◎「支援が手厚いほど出生率も高まる」?
スヘルデ川西側のアントワープ(ベルギー) ※写真と本文は無関係 |
【日経の記事】
子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる傾向がみられる――。経済協力開発機構(OECD)が子育て支援を中心にした家庭向けの政府支出(2009年時点)を比べたところ、日本は国内総生産(GDP)比で1.0%にとどまり、OECD平均の2.3%を下回った。(1面参照)
出生率が2を回復したフランスは3.2%。その他の欧州諸国も英国が3.8%、スウェーデンが3.7%、ドイツが2.1%と、日本を軒並み上回った。子ども手当や育児休業手当などのほか、託児所など保育施設の充実に多くの予算を投じているためだ。
記事中のグラフを見ても「子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる傾向がみられる」とは感じなかった。5カ国中、最も出生率の高いフランスは家庭向け政府支出比率で3位。ドイツは日本の2倍以上の政府支出比率なのに、出生率は日本と変わらないか、若干下回っている。
そもそも、この5カ国で比べて「子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる」などと論じても意味がない。まずサンプル数が少なすぎる。出生率と子育て支援の関係を見るならば、個人的には世界全体を対象にしてほしい。高い出生率を実現しているのは基本的に途上国だから、そこを除外するのは問題だ。先進国の中で高い低いと言っても、どんぐりの背比べに過ぎない。
百歩譲ってOECD加盟国に絞って比べるとしても、ご都合主義的に国を選ぶのは避けてほしい。OECD加盟国で出生率が高いのはイスラエル、メキシコ、トルコなどだが、記事では比較対象になっていない。子育て支援が手厚い国ほど出生率も高まる傾向が本当にあるのならば、これら3カ国の支援は手厚いはずだ。なのに、取材班は比較対象からなぜ除いたのだろう。
◎「高齢者向け支出との調整が欠かせない」?
【日経の記事】
一方、年金と介護に投じる高齢者向けの支出は日本が10.4%と、OECD平均の7.3%を大きく上回る。高齢化率など人口構成の違いはあるが、若者よりも高齢者に比重を置いていることが分かる。
日本の財政状況は非常に厳しい。子育て支援を手厚くするには高齢者向け支出との調整が欠かせない。少子高齢化の進展に合わせ、世代間の公平化の観点から年金の支給額を毎年抑える仕組みなど痛みを伴う改革の議論も必要になる。
記事中で「子育て支援を手厚くするには高齢者向け支出との調整が欠かせない」と断定しているのが引っかかる。「子育て支援を手厚くする」と「高齢者向け支出を削る」がなぜ裏表の関係ないのか。防衛費や公共事業費を削るのではダメなのか。増税という手もあるはずだ。
本気で出生率を引き上げたいのならば、年金支給額の引き下げは得策とは言えない。仮に年金給付額を現状の半分にして、その分を子育て支援に回すとしよう。莫大な財源は確保できるだろうが、「これで安心して子供を作れる」と現役世代は考えるだろうか。
自分が20代の若者ならば「ここまで年金が減らされたら、老後に年金だけで暮らすのは無理。若いうちに老後の資金を多めに用意しなきゃ」と思ってしまう。そうなると子育て支援を厚くする効果はかなり相殺される。公的年金の水準は今でもそれほど高くないので、大幅な年金減額となれば、引退した親を経済的に支援しなければならない人も続出するだろう。
どうしても出生率を上げたいのならば、子供を作らない人の税負担を重くするのが合理的だ。例えば、子供のいない30歳以上の人の所得税率を子供がいる人に比べてかなり高くするといった方法が考えられる。これなら財源が捻出できる上に、負担を強いられる側の人にも子供を持とうというインセンティブを与えられて一石二鳥だ。
記事で言うような「年金の支給額を毎年抑える」といった方策よりずっと効果があるだろう。個人的には、少子化は放置でいいと思うが…。
※記事の評価はC(平均的)。
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