2018年6月6日水曜日

日経ビジネス特集「2030年の負動産」に見える2つの誤解

日経ビジネス6月4日号の特集「ビッグデータが語る 2030年の負動産」によると「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調」らしい。「(日本の住宅は)需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」とも書いていた。どちらも本当だろうか。
させぼシーサイドパーク(長崎県佐世保市)
        ※写真と本文は無関係です

担当者らへの問い合わせと、それに対する回答を見てほしい。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 山田宏逸様 武田安恵様 吉岡陽様 広岡延隆様

6月4日号の特集「ビッグデータが語る 2030年の負動産」についてお尋ねします。質問は2つです。

<質問その1>

PART 2~2030年を占う 不動産価値の行方 ビッグデータと識者による分析」という記事の中に「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調にあった。だが、そのトレンドが転換しつつある今、資産形成を第一の目標として住宅を取得する考え方は曲がり角に来ている」との記述があります。本当に「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調」だったのでしょうか。特集に載せた「2030年の価格推計」ではマンション価格と地価を予測しているので、この2つを「不動産価格」としましょう。

まず、マンションです。東京カンテイの「マンションデータ白書」で首都圏のマンション価格を見ると、首都圏の新築平均価格はリーマンショックが起きた2008年の4662万円から4年連続で下がり、12年には4241万円となっています。中古平均価格も似たような動きです。坪単価を含めても「リーマンショック後、一貫して上昇基調」とは言えません。

地価については東京都の公示地価(住宅地)で見てみましょう。2009年から13年まで5年連続の下落で、09年、10年は6%台の大きな下げとなっています。地方も含めた全国で見ると、住宅地の公示地価は18年にようやく10年ぶりのプラスとなっています。「リーマンショック後、一貫して上昇基調」とは逆に近い推移です。

リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調にあった」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問その2>

PART 4~官製市場さらに色濃く 日銀が支え、業者は笑う 政治が阻む『身の丈の量』」という記事では、以下の記述が引っかかりました。

財政を痛めても家計支援を膨らませる政策があり、それを支える日銀、その都度胸をなで下ろす業者がもたれ合う構図だ。需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い

特集のPART1では「千葉県内の新築分譲マンション」に関して、在庫処分のために「500万円値引きして売却にこぎ着けた」ケースを紹介しています。これは「需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」のでしょうか。需給を反映して価格が決まっているようにしか見えません。PART3の「ニセコ・倶知安(北海道) 『建設ラッシュ』で地価急上昇」という事例でも、需要増加が価格上昇をもたらす「需給」の「メカニズム」が働いていると考えられます。
着陸寸前のハンググライダー(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

金融・財政政策が価格を下支えする面はもちろんあるでしょう。だからと言って「需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」とは断定できないはずです。常識的に言っても、特集の事例から考えても、日本の不動産市場では「需給で価格が決まるメカニズム」が機能しているのではありませんか。そうでないとしたら、特集の「2030年の価格推計」で地域によって大きな差が生じる理由をどう理解したらよいのでしょうか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

平素は弊誌「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

6月4日号の特集「ビッグデータが語る 2030年の負動産」に関して、お問い合わせいただいた件につきまして回答いたします。

「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調にあった。だが、そのトレンドが転換しつつある今、資産形成を第一の目標として住宅を取得する考え方は曲がり角に来ている」との文言についてご指摘をいただきました。

ここで言う不動産価格は主に、住宅価格、中でもパート2の主題である首都圏のマンション価格を想定しております。マンションの新築平均価格はリーマンショックの影響を受けて下落した後、大幅に上昇しました。結果として2008年の新築平均価格を2018年時点では大きく上回っているという推移です。

ただ、ご指摘の通り、下落していた年がございますので、「リーマンショック後」ではなく「リーマンショックの影響で低迷した後」などとと書くほうが、誤解を生まない表現であっただろうと考えております。今後はより正確さを期すよう努めて参りたいと考えております。

もうひとつお問い合わせいただきました「需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」という表現については、ご意見を承りました。

回答は以上です。どうぞよろしくお願いします。

◇   ◇   ◇

結局、「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調にあった」とは言えないようだ。「2012年まで下げ続けて、その後は上昇」という事実を知っていたのに「リーマンショック後、不動産価格は一貫して上昇基調にあった」と書いたのであれば、救いようがない。おそらく、漠然とした記憶に基づいて書いてしまったのだろう。

さらに言えば「ここで言う不動産価格は主に、住宅価格、中でもパート2の主題である首都圏のマンション価格を想定」していたのならば、そう書いた方がいい。「不動産価格は一貫して上昇基調」と表現する場合、不動産が全体として値上がりを続けている状況が欲しい。

需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」については実質的にゼロ回答なので、反論の材料はないのだろう。こちらも、本当に「需給でおのずと価格が決まるメカニズムにはほど遠い」のかを十分に検討せず、勢いで書いたと推測できる。

こうした書き方をすると、他のところはしっかり書けていても全体的な印象は悪くなる。断定的な表現を用いる時は「本当にそう言えるのか」を改めて考えてほしい。


※今回取り上げた特集「ビッグデータが語る 2030年の負動産
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/052900993/?ST=pc


※特集全体の評価はD(問題あり)。山田宏逸記者への評価はDで確定とする。武田安恵記者と広岡延隆記者はDを据え置く。吉岡陽記者はC(平均的)からDへ引き下げる。

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