2015年7月14日火曜日

松崎雄典記者に注文 日経「一目均衡 ROE革命の第2幕」

14日の日経朝刊投資情報面に載った「一目均衡~ROE革命の第2幕」(筆者は証券部の松崎雄典記者)は色々と気になる部分があった。列挙してみる。


ユトレヒト(オランダ)の運河  ※写真と本文は無関係です
◎説明が足りない

【日経の記事】

ROEの目標値に8%が浸透している。企業と投資家の望ましい関係について一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授が2014年にとりまとめた報告書(伊藤レポート)が求めているためだ。株式の「資本コスト」を上回る水準とされる。


この書き方だと「一橋大学の教授がレポートを出しただけで、なぜ企業に『ROE8%目標』が浸透するのか」という疑問が湧いてしまう。経済産業省のプロジェクトで座長を務めたのが伊藤教授で、そこでまとめたのが伊藤リポートらしい。その点を省くのは問題がある。


◎値動きが荒いと資本コストが上がる?

株式を買うなら値上がりや配当でこの程度は欲しいと投資家が考える利回りを「資本コスト」という。一般に長期金利に株式のリスクプレミアムを上乗せして算出され、株価の動きが荒いと高くなる

上記の説明は苦しい。株主資本コストは「株価の動きが荒いと高くなる」という部分が引っかかった。市場感応度を示すβ値が株主資本コストの計算では必要とされる。「株価の動きが荒いと資本コストが高くなる」のくだりは、β値と株主資本コストの関係に言及しているのだろう。市場全体と同じ方向に大きく動くとβ値は高くなるが、逆の方向に動けば株主資本コストを下げるはずだ。つまり「値動きは荒いが、株主資本コストは平均より低い」という状況は理論的にあり得る。「株価の動きが荒いと資本コストが高くなりやすい」ぐらいならば許容範囲だとは思うが…。


◎資本コストを下げたいのなら…

【日経の記事】

フルキャストは自社の資本コストを13%とはじき、ROE20%を目標に置く。日雇い派遣からの撤退などを経て2年前に復配したばかり。創業者など大株主が株式の過半を持ち流動性も低い。株価の動きが荒く、資本コストが高くなっており、ROE8%では企業価値を毀損してしまうのだ。

そこで資本コストの引き下げと成長の両方を目指す方策を打ち出した。総還元性向は50%にして資本の増加を抑える。銀行借り入れで資金調達しながら業績を拡大し、時価総額を増やして値動きを安定させる


フルキャストは資本コストの引き下げを目指しているらしい。「資本コストが高いのは流動性が低くて値動きが荒いから」とも書いている。ならば、単純に流動性を高めればいいのではないか。株式を売り出せば流動性はすぐ高まる。創業者の出資比率を下げるのが嫌ならば、株式分割という手もある。その方が確実で簡単なのに、なぜやらないのか。説明が欲しい。

時価総額を増やして値動きを安定させる」という説明も腑に落ちない。いくら時価総額を増やしても、浮動株の数が不変で流動性が低いままならば、わずかな売買で株価は大きく変動してしまう。一般的に時価総額の大きな銘柄の値動きがそうではない銘柄より小さいのは、大型株の方が浮動株が多いからだ。時価総額を増やすだけでは、株価の値動きの激しさは解消しないだろう。


◎地方スーパーへの偏見?

【日経の記事】

ROEを目標とする企業は一気に広がった。今、静かなうねりになってきたのが資本コストへの意識だ。

野村証券の金融工学研究センターは、事業特性や株価の動きから顧客企業の資本コストを算出している。太田洋子センター長は、「地方のスーパーマーケットを運営する企業からも依頼が来る」と変化に驚く


上記のコメント部分が引っかかる。「地方のスーパーなんて資本コストの意識が低いはずでしょ。なのに、そんな会社からも依頼が来るようになったのよ」と言いたいのだろう。行間から偏見が垣間見える。「詳細な調査の結果、地方のスーパーは平均的な上場企業に比べて資本コストへの意識が明らかに低いと証明されている」というのならば問題はないが、ちょっと考えにくい。

そもそも、株主資本コストをわざわざ金融機関に依頼して計算してもらう必要があるのだろうか。上場企業それぞれのβ値は公表されているようなので、それを使って計算できるのではないかとの疑問は残った。もちろん厳密さには欠けるかもしれない。ただ、上記のくだりが「今は野村なんかに頼んで計算してもらう流れになっているんですよ」と誘導しているように思えたので。


◎費用が分からないと「目指す売上高」が見えない?

【日経の記事】

日本のROE重視の流れが一過性ではと疑う海外投資家も多い。最大の理由は、資本コストへの意識が不十分なためだ。費用がわかってようやく目指すべき売上高が見えてくるように、資本コストの議論が高まれば、地に足の着いたROE経営に発展していく。


松崎記者は「費用がわかってようやく目指すべき売上高が見えてくる」と断定している。これには同意できない。まず多くの場合、費用は事前に確定していない。つまり、費用は分かっていない。ならば、目指すべき売上高は見えてこないだろうか。

来期のガソリンの価格が分からないからと言って、運送会社が「目指すべき売上高が見えない」と訴えても「なるほど」とは思わない。売上高は景気動向や競争状況を考慮して決めれば済む。筆者の言いたいことは何となく分かるが、うまく表現できていない。今回の場合、「費用をきちんと見積もれば経営計画の精度が向上するように~」などと直せば、問題は解消しそうだ。

※記事の評価はC(平均的)。松崎雄典記者の評価もCとする。

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