2018年7月30日月曜日

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏

自民党の杉田水脈衆議院議員が「新潮45」に書いた「LGBT」に関する記事が物議を醸している。杉田議員への批判はいいとしても、「生産性」という言葉に対する拒絶反応のような主張は引っかかる。
竹崎城址展望台公園(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

日経ビジネスオンライン7月27日付の「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 世間に転がる意味不明~杉田水脈氏と民意の絶望的な関係」という記事でも、「生産性」に関して誤解に基づく批判が展開されていた。そこで、以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【日経BP社への問い合わせ】

小田嶋隆様  日経ビジネスオンライン担当者様

日経ビジネスオンライン7月27日付の「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 世間に転がる意味不明~杉田水脈氏と民意の絶望的な関係」という記事についてお尋ねします。

自民党の杉田水脈衆議院議員が「新潮45」に書いた「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供をつくらない、つまり『生産性』がないのです」というくだりに関して、小田嶋様は以下のように述べています。

そもそも、生きている人間に対して『生産性』という言葉をあてはめにかかる用語法自体がどうかしている。生産性というのは、工業製品の生産管理の場面で使われるべき言葉であって、生きた血の流れているものには、たとえ犬や猫に対してでさえ決して適用してはいけない言葉だ

杉田議員の発言には問題があるかもしれませんが、「生産性」に関する小田嶋様の説明は明らかに違うと思えます。

例えば「労働生産性」という言葉は労働に関する「生産性」を見るので当然に「生きた血の流れている」人間に「適用」されます。「1人当たり生産性」という言葉もよく用いられます。また、「工業製品の生産管理」でしか用いない言葉でもありません。サービス業にも使えます。「子供は生産物ではない」との批判はあるかもしれませんが、カギカッコを使っていることもあり、比喩的表現としては成立していると思えます。

自分は子供好きではないので出産・子育ての『期待リターン』は低い」という文と似たようなものでしょうか。この考え方に関する感想は様々だとしても、経済用語である「期待リターン」に関する「用語法自体がどうかしている」わけではありません。

今年1月の「賢人の警鐘~茂木友三郎(キッコーマン取締役名誉会長・取締役会議長)」という日経ビジネスの記事で茂木氏は以下のように語っています。

日本の1人当たりの生産性は、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中20位だ。米国と比較すると製造業で約7割、サービス産業は約5割の水準にとどまる

日経ビジネスが「賢人」と認めた人物でさえ「生きている人間に対して『生産性』という言葉をあてはめ」ているのです。OECDも同様です。

人間に対して当たり前に使う言葉なので、動物に対しても当然に用います。例えば「住友化学、愛媛工場で飼料原料増産 500億円投資」という日経の記事(2016年5月19日)では「増産するのは化学合成でつくるアミノ酸『メチオニン』。鶏の成長に欠かせず、エサに混ぜるとよく育って鶏肉や鶏卵の生産性が高まる」と書いています。

生きている人間に対して『生産性』という言葉をあてはめにかかる用語法自体がどうかしている。生産性というのは、工業製品の生産管理の場面で使われるべき言葉であって、生きた血の流れているものには、たとえ犬や猫に対してでさえ決して適用してはいけない言葉だ」という説明は誤りではありませんか。少なくとも現状に即していないと思えます。「日本人は生産性が低い」といった言葉の使い方は本当に「どうかしている」のでしょうか。もしそうだとしたら、日経ビジネスも「どうかしている」メディアの1つとなるはずです。

お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

いつも弊誌ならびに日経ビジネスオンラインをご愛読いただき、誠にありがとうございます。

ご指摘いただきました、オンラインのコラム筆者の小田嶋氏と、雑誌の茂木氏とでは、確かに仰るとおり、同じ「生産性」という言葉でも使っている概念に違いがございます。

言葉の用法につきましては筆者の主観に依るところが大きく、書き手の個性をできる限り
尊重する記名コラムという性格上、何卒ご寛恕いただければと存じます。

どうぞ今後とも日経ビジネスをご愛顧、ご叱正下さい。
よろしくお願い申し上げます。

日経ビジネス編集部

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『ア・ピース・オブ・警句』 世間に転がる意味不明~杉田水脈氏と民意の絶望的な関係
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/072600152/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏への評価はA(非常に優れている)からB(優れている)に引き下げる。小田嶋氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

韓国やモンゴルは「西欧の植民地」だった? 東洋経済の誤り

タイを除けば、日本はアジアで唯一、西欧の植民地化を免れた国」--。週刊東洋経済8月4日号でリチャード・カッツ氏はそう言い切っていたが、違う気がする。東洋経済には以下の内容で問い合わせを送った。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

リチャード・カッツ様  週刊東洋経済編集部 担当者様

8月4日号の「グローバルアイ~明治維新から150年 それを祝わない日本の不思議」という記事に出てくる「タイを除けば、日本はアジアで唯一、西欧の植民地化を免れた国だ」という記述についてお尋ねします。記事の説明が正しければ、モンゴル、北朝鮮、韓国も「西欧の植民地化」の対象となっているはずです。

まずモンゴルについて考えます。「日本大百科全書」によると「1911年の辛亥革命で清朝が倒れたのを機に、モンゴルは帝政ロシアの支援を得て独立を宣言」します。「中国(中華民国)の強い反対にあい、ロシア・中国間の覚書などによって『独立』は『自治』へと後退」したものの「1921年3月には臨時革命政府を樹立し、革命軍を組織してコミンテルンやソ連赤軍の支援を得て中国軍を駆逐」します。さらに「モンゴルに侵入していたロシア白衛軍をも追放してウランバートルを解放し、1921年7月11日には新政府を樹立」したようです。その後は独立を維持しています。

モンゴルの独立を脅かす主体は基本的に中国とロシアで、それに日本が若干加わる程度です。「西欧」が「植民地化」した事実は確認できません。

韓国・北朝鮮に関しては説明するまでもないでしょう。朝鮮半島を日本が支配した時代はありましたが、「西欧の植民地化」は実現していません。

タイを除けば、日本はアジアで唯一、西欧の植民地化を免れた国だ」という説明は明らかな誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

言いたいことは分からなくもないが「西欧」と入れてしまうと弁明が難しくなる。回答はないだろうが…。

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「グローバルアイ~明治維新から150年 それを祝わない日本の不思議
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018080400


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年7月29日日曜日

FACTAの悪癖 今度は「JBIC新総裁」前田匡史氏に悪口

FACTAが相変わらず苦しい。単純なミスはまだいいとしても、悪口としか思えない個人攻撃にはメディアとしてのレベルの低さがにじみ出てしまう。8月号に関しては以下の内容で問い合わせを送った。そして今回も回答はなかった。
眼鏡橋(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】 

FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

8月号の「出光昭和シェルの火種『村上世彰』」という記事についてお尋ねします。記事には「昨年12月、債務超過寸前だった東芝は6千億円の第三者割当増資を実施した」との記述があります。これを信じれば「第三者割当増資」の直前でも東芝は「債務超過」になっていなかったはずです。

しかし、ご存じのように東芝は2017年3月期に債務超過に転落し、18年3月期に入っても増資前の段階では債務超過の状態でした。「昨年12月、債務超過寸前だった東芝は6千億円の第三者割当増資を実施した」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

筆者は「昨年12月、2期連続の債務超過寸前だった東芝は6千億円の第三者割当増資を実施した」と言いたかったのでしょう。しかし、そうは書いていません。

ついでで恐縮ですが、同じ8月号の「JBIC新総裁『前田匡史』の正体」という記事にも苦言を呈しておきます。問題としたいのは以下のくだりです。

ついに俺はここまで昇りつめたか。前田匡史はいま、八王子市の高台にある住まいで、鼻の穴をふくらませて万能感に包まれている。6月、JBICの代表取締役総裁に就任したのである

これはしっかりした根拠のある話なのですか。前田氏が「八王子市の高台にある住まいで、鼻の穴をふくらませて万能感に包まれている」ことを筆者はなぜ知ったのでしょう。家族などから情報を得た可能性もありますが、かなり考えにくいと思えます。

百歩譲って事実を確認できているとしても「鼻の穴をふくらませて」などと書く必要があるでしょうか。こうした表現からは「事実を的確に伝えよう」との姿勢は伝わってきません。単なる悪口に思えてしまいます。批判は大いに結構です。しかしメディアとしての品性を疑われるような悪口の類はやめませんか。

特に主筆の阿部様には強く問います。こんな悪口の類を垂れ流すような雑誌にするために「FACTA」を創刊したのですか。本当に今のままで良いのですか。

問い合わせは以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事

出光昭和シェルの火種『村上世彰』
https://facta.co.jp/article/201808026.html

JBIC新総裁『前田匡史』の正体
https://facta.co.jp/article/201808012.html


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。FACTAの問題ある個人攻撃に関しては以下の投稿を参照してほしい。

どうしたFACTA? 高島屋広報室長らに根拠薄弱な個人攻撃
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/facta_22.html

東芝新会長「おしゃべり車谷」への個人攻撃が苦しいFACTA
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/facta.html

2018年7月28日土曜日

「リスク」と「債券」の説明に難あり 日経 田村正之編集委員

28日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に田村正之編集委員が書いた「長期投資 GPIFに学ぶ 分散・リバランスが鉄則」という記事はいくつか説明に難があった。 具体的に指摘してみたい。
新渡大橋(佐賀県白石町)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

参考までに他の資産配分の例を図Bに示した。株式の比率を高めるほど期待リターンは高まる半面、リスクが増すことに注意が必要だ。全額を株式(国内40%、外国60%)とする右上の例でリターンは年6%でリスクは24%。このリスクの数値は、金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうることを表している



◎リターンは考慮しない?

上記の説明は間違いとは言えないが問題ありだ。まずは田村編集委員が2011年6月21日付で書いた記事の一部を見てみよう。この記事の説明は問題ない。

【日経の記事(2011年)】

1標準偏差は、統計学上、平均(期待リターン)の上下に68%の確率でちらばる値だ。積極型ポートフォリオの期待リターン6%、リスク13%というのは、要するに6%を中心にプラスマイナス13%(マイナス7%からプラス19%)の間に収まる確率が68%ということだ。

逆に言うと、マイナス7%を下回る確率も、残り32%の下半分、つまり16%あることになる。

イボットソンの小松原さんは「成績のブレは、慎重を期して『2標準偏差』まで想定していた方がいい」と話す。

グラフDで分かるように2標準偏差は95%の確率でそこに収まるという値。ポートフォリオAなら、2標準偏差はリスク13%×2の26%なので、期待リターン6%を中心にプラスマイナス26%(つまりマイナス20%からプラス32%)だ。

◇   ◇   ◇

28日の記事の「金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうる」というのは「2標準偏差」について述べているのだろう。だが、リターンを考慮していない。

2011年の記事では「期待リターン6%を中心にプラスマイナス26%(つまりマイナス20%からプラス32%)」とリターン込みで下落率を出している。「リターンは年6%でリスクは24%」という前提ならば「2標準偏差」を考える場合、「95%の確率でそこに収まる」下落率は「48%」ではなく「42%(リターン6%からマイナス48%)」となる。

2011年の記事ではきちんと説明できていたのに、忘れてしまったのだろうか。

問題はまだある。「金融危機時のような歴史的な株安局面で1年間にその2倍(48%)くらいの値下がりが十分ありうることを表している」と言われると「金融危機時のような歴史的な株安局面」でも「48%」を超えるような下落は想定しなくていいような印象を受ける。

2標準偏差」まで想定していても「95%の確率でそこに収まる」だけの話だ。裏返せば5%の確率でそこから外れる。「金融危機時のような歴史的な株安局面」であれば95%に収まらないと考えるのが自然だ。その時の下落率については何とも言えない。

次は「債券」に関するくだりを見ていく。

【日経の記事】

ちなみに国内債券の金利は現在ほぼゼロだ。今後もしも金利が上がって債券の価格が下がれば損失になる。当面は、価格変動リスクのない預貯金で代替するのが無難かもしれない。



◎「個人向け国債」でいいのでは?

今回の記事では個人投資家を想定しているはずだ。なのに上記のような説明をするのは解せない。
長崎県立諫早高校(諫早市)※写真と本文は無関係です

個人向け国債(変動10年)を選べば「今後もしも金利が上がって」も「損失になる」恐れはない(ここではデフォルトリスクを考慮しない)。変動金利なので金利上昇に伴って利回りも高まる。現在の金利は0.05%と高くないが、大方の定期預金は上回る。「預貯金で代替する」意義は感じられない。この辺りは田村編集委員も理解しているはずだが…。


※今回取り上げた記事「長期投資 GPIFに学ぶ 分散・リバランスが鉄則
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180728&ng=DGKKZO33476970X20C18A7PPE000


※記事の評価はC(平均的)。「金融業界の回し者」的な要素は今回の記事にも見当たらなかった。その点は評価したい。ただ、田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_61.html

「積み立て優位」に無理がある日経 田村正之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_6.html

「金融業界の回し者」から変われるか 日経 田村正之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_26.html

「金融業界の回し者」日経 田村正之編集委員に好ましい変化
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_14.html

2018年7月27日金曜日

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員

27日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「ヒットのクスリ~吉野家カフェの実験 『先入観の壁』を壊せるか」という記事は分析の甘さが目立った。筆者は中村直文編集委員。記事を見ながら問題点を挙げていきたい。
小長井駅(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

今月上旬に新潟へ出張したときのこと。JR新潟駅万代口の構内で時間をつぶそうと思ったが、なかなかカフェが見当たらない。地下に下りると「140円でコーヒーを提供」と告知する吉野家を発見。「販売不振か?」。結局牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け、スルーしてしまった。


◎「カフェが見当たらない」?

中村編集委員が見かけた吉野屋は「CoCoLo新潟店」だろう。新潟駅のCoCoLo万代という商業施設の地下にある。CoCoLo万代のホームページを見ると、1階には「VIE DE FRANCE CAFE」というカフェが入っているようだ。

ホームページの情報が古いのか、それとも臨時休業していたのか。なぜ「なかなかカフェが見当たらない」状況だったのかは気になる。

ついでに言うと「結局牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け、スルーしてしまった」のも引っかかる。流通担当の編集委員ならば、気になったのなら入ってほしい。時間がないわけでも、高額なわけでもない。「時間をつぶそうと」カフェを探していたのだから。「気になったら、できる限り自分で確かめる」という気持ちを、少なくとも担当分野に関しては持ってほしい。

牛丼店で安いコーヒーだけを注文するのは気が引け」という弁明も理解に苦しむ。牛丼380円とコーヒー140円ならば、大した違いはない。利益の額で言えばコーヒーが上回っていても不思議ではない。それに、接客するのがアルバイトだとしたら、店の利益に貢献してくれる客かどうかは重要ではない。コーヒーだけを注文する客に対して「コーヒー以外に何か頼めよ。儲けにならないよ」などと内心で思う可能性は非常に低いはずだ。

話が逸れてしまった。記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

この話を吉野家にするとこちらの見当違いだった。実は新潟駅の吉野家はカフェ機能を備え、女性の入店増と繁閑をならす試みだ。“吉野家カフェ”とでも言うべき実験は2年前にさかのぼる。1号店は東京・恵比寿。看板は黒が基調で、黒・吉野家とも呼ばれる。



◎「女性の入店増と繁閑をならす試み」?

中村編集委員はしっかりした文章が書けるタイプではない。今後も記事を書かせるのならば、デスクなど周囲がしっかりと支えてあげるべきだ。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

女性の入店増と繁閑をならす試みだ」という文はかなり拙い。この書き方だと「『女性の入店増』と『繁閑』をならす試み」になってしまう。しかし吉野屋に「女性の入店増をならす」意図はないはずだ。「女性の入店増を図り繁閑をならす試みだ」と中村編集委員は言いたいのだろうが…。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

吉野家の女性客比率はわずか2割。男性ばかりで入りづらいなど抵抗感が強いからだ。そこで実験店では席に着いてから注文を聞くスタイルを廃止。カフェのように入店直後にレジで注文を聞き、客が自ら料理を運ぶキャッシュ&キャリーに転換した。コーヒーメニューを加え、店内もテーブル席を増やすなど雰囲気を一新した。

試みは見事に成功。恵比寿の店舗の女性比率は3割で、女性になじみやすいカフェ方式は成果を上げた。かつて吉野家が始めた「女子牛」(じょしぎゅう)と呼ぶ女性客拡大のためのキャンペーンは不発。「主力の男性客を減らさないように女性を増やす方法はないか」(河村泰貴社長)と試行錯誤を繰り返し、おじさん客の離反も防いだ


◎「試みは見事に成功」?

試みは見事に成功」と中村編集委員は言い切るが、根拠は乏しい。「恵比寿の店舗の女性比率は3割」というデータだけでは何とも言えない。問題は売り上げだ。女性比率は上がったものの、店舗の売り上げはほぼ横ばいだとしたら、「試みは見事に成功」とは言い難い。だが、その辺りの数字を中村編集委員は教えてくれない。

試みは見事に成功」だとしたら、「カフェのように入店直後にレジで注文を聞き、客が自ら料理を運ぶキャッシュ&キャリーに転換」することで売り上げを大きく伸ばせる。吉野家の多くの店に広げるはずだ。「“吉野家カフェ”とでも言うべき実験は2年前にさかのぼる」のだから、実験の成功を受けて「“吉野家カフェ”」は増殖しているころだ。

ここでも中村編集委員は何も教えてくれない。「黒・吉野家」が何店舗あるのかも不明だし、「CoCoLo新潟店」が「黒・吉野家」になっているのかも分からない。

中村編集委員は「『主力の男性客を減らさないように女性を増やす方法はないか』(河村泰貴社長)と試行錯誤を繰り返し、おじさん客の離反も防いだ」とも書いている。面白そうな話だが、具体的な離反防止策はこれまたなし。肝心な情報が抜け過ぎていて「試みは見事に成功」だと信じる気になれない。

吉野屋の話はここまでだが、せっかくなので記事を最後まで見てみよう。

【日経の記事】

消費を促すには習慣や先入観、罪悪感など購入を妨げる壁の破壊が必要だ。靴の通販で成長しているロコンドの田中裕輔社長は「自宅で楽しみながら買ってもらいたい。だから返品時に罪悪感を与えてはいけない」と話す。同社は返品無料だけでなく、返品期限も発注から21日と同業の2~3倍に設定している。

最近では配達を少し遅くする代わりに、安くなる「急ぎません。便」を追加した。物流業界は極度の人手不足。顧客の罪悪感をさらに薄める効果もあって、想像以上の利用率だ。マイナス要素を見事にプラスに変えた。


◎「返品無料」は逆効果では?

ここで言う「罪悪感」とは「返品したら通販会社に申し訳ない」という気持ちを指すのだろう。これを「返品無料」で減らせるだろうか。むしろ有料にした方が「罪悪感」を抱かせずに済むと思える。「返品期限」も同様だ。発注から10日で返品すると「罪悪感」を覚えるが「21日」後に返品すると「罪悪感」が減るという消費者がいるのだろうか。

さらに先へ進もう。

【日経の記事】

もちろん壁を壊すのは簡単ではない。一時話題になった「オフィスでのノンアルコールビールはOKか」論争。サントリービールは6月にペットボトル入り透明ノンアルビールを出し、「仕事中にビールを飲む」という罪悪感の払拭に挑んだ。発想は面白い。だが出足はいまひとつ。販売政策の問題に加え、壊せない壁が立ちはだかった。



◎「罪悪感の払拭」につながる?

仕事中にノンアルコールビールを飲む」ことに「罪悪感」を抱いている人にとって「透明ノンアルビール」は「罪悪感の払拭」につながる商品なのか。そうなる理由が理解できない。
「おとしよりが出ます注意」の看板
(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

例えば「未成年での飲酒に罪悪感を抱く高校生」がいたとして、その生徒は透明なビールならば罪悪感なしに飲めるだろうか。「未成年の飲酒って意味では同じことでしょ」と言われそうな気がする。

透明ノンアルビール」は「仕事中にノンアルコールビールを飲むことに罪悪感はない。ただ、周囲の目は気になる」といった人の「」は壊せるかもしれない。だが「罪悪感の払拭」とは基本的に関係ない。

さて、いよいよ最後の段落だ。

【日経の記事】

それは色。ビールと称して売っているが、やはり黄金色じゃないとビール感が出ない。気分転換だけなら、普通の炭酸水で済む。透明ビールはどっちつかずの飲料になってしまった。罪悪感は消せても、先入観の壁はそれ以上に強い。まさに消費者心理は不透明……。



◎「黄金色じゃないとビール感が出ない」?

中村編集委員は「黄金色じゃないとビール感が出ない」らしい。個人的には賛成できない。黒ビールを飲んでも「ビール感」は十分に得られるからだ。中村編集委員は黒ビールを一切飲まないのかもしれないが、日本ではそこそこ根付いている。なのになぜ「黄金色じゃないとビール感が出ない」と判断したのかは引っかかった。「やはり透明だとビール感が出ない」なら賛成できるのだが…。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~吉野家カフェの実験 『先入観の壁』を壊せるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180727&ng=DGKKZO33327530U8A720C1TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

2018年7月26日木曜日

「飛行機600人乗り」の予測は的中? 日経 鬼頭めぐみ記者に問う

日本で「飛行機600人乗り」は実現しているのだろうか。日本経済新聞の鬼頭めぐみ記者はそう認識しているようだ。「絶対ない」と言い切る自信はないが、どうもなさそうな気がする。日経には以下の内容で問い合わせを送ってみた。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 鬼頭めぐみ様

26日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第9部 老いも悪くない 『もっと生きたい』~現実味増す人生100年時代」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

1920年(大正9年)に雑誌『日本及日本人』が増刊号で特集した『百年後の日本』。各界の識者が『2020年に日本がどんな国になっているのか』を描いている。『女子の大臣、大学学長』『飛行機600人乗り』などは当たり、『地球と火星との交通』『文字はローマ字になる』などは外れた

この中の「飛行機600人乗り」は当たっているのでしょうか。ANAは2019年春に東京―ホノルル路線でエアバスの超大型機A380を導入すると発表しています。世界最大の旅客機と言われるA380でも座席数は520で「600人乗り」とは言えません。調べた範囲では、外国の航空会社を含めても日本で「600人乗り」が実現した(あるいは2020年までに実現する)事例は見当たりませんでした。

そもそも「百年後の日本」では「飛行機600人乗り」と予想しているのでしょうか。「2020年の日本、100年前にここまで見通した男」(2018年1月9日付)という読売新聞の記事では「敷津の予想は、航空機1機当たりの旅客数にまで及んでいた。敷津はそれを『200人乗りから600人乗りになる』と見込んだ」と記しています。こちらが正しければ「飛行機600人乗り」ではなく「飛行機200~600人乗り」とすべきです。予想も「当たり」が妥当です。

せっかくの機会なので、気になった点をいくつか記しておきます。まず「人生100年時代」についてです。鬼頭様は「平均寿命が延び続ければ『人生100年時代』は将来、現実のものとなる」と解説し、見出しでも「現実味増す人生100年時代」と打ち出しています。しかし、どういう状況になれば「人生100年時代」と呼べるのかは不明です。

とりあえず、平均寿命が男女ともに100歳を超えたら「人生100年時代」に突入すると仮定します。「国立社会保障・人口問題研究所は、65年には女性が91.35歳、男性が84.95歳まで延びると推計している」ようですが、これでは「人生90年時代」が到来するかどうかも微妙です。

鬼頭様はこうも書いています。「例えば、17年生まれの人が将来にがん、心臓病、脳卒中のいずれかで死亡する確率は50%前後。しかし、これらの病気で亡くなる人がいなくなると仮定すると、平均寿命は6歳前後延びると推計されている

それでも65年時点では女性97歳、男性92歳といった程度で「人生100年時代」とはなりません。しかも「がん、心臓病、脳卒中のいずれか」で「亡くなる人がいなくなる」というのは、かなり非現実的な前提です。

最後に残るのが以下の話です。

米未来学者のレイ・カーツワイル氏は『寿命脱却速度』という概念を唱える。人工知能(AI)の急速な進化を健康や医療に応用すれば、あと10年程度で老化の速度を超える速度で寿命がかなり延びる可能性があるという

これはかなり漠然としています。「寿命がかなり延びる」と言うものの、具体的な数値は示していません。しかも「可能性がある(可能性はゼロではない)」といった程度の話です。「人工知能(AI)の急速な進化を健康や医療に応用」する具体策も出てきません。つまり現実性に欠けます。

結局、記事では「現実味増す人生100年時代」と納得できるだけの根拠を示していません。もちろん、定義を変えれば別です。例えば「100歳以上の人口が日本で10万人を超えたら人生100年時代に突入」とすれば「現実味増す人生100年時代」と言えます。しかし、そうは書いていません。

日経だけでなく他のメディアでも「人生100年時代」という言葉をかなり安易に使っています。用いるのならば、定義を明確にした上でしっかりと根拠を示してほしいものです。

付け加えると、今回の記事では隣のページが野村証券の全面広告になっていて「人生100年時代を、ともに歩めるパートナーでありたい」との文言が目に入ってきます。偶然かもしれませんが、広告と記事内容が連動しているように見えます。そういう意図がないのであれば、こうした組み合わせを避けるようにしっかりチェックしてください。あえて連動させたのであれば、その点は読者に明示すべきです。

問い合わせは以上です。「飛行機600人乗り」に関しては回答をお願いします。

記事によると鬼頭様は24歳なので、まだ知らないかもしれませんが、日経では読者からの間違い指摘を当たり前のように握り潰してきました。長く続く悪しき伝統であり、今もしっかりと受け継がれています。鬼頭様が今、「そんなのおかしい」と声を上げても、組織にしっかりと根を張ったこの伝統が簡単に消えることはないでしょう。

記事の中で鬼頭様は「私が100歳になるまであと76年もある」と書いていました。65歳まで日経で働く場合、「あと40年」も悪しき伝統とともに歩み続けるかもしれません。だからこそ考えてほしいのです。「このままで良いのか」と。記事の言葉を借りて言えば「課題は(日経社内の)一人ひとりに突きつけられている」のです。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ポスト平成の未来学 第9部 老いも悪くない 『もっと生きたい』~現実味増す人生100年時代
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180726&ng=DGKKZO33384920V20C18A7TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。鬼頭めぐみ記者への評価も暫定でDとする。

2018年7月25日水曜日

「コンビニの生ビール販売」に誤解あり 日経「春秋」

あまり深く考えず軽いノリで書いた記事と言えばいいのだろうか。25日の日本経済新聞朝刊1面のコラム「春秋」は無理のある内容だった。まずは記事の全文を見てみる。
旧門司税関と「レトロハイマート」(北九州市)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

このニュース、かなり残念だった。セブンイレブンが生ビールのテスト販売の計画を中止したという。首都圏のいくつかの店舗でレジの前にサーバーを置き、Sサイズ100円で提供する予定だったらしい。ところが、交流サイト(SNS)上で噂が広まってしまった。

それだけ利用客の期待が大きかったということでもあろう。話題が先行しすぎ、セブン側は「販売体制が整わない」と急きょ、取りやめを決めている。飲酒運転を助長する、という声も本部に寄せられたようだ。確かにロードサイド店では慎重な運用が不可欠だ。一方で、この価格破壊は近隣の居酒屋に脅威と映ったろう。

セブンの店内には総菜として、コロッケ、から揚げのほか、サバ焼き、ナス漬けまで売っている。卓を一つ二つ置けば、立派なチョイ飲み酒場の誕生である。千円でベロベロになれる店を「千ベロ」と呼ぶらしいが、「五百ベロ」が町内のそこかしこに生まれるわけだ。これは会社の帰りに毎日足が向いてしまうでしょう

コンビニが誕生し40年余。消費者のさまざまな要望を取り入れ、進化し続けた歳月である。本紙によると生ビールの販売は難しいようではあるけれど、もし実現すれば日本の飲食の文化にひと色を加えることになるのかもしれない。「朝からビールの話か」と叱られそうだが、小欄も酷暑に涼を求めた、とご寛容願いたい。

◇   ◇   ◇

セブンイレブンが生ビールのテスト販売の計画を中止した」ことに触れた後で「セブンの店内には総菜として、コロッケ、から揚げのほか、サバ焼き、ナス漬けまで売っている。卓を一つ二つ置けば、立派なチョイ飲み酒場の誕生である」と書いている。これだと、生ビールを販売できれば、セブンイレブンの店舗の性格が大きく変わるような印象を受ける。

しかし、今でも「卓を一つ二つ置けば、立派なチョイ飲み酒場」という状況にある。セブンイレブンでは350ミリリットルのビール系飲料を税込み123円で販売している。同サイズの缶チューハイならば108円だ。

Sサイズ100円」の生ビールで「五百ベロ」が実現するのならば、それは今でも「町内のそこかしこ」のコンビニで可能だ。

付け加えると、個人的には「Sサイズ100円」の生ビールで「五百ベロ」は実現しない気がする。「Sサイズ」の量が具体的に分からないので推測の域を出ないが、「Sサイズ」3杯では「ベロベロ」になりそうもない。4杯を超えると、つまみを入れて500円では収まりそうもない。

さらに言えば、日本のコンビニでまだ生ビール販売が実現していないと取れる書き方も引っかかった。これに関しては以下の内容で日経に問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

25日の日本経済新聞朝刊1面の「春秋」についてお尋ねします。記事では「セブンイレブンが生ビールのテスト販売の計画を中止した」ことに触れた上で以下のように記しています。
大雨で浸水した家屋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

コンビニが誕生し40年余。消費者のさまざまな要望を取り入れ、進化し続けた歳月である。本紙によると生ビールの販売は難しいようではあるけれど、もし実現すれば日本の飲食の文化にひと色を加えることになるのかもしれない

この説明からは「現時点で、日本のコンビニでは生ビールの販売が実現していない」と受け取れます。しかし既に一部で「生ビールの販売」は実現しているのではありませんか。

JR東日本リテールネットのニュースリリースでは「NewDaysの一部店舗では、2016年5月より『樽生ビール』を販売しております」と明言しています。「2018年7月18日現在」で46店舗で販売が実現しており、既に「日本の飲食の文化にひと色を加えること」になっています。

日本のコンビニで「生ビールの販売」が実現していないと取れる説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。「もし実現すれば」と言うのはセブンイレブンに限った話だと弁明したくなるかもしれませんが、それだと「日本の飲食の文化にひと色を加えることになるのかもしれない」という記述と整合しません。少なくとも誤解を与える説明だと思えます。

もう1つ指摘しておきます。記事の中で「これは会社の帰りに毎日足が向いてしまうでしょう」という部分だけ、ですます調になっています。「これは会社の帰りに毎日足が向いてしまうだろう」などとして、文体を合わせた方がよいでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「春秋:このニュース…」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180725&ng=DGKKZO33371590V20C18A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

「富士急ハイランド」関連で日経ビジネス浅松和海記者に注文

夏休みシーズンに突入する7月、老舗テーマパークの富士急ハイランドが入園無料化を始めた。(中略)うまく軌道に乗らなければ同社にとってもろ刃の剣となりかねない」と書いてあった場合、「同社」とは具体的にどの会社を指すのだろうか。仮に「同社=富士急ハイランド」だとしたら、その後に出てくる「富士急ハイランドを運営する富士急行」という説明と齟齬はないのか。
鯨瀬ターミナルビル(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

この問題を日経ビジネスに問い合わせてみた。回答と併せて見てほしい。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 浅松和海様

7月23日号の「時事深層 COMPANY~遊園地だけじゃない 富士急ハイランド、入園無料の賭け」という記事についてお尋ねします。

記事には「富士急ハイランドを運営する富士急行は富士山エリアのバスや鉄道といった交通事業が祖業だが、今や富士急ハイランドを含むレジャー事業が売上高の半分を占める中核事業になっている」との記述があります。しかし「富士急ハイランドを運営する」のは富士急行のグループ企業である「富士急ハイランド」ではありませんか。富士急行のホームページでも「(株)富士急ハイランド」に関して「『富士急ハイランド』を運営しています」と記しています。

富士急ハイランドを運営する」のは「富士急行」と見なす場合、最初の段落の辻褄が合わなくなります。記事では以下のように説明しています。

夏休みシーズンに突入する7月、老舗テーマパークの富士急ハイランドが入園無料化を始めた。少子化や余暇の多様化を背景に、レジャー産業の経営環境が厳しくなるなか、来園者増を図る。周辺施設利用への波及も狙うが、うまく軌道に乗らなければ同社にとってもろ刃の剣となりかねない

ここで言う「同社」は「富士急ハイランド」のはずです。他に社名となる候補はありません。「富士急ハイランドを運営する」のが「富士急行」と見ているのであれば、「夏休みシーズンに突入する7月、富士急行は老舗テーマパークの富士急ハイランドで入園無料化を始めた」などと「富士急行」を入れて書くはずです。

せっかくの機会なので何点か追加で指摘させていただきます。まずは以下のくだりです。

入園無料化の一方で、各アトラクションの利用料は値上げになっている。例えば、絶叫マシンとして人気のジェットコースターの『FUJIYAMA』はこれまで1回の利用料が1000円だったが、これが通常時は1500円、お盆やゴールデンウイークなど繁忙期は2000円になった。フリーパスの価格は大人5700円で変わらないので、仮に繁忙期にこれらのアトラクションに3つ乗ると、フリーパスを買うより高くなる。入園無料でも、客単価を落ち込ませるわけにはいかない。そんな思惑が見て取れる

仮に繁忙期にこれらのアトラクションに3つ乗ると、フリーパスを買うより高くなる」と書いていますが、「繁忙期は2000円」になるアトラクションは「FUJIYAMA」しか出てきません。なのに「これら」と複数にするのは不自然です。「例えば、絶叫マシンとして人気の『FUJIYAMA』など4つのジェットコースターはこれまで1回の利用料が1000円だったが~」といった形にすれば問題は解消します。

付け加えると、「入園無料でも、客単価を落ち込ませるわけにはいかない」と富士急ハイランド(あるいは富士急行)は本当に考えているのでしょうか。散歩感覚で入園できるようになるので「客単価」は当然に落ちるでしょう。「それでも入園者数の増加によって増収を確保できればよい」との判断ではないかと思えます。

最後に、これはお願いです。記事では富士急ハイランドがどこにあるテーマパークなのか、分からないまま話が進みます。途中で「富士山エリア」にあるのは分かりますが、最後まで「山梨県富士吉田市」にあることは教えてくれません。日経ビジネスの読者は北海道や九州にもいるはずです。そうした地域の読者が「富士急ハイランド」と聞いて、すぐに所在地をイメージしてくれる可能性はそれほど高くないでしょう。記事の早い段階で「山梨県富士吉田市」と出した方が、読者に親切だと思えます。

今後、記事を書く時は「この書き方で首都圏以外の人にも伝わるかな」と配慮していただけると助かります。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

ご指摘の通り、レジャー施設の「富士急ハイランド」の運営会社は富士急行が全額出資する「富士急ハイランド」です。100%出資子会社を通じて、施設を運営していることから、実態的に富士急行が運営しているとみなし、「富士ハイランドを運営する富士急行」
と表現させて頂きました。

ただ、レジャー施設としての「富士急ハイランド」と、運営会社としての「富士急ハイランド」が混在している面は否めません。富士急ハイランドの所在地の表記を含め、分かりにくい表現があったと反省し、今後の記事の参考にさせて頂きます。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

回答はこれで良いと思える。「100%出資子会社を通じて、施設を運営していることから、実態的に富士急行が運営しているとみなし、『富士ハイランドを運営する富士急行』と表現」するのは問題ない。どちらかと言えば、最初の段落に問題があった。

問い合わせに入れたように「夏休みシーズンに突入する7月、富士急行は老舗テーマパークの富士急ハイランドで入園無料化を始めた」と書いて「同社=富士急行」と取れるようにしておけば整合性も確保できる。

今回は他にも細かい点を指摘しているが、「記事を書くプロ」と呼べるレベルを目指すのならば、この辺りまで目配りするのは当然だ。浅松和海記者の今後に期待したい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~遊園地だけじゃない 富士急ハイランド、入園無料の賭け
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/071701131/?ST=pc


※記事の評価はC(平均的)。浅松和海記者への評価も暫定でCとする。

2018年7月24日火曜日

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏

やはりジャーナリストの大西康之氏は東芝問題に関する自らの見通しの甘さを反省する気はないようだ。FACTA8月号では「東芝『原子力マフィア』高笑い」という東芝関連の記事を久しぶりに書いている。しかし、これまでFACTAに求めてきた「総括」は見当たらない。
島原城(長崎県島原市)から見た雲仙岳
           ※写真と本文は無関係です

大西氏とFACTAには以下のように要望してきた。

【FACTAに送った「お願い」】

せっかくの機会ですので、別件で要望を出しておきます。大西様はFACTA2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定しました。

現状では「経営破綻」の可能性は非常に低くなっていると思えます。17年7月号での分析に問題はなかったのか改めてFACTAで取り上げてもらえませんか。もちろん「東芝の経営破綻は近い」との見方でも構いません。仮に「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定したのは間違いだったと感じているのならば、どこで間違えたのかを振り返ってください。

間違いだったとしても「東芝は経営破綻する」と断定したことを責めるつもりはありません。思い切ってリスクを取った点をむしろ評価したいくらいです。しかし、行き着く先は「東芝の経営破綻だ」と言い切ったからには、この問題をしっかり総括してほしいのです。FACTAの編集に責任を持つ皆様にも、この件を考えていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇

今回の記事で大西氏は「6千億円の増資とメモリ事業の売却が実現したことで『東芝は危機を乗り切った』という報道が増えている」とは書いている。しかし「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定したのが誤りだったどうかには何も答えていない。

今、「経営破綻は不可避」との見通しはさすがに打ち出せないのだろう。だからと言って「6千億円の増資とメモリ事業の売却が実現したことで東芝は危機を乗り切った」と断定してしまえば、自らの見通しが誤りだったと認めることになる。そこで「『東芝は危機を乗り切った』という報道が増えている」という書き方を選んだのだろう。大西氏らしいとは感じる。
大雨で増水した巨瀬川(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

今回の記事では以下のくだりも気になった。

【FACTAの記事】

東芝株は6千億円の増資によって大幅に希薄化した。稼ぎ頭のメモリ事業の売却によって、自ら成長の可能性を絶ったともいえる。株主をはじめ多くのステークホルダーの利益を毀損した東芝の体質は、粉飾決算を続けてきた当時とまるで変わっていない。聞こえてくるのは、原子力マフィアたちの高笑いである。


◎法的整理を主張していたはずだが…

文藝春秋7月号の「東芝 深層ドキュメント『倒産』までのシナリオ~技術と雇用を守る唯一の方法は法的整理だ」という記事で大西氏は以下のように主張していた。

今、守るべきは東芝の優良事業と技術、そして従業員の雇用であり、『東芝』という会社ではない。それを実現する唯一の方法は、日本航空と同じ、会社更生法の申請である

今回のFACTAの記事では「東芝株は6千億円の増資によって大幅に希薄化した」ことを根拠に「株主をはじめ多くのステークホルダーの利益を毀損した」と東芝を批判しているが、そもそも大西氏は東芝の法的整理が最善の道だと訴えていた。法的整理になれば株式の価値は原則としてゼロになる。株主が被る損害は「6千億円の増資」による希薄化の比ではない。

大西氏は「株主の利益を毀損させろ」と訴えていたとも言える。そんな人物が「大幅な希薄化はダメ。株主の利益を守れ」と取れる主張を展開しても説得力はない。

付け加えると、「6千億円の増資」が株主の「利益を毀損した」とは言い切れない。昨年11月に増資検討と伝わった直後には株価が急落する場面もあったが、直近の株価は増資の情報が流れる前の水準を上回っている。

今後も東芝に関する記事を書くのならば、大西氏は東芝に関する自らの見通しの甘さを率直に認めるべきだ。それさえできずに他者への批判を続けても説得力はゼロだ。


※今回取り上げた記事「東芝『原子力マフィア』高笑い
https://facta.co.jp/article/201808032.html

※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

2018年7月23日月曜日

「銀行は変わらずとも生き残れた」? 週刊ダイヤモンドの無理筋

金融業界に関する特集を組む場合に「金融業界は大きく変わりつつある。これまでにない地殻変動が起きている」などと訴えたくなるのは分かる。その方が記事は書きやすい。しかし、やり過ぎると説得力を失ってしまう。週刊ダイヤモンド7月28日号の特集「さらば旧型金融エリート~メガバンク 地銀 信金 信組」では、冒頭から「さすがに無理があるだろう」と思える説明が出てくる。
大雨で冠水した「洋服の青山久留米合川店」周辺
         ※写真と本文は無関係です

週刊ダイヤモンド編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【週刊ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部  鈴木崇久様 田上貴大様 中村正毅様

7月28日号の特集「さらば旧型金融エリート~メガバンク 地銀 信金 信組」についてお尋ねします。「Prologue~大変遅ればせながら銀行が変わります 金融エリート新旧交代の波に乗り遅れるのは誰か?」という特集の最初の記事には以下の記述があります。

ずっと前から国際舞台で真剣勝負を繰り広げてきた自動車や電機などの他業界は、とっくの昔に大リストラを経験し、生き残りを懸けた変革に何度も挑んでいる。一方、規制業種として規制に縛られると同時に守られてもきた銀行業界は、他業界と比べて事業を存続できなくなるリスクが段違いに低く、変わらないままでも生き残ることができた。ところが、前述した業界の構造転換の中で、銀行も存亡の機が迫っていることを自覚。若手から中堅やベテラン、さらには支店長や銀行の役員、頭取に至るまで、銀行というピラミッド型組織のあらゆる層において、遅ればせながら変革が起き始めている


他業界と比べて事業を存続できなくなるリスクが段違いに低く、変わらないままでも生き残ることができた」との説明を素直に信じれば、銀行が破綻した例はほとんどないはずです。しかし、1997年の北海道拓殖銀行、98年の日本長期信用銀行と日本債券信用銀行など多くの銀行が経営破綻に追い込まれています。近年では2010年に日本振興銀行が破綻しました。こうした銀行は「変わらないままでも生き残ることができた」と言えるでしょうか。

特集の別の記事では「89年には13あった都市銀行は、合従連衡を繰り返して3メガバンクとりそな銀行の4行に集約」とも書いています。「変わらないままでも生き残ることができた」のならば、なぜこれほどの大規模な再編が起きたのでしょうか。

自動車や電機などの他業界は、とっくの昔に大リストラを経験し、生き残りを懸けた変革に何度も挑んでいる」と書いてあると、銀行はリストラと無縁でやってきたような印象を受けます。もちろん、そんなことはありません。例えば、りそなグループは2003年にグループ全体で1500人程度の希望退職を実施すると発表しています。

銀行業界は変わらないままでも生き残ることができた」という記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「さらば旧型金融エリート~メガバンク 地銀 信金 信組
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24085

※特集全体の評価はC(平均的)。鈴木崇久記者への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田上貴大記者は暫定Dから暫定Cへ、中村正毅記者は暫定Eから暫定でCへ引き上げる。鈴木記者に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「頭取ランキング」間違い指摘を無視 ダイヤモンドの残念な対応
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_29.html

2018年7月22日日曜日

「猛暑『温暖化が関係』と専門家」の根拠乏しい日経の記事

22日の日本経済新聞朝刊総合5面に「猛暑、世界的な現象 『温暖化が関係』と専門家 豪雨リスクも増大」という記事が載っている。見出しから判断すると、専門家は「温暖化が関係」 と断定しているはずだ。しかし、どうも怪しい。
だんごあん(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

記事では最初の段落で「日本各地で過去最高気温を更新するなど記録的な猛暑となっている。西日本豪雨のような異常気象が相次ぐほか、米国やアフリカなど世界各地でも最高気温を記録している。専門家は異常気象は長期的な地球温暖化の傾向と関係があると指摘している」と書いている。

これを踏まえて専門家の見方を検証していこう。

【日経の記事】

降水量も変動してきた。日本では1日の降水量が100ミリ以上の年間日数は増加しており、200ミリ以上の大雨も増加傾向が明らかに表れている。気象研究所の今田由紀子主任研究官によると、「温暖化が進むと気温が上がり水蒸気量が増えるので雨が増える傾向にある」と話す。今後、温暖化が西日本豪雨のような局地的な大雨にどのような影響を与えるかを探るため17年の九州北部豪雨を事例に解析を進める。

防災科学技術研究所も西日本豪雨を分析。積乱雲が同じ場所で次々と形成される「バックビルディング現象」で線状降水帯が生まれ激しい雨が降った。前坂剛主任研究員は「温暖化とバックビルディングの関係はわからない」とするが、今後も警戒が必要だ。



◎この2人は違うような…

西日本豪雨を分析」した「防災科学技術研究所」の「前坂剛主任研究員」は「温暖化とバックビルディングの関係はわからない」と言っているのだから「温暖化が関係」 と断定した「専門家」には当たらない。

気象研究所の今田由紀子主任研究官」は微妙ではあるが、「温暖化が進むと気温が上がり水蒸気量が増えるので雨が増える傾向にある」と言っているだけで「異常気象は長期的な地球温暖化の傾向と関係がある」と明言はしていない。「今後、温暖化が西日本豪雨のような局地的な大雨にどのような影響を与えるかを探るため17年の九州北部豪雨を事例に解析を進める」のだから、現時点で断言はできないとの立場だと思える。

この2人は「温暖化が関係」 と断定した「専門家」ではなさそうだ。次を見ていこう。

【日経の記事】

WMO(世界気象機関)は「6~7月の異常気象が温暖化に起因するかは特定できないが、長期的な温暖化ガスの上昇傾向と整合性がある」としている。WMOによると16年に大気中のCO2濃度は400PPM(PPMは100万分の1)を超え、過去80万年で最高記録を更新した。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今後も温暖化の傾向が続くと、異常気象や生態系破壊などのリスクが深刻になると警告している。



◎結局、誰も断言せず?

WMO」も「6~7月の異常気象が温暖化に起因するかは特定できない」と言っているのだから「温暖化が関係」 と断定した「専門家」とは言い難い。「政府間パネル(IPCC)」も「今後も温暖化の傾向が続くと、異常気象や生態系破壊などのリスクが深刻になると警告している」と将来のリスクに言及しているだけだ。

結局、今年の「記録的な猛暑」や「西日本豪雨のような異常気象」に関して「温暖化が関係」 と「専門家」が断言している事例は見当たらない。多くの専門家が「関係があってもおかしくない」とは見ているのだろう。それは記事のコメントからも伝わってくる。しかし、断定的に「『温暖化が関係』と専門家」と見出しに取るのは感心しない。

これは見出しを付ける整理部の担当者というより、筆者の浅沼直樹記者の責任だ。最初の段落で「専門家は異常気象は長期的な地球温暖化の傾向と関係があると指摘している」と書いてあれば「『温暖化が関係』と専門家」と見出しに取るのは理解できる。書き方としては「異常気象は長期的な地球温暖化の傾向と関係があってもおかしくないと指摘する専門家もいる」ぐらいが適切だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「猛暑、世界的な現象 『温暖化が関係』と専門家 豪雨リスクも増大
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180722&ng=DGKKZO33259330R20C18A7EA5000


※記事の評価はC(平均的)。浅沼直樹記者への評価も暫定でCとする。

2018年7月21日土曜日

解散の北上製紙「依願退職」と日経は最初書いていたが…

1月の記事は日経の誤報だったのだろう。7月21日の日本経済新聞朝刊企業面に「段ボール、砂上の活況 日本製紙系が清算 原料・物流費高、中堅を直撃」という記事が載っている。そこでは「日本製紙子会社で段ボール原紙メーカーの北上製紙(岩手県一関市)が20日、生産を終えて工場を閉鎖した。会社を清算し、従業員も解雇する」と書いている。これは1月17日の「日本製紙系の北上製紙、解散方針を発表」という記事の内容と矛盾する。
筑後大石駅(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

1月の記事では「北上製紙では関連企業を含めて100人を超える従業員が依願退職となる」と説明していた。なのに、21日の記事では「関連企業を含む約110人の従業員は同日付で解雇となった」と「依願退職」が「解雇」に変わっている。会社が解散するのに「依願退職」になるとは考えにくいので、当初からおかしいと感じていたが…。

当初は「依願退職」の方針だったのに、その後「解雇」となった可能性もゼロではないが、かなり低い。1月時点で河北新報が「北上製紙は関連会社を含めて約120人の従業員を抱えている。会社は労働組合に7月20日付の全員解雇を提案し、再就職に向けた労使の協力態勢を固めたい考えだ」と報じている。「依願退職」とした日経の1月の記事が間違っていたと判断する方が自然だ。


※今回取り上げた記事

段ボール、砂上の活況 日本製紙系が清算 原料・物流費高、中堅を直撃
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180721&ng=DGKKZO33248330Q8A720C1TJC000

日本製紙系の北上製紙、解散方針を発表
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180117&ng=DGKKZO25757450W8A110C1TI1000


※1月の記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

北上製紙、解散なのに従業員は「依願退職」? 日経報道に疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_44.html

2018年7月20日金曜日

日経「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール」の問題点

20日の日本経済新聞朝刊 国際・アジアBiz面に載った「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール 印紙税上げなど」という記事は、ツッコミどころが多過ぎる。筆者はシンガポール支局の中野貴司記者と香港支局の木原雄士記者。「こんなレベルの低い記事を読者に届けてしまって申し訳ない」と反省した上で改善に努めてほしい。
だんごあん(福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

具体的に問題点を指摘していく。まずは最初の段落を見ていこう。

【日経の記事】

アジア各国で住宅価格高騰への警戒が強まっている。不動産投資が過熱すれば将来、価格が下落に転じる際の悪影響が大きくなるためだ。シンガポールや香港の政府は新たな規制を打ち出した。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続でカネ余りだった世界の市場は転機を迎えた。アジアの不動産市場も今後、調整局面に入る可能性がある。



◎「アジア各国」と言うなら…

アジア各国で住宅価格高騰への警戒が強まっている」と言うものの、記事に出てくるのは「シンガポール」と「香港」のみ。つまり1国1地域。「アジア各国」と言うなら、最低でも3カ国は欲しい。記事では「富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」とも書いている。だとしたら「アジア各国」に共通する問題と捉える必要はなさそうに思える。

米連邦準備理事会(FRB)の利上げ継続でカネ余りだった世界の市場は転機を迎えた」との説明も苦しい。FRBが利上げに転じたのは2015年12月だ。「転機」と言うならば、この頃だろう。

今回の記事で最も気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

 不動産開発が盛んなシンガポールと香港では不動産価格の上昇率が経済成長のペースを上回る。シンガポール政府によると同国では民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇。香港でも民間住宅価格は26カ月連続で上がった。7月には高級住宅が7億3千万香港ドル(約105億円)で売買され、過熱感が収まらない。



◎シンガポールの住宅価格に疑問が…

シンガポール政府によると同国では民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇」と書いているが、記事に付けたグラフではシンガポールのマンション価格上昇率(4月までの半年間)は1%に過ぎない。グラフは日本不動産研究所の調査を基にしており、「シンガポール政府」によるものと合致しないのは分かる。

だが、それにしても違いすぎる。「民間住宅の価格が過去1年で9.1%上昇」しているのならば、マンション価格も半年で4~5%程度は上がっているのが自然だ。「戸建ての価格上昇がきつく、マンションはそうでもない」「直近半年の価格上昇は緩やかだが、その前の半年に大きく値上がりした」といった事情があれば辻褄は合うが、そうした説明は見当たらない。

これだけ差が大きいデータを同じ記事の中で出すのならば、その差がなぜ生じるのか説明が欲しい。

記事に付けたグラフには「住宅価格はアジアで上昇が目立つ」との説明文が付いている。これも引っかかった。日本不動産研究所の調査はアジアの12都市とロンドン、ニューヨークを対象にしたものだ。そしてロンドン、ニューヨーク、クアラルンプール、台北が下落で、それ以外が上昇となっている。ここから「住宅価格はアジアで上昇が目立つ」と断定してよいだろうか。調査対象が少なすぎるし、「アジアは上昇、それ以外は下落」となっている訳でもない。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

一方、印紙税の引き上げなどは購入者の負担増に直結するため、不動産の取得意欲を冷やしかねない。こうした規制で住宅価格を抑制できるのか懐疑的な見方もある。

◎「冷やしかねない」のなら…

上記のくだりは流れが悪い。「印紙税の引き上げなどは購入者の負担増に直結するため、不動産の取得意欲を冷やしかねない」と書いてあると、「住宅価格を抑制できる」措置だと思えるが、記事は「こうした規制で住宅価格を抑制できるのか懐疑的な見方もある」と続く。例えば「ただ、こうした規制で~」と「ただ」を入れれば不自然さはほぼ解消できる。

最後に以下のくだりに注文を付けたい。

【日経の記事】

富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある。日本不動産研究所の調査では、香港のオフィス、マンション価格は18年4月までの半年間でそれぞれ9%、7.1%上昇。上昇率はアジアの主要都市の中で最も高かった



◎「シンガポールや香港の市場に集中」?

富裕層のマネーは価格の透明性が高く、投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」と書いて、その根拠として「香港のオフィス、マンション価格」の「上昇率はアジアの主要都市の中で最も高かった」ことを挙げている。
オクムラテイ(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

香港は分かった。問題はシンガポールだ。「日本不動産研究所の調査」によると、シンガポールは「オフィス」で1.5%の5位。「マンション」で1.0%の6位だ。「日本不動産研究所の調査」は「投資しやすいシンガポールや香港の市場に集中する傾向」を裏付けているとは言い難い。

ちなみに日経は3月28日付で「大阪、ミナミがキタを逆転 世界の投資マネーが流入 
公示地価の商業地 京都府は上昇率全国トップ」という記事を出している。この記事の説明が正しければ、「富裕層のマネー」は大阪の不動産市場にも「流入」しており、「シンガポールや香港の市場に集中」という説明と矛盾する。

日本不動産研究所の調査」では、オフィス、マンションとも価格上昇率で大阪がシンガポールを上回っている。「富裕層のマネー」が「シンガポールや香港の市場に集中する傾向がある」という説明は信じない方がいいだろう。

 
※今回取り上げた記事「住宅高騰、歯止めへ規制 香港・シンガポール 印紙税上げなど
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180720&ng=DGKKZO33191780Q8A720C1FFJ000

※記事の評価はD(問題あり)。中野貴司記者と木原雄士記者への評価も暫定でDとする。

2018年7月19日木曜日

「米利上げ 独走強まる」に無理がある日経 河浪武史記者

米利上げ 独走強まる」という見出しを見て、米国をはるかに上回る勢いで利上げを進めている国があると思うだろうか。ないと解釈するのが普通だ。しかし、実際には複数ある。記事中で「FRBの利上げ路線も独走の気配が漂ってきた」と解説した日本経済新聞の河浪武史記者には、以下の内容で問い合わせを送った。
旧門司税関(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 河浪武史様  国際アジア部 担当デスク様

19日の朝刊国際2面に載った「米利上げ 独走強まる 『2~3年好況持続』 FRB議長証言、減税効果挙げる」という記事についてお尋ねします。「米利上げ 独走強まる」と見出しでも打ち出しているので、「利上げ」に関して米国は「独走」状態にあるはずです。しかし、本当にそうですか。

例えば、トルコは5月に政策金利を8%から16.50%へ引き上げ、6月にはさらに17.75%へと見直しています。アルゼンチンも負けていません。5月5日の日経の記事では「アルゼンチンの中央銀行は4日、政策金利を6.75%引き上げ、年40%にすると発表した。この8日間で3度目となる利上げで、金利の引き上げ幅は計12.75%に達する」と報じています。両国とも、引き上げ幅の大きさや金利水準の高さで米国を圧倒しています。

記事では「景気に一服感がある欧州や新興国と比べ、米経済は今や『独り勝ち』に近い。FRBの利上げ路線も独走の気配が漂ってきた」と書いているので、「独走」かどうかを判断する比較対象に「新興国」も含めているはずです。記事中に「(米国の)政策金利は既に1.75~2.00%と先進国の主要10中央銀行で最も高い」といった記述はありますが、「米利上げ 独走強まる」に関して、「先進国の中での話」と解釈できる説明はありません。

米利上げ 独走強まる」「FRBの利上げ路線も独走の気配が漂ってきた」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「景気に一服感がある欧州や新興国と比べ、米経済は今や『独り勝ち』に近い」との説明にも疑問が残ります。記事では「国際通貨基金(IMF)は18年の米経済の成長率を2.9%と予測。2.2%のユーロ圏や1.0%の日本とは成長ペースでも差が開いてきた」と書いていますが、この予測で世界全体の18年の成長率は3.9%となっています。IMFは一部の原油輸出国については強気の見通しも示しています。なのに、世界全体の成長率を下回る米国を「今や『独り勝ち』に近い」と言えるでしょうか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「米利上げ 独走強まる 『2~3年好況持続』 FRB議長証言、減税効果挙げる
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180719&ng=DGKKZO33099140Y8A710C1FF2000


※記事の評価はD(問題あり)。河浪武史記者への評価はDで確定とする。河浪記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インフレはドル高招く」と日経 河浪武史記者は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/12/blog-post_14.html

疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」

18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「本田圭佑選手、VBファンド設立  米俳優ウィル・スミス氏と 110億円規模」という記事は、疑問だらけの内容だった。全文を見た上で具体的に指摘したい。
筑紫神社(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

サッカーの本田圭佑選手が米俳優ウィル・スミス氏と組み、月内にベンチャーファンドを設立する。日本で約1億ドル(約110億円)を集め米国を中心に創業したての有力スタートアップ企業に投資する。両氏の人脈を活用して、これまで日本からはアプローチが困難だったスター企業の卵を発掘する。

名称は「ドリーマーズ・ファンド」。野村ホールディングスも参画し、日本の機関投資家や大口の個人投資家から資金を募る。企業価値10億ドル以上の「ユニコーン」と呼ばれる企業は近年上場前の価値高騰が著しく、上場後の投資リターンが限定的になりつつある。いち早く投資するにはインナーサークルの情報が重要だが、日本からは接点が少ないのが実情だ

スミス氏の資産管理会社の投資責任者は米ウーバーテクノロジーズなどへの投資実績がある。本田氏もエンジェル投資家の顔を持ち、プログラミング教育やドローン事業などに資金を投じてきた。スミス氏の協力を得て「日本の投資家と海外企業の橋渡しをしたい」と語る。

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する。両氏が直接、投資先の面接を行うこともあるという。(本田圭佑氏のインタビューを電子版に▼ビジネス→スタートアップ)


◎疑問その1~本田選手の役割は?

記事を素直に読めば「ベンチャーファンドを設立する」のは「サッカーの本田圭佑選手」だ。しかし、役割がよく分からない。本田選手自身も資金を出すのか不明だ。「両氏が直接、投資先の面接を行うこともあるという」と書いてあるので、投資先の選定に多少は関わるのだろう。ただ、プロサッカー選手を続けながら投資先の発掘・選定で主導的な役割を果たせるとは考えにくい。

久留米高校前駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です
推測だが、「ファンドの主導権は『野村ホールディングス』が握り、本田選手は広告塔の役割を果たすのではないか。インタビュー記事の中には「野村ホールディングスが主力投資家として参画」との記述がある。仮に本田選手の出資がゼロかわずかで、「主力投資家」が「野村ホールディングス」であれば、「ベンチャーファンドを設立する」主体は本当に本田選手なのかとの疑問も浮かぶ。

ちなみに、インタビューで「今回のファンドの中で本田選手の役割はサッカーでいうとどんなポジションでしょうか」と聞かれて、本田選手は「全員が選手で、僕が悪ガキ大将。信頼できるチームで、今後しっかりと価値を見せられたらと思う」と述べている。これだけでは何とも言えないが、少なくとも自らが主導的な役割を果たすとは述べていない。


◎疑問その2~「インナーサークルの情報が重要」?

「(米国の)創業したての有力スタートアップ企業」に「いち早く投資するにはインナーサークルの情報が重要」と記事では書いている。これは怪しい。「インナーサークル」とは「権力中枢部の側近。組織内で実権を握る少数の人々」(デジタル大辞泉)という意味だ。記事では具体的にどういう人を想定しているのか分からないが、「スタートアップ企業」とは、そんなにこっそり事業展開するものなのか。

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する」と記事では書いている。そうした企業が「インナーサークル」の外に存在を知られず事業展開するのは難しいだろう。

「この会社面白そうだな」と思ったら、出向いて出資の交渉をすれば済む話だ。カネを出してもらうのは大変だが、ファンドは資金を与える側だ。「接点」を持つのに「インナーサークル」の協力が欠かせないとは考えにくい。

しかも、記事から判断すると「インナーサークル」の一員としては「米俳優ウィル・スミス氏」を想定しているはずだ。「スミス氏の資産管理会社の投資責任者は米ウーバーテクノロジーズなどへの投資実績がある」とは書いてある。だが「スミス氏」や「投資責任者」が米国のスタートアップの世界で「権力中枢部の側近。組織内で実権を握る少数の人々」に当たると言える根拠は示していない。


◎疑問その3~投資対象は絞ってる?

投資先はスポーツや映画関連に限定せず、幅広く消費者向け製品・サービスに関わる事業を検討する」と1面の記事では書いている。一方インタビューでは「消費者向け事業を展開するスタートアップ企業に対して強みを発揮できると思う。ただ投資業種は絞っていない」と本田選手が語っている。

全く「投資業種は絞っていない」のか、「消費者向け製品・サービスに関わる事業」に絞り込んでいるのか分かりにくい。「消費者向け製品・サービスに関わる事業」の中でどの「業種」にするかは「絞っていない」という話ならば矛盾はないが、2つの記事からは何とも判断できない。


◎疑問その4~「金融の慣習にとらわれない」とは?

インタビューで本田選手は以下のように述べている。

エンジェル投資は自己資金だったが、今度立ち上げるドリーマーズ・ファンドは結果に責任を持たなければならない。キャッチフレーズは、『take back freedom(自由を取り戻せ)』。旧来の金融業界の慣習にとらわれない新たなベンチャーファンドとして挑戦したい

しかし、具体的にどう「旧来の金融業界の慣習にとらわれない」のは不明だ。「ドリーマーズ・ファンドは結果に責任を持たなければならない」と述べているので、最低利回り保証を付けるといった方式になるのかもしれないが、推測の域を出ない。1面の記事では「旧来の金融業界の慣習にとらわれない」かどうかに関する記述自体がない。

本当に「旧来の金融業界の慣習にとらわれない新たなベンチャーファンド」になるのならば、そこは1面の記事で詳しく報じるべきだ。


※今回取り上げた記事

本田圭佑選手、VBファンド設立  米俳優ウィル・スミス氏と 110億円規模
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180718&ng=DGKKZO33064700X10C18A7MM8000

本田圭佑氏『金融の慣習にとらわれないファンドに』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33067560X10C18A7000000/


※記事の評価はD(問題あり)。須賀恭平記者への評価は暫定でDとする。関口慶太記者への評価はDを維持する。

2018年7月18日水曜日

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解

地域独占」を実現している日本の銀行はあるだろうか。候補となるのは地方銀行だが、都道府県単位では考えにくい。しかし、日本経済新聞社の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)によると、「メガバンク3行や地銀」の中には「地域独占に安住して構造改革が遅れたりした」ところもあるらしい。梶原氏は「独占」の意味を誤解しているのだろう。日経には、以下の内容で問い合わせを送っている。
宇佐神宮宝物館(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 本社コメンテーター 梶原誠様

18日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日本株、浮かぶ3つの異質」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の記述です。

日経平均の構成銘柄中、(PBRが)0.6倍以下だった24社を見ると、メガバンク3行や地銀などの金融機関が10社を占めた。それでも株式に買いは入らず、放置されている状態だ。マイナス金利の逆風もあるが、外国のライバルに比べて収益性の強化が遅れたり、地域独占に安住して構造改革が遅れたりした面は見逃せない

記事の説明を信じれば「メガバンク3行や地銀などの金融機関」の中に「地域独占に安住して」いるケースがあるはずです。しかし、考えにくい気がします。「地域独占」とは「ある特定の地理的範囲において、1つの企業が市場を独占すること」(デジタル大辞泉)です。

まず、日本では「地域独占」が認められていません。「長崎県の親和銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ(FG)と、同県最大の十八銀行が経営統合で基本合意したのは2016年2月。公取委は『統合すれば県内シェアが約7割に高まり、企業の借り先が制限される』と主張し続けてきた」と日経でも5月8日の記事で解説しています。シェア7割で注文が付くのに「地域独占」が可能でしょうか。

4月に公表となった「地域金融の課題と競争のあり方」という金融庁の資料には「地域銀行の本店所在都道府県における貸出額シェアと貸出利回り」と題したグラフが載っています。このグラフでは、最も「貸出額シェア」が高い銀行でも60%を超えていません。

メガバンク3行や地銀などの金融機関」の中に「地域独占に安住して」いるケースがあるとの梶原様の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事の問題点を追加で指摘させていただきます。まず「具体的なデータをなぜ示さないのか」という点についてです。

<例1>

その傍証が、外国市場とは異なるPERの分布だ。QUICK・ファクトセットによると、日本市場のPERは中央値(全銘柄を高い順に並べた際の真ん中)こそ米国や欧州主要国より低いが、平均値でみると欧米との差は縮まり、割安感は薄まる

記事に付けた表から「中央値」は米国17.8倍、英国14.8倍、日本13.2倍と分かります。しかし「平均値」で「欧米との差」がどのくらい縮小するのかは教えてくれません。肝心なところで具体的なデータを示さないのは頂けません。


<例2>

証券会社のアナリストが企業の調査・分析をしなくなったのも、投資家に薦めたい企業が減ったからだろう。3社以上が調査対象とする企業数は東証1部の3割と、10年前から減っている

ここでも「10年前から減っている」と書いているのに、どの程度の減少なのかは不明です。「9割→3割」と「4割→3割」では受ける印象も大きく変わってきます。変化について触れる場合は「どの程度の変化なのか」を具体的に見せるように心掛けてください。

最後に、以下の記述の問題点を述べておきます。

『経営者の市場』も小さい。PwCが16年、世界の主要企業のトップ交代を分析したところ、他社での勤務経験があるトップは日本企業で33%にとどまった。北米で82%、世界でも74%に達しており、企業を渡り歩く経営者の市場があることを裏付ける

他社での勤務経験があるトップ」の比率を比べても「企業を渡り歩く経営者の市場がある」かどうかは判断できません。それを知るためには「他社でも経営者としての経験があるかどうか」を調べる必要があります。

PwC」の資料を見ると「新任CEOの他企業でのCEO経験」というデータがあり、日本は9%で世界平均(21%)を大きく下回っています。「経営者の市場」を論じるのならば、こちらのデータを用いた方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「Deep Insight~日本株、浮かぶ3つの異質
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180718&ng=DGKKZO33064550X10C18A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

2018年7月17日火曜日

戸田和幸氏は日韓W杯を現地で見てない? 日経「スポートピア」

日本経済新聞によると、2002年の日韓W杯に出場した戸田和幸氏は、今回のロシア大会が「現地で見る初めてのワールドカップ(W杯)となった」らしい。あり得ないので、以下の内容で日経に問い合わせを送ってみた。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 運動部 担当者様

17日の朝刊スポーツ3面に載った「スポートピア~W杯にみる監督の重要性」という記事(筆者はサッカー解説者の戸田和幸氏)についてお尋ねします。なお、記事は日経の記者による聞き書きとの前提で話を進めます。


<質問1>

冒頭で戸田氏は「今回が現地で見る初めてのワールドカップ(W杯)となったが、言葉にならないほどの大きな刺激を受けた」と述べています。しかし、戸田氏は2002年の日韓W杯に出場しているので、当然に現地でW杯を見ています。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

戸田氏は「解説者として初めて」「引退後に初めて」といった趣旨で「現地で見る初めてのW杯」と言ったのではありませんか。だとしたら、きちんと補って書くべきです。それほど難しい作業ではありません。


<質問2>

次は以下のくだりです。

前回覇者ドイツの敗退にはマネジメントの失敗が影響したといわれる。大会前、民族問題で騒がしくなり、世界屈指のGKと呼ばれるようになったテアステーゲンを控えに回し、長く代表の正GKだったが、昨季のほとんどをケガで過ごしたノイアーを起用したことも、チームのバランスが崩れた原因とされている

記事を素直に読めば、「正GK」に「ノイアーを起用したこと」は「大会前、民族問題で騒がしく」なった影響だと取れます。しかし、関係ないのではありませんか。ここで言う「民族問題」とは、エジル選手とギュンドアン選手が大会前にトルコの大統領と面会し物議を醸したことを指すのでしょう。「正GK」を誰にするかとは基本的に別問題です。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。少なくとも読者に誤解を与える書き方だと思えますが、いかがでしょうか。


<質問3>

最後は以下のくだりです。

ベルギーに敗れたとはいえ、決勝ラウンドまで進み、日本サッカーをアピールしてくれた代表チームには感謝の気持ちしかない。そしてここから我々がしなくてはならないのは、きちんとした検証を行い、今後の方向性を改めて定めていくこと。日本は何をしようとし、何ができて、何ができなかったのか。自分も含め現場の人間たちは冷静に分析し、4年後のカタール大会につなげていかなくてはならない

この書き方だと、戸田氏は日本代表に関して「現場の人間」だと解釈できます。なのに肩書は「サッカー解説者」です。解説者が監督やコーチになる時に「現場復帰」という言い方をします。「解説者」だとしたら「現場の人間」とは言い難いはずです。

調べてみると、戸田氏は慶応大学のコーチも務めているようです。しかし現在の日本代表との直接の関係は確認できませんでした。慶応大学のコーチとして日本代表は「何ができて、何ができなかったのか」を「冷静に分析し、4年後のカタール大会につなげて」いくとの趣旨かとも考えましたが、無理があります。

自分も含め現場の人間たち」との説明はどう理解すればよいのでしょうか。これも読者に誤解を与える記述だと思えます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「スポートピア~W杯にみる監督の重要性
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180717&ng=DGKKZO33036910W8A710C1UU3000


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年7月16日月曜日

週刊ダイヤモンド「不妊治療最前線」野村聖子記者に異議あり

週刊ダイヤモンド7月21日号の特集2「全国136医療機関リスト付き 不妊治療最前線」は問題が多かった。筆者の野村聖子記者は「不妊治療」に関する思い込みが激しいようで、根拠の乏しい記述が目立つ。また、男性に一方的な負担を求める姿勢も気になった。
周囲が冠水した久留米アミューズメントビル
   (福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

ダイヤモンド編集部には以下の内容で問い合わせを送った。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 野村聖子様

7月21日号の特集2「全国136医療機関リスト付き 不妊治療最前線」の中の「35歳過ぎると男女共に妊娠率低下 素直に医療の力を借りよう」という記事についてお尋ねします。

<質問1>

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」と見出しで打ち出していますが、男性に関しては「35歳」を機に「妊娠率低下」と取れる記述が見当たりません。強いて言えば「年齢階層別の精液所見の平均値」というグラフが根拠となるのでしょうか。しかし、ここでの「年齢階層」は「40歳未満」「40~49歳」「50歳以上」の3つで、「35歳」では区切っていません。また「精子運動率」「精子数(1ml当たり)」「総運動精子数」を示しているだけで「妊娠率」との関係は不明です。

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」という見出しは、男性に関する根拠がないのではありませんか。少なくとも記事では、その根拠を示していません。ちなみに日本生殖医学会のホームページには「最近の報告の中には女性と同様、男性でも35歳を過ぎると生殖補助医療による出産率が低下するとするものもみられています」との記述はあります。ただ、「妊娠率」ではなく「生殖補助医療による出産率」に関するものですし、「低下する」と断定はしていません。


<質問2>

35歳過ぎると男女共に妊娠率低下」については、女性に関しても正確さに欠けると思えます。記事に付けた「女性の年齢による妊娠しやすさの推移」というグラフを見ると「20~24歳=100」「25~29歳=95」「30~34歳=85」「35~39歳=70」「40~44歳=35」「45~49歳=5」となっています(妊娠しやすさの数字はグラフから読み取った概数です)。このデータからは「(女性は)35歳過ぎると妊娠率低下」ではなく「20代後半から妊娠率低下」と言うべきでしょう。

グラフには「35歳から急に妊娠しづらくなる」と説明文を付けていますが、これもデータと合いません。このグラフで最も落ち込み幅が大きいのは「40~44歳」です。常識的に考えても、34歳と35歳で妊娠しやすさに大きな差があるとは思えません。

女性に関して「35歳過ぎると妊娠率低下」「35歳から急に妊娠しづらくなる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問3>

次は以下の記述についてです。

右ページ左中図は、辻村医師の調査における、不妊症(1年以上避妊せずに通常の性生活を送っているにもかかわらず妊娠しない状態)ではない男性722人の精子濃度(1ミリリットル当たりの精子数)の内訳だ。

WHOが定める基準値以下で、自然妊娠が難しい患者が約1割もいたことに加え、「射出精液の中にまったく精子がない『無精子症』の人も2%いて、中にはこの検査をきっかけに婚約を解消したという男性もいます」(辻村医師)

不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる。

--ここからが質問です。

メンズヘルスクリニック東京で男性妊活外来を担当し、順天堂大学浦安病院泌尿器科教授でもある辻村晃医師」による調査を基に、「不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる」と野村様は解説しています。しかし、この「右ページ左中図」に付けた説明文には「これから妊活を開始する722人の精液検査結果」と書いてあります。だとすると「不妊を意識したことがある男性」を含めて調査をしているはずです。

不妊を意識したことがない男性の中にも、自然妊娠が難しい層がこれだけいる」との説明は誤りではありませんか。それとも「これから妊活を開始する722人の精液検査結果」という記述が間違いなのでしょうか。いずれも問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問4>

次は以下の記述についてです。

ちなみに、「うちの嫁は若いから大丈夫」と安心するのは早計だ。男性も女性ほどではないが、近年不妊に対する加齢の影響が指摘され始めている。

それを示したのが112ページ左下図だ。高齢になるほど、精子の数や運動率が下がっている。

「男は女と違って幾つになっても子づくりできる」と豪語するやからがいたら、このデータを見せるとよいだろう。

--ここからが質問です。

男は女と違って幾つになっても子づくりできる」とは思いませんが「112ページ左下図」のデータは「男は女と違って幾つになっても子づくりできる」との主張を否定するものではありません。

年齢階層別の精液所見の平均値」で「精子数(1ml当たり)」を見ると、最も高齢の「50歳以上」でも5000万を超えています。記事によると正常値は「1500万以上」なので問題ありません。「精子運動率」の正常値である「40%以上」もクリアしています。「112ページ左下図」のデータは「50歳以上」の平均的な男性でも「子づくりできる」根拠にはなるでしょう。しかし、男性の「子づくりできる」年齢に限界があるとは示していません。

「『男は女と違って幾つになっても子づくりできる』と豪語するやからがいたら、このデータを見せるとよいだろう」との説明は成立しないのではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問5>

間違い指摘ではありませんが、最後に「大規模な調査による客観的な統計がWHOから出ている以上、『不妊の原因の半分は男性』ということは重ねて強調しておきたい」という記述に絡む疑問点を述べておきます。「重ねて強調しておきたい」と言うぐらいですから「不妊は女性だけの問題ではない」と野村様は訴えたいのでしょう。それは分かります。なのに、特集の中にはおかしな説明が目立ちます。

例えば「不妊治療施設の選び方」では「妻の通いやすさが最優先」となっています。「不妊の原因の半分は男性」と述べて、男性不妊の治療にも触れているのに、なぜ「妻の通いやすさが最優先」となるのですか。夫が主に治療を受ける場合は「夫の通いやすさが最優先」でもおかしくないはずです。

夫婦仲炎上を防ぐ3カ条」の「その1、妻の愚痴は黙って聞く~アドバイスは求めていない、まずはいたわる一言を」も同様です。夫も不妊治療を受けることが珍しくないのに、なぜ一方的に夫が「妻の愚痴は黙って聞く」のですか。治療を受けている夫の愚痴を妻は聞かなくていいのですか。

男性不妊の治療も女性と同様に辛さはあるはずです。なのに「不妊治療施設の選び方」は「妻の通いやすさが最優先」となる上に、夫はひたすら「妻の愚痴を黙って聞く」立場だとすれば、あまりに哀れです。なぜ野村様は「夫婦が対等な立場で助け合って不妊の辛さを乗り越えていくべきだ」とは考えないのでしょうか。男女平等主義者である私から見ると、野村様の主張には納得できない部分がかなりありました。

問い合わせは以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「35歳過ぎると男女共に妊娠率低下 素直に医療の力を借りよう
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24001


※特集の評価はD(問題あり)。野村聖子記者への評価はDを維持する。

2018年7月15日日曜日

「早めに新興国押さえたFIFA」が苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員

国際サッカー連盟(FIFA)」は「国際オリンピック委員会(IOC)」に比べて「早めに新興国を押さえた」と言えるだろうか。日経ビジネス2018年7月16日号に載った「PROLOGUE ニュースを突く~FIFAに学ぶ新興国攻略」という記事で山川龍雄編集委員はそう言い切っているが、説得力に欠ける。話の進め方があまりにご都合主義的だ。
門司港駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

W杯は10年が南アフリカ、14年がブラジル、そして今回はロシアで開催された。22年は夏の猛暑を避けて11~12月にカタールで開催される。いずれも近年、豊富な資源などを背景に国際社会で台頭してきた国だ。

新興国での開催は、インフラ整備の遅れや政情不安など苦難を伴う。FIFAはリスクを承知の上で未開の地を選んできた。その結果、途上国にもファン層が拡大、世界中の企業から巨額マネーを呼び込む好循環を生んだ。

FIFAの収入を支えるのが、放映権料と企業からのスポンサー料。前回のブラジル大会の放映権料収入は、1998年のフランス大会と比べて約15倍に、スポンサー料収入は10倍に膨らんだ。

スポーツジャーナリストの二宮清純氏は「FIFAと国際オリンピック委員会(IOC)の開催地選びは対照的。IOCはいまだにアフリカやイスラム諸国では開いていない。一方のFIFAはオセロゲームの角(隅)を押さえる戦略をとってきた」と指摘する。

オセロゲームでは、終盤になると角を押さえたプレーヤーの方が優位になる。早めに新興国を押さえたFIFAは、IOCに比べ、収入の伸びに勢いがある

将来の成長を見据えた施策は続く。6月には、2026年の開催国を米国、カナダ、メキシコの3カ国共催に決めた。しかも出場チーム数を現行の32から48に拡大する。「多くの国にチャンスを与えるため」と説明するが、目的は放映権料などの収入拡大とみられる。

さらに30年の開催国は早くも中国が有力視されている。新興国での開催が一巡したFIFAは、米国と中国という経済規模1位と2位の国に狙いを定めた。米中の覇権争いをてんびんにかけるかのような動きだ。


◎「五輪と対照的な開催地選び」?

スポーツジャーナリストの二宮清純氏」に「FIFAと国際オリンピック委員会(IOC)の開催地選びは対照的」と語らせ「早めに新興国を押さえたFIFA」という印象を読者に与えようとしているが、主張に無理がある。
大雨で増水した巨瀬川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

IOCはいまだにアフリカやイスラム諸国では開いていない」とは言える。ただ、「新興国」での開催は珍しくない。古くは1968年のメキシコシティー(メキシコ)に遡る。サッカーW杯のロシア開催は今年が初めてだが、五輪は1980年のモスクワ(当時はソ連)、2014年のソチと2度の実績がある。

アジアの新興国に関しては完全に五輪が先行している。ソウル五輪は1988年、北京五輪は2008年だ。W杯のアジア開催は2002年の日韓大会が初で、中国では将来の開催さえ決まっていない。どちらが「早めに新興国を押さえた」かは微妙な感じだ。少なくとも「対照的」ではない。

オセロゲームの角(隅)を押さえる戦略」という例えも分かりにくい。この場合、「」は南アフリカ、ブラジル、ロシア、カタールなのか。「オセロゲームでは、終盤になると角を押さえたプレーヤーの方が優位になる」ので、これらの4カ国で早めに開催すると、世界中の国で「FIFA」の優位が強まると言いたいのだろう。

しかし、この4カ国での開催を済ませると、他の国でも「優位になる」とは考えにくい。北米や東アジアでの「優位」には、ほとんど影響なさそうな気がする。

」は他の国を指すのかもしれないが、米国や中国を「」と解釈するのは難しい。結局、「オセロゲームの角(隅)を押さえる戦略」は具体的にどこを押させて、それがどう作用するのかよく分からない。記事の最後で「新興国の成長や地政学の変化を先取りし、『オセロの角』を押さえる戦略は、ビジネスの視点でも、参考になるのではないか」と山川編集委員は述べているが、今回の内容では参考にしたくてもできない。

ついでに言うと「新興国での開催が一巡したFIFAは、米国と中国という経済規模1位と2位の国に狙いを定めた」との説明も引っかかる。「中国」も「新興国」だ。「30年の開催国は早くも中国が有力視されている」のならば「新興国での開催」はまだ「一巡」してないはずだ。

最後にもう1点だけ記事の書き方に注文を付けたい。

【日経ビジネスの記事】

4年に1度のサッカーの祭典は、注目度でオリンピックを上回ると言っても過言ではない。前回のブラジル大会では、決勝戦を約10億人が視聴した。全米が熱狂するプロアメリカンフットボールの優勝決定戦ですら1億人あまりと足元にも及ばない


◎五輪と比べるなら…

注目度でオリンピックを上回ると言っても過言ではない」と自分で五輪を持ち出しているのに「全米が熱狂するプロアメリカンフットボールの優勝決定戦ですら1億人あまりと足元にも及ばない」となぜかNFLと比較している。この辺りにも山川編集委員の雑さを感じる。


※今回取り上げた記事「PROLOGUE ニュースを突く~FIFAに学ぶ新興国攻略
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/092900002/071000163/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。山川龍雄編集委員への評価もDを維持する。山川編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「資産運用」は山川龍雄編集委員で大丈夫?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/04/blog-post_20.html

尖閣問題の解説も苦しい日経ビジネス山川龍雄編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_16.html

2018年7月14日土曜日

日経 甲原潤之介記者は「非核化の歴史3勝3敗」と言うが…

13日の夕刊ニュースぷらす面に載った「政界Zoom~非核化の歴史 3勝3敗 信頼関係の構築 不可欠」という記事はかなりの力作だ。「政界Zoom」というタイトルからズレているような気もするが、着眼点も悪くない。ただ「6地域」で「3勝3敗」をどう数えているのかが分かりにくい。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 甲原潤之介様

13日の夕刊ニュースぷらす面に載った「政界Zoom~非核化の歴史 3勝3敗 信頼関係の構築 不可欠」という記事についてお尋ねします。記事の中で甲原様は「(NPT発効後も)核開発の懸念が生じた6地域の非核化の成否を分類すると3勝3敗」と述べています。しかし、何回数えても合いません。記事では以下のように説明しています。

非核化の契機は冷戦終結だ。70年代に核実験疑惑があった南アフリカは、自発的に核放棄し、91年に核解体を終えた。中央アジアではソ連が崩壊すると、旧ソ連諸国にあった核兵器の拡散の懸念が広がった。旧ソ連のウクライナ、カザフスタン、ベラルーシは、核兵器をロシアに移送して核を放棄した。軍事政権の交代も契機になる。南米では70~80年代、ブラジルとアルゼンチンが核開発を検討した。隣国が核を保有する懸念が生じると、核開発競争が進む。この時は両国の軍事政権が姿を消すと、共に開発計画を放棄した。北朝鮮が核保有した東アジア、インドとパキスタンが競う南アジア、中東は非核化が難航する。南アジアでは98年にインドが核実験をすると、パキスタンも対抗して核実験を実施。中東ではイスラエルの核保有後、イランの核計画疑惑が問題になった。(中略)大国主導でも、非核化を先行させた後に経済制裁を解除したのが03~04年のリビア。非核化後にリビアは体制が崩壊した

甲原様の説明を基に分類すると以下の7つに分けられます。

1、南アフリカ 2、旧ソ連(ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ) 3、南米(ブラジル、アルゼンチン) 4、東アジア(北朝鮮) 5、南アジア(インド、パキスタン) 6、中東(イラン、イスラエル)、7、リビア

南アフリカとリビアを「アフリカ」とすれば「6地域」にはなりますが、甲原様はそうした説明をしていません。また地理的にも時期的にも大きく離れた両国の核開発放棄を合わせて「1勝」とするのは無理があります。「6地域の非核化の成否を分類すると3勝3敗」というくだりは「7地域の非核化の成否を分類すると4勝3敗」とすべきではありませんか。南アフリカとリビアを「アフリカ」として分類しているのならば、記事中でその点を明示すべきです。

せっかくの機会なので、追加で3つ指摘しておきます。まず「中央アジアではソ連が崩壊すると、旧ソ連諸国にあった核兵器の拡散の懸念が広がった。旧ソ連のウクライナ、カザフスタン、ベラルーシは、核兵器をロシアに移送して核を放棄した」という説明についてです。

この書き方だと「ウクライナ、カザフスタン、ベラルーシ」が「中央アジア」の国に見えてしまいます。「ウクライナ」と「ベラルーシ」は中央アジアの国ではないはずです。

次は以下の解説です。

まず自発的な放棄。『南アフリカ方式』といわれる。89年就任のデクラーク大統領が核開発終了を決断し、核を解体した。国際関係や安全保障が専門の佐藤丙午・拓殖大教授は『維持コストの問題や、アパルトヘイト政策から民主政権への移行期だったことなどが、核放棄を促した。特殊なケースだ』と話す

特殊なケース」と「佐藤丙午・拓殖大教授」は述べていますが、「ブラジルとアルゼンチン」について甲原様は「両国の軍事政権が姿を消すと、共に開発計画を放棄した」と説明しています。これも「自発的な放棄」だと思えます。だとすると「南アフリカ方式」は「特殊なケース」とは言えなくなってきます。

最後に「非核化」の分類についてです。甲原様は「誰が主導したかで分類した」と述べており「自発型」「大国主導型」「多国間合意型」の3つに分けています。

ウクライナなど旧ソ連3カ国の非核化は大国の米ロが主導した」ので「大国主導型」としています。一方で「イランは15年、英仏独米中ロの6カ国と、段階的に核計画を縮小する合意を締結」したので「多国間合意型」です。しかし「英仏独米中ロの6カ国」はいずれも「大国」なので「大国主導型」とも言えます。大国が2カ国絡むと「大国主導型」で6カ国絡むと「多国間合意型」になるのは、やや苦しいでしょう。個人的には「自発型」と「非自発型」の2つで十分だと思います。

付け加えると「合意を締結」には違和感があります。「契約」や「条約」は「締結」できますが「合意を締結」するでしょうか。記事には「米ロが3カ国と安全保障の覚書を締結」という表現も出てきました。普及しつつある使い方でしょうが、「覚書」も「締結」と組み合わせるのはお薦めしません。「覚書を交わす」などとした方が無難です。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「政界Zoom~非核化の歴史 3勝3敗 信頼関係の構築 不可欠
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180713&ng=DGKKZO32952120T10C18A7EAC000


※記事の評価はC(平均的)。甲原潤之介記者への評価も暫定でCとする。

2018年7月13日金曜日

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏

記事を書く時にデータを恣意的に使いたくなる気持ちは理解できる。しかし、できるだけ避けてほしい。13日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~担い手不足で変わる医療」という記事は、明らかにやり過ぎだ。筆者である 上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)には反省を促したい。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事では「オンライン診療」の規制緩和に絡めて以下のように書いている。

【日経の記事】

政府が5月にまとめた「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」は、1971~74年に産まれた第2次ベビーブーマーが65歳を過ぎる2040年にかけ、社会保障の現場が厳しい人手不足に直面する未来図を私たちに突き付けている。

推計では医療や介護、その他の福祉の提供に要する就業者数は40年度に1065万人。18年度の823万人より3割近くも多くの担い手がこの分野に求められる計算になる。この間に社会全体の就業者数は6580万人から5654万人に14%減るという想定の通りなら、他業種との人材獲得競争は足元よりはるかに激しくなると考えるのが自然。外国人や女性、高齢者に労働力としてもっと活躍してもらうとしても、窮状は簡単には解消しないだろう。

政府の将来見通しが公表されると、40年度の社会保障給付費が18年度より6割多い190兆円に達するという財政面の推計がまずは世間の関心を集めた。税金や保険料を負担する現役世代が先細るなか、給付が一方的に膨らむアンバランスをどうならしていくかは日本経済のかねての宿題だ。

ただ、仮におカネがどれだけ潤沢にあったとしても、サービスの担い手が足りなくなれば医療や介護はきちんと提供されず、私たちの安心の土台は崩れてしまう。日本の経済・社会のこれからの展開によっては、財政面よりもむしろ人手の問題が社会保障の仕組みを脅かすという危険なシナリオも絵空事では片付けられない。

医療や介護は「岩盤」と評された独特の規制に覆われ、聖域のように扱われてきた。人の命を扱う特殊性を考えると、過剰な競争を持ち込むべきではないという思想が社会の根底に流れていたのだと思う。ところがいまはっきり見え始めた近未来に競争相手どころか担い手さえ十分いないかもしれないというのは皮肉めく


◎なぜ「医療」で考えない?

見出しは「担い手不足で変わる医療」で、冒頭から「オンライン診療」の話が続く。「近所付き合いが疎遠になりがちな都会にあって一人暮らしの高齢者は増え続けるばかり。通院が難儀な高齢者にはかかりつけの医師が日ごろから往診できればよいが、医師が対処できる患者の数にはおのずと限界がある」とも訴えている。なのに、なぜ「就業者数」は「医療」ではなく「医療や介護、その他の福祉」の合計で考えるのか。

医療」単独のデータがないのなら分かる。だが、「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」では「医療」に限定したデータも示している。「医療や介護、その他の福祉の提供に要する就業者数」は確かに40年度には18年度比で「3割近く」増える見込みだが、「医療」に限れば6%増に過ぎない。一方で「介護」は5割増だ。これらを合わせた「3割近く」という増加率を基に、「医療」に関して「担い手さえ十分いないかもしれない」などと論じても意味がない、というより有害だ。

ちなみに日経は今年4月12日の「医師需給 28年ごろに均衡 厚労省推計、将来は供給過剰に」という記事で以下のように解説している。

【日経の記事】

医師や医療への需要は高齢化が進むことで当面は増加が見込まれる一方、人口減の影響で全体の需要は早ければ30年ごろから減り始める見通しだ。過剰な病院ベッドを減らすための議論はすでに全国で始まっている。推計によると、医師数は40年に約37万1千人に達し、供給が需要を3万人も上回る見込みだ。

◇   ◇   ◇

別に「オンライン診療」の規制緩和をするなとは言わない。ただ、その必要性を訴えるのにご都合主義的なデータの用い方をしてはダメだ。「オンライン診療」が必要なものでも、そうでないように見えてしまう。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

「40年度の医療就業者数は18年度比で6%増と見込まれている」「医師の需給は28年頃に均衡し、40年には供給が需要を3万人上回る見通し」というデータを基に考えても、医療は「担い手不足」が避けられそうもないのか。上杉氏には、そこを虚心坦懐に考えてほしい。

ちなみに「この間に社会全体の就業者数は6580万人から5654万人に14%減るという想定の通りなら、他業種との人材獲得競争は足元よりはるかに激しくなると考えるのが自然」との解説にも賛成できない。

上杉氏は「他業種」での人材へのニーズが不変との前提を置いているのか。人口が減るのだから、多く職種で労働者が今よりも少なくて済むはずだ。例えば、教師や塾講師は少子化の影響を受けて必要な人員が減っていくだろう。自動運転の普及でタクシー運転手などへの需要が激減するかもしれない。そうした影響も考慮した上で「他業種との人材獲得競争は足元よりはるかに激しくなる」かどうかを検討すべきだ。

個人的には「他業種との人材獲得競争は足元よりはるかに激しくなると考える」必要は乏しそうな気がする。これも明確な根拠はないのだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~担い手不足で変わる医療
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180713&ng=DGKKZO32926430S8A710C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「欧米の若年失業率は極めて高い」? 山口俊一氏に問う

米国は「若者の失業率が極めて高い」と言えるだろうか。完全雇用に近いとされる米国の状況を考えると、あり得ない気がする。しかし、週刊ダイヤモンドの記事で新経営サービス常務取締役・人事戦略研究所所長の山口俊一氏はそう言い切っていた。肩書から判断すると労働問題の専門家のようだが…。
周囲が冠水した久留米アミューズメントビル
   (福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

ダイヤモンドには以下の内容で問い合わせをしてみた。回答はなかった。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

新経営サービス常務取締役・人事戦略研究所所長 山口俊一様   週刊ダイヤモンド編集部 担当者様

7月14日号の「ダイヤモンド・オンライン発~東大卒も三流大卒も同じ初任給でいいのか…就活の常識が変わる?」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

職種や地域、企業によっても異なるが、大学での努力を評価した『値決め』ということになる。これが米英の常識。文句があるなら勉強して、難しい大学を卒業すればいいだけの話だからだ。ただし、新卒一括採用という習慣のない欧米諸国では、若者の失業率が極めて高いといった社会問題も存在する。新卒でも優秀なら高い値段で売れる反面、そうでない人は就職することすら困難ということだ

米英の常識」に触れた後で「新卒一括採用という習慣のない欧米諸国では、若者の失業率が極めて高い」と書いているのですから、少なくとも「米英」では「若者の失業率が極めて高い」はずです。それに米国が入らないのならば「欧米」とする意味がありません。

OECDの資料で2017年の若年失業率を見ると米国が9.2%、英国が12.1%とそれほど高くありません。ちなみにOECD平均は11.9%です。ドイツ6.8%、スイス8.1%など「若者の失業率が極めて高い」とは言い難い国が他にも多数あります。ギリシャ、イタリア、スペインなどの「若者の失業率が極めて高い」とは言えますが、少なくとも米国は当てはまりません。

新卒一括採用という習慣のない欧米諸国では、若者の失業率が極めて高い」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ダイヤモンド・オンライン発~東大卒も三流大卒も同じ初任給でいいのか…就活の常識が変わる?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23928


※記事の評価はD(問題あり)。山口俊一氏への評価も暫定でDとする。

2018年7月12日木曜日

北欧訪問の意味がない日経 藤井彰夫論説委員「中外時評」

12日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~日本は北欧に何を学ぶのか」という記事は、北欧に行かなくても書ける中身だ。しかし、筆者の藤井彰夫上級論説委員は「6月にフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国を訪れた」らしい。だったら、現地を訪れなければ得られない情報をなぜ記事に入れないのか。
佐世保バーガーの店(長崎県佐世保市)
            ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】

6月にフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国を訪れた。そこで強い印象を受けたのは「高福祉国家」とは別に、「実験・イノベーション国家」としての顔だ。

フィンランドは17年から、所得にかかわらず一定の現金を支給するベーシック・インカム実験を実施している。先進国では初めてだ。失業者2000人を対象に、毎月560ユーロを無条件で配る。

政府は推進派の存続要望を退け、この実験を予定通り今年末で打ち切ることを決めた。賛否が分かれる政策は、まず実験し、その結果を検証して次へ進むという姿勢だ。

MaaS(Mobility as a Service)とは、自動車、鉄道、バス、カーシェア、レンタル自転車など様々な移動手段を、スマートフォン(スマホ)のアプリを通じて連携させる実験。この発祥地もフィンランドだ。試みには日本の自動車メーカーはじめ世界の産業界が注目する。

バルト海をはさんだ隣国のスウェーデンも実験では負けていない。民間主導で携帯送金アプリが普及し、多くの人が現金を持ち歩かないキャッシュレス先進国。17世紀に創設された世界最古の中央銀行で欧州の紙幣の生みの親でもあるスウェーデン中銀(リクスバンク)は、自国通貨のデジタル版「eクローナ」発行を検討中だ。

リクスバンクは、急速なキャッシュレス化に伴って現金が使えないお店が増えるなど負の側面にも目配りしつつも技術革新の手は緩めない。

システム運営の難しさなどから日米欧の主要中銀がデジタル通貨の発行に慎重ななかで、スウェーデンの実験は異彩を放つ。同国は今や国際標準になったインフレ目標政策でも先陣を切った国の一つだ。

そんな北欧の姿をながめて思い出したのは、日本の「国家戦略特区」だ。特区制度は加計学園問題ですっかりイメージが低下した。だが、本来の目的は、日本の経済社会の構造改革を推進し、国際競争力を高める規制改革を集中的に実施する実験的制度だ。



◎せっかく現地に行ったのなら…

藤井論説委員が北欧で具体的に何を見たのか。誰と会ってどんな話を聞いたのか。「そんな北欧の姿をながめて思い出したのは」と書いてはいるものの、どんな光景を目にしたのかは全く触れていない。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

取材で訪れたのだとしたら「何を取材したのか」と問いたくなる。夏休みの旅行で訪れたのだとしても、現地でしか見聞できない話があったはずだ。日本でも得られるような情報を並べるだけならば、現地を訪れた意味はない。「わざわざ書くような話はなかった」と藤井論説委員が判断したのならば「6月にフィンランドとスウェーデンの北欧2カ国を訪れた」との情報は要らない。

ついでに、記事の問題点を追加で2つ挙げておきたい。

◎「バルト海をはさんだ隣国」?

バルト海をはさんだ隣国のスウェーデン」という説明は引っかかった。間違いではないが、陸続きの国にこういう言い方をするのは違和感がある。例えば「北朝鮮にとって中国は黄海をはさんだ隣国だ」と聞くと、変な感じがないだろうか。


◎スウェーデンは実験してる?

スウェーデンも実験では負けていない」と藤井論説委員は言うが、記事ではどんな「実験」をしているのか教えてくれない。スウェーデンは「民間主導で携帯送金アプリが普及し、多くの人が現金を持ち歩かないキャッシュレス先進国」かもしれないが、「キャッシュレス」の「実験」をしているとは考えにくい。

スウェーデン中銀(リクスバンク)は、自国通貨のデジタル版『eクローナ』発行を検討中」とも書いている。これもどこに「実験」の要素があるのか不明だ。「発行」に向けての「実験」を進めているのならば、そう書くべきだ。調べた範囲では、そうした事実は確認できなかった。


※今回取り上げた記事「中外時評~日本は北欧に何を学ぶのか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180712&ng=DGKKZO32870510R10C18A7TCR000


※記事の評価はC(平均的)。藤井彰夫上級論説委員への評価はCで確定とする。藤井論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

現状は「自由貿易体制」? 日経 藤井彰夫編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/blog-post_9.html

EU批判は「NATO批判」? 日経 中村亮記者に注文

11日の日本経済新聞夕刊総合面に載った「トランプ氏、対ロ改善意欲  欧州歴訪、NATO批判繰り返す」という記事では、EUとNATOを同一視するような書き方が引っかかった。筆者の中村亮記者は以下のように記している。
冠水した「ゆめタウン久留米」周辺(福岡県久留米市)
             ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

トランプ氏は10日、ツイッターで「欧州連合(EU)は我が国の農業者や労働者、企業が欧州でビジネスができないようにしている」と指摘。「EUは愉快にも米国が欧州を防衛し、その費用を負担することを望んでいる。こんなのはうまくいかない!」と訴えた。10日は4回にわたってNATOを批判した。



◎NATOで揃えた方が…

10日は4回にわたってNATOを批判した」と書いて、見出しでも「NATO批判繰り返す」と打ち出すのならば、トランプ大統領のツイッターも「NATO」が出てくる部分を使った方がいい。と言うか、そうでないと不自然だ。

欧州連合(EU)は我が国の農業者や労働者、企業が欧州でビジネスができないようにしている」「EUは愉快にも米国が欧州を防衛し、その費用を負担することを望んでいる。こんなのはうまくいかない!」では「NATO批判」ではなく「EU批判」だ。

カナダ、トルコはNATO加盟国だがEU加盟国ではない。スウェーデンやフィンランドのようにEU加盟国なのにNATO非加盟という例もある。「EUとNATOの加盟国はほぼ同じ」との前提で記事を書くのは感心しない。

個人的には「(米国大統領による)NATO批判」も引っかかる。米国がNATO加盟国だからだ。欧州と絡めるならば「欧州のNATO加盟国を批判した」などと書いてほしい。


※今回取り上げた記事「トランプ氏、対ロ改善意欲  欧州歴訪、NATO批判繰り返す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180711&ng=DGKKZO32852420R10C18A7EAF000


※記事の評価はC(平均的)。中村亮記者への評価はCで確定とする。中村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

カナダが「欧州」に見える日経「米欧、軍事費でも摩擦」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_8.html

2018年7月11日水曜日

「昔の人は早熟」? 週刊ダイヤモンド深澤献編集長の誤解

週刊ダイヤモンドの深澤献編集長が7月14日号の編集後記で述べているように「昔の人は早熟だった」かもしれない。ただ、「昔の映画などを見ると、確かに20〜30代が社会の中堅どころの役回りを務めていることが多い」という点に根拠を求めるのは無理がある。そこに近年との大きな差はなさそうだ。深澤編集長には以下の内容で問い合わせをしてみた。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド 編集長 深澤献様

御誌を定期購読している鹿毛と申します。深澤様が書かれた7月14日号の「From Editors」についてお尋ねします。気になったのは以下のくだりです。

でも、昔の映画などを見ると、確かに20〜30代が社会の中堅どころの役回りを務めていることが多い。中学生に人生訓を垂れる『金八先生』を演じた武田鉄矢さんは当時29歳でした。昔の人は早熟だったんだなあと、いまだに子供っぽいとおちょくられがちな私はただ驚くばかりです

仲間由紀恵さん主演の「ごくせん」というテレビドラマがありました。深澤様風に言えば「高校生に人生訓を垂れる『やんくみ』を演じた仲間由紀恵さんは当時22歳でした」。これは2002年の第1シリーズの年齢で、2008年の第3シリーズでも「武田鉄矢さん」より若い28歳です。

教師以外にも目を向けてみましょう。2017年に第3シリーズが放送されたテレビドラマ「コード・ブルー」では山下智久さん、新垣結衣さん、戸田恵梨香さんらが研修医の指導役を演じています。当時の年齢はそれぞれ32歳、29歳、28歳です。「20〜30代が社会の中堅どころの役回りを務めている」例と言えるでしょう。

昔の映画など」を根拠に「昔の人は早熟だったんだなあ」と判断するのは誤りではありませんか。個人的な感想だとは思いますが、多くの読者が目を通すコラムで不正確な情報を伝えるのは好ましくありません。

せっかくの機会なので、他にもいくつか指摘しておきます。

まず「金八先生」がテレビドラマではなく「昔の映画」の登場人物に見えるのが気になります。また、「金八先生」シリーズは長く続いたドラマなので、武田さんは「29歳」より上の年齢でも「金八先生」を演じています。この辺りも正確に書くべきでしょう。

コラムの中で深澤様は「いまだに子供っぽいとおちょくられがちな私」と述べています。しかし、悪い意味で「大人」になっている気がします。でなければ、編集長として読者からの間違い指摘を次々と握り潰すような対応はできません。ジャーナリズムの理想に燃える純粋な若者であれば、良心の呵責に耐えられなくなります。

今号の特集3「西側の同盟揺るがす『ハイブリッド戦争』  欧州・ロシアの新冷戦」でも複数の誤りが散見されました。記事に付けた地図で「NATO加盟国」のモンテネグロを非加盟国にしたりと、様々な問題があったのは別のメールで送った通りです。

今回も「悪い大人」の見本となるお考えですか?

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「From Editors
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23967


※記事の評価はD(問題あり)。深澤献編集長への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。深澤編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

AIに関する週刊ダイヤモンド深澤献編集長の珍説を検証
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_6.html

西船橋は「都心」? 週刊ダイヤモンド特集「勝つ街負ける街」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_79.html