2015年8月6日木曜日

エコノミスト「日経がFT買収」 納得できる松田遼氏の分析

日経のFT買収に関して、経済誌(東洋経済、ダイヤモンド、エコノミスト)の記事を読み比べてみた。「買収額は適正なのか」という問題意識を持って記事を読んだところ、最もためになる分析をしていたのはエコノミスト8月11・18日号の「日経がFT買収~総資産の3分の1相当 相乗効果に高いハードル」という記事だった。

リエージュ(ベルギー)を流れるミューズ川 ※写真と本文は無関係です 

FT買収の金額については、「高い」との判断で3誌が一致。「買収額は約1600億円。FTの2014年12月期の営業利益は2400万ポンドで、その35年分と決して安くない」(東洋経済)との見方は共通だ。ダイヤモンドは「例えば米アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏による米『ワシントン・ポスト』紙の買収額が246億円、利益(EBITDA)の17倍だったことを鑑みても、確かに高額に映る」とも書いている。

最も詳細な分析をしていたエコノミストの記事は詳しく見てみよう。筆者は金融アナリストの松田遼氏。


【エコノミストの記事】

FTの時価総額は不明だが、仮に時価総額が総資産だとしても、買収プレミアムは2.4倍にもなる。また、FTが無借金だとすれば、のれん代も2.4倍だ。買収先に対して高い収益力や成長力を期待するベンチャー企業などのM&Aに表れる数字だが、日経のFT買収にはそれに相当する高いシナジー(相乗)効果を見込んでいるということだろう。

ただ、日本企業による海外の大型買収案件では、シナジー効果を事前に高く見積もり過ぎ、“高値づかみ”となった例が少なくない。日経のFT買収額は適正と言えるだけのシナジー効果をもたらすことができるだろうか。日経は有価証券報告書を提出しており、日経の14年12月期の連結財務諸表を基に試算する。

まず、FTの買収に費やす約1592億円の投資額に対して、どの程度のリターンを期待すべきか。日経は使用している資本(有利子負債及び自己資本)3215億円に対して約180億円の営業利益(または税引き前利益)を上げており、5~6%の利回りに相当する。国内の有力上場企業にはROE(株主資本利益率)として税引き後利益で8~10%程度を目指す動きが広がっているが、日経が税引き前で6%程度の投資利回りを期待することは決して高い目標ではない。

これをFT買収額に当てはめると、毎年100億円程度の営業利益(または税引き前利益)に相当する。これはFTの営業利益の約2倍であり、FTの収益力を維持したうえで、さらに50億円程度の利益を創出しなければならない。このシナジー効果による増益分50億円は、日経とFTの営業利益合計の2割程度に相当するが、FTの買収による共通コストの削減効果はほとんど見込めない。FTや日経は電子版の有料購読者拡大に力を注ぐが、少なくとも短期的にはかなり達成が難しそうだ。

総資産4669億円の日経にとって、FT買収額はその3分の1に相当する大きな買い物だ。FTが想定したような利益を生まなかった場合、のれん代の償却を迫られることになり、その分の純資産を毀損するリスクを抱える。日経は実質無借金経営だが、FTの買収資金は手元の現金と借入金で賄う方針を示しており、借入金の返済負担も加わる。FTが高い買い物だったかどうかは、シナジー効果を十分に生み出せるかどうかがカギになる。


納得できない部分はない。「かなり高い買い物なので、よほどうまく経営しないとマイナスの方が大きくなる」ということだろう。記事の評価はB(優れている)。筆者の松田遼氏に対する評価も暫定でBとする。

3誌の記事に順位を付ければ、1位がエコノミスト、2位がダイヤモンド8月8・15日号「特別レポート 英フィナンシャル・タイムズ買収~日経新聞 デジタル&グローバル化への大いなる賭け」、3位が東洋経済8月8-15日号「日経が英FTを傘下に 電子化が推した買収劇」となる。2位と3位についても、記事中に指摘すべき大きな問題はない。東洋経済は行数が少なかったこともあって、表面をなぞったような記事にとどまった印象があるので3位とした。

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