2018年6月21日木曜日

最低賃金「主要国に見劣り」と強引に導く日経の記事

経済記事ではデータの扱いが重要だ。恣意的な使い方に見えると、記事に説得力がなくなってしまう。21日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「最低賃金、3年連続20円超上げへ 主要国になお見劣り」という記事では、「主要国になお見劣り」に関するデータの見せ方に問題を感じた。
九州鉄道記念館(北九州市)※写真と本文は無関係です

まずは当該部分を見ていこう。

【日経の記事】

日本の最低賃金は主要国に比べてなお見劣りしている。労働政策研究・研修機構によるとフランスは9.88ユーロ(約1260円)、ドイツは8.84ユーロ(約1130円)。米国は連邦基準で7.25ドル(約800円)だが、多くの州がこれを上回る水準に設定している。直近の引き上げ率も日本を上回る国が目立つ。

◇   ◇   ◇

記事には「主要国の引き上げ率は日本を上回る」というタイトルの表が付いていて、米ニューヨーク州(最低賃金1144円)、ドイツ(1126円)、韓国(749円)、中国・北京(374円)、日本(848円)を比較している。記事の記述と併せて、気になる点を列挙していく。

疑問その1~主要国の基準は?

記事では「主要国」の基準を示していない。米国、ドイツ、フランス、中国、韓国を「主要国」と扱っているが、基準は謎だ。G7でもOECD加盟国でもない。何を以って「主要国」と言っているかは明示した方がいい。でないと、ご都合主義的に比較対象を選んでいるように見える。


疑問その2~「見劣り」してる?

今回「主要国」とした米国、ドイツ、フランス、中国、韓国と比べると、日本は厳しく見ても6カ国中の4位だ。米国を上回り3位とも言える(この問題は後で触れる)。あまり「見劣り」している感じはない。本来ならば表に「主要国の最低賃金は日本を上回る」と入れたかったのだろう。だが、そうはなっていないので「引き上げ率」で逃げたのだと推測できる。


疑問その3~なぜ「国」で比べない?

日本の「848円」を米ニューヨーク州の「1144円」と比べるのは感心しない。どうしてもニューヨーク州と比較したいのならば、日本も「日本・東京958円」などとすべきだ。「米国は連邦基準で7.25ドル(約800円)」という数字をそのまま表に入れると、「主要国になお見劣り」がさらに怪しくなるので、頑張って“工夫”したのだろう。

記事に説得力を持たせたいのならば、こうした“工夫”は避けた方がいい。


※今回取り上げた記事「最低賃金、3年連続20円超上げへ 主要国になお見劣り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180621&ng=DGKKZO32012960Q8A620C1EA2000

※記事の評価はC(平均的)。

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