2015年8月1日土曜日

日経社説「就活に振り回される学生を放っておけぬ」の無策

就活に振り回される学生を放っておけぬ」という威勢のいい見出しを掲げた割に、中身はなかった。1日の日経朝刊の社説で「就活に振り回される学生の現状を変えられる提案ができた」と筆者は思っているのだろうか。「いっこうに学生の負担が減らない現状をどうすれば変えられるか、本気で考えねばならないときだろう」などと訴える前に、社説のレベルが現状のままでよいのか本気で考えてほしい。

日経の提言の具体的な問題点を見ていこう。


◎既卒者採用が増えれば就活は遅く始められる?
アントワープ(ベルギー)を流れるスヘルデ川 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

いったん卒業し、留学を経て就職したり、アルバイトや契約社員で働いてから正社員になったりする道もある。企業が新卒一括採用だけでなく既卒者採用にも力を入れれば、学生も早い時期からの就活を見直すだろう。正社員化には人の能力開発が重要になる。職業訓練の充実は欠かせない。


上記の説明は意味不明だ。企業が既卒者採用に力を入れていようがいまいが、新卒での就職を希望する学生の行動にほとんど影響はないだろう。例えば、自分の志望企業A社が学生からのエントリーシートの受付を3月に始めるとしよう。その時に「A社が既卒者採用を大幅に増やす」という報道があったら、新卒でA社への就職を目指す学生は「就活を始めるのは5月ぐらいからで十分かな」と考え直すだろうか。あるいは「だったら新卒で就職しなくていいや。卒業してから既卒者採用の試験を受けよう」と方針を転換するだろうか。後者の可能性はわずかにあるが、無視してよいレベルだと思える。


◎通年型採用が増えると負担は和らぐ?

【日経の記事】

企業には4年生の夏に集中的に内定を出すのでなく、秋や冬にも一定数を採る通年型の採用も求めたい。4年の遅い時期に就活を始めても就職先を探しやすくなれば学生の負担は和らぐはずだ

これも逆だろう。通年型採用が増えた場合、学生は「だったら、4年の遅い時期に就活を始めても大丈夫だな」と思うだろうか。そういう学生がいないとは言わないが、まれだろう。人気企業が卒業間際まで採用活動を続けるようになったら、諦めきれずに就活をズルズル続ける学生が増えてしまうはずだ。本当に学生の負担を減らしたいならば、残酷な面はあるが、就活の時期を「短期集中」にした方が効果的だと思える。実現可能ならばの話だが…。


◎インターンシップも広げるべき?

【日経の記事】

学生がやみくもに企業を回らなくてもいいように、自分に合った仕事を見つけやすくすることも大切だ。インターンシップ(就業体験)も企業は広げてほしい


自分に合った仕事を見つけやすくする」ためにインターンシップは有効かもしれない。しかし、就活の負担を減らすという点では意味がない。むしろ負担を増やす要因だ。

本来ならば「経団連が選考開始時期を今年から遅くしたのは正しい判断だったのか」を社説で論じるべきだ。しかし、そうすると「あまり意味がなかった」「かえって学生の負担増を招いてしまった」との結論になってしまうので、遠慮してしまって今回のような苦しい社説になってしまったのだろう。

学生が勉学を妨げられず円滑に就職できるよう後押しするには、多面的な取り組みが要る。日本の未来のため知恵を出し合いたい」と社説では結んでいる。そう考えるならば、まず自らがもう少しまともな知恵を出すべきだろう。

※記事の評価はD(問題あり)

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