。「働く女性」の専売特許ではない。

付け加えると、大沢氏の見方が正しければ、独身で一人暮らしの「働く女性」は「家庭と仕事を両立させ」ずに済むので「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけて」いない人が多いはずだ。本当にそうだろうか。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性のリーダーが増えることの利点の一つは、短時間で必要な結論を出したり、無駄な会議を減らせたりすることでしょう。今それを望んでいるのは、働く女性だけでなく、子育てをパートナーと分かちあっている男性も同じです。


◎だったら考え方としては…

短時間で必要な結論を出したり、無駄な会議を減らせたりすること」が重要で、それができるのは「物事に優先順位をつけ、重要なことからこなすやり方を経験によって身につけている」人だとしよう。この場合「女性のリーダー」を増やすべきだろうか。

既に述べたように、この点で独身の「働く女性」には多くを期待できない。「家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねて」いないからだ。一方で「子育てをパートナーと分かちあっている男性」には期待が持てる。

大沢氏の見方に従えば、子育てを経験していない者は「リーダー」に選ばず、「家庭と仕事を両立させながらキャリアを積み重ねて」いる者を男女問わず「リーダー」にしていくのが好ましいことになる。本当にそれでいいのか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

しかし、森発言で気になったのは、わきまえた女性が出席している会議は短い時間で終わるという後半の発言です。そもそも、会議でわきまえるということはどういうことでしょうか。それは、上の人の発言に対して反対しないということであり、日本の男性中心社会の秩序を乱さないということを意味しているのではないでしょうか。


◎日本は「男性中心社会」?

日本は「男性中心社会」だと大沢氏は見ているようだ。違うとは言わない。しかし安易に決め付けるのは好ましくない。何を重視するかで「女性中心社会」とも言えるからだ。

ECのミカタ編集部によると「家庭で使用する商品やサービスの購買において、女性が8割の意志決定権を握っていることが明らかになった」らしい。家計で支出の決定権を持っている側が「中心」にいると見なせば、日本は明らかに「女性中心社会」だ。

根拠や条件を示さず「男性中心社会」と言い切ってしまっていいのだろうか。

今回の記事で最も引っかかったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

女性の活躍を阻害する要因を除去し、男女平等社会を実現させる重要性は、価値観の多様性が尊重される社会が生み出されることにあります。同質的な集団には、イノベーション(革新的なアイデア)は生まれないのです

異なる文化的な背景を持つ人や、セクシュアリティーの異なる人、障害を持った人、さらには世代の違う人々が様々に異なる意見を交わし、従来のやり方を変えていく方法を見つけ出す時代が来ています。


◎「同質的な集団」にイノベーションなし?


同質的な集団には、イノベーション(革新的なアイデア)は生まれないのです」と大沢氏は断定するが、根拠は示していない。これは明らかに違うと思える。

米国の発明家兄弟であるライト兄弟を例に考えてみよう。兄弟なので非常に「同質的」だが人類初の動力飛行を成功させたと言われている。それはなぜなのか。「同質的」でも「イノベーション」は「生まれ」るのではないのか。

そもそも「革新的なアイデア」は基本的に個人から生まれるもので「集団」を必要としない。多様性に富む「集団」が「革新的なアイデア」を生む土壌となる可能性は否定しないが「同質的な集団には、イノベーションは生まれない」と見るのは明らかに誤りだ。

さらに言えば、何を以って「同質的な集団」と見るかという問題がある。

例えば東大の男子学生が何人かで宇宙船を開発する会社を立ち上げたとしよう。世代、性別、出身大学に関して多様性はない。故に「同質的な集団」と言えるだろうか。

北海道の公立高校出身で経済学部に所属し会社のマネジメントに興味がある鉄道オタクのA君と、東京の中高一貫名門私立高校出身で工学部に所属し宇宙工学とファッションにしか関心がないB君を「同質的」と見るべきなのか。

男ばかりだから「同質的な集団」と単純に決め付けるのは危険だ。大沢氏には、そのことに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「やさしい経済学~女性活躍社会に必要なこと(9) 多様な価値観尊重の重要性」 


※記事の評価はD(問題あり)

「データ寡占」は本当にある? 日経「デジタルのジレンマ(3)」の誤った前提

実際には存在しないのに、なぜか存在するものとして語られるのが「データ寡占」だ。「デジタル経済」を論じる記事でよく見かける。15日の日本経済新聞朝刊1面に載った「デジタルのジレンマ(3)GAFA、10年で買収400件~データ寡占に規制追いつかず」という記事でも「データ寡占」の存在が前提となっているが、実体は見えない。

新田大橋

10年で買収400件」という話は「データ寡占」を裏付けるものではない。世界にある全ての「データ」を「GAFA」だけで保有しているなら「データ寡占」でいいだろう。だが、あり得ない。日経もソニーもトヨタも携帯電話会社も銀行もコンビニも「データ」は持っている。どうやったら「寡占」が成立するのか。

記事の説明を見ていこう。


【日経の記事】

バイデン米大統領は9日、市場シェアの高い大企業への監視を強化する大統領令に署名し、議会でも巨大ITの事業分割を視野に反トラスト法(独占禁止法)の改正機運が高まる。とはいえフェイスブックは本体だけで30億人弱の利用者を抱える。対話アプリ「ワッツアップ」などの傘下企業を切り離しても膨大なデータを独占的に持ち続ける限りSNS市場での支配力は揺るがないとの声は多い。

いまの米国の競争政策は規制緩和が進んだ1980年代に枠組みが固まった。国主導で企業やデータを管理する中国とは一線を画し、値上げなど消費者に不利益がなければ自由な競争に委ねる姿勢をとった。だがデータ寡占の問題を前にルールの限界も見えてきた。


◎どういうこと?

フェイスブック」は「膨大なデータを独占的に持ち続け」ているらしい。どういうことなのか。「データ寡占」ではなかったのか。「独占」に近いのか。そう思って読み進めると「データ寡占の問題を前に~」と「寡占」に戻ってしまう。

フェイスブック」が「膨大なデータを独占的に持ち続け」ているのならば、世界中の「データ」の90%以上は「フェイスブック」のもので、残りを世界中の企業・個人で分け合っているとの認識なのか。だとすると問題は「GAFA」ではなく「フェイスブック」だ。しかし、同社が「データを独占的に」保有していることを裏付ける情報は示していない。

ついでにもう1つ指摘しておこう。


【日経の記事】

一方で膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている側面もある。米シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授らの21年の研究では、グーグルとフェイスブックの買収があった業界はその後の3年でベンチャーキャピタル投資が40%減り、案件数も20%減った


◎説明になってる?

まず「グーグルとフェイスブックの買収があった業界はその後の3年でベンチャーキャピタル投資が40%減り、案件数も20%減った」としても、因果関係が証明できた訳ではない。別の要因で「ベンチャーキャピタル投資」に変化が起きた可能性はある。

因果関係があるとしても「膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている側面もある」と言い切るのは早計だ。「ベンチャーキャピタル投資」が減ったからと言って「発明や新事業の創出」も細っているとは限らない。「ベンチャーキャピタル投資」に頼らなくても「発明や新事業の創出」はできる。資金調達先が銀行などにシフトしただけかもしれない。

膨張が他社による発明や新事業の創出を妨げている」のではないかと仮説を立てるのはいいが、裏付けとなるデータの扱いには慎重であるべきだ。今回は仮説にこだわり過ぎて説明が強引になっている気がする。


※今回取り上げた記事「デジタルのジレンマ(3)GAFA、10年で買収400件~データ寡占に規制追いつかず」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN261IG0W1A520C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月14日水曜日

「勝者総取り、多様性奪う」に説得力欠く日経「デジタルのジレンマ(2)」

14日の日本経済新聞朝刊1面に載った「デジタルのジレンマ(2)格差広げる『ゼロ円コピー』~勝者総取り、多様性奪う」という記事は説得力がなかった。「デジタル経済」を論じる記事では「勝者総取り」の話がよく出てくるが、現実に「勝者総取り」と言えるケースは少ない。今回の記事で「勝者総取り」に触れた部分を見てみよう。

夕暮れ時のうきは市

【日経の記事】

一方で「勝者総取り」の弊害もある。米ローリングストーン誌の20年の音楽配信調査では、上位1%のアーティストの曲が総再生回数の9割を占めた。CDでは上位1%が稼ぐ売り上げは全体の5割程度。楽曲配信の収益は再生回数に応じて還元されるため、一部のスターにもうけが集中する。米国でバンド活動をするジョーイ・デフランチェスコさんは「CD時代と異なり無名のアーティストは稼げなくなった」と嘆く。


◎それで「総取り」?

上位1%のアーティストの曲が総再生回数の9割を占めた」のは「勝者総取り」と言えるのか。1組の「アーティスト」が「総再生回数」の全てを占めたのならば、見事な「勝者総取り」だ。しかし「9割」止まり。しかも「上位1%」には数多くの「アーティスト」を含むはずだ。それを「勝者総取り」と言われても…。

CD時代と異なり無名のアーティストは稼げなくなった」というコメントにも同意できない。「無名のアーティスト」の稼ぎを「CD時代」と比べたデータが記事には見当たらない。

CD時代」も今も「無名のアーティスト」の稼ぎが少ないのは同じだろう。「CD時代」でも「無名のアーティスト」が自分たちの「CD」をレコード店などの流通経路に載せるのはかなり難しかったはずだ。

音楽制作ソフトの普及などで、資金がなくてもプロと変わらない完成度の音楽を作ってユーチューブなどで発信しやすくなっている。そこで注目されて「無名のアーティスト」から一気に「上位1%」へ入る道も開けてきた。

勝者総取り」→「無名のアーティストは稼げなくなった」という解説は色々な意味で違う気がする。


※今回取り上げた記事「デジタルのジレンマ(2)格差広げる『ゼロ円コピー』~勝者総取り、多様性奪う

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25E830V20C21A5000000/


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月13日火曜日

日経 小竹洋之編集委員は「コロナ世代」対策の具体論を語れ

13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に小竹洋之編集委員が書いた「Deep Insight~『コロナ世代』を癒やせるか」という記事の問題意識は評価できる。「感染症の拡大を防ぐ都市封鎖や行動規制は、90年代後半以降に生まれた『Z世代』から多くの機会や経験を奪った」のは、その通りだ。しかし記事には肝心の具体策が見えない。

筑後川と夕陽

米同時テロ」や「大恐慌」を振り返る暇があるならば、今どんな対策を打つべきか語ってほしい。「メンタルヘルス(心の健康)対策や教育・雇用支援などが必要」という漠然とした話では困る。記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

しかしZ世代の適応に頼り切り、病理を放置するわけにはいかない。メンタルヘルス(心の健康)対策や教育・雇用支援などが必要なのは、日本も同じだ

コロナ禍に遭遇した私たちは、感染症の封じ込めと正常な経済社会活動とのトレードオフ(相反関係)に悩まされてきた。あちらを立てればこちらが立たず、いまも正解を見いだせてはいない

政府は東京都に4度目の緊急事態宣言を発令した。国民の命を守るのは当然だとしても、次の時代を担う若者や子どもたちに過度の犠牲を強いてはいないか。彼らの手足を安易に縛らず、人生の大事なピースを失わせずにすむ方法を何とか見つけられないものか。私たち一人ひとりが胸に手を当てて、問い直さねばなるまい

中高年の有権者と政治家が影響力を行使する先進国の民主主義体制では、Z世代の声が届きにくい。その不満や憤りは、米欧などに巣くう左右のポピュリズム(大衆迎合主義)の燃料にもなる。

「コロナ世代」を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている。心してかかるべき課題だ


◎簡単な話では?

Z世代の適応に頼り切り、病理を放置するわけにはいかない」「『コロナ世代』を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている」との問題意識があるのならば、そんなに難しい話ではない。

感染症の封じ込めと正常な経済社会活動とのトレードオフ(相反関係)」はあるだろう。だが「『コロナ世代』を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている」のだから若者重視の対策を打ち出せばいい。

新型コロナウイルスが若者を殺す力はゼロに近い。一方で高齢者にとってはそこそこリスクがある。高齢者に「世界の未来がかかっている」訳ではないのは誰でも分かる。なので若者重視でいい。

対策は簡単だ。基本的にコロナ前に戻せばいい。

「高齢者を見殺しにするのか」という批判に対しては「コロナが怖い人はワクチンを接種してください。それでも怖い人は外出を避けるといった防衛策を取りましょう。そうすれば、かなりリスクは軽減できるはずです」と返せばいい。

この考えに小竹編集委員も同意しろとは言わない。小竹編集委員独自の考えがあっていい。記事を読む限りでは、どうしたらいいか迷っているようだ。だから「私たち一人ひとりが胸に手を当てて、問い直さねばなるまい」「あちらを立てればこちらが立たず、いまも正解を見いだせてはいない」などと書いてしまうのだろう。

『コロナ世代』を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている」のならば「正常な経済社会活動」を重視するのが道理だ。それをやると高齢者の半分以上は1年以内に死亡するというなら迷うのも分かるが、ワクチン接種も進む中、元々さざ波程度の感染しかない日本では高齢者のリスクも限定的だ。

改めて引用するが「『コロナ世代』を癒やせるかどうかに、世界の未来がかかっている」のだ。「世界の未来」を守るためにはどう動くべきか。今こそ明確な指針を示してほしい。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『コロナ世代』を癒やせるか」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210713&ng=DGKKZO73785650S1A710C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。小竹洋之編集委員への評価はDを据え置く。小竹編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

色々と問題目立つ日経 小竹洋之論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_14.html

「『大きな中央銀行』でいいのか」と問うた日経 小竹洋之上級論説委員に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post.html

2021年7月12日月曜日

無印良品の出店は「中核都市まで」? 日経ビジネス奥平力記者に問う

無印良品について「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」と日経ビジネスの奥平力記者が書いている。中核市にも入らない小さな市や町に当たり前のように出店していると思えたので、以下の内容で問い合わせを送った。

夕暮れ時の筑後川

【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス編集部 奥平力様 

7月12日号に載った「スペシャルリポート 小商圏攻略の切り札になるか~無印良品、マリオットも進出『道の駅』が持つ潜在力」という記事についてお尋ねします。無印良品に関して「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」と奥平様は言い切っています。

福岡県を例に取りましょう。「県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」に該当するのは福岡市と久留米市です(中核都市=中核市…との前提です)。政令指定都市の北九州市も「中核都市まで」に該当すると見なしましょう。記事の説明が正しければ、福岡県内の無印良品はこの3市にしかないはずです。

無印良品のホームページによると、大牟田市、直方市、福津市、筑紫野市、粕屋町、行橋市、飯塚市にも出店しています。ちなみに熊本県でも嘉島町、菊陽町に店があります。

福岡県や熊本県を「地方」ではないと見るのは無理があります。「これまで地方での出店は、県庁所在地か、その次の規模の中核都市まで」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


◇   ◇   ◇


回答があれば改めて紹介したい。


※今回取り上げた記事「スペシャルリポート 小商圏攻略の切り札になるか~無印良品、マリオットも進出『道の駅』が持つ潜在力

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00160/


※記事の説明に誤りがあるとの前提で記事の評価はD(問題あり)とする。奥平力記者への評価も暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。奥平記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

マンションバブル崩壊を「最悪」と日経ビジネス奥平力記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_5.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

2021年7月11日日曜日

日経「風見鶏~基本法花盛りの功罪」に感じる大石格編集委員の罪

11日の日本経済新聞朝刊総合3面に大石格編集委員が書いた「風見鶏~基本法花盛りの功罪」 という記事には「メディアとしての役割放棄では?」と感じる記述があった。当該部分を見ていこう。

筑後川と夕陽

【日経の記事】

90年代前半に盛り上がった政治改革のうねりの中で出てきた「官僚任せから、国会議員が国の針路を示す政治主導へ」という流れを国民にわかりやすく見せるにはどうすればよいのか。編み出した手法が、この基本法づくりだった。

これには功と罪がある。基本法ができると、そのテーマを所管する役所が決まり、○○白書を毎年、発行し始める。政治主導というと、省庁の利権争いを国会議員が調停するイメージがあるが、どこの役所も手を出したがらない課題に光を当て、実定法づくりにつなげる効果がある。

一例として、06年に与野党相乗りでつくった自殺対策基本法を挙げたい。政府として総合的な施策を進めるように求める以上の中身はないが、てんでに動いていた厚生労働省、内閣府、警察庁などに連携を促す役割を果たした

罪の方は、政治主導を気取りつつ、これといったアイデアを持たない政治家のやってる感の印象付けに利用されがちなことだ。

議員立法づくりを裏方として支えることが多い参院法制局のホームページに、基本法に関するこんな解説が載っている。

「具体的な権利・義務までが導き出されることはなく、裁判規範として機能することもほとんどない」

衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控えるが、あってもなくてもよい基本法が少なからず存在するのは事実である


◎何のための新聞?

衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控えるが、あってもなくてもよい基本法が少なからず存在するのは事実である」と大石編集委員は言う。

あってもなくてもよい基本法」の「具体名を挙げる」ことを今の時期に規制する法律はないはずなので「具体名を挙げ」ないのは大石編集委員の自主規制なのだろう。

なぜ、こんな自主規制をするのか。「」の方では「自殺対策基本法」という「具体名を挙げ」ているのに「あってもなくてもよい基本法」の「具体名」は「衆院選が近い」から「挙げるのは控える」という姿勢には一貫性も感じられない。

自殺対策基本法」の「」は「てんでに動いていた厚生労働省、内閣府、警察庁などに連携を促す役割を果たした」ことだ。しかし、どの「基本法」がそうした役割を果たしているのか一般の読者には判断する術がない。

あってもなくてもよい基本法が少なからず存在する」と大石編集委員には判断できるのならば「具体名を挙げる」べきだ。あるいは「あってもなくてもよい基本法」の見分け方を伝授してもいい。そうすれば読者は「衆院選」の判断材料にもできる。しかし、なぜか「衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控える」と逃げてしまう。何のための新聞なのか、よく考えてほしい。

記事の続きを見ていく。


【日経の記事】

そうした議員立法ができると、苦労するのが首相に直属する内閣総務官室だ。

新しい法律が届くと、条文ごとに赤線を引き、どこの省庁のどこの課が所管し責任を持つのかを決める箇所付けの作業がここでなされる。政府提出法ならば作成を担当した省庁に丸投げすればよいが、業際的な法律だったりすると割り振り先がなかなか見つからなかったりする。

この先、国会議員のやってる感の競い合いが激しくなるとどうなるのか。「国民が明るく楽しく暮らせる社会づくり基本法」といった法律ができる日が来るかもしれない。

どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ、本当に守られるべき法律までもがないがしろにされかねない


◎それは「悪い法律」では?

どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ、本当に守られるべき法律までもがないがしろにされかねない」と大石編集委員は訴えている。本当に「順法意識が薄れ」るのならば、それを促す「法律」は「どうでもよい法律」ではない。悪い「法律」だ。「衆院選が近いので、具体名を挙げるのは控える」という姿勢はさらに罪深くなる。

ただ「どうでもよい法律が増えれば増えるほど順法意識が薄れ」るという因果関係が成立するとは思えない。国民の多くは「基本法」の具体的な内容を認識していないだろう。仮に「あってもなくてもよい基本法」だと認識していたとしても「だから法律を守らなくていい」となるのか。その経路がよく分からない。


※今回取り上げた記事「風見鶏~基本法花盛りの功罪」 

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210711&ng=DGKKZO73767580Q1A710C2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_74.html

「イタリア改憲の真の狙い」が結局は謎な日経 大石格上級論説委員の「中外時評」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_7.html

菅政権との対比が苦しい日経 大石格編集委員「風見鶏~中曽根戦略ふたたび?」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_18.html

「別人格」を疑う余地ある? 日経 大石格上級論説委員「中外時評~政治家は身内にこそ厳しく」

https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_17.html

2021年7月10日土曜日

アジア先進国で1人当たりGDPトップは日本? 日経ビジネスに問う

日本は「アジアの先進国の中では、韓国、台湾を上回り、1人当たりGDPが最も高い」と言えるだろうか。日経ビジネスの記事で米カリフォルニア大学サンディエゴ校のウリケ・シェーデ教授がそう言い切っていた。シンガポール、イスラエルに次ぐ3番手と見るのが正しいと思えたので、以下の内容で問い合わせを送っている。

筑後川と夕陽

【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス編集部 担当者様

7月12日号に載った「世界の最新経営理論 ウリケ・シェーデの再興THE KAISHA(1)『20ー80現象』から脱却せよ~『日本経済は強い』は正しい」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「(日本は)アジアの先進国の中では、韓国、台湾を上回り、1人当たりGDPが最も高い」との記述です。

IMFの分類に従うと「アジアの先進国」に該当するのは日本、韓国、台湾、シンガポール、イスラエルの5カ国(ここでは台湾を国と見なします)となります。「OECD加盟国=先進国」との前提も検討しましたが、これだと台湾が漏れてしまうため記事の内容と整合しません。またOECD加盟国の中には一般的に先進国と見なされない国も含まれています。

アジアの先進国」を上記の5カ国とした場合、「1人当たりGDPが最も高い」のはシンガポールではありませんか。2位がイスラエルで日本は3位にとどまるはずです。

2020年8月3日付の「逆・タイムマシン経営論 第3章 遠近歪曲トラップ~『日本はダメ』という言説を疑え! 判断を惑わす罠を回避するには?」という御誌の記事によると、2018年の1人当たりGDPでシンガポールが世界8位となっています。5つの「アジアの先進国」の中で唯一の10位以内です。つまり「アジアの先進国」の中で日本の「1人当たりGDPが最も高い」とは言えません。

今回の記事では2017年のデータを基にしているのかもしれませんが、日本の3位は変わらないはずです。イスラエルに関しては「中東はアジアではない」といった解釈が成り立つ余地はあります。しかしシンガポールを「アジアの先進国」から除くのはかなり難しそうです。「OECD加盟国ではないから」とすると、なぜ「台湾」を「アジアの先進国」に含めたのかという問題が生じます。

「(日本は)アジアの先進国の中では、韓国、台湾を上回り、1人当たりGDPが最も高い」との記述は誤りと見て良いのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


◇   ◇   ◇


回答があれば改めて取り上げたい。


※今回取り上げた記事「世界の最新経営理論 ウリケ・シェーデの再興THE KAISHA(1)『20ー80現象』から脱却せよ~『日本経済は強い』は正しい

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00123/00099/


※記事の評価は回答を見て決めたい

2021年7月9日金曜日

「本格参入」済みでは? 「グーグル、日本で金融参入」に見える日経の悪癖

9日の日本経済新聞朝刊1面に載った「グーグル、日本で金融参入~スマホ決済会社を買収」という記事には日経の悪い癖が出ている。全文を見た上で具体的に指摘したい。

筑後川と片の瀬橋

【日経の記事】

米グーグルが日本で金融事業に本格参入することが8日までにわかった。国内のスマートフォン決済会社を200億円超で買収し、インドや米国に続き日本でも2022年をめどに自社グループで送金・決済サービスを始めるもようだ。巨大IT(情報技術)企業の参入で金融と異業種の合従連衡が一段と加速する。

グーグルが買収するのはスタートアップ企業のpring(プリン、東京・港)。17年に決済代行のメタップスや、みずほ銀行などが共同出資して設立した資金移動業者だ。複数の関係者によると、グーグルがみずほ銀行などプリンの既存株主から全株式を200億~300億円で取得する方向で最終調整に入った。

日本は先進国のなかでもキャッシュレス決済の普及が遅れており、開拓の余地が大きいと判断したようだ。米国のITプラットフォーマーは膨大な顧客基盤やデータを生かし、金融に事業領域を広げている。グーグルの参入で日本でもデジタル金融を巡り既存の金融機関やネット企業との競争が激しくなる。

グーグルの広報担当者は日本経済新聞の問い合わせに対し「噂や臆測にはコメントしない」と回答した。

プリンは銀行口座をひも付けて入金しQRコード決済ができるアプリを手がける。登録者は数十万人程度とみられるが、使い勝手の良さが若年層を中心に支持を集める。


◎「本格参入」ならば…

記事の冒頭で「本格参入」の文字を見て「またやったな」と思わずにはいられなかった。

見出しは「本格参入」ではなく「参入」だ。「金融事業」を新規に立ち上げるのかと思って読み始めると「本格参入」になっている。「本格」的ではない「参入」はしているのだろう。嘘は書いていないとしても、騙された感じにはなる。

さらに問題なのは、「本格」的ではない「参入」の具体的な内容に触れていないことだ。

本格参入」という表現にしたのはグーグルペイの存在があるからだろう。「米グーグルが日本で金融事業」を実験的にしか展開していないのならば「本格参入」でいい。しかしグーグルペイなどでかなり「本格」的にやっているのならば「本格参入」とは言い難い。

本格」的ではない「参入」について記事中で規模などを説明してくれれば「本格参入」という説明が適切かどうか読者が判断できる。言及しなかったのがうっかりなのか意図的なのかは分からない。ただ後者の可能性が高そうな気はする。

グーグルペイなどの現状に触れると「既に本格参入済みでは?」との疑いを持たれてしまうので言及を避けたのならば、さらに騙しの要素が強くなる。

日経の記事で「本格参入」の文字を見たら要注意。このことは改めて訴えておきたい。

ついでに語順の問題にも触れておきたい。

17年に決済代行のメタップスや、みずほ銀行などが共同出資して設立した資金移動業者だ」と書くと「17年に」と「共同出資して設立した」が離れてしまう上に、間に読点が入ってしまうので読みづらい。「決済代行のメタップスや、みずほ銀行などが17年に共同出資して設立した資金移動業者だ」などとした方が良い。


※今回取り上げた記事「グーグル、日本で金融参入~スマホ決済会社を買収

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210709&ng=DGKKZO73716210Z00C21A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月8日木曜日

具体策なしに「成長促進と財政規律」の両立を求める日経の社説

8日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「成長促進と財政規律を両立できる予算に」という社説は「ホームランを量産しつつ三振も避けるバッテッィングを」と求めているようなものだ。「求めるな」とは言わない。だが「両立」が難しいものに関して「両立」を求めるのならば具体策が欲しい。なのに抽象的な訴えが目立つ。

夕暮れ時の風景

全文を見た上でさらに論じたい。

【日経の社説】

政府は7日の閣議で、2022年度予算の概算要求基準を了解した。これに沿った各省庁の概算要求を8月末に締め切り、年末に予算案を編成する運びだ。

財政の規律を保ちつつ、新型コロナウイルス対策や成長基盤の強化に国費を重点配分する必要がある。不要不急の支出で予算をいたずらに膨らませてはならない

21年度予算の編成は、コロナ禍で異例の対応を迫られた。感染症の収束を予見できないという理由で明確な概算要求基準の設定を見送り、各省庁の概算要求の締め切りも1カ月延ばした。

コロナ対策については、金額を明記しない「事項要求」を今回も認める。ただ成長戦略を推進するための「特別枠」を設け、高齢化の進展に伴う社会保障費の「自然増」を抑える目安を示すなど、例年の手法に近い形に戻した。

コロナ禍の克服はいまも最優先の課題だ。とはいえワクチンの接種率が上がり、経済社会活動の正常化が進むにつれて、この先の成長基盤の強化や財政の健全化をより強く意識せざるを得ない。

緊急時でも投入できる国費には限りがある。政府が「青天井」の概算要求を見直し、一定の基準を復活させたのは妥当だろう。

重要なのは無駄やばらまきを排し「賢い支出」に徹する姿勢だ。20~21年度の国の一般会計総額は当初予算と補正予算の合計で280兆円を超えたが、使い残しや繰り越しも目立つという。その検証を怠ったまま、むやみに予算を積み上げていいはずがない。

コロナ対応の名目で経済対策を繰り返しても、困窮者の救済や病床の確保といった問題はなかなか解消しない。背景には様々な要因があろうが、予算配分の優先順位も正しいとは言い難い。

成長戦略にも同じことが言える。デジタル化やグリーン化などの推進に予算を重点配分するのは当然だが、緊急性や必要性の高い事業を選別しなければ、絵に描いた餅になりかねない。

各省庁は節度とメリハリのある概算要求を心がけるべきだ。景気の回復で税収が堅調なのを幸いに、コロナ対策の不透明な事項要求を連発したり、成長戦略の名目で不要な公共事業や施設整備を強要したりするのは許されない。

コロナ対策はもちろん、成長の促進や財源の確保に心を砕くのは米欧も同じだ。日本も責任ある予算編成を心がけたい


◎「投入できる国費には限りがある」?

重要なのは無駄やばらまきを排し『賢い支出』に徹する姿勢だ」と言うが「賢い支出」に当たるかどうかの判断基準は示していない。「予算配分の優先順位も正しいとは言い難い」とも書いている。しかし、「予算配分の優先順位」の正解は教えてくれない。「緊急性や必要性の高い事業を選別しなければ、絵に描いた餅になりかねない」とも訴えてはみるものの「緊急性や必要性の高い事業」の「選別」方法は示していない。

それで結局「日本も責任ある予算編成を心がけたい」と社説を締めている。「具体策は示さないけど上手くやってね」的な社説に意味があるのか。

さらに言えば「財政規律」を保てているのかどうやって判断するのかという問題も残る。「財政の規律を保ちつつ、新型コロナウイルス対策や成長基盤の強化に国費を重点配分する必要がある」との記述から判断すると、現状ではまだ「財政の規律」を保てていると筆者は見ているのだろう。しかし、どういう状況になると「財政規律」が保てていないと判断するのかは触れていない。

もう1つ指摘しておきたい。

緊急時でも投入できる国費には限りがある」と書いているが、「投入できる国費」の限界はどこにあるのか。政府・日銀は無限に日本円を創出できる。「投入できる国費」に「限り」はない。

金本位制ならば当然に「限り」はある。しかし日本は金本位制ではない。本当に「限りがある」のか。日経の論説委員は改めて考えてほしい。


※今回取り上げた社説「成長促進と財政規律を両立できる予算に

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210708&ng=DGKKZO73671240Y1A700C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2021年7月7日水曜日

「魔球」は「隠し球」? 東洋経済「フォーカス政治」の例えがおかしい歳川隆雄インサイドライン編集長

例えは上手く使えば効果的だが、嵌らないとかえって説得力がなくなってしまう。週刊東洋経済7月10日号にインサイドライン編集長の歳川隆雄氏が書いた「フォーカス政治~総選挙で政権維持狙う菅氏の『魔球』」という記事は後者だと感じた。当該部分を見ていこう。

熊本港

【東洋経済の記事】 

野球に例えれば、菅義偉首相は昨年9月に無死満塁で満を持して登板したリリーフエースだった

確かに、マウンドに立った菅投手はいきなり「携帯電話料金引き下げ」と「不妊治療への保険適用」という豪速球で2者連続三振に討ち取り、残るはあと1人までいった。だが年が明けて程なく、自民、公明党議員4人の「夜の銀座」問題や森喜朗東京五輪組織委員会会長の「女性蔑視」発言といった自軍野手のエラーがあったうえに「長男の接待」疑惑で自らが乱調を来し、四球連発に加えて新型コロナウイルス対策すべてが後手に回るという思わぬ長打も浴びて、茫然自失の状態に陥った。

なぜ、菅投手は突然の乱調を来したのか。捕手の出す投球サインに従わない。ピッチングコーチがマウンドに駆け寄って助言しても断る投手なのだ。配球の組み立てだけでなく、試合運びまですべてを仕切る。まるでプレイングマネジャーである。

そんな菅投手は降板やむなしと思われたものの、何とか踏みとどまった。苦手意識が強いとされた外交・安全保障政策で見せ場をつくり、想定外のバッティングを見せたのである。4月に米ワシントンでジョー・バイデン大統領との日米首脳会談、続いて6月に英コーンウォールで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「点数」を稼いだ。菅氏はバイデン氏との緊密な連携によって、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と「われわれは東京五輪・パラリンピック開催支持を再度表明する」の文言をG7首脳宣言に盛り込み、日米主導をアピールしたのだ。同点に追いつかれて延長戦となったが、自らのクリーンヒットで再び勝ち越した形である


◎9回に登板?

菅義偉首相は昨年9月に無死満塁で満を持して登板したリリーフエース」だと歳川氏は言う。自民党総裁の任期が3年で残り1年の任期を引き継いだのだから「エースの負傷で7回から緊急登板したリリーフ投手」といったところではないか。

同点に追いつかれて延長戦となった」とも歳川氏は書いている。任期の延長などがあったならば分かるが、それがないのになぜ「延長戦」と言えるのか。説明はない。

そもそも「残るはあと1人」とは具体的には何だったのか。「携帯電話料金引き下げ」と「不妊治療への保険適用」は「豪速球」とピッチングで例えているのに、「G7サミット」が「クリーンヒット」と打撃になってしまうのもよく分からない。「携帯電話料金引き下げ」は守りで「G7サミット」は攻めという訳でもないだろう。

歳川氏はこの後「『コロナ退治』という魔球」に触れて、最後は以下のように記事を締めている。


【東洋経済の記事】

菅氏が直面する最大の問題は、現有の衆院277議席の減少をどこまで抑えられるかである。10月総選挙の予想だが、現時点の相場観では「35議席減±10」である。

そこで注目の菅投手の魔球だ。金銀銅メダルラッシュを通じた「東京五輪フィーバー」期待である。その余韻を残して総選挙に臨み、政権の維持と長期化を目指す菅氏の隠し球は、自らが生み出したものではないのだ。


◎「魔球」は「隠し球」?

魔球」は「コロナ退治」のはずだが、最後で「東京五輪フィーバー」に話が変わっている。関連性がある話なので、ギリギリ許容範囲内としよう。しかし、その後が苦しい。「東京五輪フィーバー」は「隠し球」でもあるらしい。

野球に例えれば」と冒頭で宣言したのならば「野球」に忠実であってほしい。打者に投げ込む「魔球」が「隠し球」になり得ないことは野球に関心がある人ならば誰でも分かる。例えとして成立していない。

ついでに言うと「菅氏の隠し球は、自らが生み出したものではないのだ」という説明には納得できない。歳川氏の見方では「ワクチン接種拡大で『コロナ退治』は成功しつつある」はずだ。これは「菅氏」が投げ込んだ「魔球」だったのではないのか。

コロナ退治」が「成功しつつある」状況の方が「東京五輪フィーバー」は起きやすい。本当に「菅氏」の力によって「コロナ退治」が実現しつつあるのならば「東京五輪フィーバー」の一部は「自らが生み出したもの」と見て良いのではないか。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~総選挙で政権維持狙う菅氏の『魔球』」https://premium.toyokeizai.net/articles/-/27419


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月6日火曜日

ミス放置を続ける東洋経済の西村豪太編集長こそ「当事者能力なきトップ」では?

週刊東洋経済の西村豪太編集長は自らを「当事者能力」のある編集「トップ」だと本気で思っているのだろうか。7月10日号の「編集部から」で西村氏は以下のように記している。

久留米市野球場

【東洋経済の記事】

いろいろ言葉は飾るけどね、デジタルなんてわからないから、もう辞めるしかないのさ──。最近、相談役に退いた経営者がそう独白していました。社員はほっとしていることでしょう。当事者能力なきトップが地位に執着したら万事休すです

コーポレートガバナンスは企業統治と訳されますが、しっくりきません。トップが企業をどう統治するかではなく、経営者をいかに監督し牽制するかが、この概念の本質だからでしょう。トップ人事はその最たるものです。後継指名の権力を社長が持っているという仕組みは、日本企業の経営者をどんどん小粒にしてきました。やはりトップを独裁者にしない仕組みは不可欠です。


◎ダメな編集長をどう「監督し牽制する」?

週刊東洋経済には訂正記事がほとんど載らない。それだけミスが少ない雑誌ならば素晴らしい。しかし、そうではない。間違いは当たり前にある。読者からの指摘もある。しかし指摘を無視してミスを放置してきた。編集長が誌面作りの最高責任者だとすれば、西村編集長の責任は免れない。

日経ビジネスでは東昌樹 前編集長、週刊ダイヤモンドでは山口圭介編集長が就任してミス放置の悪癖が治った。他誌では編集長が代わるタイミングで方針変更が起きたことを考えると、東洋経済でも編集長次第で好ましい変化が期待できる。

しかし東洋経済は、ミス放置を繰り返してきた西村編集長を再登板させるという人事に踏み切ってしまった。西村編集長がどうしてもミス放置にこだわるのならば「当事者能力なきトップ」と言うほかない。まともな「トップ」を待望する「編集部」の部員も多いだろう。

間違い指摘があればきちんと調べて回答し、誤りがあれば訂正するーー。そんな当たり前のことさえできない西村編集長が「当事者能力なきトップが地位に執着したら万事休すです」などと書いているのは悪い冗談にしか見えない。

トップを独裁者にしない仕組みは不可欠」との見方は否定しない。ただ「西村氏のような人物を雑誌の編集長にしない仕組み」もまた「不可欠」ではないのか。


※今回取り上げた記事「編集部から


※記事の評価はD(問題あり)。西村豪太編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西村編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

道を踏み外した東洋経済 西村豪太編集長代理へ贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_4.html

「過ちて改めざる」東洋経済の西村豪太新編集長への手紙
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_4.html

訂正記事を訂正できるか 東洋経済 西村豪太編集長に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_25.html

「巨大地震で円暴落」?東洋経済 西村豪太編集長のウブさ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_19.html

金融庁批判の資格なし 東洋経済の西村豪太編集長
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_19.html

「貿易赤字の解消」で正解?東洋経済 西村豪太編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_72.html

編集長時代はミス黙殺 コラムニストとしても苦しい東洋経済 西村豪太氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_24.html

ミス放置を続ける東洋経済 西村豪太編集長が片付けるべき「大きな宿題」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_6.html

2021年7月5日月曜日

「無痛分娩」は増えるべき? スプツニ子!氏が日経女性面で見せた雑な主張

5日の日本経済新聞朝刊女性面にアーティストのスプツニ子!氏が書いた「ダイバーシティ進化論~関心高まるフェムテック 体の課題 置き去りにしない」という記事は雑な主張が目立った。中身を見ながら具体的に指摘したい。 

筑後川

【日経の記事】

だが、女性の体への理解はまだまだ途上だ。例えば、日本では麻酔によって陣痛を和らげる無痛分娩が浸透していない。麻酔医の不足などに加え「出産が痛いのは当たり前」との固定観念が足かせになっている

「忍耐は美徳」という考え方が根底にあるのだろう。「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」という言説すら聞く。それに違和感を覚える女性もいる。なのに課題解決が進まないのは、医療や政治の現場の意思決定層に女性が少なく、当事者のつらさが実感されづらいからではないか


◎何が問題?

課題解決が進まない」とスプツニ子!氏は言うが、何が問題なのかはっきりしない。「無痛分娩」を希望しても叶わない例が多いのならば分かるが、そうは書いていない。

『出産が痛いのは当たり前』との固定観念が足かせ」になって「無痛分娩」が増えないとしても、希望する人には対応できる環境があるのならば、それでいいのではないか。

出産が痛いのは当たり前」という考えが間違っている訳でもない。「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」と感じる女性がいるかもしれない。だが、周りがとやかく言う問題でもない。

もちろん、その考えに「違和感を覚える女性もいる」だろう。だからと言って「違和感を覚える女性」が正義であり、「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」と感じる女性が考えを変えるべきともならないはずだ。

無痛分娩」を選ぶかどうかは個人任せでいいのではないか。スプツニ子!氏は「無痛分娩」が増えてほしいようだが、個人の自由な選択をなぜ尊重できないのか。

そして話はなぜか「課題解決が進まないのは、医療や政治の現場の意思決定層に女性が少なく、当事者のつらさが実感されづらいからではないか」となってしまう。

痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」と感じる女性の考え方を「医療や政治の現場の意思決定層」が変えさせるべきなのか。「医療や政治の現場の意思決定層に女性」がたくさんいると「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」と考える女性は減っていくのか。

誰かに迷惑をかけている訳でもないのに「痛みを伴わない出産では子に愛情がわかない」と感じる人の考えを「医療や政治の現場の意思決定層」が変えさせようとする社会は、個人的には怖い。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

気になって世界経済フォーラムの男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数と、各国の無痛分娩の普及率を比較してみた。すると、21年のジェンダー・ギャップランキングで156カ国中2位のフィンランドは普及率が9割だった。16位のフランスは8割、23位の英国は6割だ。一方、120位の日本は6%にとどまる。


◎相関がある?

ジェンダー・ギャップ指数」と「無痛分娩の普及率」には相関関係があるとスプツニ子!氏は言いたいのだろう。しかし、なぜか「2位」「16位」「23位」と法則性のない順位で見ている。これでは「相関関係があるように見えるサンプルを恣意的に選んだ」と勘繰られても仕方がない。

ジェンダー・ギャップ指数」の10位以内にはナミビア、ルワンダといった途上国も入っている。本当に「ジェンダー・ギャップ指数」と「無痛分娩の普及率」には相関関係があるのか。

さらに言えば、相関関係があるとしても因果関係があるとは限らない。なのでデータの扱いには慎重になるべきだが、スプツニ子!氏にはそうした配慮が感じられない。

無痛分娩の普及率」は「9割」の方が「6%」より優れている訳ではない。個人が自由に選択した結果ならば「9割」でも「6%」でも問題はない。スプツニ子!氏は「無痛分娩」支持派なのだろう。だからと言って、考えを異にする女性を自らの側に誘導すべきなのか。改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~関心高まるフェムテック 体の課題 置き去りにしない

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210705&ng=DGKKZO73494140S1A700C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月4日日曜日

ミス放置常習犯の日経が「性懲りもない三菱電機の不正」と社説で訴えても…

「どの口が言う」とはこのことだろう。4日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「性懲りもない三菱電機の不正」という社説では「不祥事が止まらない」三菱電機をしっかり批判している。「落ちた犬は叩けるが、落ちる前には叩けない」という日経の特徴も出ているが、それは良しとしよう。そもそも日経には三菱電機を批判する資格があるのか。社説の前半を見た上で論じたい。

筑後川昇開橋

【日経の社説】

「企業は社会的な存在」というイロハのイを忘れてしまったのだろうか

今年設立100年の節目を迎えた三菱電機で検査不正をはじめとする不祥事が止まらない。不正の公表プロセスにも疑問がある。杉山武史社長は2日、引責辞任する意向を表明したが、トップの去就で問題は解決しない。原因解明と再発防止を徹底しなければ、名門企業の再浮上は難しいだろう。

今回発覚したのは、鉄道車両用の空調装置と、同じくブレーキやドアを動かすための空気圧縮装置をめぐる検査の不正だ。

鉄道会社との契約で定めた所定の検査手順を相手の了承なしに変更しただけではない。専用プログラムで架空の検査結果を生成し、それを相手に報告するという偽装工作まで施していた。

同社は「結果として安全性に問題はなかった」と繰り返すが、なぜこんな手の込んだまねを、長期間にわたり続けてきたのか。組織文化や現場のコミュニケーションに重大な問題があったのは想像に難くなく、原因解明なしには再発防止も絵に描いた餅だろう


◎日経は「イロハのイ」が分かってる?

『企業は社会的な存在』というイロハのイを忘れてしまったのだろうか」と冒頭で訴えている。記事の誤りに関する読者の指摘を当たり前のように無視して多くのミスを放置する新聞社があったとしよう。この新聞社は「『企業は社会的な存在』というイロハのイ」をしっかり認識していると言えるだろうか。

記事に誤りがあるのは仕方がない。とは言え、間違い指摘を受けた場合はきちんと回答し、誤りがあれば訂正記事を載せるのが当然だ。記事に書いてあることが基本的には正しいと思って読者は新聞に目を通している。間違い指摘を無視してミスを放置する新聞社は「社会的な存在」としての責任を果たしているとは言い難い。

その新聞社に該当するのが日経だ。「『新聞社は社会的な存在』というイロハのイを忘れてしまったのだろうか」と言われても仕方がない。「間違い指摘を無視してミスの放置を続けてきた我々は正しいのです」と堂々と主張できる日経関係者はいないだろう。

なのになぜこんな対応を「長期間にわたり続けてきたのか」。「組織文化や現場のコミュニケーションに重大な問題があったのは想像に難くなく、原因解明なしには再発防止も絵に描いた餅」だ。

問題の存在を認めて社長が「引責辞任する意向を表明した」三菱電機の方が先を行っている。日経にとってはむしろ見習うべき存在だ。自分たちはなぜ「イロハのイを忘れてしまった」状態から抜け出せないのか。

まずはそこを考えるべきだ。


※今回取り上げた社説「性懲りもない三菱電機の不正

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210704&ng=DGKKZO73553180T00C21A7EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2021年7月3日土曜日

「中国は孤立」と言い切る日経の秋田浩之氏はロシアやイランとの関係を見よ

日本経済新聞の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)の解説は引っかかるところが多い。3日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~共産党王朝、なぜ生き急ぐ」という記事もそうだ。「中国は強気な言動から周辺国やオーストラリア、欧州とも対立し、自らを孤立させている」と秋田氏は言うが、そうだろうか。

耳納連山と夕陽

3月22日付の「中国、対米共闘探る ロシアや北朝鮮と」という日経の記事では「中国の習近平(シー・ジンピン)指導部はバイデン米政権にらみでロシアや北朝鮮と共闘を探る」と書いている。ロシアも北朝鮮も中国の「周辺国」だ。

この記事には「中国はロシアや北朝鮮に加えて、イランなども含めた計17の国・地域とともに内政不干渉の原則などを掲げる『国連憲章』の護持を名目に有志グループを発足させる計画だ」との記述もある。なのに「自らを孤立させている」と言えるのか。

6月16日付の「『一帯一路』で成長加速~ネパール首相 K・P・シャルマ・オリ氏」という日経の記事では周辺国「ネパール」の首相が以下のように語っている。

中国とは常に良好な関係を保っている。習近平(シー・ジンピン)国家主席がネパールを公式訪問した際、戦略的パートナーシップを進化させることで合意した。ネパールも中国の広域経済圏構想『一帯一路』に協力する覚書に署名し、現在は実施計画作りに向けて交渉している

これも中国が「自らを孤立させている」という秋田氏の見立てと整合しない。

もう1つ日経の記事を紹介したい。3月27日付の「中国とイラン、25カ年協定調印~民主主義陣営に対抗」という記事によると「中国は核合意離脱後に米国との溝が埋まらないイランと接近し、米欧の民主主義陣営への対抗軸をつくる」という。これも「孤立」とは逆の方向に中国が動いていることを裏付ける。

それでも秋田氏は中国が「自らを孤立させている」と見えるのか。中国はロシアやイランとも「対立」関係にあると思い込んでいるのか。だとしたら秋田氏の解説に耳を傾けるのは危うい。

最後に記事中の「中国の歴史上、永遠に続いた王朝はない」という説明にもツッコミを入れておきたい。未来が確定していないので、現時点で「永遠に続いた」と断定できるものは存在しない。ほとんど意味のない説明だ。

未来を含めても「永遠に続く王朝はない」とは思う。しかし、これも意味がない。人類そのものも「永遠に続く」可能性はほぼゼロだ。「中国」の「王朝」に限らず、ほとんどのものがいずれ消えてなくなる運命にある。地球も太陽も…。秋田氏は違う考えなのか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~共産党王朝、なぜ生き急ぐ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210703&ng=DGKKZO73528390S1A700C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
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英仏は本当に休んでた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight~準大国の休息は終わった」
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2021年7月2日金曜日

「情報収集、SNS主流に」と言える根拠が見当たらない日経の記事

 最近の日本経済新聞では、背景説明ばかりで肝心の情報が乏しい記事が目立つ。2日の朝刊テック面に載った「情報収集、SNS主流に~10~50代 民間調査、半数以上が検索機能利用」という記事もそうだ。全文は以下の通り。

夕暮れ時の工事現場

【日経の記事】

SNS(交流サイト)が情報収集ツールとして存在感を高めている。ハッシュタグ(検索目印)やリコメンド機能で情報を取得する人が増え、民間調査では半数以上がSNSの検索機能を使うと回答。SNS各社は検索機能の拡充を進め利用者の囲い込みを急ぐ。

調査会社ゼネラルリサーチ(東京・渋谷)が10~50代の男女1000人に実施した調査では、5割以上が情報収集などでSNSの検索機能を使うと答えた。電通メディアイノベーションラボの天野彬氏は「若者は検索の主流がグーグルを利用する『ググる』からSNSのタグを探す『タグる』に移った」と指摘する。

SNSでの検索の強みはリアルタイム性だ。例えばツイッターの場合、外出先の天気や電車の遅延情報などすぐに必要な情報を得るのに向く。ガイアックスでSNSマーケティング事業を統括する重枝義樹氏は「飲食店の混み具合などSNSだけで瞬時に必要な情報が把握できる」と話す。

インスタグラムでは20年11月に米国などでキーワード検索機能が追加された。従来は投稿にハッシュタグが付随していない場合、検索しても結果に表示されなかった。新機能ではキーワードを入力すると、アカウント、位置情報などを含む複数の要素から関連性の高い投稿が検索できる。

動画投稿アプリのTikTokは、ビッグデータと機械学習を用いた計算手法(アルゴリズム)により自ら検索しなくてもリコメンドされた動画からトレンド情報などを収集できる。バイトダンス日本法人の佐藤陽一氏は「画像検索など動画とリンクした検索機能の追加も検討する」と話す。


◎何を根拠に「主流」と判断?

見出しで「情報収集、SNS主流に」と打ち出し、本文では「SNS(交流サイト)が情報収集ツールとして存在感を高めている」と書いているが、それを裏付けるデータは見当たらない。

調査会社ゼネラルリサーチ(東京・渋谷)が10~50代の男女1000人に実施した調査では、5割以上が情報収集などでSNSの検索機能を使うと答えた」とは書いている。しかし、これでは「情報収集、SNS主流に」とは言い切れない。テレビなどとの比較がないからだ。

若者は検索の主流がグーグルを利用する『ググる』からSNSのタグを探す『タグる』に移った」とのコメントは出てくるが、「検索の主流がグーグル」から「SNS」に移っていると言えるデータも、やはりない。しかも、このコメントは「若者」限定の話だ。

では「SNSが情報収集ツールとして存在感を高めている」とは言えるだろうか。これも苦しい。「存在感を高めている」ことを裏付けるためには過去との比較が要る。いつと比べて、どのぐらい「存在感を高めている」のか具体的な数値を見せてほしい。「SNS」がなかった時代と比べて「存在感を高めている」と訴えたい訳ではないはずだ。

結局、肝心の情報を伝えないまま記事の半分以上を背景説明に費やしている。

こんな説得力の乏しい記事でいいのか。よく考えてほしい。


※今回取り上げた記事「情報収集、SNS主流に~10~50代 民間調査、半数以上が検索機能利用


※記事の評価はD(問題あり)