2018年6月27日水曜日

「働き方改革」後押しに無理がある日経「政と官 ゆがむ統治」

日本経済新聞が働き方改革を論じると、高い確率で無理が生じてしまう。26日の朝刊1面に載った「政と官 ゆがむ統治(3)崩れた三角形、時間軸にズレ」という記事は、その中でも無理が過ぎる。以下の説明を読んでアップル日本法人と働き方改革にどんな関係があるのか考えてほしい。
河童の像と桜(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

安倍晋三首相が「成長戦略そのもの」という働き方改革関連法案。今国会で成立する運びだが、原型である法案の提出は2015年4月まで遡る。しかも生産性の向上をめざし当初の法案に入っていた仕事の時間配分を働き手が決められる裁量労働制の対象拡大は、厚生労働省の調査データ不備で撤回を迫られた

国立大の理系大学院で学ぶ若者は最近、米アップルの日本法人への入社を決めた。デジタル技術が評価され「月給60万円、年収1千万円」という。経済同友会幹部は「人材が流出し、いずれ日本企業の経営者は外国人ばかりになりかねない。せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要なのに、政も官もスピード感がない」と肩を落とす。


◎アップルにできるのなら…

米アップルの日本法人」が「月給60万円、年収1千万円」という条件で優秀な人材を獲得しているとしよう。これと「裁量労働制の対象拡大」に何の関係があるのか。文脈的には「柔軟な働き方」が認められない日本企業はアップルに対抗できないと取れる。

だが、日本企業が「月給60万円、年収1千万円」という条件で新入社員を採用しても何の問題もない。

百歩譲って「裁量労働制」が非常に魅力的な働き方で、それが認められないと優秀な人材を獲得できないとしよう。その場合、「米アップルの日本法人」も人材獲得はできなくなる。「日本法人」である以上は日本の法律に従う必要があるからだ。

人材が流出し、いずれ日本企業の経営者は外国人ばかりになりかねない。せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要なのに、政も官もスピード感がない」という「経済同友会幹部」のコメントにもツッコミを入れておこう。

まず「日本企業の経営者」が「外国人ばかり」になって何がまずいのか。上手く経営して雇用や利益を生み出してくれるのならば、経営者は日本人でも外国人でもいい。それに「日本企業の経営者」が「外国人ばかり」になるのならば、日本企業に外国の人材が「流入」してくるはずだ。「人材が流出」するばかりではない表れなので、むしろ好ましいのではないか。

せめて柔軟な働き方を後押しする政策が必要」という主張に説得力がないのは既に述べた通りだ。「米アップルの日本法人」で「柔軟な働き方」ができるのならば、他の日本企業でも可能だ。国内の法規制に差はない。そのぐらいは連載の取材班も分かっているはずだ。この手の無理のある解説は、自分たちの記事への信頼性を失わせるだけだと肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「政と官 ゆがむ統治(3)崩れた三角形、時間軸にズレ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180627&ng=DGKKZO32229960W8A620C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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