2016年1月7日木曜日

第5回で馬脚を露わす? 日経正月企画「アジアひと未来」(2)

6日の日本経済新聞朝刊1面「アジアひと未来(5)ネットの扉 世界に開くか」について、引き続き疑問点を挙げていく。

◎意思決定を頻繁にするとイノベーションが生まれる?

【日経の記事】
高良山の久留米森林つつじ公園(福岡県久留米市)
                ※写真と本文は無関係です

馬は反論する。「会社が大きくなるとイノベーション(技術革新)は生まれにくくなるが、我々は違う」。取り出したスマートフォン上のチャット(会話)アプリには経営会議メンバー約30人がずらり。「月に1回の取締役会ではなく、1日に何度でも意思決定する

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「月1回の意思決定ではイノベーションは生まれにくいが、1日に何度も意思決定すると会社が大きくなってもイノベーションは生まれにくくならない」と馬氏は考えているのだろう。「意思決定の頻度を高めるとイノベーションが生まれやすくなる」という因果関係はあるのだろうか。もしあるのならば、それを記事中で示してほしかった。個人的には「そんな簡単な話ではないだろう」と思ってしまう。


◎「間違いなく技術革新」?

【日経の記事】

革新性は利用者が評価する。「アリババなしに事業は成り立たない」。ネット家電のCerevo(セレボ、東京・千代田)は少量製造の委託先工場をECサイトで見つける。社長の岩佐琢磨(37)は「数万の工場をネットで結ぶ仕組みは世界で他にない。間違いなく技術革新だ」と言う。

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数万の工場をネットで結ぶ仕組みは世界で他にない」としても、それを「技術革新」と呼ぶかは別問題だ。ネットで委託先工場を見つけるだけならば、技術的には大した話ではない。記事に出てくる岩佐琢磨氏は「間違いなく技術革新だ」と言っているのだろうが、発言をそのまま記事に使うのは感心しない。


◎布石を打ってる?

【日経の記事】

「周囲が思うほど我々が悪くないのは革新力、逆に良くないのが投資家との対話力」と馬は認める。米株主の大半は自社のサイトを使ったことがない現実がもどかしい

布石は打つ。米の技術ベンチャー、シンガポールポスト、インドの電子決済企業……。即断即決で大小の海外企業へ出資しつつ、ビッグデータ解析も急ぐ馬。「いずれ世界20億人が我々のサービスを使う時代が来る」と世界進出を誓う。

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米の技術ベンチャー、シンガポールポスト、インドの電子決済企業……。即断即決で大小の海外企業へ出資しつつ、ビッグデータ解析も急ぐ」ことがどうして「布石は打つ」と言えるのか理解に苦しんだ。、インドの電子決済企業に出資しても、米国の株主が自社のサイトを使うようになるとは思えない。「布石」は「投資家との対話力」の不足に対して打っているのかもしれないが、それとも直接の関連は感じられない。

「海外の投資家に自社の強さを分かってもらいにくいので、海外での事業展開を進めていくことで課題を克服しようとしている」と記事では言いたかったのだろう。しかし、上手く説明できていない。

付け加えると、注釈なしに「シンガポールポスト」を持ってくるのは好ましくない。最初に読んだ時、シンガポールの新聞社なのかと思った。調べてみると郵便事業を手掛ける会社のようだ。これを日経の読者にとって自明の事実と見なすのは無理がある。「郵便事業会社のシンガポールポスト」などと表記すべきだ。


◎「世界で通用するかは分からない」?

【日経の記事】

中国のネット利用者は6億5千万人と米国人口の2倍に達する。巨大な母国市場を背に、規模だけみれば世界上位に食い込む中国企業だが、閉じた市場で培った技術や戦略が世界で通用するかは分からない。馬が背負うのは中国産業界の課題そのものだ。

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閉じた市場で培った技術や戦略が世界で通用するかは分からない」との説明に整合性の問題を感じる。記事では、日本のネット家電会社の社長に「アリババなしに事業は成り立たない」「数万の工場をネットで結ぶ仕組みは世界で他にない。間違いなく技術革新だ」と語らせている。ならば「世界で通用する」可能性は非常に高いとみるべきだ。

もちろん「世界で通用するかは分からない」部分は残るだろう。しかし、記事の流れとしては「アリババは世界を席巻する力を十分に持っている」と読者に思わせたまま結論を導く方が自然だ。


※記事の評価はD(問題あり)。

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