2016年1月9日土曜日

息切れ? 第6回も苦しい日経正月企画「アジアひと未来」

日本経済新聞の正月企画「アジアひと未来」が段々と苦しい展開になってきた。第5回に続いて第6回の「国境なき民、世界駆ける」(8日付)もすんなり読めなかった。記事では、タイの石油化学大手インドラマ・ベンチャーズのグループ最高経営責任者(CEO)であるアローク・ロヒア氏を見出しで「4大陸またぐ『コーラ』の黒子役」と紹介している。本当に「黒子役」なのかをまず検討しよう。
東京都庁(東京都新宿区)からの眺め
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

同社はペットボトル用樹脂(PET)で世界首位。飲料容器の6本に1本へ原材料を供給する。供給網は南米を除く4大陸に広がり、米コカ・コーラやペプシコの世界戦略の「黒子役」を担う

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コカ・コーラやペプシコが販売する飲料でペットボトルの素材を供給しているのがインドラマ・ベンチャーズのようだ。その場合、インドラマは「米コカ・コーラやペプシコの世界戦略の『黒子役』を担う」と言えるだろうか。

「黒子」とは「表に出ないで物事を処理する人」を指す。例えばコカ・コーラやペプシコの世界戦略の策定を実質的にはインドラマが仕切っているのならば「黒子役」でいいだろう。しかし、ペットボトルの素材メーカーならば、コカ・コーラやペプシコと直接の取引関係があるのかも微妙だ。供給するペットボトル用樹脂も特別なものではないのだろう。なのに「黒子役」と称するのは大げさすぎる。連載がかなり苦しい段階に差し掛かっているのではないか。

記事の結論部分も苦し紛れだと思える。

【日経の記事】

世界を駆ける印僑人脈は意外なところでつながる。ルクセンブルクが本拠の鉄鋼世界最大手、アルセロール・ミタルCEOのラクシュミ・ミタル(65)はロヒアの義姉の兄。共にインドネシアに住み着いたマルワリ商人の父同士が縁組した。息子2人は買収に次ぐ買収で世界の頂上に立った。

政治や経済、文化の各面で多様なアジアを結びつけてきたのが、それぞれ数千万人規模とされる華僑や印僑の地下水脈のような地縁・血縁関係だ。アジアの勃興と軌を一にして、華僑の陰に隠れがちだった印僑が産業の国際再編の歯車を回し始めた

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結びで「印僑が産業の国際再編の歯車を回し始めた」と締めると、何か最近の新たなトレンドのように思える。しかし、記事によればインドラマは「03年の米企業買収を合図に世界進出を始めた」らしい。アルセロール・ミタルにしても、ミタルとアルセロールの合併は2006年の話だ。今頃になって「アジアの勃興と軌を一にして、華僑の陰に隠れがちだった印僑が産業の国際再編の歯車を回し始めた」などと言われても説得力はない。

他にもいくつか問題があるが、この辺りで止めておく。連載の残りが隙のない記事になるように祈ろう。かなり不安が残るが…。

※記事の評価はD(問題あり)。

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