2018年6月30日土曜日

「罰則なし」に誤解あり 日経「セクハラ ゼロへの道」

日本経済新聞の「セクハラ ゼロへの道」という連載は最後まで苦しい内容だった。「(下)罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を」という記事では、相手の意に反して女性の体を触り続ける加害者を罰するための法律がないような書き方をしている。これは誤解だ。法整備が「世界に遅れ」ていると訴えたいのならば、正しい認識に基づいて主張を展開してほしい。
アルカスSASEBO(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 天野由輝子様 河野俊様 井上孝之様 松浦奈美様 河内真帆様

30日の朝刊総合1面に載った「セクハラ ゼロへの道(下) 罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは冒頭に出てくる以下の事例です。

『辞めた方があなたのためですよ』。男性事業主のセクハラに苦しんだ四国在住の30代の女性は、相談に乗ってくれた担当者の言葉が耳を離れない。事業主は何年にもわたって複数の女性の体を触り、性的なことをしつこく聞いてきた。厚生労働省が各地に設置する労働局に駆け込み、担当者が再三注意。男女雇用機会均等法で事業主にセクハラ防止措置義務があると行政指導をした。それでも止まらなかった。『我々には強制力がない』。担当者はさじを投げた。女性は転職先を見つけ退社。『加害者が罰せられないのはおかしい』と憤る

記事の書き方だと、日本ではこの「男性事業主のセクハラ」を法律に基づいて罰することはできないと思えます。しかし、実際には可能なはずです。「事業主は何年にもわたって複数の女性の体を触り」続けたのであれば、おそらく強制わいせつ罪が成立します(詳しい状況が分からないので断定はしません)。

労働局」には「強制力がない」かもしれませんが、警察に相談すれば「加害者が罰せられ」た可能性は高いはずです。「相手の意に反して体に触っても法的に罰する術がない」と取れる説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を記しておきます。

まず「『男性は仕事、女性は家庭』など、日本では男女の役割分担意識が根強い。変わらぬ意識が、セクハラ対策の遅れを生む」との説明が理解できませんでした。「男女の役割分担意識」と「セクハラ対策の遅れ」がどう関係するのか謎です。例えば「女性は家庭に」という価値観を持っている女性は「セクハラなんて自由にさせればいい。対策なんて必要ない」と主張する傾向があるのでしょうか。「違う」と言える材料は持っていませんが、考えにくい気はします。仮にそういう傾向があったとして、「男女の役割分担意識」を変えると「セクハラ対策」への考えも変化するのでしょうか。

以下の記述も引っかかりました。

『子育て中の女性に出張は無理』『若い男性は家庭より仕事優先』。コンサルティング大手のアクセンチュアでは、こうした『アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)』を自覚させる研修を行う。狙いは先入観の存在を認め、偏りを意識して振る舞うこと。『相手を尊重する心があればハラスメントは起きないはず』。講師役の那須もえマネジング・ディレクターは期待する

この説明は矛盾していませんか。「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」が問題なのであれば「相手を尊重する心」を持っていても「無意識の偏見」に基づく「ハラスメント」は起きるのではありませんか。例えば「相手を尊重する心があっても、無意識の偏見を抱えたままだとハラスメントは起きてしまう」といったコメントであれば、納得できます。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「セクハラ ゼロへの道(下)罰則なし、世界に遅れ 『無意識の偏見』自覚を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180630&ng=DGKKZO32433040Z20C18A6EA1000


※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の責任者だと思われる天野由輝子氏への評価はDで確定とする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

防犯ブザーでセクハラ防止? 日経「セクハラ ゼロへの道」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_74.html

1,2戦目は「追いつき突き放した」? 日経のW杯解説に疑問

サッカーW杯の1次リーグで日本は「1、2戦目」に「攻めて追いつき、突き放した」と言えるだろうか。違うと思えるが、日本経済新聞のコラムでサッカー解説者の水沼貴史氏はそう解説している。日経に問い合わせた内容は以下の通り。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です


【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 運動部 担当者様

29日夕刊のスポーツ2面に載った「至言直言 水沼貴史~光った守備的戦術」という記事についてお尋ねします。記事中で水沼氏はサッカーW杯での日本の戦いに関して以下のように述べています。

3試合を通じ、チームの幅、引き出しが広がったとも感じる。苦境でも勇敢に攻めて追いつき、突き放した1、2戦目のような戦い方。この日のように、守備から入ることもできる

この説明が正しければ、1次リーグの「1、2戦目」で日本は「攻めて追いつき、突き放した」はずです。しかし1戦目も2戦目もそうした展開にはなっていません。1戦目のコロンビア戦ではリードされる時間がなかったので「追いつき」ようがありません。2戦目のセネガル戦では逆にリードする時間がなかったので「突き放し」てはいません。その辺りは水沼氏も分かっているとは思いますが、きちんと説明できていません。

苦境でも勇敢に攻めて追いつき、突き放した1、2戦目のような戦い方」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

ついでで恐縮ですが、1次リーグの勝敗表について改善を要望します(次のW杯になるかもしれませんが…)。まず、順位が上の国から並べてもらいないでしょうか。並びと順位がバラバラなので、非常に見づらく感じます。また、勝敗表は1カ所にまとめてください。毎回、探すのに手間取ります。

ちなみに読売と毎日は私の要望に合う作りとなっています。どちらが分かりやすいか、自分たちの紙面と見比べてみてください。朝日は並びと順位がバラバラではありますが、勝敗表は1カ所にまとめています。


◎最初からやってくれれば…

このコラムは水沼氏に話を聞いて日経の記者が記事を書いている可能性が高い。なので「攻めて追いつき、突き放した」のくだりは、記者の技量の問題だと見ている。

苦境でも勇敢に攻めて追いつき、突き放した1、2戦目」と言う場合、「1戦目=苦境でも勇敢に攻めて追いつき」「2戦目=突き放した」ならば弁明の余地もありそうだが、現実は逆だ。

何の情報も持たずに「苦境でも勇敢に攻めて追いつき、突き放した1、2戦目」と聞いた人は「1戦目2戦目ともに、苦境でも勇敢に攻めて追いついた後で突き放す展開になった」と理解するのが自然だ。そう考えると、記事の説明はまずい。

ちなみに「勝敗表」は30日の朝刊では要望に沿う形となっていた。要望を受け入れてきれたわけではなく、1次リーグの全日程を終えた時点ではしっかりと見やすく作ったのだろう。それができるのならば、最初からやってほしかった。

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「至言直言 水沼貴史~光った守備的戦術
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180629&ng=DGKKZO32396880Z20C18A6UUB000


※記事の評価はD(問題あり)。問題のくだりの責任は日経の記者にあると推定しているので、水沼貴史氏への評価は見送る。

2018年6月29日金曜日

防犯ブザーでセクハラ防止? 日経「セクハラ ゼロへの道」

日本経済新聞朝刊1面で「セクハラ ゼロへの道」というツッコミどころの目立つ連載が始まった。29日の「(上) 『男子文化』がそぐ活力 『見ないふり』企業のリスクに」で最も気になったのが、以下のくだりだ。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

女性の活躍は企業の生命線だ。明治安田生命保険は3万人を超える女性営業職全員に防犯ブザーを配布。顧客先などでの万一のセクハラリスクから社員を守る姿勢を打ち出す。セクハラを許さないという社内外へのメッセージでもある。



◎そんな「メッセージ」をもらうなら…

上記の説明には2つの疑問が浮かぶ。まず「防犯ブザー」で「顧客先などでの万一のセクハラリスクから社員を守る」ことができるだろうか。襲い掛かってくるような犯罪行為には有効かもしれないが、一般的な「セクハラ」には効果がなさそうに思える。商談の途中に性的な発言を挟んでくる顧客がいたとして、どのタイミングで「防犯ブザー」を鳴らすのか。

防犯ブザー」の音を聞いて駆け付けた方も困る。「何か犯罪に巻き込まれたのか」と心配して駆け付けて「どうしたんですか」と声をかけると「このお客さんが私にセクハラ発言を連発したんです」などと言われるのだろうか。自分が駆け付けた側だったら「そんなことで防犯ブザーを鳴らさないでよ」と思わずにはいられない。

「顧客に失礼過ぎないか」という疑問もある。生命保険会社の「女性営業職」が顧客に請われて訪問してあげている立場ならば、まだ分かる。しかし、そうではない場合が多いはずだ。保険の売り込みのために訪れてきた「営業職」の女性が「防犯ブザー」を持参してくるのは「あなたを信頼していませんよ」との「メッセージでもある」。自分が顧客だったら「そんなに疑っているのなら訪問してもらわなくて結構」と言いたくなる。

こっそり「防犯ブザー」を持たせるのならばまだしも、「セクハラを許さないという社内外へのメッセージ」でもあるのならば、顧客への不信感の表明と受け取られても仕方がない。

付け加えると、今回の記事に付けた写真はやらせの臭いがする。「明治安田生命」という文字が見えるビルの前で若い女性がメモ帳のようなものを覗き込み、肩から下げたバッグにはしっかりと「防犯ブザー」らしき機器がぶら下がっている。たまたま居合わせた「女性営業職」の人の写真には、とても見えない。しっかり人選した上でポーズを取らせている気がする。


※今回取り上げた記事「セクハラ ゼロへの道(上) 『男子文化』がそぐ活力 『見ないふり』企業のリスクに
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180629&ng=DGKKZO32374980Y8A620C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「罰則なし」に誤解あり 日経「セクハラ ゼロへの道」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_30.html

がん保険の「広告」? 週刊ダイヤモンド藤田章夫記者の記事

週刊ダイヤモンド6月30日号に載った「ものつくるひと 第124回『終身ガン治療保険プレミアムDX』野口俊哉(チューリッヒ生命チーフ・マーケティング・プロポジション・オフィサー)がん保険のイノベーター 一歩先を見据えた商品開発」という記事は、実質的には広告だ。筆者である藤田章夫記者のヨイショ気質が前面に出ていて、読むのが辛かった。特に気になったのが以下のくだりだ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

ならばと、14年11月に野口が開発したのが、「終身ガン治療保険プレミアム」だ。

このがん保険の最大の特徴は、抗がん剤治療が主契約になっていること。そして、一般的ながん保険では主契約となっている診断給付金や、入院と手術、通院などの給付金は全て、特約(オプション)扱いになっていることだ。

これならば、すでにがん保険に加入していても、保障がダブることなく抗がん剤治療に対する保障を得ることができる。つまりは保障のバラ売りであり、既存のがん保険を解約することなく、必要な保障を上乗せして加入できるがん保険というわけだ。

このがん保険に対する評価はすこぶる高く、売れに売れた。だが、保険商品のイノベーターたる野口は、さらに一歩踏み込んだ。それが、18年4月に投入した「終身ガン治療保険プレミアムDX(ディーエックス)」だ。


◎具体的なデータは?

がん保険」は基本的に要らないと思うが、ここでは論じない。問題は「このがん保険に対する評価は売れに売れた」という説明だ。まず表現が宣伝臭い。しかも「売れに売れた」と言うだけで具体的なデータは全く示していない。怪しすぎて、記事の内容を素直に受け入れる気にはなれない。

抗がん剤治療が主契約」の「がん保険」を作ったぐらいで「保険商品のイノベーター」と呼ぶのも、ヨイショが過ぎる。しかも、それがさらに続く。


【ダイヤモンドの記事】

このがん保険の基本構造は旧商品と同じだが、最大の特徴は、「欧米で承認されたが日本では未承認の抗がん剤」をも保障の対象に加えたこと。つまり、対象範囲は限定されるものの「自由診療の抗がん剤」を使用しても、給付金が支払われることになる。

日本で承認された抗がん剤では効果がなく、海外で承認された抗がん剤を使いたいと思っても自由診療になってしまい、検査費用や入院に掛かる費用は原則、全額自己負担となる。

その経済的負担を軽減できる新商品に込めた思いはこうだ。

「がんの治療を諦めてほしくありません。そのために、治療の選択肢をなるべく多く提供したいと考えました」

新商品の発売以降、がん患者やメディア、業界内からの問い合わせが殺到している。今回の新商品も、かなりのインパクトを与えているといえよう。



◎またも具体的なデータが…

新商品の発売以降、がん患者やメディア、業界内からの問い合わせが殺到している」とチューリッヒのがん保険をまたも持ち上げるが、具体的なデータはない。取材の時に「新商品の発売以降、がん患者、メディア、業界関係者から問い合わせが殺到してるんですよ」と言われて「そうなんですか。凄いですね」と納得してしまったのか。
佐世保市市民文化ホール(長崎県佐世保市)
             ※写真と本文は無関係です

問い合わせが殺到」という具体性に欠ける情報を基に「今回の新商品も、かなりのインパクトを与えているといえよう」と言われても困る。「通常は発売1カ月で100件程度の問い合わせしかないのが普通だが、今回の新商品は1週間で1万件を超えた」などと書いてあれば「問い合わせが殺到」だと思える。その辺りは取材しなかったのか。

付け加えると「がん患者」から「問い合わせが殺到」するかなとは思う。既にがんを発症しているのであれば保険への加入はできないはずだ。そうした知識のない人から「問い合わせが殺到」している可能性はゼロではないが、ちょっと考えにくい。


※今回取り上げた記事「ものつくるひと 第124回『終身ガン治療保険プレミアムDX』野口俊哉(チューリッヒ生命チーフ・マーケティング・プロポジション・オフィサー)がん保険のイノベーター 一歩先を見据えた商品開発
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23839


※記事の評価はD(問題あり)。藤田章夫記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

2018年6月28日木曜日

W杯で阿刀田寛記者の慢心が怖い日経「日本と当たりたい?」

サッカーW杯で日本が1次リーグを突破できるのか、まだ分からない。なのに、1位で突破した後に対戦する「G組の相手」が「日本くみしやすしとみて、同組のライバルに白星を譲り合いはしないだろうか」と気の早い心配をしているのが日本経済新聞の阿刀田寛記者だ。強敵ポーランドとの対戦を前に慢心が見えるようで不安だ。阿刀田記者に気の緩みがあっても日本代表のプレーに影響はないのだが…。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

28日の朝刊スポーツ2面に載った「ハラショー~日本と当たりたい?」という記事を見ていこう。

【日経の記事】

ポーランド戦を残す日本がセネガルと並んで1次リーグH組の首位に立ったことで、決勝トーナメント1回戦で日本と当たるかもしれないG組の相手のことが、がぜん気になりだした。

この組はベルギーとイングランドがすでに2勝。ともに勝ち抜けが決まっていて、日本―ポーランド戦直後に始まる直接対決で順位を決める。

H組1位はG組2位と、H組2位はG組1位と当たるが、もしも日本が1位抜けしたとき、G組の2強対決は真剣なものになるだろうか。日本くみしやすしとみて、同組のライバルに白星を譲り合いはしないだろうかと、妙なことが心配になるのである。欧州から遠い島国に生まれたサッカー記者の、みじめな劣等感とわかっているのだが



◎「劣等感」ある?

もしも日本が1位抜けしたとき、G組の2強対決は真剣なものになるだろうか」と心配しているのだから、「日本が1位抜け」する可能性が十分にあると阿刀田記者は思っているはずだ。つまり「ポーランドのような欧州の強い国に勝つのは厳しいかも」とは見ていない。

だとしたら「欧州から遠い島国に生まれたサッカー記者の、みじめな劣等感」はあまり感じられない。そんな「劣等感」があるのならば、1次リーグ敗退の心配をひたすらするはずだ。

ついでに記事の続きも見ておこう。

【日経の記事】

1次リーグ最終戦では、この手の皮算用が絡んだ片八百長や無気力試合が生じうる。

実際、2002年日韓大会でポルトガルが開催国の韓国に「0―0で引き分けよう」と“目くばせ”をするのを見たことがある。最終戦前のD組4チームの勝ち点は韓国4、米国4、ポルトガル3、ポーランド0。韓国―ポルトガル戦の勝者が米国と一緒に勝ち上がるとみられていた。

ところが同時開催の他会場で、米国がポーランド相手に早々と2失点。退場者を出して劣勢に置かれていたポルトガルはそれを知ると、試合中に矛を収めて韓国に“取引”を持ちかけた。

韓国は応じなかった。ポルトガルの当時のスター、ルイス・フィーゴに話しかけられた韓国選手は、そもそも何を言われているかもわからなかったという。その後、韓国の朴智星が鮮やかな決勝点を決めてポルトガルはここで敗退。甘言になびかなかった志操堅固な選手たちを韓国の新聞はこぞってたたえていた



◎「目くばせ」? 「志操堅固」?

ポルトガルが開催国の韓国に『0―0で引き分けよう』と“目くばせ”をするのを見たことがある」と阿刀田記者は言うが、「ポルトガルの当時のスター、ルイス・フィーゴ」が韓国選手に話しかけて取引を持ち掛けたのであれば「目くばせ」を超えている。「目くばせ」は「言葉にはしないが態度や表情で示した」という状況の時に使うべきだ。
久留米市立久留米商業高校 ※写真と本文は無関係です

韓国人選手は「そもそも何を言われているかもわからなかった」のであれば、取引に応じようがない。つまり「甘言になびかなかった志操堅固な選手たち」とは言い難い。「韓国の新聞」がそう誤解したのかもしれないが、だとすれば「甘言になびかない志操堅固な態度だと誤解した韓国の新聞はこぞって選手たちをたたえていた」などと書くべきだ。

記事の残りを見ていこう。

【日経の記事】

翌日、いきなりポルトガル人記者に詰め寄られて驚いた。当方を韓国人記者と取り違えたらしかった。「おまえらはどういうつもりだ? 一緒に勝ち上がるのは悪いことじゃない。そういう隙を見せた米国が悪いんじゃないか」と口を極めてなじられて、W杯には色々な理屈があるものだと思ったのを覚えている。

でもねえ、ポルトガルさん。世に中には腹芸の通じない相手もいるし、取引が成立したところでいつ裏切られるか知れたものじゃないでしょ。ベルギーさんやイングランドさんも気をつけたほうがいいですよ。怖いバッターを敬遠した後、思わぬ伏兵にぽかりと打たれるのはよくあることですから……。と、島国のサッカー記者はそんなふうにも思っているのである。



◎その時はどう対応した?

このくだりに大きな問題はない。ただ、「でもねえ、ポルトガルさん。世に中には腹芸の通じない相手もいるし、取引が成立したところでいつ裏切られるか知れたものじゃないでしょ」という部分は引っかかった。「いきなりポルトガル人記者に詰め寄られ」た時にそう返したのだろうか。記事の書き方からすると、違うようだ。

ポルトガル人記者」には直接言えなかったのに、今頃になって記事で「でもねえ、ポルトガルさん」と書かれても、阿刀田記者の側に立つ気にはなれない。「『自分は韓国人ではない。でも言わせてもらうと、世に中には腹芸の通じない相手もいるし、取引が成立したところでいつ裏切られるか知れたものじゃないでしょ』と言い返したのを覚えている」などと書いてあれば、「阿刀田記者やるな」と思えるのだが…。


※今回取り上げた記事「ハラショー~日本と当たりたい?
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180628&ng=DGKKZO32328280X20C18A6UU2000


※記事の評価はD(問題あり)。阿刀田寛記者への評価はDで確定とする。阿刀田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 阿刀田寛記者「2026年W杯」の解説記事に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/2026.html

「今は中ロと直接向き合ってない」? 佐藤純之助氏の誤解

ジャーナリストの佐藤純之助氏がどんな人物か全く知らないが、国際情勢に関する記事を任せるのは避けた方がいい。週刊エコノミスト7月3日号の「変質する国際秩序 日米同盟 トランプ流『ディール』に揺らぐ日本 安保で米国からの自立を求める声も」という記事を読んでそう感じた。以下が問題のくだりだ。
米軍佐世保基地(長崎県佐世保市)

【エコノミストの記事】

陸軍主体の在韓米軍は北朝鮮の南進に備えるために駐留しているというのが一般的な見方だが、ソウル南方の烏山(オサン)には空軍基地があり、南部の星州(ソンジュ)には地上配備型迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」もある。空軍は行動範囲が広く、THAADのレーダーは中国やロシアも監視できるとされ、在韓米軍は北東アジア地域の抑止力の一助となっている。

それが縮小、撤退すれば、日本は韓国という緩衝地帯を失い、価値観を共有しているとは言い難い中国やロシアという旧共産圏の国々と直接向き合うことになる。「自由主義陣営の防衛線が38度線から対馬海峡に降りてくる。日本は最前線国家になる」と、防衛省の元高官は懸念する

◇   ◇   ◇

問題は2つある。

◎問題その1~「韓国という緩衝地帯を失う」?

それ(在韓米軍)が縮小、撤退すれば、日本は韓国という緩衝地帯を失い、価値観を共有しているとは言い難い中国やロシアという旧共産圏の国々と直接向き合うことになる」と佐藤氏は断言するが、在韓米軍の「縮小、撤退」で韓国が「中国やロシアという旧共産圏の国々」の勢力圏に入るとの前提に無理がある。例えば台湾に米軍基地はないが、だからと言って中国やロシアが台湾を自分たちの陣営に引き込めているわけではない。


◎問題その2~これまでは「直接」向き合ってなかった?

それ(在韓米軍)が縮小、撤退すれば、日本は韓国という緩衝地帯を失い、価値観を共有しているとは言い難い中国やロシアという旧共産圏の国々と直接向き合うことになる」という説明には、これまでは「直接向き合うこと」がなかったとの前提を感じる。佐藤氏は日本周辺の地図を見たことがないのか。

大陸部に限っても、ロシアとは日本海を挟んで、中国とは東シナ海を挟んで「直接向き合う」状況が続いている。佐藤氏は「防衛省の元高官」に色々と吹き込まれたのかもしれないが、少し考えれば「自由主義陣営の防衛線が38度線から対馬海峡に降りてくる。日本は最前線国家になる」という見方に問題があるのは分かるはずだ。


※今回取り上げた記事「変質する国際秩序 日米同盟 トランプ流『ディール』に揺らぐ日本 安保で米国からの自立を求める声も
https://mainichi.jp/economistdb/index.html?recno=Z20180703se1000000057000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤純之助氏への評価も暫定でDとする。

2018年6月27日水曜日

「働き方改革」後押しに無理がある日経「政と官 ゆがむ統治」

日本経済新聞が働き方改革を論じると、高い確率で無理が生じてしまう。26日の朝刊1面に載った「政と官 ゆがむ統治(3)崩れた三角形、時間軸にズレ」という記事は、その中でも無理が過ぎる。以下の説明を読んでアップル日本法人と働き方改革にどんな関係があるのか考えてほしい。
河童の像と桜(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

安倍晋三首相が「成長戦略そのもの」という働き方改革関連法案。今国会で成立する運びだが、原型である法案の提出は2015年4月まで遡る。しかも生産性の向上をめざし当初の法案に入っていた仕事の時間配分を働き手が決められる裁量労働制の対象拡大は、厚生労働省の調査データ不備で撤回を迫られた

国立大の理系大学院で学ぶ若者は最近、米アップルの日本法人への入社を決めた。デジタル技術が評価され「月給60万円、年収1千万円」という。経済同友会幹部は「人材が流出し、いずれ日本企業の経営者は外国人ばかりになりかねない。せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要なのに、政も官もスピード感がない」と肩を落とす。


◎アップルにできるのなら…

米アップルの日本法人」が「月給60万円、年収1千万円」という条件で優秀な人材を獲得しているとしよう。これと「裁量労働制の対象拡大」に何の関係があるのか。文脈的には「柔軟な働き方」が認められない日本企業はアップルに対抗できないと取れる。

だが、日本企業が「月給60万円、年収1千万円」という条件で新入社員を採用しても何の問題もない。

百歩譲って「裁量労働制」が非常に魅力的な働き方で、それが認められないと優秀な人材を獲得できないとしよう。その場合、「米アップルの日本法人」も人材獲得はできなくなる。「日本法人」である以上は日本の法律に従う必要があるからだ。

人材が流出し、いずれ日本企業の経営者は外国人ばかりになりかねない。せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要なのに、政も官もスピード感がない」という「経済同友会幹部」のコメントにもツッコミを入れておこう。

まず「日本企業の経営者」が「外国人ばかり」になって何がまずいのか。上手く経営して雇用や利益を生み出してくれるのならば、経営者は日本人でも外国人でもいい。それに「日本企業の経営者」が「外国人ばかり」になるのならば、日本企業に外国の人材が「流入」してくるはずだ。「人材が流出」するばかりではない表れなので、むしろ好ましいのではないか。

せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要」という主張に説得力がないのは既に述べた通りだ。「米アップルの日本法人」で「柔軟な働き方」ができるのならば、他の日本企業でも可能だ。国内の法規制に差はない。そのぐらいは連載の取材班も分かっているはずだ。この手の無理のある解説は、自分たちの記事への信頼性を失わせるだけだと肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「政と官 ゆがむ統治(3)崩れた三角形、時間軸にズレ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180627&ng=DGKKZO32229960W8A620C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年6月26日火曜日

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員

日本経済新聞の中村直文編集委員が26日の朝刊企業3面に書いた「奔放さ 保てるか」という解説記事は分析が雑だ。前沢友作スタートトゥデイ社長のインタビュー記事に付けたその記事の中身を見ていこう。
佐世保駅(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

全文は以下の通り。

【日経の記事】

スタートトゥデイの強みは何か。子供っぽさと企業体質のアナログ性だろう。祖業は輸入CDなどのカタログ販売だが、2000年にネットという新しい「おもちゃ」を見つけるとすぐに切り替えた。ほぼ同時期に難しいと言われたファッションも扱い始めた。今回のゾゾスーツも「自分に合う服が欲しい」という前沢社長の無邪気なニーズから始まった

アナログ性とは「楽しく働けば働くほどもうかることに気づいた」(前沢社長)と話す社内コミュニケーションのこと。本社のある千葉・幕張に住む社員には「幕張手当」を支給し、時間に縛られない働き方を長く励行している。自由な雰囲気を醸し出す今のIT(情報技術)企業の原型を創造してきた

実は近年メディアの取材に応じていなかった。理由は「その時間を社内のコミュニケーションに充てたかった」(前沢社長)。もっともグローバル展開を始め、年間売上高は2019年3月期には1500億円近くに達する見込み。スタートトゥデイが何を目指すのかを社内外に広く伝える必要性が生まれ、「社外」コミュニケーションのあり方を修正した。

かくも奔放な前沢社長も少し大人の階段を上らざるを得ない状況になったわけだ。思い出に浸るまもなく、常識外れのライバルがさらに湧いてくるネットの世界。今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

◎疑問その1~どこに「アナログ性」?

アナログ性とは『楽しく働けば働くほどもうかることに気づいた』(前沢社長)と話す社内コミュニケーションのこと」と中村編集委員は言う。しかし、何が「アナログ」なのか謎だ。
門司港(北九州市)から見た関門橋 ※写真と本文は無関係です 

楽しく働けば働くほどもうかること」に「アナログ性」は感じられない。「千葉・幕張に住む社員には『幕張手当』を支給し、時間に縛られない働き方を長く励行している」のも、アナログとかデジタルの問題ではない。

例えば「社内の連絡でメールは禁止。全て口頭か紙のメモに頼っている」などと書いてあれば「社内コミュニケーション」に「アナログ性」があると納得できるのだが…。


◎疑問その2~「幕張手当」があると「時間に縛られない」?

幕張手当」があると、本社の近くに住むインセンティブは働くだろう。「終電を気にせず長時間労働ができる」という意味では「時間に縛られない働き方」かもしれないが、だとすると褒められた話ではない。

「そんなブラック企業ではない」という場合、「幕張手当」と「時間に縛られない働き方」の関係が分からなくなる。例えば「出社時間も退社時間も自由。労働時間は1日1~8時間で自由に選べる」という制度ならば「時間に縛られない働き方」だとは思うが、そうなると「幕張手当」は関係なくなる。


◎疑問その3~「IT企業の原型を創造」?

自由な雰囲気を醸し出す今のIT(情報技術)企業の原型を創造してきた」のが「スタートトゥデイ」だとは知らなかった。グーグルなどのIT企業は確かに「自由な雰囲気」がありそうだ。中村編集委員の解説通りならば、米国の巨大IT企業などもその「自由な雰囲気」は「スタートトゥデイ」が築いた「原型」を引き継いでいるのだろう。否定する材料を持ち合わせているわけではないが、ちょっと信じ難い。


◎疑問その4~どこが「かくも奔放」?

かくも奔放な前沢社長」と中村編集委員は言うものの、記事からは「奔放」さが伝わってこない。強いて言えば「今回のゾゾスーツも『自分に合う服が欲しい』という前沢社長の無邪気なニーズから始まった」というくだりか。しかし、経営者としてそれほど「無邪気」とも「奔放」とも思えない。

例えば「突然、社内の人間と連絡を断って2カ月間行方不明に。その間は気の向くまま海外を旅していた」といった話があれば「かくも奔放な前沢社長」と言われて納得できる。しかし、記事中にその手の事例は見当たらない。


◎疑問その5~今のスタートトゥデイは「小規模」?

今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する」という結論部分も苦しい。「年間売上高は2019年3月期には1500億円近くに達する見込み」ならば、立派な大企業だ。現状で「子供っぽさと企業体質のアナログ性」という「強み」を持っているのであれば、既に「規模と強みを両立」できている。

年商10億円レベルならば「今後は規模と強みを両立するというベンチャー企業の宿命に直面する」かもしれないが、スタートトゥデイは桁が2つ違う。

中村編集委員は思い付き程度の分析を軽い気持ちで記事にしている印象がある。編集委員というご利益のありそうな肩書を付けて記事を書くのだから「自分の分析に妥当性はあるのか」と深く自問してから構成を考えてほしい。


※今回取り上げた記事「奔放さ 保てるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180626&ng=DGKKZO32227960V20C18A6TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

「IFAは顧客本位」に疑問なし? 東洋経済 中村陽子記者

週刊東洋経済6月30日号に載った「ブックス&トレンズ 『投資信託 失敗の教訓』を書いた 独立系ファイナンシャルアドバイザー 福田猛氏に聞く」という記事は問題が多い。「福田猛氏」がおかしな発言を連発するのは立場上ある程度は理解できる。分からないのは記事を書いた中村陽子記者だ。福田氏の話をそのまま大して疑問も持たずに受け入れている。話を聞いていて、あるいは記事を書いていて「何か変だな」とは感じなかったのか。だとしたら投資関連の記事は書かない方がいい。
関門海峡ミュージアム(北九州市)
       ※写真と本文は無関係です

福田氏の発言にツッコミを入れてみたい。

【東洋経済の記事】

──日本ではFAは富裕層のもの、一般人には無関係と思いがちです。

米国には30万人の独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)がいます。証券会社と業務提携し、その取扱商品を案内して販売する。IFAには証券会社から手数料の一部がキックバックされるので、別途相談料などはかかりません。金融機関に属するFAはその会社の推奨商品の営業マンになりがちですが、IFAは顧客にとって何がベストか、資産運用にとどまらず、不動産や保険も含めた資産全体の最適化をアドバイスする。あくまで顧客に寄り添って、ストレスのない運用を提案するスタイル。普通を着実に継続してこそ最大の効果が得られるんです。



◎本質的な違いはないような…

独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)」の福田氏が「IFAは素晴らしい」と宣伝するのは当然だ。そこを責めるつもりはない。だが、主張に説得力はない。

上記の説明でIFAを「あくまで顧客に寄り添って、ストレスのない運用を提案するスタイル」だと感じただろうか。IFAは「証券会社と業務提携し、その取扱商品を案内して販売する」という。「証券会社から手数料の一部がキックバックされる」のならば、基本的には「提携している証券会社の回し者」と考えるべきだ。「金融機関に属するFA」と本質的な違いはない。中村記者はそう思わなかったのか。

さらにツッコミを入れていく。

【東洋経済の記事】

──サブタイトルが「成功の秘訣は『相場を予測しない』」。運用していることを忘れるくらいがいい、と。

私たちは顧客が持つ目標に基づいてポートフォリオを組んでいく、ゴールベースの資産運用をします。その対極はマーケットベース。予想で株の売り買いをする。でも予想って当たらないものなんです。当たるか外れるか、これってギャンブルですよね。まとまった大切なおカネ、減らしてはいけないおカネを、当たらない予想に基づいて動かしちゃダメです。

予想なしに運用なんてできるの?と問われたら「できる」と答えます。積立投資で毎月自動的に一定額が口座から引き落とされ、普段はほったらかし。これを10年続けて減る人はいません。世の中の景気の良しあしは大体10年サイクル。経済はつねに循環するから相場なんて予想する必要はない。積立投資は価格が下がれば買い付け量が増える。量を味方につけるので、価格が少し上向けば莫大な成果が上がる。積立投資にいちばん不向きなのは価格がいっさい変動しない銀行預金です。



◎「予想」しているような…

予想なんかしなくても運用できる」と福田氏は言うが、よく読むと福田氏も「予想」している。「長期的には値上がりする」という予想だ。でないと「これ(積み立て投資)を10年続けて減る人はいません」との結論にはならない。相場の長期トレンドが下落ならば「積立投資」でも損をしてしまう。

ちなみに、バブル崩壊直前の1989年末から日経平均連動型の投資信託で「積立投資」を始めたと仮定すると、「10年続けて」も利益は出ないだろう。日経平均が半値近くに下がるからだ。

価格が少し上向けば莫大な成果が上がる」という説明も問題がある。「価格が少し」しか上がらないのならば「成果」も基本的には「少し」だ。1株1000円のA株での積立投資で考えてみよう。毎月1000円ずつ買っていく。最初は1株だ。次の月に暴落して100円になったので10株買う。これで2000円投資して11株を手に入れた(資産評価額は1100円)。次の月に1%の値上がりで株価は101円となった。資産評価額は11株で1111円だ。

これで「価格が少し上向けば莫大な成果が上がる」と言えるだろうか。投資額に対しては900円近い損。「価格が少し」上向いたことによる「成果」は11円(1%)に過ぎない。

投資信託 失敗の教訓」という本を読んだわけではないが、その中で福田氏が上記のような主張を述べているのであれば「この本の筆者を記事で取り上げるのは好ましくない」と中村記者も判断できたはずだ。なのに記事では、福田氏の考えに共感しているような問いを続ける。そこが悪い意味で凄い。


※今回取り上げた記事「ブックス&トレンズ 『投資信託 失敗の教訓』を書いた 独立系ファイナンシャルアドバイザー 福田猛氏に聞く
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2018063000/DCL0101000201806300020180630TKW037/20180630TKW037/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。中村陽子記者への評価も暫定でDとする。

2018年6月25日月曜日

「KNTはネット・ネット」の説明が怪しいFACTAの記事

7月号の「FACTA銘柄 Sin-Bin Box KNT-CT (東証1部)『親子上場』の罪深き天下り社長失言」という記事の問題点をさらに指摘したい。FACTAに送った問い合わせの内容は以下の通り。
流川桜並木(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】

FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

7月号の「FACTA銘柄 Sin-Bin Box KNT-CT (東証1部)『親子上場』の罪深き天下り社長失言」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

KNTはプロの機関投資家の間で『ネット・ネット』と呼ばれている。英語で『差し引き』という意味なのだが、現預金といった本業には直結しない手元流動性が『差し引き』で時価総額を上回る企業を指す。何のことはない。経営資源を有効活用していない『ダメ経営』を金融言語に変換しただけだ。KNTの場合、時価総額450億円に対し手元流動性は680億円。無借金なので、時価で買収したら230億円のお釣りが帰ってくる計算だ

<質問その1>

ここで言う「ネット・ネット」とは「ネット・ネット株」を指すのでしょう。PRESIDENT Onlineでは今年2月9日付の記事で以下のように解説しています。

ネットネット株とは、アメリカの投資家ウォーレン・バフェットの師匠に当たる人物、経済学者ベンジャミン・グレアムが提唱した投資方法です。一言でいうと、企業の流動資産(現金など)から負債総額を引いた額の3分の2が時価総額より多い銘柄が、ネットネット株ということです

これが「ネット・ネット株」の一般的な定義だと思えます。しかし御誌は「流動資産」ではなく「手元流動性」を用いています。さらに、負債を差し引くとも、「3分の2」に割り引くとも書いていません。御誌の「ネット・ネット」に関する説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問その2>

今回の記事では「KNT」に関して「手元流動性は680億円」と記しています。同社の決算短信で今年3月末の数字を見ると、現預金334億円、預け金347億円なので、これらを合計して「手元流動性は680億円」と書いたのでしょう。

手元流動性」は「現預金や償還・売却期限が1年以内の有価証券など、非常に換金性の高い流動資産のこと」(野村証券の証券用語解説集)です。だとすれば、預け金は「手元流動性」には当たりません。取引先などに預けているのですから「非常に換金性の高い流動資産」とは言えません。

記事中の「手元流動性は680億円」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問その3>

無借金なので、時価で買収したら230億円のお釣りが帰ってくる計算だ」との説明にも疑問が湧きます。「KNT」は「無借金」かもしれませんが、負債ゼロではありません。営業未払金と未払い金の合計が3月末時点で約300億円あります。これを考慮すれば「230億円のお釣り」とはなりません。「時価で買収したら230億円のお釣りが帰ってくる計算だ」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


<質問その4>

プロの機関投資家」という表現が引っかかりました。「機関投資家」は全て「プロ」ではないのですか。それとも「アマの機関投資家」もいるのでしょうか。


<質問その5>

現預金といった本業には直結しない手元流動性」という説明にも疑問が残ります。「現預金」は「本業には直結しない」のですか。仕入れ代金や給料を支払うために「現預金」を持っていても「本業には直結しない」と言えるでしょうか。


<質問その6>

最後に、記事中の「『親子上場』問題の本質は、少数株主権の侵害にある。少数株主からも資本を得ているのに、大株主である親会社が間接的に放漫経営できるからだ」との説明を取り上げます。「少数株主権」の定義は以下の通りとしましょう。

一人または複数の株主の持株数を合算して、発行済株式総数の一定割合または一定数以上の株式を保有することを要件として行使できる株主権。多数派株主の専横を制し、少数株主の利益を保護するために認められている。株主総会招集請求権、取締役・監査役・清算人の解任請求権、会計帳簿閲覧権など」(デジタル大辞泉)

親子上場」だと「株主総会招集請求権、取締役・監査役・清算人の解任請求権、会計帳簿閲覧権」が認められなくなるのでしょうか。常識的には考えられません。「大株主である親会社が間接的に放漫経営できる」かもしれませんが、「少数株主権の侵害」とは別問題ではありませんか。

『親子上場』問題の本質は、少数株主権の侵害にある」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「FACTA銘柄 Sin-Bin Box KNT-CT (東証1部)『親子上場』の罪深き天下り社長失言
https://facta.co.jp/article/201807029.html


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事については以下の投稿も参照してほしい。

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

2018年6月24日日曜日

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり

親子上場」を批判する記事はいつも納得できない。FACTA7月号の「FACTA銘柄 Sin-Bin Box KNT-CT (東証1部)『親子上場』の罪深き天下り社長失言」という記事もその1つだ。「親子上場」に関するくだりを見ていこう。
厦門園(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

【FACTAの記事】

そもそもKNTは悪名高き「親子上場」の典型例。会長職は現役の近鉄グループホールディングス会長の小林哲也が兼任、社長職も代々天下りだ。近鉄はKNT株式の約65%を保有する筆頭株主で、企業年金や他のグループ企業を含めると、7割以上を握っている。

「親子上場」問題の本質は、少数株主権の侵害にある。少数株主からも資本を得ているのに、大株主である親会社が間接的に放漫経営できるからだ。近鉄グループの大罪は、現預金が豊富なKNTを親会社の貯金箱扱いし、IT投資を遅らせてネット系代理店に個人客を奪われた。

「販売チャネルが変わったのに、営業部隊は理解できていなかった」とIR説明会で丸山社長は自社の社員を批判したそうだが、「親子上場」のままで、子会社が自主経営できるわけがない。「丸山失言」の裏側にあるのは、「少数株主に資金を還元させない」という親会社、近鉄のエゴではないか。KNTさん、上場やめたら?


◎「少数株主権の侵害」がある?

「『親子上場』問題の本質は、少数株主権の侵害にある」という主張が理解に苦しむ。

少数株主権」とは「一人または複数の株主の持株数を合算して、発行済株式総数の一定割合または一定数以上の株式を保有することを要件として行使できる株主権。多数派株主の専横を制し、少数株主の利益を保護するために認められている。株主総会招集請求権、取締役・監査役・清算人の解任請求権、会計帳簿閲覧権など」(デジタル大辞泉)という意味だ。

親子上場」だからと言って、親会社が子会社の少数株主権を合法的に「侵害」できるだろうか。「大株主である親会社が間接的に放漫経営できる」との主張に異論はないが、「少数株主権が侵害されているかどうか」とは別問題だ。

親子上場」だという情報開示がきちんとできているとの条件付きで、「親子上場」はありだと思える。親会社の都合で子会社の経営が振り回されるリスクはもちろんある。それを好ましくないと投資家が感じれば、株価はその分低くなるはずだ。そこに割安感を見出す投資家もいるかもしれない。後はそれぞれの判断でいいではないか。

付け加えると「『販売チャネルが変わったのに、営業部隊は理解できていなかった』とIR説明会で丸山社長は自社の社員を批判したそうだが、『親子上場』のままで、子会社が自主経営できるわけがない」とのくだりは意味不明な感じがする。

販売チャネルが変わったのに、営業部隊は理解できていなかった」ことと「自主経営」に何の関係があるのか謎だ。「自主経営」でなければ「営業部隊」は「販売チャネルが変わった」ことを理解できないとの前提が筆者にはあるのだろう。自分の読解力不足なのかもしれないが、どうしてそうなるのか分からない。

『親子上場』のままで、子会社が自主経営できるわけがない」との説明にも同意できない。「自主経営」をどう定義するかにもよるが、親会社の経営への関与が弱ければ「自主経営」は可能ではないか。


※今回取り上げた記事「FACTA銘柄 Sin-Bin Box KNT-CT (東証1部)『親子上場』の罪深き天下り社長失言
https://facta.co.jp/article/201807029.html


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事には他にも問題を感じた。それらについては以下の投稿を参照してほしい。

「KNTはネット・ネット」の説明が怪しいFACTAの記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta_25.html


※「親子上場」に関しては以下の投稿でも論じている。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

日経 記事を重複掲載 「延岡学園バスケ部」スポーツ面・社会面に

九州・沖縄に限った話だが、24日の日本経済新聞朝刊にはほぼ同じ内容の記事が2本載っている。害はないものの、ミスには違いない。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

24日朝刊での記事の重複についてお尋ねします。スポーツ1面の「バスケ高校総体、延岡学園が辞退 留学生が審判殴打」と、社会面(九州・沖縄)の「審判員殴打で全国大会辞退 延岡学園バスケ部監督解任」はほぼ同じ内容です。ちなみに社会面の見出しは電子版のものです。西部13版では「選手が審判殴打、監督解任 延岡学園バスケ部」となっています。

最初の段落はそれぞれ以下のようになっています。

全九州高校体育大会の男子バスケットボールの試合中、延岡学園高(宮崎県延岡市)の留学生選手が審判を殴打した問題で、同校は23日、今夏に愛知県で行われる全国高校総体への出場を辞退すると発表した。指導責任があるとして監督を解任し、併せて停職処分とした」(スポーツ1面)

バスケットボールの全九州高校大会で留学生の男子選手が審判員を殴打した問題で、延岡学園高(宮崎県延岡市)は23日、8月に愛知県で開かれる全国高校総合体育大会(インターハイ)への出場を辞退すると発表した。指導責任があるとしてバスケ部の川添裕司監督を解任し、職員としても停職処分とした」(社会面)

社会面では共同通信の記事を使っています。スポーツ1面もその可能性が高そうです。だから記事内容がほぼ同じなのでしょう。表現が微妙に異なるのは、共同による直しを反映させたかどうかの違いだと推測しています。

今回の件は、九州・沖縄の社会面を作っていた側(大阪紙面編集部と大阪社会部でしょうか)に責任があるはずです。全国共通のスポーツ1面を作っている側(東京の運動部と整理部)に、高校バスケの話が九州・沖縄の社会面に載るかどうかを確認する必要はありません。スポーツ関連記事を九州・沖縄限定の紙面に載せるのですから、社会面を作る側がスポーツ面との重複を避ける義務を負うはずです。

記事の重複は新聞製作上のミスと考えてよいのでしょうか。あえて重複させたのであれば、理由を教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事

バスケ高校総体、延岡学園が辞退 留学生が審判殴打
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180624&ng=DGKKZO32169660T20C18A6UU1000

審判員殴打で全国大会辞退 延岡学園バスケ部監督解任
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32165880T20C18A6ACYZ00/


※記事への評価は見送る。 

2018年6月23日土曜日

バランス型投信を薦める北沢千秋QUICK資産運用研究所長の罪

「投資初心者は北沢千秋QUICK資産運用研究所長の言うことを信じるな」と訴えてきた。23日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「退職世代の資産延命術 投信『引き出し』に工夫」という記事も、やはり信じてはいけない内容になっている。特に「バランス型の投資信託」を薦めているのがダメだ。記事では以下のように書いている。
鯨瀬ターミナルビル(長崎県佐世保市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

では退職世代の運用はどうあるべきか。65歳で2000万円の金融資産を持つケースでは、年率3%で運用できれば、88歳まで年間120万円の取り崩しが可能になる。年率5%なら資産寿命は99歳まで延びる。

ただし、3~5%のリターンを債券など相対的にリスクが低い資産で実現するのは難しく、株式などへの投資が必要になる。一方、株式だけの運用ではリスクが高すぎるため、資産の分散が欠かせない。

自分で資産分散するのが難しいなら、複数資産で運用するバランス型の投資信託を選ぶのが現実的だ

表Aでは、過去の運用実績が相対的に安定していたバランス型投信の例をリスク水準別に掲げた。リスクの高低差は主に株式の組み入れ比率の違いで生じる。どれを選ぶかは個々人のリスク許容度や期待リターンなどで異なってくる。


◎なぜ投信の中で「分散」?

65歳で2000万円の金融資産を持つケース」で全額を「株式だけの運用」に回すのは「リスクが高すぎる」のは分かる。だが、なぜそこで「自分で資産分散するのが難しいなら、複数資産で運用するバランス型の投資信託を選ぶのが現実的だ」となるのか。

例えば、株式などリスク資産の比率を2割にするならば、400万円で株価指数連動型のETFなどを買えば済む。残りは定期預金でも個人向け国債でもいい。これで「資産分散」は十分だ。難しい話ではない。

「リスク資産の比率をどうするか決められない人にはバランス型投信が有力な選択肢だ」と北沢所長は反論するかもしれない。だが、バランス型投信を選ぶ以上、その投資家は自分でリスク資産の比率をほぼ決めていることになる。

2000万円のうち、バランス型にどの程度を振り向けるのか。バランス型では株式などリスク資産の比率が高いものを選ぶのか、低いものにするのか。そうした選択を結局はするのだから、投信の中で「バランス」を取る必要はない。

バランス型がダメなのは、余計なコストがかかるからだ。北沢所長が低リスクのバランス型投信として表に載せた「三井住友・DC年金バランス30」は国内債券に55%を振り向けるようだ。日本国債の利回りほぼゼロという状況で、実質信託報酬0.24%は国内債券分にもかかってくる。

国内債券分を国債で運用すれば、コストを含めるとリターンはマイナスだろう。社債などで少しはカバーできるかもしれないが、0.24%の信託報酬をわざわざ支払う価値はない。

さらに、北沢所長が「退職世代を意識して作られたファンド」として紹介した3つの投信の実質信託報酬は1.34%、1%、1.94%。長くなるので詳しい説明は省くが、信託報酬が1%以上あるような投信は、それだけで論外だ。この表からも、北沢所長が読者(投資家)側に立っていないのが分かる。


※今回取り上げた記事「退職世代の資産延命術 投信『引き出し』に工夫
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180623&ng=DGKKZO32108430S8A620C1PPE000


※記事の評価はD(問題あり)。北沢千秋QUICK資産運用研究所長への評価もDを据え置く。北沢所長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 北沢千秋編集委員への助言(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_30.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_11.html

日経 北沢千秋編集委員への助言(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_38.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_62.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_15.html

説明下手が過ぎる 日経 北沢千秋編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_1.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_81.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_17.html

日経 北沢千秋編集委員「一目均衡」での奇妙な解説(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_18.html

生存者バイアス無視の日経「定説覆す?アクティブ投信」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_23.html

参考にするな! 北沢千秋QUICK資産運用研究所長の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_46.html

北沢千秋QUICK資産運用研究所長を疑え(1)積み立て投資
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/quick.html

北沢千秋QUICK資産運用研究所長を疑え(2)資産の分散
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/quick_10.html

2018年6月22日金曜日

着地が見事な日経1面「エネルギー 日本の選択」

「囲み記事では、結論部分に説得力を持たせることを第一に構成を考えるべきだ」と訴え続けてきた。そうでないと取って付けたような結びになってしまうからだ。日本経済新聞朝刊の1面連載(特に正月企画)の多くがそうだったように…。しかし、22日の「エネルギー 日本の選択(5)電力自由化なお未完 送電網に既得権の壁」という記事は違っていた。体操で言えば、着地がピタッと決まった感じだ。
ハンググライダー発進基地(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

最後の段落を見てみよう。

【日経の記事】

中国は習近平政権の旗振りで太陽光発電の容量が17年までの5年で36倍に増えた。サウジアラビアは潤沢なオイルマネーで再生エネの導入に動く。米国はシェールガスの活用でエネルギー価格の低下と温暖化ガスの排出削減を両立させている。日本には強権も、資金も、資源もないが、健全な競争の徹底という選択肢はある



◎結びが美しい

日本には強権も、資金も、資源もないが、健全な競争の徹底という選択肢はある」という結びには美しさを感じる。上手さももちろんあるが「記事を通してこのことを訴えたかった」という思いが伝わってくるのが良い。そして、この結論に導くための構成にもしっかりなっている。

記事の最後には「竹下敦宣、西岡貴司、小倉健太郎、竹内康雄、塙和也、飯山順、深尾幸生、辻隆史が担当しました」と出ていた。企画を担当した8人に敬意を表したい。


※今回取り上げた記事
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180622&ng=DGKKZO32073330R20C18A6MM8000


※特集全体の評価はB(優れている)。連載の責任者を竹下敦宣氏だと推定して、同氏への評価を暫定でBとする。

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏

FACTAは元日本経済新聞編集委員であるジャーナリストの大西康之氏がお気に入りのようだ。7月号でも記事を任せている。だが、どう考えても問題の多い書き手にしか見えない。7月号の「就活生がソッポを向く『経団連企業』」という記事では「まともに事実確認をしていないのでは?」と思える記述が目立つ。FACTAには、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

7月号の「就活生がソッポを向く『経団連企業』」という記事についてお尋ねします。記事では最初の段落で以下のように記しています。

日立製作所会長の中西宏明が5月31日、経団連会長に就任した。翌日の6月1日は経団連が定める就職活動の『解禁日』。しかし調査会社のデータによると1カ月前の5月1日時点で4割強の学生が『内定』を得ていた。学生たちの行き先は外資系やベンチャー。つまり就職協定に縛られない『非経団連企業』だ。キヤノン会長の御手洗冨士夫が会長になった2006年以降、経団連の影響力低下は目を覆わんばかりだが、ついに学生たちにもソッポを向かれた

この後、「グーグルの日本オフィス」の恵まれた環境を紹介した後で大西様は以下のように解説します。

経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円。理系の優秀な人材は軒並みグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった米IT大手がさらっていく。株式時価総額で米国勢を追撃するテンセント、アリババといった中国IT大手も日本でインターンシップを始めており、こちらを目指す学生もいる

まず「外資系やベンチャー非経団連企業」という認識は正しいのでしょうか。経団連の2018年4月1日時点の企業会員一覧を見ると、グーグルの日本法人であるグーグル合同会社が入っています。他にも、ゴールドマンサックス証券、GEジャパン、JPモルガン証券、ドイツ証券、日本ヒューレット・パッカードなど「外資系」と思える企業名が多く並んでいます。ここで1つ目の質問です。

(1)「外資系」を「就職協定に縛られない『非経団連企業』」とする説明は誤りではありませんか。記事では、グーグル合同会社を「外資系の非経団連企業」として扱っていますが、事実に反すると思えます。


次に移りましょう。記事ではグーグル合同会社に関して「20代、30代が大半に見える彼らの平均年収が1260万円(「平均年収.JP」)」と記した上で「経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円。理系の優秀な人材は軒並みグーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった米IT大手がさらっていく」と解説しています。

この説明からは、グーグルに新卒で入った人の収入は500万円を大きく上回ると判断できます。ですが、既に見てきたようにグーグル合同会社は「経団連加盟企業」です。また、常識的に考えてボストンコンサルティンググループ、ゴールドマンサックス証券などの「経団連加盟企業」では、入社1年目の年収が500万円を超えそうです。ここで2つ目の質問です。

(2)「経団連加盟企業が『うちは名門』と頑張っても、初任給500万円」との説明は誤りではありませんか。新卒でも年収500万円以上を狙える「経団連加盟企業」は何社もあるはずです。

次は以下のくだりについてです。

優秀な学生の間で、米中IT大手の次に人気なのが、日本のベンチャーである。日立製作所から内定をもらった、ある理系の東大生は『本命はソフトバンク』と語った。ソフトバンクは15年から1年を通じていつでも応募を受け付ける『通年採用』を導入した。その結果、従来、日立、東芝といった経団連銘柄の電機大手に流れていたAI(人工知能)などに興味を持つ人材が、ソフトバンクを選ぶようになった

ここでは再び「外資系やベンチャー非経団連企業」との認識が正しいのかとの問題に戻ります。「外資系」については既に論じました。ここでは「ベンチャー」に絞って考えましょう。大西様が取り上げた「ベンチャー」はソフトバンク(記事で言うソフトバンクとはソフトバンクグループを指すとの前提で話を進めます)です。「歴史もそこそこ長く大企業でもあるソフトバンクをベンチャーと言えのるか」との疑問は残りますが、ここでは論じません。問題はソフトバンクが「非経団連企業」かどうかです。会員企業一覧にはソフトバンクグループの名前が載っています。最後に3つ目の質問です。

(3)「ベンチャー」を「就職協定に縛られない『非経団連企業』」とする説明は誤りではありませんか。記事では、ソフトバンクを「日本のベンチャー」の1社として紹介していますが、同社は「経団連企業」でもあるはずです。

付け加えると、ソフトバンクが「通年採用」を導入したために「従来、日立、東芝といった経団連銘柄の電機大手に流れていたAI(人工知能)などに興味を持つ人材が、ソフトバンクを選ぶようになった」との説明も理解に苦しみました。
佐世保駅(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

AI(人工知能)などに興味を持つ人材」にとってソフトバンクが魅力的な企業であれば、通年採用であろうがなかろうが、ソフトバンクを選ぶのではありませんか。なぜ「通年採用」が決め手になるのか、記事からは判断できません。

質問は以上です。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして、責任ある行動を心掛けてください。

また、以前に「東芝」に関するお願いをしましたが、全く実現していないので改めて同じ内容で送っておきます。


<お願い>

せっかくの機会ですので、別件で要望を出しておきます。大西様はFACTA2017年7月号に載った「時間切れ『東芝倒産』」という記事の最後で「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定しました。

現状では「経営破綻」の可能性は非常に低くなっていると思えます。17年7月号での分析に問題はなかったのか改めてFACTAで取り上げてもらえませんか。もちろん「東芝の経営破綻は近い」との見方でも構いません。仮に「もはや行き着く先は決まっている。東芝の経営破綻だ」と断定したのは間違いだったと感じているのならば、どこで間違えたのかを振り返ってください。

間違いだったとしても「東芝は経営破綻する」と断定したことを責めるつもりはありません。思い切ってリスクを取った点をむしろ評価したいくらいです。しかし、行き着く先は「東芝の経営破綻だ」と言い切ったからには、この問題をしっかり総括してほしいのです。FACTAの編集に責任を持つ皆様にも、この件を考えていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「就活生がソッポを向く『経団連企業』
https://facta.co.jp/article/201807035.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

2018年6月21日木曜日

最低賃金「主要国に見劣り」と強引に導く日経の記事

経済記事ではデータの扱いが重要だ。恣意的な使い方に見えると、記事に説得力がなくなってしまう。21日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「最低賃金、3年連続20円超上げへ 主要国になお見劣り」という記事では、「主要国になお見劣り」に関するデータの見せ方に問題を感じた。
九州鉄道記念館(北九州市)※写真と本文は無関係です

まずは当該部分を見ていこう。

【日経の記事】

日本の最低賃金は主要国に比べてなお見劣りしている。労働政策研究・研修機構によるとフランスは9.88ユーロ(約1260円)、ドイツは8.84ユーロ(約1130円)。米国は連邦基準で7.25ドル(約800円)だが、多くの州がこれを上回る水準に設定している。直近の引き上げ率も日本を上回る国が目立つ。

◇   ◇   ◇

記事には「主要国の引き上げ率は日本を上回る」というタイトルの表が付いていて、米ニューヨーク州(最低賃金1144円)、ドイツ(1126円)、韓国(749円)、中国・北京(374円)、日本(848円)を比較している。記事の記述と併せて、気になる点を列挙していく。

疑問その1~主要国の基準は?

記事では「主要国」の基準を示していない。米国、ドイツ、フランス、中国、韓国を「主要国」と扱っているが、基準は謎だ。G7でもOECD加盟国でもない。何を以って「主要国」と言っているかは明示した方がいい。でないと、ご都合主義的に比較対象を選んでいるように見える。


疑問その2~「見劣り」してる?

今回「主要国」とした米国、ドイツ、フランス、中国、韓国と比べると、日本は厳しく見ても6カ国中の4位だ。米国を上回り3位とも言える(この問題は後で触れる)。あまり「見劣り」している感じはない。本来ならば表に「主要国の最低賃金は日本を上回る」と入れたかったのだろう。だが、そうはなっていないので「引き上げ率」で逃げたのだと推測できる。


疑問その3~なぜ「国」で比べない?

日本の「848円」を米ニューヨーク州の「1144円」と比べるのは感心しない。どうしてもニューヨーク州と比較したいのならば、日本も「日本・東京958円」などとすべきだ。「米国は連邦基準で7.25ドル(約800円)」という数字をそのまま表に入れると、「主要国になお見劣り」がさらに怪しくなるので、頑張って“工夫”したのだろう。

記事に説得力を持たせたいのならば、こうした“工夫”は避けた方がいい。


※今回取り上げた記事「最低賃金、3年連続20円超上げへ 主要国になお見劣り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180621&ng=DGKKZO32012960Q8A620C1EA2000

※記事の評価はC(平均的)。

2018年6月20日水曜日

肝心の情報がない日経「住友ゴム、SUV用タイヤ増産」

20日の日本経済新聞朝刊企業2面に載った「住友ゴム、SUV用タイヤ増産 タイと米で230億円」という記事では、必須情報が抜けている。 見出しのような内容ならば「タイと米で」合わせてどの程度の増産になるのかは必ず入れるべきだ。結果として「住友ゴム」全体で「SUV用タイヤ」の生産規模がどうなるのかも欲しい。しかし、今回の記事では、それらが見えない。
流川桜並木と人力車(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

記事の前半では以下のように説明している。

【日経の記事】

住友ゴム工業は2019年までに主力のタイ工場(ラヨーン県)や米バッファロー工場(ニューヨーク州)で、多目的スポーツ車(SUV)用タイヤを増産する。投資額は計230億円程度で、米国市場の新車用と交換用に納める。

タイでは約150億円を投じ、20インチ以上の大口径タイヤを製造する。21年ごろまでに、SUV向けタイヤの生産比率を現在の4割から5割以上に引き上げる。製造したタイヤは北米に輸出する。

米工場では70億~80億円を投資し、SUVタイヤの生産設備を導入する。米国では20年に、日産能力が1万5千本程度となり現在の約3倍に増える見込み


◎タイではどの程度の「増産」?

米国では20年に、日産能力が1万5千本程度となり現在の約3倍に増える見込み」と書いているので、米国の増産規模は分かる。問題はタイだ。「21年ごろまでに、SUV向けタイヤの生産比率を現在の4割から5割以上に引き上げる」と言われても、どの程度の増産なのか判断できない。

米国の増産計画を教えてくれるのだから、住友ゴムがタイの情報を明らかにしないとは考えにくい。仮にそうした事情があるのならば、記事中で触れるべきだ。

その上で、住友ゴム全体での「SUV用タイヤ」の生産規模がどうなるのかを説明すべきだ。「SUV用タイヤ」を製造しているのが「タイ工場」と「米バッファロー工場」だけで、2工場合わせて生産規模が3倍になるのならば、ニュース価値はかなりありそうだ。

だが、他にも多くの工場で造っていて、住友ゴム全体で見ればわずかな増産にとどまるのであれば、ニュース価値は低くなる。その辺りを判断できるような材料を記事に盛り込むのが記者の仕事だ。今回の記事ではそれができていない。日経(特に企業報道部)では珍しくないが…

記事の後半にも注文を付けておこう。

【日経の記事】

住友ゴムは2月に発表した中期経営計画で、22年12月期に営業利益に占める海外部門の割合について、17年12月期に比べて約30ポイント増の70%以上に引き上げる目標を掲げており、好調なSUVに経営資源を集中させる

調査会社マークラインズによると、米国のSUVを含むライトトラックの18年1~3月期の新車販売台数は前年同期比10%増となった。


◎「SUVに経営資源を集中」?

好調なSUVに経営資源を集中させる」という話は本当なのか。住友ゴムの「2022年に向けた新中期計画の取組み」を見ると「農機用タイヤのアジア展開」「ヘルスケアビジネスの展開」「ゴルフクラブ・ボールの飛距離革新」「医療用精密ゴム部品のグローバル展開を加速」などと、「SUV用タイヤ」以外の話が色々と出ている。発表資料からは「SUVに経営資源を集中させる」方針とは思えなかった。


※今回取り上げた記事「住友ゴム、SUV用タイヤ増産 タイと米で230億円
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180620&ng=DGKKZO31960940Z10C18A6TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)。今回と同様の問題を抱えた日経の記事については、以下の投稿を参照してほしい。

必須情報が抜けた日経「住宅ローン金利、みずほ引き下げ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/02/blog-post_19.html

「シャトレーゼ」「三越伊勢丹」…日経のベタ記事に感じる問題
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/03/blog-post_10.html

これが「クオリティー追求」の結果? 日経 企業ニュースの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/03/blog-post_11.html

「無印」小型店 今後の出店数抜きに「出店加速」と書く日経
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_26.html

必須情報が抜けた日経「武田、アリナミン錠剤の生産倍増」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_28.html

掲載に値しない 日経「シチズン時計、米物流拠点を強化」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_97.html

キヤノン、栄研化学…基礎力を欠いた日経の企業関連記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_23.html

基本情報が欠けた日経「三菱地所、欧州で事業拡大」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_84.html

日経の悪癖「When抜き」が出た「カンロ、グミの生産能力2倍」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/when.html

必須情報が抜けた日経「ニッセイアセット投信手数料、最低水準に」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_96.html

必須情報が抜け過ぎの日経「三井造船、港湾クレーン増産」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_12.html

記事に欠陥あり 日経「スシロー、すし居酒屋100店体制へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/100.html

必須情報が抜けた日経「 日立金属、特殊鋼の生産能力増強」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_6.html

2018年6月19日火曜日

日経「あすへの話題」での自慢話が怪しい松本晃カルビー会長

カルビー会長兼CEOの松本晃氏が日本経済新聞夕刊1面のコラム「あすへの話題」に書く内容は何かと問題が多い。18日の「しくみを変える、悪しき文化を壊す」でも色々とおかしなことを書いていた。順に指摘していく。
原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

「しくみを変え、悪しき文化をぶっ壊せ」とムキになって、力ずくで闘ってきた。

戦後の日本はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで高度成長を遂げた。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」なんていわれた。しかし、それも今となっては久しい昔のことだ。

1989年11月、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊した。そして、世界の秩序が変わった途端、日本の成長神話は藻(も)屑(くず)のように消え去った


◎高度成長は89年まで続いた?

上記のくだりからは「1989年11月、東西冷戦の象徴だったベルリンの壁が崩壊した」のとほぼ同じ時期に「高度成長」が終わったと解釈できる。しかし、「高度成長」とは「1950年代半ばから73年の石油ショックまでの間、日本の経済成長率が年平均10パーセントを超えていたことをいう」(大辞林)のが一般的だ。松本氏は「バブル崩壊=高度成長の終焉」と誤解している可能性が高い。

ちなみに「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は1979年の発売なので、高度成長期とはややズレがある。許容範囲内だとは思うが…。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

戦後の高度成長を支えた「しくみ」は単純ながら確かに上手にできていた。工業製品の規格大量生産を支える終身雇用制、年功序列、企業内組合、厚い残業手当等々……。実に良くできた制度・しくみだった。



◎「厚い残業手当」が高度成長を支えた?

終身雇用制、年功序列、企業内組合」が「戦後の高度成長を支えた」という説明は理解できるが、「厚い残業手当」が謎だ。「厚い残業手当」が高度成長を支えたのならば、なぜサービス残業が日本に根付いたのかとの疑問も残る。

記事ではこの後に松本氏の自慢話が続く。「自慢はダメ」とは言わないが、ツッコミどころが多いのは困る。

【日経の記事】

しかし、今やその多くが使い物にならなくなってしまった

また、組織には時が経つにつれて悪しき文化が蔓延(はびこ)る。これは組織というものの持つ避け難い本質だ。故に、これはぶっ潰すしか解決の方法はない

複雑化したしくみを簡素化し、社内を徹底的に透明化してきた。権限委譲を大胆に断行した。コーポレート・ガバナンスもコストリダクションも抵抗勢力に敗(ま)けなかった。オフィス改革を進め、給与体系や昇進・昇格制度も抜本的に変えた。人材育成の制度を創った。さらにはダイバーシティは今や日本一といわれるようになり、並行して働き方改革も躊躇(ちゅうちょ)なく進めた。全ては会社が21世紀の世界で戦えて成長するためだった。

こんなことをやっているとやはり嫌われる。だからという訳でもないが、ここらあたりが潮時と感じ20日をもって卒業する。

「皆さん、大変お騒がせしました。そして、ありがとう!」


◎本当に「ぶっ潰した」?

終身雇用制、年功序列、企業内組合、厚い残業手当」といった仕組みの「多くが使い物にならなくなってしまった」と書いた上で「ぶっ潰すしか解決の方法はない」と松本氏は言い切っている。だとしたら「終身雇用制、年功序列、企業内組合、厚い残業手当」といった制度の多くを松本氏はカルビーでぶっ潰したはずだ。しかし、どうも怪しい。
ハンググライダー発進基地(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です

複雑化したしくみを簡素化し、社内を徹底的に透明化してきた。権限委譲を大胆に断行した」などと自慢はするが、具体的にどう変えたのかには触れていない。

コーポレート・ガバナンスもコストリダクションも抵抗勢力に敗(ま)けなかった。オフィス改革を進め、給与体系や昇進・昇格制度も抜本的に変えた。人材育成の制度を創った」とさらに具体性に欠ける話が続く。これでは「終身雇用制、年功序列、企業内組合、厚い残業手当」をぶっ潰したかどうか判断できない。

例えば「従業員はすべて非正規とした。入社1年目でも10年目でも成果反映部分以外で給与の差がない制度に改めた。企業内組合は解散させた。残業は完全に禁止とし、残業手当の支給額はゼロになった」などと書いていれば「ぶっ潰したんだな」と納得できる。だが、そうは書いていない。

ダイバーシティは今や日本一といわれるようになり、並行して働き方改革も躊躇(ちゅうちょ)なく進めた」と自慢話は最後まで具体的にならない。さらに言えば、「日本一」と認定されたのならともかく、「日本一といわれるようになり」といった程度で自慢をしてしまうのはやめた方がいい。単なる自慢好きの経営者にしか見えなくなる。

ついでに言うと「コストリダクション」という言葉も引っかかる。単なる「費用削減」も「コストリダクション」と書くと、立派なことのように響くから不思議だ。この辺りが松本氏の上手さなのかもしれない。


※今回取り上げた記事「あすへの話題しくみを変える、悪しき文化を壊す
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180618&ng=DGKKZO31594520R10C18A6MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。松本氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

松本晃カルビー会長の見識を疑いたくなる日経「あすへの話題」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/blog-post_20.html

日経「あすへの話題」に見える松本晃カルビー会長の思い込み
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_46.html

2018年6月18日月曜日

「貿易赤字の解消」で正解?東洋経済 西村豪太編集長に問う

週刊東洋経済が当然のように間違い指摘を無視している元凶は西村豪太編集長にあると見ている。しかし、西村編集長への評価が低い理由はそれだけではない。書き手としても問題ありだ。6月23日号の「Hot Issue 核心を聞く~日本国際問題研究所 客員研究員 津上俊哉 中国への警戒感強まり米中経済関係は緊張化へ」という記事では、自ら聞き手となっていた。書いたのも西村編集長だと推定し、以下の内容で問い合わせを送ってみた。
城戸南蔵院前駅(福岡県篠栗町)
       ※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済編集長 西村豪太様

6月23日号の「Hot Issue 核心を聞く~日本国際問題研究所 客員研究員 津上俊哉 中国への警戒感強まり米中経済関係は緊張化へ」というインタビュー記事についてお尋ねします。「記事内容に関しては聞き手である編集長の西村様が全ての責任を負っている」との前提で話を進めます。

<質問その1>

記事の最初に「米中間の経済摩擦が激しくなっている。米国は中国を念頭に鉄鋼やアルミ製品に高関税を課すと発表、中国に対し貿易赤字の解消を求めている」と西村様は書いています。米国は本当に「中国に対し貿易赤字の解消を求めている」でしょうか。

例えば、産経新聞は5月19日付に「怯える習政権…トランプ政権が2000億ドル貿易黒字削減を要求」という記事を出しています。朝日新聞も同日付で「米中協議、中国が輸入拡大示す 貿易黒字削減には難色か」と報じています。

西村様の説明には2つの問題があります。まず「貿易赤字」に関しては、産経・朝日の記事のように「貿易黒字」とすべきです。どうしても「貿易赤字」を使いたいならば「米国の対中貿易赤字」でしょうが、「解消」する主体は中国なので「貿易黒字」あるいは「対米貿易黒字」が適切だと思えます。

もう1つは「解消」です。産経・朝日の記事からも分かるように、米国が中国に求めているのは対米貿易黒字の「削減」です。「解消」ではありません。今回の記事の中でも、「米国が中国に求めていた貿易赤字削減」(こちらも「貿易黒字削減」とはすべきです)」と津上氏は述べていますが、「解消」とはなっていません。

「(米国が)中国に対し貿易赤字の解消を求めている」との説明は2つの意味で誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済誌の編集長として責任ある行動を心掛けてください。

付け加えると「中国や東アジアの通商関係に詳しい津上俊哉氏に聞いた」と書くと、「中国は東アジアには属していない」とのニュアンスが出てしまいます。「中国をはじめ東アジアの~」などとすれば問題は解消します。


<質問その2>

次は以下のくだりを取り上げます。

ZTEが制裁されるのは自業自得だが、部品を納入していた日米韓台の企業まで取引途絶で『とばっちり』を受ける。これは株式市場が最も嫌う予測不能なリスクだ。こうした制裁が一般化すると、IT業種の株価にはリスクプレミアムが乗せられるようになるのではないか

IT業種の株価にはリスクプレミアムが乗せられるようになる」と書くと、「リスクプレミアム」の分だけ「株価」が高くなると取れます。しかし、当然ながら「リスクプレミアム」の上昇は株価の下落要因です。実際に津上氏が「IT業種の株価にはリスクプレミアムが乗せられるようになる」と発言したとしても、そのまま記事にしてよいのでしょうか。

問い合わせは以上です。「読者の間違い指摘なんて無視できるものは無視してしまえ」という西村様の意思は固いのでしょう。ただ、それが購読料を得ているメディアの対応として好ましくないのも疑う余地はありません。「読者からの間違い指摘を無視し続けた編集長」として東洋経済の歴史に名を刻むのが西村様にとっての天命なのか、この機会にもう一度考えてみてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「Hot Issue 核心を聞く~日本国際問題研究所 客員研究員 津上俊哉 中国への警戒感強まり米中経済関係は緊張化へ
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2018062300/DCL0101000201806230020180623TKW002/20180623TKW002/backContentsTop

※記事の評価はD(問題あり)。西村豪太編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西村編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

道を踏み外した東洋経済 西村豪太編集長代理へ贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_4.html

「過ちて改めざる」東洋経済の西村豪太新編集長への手紙
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_4.html

訂正記事を訂正できるか 東洋経済 西村豪太編集長に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_25.html

「巨大地震で円暴落」?東洋経済 西村豪太編集長のウブさ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_19.html

金融庁批判の資格なし 東洋経済の西村豪太編集長
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_19.html

東洋経済 山田雄一郎記者「社外取締役のお寒い実態」に高評価

着眼点が良い上に健全な批判精神があり、取材もきちんとしている。週刊東洋経済6月23日号の「深層リポート~社外取締役のお寒い実態 社外取締役のお寒い実態 なり手不足と低い出席率」という記事を書いた山田雄一郎記者を高く評価したい。特に「稲盛和夫氏」の出席率の低さを伝えた点は、同氏の意外な一面が分かって興味深かった。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

そのくだりを見ておこう。

【東洋経済の記事】

本誌調査では、取締役会出席率が75%未満の社外取締役は121人いる(61ページ表)。ワーストは沖縄セルラー電話の社外取締役である稲盛和夫氏だ。過去1年間の出席率はゼロ%。同社は欠席理由を「やむをえない事情」として具体的な説明を避けた。「出席ゼロでは、社外取締役の存在する意味がない」(ISSの石田猛行代表)。

稲盛氏は1991年から沖縄セルラーの取締役を務めている。取締役会への出席率がわかる2008年以降で見ると、最も高くても20%(年5回の取締役会のうち出席1回)。ゼロ%の年もあったが、再任され続けてきた。

沖縄セルラーの担当者は「稲盛氏には電話や訪問で議事内容を説明し、アドバイスをいただいている」と説明する。だが「取締役会で議論を交わさないのならば、社外取締役ではなくアドバイザーで十分」(牛島氏)だ。稲盛氏に対する役員報酬がゼロだからといって「責任が減るわけではない」(同)。

沖縄セルラーは、稲盛氏の創業した第二電電(現KDDI)が全国展開のために設立した携帯電話会社8社中の1社。「沖縄の方々から『稲盛さんには何としても役員でいてほしい』と懇願されるものですから、『元気な間くらいは』と思い、給料はいっさいもらっていないのですが、今も取締役相談役を務めております」。稲盛氏は11年6月、沖縄で開催された同社創立20周年講演でこう語っている。

稲盛氏は社外取締役だが、自ら出資するなど設立当事者だったことから社外という意識は薄いとみられる。また、出席率が低くても、沖縄の人からの懇願があるから引き受けたという感覚も強そうだ。

名経営者として知られる稲盛氏を序列1位の取締役に仰ぐことは、役職員のモチベーションを高める効果があったのかもしれない。だが、「取締役会への出席は最低限中の最低限の義務」(上野氏)だ。稲盛氏がそれを果たさなかったことに変わりはない

稲盛氏は6月下旬の株主総会をもって27年務めてきた同社取締役を退任する。同社は理由を「本人の意向」とするのみで、出席率の低さとの関係は不明だ。



稲盛氏批判に十分な説得力

上記のくだりに関して注文はない。「稲盛氏がそれ(最低限中の最低限の義務)を果たさなかったことに変わりはない」との批判には十分な説得力がある。この後も、稲盛氏の次に出席率が低い「衆議院議員の古川元久氏」や、3番目に出席率が低い「ヤクルト本社のB・オースレイ氏」をしっかりと取り上げている。

今回の記事で唯一引っ掛かりがあったのが「早稲田大学の元総長で白鴎大学学長の奥島孝康氏」に関するくだりだ。そこを見ていこう。

【東洋経済の記事】

早稲田大学の元総長で白鴎大学学長の奥島孝康氏は、福井県に本社がある合成樹脂大手・フクビ化学工業の社外取締役をしているが、3分の1しか出席していない。

取締役会が集中した頃に救急車に運ばれて1カ月間入院した。退院後も再び救急車を呼ぶほどで、体調がよくなかった。飛行機への搭乗はドクターストップがかかっていた」と奥島氏は説明する。

だが、奥島氏はフジ・メディア・ホールディングスの社外監査役も兼務している。同期間、フジの取締役会には11回中10回、監査役会に7回中6回出席している。「フジの本社は東京・お台場で自宅から近く、社用車での送迎もあるので体調不良でも出席できた」(奥島氏)。そもそもなぜ福井県にあるフクビの社外取締役を引き受けたのか。「(八木誠一郎)社長は早稲田(大学大学院)の出身で、親の代からの付き合いだから」(奥島氏)。6月14日の株主総会で奥島氏は再任された。



◎もう少しツッコんでも…

取締役会が集中した頃に救急車に運ばれて1カ月間入院した。退院後も再び救急車を呼ぶほどで、体調がよくなかった。飛行機への搭乗はドクターストップがかかっていた」という「奥島孝康氏」の弁明が気になる。
長崎県立島原高校(島原市)※写真と本文は無関係です

1カ月」ぐらいの間に「取締役会が集中」するのが解せない。あり得ないとは言わないが、ちょっと考えにくい。さらに言えば「飛行機への搭乗はドクターストップがかかっていた」のであれば、福井まで鉄道で行けば済む。奥島氏の弁明がかなり苦しいのは、山田記者も分かっているようだ。記事からも伝わってくる感じはあるが、もっと奥島氏にツッコミを入れて、その結果を記事に反映させてほしかった。

とはいえ、この辺りは好みの問題に過ぎない。結局、褒めるところはあっても明確にダメだと言える部分はない。


※今回取り上げた記事「深層リポート~社外取締役のお寒い実態 社外取締役のお寒い実態 なり手不足と低い出席率
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2018062300/DCL0101000201806230020180623TKW025/20180623TKW025/backContentsTop


※記事の評価はB(優れている)。山田雄一郎記者への評価はBで確定とする。山田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_19.html

東洋経済「保険に騙されるな」業界への批判的姿勢を評価
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_15.html

2018年6月17日日曜日

基本的な技術が欠けた週刊ダイヤモンド相馬留美記者

週刊ダイヤモンドの相馬留美記者は経済記事の書き手として基本的な技術が身に付いていない--。6月23日号の「Inside~女性用スーツの販売が絶好調 『アラ管』が紳士服業界を救う?」という記事からは、そう判断するしかない。まず「女性用スーツの販売が絶好調」と言える根拠が乏しい。
諫早公園(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

最初の事例を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ紳士服メーカーに光明が差している。レディーススーツの売り上げが好調なのだ。

今年5月19日、AOKIホールディングスは、旗艦店のAOKI渋谷宮益坂店をフルリニューアルし、レディース売り場を大幅に拡張した。百貨店のような売り場のレイアウトは同社初の試みで、20代の新規客を中心に、オープン1週間の売り上げは、前年同期比144%と好調。今後都市部を中心にレディースフロアの改装を進める方針だ。


◎本当に「絶好調」?

店舗を「フルリニューアル」したのであれば「オープン1週間の売り上げ」が「前年同期」を上回るのは当然だ。しかも「レディース売り場を大幅に拡張した」という。ならば売り上げが前年同期比44%増でも驚くには値しない。仮に「レディース売り場」を5割増やしたのならば「前年同期比144%」では期待外れとも言える。

しかも顧客は「20代の新規客」が中心らしい。今回の記事では「アラ管(30代後半から50代まで)」が主役のはずなのに、最初からズレている。

この後の段落には相馬記者の実力不足が顕著に見て取れる。

【ダイヤモンドの記事】

業界トップの青山商事では、レディーススーツへの肩入れはそれ以上だ。今年2月に発表した中期経営計画では、2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる。山本龍典執行役員は、「13年までは女性用はリクルートスーツなど新卒向けの売り上げが100%だったが、最近はフォーマルやキャリアファッションが伸び、構成比がそれぞれ30%強となった」と語る。


◎比較がないと…

2021年3月期にレディース部門で、連結売上高の約12%に当たる350億円の売上高を目標に掲げる」と言われても、「レディーススーツへの肩入れはそれ以上」なのかどうか判断できない。「レディース部門」の売り上げを伸ばして構成比も高める計画だとは思うが、これまでとの比較がないので何とも言えない。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

書き手としての基礎が身に付いてくれば、この手の比較を省いて記事を書くことに耐えられなくなるはずだ。相馬記者はその域にまだ達していないのだろう。

次は「紳士服メーカー」に丸め込まれたと思える記述を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある。「『品質の割に安い』というところで勝負する」(山本執行役員)と鼻息は荒い。


◎「一日の長がある」?

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られているため、一般のアパレルメーカーと比べて紳士服メーカーに一日の長がある」という説明が怪しい。例えば、「一般のアパレルメーカー」が急に「レディーススーツ」に参入してきたのならば分かる。だが、昔から婦人服のアパレルメーカーも「レディーススーツ」を作ってきた。

スーツ作りは難易度が高く製造できる工場も限られている」としても、「レディーススーツ」で実績がある婦人服アパレルは「難易度」の高さをクリアしているはずだし、「製造できる工場」も押さえているのではないか。「『品質の割に安い』というところで勝負する」と青山商事の執行役員も語っているのだから、高価格帯の商品では「一般のアパレルメーカー」でも十分に勝負できている気がする。

次に移ろう。

【ダイヤモンドの記事】

レディーススーツ好調の背景には、女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる「アラ管(アラウンド管理職)」世代に一気に需要が生まれたことがある

コナカの「SUIT SELECT」でも、レディーススーツの主な購入者は20~30代前半だったのが、30代後半~40代へと少しずつ年齢層が広がっている。また、「女性の場合、管理職になると『下の世代と同じものは着られない』と、より良く見えるものを購入する傾向がある」(安部公政・コナカ執行役員)ことも、紳士服メーカーにとって追い風となった。


◎なぜ「レディーススーツ」だけ伸びる?

そもそも紳士用スーツが「オフィスカジュアルの煽りを受け、売り上げ減にあえぐ」のに、なぜ「レディーススーツ」だけ需要が急拡大するのか疑問だ。相馬記者によると「女性活躍推進法の影響で、管理職昇進前後の30代後半から50代までのいわゆる『アラ管(アラウンド管理職)』世代に一気に需要が生まれた」らしい。

しかし、「女性活躍推進法の影響で」女性がスーツを着て仕事をするようになるのも不思議な話だ。営業などでスーツを着る必要があるのならば、管理職でなくてもスーツを着るだろう。「オフィスカジュアル」の動きに逆行するように、これまでスーツを着ないで働いていた「アラ管」の女性が「一気に」スーツを着るようになったのか。どうも怪しい。

ここまで来たので、最後まで見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

他のチャネルも手をこまねいているわけではない。高島屋は2店舗で、働く女性向けの売り場に「スーツクローゼット」というコーナーを設置。購入者は高級志向のアラ管世代が多く、売り場全体の1人当たり平均客単価2万1000円と比べ、スーツクローゼットは3万4000円と高めだ。EC市場も同様で、ZOZOTOWNは「17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍」(スタートトゥデイ広報)という。

さらに、都心以外にも動きがある。SUIT SELECTの地方店舗では、子育て後に復職する女性のスーツ購入が急増。青山商事は、郊外店の女性客獲得のため、今月より各ブロックに教育マネジャーを置き、営業力アップを急ぐ。女性客獲得レースはすでに始まっている。



◎「同様」になってる?

高島屋では「『スーツクローゼット』というコーナー」の客単価が他の売り場よりも高いという話を受けて「EC市場も同様で、ZOZOTOWNは『17年度の女性向けスーツの合計売上高は、前年度比で約2倍』(スタートトゥデイ広報)という」と相馬記者は書いている。どこが「同様」なのか理解に苦しむ。「EC市場」に関して客単価が他の商品より高いという話は出てこない。
宇佐駅(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

話は逸れるが、今回の記事で「女性用スーツの販売が絶好調」をきちんと感じられる唯一の事例が「ZOZOTOWN」だ。「ZOZOTOWN」自体が伸びてはいるのだろうが、なぜこの話を柱にせず、AOKIや青山の微妙な事例を大きく取り上げたのか。この辺りからも、相馬記者が「紳士服メーカー」に取り込まれているのではとの疑念が膨らむ。

さらに、都心以外にも動きがある」という説明も奇妙だ。その前まで「都心」の話をしてきたと相馬記者は思っているのだろう。しかし、高島屋の「2店舗」の場所には触れていない。「EC市場」に関しても「都心」限定の話ではないはずだ。

女性客獲得レースはすでに始まっている」と結んでいるのも意味がない。例えば「レディーススーツ」が今の世の中には存在せず、来年に各社が売り出すのなら、準備段階での動きを捉えて「女性客獲得レースはすでに始まっている」との結論を導くのも分かる。

しかし、「レディーススーツ」を各社とも売り続けてきたのではないか。だとしたら「女性客獲得レースはすでに始まっている」のは大前提だ。わざわざ最後に持ってくる気が知れない。

この記事はやはり問題が多い。相馬記者を要注意の書き手として注目していきたい。


※今回取り上げた記事「Inside~女性用スーツの販売が絶好調 『アラ管』が紳士服業界を救う?
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23768


※記事の評価はD(問題あり)。相馬留美記者への評価も暫定でDとする。

2018年6月16日土曜日

日経ビジネス特集「富裕層はどこへ行った?」のご都合主義

日経ビジネス6月18日号の特集「富裕層はどこへ行った?」は期待外れだった。タイトルには魅かれるがあるが、「富裕層の消費が芳しくない」との説明に無理がある。PART 1の「『富裕層ビジネスで景気回復』は間違い!?~数は増えても伸び悩む消費」という記事の一部を見ていこう。
小長井駅(長崎県諫早市)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

(2012年12月)当時の本誌主張は以下の通りだ。

日本の個人消費が伸び悩む原因の一つは諸外国に比べ富裕層の消費が少ないことにある。
しかし今、技術革新などを背景に富裕層向けの新ビジネスが続々勃興しており、富裕層消費が活性化する兆しが見えてきた。

年収1500万円以上の世帯の消費が3割伸びれば、一般消費者が財布のひもを締めていても景気は回復し、名目GDP(国内総生産)が1%上昇する。

だが、あれから5年余り、現実は、年収1500万円以上の世帯の家計消費は11年以降、10兆円前後でほぼ横ばいのまま。人口減少で富裕層が減っているのなら致し方ないが、現在、約56万人いる給与年収1500万円以上の人は09年は約45万人だった。富裕層はむしろ増えている(国税庁調べ)。



◎間違いではないが…

記事を作る上でデータを自分たちの都合に合わせて使いたくなる気持ちは分かる。だが、限度がある。今回はご都合主義が過ぎる。

年収1500万円以上の世帯の家計消費は11年以降、10兆円前後でほぼ横ばいのまま」と言うが、記事に付けたグラフを見ると11年は9兆円弱で直近の16年が「10.8兆円」。約2割増だ。「富裕層」の人数増加とほぼ見合っている。

9兆円も11兆円も「10兆円前後」と見れば確かに「ほぼ横ばいのまま」だが、かなり苦しい。それに、この基準に従えばグラフで示した2000年以降はずっと「ほぼ横ばいのまま」だ。「11年以降」で区切る意味は乏しい。

人数は「09年」と比べるのに、「家計消費」は「11年以降」で見るのも感心しない。比較する期間を揃えるべきだ。「あれ(2012年12月の特集)から5年余り」と振り返るならば13年以降の数値を取り上げるのが適当かもしれない。


※今回取り上げた特集「富裕層はどこへ行った?
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/061201003/?ST=pc


※特集の評価はD(問題あり)。

2018年6月15日金曜日

日経 阿刀田寛記者「2026年W杯」の解説記事に問題あり

日本経済新聞にスポーツ関連記事を書く阿刀田寛記者は好き嫌いが分かれる書き手だ。凝った独特の文体で支持を得る一方、その分かりにくさを忌み嫌う読者も少なくない。14日の夕刊スポーツ面に載った「FIFA、金脈求めW杯拡大 26年大会は3カ国共催 出場チームも48に増加」という記事では、「阿刀田節」は抑え気味だったが、色々と問題は感じた。記事を見ながら指摘してみたい。
諫早公園の大クス(長崎県諫早市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

13日にモスクワで開かされた国際サッカー連盟(FIFA)総会で、2026年ワールドカップ(W杯)の米国、カナダ、メキシコによる3カ国共催が決まった。史上初の3カ国共催に投じられた票数は134で、初開催を目指したモロッコの65票を大きく上回った。この大会から出場チームは32から48に増え、試合数も64から80に。巨大化するW杯は新たな金脈を求め、さらに版図を広げようとしている。

今回、FIFAをW杯の拡大へと向かわせたのは、ブラッター前会長ら多くの幹部を巻き込んだ3年前の汚職スキャンダルだった。スポンサーにそっぽを向かれたインファンティノ会長は、帳簿上の穴を埋めようと昨年初めにW杯の48枠という花火を打ち上げた



◎ちょっと大げさ感が…

ここまでに大きな問題はない。ただ、大げさ過ぎる面はある。まず「そっぽを向かれた」は言い過ぎだろう。この書き方だと「汚職スキャンダル」をきっかけに大半のスポンサーが撤退したような印象を受ける。

産経の今年3月22日の記事によると「このスキャンダルの発覚後の2年間、FIFAは欧州からも米国からも新しい大口スポンサーを獲得できておらず、カタールと(ワールドカップ開催の熱心な志願者である)中国からしかオフィシャルパートナーの契約を取り付けていない」らしい。新規の大口スポンサー獲得に苦労したといった程度ならば「そっぽを向かれた」感じはあまりない。

帳簿上の穴」も無駄な「阿刀田節」に見える。単に収入が減って赤字になっただけならば「帳簿上の穴」とは思えない。例えば、帳簿上はあるはずの現預金の一部が知らない間になくなっていたといった話ならば「帳簿上の穴」でいいだろうが…。

花火を打ち上げた」を使うのもお薦めしない。この表現は「派手さはあるが、あっと言う間に消えてしまって残らない」という要素がある場合に使った方がいい。「W杯の48枠」は実現しているので「花火」的ではない。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

総会で承認された17年決算でFIFAは3年連続の赤字となったが、18年はロシア大会の実入りで大きく黒字に転じ、19年からの4年間で65億6000万ドル(約7200億円)の収入を得ると強気に勘定する


◎比較を入れよう!

19年からの4年間で65億6000万ドル(約7200億円)の収入を得ると強気に勘定する」と阿刀田記者は言うが、過去との比較がないので「4年間で65億6000万ドル(約7200億円)の収入」が「強気」なのかどうか数字からは判断できない。今回のような形で数字を出すならば、過去との比較は欲しい。

問題が目立つのはここからだ。

【日経の記事】

この先のターゲットはおそらく、中国、インド、東南アジアなど過密な人口を抱えたアジア市場だ。W杯を、サッカー史では後発のこうした国々が出場できる大会にしたい。1998年フランス大会に初出場した日本がそうであったように、パーティーには「うぶなゲスト」も必要。初めて手にした招待状に胸を高鳴らせ、財布のヒモを緩めてくれる国が。「熱狂をもっと広げたい」と語る会長の真意はそこにある。



◎「過密」の基準は?

中国、インド、東南アジアなど過密な人口を抱えたアジア市場だ」という説明が引っかかった。「中国、インド、東南アジア」は「過密な人口」を抱えているのか。何を以って「過密」と判断したのだろう。国単位で見れば、中国の人口密度はそれほど高くない。記事の書き方だと「アジア」全体の人口が「過密」とも取れる。

過密」でないとは言わないが、基準を示さずに「過密な人口を抱えた」と言われても納得できない。

また、記事の書き方だと「中国」が出場すれば「初めて手にした招待状に胸を高鳴らせ、財布のヒモを緩めてくれる国」になってくれるような印象を受ける。だが、中国には日韓大会への出場経験がある。

次のくだりが、今回の記事で最も気になった。

【日経の記事】

これほどまでに巨大化した興行が、小国モロッコの手に余るのは目に見えていた。共催は将来のW杯のスタンダードになるだろう。施設面で優れた北米を、サッカーの版図に収める狙いもあるだろう


◎これまで北米は「版図」に入らず?

施設面で優れた北米を、サッカーの版図に収める狙いもあるだろう」と書いているので、「今の北米は版図に収まっていない。しかし2026年にW杯を開催すれば収まる」と阿刀田記者は思っているのだろう。これが解せない。米国では1994年にW杯を開催している。この時には「サッカーの版図」に収まらなかったのに、2026年に開催すると「版図に収める」ことができるのか。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

これほどまでに巨大化した興行が、小国モロッコの手に余るのは目に見えていた」との主張にも説得力を感じなかった。64試合ならば「小国」カタールでも開催できるのに、80試合になると「モロッコの手に余る」のか。そんなに大きな差なのか。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

一方、大会のかさ増しは、試合のレベルを下げて興行を損なう危険もはらむ。特にビッグクラブを抱える欧州は、選手を消耗させる試合増に強いアレルギー反応を示す。

今回の拡大策はそこにも配慮した。優勝チームがたどる道のりは7試合のまま。現状では4チームずつ8組に分かれる1次リーグが3チームずつの16組構成となる一方、2チームずつの勝ち上がり方式は維持される。特に強国にとって1次リーグはたやすくなり、朝飯前の運動にすぎないものになるだろう




◎そんなに簡単な話?

本当に「強国にとって1次リーグはたやすくなり、朝飯前の運動にすぎないものになるだろう」か。「朝飯前の運動にすぎないもの」になるとしたら、16組の全てに圧倒的な「弱国」が必要になる。アジアから出場する最大9カ国が全て圧倒的に弱いとしても、まだ7カ国足りない。

北中米カリブ海」の増枠分を当てはめて12カ国。オセアニアを加えて13カ国。それでも足りないので、アフリカの増枠分を入れると、ようやく17カ国になる。しかし、これらすべての国を「強国」が「朝飯前の運動にすぎない」程度のプレーで打ち破れるだろうか。

さらに言えば、1次リーグで2位となると、決勝トーナメント初戦は各組の1位と当たるはずだ。これを避けるためには、1次リーグで1位を狙いたい。そうなると、少なくとも1試合は「朝飯前の運動」とは言っていられなくなる。

次は記事の終盤に移ろう。

【日経の記事】

後発の国々に軒先を開放するが、「本当のW杯」は16強あたりから。拡大と品質維持の両立を、FIFAはこの2層構造でかなえる算段だ。

割を食うのは日本のようなチームかもしれない以前から軒先にいながら、なかなか母屋に上げてもらえない国。アジアの出場枠は4.5から最大9に増えるが、たった2試合で終わるかもしれない本大会のために、長い割にそうきつくもない予選を走破する。そこにどれほどのやりがいを感じられるのだろう



◎なぜ「割を食う」?

割を食うのは日本のようなチームかもしれない」と阿刀田記者は言うが、その根拠が謎だ。「以前から軒先にいながら、なかなか母屋に上げてもらえない国」である日本がなぜ「割を食う」のか。制度変更で「母屋(ベスト16以上を指すと思われる)」に上がりにくくなるのならば分かる。しかし、難易度は基本的に同じだ。

長い割にそうきつくもない予選を走破する」ことに「やりがい」を感じられなくなるから「割を食う」と言っている可能性も考えてみた。しかし、それは「以前から軒先にいながら、なかなか母屋に上げてもらえない国」に特に当てはまるものではない。むしろ、ブラジルのような「強国」に当てはまる話だ。

個人的には、阿刀田記者とは逆に「得をするのは日本のようなチームかもしれない」と感じる。W杯出場を逃す可能性も十分にある日本にとって、アジア予選敗退の心配がまず少なくなる。さらに、現状よりも決勝トーナメント進出が容易になる。

1次リーグを突破してのベスト16は日本にはハードルが高い。決勝トーナメント進出国が倍増すれば、「決勝トーナメント進出」というお土産を持ち帰りやすくなる。

阿刀田記者はそれでも「割を食うのは日本のようなチームかもしれない」と思うだろうか。


※今回取り上げた記事「FIFA、金脈求めW杯拡大 26年大会は3カ国共催 出場チームも48に増加
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180614&ng=DGKKZO31746830U8A610C1US0000


※記事の評価はD(問題あり)。阿刀田寛記者への評価は暫定でDとする。

2018年6月14日木曜日

日経 飯野克彦論説委員はキルギスも「重量級」に含めるが…

日本経済新聞の飯野克彦上級論説委員による「上海協力機構(SCO)首脳会議」の解説が引っかかった。14日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~『ルールよりディール』の時代」という記事では「G7もSCOもメンバーは重量級ぞろいである」「(G7と)同じくらいに重量級の多国間の枠組みとなったSCO」と記している。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

G7が「重量級ぞろい」なのは分かる。問題は「SCO」だ。

加盟しているのは中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、インド、パキスタンの8カ国。「重量級ぞろい」と言えるだろうか。中国、ロシア、インドは同意できるが、パキスタンは苦しい。カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンは論外だ。GDPで言えば、キルギス、タジキスタンは世界の100位以内にも入らない。それでも飯野上級論説委員には「重量級ぞろい」と映るのか。

ついでに「もともとSCO諸国の経済政策はG7ほど開かれてはいない。中国やロシアでは政治がビジネスに介入するのはごく当たり前である」という説明にもツッコミを入れておきたい。この書き方だと「G7」では「政治がビジネスに介入」しないのが当然という印象を受ける。

だが、日本でも「政治がビジネスに介入するのはごく当たり前」だ。飯野上級論説委員は「官製春闘」という言葉を聞いたことがないだろうか。「春闘の労使間交渉に政府が介入することを揶揄していう語」(デジタル大辞泉)だ。

東芝の経営再建に絡んでも「政治がビジネスに介入」している状況が様々に報じられた。東京電力に関しては国有化までしている。「政治がビジネスに介入するのはごく当たり前」と言える国を「開かれてはいない」と評するならば、G7に属する日本もその例に漏れないはずだ。


※今回取り上げた記事「中外時評~『ルールよりディール』の時代
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180614&ng=DGKKZO31713880T10C18A6TCR000


※記事の評価はC(平均的)。飯野克彦上級論説委員への評価も暫定でCとする。

錦織圭を「2014年以降に誕生のニュースター」と誤解した日経

錦織圭は2014年以降に誕生した「ニュースター」と言えるだろうか。明らかに違うと思えるが、13日の日本経済新聞朝刊スポーツ1面に載った「熱狂の裏側 変わるサッカービジネス(上)サムライ人気 曲がり角? 好収益でも募る危機感」という記事ではそう断言していた。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせ内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

13日朝刊スポーツ1面の「熱狂の裏側 変わるサッカービジネス(上)サムライ人気 曲がり角? 好収益でも募る危機感」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

“史上最強”とうたわれた『ザックジャパン』が2014年ブラジル大会で1次リーグ敗退に終わり、日本中が失意のどん底に落とされた。あれから4年。本田圭佑(パチューカ)、岡崎慎司(レスター)ら主力がピークを過ぎた一方で、新戦力の台頭は遅れ、世界ランキングも大きく下げた。この間、スポーツ界には錦織圭、大谷翔平らニュースターが続々と誕生。20年東京五輪が近づき、『世間の関心は卓球など他競技に移り始めた』と日本サッカー協会の須原清貴専務理事は警戒する。W杯出場が当たり前となった今、サッカーに国民が向ける視線は厳しくなりつつある

記事の説明が正しければ「錦織圭、大谷翔平」が「ニュースター」となったのは2014年7月以降となります。

まず錦織圭から見ていきましょう。錦織の公式ホームページには「2007年10月のジャパンオープンでプロ転向。翌2008年2月、デルレイビーチ国際選手権でATPツアー初優勝。同年8月の全米オープンでは、日本男子シングルスとして71年ぶりにベスト16進出という快挙を達成し、その年のATPワールドツアー最優秀新人賞を受賞」と出ています。常識的には、08年に「ニュースター」錦織圭が誕生したと言えます。ブラジルW杯前の14年5月には、世界ランク9位とトップテン入りを果たしています。

次に大谷翔平です。こちらはやや微妙ですが、2013年の日本ハム入団前から大きな注目を集めた選手で、13年も「二刀流」である程度の成績を残しています。ブラジルW杯後に「ニュースター」として登場した印象はありません。

この間(14年7月以降)、スポーツ界には錦織圭、大谷翔平らニュースターが続々と誕生」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

付け加えると、「世間の関心は卓球など他競技に移り始めた」とのコメントを使うのであれば、「錦織圭、大谷翔平」のところに卓球選手を1人は入れた方が良いでしょう。例えば張本智和であれば、まさに14年以降に現れた「ニュースター」です。

さらに言えば、「世界ランキングも大きく下げた」との説明にも問題を感じました。ブラジルW杯の時の世界ランクは46位で今が61位。「下げた」のは事実ですが、「大きく」かどうかは微妙です。個人的には、大きく下げた感じはしません。「低迷が続いている」といったところでしょうか。「大きく下げた」と断定的に書くのならば、誰もが納得するような大きなランクダウンが欲しい気はします。

せっかくの機会なので、記事の終盤にも注文を付けておきます。

同じように下馬評が低かった8年前の南アフリカ大会は、勝ち進むにつれ日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。決勝トーナメントのパラグアイ戦は50%超の視聴率を記録した。『こんな爆発力のあるコンテンツは他にない』(テレビ関係者)と期待する声はなおやまない。W杯で勝てばまた熱狂の風が吹く。しかし、競技の土台を耕し、未来の代表選手を育てる次の『戦い』が待つ

まず「勝ち進むにつれ」が気になりました。こう書くと、次々と上の段階に進んでいったように感じます。しかし、勝ち「進んだ」のはグループステージを突破した1回だけです。言いたいことは分かりますが、少し引っかかります。

W杯で勝てば」も、どういう状況を想定しているのか疑問が残ります。例えば2連敗でグループステージ敗退が決まってからポーランドに勝利した場合、「熱狂の風が吹く」でしょうか。「W杯で勝てば=決勝トーナメントに進出すれば」といった前提があるのならば、その点は明示した方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇  ◇  ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「熱狂の裏側 変わるサッカービジネス(上)サムライ人気 曲がり角? 好収益でも募る危機感

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180613&ng=DGKKZO31694940T10C18A6UU1000


※記事の評価はD(問題あり)。

2018年6月13日水曜日

「仮に北朝鮮が核武装すれば」と書く日経 内山清行氏に注文

米朝首脳会談を受けて13日の日本経済新聞朝刊1面に「半島の激変に備えを」という解説記事が載っている。その中で、筆者であるチーフエディターの内山清行氏は「仮に北朝鮮が核武装すれば、日米が防衛力を強化するのは間違いない」と記している。裏返せば「現状では北朝鮮は核武装に至っていない」と判断しているはずだ。これが解せない。
リンデンホールスクール小学部(福岡県太宰府市)
            ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見てみよう

【日経の記事】

おそらく間違いないのは、好ましい方向と悪い方向のどちらにも、朝鮮半島情勢が大きく動く可能性がでてきたということだ

仮に北朝鮮が核武装すれば、日米が防衛力を強化するのは間違いない。中国がそれを座視するとは思えない。軍拡の動きが懸念される半面、韓国の革新政権は北朝鮮にすり寄る形での緊張緩和に動きかねない。日米韓の分裂である。



◎「核兵器保有」と「核武装」は違う?

記事では「トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長による首脳会談の焦点は、金委員長が体制のよりどころである核を本気で放棄する意志があるかどうか確認することだった」とも書いているので、内山氏は「北朝鮮が核を保有している」とは認識しているようだ。だが、核武装ではないという。

核兵器保有と核武装は異なるとの判断なのか。あるいは核保有と核兵器保有を別物としているのか。その辺りは明確にした上で記事を書いてほしい。

ついでに「おそらく間違いないのは、好ましい方向と悪い方向のどちらにも、朝鮮半島情勢が大きく動く可能性がでてきたということだ」というくだりにも注文を付けたい。基本的には、いつの時点でも「好ましい方向と悪い方向のどちらにも、朝鮮半島情勢が大きく動く可能性」はある。なので、この解説だとあまり意味がない。

また、「おそらく」「という」は省いていい。「でてきた」は「出てきた」と漢字表記すべきだ。簡単な漢字だし、「でてきたということだ」だと平仮名が続いて読みにくい。

間違いないのは、好ましい方向と悪い方向のどちらにも、朝鮮半島情勢が大きく動く可能性が出てきたことだ」とすると、スッキリして読みやすくなる。内容にも問題はないはずだ。

他にも記事にいくつかツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

反対に、核問題が解決に向かうなら、米朝関係は国交正常化が視野に入る。拉致問題の解決にむけた日朝交渉も始まるだろう。国際社会の北朝鮮支援や開発投資も本格化する。同時に在韓米軍の縮小など、安保環境が激変する望ましくない動きも現実味を増すかもしれない。



◎「在韓米軍の縮小」は望ましくない?

核問題が解決に向かう」結果、朝鮮半島での軍事衝突の懸念がほとんどなくなり「在韓米軍の縮小」が実現するとして、何が「望ましくない動き」なのか理解に苦しむ。記事には説明もない。どんなに各国が友好関係を深めたとしても「在韓米軍」は規模を維持するのが好ましいのか。だとしたら、その理由を明示してほしかった。
雲仙みかどホテル(長崎県南島原市)※写真と本文は無関係です

続きを見ていこう。

【日経の記事】

北朝鮮をめぐる核問題は今後、日韓両国に加え、米国を中心にした世界秩序に挑む中国、ロシアも絡むパワーゲームの様相を呈するはずだ。世界の成長センターである東アジアの平和は日本にとって死活問題。日本は局面の変化に敏感であるべきだ。

米朝首脳会談が実現するまでの間、日本は不安な視線で成り行きを見つめざるを得なかった。当事者なのに主役になれないのは、安全保障を米国に頼る宿命である



◎そんな「宿命」ある?

米朝首脳会談が実現するまでの間、日本は不安な視線で成り行きを見つめざるを得なかった。当事者なのに主役になれないのは、安全保障を米国に頼る宿命である」との解説に説得力はない。

韓国は「安全保障を米国に頼る」国だが、「不安な視線で成り行きを見つめざるを得なかった」だろうか。それとも南北首脳会談などで自ら積極的に動く姿勢を見せただろうか。「当事者なのに主役になれない」のを「安全保障を米国に頼る宿命である」と諦める必要がないのは、韓国を見れば分かるのではないか。

記事では「仮に北朝鮮が核武装すれば、日米が防衛力を強化する」一方で「韓国の革新政権は北朝鮮にすり寄る形での緊張緩和に動きかねない」として「日米韓の分裂」に懸念を示している。「安全保障を米国に頼る」韓国にそんな独自の動きができるのならば、日本にもできるはずだ。

最後に記事の結論部分に注文を付けたい。

【日経の記事】

しかし、トランプ氏が期待する北朝鮮への経済支援で日本は、脇役以上の存在だ。日朝交渉では主役そのものである。情勢を分析し、国内世論をまとめ、外交力を発揮して国益を守らなければならない。安倍晋三首相に備えはあるだろうか


◎「経済支援」では頑張る?

トランプ氏が期待する北朝鮮への経済支援で日本は、脇役以上の存在だ」という記述が引っかかった。明言はしていないが「経済支援ではしっかり主役になるべきだ」と内山氏は訴えたいのだろう。個人的には反対だが、内山氏がそう訴えたいのならば、漠然とした書き方をしないで明確に書いてほしかった。

当事者なのに主役になれないのは、安全保障を米国に頼る宿命である」と諦めた上で、カネを出してくれと親分である米国に頼まれたらその時はしっかりと「脇役以上の存在」になる。それが内山氏の思い描く日本のあるべき姿なのか。だとしたら、かなり残念な国だ。

付け加えると、「安倍晋三首相に備えはあるだろうか」との結びも感心しない。「備え」があるかどうか内山氏自身の見方は示してほしい。「これからどうなることやら」的な結論であれば、誰でも書ける。日経は首相やその周辺を日常的に取材しているのだから、その結果を踏まえて解説記事を書いてほしい。


※今回取り上げた記事「半島の激変に備えを
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180613&ng=DGKKZO31690930S8A610C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。内山清行チーフエディターへの評価は暫定でDとする。