2018年6月4日月曜日

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー

日本経済新聞の芹川洋一論説フェローはデータ分析が苦手なようだ。4日の朝刊オピニオン面に載った「核心~動かすTV 守るネット層 揺れる安倍内閣の支持率」という記事でも、粗雑な分析を披露していた。記事の冒頭から説明に矛盾がある。まずは、そこから見ていこう。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

春先に大きく落ちこんだ安倍晋三内閣の支持率がどうやら下げ止まったようだ。本社調査では、2月に56%だったのが3月に42%まで下落したあと、4月43%、5月42%と踏みとどまっている

この数カ月を振りかえってみると、支持率低下のきっかけは、森友文書の改ざん、加計学園の獣医学部の新設、福田淳一・前財務次官のセクハラなど新聞・テレビ・週刊誌の報道だった。その一方でなお40%台の内閣支持率を考えると、下支えをしている堅い層があるに違いない。



◎「きっかけ」になってる?

芹川氏の説明を信じれば「福田淳一・前財務次官のセクハラ」は「支持率低下のきっかけ」になっているはずだ。問題が表面化したのは4月なので、これを「きっかけ」に4月あるいは5月の支持率が低下していなければ辻褄が合わない。

しかし、支持率は「3月に42%まで下落したあと、4月43%、5月42%と踏みとどまっている」。だとすると、セクハラ問題は「支持率低下のきっかけ」になっていない。

加計学園の獣医学部の新設」という表現も不可解だ。「新設」自体が「支持率低下のきっかけ」になったと芹川氏は判断しているのか。「加計学園に関する愛媛県の文書公表」などなら分かるが…。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

仮説を立ててデータを点検することで、安倍内閣の支持率を考えてみた。

検証する材料を得るため、テレビの番組とCMを調査分析しているエム・データ社に協力を依頼した。ニュース・報道系とワイドショー・情報系で、森友、加計、福田前次官の問題をどのくらい放映していたか、1月7日から5月13日まで各局合計の放送時間を日ごとに調べてもらった。週刊誌の情報がどんなふうにテレビの番組で引用されていたのかのチェックも頼んだ。

本社の世論調査を担当している日経リサーチには、男女別に各年代の内閣支持率をはじいてもらった。

それらのデータを重ね合わせることで何がいえるのか。『日本政治とメディア』などの著書のある逢坂巌・駒沢大准教授の教示をあおいだ。

第1の仮説は、なぜ女性とシニアで安倍内閣の支持率が低いのか、その要因はテレビのワイドショーにあるのではないか、というものだ。

主婦やシニア男性は家庭でテレビを見る時間が長くなる。朝から夕方まで民放各局が流すワイドショーは政治を見せ物として取り上げる。

森友や加計の問題は不明・不可解な点がある。ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくるのではないかとの推測だ。

エム・データの調べによると、森友問題の放送時間は全体で256時間29分。そのうちワイドショー系が146時間57分にのぼる。全体の57%だ。ワイドショー中心の情報の流れだった

いちばん過熱したのは、国会で佐川宣寿・前国税庁長官の証人喚問があった3月27日。なんと合計で18時間27分も流していた。次は佐川氏が国税庁長官を辞任した直後の3月12日で、12時間49分だ。


◎「ワイドショー中心」?

言うほど「ワイドショー中心の情報の流れ」にはなっていない。「ワイドショー系」が「全体の57%」ならば、裏返せば「ニュース・報道系」が43%ある。それほど「ワイドショー系」に偏ってはいない。しかも、ほとんどの人はテレビだけで情報を得ている訳ではない。なぜ「ワイドショー系」の影響を重く見るのかが弱い。
久留米高校前駅(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

また、「ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくるのではないか」と芹川氏が推測しているのは「ワイドショー系=政権に批判的」「ニュース・報道系=政権批判は控えめ」との前提があるのだろう。個人的には、そういう差は感じない。

先へ進もう。

【日経の記事】

2月から3月にかけて内閣支持率の急落がはっきりあらわれた年代は、男性は60代で、60%から35%へと25ポイントも下がった。女性の場合は20~30代で、59%から33%へと26ポイント、大幅にダウンした。

女性の60代は2、3月とも変化がなく38%だが、5月には18%まで落ちた。この世代は「内助の功」の意識が強いだけに、安倍夫妻離れに拍車がかかっているとみられる。

福田前次官のセクハラ問題が新たに出てきた4月は3月に比べるとワイドショーで取り上げる時間は短くなった。女性の支持率は20~30代で33%から45%に回復、全体でも34%から39%へと上向いた。



◎辻褄が合わないような…

ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくる」との仮説を立てたものの、データとは整合しない。「ワイドショーで取り上げる時間」は3月に急増し、4月、5月と減ってきたはずだ。

なのに「女性の60代は2、3月とも変化がなく38%だが、5月には18%まで落ちた」のは解せない。ちなみにグラフを見ると4月も3月と大差ない。つまりワイドショーが盛んに政治の問題を取り上げた3月、4月には支持率がほぼ横ばいで推移したのに、放送時間が減った5月になって一気に支持率が下がっている。

主婦やシニア男性は家庭でテレビを見る時間が長くなる」とすれば「女性の60代」はワイドショーの視聴時間が長い傾向があるはずだ。なのに、ワイドショーでの放送時間が長い月ほど、世論調査で「女性の60代」の内閣支持率が下がるという傾向は見て取れない。

しかし、芹川氏はあくまで「ワイドショーに接する機会が増えるほど政権に批判的になってくる」との前提に沿って話を進める。


【日経の記事】

自民党でメディア戦略を担当している平井卓也広報本部長は「支持率に反応するのはストレートニュースではなくワイドショーだ。悪い話は早く消費してもらうしかない」と語る。ワイドショーが女性・シニア層の支持率の変動要因になっているとみるのは的外れではあるまい



◎結局、コメント頼み?

データの裏付けが取れなかったからか、結局は「自民党でメディア戦略を担当している平井卓也広報本部長」に「支持率に反応するのはストレートニュースではなくワイドショーだ」と語らせて、「ワイドショーが女性・シニア層の支持率の変動要因になっているとみるのは的外れではあるまい」と結論付けている。

だったら、何のために「エム・データ社に協力を依頼した」のか。コメントを使うのは問題ないが、その前に「確かにワイドショーが支持率を動かしてるんだな」と納得できるデータを示すべきだ。

おかしな分析はまだ続く。

【日経の記事】

第2の仮説は、内閣支持を下支えしているのが20~30代の男性で、ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きいためではないか、というものだ。

3月の支持率は男性の平均が49%で、うち20~30代は65%と押し上げる力になった。前月比の下落幅は14ポイントだが、同年代の女性の26ポイントに比べると小さい。ワイドショーをはじめとするテレビへの反応は相対的に弱いとみていい。

この世代は情報収集でネットへの依存度が高いのが特徴だ。公益財団法人・新聞通信調査会が2017年11月に実施したメディアに関する全国世論調査によると、20代・30代で「情報源として欠かせない」メディアとしてネットをあげる人がともに78%にのぼり、他のメディアを大きく引き離している。自らの選好によりネット空間で情報を入手している様子がみてとれる。

どうもここが内閣支持の下支えをしている岩盤だ。本社調査の安倍内閣支持率の最低は38%。安倍内閣の38度線を守っているのはネット世代の20~30代の男性のようだ。


◎それは女性も同じでは?

内閣支持を下支えしているのが20~30代の男性で、ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きいためではないか」という「第2の仮説」に関する説明も問題ありだ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

20代・30代で『情報源として欠かせない』メディアとしてネットをあげる人がともに78%にのぼり、他のメディアを大きく引き離している」というデータを根拠として挙げているが、この書き方だと「78%」は男女合計の数値だと思える。だとしたら、同じことは「20~30代の女性」にも当てはまる可能性が高い(男女別の数値があるならば、それを用いるべきだ)。

同じように「ワイドショーなどテレビよりネットによる影響が大きい」はずの「20~30代」で男女差が生じる理由を芹川氏は教えてくれない。やはり分析が不十分だ。

次に移ろう。

【日経の記事】

もうひとつ、週刊誌報道は新聞やテレビで取り上げられた時点で、いわゆる「週刊誌情報」ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす、ということも今回はっきりわかった

かっこうの素材を提供したのが、週刊新潮の報じた福田前次官のセクハラ問題だ。

エム・データの調べによると、発売日前日の4月11日からの1カ月間で、NHKと民放テレビ各社は「一部週刊誌」という表現を含めて、ニュースとワイドショーで計435回も週刊新潮の報道に言及している。辞任を表明した翌日の19日は80回登場した。


◎なぜ「わかった」?

週刊誌報道は新聞やテレビで取り上げられた時点で、いわゆる『週刊誌情報』ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす、ということも今回はっきりわかった」と芹川氏は言い切るが、なぜ「わかった」が分からない。

NHKと民放テレビ各社」が「ニュースとワイドショーで計435回も週刊新潮の報道に言及」したといったデータは紹介している。だが、「いわゆる『週刊誌情報』ではなくなり政治過程に影響力を及ぼす」と判断できる材料はない。

この部分は正直言って理解不能だ。記事の書き方からは、「週刊誌情報」であれば「政治過程に影響力を及ぼさない」との前提も感じるが、そういうものとも思えない。

ようやく記事の終盤に来た。最後もやはりおかしな説明が出てくる。

【日経の記事】

週刊誌に情報を持ち込んだのがテレビ朝日の記者で、週刊誌の報道が新聞、テレビ、ネットの各メディアによって拡散し、大きな流れができあがった点こそ今日的な状況だ。政治のプレーヤーとしてのメディアがここにくっきりと姿をあらわしている。

自戒をこめてだが、それだけにメディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められるということだろう。


◎どこが「今日的」?

どこが「今日的な状況」なのか解釈に迷う。「週刊誌の報道が新聞、テレビ、ネットの各メディアによって拡散」する状況はかなり前からある。「情報を持ち込んだのがテレビ朝日の記者」という事例は他に知らないが、このことが「今日的」とは考えにくいし、週刊誌に他のメディアの記者が情報を持ち込む例は珍しくない。

そして最後は「自戒をこめてだが、それだけにメディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められるということだろう」という、当たり前の話で締めている。「メディアは世論に影響を与える存在なので、そのことをしっかり自覚しましょう」とでも訴えたいのか。異論はないが、「今日的な状況」との関係は感じられない。

30年前も50年前もメディアは世論を動かしていたし、「メディアに従事している者にはその自覚が必要で、自省と自制が求められ」ていたはずだ。雑な分析を長々と続けた上に、こんな結論を導くとは…。


※今回取り上げた記事「核心~動かすTV 守るネット層 揺れる安倍内閣の支持率
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180604&ng=DGKKZO31265280R00C18A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一論説フェローへの評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川論説フェローについては以下の投稿も参照してほしい。

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

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