2016年1月6日水曜日

投資担当記者に薦めたい山崎元氏「信じていいのか銀行員」

投資関連の記事(日本経済新聞で言えばマネー&インベストメント面の記事など)を書く記者に読んでほしい本を見つけた。経済評論家の山崎元氏による「信じていいのか銀行員~マネー運用本当の常識」(講談社現代新書)がそれだ。銀行利用者や銀行員を想定読者としているが、経済メディアの人間にも読んでほしい内容になっている。
高良山(福岡県久留米市)からの眺め ※写真と本文は無関係です

特に、バランスファンドに関する記述が参考になると思えたので、一部を紹介しておく。

【本からの引用】

バランスファンドは「初心者向きだ」という声がある。また、2014年から導入されたNISAでは、5年間の非課税優遇期間中に対象資産を売却した場合に、非課税枠がその分だけ縮小してしまう制度設計になっている。運用期間を通じて資産配分を調整する投資行動を「リバランス」と呼ぶが、バランスファンドは、NISAでもリバランスを可能にするので、「NISAに向いた商品だ」と言う向きがある。マネー誌や経済新聞などのNISA関連記事に、こうした見解がしばしば掲載された

しかし、バランスファンドが「初心者向け」だというのは嘘だし、「NISAに向いている」というのは明白な誤りだ

(中略)リスクの把握が「難しい」ということは、少なくともバランスファンドは「初心者向け」ではない、ということだ。

バランスファンドを売る場合でも、金融機関はリスクについて説明しなければならないし、投資家はリスクを理解して投資すべきだ。「バランスファンドは初心者向けだ」と言うのは、「初心者は自分の投資のリスクを理解できなくても、コントロールできなくても構わない」と言っているのと同じだ。客はバカでいてくれる方が好都合だという、売り手側の汚い本音がそこには見える。商売の都合に目がくらんで、このことに気がついていない金融マンが少なくないのは残念なことだ。

(中略)NISA口座でバランスファンドを買うのも正しくない。

NISAは運用益が非課税になる仕組みなので、自分の運用全体の中で期待リターンの高い資産の運用をNISA口座に集中させることが「得」になる。

(中略)NISA口座内でバランスファンドに投資すると、NISAの非課税のメリットを薄めてしまうことになる。

これだけ明白な優劣があるのに、マネー誌や経済新聞が、あたかもバランスファンドがNISAの有力な選択肢であるかのような記事を載せるのは、記者が不勉強なのか、あるいは、しょせんは広告主である金融機関に迎合しているのか、何れなのか理由は分からないが嘆かわしい

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記者が不勉強なのか、あるいは、しょせんは広告主である金融機関に迎合しているのか」については、日経に限れば「不勉強だから」が理由の大部分を占めると思える。広告主を意識して記事を書いている記者はいないだろうが、取材先から言われたことを鵜呑みにしやすい傾向はある。経験の浅い記者で「NISAにはバランスファンドが向いています。なぜならば~」と丁寧に取材先から教えてもらって、それと反する記事を書ける例は稀有だろう。

「山崎氏の見解に従って記事を書け」とは言わない。しかし「バランスファンドは初心者向け」などと書く場合に、山崎氏の主張を否定できるだけの材料は揃えておいてほしい。

この本には「ドルコスト平均法はなんら『有利』ではない」「ラップはクソだ!」「長期投資でリスクは減らない」「損切り・利食いの目標設定は投資には不必要だ」「ヘッジファンドは田舎者が嵌まる」といった項目もある。これらは日経の投資関連記事などに書いてあることと反するものも多い。

山崎氏がこれまでに著作などで訴えてきたことと重なる部分は多いので、同氏の他の著作を参考にしてもいいだろう。ラップ型投信を前向きに紹介していた日経の野口和弘記者のような書き手には特に読んでほしい。


※本の評価はA(非常に優れている)。ダイヤモンドオンラインでのコラムなども含めて優れた記事を多く書いている山崎元氏に対する評価も当然ながらAとなる。

※野口和弘記者については「『ラップ型投信』になぜ好意的? 日経 野口和弘記者の罪」を参照してほしい。

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