2016年1月22日金曜日

せっかく面白いテーマなのに…日経「広がるマイナス金利」(1)

日本経済新聞朝刊経済面で連載していた「広がるマイナス金利」は期待外れだった。面白いテーマだけに、きっちり分析できれば興味深い記事に仕上がったはずだ。しかし、マイナス金利そのものを論じているとは言えない部分も目立つ。さらには説明が足りなかったり不正確だったりで、すんなり読めなかった。まずは19日の「(上)マイホーム 夢の功罪 家計・企業、リスクはらむ」から問題点を見ていこう。

吉野ヶ里歴史公園(佐賀県吉野ヶ里町) ※写真と本文は無関係です
◎住宅ローンの話が長すぎる

【日経の記事】

世界的な金融市場の動揺を背景に、長期金利が急低下している。14日には長期金利の指標になる新発10年物国債利回りが一時、0.19%と過去最低水準を更新。より期間の短い国債の取引では、お金の貸し手が借り手に支払う通常とは逆の「マイナス金利」も徐々に広がり始めている。

 「マイホームに手が届くかな」。都内で派遣社員として働く中村聡美さん(仮名、34)は目を輝かす。会社員の夫と1歳の娘の3人家族。金利が大きく下がったことでマンション購入が手の届くところに近づいた。

夢を引き寄せたのは住宅ローン金利の大幅低下だ。三井住友信託銀行が1月から新規顧客向けの変動金利を年0.6%に下げたほか、三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行も年0.625%と過去最低になった。1000万円借りても月々の金利は5000円ほど。家族の外食1回分よりも安い。

昨年12月6日に三菱地所レジデンスが京都市で売り出した「億ション」の第1期販売は即日完売になった。西日本で最高値の7億4900万円の物件もあっさり売れた。抽選倍率は3億2900万円の3LDKが5倍に達するなど、購入の申し込みが殺到した。

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日本の住宅ローン金利は下がったとはいえマイナスにはなっていない。なのに、3段落も使って住宅ローンやマンションの売れ行きの話をしている。これは無駄だ。それほど長い記事ではないのだから、さっさと本題に入ってほしい。


◎調達コストも下がってる?

【日経の記事】

住宅ローン金利の基になる市場金利は歴史的な低水準にある。過去最低を記録した10年債利回りだけでなく、2年債利回りはマイナス0.03%まで落ち込んでいる。金融機関は住宅ローン金利が0.6%でも利ざやを得られる格好だ。

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上記の書き方だと「マイナス金利で資金調達できるので金融機関は住宅ローン金利が0.6%でも利ざやをしっかり確保できている」と解釈したくなる。しかし、預金金利はかなり前からほぼゼロとは言えマイナスにはなっていない。ローン金利0.6%でも利ざやは得られるだろうが、金融機関は利ざやが縮小して苦しくはなっているのではないか。「違う。利ざやは縮小していない」と言うなら、どういう仕組みなのか説明してほしかった。


◎これはマイナス金利の話?

マイナス金利は当分続きそうだ。日銀は年80兆円ずつ国債を買い続けており、2016年の国債購入額は償還分も合わせて120兆円。短期債を除いた政府の年間発行額とほぼ同額に上る。既に5年債も0.01%とマイナス金利目前だ。

ただ「国債取引が極度に減ると、金利が思いがけず跳ね上がるリスクが強まる」(日銀幹部)。予期せぬ金利の高騰は住宅ローンや設備投資の返済負担の急拡大などを通じ、家計や企業の資金繰りを大きく狂わす危険性も秘めている。

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「国債の流動性が極端に減ると、思わぬ負の影響が出るかも」というのが記事の結論だ。しかし、これはマイナス金利の話とは言い難い。国債の利回りがマイナスにならなくても流動性は時に枯渇するし、マイナス金利がなくなれば流動性の問題が解決するわけでもない。筆者は「マイナス金利に関して何を訴えたいか」を明確に自覚しないで記事を書いているのだろう。

ついでに言うと「住宅ローンや設備投資の返済負担の急拡大」という表現は舌足らずだ。住宅ローンは「返済」するものだが、設備投資は「返済」の対象ではない。


※記事の評価はD(問題あり)。

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