2020年6月30日火曜日

1面トップの「本格参入」が苦しい日経「NTT、再生エネ本格参入」

日本経済新聞で「本格参入」という文字を見つけたら要注意だと繰り返し訴えてきた。30日の朝刊では1面トップに「NTT、再生エネ本格参入~1兆円超投資、自前で発送電 電力市場の競争一変」という記事を持ってきている。中身を見ると、やはり「本格参入」が苦しい。
日田駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

まずは最初の段落を見ていく。

【日経の記事】

NTTが2030年度までに自前の発送電網を整備し、再生可能エネルギー事業に本格参入する。日本の再生エネルギー発電容量の1割にあたる750万キロワットの発電力を確保し、独自の発送電網も使って顧客に直販する。脱炭素の流れが強まるなか、資本力がある再生エネルギー事業者が生まれることで国内電力の競争環境が一変する

◇   ◇   ◇

本格参入」を使ったことで1面トップらしさは出ている。「国内電力の競争環境が一変する」かどうか怪しい感じもするが、意義付けもそれらしくなっている。

しかし、あくまで「本格参入」なので、徐々に厳しくなってくる。記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

16年の電力自由化(総合2面きょうのことば)以来、発送電網を全国で展開できる事業者の参入は初めてだ。NTTは今の発電容量を25倍に増強する。25年まで年間1000億円程度を投資する。30年度までの累計は1兆円を超える可能性がある。容量は四国電力1社分を上回り、19年に6135万キロワットあった日本の再生エネ発電容量(大型水力を除く)の12%を占める規模となる。

エネルギー事業を統括するNTTアノードエナジー(東京・千代田)が中核となり発電事業を拡大する。

◇   ◇   ◇

既に「エネルギー事業を統括するNTTアノードエナジー」があって「今の発電容量を25倍に増強する」という。第2段落では「発電事業を拡大する」と書いており、「本格参入」からトーンダウンしたような印象もある。

では「本格参入」と呼ぶのが適切な状況なのだろうか。記事の中にヒントがある。

【日経の記事】

通信ビジネスの成長鈍化に直面するNTTにとって再生エネ事業は次の主力事業の一つだ。同社の現在の再エネ発電容量は30万キロワット。700万キロワット超の再生エネ開発目標は、電力最大手の東京電力ホールディングスが30年代前半までの国内再生エネの開発規模として掲げる200万~300万キロワットを大きく上回る。


◎「30万キロワット」もあるなら…

現在の再エネ発電容量は30万キロワット」らしい。このレベルではまだ「本格参入」ではないと日経は見ているのだろう。

明確な基準はないので「絶対に違う」とは言えない。ただ「電力最大手の東京電力ホールディングスが30年代前半までの国内再生エネの開発規模として掲げる200万~300万キロワット」の約1割の「発電容量」を既に有している。常識的に考えれば「本格参入」していると見るべきだ。

本格参入」を使って話を大きく見せるのは基本的にやめた方がいい。どうしても、ごまかしのテクニックに見えてしまう。


※今回取り上げた記事「NTT、再生エネ本格参入~1兆円超投資、自前で発送電 電力市場の競争一変
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200630&ng=DGKKZO60923240Z20C20A6MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年6月29日月曜日

日経夕刊「プロムナード~がんばれ日経」に見出す希望

新聞に社会を動かす力がどのぐらい残っているのだろうか。ゼロではないとしても、かなり弱くなっているはずだ。全国紙(朝日、読売、毎日、日経、産経)が束になっても週刊文春に遠く及ばない気がする。
恵蘇宿橋(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

29日の日本経済新聞夕刊くらしナビ面に「プロムナード~がんばれ日経」という記事が載っている。落語家の春風亭一之輔氏が「日経新聞」の影響力のなさを心配してくれる内容で、少し切なくなる。

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

たしか第1回のとき「今まで日経新聞をちゃんと読んだことがない」と書いたはずだ。半年経(た)ち、相変わらずまだ読んでいない。連載が始まるからって急に購読するのもすり寄ってるようでなんだかな。だから他の曜日の連載陣がどんな面々なのか未(いま)だに知らない。最初に教えてもらったような気もするが、よく覚えていない。五木寛之さんとかかな? ようは「日経に連載」ということに対して過度な思い入れも喜びもなく、かつ半年限定というところがこの仕事の気楽さの所以(ゆえん)なのだろう。

そんな調子で臨んできたプロムナードなので「手応え」など感じたことは全くない。家内は読みもしない。昨日「そんな連載してたの?」と言われたし、ネットでも私の文章に対する感想らしきものも見当たらず、担当者の感想すら私の耳に入らない。手厳しい感想だからマネージャーが止めてるのだろうか? 友達からの意見も聴かない。ここまで反応がないと、失礼ながら逆に「日経大丈夫か?」と心配になってしまう。いらぬお世話だろうか?

そういえば一度だけ、仕事で会った女性に「読んでます」と言われたことがある。そう言われるとなんだかんだで嬉(うれ)しい。「ありがとうございます!」「楽しみにしてる、みたいですよ」「え、あなたじゃなくて?」「はい、私の夫の友達が……」。だいぶ距離がある。夫の友達。まるで赤の他人じゃないか。「会社帰りの電車で読んでるそうですよ。一之輔さんの文を読んでると自分が日経を手にしてることを忘れる、と、そんなことを言ってる友達がいるんだよ、うちの夫が教えてくれました。今日一之輔さんに会えると分かったんで夫に話したら、そんな友達がいると一之輔さんに伝えておいて、と言われたのでお伝え出来(でき)て良かったです」

会話を書き出してみて改めて「遠さ」を感じる……とはいえ、一応読んでいる人はいるとわかって少し嬉(うれ)しい。「旦那さんのご友人によろしくお伝えください」「私は会ったことないんですけど……」「ですね、じゃ旦那さんによろしくお伝えください」「はい」「ところで日経はお読みには……」「うちは新聞とってないので」「ですね」。やっぱりだ。日経新聞、もっとがんばれ。



◎載せたことに意義あり

結局、筆者も「日経新聞をちゃんと読んだことがない」らしい。連載を始めても「家内は読みもしない」。「仕事で会った女性」の「夫の友達」が確認できた唯一の読者だ。「一応読んでいる人はいるとわかって少し嬉しい」と言われると物悲しい。

1990年代ごろまでだろうか。朝の通勤電車に乗れば、1両の中で「日経新聞」を読んでいる人を何十人と見つけられた。今はスマホで電子版を読んでいる人も一部いるだろうが、影響力が大幅に減退したのは間違いない。この記事は、そのことを改めて教えてくれる。

ただ、希望もある。「失礼ながら逆に『日経大丈夫か?』と心配になってしまう」と言われた記事をきちんと載せて、そこに「がんばれ日経」という見出しを付けたことだ。

日経は読者からの間違い指摘を平気で握りつぶすダメな部分ももちろんある。ただ、今回のような記事を載せる度量もまだある。そこに光を見出したい。気持ちは春風亭一之輔氏と同じだ。

日経新聞、もっとがんばれ」!!


※今回取り上げた記事「プロムナード~がんばれ日経
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200629&ng=DGKKZO60685470T20C20A6KNTP00


※記事の評価はB(優れている)

2020年6月28日日曜日

週刊ダイヤモンド塙花梨記者「コーヒーの経済学」に感じる市場への理解不足

週刊ダイヤモンドの塙花梨記者は市場に関する理解が不十分だと思える。7月4日号の「コーヒーの経済学~コロナ禍でウチ豆需要急増!」という特集の中の「誰が価格を吸収するのか? 売れるほど困窮する生産者の悲劇」という記事で、コーヒー市場に関して色々と解説しているが、ツッコミどころが多過ぎる。
鮎川港(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

需要が増えていても、近年豆の価格は停滞気味だ。そして、実は「コーヒー」という大きなエコシステムの中で、生産者が割を食っている。なにしろ、コーヒーの小売市場が450億ドルもの巨大市場になっている一方で、生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない。生産者が困窮する構図を説明していこう。


◎「100分の1」は少ない?

コーヒーの小売市場が450億ドルもの巨大市場になっている一方で、生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない」からと言って「生産者が割を食っている」とは限らない。「100分の1」が「生産者」と比べて少な過ぎるかどうかも、上記の説明だけでは何とも言えない。

例えば1杯100円のコーヒーで、コーヒー豆のコストが全体の1%だとしたら「生産者はその100分の1に満たない利益しか得ていない」からと言って、不当に少ない「利益しか得ていない」とは考えにくい。また得ている「利益」が少ないからと言って「困窮」しているとも限らない。

そもそも「小売市場が450億ドル」というのは売上高の話だ。ならば比較するのは「生産者」の売上高が適切だ。「利益」と比べれば、その比率が小さくなるのは当然だ。

記事の続きを見ていこう。


【ダイヤモンドの記事】

コーヒーの価格形成の基準は米ニューヨーク先物取引価格にある。そのため、現実の取引の前に投機家の動向や思惑でコーヒーの売り買いの価格水準が決まってしまう。価格が大きく動き始めると投機家の取引が急激に増え、現実の需給関係とは関連しにくくなる

一方で、予測が外れると需給関係とは逆方向に動く可能性もあるほど大き過ぎる変動を招く。また、予測にばらつきがあると、価格の動きが複雑になっていくのだ。

大き過ぎる変動の一つが2001年から2年間続いたコーヒー危機だ。世界のコーヒー貿易量の約3割を占めるブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし、大暴落。逆に08年のリーマンショック以降は、コーヒーの価格は高騰した。株の取引でもうけられなくなった投機家がコーヒーなどの先物取引に流れ込んできたためだ。


◎辻褄が合わないような…

価格が大きく動き始めると投機家の取引が急激に増え、現実の需給関係とは関連しにくくなる」と書く一方で「大き過ぎる変動の一つが2001年から2年間続いたコーヒー危機だ。世界のコーヒー貿易量の約3割を占めるブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし、大暴落」とも説明している。

ブラジルの豊作により投機家が一気に売り行動を起こし」たのならば「現実の需給関係」ときちんと「関連」している。先物市場に関しては、投機的な動きによって需給を無視したような値動きが見られることもあるが、基本的には需給に基づく相場形成を期待できる。

さらに続きを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

11年は「13年ぶりの高騰」で1ポンド当たり2ドル超、そして18年以降は「12年ぶりの暴落」で1ドルを下回ることが増え、低迷し続けている。世界のコーヒーの40%を生産するブラジルの生産量が伸びていることと、レアル安が要因だ。


◎色々と疑問が…

まず「13年ぶりの高騰」と「12年ぶりの暴落」が引っかかる。書いてある通りならば「13年ぶりの上げ幅」と「12年ぶりの下げ幅」を記録したのだろう。だが、塙記者は「13年ぶりの高値」「12年ぶりの安値」と伝えたかったのではないか。この辺りに未熟さが見える。

さらに言えば、記事に付けた「コーヒー相場の推移」というグラフが18年までなのも感心しない。せめて19年は欲しい。「米ニューヨーク先物取引価格」を使えば、20年前半の価格動向も入れられたはずだ。今回のグラフでは「1ドルを下回ることが増え」ているようには見えない。

さらに続きを見ていく。今回の記事で最も問題を感じたところだ。

【ダイヤモンドの記事】

このように豆の相場は乱高下している一方、一杯のコーヒーの値段の変化は微々たるものだ。18年以降、「コーヒーが極端に安くなったなあ」と感じている人はいないだろう。なぜなのだろうか。

実は、この価格の暴落はそのまま、生産者の生活水準の暴落になっているのだ。需要が増えているからといって、価格アップという形で生産者に還元されることはない。生産者たちは取引力が弱く国際価格の動向に疎いため、仲介業者などの中抜きの被害に遭っている(左ページ図参照)。


◎さらに色々と疑問が…

この価格の暴落はそのまま、生産者の生活水準の暴落になっている」としよう。だからと言って、それが「一杯のコーヒーの値段の変化は微々たるもの」となる理由にはならない。

コーヒー豆の価格が下がっているのならば「生産者の生活水準」がどうであろうと「コーヒーの値段」の下げ要因にはなる。例えば「コーヒーの値段に占める豆のコストがわずかしかない」「豆の仕入れ価格が下がっても、コーヒーチェーンなどが利益を得てしまい、小売価格に反映されない」といった話ならば分かる。なのになぜ「生産者の生活水準の暴落」で説明しようとするのか。

需要が増えているからといって、価格アップという形で生産者に還元されることはない」との説明もおかしい。「需要が増えて」いても供給が増えたりすれば相場は下がる。「(市場)価格の暴落」が起きているのに「価格アップという形で生産者に還元」する方が不自然だ。

生産者たちは取引力が弱く国際価格の動向に疎いため、仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」という説明も納得できない。そもそも「生産者」が「国際価格の動向に疎い」というのが疑問だ。常識的に考えれば「生産者」にとって大きな関心事だろう。

仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」とも考えにくい。記事に付けた「コーヒー豆の価格と商流」という図を見ると「農園」は「精製所」に豆を販売している。そして「仲介業者」が介在しているのは「精製所」と「輸出業者」の間だ。この図の通りならば「中抜き」は起きていない。

そもそも「中抜き」は「被害」なのかという疑問が湧く。メーカーが問屋に販売して、問屋が小売りに卸す場合、問屋の「中抜き」が起きる。この時にメーカーは「中抜きの被害に遭っている」のか。物流や営業などの面で問屋を使うメリットがあるから取引をしているのではないか。

その辺りを考慮せずに「仲介業者などの中抜きの被害に遭っている」と書いているとすれば、やはり市場への理解が不足していると言われても仕方がない。



※今回取り上げた記事「誰が価格を吸収するのか? 売れるほど困窮する生産者の悲劇
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29749


※記事の評価はD(問題あり)。塙花梨記者への評価も暫定でDとする。

2020年6月27日土曜日

やはり苦しい日経 中山淳史氏の「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」

日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)はやはり書き手としては苦しい。27日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」という記事からも、そう判断できる。
有明佐賀空港 空港公園に展示されているYS-11型機
         ※写真と本文は無関係です

中身を見ながら具体的に指摘したい。

【日経の記事】

注目すべきは長さや用途で多様な時間が生まれたことだ。長さで言えば、以前は「こま切れ時間」しかビジネスの対象ではなかった。電車の中の30分。出張の帰り、新幹線を待ちながらの40分。

もちろん、そこには商機があり、巨大市場ができた。例えば、スマートフォンのオンラインゲームは今や、カジノ愛好家をネット上にくぎ付けにし、米ラスベガスから大量の観光客を奪っている。

日本ではラーメンなどの人気店で並ぶ、代行ギグワーカーを多数生んだ。外食産業には「待つ」という新たな産業が加わり、1回千円前後で代行が定着すれば、ラーメン市場の規模を2倍にもしうるエコシステムが構築可能だ


◎「こま切れ時間しかビジネスの対象ではなかった」?

まず「『こま切れ時間』しかビジネスの対象ではなかった」と言えるのか。「出張の帰り、新幹線を待ちながらの40分」と言うが、そこから新幹線に3時間乗る場合もある。こうした人向けに駅の売店ではビールや弁当や本などが売られている。「スマートフォンのオンラインゲーム」も「こま切れ時間」でしかできない訳ではない。自宅で何時間もやる場合もあるだろう。

そう考えると「『こま切れ時間』しかビジネスの対象ではなかった」とは思えない。

ラーメンなどの人気店で並ぶ、代行ギグワーカー」に関して「1回千円前後で代行が定着すれば、ラーメン市場の規模を2倍にもしうるエコシステムが構築可能だ」と書いているのも解せない。

ラーメン店の客単価が1000円だとしよう。「代行」も「ラーメン市場」に加えるとして(無理があるが…)、それでも「ラーメン市場の規模を2倍」にするのは不可能だ。そもそも、多くのラーメン店は並ばずに入れる。「並ぶ」行為を全て「代行ギグワーカー」に任せるという非現実的な前提を置いても「ラーメン市場の規模」は「2倍」にはならない。

全ての客が入店前に「並ぶ」必要があり、全員が「代行ギグワーカー」に任せる場合に、初めて「ラーメン市場の規模」は「2倍」になる。本当に「ラーメン市場の規模を2倍にもしうるエコシステムが構築可能」と言えるだろうか。


今回の記事で最も気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

「時間資本主義の時代」の著書があるフロンティア・マネジメントの松岡真宏代表取締役は「時間経済にもネット書店の『ロングテール(長い尻尾)』のような広がりが生まれている」と注目する。ロングテールとはアマゾンの急成長を支えた経営モデルの呼称だ。

一般に、街中の書店で売れる本の8割は、本のタイトルで見ると全体の2割程度でしかないという。残り8割(ロングテール)は消費者の目に触れる機会も少なく倉庫に眠るわけだが、アマゾンはそうした不採算な本もネット上に並べ、伝統的書店を次々と圧倒していった。規模を勝ち取るには品ぞろえ、すなわちロングテールが重要な要素だったわけだ。

では、時間経済でアマゾンのような存在になるのは誰か、と言えばズームは有力候補であり、GAFAも同様だろう。我々の時間を争奪し合う市場は有望であり、競争はこれからが本番となる。


◎なぜ「ロングテール」だと「ズーム」?

時間経済」では「ロングテールが重要な要素」になると中山氏は言う。そして「時間経済でアマゾンのような存在になるのは誰か、と言えばズームは有力候補であり、GAFAも同様だろう」と解説してくれる。

しかし、「ズーム」と「ロングテール」の関係には触れていない。「ビデオ会議サービス」を手掛ける「ズーム」は「ロングテール」との関連が薄そうに思える。「違う」と中山氏が信じているのならば、どう関係しているのか記事で説明すべきだ。

GAFA」についても、やはり説明はない。「アマゾンのような存在になる」候補に「アマゾン」を含めているのも引っかかる。そもそも注釈を入れずに「GAFA」と表記するのも感心しない。

やはり中山氏は書き手として問題が多い。そう結論付けていいだろう。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200627&ng=DGKKZO60851180W0A620C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_16.html

2020年6月26日金曜日

日経 松本裕子記者の「脱炭素 マネーが促す」に抱いた5つの疑問

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円 達成度で金利優遇も」という記事には色々と疑問が湧いた。この「320兆円」について筆者で「ESGエディター」の松本裕子記者は以下のように書いている。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

企業に脱炭素の取り組みを促すマネーの動きが広がってきた。日本経済新聞が世界の大手銀20行の2030年までの計画を集計したところ、環境・社会を考慮した投融資は320兆円にのぼる。気候変動への銀行の責任を果たすだけでなく、脱炭素を進める企業が長期には勝ち組となり、融資先として有望という考え方がある。企業の目標達成度合いで金利を優遇する融資も増えている。

中略)ESG(環境・社会・企業統治)マネーは、まず長期投資家による株式や社債への投資で始まり、銀行融資に広がってきた。大手が相次ぎ計画をまとめており、主要20行の目標額320兆円は、19年度末の貸出金の合計額(約1350兆円)と比べ2割と大きい


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。

◆疑問その1~「320兆円」は「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」?

脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円」という見出しを見ると「320兆円」は「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」だと感じる。記事の冒頭でも「企業に脱炭素の取り組みを促すマネーの動きが広がってきた」と書いている。ただ「環境・社会を考慮した投融資は320兆円」と「社会」という言葉も入っており、少し怪しくなってくる。

その後では「ESG(環境・社会・企業統治)マネー」として「320兆円」を扱っており、「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円」という見出しは厳しそうな感じがする。

320兆円」のうち「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」がどの程度あるのかは記事中で明示すべきだ。「銀行」が情報を開示していないのならば、その点には触れる必要がある。


◆疑問その2~「残高」それとも「新規」?

2030年までの計画」で「環境・社会を考慮した投融資は320兆円にのぼる」らしい。この説明だと「320兆円」が「投融資」の残高なのか新規分なのか判断できない。


◆疑問その3~これまでとの比較は?

仮に「320兆円」は残高だとしよう。その場合、直近の残高との比較は欲しい。そうしないと「2030年まで」にどの程度「投融資」を伸ばそうとしているのか分からない。

新規分だとしても同じだ。過去の実績との比較は要る。


◆疑問その4~比較対象として適切?

主要20行の目標額320兆円は、19年度末の貸出金の合計額(約1350兆円)と比べ2割と大きい」と解説しているが「320兆円」は「投融資」の額だ。「投資」を含んでいる。それを「投資」を含まない「貸出金の合計額」と比較するのは適切なのか。


◆疑問その5~「主要20行」の残りは?

記事に付けた9行が「主要20行」に入るのは分かる。しかし、残りの11行は不明。記事には「農林中央金庫」「米ゴールドマン・サックス」「みずほフィナンシャルグループ」も出てくるが、これらが「主要20行」の一角なのかどうかも分からない。「主要20行」の具体名と選定基準は、注記でいいので記事に入れてほしい。

最後に文章の作り方について注文を付けておきたい。

【日経の記事】

国際エネルギー機関(IEA)は21年からの3年間で3兆ドルを再エネ開発やビルの省電力化、電気自動車購入など環境重視の施策に投じれば、温暖化ガスを45億トン削減できるだけでなく、世界の経済成長率を年1.1%押し上げ、年900万人の雇用を生むと分析する


◎文が長い上に…

上記のくだりは紙面では12行に達する。1つの文としては長すぎる。しかも主語の「国際エネルギー機関(IEA)は」と述語の「分析する」がかなり離れている。読者に負担を強いる書き方だ。

改善例を示してみる。

【改善例】

21年からの3年間で3兆ドルを再エネ開発やビルの省電力化、電気自動車購入など環境重視の施策に投じれば、温暖化ガスを45億トン削減できる。加えて世界の経済成長率を年1.1%押し上げ、年900万人の雇用を生む。国際エネルギー機関(IEA)はそう分析している。



※今回取り上げた記事「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円 達成度で金利優遇も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200626&ng=DGKKZO60812120V20C20A6MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。松本裕子記者への評価はDを維持する。松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「超低金利 揺れる企業年金」の苦しい内容
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/06/blog-post_21.html

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

ETFの信託報酬 最安は0.5%? 日経 根本舞・松本裕子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/etf-05.html

2020年6月25日木曜日

転移ありの乳がん患者を「救えるはずの命だった」と言い切る岩澤倫彦氏に異議

24日付の東洋経済オンラインに載った「自由診療にすがり急逝した乳がん患者の末路~有効性なき免疫療法の何とも許されざる実態」という記事には問題を感じた。筆者でジャーナリストの岩澤倫彦氏は記事で取り上げた「早期の乳がん」患者に関して「救えるはずの命だった」と述べているが、根拠に欠ける。岩澤氏は標準療法を過大評価しているのではないか。
二連水車(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

問題の部分を見ていこう。

【東洋経済オンラインの記事】

インターネットには、有効性が何も確認されていない「独自のがん治療法」が氾濫している。その大半が「免疫療法」。情報の発信元をたどってみると、大半が高額な自由診療クリニックだ。

2年前、都内在住の70代女性は、がん診療拠点病院で「早期の乳がん」と診断された。このとき担当した乳腺外科医は、「手術を受ければ、5年生存率は97%」と告げ、再発予防の抗がん剤も勧めている

診断を聞いて、夫は安堵したが、女性は手術を受けなかった。

彼女が選んだのは、「ガン免疫強化療法」などをうたう、自由診療クリニック(ちなみに筆者の取材経験でいうと、真っ当ながん専門病院で、「ガン」とカタカナ表記するところは皆無に等しい)。

「どうしても乳房を残したいのなら、(外科手術とは)別の方法があります。3カ月もすれば、がんは消えます。消えない人でも6カ月やれば消えます」

クリニックの院長が示した「別の方法」とは、ハイパーサーミア(温熱療法)とファスティング(断食療法)を組み合わせた、独自のがん治療だった。

手術を受けずに「がんが消える」という言葉を信じた女性は、クリニックに入院して治療を始めた。すると、院長は「合計600万円の費用が必要」と伝えたという。

外科手術を受けるべきだと、夫は何度も説得を試みたが、女性は聞く耳を持たない。そこで夫は、医療取材の経験がある私に相談を持ちかけてきた。私は拙著『やってはいけない がん治療 医者は絶対書けないがん医療の真実』を上梓するなど、医師には絶対書けないがん医療のタブーや、詐欺的ながん医療を目利きするヒントなどを追っている。

調査してみると、このクリニックは、入院の届出を行っていないことが判明した。さらに、ハイパーサーミア(温熱療法)について、関連学会は次のように見解を示していた。

「ハイパーサーミアだけでがんが根治できるのはまれと考えられています。一般的には放射線治療や抗癌剤治療と組み合わせるのが一般的です」(一般社団法人日本ハイパーサーミア学会のHPより)

ハイパーサーミアは、あくまで「補助的な治療」と位置づけられていた。医学論文のデータベースで検索しても、ハイパーサーミア単独でも、ファスティングを組み合わせた治療法でも、「がんが消えた」という臨床研究は存在しなかった。

現在の医療は、「EBM=エビデンス・ベースド・メディシン」という、臨床試験によって有効性が確認されている治療が基本。これに対して、「独自理論のがん治療」は有効性の保証が何もない。

こうした現実を一般の患者は知らず、国家資格の医師が勧めるので、確かな根拠があると思い込んでしまう。

私は、女性の夫を通じて、クリニックの温熱療法では完治できないと伝えたが、翻意させることはできなかった。一度信じてしまうと、その呪縛から逃れるのは難しい。

やがて、女性は肝臓と肺に転移してしまい、体調が急激に悪化。自宅から救急搬送されて、1週間後に息を引き取った。

乳がんの判明から、わずか1年9カ月。救えるはずの命だったのに、私は何も力になることはできなかった


◎手術をしていれば「救えた」?

手術を受ければ、5年生存率は97%」なのに「女性は手術を受けなかった」。そして「乳がんの判明から、わずか1年9カ月」で「息を引き取った」。

この場合「救えるはずの命だった」と言えるだろうか。答えは「分からない」となるはずだ。「手術を受ければ、5年生存率は97%」というデータが正しいとしても、記事に出てくる「都内在住の70代女性」が「手術を受け」ても助からない可能性は残る。

それに「女性は肝臓と肺に転移してしまい、体調が急激に悪化」したのならば、手術をしても無駄だった可能性が高い。

ここでは医師の和田秀樹氏が書いた「病院のやめどき」という本の一部を引用したい。

【「病院のやめどき」の引用】

検診が無意味だと私が考える理由は、がんが発見される仕組みにあります。「早期発見せよ」といいますが、目にも見えない極小のがんを発見できるわけではありません。PET-CTを利用した精密ながん検診なら5㎜程度で発見できることはありますが、検診費用はおよそ10万円以上と高く、受ける人は多くありません。一般的な検診では1cmぐらいまでがんが大きくならないと、見つけることはできません。これでも早期発見の部類なのです。

それでは1cm程度のがんというのは、どれくらいの時間をかけて育ったのでしょうか。例えば、乳がんの場合、専門機関では7~8年ほどの時間がかかるとしています。これをどう考えればいいでしょうか。私なら7年間転移せずに大きくなってきたがんが、8年目に転移する確率はかなり低いだろうと捉えます。転移していないのならば、それから数年間放置していても、悪さはしないでしょう。治療は、なにか症状が起きてからでも問題ありません。

反対に、1cmで発見されるまでの7~8年の間で、すでに見えない転移がどこかにあって、体を蝕んでいる可能性もあります。超早期でがんを発見できたにもかかわらず、何年後かに転移が見つかるというのは、主にこのケースです。この場合は進行の速い悪質ながんです。


◎既に転移していた可能性が…

早期の乳がん」が見つかった時点で「手術」を受けていれば「肝臓と肺に転移」することはなかったと岩澤氏は思い込んでいるのではないか。

都内在住の70代女性」の場合、「1cm程度のがん」として発見されたとしよう。「これでも早期発見の部類」なので、十分にあり得る。そして発見された時には「7~8年ほど」が経過していてもおかしくない。

手術でがんを全て除去できたと仮定しても「1cmで発見されるまでの7~8年の間で、すでに見えない転移がどこかにあって、体を蝕んでいる可能性」を排除できない。

超早期でがんを発見できたにもかかわらず、何年後かに転移が見つかるというのは、主にこのケースです。この場合は進行の速い悪質ながんです」と和田氏は解説している。これは岩澤氏の取り上げた「都内在住の70代女性」の「ケース」と重なる。

自由診療」での「免疫療法」を信じるなという主張に問題は感じない。ただ、標準療法にも疑いの目を向けてほしい。単純に「救えるはずの命だった」と認識していると、問題の本質を見誤るのではないか。


※今回取り上げた記事「自由診療にすがり急逝した乳がん患者の末路~有効性なき免疫療法の何とも許されざる実態
https://toyokeizai.net/articles/-/357066


※記事の評価はD(問題あり)

2020年6月24日水曜日

TLTRO3の優遇金利は「マイナス0.1%」? 東洋経済オンラインに問い合わせ

東洋経済オンラインの「ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大~真のバズーカは銀行がお金をもらえるTLTRO3」という記事に誤りと思える説明があった。誤りだとしてもそれ自体を責めるつもりはないが、回答と修正はしっかりしてほしい。そこを怠ってしまうが東洋経済のダメなところだ。
岡城跡の滝廉太郎像(大分県竹田市)
    ※写真と本文は無関係です


【東洋経済オンラインへの問い合わせ】

東洋経済オンライン 担当者様

みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏が書いた「ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大~真のバズーカは銀行がお金をもらえるTLTRO3」という6月24日付の記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

TLTRO3の利用条件は破格だ。ドラギ元ECB総裁時代に導入された枠組みだが、この利用条件は徐々に緩和されてきた経緯があり、2020年4月30日の政策理事会で基準金利が『主要リファイナンスオペ金利(現状ゼロ%)+マイナス0.5%ポイント』に設定され、貸し出し基準を達成した場合は最大で『預金ファシリティ金利(当時はマイナス0.50%)+マイナス0.5%ポイント』の優遇金利が適用されるという制度設計になった。すなわち、貸し出し実績を積まなくてもお金を借りれば0.5%の金利が金融機関の懐に入る。貸し出し基準を達成すれば0.1%の金利がもらえる。こうした『必ずお金がもらえる仕組み』は実質的には政策金利と同じくらいの存在感を放っているようにも思える

貸し出し基準を達成した場合は最大で『預金ファシリティ金利(当時はマイナス0.50%)+マイナス0.5%ポイント』の優遇金利が適用される」との記述が正しければ「貸し出し基準を達成すれば1%(0.5%+0.5%)の金利がもらえる」はずです。しかし記事では「貸し出し基準を達成すれば0.1%の金利がもらえる」と説明しています。

貸し出し実績を積まなくてもお金を借りれば0.5%の金利が金融機関の懐に入る」のに、「貸し出し基準を達成すれば」もらえる「金利」が5分の1に減額されるのも、おかしな話です。「0.1%の金利がもらえる」という説明は「1%の金利がもらえる」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

東洋経済では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。ライバルのダイヤモンドが真摯な対応を続けているのとは対照的です。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大~真のバズーカは銀行がお金をもらえるTLTRO3
https://toyokeizai.net/articles/-/358515


※記事の評価はD(問題あり)。ただ、全体としては興味深く読めた。ミスと思える部分以外には問題を感じなかった。

2020年6月23日火曜日

掲載に値しない日経「三井住友DSアセット社長『運用資産10年で30兆円』」

23日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「三井住友DSアセット社長『運用資産10年で30兆円』~株価指数活用を検討」という記事は掲載に値しない。記事を見ながら理由を述べていきたい。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

三井住友DSアセットマネジメントの猿田隆社長は日本経済新聞の取材に応じ、「10年で運用資産30兆円をめざす」と語った。組織改革などで運用力を高め、株価指数を用いた運用も検討する。個人の資産形成意識が高まるなか「成功体験を得た投資家がさらに資金を投じる好循環がもうすぐ生まれる」とみる。中国で現地法人を立ち上げることも検討する。

三井住友DSアセットは三井住友アセットマネジメントと大和住銀投信投資顧問が経営統合して2019年4月に発足。猿田氏は20年4月に社長に就任した。長期的な目標として運用資産30兆円を掲げ、「運用で大事なのは伸びる資産を運用資産に抱えることで、10年後を見据えてその見極めをやる」と述べた。


◎肝心なことが…

運用資産10年で30兆円」が記事の柱だ。なのに現状に関する数字がない。日経の昨年4月の記事によると「三井住友DSアセットの運用資産は約17兆円(2018年末の単純合算)」らしい。そこを抜いて記事を書けるのが悪い意味で凄い。

運用資産10年で30兆円」を柱に据えるならば「30兆円」の意義付けも欲しい。「30兆円」を確保すれば世界でトップテンに入れるとか、国内首位が見えてくるとか。そうした情報もなく、ただ「10年で運用資産30兆円をめざす」と言われても困る。

そして「運用で大事なのは伸びる資産を運用資産に抱えることで、10年後を見据えてその見極めをやる」という毒にも薬にもならないようなコメントが出てくる。こうなると「記者は宣伝役を買って出たのか」と言いたくなる。

記事の後半部分も見ておこう。

【日経の記事】

まず力を入れるのは運用力の強化に向けた組織改革だ。複数に分かれている運用を手掛ける部署を効率化するほか、運用チームごとに生じる事務作業を集約する部門の設立を検討する。「運用者が運用だけに集中できるようにする」(猿田氏)のが狙いだ。運用成績により連動した報酬体系も検討し「専門性の高い『ブティック型』の運用体制」を目指す。

海外勢など運用各社が力を入れる指数連動の収益を目指す「パッシブ運用」について猿田氏は「信託報酬などの競争が激しく、今の状態から本格参入するのは難しい」と慎重な考えを示す。ただ、「日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)など指数を状況に応じて組み替えるような商品には活路がある」と話した。


◎漠然とした話を削って…

後半は漠然とした話が目立つ。「複数に分かれている運用を手掛ける部署を効率化する」と書いているが、どうやって「効率化する」かは不明。「専門性の高い『ブティック型』の運用体制」に関しても具体的なことは書いていない。この辺りは要らない感じがする。

そこを削って「日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)など指数を状況に応じて組み替えるような商品には活路がある」という話を膨らませるべきだろう。そこそこの「信託報酬」を取るダメな「商品」になるとは思うが、どういう仕組みを考えているのかは気になる。

今回の記事を書いた記者は「社長取材が入ったから、とにかく何か書かないと」ぐらいの意識しかないのだろう。それが内容に反映されている。「このままではダメだ」と早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「三井住友DSアセット社長『運用資産10年で30兆円』~株価指数活用を検討
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200623&ng=DGKKZO60620860S0A620C2EE9000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年6月22日月曜日

日経「ダイバーシティ進化論」出口治明氏の「ハイブリッド車」の説明が違うような…

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏はしっかり調べてから記事を書いているのだろうか。22日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~教育にオンライン化の波 対面と合わせて学び充実」という記事を見て、改めてそう感じた。気になったのは以下のくだりだ。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

電気自動車が登場したことでガソリンと電気のハイブリッド車が生まれたように、オンラインと対面を組み合わせることで今後、よりよい学びが生まれると期待している。



◎「ハイブリッド車」の説明が違うような…

電気自動車が登場したことでガソリンと電気のハイブリッド車が生まれた」のだろうか。All Aboutの「電気自動車の歴史」によると「ガソリン自動車よりも前、1839年に初めての電気自動車はこの世に誕生」したらしい。だとすると「ガソリン」車が先にあってその後に「電気自動車が登場した」と取れる出口氏の説明には問題が生じる。

「トヨタ自動車が1997年に発売したプリウスを実質的な初のハイブリッド車と見なし、その誕生の経緯を書いている」との反論があったとしよう。これも成立しにくい。All Aboutには以下の記述がある。

2001年から電気軽トラックの開発を成功させ販売を続けていた岐阜の電気自動車ベンチャー企業が、(社)次世代自動車振興センターの購入者補助を得て毎年販売台数を積み重ね、大手不在の空白の9年間、軽自動車クラス以上で唯一販売実績を上げてきたことは、大阪万博以来続いてきた連続販売実績のたすきを2009年に三菱自動車の『i-MiEV』に繋ぎ、2010年には日産自動車の『リーフ』が発売されました

これを信じれば、日本でも「大阪万博以来」ずっと電気自動車の販売は続いてきたことになる。「大阪万博」は1970年だ。「電気自動車が登場したこと」でプリウスが生まれたと見なすには、時間が経ち過ぎている。かなり苦しい。

出口氏は様々なメディアに記事を書いており、忙しいとは思う。しかし、事実関係は丹念に調べてから書いてほしい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~教育にオンライン化の波 対面と合わせて学び充実
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200622&ng=DGKKZO60547810Z10C20A6TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_20.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

2020年6月21日日曜日

商品は「リスク資産」なのに金は「安全資産」?日経の記事に感じる矛盾

auカブコム証券のホームページでは「安全資産」を「預金、国債、元本保証付きの保険商品や年金など、相場変動などによる元本割れのリスクが無く、基本的には元本が保証されている資産」と説明している。異論はない。一方で、日本経済新聞の記事によく見られるように、金を「安全資産」と見なす向きも多い。個人的には賛成できないが、他のメディアでもよく見かけるので「そういう見方もあり」だとしよう。だが「商品(コモディティ)」を「リスク資産」と考える場合、矛盾が生じてくる。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
       ※写真と本文は無関係です

21日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「国際商品に緩和マネー~原油や非鉄、3カ月ぶり高値 実需の本格回復道半ば」という記事の最初の段落では以下のように記している。

【日経の記事】

原油や非鉄金属といった国際商品価格が上昇に転じ、約3カ月ぶりの高値を付けた。世界で経済活動が再開し景気回復への期待が強まるなか、各国中央銀行が金融緩和を強化。株と同じリスク資産である商品に投資マネーが向かった。実需も戻り始めたがまだ弱く、新型コロナウイルスの影響で相場上昇の持続力は限られるとの見方もある。

◇   ◇   ◇

ここでは「リスク資産である商品」と明言している。しかし金に関しては話が違ってくる。

【日経の記事】

株高局面で売られやすい「安全資産」の金も緩和マネーが高値を支える。低金利の長期化で国債の金利収入が細り、相対的に金の魅力が高まった。ニューヨーク先物は1トロイオンス1750ドル前後で3月中旬に付けた安値から約2割上昇した。


◎リスク資産であると同時に「安全資産」?

ここでは「『安全資産』の金」と言い切っている。「リスク資産である商品」という説明との関係はどうなるのか。「金は商品ではない」「リスク資産の中には安全資産もある」と言えるのならば成立するが、難しそうだ。

「商品は基本的には『リスク資産』だが、金だけは例外的に『安全資産』」とするのが、最もあり得る説明だと思える。これなら、強引な弁明が不可能ではない。ただ、記事にする場合は「リスク資産である『金以外の商品』」などと書いてほしい。でないと矛盾を感じてしまう。

この記事では原油相場の上昇に関する説明にも問題を感じた。そのくだりも見ておこう。

【日経の記事】

原油はニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物が1バレル39ドル前後と5月初めの約2倍に上がった。各国の経済再開に加え、産油国の大幅減産で需給バランスの改善期待が高まった。

世界最大の原油消費国の米国では需要の4割を占めるガソリンの出荷が増えつつある。4月上旬に前年同期比で半減していたが、経済再開と夏のドライブシーズン入りで6月上旬では2カ月前より5割以上増えた。新型コロナの感染「第2波」への懸念も浮上するが、相場に目立った値下がりは起きていない。

投資マネーの厚みが増したためだ。WTIの投機筋の買い越し幅は3月以降に急拡大し、2年ぶりの高水準圏にある。マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表は「株価の急回復でファンドの運用資産に占める株の比重が高まり、バランスを取るために商品が買われやすくなっている」と分析する。


◎時期が合わないような…

今回の記事では「5月初め」の原油相場と直近を比較している。そして、この間に「相場に目立った値下がりは起きていない」理由として「投資マネーの厚みが増したためだ」と説明している。これは解せない。

記事ではなぜか「WTIの投機筋の買い越し幅は3月以降に急拡大」と書いている。「5月初め」との比較を避けているようだ。

記事に付けたグラフに「投機筋の買い越し残高」が出ている。これを見ると「5月初め」に付けた直近のピークより若干だが「残高」は減っている。つまり「5月初め」との比較では「投資マネーの厚みが増した」とは言えない。

おそらく筆者もそのことを分かっている。だから「3月以降に急拡大」と時期をずらしたのだろう。気持ちは分かるが、ご都合主義的にデータを扱うべきではない。そこは自戒してほしい。


※今回取り上げた記事「国際商品に緩和マネー~原油や非鉄、3カ月ぶり高値 実需の本格回復道半ば
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200621&ng=DGKKZO60606880Q0A620C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。

2020年6月20日土曜日

米国は「リーマンショック時以来のゼロ金利政策」? 東洋経済 中村稔氏に問う

例えば、ある会社の業績が2008年から2015年まで赤字で、その後に黒字へ転換して2020年に再び赤字になったとしよう。この場合「2008年以来の赤字」だろうか。それとも「2015年以来の赤字」だろうか。答えは明らかだと思えるが、違う認識の人もいるようだ。週刊東洋経済の中村稔氏(肩書は本誌コラムニスト)はその1人かもしれない。
岡城跡(大分県竹田市)※写真と本文は無関係です

週刊東洋経済には以下の内容で問い合わせを送った。

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済 編集長 山田俊浩様  本誌コラム二スト 中村稔様

6月27日号の「ニュースの核心~FRBが示した『22年末までゼロ金利』の影響度」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「FRBは3月15日に緊急FOMCを開き、リーマンショック時以来のゼロ金利政策を復活させた」という記述です。米国での「ゼロ金利政策」は2008年12月に始まり15年12月に終わっています。「リーマンショック時以来のゼロ金利政策」は「2015年以来のゼロ金利政策」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。ライバルの週刊ダイヤモンドが真摯な対応を続けているのとは対照的です。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「ニュースの核心~FRBが示した『22年末までゼロ金利』の影響度
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23884


※記事の評価はD(問題あり)。中村稔氏への評価も暫定でDとする。なお「米国のゼロ金利政策がいつ以来か」については以下の投稿でも取り上げている。

米ゼロ金利は「2008年の金融危機以来」? 日経 河浪武史記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/2008.html

2020年6月19日金曜日

興味深かった日経「パリ協定達成には…大規模移動制限10年継続必要」

新型コロナウイルス感染拡大は温暖化ガス排出量にどう影響を及ぼすのか、ずっと気になっていた。19日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「パリ協定達成には… 大規模移動制限10年継続必要 温暖化ガス、今年8%減へ」という記事は、その疑問に答えてくれる興味深い内容だった。前半部分を見てみよう。
巨勢川(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染拡大で2020年の温暖化ガス排出量は前年比8%減程度と過去最大の減少幅になるとの見方が強まっている。大規模な活動制限が世界に広がったためだ。ただ国際的な気候変動対策「パリ協定」の目標を達成するには今年並みの削減を10年間続ける必要がある。パリ協定の高いハードルが改めて浮き彫りになった形だ。

コロナの感染拡大で世界中で国境をまたぐ移動が制限された。外出の禁止や自粛要請で公共交通機関や自家用車の利用も減った。小売店や娯楽施設が休業し、工場の停止など生産活動も停滞した。今年の温暖化ガス排出量が減るのは確実だ。

英国の研究者らが英科学誌「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に掲載した論文によると、行動制限が年内いっぱい続けば二酸化炭素(CO2)の排出量は約7%減少する。国際エネルギー機関(IEA)が4月末に発表した報告も、2020年のエネルギー関連のCO2排出量は前年比8%減になるとした。

量にすると26億トンで、リーマン・ショック後の09年の6倍で過去最大の減少幅。だがパリ協定から見れば「異常」な数値ではない。国連環境計画(UNEP)が昨年11月に発表した報告書によると、パリ協定の「産業革命前からの気温上昇を1.5度にとどめる」目標達成には、排出量を30年まで毎年7.6%削減する必要がある。英国の研究者やIEAが予想する今年の削減量の水準を10年間続けなければならない。


◎見出しは違うような…

上記のくだりからは見出しが少し違うと感じる。「国際的な気候変動対策『パリ協定』の目標を達成するには今年並みの削減を10年間続ける必要がある」と筆者ら(小川和広記者と杉原淳一記者)は説明している。今年と同レベルの「大規模移動制限」を来年も続けても「温暖化ガス排出量」は基本的に減らない。さらに「制限」を強める必要がある。

見出しからは、今年並みの「大規模移動制限」を「10年継続」すれば「『パリ協定』の目標を達成」できるような印象を受ける。実際はもっと厳しいはずだ。

パリ協定の『産業革命前からの気温上昇を1.5度にとどめる』目標達成には、排出量を30年まで毎年7.6%削減する必要がある」という前提が正しいとすれば、達成は絶望的だ。今年の水準からさらに「7.6%削減する」のが至難なのは誰でも分かる。

記事でも「ときに都市封鎖すら伴う不自由な生活を続けることは持続可能といえない。英国に拠点を置く気候変動分析サイト『カーボン・ブリーフ』は『このような排出量の急激な削減を10年間続けるのは非常に困難』と指摘する」と書いている。

だったら「目標達成」を諦めて「気温上昇」が続くことを前提に対策を練るしかないのではないか。

しかし記事の結論はそうはなっていない。そこも見ておこう。

【日経の記事】

カーボン・ブリーフは「(従来のやり方のままでは)排出量の減少は一時的なもので終わり、実質ゼロへの移行は遅い歩みに戻る」と警鐘を鳴らす。新たな低炭素型社会を作れるかは、コロナを機に進んだ前向きな変化を生かせるかにかかる


◎中途半端に希望を抱かせても…

コロナを機に取り入れた変化で継続できるものはある。代表的なのはテレワークを使う在宅勤務だ」などと書いて、最後に「新たな低炭素型社会を作れるかは、コロナを機に進んだ前向きな変化を生かせるかにかかる」と中途半端に希望を抱かせるような締め方をしている。ここは納得できなかった。

このような排出量の急激な削減を10年間続けるのは非常に困難」だという見方を受け入れるならば「気温上昇」を受け入れていくしかない。「非常に困難」だがやり抜くべきだとの考えならば、どこまで突き詰めていくのか示すべきだ。

今回の記事から自然に結論を導くならば、前者しかあり得ないと思えるが…


※今回取り上げた記事「パリ協定達成には… 大規模移動制限10年継続必要 温暖化ガス、今年8%減へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200619&ng=DGKKZO60525730Y0A610C2EE8000


※記事の評価はB(優れている)。小川和広記者と杉原淳一記者への評価はD(問題あり)からC(平均的)へ引き上げる。 

2020年6月18日木曜日

中東への「第2波」はまだ「懸念」だと日経 岐部秀光記者は言うが…

最近、記事の中での「第2波」の使い方が気になる。18日の日本経済新聞朝刊国際面に岐部秀光記者が書いた「中東『第2波』の懸念~感染者増 イスラム巡礼に影響も」という記事では「サウジアラビアやイランなど中東地域で、新型コロナウイルス感染の第2波の懸念が高まっている」と冒頭で記している。つまり「第2波」はまだ来ていない。しかし読み進めると話が違ってくる。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「経済活動の再開は暫定的なものだ。(感染の)ピークが戻れば制限を再び導入せざるを得ない」。イランのロウハニ大統領は13日、移動制限の解除などに伴う「緩み」に警鐘を鳴らした。早期に大流行に見舞われたイランでは、3月末に3000人を超えた感染者が一時1000人を下回った。6月に入り再び3000人超の日が続き過去最高を更新した。

イランの「第2波」は検査数を増やしたためという面はある。しかし感染による一日の死者は今週、4月半ば以来の100人超を記録。米制裁などの影響で、医療がぜい弱なイランの当局は動向に神経をとがらせる。



◎「第2波」来ているのでは?

イランの『第2波』は検査数を増やしたためという面はある」という書き方からは、「第2波」は来ていると取れる。「感染確認者数の推移」というグラフを見ても、まさに「第2波」だ。だったら「第2波の懸念が高まっている」という説明とは少し合わない。

さらに気になったのがサウジアラビアだ。

【日経の記事】

サウジでは5月のピークから感染が減る傾向にあったが、6月に再び増加傾向に転じた。人口はイランの4割程度だが、1日当たり感染者数はイランを上回る。今週には初めて一日の感染者が4000人を上回り、死者も過去最高の40人以上に達した。累計死者数は17日までに1000人を突破した。



◎第1波も去ってないような…

グラフを見ると「5月のピーク」の「感染者数」は3000人弱。それが2000人を割り込んでから増加に転じ、直近では「4000人」を超えてきている。

個人的には第1波が去っていないと感じる。「5月のピーク」までが第1波だとしても「今週には初めて一日の感染者が4000人を上回り、死者も過去最高の40人以上に達した」のであれば「第2波」が来ているのは明らかではないか。なのに「第2波の懸念が高まっている」との認識でいいのか。


※今回取り上げた記事「中東『第2波』の懸念~感染者増 イスラム巡礼に影響も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200618&ng=DGKKZO60456880X10C20A6FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。岐部秀光記者への評価もDで確定とする。岐部記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

エルサレムは「アジアから縁遠い」? 日経 岐部秀光記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_7.html

2020年6月17日水曜日

健診先送りで死亡率上昇の懸念? 日経「コロナで相次ぐ健診休止」に注文

17日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「コロナで相次ぐ健診休止~疾患発見に黄信号 タニタは社員に体組成計」という記事は悪い出来ではない。だが「健診」が有用だとの前提が引っかかった。記事の一部を見ていこう。
岡城跡(大分県竹田市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

緊急事態宣言が解除されたことで延期していた健診が徐々に再開される見通しだが、フル稼働は難しそうだ。

アンケートをまとめた聖隷健康診断センター(浜松市)の武藤繁貴所長は「新型コロナ前の水準に戻るのは少なくとも1~2年はかかるのではないか」とみる。特にビルに入居する健診施設は「3密(密閉・密集・密接)」を避けるのが難しく、新型コロナが終息するまでは受け入れ能力の6~7割に受診者を制限する必要があるという。

これにより関係者が危惧するのは「健診難民」が生まれることだ。NPO法人日本人間ドック健診協会(東京・千代田)の調査では「健診を先送りにすることで別の疾患での死亡率が上がるのではないか」と懸念する声が多くあがった。


◎「健診」は受けるべき?

『健診を先送りにすることで別の疾患での死亡率が上がるのではないか』と懸念する声が多くあがった」と聞くと「困ったことだ」と感じてしまう人が多いだろう。そう感じるのは、「健診」には「死亡率」を下げる効果があるとの前提がこの記事に潜んでいるからだ。しかし本当に「死亡率」を下げてくれるのだろうか。

2012年12月5日付の「BMJ誌から 一般的な健康診断に死亡率低減効果はない~14件の無作為化試験をメタ分析」という日経メディカルの記事では「一般成人を対象とした健康診断に、全死因死亡、心血管死亡、癌死亡を減らす効果は見られない――。そんなメタ分析の結果が、ノルウェー・コクランセンターのLasse T Krogsboll氏らによって2012年11月20日付のBMJ誌電子版に報告された」と記している。

健康診断に延命効果の『エビデンスなし』、本当に受けるべき検査とは」という今年4月13日付のダイヤモンドオンラインの記事でも「『健康診断には寿命を延ばす効果はない』ことを示すエビデンス(科学的根拠)がある──。健診を受けた人たちと受けなかった人たちを10年間にわたってフォローアップした結果、心筋梗塞や脳梗塞のような動脈硬化による病気の発生率、それに総死亡率のいずれにおいても、二つのグループに違いは認められなかった」と解説している。

こうした「分析」に関しては、批判や疑問も当然あるだろう。「健診」に「死亡率」を下げる効果があると思わせるような記事は書くなとは言わない。ただ、読者に情報を提供しているのだから、「死亡率」を下げる効果があるかどうかは執筆前にしっかり検討してほしい。今回の記事にはそれが感じられなかった。


※今回取り上げた記事「コロナで相次ぐ健診休止~疾患発見に黄信号 タニタは社員に体組成計
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200617&ng=DGKKZO60391450W0A610C2TJ1000


※記事の評価はC(平均的)

2020年6月16日火曜日

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に中山淳史氏(本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~『無形の力』映すキーエンス」という記事は色々と気になる点があった。細かい話が多くなるが、具体的に指摘していく。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

筆者が最も注目したいのは、キーエンスの「無形資産」の大きさである。

といっても、同社のBSには有形資産255億円、無形資産51億円としか記載がなくわかりにくい。



◎「有形資産255億円」?

キーエンス」の「有形資産255億円」と中山氏は書いている。「同社のBS」によると「有形固定資産」は確かに「255億円」だ。だが「有形資産」は全て「固定資産」とは限らない。「キーエンス」も流動資産の中に336億円のたな卸資産がある。これらは「有形資産」には入らないのだろうか。

そして最も気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

特許や研究の一定規模を資産に反映する国際会計基準などとは異なり、キーエンスが採用するのはそれらをBSに算入しない日本基準だ。

そうであれば、時価総額と純資産の間にある開きを説明できるよう、BSで見えない部分を補い、評価してみる必要がある。株価純資産倍率(PBR)や自己資本利益率(ROE)など比較的容易に手に入る経営指標を手掛かりに計算すれば、ある程度の「本来の姿」は見えてくる可能性がある。

知財コンサルティングをする正林国際特許商標事務所(東京・千代田)がそうしたやり方で企業の実力を試算している。キーエンスの時価総額の10兆8千億円(8日時点)は「成長性(将来の利益)から見た企業価値」の部分4兆1千億円と「無形資産が由来の価値(無形資産含み益)」の部分6兆7千億円に分解できるという。

キーエンスには目立ったM&A(合併・買収)がなく、のれんはほとんど存在しないと考えていい。つまり、6兆7千億円のほとんどは特許やソフトなど知的財産である可能性が高いわけだ。



◎有形資産は「無価値」?

正林国際特許商標事務所」の試算に従えば、「キーエンスの時価総額」は「成長性(将来の利益)から見た企業価値」と「無形資産が由来の価値(無形資産含み益)」の2つだけで説明できることになる。

つまり「有形資産」は「キーエンスの時価総額」に何ら影響を及ぼさないことになる。なぜ「無形資産」だけが影響を及ぼすのか謎だ。

無形資産含み益」と書いているので「無形資産」の中でも「含み益」だけが「時価総額」に影響を及ぼすのだろう。

時価総額と純資産の間にある開きを説明」するのに「含み益」を取り出すのは分かる。しかし「10兆8千億円」という「時価総額」を分解する上で「含み益」だけを考慮して、「BS」に記載されている「資産」を無視する意味があるのか。

この考え方だと「含み益」を「BSに算入」するように会計基準を変えただけで、「時価総額」が「6兆7千億円」も減ることになる。企業の実態は変わっていないのだから、明らかにおかしい。

無形資産含み益」というカッコ書きは中山氏が加えたものだとは思うが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『無形の力』映すキーエンス
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200616&ng=DGKKZO60363720V10C20A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

2020年6月15日月曜日

バランス型ファンドに否定的な週刊ダイヤモンドの特集に高評価

週刊ダイヤモンド6月20日号の特集2「どうなる? 景気・市場 どうする? 投資 投信・ETF全ガイド」は投資初心者にも薦められる内容だ。まず「バランス型ファンド」に否定的なところがいい。
臼杵石仏(大分県臼杵市)※写真と本文は無関係です

そのくだりを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

この異常事態に投資信託(ファンド)の関係者は大いに翻弄された。中でも真っ青になったのは損失を限定するタイプのファンドだった。代表格は三井住友銀行、地銀など33金融機関が販売した「アムンディ・ダブルウォッチ」(アムンディ・ジャパンが運用)だ。

このファンドは「リスクとうまく付き合いながら安定的に資産を育てる」とうたい、純資産はピーク時には1500億円にせまった大型ファンドである。

ところが3月26日、ファンドの時価である基準価額が前もって定められていた下限(フロア水準、基準価額の最高値の90%)の9562円まで下落し、繰り上げ償還があっけなく決まった。

繰り上げ償還というのは、ファンドのいわば“白旗”だ。運用を途中で中止して財産を清算、投資してくれた個人に、口数に応じて返還する。ファンドの設定からわずか4年のことだった。

他にも、りそなアセットマネジメントが運用する「りそな・リスクコントロールファンド(みつぼしフライト)2020-02」などは、2月17日の運用開始からわずか1カ月ちょっとで、基準価額が下限(確保ライン)の9500円に達し、繰り上げ償還が決定した。

こうして白旗を揚げたファンドはいずれもバランス型だ。バランス型というのは、国内外の株式や債券など、値動きの異なるカテゴリーに分散投資することで、リターンの変動幅(リスク)を抑えようというものだ。

『買ってもいい投信・ETFリスト付き リスクとコストで投資に勝つ』で詳述するように、分散投資は“王道中の王道”である。先の図の赤の折れ線が、さまざまな資産に分散したもの(8資産均等)だが、下落がかなり抑えられていることが分かる。

ただし、投資である限り、リスクがなくなることはない。ゼロなのは基本、預貯金だけだ

ところが、日本では投資によって損失を被るのを忌み嫌い、「元本確保」「損失限定」に強いこだわりを持つ個人投資家が少なくない。

そこで人気を博したのが、損失限定という化粧を施したバランス型ファンドだった。

「安心、安定の投資」をうたいながら、あえなくギブアップとあっては、顧客からは大ブーイングでは……。そう思いきや、ファンドの販売現場からは「暴落時にこの程度の損失で済んでよかった、ほっとしたという声もある」(販売会社)という。

しかし、ほっとするのはおかしい。本来、投資にはリスクが付きものであり、他者任せでなく自分でコントロールするものだ。

暴落でジタバタすべきではないし、慌てて売り払っては、その後の市場反転で利益を得るチャンスをみすみす逃すことになる。

現に嵐が過ぎ去り、値を戻し始めた4月に入ってからも、損失限定型のバランス型には逆風が吹く。

三井住友銀行、野村證券などが販売したバランス型ファンド「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド(あんしんスイッチ)」の基準価額は3月26日に9200円を割り込み、「プロテクトライン」と呼ぶ下限9000円に接近した。

6月5日時点の基準価額は9144円と、ギリギリのレベルに2カ月以上張り付いたままだ。

世界の株式、債券に分散投資するはずが、現金や短期日本国債など短期金融資産の組み入れ比率を約97%まで引き上げ、“非常事態モード”を続ける。プロテクトラインを割らないことが最優先だ。

これなら確かに、基準価額がこれ以上下がる危険性は低いが、上がる可能性も低い。この先反転攻勢に出ることは可能なのか。純資産1193億円の大型ファンドは、身動きが取れない状況にある。

ファンドのコストには、購入時の販売手数料と、保有している間ずっとかかる信託報酬がある。

あんしんスイッチの信託報酬は年率1.243%だったが、現預金モードに突入後の4月1日から0.957%に引き下げられた。それでも保証料年0.22%を合わせ、1.2%近い保有コストが今もかかっている。

前述のダブルウォッチの顧客は購入時に2.2%の販売手数料を、また信託報酬を年1.32%支払っていた。みつぼしフライトの方は信託報酬が年1.24%、保証料を含めると年1.51%の保有コストがかかっていた。

信託報酬の競争が進むインデックスファンドでは、今や先進国株投信で0.1%、分散投資するバランス型でも0.154%程度で投資することができる。損失限定型のコストは1桁違うのである。

投資には必ずリスクが伴う。預金代わりになるような虫のいい金融商品などない。「損失限定」「リスク限定」「元本確保」という甘言に釣られないことである。


◎バランス型は捨てていい

ためになる内容が多いので引用が長くなってしまった。

損失限定という化粧を施したバランス型ファンド」で「繰り上げ償還」が相次いでいたのは知らなかった。「バランス型」と聞くと市場が荒れている時でも損失は限定的というイメージを持たれやすい。しかし、そうとも限らないと記事は教えてくれる。

個人的には、「バランス型」の最大の欠点は低リターンの債券部分に信託報酬がかかることだと感じる。「世界の株式、債券に分散投資するはずが、現金や短期日本国債など短期金融資産の組み入れ比率を約97%まで引き上げ、“非常事態モード”を続ける」といった事態になれば、なおさらだ。

記事ではコストの高さにも触れている。「ダブルウォッチの顧客は購入時に2.2%の販売手数料を、また信託報酬を年1.32%支払っていた」という。論外の高コストだ。「インデックスファンドでは、今や先進国株投信で0.1%」程度の信託報酬も珍しくない。これを大きく上回る信託報酬を支払うことに合理性を見出すのは極めて困難だ。

投資を考える際、基本的に「バランス型」は捨てていい。

上記のくだりで唯一ツッコミを入れたくなるのが「(リスクが)ゼロなのは基本、預貯金だけだ」という部分。「預貯金」のリスクを「ゼロ」と見なすのならば、国債のリスクも「ゼロ」と考えていい。そもそも、ペイオフ対象外となる「預貯金」のリスクは国債よりも高くなる。

この記事でもう1つ評価できるのが金を「安全資産」と見なしていない点だ。「金は株のように配当がなく、値上がりでしか利益が上がらないリスク資産」と言い切っている。

金に関しては以下の記述もある。

【ダイヤモンドの記事】

実は今、個人投資家の間である商品の人気が沸騰している。「金」である。欧州、米国では金貨、金のETF(上場投資信託)、小口の地金などが売れに売れ、円建て価格が40年ぶりに最高値を更新した日本でも、「これまでの常識では考えられないほどの個人投資家熱」(関係者)だという。

しかし、運用の現場では、長期で見た「金」の期待リターンは1%台、リスク(1標準偏差)は20%ほどと低リターン高リスクであることが知られている


◎「低リターン高リスク」ならば…

金を売りたい人に踊らされているのか、深く考えずに金を「安全資産」と書いてしまう例が日本経済新聞などの経済メディアで当たり前に見られる。しかし「低リターン高リスク」の「安全資産」などあるのだろうか。

定義次第ではあるが「高リスク」の「安全資産」には矛盾を感じる。金に関する記事の書き手は思考停止に陥らず、金が「安全資産」かどうかを考えてほしい。

答えは明らかだと思うが…。


※今回取り上げた特集「どうなる? 景気・市場 どうする? 投資 投信・ETF全ガイド
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29606


※特集の評価はB(優れている)。小栗正嗣編集委員への評価は暫定C(平均的)から暫定Bへ引き上げる。竹田孝洋編集委員と山本輝記者への評価はDからCへ引き上げる。


※小栗正嗣編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンド「行動遺伝学」特集に見える矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_12.html

2020年6月14日日曜日

3カ国だけの情報では…日経「新興国で感染拡大~ブラジル死者 世界2番目」

14日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「新興国で感染拡大~ブラジル死者 世界2番目 北京で集団感染 46人陽性」という記事は材料不足だと感じた。出てくる「新興国」はブラジル、インド、中国のみ。これだけで「新型コロナウイルスの感染が新興国を中心に拡大している」と言われてもとは思う。
福岡県立浮羽究真館高校(うきは市)
     ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染が新興国を中心に拡大している。コロナによる累計死者数はブラジルが約4万1800人と、英国を抜き世界で2番目に多くなった。1日あたりの新規感染者数は、米国以外ではブラジルやインドなど新興国が上位を占める。中国・北京では食品卸市場で集団感染が判明した。各国が経済活動の再開に動き出すなか、感染第2波の懸念が強まっている。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新規感染者は国別ではブラジル(3万人弱)が最多となり、2番目の米国(約2万5千人)とあわせた2カ国で世界の約4割を占める。同大は毎日、感染者数などを過去に遡って修正している。

新興国では中南米と南アジアでの感染拡大が深刻だ。ブラジル政府は12日夜、累計死者数が4万1828人になったと明らかにした。新型コロナの影響を軽視するボルソナロ大統領は市民に外に出て働くよう呼びかけ、感染拡大が止まらない。ブラジルの最大都市サンパウロでは11日からショッピングモールの営業が再開した。

インドも1万人前後の新規感染が1週間以上続く。インドは累計感染者が世界4位の30万人に達したが、経済再開に踏み切った。州境を越える鉄道の運行や飛行機の国内線を5月末までに段階的に容認し、6月8日からはショッピングモールや飲食店、宗教施設の再開も認めた。拙速な経済再開により一段の感染拡大が懸念されている。


◎「中南米と南アジア」が深刻だと言うならば…

記事に付けた「ブラジルの累計死者数は急増している」というグラフでは、米国、英国、フランス、イタリア、ブラジルを取り上げている。「新興国」はブラジルだけ。これは辛い。せめて、記事で取り上げたインドと中国は入れたらどうか。

しかも、グラフを見ると米国は水準で他国を圧倒し、勢いもかなりある。これだと「新興国を中心に拡大」に説得力を欠く。今回の記事でも最後の段落では米国の感染拡大に触れている。「新興国」という切り口が間違いとは言わないが、ピッタリはまるとも言い難い。

新興国では中南米と南アジアでの感染拡大が深刻だ」と書くならば、ブラジル・インド以外の国の話も欲しい。両国以外は無視していいほどの「感染拡大」だと見ているのならば、最初から「新興国ではブラジルとインドでの感染拡大が深刻だ」とすれば済む。


※今回取り上げた記事「新興国で感染拡大~ブラジル死者 世界2番目 北京で集団感染 46人陽性
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200614&ng=DGKKZO60339330T10C20A6EA2000


※記事の評価はC(平均的)

2020年6月12日金曜日

スタートアップへの出資に関する日経の記事で気になること

スタートアップへの出資に関する記事を日本経済新聞で最近よく見かけるが、情報の少なさがどうも気になる。12日の朝刊企業1面に載った「住友商事、イスラエル新興に出資~まずAIソフト会社に」という記事では以下のように書いている。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

住友商事はイスラエルでコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を設立し、人工知能(AI)を使った位置情報解析ソフトを開発するアナゴグ社に出資した。イスラエルは起業が活発で年800社のスタートアップが設立されているとされる。住商はCVCを通じてAIや農業分野で新規事業の拡大を狙う。住商のCVCは日米や中国(香港)などに続き5カ国・地域となる。

アナゴグが1千万ドル(約11億円)を資金調達し、住商のCVCなど3社が出資した。アナゴグはスマートフォンのアプリに使う位置・行動情報ソフトを開発。全地球測位システム(GPS)やスマホの内蔵センサーなどから利用者の性別や年代、立ち寄った店などといった情報を分析する。


◎「出資した」のは分かるが…

住商のCVC」が「アナゴグ社に出資した」ことが記事の柱だ。しかし出資金額も出資比率も分からない。「アナゴグが1千万ドル(約11億円)を資金調達し、住商のCVCなど3社が出資した」とは書いている。しかし「住商のCVC」に限った出資額は不明だ。

そして記事の約半分を「アナゴグ社」の事業内容の説明に費やしている。それは「出資」に関してしっかり情報を伝えてからにしてほしい。「住商」が出資額も出資比率も明らかにしたくないと言っているのならば、そもそも記事として取り上げる必要があるのかと感じる。

11日の朝刊企業1面に載った「損保ジャパン、廃棄物リサイクル参入~新興に出資」という記事でも「廃棄物から電力や熱を生み出す技術を持つスタートアップ企業に出資し、業務提携した」「損保ジャパンが出資したのは再生可能エネルギーの発電設備などを手掛けるサステイナブルエネルギー開発(仙台市)だ」と書いてあるだけで、出資金額などには触れていない。

出資」が記事の柱ではないが、出資金額ぐらいは触れてほしい。分からない場合は、その点を明示すべきだろう。


※今回取り上げた記事

住友商事、イスラエル新興に出資~まずAIソフト会社に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200612&ng=DGKKZO60271250R10C20A6TJ1000


損保ジャパン、廃棄物リサイクル参入~新興に出資
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200611&ng=DGKKZO60116380Y0A600C2TJ1000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)

2020年6月11日木曜日

「中国では群衆が路上を埋め尽くさない」? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」

デモや言論の自由が抑え込まれている中国では、米国のように群衆が路上を埋め尽くすことはない」と日本経済新聞の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)が言い切っている。違うと思えたので、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
津久見港(大分県津久見市)
    ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 秋田浩之様

11日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『もろい中国』を悩む時代へ」という記事についてお尋ねします。記事の中で秋田様は「デモや言論の自由が抑え込まれている中国では、米国のように群衆が路上を埋め尽くすことはない」と言い切っています。本当にそうでしょうか。

ご存じの通り、香港では6月に入ってもデモが起きています。昨年に比べ規模が小さくなっているとはいえ「群衆が路上を埋め尽くす」映像が報道されています。香港は「中国」の一部ではないと見なすのも無理があります。

百歩譲って「中国=香港を除く中国」との前提で考えてみましょう。2019年7月5日付の「中国・武漢で数千人のデモか 香港紙、ごみ焼却施設に反対」という日経の記事では「インターネット上には盾や警棒を持った警官隊が住民らとにらみあう動画が投稿されている。デモ参加者は1万人規模に達したとの情報もある」「中国では健康意識の高まりから、大気汚染が懸念される工場建設の見直しなどを求める抗議デモがたびたび起きている」と報じています。

今回の新型コロナウイルスの問題でも、中国本土で小売業者らが賃料減額を求めてデモを行ったとの報道があります。

中国本土の状況が分かりにくいのは確かですが「デモや言論の自由が抑え込まれている中国では、米国のように群衆が路上を埋め尽くすことはない」と言える状況だとは思えません。記事の説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「Deep Insight~『もろい中国』を悩む時代へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200611&ng=DGKKZO60199550Q0A610C2TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_30.html

中国との協力はなぜ除外? 日経 秋田浩之氏「コロナ危機との戦い(1)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_23.html

2020年6月10日水曜日

「低下」の分析が雑な日経社説「出生率低下に危機感もっと」

10日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「出生率低下に危機感もっと」という社説には納得できなかった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
サッポロビール九州日田工場(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

若い世代からのSOSと受け止めるべきだ。ひとりの女性が生涯に産む子どもの数にあたる合計特殊出生率が2019年、1.36に下がった。低下は4年連続で、07年以来の低水準だ。

国が17年に出した人口推計では、19年の合計特殊出生率は1.42と見込まれていた。少子化に歯止めはかかっていない。

少子化の最大の要因となっているのは、未婚化、晩婚化だ。結婚するか、子どもを持つかはもちろんそれぞれの選択だ。だが経済基盤が安定しなければ、希望があってもかなえることは難しい。1993年からの10年あまりは、団塊ジュニア世代らが就職氷河期の直撃を受けた。

今は新型コロナウイルス流行拡大による影響が懸念される。通年採用や中途採用などによる採用機会の拡大、非正規から正社員への転換など、若い世代が安定雇用を得るチャンスを増やしたい。実効性のある職業訓練なども大切だ。



◎低下の分析になってる?

出生率は2015年まで回復傾向だったのに、16年から「4年連続」で低下した。この要因を探るためには、その辺りから何が変わったかを考える必要がある。

子どもを持つかはもちろんそれぞれの選択だ。だが経済基盤が安定しなければ、希望があってもかなえることは難しい」と社説は説く。順調だった日本経済の状態が15年頃から悪化に転じたのならば、この解説にうなずける。しかし経済状況に大きな問題はなかった。なのになぜ「低下は4年連続」となったのか。

その答えを見つけないまま「今は新型コロナウイルス流行拡大による影響が懸念される」と逃げてしまう。「19年の合計特殊出生率」に「新型コロナウイルス流行拡大による影響」はない。

社説の続きを見ていこう。

【日経の社説】

共働きを前提とした支援も、経済基盤の安定につながる。安心して子どもを預けられる保育サービスを増やすとともに、働く場所、時間を柔軟にするといった働き方改革が欠かせない

あわせて大事なのは、家事・育児を夫婦ともに担うことだ。女性に負担が偏ったままでは、両立は難しい。日本は先進国のなかで飛び抜けて、男女の分担格差が大きい国だ。新しい働き方とともに新しい暮らし方を定着させたい。


◎思考停止に陥っているような…

安心して子どもを預けられる保育サービスを増やす」と出生率が上向くのならば、かなり効果が出ていてもおかしくない。日経も6日の朝刊1面の記事で「政府や自治体は保育所の整備、教育の無償化などで少子化対策に力を入れてきたが、実を結んでいない」と言い切っている。「実を結んでいない」対策をさらに推し進めるべきなのか。

大事なのは、家事・育児を夫婦ともに担うことだ。女性に負担が偏ったままでは、両立は難しい。日本は先進国のなかで飛び抜けて、男女の分担格差が大きい国だ」という分析も解せない。「だから先進国の中で日本が飛び抜けて出生率が低い」となるのならば分かる。だが、「先進国 出生率軒並み低下」という6日付の日経の記事によると日本はフィンランドと同水準。フィンランドは「家事・育児を夫婦ともに担う」イメージがあるが、なぜ出生率は低いのか。しかも低下傾向だ。

こうした問題に関して山田昌弘氏は「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか」という本の中で以下のように述べている。

【本の引用】

保育所が不足していようが、育児休業がなかろうが、夫が家事・育児を手伝わなかろうが、2005年くらいまでは、既婚女性は平均2人、子供を産み育ててきたのである。

一方で、たとえ保育所を増やし、育児休業制度を作り、夫が家事を手伝うようになっても、「結婚していない女性」にとっては何の関係もない。

夫婦が持つ子ども数、つまり出生率が低下してきたのは、2010年以降、保育所を整え、育児休業制度が整備され、夫の家事参加が推奨されて以降なのは、皮肉な現象だと思う。(これは、赤川学・東大教授が述べるように、出産支援政策によって、かえって「子育て期待水準」が上昇してしまったという考察が当たっている可能性が高い。

◇   ◇   ◇

社説を最後まで見ていこう。

【日経の社説】

これらの課題は長年、繰り返し指摘されてきた。だが十分な手立てがないまま、時間ばかり過ぎた。少子化は社会や経済の活力を奪い、社会保障の維持も難しくする。もはや一刻の猶予もない。

政府は5月に25年までの少子化大綱を策定した。そのなかで強調したのは、若い世代が希望通りに子どもを持てる「希望出生率1.8」の実現だ。コロナ禍で将来への不安は高まっている。政府は強い危機感を持って改革に取り組み、希望を阻む壁をなくしていかねばならない。


◎やはり少子化は放置でいい

元々、自分は少子化放置論者だ。理由は単純で「世界にも日本にも人間が多過ぎる」と感じるからだ。今回の「コロナ禍」でも、その思いは強くなった。人が少なくなれば「コロナ禍」のダメージを小さくしやすい。

少子化は社会や経済の活力を奪い、社会保障の維持も難しくする」という日経のような主張には共感できない。「経済の活力」や「社会保障の維持」のためと言われると、子供を道具として見ているような印象を受ける。

自分が子供の頃に比べると、今は子供が大事にされていると感じる。「少子化」の効果でもあるだろう。生まれてきた子供を大事に育てていけば、それでいい。出生数や出生率を目標にはしたくない。やはり少子化は放置でいい。


※今回取り上げた社説「出生率低下に危機感もっと
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200610&ng=DGKKZO60156220Z00C20A6EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年6月9日火曜日

東洋経済で「五輪中止への秒読みが始まった」と言い切った後藤逸郎氏を評価

記事で何かの見通しを語る時はリスクを負って大胆に挑んでほしい。逃げを打ったどっち付かずの分析に触れると残念な気持ちになる。その点で週刊東洋経済6月13日号の特集「コロナ経済入門」の中の「東京五輪の2021年開催は困難 中止への秒読みが始まった」という記事は評価できる。自分が見ている範囲では、ここまで明確に「2021年開催は困難」と打ち出した記事は初めてだ。
大分県日田市の三隈川(筑後川)
      ※写真と本文は無関係です

筆者でジャーナリストの後藤逸郎氏は記事の終盤で以下のように記している。

【東洋経済の記事】

新型コロナは死亡率や後遺症の軽重も定かでなく、楽観できる情報は何もない。北半球の国々は感染者が減少してきたが、冬を迎えるブラジルなど、南半球は感染の中心地になりそうだ。北半球で感染流行第2波が懸念される今冬は、世界陸連が各国のオリンピック選考を再開する12月と重なる。

新型コロナ患者が減少した台湾や韓国、ドイツは野球やサッカーなどプロスポーツを再開した。ただ、選手のPCR検査や無観客か人数制限での試合を行い、何より各国は入国制限を解いていない。世界約200カ国から選手や観客が集まる東京大会を台湾や韓国、ドイツと同じ条件で開くことはできない。

唯一、大会開催を可能とするワクチンは、年内開発が実現しても、選手や観客、開催地の日本人すべてに行き渡らせることは絶望的だ。IOCは10月を開催判断の期限にした。東京2020大会中止へ向けて秒読みが始まった



◎分析に説得力あり

世界約200カ国から選手や観客が集まる東京大会を台湾や韓国、ドイツと同じ条件で開くことはできない」「唯一、大会開催を可能とするワクチンは、年内開発が実現しても、選手や観客、開催地の日本人すべてに行き渡らせることは絶望的」--。だから「東京2020大会中止へ向けて秒読みが始まった」と見る分析には説得力を感じる。

もちろん見通しが外れる可能性もある。そうなれば振り返って恥ずかしい思いをするかもしれない。それを承知の上で「中止へ向けて秒読みが始まった」と言い切った後藤氏の姿勢は称賛に値する。

ただ、気になる点もあった。記事の半分近くが「スペイン風邪」の歴史に当てられていたのは感心しない。「東京五輪の2021年開催は困難 中止への秒読みが始まった」という見出しに釣られて読んだのに、なかなか本題に入らないので不安になった。記事の過半は「東京五輪の2021年開催」が可能かどうかの分析に充ててほしかった。

もう1つ気になったのが以下のくだりだ。

【東洋経済の記事】

感染症はいともたやすく選手生命を奪う。10年10月、インドで英連邦競技大会(コモンウェルスゲームズ)が開かれた。当時、アジアでデング熱が流行し、WHOが警告していた。蚊が媒介するウイルスにより高熱を出し、死に至ることもある病で、治療薬はない。

インドは当時、20年ぶりの感染者増に見舞われ、大会に参加したカナダの女子平泳ぎ選手、アンナメイ・ピアースが感染した。回復後も調子が戻らず、引退した。09年に200メートル平泳ぎで世界記録を更新した好選手の前途を、感染症が閉ざした



◎因果関係を断定できる?

アンナメイ・ピアース」選手が「回復後も調子が戻ら」なかったのは「デング熱」が原因と断定して良いのだろうか。「デング熱」への感染がなければ「調子」が戻っていたかどうか判断はかなり難しそうだ。なのに「好選手の前途を、感染症が閉ざした」と言い切っている。因果関係を単純に考え過ぎている気がする。


※今回取り上げた記事「東京五輪の2021年開催は困難 中止への秒読みが始まった
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23800


※記事の評価はC(平均的)。後藤逸郎氏への評価もCとする。

2020年6月8日月曜日

「日立を襲う3つの損失リスク」で週刊ダイヤモンド千本木啓文記者に注文

週刊ダイヤモンド6月13日号に千本木啓文記者が書いた「Close Up~ ホンダとの自動車部品統合が最大懸念 日立を襲う『三つの損失リスク』」という記事には色々と問題を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

まず気になったのが以下のくだりだ。
筑水キャニコム本社(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

日立は5月29日、2021年3月期通期業績予想を発表した。売上高は前年比1兆6872億円減の7兆0800億円(そのうちコロナの影響額は約1兆円)、営業利益は同3000億円減となる見込みだ。



◎なぜ「率」で見せない?

これだと、計算しないと減収率や減益率が分からない。どのぐらいの落ち込みなのかを金額で示すなとは言わないが、変化率は欲しい。また「営業利益は同3000億円減となる見込みだ」と減少幅だけを見せているのも感心しない。「3000億円減」で、どの程度の「営業利益」になるのかは欲しい。

横文字の使い方にも注文を付けておきたい。

【ダイヤモンドの記事】

コロナショックの前に「ディール」が成立していたことから、売却額は約1兆円。振り返れば、日立はこれ以上ない絶好のタイミングで子会社を高値で売ることができたといえる。



◎「ディール」を使う必要ある?

ディール」は使う必要性が乏しい横文字だと感じる。カギカッコまで付けて「ディール」にこだわる意味があるのか。例えば「コロナショックの前に契約が成立していた」としても、何ら問題はないはずだ。無駄な横文字は避けてほしい。

今回の記事のキーワードは「三つの損失リスク」だ。これも引っかかる。

【ダイヤモンドの記事】

日立を襲うリスクは、コロナショックや、ホンダ傘下のサプライヤー3社との経営統合だけではない。実は、7000億円を投じるスイスの重電メーカーABBの電力システム事業の買収も、20年前半に実施する予定なのだ。



◎「2つ」でいいような…

コロナショック」「ホンダ傘下のサプライヤー3社との経営統合」「ABBの電力システム事業の買収」が「三つの損失リスク」だと千本木記者は言う。しかし「ホンダ傘下のサプライヤー3社との経営統合」を控える「自動車機器事業」に打撃を与えるのが「コロナショック」だ。だとしたら、これを分けて考える必要はない。

自動車機器事業」と「電力システム事業」の2つが「損失リスク」を抱えていると見る方が自然だ。

そして、今回の記事で最も問題を感じたのが以下の説明だ。

【ダイヤモンドの記事】

ABBの案件は日立にとって、送電事業でグローバルに打って出るための大勝負である。もっとも、過去最大規模の買収であり、かつ相手は百戦錬磨の外資企業であるため、統合後ののれんの“大減損リスク”は排除できない



◎「減損リスク」と関係ある?

過去最大規模の買収であり、かつ相手は百戦錬磨の外資企業であるため、統合後ののれんの“大減損リスク”は排除できない」という説明がよく分からない。純資産よりも大幅に高い金額で買収したのならば「“大減損リスク”は排除できない」だろう。だが「過去最大規模の買収」である点はあまり関係がない。買収額が大きくても、それ以上に純資産があれば、短期的には「減損リスク」を心配しなくていい。

相手は百戦錬磨の外資企業であるため」という説明はさらに謎だ。「百戦錬磨の外資企業だから、親会社が経営を管理するのが難しく、放漫経営になりやすい。そうなれば減損リスクが膨らむ」との趣旨だろうか。そういう可能性はあるが、だとしたらもう少し丁寧な説明が要る。


※今回取り上げた記事「 Close Up~ ホンダとの自動車部品統合が最大懸念 日立を襲う『三つの損失リスク』
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29568


※記事の評価はD(問題あり)。※記事の評価はC(平均的)。千本木啓文記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。千本木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「不祥事頻発」の分析が怪しい週刊ダイヤモンドの自衛隊特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_69.html

間違い目立つ週刊ダイヤモンド「ハイブリッド戦争」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_10.html

東芝メモリ買い手を「強盗と詐欺師」に見せる週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_2.html

東芝メモリ売却の「教訓」に説得力がない週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_69.html

週刊ダイヤモンドが日経ビジネスに圧勝 「東芝の親子上場解消」巡る記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/blog-post_4.html

2020年6月6日土曜日

日経ビジネス「東大の力~日本を救えるか」に感じた物足りなさ

日経ビジネス6月8日号の特集「東大の力~日本を救えるか」は悪い出来ではない。だが、面白いとは思えなかった。いくつか理由がある。まず「日本を救えるか」という問題提起に共感できなかった。特集の最初の記事では以下のように記している。
道の駅 水辺の郷 おおやま(大分県日田市)
        ※写真と本文は無関係です

新型コロナへの直接の処方箋だけでなく、今後、社会が直面する問題をいち早く見抜き、解決への道筋を示すことが大学に求められている。日本が再び飛躍できるのか。それは、政府や企業だけでなく、『知』から未来を創造する大学、とりわけそのリーダーたる東大の双肩にかかっている

日本を救えるか」という問題提起が意味を持つためには、上手く「東大の力」を使えば単独で「日本を救える」という状況が欲しい。しかし「政府や企業」に加えて「大学」が力を合わせる必要があり、「東大」は「大学」の「リーダー」に過ぎないのならば「日本を救えるか」と期待する方に無理がある。

そもそも「東大」は「大学」の「リーダー」なのかとの疑問も湧く。トップ校だとしても「リーダー」という感じはしない。京大の関係者は「大学のリーダーはあくまで東大。我々の役割はリーダーを支えること」などと思っているだろうか。

面白さを感じなかったもう1つの理由は理系への偏りだ。「産学連携」「大学発ベンチャー」など、主として理系絡みの固い話題が続く。文系学部の動向や、最近の東大生気質といった話が盛り込んであると「東大の力」をより多面的に理解できたのではと感じる。

その意味で「Part5 大学淘汰の時代にどう生き残るか~加速する改革競争」と、その後の「epilogue~各界有識者が語る 大学復活の処方箋」で、話が大学全般に拡散したのが残念。最後まで「東大の力」を掘り下げてほしかった。

その「Part5」に引っかかる説明があった。そこを見ておこう。

【日経ビジネスの記事】

「今の私立大学は、改革の方向性を軸にするとおおむね4つに分類できる」。大学の経営情報や高校教員向けの進学情報などを発信するリクルート進学総研の小林浩所長はこう指摘する。

1つ目は首都圏でいうと、早稲田大学、慶応義塾大学やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)などのトップ校・有名校。これらは海外の大学との提携拡大や文系と理系の融合などデータ経済の時代に対応した新学部開設や教育強化を標榜し始めた。

2つ目は、それに次ぐ中堅校で改革の内容は似ている。3つ目が、グローバル化やIT、技術志向により明確に特化しようとする大学。京都先端大の事例はここに該当しそうだ。4つ目は改革が停滞し、将来再編の波に洗われかねない大学群だ



◎3つでいいのでは?

改革の方向性を軸にするとおおむね4つに分類できる」と「リクルート進学総研の小林浩所長」は言っているようだが、3つでいいと感じる。

要らないのが「2つ目」だ。「早稲田大学、慶応義塾大学やMARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)などのトップ校・有名校。これらは海外の大学との提携拡大や文系と理系の融合などデータ経済の時代に対応した新学部開設や教育強化を標榜し始めた」というのが「1つ目」。「2つ目」は「それに次ぐ中堅校で改革の内容は似ている」そうだ。「改革の内容は似ている」のならば「改革の方向性を軸に」分類する場合に分ける必要はない。


※今回取り上げた特集「東大の力~日本を救えるか
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00444/


※特集全体の評価はC(平均的)。吉野次郎記者、武田安恵記者、中山玲子記者 田村賢司編集委員への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。


※吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html

日経ビジネス吉野次郎記者は「投げ銭型ライブ」を持ち上げるが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_21.html


※武田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

LINEほけんは「好調そのもの」? 日経ビジネス武田安恵記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/line.html

肝心の事例が成立してない日経ビジネス特集「再考 持たざる経営」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_7.html


※中山記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「パナソニックの祖業=自転車」が苦しい日経ビジネス中山玲子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_25.html

井上智洋 駒沢大准教授による日経ビジネス「気鋭の経済論点」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_33.html


※田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_18.html

「名目」で豊かさを見る日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_3.html

「名目」で豊かさを見る理由 日経ビジネスの苦しい回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_14.html

2020年6月5日金曜日

ニュース記事それとも解説記事?日経「香港から移民、身構える台湾」

最近の日本経済新聞ではニュースなのか解説なのかよく分からない記事が散見される。5日の朝刊国際・アジア面に載った「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」という記事もその1つだ。台北支局のクリス・ホートン記者は以下のように記している。
臼杵石仏(大分県臼杵市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

中国が香港の自治に関与する姿勢を鮮明にするなか、香港から自由を求める移住希望者が急増する可能性が高まっている。台湾では香港を支持する声が多いが、香港人の大量受け入れに慎重論も根強い。台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は雇用情勢や中国との関係をにらみ、難しい選択を迫られる。

中国政府の圧力で香港で閉店を余儀なくされ、台湾で再スタートを切った銅鑼湾書店の店主、林栄基氏は2016年に記者会見で、中国の治安当局に尋問のため連行されたと明かした。罪状は中国本土で発禁処分の本を売ったことだった。

林氏は台北に拠点を移し書店を再開。蔡総統も5月に訪問し「自由な台湾は香港の自由を支持する」と手書きのメッセージを残した。

林氏は取材に対し、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の制定を決めたのを受け、多くの香港人が難民として台湾に逃れてくると語った。蔡政権が移住者を収容する道を見つけることへの期待も示した。

多くの台湾市民は香港が中国の拡張主義の最前線と考える。香港が脅かされれば、中国が民主的な台湾にも侵入する可能性が高まると懸念する。

林氏は台北で銅鑼湾書店を所有する会社を設立し、長期滞在に必要なビザを取得した。だが資金力の乏しい多くの香港人が台湾で長期滞在ビザを得られるかは不透明だ。

蔡総統は香港人の移住支援を表明し特別チームを設置した。だが詳細は明らかにしていない。香港人の流入で雇用競争が激しくなりかねず、中国との一段の関係悪化につながることも受け入れ政策の具体化に影響する。


◎ニュース記事ならば…

「これはニュース記事なのか解説記事なのか」と聞かれたら「どちらかと言えばニュース記事」だと答えたい。なので、ニュース記事との前提で注文を付けていく。

ニュースの柱は「中国が香港の自治に関与する姿勢を鮮明にするなか、香港から自由を求める移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことだ。「可能性が高まっている」のはその通りかもしれないが、裏付けとなる材料がなかなか出てこない。

ようやく出てきたのが「林氏は取材に対し、中国が反体制活動を禁じる『香港国家安全法』の制定を決めたのを受け、多くの香港人が難民として台湾に逃れてくると語った」という話だ。しかし「林氏」の個人的な見通しだけでは、さすがに苦しい。

蔡総統は香港人の移住支援を表明し特別チームを設置した」との記述もあるが「詳細は明らかにしていない」などと書いており「移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことの裏付けと見てよいのか微妙だ。結局、「移住希望者が急増する可能性が高まっている」と納得できるだけの材料は見当たらない。

だからなのか、見出しも「香港から移民、身構える台湾」となっていて「移住希望者が急増する可能性が高まっている」ことをメインにはしていない。

さらに引っかかるのが見出しの「大量受け入れに慎重論も」に関係する記述だ。記事では「香港人の大量受け入れに慎重論も根強い」と書いているだけで、誰がどんな「慎重論」を展開しているのか具体的な事例がない。これで「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」と打ち出されても困る。

結局、この記事には核となる材料がない。クリス・ホートン記者は「中国政府の圧力で香港で閉店を余儀なくされ、台湾で再スタートを切った銅鑼湾書店の店主、林栄基氏」に「取材」できたので、何か記事を作れないかと考えたのだろう。しかし素材を上手く使って記事にする技術が不足していたので、今回のような記事になったと推測できる。

今回の場合、単純に「林栄基氏」へのインタビュー記事にするのが正解だと思える。「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も」という話にこだわるのであれば「慎重論」に関してしっかり材料を集め、「林栄基氏」のコメントは添え物として使うべきだろう。



※今回取り上げた記事「香港から移民、身構える台湾~大量受け入れに慎重論も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200605&ng=DGKKZO59983250U0A600C2FFJ000


※記事の評価はD(問題あり)。クリス・ホートン記者への評価も暫定でDとする。

2020年6月4日木曜日

「匿名を盾にした言葉の暴力は許されない」と日経の社説は訴えるが…

4日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「ネット中傷の撲滅へまず民間が動こう」という社説は問題をきちんと整理できていないと感じた。最初の方を見てみよう。
大分県日田市を流れる三隈川(筑後川)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の社説】

SNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷を受けていたプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。ネットはいじめの道具ではない。同じ悲劇を繰り返さず、政府の過度の介入を避けるためにも、まず民間の企業や利用者が真剣に解決策を考えてほしい。

テレビ番組での木村さんの言動を巡り、人格をおとしめるような匿名投稿が相次いでいた。姿が見えない無数の相手からの攻撃だ。木村さんの自宅には、遺書とみられるメモが残っていた。

どんなにつらかっただろう。匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない。番組を盛り上げるためにSNSを使うケースは多いが、出演者の保護は十分だったのか。制作側はこうした点を徹底的に検証すべきだ。

日本ではプロバイダー責任制限法に基づき、事業者にネット中傷の削除や投稿者情報の開示を請求できる。だが裁判に訴えても費用や時間がかかり、泣き寝入りを迫られる個人被害者は多かった。


◎「ネット中傷」はダメだとしても…

中傷」とは「根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけること」(デジタル大辞泉)だ。「ネット中傷」も名誉棄損に当たる。これを「撲滅」しようとするのは分かる。

だが「人格をおとしめるような匿名投稿」が「中傷」とは限らない。例えば「安易に暴力を振るうA氏は人間として最低だ」と匿名で「投稿」すれば「人格をおとしめるような匿名投稿」には当たる。しかし「安易に暴力を振るう」のが事実ならば「中傷」とは言い難い。

社説では「匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない」とも書いている。「言葉の暴力」という表現は安易に使われがちだ。例に挙げたA氏への批判も「言葉の暴力」と言えなくもない。日経は「辞任では済まない黒川検事長の振る舞い」という社説を少し前に載せていた。これも「黒川検事長」に対する「匿名を盾にした言葉の暴力」とも取れる。

個人的には「匿名投稿」での批判は嫌いだ。自分も記事の書き手を厳しく批判することがあるが、実名でしかやるつもりはない。ただ、それを他の人にも強いるのは好ましくないと感じる。

「『匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない』から、新聞の社説も必ず筆者を明らかにすべきだ。複数の人間が関わっている場合は全員の氏名を明らかにせよ」。こう言われたら日経は従うのか。

社説の続きを見ていこう。

【日経の社説】

悪意ある匿名の投稿を防ぐため、政府は開示の手続きを簡素化する法改正を進める考えだ。発信者を特定しやすくなれば、安易な匿名投稿の抑止力となろう。

ネット中傷の相談件数は年々増えており、誰がいつ被害者になってもおかしくはない。SNS各社に厳しいヘイトスピーチ対策を課す欧州などに比べ、日本の対応はむしろ遅すぎたぐらいだ。


◎「悪意ある匿名の投稿」はあった方が…

ここでも「悪意ある匿名の投稿」であれば「ネット中傷」に当たると取れる書き方をしている。個人的には「悪意ある匿名の投稿」をするつもりはない。しかし「悪意ある匿名の投稿を防ぐ」必要はないと感じる。「悪意ある匿名の投稿」で精神的に傷付く人もいるだろう。だが、自由に意見を言えるプラス面が上回ると見ている。

悪意ある匿名の投稿」が禁止になれば、プロ野球を見ながら「チャンスで凡退を繰り返す4番打者は要らない。さっさと引退してくれ」「何回リリーフ失敗してんだよ。こいつに抑えは無理」といった「匿名の投稿」をすることも許されない。そういう社会は本当に望ましいのか。

名誉棄損や脅迫の類には厳しく対応すべきだ。しかし、それ以外は基本的に自由でいい。「匿名を盾にした言葉の暴力」だとしてもだ。新聞にも「匿名を盾にした言葉の暴力」という側面がある。それを認める社会が良いのか。禁じる社会が良いのか。

考え方は色々だろうが、新聞社である日経は「匿名を盾にした言葉の暴力は許されるものではない」と言い切って良いのか。その言葉が日経自身にも跳ね返ってくることを、しっかり自覚してほしい。


※今回取り上げた社説「ネット中傷の撲滅へまず民間が動こう
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200604&ng=DGKKZO59930380T00C20A6EA1000


※社説の評価はC(平均的)

2020年6月2日火曜日

FRBは「巨額の損失リスク」を負わない? 日経 大塚節雄記者「Deep Insight」

「面白いことを書くわけではないがツッコミどころも少ない」という意味で、日本経済新聞の大塚節雄記者を「無事これ名馬」と評してきた。久しぶりに大塚記者の署名入り記事を読んだら「金融政策・市場エディター」という耳慣れない肩書が付いていた。それはいいとしても内容は「無事」とは言い難い。間違いだと思える記述があったので日経には以下の内容で問い合わせを送った。
津久見港(大分県津久見市)
         ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 金融政策・市場エディター 大塚節雄様

2日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~政府・中銀、危機が紡ぐ教訓」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

FRBが国民負担につながりかねない巨額の損失リスクを背負うわけではない。社債は直接は買わず、実務は民間が運営する特別目的事業体(SPV)が担う。SPVには米財務省が経済対策の一環で資本を出し、FRBの一角をなすニューヨーク連銀が購入資金を融資する。財政の出資金を『レバレッジ(てこ)』に使って事業規模を出資金の最大10倍にする。連銀は資金の供給役に徹し、SPVが持つ社債を担保にとる。それでも損失が出たら政府が負う。こんな役割分担が確立している

FRBが国民負担につながりかねない巨額の損失リスクを背負うわけではない」と言い切っていますが、本当にそうでしょうか。「SPVが持つ社債」が全て債務不履行になった場合を考えてみましょう。「SPV」は「財政の出資金」と「融資」の全額を社債購入に充てていると仮定します。この場合「社債を担保」にしても、社債自体の価値がゼロなので意味はありません。「損失」が「出資金」を上回るのも確実です。「融資」の返済は見込めないでしょう。

日経の別の記事によると「社債購入プログラム」では「発行市場と流通市場で総額7500億ドル分を買い入れる」そうです。小さな金額ではありません。「FRBの一角をなすニューヨーク連銀が購入資金を融資」すれば「FRB」は当然に「巨額の損失リスクを背負う」ことになります。「FRBが国民負担につながりかねない巨額の損失リスクを背負うわけではない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

もう1つ問題点を指摘します。「財政の出資金を『レバレッジ(てこ)』に使って事業規模を出資金の最大10倍にする」と大塚様は説明しています。「レバレッジ」とは「借入金によって投資を行い、借入利子よりも高い利潤を得ようとすること。借入資本利用」(大辞林)です。だとすれば「出資金」を「レバレッジ」に使うのではなく「融資」で得た資金を「レバレッジ」に使うと考えるべきでしょう。

今回の記事で言えば「融資で得た資金を『レバレッジ(てこ)』に使って事業規模を出資金の最大10倍にする」などとすべきでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「Deep Insight~政府・中銀、危機が紡ぐ教訓
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200602&ng=DGKKZO59833010R00C20A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大塚節雄記者への評価はB(優れている)からC(平均的)に引き下げる。大塚記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「無事これ名馬」だが…日経 大塚節雄記者に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_15.html

山口圭介編集長率いる週刊ダイヤモンドの「不都合な記事」に期待

山口圭介編集長が率いる週刊ダイヤモンドは期待できる--。6月6日号の「From Editors」を読んで改めてそう感じた。山口編集長は以下のように記している。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

「ジャーナリズムとは、報じられたくないことを報じること」。東京高検検事長だった黒川弘務氏と新聞記者が賭けマージャンをしていたとの報道で、この格言をあらためてかみ締めました。

記者と検察の距離感を巡って「権力に迫るには懐に飛び込むことも重要だが、書くべきことは書く覚悟も必要」といった正論を幾人かのメディア関係者が言っていました。

取材先と「持ちつ持たれつ」の日本のメディア業界で、それを実行できている人がどれだけいるのでしょうか。

不都合な記事はさまざまなハレーションを生み、出入り禁止はもちろん、訴訟の覚悟も求められます。確たる覚悟とこびない軽快さとを併せ持ったメディアでありたいものです。


◎「懐に飛び込む」必要はない

権力に迫るには懐に飛び込むことも重要だが、書くべきことは書く覚悟も必要」といった「正論」に山口編集長は懐疑的だ。個人的には「正論」だとも思えない。「ホームランを積極的に狙うべきだが、同時に三振だけは避けなければならない」的な意見だと思える。

どちらに重点を置くか明確にすべきだ。取材先との「距離感」については「フリーハンドを保てる範囲にとどめる」でいい。「懐に飛び込むこと」を重視するとフリーハンドを失ってしまいがちだ。

そして「メディア」には取材対象に厳しく斬り込む姿勢を求めたい。山口編集長の言う「不都合な記事」が「さまざまなハレーションを生み、出入り禁止はもちろん、訴訟の覚悟も求めら」るのは、その通りだ。しかし、そこを避けて通るならば「メディア」の存在意義はないに等しい。

取材対象にとって「報じられたくない」ことの中に、社会にとって意義のあるニュースが埋もれている。リスクを負って戦う「メディア」を一読者としては応援したい。

週刊ダイヤモンドが本当に「確たる覚悟とこびない軽快さとを併せ持ったメディア」であろうとするならば、やはり見捨てる気にはなれない。


※今回取り上げた記事「From Editors
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29516


※記事の評価はB(優れている)。山口圭介編集長への評価もBを維持する。山口編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ミス3連発が怖い週刊ダイヤモンドの特集「株・為替の新格言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_28.html

ミス放置「改革」できる? 週刊ダイヤモンド山口圭介編集長に贈る言葉
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_95.html

「ミス放置」方針を転換した週刊ダイヤモンドの「革命」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_12.html

週刊ダイヤモンド ようやく「訂正」は出たが内容が…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_15.html

山口圭介編集長を高く評価したくなる週刊ダイヤモンドの訂正
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_26.html

2020年6月1日月曜日

「コロナ不況」勝ち組は「外資系企業ばかり」と日経 中村直文編集委員は言うが…

1日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~コロナ禍で『逆流』する流通 分散時代の一等地探れ」という記事を書いた中村直文編集委員によると「日本の流通サービス」において「コロナ不況で力を発揮しているのは米アマゾン・ドット・コムや米マクドナルド、米スターバックスなど。顧客に対する利便性向上を怠らなかった外資系企業ばかり」らしい。この見方が正しいかどうか検証してみる。
三隈川(筑後川、大分県日田市)※写真と本文は無関係

まず気になるのが「米アマゾン・ドット・コムや米マクドナルド、米スターバックス」と書いている点だ。これだと「外資系企業」と言うより「外国企業」だ。「日本マクドナルド」などとした方が適切ではないか。

今回の記事には以下の記述がある。

【日経の記事】

4~5月と都心部のコンビニエンスストアや百貨店、繁華街の居酒屋などの売り上げは急減。今後もテレワークとそれに伴う生活圏の分散化で需要が完全に回復するのは期待できない。一方で郊外のドラッグストアや家電量販店、商店街の売り上げは軒並み好調。まさに消費の趨勢が逆転しているわけだ。


◎みんな「外資系企業」?

この説明が正しければ「郊外のドラッグストアや家電量販店、商店街」は「コロナ不況で力を発揮している」のではないか。そして、これらの分野の担い手はほとんどが国内企業だ。

ネット通販ではどうか。日経電子版の記事(5月13日付)によると「ネットショッピングモール『楽天市場』やネットスーパーなど含めた4月のショッピング関連の取扱高は前年同期比57.5%増になった」という。「57.5%増」でも国内企業の楽天は「コロナ不況で力を発揮している」とは言えないとの判断か。

食品スーパー売上高、4月の既存店10.7%増」という電子版の記事(5月21日付)もある。「食品スーパー」も国内企業が中心だ。「コロナ不況で力を発揮している」のが「外資系企業ばかり」という解説はやはり苦しい。

今回の記事で気になったくだりをもう1つ見ておく。

【日経の記事】

1970年代までの個人消費は人の住む商店街が中心だったが、次第に駅前の大型店にシフト。1990年代はショッピングセンターや家電量販店など郊外型店舗が主役になる。

だが地方都市の人口が減ってくると2000年代には再び都心回帰。「駅ナカ」「駅チカ」に攻守交代する。多くの流通サービス企業は東京を中心とした大都市部でスケールメリットを得ようと出店拡大に走ったわけだ。一方、登場してきたばかりのインターネット販売への関心は薄かった



◎「関心」は高かったような…

関心」を明確に計測はできないし「薄かった」かどうかの基準もない。しかし「登場してきたばかりのインターネット販売への関心は薄かった」との説明には納得できない。

2000年代」の初めにITバブルが崩壊した。バブルが膨れる過程では「ITが世界を大きく変える」との見方が広がり「インターネット販売」にも高い関心が集まったと記憶している。

そして、実際に「インターネット販売」は広がっていった。なのになぜ「インターネット販売への関心は薄かった」と中村編集委員は判断したのか。同じ時代を生きてきたのに、これだけ認識に乖離があると少し怖い。


※今回取り上げた記事「経営の視点~コロナ禍で『逆流』する流通 分散時代の一等地探れ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200601&ng=DGKKZO59791660Z20C20A5TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

「高島屋は地方店を閉める」と誤解した日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_23.html

野球の例えが上手くない日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_15.html

「コンビニ 飽和にあらず」に説得力欠く日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_23.html

平成は「三十数年」続いた? 日経 中村直文編集委員「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/deep-insight.html

拙さ目立つ日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ~アネロ、原宿進出のなぜ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_28.html