2018年6月2日土曜日

大きく下げても「高止まり」? 日経「先進国、少子化再び」

高止まり」は問題のある使い方が目立つ言葉ではある。その中でも2日の朝刊1面に載った「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題」という記事はかなり厳しい。2011年以降に下げ続けて半分近く低下した米国の「若年失業率」を「高止まり」と説明している。不正確と言うよりは誤りと捉えるべきだ。記事には他にも問題を感じた。
諫早湾干拓堤防道路 ※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 渡部加奈子様 石川潤様 森本学様

2日の朝刊1面に載った「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題」という記事についてお尋ねします。記事に付けたグラフには「出生率は2つの危機後に若年失業率が高止まりした米仏で下がった」との説明文がついています。しかし、グラフを見ると「2つの危機後」に当たる2011年以降、米国の「15~24歳の失業率」は一貫して下がっています。10年には18%前後あったのに17年には10%を切っているように見えます。

高止まり」とは「相場や価格などが高値のままで下がらない状態をいう」(デジタル大辞泉)のですから、米国の危機後の若年失業率を「高止まりした」と説明するのは誤りではありませんか。正しいとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じぬ行動を心掛けてください。

話を戻すと、11年以降の米国に関しては、若年失業率の低下と歩調を合わせて出生率が低下しています。日本でも若年失業率は低下傾向なのに、出生率はほぼ横ばいです。記事の中で「リーマン危機後の15~24歳の若年失業率はドイツでは年々低下した。一方、若年失業率が高止まりしたフランスでは出生率が下がった」と書いていますが、出生率と若年失業率を絡めて論じるのは、少し無理がありませんか。

また、少子化が再び進み始めた理由についての説明にも疑問を感じました。何を以って「少子化再び」と言っているのは明確ではありませんが、「16年まではG7で少子化が止まっていたのに、17年に少子化傾向が再び鮮明になった」との趣旨だと推測できます。記事に付けたもう1つのグラフでG7の出生数を見ると11~16年がほぼ横ばいに見えるので、この期間は少子化が止まっていたと仮定しましょう。そして「少子化再び」の理由を記事では以下のように分析しています。

多くの先進国では08年のリーマン危機後の景気後退で家計の手取りが減少した。雇用情勢は世界的な景気拡大で足元で改善してきているものの、賃金は伸び悩んでいる。これが出産の減少や晩産化につながっている

08年のリーマン危機後の景気後退で家計の手取りが減少した」ことが少子化の原因ならば、その直後から影響が出てよさそうなものです。しかし、11~16年には少子化が止まり、17年に再び少子化傾向となっています。辻褄が合いません。「16年まではG7で少子化が止まっていたのに、17年に少子化傾向が再び鮮明になった」との認識に基づいて記事を組み立てるならば、「なぜ17年は16年とは異なるのか」を示す必要があります。今回の記事では、それができていません。

少子化再び」は全く異なる期間について述べているのかもしれません。例えば「08年まではG7で少子化が止まっていたのに、09年以降に少子化傾向が強まった」との趣旨かもしれません。しかし、これはかなり強引な解釈です。記事を素直に読めば、「少子化再び」となったのは17年と理解するのが自然です。

最後に語順の問題を1つ指摘します。「フランスは数少ない少子化対策に成功した先進国とみられていた」と書くと「少子化対策の数が少ない」ように見えてしまいます。「フランスは少子化対策に成功した数少ない先進国とみられていた」とすれば問題は解決します。「記事を書くプロ」と呼ぶにふさわしいレベルを目指すのであれば、こうした点にも配慮が必要です。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「先進国、少子化再び G7出生数、昨年800万人割れ 生産性向上に課題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180602&ng=DGKKZO31258780R00C18A6MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。渡部加奈子記者への評価は暫定でDとする。石川潤記者はCからDに引き下げ、森本学記者はDで確定とする。

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